
IT資産管理を継続するには、台帳を作成するだけでは十分ではありません。定期的な棚卸しや資産台帳の整備、ツールの活用、運用ルールの見直しなど、継続して管理できる仕組みづくりが重要です。本記事では、IT資産管理を効率化するための基本ステップと、実務で押さえたい運用のポイントを解説します。
IT資産管理の基本について知りたい方は、まず「IT資産管理とは」をご覧ください。
「IT資産管理とは?企業のセキュリティ対策で最初に取り組むべき理由を解説」
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IT資産管理は重要だと分かっていても、実際の運用では「台帳が更新されない」「管理対象が多すぎる」「クラウドやSaaSまで把握しきれない」といった悩みが起こりがちです。特に、少人数の情報システム部門や兼任体制の企業では、手作業だけでIT資産を正確に管理し続けるのは現実的ではありません。
IT資産管理で押さえるべき基本ステップ
IT資産管理を効率化するには、いきなりツールを導入するのではなく、基本ステップを整理することが大切です。最初に行うべきことは、管理対象の範囲を決めることです。PC、サーバー、ネットワーク機器、スマートフォン、タブレット、ソフトウェア、クラウドサービス、SaaS、アカウント、ライセンスのうち、どこまでをIT資産管理の対象にするのかを明確にします。次に、現在のIT資産を棚卸しします。棚卸しによって、台帳に載っていない端末、使われていないSaaS、放置されたクラウド環境、サポート期限が近いソフトウェアなどを洗い出します。その後、資産台帳を整備し、資産の種類、利用者、管理責任者、重要度、バージョン、サポート期限、最終確認日などを記録します。
棚卸しを定期的に行う
IT資産棚卸しは、IT資産管理の出発点です。棚卸しでは、以下のような複数の情報源を突き合わせます。ひとつの情報源だけに頼ると、見落としが発生しやすいため、複数の情報を照合することが重要です。
- 購買台帳・リース契約
- MDM/EDR
- Active DirectoryやID管理基盤
- クラウド管理画面
- SaaSの契約情報 – ネットワーク接続情報
たとえば、購買台帳には存在するのにEDRには表示されない端末があれば、未セットアップ、未接続、廃棄漏れの可能性があります。逆に、EDRやネットワーク上には存在するのに購買台帳や資産台帳にない端末があれば、未登録端末や持ち込み端末の可能性があります。クラウド環境では、誰が作成したか分からないインスタンス、公開設定のまま放置されたストレージ、検証後に削除されていないリソースを確認します。棚卸しの頻度は、企業規模やIT環境によって異なりますが、少なくとも年1回の一斉棚卸しだけでは変化に追いつきにくくなっています。端末の入れ替え、SaaS契約、クラウド環境の作成など、変化が多い領域については、月次や四半期単位で確認する運用が望ましいでしょう。
どのような資産が見落とされやすいかについては「見落としがちなIT資産がセキュリティ事故を招く?企業で起こりやすい5つの管理課題」もあわせてご覧ください。
資産台帳を整備する
棚卸しで見つけたIT資産は、資産台帳に整理します。台帳は、単に資産名を並べるためのものではありません。脆弱性対応、パッチ適用、ライセンス管理、費用管理、インシデント対応に使える情報でなければ、実務では役に立ちません。資産台帳には、資産ID、資産種別、製品名、メーカー、OSやソフトウェアのバージョン、利用者、所属部門、管理責任者、設置場所、IPアドレス、利用目的、業務上の重要度、保存・処理する情報の種類、サポート期限、ライセンス情報、最終確認日などを記録します。すべてを最初から完璧に埋める必要はありませんが、脆弱性対応やインシデント対応に必要な項目は優先して整備するべきです。
NIST SP 1800-5では、有効なIT資産管理は物理資産と仮想資産を結びつけ、資産が何で、どこにあり、どのように使われているかを把握できるようにするものと説明されています。 この視点を踏まえると、台帳は固定的な一覧ではなく、現場の利用実態を反映する情報基盤として設計する必要があります。
ツールで自動化する
IT資産管理を効率化するうえで、ツールによる自動化は有効です。管理対象が少ないうちは手作業でも対応できますが、端末、クラウド、SaaS、アカウント、ソフトウェアが増えると、人手だけで最新状態を維持するのは難しくなります。IT資産管理ツールを使えば、端末情報、インストール済みソフトウェア、OSバージョン、利用者情報、接続状況などを自動収集しやすくなります。MDMはモバイル端末やPCの管理に役立ち、EDRは端末の稼働状況やセキュリティ状態の把握に活用できます。クラウド環境では、クラウド管理ツールやCSPMによって、リソース、設定、公開状態、権限の可視化を進められます。SaaSについては、ID管理基盤やSaaS管理ツールと連携し、利用アカウントや不要ライセンスを確認します。
IT資産管理ツールによって可視化した資産情報は、脆弱性管理にも活用できます。資産台帳とスキャン結果を結びつけることで、どの資産にどの脆弱性が存在するのかを把握しやすくなります。
運用ルールを整備する
IT資産管理は、ツールを導入するだけでは定着しません。新しい端末を購入したとき、SaaSを契約したとき、クラウド環境を作成したとき、従業員が異動・退職したとき、機器を廃棄したときに、誰が、いつ、どの情報を更新するのかを決めておく必要があります。
ライフサイクル管理
調達から廃棄までのライフサイクルにIT資産管理を組み込むことも重要です。購入申請時に資産登録を行い、利用開始時に管理責任者を設定し、定期的に利用状況を確認し、不要になったらアカウント停止やデータ消去、契約解除、廃棄証跡の保管まで行う。この流れが決まっていないと、台帳はすぐに古くなります。
シャドーIT対策
シャドーIT対策では、禁止だけでなく申請しやすい仕組みも必要です。現場が必要なツールを安全に使える申請ルート、承認済みSaaSの一覧、例外利用時の確認項目を整備することで、非公式な利用を減らしやすくなります。英国のサイバーセキュリティ機関NCSCも、「シャドーITは従業員が業務上の課題を解決しようとして発生することが多く、責めるのではなく、報告しやすいセキュリティ文化を作ることが重要」だと説明しています*1。
IT資産の可視化を脆弱性管理やパッチ管理につなげる
近年では、社内で管理しているIT資産だけでなく、インターネット上に公開されている資産を継続的に把握・管理するために、ASM(Attack Surface Management)を活用する企業も増えています。
IT資産の可視化はゴールではありません。可視化した資産情報を、脆弱性管理やパッチ管理につなげることが重要です。NIST SP 800-40 Rev.4では、パッチ管理を、パッチやアップデートを識別し、優先順位付けし、取得し、適用し、適用結果を検証するプロセスとして説明しています。 その前提として、どの資産が存在し、どのソフトウェアやバージョンを利用しているかを把握している必要があります。たとえば、重大な脆弱性が公開された場合、資産台帳が整備されていれば、対象バージョンを利用している端末やサーバーをすばやく抽出できます。重要システム、外部公開システム、個人情報を扱うシステムなどを優先して対応する判断も可能になります。逆に、資産情報がなければ、全社に一斉確認を依頼するしかなく、対応に時間がかかります。
IT資産管理、脆弱性管理、パッチ管理は別々の業務ではなく、つながった運用として設計することが重要です。IT資産を把握し、リスクを評価し、優先順位をつけ、対策し、結果を確認する。この流れができて初めて、セキュリティ対策は継続的に機能します。
まとめ:効率化の目的は、管理を楽にすることではなく対応を早くすること
IT資産管理を効率化する目的は、単に運用負荷を減らすことではありません。IT資産を継続的に把握し、脆弱性への対応やインシデント発生時の初動対応を迅速に行える状態を維持することが重要です。そのためには、定期的な棚卸しや資産台帳の整備、ツールによる自動化、運用ルールの見直しを組み合わせ、自社のIT環境に合わせた継続的な運用を構築しましょう。
【参考情報】
CIS(Center for Internet Security)「The 18 CIS Critical Security Controls」(https://www.cisecurity.org/controls/cis-controls-list)
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編集責任:木下
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