企業の情報漏洩対策 ―すぐに実践できる防止策と運用のポイント―

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情報漏洩対策をしているつもりでも、誤送信や設定ミス、委託先での事故は起き続けています。多くの企業では、セキュリティ製品を導入していても、運用上の抜け漏れから情報漏洩が発生しています。情報漏洩対策というと、まずはセキュリティ製品の導入やシステム強化を思い浮かべるかもしれません。しかし、実際の漏えい事故は、不正アクセスだけでなく、誤送信、設定ミス、権限管理の不備、委託先での事故など、日常運用の中からも発生します。情報漏洩対策は、製品導入の話ではなく、業務として回る仕組みづくりとして捉えることが重要です。本記事では、アクセス制御、ログ管理、権限管理、委託先管理まで、企業が実践すべき対策と運用のポイントを解説します。

情報漏洩の基本的な仕組みやリスクについては、以下の記事で整理しています。
情報漏洩対策とは何か ―企業が知るべき原因・リスク・防止策の全体像―

情報漏洩対策は“技術だけでは防げない”

技術対策は重要ですが、それだけで情報漏洩を防ぎ切ることはできません。たとえば、認証機能やアクセス制御が整っていても、過剰な権限が放置されていれば内部不正やアカウント侵害の被害は拡大します。ログを取得していても、監視やレビューの運用がなければ異常を見逃します。ファイルを暗号化していても、共有ルールや持ち出しルールが曖昧であれば、漏えいリスクは残ったままです。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「情報セキュリティ10大脅威 2025」解説書」でも、情報セキュリティ対策は「基本対策」と「共通対策」を組み合わせ、組織ごとの状況に応じて優先度を決めるべきだと示されています。また、情報漏洩対策では、まず「どこに情報があり、誰がアクセスでき、どの委託先に渡っているのか」を把握する必要があります。見えていない情報資産や権限、再委託先は、そのままリスクになります。

個人情報保護委員会の考え方でも、委託先を含めた個人データの取扱いでは、適切な委託先の選定、委託契約の締結、委託先における取扱状況の把握が必要とされています。つまり、情報漏洩対策は社内システムの防御だけでなく、運用ルール、監督体制、委託先管理まで含めて初めて成立します。

そもそも情報漏洩がどのように発生するのかについては、原因と事例をまとめた記事をご参照ください。
情報漏洩はなぜ起きるのか ―企業で多い原因と最新事例から見るリスクの実態―

基本となる情報漏洩対策

アクセス制御

情報漏洩対策の基本は、必要な人だけが必要な情報にアクセスできる状態を維持することです。IPA「情報セキュリティ10大脅威 2025」解説書の「セキュリティ対策の基本と共通対策」では、認証を適切に運用することが共通対策として示されており、ID・パスワード管理、多要素認証、権限管理の適正化は広範な脅威への基礎になります。過剰な権限は、内部不正だけでなく、アカウント侵害時の被害拡大にも直結します。実務では、退職者や異動者の権限削除漏れ、共有フォルダの開放状態、委託先アカウントの恒久利用などが起きやすいため、定期的な権限棚卸しが必要です。情報漏洩対策を強化するなら、まず「誰がどの情報にアクセスできるか」を見える化することが出発点になります。

ログ管理

ログ管理は、情報漏洩そのものを直接防ぐ対策ではありませんが、不審な挙動の検知、事故発生後の原因分析、被害範囲の特定に欠かせません。個人情報保護委員会が公表した「不正アクセス発生時のフォレンジック調査の有効活用に向けた着眼点(令和8年1月16日)」でも、フォレンジック調査や記録保全の有効性が整理されており、証跡が十分に残っていなければ初動判断も再発防止も難しくなることが示唆されています。そのため、ログは「取っている」だけでは不十分です。重要データへのアクセス、管理者操作、外部共有設定の変更、異常なログイン試行など、何を記録し、誰が見て、どうエスカレーションするかまで定めておく必要があります。情報漏洩対策におけるログ管理は、監査対応のためではなく、実際に異常を捉えるための運用として設計するべきです。

暗号化

暗号化は、端末紛失や媒体盗難、通信経路の盗聴などによる情報漏洩の被害を抑えるための基本対策です。すべての事故を防げるわけではありませんが、保存データや送受信データが適切に暗号化されていれば、漏えい時の実害を抑えられる可能性があります。IPAも基本対策について、「技術的な保護措置を一つで考えるのではなく、複数の対策を重ねて講じる考え方が重要」と示しています*1

ただし、暗号化も運用が伴わなければ形骸化します。暗号鍵の管理が甘い、復号可能な状態でファイル共有している、個人端末へのデータ保存を許しているといった状態では、情報漏洩対策としての効果は限定的です。技術だけに依存せず、持ち出しルールや保存先の統制と組み合わせる必要があります。

運用面で必要な対策

教育とルール整備

情報漏洩対策を実効的にするうえで、運用面の整備は避けて通れません。個人情報保護委員会の研修資料では、自己点検チェックリストや個人データ取扱要領の例が公開されており*2、ルール整備だけでなく、日常的な確認や点検の必要性が前提とされています。つまり、情報漏洩対策は「規程を作った」で終わるものではなく、実際に守られているかを確認し続けることが重要です。

教育面では、標的型メールや不審なリンクへの注意だけでなく、誤送信防止、共有設定の確認、紙書類の扱い、委託先への情報提供時の確認など、現場で起こりやすい事故に即した内容が必要です。IPAも対策例として、情報リテラシーやモラルの向上、適切な報告・連絡・相談の実施を挙げています*3。また、ルール整備では例外運用を放置しないことが大切です。忙しい時だけ私物端末を使う、やむを得ず個人メールへ送る、臨時対応のために共有範囲を広げるといった運用が常態化すると、情報漏洩対策は一気に弱くなります。ルールは厳しさよりも、現場で守れる具体性と、逸脱時に気付ける仕組みが重要です。

権限管理の継続運用

権限管理では、最小権限の原則に基づき、業務に必要な範囲だけアクセスを付与することが基本になります。特に、異動・退職・組織変更・委託先変更などが発生した際に、権限変更が適切に行われているかを継続的に確認する必要があります。一度設定した権限を放置すると、「誰がどこにアクセスできるのか分からない状態」が生まれます。情報漏洩対策では、権限設定そのものよりも、定期的に見直し続けられる運用体制が重要です。

委託先・外部サービスの管理

近年の情報漏洩対策で特に重要なのが、委託先や外部サービスの管理です。個人情報保護委員会は、委託元には委託先に対する必要かつ適切な監督義務があると示しており、その具体例として、適切な委託先の選定、契約の締結、委託先における取扱状況の把握を挙げています。自社が直接事故を起こさなくても、委託先や再委託先での問題がそのまま自社の情報漏洩になる時代です。そのため、委託先の管理は契約書の締結だけでは足りません。どの情報を渡すのか、再委託はあるのか、保存先はどこか、アクセス権限はどう管理されるのか、事故時にどのタイミングで報告されるのかまで確認しておく必要があります。国家サイバー統括室(旧NISC)「サイバーセキュリティ2025」でも、委託先やサプライチェーンを通じたインシデントの深刻さが示されており、外部依存が高い企業ほど管理の精度が問われます。

委託先や外部サービスに関するリスクについては、サプライチェーン攻撃の観点からも整理しておく必要があります。
委託先・外注先のセキュリティはどこまで確認すべきか ―サプライチェーン攻撃を防ぐ実務判断―

インシデント発生時の対応

どれだけ対策を講じても、情報漏洩を完全にゼロにすることは困難です。そのため、情報漏洩対策では事故後の初動も重要になります。インシデント発生時の報告・連絡・相談体制を平時から決めておく必要があります。初動対応で重要なのは、まず被害拡大を防ぐことです。不正アクセスが疑われる場合には、該当アカウントや端末の隔離、ログ保全、外部接続の遮断、関係部門への即時連絡が必要になります。そのうえで、何が起きたのか、どの情報が影響を受けたのか、本人通知や公表が必要かを判断していきます。

実際に情報漏洩が発生した場合の初動対応については、以下の記事で詳しく解説しています。セキュリティインシデントの基礎から対応・再発防止まで 第2回:セキュリティインシデント発生時の対応 ─初動から復旧まで

継続的に対策を回すためのポイント

情報漏洩対策は、一度整備して終わりではありません。業務フロー、利用サービス、委託先、働き方が変われば、リスクも変わります。IPAも、基本的な対策の重要性は変わらない一方で各組織は自社の状況を踏まえて優先度を決め継続的に対策を進める必要がある、としています。そのためには、定期レビューと可視化が不可欠です。情報資産の棚卸し、権限の見直し、委託先の確認、ログ監査、教育内容の更新、インシデント訓練などを、年に一度の形式的な点検で終わらせず、実態に合わせて回す必要があります。情報漏洩対策の成熟度は、立派な規程の有無ではなく、変更や例外に気付ける状態を保てているかで決まります。

まとめ

企業の情報漏洩対策は、アクセス制御、ログ管理、暗号化といった技術対策だけで完結しません。権限管理、教育、ルール整備、委託先管理、初動対応体制までを含めて設計し、継続的に見直していく必要があります。個人情報保護委員会やIPAの資料が共通して示しているのは、情報漏洩対策を単発の施策ではなく、組織的に回し続けるべき取り組みとして位置付けるべきだという点です。事故を防ぐことと同じくらい、事故が起きたときに被害を広げず、速やかに対応できる状態をつくることが重要です。情報漏洩対策は、IT部門だけではなく、業務設計・委託管理・組織運用を含めた経営課題です。「どこから漏れるか分からない」ことを前提に、継続的な見直しを行うことが求められるでしょう。

情報漏洩対策の全体像をあらためて整理したい場合は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
情報漏洩対策とは何か ―企業が知るべき原因・リスク・防止策の全体像―

【参考情報】


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