DDoS攻撃とは?仕組み・種類・被害・対策を企業向けに解説

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DDoS攻撃は、大量の通信を送り付けて、Webサイトやサーバーを利用しにくくするサイバー攻撃です。サービス停止や業務の停滞を招くおそれがあるため、企業は仕組みと対策を理解しておく必要があります。本記事では、DDoS攻撃の種類や被害、基本的な対策を解説します。

DoS攻撃との違いを詳しく知りたい方、実際にDDoS攻撃を受けた場合の初動対応や復旧の流れについて知りたい方は以下の記事もあわせてご覧ください。
DoS攻撃とDDoS攻撃の違いとは
DDoS攻撃を受けたらどうする?

DDoS攻撃とは

DDoS攻撃(Distributed Denial of Service attack)は、Webサイトやサーバー、ネットワーク機器などに大量の通信やリクエストを送り付け、正常なサービス提供を妨害するサイバー攻撃です。攻撃を受けると、Webサイトの表示遅延やサービス停止、ネットワークの応答遅延などが発生し、正規の利用者がサービスを利用できなくなることがあります。

DDoS攻撃の特徴は、攻撃者が多数の端末やネットワークを利用する点にあります。攻撃者は、マルウェアなどに感染した機器で構成される「ボットネット」を悪用します。

世界中の端末から一斉に通信を送るため、単一の送信元を遮断するだけでは防ぎにくい攻撃です。近年では、ECサイトや金融機関、自治体、医療機関など、幅広い組織が標的となっています。企業規模を問わず対策が求められています。

また、DDoS攻撃は、サービス停止だけを目的とするものではありません。攻撃による混乱に乗じて、不正アクセスや情報窃取など、別の攻撃を試みる「陽動」として利用されるケースもあります。

DDoS攻撃を理解するためには、まずDoS攻撃との違いや、どのような目的で実行されるのかを知ることが重要です。

DoS攻撃との違い

DoS攻撃は、単一または少数の端末からサービスを妨害する攻撃です。DDoS攻撃は、多数の端末から分散して通信を送るため、攻撃元の特定や遮断が難しくなります。

DoS攻撃とDDoS攻撃の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。「DoS攻撃とDDoS攻撃の違いとは

なぜDDoS攻撃が行われるのか

DDoS攻撃の目的は、単にWebサイトやサービスを停止させることだけではありません。企業活動を妨害したり、金銭を要求したり、別のサイバー攻撃を成功させるための陽動として利用されたりするなど、さまざまな目的で実行されます。

例えば、ECサイトや予約システムを停止させることで売上機会の損失を狙うケースや、競合他社への業務妨害を目的とした攻撃が報告されています。

また、サービス停止による混乱の中で、不正アクセスや情報窃取を試みることもあります。このような「陽動攻撃」として、DDoS攻撃が利用されるケースもあります。

近年では、IoT機器の普及やボットネットの大規模化が進んでいます。その結果、専門的な知識がなくても、攻撃サービスを利用して大規模なDDoS攻撃を実行できる環境が問題視されています。

こうしたサービスは、DDoS-for-Hire、すなわちDDoS請負サービスなどと呼ばれます。そのため、企業規模を問わず、DDoS攻撃を想定した備えが重要になっています。

DDoS攻撃の仕組み

DDoS攻撃は、多数の端末やサーバから、標的へ一斉に大量の通信を送る攻撃です。サーバやネットワーク機器に過剰な負荷をかけ、正常なサービス提供を妨げます。

攻撃対象は、Webサイトだけではありません。DNSサーバやVPN、API、クラウドサービスなど、多岐にわたります。

攻撃者は、自ら大量の通信を送るのではありません。マルウェアに感染したIoT機器やパソコン、サーバーなどを遠隔操作します。そして、ボットネットを構築して攻撃を実行するのが一般的です。

また、DDoS攻撃は、大量の通信によって回線帯域を圧迫するものだけではありません。ネットワーク機器に負荷をかける攻撃や、Webアプリケーションへ大量のリクエストを送る攻撃など、複数の手法があります。

そのため、自社サービスを守るためには、攻撃の仕組みを理解し、それぞれの手法に応じた対策を講じることが重要です。

ボットネットによる分散攻撃

DDoS攻撃では、多くの場合「ボットネット(Botnet)」と呼ばれるネットワークが悪用されます。ボットネットとは、マルウェアに感染したパソコンやサーバ、IoT機器などが攻撃者の遠隔操作下に置かれた状態のネットワークです。攻撃者はこれらの端末へ一斉に指示を送り、標的に大量の通信を発生させます。

近年では、監視カメラやルーター、ネットワーク機器など、十分なセキュリティ対策が施されていないIoT機器がボットネットに組み込まれる事例も確認されています。機器の所有者が気付かないまま攻撃に加担しているケースも少なくありません。

ボットネットを利用したDDoS攻撃では、世界中に分散した多数の端末から同時に通信が送られるため、単一の送信元を遮断するだけでは十分な対策が難しくなります。

攻撃の流れ

DDoS攻撃は、一般的に次のような流れで実行されます。

  1. ボットネットの構築
    攻撃者は、マルウェアに感染したパソコンやサーバー、IoT機器などを遠隔操作できる状態にし、ボットネットを構築します。
  2. 攻撃対象の選定
    WebサイトやECサイト、VPN、DNSサーバー、APIなど、攻撃対象となるシステムを選定します。
  3. 攻撃命令の送信
    攻撃者がボットネットへ攻撃命令を送ると、多数の端末が一斉に標的へ通信やリクエストを送信します。
  4. サービスへの影響
    大量の通信によってネットワーク回線やサーバー、ネットワーク機器、Webアプリケーションに負荷がかかり、応答遅延やサービス停止などが発生します。

攻撃の種類によっては、ネットワーク帯域を圧迫するだけでなく、ファイアウォールやロードバランサーなどのネットワーク機器に負荷をかけるものや、Webアプリケーションへ大量のリクエストを送るものもあります。そのため、攻撃の種類に応じた対策を講じることが重要です。

DDoS攻撃の主な種類

DDoS攻撃にはさまざまな手法がありますが、大きく分けると「ボリューム攻撃」「プロトコル攻撃」「アプリケーション層攻撃」の3種類に分類できます。

攻撃対象や攻撃方法が異なるため、サービスへの影響や有効な対策もそれぞれ異なります。攻撃の種類を理解することは、自社サービスがどのようなリスクにさらされているのかを把握し、適切な対策を講じるための第一歩です。

ここでは、代表的な3つの攻撃手法について解説します。

ボリューム攻撃

ボリューム攻撃は、大量の通信を送り付けてネットワーク回線の帯域を圧迫し、正規の利用者がサービスへアクセスできない状態にする攻撃です。DDoS攻撃の中でも代表的な手法であり、回線容量を超える通信が発生すると、サーバーが正常に稼働していてもサービスを利用できなくなることがあります。

代表的な手法として、UDP FloodDNS Amplification(DNSリフレクション攻撃)NTP Amplificationなどがあります。特にDNSやNTPなどの公開サーバーを悪用する反射・増幅型攻撃では、小さなリクエストを利用して何倍もの通信量を発生させるため、攻撃者は比較的少ない通信量でも大きな負荷を与えることができます。

プロトコル攻撃

プロトコル攻撃は、TCP/IPなどの通信プロトコルの仕組みを悪用し、サーバーやファイアウォール、ロードバランサーなどのネットワーク機器に負荷をかける攻撃です。通信回線そのものを埋め尽くすボリューム攻撃とは異なり、ネットワーク機器やサーバーの処理能力を消費させることで、正常な通信を妨害します。

代表的な手法としては、SYN Floodがあります。TCP通信の接続要求(SYNパケット)を大量に送り付けることで、サーバは接続待ちの状態を維持し続けることになり、新たな正規ユーザからの接続を受け付けられなくなる場合があります。このほか、Ping FloodSmurf攻撃などもプロトコル攻撃の一種として知られています。

アプリケーション層攻撃

アプリケーション層攻撃は、WebサイトやWebアプリケーション、APIなどを標的とするDDoS攻撃です。利用者が直接アクセスするサービスが狙われます。

通信量そのものはそれほど多くなくても、サーバーが処理に時間を要するリクエストを大量に送ることで、CPUやメモリなどのリソースを消費させ、サービスの応答遅延や停止を引き起こします。

代表的な手法としてHTTP Floodがあります。通常のWeb閲覧と同じHTTPリクエストを大量に送信するため、正規のアクセスと見分けにくく、単純な通信量の監視だけでは検知が難しい場合があります。また、検索機能やログイン画面、APIなど、サーバー負荷の高い処理を集中的に狙う攻撃も確認されています。

DDoS攻撃による被害

DDoS攻撃による影響は、単にWebサイトが一時的に閲覧できなくなるだけではありません。サービス停止による売上機会の損失や業務の停滞、顧客対応の負荷増加など、企業活動全体へ影響が及ぶ可能性があります。

また、長時間にわたってサービスが利用できない状態が続くと、企業の信頼低下やブランドイメージの毀損につながるおそれもあります。

近年では、DDoS攻撃を単独で行うだけでなく、その混乱に乗じて不正アクセスや情報窃取など別の攻撃を試みるケースも報告されています。そのため、DDoS攻撃は単なる通信障害ではなく、企業の事業継続に関わるセキュリティリスクとして捉えることが重要です。

ここでは、企業が受ける代表的な被害について解説します。

サービス停止

DDoS攻撃による代表的な被害は、Webサイトやオンラインサービスの停止です。

大量の通信やリクエストが送られると、サーバーやネットワーク機器に過剰な負荷がかかります。その結果、Webページの表示遅延やタイムアウト、エラーが発生し、正規の利用者がサービスを利用できなくなることがあります。

特に、ECサイトや予約システム、会員向けサービス、決済サービスなど、インターネットを通じて提供されるサービスでは、短時間の停止であっても売上機会の損失や顧客満足度の低下につながる可能性があります。

さらに、DDoS攻撃ではサーバー自体に障害が発生していなくても、回線帯域の逼迫やネットワーク機器への負荷によってサービスが利用できなくなる場合があります。そのため、システムが正常に稼働しているように見えても、利用者からは「サービスが停止している」と認識されるケースも少なくありません。

業務への影響

DDoS攻撃の影響は、Webサイトの停止だけにとどまりません。公開サービスと社内システムが同じネットワークや認証基盤を利用している場合には、VPNや業務システム、クラウドサービスなどへ影響が及び、日常業務に支障をきたすことがあります。

また、サービス停止に伴い、顧客や取引先からの問い合わせが急増し、カスタマーサポートや営業部門の対応負荷が高まることもあります。

ECサイトでは注文処理や決済が滞り、BtoBサービスでは取引先の業務に影響を与えるなど、事業継続にも大きな影響を及ぼす可能性があります。さらに、障害対応のために情報システム部門やセキュリティ担当者が長時間の対応を余儀なくされ、本来予定していた業務が停滞するケースも少なくありません。

企業の信頼低下

DDoS攻撃によるサービス停止が長時間続いたり、繰り返し発生したりすると、企業に対する信頼の低下につながるおそれがあります。利用者は「サービスが安定して利用できない企業」という印象を持つ可能性があり、顧客離れや新規顧客の獲得機会の損失につながることもあります。

さらに、DDoS攻撃をきっかけに、自社のセキュリティ対策やインシデント対応体制が十分であるかを取引先や顧客から問われることもあります。そのため、平時から適切な対策を講じるとともに、攻撃発生時には迅速かつ適切な対応を行うことが、企業の信頼維持につながります。

企業が実施すべきDDoS攻撃対策

DDoS攻撃は、完全に防ぐことが難しいサイバー攻撃の一つです。そのため、攻撃を受けることを前提に、被害を最小限に抑えるための対策を講じることが重要です。ここでは、企業が押さえておきたい代表的なDDoS攻撃対策を紹介します。

通信の監視と異常検知

DDoS攻撃による被害を最小限に抑えるためには、通信状況を継続的に監視し、通常とは異なるアクセスを早期に検知できる体制を整えることが重要です。

アクセス数や通信量、リクエスト数などの推移を日頃から把握しておくことで、異常な増加が発生した際に迅速な対応につなげることができます。

近年では、SIEM(Security Information and Event Management)やネットワーク監視ツールを活用し、異常な通信を自動で検知・通知する仕組みを導入する企業も増えています。

DDoS攻撃は短時間で通信量が急増するケースが多いため、異常を検知してから対応を開始するまでの時間が重要です。

CDN・WAF・DDoS対策サービスの活用

DDoS攻撃は、攻撃元が世界中の多数の端末に分散しているため、自社設備だけで防ぎきることは難しく、外部サービスとの連携が対策の基本方針になります。特に、大量の通信が発生するボリューム攻撃では、自社ネットワークに到達する前に不要な通信を分散・遮断する仕組みが重要になります。

  • CDN(Content Delivery Network):コンテンツを複数のサーバーに分散して配信することで、通信負荷を分散し、サービスの継続性向上に役立ちます。
  • WAF(Web Application Firewall):Webアプリケーションへの不正なアクセスや不審なリクエストを検知・制御する機能を備えており、特にアプリケーション層を狙った攻撃への対策として有効です。
  • DDoS対策サービス:専用の設備で攻撃トラフィックを検知・吸収・フィルタリングし、正常な通信のみを自社環境へ転送する仕組みを提供しています。

攻撃の規模やサービスの重要度に応じて、ISPやクラウド事業者が提供する対策サービスも含め、自社に適した構成を検討するとよいでしょう。

自社の対策状況に不安がある場合

「どのサービスを、どこまで導入すべきか」の判断が難しい場合は、専門会社によるDDoS耐性評価・セキュリティ診断を活用するのも一つの方法です。現状のリスクを可視化したうえで、優先度をつけて対策を進めることができます。

インシデント対応体制の整備

DDoS攻撃は、技術的な対策だけで完全に防ぐことは困難です。そのため、攻撃を受けた際に迅速かつ適切に対応できる体制をあらかじめ整備しておくことが重要です。

具体的には、攻撃発生時の連絡体制や対応手順を文書化し、情報システム部門だけでなく、経営層や広報部門、カスタマーサポート部門など、関係者の役割を明確にしておくことが求められます。

また、ISPやクラウド事業者、セキュリティベンダーなどの連絡先や支援体制を事前に確認しておくことで、緊急時の対応を円滑に進められます。

まとめ

DDoS攻撃は、大量の通信によってWebサイトやネットワークサービスを利用できない状態にするサイバー攻撃です。攻撃手法にはボリューム攻撃、プロトコル攻撃、アプリケーション層攻撃などがあり、それぞれ特徴や有効な対策が異なります。

企業は、通信の監視や異常検知、CDN・WAF・DDoS対策サービスの活用に加え、インシデント対応体制の整備など、多層的な対策を講じることが重要です。また、攻撃を完全に防ぐことは難しいため、被害を最小限に抑えるための備えも欠かせません。

攻撃発生時の具体的な対応手順や、復旧までの流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
DDoS攻撃を受けたらどうする?初動対応から復旧までの流れを解説

【関連記事】

DDos攻撃について、SQAT.jpでは以下の記事でも解説しています。こちらもあわせてぜひご覧ください。

【参考情報】


DDoS対策や公開システムのセキュリティに不安はありませんか?

DDoS攻撃への備えには、ネットワークやWebアプリケーションのリスクを把握することが重要です。BBSecでは、脆弱性診断をはじめ、お客様の環境に応じたセキュリティ評価をご提供しています。

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アクセス急増の原因が複雑で判断が難しい場合や、継続的な運用に不安がある場合は、第三者の視点を取り入れることも有効です。定期的なセキュリティ診断や評価を通じて、自社では気づきにくいリスクを把握することができます。


公開日:2021年6月23日
更新日:2026年7月29日

編集責任:木下


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APT攻撃対策とは?検知・監視・初動対応の考え方

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前回記事で解説した通り、APT攻撃は標的組織を事前に調査したうえで侵入し、権限昇格や横展開を重ねながら目的の情報に近づいていきます。一度侵入を許すと長期間にわたり情報窃取や不正活動が継続するケースも少なくありません。そのためAPT攻撃対策では「侵入させない」ことだけを目指すのではなく、侵入前対策・侵入後対策・インシデント対応体制を組み合わせ、早期発見と被害最小化を実現する仕組みが欠かせません。本記事では、その具体的な対策内容について解説します。

APT攻撃の侵入経路や攻撃の流れについて詳しく知りたい方は、「APT攻撃の手口とは?侵入から情報窃取までの流れを解説」で、初期侵入から情報窃取までのプロセスを解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

なぜAPT攻撃は防ぎにくいのか

APT攻撃が防ぎにくい理由は、攻撃者が特定の組織を狙い、時間をかけて侵入経路を探すためです。一般的なマルウェア感染やばらまき型攻撃とは異なり、APT攻撃では、攻撃者が標的組織の業務、取引先、利用システム、従業員の役割などを事前に調査します。そのうえで、標的型メールや脆弱性の悪用、正規アカウントの不正利用など、検知されにくい手口を選びます。また、APT攻撃では、最初の侵入後すぐに目立つ被害が発生するとは限りません。攻撃者は内部ネットワークに潜伏し、権限昇格や横展開を行いながら、機密情報や認証情報の所在を探ります。正規の管理ツールや盗まれたID・パスワードを使って活動する場合もあり、従来型の境界防御だけでは不審な動きを見落とす可能性があります。そのため、APT攻撃対策では、入口を守る対策に加えて、侵入後の異常を検知する仕組み、ログをもとに調査できる体制、被害を最小化する初動対応が欠かせません。さらに、入口対策だけでなく、「侵入を前提」とした検知・監視・対応体制も必要です。

侵入前対策

APT攻撃への備えとして、まず重要になるのは侵入前対策です。侵入前対策とは、攻撃者が組織内へ入り込む可能性を下げるための基本的な防御策です。完全な防御は難しいものの、攻撃者にとって侵入しにくい環境を作ることで、被害の発生確率を下げることができます。 なかでも重要なのが、多要素認証、脆弱性管理、標的型メール対策です。これらは単独ではなく、多層防御の考え方で組み合わせることが重要です。複数の対策を組み合わせ、攻撃者が一つの弱点を突破しても、次の段階へ進みにくい状態をつくることが求められます。

MFA(多要素認証)

IDとパスワードだけに頼らず、スマートフォンアプリ、セキュリティキー、生体認証など、複数の認証要素を組み合わせて本人確認を行う仕組みです。APT攻撃では、フィッシングメールやマルウェアによって認証情報が盗まれることがあります。IDとパスワードだけで社内システムやクラウドサービスへアクセスできる環境では、攻撃者が正規ユーザになりすましてログインするリスクが高まります。MFAを導入することで、パスワードが漏えいした場合でも、不正ログインを防げる可能性が高まります。ただし、MFAを導入すればすべての攻撃を防げるわけではありません。近年は、MFAを突破しようとするフィッシングや、認証疲れを狙った攻撃も確認されています。そのため、可能であればフィッシング耐性の高い認証方式(例:FIDO2、パスキーなど)を採用し、管理者アカウントやリモートアクセス、クラウド管理画面など、重要度の高い環境から優先的に適用することが重要です。

脆弱性管理

APT攻撃では、VPN機器、公開サーバ、メールサーバ、業務システム、クラウド環境などの脆弱性が侵入経路として悪用されることがあります。特に、インターネットからアクセス可能な機器やシステムに未修正の脆弱性が残っている場合、攻撃者にとって侵入の足がかりになります。脆弱性管理では、単に脆弱性情報を収集するだけでなく、自社のどのシステムに影響があるのか、外部公開されているのか、悪用事例があるのか、業務上の重要度は高いのかを踏まえて、対応の優先順位を決める必要があります。すべての脆弱性へ同時に対応することは現実的ではないため、実際に悪用されている脆弱性や、外部から攻撃可能なシステムを優先して修正する考え方が重要です。また、パッチ適用がすぐに難しい場合には、一時的な回避策、アクセス制限、監視強化、不要サービスの停止などを組み合わせる必要があります。APT攻撃では、脆弱性の放置が初期侵入や横展開につながる可能性があるため、脆弱性管理は単なる情報システム部門の運用作業ではなく、経営リスクを下げるための重要な取り組みといえます。

標的型メール対策

標的型メールは、APT攻撃の代表的な侵入経路の一つです。現在はメールだけでなく、チャットやクラウドサービスを悪用した攻撃も増えています。標的型メール対策では、メールセキュリティ製品による検査だけでなく、従業員教育、訓練、報告しやすい仕組みの整備が重要です。攻撃メールを完全に遮断することは難しいため、従業員が不審なメールに気づき、開封前または開封後すぐに報告できる体制を作る必要があります。また、メールをきっかけに認証情報が入力されるケースもあるため、MFAやアクセス制御と組み合わせて対策することが効果的です。標的型メール対策は、単独で完結するものではなく、認証管理、端末防御、ログ監視、インシデント対応と連動させることで、初めてAPT攻撃への実効性が高まります。

標的型攻撃の手口の詳細は「標的型攻撃とは?代表的な手口と企業が取るべき対策を解説」をご参照ください。

侵入後対策

APT攻撃では、侵入前対策をすり抜けられる可能性があります。そのため、侵入後に攻撃者の活動を検知し、被害拡大を防ぐ仕組みが必要です。侵入後対策の中心になるのが、EDR、SIEM、ログ監視です。従来のセキュリティ対策では、外部からの攻撃を境界で防ぐことに重点が置かれてきました。しかし、クラウド利用、テレワーク、サプライチェーン連携が広がる現在では、社内と社外の境界があいまいになっています。APT攻撃への対策では、端末、サーバー、ネットワーク、クラウド、IDの動きを継続的に監視し、通常とは異なる振る舞いを早期に見つけることが重要です。

EDR

EDRは、Endpoint Detection and Responseの略で、PCやサーバーなどのエンドポイント上の不審な挙動を検知し、調査や対応を支援する仕組みです。APT攻撃では、マルウェアの実行、認証情報の窃取、管理ツールの悪用、不審なプロセスの起動などが端末上で発生することがあります。EDRは、こうした端末上の動きを可視化し、攻撃の兆候を把握するために有効です。EDRの重要な役割は、単にマルウェアを検知することではありません。侵入後に何が起きたのか、どの端末からどの端末へ移動したのか、どのファイルが操作されたのか、どのアカウントが使われたのかを調査するための情報を提供する点にあります。APT攻撃では、発見時点で攻撃がすでに横展開している場合もあります。そのため、EDRによって端末単位の挙動を把握し、感染端末の隔離、プロセス停止、調査対象の特定などを迅速に行える状態を整えておく必要があります。最近では、EDRに加え、メールやクラウドも含めて分析するXDRを導入する企業も増えています。

SIEM

SIEMは、Security Information and Event Managementの略で、複数のシステムからログを集約し、相関分析(複数のログを組み合わせて関連性を分析すること)を行う仕組みです。APT攻撃では、個々のログだけを見ると小さな異常に見える行動が、複数のログを組み合わせることで攻撃の流れとして見えてくることがあります。たとえば、通常とは異なる国や地域からのログイン、深夜帯の管理者権限利用、短時間での大量アクセス、普段使わない端末からの認証、ファイルサーバへの大量アクセスなどは、単独では見逃されることがあります。しかし、SIEMで複数のログを関連付けることで、初期侵入、権限昇格、横展開、情報窃取の兆候を把握しやすくなります。SIEMを有効に活用するには、ログを集めるだけでなく、どのログを監視対象にするのか、どのような条件でアラートを出すのか、誰が確認するのか、アラート発生後にどのような初動を取るのかを事前に決めておく必要があります。そしてツールを導入するだけではなく、運用設計まで含めて整えることも重要です。社内で運用が難しい場合は、SOCサービスなど外部監視サービスを利用する方法もあります。

ログ監視

ログ監視は、APT攻撃対策の基盤となる取り組みです。攻撃者の行動は、認証ログ、端末ログ、プロキシログ、DNSログ、VPNログ、クラウドサービスの監査ログ、ファイルアクセスログなどに痕跡として残ることがあります。しかし、ログが取得されていなかったり、保存期間が短かったり、必要な項目が記録されていなかったりすると、インシデント発生後に攻撃の流れを追跡できません。特にAPT攻撃では、侵入から発見までに時間がかかることがあるため、一定期間のログを保管し、過去にさかのぼって調査できる状態を作る必要があります。ログ監視では、単に大量のログを保存するだけでは不十分です。重要なのは、通常時のアクセス傾向を把握し、そこから外れた動きを見つけることです。普段アクセスしないサーバーへの接続、短時間での権限変更、退職者アカウントの利用、海外からのVPN接続、大量のファイル圧縮や外部送信など、攻撃の兆候となる行動を継続的に確認する必要があります。保持期間は法令や業種要件、インシデント対応を考慮して決める必要があります。

ゼロトラストの考え方

ここまで紹介した侵入前対策・侵入後対策は、いずれもゼロトラストという一つの考え方の実装例と捉えることができます。

ゼロトラストとは、社内ネットワークにいるから安全、正規ユーザだから安全といった前提を置かず、ユーザ、端末、アプリケーション、データへのアクセスを継続的に確認する考え方です。従来の境界防御では、社内ネットワークの内側を比較的信頼する考え方が一般的でした。しかし、APT攻撃では、一度内部へ侵入した攻撃者が正規アカウントや管理ツールを悪用し、横展開する可能性があります。そのため、社内ネットワーク内の通信であっても、常に正当性を確認し、必要最小限の権限だけを付与することが前提になります。ゼロトラストの実現には、MFA、ID管理、端末管理、アクセス制御、ログ監視、ネットワーク分離、継続的なリスク評価などが関係します。単一の製品を導入すれば完成するものではなく、組織の業務やシステム構成に合わせて段階的に整備していく必要があります。

APT攻撃への対策としてゼロトラストを取り入れることで、攻撃者が一つのアカウントや端末を悪用しても、重要情報へ簡単に到達できない環境を作りやすくなります。侵入を前提に、被害範囲を限定し、異常を早期に検知するという点で、ゼロトラストはAPT対策と相性のよい考え方です。

インシデント対応体制

APT攻撃への対策では、検知した後の初動対応によって被害の大きさが大きく左右されます。初動対応では「封じ込め(Containment)」「根絶(Eradication)」「復旧(Recovery)」の順で進める考え方が一般的です。不審な挙動を発見しても、対応手順や判断基準が決まっていなければ、関係者への連絡、端末隔離、証拠保全、外部報告、復旧判断が遅れてしまいます。その間に攻撃者が横展開を進めたり、情報を外部へ持ち出したりする可能性があります。

インシデント対応体制では、まず「誰が判断するのか」を明確にする必要があります。情報システム部門、セキュリティ担当、経営層、法務、広報、事業部門、外部専門家など、関係者の役割を事前に決めておくことが重要です。特にAPT攻撃では、技術的な調査だけでなく、事業影響、顧客対応、取引先対応、法的対応、広報対応が必要になる場合があります。 また、初動対応では、証拠を消さないことも重要です。感染が疑われる端末をすぐに初期化してしまうと、侵入経路や攻撃範囲を調査するための情報が失われる可能性があります。端末の隔離、ログ保全、アカウント停止、通信遮断、影響範囲の確認などを、状況に応じて慎重に実施する必要があります。平時からインシデント対応手順を整備し、訓練を行っておくことで、実際の攻撃発生時に混乱を減らすことができます。APT攻撃対策は、技術的な防御だけではなく、組織としてどのように判断し、対応するかまで含めた取り組みです。

まとめ

APT攻撃対策では、侵入を完全に防ぐことだけを目指すのではなく、侵入前対策、侵入後対策、インシデント対応体制を組み合わせることが重要です。MFA、脆弱性管理、標的型メール対策によって侵入リスクを下げ、EDR、SIEM、ログ監視によって侵入後の不審な動きを早期に検知します。さらに、インシデント対応体制を整備し、攻撃が疑われる場合に迅速な初動対応を取れるようにしておくことで、被害の拡大を抑えることができます。APT攻撃は、攻撃者が時間をかけて目的達成を狙う攻撃であるため、企業側も継続的な監視と改善を前提に備える必要があります。

次の記事はこちら
APT攻撃事例から学ぶ ―国内外の被害事例と企業が取るべき対策―」
APT攻撃は実際にどのような企業・組織で発生しているのでしょうか。代表的な国内外の事例から、攻撃の特徴や企業が学ぶべきポイントを解説します。

【参考情報】

編集責任:木下


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APT攻撃は、侵入を完全に防ぐことが難しい高度なサイバー攻撃です。侵入経路の把握や脆弱性管理、監視体制の強化など、継続的な対策が求められます。弊社、ブロードバンドセキュリティ(BBSec)では、脆弱性診断、アタックサーフェス管理調査、セキュリティ運用サービス、コンサルティングサービスなど、企業のセキュリティ対策を支援するサービスを提供しています。


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見落としがちなIT資産がセキュリティ事故を招く?企業で起こりやすい5つの管理課題

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「見落としがちなIT資産管理の課題5選」アイキャッチ画像

前回記事では、IT資産管理の基本と重要性を解説しました。管理されていない端末やクラウド環境、シャドーIT、サポート終了製品など、見落とされたIT資産が被害につながるケースも少なくありません。今回は、管理が行き届かない場合に実際どのような問題が起こりやすいのか、企業で起こりやすい5つの管理課題を具体的に見ていきます。

IT資産管理の基本について知りたい方は、まず「IT資産管理とは」をご覧ください。
IT資産管理とは?企業のセキュリティ対策で最初に取り組むべき理由を解説

セキュリティ事故は、必ずしも高度な攻撃だけで起こるわけではありません。実際には、管理されていない端末、放置されたクラウド環境、退職者のアカウント、サポート終了ソフトウェアなど、見落としがちなIT資産がきっかけになることがあります。IT資産管理が不十分な状態では、脆弱性情報が公開されても対象資産を特定できず、インシデント発生時にも影響範囲をすばやく把握できません。

なぜ管理漏れが起こるのか

IT資産の管理漏れは、担当者の怠慢だけで起こるものではありません。むしろ、事業スピードに管理体制が追いつかないことで発生します。新しいSaaSを部門単位で契約する、検証用にクラウド環境を作成する、テレワーク用に端末を追加する、業務委託先にアカウントを付与する。こうした日常的な業務の中で、台帳更新や承認プロセスが後回しになると、実態とのズレが広がっていきます。

企業で起こりやすい5つの管理課題

台帳が更新されない

IT資産管理で最も起こりやすい課題は、資産台帳が更新されないことです。導入時には正確だった台帳も、ソフトウェア更新やクラウド環境の追加が反映されなければ、すぐに実態とずれていきます。特にExcelやGoogleスプレッドシートで管理している場合、更新担当者が限られ、現場の変更が反映されないまま時間が経過しがちです。その結果、台帳上は存在するのに実際には廃棄済みの機器、逆に台帳にはないが稼働している資産が発生します。インシデント対応時にこの状態だと、影響範囲の特定に時間がかかり、初動対応の遅れにつながります。

シャドーITが増える

シャドーITとは、情報システム部門や管理部門が把握していないIT資産やサービスが、業務目的で利用されている状態を指します。英国のサイバーセキュリティ機関NCSCでは、「シャドーITは悪意によって生まれるとは限らず、従業員が業務を進めるために、承認済みのツールやプロセスでは対応できない課題を解決しようとして発生することが多い」と説明しています。たとえば、ファイル共有が不便だから個人用クラウドストレージを使う、社内承認に時間がかかるため部門でSaaSを契約する、開発検証のために個人名義に近い形でクラウド環境を作る、といった行動です。本人に悪意がなくても、会社のセキュリティポリシー、バックアップ、アクセス制御、監査ログ、退職時のアカウント削除の対象外になるため、情報漏洩や不正アクセスのリスクが高まります。シャドーIT対策で重要なのは、単に禁止することではありません。なぜ現場が非公式な手段を使わざるを得なかったのかを把握し、業務に必要なツールを安全に使える仕組みに変えることです。

クラウド資産が把握できない

クラウド環境では、サーバやストレージ、データベース、コンテナ、API、アカウント、権限設定などが短時間で作成・変更・削除されます。オンプレミス環境のように物理的なサーバーが目に見えるわけではないため、管理対象から漏れやすいのが特徴です。検証用に作ったクラウド環境が放置され、インターネットに公開されたままになる。開発者が一時的に広い権限を付与し、その後も戻されない。ログ設定やバックアップ設定が本番環境と異なる。こうした状態は、クラウド利用が進む企業ほど起こりやすくなります。米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)の「Cybersecurity Performance Goals」でも、既知の資産だけでなく、未知の資産、シャドー資産、未管理資産を特定し、新たな脆弱性への検知・対応を速めることが目的として示されています。

EOL(End of Life)・EOS(End of Service)を見逃す

サポートが終了したOS、ネットワーク機器、VPN機器、業務アプリケーション、ミドルウェアを使い続けることも、IT資産管理上の大きな課題です。サポートが終了した製品は、脆弱性が発見されても修正プログラムが提供されない可能性があります。資産台帳にサポート期限や保守期限が記録されていなければ、更新計画を立てることもできません。

EOL・EOSについては前回記事でも触れていますので、あわせてご覧ください。

また、ソフトウェア資産の構成管理まで行いたい場合、EOL・EOS対策の延長としてSBOM(ソフトウェア部品表)も重要になります。経済産業省「ソフトウェア管理に向けたSBOMの導入に関する手引 Ver.2.0」では、資産管理台帳だけでは、下位コンポーネントとして利用されるOSSなどに脆弱性が見つかった場合に、間接的な影響を検知できない場合があると説明されています。

SBOMについては、「SBOMとは?ソフトウェア部品表の基本と企業が導入すべき理由」でも解説しています。あわせてご覧ください。

部門ごとに管理している

IT資産管理が部門ごとに分断されていることも、企業でよく見られる課題です。情報システム部門はPCとネットワーク機器を管理し、開発部門はクラウド環境を管理し、総務部門はリース契約を管理し、各事業部がSaaS契約を管理している。このような状態では、全社としてどのIT資産が存在するのかを把握できません。部門ごとの管理は、現場のスピードを保つうえでは便利です。しかし、セキュリティ事故が起きたときには、誰が責任者なのか、どの情報が保存されているのか、どの範囲に影響があるのかが分からなくなります。特に、SaaSやクラウドサービスでは、管理者権限を持つ担当者が異動・退職した後に、契約やアカウントだけが残り続けるケースもあります。

管理課題を解決するポイント

IT資産管理の課題を解決するには、台帳を作るだけでは不十分です。重要なのは、資産が増える、変わる、使われなくなるタイミングで、台帳や管理システムが自然に更新される運用を作ることです。まず、IT資産管理の対象範囲を明確にします。PCやサーバだけでなく、クラウド環境、SaaS、アカウント、ネットワーク機器、ソフトウェア、ライセンスまで含めるかを決めます。次に、資産ごとに管理責任者を定めます。所有者が曖昧な資産は、脆弱性対応や費用管理、廃棄判断が遅れやすくなります。そのうえで、購買、入社、異動、退職、クラウド作成、SaaS契約、機器廃棄といった業務フローにIT資産管理を組み込みます。ツールを導入する場合も、単体で完結させるのではなく、ID管理、EDR、MDM、脆弱性管理、クラウド管理と連携させることで、実態に近い情報を保ちやすくなります。

課題を解決する具体的な運用方法については「IT資産管理を効率化する方法とは?担当者が押さえたい運用のポイント」をご覧ください。

まとめ:見えていないIT資産は、守れない

IT資産管理の課題は、すぐに大きな障害として表面化するとは限りません。しかし、管理漏れ、シャドーIT、クラウド資産の放置、サポートが終了した製品・機器の見逃し、部門ごとの分断が積み重なると、セキュリティ事故の温床になります。

次回は、こうした課題を解決するための具体的な運用方法について解説します。

【参考情報】

編集責任:木下


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APT攻撃の手口とは?侵入から情報窃取までの流れを解説

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前回記事では、APT攻撃の全体像と、標的型攻撃との違い、企業が直面するリスクについて解説しました。今回はその中でも、攻撃者が実際にどのような手順で組織へ侵入し、情報を窃取するに至るのかという「攻撃の流れ」に焦点を当てて解説します。

APT攻撃は、マルウェアを送り付けて終わる単純な攻撃ではありません。攻撃者は事前に標的組織を調査し、侵入後も長期間にわたり潜伏しながら、社内システムの構造や重要情報の保管場所を探ります。そのうえで、認証情報の窃取、権限昇格、横展開、情報収集、外部送信といった複数の段階を踏み、最終的な目的を達成しようとします。本記事では、APT攻撃の侵入経路、侵入後の流れ、そして発見が難しい理由について解説します。

APT攻撃の定義や特徴について詳しく知りたい方は、まずこちらの記事をご覧ください。「APT攻撃とは?標的型攻撃との違いと企業リスクを解説【2026年版】

APT攻撃の特徴

初期侵入

APT攻撃の最初の段階は、標的組織の内部ネットワークへ入り込むことです。攻撃者は、いきなり重要サーバーを攻撃するのではなく、従業員の端末、リモートアクセス環境、取引先、公開Webサイトなど、比較的侵入しやすい入口を探します。

初期侵入でよく使われる手口のひとつが、標的型メールです。攻撃者は、実在する取引先や社内関係者を装ったメールを送り、添付ファイルの開封や不正URLへのアクセスを誘導します。メールの文面は業務連絡に見えるよう作り込まれていることが多く、受信者が不審に感じにくい点が特徴です。また、VPN機器やリモートアクセス製品の脆弱性も、APT攻撃の侵入経路になり得ます。テレワークの普及により、外部から社内システムへ接続する仕組みは多くの企業で利用されています。しかし、脆弱性が残ったままの機器や、認証設定が不十分な環境は、攻撃者にとって格好の入口になります。

標的型メールについて詳しくは、「標的型攻撃とは?代表的な手口と企業が取るべき対策を解説」をご覧ください。

水飲み場攻撃も、APT攻撃で使われることがあります。これは、標的となる組織の従業員がよく閲覧するWebサイトを改ざんし、アクセスした利用者の端末にマルウェアを感染させる手口です。攻撃者が標的企業の業務や関係先を調査したうえで仕掛けるため、通常のWeb閲覧の中で侵入が発生する可能性があります。

このように、APT攻撃の侵入経路は一つではありません。メール、VPN、Webサイト、取引先、クラウドサービスなど、業務で日常的に使われる経路が悪用される点に注意が必要です。

権限昇格

初期侵入に成功しても、攻撃者がすぐに目的の情報へアクセスできるとは限りません。多くの場合、最初に侵入できるのは一般従業員の端末や、限定的な権限しか持たないアカウントです。そこで攻撃者は、より強い権限を得るために権限昇格を試みます。権限昇格とは、一般ユーザーの権限から管理者権限へ、あるいは一部システムの権限から社内全体に影響する権限へと、アクセス範囲を広げる行為です。攻撃者は、端末内に保存された認証情報、設定ミス、未修正の脆弱性、過剰に付与された権限などを悪用します。

特に認証情報の窃取は、APT攻撃の流れの中で重要な意味を持ちます。IDとパスワードを奪われると、攻撃者は正規ユーザーのようにシステムへアクセスできます。正規の認証情報を使った操作は、不審なマルウェア通信よりも見逃されやすく、発見を難しくする要因になります。 企業側では、管理者権限の利用状況、特権IDの管理、不要な権限の削除、多要素認証の導入などを通じて、攻撃者が権限を広げにくい環境を作ることが重要です。

横展開

権限を得た攻撃者は、次に社内ネットワーク内を移動します。この段階を横展開と呼びます。横展開の目的は、最初に侵入した端末から、ファイルサーバー、認証サーバー、業務システム、開発環境、クラウド環境などへアクセス範囲を広げることです。APT攻撃では、攻撃者が最初から機密情報の保管場所を正確に把握しているとは限りません。そのため、侵入後に社内ネットワークを調査し、どの端末やサーバーに価値のある情報があるのかを探ります。

横展開では、リモートデスクトップ、共有フォルダ、管理ツール、正規のリモートアクセス機能などが悪用されることがあります。攻撃者が正規の管理ツールや認証情報を利用すると、通常業務との見分けがつきにくくなります。 この段階で重要なのは、ネットワーク内部の通信を「信頼しすぎない」ことです。境界防御だけに頼っていると、一度侵入された後の移動を見逃しやすくなります。社内ネットワーク内であっても、不自然なログイン、通常とは異なる時間帯のアクセス、大量のファイル閲覧、普段接続しないサーバーへのアクセスなどを監視する必要があります。

情報窃取

APT攻撃の多くは、最終的に機密情報や認証情報、知的財産、顧客情報、技術情報、経営情報などを盗み出すことを目的とします。攻撃者は、横展開によって目的の情報に近づいた後、必要なデータを収集し、外部へ送信します。情報窃取は、単純にファイルをそのまま外部へ送るだけではありません。攻撃者は、複数の端末やサーバーから情報を集め、一時的な保管場所にまとめることがあります。その後、ファイルを圧縮したり、分割したり、暗号化したりして、通常の通信に紛れ込ませながら外部へ送信します。

このような手口を取る理由は、検知を避けるためです。大量のデータが一度に外部送信されると監視に引っかかる可能性があります。そのため、攻撃者は通信量や送信タイミングを調整し、業務上の通信に見えるように偽装することがあります。情報窃取を防ぐには、重要情報の保管場所を把握し、アクセス権限を最小限に抑えることが前提になります。加えて、通常とは異なるデータアクセスや外部通信を検知できる仕組みが求められます。

長期潜伏

APT攻撃の大きな特徴は、攻撃者が長期間にわたって潜伏する点です。侵入直後に情報を盗んで終わるのではなく、継続的に情報を収集したり、再侵入のための経路を確保したりすることがあります。ここまで便宜上、初期侵入から情報窃取までを順を追って説明してきましたが、バックドアの設置やアカウントの作成といった潜伏のための準備は、情報窃取の後にまとめて行われるわけではありません。攻撃者は多くの場合、初期侵入や権限昇格の段階から並行してこれらの仕込みを進めており、万が一発見されて一部のアクセス経路を塞がれても、環境内にとどまり続けられるようにしています。こうして確保された足場をもとに、攻撃者は認証情報の保持や正規ツールの悪用などにより、長期間にわたって環境内にとどまり続けようとします。また、検知された場合に備えて、複数の侵入経路やアクセス手段を用意することもあります。

なぜ発見が難しいのか

APT攻撃が発見されにくい理由は、攻撃者が目立たない行動を重ねるためです。攻撃者は、短時間で大きな被害を出すのではなく、正規ユーザーの操作や通常業務の通信に紛れるように活動します。特に、盗まれたIDとパスワードを使ったアクセス、正規の管理ツールの利用、業務時間に合わせた通信、少量ずつのデータ送信などは、従来型のセキュリティ対策だけでは見逃される可能性があります。また、APT攻撃では侵入経路が複数に分かれることもあります。標的型メール、VPN脆弱性、サプライチェーン、クラウドアカウント、公開サーバなど、複数の入口から攻撃が行われる場合、単一の対策だけでは全体像を把握しにくくなります。

発見を難しくしているもう一つの要因は、ログの不足です。攻撃の痕跡はログに残ることがありますが、必要なログを取得していなかったり、保存期間が短かったり、分析体制が整っていなかったりすると、侵入後の流れを追跡できません。 APT攻撃に備えるには、侵入を完全に防ぐという発想だけでなく、侵入された場合に早く気づく、攻撃の範囲を把握する、被害を最小限に抑えるという考え方が重要になります。

まとめ

APT攻撃は、標的組織を調査し、初期侵入、権限昇格、横展開、情報窃取、長期潜伏といった段階を踏んで進行する高度なサイバー攻撃です。APT攻撃の手口は一つではなく、標的型メール、VPN脆弱性、水飲み場攻撃、正規アカウントの悪用など、複数の侵入経路や技術が組み合わされます。 企業が注意すべき点は、侵入を防ぐ対策だけでは不十分だということです。APT攻撃では、侵入後にどれだけ早く異常を検知できるか、横展開や情報窃取をどこで止められるかが被害の大きさを左右します。

次の記事では、APT攻撃への対策として、侵入前の防御、侵入後の検知・監視、インシデント対応体制などを解説します。
APT攻撃対策とは?検知・監視・初動対応の考え方

【参考情報】

なお、本記事で解説した初期侵入・権限昇格・横展開・情報窃取・長期潜伏といった各段階は、MITRE ATT&CKが提供する脅威フレームワークにおける戦術(Tactics)分類にも対応しています。より詳細な技術的分類を確認したい方は、MITRE ATT&CK,Enterprise Tactics(https://attack.mitre.org/tactics/enterprise/)をご参照ください。

編集責任:木下


APT攻撃への備えをご検討中の方へ

APT攻撃は、侵入を完全に防ぐことが難しい高度なサイバー攻撃です。侵入経路の把握や脆弱性管理、監視体制の強化など、継続的な対策が求められます。弊社、ブロードバンドセキュリティ(BBSec)では、脆弱性診断、アタックサーフェス管理調査、セキュリティ運用サービス、コンサルティングサービスなど、企業のセキュリティ対策を支援するサービスを提供しています。


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標的型攻撃とは?代表的な手口と企業が取るべき対策を解説【2026年版】

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標的型攻撃は、従来は標的型メール攻撃が代表的な手法とされていましたが、近年ではVPN機器の脆弱性や認証情報の悪用、サプライチェーンを経由した侵入など、攻撃手法は多様化しています。また、APT攻撃の初期侵入手段として標的型攻撃が利用されるケースも少なくありません。本記事では、標的型攻撃の特徴や代表的な手口、企業が取るべき対策を解説します。

標的型攻撃とは

標的型攻撃とは、特定の企業や組織、個人を狙って計画的に実施されるサイバー攻撃の総称です。不特定多数を対象とするフィッシングメールやばらまき型マルウェアとは異なり、攻撃者は事前に標的企業の事業内容や組織体制、役職者、取引先などを調査したうえで、最も侵入しやすい方法を選択します。その目的はさまざまで、機密情報の窃取、認証情報の取得、金銭の詐取、システムへの侵入、さらにはランサムウェア攻撃の足掛かりを得ることなどが挙げられます。近年では政府機関や重要インフラだけでなく、製造業、医療機関、教育機関、中堅・中小企業まで、業種や規模を問わず標的となっています。

従来型の攻撃標的型攻撃
目的悪意のない趣味や愉快犯、技術的な理論検証など、趣味や知的好奇心の延長知的財産・国家機密・個人情報など、金銭目的の犯罪、諜報などの目的を持つ
対象不特定多数のインターネットユーザー 特定の企業や組織、政府
技術必ずしも高くない 高度な技術水準
組織多くは個人による活動、複数であっても組織化されていない 組織化された多人数の組織
資金個人による持ち出し 豊富、国の支援を受けている場合も
期間短い、興味や好奇心が満たされれば終了 目的を達成するまで辞めない、数年間のプロジェクトとなることも

標的型攻撃とAPT攻撃の違い

標的型攻撃とAPT攻撃は混同されがちですが、意味は異なります。標的型攻撃は、特定の標的へ侵入するための攻撃手法を指します。一方、APT攻撃は、侵入後も長期間にわたり潜伏し、情報収集や権限昇格、情報窃取などを継続する一連の攻撃活動全体を指します。つまり、標的型攻撃はAPT攻撃における「初期侵入」の手段として利用されることが多いという関係です。

APT攻撃について詳しくは、「APT攻撃とは?標的型攻撃との違いと企業リスクを解説」をご覧ください。

標的型攻撃の代表的な手口

標的型攻撃では、一つの方法だけで侵入することはほとんどありません。攻撃者は標的企業の環境に応じて複数の手法を使い分けます。

標的型攻撃メール

メールから侵入する「標的型攻撃メール」とはのサムネ

標的型メール攻撃は代表的な手口です。取引先や公的機関などを装い、添付ファイルやURLを開かせてマルウェアへ感染させたり、認証情報を入力させたりします。

現在は生成AIの普及により、自然な日本語のメールも増えています。不自然な文章だけで見分けることは難しく、送信元やリンク先も確認することが重要です。

VPN機器や公開サーバの脆弱性を悪用した攻撃

近年増加しているのが、VPN機器や公開サーバの脆弱性を悪用した侵入です。攻撃者は公開機器を調査し、修正されていない脆弱性を悪用して企業ネットワークへ侵入します。

認証情報の悪用

ID・パスワードの漏洩による不正ログインも代表的な侵入手法です。漏えいした認証情報はダークウェブ上で売買されることもあり、VPNやクラウドサービス、メールなどへ正規ユーザーとしてログインされるケースがあります。

水飲み場攻撃

水飲み場攻撃(Watering Hole Attack)は、標的企業の従業員が頻繁に利用するWebサイトを改ざんし、そのサイトへアクセスした利用者をマルウェアへ感染させる攻撃です。利用者自身に不審な操作をさせる必要がないため、標的型メールとは異なる手口として利用されます。

サプライチェーン攻撃

近年では、取引先や委託先、ソフトウェアベンダーを経由して標的企業へ侵入するサプライチェーン攻撃も増えています。セキュリティ対策が強固な企業へ直接侵入するのではなく、関連企業を足掛かりとすることで、攻撃成功率を高める狙いがあります。

標的型メールはなぜ見分けにくいのか

標的型攻撃メールの見分け方のサムネ

標的型メールは以前のような不自然な日本語や明らかな迷惑メールだけではありません。攻撃者は企業ホームページやSNS、ニュースリリースなどから担当者名や取引先情報を収集し、実際の業務メールと区別がつかない内容を作成します。

また、生成AIの利用により、自然な日本語や文体を用いたメールを短時間で大量に作成できるようになっています。そのため、「日本語が不自然だから怪しい」という判断だけでは十分ではありません。

次のような点を複数確認することが重要です。

  • 差出人のメールアドレス
  • ドメイン名
  • 添付ファイルの種類
  • リンク先URL
  • 急な送金や認証を求める内容ではないか

標的型攻撃への入口対策

標的型攻撃は複数の侵入手法を利用しますが、その中でも標的型メールは依然として多くの攻撃で利用されています。メール対策製品の導入はもちろん重要ですが、それだけで攻撃を完全に防ぐことはできません。受信者一人ひとりが不審なメールに気付き、適切に対応できるようにすることも重要です。そのため、多くの企業では標的型メール訓練を実施しています。

標的型攻撃メール訓練

模擬の標的型攻撃メールを作成し、事前に知らせずに従業員にメールを送信、本文中のリンクをクリックしたり添付ファイルを開いてしまった人を調べ、部門毎の攻撃メール開封率などを管理者に報告するサービスです。

標的型攻撃メール訓練サービスの比較のポイント

標的型メール訓練サービスは提供業者が多く、費用やサービスクオリティはさまざまです。ここで簡単に、いい標的型攻撃メール訓練会社の比較のポイントを列挙します。


  • 実施前に社内の業務手順や、うっかり添付ファイルを開いたりリンクをクリックしてしまいそうなメールの傾向を、丁寧なヒアリングをもとに考えてくれるかどうか
  • 開封率の報告だけでなく、添付ファイルを開いた後の初動対応分析や、万一開いた場合の報告体制、エスカレーションの仕組の助言などを行ってくれるかどうか
  • 標的型攻撃メールの添付ファイルを開いたりリンクをクリックすることで具体的にどのように被害が発生するか、リスク予測をしてくれるかどうか
  • 訓練で洗い出された課題解決のために従業員向け研修を実施してくれるかどうか

不審なメールを開いてしまった場合は

標的型メールを開いてしまった場合でも、慌てて端末を操作するのではなく、まずは情報システム部門へ報告することが重要です。添付ファイルを実行したか、URLへアクセスしたかによって対応方法は異なるため、組織で定めたインシデント対応手順に従いましょう。

標的型メール訓練サービスは各社それぞれ個性と品質の差があります。一見似ているように見えますが、どのように運用するかによってサービスクオリティが大きく変わってきます。組織には人事異動もあり業務内容も変わります。メール訓練をやる場合は、エビデンスのために実施する場合はともかく、本当に根付かせたいのであれば定期的な実施が必須といえるでしょう。「入口対策」を考えると、教育訓練を施す標的型メール訓練は 「ヒト」 に対する対策として有効な対策の一つです。しかし、うっかり危険なファイルを開いてしまう確率がゼロになることは残念ながらありません。

開封率の低減を最重要視するのではなく、「開封されても仕方なし」というスタンスで取り組むことが重要です。訓練の目標を「開封された後の対応策の見直しと初動訓練」に設定し、定められた対応フロー通りに報告が行われるか、報告を受けて対策に着手するまでにどれくらいの時間を要するかを可視化して、インシデント時の対応フローおよびポリシーやガイドラインの有効性を評価することをおすすめします。また、従業員のセキュリティ意識を向上させるために、教育および訓練と演習を実施するのが望ましいでしょう。

標的型攻撃への対策

標的型メール訓練は、標的型攻撃への重要な対策の一つですが、それだけで十分とはいえません。近年の標的型攻撃では、メールだけでなくVPN機器の脆弱性や認証情報の悪用、サプライチェーンを経由した侵入など、複数の手法が組み合わせて利用されます。そのため企業は、侵入を防ぐ対策と、侵入後の被害を抑える対策を組み合わせることが重要です。

システムや端末を最新の状態に保つ

WindowsOSやMicrosoft Office、Adobeなどの主要アプリケーションを最新の状態に保つことが重要です。セキュリティ更新プログラムは速やかに適用し、不要なサービスは停止しましょう。また、自社のIT資産を把握し、脆弱性を継続的に管理することも重要です。

多要素認証(MFA)の導入

仮に認証情報が漏洩しても、不正ログインを防止するために多要素認証(MFA)を導入します。VPNやクラウドサービス、管理者アカウントなど、重要なシステムでは特に有効です。

EDR・ログ監視

侵入を完全に防ぐことは困難です。そのため、EDRやログ監視により侵入後の不審な挙動を検知し、早期対応につなげることが重要です。APT攻撃では長期間潜伏するケースもあるため、侵入後の監視体制が被害の最小化につながります。

インシデント対応体制を整備する

万が一侵害された場合に備え、初動対応手順や連絡体制を整備しておくことも重要です。情報システム部門だけでなく、経営層や広報、法務なども含めた対応体制を平時から準備しておくことで、被害拡大を防ぎやすくなります。

多層防御とゼロトラスト

標的型攻撃は、人・システム・運用の弱点を組み合わせて侵入します。そのため、一つの対策だけでは十分ではありません。近年は「侵入されること」を前提としたゼロトラストの考え方が広がっています。社内外を問わずすべてのアクセスを検証し、必要最小限の権限を付与することで、侵入後の被害拡大を防ぎやすくなります。

被害を完全に防ぐことは難しい

標的型攻撃の対策方法のサムネ

「侵入されることを前提に考える」とは、もはや完全に防ぐことはできないと認めることです。標的型攻撃やAPT攻撃以降に、「この製品を買えば100%防げます」オーバーコミット気味のセキュリティ製品の営業マンが、もしこんなセリフを言ったとしたら、もはや安請け合いどころか明白な嘘です。標的型攻撃は、人の心理や業務フローを巧みに悪用するため、技術的な対策だけで完全に防ぐことは困難です。そのため、侵入を前提とした多層防御と、インシデント発生時に迅速に対応できる体制づくりが重要になります。

また、昔から言われている基本対策も標的型攻撃に対して有効な対策の一つです。Webサイトやアプリケーションなどの公開サーバ、社内ネットワークを対象に、見過ごしているセキュリティホールがないかどうかを見つける脆弱性診断の定期的実施や、いざ侵入できたらどこまで被害が拡大しうるのかを調べるペネトレーションテストの実施も同様に有効でしょう。

まとめ

標的型攻撃は、特定の企業や組織を狙って実施される計画的なサイバー攻撃です。標的型メールだけでなく、VPN機器の脆弱性や認証情報の悪用、サプライチェーンを経由した侵入など、攻撃手法は年々多様化しています。また、標的型攻撃はAPT攻撃の初期侵入手段として利用されることも多く、侵入後には情報窃取や権限昇格などの活動へ発展する可能性があります。企業には、従業員教育や標的型メール訓練、多要素認証、脆弱性管理、EDRによる監視など、多層的な対策を継続的に実施することが求められます。

標的型攻撃は「侵入されるかどうか」ではなく、「侵入されたときにどれだけ早く気付き、適切に対応できるか」が被害を左右します。平時から技術的対策と組織的な対応体制の両方を整備しておくことが重要です。

【関連記事】

  • APT攻撃とは?標的型攻撃との違いと企業リスクを解説
  • APT攻撃の手口とは―侵入から情報窃取までの流れを解説
  • APT攻撃対策とは―検知・監視・初動対応の考え方
  • サプライチェーン攻撃とは?仕組み・事例・企業が取るべき対策
  • 脆弱性管理とは?企業が行うべき脆弱性管理の基本と実践手順

【参考資料・関連情報】


BBSecでは

標的型メール訓練

※外部サイトへリンクします。

標的型攻撃リスク診断

基本対策を実践するのはまず当然として、今後は、「騙されてしまうことはあり得る」と想定し、被害前提・侵入前提での対策も考える必要があります。弊社では、この認識のもと、「もし標的型攻撃にひっかかってしまった場合、どこまで企業の資産に被害が及ぶのか、その結果、どれだけビジネスインパクトがあるのか」を検証するサービスを提供しています。

公開日:2022年7月14日
更新日:2026年7月8日

編集責任:木下


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【企業のためのランサムウェア対策ガイド】ランサムウェアの攻撃手法とは – 侵入から暗号化までの流れを解説

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ランサムウェア攻撃は、単にファイルを暗号化するだけではありません。近年の攻撃では、侵入後に認証情報の窃取や権限昇格、社内ネットワーク内での横展開、重要データの窃取を経て、最終的に暗号化や二重恐喝へと発展するケースが一般的です。本記事では、ランサムウェア攻撃がどのような段階を経て進行するのか、その流れと企業が警戒すべきポイントを解説します。

ランサムウェアの基本的な仕組みや全体像については、以下の記事で整理しています。
ランサムウェアとは何か ―企業が知るべき被害・仕組み・対策の基本―

ランサムウェア攻撃は、単に「ウイルスに感染してファイルが暗号化される攻撃」ではありません。現在の企業向けランサムウェア攻撃では、攻撃者が社内ネットワークへ侵入し、認証情報を盗み、権限を広げ、重要データを持ち出し、最後にシステムやファイルを暗号化するという複数段階の流れをたどることが一般的です。特に近年は、暗号化だけでなく、事前に窃取したデータを公開すると脅す「二重恐喝」が多く確認されています。警察庁「サイバー空間をめぐる脅威の情勢等」の調査報告によると、近年のランサムウェア被害はデータを窃取したうえで「対価を支払わなければ公開する」と脅す二重恐喝が多くを占めるといいます。

ランサムウェア攻撃の全体像

ランサムウェア攻撃は、外部から突然暗号化プログラムが送り込まれて終わるものではありません。実際には、攻撃者が最初に侵入経路を確保し、その後に社内環境を調査し、より強い権限を持つアカウントを探し、重要なサーバやファイル共有へ移動しながら、最終的に暗号化や脅迫へ進む流れを取ります。

米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)が公開している「#StopRansomware Guide」でも、ランサムウェアやデータ恐喝型攻撃への対策が初期侵入経路ごとに整理されています。本ガイドでは、インターネットに公開されたシステム、脆弱性、認証情報、リモートアクセス、メールなどが重要な観点として扱われています。つまり、ランサムウェア対策は、暗号化プログラムそのものを止めるだけでなく、攻撃の前段階をどこで検知し、どこで遮断するかが重要になります。攻撃の流れを理解すると、ランサムウェア対策の考え方も変わります。入口対策だけではなく、侵入後の不審な認証、権限昇格、横展開、データ窃取、バックアップ破壊、暗号化準備といった兆候を監視する必要があります。特に企業では、感染を完全に防ぐことだけに注力するのではなく、侵入された場合でも早期に発見し、被害拡大を防ぐ体制が求められます。

ランサムウェアの仕組みについては、以下の記事でより詳しく解説しています。
ランサムウェアの仕組みとは ―感染から暗号化までの動きを解説―

攻撃の流れ(フェーズ別)

侵入

ランサムウェア攻撃の最初の段階は、企業ネットワークへの侵入です。侵入経路としては、フィッシングメール、VPN機器の脆弱性、リモートデスクトップ、外部公開サーバ、認証情報の悪用、委託先や外部サービス経由のアクセスなどが挙げられます。

攻撃者は、必ずしも高度な手法だけを使うわけではありません。公開済みの脆弱性が修正されていないVPN機器や、外部公開されたリモートデスクトップ接続(RDP)、使い回されたパスワード、退職者の残存アカウントなど、基本的な管理不備が入口になることもあります。この段階で重要なのは、自社の外部公開資産を把握し、侵入口になり得る箇所を減らすことです。攻撃者から見えるサーバ、VPN、リモートアクセス環境、クラウド管理画面、ファイル共有サービスを把握できていなければ、侵入の兆候を見つけることも、優先的に対策することも難しくなります。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織向け脅威として「ランサム攻撃による被害」が1位、「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が2位に挙げられており、企業にとってランサムウェアと外部経由の侵入は継続的な重要課題とされています。

権限昇格

侵入に成功した攻撃者は、次により強い権限を得ようとします。一般ユーザの端末に入っただけでは、重要サーバの停止や大規模な暗号化を実行できない場合があるためです。そのため、攻撃者は端末内に保存された認証情報、ブラウザに残ったパスワード、管理ツールの接続情報、設定ファイル、共有フォルダ内の情報などを探します。

権限昇格が成功すると、攻撃者は管理者アカウントやドメイン管理者権限を悪用し、より広範囲のシステムへアクセスできるようになります。管理者権限を持つアカウントが日常業務にも使われている場合や、複数のサーバで同じ認証情報が使い回されている場合、攻撃者の行動範囲は一気に広がります。この段階を防ぐためには、管理者権限の最小化、特権アカウントの分離、多要素認証、不要アカウントの削除、認証ログの監視が重要です。ランサムウェア攻撃では、暗号化そのものより前に、認証情報の不正利用や通常とは異なるログインが発生していることがあります。その兆候を早く見つけることが、被害拡大を防ぐ鍵になります。

横展開(ラテラルムーブメント)

権限を得た攻撃者は、社内ネットワーク内を移動しながら、重要なサーバやデータの所在を探します。この動きを横展開、またはラテラルムーブメントと呼びます。横展開では、ファイルサーバ、業務システム、Active Directory、バックアップサーバ、仮想基盤、クラウド連携システムなどが調査対象になります。攻撃者は、どのシステムを暗号化すれば業務停止の影響が大きいか、どのデータを盗めば脅迫材料になるか、どのバックアップを破壊すれば復旧を困難にできるかを確認します。この段階では、社内通信の異常、管理者ツールの不審な利用、通常とは異なる時間帯のアクセス、複数端末への連続ログイン、ファイル共有への大量アクセスなどが兆候になります。しかし、正規のアカウントや管理ツールが悪用される場合、単純なウイルス対策ソフトだけでは検知が難しいことがあります。そのため、ランサムウェア対策では、EDRやログ監視、ネットワーク監視、認証基盤の監視を組み合わせ、侵入後の不審な行動を見つける考え方が重要になります。

データ窃取

近年のランサムウェア攻撃では、暗号化の前にデータを盗む手口が一般化しています。攻撃者は、顧客情報、従業員情報、契約書、財務情報、設計情報、取引先情報、メールデータなどを持ち出し、身代金交渉の材料にします。この手法が二重恐喝です。従来のランサムウェアは、ファイルを暗号化して「復号したければ身代金を支払え」と要求するものでした。しかし現在は、暗号化に加えて「盗んだデータを公開する」「取引先や顧客へ連絡する」と脅すケースが増えています。この段階で被害が発生すると、たとえバックアップからシステムを復旧できたとしても、情報漏洩対応、顧客説明、取引先対応、法的対応、信用低下への対応が必要になります。つまり、バックアップは重要ですが、バックアップだけでランサムウェア被害を完全に抑え込めるわけではありません。データ窃取を早期に検知するには、重要データへのアクセス監視、大量ダウンロードの検知、外部送信通信の監視、クラウドストレージやファイル共有サービスの利用状況確認が必要です。特に、通常業務では発生しない大量の圧縮ファイル作成や外部アップロードは、ランサムウェア攻撃の前兆として注意すべきです。

暗号化

攻撃の最終段階で、ランサムウェアによる暗号化が実行されます。攻撃者は、業務停止の影響が大きいサーバや共有フォルダ、端末、仮想基盤を対象にし、ファイルを暗号化します。同時に、バックアップを削除したり、復旧機能を無効化したり、セキュリティ製品を停止しようとする場合もあります。暗号化が始まると、業務システムが使えない、ファイルサーバにアクセスできない、受発注や出荷が止まる、社内の連絡体制が混乱するなど、事業継続に大きな影響が出ます。NIST(米国立標準技術研究所)が公開しているNIST IR 8374でも、重要業務の復旧優先順位、バックアップの保護、復旧手順のテスト、対応計画の整備が重要であると示されています。暗号化段階まで到達してからでは、被害をゼロに抑えることは難しくなります。そのため、企業のランサムウェア対策では、暗号化を検知する仕組みに加え、暗号化前の侵入、権限昇格、横展開、データ窃取を早期に見つけることが重要です。

最近の攻撃の特徴

最近のランサムウェア攻撃の特徴は、暗号化だけに依存しない点にあります。攻撃者は、データを盗み、公開をちらつかせ、企業の信用や取引関係に圧力をかけることで、身代金の支払いを迫ります。この二重恐喝型の攻撃では、システム復旧だけでは問題が終わりません。情報漏洩の有無、漏洩した可能性のある情報の範囲、顧客や取引先への説明、監督官庁への報告など、経営判断を伴う対応が必要になります。

また、データ公開を前提にした脅迫も深刻です。攻撃者は、盗んだ情報の一部をリークサイトに掲載したり、公開期限を設けたり、顧客や取引先へ連絡すると主張したりすることがあります。これにより、企業は業務停止だけでなく、信用低下、顧客離脱、取引停止、法的責任のリスクにも直面します。

さらに、攻撃の分業化や自動化も進んでいます。ランサムウェア攻撃では、初期アクセスを売買する攻撃者、侵入後に権限を広げる攻撃者、データを窃取する攻撃者、暗号化と脅迫を行う攻撃者が分かれている場合があります。このような状況では、従来型の「入口で防ぐ」だけの対策では限界があります。攻撃者が社内に入った後の行動をどう検知するか、重要システムへの到達をどう遅らせるか、データ窃取をどう見つけるか、暗号化された場合にどう復旧するかまで含めた対策が必要です。

なぜ攻撃を止められないのか

ランサムウェア攻撃を止められない大きな理由は、侵入から暗号化までの途中段階に気づけないことです。攻撃者は、正規のアカウントや管理ツールを悪用することがあります。その場合、単純に「不審なファイルがあるか」「既知のマルウェアが検出されたか」だけを見ていても、攻撃の進行に気づけない可能性があります。

また、権限管理の不備も被害を拡大させます。管理者権限を持つアカウントが多すぎる、退職者のアカウントが残っている、共有アカウントを使っている、重要サーバへのアクセス制限が甘い、といった状態では、攻撃者が一度侵入しただけで広範囲へ移動できてしまいます。

検知遅れの背景には、ログが残っていない、ログを見ていない、異常を判断する基準がない、担当者が限られている、休日や夜間の監視ができないといった運用面の課題もあります。セキュリティ製品を導入していても、アラートを確認する体制がなければ、攻撃の兆候を見逃す可能性があります。 そのため、ランサムウェア対策では、技術対策だけでなく、運用体制の整備が欠かせません。誰がアラートを見るのか、どの条件で隔離するのか、どの段階で経営層へ報告するのか、外部専門家へいつ相談するのかを事前に決めておく必要があります。

企業が理解すべきポイント

企業がまず理解すべきなのは、ランサムウェア攻撃を完全に防ぐことは難しいという現実です。もちろん、脆弱性管理、メール対策、多要素認証、EDR、バックアップ、ネットワーク分離などの対策は重要です。しかし、攻撃手法は変化し続けており、外部委託先やクラウドサービス、認証情報の悪用など、自社だけでは完全に制御しにくい要素もあります。だからこそ、企業に求められるのは「侵入されないこと」だけを前提にした対策ではなく、「侵入される可能性を前提に、早期に検知し、被害を限定し、復旧できる体制」を整えることです。早期検知の観点では、通常とは異なるログイン、権限昇格、管理者ツールの不審な利用、複数端末への連続アクセス、大量のファイル操作、外部への大容量通信などを監視することが重要です。これらは、暗号化が始まる前に現れる可能性がある兆候です。

また、経営層はランサムウェアを単なるIT部門の問題としてではなく、事業継続、情報管理、顧客対応、法務、広報、取引先対応を含む経営リスクとして捉える必要があります。ランサムウェア攻撃は、システム停止だけでなく、情報漏洩、信用低下、売上損失、顧客離脱、サプライチェーンへの影響を引き起こす可能性があるためです。

ランサムウェアによって企業にどのような被害が発生するのかについては、次の記事で詳しく解説します。
ランサムウェア被害の実態 – 業務停止・損害・企業が直面するリスクとは

まとめ

ランサムウェア攻撃は、侵入、権限昇格、横展開、データ窃取、暗号化という複数の段階を経て進行します。暗号化は被害が目に見える最終段階であり、その前には攻撃者による認証情報の悪用、社内探索、重要データの特定、情報持ち出しが行われている可能性があります。近年は、データを暗号化するだけでなく、盗んだ情報を公開すると脅す二重恐喝が多く確認されています。そのため、バックアップを取得しているだけでは十分とはいえません。復旧できる体制に加え、データ窃取を防ぎ、早期に検知し、情報漏洩対応まで想定した準備が必要です。企業が取るべき対策は、入口対策、権限管理、ログ監視、EDR、脆弱性管理、バックアップ、インシデント対応体制を組み合わせた多層防御です。特に重要なのは、攻撃の流れを理解し、暗号化される前の段階で異常に気づくことです。ランサムウェア対策は、特定の製品を導入すれば終わるものではありません。攻撃者がどのように侵入し、どのように社内を移動し、どのようにデータを盗み、どのタイミングで暗号化するのかを理解したうえで、自社の弱点を継続的に見直すことが重要です。

【参考情報】

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【企業のためのランサムウェア対策ガイド】ランサムウェアの感染経路とは ―企業が見落としがちなVPN・RDP侵入リスクを解説

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ランサムウェア対策を考えるうえで重要なのが、「どこから侵入されるのか」を理解することです。近年の企業向けランサムウェア攻撃では、メールだけでなく、VPN機器やリモートデスクトップ(RDP)の脆弱性、認証情報の悪用、サプライチェーン経由の侵入など、多様な経路が利用されています。本記事では、企業が見落としがちな代表的な感染経路と、その対策の考え方について解説します。

ランサムウェアの基本的な仕組みや全体像については、以下の記事で整理しています。
ランサムウェアとは何か ―企業が知るべき被害・仕組み・対策の基本―

ランサムウェアは、ある日突然社内のパソコンやサーバ上で実行されるように見えます。しかし実際には、その前段階で攻撃者が企業ネットワークへ侵入しています。メール、VPN機器、リモートデスクトップ、ソフトウェアの脆弱性、外部委託先など、侵入経路はさまざまです。特に近年は、単に添付ファイルを開かせる攻撃だけでなく、インターネットに公開されたVPN機器やリモートアクセス環境の脆弱性、認証情報の悪用、委託先や外部サービスを踏み台にした侵入が問題になっています。警察庁やIPAの資料でも、国内のランサムウェア被害ではVPN機器やリモートデスクトップなど、テレワーク環境に関連する経路が多く確認されています。

ランサムウェアはどこから侵入するのか

ランサムウェアの感染経路は、ひとつに限定されません。攻撃者は、企業の外部に開いている入口、従業員が日常的に使うメール、保守やテレワークのためのリモート接続、未修正のソフトウェア、さらには取引先や委託先との接続関係まで、複数の経路を組み合わせて侵入を試みます。従来は、ランサムウェアというと「不審なメールの添付ファイルを開いて感染する」というイメージが強くありました。もちろんメールは現在でも重要な感染経路ですが、企業におけるランサムウェア被害では、VPN機器やリモートデスクトップなど、外部から社内環境へ接続するための仕組みが狙われるケースが目立ちます。

米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)が公開している「#StopRansomware Guide」でも、ランサムウェアやデータ恐喝型攻撃の初期侵入経路として、インターネットに公開された脆弱性や設定ミス、フィッシング、認証情報の悪用、リモートアクセス環境などが重視されています。つまり、ランサムウェア対策は「端末にウイルス対策ソフトを入れる」だけでは不十分であり、外部公開資産、認証、運用設定、委託先管理まで含めて考える必要があります。

代表的な感染経路

メールによる感染

メールは、現在でもランサムウェア感染の代表的な入口です。攻撃者は、請求書、見積書、配送通知、業務連絡、採用関連の連絡などを装い、添付ファイルや本文中のリンクを開かせようとします。従業員が添付ファイルを開いたり、リンク先で認証情報を入力したりすると、マルウェア感染やアカウント窃取につながる可能性があります。ただし、近年のランサムウェア攻撃では、メールから即座に暗号化が始まるとは限りません。メールをきっかけに認証情報を盗み、その後VPNやクラウドサービスへ不正ログインする場合もあります。また、メール経由で侵入したマルウェアが端末内の情報を収集し、攻撃者が次の侵入経路を探す足がかりになることもあります。そのため、メール対策は「怪しいメールを開かないように教育する」だけでは不十分です。迷惑メール対策、添付ファイルの検査、URLフィルタリング、多要素認証、端末の挙動監視を組み合わせ、万が一クリックされても被害が広がりにくい仕組みを整える必要があります。

VPN機器の脆弱性

企業のランサムウェア対策で特に注意すべき感染経路が、VPN機器の脆弱性です。VPNは、テレワークや拠点間接続、外部からの保守作業に欠かせない仕組みですが、インターネット側に公開されているため、攻撃者にとっても狙いやすい入口になります。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、ランサムウェア被害の感染経路としてVPN機器経由が大きな割合を占め、VPN機器経由とリモートデスクトップ経由を合わせると毎年高い割合を占めていることが示されています。

VPN機器に未修正の脆弱性が残っている場合、攻撃者は認証を突破したり、機器上の情報を盗んだり、社内ネットワークへ侵入したりする可能性があります。特に、サポート切れの機器、更新が滞っているファームウェア、初期設定に近いまま運用されている環境、不要なアカウントが残っている環境は危険です。VPN機器は一度導入すると、業務インフラとして長く使われがちです。そのため、導入時には問題がなかったとしても、数年後に深刻な脆弱性が公表され、攻撃対象になることがあります。ランサムウェア対策では、VPN機器のメーカー名、型番、バージョン、サポート期限、適用済みパッチを定期的に確認することが重要です。

リモートデスクトップ(RDP)の悪用

リモートデスクトップ(RDP)も、ランサムウェアの代表的な感染経路です。RDPは、離れた場所から社内のPCやサーバを操作できる便利な仕組みですが、外部から直接接続できる状態になっていると、攻撃者にとって格好の侵入口になります。CISAが公開するランサムウェア関連アドバイザリ(#StopRansomware: Akira Ransomware)でも、RDPやVPNなどのリモートアクセスサービスが初期侵入に使われる事例が継続的に示されています。

攻撃者は、単純なパスワードの総当たり攻撃、過去に漏えいした認証情報の悪用、設定不備の探索などによって、RDP接続を突破しようとします。一度RDP経由で社内端末やサーバへ入られると、攻撃者は管理者権限の取得、他端末への横展開、データの持ち出し、バックアップの削除、ランサムウェアの実行へと進む可能性があります。RDPを業務上どうしても使う場合は、インターネットへ直接公開しないことが基本です。VPNやゼロトラスト型のアクセス制御を経由させ、多要素認証を必須にし、接続元制限、ログ監視、不要アカウントの削除を徹底する必要があります。

ソフトウェアの脆弱性

ランサムウェアの感染経路として見落とされやすいのが、OS、ミドルウェア、業務システム、Webアプリケーション、ネットワーク機器などのソフトウェア脆弱性です。Verizon「2025 Data Breach Investigations Report」(DBIR)でも、脆弱性の悪用による初期アクセスが増加していることが示されており、境界デバイスや外部公開システムの管理が企業のセキュリティ課題として重要になっています。

攻撃者は、公開された脆弱性情報をもとに、未修正のシステムをインターネット上で探索します。特に危険なのは、外部からアクセスできるシステムに深刻な脆弱性が残っている場合です。VPN、ファイアウォール、メールサーバ、ファイル転送システム、Web管理画面、クラウド連携用の管理コンソールなどは、攻撃者から常に探索対象になっていると考えるべきです。脆弱性対策では、単にパッチを適用するだけではなく、自社がどのシステムを外部公開しているかを把握することが出発点になります。資産管理が不十分なままでは、どの機器に脆弱性があるのか、どのシステムを優先して更新すべきかを判断できません。

サプライチェーン経由の感染

ランサムウェアの感染経路は、自社のネットワークや端末だけに限られません。委託先、外部サービス、クラウドサービス、保守ベンダー、取引先との接続環境を通じて侵入されることもあります。こうした外部経由の侵入は、サプライチェーン攻撃としても知られています。Verizon「2025 Data Breach Investigations Report」でも、漏えい・侵害に第三者が関与する割合が増加していることが示されており、サプライチェーンリスクは企業規模を問わず無視できない課題になっています。

たとえば、業務委託先が利用しているアカウントが侵害され、そのアカウントを使って自社環境へ不正アクセスされるケースがあります。また、外部保守用に開放していたリモート接続が攻撃者に悪用される場合や、取引先とのファイル共有環境を通じてマルウェアが持ち込まれる場合もあります。サプライチェーン経由の感染が厄介なのは、自社だけで完全に制御しにくい点です。自社のセキュリティ対策が一定水準に達していても、接続先や委託先の管理が甘ければ、そこが攻撃者にとっての入口になります。

こうした外部経由の侵入は、サプライチェーン攻撃としても知られています。詳しくは以下の記事で解説しています。
サプライチェーン攻撃とは ―委託先・外注先リスクから情報漏えいを防ぐ全体像―

ランサムウェア対策としては、委託先との接続経路、付与している権限、共有している情報、外部アカウントの管理状況を定期的に見直す必要があります。外部委託先に対しても、多要素認証、アクセス権限の最小化、ログ取得、契約上のセキュリティ要件、インシデント発生時の連絡体制を確認しておくことが重要です。

なぜ気づかず侵入されるのか

ランサムウェア感染が深刻化する理由のひとつは、攻撃者が侵入してから暗号化を実行するまでに時間差があることです。企業側から見ると、ある日突然ファイルが暗号化されたように見えます。しかし実際には、その前に認証情報の窃取、社内探索、権限昇格、横展開、データ窃取といった活動が行われている場合があります。攻撃者が長く潜伏できる背景には、認証情報の管理不備があります。退職者や異動者のアカウントが残っている、管理者権限が過剰に付与されている、同じパスワードを複数システムで使い回している、多要素認証が導入されていない、といった状態では、攻撃者にとって侵入後の行動が容易になります。また、設定ミスも大きな問題です。RDPがインターネットに公開されている、VPN機器のファームウェアが古い、管理画面に外部からアクセスできる、不要なポートが開いている、ログが保存されていないといった状態は、攻撃者にとって有利に働きます。

NIST(米国立情報技術研究所)NIST IR 8374 Rev.1「Ransomware Risk Management: A Cybersecurity Framework 2.0 Community Profile」では、ランサムウェアへの備えとして、識別、防御、検知、対応、復旧を含めた包括的なリスク管理の重要性が示されています。これは、ランサムウェア対策が単なるマルウェア対策ではなく、資産管理、アクセス制御、バックアップ、ログ監視、インシデント対応を含む経営課題であることを意味します。

感染リスクを下げるための考え方

ランサムウェアの感染リスクを下げるには、すべての対策を一度に完璧に実施しようとするのではなく、侵入されやすい場所から優先順位をつけて対策することが重要です。特に企業では、VPN機器、リモートデスクトップ、外部公開サーバ、メール、認証情報、委託先接続の順に確認すると、自社の弱点を見つけやすくなります。

最初に行うべきことは、外部から見える資産の棚卸しです。どのVPN機器を使っているのか、RDPが外部公開されていないか、古いサーバや管理画面が残っていないか、クラウドサービスの管理者アカウントが適切に管理されているかを確認します。自社が把握していないシステムは、守ることも更新することもできません。次に、認証情報の保護を強化します。多要素認証の導入、不要アカウントの削除、管理者権限の最小化、パスワードの使い回し防止、ログイン試行の監視は、ランサムウェア対策の基本です。特にVPN、RDP、クラウド管理画面、メールアカウントには優先的に適用すべきです。さらに、脆弱性管理を継続的に行う必要があります。OSやソフトウェアの更新だけでなく、ネットワーク機器、VPN、ファイアウォール、NAS、ファイル転送システムなど、外部公開される可能性のある機器の脆弱性情報を確認し、リスクの高いものから修正します。バックアップも重要ですが、バックアップがあるだけでは十分ではありません。攻撃者にバックアップまで削除・暗号化されないよう、ネットワークから分離したバックアップや、復旧手順の確認が必要です。ランサムウェア対策では、感染を防ぐ対策と、感染した場合でも事業を止めない対策を組み合わせることが求められます。

まとめ

ランサムウェアの感染経路は、メールだけではありません。VPN機器の脆弱性、リモートデスクトップの悪用、ソフトウェアの未修正脆弱性、認証情報の窃取、設定ミス、委託先や外部サービスを経由したサプライチェーン攻撃など、企業のさまざまな入口が狙われています。特に近年の企業向けランサムウェア攻撃では、攻撃者が事前に社内ネットワークへ侵入し、権限を広げ、データを盗み、最後に暗号化を実行する流れが一般化しています。そのため、ランサムウェア対策は「感染後にどう復旧するか」だけでなく、「どこから入られる可能性があるか」を把握し、侵入経路を減らすことから始める必要があります。

企業がまず取り組むべきことは、自社の外部公開資産を把握し、VPNやRDPの設定を見直し、ソフトウェアの脆弱性を管理し、認証情報を守り、委託先との接続経路を確認することです。すべてを一度に完璧にする必要はありませんが、攻撃者にとって狙いやすい入口を放置し続けることは、ランサムウェア被害のリスクを高めます。ランサムウェアの感染経路を理解することは、対策の出発点です。自社のどこが侵入口になり得るのかを確認し、優先順位をつけて改善していくことが、企業のランサムウェア対策において最も現実的で効果的な第一歩になります。

万が一感染してしまった場合の具体的な対応については、以下の記事で詳しく解説しています。
セキュリティインシデントの基礎から対応・再発防止まで 第2回:セキュリティインシデント発生時の対応 ─初動から復旧まで

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ゼロデイ脆弱性とは?最新事例と企業が取るべき対策を解説

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ゼロデイ脆弱性は、修正パッチが提供される前に悪用される極めて危険な脆弱性です。ChromeやFirefox、VPN機器など、企業で日常的に利用される製品でも継続的に確認されており、情報漏えいや業務停止につながるケースもあります。本記事では、ゼロデイ脆弱性の基本的な仕組みや実際の被害事例、従来対策が通用しにくい理由を整理しながら、企業に求められる現実的な対策について解説します。

ゼロデイ脆弱性が実際にどのように悪用されるのかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
世界で多発するゼロデイ攻撃とは?Apple・Google・Ciscoを襲った脆弱性の実態と対策

本記事は2026年5月時点の情報をもとに作成しています。記載している脆弱性情報やCVE詳細は、公開後に内容が更新される場合があります。最新情報は各ベンダーおよびNVD・CISAの公式情報をご確認ください。

はじめに

ChromeやFirefoxなど、日常業務で広く使われている主要ブラウザでも、ゼロデイ脆弱性は繰り返し確認されています。ゼロデイ脆弱性とは、製品ベンダーや利用企業が十分な修正猶予を持てないまま悪用される、極めて危険度の高い脆弱性です。企業にとってゼロデイ脆弱性が厄介なのは、単に危険な脆弱性であるという点だけではありません。多くの場合、攻撃が確認された時点では、すでに悪用が始まっているか、修正パッチの適用が間に合っていない状態です。つまり、通常のパッチ管理や既知のマルウェア検知だけでは、防御が後手に回る可能性があります。 Webブラウザ、VPN機器、セキュリティ製品、業務アプリケーション、開発支援ツールなど、企業活動を支えるソフトウェアの多くは、常に外部との接点を持っています。そのため、ゼロデイ脆弱性は情報漏えい、業務停止、信用毀損、取引先への影響といったビジネスリスクに直結します。まず押さえたいのは、ゼロデイ脆弱性を悪用した攻撃に対し、完全に避けるのではなく、発生を前提に、侵入されにくく、侵入されても早期に検知し、被害を抑え込める体制を整えることです。

ゼロデイ脆弱性とは何か

ゼロデイ脆弱性とは、製品ベンダーや利用者がまだ十分に把握していない、または修正パッチが提供されていない脆弱性を指します。「ゼロデイ」という言葉は、攻撃者に悪用される可能性があるにもかかわらず、防御側に残された対応猶予が実質的にゼロ日であることに由来します。ここで整理しておきたいのが、「脆弱性」と「攻撃」は同じものではないという点です。脆弱性は、ソフトウェアやシステムに存在するセキュリティ上の欠陥です。一方で、ゼロデイ攻撃は、その未知または未修正の欠陥を悪用して、情報の窃取、権限昇格、不正コード実行、システム侵入などを行う攻撃行為を指します。NIST(米国立標準技術研究所)では、ゼロデイ攻撃を「これまで知られていなかったハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアの脆弱性を悪用する攻撃」と定義しています。

たとえば、あるブラウザに不正なHTMLページを処理した際に任意のコード実行につながる欠陥があったとします。その欠陥自体がゼロデイ脆弱性であり、攻撃者が細工したWebページへ利用者を誘導して実際に悪用すれば、それがゼロデイ攻撃になります。CVEはこうした脆弱性を識別するための共通番号であり、NVD(米国国立脆弱性データベース)ではCVEプログラムについて、「特定のコードベースで確認された脆弱性を参照するための辞書、または用語集のような仕組みだ」と説明しています。

なぜゼロデイ脆弱性は危険なのか

ゼロデイ脆弱性が危険視される最大の理由は、修正パッチが存在しない、または広く適用される前に攻撃が始まることです。一般的な脆弱性対応では、ベンダーが脆弱性情報を公開し、修正パッチを提供し、企業が影響範囲を確認して適用するという流れになります。しかしゼロデイの場合、この順番が崩れます。攻撃者が先に脆弱性を把握し、攻撃に利用してから、ベンダーや利用者が気づくことがあるためです。もう一つの問題は、従来型のシグネチャ検知が効きにくいことです。シグネチャ型のセキュリティ対策は、既知のマルウェアや既知の攻撃パターンを検出するうえでは有効です。しかし、まだ十分に解析されていない攻撃コードや、新しい悪用手法に対しては、検知が遅れる可能性があります。NISTの関連文献でも、「ゼロデイ攻撃は未知の脆弱性を悪用するため従来のシグネチャ型検知では事前に攻撃シグネチャを用意できず有効性に限界がある*1」とされています。

ゼロデイ攻撃は、標的型攻撃にも使われやすい傾向があります。攻撃者にとって、未修正の脆弱性は価値の高い侵入口です。特に、ブラウザ、VPN、ファイアウォール、メールサーバ、リモートアクセス製品、エンドポイント管理製品などは、企業ネットワークの入口や重要な業務環境とつながっているため、攻撃が成功した場合の影響が大きくなります。 ビジネス面では、ゼロデイ脆弱性の悪用は情報漏えい、業務停止、顧客対応コストの増加、監督官庁や取引先への報告、ブランド信用の低下などに発展します。攻撃の起点が一台の端末や一つのWebアクセスであっても、その後に認証情報の窃取、横展開、機密情報の持ち出しが行われれば、被害は組織全体へ拡大します。

実際の被害事例

Google Chromeで相次いだゼロデイ脆弱性

ゼロデイ脆弱性の代表的な事例として、Google Chromeの脆弱性が挙げられます。Chromeは多くの企業で標準ブラウザとして利用されており、Webメール、SaaS、業務システム、クラウド管理画面などへのアクセスにも使われています。そのため、Chromeのゼロデイ脆弱性は、単なる個人利用者向けブラウザの問題ではなく、企業の業務端末リスクとして捉える必要があります。

2025年には、Chromeで悪用が確認されたゼロデイ脆弱性が複数回修正されました。BleepingComputerでは、2025年から2026年にかけてChromeは複数のゼロデイ脆弱性を修正したと報じています*2。2026年2月には、CVE-2026-2441が修正されました。NVDによれば、この脆弱性はChromeのCSSにおけるUse After Free(解放済メモリの再利用)の問題であり、 Google Chrome 145.0.7632.75より前のバージョンでは、細工されたHTMLページを介してリモート攻撃者がサンドボックス内で任意のコードを実行できる可能性がありました。GoogleのChrome Releasesでも、この脆弱性について「実際に悪用が確認されている」旨が記載されています。2026年3月には、CVE-2026-3909CVE-2026-3910が修正されました。CVE-2026-3909は「Skia(Chromeが使用するグラフィック処理ライブラリ)における境界外の書き込み」で、細工されたHTMLページを介して境界外メモリアクセスにつながる可能性があります。CVE-2026-3910は「V8(ChromeのJavaScript実行エンジン)における不適切な実装」で、細工されたHTMLページを介してサンドボックス内で任意のコード実行が可能となるおそれがありました。GoogleはCVE-2026-3910について、「実際に悪用が確認されている」と公表しています。また、2026年3月末にはCVE-2026-5281も修正されています。NVDによれば、これはChromeのDawnにおける解放済メモリの再利用の脆弱性で、レンダラープロセスが侵害された状態で、細工されたHTMLページを通じて任意のコード実行につながる可能性があるものです。Googleはこの脆弱性についても、「実際に悪用が確認されている」と公表しています。

これらの事例が示しているのは、Webブラウザが単なる閲覧ツールではなく、企業ネットワークへの入口になり得るということです。利用者が業務中にWebサイトを閲覧する、SaaSへアクセスする、メール内のリンクを開くといった日常的な操作が、ゼロデイ攻撃のきっかけになる可能性があります。

OpenAI Codexに関するサンドボックス迂回の事例

近年は、開発支援ツールやAI関連ツールもゼロデイリスクの対象になっています。Zero Day Initiativeは2026年4月、OpenAI Codexに関するZDI-26-305を公開しました*3。この脆弱性は、影響を受けるOpenAI Codex環境においてサンドボックスを迂回できる可能性があるものとされ、攻撃には、「標的ユーザーが悪意あるJavaScriptを含むリポジトリをCodexで処理する必要がある」と説明されています。OpenAI Codex CLIでは2025年にも、サンドボックス設定ロジックの問題により、意図したワークスペース境界を迂回し、Codexプロセスが権限を持つ範囲で任意のファイル書き込みやコマンド実行につながる可能性がある脆弱性が、GitHub Security Advisoryで公開されています*4。この問題はCodex CLI 0.39.0で修正され、利用者には更新が推奨されています。

この事例から分かるのは、ゼロデイ脆弱性がOSやブラウザだけの問題ではないということです。開発者が利用するCLIツール、AIエージェント、コード生成支援ツール、CI/CD環境も、企業の重要な攻撃面になりつつあります。特に、ソースコード、認証情報、クラウド設定、APIキーにアクセスする可能性があるツールでは、サンドボックスや権限管理を過信しない運用が必要です。

ゼロデイ攻撃の仕組み

ゼロデイ攻撃の流れ概要図

※ゼロデイ攻撃では、脆弱性公開前や修正前に攻撃が始まるため、従来型のシグネチャ検知だけでは防御が難しい場合があります。

ゼロデイ攻撃は、脆弱性の発見から攻撃実行までが非常に速い場合があります。攻撃者は、ソフトウェアの不具合を独自に発見することもあれば、脆弱性情報が闇市場や限定的なコミュニティで売買されることもあります。その後、攻撃者はその脆弱性を悪用するエクスプロイトコードを作成し、標的組織に対して攻撃を実行します。まず、未公開または未修正の脆弱性が発見されるところから始まります。次に、その脆弱性を悪用するための攻撃コードが作成されます。ブラウザの脆弱性であれば、細工されたHTMLページやJavaScriptが使われることがあります。VPNや外部公開サーバの脆弱性であれば、インターネット越しに直接攻撃が行われることもあります。攻撃が成功すると、攻撃者は端末やサーバへ侵入し、認証情報の取得、権限昇格、内部ネットワークへの横展開を試みます。その後、機密情報の収集、データの持ち出し、ランサムウェアの展開、バックドア設置などへ進む可能性があります。

ゼロデイ攻撃の基本的な仕組みについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
世界で多発するゼロデイ攻撃とは?Apple・Google・Ciscoを襲った脆弱性の実態と対策

従来対策が通用しない理由

ゼロデイ脆弱性への対応で難しいのは、従来のセキュリティ対策が必ずしも十分に機能しないことです。もちろん、ウイルス対策ソフト、ファイアウォール、パッチ管理、メールセキュリティ、URLフィルタリングといった対策は今でも重要です。しかし、ゼロデイ攻撃では、これらをすり抜ける可能性があります。シグネチャ型対策は、既知の攻撃には強い一方で、未知の攻撃には限界があります。攻撃コードが新しく、まだ検体や攻撃パターンが共有されていない場合、検知ルールが存在しないことがあります。さらに、攻撃者は正規のWeb通信、正規のプロセス、正規の認証情報を利用して侵入後の活動を行うため、外形上は通常の業務通信に見えることもあります。また、境界防御だけに依存した対策では対応が難しいケースも増えています。クラウドサービスやリモートワークの拡大により、従来の「社内は安全」という前提だけでは、ゼロデイ攻撃のような未知の脅威への対応が難しくなっています。ゼロデイ攻撃では、社内端末、クラウドアカウント、開発端末、外部公開資産のどこからでも侵入口が生まれる可能性があります。

ゼロトラストの考え方を含め、従来型セキュリティ対策の課題については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
ゼロトラストセキュリティ -今、必須のセキュリティモデルとそのポイント-

ゼロデイ脆弱性への対策

ゼロデイ脆弱性への対策では、未知の攻撃を完全に防ぐことだけでなく、侵入後の被害を最小限に抑えるアプローチが重要です。ゼロトラストに基づく権限管理や多要素認証に加え、EDRやXDRによる侵入後の検知、ASMによる攻撃面の把握、SOCによる継続監視などを組み合わせた多層的な対策が求められます。

ゼロデイ攻撃対策を支援するBBSecのアプローチ

ゼロデイ攻撃へ備えるには「脆弱性情報を知ること」だけでなく、「自社がどの製品を利用しているのか」「どこが外部公開されているのか」を知ることで自社環境への影響を迅速に把握し、継続的に監視・対応できる体制を持つことが重要になります。

ブロードバンドセキュリティ(BBSec)では、EDR-MSSによる侵入後の検知・対応、G-MDRによる高度な脅威分析、ASMによる攻撃面の可視化を通じて、企業のゼロデイ対策を支援しています。ゼロデイ脆弱性への備えを強化したい方は、以下のサービスページもあわせてご覧ください。

ASM(アタックサーフェス管理)の考え方や、攻撃面を継続的に把握する重要性については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
脆弱性管理とIT資産管理 -サイバー攻撃から組織を守る取り組み-

まとめ

ゼロデイ脆弱性は、主要ブラウザやVPN機器、業務ソフトウェアなど、企業が利用するさまざまな環境で発生する可能性があります。ゼロデイ攻撃による被害を抑えるためには、パッチ管理だけでなく、ゼロトラストに基づく権限管理、EDRやXDRによる侵入後の検知、ASMによる攻撃面の把握、SOCによる継続監視などを組み合わせた多層的な対策が求められます。

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    CitrixBleed 3(CVE-2026-3055)の脆弱性:NetScaler ADC / Gatewayの影響・リスク・対策

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    CitrixBleed 3(CVE-2026-3055)の脆弱性:NetScaler ADC / Gatewayの影響・リスク・対策アイキャッチ画像

    CVE-2026-3055が注目される背景(CitrixBleedとの関連)

    2026年3月、Cloud Software Groupは、Citrix NetScaler ADCおよびNetScaler Gatewayに関する複数の脆弱性情報を公表しました*5。その中でも特に注意が必要なのが、CVE-2026-3055です。

    CVE-2026-3055は、NetScaler ADCおよびNetScaler GatewayがSAML IDPとして構成されている場合に影響を受ける、入力検証不備に起因するメモリオーバーリードの脆弱性です。Citrix公式アドバイザリでは、CWE-125、CVSS v4.0のベーススコア9.3Criticalとして評価されています。本脆弱性は、通称「CitrixBleed 3」と呼ばれています。JPCERT/CCは、過去に大きな問題となったCitrix Bleed系の脆弱性、CVE-2023-4966CVE-2025-5777との類似点が海外セキュリティ企業によって指摘されていると説明しています*2

    2025年7月に公表されたCitrix Bleed2(CVE-2025-5777)の脆弱性については以下の記事でご紹介しています。こちらもあわせてご覧ください。
    今すぐ対応を!Citrix Bleed2(CVE-2025-5777)の脆弱性情報まとめ

    企業にとって重要なのは、この脆弱性が単なる製品不具合ではなく、外部公開されている認証基盤やリモートアクセス基盤から情報漏洩につながる可能性がある点です。NetScaler GatewayはVPNやリモートアクセス、SSO連携の前段に置かれることが多く、侵害された場合の影響が社内ネットワーク全体に及ぶおそれがあります。

    CVE-2026-3055の概要

    CVE-2026-3055は、NetScaler ADCおよびNetScaler Gatewayにおけるメモリオーバーリードの脆弱性です。NVD(National Vulnerability Database)では、NetScaler ADCおよびNetScaler GatewayがSAML IDPとして構成されている場合、不十分な入力検証によりメモリオーバーリードが発生すると説明されています*3

    メモリオーバーリードとは、本来読み取るべきではないメモリ領域のデータが読み取られてしまう問題です。JPCERT/CCは、CVE-2026-3055について、遠隔の第三者によって意図しないメモリ領域のデータが読み取られる可能性があると注意喚起しています。この種の脆弱性で問題になるのは、攻撃者が直接ファイルを盗み出さなくても、メモリ上に一時的に残っていた情報が漏洩する可能性があることです。NetScalerのような認証や通信制御に関わる装置では、セッション情報、認証処理に関係する情報、SAML連携に関する情報などがメモリ上で扱われるため、情報漏洩の影響を慎重に評価する必要があります。

    影響を受ける製品とバージョン

    CVE-2026-3055の影響を受けるのは、NetScaler ADCおよびNetScaler Gatewayの一部バージョンです。Citrix公式アドバイザリでは、NetScaler ADCおよびNetScaler Gateway 14.1の14.1-60.58より前、13.1の13.1-62.23より前、NetScaler ADC FIPSおよびNDcPPの13.1-37.262より前が影響を受けるとされています。

    ただし、バージョンだけでなく構成条件も重要です。Citrix公式は、CVE-2026-3055について、Citrix ADCまたはCitrix GatewayがSAML IDP Profileとして構成されていることを前提条件として示しています。確認方法として、NetScalerの設定内に “add authentication samlIdPProfile .*” が存在するかを確認するよう案内しています。つまり、NetScalerを利用しているすべての環境が同じ条件で影響を受けるわけではありません。しかし、SAML IDPはSSOや認証連携に関わる重要な構成で使われるため、該当する場合は優先度を上げて確認すべきです。

    CVE-2026-3055はKEVカタログ登録済みの脆弱性

    CVE-2026-3055は、すでに米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)のKEVカタログ(Known Exploited Vulnerabilities Catalog)に追加されています。NVD上でも、CVE-2026-3055がCISA KEVに登録されていること、追加日が2026年3月30日であること、米国連邦政府機関向けの対応期限が2026年4月2日であることが確認できます。KEVカタログへの追加は、少なくともCISAが既知の悪用済脆弱性として扱っていることを意味します。そのため、CVE-2026-3055は「将来的に悪用されるかもしれない脆弱性」ではなく、実際の攻撃リスクを前提として対応すべき脆弱性です。

    JPCERT/CCも、2026年3月31日時点で海外セキュリティ企業から悪用に関する観測情報や詳細な技術情報が公表されていると説明しています。 公開インターネット上にNetScaler ADCやNetScaler Gatewayを設置している企業は、すでに攻撃対象として探索されている可能性を考慮する必要があります。

    CVE-2026-3055が「CitrixBleed 3」と呼ばれる理由

    CVE-2026-3055は、正式名称として「CitrixBleed 3」と命名されているわけではありません。しかし、セキュリティ業界では、過去に大きな影響を与えたCitrix Bleed系の脆弱性との類似性から、このように呼ばれることがあります。過去のCitrix Bleedでは、NetScaler ADCやNetScaler Gatewayにおける情報漏洩が問題となり、認証情報やセッション情報の悪用が懸念されました。今回のCVE-2026-3055も、NetScaler製品におけるメモリ読み取りの問題であり、境界装置から情報が漏えいする可能性があるという点で、過去のCitrix Bleed系の問題を想起させます。JPCERT/CCも、CVE-2023-4966およびCVE-2025-5777との類似点が指摘されているとしています。

    企業のセキュリティ担当者がこの名称に注意すべき理由は、名前そのものではなく、攻撃者が狙いやすい外部公開機器で、認証に関わる情報が漏洩する可能性があるという構図です。これは、ランサムウェア攻撃や標的型攻撃の初期侵入経路として悪用されるリスクを高めます。

    悪用された場合のリスク

    CVE-2026-3055を悪用された場合、最も懸念されるのは、NetScalerのメモリ上に存在する情報が第三者に読み取られることです。JPCERT/CCは、遠隔の第三者によって意図しないメモリ領域のデータが読み取られる可能性があると説明しています。

    NetScalerは、社外から社内システムへアクセスする際の入口として利用されることがあります。SSL VPN、リモートアクセス、SSO、認証連携の前段に配置されることも多く、ここで情報漏えいが発生すると、単一システムの問題にとどまらず、社内ネットワークへの不正アクセスやアカウント悪用につながる可能性があります。

    特に注意すべきなのは、パッチ適用だけでリスクが完全に消えるとは限らない点です。メモリ情報漏えい型の脆弱性では、修正前に何らかの情報が読み取られていた場合、その情報が後から悪用される可能性を否定できません。そのため、アップデートとあわせて、ログ調査、セッションの無効化、認証情報の見直し、関連アカウントの監視を実施することが重要です。

    企業がまず確認すべきポイント

    CVE-2026-3055への対応では、まず自社がNetScaler ADCまたはNetScaler Gatewayを利用しているかを確認する必要があります。特に、VPN、リモートアクセス、SSO、認証連携、社外公開システムの前段にNetScalerが配置されていないかを確認することが重要です。

    次に、対象バージョンに該当するかを確認します。Citrix公式アドバイザリでは、NetScaler ADCおよびNetScaler Gateway 14.1の14.1-60.58より前、13.1の13.1-62.23より前、NetScaler ADC FIPSおよびNDcPPの13.1-37.262より前がCVE-2026-3055の影響を受けるとされています。

    さらに、SAML IDPとして構成されているかを確認します。Citrix公式は、NetScaler Configuration内に”add authentication samlIdPProfile .* ”が存在するかを確認するよう案内しています。 この設定が存在する場合、CVE-2026-3055の影響を受ける条件に該当する可能性があります。

    対応方針:アップデートが最優先

    CVE-2026-3055について、JPCERT/CCは、Cloud Software Groupが本脆弱性に対する回避策を提供していないと説明しています。 そのため、アクセス制限や監視強化だけで対応を完了させるのではなく、修正済みバージョンへのアップグレードを基本方針とすべきです。Citrix公式アドバイザリでも、影響を受ける顧客に対して、関連する更新済みバージョンをできるだけ早くインストールするよう強く推奨しています。 本番環境では検証や切り戻し計画が必要になる場合がありますが、KEVカタログに登録されていることを踏まえると、通常の月次パッチ対応よりも高い優先度で扱うべき脆弱性です。

    侵害有無の確認方法

    CVE-2026-3055では、パッチ適用と同時に侵害有無の確認も重要です。JPCERT/CCは、watchTowr Labsの情報として、CVE-2026-3055を悪用する攻撃の試行は、/saml/login への細工したPOSTリクエストや、/wsfed/passive?wctx へのGETリクエストによって行われると紹介しています。通常運用で想定されない送信元IPから、これらのエンドポイントへのアクセスがログに記録されていないか確認することが推奨されています。また、JPCERT/CCは、DEBUGレベルのログを有効化している場合、/var/log/ns.log に意図しない文字列が挿入される点もwatchTowr Labsが指摘していると説明しています。 侵害が疑われる場合は、ログの保全、関係者への報告、メーカーや専門事業者への相談を検討すべきです。重要なのは、「アップデートしたから終わり」としないことです。すでに攻撃を受けていた場合、攻撃者が取得した可能性のある情報を前提に、セッションの無効化や認証情報の更新、管理者アカウントの確認、異常なログイン履歴の調査を進める必要があります。

    なぜ境界装置は狙われるのか

    近年、VPN装置、ADC、認証ゲートウェイ、ファイル転送装置など、インターネット境界に置かれる機器の脆弱性が繰り返し悪用されています。これらの機器は社内ネットワークへの入口に位置し、多くの場合、認証情報やセッション情報、社内システムへのアクセス経路を扱います。攻撃者にとっては、境界装置の侵害が効率のよい初期侵入手段となります。一般的な端末を一台ずつ狙うよりも、外部公開された認証基盤やリモートアクセス装置を突破する方が、社内環境へ到達しやすい場合があるためです。CVE-2026-3055は、まさにこの文脈で捉える必要があります。NetScaler ADCやNetScaler Gatewayを導入している企業は、単に脆弱なバージョンを更新するだけではなく、外部公開資産の棚卸し、設定確認、ログ監視、脆弱性情報の継続的な収集を組み合わせて対応する必要があります。

    脆弱性管理で求められる実務対応

    CVE-2026-3055のような重大なリスクレベルの脆弱性に対応するには、まず資産を把握していることが前提になります。どの拠点、どのクラウド環境、どのネットワーク境界にNetScalerが存在するのかを把握できていなければ、脆弱性情報が公開されても迅速に判断できません。また脆弱性の深刻度だけでなく、自社環境での露出状況を評価する必要があります。CVE-2026-3055はCVSS v4.0で9.3のCriticalと評価されていますが、実務上は、インターネットから到達可能か、SAML IDPとして構成されているか、認証基盤としてどの範囲に影響するかを確認することが重要です。さらに、KEVカタログへの登録の有無も優先順位付けの重要な判断材料になります。CVE-2026-3055はKEVカタログへ登録済みであり、NVD上でもその情報が確認できます。 既知悪用脆弱性に該当する場合、通常の脆弱性対応よりも優先度を上げ、短期間での対応計画を立てるべきでしょう。

    この脆弱性から学ぶべきポイント

    CVE-2026-3055は、個別の製品脆弱性であると同時に、企業の脆弱性管理体制を見直すきっかけにもなります。特に、VPNや認証ゲートウェイのような外部公開機器は、業務継続に不可欠である一方、攻撃者にとっても魅力的な標的です。今後も、境界装置や認証基盤に関する脆弱性は継続的に公表されると考えられます。そのたびに場当たり的に対応するのではなく、外部公開資産の一覧化、バージョン管理、設定管理、ログ監視、緊急パッチ適用の判断基準をあらかじめ整備しておくことが求められます。特に、情シス部門やセキュリティ担当者が少人数で運用している企業では、脆弱性情報の収集、影響調査、優先順位付け、パッチ適用、侵害調査をすべて自社だけで行うことが難しい場合があります。その場合は、外部診断やセキュリティ監視サービス、インシデント対応支援を組み合わせ、重要な境界装置を継続的に確認できる体制を整えることが現実的です。

    まとめ:CVE-2026-3055への対応ポイント

    CVE-2026-3055は、NetScaler ADCおよびNetScaler GatewayがSAML IDPとして構成されている場合に影響を受ける、メモリオーバーリードの重大脆弱性です。この脆弱性の本質は、NetScalerという外部公開されやすい認証・通信制御基盤から、意図しないメモリ領域のデータが読み取られる可能性がある点にあります。企業は、NetScaler ADC / Gatewayの利用有無、対象バージョン、SAML IDP構成の有無を確認し、該当する場合は修正版へのアップグレードを速やかに進める必要があります。あわせて、/saml/login/wsfed/passive?wctxへの不審なアクセスの有無を確認し、侵害が疑われる場合はログ保全と専門的な調査を行うことが重要です。

    CVE-2026-3055は、単なる一製品の脆弱性ではなく、外部公開資産と認証基盤の管理が企業のセキュリティに直結することを示す事例です。脆弱性管理は、パッチを当てる作業だけではありません。資産を把握し、影響を判断し、優先順位を付け、侵害有無まで確認する一連の運用として整備することが、今後ますます重要になるでしょう。

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    武蔵小杉病院へのランサムウェア攻撃 ―第2報から読み解くランサムウェア侵入経路と影響範囲―

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    2026年2月、日本医科大学武蔵小杉病院は「院内の医療情報システムの一部がランサムウェア攻撃を受け、障害が発生した」こと、そしてそれに伴い患者の個人情報漏洩が確認されたことを公表しました*4。病院の発表は「第2報」という位置づけで、被害範囲、時系列、侵入経路、当面の診療体制、相談窓口までが具体的に示されています。まず強調したいのは、憶測で語られがちな“病院のサイバー攻撃”を、ここでは病院自身が明言した事実ベースで解説する点です。本記事では今回の公表内容(第2報)を中心に、医療機関サイバーセキュリティの観点で「何が起きたのか」「なぜ起きやすいのか」「利用者は何に気を付けるべきか」をわかりやすくまとめます。

    侵入経路は“医療機器保守用VPN装置”

    病院の第2報で明記された「攻撃を受けたシステム」は、ナースコールシステムのサーバー3台です。ナースコールは入院患者が看護師を呼ぶための仕組みとして広く知られていますが、その裏側では端末やサーバーが稼働し、運用上の都合から患者情報と結び付いているケースも珍しくありません。今回、病院は当該サーバーがランサムウェア攻撃を受けたことを認め、さらに調査の結果として「侵入経路は医療機器保守用VPN装置であった」ことが確認されたとしています。

    ここでいうVPN装置は、医療機器メーカーなどが遠隔で保守作業を行う目的で用いられることが多い仕組みです。便利な一方で、通常のIT統制の枠外に置かれやすいのが現実です。たとえば、病院の標準的なIT統制から外れた管理になっていたり、資産管理やパッチ適用、アクセス制御、多要素認証などの基本対策が後回しになっていたりします。厚生労働省も注意喚起の中で、VPN装置を含むゲートウェイ機器の脆弱性対策、管理インターフェースのアクセス制限、認証強化などを重要ポイントとして挙げています。今回の発表内容は、まさにその“急所”が突かれ得ることを示す事例として受け止めるべきでしょう。

    漏洩した個人情報

    病院は、漏洩が確認された個人情報の項目として、氏名、性別、住所、電話番号、生年月日、患者IDを挙げています。また、漏洩が確認された人数は「約1万人」で、これは2026年2月14日11時時点の確認値だとされています。一方で、患者が特に気にすると考えられる医療内容そのものについて、病院は「カルテ情報」の漏洩は現時点で確認されていないと明記しています。さらに、クレジットカード情報、マイナンバーカード情報についても、現時点では漏洩確認がないとしています。ここは不安を抱く利用者にとって重要なポイントです。ただし、ここでの注意点は「現時点では確認されていない」という表現が示す通り、調査が進む過程で情報が更新される可能性がゼロではないことです。病院も、仮に漏洩拡大が判明した場合はホームページで速やかに報告するとしています。

    いつ気づき、どう動いたのか

    第2報には、攻撃を認識した日時と経緯が日付単位で整理されています。最初の兆候は2026年2月9日午前1時50分頃、病棟のナースコール端末が動作不良となり障害を把握したことでした。その後、ナースコールシステムのベンダー調査により、サーバーがランサムウェア攻撃を受けたことが判明したとされています。病院は当該システムと関連ネットワークを遮断し、同日に文部科学省、厚生労働省、所轄警察へ報告したと公表しています。

    続く2月10日には、厚生労働省の初動対応チームの派遣要請を行い、外部接続ネットワークを遮断してサーバー保全を開始。2月11日には初動対応チームの調査により、当該サーバーが院外と不正通信を行い、患者の個人情報を窃取していたことを確認したとされています。さらに、電子カルテを含む他の医療情報システムへの影響調査、外部接続ネットワーク機器の脆弱性や設定の調査も開始した、と時系列で説明されています。2月12日に個人情報保護委員会へ報告し、2月13日には漏洩した患者へ郵送でのお詫び連絡を開始した、と続きます。

    この流れを見ると、ポイントは二つあります。ひとつは「障害として最初に見えた」こと、もうひとつは「通信ログ等の調査で情報窃取の事実確認に至った」ことです。ランサムウェアは“暗号化して身代金要求”のイメージが強い一方で、近年は暗号化だけでなく情報窃取を組み合わせ、二重三重の脅迫に発展するケースが問題視されてきました。今回の発表でも「不正通信」と「窃取」が明確に言及されており、病院がそこを重要事実として公表している点は見落とせません。

    病院業務は止まったのか

    医療機関へのサイバー攻撃で最も懸念されるのは、診療の停止や救急の受け入れ停止など、医療提供体制への影響です。今回、病院は2026年2月14日時点で、外来、入院、救急受け入れはいずれも通常通り実施していると説明しています。また「他の医療情報システムへの影響は現時点では確認されていない」とし、病院業務は通常通りと明記しています。

    ここで大事なのは、“通常通り”という言葉の解釈を膨らませすぎないことです。病院が示したのは、その時点で確認できている範囲の診療体制であり、現場では臨時対応や負荷増が起きている可能性はあります。ただ、少なくとも公表文の事実としては、全面停止や救急停止を示す記述はなく、「止めずに継続している」という説明が中心です。

    病院がとった封じ込めと復旧対応

    第2報の中で、病院は「当該システム及び外部との通信を一切遮断し、専門家や電子カルテベンダーと共に、他のシステムへの影響について詳細な現況調査を継続して実施しております。」とし、原因となったランサムウェアの特定を完了し、「ウイルス対策ソフト会社より提供された最新のパターンファイルを用いて、現在、院内全域でのウイルス駆除作業を実施しております。」と説明しています。

    サイバーインシデント対応として見ると、ここには典型的な優先順位が現れています。まず“広げない”ための遮断、次に“証拠を残す”ための保全、その上で“横展開の確認”として他システム影響調査、そして“回復”のための駆除作業です。特に医療機関では、電子カルテだけ守っても安全とは言い切れません。ナースコールのような周辺系、委託業者や医療機器ベンダーの保守経路、ネットワーク機器設定など、境界にある仕組みが狙われると、想定外の入口になります。私たちが特に注目すべきと考えるのは、医療機器保守用VPN装置が侵入経路として公表された点です。これは医療機関のセキュリティ対策が“例外管理”に弱いことを改めて突き付けています。

    詐欺・なりすましへの警戒

    今回漏洩が確認された情報には、氏名、住所、電話番号、生年月日が含まれます。これは、金融情報そのものではない一方で、なりすまし、勧誘、フィッシング、特殊詐欺の“材料”として悪用されやすい属性情報です。病院は、漏洩した患者に対して「直接連絡する」とし、実際に2月13日から郵送によるお詫び連絡を開始したと公表しています。したがって利用者側の現実的な対策は、まず「病院から届く郵送物や案内」を冷静に確認し、連絡先や手続きが公表内容と整合するかを見極めることです。そして電話やSMS、メールで“病院を名乗る連絡”が来た場合、いきなり個人情報を追加で伝えたり、リンクを開いて入力したりせず、病院が設置した問い合わせ窓口など、公式に案内された経路へ折り返し確認するのが安全です。病院は本件の相談・問い合わせ専用窓口(専用ダイヤルの複数回線やフリーダイヤル運用開始予定)を案内していますので、確認の際はそうした公式窓口を使うのが基本になります。

    よくある疑問:電子カルテは大丈夫なのか、身代金は払ったのか

    「電子カルテは大丈夫なのか」という疑問に対しては、病院の公表では、「他の医療情報システムへの影響は現時点では確認されていない」とされています。つまり、“影響なし”と断定しているというより、調査継続の前提で“少なくとも現時点の確認では影響が見つかっていない”という説明です。ここは言葉通りに受け止め、今後の更新を注視するのが適切です。

    「身代金を払ったのか」という点については、第2報の本文からは読み取れません。少なくとも病院は、侵入経路、漏洩項目、診療状況、当局報告、遮断・調査・駆除といった事実を中心に説明しており、金銭要求や支払いに関する記載は確認できません。ここで外部の憶測を混ぜると正確性が落ちるため、本記事では触れません。

    なぜ医療機関は狙われるのか:つながる医療機器

    医療機関のサイバー攻撃を考えるとき、電子カルテだけを守ればよいという発想は危険です。病院には、医療機器、保守用回線、委託業者のネットワーク接続、建物設備、ナースコールのような周辺システムまで、多様な“つながる仕組み”があります。しかも医療の現場は24時間止められず、更新・停止・入れ替えが難しい機器も少なくありません。結果として、VPN装置のような境界機器が古い設定のまま残りやすかったり、管理者が限定されて全体の統制が効きにくかったりします。

    厚生労働省の注意喚起でも、VPN装置を含むゲートウェイ機器の脆弱性対策を迅速に行うこと、管理インターフェースのアクセス制限を行うこと、多要素認証などで認証を強化すること、資産(IoT機器を含む)の把握を行うことが示されています。武蔵小杉病院の件で侵入経路が医療機器保守用VPN装置である、と公表されたことは、これらが“机上の理想”ではなく、現実の被害と直結する論点であることを、改めて裏付ける材料になっています。

    企業・組織側が学ぶべき教訓:VPNと保守経路の統制はセキュリティの“盲点”

    今回の公表内容から読み取れる最大の教訓は、保守のための例外的な経路を放置しないことです。医療機関に限らず、製造業、ビル管理、自治体、教育機関などでも、ベンダー保守用VPNは現場の利便性を理由に残りやすく、監査や更新の網から漏れがちです。だからこそ、ネットワーク図に載っていない接続点、ベンダーしか触れない装置、管理台帳にない機器といった“影の資産”を可視化し、アクセス制御、ログ監視、脆弱性対応、認証強化、契約と運用ルールの整備まで含めて統制する必要があります。また、今回病院が行ったように、初動で外部接続を遮断し、当局に報告し、初動対応チームや専門家と連携しながら調査と封じ込めを進めることは、医療機関のインシデントレスポンスとして重要です。平時から、遮断判断の基準、連絡系統、証拠保全の手順、ベンダー連携の契約条項、代替運用を準備しておかなければ、同じ判断を迅速に実行するのは難しくなります。

    まとめ

    日本医科大学武蔵小杉病院の公表によれば、今回のサイバー攻撃はナースコールシステムがランサムウェア攻撃を受けたことに端を発し、医療機器保守用VPN装置が侵入経路として確認され、患者の個人情報が窃取されたとされています。漏洩は約1万人、項目は氏名や住所、電話番号、生年月日、患者IDであり、カルテ情報やクレジットカード情報、マイナンバーカード情報の漏洩は現時点で確認されていない、というのが病院の説明です。

    “病院のサイバー攻撃”という言葉は刺激的ですが、重要なのは、どのシステムが攻撃され、どの経路が弱点になり、どんな情報が漏洩し、利用者と組織が何に備えるべきかを、事実に即して理解することです。今回の事例は、電子カルテ以外の周辺システムも含めた医療機関サイバーセキュリティの必要性、そしてVPN装置や保守経路を例外扱いしない統制の重要性を、強く示しています。今後も病院の続報で情報が更新される可能性があるため、一次情報の確認を前提に、過度な憶測ではなく、現実的な警戒と備えにつなげることが肝要です。

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