診断結果にみる情報セキュリティの現状
~2022年下半期 診断結果分析~

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SQAT® Security Report 2023年 春夏号

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BBSecの脆弱性診断

システム脆弱性診断で用いるリスクレベル基準

BBSecのシステム脆弱性診断は、独自開発ツールによる効率的な自動診断と、セキュリティエンジニアによる高精度の手動診断を組み合わせて実施しており、高い網羅性とセキュリティ情勢を反映した診断を実現するため、セキュリティエンジニアおよびセキュリティアナリストが高頻度で診断パターンを更新し、診断品質の維持・向上に努めている。検出された脆弱性に対するリスク評価のレベル付けは、右表のとおり。

脆弱性診断サービスの基本メニューである「Webアプリケーション脆弱性診断」・「ネットワーク脆弱性診断」の2022年下半期(7月~12月)実施結果より、セキュリティ対策の実情についてお伝えする。

2022年下半期診断結果

Webアプリ/NW診断実績数

2022年下半期、当社では12業種延べ510企業・団体、3,964システムに対して、脆弱性診断を行った(Webアプリケーション/ネットワーク診断のみの総数)。

2022年下半期システム脆弱性診断 脆弱性検出率の棒・円グラフ

9割のシステムに脆弱性

「Webアプリケーション診断結果」の棒グラフのとおり、Webアプリケーションに おいて、なんらかの脆弱性が存在するシステムは9割前後で推移を続けている。検出された脆弱性のうち危険度レベル「高」以上(緊急・重大・高)の割合は19.0%で、5件に 1件近い割合で危険な脆弱性が検出されたことになる。

一方、ネットワーク診断では、なんらかの脆弱性があるとされたシステムは約半数だったが、そのうちの危険度「高」レベル以上の割合は23.3%で、5件に1件以上の割合であった。

以上のとおり、全体的な脆弱性検出率については、前期と比較して大きな変化はない。当サイトでは、「2022年下半期カテゴリ別脆弱性検出状況」とし、検出された脆弱性を各カテゴリに応じて分類しグラフ化している。

Webアプリケーション診断結果

高リスク以上の脆弱性ワースト10

リスクレベル高以上の脆弱性で検出数が多かったものを順に10項目挙げてみると、下表のような結果となった。

高リスク以上の脆弱性ワースト10(2022年下半期)Webアプリ編の表

長年知られた脆弱性での攻撃

Webアプリ編ワースト10の上位3項目は、前期と同じで、いまだ検出数が多い。いずれもよく知られた脆弱性ばかりなため、悪用された場合、セキュリティの基本的な対策を怠っている組織と認識され、信用失墜につながる。

「クロスサイトスクリプティング」に起因する情報漏洩は実際に報告されている。4位の「不適切な権限管理」は前期7位より順位を上げた。この脆弱性は、本来権限のない情報・機能へのアクセスや操作が可能な状態を指し、「OWASP Top 10(2021)」では、首位の「A01:2021-アクセス制御の不備」に該当する。一般ユーザであるはずが、処理されるリクエストを改竄することで管理者権限での操作が可能になる等により、個人情報や機密情報の漏洩・改竄、システムの乗っ取り、といった甚大な被害を招く恐れがある。外部から値を操作できないようにするのはもちろんのこと、各機能に対する適切なアクセス制御を実装することが推奨される。

ネットワーク診断結果

高リスク以上の脆弱性ワースト10

ネットワーク診断結果に関しても、リスクレベル高以上の脆弱性で検出数が多かったものを順に10項目挙げてみると、下表のような結果となった。

高リスク以上の脆弱性ワースト10(2022年下半期)NW編の表

SNMPにおけるデフォルトのコミュニティ名の検出

ネットワーク編のワースト10もほぼお馴染みの顔ぶれであるところ、「SNMPにおけるデフォルトのコミュニティ名の検出」が9位に初ランクインした。SNMPは、システム内 部のステータスや使用ソフトウェア等の各種情報取得に利用されるプロトコルで、管理するネットワークの範囲をグルーピングして「コミュニティ」とする。コミュニティ名に は、ネットワーク機器のメーカーごとに「public」等のデフォルト値がある。SNMPにおけるコミュニティ名はパスワードのようなものであるため、デフォルトのままだと、これ を利用して攻撃者に接続され、攻撃に有用なネットワークの内部情報を取得される恐れがある。コミュニティ名にはデフォルト値を使用しないこと、また、SNMPへの接続には強固なアクセス制御を実施することが推奨される。

カテゴリ別の検出結果詳細についてはこちら

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診断結果にみる情報セキュリティの現状
~2022年上半期 診断結果分析~

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SQAT® Security Report 2022-2023年 秋冬号

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BBSecの脆弱性診断

システム脆弱性診断で用いるリスクレベル基準

当社のシステム脆弱性診断は、独自開発ツールによる効率的な自動診断と、セキュリティエンジニアによる高精度の手動診断を組み合わせて実施している。検出された脆弱性に対するリスク評価のレベル付けは、右表のとおり。

脆弱性診断サービスの基本メニューである「Webアプリケーション脆弱性診断」・「ネットワーク脆弱性診断」の2022年上半期(1月~6月)実施結果より、セキュリティ対策の実情についてお伝えする。

2022年上半期診断結果

Webアプリ/NW診断実績数

2022年上半期、当社では12業種延べ611企業・団体、3,448システムに対して、脆弱性診断を行った(Webアプリケーション/ネットワーク診断のみの総数)。

システム脆弱性診断 脆弱性検出率グラフ

9割のシステムに脆弱性

「Webアプリケーション診断結果」の棒グラフのとおり、Webアプリケーションにおいて、なんらかの脆弱性が存在するシステムは9割前後で推移を続けている。検出された脆弱性のうち危険度レベル「高」以上(緊急・重大・高)の割合は22.3%で、5件に1件以上の割合でリスクレベルの高いものが出ていることになる。

一方、ネットワーク診断では、脆弱性ありと評価されたシステムは半分強というところだ。ただし、検出された脆弱性に占める危険度高レベル以上の割合は22.1%にのぼり、こちらも5件に1件以上の割合となる。

以上のとおり、全体的な脆弱性検出率については、前期と比較して大きな変化はない。当サイトでは、「2022年上半期カテゴリ別脆弱性検出状況」とし、検出された脆弱性を各カテゴリに応じて分類しグラフ化している。

Webアプリケーション診断結果

高リスク以上の脆弱性ワースト10

リスクレベル高以上の脆弱性で検出数が多かったものを順に10項目挙げてみると、下表のような結果となった。

高リスク以上の脆弱性ワースト10リスト

長年知られた脆弱性での攻撃

上位ワースト10はいずれも、Webアプリケーションのセキュリティ活動を行っている国際的非営利団体OWASP(Open Web Application Security Project)が発行している「OWASP Top 10(2021)」でいうところの、「A03:2021 – インジェクション」「A07:2021 – 識別と認証の失敗」「A06:2021 – 脆弱で古くなったコンポーネント」「A02:2021 – 暗号化の失敗」「A01:2021 – アクセス制御の不備」等に該当する。

1位の「クロスサイトスクリプティング」や6位の「SQLインジェクション」は、長年知られた脆弱性である上、攻撃を受けると深刻な被害となりかねないにも関わらず、いまだ検出され続けているのが実情だ。

攻撃者による悪意あるコードの実行を許さぬよう、開発段階において、外部からのデータに対する検証処理と出力時の適切な文字列変換処理の実装を徹底していただきたい。

ネットワーク診断結果

高リスク以上の脆弱性ワースト10

ネットワーク診断結果に関しても、リスクレベル高以上の脆弱性で検出数が多かったものを順に10項目挙げてみると、下表のような結果となった。

高リスク以上の脆弱性ワースト10リスト

推奨されないバージョンのSSL/TLS

1位の「推奨されないSSL/TLS」が圧倒的に多い。既知の脆弱性がある、あるいはサポートがすでに終了しているコンポーネントの使用も目立つ。このほか、特にリスクレベルが高いものとして懸念されるのが、FTP(4位)やTelnet(7位)の検出だ。これらについては、外部から実施するリモート診断よりもオンサイト診断における検出が目立つ。つまり、内部ネットワークにおいても油断は禁物ということである。FTPやTelnetのような暗号化せず通信するサービスはそもそも使用するべきでなく、業務上の理由等から利用せざるを得ない場合は強固なアクセス制御を実施するか、暗号化通信を使用する代替サービスへの移行をご検討いただきたい。

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<インタビュー>門林 雄基 氏 / 奈良先端科学技術大学院大学 サイバーレジリエンス構成学研究室 教授【後編】

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国内外問わずセキュリティイベントに多くご登壇し、弊社で毎月1回開催している社内研修で、最新動向をレクチャーいただいている奈良先端科学技術大学院大学の門林教授。そんな門林教授に2022年のセキュリティニュースを振り返っていただき、今後の動向や予測について語っていただきました。前・後編の2回のうち、後編をお届けします。

(聞き手:BBSec SQAT.jp編集部)


サイバー攻撃の多様性

新たな攻撃の予想

━━今年はこれまでもすでに発見されていたが放置されてきた脆弱性が再発見されたり、新たに発見されたりした脆弱性を悪用したサイバー攻撃が話題になりました。それを踏まえ、今後新たな流行として予想される攻撃や今の時点で考えられる攻撃がありましたらどんなものがありますでしょうか?

門林:色々起きてますが、犯罪教唆にならない範囲で考えますと、クラウドとかでしょうか。クラウドはかなり巨大になってきていますので、問題は起きるかなとは思いますね。やはり色んな方がクラウドを使っていますよね。

━━そうですね。最近はテレワークの導入率も6割程度という調査結果も出ているという風に聞きます。

門林: 結局そのクラウドの方がちゃんとやっているから安全というように事業者の方はよくおっしゃるんですが、中小から大企業までみんながクラウドを使っているということは、当然反社もハッカー集団もクラウドを使っているわけです。だから隣のテナントは反社かもしれないという状況で、企業も何万社とあって、クラウド事業者側でもみえてないです。

門林先生インタビュー写真3

見通しが明るくない話ばかりになりますが、クラウドはほんとに色んな問題を抱えて走っています。もちろんその問題を抱えたうえでリスクを潰しながらオペレーションできればいいんですが。これもやはり10年ほどやってきている話で、進展も激しいですし、色々積み重なっています。結局古い問題がなくならないので、我々専門家も日々話題にする脆弱性で、これ10年前にも同じ話あったよねというのがもう頻繁に出てくるわけです。ですのでクラウドに関しても、おそらく5年前とか10年前にあった脆弱性のぶり返しと新しい攻撃キャンペーンが組み合わさるとなんか起こるだろうなと思います。

今できる共通の対策

━━今後もありとあらゆる攻撃が予想されるということがお話伺っていてわかりました。それぞれの攻撃に対しては、対策をとっていく、防御していくことが重要になってくることかと思いますが、今できる共通の対策として、まず何をすべきでしょうか?

門林:基本に忠実にやるということしかないです。新しいトピックだけ追いかける人が多いですが、サイバーセキュリティという領域が生まれてもう30年です。脆弱性データベースの整備も始まって30年くらいたっていると思います。で、そのなかに10年選手、5年選手あるいは15年選手の脆弱性があるわけです。マルウェアもわざわざ古いマルウェアを使うという攻撃もあるんです。古いマルウェアだと最近のアンチウィルスソフトでは検知しないからあえて使うなどという色々な話があって、結局新しいことだけに注目してニュースを追って新しい製品を買ってというようにやっていると、5年前とか10年前の脆弱性に足をすくわれると思うんです。ですのでここはもう基本に忠実にやるしかないわけです。

セキュリティ全般の話ですが、やはり30年分の蓄積があるので、それを検証できるだけのスキルを持っていなければいけないですし、なんなら製品ベンダーさんの方が基本的な話を知らなかったりしますからね。

どんな対策が有効?

━━リスク管理の原則という話も少し出ましたが、企業においては情報資産の棚卸しというところも重要になってくると思います。弊社では脆弱性診断サービスを提供していますが、こういったサイバー攻撃への対策として、脆弱性診断サービスは有効に働くでしょうか?

門林:この業界はぽっと出だと私は危ないと思っています。セキュリティ診断会社が裏で反社と繋がっていて脆弱性診断を結果流していたという話もあり得ない話ではないので、ちゃんとした会社に依頼するということが私は大事だなと思ってます。

BBSecさんはもう22年くらいやっているとのことですが、やっぱりそれくらいやってる会社じゃないとかなり重要なシステムの脆弱性診断とか任せられないんじゃないかなと思いますし、それだけやってらっしゃる会社さんだからこそ、昔の脆弱性や最近の脆弱性、あるいは5年10年前の脆弱性というところも経験があって、ある意味チェック漏れといいますか、抜け漏れみたいなのもないと思うんです。やはり脆弱性診断みたいな、セキュリティの話で”水を漏らさず”みたいなところに尽きると思うんです。水を漏らさずどういう風に検査するかというともう経験値が全てだと思うんです。色々なシステムを検査してきた経験値というのが今にいきていると思いますし、そういうの無しに最近できた会社なんですよといって診断されても、そこの製品、俺だったら簡単に迂回できるなと思ってしまいますね。

終わりに…

これからセキュリティ業界に携わりたい方に向けて

━━ありがとうございました。では最後に、これまでのトピックスを振り返りつつ、これからセキュリティ業界に携わって働いていきたいという方やすでにもう業界で経験がある方でこれからもっとステップアップしていきたいというSQAT.jp読者に対して、門林先生からのメッセージをいただければと思います。

門林:サイバーセキュリティというと、プログラミングとかそういうのに詳しい人だけと思われがちなんですが、そうではないんだということです。もう今は総力戦になってますので、プログラミングやセンサーに詳しい人も歓迎ですし、あるいは人間の心理とか社会学とかのスキルとかそういうのに詳しい人も歓迎ですし。結局人間の脆弱性、ソフトウェア・ハードウェアの脆弱性など色々なものがあるなかで、それらすべてに相対していかなければならないわけです。プログラミングやマルウェア解析がすごいという人だけではなくて、いろんな人に来ていただきたいなと思いますね。

あともう一つ大事なのは、やはり優しさです。パソコンに詳しい、俺はプログラミングがすごいだけではなくて、実際サイバー攻撃にやられてしまった現場に行っても、「大丈夫ですか?」とできる人、例えば、「ランサムウェアの現場大変ですね、何とか復号しましょう」、というように。きれいじゃない現場というのがたくさんあるように、これから人間の失敗の顛末みたいな所も目にすると思います。各社・各業界の事情もありつつ、失敗の形跡もありつつ、そういう所で火消しをする、手続きの話をするというかたちになるので、結局その現場に入る人、セキュリティの業界に入る人はやっぱり弱者の側に立たないといけないんです。

CTFとかそういうものをやってると優秀な人こそ勝つという感じの発想の人もいると思うんですが、私は、そういうゲーム的な「俺はサッカーが上手いからすごいんだ」という人が来てくれるよりは、むしろ消防あるいは看護婦・お医者さんのような弱者・敗者に寄り添うセンス、かつプログラミング・技術もできる、法律もハードウェアもできるといった、そういう人間としてのキャパシティーをもった人に来ていただきたいなと思います。「俺はこのツールが使えるんだすごいだろ」という感じの人はたくさんいる気がするので、そうではない側の人、人としての優しさを備えてかつテクノロジー・法律といった様々なスキルを研鑽していこうと思える人にきてほしいですね。

━━弊社は脆弱性診断診断サービス以外にもインシデント対応やコンサルティングの提供もしているので、そういう意味でも、技術力だけじゃなく、人間性みたいなところも比較的重要になってくるのかなと個人的にも思います。本日はありがとうございました。

ーENDー
前編はこちら


門林 雄基 氏
奈良先端科学技術大学院大学 サイバーレジリエンス構成学研究室 教授
国内外でサイバーセキュリティの標準化に取り組む。日欧国際共同研究NECOMAプロジェクトの日本研究代表、WIDEプロジェクトボードメンバーなどを歴任。


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クラウドセキュリティ対策の方法とは?
クラウドサービスの不安とメリットを解説

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クラウドセキュリティ対策の方法とは?クラウドサービスの不安とメリットを解説のサムネ

クラウドサービスを利用する企業は約7割を超え、いまやITビジネス環境に欠かせない存在です。AWS、Azure、GCPなどのクラウドサービスの代表例と、クラウド導入のメリットと不安、クラウドセキュリティを担保する方法を解説します

日本の各企業でも、クラウドサービス(クラウド)の利用はさらに進み、オンラインによるコミュニケーションやデータ共有、迅速なシステム構築などに活用されています。 しかし、ハードウェアを自社内やデータセンター等の設備内に設置する「オンプレミス」と比べ、セキュリティに対する漠然とした不安の声もあります。導入担当者やセキュリティ担当者は、クラウドセキュリティを確保していく必要があります。

この記事では、企業で活用されているクラウドサービスを例示しながら、「クラウド」「SaaS」「PaaS」「IaaS」「オンプレミス」などクラウド関連の用語を解説します。またクラウドサービスのメリットや不安点を挙げた上で、最後にクラウドセキュリティについて論じます。

クラウドサービスとは

クラウドサービスとは、ソフトウェアやサーバ、インフラなどを製品としてではなくサービスとしてクラウド事業者が提供するものです。これまでのソフトウェアやサーバの調達と異なり、利用者はサブスクリプション形式で利用料を支払い、クラウド上にあるリソースをサービスとして利用します。

クラウド(cloud)という名称は、ネットワークの模式図上で雲のような形状で示されるところからきました。ひとつの雲で表されますが、実際には複数のサーバ機器やネットワーク機器で構成され、サーバにはサービスに必要なソフトウェアが導入されています。

サーバを事業所内に設置するような利用形態「オンプレミス」という用語は、「クラウド」の対義語のように使われていますが、英語のon-premiseの本来の意味合いは「敷地内の」というものです。

なおクラウドサービスを分類すると、3つの主要サービスがあります。具体的なイメージを掴めるよう、法人で幅広く使われているクラウドサービスを挙げながら紹介します。

SaaS(Software as a Service、サース、サーズ)

Gmail(Webメール)、Microsoft Office 365(オフィスソフト)、Dropbox(ストレージ)、Slack(チャット)などのサービスがあります。一般ユーザが使用するアプリケーションをサービスとして提供します。

IaaS(Infrastructure as a Service、アイアース、イアース)

利用者が選択したスペックやOSに合わせた、仮想的なマシン(インフラ)を提供します。利用者側で必要なアプリケーションをさらにインストールするなどして、用途に合わせてカスタマイズできます。

たとえばWebサービスを顧客に展開するときに、Webサーバとして活用するケースがあります。Amazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)、Azure Virtual Machines、Google Compute Engine(GCP)といったサービスがあります。

PaaS(Platform as a Service、パース)

IaaSが提供する仮想マシンに加え、上位のミドルウェアを含め提供するプラットフォームがPaaSです。さまざまなサービスがありますが、たとえばAWSのAmazon Relational Database Service(Amazon RDS)では、主要なリレーショナルデータベース(RDB)をサポートします。また、GCPのGoogle App Engine(GAE)は、JavaやPythonなどで開発したアプリケーションをGCPのインフラ上で簡単にデプロイ、管理できるようになっています。

CaaS(Container as a Service、カース)

コンテナ技術を用いると、例えば開発用、本番用といった異なるサーバやOS間で同一の環境を持ち運べるなど、効率的なアプリケーション開発が実現できますが、複数のコンテナを組み合わせた大規模な環境では、それらを運用、管理するのに手間がかかります。CaaSは、複数のコンテナ利用に必要なオーケストレーション機能(管理/サポートする機能)を多数提供し、開発業務のさらなる効率向上を可能にします。代表的な例には、Docker、GKE(Google Kubernetes Engine)、Amazon ECS(Elastic Container Service)、VMware PKSなどのサービスがあります。

なお企業向けのクラウドセキュリティの議論はIaaSやPaaSを対象にしたものが中心です。これは、SaaSのセキュリティ管理は、クラウド事業者とサービサーが担うため、企業側で対応する余地があまりないためです。この記事でも、特に断りのない限りIaaSやPaaSを念頭に説明を進めていきます。

日本政府もAWSを導入!クラウドを利用する日本企業は7割に

2020年2月、政府が「政府共通プラットフォーム」にAWSを利用する 方針であることを発表しました。政府が採用を決める前から、企業でもクラウド利用が広がっています。以下は、総務省の通信利用動向調査の結果です。クラウドを全社的または一部の部門で活用する日本企業は毎年増え続け、2021年では70.2%に上っています。

国内におけるクラウドサービス利用状況

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出典:
総務省「令和3年通信利用動向調査」企業編
総務省「平成30年通信利用動向調査の結果」(令和元年5月31日公表)

クラウドサービス導入のメリット

ピーク性能に合わせて購入するのが一般的なオンプレミスと比べ、クラウドでは必要な時に必要なスペックで サーバやソフトウェアの契約を行うことが可能です。

1.どこからでもアクセスできる

WebメールやオンラインストレージといったSaaSを利用している場合、どこにいてもインターネットがあればアクセスできます。

2.負荷に応じて動的にシステム変更可能

アクセスの増減に合わせて、Webの管理ツールを操作するだけで、サーバを追加したり削減したりできます。オンプレミスと比べ、変更にかかる時間を大幅に短縮できます。 TVで取り上げられた場合などに発生する、突発的なアクセス増にも柔軟に対応可能です。

3.開発者が多くどんどん便利になっている

利用が急拡大しているグローバル規模のクラウド事業者は、世界中から優秀な開発者を集めており、次々と機能追加が行われています。

クラウドサービスに対する4つの不安

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1.情報漏えいリスク

どこからでもアクセスできて便利な反面、オンプレミス環境のように手元に情報を保持していない分、漠然とした不安や、攻撃対象になりやすいのではないかといった懸念があります。こうした懸念に応えるセキュリティ対策については後述します。

2.システム稼働率や法規制対応

クリティカルなサービスを提供する企業では、稼働率などを保証するSLA(Service Level Agreement)や、冗長構成を必要とする場合があります。また、クラウドサービスの利用にあたり、社内の基準やコンプライアンス、業界基準、国内法に準拠している必要があります。

これらの不安に対応して、AWSなど大手のクラウドサービスではSLAや第三者機関から取得した認証など、各種基準への対応状況を公表しています。

3.従量課金による費用変動

クラウドサービスの課金体系には、月額・日額の固定料金制もあれば、従量課金制もあります。利用形態によっては、オンプレミス環境を用意したほうが安価な場合もあります。システム利用計画を建ててから契約しましょう。

4.カスタマイズやベンダーのサポート体制

クラウド事業者は複数の顧客に共通のサービスを提供することで。オンプレミス環境と同様のカスタマイズやサポートは望めない場合もあります。

クラウドセキュリティ要件のガイドライン

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クラウドサービス提供者側のセキュリティ要件として、たとえば総務省では「クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン」を提供しています。

クラウド事業者は施設の物理セキュリティや、ネットワークなどのインフラのセキュリティに責任を持ちますが、利用者側にもネットワーク周りの設定や管理アカウントの管理などの対策が求められます。

クラウドの設定ミスに起因する事故

AWSに置かれていた、米ウォールストリートジャーナル紙の購読者名簿220万人分が、第三者による閲覧が可能な状態になっているという事故がありました。これは、利用者側の設定ミスに起因するものです。

オンプレミス環境ではサーバを直接操作する人は限られており、サーバルームの入退室記録簿等々、事故が起こらないようにさまざまなルールや、それを守る体制がありました。しかしクラウドでは、前述したようにどこからでもアクセスして、Web管理ツールで簡単にシステムを変更できるという利点が、逆に事故につながる場合があります。

クラウドセキュリティ対策の方法は?

ひとつは、クラウドサービスの設定に関わるベストプラクティス集を利用する方法です。各クラウドベンダーから公開されており、日本語版も用意されています。CISベンチマークという第三者機関が開発したセキュリティに関するガイドラインもあります。ただし、網羅性が高く項目も多いため、必要な項目を探すには時間がかかる場合もあります。

もうひとつは、クラウドの設定にセキュリティ上の問題がないか診断するツールを利用する方法です。実用するには一定の習熟が必要で、たとえば出力された多数の脆弱なポイントについて、どこを優先して対処していくかの判断が求められます。セキュリティ企業が提供する診断サービスを利用する方法もあります。パブリッククラウドの設定にリスクがないか専門家が診断します。

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まとめ

・クラウドのセキュリティは、クラウドサービスの提供側と利用者側双方で担保する
・提供側はインフラ等のセキュリティに責任を負う
・利用者側はセキュリティ、ネットワーク、アカウントなどの設定・管理を適切に行う
・利用者側の対策として、ベストプラクティスの活用、自動診断ツール、セキュリティベンダーの提供するサービスを利用するといった方法がある


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BBSecの診断について

当社では、Webアプリケーション、ネットワーク(プラットフォーム)に対する脆弱性診断をはじめとして、スマホアプリ、パブリッククラウド、ソースコード、IoT、ペネトレーションテスト、標的型ランサムウェア攻撃におけるリスク可視化等、様々な局面における診断サービスを提供している。こうした診断による検出・分析結果は、メリハリある的確なセキュリティ対策の実施にお役立ていただいている。

診断品質向上のために

システム脆弱性診断で用いるリスクレベル基準

当社の脆弱性診断サービスは、独自開発ツールによる効率的な自動診断と、セキュリティエンジニアによる高精度の手動診断を組み合わせて実施している。検出された脆弱性に対するリスク評価のレベル付けは、右表のとおり。

高い網羅性のある脆弱性の検出、お客様のシステム特性に応じたリスクレベル評価、個別具体的な解決策の提供が行えるよう、セキュリティエンジニアおよびセキュリティアナリストが高頻度で診断パターンを更新することで、診断品質の維持・向上に努めている。

2021年下半期診断結果

Webアプリ/NW診断実績数

2021年7月から12月までの6ヶ月間に、当社では14業種延べ560企業・団体、3,949システムに対して、システム脆弱性診断を行った(Webアプリケーション/ネットワーク診断のみの総数)。前期2021年上半期(1月~6月)より、診断対象システム数は300件近く増加した。

システム脆弱性診断 脆弱性検出率(2021年下半期)

9割のシステムに脆弱性

「Webアプリケーション診断結果」の棒グラフのとおり、Webアプリケーション診断では、なんらかの脆弱性が存在するシステムの割合が9割前後で推移し続けている。検出された脆弱性のうち、危険度レベル「高」以上(緊急・重大・高)の割合は21.0%で、検出された脆弱性全体のおよそ5件に1件がリスクレベルの高いもの、ということになる。前期の高レベル以上の割合は23.9%だったため今期微減だが、ほぼ横ばいと言える。

「ネットワーク診断結果」の棒グラフでは、脆弱性なしと評価されたシステムが4割強を占めている。しかしながら、検出された脆弱性に占める危険度高レベル以上の脆弱性の割合は30.8%にのぼり、検出脆弱性のおよそ3件に1件が危険度の高い項目、ということになる。前期の高レベル以上の割合は28.3%だったため今期微増だが、ほぼ横ばいである。

以上のとおり、全体的な脆弱性検出率については、前期と比較して大きな変化はない。当サイトでは、「2021年下半期カテゴリ別脆弱性検出状況」とし、検出された脆弱性を各カテゴリに応じて分類しグラフ化している。

Webアプリケーション診断結果

高リスク以上の脆弱性ワースト10

5つに分類された各カテゴリの検出割合( 「2021年下半期カテゴリ別脆弱性検出状況」掲載の円グラフ参照)については、前期とほぼ変わらず、各カテゴリにおける脆弱性の検出数ごとの数量も大幅な変動はなかった。リスクレベル高以上の脆弱性で検出数が多かったものを順に10項目挙げてみると、下表のような結果となった。

高リスク以上の脆弱性ワースト10(2021年下半期)Webアプリ編

代表的な脆弱性はいまだ健在

上位ワースト10はいずれも、Webアプリケーションのセキュリティ活動を行っている国際的非営利団体OWASP(Open Web Application Security Project)が発行している「OWASP Top 10(2021)」に含まれていることがわかる。

ワースト1となった「クロスサイトスクリプティング」(以下、XSS)はWebアプリケーションにおける脆弱性の代表格とも言える。認知度の高い脆弱性でありながら、いまだに根絶されていない。XSSが存在するシステムには、ワースト2の「HTMLタグインジェクション」が共に検出されることが多い。出力データの検証が適切に実施されていないことがうかがえる。

ワースト6の「SQLインジェクション」もまた、メジャーな脆弱性の1つだ。XSSと同じく入出力制御に問題がある。昨今でもなお、SQLインジェクションによる情報漏洩事例が報告されている。データベースの不正操作を許せば、事業活動に必要なデータをすべて消去されるといった最悪の事態も発生しうるため、放置するのは非常に危険である。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)および一般社団法人 JPCERT コーディネーションセンター(JPCERT/CC)に対する届出においても、XSSが58%と約6割を占め、SQLインジェクションもそれに次ぐ多さとのことだ。*1

いずれの脆弱性も、セキュアなWebアプリケーション構築を実践できていないことを証明するものだ。開発の上流工程において、そうした脆弱性が作りこまれないような対策を行うことが大切である。

ネットワーク診断結果

高リスク以上の脆弱性ワースト10

ネットワーク診断結果に関しても、5つに分類された各カテゴリの検出割合 (「2021年下半期カテゴリ別脆弱性検出状況」掲載の円グラフ参照)において、前期と比較して特段目立つような差は見られなかった。ただ、「通信の安全性に関する問題」に関しては、「推奨されない暗号化方式の受け入れ」「推奨されないSSL/TLS方式の使用」「脆弱な証明書の検出」に分類される脆弱性項目が、それぞれ200件前後ずつ増加していることがわかった。

リスクレベル高以上の脆弱性で検出数が多い10項目は下表のとおりである。

高リスク以上の脆弱性ワースト10(2021年下半期)NW編

推奨されないバージョンのSSL/TLS

先に述べた、前期より検出数が増加している「通信の安全性に関する問題」のうち、「推奨されないバージョンのSSL/TLSのサポート」はリスクレベル高以上である。これは、SSL2.0、3.0、またはTLS1.0、1.1を使用した暗号化通信が許可されている場合に指摘している項目で、今期ワースト1の検出数だ。CRYPTREC作成/IPA発行の「TLS 暗号設定ガイドライン」は、2020年7月に第3.0.1版が公開されている。こちらを参考に、SSLの全バージョンとTLS1.1以下を無効にし、もし、TLS1.2、なるべくなら1.3の実装がまだであれば、早急に対応する必要がある。

カテゴリ別の検出結果詳細についてはこちら


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~2020年上半期 診断結果分析~

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BBSecの診断について

当社では、Webアプリケーション、ネットワーク(プラットフォーム)、スマホアプリ、IoT、パブリッククラウド、ソースコード、標的型攻撃に対するリスク可視化等、様々な局面における診断サービスを提供することで、お客様のニーズにお応えしている。

当社の脆弱性診断サービスは、専門技術者による高精度の手動診断と独自開発のツールによる効率的な自動診断とを組み合わせ、検出された脆弱性に対するリスク評価について、右表のとおりレベル付けしている。お客様のシステム特性に応じた脆弱性の検出、リスクレベルの評価、個別具体的な解決策の提供が適切に行えるよう、高い頻度で診断パターンを更新し、診断品質の維持と向上に努めている。

2020年上半期診断結果

当社では、2020年1月から6月までの6ヶ月間に、14業種延べ533企業・団体、4596システムに対してシステム脆弱性診断を行った。2020年上半期はコロナ禍の影響でテレワークへと移行する企業も多い中、診断のニーズは変わらず存在し、診断案件数は2019年下半期とほぼ同じであった。脆弱性の検出率は以下のとおり。

脆弱性診断脆弱性検出率 2020年上半期

診断の結果、Webアプリケーション診断では、脆弱性が検出されたシステムが全体の83.9%と、前年同期(2019年上半期)の88.2%に比べて微減しているものの、依然として高い割合である。ネットワーク診断においては、脆弱性検出率は減少を続けているものの、42.8%と4割ほどのシステムに何らかの脆弱性が検出されている。

検出された脆弱性のうち、早急な対処が必要な「高」レベル以上のリスクと評価された脆弱性は、Webアプリケーションでは28.7%、ネットワーク診断では29.7%検出されている。前年同期比(2019年上半期「高」レベル検出率:Webアプリケーション27.0%/ネットワーク診断 23.6%)でいうと、Webアプリケーションはほぼ横ばいだったが、ネットワークは6.1%増えた。ネットワークに関しては、リスクレベルの高い脆弱性は増加傾向にある。 当サイトでは、「2020年上半期 カテゴリ別脆弱性検出状況」とし、当社診断で検出された脆弱性を各性質に応じてカテゴライズし、評価・分析をした結果をまとめた。以降、診断カテゴリごとに比較的検出数が多かったものの中からいくつか焦点を当ててリスクや対策を述べる。

Webアプリケーション診断結果

Webカテゴリ結果の36.0%を占める「システム情報・ポリシーに関する問題」のうち、「脆弱なバージョンのOS・アプリケーションの使用」についで検出数が多かった、「推奨されない情報の出力」に着目する(検出割合は以下参照)。

推奨されない情報の出力(2020年上半期診断実績)

システム構築時のデフォルトファイル、ディレクトリや初期画面には、攻撃者にとって有用な情報が含まれていることが多く、攻撃者にシステムへ侵入された場合、その情報をもとにした攻撃に発展し、甚大な被害につながりうる。よって、重要情報を含むファイル等には特に強固なアクセス制御をすべきであり、削除して差し支えない情報は消してしまうことが望ましい。初期画面については、表示しない設定にするのがよいだろう。

不用意な情報の出力の例として、「推奨されない情報の出力」の内訳にある、「WordPress管理者機能へのアクセスについて」をピックアップする。WordPressの管理者機能に対するアクセスが外部から可能だと、「総当り(Brute-Force)攻撃」によって、攻撃者に管理者用の認証を奪取されることで、さまざまな情報の漏洩や改竄をされる危険性がある。そのため、外部から管理者機能へのアクセスが可能な状態にしておかないことがベストだ。業務上外部からのアクセスが必要な場合は、パケットフィルタリング等の強固なアクセス制御をすべきである。

ネットワーク診断結果

NWカテゴリ結果の45.8%が「通信の安全性に関する問題」であった。その中の検出数トップ「推奨されない暗号化方式の受け入れ」に続いて検出数が多かった「推奨されないSSL/TLS通信方式の使用」に焦点をあてる。

DROWN、POODLE、BEASTといった既知の脆弱性が存在するバージョンのSSL/TLSを使用した暗号化通信を許可していると、攻撃者に脆弱性を利用され暗号化通信の内容を解読される恐れがある。推奨対策としては、SSL 2.0、SSL 3.0もしくはTLS 1.0による暗号化通信の使用を停止し、TLS 1.2以上の通信保護に移行することである。

さらに第3位「脆弱な証明書の検出」に注目し、強度の低いハッシュアルゴリズムを使用した証明書を使っている場合について述べる。強度の低いハッシュアルゴリズムは衝突攻撃に弱く、攻撃者が衝突攻撃によって元の証明書と同じ署名の証明書を作ることができ、なりすまし等の被害に繋がる可能性がある。また、主要なブラウザでは強度の低いハッシュアルゴリズムをサポートしておらず、環境によってはユーザがサイトを利用できなくなる可能性もある。よって、本番環境での運用には信頼された認証局から発行された強度の高い証明書が利用されていることを確認すべきである。

カテゴリ別の検出結果詳細についてはこちら


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パブリッククラウド利用システムにおける
セキュリティ診断

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SQAT® Security Report 2019年9月号

雲とネットワークのイメージ図

※本記事は、SQAT®Security Report 2019年 9月号の記事、
「パブリッククラウド利用システムにおけるセキュリティ診断」の一部抜粋になります。

増えるパブリッククラウド利用とセキュリティ事情

クラウドサービスは、自社でサーバを抱える必要がないことから、導入および運用コストが大幅に削減できるため、今や企業ネットワーク環境構築における選択肢の1つとなっており、オンプレミスからクラウドに移行する企業は増えている(下グラフ参照)。その際、スケジュール等の事情によりシステムを見直す余裕がなく、そのままの状態で移行せざるを得ないケースもあるのが実情だろう。しかしながら、開発や改修後のリリース前にシステムの脆弱性診断を実施すべきであるのは、クラウドへの移行時も例外ではない。

クラウドサービスの利用状況

出典:総務省「平成30年通信利用動向調査の結果」(令和元年5月31日公開)

自組織が業務用のパブリッククラウド(AWS、Microsoft Azure等)を利用している場合、ハードウェアまではクラウド事業者が管理しているが、OSおよびそれより上の層については利用企業側に責任があることを忘れてはならない。パブリッククラウド上のWebアプリケーションやECツール等で使用しているOS、ミドルウェア、アプリケーションといった各コンポーネントは、経年により脆弱性が発見される宿命だ。セキュリティ対策として、定期的にそれらを更新する必要がある。

オンプレミスと同様、パブリッククラウド上にシステムを構築している場合も、自組織のシステムが情報漏洩や改竄、DoS攻撃等の被害に遭う危険性があるかどうか、適宜把握しておく責任がある。このため、パブリッククラウド上のシステムにおいても、定期的に脆弱性診断を実施するのが望ましい。

パブリッククラウド向け脆弱性診断の必要性

パブリッククラウド向けでない一般的なリモート診断では、ファイアウォール越しで実施するため、ファイアウォールでアクセスを許可しているポートに対してしか診断できない。これに対し、パブリッククラウド向け診断では、直接アクセスできるセグメントに対して実施するため、管理用ポート等、ファイアウォールでアクセス制限されていることの多いポートに対しても診断可能だ。

インシデントのリスクは、外部に公開されたシステムにとどまらないことを忘れてはならない。例えば、AWSを社内インフラとして使用している企業があるとする。そういったシステムは (…続き)


本記事はここまでになります。

この記事の続きでは、テレワークの隙を狙った攻撃の脅威をご紹介し、それに対して企業がどのように脆弱性対策に取り組むべきかということについて解説しています。ぜひご一読ください。

※参考(続き)
contents
3.CISベンチマークを利用したセキュリティチェックの必要性
4.診断を受けるにあたっての注意点

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ニューノーマルに求められる脆弱性対策

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SQAT® Security Report 2021年春夏号

テレワークをする女性(アイキャッチ画像)

※本記事は、2021年3月公開SQAT®Security Report 2021年 春夏号の記事、
「巻頭企画:ニューノーマルに求められる脆弱性対策」の一部抜粋になります。

株式会社ブロードバンドセキュリティ
高度情報セキュリティサービス本部 本部長 大沼 千秋

去る2020年は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のまさに世界規模なパンデミックにより、我々の生活ばかりでなくビジネスをも大きく変革させた一年だった。中でもテレワーク、リモートワークといった遠隔による勤務形態の整備は、従来様々な理由から普及が伸び悩んでいたが、ここ一年ほどの間で加速度的に普及しつつある。また、ビジネスにおけるIT環境も、クラウドシフトが一気に進行している。

従来のオンプレミス型からクラウド型へのシステム構築・運用環境の移行は、様々な企業のIT戦略において、優先度の高い課題といえるだろう。そして、テレワーク、クラウドシフトが進んでいく中で、新たなセキュリティ上の問題が顕在化してきていることも事実だ。特に、急ピッチでこれらの環境を整備し、運用開始しているケースでは、以前よりもサイバーセキュリティ脅威および危険性は増大しているといっても過言ではない。本稿では、アフターコロナにおけるニューノーマルを見据えた企業における脆弱性対策に焦点を当て、どういったことを推進していくことが必要か解説していきたい。

テレワークとクラウドシフトに伴う脅威

企業のネットワークやOAシステムといったITインフラには、既に様々なセキュリティ対策が講じられているものと思われる。このセキュリティ対策の大原則は、インターネットとの境界を防御するという考え方に基づいており、ファイアウォールによるアクセス制御、攻撃検知のための侵入検知・防御システム(IDS・IPS)、DMZ(DeMilitarized Zone:非武装地帯)を用いた公開システムの区分、安全なWeb閲覧のためのWebプロキシ、マルウェア対策ツール、EDR(Endpointo Detection and Response)による監視、といった対策を組み合わせることによるセキュリティの確保を意味する。

ところが、昨今のテレワーク、クラウドシフト(左下・右下グラフ参照)で在宅による業務環境の提供が不可欠となったことにより、社内の環境は一定のセキュリティが確保されているので安全である、という前提が崩れてきている。本来であればインターネットから接続できない各種業務システムへのアクセス許可や、業務における各種情報を共有するためのクラウドストレージサービスの利用、営業活動における情報管理のためのCRM(Customer Relationship Management:顧客管理システム)の導入や、グループウェア等に代表されるSaaS型クラウドサービスの活用等といった具合に、業務システムが様々な領域へと進出し、多様化してきていることから(下イメージ)、セキュリティ対策としては一箇所だけを守っていれば安全である、という常識は既に覆っていると考えて間違いない。

例えば、テレワーク導入を急ピッチで進めている中で、 (…続き)


本記事はここまでになります。

この記事の続きでは、テレワークの隙を狙った攻撃の脅威をご紹介し、それに対して企業がどのように脆弱性対策に取り組むべきかということについて解説しています。ぜひご一読ください。

※参考(続き)
contents
2.ゼロトラストによるセキュリティの確保
3.セキュリティ状態の可視化と有効性評価
4.ニューノーマルに伴うセキュリティのあり方

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情報漏えいとは? 代表的な原因や求められる対応策

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情報漏えいとは、サイバー攻撃などによる不正アクセスや、ノートPCの紛失などによって、企業や組織の保有する外部に出てはいけない情報が漏れてしまうことです。個人情報漏えいが特に注目されますが、企業の営業情報や知的財産、国家機密など、漏えいする情報は多岐にわたります。

インターネットの普及に伴い、Webサービスへの会員登録などで個人情報が大量に蓄積され、同時にノートPC・スマホ・USBメモリ等の記憶媒体の容量が増加、情報漏えいも大規模化しました。こうした社会の変化に対応し、2005年(平成17年)、「個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)」が施行されました。

個人情報保護法では、個人情報漏えいが発生した組織は、事実関係と再発防止策に関して、政府の個人情報保護委員会等に「速やかに報告するよう努める」とされており、業種によっては監督官庁への報告義務が課される場合もあります。

情報漏えいの重大度の違い

どんな情報が漏えいしたかによって漏えい事故の深刻度は異なります。「顧客の個人情報が○○件漏えい」といった報道の見出しを見かけますが、漏えいの件数以外にも、情報漏えい事故の重さ、深刻さを左右するポイントを挙げます。


・クレジットカード情報
被害に遭ったユーザーに金銭被害をもたらす可能性の有無という点で、漏えいした情報にクレジットカード情報が含まれていたかどうかは重要なポイントです。損害賠償等が発生した場合、クレジットカード情報が含まれていると被害者への賠償額がアップします。

・セキュリティコード
クレジットカード情報の名義人・カード番号・有効期限だけでなく、3桁のセキュリティコードを含むかどうかが事故の深刻さを左右します。被害に遭ったユーザーに金銭被害をもたらす可能性がより高くなるからです。

・パスワード
たとえばメールアドレスとセットでそれに紐付くパスワードも漏えいしていたとしたら事態はより深刻です。オンラインサービスなどに悪意の第三者が不正ログインできてしまうからです。

・平文パスワード
一般的にパスワードは、もしパスワードを記載したファイルが漏えいしても、第三者が内容を閲覧できないように暗号化して管理するのが常識です。しかし、稀に暗号化されていない平文(ひらぶん)のパスワードが流出する場合があります。こうなった場合、申し開きが全くできない最悪の管理不備のひとつとして、厳しい批判と鋭い糾弾の対象となります。擁護する人は誰もいなくなります。

・機微情報
信条(宗教、思想)や門地、犯罪歴等、さまざまな社会的差別の要因となる可能性がある情報を機微情報といいます。特に、各種成人病やその他疾病など、保健医療に関わる機微情報は医薬品のスパムメールや、フィッシングメールなどに悪用されることがあり、その成功確率を上げるといわれています。


以上のように、ひとくちに個人情報漏えいといっても、その重大さの度合いは異なり、社会やユーザーからの受け取られ方にも差があります。

弁解の余地もない真っ黒な管理状態ではなく、「不幸にも事故は起こってしまったが、打つべき予防対策は事前にしっかり打たれていた」と、ステークホルダーに理解されれば、ビジネスインパクトは限定的なものになる可能性もあります。

情報漏えいの原因は悪意にもとづくものだけではない

「ハッカーによるサイバー攻撃」「従業員による内部犯行」。情報漏えいが起こる原因としてすぐにこれらが思い浮かびますが、そういった悪意に基づく攻撃ばかりが情報漏えいの原因ではありません。

冒頭で挙げたPC・スマホ・USBメモリの不注意による紛失はいまも漏えい原因の多くを占めていますし、Webサイトのアクセス制限設定ミスで個人情報が見える状態になっていたり、開発中の会員管理システムのテストデータとして、うっかり誤って実在する個人の情報を使ったり等々、必ずしも悪意によるものではなく、管理不備やケアレスミスでも情報漏えいは発生します。

近年、クラウドコンピューティングが普及したことで、影響の大きい設定変更等の操作をブラウザからワンクリックで行うことが可能になりました。こうしたクラウドサービスの設定ミスによる情報漏えいも増加しています。

不正アクセスによる情報漏えい事故が増加している

もちろん、悪意ある攻撃も猛威を振るっています。ハッカーによるサイバー攻撃など、以前はアニメと映画の中だけのお話でした。しかし、不正アクセスによる情報漏えいが2010年以降増加し始めました。

特定非営利活動法人日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)が毎年行っている調査「情報セキュリティインシデントに関する調査報告書」によれば、それまでの攻撃と質が異なる攻撃、「標的型攻撃」が観測されはじめた2010年頃から、不正アクセスが原因となるサイバー攻撃は8年で20倍という伸びを見せています。ケアレスミスや管理不備への対策とは別の手を打つ必要があります。

漏えい原因における不正アクセスの比率

2010年 1.0 %
2011年 1.2 %
2012年 1.5 %
2013年 4.7 %
2014年 2.4 %
2015年 not available
2016年 14.5 %
2017年 17.4 %
2018年 20.3 %

専門セキュリティ企業に調査や対応を依頼するタイミング

事故が起こった後の対応の善し悪しも、ユーザーや社会の受け取り方を大きく変えます。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、情報漏えい事故が起こった企業や組織に向けて「情報漏えい発生時の対応ポイント集」を公開していますが、過去に個人情報漏えい事案に対処した経験がある練度の高いCSIRTチームが社内に存在でもしない限り、被害実態調査やその後の対策などは、専門セキュリティ企業に相談するのがもっとも安全で一般的な方法です。

セキュリティ業界では、セキュリティ緊急対応サービスに相談が来る曜日や時間に傾向があると言われています。それは、「金曜日の午後」「連休前の午後」です。つまり、事故は週前半または半ばに発生していたが、なんとか自分たちで解決できないかもがき苦しんだ後、最後の最後であきらめて、「休日を挟む前に」セキュリティ企業へ連絡をするからです。自分たちで精一杯手を尽くした努力も空しく諦めざるを得ないとは、身につまされる話です。

しかし、時間が経過すればするほど、調査に必要なエビデンスが失われることもあります。情報漏えい事故が起きたら、信頼できる専門企業にすぐ相談してください。

情報漏えい事故の報告書と収束までの流れ

専門セキュリティ企業の協力の元、デジタルフォレンジックによる原因や被害範囲などの調査が行われ、一定の社会的インパクトがある情報漏えいであれば、報告書を公開します。場合によっては記者会見を行い、調査分析のための第三者委員会が組織される場合もあります。

インシデントの全容を解明した報告書作成には数か月かかるかもしれませんが、その前にまず事件の概要、情報漏えい対象者の範囲や救済措置などについては、なるべく早く情報公開することが大事です。

速報第一報に限らず、情報漏えい事故の調査報告書に必要な項目は下記のとおりです。


・漏えいした情報の内容

・漏えい件数

・原因

・現在の状況

・今後の対策


重要なのは、速報公表まであまり時間をかけないことです。時間がかかるほど、どんなにその調査が合理的で必要なものであっても、SNSなどで「事故を隠そうとしたに違いない」といった、批判の対象となることがあります。

また、第一報につづく第二報では、内容の大きな修正があってはなりません。特に第二報で漏えい件数が大幅に増えていたりすると、「事故を小さく見せかけようとした」「初動対応に失敗した」などの誤ったイメージすら与えかねません。速報では、論理的に最大の漏えい可能性がある件数を、必ず記載してください。詳細な調査を待たずとも、速報で最大値推定を出すのは難しくありません。

企業側は、組織の透明性を確保しながら、とにかく誠意を見せることが重要です。たとえば報告書の「今後の対策」の欄に、どんな対策を実施するかという詳細を公表する必要はありません。しかし、大まかな予定であっても「いつまでに何々という対策を実施する」とマイルストーンを設置して計画を可視化することで、ステークホルダーやユーザーの心証は好転します。

情報漏えいを予防する対策

これまで述べてきたように、情報漏えいには性質の異なる複数の原因があり、原因毎に予防対策は異なります。

まずは従業員によるノートPCやUSBメモリの紛失などを減らすために、セキュリティリテラシーを向上させるアウェアネストレーニングが有効です。IPAが刊行する「情報漏えい対策のしおり」など、無料の教材や動画も多数公開されています。同時に、ノートPCやUSBメモリの管理規定も定めましょう。

また、近年増加しているAWSのようなクラウドサービスの設定不備による事故の対策として、設定ミスや、現在の設定のリスクを網羅的に検知するサービスも提供されるようになっています。

先に挙げた通り、不正アクセスによる情報漏えいは過去約10年で20倍という驚くべき増加を見せています。サイバー攻撃の侵入を許す穴がないかどうかを探す脆弱性診断や、脆弱性を利用してひとたび侵入された場合、何がどこまでできてしまうのかを検証するペネトレーションテストも、不正アクセスに対する極めて有効な対策方法です。

新しい社員の入社や退職など、組織は日々変化し、業務やシステム構成・Webアプリケーションも進化を続けます。昨日までは安全だったWebアプリケーションに、今日新しい脆弱性が見つかることもあります。上記に挙げた対策はいずれも一度実施したら終わりではありません。定期的に継続することで真の効果を発揮します。

そもそも事故が起きないことが一番素晴らしいことですが、せめて「事故は起こったものの打てる手はちゃんと打っていた」と言えるようにしておくべきです。

まとめ

・個人情報保護法では、個人情報の漏えいを起こした組織が講ずるべき措置が定められている。
・情報漏えい事故の深刻度は、漏洩した件数だけでなく、漏えいした情報の内容にも大きく左右される。
・情報漏えいは、悪意に基づく不正アクセスのほか、設定不備や管理上の不注意が原因で発生することもある。
・情報漏えい事故が発生したら、速やかに信頼できる専門セキュリティ企業に依頼するのが有効。
・情報漏えい事故に関する事実の公表は、組織の透明性を確保しながら誠意をもって臨むことが重要。
・情報漏えいの予防には、従業員のセキュリティリテラシー向上教育、クラウド設定不備の検査、脆弱性診断やペネトレーションテスト等の対策がある。


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押さえておきたいクラウドセキュリティ考慮事項
―クラウドへ舵を切る組織のために―

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5/25(月)、全国において緊急事態宣言が解除されました。政府から「新しい生活様式」への対応が求められる中、今後もテレワークとそれを支えるツールやサービスの利用・準備の一環として、より広範囲にクラウドの利用を検討する企業・組織が増えると考えられます。本記事では、クラウドのさらなる利用拡大が予想される状況下、セキュリティに関して考慮すべきポイントを解説します。


この2つの数字は、統合型クラウドコラボレーションツールのミーティング機能におけるアクティブユーザ数を示したものです。「1億」はGoogle G Suite「Google Meet」のアクティブユーザ、「7,500万」はMicrosoft 365「Teams」のアクティブユーザとなります(2020年4月時点)。現在、上記2つのツールをはじめとしたオンラインMTGツール全般が、この数か月で急激にユーザ数を伸ばしていることはニュースなどでご存じの方も多いでしょう。

足元で一気に加速するクラウド利用

新型コロナウイルスの感染拡大以降、テレワークのためのツールとしてオンラインミーティングを導入した企業・組織は多数に上ります。また、オンラインミーティング機能を皮切りに、ファイル共有、ドキュメント作成、メールなどの機能を追加で導入した、導入を検討しているといったケースも多いのではないでしょうか。単機能の各種サービスを組み合わせて利用されているケースもあるでしょう(例えば、Web会議システム、チャットツール、ファイル共有システム、仮想デスクトップの組み合わせなど)。

そして、新型コロナウイルスの感染拡大第一波終息後については、ご存じの通り、政府から「新しい生活様式」を取り入れ、実践していくことが求められています*3。「3密回避」は、緊急事態宣言解除後も1年以上、中には数年単位で必要との予測*4もあることから、今後も、テレワークとそれを支えるツールやサービスの利用・準備については、オフィス環境やPCを従業員向けに整える取り組みと並行した対応が必要となるでしょう。「新しい生活様式」への一策となる前述のコラボレーションツールなどを入口に広範囲でクラウドの利用を検討する企業・組織が増え、さらには「2025年の崖」問題、DX推進、経済状況の変動に対応できるスケーラブルなシステムへの移行の必要性といった既存の推進要因も相まって、クラウド化の勢いは当面の間続くと見込まれます(図1参照)。そこで、今後クラウドのさらなる利用拡大が予想される中、セキュリティに関して考慮すべきポイントを以下に解説します。

図1:クラウド利用の加速の背景


クラウドのセキュリティで押さえておくべき2つのポイント

1.パブリッククラウドサービスのセキュリティモデルは、利用者とクラウドサービスプロバイダ(以下CSP)双方で責任を共有・分担するモデルである

まず知っておきたいのは、「パブリッククラウドサービスを利用すれば、そのセキュリティ対策もCSPに任せられる」わけでは無い、という点です。クラウドでは、利用者とCSPの双方で責任を共有・分担することになり、責任の所在が切り替わる境界となる「責任分界点」は、SaaS、PaaSといったクラウドの提供形態によって異なってきます(図2参照)。このため、契約、運用にあたっては、採用したサービスのどこまでがCSP、どこからが自組織(=利用者)の責任となるのかを明確に把握することが求められます。なお、ユーザアクセスやデータの管理についてはいずれのサービス形態でも利用者の責任となることから、ユーザアクセスのログの取得や監査、提供されるユーザ認証がセキュリティ上十分な機能を有するかの確認は、必ず利用者側で対応する必要があります。

2:クラウドのセキュリティ共有モデル

※同形態のサービスでもCSPによって責任分界点の詳細や機能面が異なることがあります。

2.クラウドでも情報漏洩や不正アクセスは起こる

世間を日々賑わせている大規模な情報漏洩や不正アクセス。実は、クラウド上で起きているものが少なくありません(図3参照)。その多くは、「初期設定が”ユーザ認証不要”となっている一部のデータベースで設定を変更していなかった」ことが原因とされています。ほかには、「管理者のパスワードが容易に予測できるものだったことが原因で不正アクセスが発生した」ケース、「ユーザアクセスの監査が不十分だったために不正アクセスに気づかなかった」ケースなどが知られています。また、統合型コラボレーションツールの法人利用者に対する大規模なフィッシング攻撃も継続して確認されています。

1.でも触れたように、ユーザアクセスは、いずれのクラウド提供形態においても利用者側の責任となるため、設定の確認やユーザアクセスの監査・分析といった運用面での対応は極めて重要といえます。また、併用しているサービスがある場合は、その設定についても十分な確認・管理が必要です。

図3:クラウド上でのセキュリティ事故・事件


【参考情報】

クラウドコンピューティングにおけるセキュリティの代表的な脅威については、業界団体から右記のようなランキングも公表されています。採用サービスや利用状況により該当しない項目もあるかもしれませんが、動向として押さえておくことをお勧めします。

出典:CSAジャパン「クラウド重大セキュリティ脅威~11の悪質な脅威」
https://www.cloudsecurityalliance.jp/site/wp-content/uploads/2019/10/top-threats-to-cloud-computing-egregious-eleven_J_20191031.pdf


クラウドのセキュリティ確保に向けて

では、企業や組織は何を手がかりにクラウド上のセキュリティを確保していけばよいのでしょうか。ここでは、主な具体策を3つご紹介します。

クラウドセキュリティ確保のポイント

1.CSP選択の指標を持って適切なCSPを選ぶ

現在、内閣府や経済産業省が中心となり「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)」の策定が進んでいます。その一環として、2020年秋以降(予定)、CSPは登録監査機関によるセキュリティ監査を受け、同評価制度の要求事項を満たすことが必須となる見込みです。自社・組織において、政府情報システムと同等のセキュリティが必要になるとは限りませんが、今後、このISMAPによるCSPの評価結果を、CSP選択の指標の1つとして活用できるようになる可能性があります。

2.クラウドを含むセキュリティにかかわる人材を育成・確保する

セキュリティにかかわる人材の育成・確保は、今日、多くの企業・組織で喫緊の課題となっています。クラウド化の推進にあたっては、契約条件やサービス提供条件の精査、実際の構築におけるセキュリティ要件設定、運用面での手順やエスカレーションのプロセスの設定など、多岐にわたる対応が必要になります。クラウドも対象に含めたセキュリティ人材の育成・確保を推進していくことは、「新しい生活様式」を見据えた今後の組織運営を支えるセキュリティ基盤の強化に大きく寄与するでしょう。

3.クラウドのセキュリティ設定を客観的基準により評価する

実際にクラウドサービスを利用し始めて以降は、自組織のクラウド環境の設定を客観的な方式で確認・評価することが欠かせません。そこで役立つのが、信頼できる第三者機関が提供するツールやリソースです。例えば、非営利の業界組織であるCenter for Internet Security(CIS®)が手掛ける「CISベンチマークテスト」は、ITシステムおよびデータをサイバー攻撃から守るためのセキュリティ設定基準として国際的に認知されています。このベンチマークテストの基準を満たすことにより、自組織のクラウド環境の健全性をグローバル水準で確認できます。また、同じく非営利の業界組織であるクラウドセキュリティアライアンス(CSA)では、日本支部によって和訳された各種ガイドラインを逐次提供しています。自組織の環境の安全性をより高めていく上で、こうしたツールやガイドラインの活用も重要なポイントになります。

なお、既存のシステムをクラウドへ移行する場合には、業務プロセスの見直しやシステム要件の再定義なども必要になります。オンプレミス環境とは異なる環境への移行となることから、当然、前例踏襲主義では対応できません。「新しい生活様式」への行動変容が求められ、オフィスから在宅勤務へという大きな流れが進む中、システムの刷新においても、従来にない考え方や技術を積極的に検討し、取り入れていく姿勢が求められています。

「危機はまたとない変革のチャンス」と言われます。今、コロナウイルスによって大きく加速されたクラウド化の波に乗り遅れては、そのチャンスを逃してしまうかもしれません。前向きな意思決定で、より強いシステムの実現に向けた取り組みを推進していきたいものです。

BBSecでは、2020年6月現在、クラウドセキュリティ診断サービスを実施しています。前述のCISベンチマークテストのほか、主要クラウド環境におけるベストプラクティスに基づく評価や、クラウド環境上でお客様が用意されているプラットフォームの診断(オプション)も可能です。ワンストップで幅広いサービスをご利用いただけます。

「withコロナ」フェーズ下の業務環境を支える各種セキュリティチェックリスト

新型コロナウイルス感染症拡大に伴い利用が急増しているG SuiteやMicrosoft 365については、セキュリティのチェックリストや推奨設定例が公開されていますので、以下にご紹介します。


G Suite
Googleからセキュリティチェックリストが提供されています。自社・組織の規模や要件を踏まえたセキュリティ対策の実装に役立ちます。
小規模事業者向け(~100人):https://support.google.com/a/answer/9211704
中・大規模事業者向け:https://support.google.com/a/answer/7587183?hl=ja

Microsoft 365
MicrosoftからMicrosoft 365 Business向けのセキュリティチェックリストが公開されています。
Microsoft 365 Business向けチェックリスト:https://docs.microsoft.com/en-us/microsoft-365/admin/security-and-compliance/secure-your-business-data?view=o365-worldwide

米CISAからもMicrosoft Office 365のセキュリティに関する推奨策が公開されています。
米CISAによる推奨策:https://www.us-cert.gov/ncas/alerts/aa20-120a

また、日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)では緊急事態宣言解除後の「withコロナ」フェーズへの対応へ向けたセキュリティチェックリストを提供しています。
https://www.jnsa.org/telework_support/telework_security/index.html
同協会のWebサイトには、加盟各社から提供されているテレワーク支援プランを取りまとめたページもあり、「withコロナ」フェーズへ対応に向けた取り組みの検討に活用できます。
https://www.jnsa.org/telework_support/index.html


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