脆弱性スキャンとは?脆弱性診断ツールの選び方と導入ポイント

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脆弱性スキャンは、企業のシステムやネットワーク、Webアプリケーション、クラウド環境に存在する既知の脆弱性を効率よく洗い出すための基本的な手段です。近年は、公開サーバーやVPN機器だけでなく、クラウド上のワークロード、コンテナ、OSSライブラリまで管理対象が広がっており、手作業だけで安全性を確認するのは現実的ではありません。そこで重要になるのが、脆弱性スキャナーや脆弱性診断ツールを使って、環境全体を継続的に確認する考え方です。CISAも、インターネット公開資産に対する継続的な 脆弱性スキャンを、基本的な「サイバーハイジーン(Cyber Hygiene)」の一環として位置付けています。

ただし、脆弱性スキャンを導入すれば自動的に安全になるわけではありません。スキャンはあくまで既知の弱点を機械的に見つける仕組みであり、誤検知や過検知、設定不備の見落とし、業務影響を踏まえた優先順位判断までは自動では完結しません。そのため実務では、脆弱性スキャンの役割を正しく理解したうえで、脆弱性診断や脆弱性管理のプロセスと組み合わせて運用する必要があります。本記事では、脆弱性スキャンとは何か、脆弱性診断との違い、ツール比較のポイント、導入時の考え方までを整理します。

脆弱性スキャンとは

脆弱性スキャンとは、サーバー、ネットワーク機器、Webアプリケーション、クラウド環境などに対して自動的に検査を行い、既知の脆弱性や不適切な設定、不足している更新などを検出する仕組みです。企業が脆弱性スキャンを導入する目的は、攻撃者に悪用される前に自社環境の弱点を見つけ、修正につなげることにあります。米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)のCyber Hygiene Servicesでも、Vulnerability Scanning(脆弱性スキャン)はインターネットから到達可能な資産を継続的に監視し脆弱性の有無を評価するサービス、として説明されています。

脆弱性スキャンの特徴は、自動化にあります。人手では確認しきれない大量のIPアドレス、Webアプリケーション、仮想マシン、コンテナイメージなどを機械的に点検し、既知の脆弱性情報や設定ミスと突き合わせることで、短時間に広い範囲を確認できます。NIST SP 800-115『Technical Guide to Information Security Testing』でも、自動化されたテスト手法は情報セキュリティ評価の重要な手段とされ、SCAPのような標準化された枠組みが脆弱性管理の自動化を支えるものとして紹介されています。

一方で、脆弱性スキャンには限界もあります。自動スキャンは既知のパターンには強いものの、業務ロジックに起因する脆弱性や、文脈を踏まえた攻撃シナリオまでは把握しきれない場合があります。また、誤検知や重複検知が発生することもあるため、結果をそのまま鵜呑みにするのではなく、影響の確認と優先順位付けが必要です。つまり脆弱性スキャンは、脆弱性管理の入口として非常に有効ですが、それだけで完結するものではありません。

脆弱性スキャンを適切に実施するためには、対象となるIT資産を正確に把握することが重要です。サーバーやネットワークだけでなく、クラウド環境やOSSコンポーネントも対象となります。IT資産管理と脆弱性管理の関係については、以下の記事も参考になります。
脆弱性管理とIT資産管理 -サイバー攻撃から組織を守る取り組み-

脆弱性診断との違い

脆弱性スキャン脆弱性診断は混同されやすい言葉ですが、実務上は役割が異なります。脆弱性スキャンは、既知の脆弱性や設定不備を自動的に広く洗い出すことに向いています。これに対して脆弱性診断は、専門家が対象システムの構造や挙動を踏まえながら、ツールだけでは見つけにくい問題も含めて詳細に評価する行為です。OWASPでは、ペネトレーションテストやセキュリティテストがスキャン単独よりも実際の攻撃可能性やリスク評価をより正確に把握する助けになる、と説明しています*1

たとえば、Webアプリケーションに対する自動スキャンでは、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングの典型的なパターンは検出しやすい一方で、権限管理の不備や業務フロー上のロジック欠陥、複数機能をまたいだ複雑な脆弱性は取り逃がす可能性があります。OWASPのOWASP Web Security Testing Guideでは、Webセキュリティ評価が単なる自動実行ではなく、アプリケーションの設計や攻撃面を踏まえた体系的なテストであることを示しています。

そのため企業では、脆弱性スキャンと脆弱性診断を対立概念として捉えるよりも、目的に応じて使い分けることが重要です。日常的な広範囲確認には脆弱性スキャンが向いており、公開Webサービスや重要システムの深い評価には脆弱性診断が向いています。脆弱性スキャンは継続運用の基盤、脆弱性診断は重点箇所の深掘りというように整理すると理解しやすいでしょう。

脆弱性スキャンの種類

脆弱性スキャンにはいくつかの種類があり、どこを対象にするかで使うツールや評価軸が変わります。

Webスキャン

OWASPでは、Webアプリケーション脆弱性スキャンを、外部からWebアプリケーションを自動検査し、XSS、SQLインジェクション、コマンドインジェクション、パストラバーサル、不適切な設定などの脆弱性を探すツール、として説明しています*2。いわゆるDAST(Dynamic Application Security Testing)に近い領域であり、インターネット公開されるサービスでは特に重要です。企業サイト、会員サイト、管理画面、APIなど、公開面があるならWebスキャンは有力な選択肢になります。

ネットワークスキャン

サーバー、ルーター、ファイアウォール、VPN装置などに対して、開いているポート、稼働サービス、既知の脆弱性、更新不足の状況を確認するものです。特にインターネットに公開された機器は攻撃対象になりやすいため、CISAも継続的なスキャンの重要性を強調しています。

クラウドスキャン

クラウドでは、OSやミドルウェアの脆弱性だけでなく、ストレージの公開設定、IAM権限、コンテナ設定、イメージの更新状況なども安全性に大きく影響します。従来型のネットワークスキャンだけでは十分でなく、CSPMやCNAPP系の機能を持つツールでクラウド設定やワークロードを可視化する必要があります。共有責任モデルのもとでは、クラウド事業者が管理しない部分は利用企業側が継続的に見なければなりません。

さらに、OSS脆弱性スキャン、いわゆるSCAも見逃せません。現代のソフトウェアは多くのOSSライブラリに依存しており、アプリケーション本体に問題がなくても、依存パッケージの脆弱性がリスクになります。NTIA(米国商務省電気通信情報局:National Telecommunications and Information Administration)が公開している「The Minimum Elements For a Software Bill of Materials (SBOM) 」では、SBOMをソフトウェアを構成する各種コンポーネントとサプライチェーン上の関係を記録する正式な記録、と定義しており、OSS脆弱性管理の前提として極めて重要です。SCAやSBOM対応ツールを使うことで、どのアプリケーションにどの部品が含まれているかを把握しやすくなります。

脆弱性スキャナーの比較

脆弱性スキャナーを比較するとき、まず見るべきなのはCVE対応の範囲です。脆弱性スキャンの基本は、既知の脆弱性データと自社環境を突き合わせることにあるため、どの程度広くCVE情報やベンダー情報に対応しているかは重要です。とはいえ、単に「CVEに対応している」と書かれているだけでは不十分で、更新頻度、対応製品の広さ、クラウドやコンテナへの追従性まで見たほうが実務では役立ちます。CISAが示す脆弱性管理の考え方*3でも、継続的に変化する資産や脅威を前提にした運用が重視されています。

次に確認したいのがスキャン精度です。脆弱性スキャナーは便利ですが、誤検知が多すぎると運用部門が疲弊し、逆に本当に重要な項目を見逃しやすくなります。逆に、検知が甘ければ見つかるべき脆弱性を取り逃がすことになります。ツールの比較では、単なる検知件数ではなく、結果がどれだけ実務で使いやすいか、重複排除や重要度の絞り込みがしやすいかも見ておく必要があります。OWASPが指摘するようにスキャン結果だけでは実際の攻撃可能性を完全に評価できない*4ため結果の解釈しやすさも重要です。

さらに、OSSライブラリ検出やSBOM生成の可否は、近年ますます重要になっています。SCAに対応していないツールでは、アプリケーション内部の依存関係まで把握できず、ソフトウェアサプライチェーンリスクへの対応が難しくなります。SBOMを生成・管理できるかどうかは、脆弱性スキャンの範囲をインフラからソフトウェア部品まで広げられるかどうかに直結します。NTIAはSBOMが脆弱性管理、ソフトウェア在庫管理、ライセンス管理などの基本ユースケースに役立つとしています。

脆弱性スキャン導入のポイント

脆弱性スキャンを導入する際に考えるべきポイントは以下のとおりです。

導入目的の明確化

公開Webサイトの安全性を高めたいのか、社内サーバーの更新漏れを防ぎたいのか、クラウド設定不備を見つけたいのか、OSS脆弱性を把握したいのかで、適したツールは変わります。目的が曖昧なまま「有名だから」という理由だけで導入すると、期待した検知ができなかったり、運用負荷だけが増えたりします。

導入後の運用体制の整備

脆弱性スキャンは、導入しただけでは意味がなく、誰が結果を確認し、どこまで精査し、どの基準で是正依頼を出し、修正後にどう再確認するかまで決めておく必要があります。NISTのパッチ・脆弱性管理ガイドでも、技術そのものより、継続運用のプロセス設計が重要であることが示されています。ツール導入はゴールではなく、脆弱性管理のサイクルを回すための手段です。

資産管理との連携

スキャン結果を脆弱性対応に直結させるためには、資産管理との連携も欠かせません。どのサーバーがどの業務に使われているのか、どのシステムが外部公開されているのか、どのアプリケーションがどのOSS部品を利用しているのかが分からなければ、検出された脆弱性の優先順位を決められません。特にクラウドやコンテナ環境では、資産の増減が激しいため、台帳やCMDB、クラウド資産可視化と組み合わせた運用が重要です。

脆弱性診断・ペネトレーションテストとの併用

脆弱性スキャンは広く速く確認するのに強い一方で、業務ロジックや複雑な攻撃経路までは十分に評価できないことがあります。公開サービスや重要システムでは、重点的な診断を組み合わせるほうが現実的です。OWASPも、ペネトレーションテストがスキャンだけでは見えない実攻撃視点の評価に役立つと説明しています。

脆弱性スキャンで脆弱性を発見した後は、迅速に対応を行うことが重要です。適切な優先順位付けやパッチ適用を行わなければ、攻撃リスクを低減することはできません。脆弱性対応の具体的な手順については、以下の記事で詳しく解説しています。
脆弱性対応とは?CVE対応とパッチ管理の実務フロー

脆弱性管理との関係

脆弱性スキャンは、脆弱性管理そのものではありませんが、脆弱性管理を支える重要な要素です。脆弱性管理は、資産把握、脆弱性情報収集、評価、是正、再確認を継続的に回す運用全体を指します。その中で脆弱性スキャンは、「発見」と「継続的な監視」を支える手段として機能します。CISAが脆弱性管理を、脆弱性や悪用可能な状態の頻度と影響を減らす取り組みとして整理している*5ことからも、スキャン単独ではなく運用全体の中で捉えるべきことが分かります。

脆弱性スキャンは、脆弱性管理の一部として実施される重要なプロセスです。しかし、スキャンを実施するだけでは不十分であり、発見した脆弱性を評価・対応まで含めて継続的に管理する必要があります。企業の脆弱性管理全体の流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。
脆弱性管理とは?企業が行うべき脆弱性管理の基本と実践手順【2026年版】

実務では、脆弱性スキャンで見つけた結果をそのまま並べるだけでは意味がありません。資産の重要度、公開状態、CVSS、既知悪用の有無、業務影響などを踏まえて優先順位を決め、必要な修正や診断につなげていく必要があります。さらに、OSS脆弱性についてはSCAやSBOMを組み合わせて調査範囲を広げることが重要です。つまり脆弱性スキャンは、脆弱性管理の入口であり、全体運用へつなぐための観測手段だといえます。

まとめ

脆弱性スキャンとは、既知の脆弱性や設定不備を自動的に洗い出し、企業の攻撃面を継続的に可視化するための基本手段です。ネットワークスキャン、Webスキャン、クラウド環境スキャン、OSS脆弱性スキャンといった種類があり、企業のシステム構成に応じて適切に選ぶ必要があります。ただし、脆弱性スキャンは万能ではなく、脆弱性診断やペネトレーションテストのような深い評価とは役割が異なります。広く見つけるのがスキャン、深く確かめるのが診断、と整理すると理解しやすいです。

導入時に重要なのは、ツールの知名度ではなく、自社の目的に合っているかどうかです。CVE対応の広さ、スキャン精度、クラウド対応、OSSライブラリ検出、SBOM生成の可否などを見極めたうえで、導入後に誰がどのように結果を処理するかまで設計しておく必要があります。脆弱性スキャンを単独の製品選定で終わらせず、脆弱性管理の継続運用へつなげることが、企業にとって本当の導入効果につながります。

【参考情報】


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脆弱性管理とは?企業が行うべき脆弱性管理の基本と実践手順【2026年版】

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企業のIT環境は、もはや社内サーバーやネットワーク機器だけで完結しません。業務システムはクラウドへ移行し、開発現場ではOSSの利用が当たり前になり、SaaSやコンテナ、API連携を含めた複雑な構成が一般化しています。こうした環境では、ひとつの脆弱性が単独の問題にとどまらず、情報漏えい、業務停止、サプライチェーン全体への影響へとつながることがあります。だからこそ今、多くの企業にとって重要になっているのが「脆弱性管理」です。

脆弱性管理とは、脆弱性を見つけることそのものではありません。自社にどの資産があり、どこに弱点があり、それがどの程度危険で、いつまでに何を直すべきかを継続的に判断し、実際に改善し続ける運用を指します。本記事では、脆弱性管理の基本から、企業が実務で押さえるべき流れ、ツールの考え方、クラウドやOSS時代に欠かせないSBOMの活用まで、2026年時点の実務に沿って整理します。

脆弱性管理とは

脆弱性管理とは、システムやソフトウェア、クラウド環境、ネットワーク機器などに存在するセキュリティ上の弱点を継続的に把握し、評価し、修正し、再確認する一連の運用です。単発の診断や一度きりの点検ではなく、変化し続けるIT環境に合わせて回し続けることに意味があります。CISAも、脆弱性管理を「脆弱性や悪用可能な状態の発生頻度と影響を減らす取り組み」と位置づけています。

脆弱性管理では、日々公開される脆弱性情報を継続的に確認することが重要です。多くの脆弱性は CVE(Common Vulnerabilities and Exposures) という識別番号で管理されています。CVEの仕組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。
CVEとは?脆弱性情報の共通識別番号を解説

CVEは、公開されたサイバーセキュリティ上の脆弱性を識別し、共通の参照先として扱うための仕組みです。一方、NVDはそのCVE情報に対してCVSSなどの評価情報や関連データを付与し、脆弱性管理の自動化や優先順位付けに役立つデータベースとして機能しています。つまり実務では、「CVEで対象を識別し、NVDやベンダー情報で内容と深刻度を確認する」という流れが基本になります。

現在の企業システムは、オンプレミス環境だけでなく、AWS・Azure・Google Cloud などのクラウド環境やSaaSサービスを組み合わせて構築されるケースが増えています。そのため、脆弱性管理はサーバーやネットワークだけでなく、クラウド環境やソフトウェアコンポーネントも含めて実施する必要があります。クラウドでは、基盤の一部は事業者が管理していても、設定、アクセス権、ゲストOS、コンテナイメージ、アプリケーションなどは利用企業側の責任範囲に残るためです。AWS、Microsoft、Google Cloudはいずれも共有責任モデルを明示しており、利用者側の継続的な管理を前提にしています。

なぜ企業に脆弱性管理が必要なのか

企業に脆弱性管理が必要な最大の理由は、脆弱性が「見つかっただけの情報」ではなく、「実際に悪用される入口」になっているからです。公開された脆弱性のすべてが直ちに攻撃に使われるわけではありませんが、CISAは実際に悪用が確認された脆弱性を Known Exploited Vulnerabilities(KEV) Catalog として公開し、組織に優先対応を促しています。つまり現代の脆弱性管理では、公開情報を眺めるだけでなく、「いま悪用されているか」「自社に影響するか」を見極めることが重要です。

脆弱性を放置するリスクも明確です。攻撃者は、修正が遅れたVPN機器、公開サーバー、業務アプリケーション、ミドルウェア、コンテナ環境などを足がかりに侵入し、そこから権限昇格や横展開を進めます。問題は、重大な脆弱性があっても、自社資産を把握できていなければ「影響を受けているのに気づけない」ことです。脆弱性管理は、修正作業の前段として、自社に何が存在しているかを見える化する意味でも不可欠です。

さらに、近年はOSS利用の拡大によって、ソフトウェアサプライチェーン全体のリスク管理が重要になっています。NTIAはSBOMを、ソフトウェアを構成する各種コンポーネントとそのサプライチェーン上の関係を記録する正式な記録と説明しています。OSSライブラリや依存パッケージに脆弱性が含まれていた場合、アプリケーション本体に問題がなくても、企業システム全体に影響が及ぶ可能性があります。これが、いわゆるソフトウェアサプライチェーンリスクです。

クラウド利用の拡大も、脆弱性管理の必要性をさらに高めています。クラウド環境では、サーバーを一度構築して終わりではなく、構成変更、イメージ更新、コンテナ再配備、アクセス制御変更などが高頻度で発生します。そのため、脆弱性管理を継続的に実施しなければ、未更新のソフトウェアや脆弱なイメージ、設定不備がそのまま攻撃対象になる可能性があります。共有責任モデルのもとでは、クラウド事業者がすべてを守ってくれるわけではありません。自社が責任を持つ範囲を理解し、そこを継続的に点検する必要があります。

脆弱性管理の基本プロセス

脆弱性管理の基本プロセスは、一般に以下のような流れです。

  • 脆弱性の発見
  • 脆弱性評価
  • 修正
  • 検証

ただし実務では、前提としてソフトウェア資産の把握が欠かせません。なぜなら、何を保有しているか分からない状態では、脆弱性情報を受け取っても影響判断ができないからです。NVDのような脆弱性データベースは、脆弱性管理の自動化や評価に使える標準化データを提供していますが、それを生かすには自社資産との突合が必要です。

脆弱性の発見は、公開情報の確認だけでなく、スキャンツール、構成管理情報、ベンダーアドバイザリ、クラウドのセキュリティ機能など、複数の情報源を組み合わせて行います。次に必要になるのが評価です。ここではCVSSのような一般的な深刻度だけでなく、インターネット公開の有無、業務影響、悪用実績、代替策の有無、修正難易度などを踏まえて、自社にとっての優先度を決める必要があります。NVDも、CVSSは深刻度の定性的な指標であり、リスクそのものではないと明示しています。

その後、実際に修正を行います。修正方法は、パッチ適用、設定変更、バージョンアップ、アクセス制御の見直し、機能停止、ネットワーク遮断などさまざまです。最後に、修正後の検証を実施し、本当に脆弱性が解消されたか、別の不具合を生んでいないかを確認します。この「修正して終わりにしない」ことが、脆弱性管理を単なる作業ではなく運用として成立させるポイントです。脆弱性管理では、まず自社のIT資産を正確に把握することが重要です。対象にはサーバーやネットワークだけでなく、クラウド環境、利用しているOSSライブラリなども含まれます。

IT資産管理と脆弱性管理の関係については、以下の記事で詳しく解説しています。
脆弱性管理とIT資産管理とは?サイバー攻撃から組織を守る取り組み

近年では SBOM(Software Bill of Materials) を利用してソフトウェア構成を可視化する企業も増えています。SBOMは、ソフトウェアに何の部品が含まれているかを一覧化する考え方で、影響範囲の特定や依存関係の把握に有効です。
SBOMとは?ソフトウェア部品表の基本と企業が導入すべき理由

脆弱性管理のフロー(実務)

実務に落とし込むと、脆弱性管理の流れは以下のような順番で整理することができます。

  1. 脆弱性情報の収集
  2. クラウド・OSSへの影響確認
  3. 優先度判断
  4. 修正
  5. 再確認

まず行うべきは、CVE、ベンダーアドバイザリ、クラウドベンダー通知、各種セキュリティ情報の収集です。ここで漏れがあると、そもそも対応のスタート地点に立てません。CISAは、実際に悪用が確認された脆弱性についてKEV Catalogの確認と優先的な是正を強く推奨しています。

次に必要なのが、収集した情報が自社環境に関係するかどうかの確認です。オンプレミス機器だけなら比較的見通しが立ちますが、現在はクラウド上のワークロード、コンテナ、OSSライブラリ、CI/CDで取り込んだ部品まで視野に入れなければ、実態を取り逃がします。とくにOSS脆弱性は、アプリケーション本体よりも深い依存関係に潜んでいる場合があり、SBOMやSCAの仕組みがないと把握が難しくなります。

優先度判断では、CVSSの高さだけで対応順を決めないことが重要です。CVSSは比較の基準になりますが、公開サーバーにあるのか、認証が必要なのか、すでに悪用実績があるのか、業務停止時の影響はどれほどかによって、実際の対応順は変わります。NVDもCVSSをリスクそのものではないと説明しており、KEVのような実悪用情報と組み合わせて判断するのが現実的です。

修正段階では、パッチ適用だけに視野を限定しないことが大切です。クラウド環境では、OSやミドルウェアの更新に加え、コンテナイメージの差し替え、設定変更、公開範囲の見直し、権限調整なども重要な対策になります。修正後は再スキャンや設定確認を行い、実際に解消されたことを確認します。ここで検証が不十分だと、「対応したつもり」で終わってしまい、後になって再発見されることがあります。

脆弱性管理では、脆弱性を発見するだけでなく、発見された脆弱性に対して迅速に対応することが重要です。適切な脆弱性対応を行わなければ、攻撃者に悪用され、情報漏えいやシステム停止などの重大なインシデントにつながる可能性があります。脆弱性対応の基本的な流れや実務での対応方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
脆弱性対応とは?CVE対応とパッチ管理の実務フロ

近年ではクラウド環境やOSSライブラリに含まれる脆弱性の影響調査も重要になっています。SBOMを利用すると、影響範囲を迅速に把握できます。

脆弱性管理ツールの種類

脆弱性管理を実務で回すには、ツールの力を借りることが現実的です。ただし、ひとつの製品で全領域を完全にカバーできるとは限りません。一般的な脆弱性スキャナーは、ネットワーク機器、サーバー、OS、ミドルウェア、Webアプリケーションの既知脆弱性を見つけるのに有効ですが、OSSライブラリの依存関係やソフトウェア部品表までは十分に扱えないことがあります。そこで、管理ツール、クラウドセキュリティツール、SBOM管理ツール、SCAツールなどを役割ごとに組み合わせる設計が必要になります。

たとえば、CSPMやCNAPPのようなクラウド向けツールは、クラウド設定やワークロードの状態を継続的に可視化するのに向いています。一方、SCAはアプリケーションが依存しているOSSコンポーネントを洗い出し、既知脆弱性との突合を支援します。SBOM管理ツールは、その構成情報を継続管理し、影響調査を効率化する役割を持ちます。2026年の脆弱性管理では、ネットワークやサーバーだけを見ていても不十分で、クラウドとソフトウェアサプライチェーンまで含めた多層的な可視化が必要です。

OSSの脆弱性を管理するために、SCA(Software Composition Analysis)ツールやSBOM管理ツールを導入する企業も増えています。これは、ソフトウェアの構成部品とその依存関係を可視化しなければ、OSS由来の脆弱性が自社に影響するかどうかを迅速に判断しにくいためです。NTIAも、SBOMをソフトウェア構成要素の透明性向上に役立つ仕組みとして整理しています。

SCA(Software Composition Analysis)ツールとは
ソフトウェアに含まれるオープンソースや外部ライブラリの構成要素を解析し、既知の脆弱性やライセンスリスクを可視化するセキュリティツールです。依存関係を自動的に検出し、CVEなどの脆弱性データベースと照合することで、潜在的なリスクを早期に特定できます。また、ライセンス違反の有無も確認でき、コンプライアンス対応にも有効です。開発プロセスに組み込むことで、セキュアで安全なソフトウェア開発を支援します。

脆弱性スキャンについてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
脆弱性スキャンとは?脆弱性診断ツールの選び方と導入ポイント

企業の脆弱性管理の課題

多くの企業が脆弱性管理に苦労する理由は、脆弱性そのものより、管理対象の広がりにあります。

IT資産の把握

まず大きいのが、IT資産の把握が難しいことです。クラウド移行、テレワーク、SaaS利用、部門独自導入のツール、コンテナ活用が進むと、情報システム部門が把握していない資産が生まれやすくなります。この状態では、脆弱性情報を受け取っても、自社への影響有無を正確に判断できません。

OSS依存関係の管理

現代のソフトウェアは、直接導入しているライブラリだけでなく、その下位の依存関係にも数多くの部品を抱えています。表面的には安全に見えても、深い階層に脆弱なコンポーネントが含まれていることは珍しくありません。

SBOMの未整備

SBOMが未整備だと、こうした影響範囲調査に時間がかかり、対応の遅れにつながります。

クラウド環境の可視化不足

クラウドでは、責任分界が従来のオンプレミスとは異なり、サービス形態によって利用者側の責任範囲が変わります。そのため、「クラウド事業者が面倒を見ているはず」と誤解してしまうと、更新漏れや設定不備を放置しやすくなります。共有責任モデルを前提に、自社の管理範囲を明確にしなければ、脆弱性管理は形骸化します。

OSS利用時に重要な脆弱性管理(SBOMの活用)

OSSの活用は、開発効率や品質向上の面で大きなメリットがありますが、その一方で脆弱性管理を複雑にします。理由は明快で、企業が自分で一から書いていないコードであっても、最終的に自社サービスや製品の一部として責任を負うからです。OSS由来の脆弱性は、アプリケーション本体ではなく依存パッケージに潜んでいることも多く、目視や台帳だけで追いきるのは現実的ではありません。

ここで重要になるのがSBOMです。NTIAはSBOMを、ソフトウェアを構成する各種コンポーネントとサプライチェーン上の関係を記録する正式な記録と定義しています。これを整備しておけば、新たな脆弱性が公表された際に、「自社のどのシステムに、その部品が含まれているか」を調べやすくなります。結果として、影響調査の初動が速くなり、不要な全件調査や属人的な確認作業を減らせます。

SBOMは、単に監査対応のために作る資料ではありません。脆弱性管理の実務で使えてこそ意味があります。たとえば、SCAツールで依存関係を検出し、その情報をSBOMとして管理し、脆弱性公表時に突合するという流れが定着すれば、OSS脆弱性への対応速度と精度を高めやすくなります。今後の企業システムでは、OSS利用時の脆弱性管理をSBOM抜きで考えることは難しくなっていくでしょう。

脆弱性管理を効率化する方法

脆弱性管理を効率化する方法はいくつかあります。

資産管理の自動化

資産台帳を手作業で維持する運用では、クラウドやコンテナ、SaaSの増減に追いつけません。CMDB、クラウド資産可視化、ID管理、EDRやMDMの情報などを組み合わせて、現時点の資産情報を継続的に更新できる状態を目指す必要があります。資産情報が整えば、脆弱性情報との突合精度も上がります。

OSS脆弱性監視

OSS脆弱性監視の仕組みを作ることも重要です。開発時点だけでなく、運用中のアプリケーションについても、依存ライブラリの脆弱性を継続監視しなければなりません。脆弱性管理をインフラ部門だけの仕事にせず、開発部門やDevOps運用の中に組み込むことが、今の実務では不可欠です。

SBOMによるソフトウェア構成管理

SBOMによるソフトウェア構成管理を取り入れることで、影響調査の速度と精度をさらに高められます。SBOMが整っていれば、新たなCVEが公表された際にも、対象ソフトウェアの所在確認を短時間で進めやすくなります。加えて、KEVのような実悪用情報を監視し、CVSSだけでなく悪用実績も含めて優先順位を決める運用にすれば、限られた人員でも効果的に対応しやすくなります。脆弱性管理を効率化するとは、単にツールを増やすことではなく、「見つける」「判断する」「直す」を早く回せる仕組みへ変えることです。

まとめ

脆弱性管理とは、脆弱性を発見する作業ではなく、自社のIT資産、クラウド環境、OSSコンポーネントを継続的に把握し、影響を判断し、優先順位をつけて修正し、再確認する運用そのものです。2026年の企業環境では、オンプレミスだけを見ていては不十分で、クラウド、SaaS、コンテナ、OSSまで含めた視点が欠かせません。とくに、実際に悪用される脆弱性への対応と、SBOMを活用したソフトウェア構成の可視化は、これからの脆弱性管理の重要な柱になります。

まず取り組むべきなのは、完璧な仕組みを一気に作ることではなく、自社の資産を洗い出し、脆弱性情報を収集し、優先度を判断し、修正後に確認するという基本サイクルを止めずに回すことです。そのうえで、クラウド可視化、SCA、SBOM管理などを段階的に取り入れていけば、脆弱性管理は現場で機能する実践的な仕組みに育っていきます。


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