診断結果にみる情報セキュリティの現状 ~2023年上半期 診断結果分析~

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SQAT® Security Report 2023-2024年秋冬号

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BBSecの脆弱性診断

システム脆弱性診断で用いるリスクレベル基準

BBSecのシステム脆弱性診断は、独自開発ツールによる効率的な自動診断と、セキュリティエンジニアによる高精度の手動診断を組み合わせて実施しており、高い網羅性とセキュリティ情勢を反映した診断を実現するため、セキュリティエンジニアおよびセキュリティアナリストが高頻度で診断パターンを更新し、診断品質の維持・向上に努めている。検出された脆弱性に対するリスク評価のレベル付けは、右表のとおり。

脆弱性診断サービスの基本メニューである「Webアプリケーション脆弱性診断」・「ネットワーク脆弱性診断」の2023年上半期(1月~6月)実施結果より、セキュリティ対策の実情についてお伝えする。

2023年上半期診断結果

Webアプリ/NW診断実績数

2023年上半期、当社では12業種延べ553企業・団体、3,396システムに対して、脆弱性診断を行った(Webアプリケーション/ネットワーク診断のみの総数)。

2023年上半期システム脆弱性診断 脆弱性検出率の棒・円グラフ

9割のシステムに脆弱性

「Webアプリケーション診断結果」の棒グラフのとおり、Webアプリケーションに おいて、なんらかの脆弱性が存在するシステムは9割前後で推移を続けている。検出された脆弱性のうち危険度レベル「高」以上(緊急・重大・高)の割合は17.5%で、6件に1件近い割合で危険な脆弱性が検出されたことになる。

一方、ネットワーク診断では、なんらかの脆弱性があるとされたシステムは約半数だったが、そのうちの危険度「高」レベル以上の割合は23.8%で、5件に1件以上の割合であった。

以上のとおり、全体的な脆弱性検出率については、前期と比較して大きな変化はない。当サイトでは、「2023年上半期カテゴリ別脆弱性検出状況」とし、検出された脆弱性を各カテゴリに応じて分類しグラフ化している。

Webアプリケーション診断結果

高リスク以上の脆弱性ワースト10

リスクレベル高以上の脆弱性で検出数が多かったものを順に10項目挙げてみると、下表のような結果となった。

長年知られた脆弱性での攻撃

「Webアプリ編」について、1位、2位は前期同様「クロスサイトスクリプティング(以降:XSS)」と「HTMLタグインジェクション」となった。3位以下は、脆弱性項目は前期からあまり変化はないものの、「SQLインジェクション」が順位を上げた。

3位の「サポートが終了したバージョンのPHP使用の可能性」など、サポートが終了したバージョンのコンポーネント(プログラム言語、ライブラリ等)の使用がワースト10の4項目を占めている。サポート終了とはすなわち、新たに脆弱性が発見された場合でもコンポーネントの提供元は基本的に対処しないということであり、危殆化に対する利用者側での対策が困難となるため、継続利用は危険である。例えば、サポートが終了した製品についての脆弱性情報の公開が契機になり、攻撃コードが公開され、攻撃が活発化することも考えられる。最新バージョンへのアップデートを迅速に、定期的に実施すべきである。

ネットワーク診断結果

高リスク以上の脆弱性ワースト10

ネットワーク診断結果に関しても、リスクレベル高以上の脆弱性で検出数が多かったものを順に10項目挙げてみると、下表のような結果となった。

高リスク以上の脆弱性ワースト10(2023年上半期)NW編の表

アクセス制御が不適切な認証機構の検出がランクイン

「ネットワーク編」のワースト10については、ワースト4までが前期と変わらず、5位、6位は順入れ替えという結果で、あまり大きな変動は見られなかったが、8位の「アクセス制御が不適切な認証機構の検出」が前期圏外からランクインした。「アクセス制御が不適切な認証機構」には、特権アカウントやデフォルトアカウント等を使用してログインできる脆弱性も含まれる。特権アカウントがデフォルトのまま、もしくは推測されやすい認証情報で設定されていた場合はさらに危険である。デフォルトアカウントやデフォルトパスワードを使用せず、推測されにくい複雑なパスワードを設定することや、ログイン画面に対するアクセスを強固に制御すること、特権アカウントは必要最小限のユーザにのみ付与することなどが推奨される。

カテゴリ別の検出結果詳細についてはこちら

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診断結果にみる情報セキュリティの現状
~2022年下半期 診断結果分析~

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SQAT® Security Report 2023年 春夏号

2021年下半期診断結果分析サムネ画像(PCの画面イメージ)

BBSecの脆弱性診断

システム脆弱性診断で用いるリスクレベル基準

BBSecのシステム脆弱性診断は、独自開発ツールによる効率的な自動診断と、セキュリティエンジニアによる高精度の手動診断を組み合わせて実施しており、高い網羅性とセキュリティ情勢を反映した診断を実現するため、セキュリティエンジニアおよびセキュリティアナリストが高頻度で診断パターンを更新し、診断品質の維持・向上に努めている。検出された脆弱性に対するリスク評価のレベル付けは、右表のとおり。

脆弱性診断サービスの基本メニューである「Webアプリケーション脆弱性診断」・「ネットワーク脆弱性診断」の2022年下半期(7月~12月)実施結果より、セキュリティ対策の実情についてお伝えする。

2022年下半期診断結果

Webアプリ/NW診断実績数

2022年下半期、当社では12業種延べ510企業・団体、3,964システムに対して、脆弱性診断を行った(Webアプリケーション/ネットワーク診断のみの総数)。

2022年下半期システム脆弱性診断 脆弱性検出率の棒・円グラフ

9割のシステムに脆弱性

「Webアプリケーション診断結果」の棒グラフのとおり、Webアプリケーションに おいて、なんらかの脆弱性が存在するシステムは9割前後で推移を続けている。検出された脆弱性のうち危険度レベル「高」以上(緊急・重大・高)の割合は19.0%で、5件に 1件近い割合で危険な脆弱性が検出されたことになる。

一方、ネットワーク診断では、なんらかの脆弱性があるとされたシステムは約半数だったが、そのうちの危険度「高」レベル以上の割合は23.3%で、5件に1件以上の割合であった。

以上のとおり、全体的な脆弱性検出率については、前期と比較して大きな変化はない。当サイトでは、「2022年下半期カテゴリ別脆弱性検出状況」とし、検出された脆弱性を各カテゴリに応じて分類しグラフ化している。

Webアプリケーション診断結果

高リスク以上の脆弱性ワースト10

リスクレベル高以上の脆弱性で検出数が多かったものを順に10項目挙げてみると、下表のような結果となった。

高リスク以上の脆弱性ワースト10(2022年下半期)Webアプリ編の表

長年知られた脆弱性での攻撃

Webアプリ編ワースト10の上位3項目は、前期と同じで、いまだ検出数が多い。いずれもよく知られた脆弱性ばかりなため、悪用された場合、セキュリティの基本的な対策を怠っている組織と認識され、信用失墜につながる。

「クロスサイトスクリプティング」に起因する情報漏洩は実際に報告されている。4位の「不適切な権限管理」は前期7位より順位を上げた。この脆弱性は、本来権限のない情報・機能へのアクセスや操作が可能な状態を指し、「OWASP Top 10(2021)」では、首位の「A01:2021-アクセス制御の不備」に該当する。一般ユーザであるはずが、処理されるリクエストを改竄することで管理者権限での操作が可能になる等により、個人情報や機密情報の漏洩・改竄、システムの乗っ取り、といった甚大な被害を招く恐れがある。外部から値を操作できないようにするのはもちろんのこと、各機能に対する適切なアクセス制御を実装することが推奨される。

ネットワーク診断結果

高リスク以上の脆弱性ワースト10

ネットワーク診断結果に関しても、リスクレベル高以上の脆弱性で検出数が多かったものを順に10項目挙げてみると、下表のような結果となった。

高リスク以上の脆弱性ワースト10(2022年下半期)NW編の表

SNMPにおけるデフォルトのコミュニティ名の検出

ネットワーク編のワースト10もほぼお馴染みの顔ぶれであるところ、「SNMPにおけるデフォルトのコミュニティ名の検出」が9位に初ランクインした。SNMPは、システム内 部のステータスや使用ソフトウェア等の各種情報取得に利用されるプロトコルで、管理するネットワークの範囲をグルーピングして「コミュニティ」とする。コミュニティ名に は、ネットワーク機器のメーカーごとに「public」等のデフォルト値がある。SNMPにおけるコミュニティ名はパスワードのようなものであるため、デフォルトのままだと、これ を利用して攻撃者に接続され、攻撃に有用なネットワークの内部情報を取得される恐れがある。コミュニティ名にはデフォルト値を使用しないこと、また、SNMPへの接続には強固なアクセス制御を実施することが推奨される。

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診断結果にみる情報セキュリティの現状
~2022年上半期 診断結果分析~

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SQAT® Security Report 2022-2023年 秋冬号

2021年下半期診断結果分析サムネ画像(PCの画面イメージ)

BBSecの脆弱性診断

システム脆弱性診断で用いるリスクレベル基準

当社のシステム脆弱性診断は、独自開発ツールによる効率的な自動診断と、セキュリティエンジニアによる高精度の手動診断を組み合わせて実施している。検出された脆弱性に対するリスク評価のレベル付けは、右表のとおり。

脆弱性診断サービスの基本メニューである「Webアプリケーション脆弱性診断」・「ネットワーク脆弱性診断」の2022年上半期(1月~6月)実施結果より、セキュリティ対策の実情についてお伝えする。

2022年上半期診断結果

Webアプリ/NW診断実績数

2022年上半期、当社では12業種延べ611企業・団体、3,448システムに対して、脆弱性診断を行った(Webアプリケーション/ネットワーク診断のみの総数)。

システム脆弱性診断 脆弱性検出率グラフ

9割のシステムに脆弱性

「Webアプリケーション診断結果」の棒グラフのとおり、Webアプリケーションにおいて、なんらかの脆弱性が存在するシステムは9割前後で推移を続けている。検出された脆弱性のうち危険度レベル「高」以上(緊急・重大・高)の割合は22.3%で、5件に1件以上の割合でリスクレベルの高いものが出ていることになる。

一方、ネットワーク診断では、脆弱性ありと評価されたシステムは半分強というところだ。ただし、検出された脆弱性に占める危険度高レベル以上の割合は22.1%にのぼり、こちらも5件に1件以上の割合となる。

以上のとおり、全体的な脆弱性検出率については、前期と比較して大きな変化はない。当サイトでは、「2022年上半期カテゴリ別脆弱性検出状況」とし、検出された脆弱性を各カテゴリに応じて分類しグラフ化している。

Webアプリケーション診断結果

高リスク以上の脆弱性ワースト10

リスクレベル高以上の脆弱性で検出数が多かったものを順に10項目挙げてみると、下表のような結果となった。

高リスク以上の脆弱性ワースト10リスト

長年知られた脆弱性での攻撃

上位ワースト10はいずれも、Webアプリケーションのセキュリティ活動を行っている国際的非営利団体OWASP(Open Web Application Security Project)が発行している「OWASP Top 10(2021)」でいうところの、「A03:2021 – インジェクション」「A07:2021 – 識別と認証の失敗」「A06:2021 – 脆弱で古くなったコンポーネント」「A02:2021 – 暗号化の失敗」「A01:2021 – アクセス制御の不備」等に該当する。

1位の「クロスサイトスクリプティング」や6位の「SQLインジェクション」は、長年知られた脆弱性である上、攻撃を受けると深刻な被害となりかねないにも関わらず、いまだ検出され続けているのが実情だ。

攻撃者による悪意あるコードの実行を許さぬよう、開発段階において、外部からのデータに対する検証処理と出力時の適切な文字列変換処理の実装を徹底していただきたい。

ネットワーク診断結果

高リスク以上の脆弱性ワースト10

ネットワーク診断結果に関しても、リスクレベル高以上の脆弱性で検出数が多かったものを順に10項目挙げてみると、下表のような結果となった。

高リスク以上の脆弱性ワースト10リスト

推奨されないバージョンのSSL/TLS

1位の「推奨されないSSL/TLS」が圧倒的に多い。既知の脆弱性がある、あるいはサポートがすでに終了しているコンポーネントの使用も目立つ。このほか、特にリスクレベルが高いものとして懸念されるのが、FTP(4位)やTelnet(7位)の検出だ。これらについては、外部から実施するリモート診断よりもオンサイト診断における検出が目立つ。つまり、内部ネットワークにおいても油断は禁物ということである。FTPやTelnetのような暗号化せず通信するサービスはそもそも使用するべきでなく、業務上の理由等から利用せざるを得ない場合は強固なアクセス制御を実施するか、暗号化通信を使用する代替サービスへの移行をご検討いただきたい。

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標的型攻撃とは?
事例や見分け方、対策をわかりやすく解説

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標的型攻撃とは?事例や見分け方、対策をわかりやすく解説のサムネ

標的型攻撃とは、攻撃者が明確な目的を持って、特定の企業や組織・個人などを狙って行うサイバー攻撃です。日本国内では、2011年頃から多く報告されるようになりました。

サイバー攻撃の多くには、これまではっきりした目的がありませんでした。無差別に感染させるウイルスやワーム、不特定多数に向けて大量送信されるスパムメールなど、従来の攻撃は標的を選ばない「ばらまき型」が多くを占めていました。しかし標的型攻撃では、たとえば「製造業A社の保有する、~分野の技術に関わる特許等の知的財産」など、ゴールが明確に設定されています。

標的型攻撃のうち、特に国家機密やグローバル企業の知的財産をターゲットとした、豊富な資金を元に、極めて高い技術水準で、長期間行う標的型攻撃のことをAPT(Advanced Persistent Threat:高度で継続的な脅威)と呼ぶこともあります。


従来型の攻撃標的型攻撃
目的悪意のない趣味や愉快犯、技術的な理論検証など、趣味や知的好奇心の延長知的財産・国家機密・個人情報など、金銭目的の犯罪、諜報などの目的を持つ
対象不特定多数のインターネットユーザー 特定の企業や組織、政府
技術必ずしも高くない 高度な技術水準
組織多くは個人による活動、複数であっても組織化されていない 組織化された多人数の組織
資金個人による持ち出し 豊富、国の支援を受けている場合も
期間短い、興味や好奇心が満たされれば終了 目的を達成するまで辞めない、数年間のプロジェクトとなることも

メールから侵入する「標的型攻撃メール」とは

メールから侵入する「標的型攻撃メール」とはのサムネ

標的型攻撃の多くは、業務を装ってメールを送り、添付されたファイルやメール文中のリンク先にマルウェアを仕込む「標的型攻撃メール」をきっかけに行われます。マルウェアは、OSや特定のアプリケーション、プログラミング言語や開発環境の脆弱性を突いて感染を果たします。

「ハッカー御用達サーチエンジン」などと呼ばれる「SHODAN(ショーダン)」「Censys(センシス)」という検索エンジンがあります。GoogleのようにWebページを検索するのではなく、インターネットに接続されているサーバやコンピュータ、 IoT機器を対象とした検索エンジンで、これらを用いることで、たとえば脆弱性のあるOSにも関わらずパッチがあてられずに放置されているサーバを見つけることができます。

脆弱性が見つかったら、その脆弱性を突くマルウェアをブラックマーケットで購入あるいは開発し、PDFファイルなどに偽装し、メールに添付し標的型攻撃メールが送られます。少々簡素化していますが、こういう手順で標的型攻撃は行われます。

標的型攻撃メールの事例

標的型攻撃メールによってマルウェア感染や被害が発生した事例として独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、2012年に発行した「標的型攻撃メール<危険回避>対策のしおり」に具体的事例のリストを掲載しています。そこには、


・日本政府や中央官公庁

・日本を含む世界の化学・防衛関連企業48社

・日本の重電メーカー


などの組織が「報道された標的型攻撃メールの事件」として並んでいます。

同じくIPAが2015年に発行した「IPA テクニカルウォッチ 標的型攻撃メールの例と見分け方」では、標的型攻撃メールの生々しい偽装例が記載されています。それによれば、


・新聞社や出版社からの取材申込

・就職活動に関する問い合わせ

・製品に関する問い合わせ

・セキュリティに係る注意喚起

・注文書送付

・アカウント情報の入力要求


などに偽装して標的型攻撃メールが実際に送られたということです。

標的型攻撃メールの見分け方

標的型攻撃メールの見分け方のサムネ

標的型攻撃以前には、いわゆる「怪しいメールの見分け方」という鉄板の基準がありました。代表的な判断基準はたとえば「知らない人からのメール」「フリーメールからのメール」「日本語の言い回しが不自然」などが挙げられます。標的型攻撃以前には確かにこれらの基準は有効でした。しかし、こういった基準が標的型攻撃以降、必ずしも通用しなくなっています。

ますます洗練されている標的型攻撃メールの基準に対応するため、IPAは前掲のレポート「IPA テクニカルウォッチ 標的型攻撃メールの例と見分け方」で、不審か否かを見分けるための着眼点として以下を挙げています。


・知らない人からのメールだが、メール本文の URL や添付ファイルを開かざるを得ない内容

・心当たりのないメールだが、興味をそそられる内容

・これまで届いたことがない公的機関からのお知らせ

・組織全体への案内

・心当たりのない決裁や配送通知

・ID やパスワードなどの入力を要求するメール

・フリーメールアドレスから送信されている

・差出人のメールアドレスとメール本文の署名に記載されたメールアドレスが異なる

・日本語の言い回しが不自然である

・日本語では使用されない漢字が使われている

・実在する名称を一部に含む URL が記載されている

・表示されている URL と実際のリンク先の URL が異なる

・署名の内容が誤っている


昔ながらの基準と変わらない点もあるものの、「心当たりのないメールだが、興味をそそられる内容」「これまで届いたことがない公的機関からのお知らせ」「組織全体への案内」などは、業務上開封せざるをえないことも少なくないでしょう。「よほど仕事を怠けていない限りひっかかる」これは標的型攻撃メールに関してよく言われる言葉です。

近年の標的型攻撃メールは日本語も洗練されています。上記の基準ですら判別できない場合もあると心得ていたほうが間違いないでしょう。

標的型攻撃への入口対策

標的型攻撃メールを防ぐ「標的型攻撃メール訓練」

標的型攻撃メールを開封しないように、従業員のセキュリティリテラシーを上げるために「メール訓練」「標的型攻撃メール訓練」などと呼ばれるセキュリティサービスがあります。

模擬の標的型攻撃メールを作成し、事前に知らせずに従業員にメールを送信、本文中のリンクをクリックしたり添付ファイルを開いてしまった人を調べ、部門毎の攻撃メール開封率などを管理者に報告するサービスです。

標的型攻撃メール訓練サービスの比較のポイント

標的型メール訓練サービスは提供業者が多く、費用やサービスクオリティはさまざまです。ここで簡単に、いい標的型攻撃メール訓練会社の比較のポイントを列挙します。


・実施前に社内の業務手順や、うっかり添付ファイルを開いたりリンクをクリックしてしまいそうなメールの傾向を、丁寧なヒアリングをもとに考えてくれるかどうか

・開封率の報告だけでなく、添付ファイルを開いた後の初動対応分析や、万一開いた場合の報告体制、エスカレーションの仕組の助言などを行ってくれるかどうか

・標的型攻撃メールの添付ファイルを開いたりリンクをクリックすることで具体的にどのように被害が発生するか、リスク予測をしてくれるかどうか

・訓練で洗い出された課題解決のために従業員向け研修を実施してくれるかどうか


標的型メール訓練サービスは各社それぞれ個性と品質の差があります。一見似ているように見えますが、どのように運用するかによってサービスクオリティが大きく変わってきます。

組織には人事異動もあり業務内容も変わります。メール訓練をやる場合は、エビデンスのために実施する場合はともかく、本当に根付かせたいのであれば定期的な実施が必須といえるでしょう。

「入口対策」を考えると、教育訓練を施す標的型メール訓練は 「ヒト」 に対する対策として有効な対策の一つです。しかし、うっかり危険なファイルを開いてしまう確率がゼロになることは残念ながらありません。

もしあなたの会社の人事担当者に、就職を希望する優秀な経歴を持つ学生から、レジュメや志望動機を書いたPDFを添付したメールがGmailで届いた場合、彼・彼女はきっとそのメールを開かざるをえないでしょう。「よほど仕事を怠けていない限りひっかかる」のです。もはや「防ぐ」という視点と同時に、侵入されることを前提に考える時期が来ています。

開封率の低減を最重要視するのではなく、「開封されても仕方なし」というスタンスで取り組むことが重要です。訓練の目標を「開封された後の対応策の見直しと初動訓練」に設定し、定められた対応フロー通りに報告が行われるか、報告を受けて対策に着手するまでにどれくらいの時間を要するかを可視化して、インシデント時の対応フローおよびポリシーやガイドラインの有効性を評価することをお勧めします。また、従業員のセキュリティ意識を向上させるために、教育および訓練と演習を実施するのが望ましいでしょう。

標的型攻撃の対策方法

標的型攻撃の対策方法のサムネ

「侵入されることを前提に考える」とは、もはや完全に防ぐことはできないと認めることです。これは標的型攻撃がセキュリティ対策や産業に与えた最も大きな影響のひとつといえるでしょう。標的型攻撃やAPT攻撃以降に、「この製品を買えば100%防げます」オーバーコミット気味のセキュリティ製品の営業マンが、もしこんなセリフを言ったとしたら、もはや安請け合いどころか明白な嘘です。

標的型攻撃以降、「出口対策」「内部対策」という順番で、新しいセキュリティ対策の言葉が次々と生まれました。

「出口対策」とは、ファイアウォールやアンチウイルスソフトで防ぎ切ることができずに感染してしまったマルウェアが、重要な情報を盗み出し、外部に重要情報を送信する(盗み出す)前に、その通信を検知しブロックする対策のことです。

「内部対策」とは、標的型攻撃メールで特定のPCに感染したマルウェアが、隣のPCや、参照権限のあるサーバなど、ネットワークを「横移動(ラテラル・ムーブメント)」して、Active Directoryなどのクレデンシャル情報や、知的財産が置かれたサーバにたどりつかないよう横展開を阻害する対策のことです。ネットワークの区画化やSIEMによる分析、ユーザーの行動を分析するUEBA、果てはニセのクレデンシャル情報をネットワークに地雷のように置くデセプション製品など、各社工夫をこらした高価な先端製品が各社によって開発・提供されています。

一方で、従来の「入口対策」をパワーアップした対策として、添付されたファイルがマルウェアではないかどうかをSandboxという環境で安全に検証してからユーザーに届ける製品などが国内でも普及しました。

どれも優れた製品ですが、いずれにせよ完全に防げる神話はもう崩れています。侵入前提の対策や組織作りが必要です。しかし、高価なSandboxやSIEMなど先端の製品による対策をすべての組織でできるわけではありません。

しかし悲観する必要はありません。実は、昔から言われている基本対策も標的型攻撃に対して有効な対策の一つなのです。まずはWindowsOSやMicrosoft Office、Adobeなどの主要アプリケーションを最新の状態に保つことです。

また、Webサイトやアプリケーションなどの公開サーバ、社内ネットワークを対象に、見過ごしているセキュリティホールがないかどうかを見つける脆弱性診断の定期的実施や、いざ侵入できたらどこまで被害が拡大しうるのかを調べるペネトレーションテストの実施も同様に有効でしょう。

「我が社には盗まれるような特許も個人情報もない」これもよく言われる言葉です。しかし、近年「サプライチェーン攻撃」と呼ばれるサイバー攻撃が話題になっています。たとえば、大手グローバル自動車会社のB社を最終目的として、部品製造を行う系列の中小企業などから攻撃を行い、本丸を目指す方法などを指します。もはや関係ないと言える企業は少ないといえるでしょう。

まとめ

・標的型攻撃は、攻撃者が明確な目的を持ち、特定の企業や組織・個人などを狙って行うサイバー攻撃
・標的型攻撃には、業務を装った巧妙なメールの添付ファイルやメール文中のリンク先にマルウェアを仕込む「標的型攻撃メール」によるものが多い
・従業員のセキュリティリテラシーを上げて標的型メールを開封しないようにするためには、「標的型攻撃メール訓練」などのセキュリティサービスがある
・標的型攻撃を100%防御することは不可能なため、感染することを前提とした「出口対策」「内部対策」を講じることで攻撃成功の確率を下げる


BBSecでは

ランサムウェア対策総点検」のうちのサービスの一つ、「ランサムウェア感染リスク可視化サービス」では標的型攻撃を受けてしまった場合の現状のリスクの棚卸を行うことが可能です。従来の標的型メール攻撃訓練からもう一歩踏み込み、「ヒト」の対策ではなく、「情報」の対策として、システム環境の確認や、環境内で検知された危険度(リスクレベル)を判定いたします。

標的型メール訓練サービスとランサムウェア対策総点検のサービスサムネ
ランサムウェア対策総点検のサムネ
※外部サイトへリンクします。

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セキュリティ診断の必要性とは?

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「セキュリティ診断」とは何か?セキュリティ診断には脆弱性診断、ソースコード診断、ペネトレーションテストなどの方法があります。今回は、企業にセキュリティ診断が不可欠な背景を説明します。また、診断以外のセキュリティ対策にも触れます。

セキュリティ診断の必要性とはのサムネ

サイバー攻撃や組織における管理またはシステムの設定不備・不足等が原因となり、機密情報等の漏洩事故および事件が相次いで発生しています。東京商工リサーチの調べによれば、上場企業とその子会社で起きた個人情報漏洩または紛失事故・事件件数は2021年で137件となり過去最多を更新しました。*1実際に企業がデータ侵害などの被害を受けてしまい、機密情報等の漏洩が発生してしまうと、システムの復旧作業に莫大なコストがかかるほか、データ侵害によるインシデントが信用失墜につながることで、 深刻なビジネス上の被害を引き起こします。被害を最小限に抑えるために、適切な事故予防、攻撃対策をとっていくことは、企業の重要な業務のひとつとなっています。

セキュリティ対策やセキュリティ診断は、企業にとっていまや基幹業務に不可欠であり、社会的責任でもあります。この記事ではセキュリティ診断の内容と必要性などを解説します。

セキュリティ診断とは? その必要性

セキュリティ診断とは、システムのセキュリティ上の問題点を洗い出す検査のことを指します。脆弱性診断、脆弱性検知、など呼び方もさまざまで、また対象によってソースコード診断、システム診断、Webアプリケーション診断、ペネトレーションテストなどに分類されます。

なお、複数の診断方法のうち、同様の診断をセキュリティベンダーや診断ツール提供者がそれぞれ微妙に異なる名称で呼んでいるケースもあります。

「セキュリティ診断」という用語は、単に「脆弱性診断」を指すこともあれば、セキュリティに関するさまざまな診断や評価全体を包括して「セキュリティ診断」と呼ぶ広義の使い方もあります。

「セキュリティ」には、情報セキュリティだけではなく、デジタル社会へのリスク対応全般が含まれる場合もありますが、「セキュリティ診断」という用語は、企業など組織の事業における(情報)セキュリティリスクの低減を主な目的とした検査のことをいいます。

資産である情報の「機密性」「完全性」「可用性」を守るため、セキュリティ診断を行うことで、情報セキュリティの観点からみた構造上の欠陥や、組織体制、あるいは運用上の弱点を見つけることができます。発見された問題に対し優先順位をつけて対策を実施することで、より堅牢なシステム・環境・体制を構築することができます。

企業に求められる情報セキュリティ対策の例

企業が実施するセキュリティ対策のうち、よく話題にあがるものをいくつかピックアップして説明します。

不正アクセス対策

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不正アクセスとは、本来アクセス権限を持たない者が、何らかの手段を用いて第三者の情報にアクセスすることをいいます。なりすまし不正侵入といった形が一般的です。不正アクセスによって、個人情報や知的財産が奪われる、サーバやシステムが停止するなど、企業活動に影響するリスクが生じます。不正アクセスに対しては、「不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)」によって、アクセス管理者にも次の管理策を行う義務が課されています(ただし、罰則はありません)。
・識別符号の適切な管理
・アクセス制御の強化
・その他不正アクセス行為から防御するために必要な措置
セキュリティ診断を通じてシステムに存在する弱点を洗い出し、発生箇所を特定することで、こうした不正侵入などへの対策を立てやすくする効果があります。

脆弱性対策

脆弱性とは、一つ以上の脅威によって付け込まれる可能性のある資産または管理策の弱点をいいます。脅威とは、「システム又は組織に損害を与える可能性がある、望ましくないインシデントの潜在的な原因」で、いわばシステムにおけるバグのようなものです。それらの脆弱性は、「危険度を下げる」「蔓延を防ぐ」「影響度を下げる」ことで、悪用されにくくすることができます。

脆弱性対策とは、これらの角度からシステムの欠陥をつぶしていく行為ともいえます。利用しているソフトウェアの既知の脆弱性をアップデートやパッチの適用で常に最新版に保ったりすることや、システム開発の場面でそもそも脆弱性を作りこまないように開発することなどが、その典型例です。

標的型攻撃対策

近年、「高度標的型攻撃(APT)」と呼ばれる、新しいタイプの攻撃が警戒されるようになりました。もともと、標的型攻撃とは、特定の企業や組織に狙いを定めてウイルスメールを送るなどの攻撃を仕掛けるものでしたが、高度標的型攻撃は、特定のターゲットに対して長期間の調査と準備を行い、ときには社内のネットワーク構成図や会社組織図、キーパーソンの休暇の取得状況まで調べ上げたうえで、サイバー攻撃を仕掛けてきます。

標的型攻撃対策のサムネ

従来、標的型攻撃の対策としてはセキュリティ意識を高める訓練が主でしたが、今では「侵入されること」を前提に、セキュリティ機器を使った多層防御システムを構築することの大切さが、広く認識されるようになってきました。高度標的型攻撃に特化したセキュリティ診断を受けることで、攻撃被害スコープを可視化したり、脅威リスクのシミュレーションを行うことができます。

運用を含むリスクアセスメント

システムが技術的に強固に守られていても、アクセス用のIDとパスワードを付箋紙に書いてモニターに貼り付けていたら、安全は保たれるべくもありません。

システムなど技術的側面からだけでなく、作業手順や業務フロー、作業環境、組織のルールなどの運用面も含めてリスク評価を行うことを「リスクアセスメント」と呼びます。リスクアセスメントを通じて、リスクの棚卸による現状把握ができ、優先順位をつけて改善策を講じていくことが可能になります。

セキュリティ診断の方法と種類

セキュリティ診断の分類はいくつかあります。
<診断対象による分類>
 ・Webアプリケーション脆弱性診断
 ・ネットワーク脆弱性診断
 ・ソースコード診断
 ・スマホアプリ脆弱性診断
 ・ペネトレーションテスト
 ・クラウドセキュリティ設定診断
 ・IoT診断

<ソースコードや設計書の開示の有無による分類>
 ・ホワイトボックステスト
 ・ブラックボックステスト

<診断実施時にプログラムを動かすかどうかによる分類>
 ・動的解析
 ・静的解析

ホワイトボックステスト/ブラックボックステスト、動的解析/静的解析については、SQAT.jpの以下の記事でご紹介しています。こちらもあわせてご覧ください。
「脆弱性診断の必要性とは?ツールなど調査手法と進め方」

Webアプリケーションセキュリティ診断

Webアプリケーションに対して行う診断です。事業活動に欠かせないWebサイトはデータの宝庫です。ハッキング対象の約7割がWebサイトであるともいわれています。ひとたびデータ侵害が起こると、事業継続に影響を与えかねないインシデントを引き起こすリスクがあります。

ネットワークセキュリティ診断

サーバ、データベース、ネットワーク機器を対象として脆弱性診断やテスト、評価を行います。搭載されているOS、ファームウェア、ミドルウェアなどのソフトウェアについて、最新版か、脆弱性がないか、設定に不備がないかなどを確認します。ネットワークの脆弱性対策をすることで、サーバの堅牢化を図る、不正アクセスを防止するなどの効果を得られます。

ソースコードセキュリティ診断

WEBアプリケーションは、プログラムの集合体であり、脆弱性はプログラム処理におけるバグであるといえます。入力チェックやロジック制御に、バグ(考慮不足)があるから、想定しない不具合が発生すると考え、プログラムコード(ソースコード)を調べていくのがソースコード診断です。ソースコード診断はプログラムに対するセキュリティ観点でのチェックであるとともに、開発工程の早い段階で、脆弱性を検出することが可能になります。

セキュリティ診断で未然に事故を防ごう

セキュリティ診断で未然に事故を防ごうのサムネ

セキュリティ診断のひとつとして挙げた脆弱性診断には、さまざまな診断ツールが存在しており、無料で入手できるものもあります。しかしツールの選定や習熟には一定の経験や知見が求められ、そもそも技術面だけでは企業のセキュリティを確保することはままなりません。セキュリティの専門会社の支援を受けて、客観的な評価やアドバイスを受けるのも有効な手段です。

セキュリティ専門会社による脆弱性診断を実施することで、日々変化する脅威に対する自システムのセキュリティ状態を確認できるため、適時・適切の対策が可能です。予防的コントロールにより自組織のシステムの堅牢化を図ることが事業活動継続のためには必須です。

まとめ

  • Webアプリケーションセキュリティ診断、ネットワークセキュリティ診断、ソースコード診断、セキュリティに関するさまざまな診断やテストが存在する
  • 不正アクセスなどの攻撃を防ぐためシステムの脆弱性を見つけて対策することが必須
  • 技術的対策だけでセキュリティを担保することは難しい
  • 人間の脆弱性や業務運用までを含む包括的な視点で組織にひそむリスクを洗い出すことも重要
セキュリティ診断サービスのサムネ

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診断結果にみる情報セキュリティの現状
~2021年下半期 診断結果分析~

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SQAT® Security Report 2022年 春夏号

2021年下半期診断結果分析サムネ画像(PCの画面イメージ)

BBSecの診断について

当社では、Webアプリケーション、ネットワーク(プラットフォーム)に対する脆弱性診断をはじめとして、スマホアプリ、パブリッククラウド、ソースコード、IoT、ペネトレーションテスト、標的型ランサムウェア攻撃におけるリスク可視化等、様々な局面における診断サービスを提供している。こうした診断による検出・分析結果は、メリハリある的確なセキュリティ対策の実施にお役立ていただいている。

診断品質向上のために

システム脆弱性診断で用いるリスクレベル基準

当社の脆弱性診断サービスは、独自開発ツールによる効率的な自動診断と、セキュリティエンジニアによる高精度の手動診断を組み合わせて実施している。検出された脆弱性に対するリスク評価のレベル付けは、右表のとおり。

高い網羅性のある脆弱性の検出、お客様のシステム特性に応じたリスクレベル評価、個別具体的な解決策の提供が行えるよう、セキュリティエンジニアおよびセキュリティアナリストが高頻度で診断パターンを更新することで、診断品質の維持・向上に努めている。

2021年下半期診断結果

Webアプリ/NW診断実績数

2021年7月から12月までの6ヶ月間に、当社では14業種延べ560企業・団体、3,949システムに対して、システム脆弱性診断を行った(Webアプリケーション/ネットワーク診断のみの総数)。前期2021年上半期(1月~6月)より、診断対象システム数は300件近く増加した。

システム脆弱性診断 脆弱性検出率(2021年下半期)

9割のシステムに脆弱性

「Webアプリケーション診断結果」の棒グラフのとおり、Webアプリケーション診断では、なんらかの脆弱性が存在するシステムの割合が9割前後で推移し続けている。検出された脆弱性のうち、危険度レベル「高」以上(緊急・重大・高)の割合は21.0%で、検出された脆弱性全体のおよそ5件に1件がリスクレベルの高いもの、ということになる。前期の高レベル以上の割合は23.9%だったため今期微減だが、ほぼ横ばいと言える。

「ネットワーク診断結果」の棒グラフでは、脆弱性なしと評価されたシステムが4割強を占めている。しかしながら、検出された脆弱性に占める危険度高レベル以上の脆弱性の割合は30.8%にのぼり、検出脆弱性のおよそ3件に1件が危険度の高い項目、ということになる。前期の高レベル以上の割合は28.3%だったため今期微増だが、ほぼ横ばいである。

以上のとおり、全体的な脆弱性検出率については、前期と比較して大きな変化はない。当サイトでは、「2021年下半期カテゴリ別脆弱性検出状況」とし、検出された脆弱性を各カテゴリに応じて分類しグラフ化している。

Webアプリケーション診断結果

高リスク以上の脆弱性ワースト10

5つに分類された各カテゴリの検出割合( 「2021年下半期カテゴリ別脆弱性検出状況」掲載の円グラフ参照)については、前期とほぼ変わらず、各カテゴリにおける脆弱性の検出数ごとの数量も大幅な変動はなかった。リスクレベル高以上の脆弱性で検出数が多かったものを順に10項目挙げてみると、下表のような結果となった。

高リスク以上の脆弱性ワースト10(2021年下半期)Webアプリ編

代表的な脆弱性はいまだ健在

上位ワースト10はいずれも、Webアプリケーションのセキュリティ活動を行っている国際的非営利団体OWASP(Open Web Application Security Project)が発行している「OWASP Top 10(2021)」に含まれていることがわかる。

ワースト1となった「クロスサイトスクリプティング」(以下、XSS)はWebアプリケーションにおける脆弱性の代表格とも言える。認知度の高い脆弱性でありながら、いまだに根絶されていない。XSSが存在するシステムには、ワースト2の「HTMLタグインジェクション」が共に検出されることが多い。出力データの検証が適切に実施されていないことがうかがえる。

ワースト6の「SQLインジェクション」もまた、メジャーな脆弱性の1つだ。XSSと同じく入出力制御に問題がある。昨今でもなお、SQLインジェクションによる情報漏洩事例が報告されている。データベースの不正操作を許せば、事業活動に必要なデータをすべて消去されるといった最悪の事態も発生しうるため、放置するのは非常に危険である。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)および一般社団法人 JPCERT コーディネーションセンター(JPCERT/CC)に対する届出においても、XSSが58%と約6割を占め、SQLインジェクションもそれに次ぐ多さとのことだ。*2

いずれの脆弱性も、セキュアなWebアプリケーション構築を実践できていないことを証明するものだ。開発の上流工程において、そうした脆弱性が作りこまれないような対策を行うことが大切である。

ネットワーク診断結果

高リスク以上の脆弱性ワースト10

ネットワーク診断結果に関しても、5つに分類された各カテゴリの検出割合 (「2021年下半期カテゴリ別脆弱性検出状況」掲載の円グラフ参照)において、前期と比較して特段目立つような差は見られなかった。ただ、「通信の安全性に関する問題」に関しては、「推奨されない暗号化方式の受け入れ」「推奨されないSSL/TLS方式の使用」「脆弱な証明書の検出」に分類される脆弱性項目が、それぞれ200件前後ずつ増加していることがわかった。

リスクレベル高以上の脆弱性で検出数が多い10項目は下表のとおりである。

高リスク以上の脆弱性ワースト10(2021年下半期)NW編

推奨されないバージョンのSSL/TLS

先に述べた、前期より検出数が増加している「通信の安全性に関する問題」のうち、「推奨されないバージョンのSSL/TLSのサポート」はリスクレベル高以上である。これは、SSL2.0、3.0、またはTLS1.0、1.1を使用した暗号化通信が許可されている場合に指摘している項目で、今期ワースト1の検出数だ。CRYPTREC作成/IPA発行の「TLS 暗号設定ガイドライン」は、2020年7月に第3.0.1版が公開されている。こちらを参考に、SSLの全バージョンとTLS1.1以下を無効にし、もし、TLS1.2、なるべくなら1.3の実装がまだであれば、早急に対応する必要がある。

カテゴリ別の検出結果詳細についてはこちら

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診断結果にみる情報セキュリティの現状
~2020年上半期 診断結果分析~

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SQAT® Security Report 2020-2021年 秋冬号

BBSecの診断について

当社では、Webアプリケーション、ネットワーク(プラットフォーム)、スマホアプリ、IoT、パブリッククラウド、ソースコード、標的型攻撃に対するリスク可視化等、様々な局面における診断サービスを提供することで、お客様のニーズにお応えしている。

当社の脆弱性診断サービスは、専門技術者による高精度の手動診断と独自開発のツールによる効率的な自動診断とを組み合わせ、検出された脆弱性に対するリスク評価について、右表のとおりレベル付けしている。お客様のシステム特性に応じた脆弱性の検出、リスクレベルの評価、個別具体的な解決策の提供が適切に行えるよう、高い頻度で診断パターンを更新し、診断品質の維持と向上に努めている。

2020年上半期診断結果

当社では、2020年1月から6月までの6ヶ月間に、14業種延べ533企業・団体、4596システムに対してシステム脆弱性診断を行った。2020年上半期はコロナ禍の影響でテレワークへと移行する企業も多い中、診断のニーズは変わらず存在し、診断案件数は2019年下半期とほぼ同じであった。脆弱性の検出率は以下のとおり。

脆弱性診断脆弱性検出率 2020年上半期

診断の結果、Webアプリケーション診断では、脆弱性が検出されたシステムが全体の83.9%と、前年同期(2019年上半期)の88.2%に比べて微減しているものの、依然として高い割合である。ネットワーク診断においては、脆弱性検出率は減少を続けているものの、42.8%と4割ほどのシステムに何らかの脆弱性が検出されている。

検出された脆弱性のうち、早急な対処が必要な「高」レベル以上のリスクと評価された脆弱性は、Webアプリケーションでは28.7%、ネットワーク診断では29.7%検出されている。前年同期比(2019年上半期「高」レベル検出率:Webアプリケーション27.0%/ネットワーク診断 23.6%)でいうと、Webアプリケーションはほぼ横ばいだったが、ネットワークは6.1%増えた。ネットワークに関しては、リスクレベルの高い脆弱性は増加傾向にある。 当サイトでは、「2020年上半期 カテゴリ別脆弱性検出状況」とし、当社診断で検出された脆弱性を各性質に応じてカテゴライズし、評価・分析をした結果をまとめた。以降、診断カテゴリごとに比較的検出数が多かったものの中からいくつか焦点を当ててリスクや対策を述べる。

Webアプリケーション診断結果

Webカテゴリ結果の36.0%を占める「システム情報・ポリシーに関する問題」のうち、「脆弱なバージョンのOS・アプリケーションの使用」についで検出数が多かった、「推奨されない情報の出力」に着目する(検出割合は以下参照)。

推奨されない情報の出力(2020年上半期診断実績)

システム構築時のデフォルトファイル、ディレクトリや初期画面には、攻撃者にとって有用な情報が含まれていることが多く、攻撃者にシステムへ侵入された場合、その情報をもとにした攻撃に発展し、甚大な被害につながりうる。よって、重要情報を含むファイル等には特に強固なアクセス制御をすべきであり、削除して差し支えない情報は消してしまうことが望ましい。初期画面については、表示しない設定にするのがよいだろう。

不用意な情報の出力の例として、「推奨されない情報の出力」の内訳にある、「WordPress管理者機能へのアクセスについて」をピックアップする。WordPressの管理者機能に対するアクセスが外部から可能だと、「総当り(Brute-Force)攻撃」によって、攻撃者に管理者用の認証を奪取されることで、さまざまな情報の漏洩や改竄をされる危険性がある。そのため、外部から管理者機能へのアクセスが可能な状態にしておかないことがベストだ。業務上外部からのアクセスが必要な場合は、パケットフィルタリング等の強固なアクセス制御をすべきである。

ネットワーク診断結果

NWカテゴリ結果の45.8%が「通信の安全性に関する問題」であった。その中の検出数トップ「推奨されない暗号化方式の受け入れ」に続いて検出数が多かった「推奨されないSSL/TLS通信方式の使用」に焦点をあてる。

DROWN、POODLE、BEASTといった既知の脆弱性が存在するバージョンのSSL/TLSを使用した暗号化通信を許可していると、攻撃者に脆弱性を利用され暗号化通信の内容を解読される恐れがある。推奨対策としては、SSL 2.0、SSL 3.0もしくはTLS 1.0による暗号化通信の使用を停止し、TLS 1.2以上の通信保護に移行することである。

さらに第3位「脆弱な証明書の検出」に注目し、強度の低いハッシュアルゴリズムを使用した証明書を使っている場合について述べる。強度の低いハッシュアルゴリズムは衝突攻撃に弱く、攻撃者が衝突攻撃によって元の証明書と同じ署名の証明書を作ることができ、なりすまし等の被害に繋がる可能性がある。また、主要なブラウザでは強度の低いハッシュアルゴリズムをサポートしておらず、環境によってはユーザがサイトを利用できなくなる可能性もある。よって、本番環境での運用には信頼された認証局から発行された強度の高い証明書が利用されていることを確認すべきである。

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APT攻撃・ランサムウェア
―2021年のサイバー脅威に備えを―

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2021年の半分が終わりましたが、世界に衝撃を与えたセキュリティに関するトピックスと言えば、「APT攻撃」と「ランサムウェア」の二つが該当するでしょう。本記事ではこの二つのキーワードについて最新の攻撃事例をまとめてご紹介。被害を抑えるために有効な対策の考え方のポイントを解説していきます。

サイバー攻撃の種類

まず、意味を混同されがちな「フィッシング」「標的型攻撃」「APT攻撃」「ランサムウェア」という4つの攻撃についておさらいしましょう。また、過去記事の「サイバー攻撃を行う5つの主体と5つの目的」にも表を掲載しておりますので、あわせてご参照ください。

キーワード概要
フィッシング偽サイトやそこに誘導するメール等によって、無差別に被害者が罠にかかるのを待つサイバー攻撃
標的型攻撃特定のターゲットに的を絞り、実行されるサイバー攻撃
APT攻撃Advanced Persistent Threatの略。日本語では持続的標的型攻撃などと訳される。長い時間をかけて準備され、継続して行われる非常に高度な攻撃で、発覚に数年かかることもある
ランサムウェアファイルを暗号化することで、元に戻す復号化のための身代金を要求するマルウェア(悪質なソフトウェア)

こうしたサイバー攻撃は以前からありましたが、従来無差別に行われていたフィッシングはスピアフィッシングという高度にカスタマイズされた標的型の手法が展開されたり、ランサムウェアもばらまき型から標的型へシフトしたりするなど、近年は明確な目的を持った標的型の攻撃が増加傾向にあります。その中でも、2020年以降、特に取り沙汰されることが多くなったのが「APT攻撃」と「ランサムウェア」の二つです。

「APT攻撃」と「ランサムウェア」

脅威① APT攻撃

「APT攻撃」の最も大きなトピックスとしては2020年12月に起きたSolarWinds社のOrion Platformに端を発した史上最大規模のサプライチェーン攻撃*2があります。このサイバー攻撃については2021年6月現在でも収束に向けた努力が続けられており、先日もアメリカの政府機関が、ロシア対外情報庁(SVR)が支援する攻撃グループ、「APT29」の関与を発表*2するなどの進展を見せています。

下表は最近報告されたAPT攻撃事例の一部をまとめたものです。

APT攻撃の報告事例(2020年12月~2021年4月)
発表時期関連が疑われる攻撃者概要
2020年12月APT29およびロシア対外情報庁SolarWinds社のOrion Platformへの攻撃に端を発したサプライチェーン攻撃。悪意あるアップデートを介して行われ、多数の政府機関や企業を含めた組織に影響を与えた。
2020年12月TA453Charming Kittenなどとも呼ばれる攻撃グループによる、米国やイスラエルの医療専門家を標的にしたフィッシング攻撃*3。12月に確認されたキャンペーンは「BadBlood」という名称で知られている。
2021年1月APT34イランが関与しているとされるグループ「APT34」が偽の求人情報を用いてバックドアの新たな亜種を設置する攻撃*4を実施。
2021年3月APT10およびBlackTech日本の製造業を狙う攻撃キャンペーン「A41APT」が2019年~2020年に観測された*5。攻撃にはマルチレイヤーローダー「Ecipekac」が用いられた。
2021年3月中国政府が支援しているとされるAPTグループ米国、欧州、および東南アジアの主要通信企業をターゲットに5G技術に関連する情報を盗み取ることを目的とした攻撃*6。「オペレーション Diànxùn」と名付けられたスパイキャンペーン。
2021年4月未発表Fortinet社のネットワーク製品に組み込まれたFortiOSを狙った攻撃*7
2021年4月Tickおよび中国軍「61419部隊」JAXA(宇宙航空研究開発機構)へのサイバー攻撃および、国内約200の企業への攻撃に関与していると警察庁長官が発表*8した。

APT攻撃を行うグループは、国家規模の支援を受けるグループが多く、その手口も洗練されており、攻撃を受けたとしても気づけず、発覚までに時間がかかることもあるのが特徴の一つです。彼らの多くは、国家的利益や、標的国家に損害を与えることを目的としていますが、少数派ながら金銭目的で活動するグループも存在します。

こうしたグループの場合は、金融機関などを狙うこともあります。彼らは入念に情報を収集し、得た情報を用いてネットワーク上のみならず、人的あるいは物理的な攻撃手段までをも検討し、綿密な攻撃計画を立てたうえで攻撃を行います。そして攻撃を成功させたなら、攻撃が露見しないようにひそやかに活動を続け、長期にわたって被害組織から情報を窃取するなどの攻撃を続けます。彼らは自分たちが攻撃した痕跡を消してしまうこともあるため、一度攻撃を受ければどれだけの期間、どれだけの影響範囲で攻撃を受けていたのかを突き止めるのは困難となります。加えて、APT攻撃グループは入念な情報収集から、標的組織の脆弱な部分を割り出して狙うことが多く、その特性からサプライチェーン攻撃となることもあります。

例えば、特定の複数の金融機関をターゲットとしたものの、セキュリティ対策が強固であったために直接的な攻撃が困難なケースを想定します。しかし、情報収集の段階でそれら金融機関が共通の管理ソフトウェアを使用していることが判明したため、当該ソフトウェアの提供元を攻撃し、ソフトウェアアップデートを改竄することで、標的の金融機関を一斉にマルウェア感染させる、といったサプライチェーン攻撃が実行可能となります。

脅威② ランサムウェア

一方、「ランサムウェア」についてはアメリカの大手石油パイプライン運営企業のColonial Pipeline社が、ランサムウェアによるサイバー攻撃を受け*9、5日にわたってシステムを停止することになった事件がありました。その結果、ガソリンを求める市民がガソリンスタンドに押し寄る事態に発展し、米運輸省は混乱鎮静のために燃料輸送に関する緊急措置導入を発表*10するなどして対応しました。こうしたことからも、社会インフラを襲ったこのサイバー攻撃の影響度をはかることができます。

ランサムウェア攻撃の報告事例(2020年12月~2021年6月)
時期 被害組織 ランサムウェア 概要
2020年12月
2021年1月
教育機関や
通信企業等
Cl0p ファイル転送アプライアンスである「Accellion FTA」の脆弱性を悪用するランサムウェア*11。攻撃グループは、奪取したデータの証拠として機密情報を含むいくつかのファイルを流出させた。
2021年3月 広範囲に及ぶ DearCry 「WannaCry」に類似したランサムウェアでMicrosoft Exchange Serverの脆弱性を悪用する*12
2021年5月 Colonial Pipeline DARKSIDE 攻撃されたことによってシステムが5日間停止した。同社は東海岸へのガソリン、ディーゼル、ジェット燃料の大部分を担っており大きな問題となった。
2021年5月 アメリカ国内の医療機関や警察、自治体 Conti FBIが昨年1年間でアメリカ国内の医療機関や警察、自治体を標的としたContiによるランサムウェア攻撃を少なくとも16件確認したと発表*13している。
2021年6月 JBS REvil ブラジルの食肉加工大手企業JBSのアメリカ部門が攻撃*14された。アメリカやオーストラリアの食肉工場の操業が停止になった。
2021年6月 国内精密化学企業 未発表 同社は6月1日夜に不正アクセスを認識し、2日にランサムウェアによる攻撃であると発表*15した。


ランサムウェアは、その存在自体は前世紀から存在しており、猛威を振るうようになったのは2005年以降ですが、ここ数年で大きく変化しています。2021年現在の主流となっているランサムウェアの特徴の一つがRaaS(Ransomware-as-a-Service)であることです。

これは、ランサムウェアがダークウェブ上で利用できるサービスとして提供されているというものです。RaaSの中には、身代金要求額の算定や、標的選定の支援、提供する開発グループからカスタマーサービスを受けられるものすらあります。RaaSを利用する攻撃者は、得た身代金の何割かを開発者に取り分として渡すことになっている場合もあり、ランサムウェアがビジネスとしてサービス化されています。こうしたサービスの登場により、高度な技術的知識がなくても攻撃者がランサムウェアを扱えるようになり、ランサムウェアビジネスに参入する攻撃者が増加しているとみられています。

また、ダークウェブ上にアップローダーを持つことがトレンドとなっている点も大きな変化です。これは従来のようにただ脅迫するのではなく、攻撃した企業から窃取した情報の一部を用意したアップローダーに公開することで、「身代金の支払いをしなければ、情報を漏えいさせる」と脅し、身代金要求の圧力を強める役割を持っています。こうしたランサムウェアは「二重脅迫型」と呼ばれています。また、「身代金要求に応じなければさらにDDoS攻撃を行う」といった脅迫をするケースも現れており、こうしたものも含めて「他重脅迫型」とも呼ばれることもあります。

現在のランサムウェアは、犯罪ビジネスとして洗練されてきており、今後も攻撃は拡大すると予測されます。

「APT攻撃」と「ランサムウェア」の共通点

国家規模の支援を受けて行われるAPT攻撃と、金銭目的で行われるランサムウェアに、共通点は少ないように思えます。しかし、2021年現在、両者には非常に大きな共通点がみられます。それは資金的・人的リソースが豊富で、高度で洗練された攻撃手法を確立しているという点です。

ランサムウェア市場はRaaSによって参入障壁が下がったこともあり、これまで別の犯罪ビジネスを行っていた組織が参入していると考えられ、また高額な身代金要求によって、豊富な資金が攻撃者の手にわたっています。資金と人的リソースが確保できたことで、ランサムウェア攻撃はさらに高度化が進み、従来の単純な攻撃モデルから、今やAPT攻撃に近しいレベルにまで洗練させたビジネスモデルへと変貌を遂げています。特定の組織や企業を標的としたランサムウェア攻撃の脅威はAPT攻撃に匹敵するものとなっており、より一層の警戒が必要です。

APT攻撃・ランサムウェアに有効な対策

APT攻撃にせよ、ランサムウェアにせよ、いまや完璧な防御を望むのは困難となっています。こうした脅威への対策における重要なポイントは2つあります。

① 「攻撃・侵入される前提」で取り組む
 こちらについては、「拡大・高度化する標的型攻撃に有効な対策とは
―2020年夏版
」にある「侵入」「侵入後」の対策の確認方法もあわせてご覧ください。

侵入への対策
目的:システムへの侵入を防ぐ
  侵入後の対策
目的:侵入された場合の被害を最小化する
・多要素認証の実装 ・不要なアカウント情報の削除(退職者のアカウント情報など)
・公開サーバ、公開アプリケーションの脆弱性を迅速に発見・解消する体制の構築
・VPNやリモートデスクトップサービスを用いる端末
・サーバのバージョン管理(常に最新バージョンを利用) ・ファイアウォールやWAFによる防御 など 
  ・社内環境におけるネットワークセグメンテーション
・ユーザ管理の厳格化、特権ユーザの限定・管理(特にWindowsの場合)
・侵入検知(IDS/IPSなど)、データバックアップといった対策の強化
・SIEMなどでのログ分析、イベント管理の実施
・不要なアプリケーションや機能の削除・無効化
・エンドポイントセキュリティ製品によるふるまい検知の導入
対策の有効性の確認方法
・脆弱性診断
・ペネトレーションテスト
  ・ペネトレーションテスト

②侵入を前提とした多層防御が重要
 あらためて、多層防御の状況を点検し、攻撃耐性を高めていくことが求められています。こちらについては、「高まるAPT攻撃の脅威」もあわせてご覧ください。

・標的型攻撃メール訓練等による社員のセキュリティ
・教育インシデント時の対応フロー・ポリシー・ガイドラインの整備策定・見直し
・情報資産の棚卸

今年は1年延期されていた東京オリンピック/パラリンピックの開催が予定されています。こうした世界的イベントはサイバー攻撃の恰好の標的であり、攻撃者にとっては準備期間が1年余分に確保できていたことにもなります。セキュリティ対策が不十分な組織は、7月から8月にかけて発生が予想される様々なサイバー攻撃に対して脆弱となり得る可能性があります。攻撃・侵害されることが前提の時代において、被害を受けてから慌てて対応するのではなく、予防的対策をしっかり行い、かつセキュリティ事故発生時に影響を最小限に抑えられる体制および環境作りを心掛けましょう。

参考情報:
https://www.jpcert.or.jp/research/apt-guide.html
https://www.ipa.go.jp/archive/security/security-alert/2020/ransom.html


BBSecでは

当社では以下のようなご支援が可能です。

<侵入前・侵入後の対策の有効性確認>

<APT攻撃・ランサムウェアのリスクを可視化>+
<資産管理>

<セキュリティ教育>

標的型攻撃メール訓練

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ランサムウェア最新動向2021
―2020年振り返りとともに―

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PCの画面と南京錠

昨年11月の記事「変貌するランサムウェア、いま何が脅威か -2020年最新動向」では、最近のランサムウェアは「Ransomware-as-a-Service」(通称「RaaS」)と呼ばれる形態が主流となっている、という現状をお伝えしました。本記事は2021年に新たに登場した様々な特徴や攻撃バリエーションを持つランサムウェアの最新情報をご紹介するとともに、2020年のニュースを振り返り、改めてランサムウェア対策に有効な対策を考えます。

ランサムウェア感染を招くマルウェア「Emotet」の猛威と終焉

ボット型マルウェアEmotetは、メール添付ファイルを主とする手法で感染させたPCのメールアカウントやアドレス帳などを窃取して感染拡大を図り、さらなるマルウェアに感染させるという多段階攻撃を行っていたことが確認されています。このため、Emotet感染をトリガーとするランサムウェア攻撃を多く生み出しました。

2019年から2020年にかけて世界的な流行を見せたEmotet*16は、2021年1月、欧州刑事警察機構(Europol)と欧州司法機構(Eurojust)を中心とした欧米各国による共同作戦「Operation LadyBird」によって制圧されました。*2

残存するEmoteの影響は?

Emotetインフラは無害化されましたが、その脅威がなくなったわけではありません。制圧前にすでに感染していた端末が多数存在する可能性があるためです。実際、各国法執行機関からの情報によると、制圧後の2021年1月27日時点で、日本のEmotet感染端末による約900IPアドレスからの通信が確認されたとのことです (下図)。

JPCERT/CCのEmotetに感染端末の数の推移を示したグラフ

すでに感染している場合、端末やブラウザに保存された認証情報、メールアカウントとパスワード、メール本文とアドレス帳データの窃取、また、ランサムウェアなど別のマルウェアへの二次感染といった被害が発生している恐れがあります。

Emote感染端末への対応

2021年2月5日以降、感染したコンピュータ名の情報も提供されるようになったため、総務省、警察庁、一般社団法人ICT-ISACは、ISP(インターネットサービスプロバイダ)各社と連携してEmotet感染端末の利用者に注意喚起する取組を実施しています。*3該当する通知を受けた場合にとるべき対応は次のとおりです。

◆ JPCERT/CC「マルウエアEmotetへの対応FAQ」を参照の上、
  EmoCheckにより感染有無を確認し、感染していた場合はEmotetを停止させる
◆ メールアカウントのパスワードを変更する
◆ ブラウザに保存されていたアカウントのパスワードを変更する
◆ 別のマルウェアに二次感染していないか確認し、感染していた場合は削除する

「情報セキュリティ10大脅威 2021」(組織編)
でランサムウェアが1位に

ランサムウェアに話を戻しますと、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)より発表された「情報セキュリティ10大脅威 2021」(組織編)で、「ランサムウェアによる被害」が1位に躍り出ました(昨年5位)。以下のような実情が脅威度アップにつながったと考えられます。

● 「二重の脅迫
  (暗号化+情報の暴露)」の台頭
● 特定の標的を狙った進化型の登場
● 新たな攻撃手法による標的対象の拡大

ランサムウェアによる二重の脅迫

身代金要求の条件として、従来の「データの暗号化」に加えて、暗号化前に窃取した「データの暴露」という2段階の脅迫を行う手法です。

米国セキュリティ企業はじめ、複数の企業を襲ったMaze、新型コロナウイルスの話題に便乗したフィッシングメールなどにより各国政府やインフラ事業、教育機関を中心に被害をもたらしたNetwalker。そして、暗号化による脅迫のみで使用されていた従来のランサムウェアの数々も二重の脅迫を行うようになり、実際にデータが暴露されるに至ったケースも見られます。*4「暴露型」は、もはやランサムウェアの常套手段となりました。

特定の標的を狙った進化型ランサムウェア

不特定多数に対するばらまき型でなく、特定の企業・組織を狙った標的型攻撃ツールとして使用する手法です。

2020年6月に国内自動車メーカーの社内システムが、EKANSの攻撃を受け、日本を含む各国拠点で一時生産停止に陥るなど大きな被害がありました。*5同インシデントの調査を行ったセキュリティ企業によると、同社の社内ネットワークで感染拡大するよう作りこまれていたことが確認されており、*6当該企業を狙った標的型攻撃だったことがわかります。

続く7月には、別の国内自動車メーカーの取引先が、Mazeに感染した*7と報じられ、同自動車メーカーを標的としたサプライチェーン攻撃であることがうかがえました。

さらに、2020年11月に公表された国内ゲームメーカーに対するRagnar Lockerによる攻撃では、二重の脅迫の結果、攻撃者により相次いで情報が公開(暴露)されました。最大約39万人分の個人情報流出の可能性があるとした報告の中で同社は、「オーダーメイド型ランサムウェアによる不正アクセス攻撃」と述べており、*8これもまた、巧妙に仕組まれた標的型攻撃といえます。

新たな攻撃手法をとるランサムウェア

様々な特徴や攻撃バリエーションを持つランサムウェアが新たに登場しています。以下に紹介するのは、そのほんの一部です。

Avaddon
2020年国内宛に
多数のスパム拡散を確認
Nefilim
主にMicrosoftのRDPの
脆弱性を突いて
重要インフラを狙う
Tycoon
VPNツールの不備を突いて
教育機関や政府機関を攻撃
Egregor
停止したMazeの後継ともいわれ
世界の大手企業が次々被害に
EKANS
制御システムを停止させる機能で
製造業など工場系に特化
DoppelPaymer
重要インフラへの被害急増にFBIも注意喚起

ランサムウェアは手を替え品を替え、次々に新種や亜種が生まれ続けています。例えば、2021年3月、Microsoft Exchange Serverについて報告された4件のゼロデイ脆弱性*9を利用したサイバー攻撃が活発化しましたが、その中の1つに、中国に関係する攻撃グループによる新種のマルウェア「DearCry」を利用したキャンペーンがあり、主に米国やカナダ、オーストラリアに存在する多くの脆弱なメールサーバが感染の被害を受けたとされています。

ランサムウェア市場の活況

2020年における世界のランサムウェアの被害額は200億米ドルに及ぶとするデータ*10があり、ここ数年、うなぎのぼりです(棒グラフ)。要求される身代金は1件平均17万米ドルにのぼるとの調査結果(2020年)*11も公表されています。

ランサムウェアを活発にしている原因の1つに、RaaS(Ransomware-as-a-Service)の存在が挙げられます。2020年のランサムウェア攻撃における攻撃元の6割以上をRaaSが占めているとするデータ*12もあります(円グラフ)。

Group-IBによるランサムウェア調査レポートの棒グラフ(ランサムウェア被害額)と円グラフ(ランサムウェア攻撃元)

専用サイトやコミュニティにより、犯罪グループなどにランサムウェアを提供して互いに利益を生み出す市場が成り立っています。金額、技術、サービスのレベルは様々で、単にランサムウェア自体をリースや売買するだけでなく、身代金ステータスを追跡できる仕組みや犯罪を実行するにあたってのサポートなども提供されている模様です。技術的なスキルがなくても容易にランサムウェアを拡散させることができるほか、カスタマイズを通じた亜種の誕生にもつながっていると思われます。

企業が行うべきランサムウェア対策とは?

2021年、ランサムウェアは実質的にサイバー攻撃手段第一の選択肢となっており、その脅威がますます高まることは間違いありません。では、組織・企業はこれにどう立ち向かえばよいのでしょうか。

ランサムウェアを含むマルウェアの感染経路は様々ありますが、総務省が中心となって運用するマルウェアの感染防止と駆除の取組を行う官民連携プロジェクト「ACTIVE(Advanced Cyber Threats response InitiatiVE)」では、以下のように分類しています。

マルウェアの感染経路の分類タイプ(Web閲覧感染型・Web誘導感染型・ネットワーク感染型・メール添付型・外部記憶媒体感染型)
出典:ACTIVEホームページ (https://www.ict-isac.jp/active/security/malware/)

こうした感染経路や本稿で紹介したような手口に対する防御、および感染した場合を想定した以下のような対策が重要です。

◆ 標的型攻撃メール訓練の実施
◆ 定期的なバックアップの実施と安全な保管(別場所での保管推奨)
◆ バックアップ等から復旧可能であることの定期的な確認
◆ OSほか、各種コンポーネントのバージョン管理、パッチ適用
◆ 認証機構の強化
  (14文字以上といった長いパスワードの強制や、多要素認証の導入など)
◆ 適切なアクセス制御および監視、ログの取得・分析
◆ シャドーIT(管理者が許可しない端末やソフトウェア)の有無の確認
◆ 標的型攻撃を受けた場合に想定される影響範囲の確認
◆ システムのセキュリティ状態、および実装済みセキュリティ対策の有効性の確認
◆ CSIRTの整備(全社的なインシデントレスポンス体制の構築と維持)

ランサムウェア特有の対策もさることながら、情報セキュリティに対する基本的な対策が欠かせません。また、セキュリティ対策は一過性のものではなく、進化し続けるサイバー攻撃に備えて、定期的に確認・対応する必要があることも忘れてはならないでしょう。

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狙われる医療業界
―「医療を止めない」ために、巧妙化するランサムウェアに万全の備えを

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いま、医療機関を標的としたランサムウェア攻撃が増え続けています。
足元で顕著になっているのは、攻撃による被害インパクトが大きい特定のシステム・事業を狙い、「より確実に、より高額の」身代金を得ることをもくろむ、手の込んだ持続的な攻撃です。事業継続に直結するシステムや機微情報等が保存されているシステム、事業が中断・停止した場合に甚大な影響をもたらす重要インフラなどが標的にされやすく、医療機関のシステムはその最たるものといえます。本記事では、医療機関を狙うランサムウェアの現状を紹介し、取りうる対策について考えます。

勢いづく攻撃、日本も「対岸の火事」ではない

米国では、2020年秋、数週間のうちに20を超える医療機関でランサムウェア攻撃が確認されました。*13下記にその一部を紹介しますが、パンデミック下で医療現場が逼迫(ひっぱく)する中、追い打ちをかけるように攻撃の勢いが増しているのです。10月末には、米CISA、FBI、米保健福祉省が共同でセキュリティ勧告を発する事態となっています(後述)。

表1:医療機関を狙ったランサムウェア被害(一部)

2020年9月 Universal Health Services(米国の医療サービス最大手)
がシステム停止*2
ニュージャージー州の大学病院が患者データを暗号化
され、一部データを不正に公開される*3
2020年10月 オレゴン州の病院でコンピュータシステムが使用不能に*4
ニューヨーク州の複数の病院でシステムが使用不能に*5

なお、日本では2018年10月、近畿地方の公立病院がランサムウェア攻撃の被害を受け、一部の患者カルテ情報が暗号化されてしまい、診療記録等の参照ができない状況に陥りました。今後攻撃者がターゲットを広げ、米国のように日本国内でも被害が活発化するのは、もはや時間の問題かもしれません。

攻撃者はなぜ医療業界を狙うのか

もちろん、攻撃を受けた場合の被害インパクトが大きい(=高額の身代金を設定し得る)重要インフラとみなされるのは、医療のみではありません。日本では、医療のほか、情報通信、金融、航空、空港、鉄道、電力、ガス、政府・行政サービス、水道、物流、化学、クレジット、石油という、計14分野が重要インフラと位置づけられています。では、なぜ攻撃者は医療業界に目をつけるのでしょう。それは、次のような特徴があるためです。

  • 患者に関する情報はブラックマーケットで特に高額で売買される
  • 「事業の停止が直接生命に関わる」という点が、身代金要求に応じさせるうえでの強力な要因になる
  • 地域医療連携など医療機関同士のやり取りでは、インターネットVPNやインターネット(TLS 1.2)、またはIP-VPN(地域医療連携専用閉域ネットワーク)が採用されており、 連携先の端末のセキュリティ対策がされていない、情報共有が上手くされていないという課題がある
  • 診断・医療に用いられるシステムは多くの場合非常に高額で長期使用を前提として作られており、コスト・技術的理由などから、古いまま使われ続けている傾向がある
  • 情報セキュリティの三要素(C(機密性)、I(完全性)、A(可用性))のうち、医療では可用性が何よりも重視される傾向があり、相対的に他の2要素への対応がおろそかになりがち

また、昨今の医療情報は、患者のデータだけではなく、IoT等の新技術やサービス等の普及により、様々な端末とつながっている場合があり、攻撃者側からすれば、「カネになるビジネス」として狙われるターゲットとなり得ます。

なお、弊社が2020年8月、国内のIT担当者を対象に実施した「脆弱性管理に関するアンケート」の結果では、医療業界は、情報システム部門を持たず別部門の担当者が兼務している状況が他業種よりも顕著で、かつ、情報システム部門を有する場合もその規模が小さいことが明らかになっています。セキュリティへの対応に十分なリソースを避けないという構造的な問題も、攻撃者を引き付ける一因といえるでしょう。

【参考情報】
医療機関では古いシステムが使われ続けている傾向が強い

新型コロナウイルス感染症拡大に伴い利用が急増しているG SuiteやMicrosoft 365については、セキュリティのチェックリストや推奨設定例が公開されていますので、以下にご紹介します。古いシステムが使われ続けているという傾向に関し、医療システムに関する世界最大規模の業界団体HIMSS(Healthcare Information and Management Systems Society)による年次調査の結果を紹介しましょう(下図)。 組織内で何らかの旧式化したシステム(レガシーシステム)を使っている、という回答は、2020年において8割に達しています。最も多いのはWindows Server 2008で50%の組織に存在、昨年サポートが終了したWindows 7は49%、さらに前の世代のWindows XPは35%です。この業界が攻撃者に特に好まれることに納得する結果といえないでしょうか。


「2020 HIMSS Cybersecurity Survey」より
出典:https://www.himss.org/sites/hde/files/media/file/2020/11/16/2020_himss_cybersecurity_survey_final.pdf

なお、身代金目的とは異なりますが、このパンデミック下、ワクチン開発競争を背景に研究情報を狙った国家ぐるみのサイバー攻撃が活発化しているという点も、医療機関に対する攻撃増加の追い風になっているとみられます。

ランサムウェア攻撃の変貌2020

従来のランサムウェアでは、ウイルスを添付したメールのばらまき、悪意あるWebページへの誘導などにより、不特定多数を対象に広範な攻撃を行うことで身代金獲得を狙う、というやり方が主流でした。現在も依然としてそうした形の攻撃は存在しますが、前述のように、「より確実に、より高額の」身代金を獲得することを狙った変化が目につきます。最近のランサムウェアの特徴として指摘されているのは主に次の2点です。

人手による攻撃 ‐標的を定めて周到に準備‐

ランサムウェアを自動化されたやり方で幅広くばらまくのではなく、特定の組織を標的にして手動で侵入を試み、侵入成功後はネットワーク内に潜伏してさまざまな活動を行い、攻撃の成果を最大化することを狙います。こうした人手による攻撃には、APT(Advanced Persistent Threat:持続的標的型攻撃)との類似点が多く、その結果、ランサムウェア攻撃への対策にはAPTと同水準の取り組みが求められるようになっています。

二重の脅迫 ‐より悪質なやり方で被害者を追い詰める‐

「身代金を払え」という脅迫に加え、「身代金を支払わないと機密データを公開するぞ」という脅迫を重ねて行い、支払いを迫ります。実際にデータを公開されてしまったという事例が複数確認されているほか、データが破壊されてしまったケースも出ており、攻撃を受けた場合のダメージの大規模化、深刻化がみられます。 現在、こうした特徴を持つ新しいタイプのランサムウェアがいくつも生み出され、世界各地で猛威を振るっているのです。詳細については「変貌するランサムウェア、いま何が脅威か‐2020年最新動向‐」にまとめていますので、ぜひこちらもあわせてご覧ください。

ランサムウェア対策への取り組み ‐医療情報システムに関するガイドライン‐

先に触れたとおり、ランサムウェア攻撃の活発化を受け、米CISA、FBI、米保健福祉省はセキュリティ勧告「Ransomware Activity Targeting the Healthcare and Public Health Sector」を公表しました。同勧告では、各種ランサムウェアの分析結果を踏まえ、下記のようなベストプラクティスを提示しています。

図:ネットワークセキュリティ・ランサムウェア対策に関するベストプラクティス

Ransomware Activity Targeting the Healthcare and Public Health Sector」より

こうしたベストプラクティスを遂行するうえで重要なのが、ステークホルダー間の効果的な連携です。医療機関では、部門や職務によって異なる企業の製品やサービスが用いられており、システム連携はしばしば複雑です。いま、医療業界が攻撃者の明確な標的となる中、医療機関、および医療機関向けにサービスや製品を提供する事業者は、自らの責任範囲を理解したうえで、これまで以上に緊密な連携を図り、システムのセキュリティ強化に取り組んでいく必要があります。

なお、日本においては、医療情報システムの安全管理に関し、技術・制度的な動向を踏まえてガイドラインの継続的な策定・更新が行われており、現時点で医療機関、事業者のそれぞれを対象とした下記2種が提示されています。責任分界点の考え方や合意形成の考え方など、連携をより効果的にするための課題も取り上げられており、目を通しておきたい資料です。

表2:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン

1)厚生労働省
医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(第5版、2017年5月)
  • 対象読者は、医療情報システムを運用する組織の責任者
  • 医療情報の扱いを委託したり情報を第三者提供したりする場合の責任分界点の考え方を示し、医療システムを安全に管理するために求められる対応を規定
2)経産省・総務省
医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」(2020年8月)
  • 対象読者は、医療システムやサービスを提供する事業者。なお、医療機関等と直接的な契約関係のない事業者も医療システム等のサプライチェーンの一部として機能している場合、このガイドラインの適用範囲となる
  • 事業者に求められる義務と責任の考え方、医療機関等への情報提供と合意形成の考え方、リスクマネジメントの実践やリスク対応のための手順などを規定

APTと同水準の対策を立て、全方位での備えを

繰り返しになりますが、現在活発化しているランサムウェア攻撃の手口は高度かつ執拗です。守る側には、従来よりも踏み込んだ、APTと同水準の対策が求められます。そこで鍵になるのは、「侵入される」「感染する」ことを前提とした取り組みです。想定される被害範囲をあらかじめ洗い出し、優先順位をつけて対策をとりまとめていくことで、万一攻撃を受けた場合でもその被害を最小化することが可能になります。

なお、こうした対策を立てるにあたっては、セキュリティ専門企業が提供しているサービスもうまく活用しましょう。たとえば、想定される被害範囲を把握する際は、システムへの擬似攻撃等をメニューに含んだサービスを利用すると、精度もスピードも高められるでしょう。 激化するランサムウェア攻撃から医療システムを守るため、医療機関、関連事業者をはじめとするステークホルダーが連携し、全方位的なセキュリティに取り組むこと。それは、日々現場で闘う医療者を支えるための社会的ミッションともいえるでしょう。


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