認証技術は今

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SQAT® Security Report 2021-2022年秋冬号

スマートフォンでパスワード認証をする人のイメージ

※本記事は、SQAT®Security Report 2021-2022年秋冬号の記事、
「認証技術は今」の一部抜粋になります。

認証とは、主に、特定の場所への入場や特定のシステムの利用などにあたって、「その人物が確かに入場や利用を許可された当人であるか」確認することを指す。認証技術は、様々なシステムにおいてユーザの真正性を確認するためのものであり、セキュリティの要といえる。本稿では、Webサービスおよびスマートフォン(以下、スマホ)アプリにおけるユーザ認証技術について、昨今の実情を今一度整理し、セキュアなシステム構築のためにどのような認証機構が求められているのかを探る。

認証をとりまくリスク

サイバー攻撃のうち、認証の仕組みに不備があることにより発生するのが、アカウントの乗っ取りである。最近報告された国内のインシデントには以下のような例がある。

報告時期インシデント影響
2021年6月大学研究員のメールアカウントの不正利用*1海外の不特定多数の宛先に迷惑メールが送信された。
2021年2月メッセージングアプリアカウントへの不正アクセス*23,000を超える認証情報が流出した恐れ。
2020年9月電子決済サービス不正口座利用*3多数の銀行口座から不正引き出し。金融庁が対応要請を出した。

パスワード認証の限界

ID・パスワードによるログインを試行する攻撃手法は複数あるが、パスワードリスト攻撃の一種で、ボットにより大量の不正ログインを試みるCredential Abuseは、1日に億単位で実行されている。このうち特に金銭被害に直結しがちな情報を保持する金融サービス業では、1日あたり数千万件との報告もある(下・折れ線グラフ)。

Credential Abuseの試行数の折れ線グラフ
出典:Akamai Technologies, Inc.「SOTI インターネットの現状/セキュリティ」レポート第2号『金融業界に対するフィッシング攻撃』
https://www.akamai.com/jp/ja/multimedia/documents/state-of-the-internet/soti-security-phishing-for-finance-report-2021.pdf

しかしながら、どれほどサービス提供側が警告を発したとしても、ユーザは複数のサービスで同じパスワードを使いがちだ。実際、複雑なパスワードを設定するのも、複数の異なるパスワードを管理するのも面倒である。ヒトの記憶に頼るパスワード認証という方法の宿命と言えるだろう。

認証の3要素

ここで、そもそも認証にはどのような要素があるか、おさらいしたい。認証の要素になり得るのは、その本人だけに属するモノ・コトだ。次のとおり、(…続き)


本記事はここまでになります。

この記事の続きでは、単要素認証(パスワードのみの認証など)と多要素認証(パスワード+スマホで受信した認証コードなど)それぞれのリスクと認証情報漏洩を防ぐための暗号化技術をご紹介し、安全な認証実現に対して企業がどのように取り組むべきかということについて解説しています。ぜひご一読ください。

※参考(続き)
contents
3.主な認証技術
4.パスワード認証以外なら安全か
5.リスクをできるだけ回避する多要素認証
6.情報漏洩対策のための暗号化
7.「高機能暗号技術」による保護
8.安全な認証実現のために
9.まずは現状の認証が安全か確認することから

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クラウドセキュリティ対策の方法とは?
クラウドサービスの不安とメリットを解説

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クラウドセキュリティ対策の方法とは?クラウドサービスの不安とメリットを解説のサムネ

クラウドサービスを利用する企業は約7割を超え、いまやITビジネス環境に欠かせない存在です。AWS、Azure、GCPなどのクラウドサービスの代表例と、クラウド導入のメリットと不安、クラウドセキュリティを担保する方法を解説します

日本の各企業でも、クラウドサービス(クラウド)の利用はさらに進み、オンラインによるコミュニケーションやデータ共有、迅速なシステム構築などに活用されています。 しかし、ハードウェアを自社内やデータセンター等の設備内に設置する「オンプレミス」と比べ、セキュリティに対する漠然とした不安の声もあります。導入担当者やセキュリティ担当者は、クラウドセキュリティを確保していく必要があります。

この記事では、企業で活用されているクラウドサービスを例示しながら、「クラウド」「SaaS」「PaaS」「IaaS」「オンプレミス」などクラウド関連の用語を解説します。またクラウドサービスのメリットや不安点を挙げた上で、最後にクラウドセキュリティについて論じます。

クラウドサービスとは

クラウドサービスとは、ソフトウェアやサーバ、インフラなどを製品としてではなくサービスとしてクラウド事業者が提供するものです。これまでのソフトウェアやサーバの調達と異なり、利用者はサブスクリプション形式で利用料を支払い、クラウド上にあるリソースをサービスとして利用します。

クラウド(cloud)という名称は、ネットワークの模式図上で雲のような形状で示されるところからきました。ひとつの雲で表されますが、実際には複数のサーバ機器やネットワーク機器で構成され、サーバにはサービスに必要なソフトウェアが導入されています。

サーバを事業所内に設置するような利用形態「オンプレミス」という用語は、「クラウド」の対義語のように使われていますが、英語のon-premiseの本来の意味合いは「敷地内の」というものです。

なおクラウドサービスを分類すると、3つの主要サービスがあります。具体的なイメージを掴めるよう、法人で幅広く使われているクラウドサービスを挙げながら紹介します。

SaaS(Software as a Service、サース、サーズ)

Gmail(Webメール)、Microsoft Office 365(オフィスソフト)、Dropbox(ストレージ)、Slack(チャット)などのサービスがあります。一般ユーザが使用するアプリケーションをサービスとして提供します。

IaaS(Infrastructure as a Service、アイアース、イアース)

利用者が選択したスペックやOSに合わせた、仮想的なマシン(インフラ)を提供します。利用者側で必要なアプリケーションをさらにインストールするなどして、用途に合わせてカスタマイズできます。

たとえばWebサービスを顧客に展開するときに、Webサーバとして活用するケースがあります。Amazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)、Azure Virtual Machines、Google Compute Engine(GCP)といったサービスがあります。

PaaS(Platform as a Service、パース)

IaaSが提供する仮想マシンに加え、上位のミドルウェアを含め提供するプラットフォームがPaaSです。さまざまなサービスがありますが、たとえばAWSのAmazon Relational Database Service(Amazon RDS)では、主要なリレーショナルデータベース(RDB)をサポートします。また、GCPのGoogle App Engine(GAE)は、JavaやPythonなどで開発したアプリケーションをGCPのインフラ上で簡単にデプロイ、管理できるようになっています。

CaaS(Container as a Service、カース)

コンテナ技術を用いると、例えば開発用、本番用といった異なるサーバやOS間で同一の環境を持ち運べるなど、効率的なアプリケーション開発が実現できますが、複数のコンテナを組み合わせた大規模な環境では、それらを運用、管理するのに手間がかかります。CaaSは、複数のコンテナ利用に必要なオーケストレーション機能(管理/サポートする機能)を多数提供し、開発業務のさらなる効率向上を可能にします。代表的な例には、Docker、GKE(Google Kubernetes Engine)、Amazon ECS(Elastic Container Service)、VMware PKSなどのサービスがあります。

なお企業向けのクラウドセキュリティの議論はIaaSやPaaSを対象にしたものが中心です。これは、SaaSのセキュリティ管理は、クラウド事業者とサービサーが担うため、企業側で対応する余地があまりないためです。この記事でも、特に断りのない限りIaaSやPaaSを念頭に説明を進めていきます。

日本政府もAWSを導入!クラウドを利用する日本企業は7割に

2020年2月、政府が「政府共通プラットフォーム」にAWSを利用する 方針であることを発表しました。政府が採用を決める前から、企業でもクラウド利用が広がっています。以下は、総務省の通信利用動向調査の結果です。クラウドを全社的または一部の部門で活用する日本企業は毎年増え続け、2021年では70.2%に上っています。

国内におけるクラウドサービス利用状況

国内におけるクラウドサービス利用状況のサムネ
出典:
総務省「令和3年通信利用動向調査」企業編
総務省「平成30年通信利用動向調査の結果」(令和元年5月31日公表)

クラウドサービス導入のメリット

ピーク性能に合わせて購入するのが一般的なオンプレミスと比べ、クラウドでは必要な時に必要なスペックで サーバやソフトウェアの契約を行うことが可能です。

1.どこからでもアクセスできる

WebメールやオンラインストレージといったSaaSを利用している場合、どこにいてもインターネットがあればアクセスできます。

2.負荷に応じて動的にシステム変更可能

アクセスの増減に合わせて、Webの管理ツールを操作するだけで、サーバを追加したり削減したりできます。オンプレミスと比べ、変更にかかる時間を大幅に短縮できます。 TVで取り上げられた場合などに発生する、突発的なアクセス増にも柔軟に対応可能です。

3.開発者が多くどんどん便利になっている

利用が急拡大しているグローバル規模のクラウド事業者は、世界中から優秀な開発者を集めており、次々と機能追加が行われています。

クラウドサービスに対する4つの不安

クラウドサービスに対する4つの不安のサムネ

1.情報漏えいリスク

どこからでもアクセスできて便利な反面、オンプレミス環境のように手元に情報を保持していない分、漠然とした不安や、攻撃対象になりやすいのではないかといった懸念があります。こうした懸念に応えるセキュリティ対策については後述します。

2.システム稼働率や法規制対応

クリティカルなサービスを提供する企業では、稼働率などを保証するSLA(Service Level Agreement)や、冗長構成を必要とする場合があります。また、クラウドサービスの利用にあたり、社内の基準やコンプライアンス、業界基準、国内法に準拠している必要があります。

これらの不安に対応して、AWSなど大手のクラウドサービスではSLAや第三者機関から取得した認証など、各種基準への対応状況を公表しています。

3.従量課金による費用変動

クラウドサービスの課金体系には、月額・日額の固定料金制もあれば、従量課金制もあります。利用形態によっては、オンプレミス環境を用意したほうが安価な場合もあります。システム利用計画を建ててから契約しましょう。

4.カスタマイズやベンダーのサポート体制

クラウド事業者は複数の顧客に共通のサービスを提供することで。オンプレミス環境と同様のカスタマイズやサポートは望めない場合もあります。

クラウドセキュリティ要件のガイドライン

クラウドセキュリティ要件のガイドラインのサムネ

クラウドサービス提供者側のセキュリティ要件として、たとえば総務省では「クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン」を提供しています。

クラウド事業者は施設の物理セキュリティや、ネットワークなどのインフラのセキュリティに責任を持ちますが、利用者側にもネットワーク周りの設定や管理アカウントの管理などの対策が求められます。

クラウドの設定ミスに起因する事故

AWSに置かれていた、米ウォールストリートジャーナル紙の購読者名簿220万人分が、第三者による閲覧が可能な状態になっているという事故がありました。これは、利用者側の設定ミスに起因するものです。

オンプレミス環境ではサーバを直接操作する人は限られており、サーバルームの入退室記録簿等々、事故が起こらないようにさまざまなルールや、それを守る体制がありました。しかしクラウドでは、前述したようにどこからでもアクセスして、Web管理ツールで簡単にシステムを変更できるという利点が、逆に事故につながる場合があります。

クラウドセキュリティ対策の方法は?

ひとつは、クラウドサービスの設定に関わるベストプラクティス集を利用する方法です。各クラウドベンダーから公開されており、日本語版も用意されています。CISベンチマークという第三者機関が開発したセキュリティに関するガイドラインもあります。ただし、網羅性が高く項目も多いため、必要な項目を探すには時間がかかる場合もあります。

もうひとつは、クラウドの設定にセキュリティ上の問題がないか診断するツールを利用する方法です。実用するには一定の習熟が必要で、たとえば出力された多数の脆弱なポイントについて、どこを優先して対処していくかの判断が求められます。セキュリティ企業が提供する診断サービスを利用する方法もあります。パブリッククラウドの設定にリスクがないか専門家が診断します。

クラウドセキュリティ設定診断サービスのサムネ

まとめ

・クラウドのセキュリティは、クラウドサービスの提供側と利用者側双方で担保する
・提供側はインフラ等のセキュリティに責任を負う
・利用者側はセキュリティ、ネットワーク、アカウントなどの設定・管理を適切に行う
・利用者側の対策として、ベストプラクティスの活用、自動診断ツール、セキュリティベンダーの提供するサービスを利用するといった方法がある

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セキュリティ診断の必要性とは?

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「セキュリティ診断」とは何か?セキュリティ診断には脆弱性診断、ソースコード診断、ペネトレーションテストなどの方法があります。今回は、企業にセキュリティ診断が不可欠な背景を説明します。また、診断以外のセキュリティ対策にも触れます。

セキュリティ診断の必要性とはのサムネ

サイバー攻撃や組織における管理またはシステムの設定不備・不足等が原因となり、機密情報等の漏洩事故および事件が相次いで発生しています。東京商工リサーチの調べによれば、上場企業とその子会社で起きた個人情報漏洩または紛失事故・事件件数は2021年で137件となり過去最多を更新しました。*4実際に企業がデータ侵害などの被害を受けてしまい、機密情報等の漏洩が発生してしまうと、システムの復旧作業に莫大なコストがかかるほか、データ侵害によるインシデントが信用失墜につながることで、 深刻なビジネス上の被害を引き起こします。被害を最小限に抑えるために、適切な事故予防、攻撃対策をとっていくことは、企業の重要な業務のひとつとなっています。

セキュリティ対策やセキュリティ診断は、企業にとっていまや基幹業務に不可欠であり、社会的責任でもあります。この記事ではセキュリティ診断の内容と必要性などを解説します。

セキュリティ診断とは? その必要性

セキュリティ診断とは、システムのセキュリティ上の問題点を洗い出す検査のことを指します。脆弱性診断、脆弱性検知、など呼び方もさまざまで、また対象によってソースコード診断、システム診断、Webアプリケーション診断、ペネトレーションテストなどに分類されます。

なお、複数の診断方法のうち、同様の診断をセキュリティベンダーや診断ツール提供者がそれぞれ微妙に異なる名称で呼んでいるケースもあります。

「セキュリティ診断」という用語は、単に「脆弱性診断」を指すこともあれば、セキュリティに関するさまざまな診断や評価全体を包括して「セキュリティ診断」と呼ぶ広義の使い方もあります。

「セキュリティ」には、情報セキュリティだけではなく、デジタル社会へのリスク対応全般が含まれる場合もありますが、「セキュリティ診断」という用語は、企業など組織の事業における(情報)セキュリティリスクの低減を主な目的とした検査のことをいいます。

資産である情報の「機密性」「完全性」「可用性」を守るため、セキュリティ診断を行うことで、情報セキュリティの観点からみた構造上の欠陥や、組織体制、あるいは運用上の弱点を見つけることができます。発見された問題に対し優先順位をつけて対策を実施することで、より堅牢なシステム・環境・体制を構築することができます。

企業に求められる情報セキュリティ対策の例

企業が実施するセキュリティ対策のうち、よく話題にあがるものをいくつかピックアップして説明します。

不正アクセス対策

不正アクセス対策のサムネ

不正アクセスとは、本来アクセス権限を持たない者が、何らかの手段を用いて第三者の情報にアクセスすることをいいます。なりすまし不正侵入といった形が一般的です。不正アクセスによって、個人情報や知的財産が奪われる、サーバやシステムが停止するなど、企業活動に影響するリスクが生じます。不正アクセスに対しては、「不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)」によって、アクセス管理者にも次の管理策を行う義務が課されています(ただし、罰則はありません)。
・識別符号の適切な管理
・アクセス制御の強化
・その他不正アクセス行為から防御するために必要な措置
セキュリティ診断を通じてシステムに存在する弱点を洗い出し、発生箇所を特定することで、こうした不正侵入などへの対策を立てやすくする効果があります。

脆弱性対策

脆弱性とは、一つ以上の脅威によって付け込まれる可能性のある資産または管理策の弱点をいいます。脅威とは、「システム又は組織に損害を与える可能性がある、望ましくないインシデントの潜在的な原因」で、いわばシステムにおけるバグのようなものです。それらの脆弱性は、「危険度を下げる」「蔓延を防ぐ」「影響度を下げる」ことで、悪用されにくくすることができます。

脆弱性対策とは、これらの角度からシステムの欠陥をつぶしていく行為ともいえます。利用しているソフトウェアの既知の脆弱性をアップデートやパッチの適用で常に最新版に保ったりすることや、システム開発の場面でそもそも脆弱性を作りこまないように開発することなどが、その典型例です。

標的型攻撃対策

近年、「高度標的型攻撃(APT)」と呼ばれる、新しいタイプの攻撃が警戒されるようになりました。もともと、標的型攻撃とは、特定の企業や組織に狙いを定めてウイルスメールを送るなどの攻撃を仕掛けるものでしたが、高度標的型攻撃は、特定のターゲットに対して長期間の調査と準備を行い、ときには社内のネットワーク構成図や会社組織図、キーパーソンの休暇の取得状況まで調べ上げたうえで、サイバー攻撃を仕掛けてきます。

標的型攻撃対策のサムネ

従来、標的型攻撃の対策としてはセキュリティ意識を高める訓練が主でしたが、今では「侵入されること」を前提に、セキュリティ機器を使った多層防御システムを構築することの大切さが、広く認識されるようになってきました。高度標的型攻撃に特化したセキュリティ診断を受けることで、攻撃被害スコープを可視化したり、脅威リスクのシミュレーションを行うことができます。

運用を含むリスクアセスメント

システムが技術的に強固に守られていても、アクセス用のIDとパスワードを付箋紙に書いてモニターに貼り付けていたら、安全は保たれるべくもありません。

システムなど技術的側面からだけでなく、作業手順や業務フロー、作業環境、組織のルールなどの運用面も含めてリスク評価を行うことを「リスクアセスメント」と呼びます。リスクアセスメントを通じて、リスクの棚卸による現状把握ができ、優先順位をつけて改善策を講じていくことが可能になります。

セキュリティ診断の方法と種類

セキュリティ診断の分類はいくつかあります。
<診断対象による分類>
 ・Webアプリケーション脆弱性診断
 ・ネットワーク脆弱性診断
 ・ソースコード診断
 ・スマホアプリ脆弱性診断
 ・ペネトレーションテスト
 ・クラウドセキュリティ設定診断
 ・IoT診断

<ソースコードや設計書の開示の有無による分類>
 ・ホワイトボックステスト
 ・ブラックボックステスト

<診断実施時にプログラムを動かすかどうかによる分類>
 ・動的解析
 ・静的解析

ホワイトボックステスト/ブラックボックステスト、動的解析/静的解析については、SQAT.jpの以下の記事でご紹介しています。こちらもあわせてご覧ください。
「脆弱性診断の必要性とは?ツールなど調査手法と進め方」

Webアプリケーションセキュリティ診断

Webアプリケーションに対して行う診断です。事業活動に欠かせないWebサイトはデータの宝庫です。ハッキング対象の約7割がWebサイトであるともいわれています。ひとたびデータ侵害が起こると、事業継続に影響を与えかねないインシデントを引き起こすリスクがあります。

ネットワークセキュリティ診断

サーバ、データベース、ネットワーク機器を対象として脆弱性診断やテスト、評価を行います。搭載されているOS、ファームウェア、ミドルウェアなどのソフトウェアについて、最新版か、脆弱性がないか、設定に不備がないかなどを確認します。ネットワークの脆弱性対策をすることで、サーバの堅牢化を図る、不正アクセスを防止するなどの効果を得られます。

ソースコードセキュリティ診断

WEBアプリケーションは、プログラムの集合体であり、脆弱性はプログラム処理におけるバグであるといえます。入力チェックやロジック制御に、バグ(考慮不足)があるから、想定しない不具合が発生すると考え、プログラムコード(ソースコード)を調べていくのがソースコード診断です。ソースコード診断はプログラムに対するセキュリティ観点でのチェックであるとともに、開発工程の早い段階で、脆弱性を検出することが可能になります。

セキュリティ診断で未然に事故を防ごう

セキュリティ診断で未然に事故を防ごうのサムネ

セキュリティ診断のひとつとして挙げた脆弱性診断には、さまざまな診断ツールが存在しており、無料で入手できるものもあります。しかしツールの選定や習熟には一定の経験や知見が求められ、そもそも技術面だけでは企業のセキュリティを確保することはままなりません。セキュリティの専門会社の支援を受けて、客観的な評価やアドバイスを受けるのも有効な手段です。

セキュリティ専門会社による脆弱性診断を実施することで、日々変化する脅威に対する自システムのセキュリティ状態を確認できるため、適時・適切の対策が可能です。予防的コントロールにより自組織のシステムの堅牢化を図ることが事業活動継続のためには必須です。

まとめ

  • Webアプリケーションセキュリティ診断、ネットワークセキュリティ診断、ソースコード診断、セキュリティに関するさまざまな診断やテストが存在する
  • 不正アクセスなどの攻撃を防ぐためシステムの脆弱性を見つけて対策することが必須
  • 技術的対策だけでセキュリティを担保することは難しい
  • 人間の脆弱性や業務運用までを含む包括的な視点で組織にひそむリスクを洗い出すことも重要
セキュリティ診断サービスのサムネ

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情報漏えいの原因と予防するための対策

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サイバー攻撃の被害を受け、システムの機密情報等が漏えいする事故の件数は年々増加しています。実際に企業がデータ侵害などの被害を受けてしまい、機密情報等の漏洩が発生してしまうと、システムの復旧作業に莫大なコストがかかることになり、企業にとって大きなビジネス損失につなる恐れもあります。では、未然に事故を防ぐ対策はどのような方法があるのでしょうか。本記事では、情報漏えいの原因と予防策について解説します。

情報漏えいとは

情報漏えいとは、サイバー攻撃などによる不正アクセスや、ノートPCの紛失などによって、企業や組織の保有する外部に出てはいけない情報が漏れてしまうことです。個人情報漏えいが特に注目されますが、企業の営業情報や知的財産、機密情報など、漏えいする情報は多岐にわたります。

個人情報漏えい

インターネットの普及に伴い、Webサービスへの会員登録などで個人情報が大量に蓄積され、同時にノートPC・スマホ・USBメモリ等の記憶媒体の容量が増加、情報漏えいも大規模化しました。こうした社会の変化に対応し、2005年(平成17年)、「個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)」が施行されました。

個人情報保護法では、個人情報漏えいが発生した組織は、事実関係と再発防止策に関して、政府の個人情報保護委員会等に「速やかに報告するよう努める」とされており、業種によっては監督官庁への報告義務が課される場合もあります。

情報漏えいの重大度の違い

どんな情報が漏えいしたかによって漏えい事故の深刻度は異なります。「顧客の個人情報が○○件漏えい」といった報道の見出しを見かけますが、漏えいの件数以外にも、情報漏えい事故の重さ、深刻さを左右するポイントを挙げます。

・クレジットカード情報
被害に遭ったユーザーに金銭被害をもたらす可能性の有無という点で、漏えいした情報にクレジットカード情報が含まれていたかどうかは重要なポイントです。損害賠償等が発生した場合、クレジットカード情報が含まれていると被害者への賠償額がアップします。

・セキュリティコード
クレジットカード情報の名義人・カード番号・有効期限だけでなく、3桁のセキュリティコードを含むかどうかが事故の深刻さを左右します。被害に遭ったユーザーに金銭被害をもたらす可能性がより高くなるからです。

・パスワード
たとえばメールアドレスとセットでそれに紐付くパスワードも漏えいしていたとしたら事態はより深刻です。オンラインサービスなどに悪意の第三者が不正ログインできてしまうからです。

・平文パスワード
一般的にパスワードは、もしパスワードを記載したファイルが漏えいしても、第三者が内容を閲覧できないように暗号化して管理するのが常識です。しかし、稀に暗号化されていない平文(ひらぶん)のパスワードが流出する場合があります。こうなった場合、申し開きが全くできない最悪の管理不備のひとつとして、厳しい批判と鋭い糾弾の対象となります。擁護する人は誰もいなくなります。

・機微情報
信条(宗教、思想)や門地、犯罪歴等、さまざまな社会的差別の要因となる可能性がある情報を機微情報といいます。特に、各種成人病やその他疾病など、保健医療に関わる機微情報は医薬品のスパムメールや、フィッシングメールなどに悪用されることがあり、その成功確率を上げるといわれています。


以上のように、ひとくちに個人情報漏えいといっても、その重大さの度合いは異なり、社会やユーザーからの受け取られ方にも差があります。

弁解の余地もない真っ黒な管理状態ではなく、「不幸にも事故は起こってしまったが、打つべき予防対策は事前にしっかり打たれていた」と、ステークホルダーに理解されれば、ビジネスインパクトは限定的なものになる可能性もあります。

情報漏えいの原因

「ハッカーによるサイバー攻撃」「従業員による内部犯行」。情報漏えいが起こる原因としてすぐにこれらが思い浮かびますが、そういった悪意に基づく攻撃ばかりが情報漏えいの原因ではありません。

冒頭で挙げたPC・スマホ・USBメモリの不注意による紛失はいまも漏えい原因の多くを占めていますし、Webサイトのアクセス制限設定ミスで個人情報が見える状態になっていたり、開発中の会員管理システムのテストデータとして、うっかり誤って実在する個人の情報を使ったり等々、必ずしも悪意によるものではなく、管理不備やケアレスミスでも情報漏えいは発生します。

近年、クラウドコンピューティングが普及したことで、影響の大きい設定変更等の操作をブラウザからワンクリックで行うことが可能になりました。こうしたクラウドサービスの設定ミスによる情報漏えいも増加しています。

上場企業での情報漏洩件数は2年連続で過去最多を更新

サイバー攻撃や組織における管理またはシステムの設定不備・不足等が原因となり、機密情報等の漏洩事故および事件が相次いで発生しています。東京商工リサーチの調べによれば、上場企業とその子会社で起きた個人情報漏洩または紛失事故・事件件数は、2022年で165件となり、2021年から連続で過去最多を更新しました。

不正アクセスによる情報漏えい事故

もちろん、悪意ある攻撃も猛威を振るっています。ハッカーによるサイバー攻撃など、以前はアニメと映画の中だけのお話でした。しかし、不正アクセスによる情報漏えいが2010年以降増加し始めました。

特定非営利活動法人日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)が毎年行っている調査「情報セキュリティインシデントに関する調査報告書」によれば、それまでの攻撃と質が異なる攻撃、「標的型攻撃」が観測されはじめた2010年頃から、不正アクセスが原因となるサイバー攻撃は8年で20倍という伸びを見せています。ケアレスミスや管理不備への対策とは別の手を打つ必要があります。

漏えい原因における不正アクセスの比率

2010年 1.0 %
2011年 1.2 %
2012年 1.5 %
2013年 4.7 %
2014年 2.4 %
2015年 not available
2016年 14.5 %
2017年 17.4 %
2018年 20.3 %

情報漏えい事故が起こった後の対応方法

事故が起こった後の対応の善し悪しも、ユーザーや社会の受け取り方を大きく変えます。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、情報漏えい事故が起こった企業や組織に向けて「情報漏えい発生時の対応ポイント集」を公開していますが、過去に個人情報漏えい事案に対処した経験がある練度の高いCSIRTチームが社内に存在でもしない限り、被害実態調査やその後の対策などは、専門セキュリティ企業に相談するのがもっとも安全で一般的な方法です。

セキュリティ業界では、セキュリティ緊急対応サービスに相談が来る曜日や時間に傾向があると言われています。それは、「金曜日の午後」「連休前の午後」です。つまり、事故は週前半または半ばに発生していたが、なんとか自分たちで解決できないかもがき苦しんだ後、最後の最後であきらめて、「休日を挟む前に」セキュリティ企業へ連絡をするからです。自分たちで精一杯手を尽くした努力も空しく諦めざるを得ないとは、身につまされる話です。

しかし、時間が経過すればするほど、調査に必要なエビデンスが失われることもあります。情報漏えい事故が起きたら、信頼できる専門企業にすぐ相談してください。

情報漏えい事故の報告書と収束までの流れ

専門セキュリティ企業の協力の元、デジタルフォレンジックによる原因や被害範囲などの調査が行われ、一定の社会的インパクトがある情報漏えいであれば、報告書を公開します。場合によっては記者会見を行い、調査分析のための第三者委員会が組織される場合もあります。

インシデントの全容を解明した報告書作成には数か月かかるかもしれませんが、その前にまず事件の概要、情報漏えい対象者の範囲や救済措置などについては、なるべく早く情報公開することが大事です。

速報第一報に限らず、情報漏えい事故の調査報告書に必要な項目は下記のとおりです。


・漏えいした情報の内容

・漏えい件数

・原因

・現在の状況

・今後の対策


重要なのは、速報公表まであまり時間をかけないことです。時間がかかるほど、どんなにその調査が合理的で必要なものであっても、SNSなどで「事故を隠そうとしたに違いない」といった、批判の対象となることがあります。

また、第一報につづく第二報では、内容の大きな修正があってはなりません。特に第二報で漏えい件数が大幅に増えていたりすると、「事故を小さく見せかけようとした」「初動対応に失敗した」などの誤ったイメージすら与えかねません。速報では、論理的に最大の漏えい可能性がある件数を、必ず記載してください。詳細な調査を待たずとも、速報で最大値推定を出すのは難しくありません。

企業側は、組織の透明性を確保しながら、とにかく誠意を見せることが重要です。たとえば報告書の「今後の対策」の欄に、どんな対策を実施するかという詳細を公表する必要はありません。しかし、大まかな予定であっても「いつまでに何々という対策を実施する」とマイルストーンを設置して計画を可視化することで、ステークホルダーやユーザーの心証は好転します。

情報漏えいを予防する対策

これまで述べてきたように、情報漏えいには性質の異なる複数の原因があり、原因毎に予防対策は異なります。

まずは従業員によるノートPCやUSBメモリの紛失などを減らすために、セキュリティリテラシーを向上させるアウェアネストレーニングが有効です。IPAが刊行する「情報漏えい対策のしおり」など、無料の教材や動画も多数公開されています。同時に、ノートPCやUSBメモリの管理規定も定めましょう。

また、近年増加しているAWSのようなクラウドサービスの設定不備による事故の対策として、設定ミスや、現在の設定のリスクを網羅的に検知するサービスも提供されるようになっています。

先に挙げた通り、不正アクセスによる情報漏えいは過去約10年で20倍という驚くべき増加を見せています。サイバー攻撃の侵入を許す穴がないかどうかを探す脆弱性診断や、脆弱性を利用してひとたび侵入された場合、何がどこまでできてしまうのかを検証するペネトレーションテストも、不正アクセスに対する極めて有効な対策方法です。

新しい社員の入社や退職など、組織は日々変化し、業務やシステム構成・Webアプリケーションも進化を続けます。昨日までは安全だったWebアプリケーションに、今日新しい脆弱性が見つかることもあります。上記に挙げた対策はいずれも一度実施したら終わりではありません。定期的に継続することで真の効果を発揮します。

そもそも事故が起きないことが一番素晴らしいことですが、せめて「事故は起こったものの打てる手はちゃんと打っていた」と言えるようにしておくべきです。

まとめ

・個人情報保護法では、個人情報の漏えいを起こした組織が講ずるべき措置が定められている。
・情報漏えい事故の深刻度は、漏洩した件数だけでなく、漏えいした情報の内容にも大きく左右される。
・情報漏えいは、悪意に基づく不正アクセスのほか、設定不備や管理上の不注意が原因で発生することもある。
・情報漏えい事故が発生したら、速やかに信頼できる専門セキュリティ企業に依頼するのが有効。
・情報漏えい事故に関する事実の公表は、組織の透明性を確保しながら誠意をもって臨むことが重要。
・情報漏えいの予防には、従業員のセキュリティリテラシー向上教育、クラウド設定不備の検査、脆弱性診断やペネトレーションテスト等の対策がある。

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クラウド環境におけるセキュリティの重要性

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SQAT® 情報セキュリティ瓦版 2019年10月号

利便性+αで求められるセキュリティ意識

その利便性の高さからクラウドが広く普及しています。いまや既存システムのクラウド環境への移転、リニューアル化は時代の潮流といって良いでしょう。一方で、サーバ運用においてインシデントが発生してしまった場合、なりすましやDDoS攻撃などによって様々な面で大きな被害を受ける恐れがあります。現実にサーバ運用のトレンドになっているクラウド環境では、その利便性に潜む罠によって、近年いくつもインシデントが発生しています。クラウド環境を利用するために重要な「リスクの可視化」についてお伝えいたします。


アメリカ金融大手で1億人を超える情報漏洩

2019年7月、米金融大手Capital Oneは、外部の第三者から不正アクセスを受け、1億件を超える大規模な個人情報漏洩があったことを公表しました。*1 ただし、流出した個人情報(右記、表1参照)を悪用した事例は、9月時点で確認されていないとのことです。

今回のインシデントはAWS(Amazon Web Services)環境下で発生しましたが、そこで同社は以下の点を主張しています。

基盤システムへの侵害はない
●クラウド特有の脆弱性ではない
●対応の早さはクラウド利用の恩恵

 

 

SSRF攻撃の概要

 

インシデントから浮上した問題点

Capital Oneのシステム環境における問題点は、WAFの運用上の設定ミスにより、SSRF攻撃(図1参照)を検知できなかったこと、サーバ上のデータに対するアクセス制御が不十分だったこと、データ奪取に気づけるモニタリングを実施していなかったことが主に挙げられます。AWSはリスク軽減策としてツールを提供しており(上記、表2参照)、これを活用していれば、インシデントに繋がらなかった可能性も考えられます。

 

クラウド環境の利点と危険性

クラウドサービスは、高い利便性ゆえに増加を続けています。米Ciscoはホワイトペーパー*の中で、2016年には1年あたり6.0ゼタバイト 1) だったトラフィック量が、2021年には19.5ゼタバイトまで増加し、全データセンターのトラフィックに占めるクラウドデータセンターのトラフィック比率は、88%から95%へ増加すると予想しています。こうした増加の理由は、クラウド環境が自社設備内で情報システムを管理・運用するオンプレミス環境と比べて、コスト面、運用面での利点があるためと考えられます。一方で利点に対して危険性があることも理解しなければなりません。

1. 自社内にオンプレミス環境を用意する必要がない
 →外部委託することにより、他社環境に依存することになる
2. 仮想化されたリソースの配分自由度が高い
 →従量課金のため、使いすぎると高コストになる
3. 構成するソフトウェアの独自開発が不要
 →構成するソフトウェアがオープンソースのため、攻撃者に解析されやすい

一度攻撃を許してしまえば、情報漏洩、DDoS攻撃によって、莫大な費用損失が発生し、企業のビジネス破綻を招く可能性があります。クラウドサービスの利用には、利便性と引き換えにある攻撃の可能性にも目を向ける必要があります。そもそも、基本的にクラウド環境は公開ネットワークからアクセスが可能なため、セキュリティ設定の実施は必須なのです。

では、実際にどのようにセキュリティを強化していくのか。対策の一つとして各クラウドベンダが提供しているクラウド環境上のセキュリティ関連の汎用モジュールを利用することを推奨します。例えば、AWSの場合では、インターネットセキュリティの標準化団体であるCIS(Center for Internet Security)が公表している『CIS Amazon Web Service Foundations Benchmark』というガイドラインや、第三者による評価(当社では「AWSセキュリティ設定診断」として提供)を活用し、システム環境の設定状況を把握することが望ましいでしょう。

 

独自性カスタマイズのリスク

クラウド環境は各ベンダの提供している汎用モジュールが充実していますが、実際の提供サービスの機能と合致しないことがあり、その場合、独自のカスタマイズや実装が必要になります。前述のCapital Oneのインシデントでは、このカスタマイズこそがあだとなりました。実際の運用環境では、ポリシーや他との互換性を考慮して様々なカスタマイズが行われますが、その際に設定ミスが発生することで、セキュリティホールとなる可能性があることを認識し、十分に注意しなければなりません。また、カスタマイズされたモジュールそのものに問題がなかったとしても、汎用モジュールとの連携が原因で問題が発生することもあるでしょう。クラウド環境上でWeb サービスを提供する場合には、各種設定がベストプラクティス(最善策)に適合しているかを把握し、さらに第三者の目から見た診断によって分析を行い、リスクを可視化することが重要です。

 

クラウドの時代

今後、世の中はますます利便性の高いクラウドへと傾倒し、既存システムのクラウド環境への移転、リニューアル化がもはや時代の潮流となるでしょう。それゆえに、攻撃者の格好のターゲットとならないよう、隙を与えないための定期的な診断によるリスク把握は、クラウドを用いたビジネスにおいて必要不可欠なのです。

 

※SSRF攻撃(Server Side Request Forgery)
公開サーバに攻撃コマンドを送信することで、サーバ権限を利用し、非公開の内部サーバに攻撃が実行可能になる。
クラウド環境の内部サーバに対して、メタデータ取得APIを実行させ、ユーザの認証情報(ID・パスワード)を盗み取れる。


注:
1) 6.0ゼタバイト=6.0×1021

参考情報:
*https://www.cisco.com/c/en/us/solutions/collateral/service-provider/global-cloud-index-gci/white-paper-c11-738085.html


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高まるAPT攻撃の脅威

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SQAT® 情報セキュリティ瓦版 2020年1月号

あらためて、「侵入前提」の備えを

「攻撃のターゲットに定めた組織に対し、高度かつ複雑な手法を用いて長期間にわたり執拗な攻撃を行う」―「APT」と呼ばれるタイプの攻撃の矛先が、今、日本にも向けられるようになっています。従来、APTには侵入を前提とした多層防御が有効とされてきましたが、国際的に注目度の高いイベントであるオリンピック・パラリンピックが目前に迫り、日本を対象とした攻撃がこれまでになく増えると予想される中、あらためて自組織の状況を点検し、セキュリティの強化を図る必要があります。


APT28とは

「APT」とは「Advanced Persistent Threat」(直訳すると「高度で持続的な脅威」)の略語で、日本では主に「高度標的型攻撃」という呼称が使われています。「標的型攻撃」は、文字どおり、特定の組織をターゲットにした攻撃を指します(図1参照)。この中でも高度な手法を用いた長期にわたるものが「APT」とみなされます。狙いを定めた相手に適合した方法・手段を用いて侵入・潜伏を図り、攻撃に必要な情報を入手するための予備調査も含め、執拗に活動を継続するのが特徴です。なお、セキュリティ機関や調査会社では、こうした攻撃が確認されると、攻撃の実行主体(APTグループ)を特定し、活動の分析に取り組みます。グループを追跡する際は、組織が自ら名乗る名称に加え、多くの場合、「APT+数字の連番」(例:「APT 1」「APT 2」)がグループ名として使用されています。

図1:標的型攻撃の主な手口

https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R01_kami_cyber_jousei.pdf

広範かつ大規模な攻撃活動

これまでに特定されたAPTグループの数は、上記連番方式により同定されているグループだけでも約40に上ります。国家レベルの組織による支持や支援を受けているとみられるものも多く存在し、その攻撃は高度であるだけでなく、広範かつ大規模です。直近では2019年10月に、ロシアの支援を受けているとみられる「APT28」(自称「Fancy Bear」)による脅迫メールが世界的な注目を集めました。

脅迫の手口は、「攻撃対象の組織のWebサイト、外部から接続可能なサーバ・インフラに対するDDoS攻撃を予告し、それを回避するための費用として仮想通貨を期日内に支払うよう要求する」というもので、危機感を煽るため実際にDDoS攻撃を行ったケースもありました。ペイメント、エンターテインメント、小売といった業種の複数組織を対象に同グループによる脅迫メールが送付されていることを、ドイツのセキュリティベンダが特定し、その後、JPCERT/CCにより日本国内においても複数の組織が同様のメールを受け取っていることが確認され、注意喚起が出されています。なお、同グループは、2016年の米大統領選挙のほか、政治団体やスポーツ団体などをターゲットにした攻撃への関与も疑われています。

 

地域・文化を超えるサイバー攻撃

従来、APT攻撃は主に欧米の組織を標的にしており、日本語という言語の特殊性などがハードルとなり日本企業は狙われにくいとの認識がありました。しかし、近年は、巧みな日本語を使用した、明らかに日本企業を標的とする攻撃が増加傾向にあります。

たとえば、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)に報告されたサイバー攻撃に関する情報(不審メール、不正通信、インシデント等)の2019年の集計結果では、9月末時点で寄せられた攻撃情報、計897件のうち235件が標的型とみなされており、直近の7月~9月でその比率が顕著に上昇しています(表1参照)。当該データ113件のほぼ9割がプラント関連事業に対する攻撃で、実在すると思われる開発プロジェクト名や事業者名を詐称し、プラントに使用する資機材の提案や見積もり等を依頼する内容の偽メールが送信されています。IPAは、「現時点では、攻撃者の目的が知財の窃取にある(産業スパイ活動)のか、あるいはビジネスメール詐欺(BEC)のような詐欺行為の準備段階のものかは不明」としつつも、特定の組織へ執拗に攻撃が繰り返されていることから、これらをAPT攻撃の可能性がある標的型メールの一種に位置づけたと説明しています。

出典:サイバー情報共有イニシアティブ(J-CSIP)運用状況[2019年1月~3月]、[2019年4月~6月]、[2019年7月~9月]より当社作成

同様の傾向は、他国のセキュリティ機関の分析からも伺えます。タイのCSIRT組織ThaiCERTによるレポート『THREAT GROUP CARDS: A THREAT ACTOR ENCYCLOPEDIA』(2019年6月公開)を見ると、日本をターゲットに含めた攻撃は、もはや少ないとは言えません。たとえば、「Blackgear」と呼ばれる攻撃グループは日本を明白なターゲットにしており、C&Cの拠点を日本に置き、日本語の文書を使って攻撃を仕掛けます。また、2018年に確認された東南アジアの自動車関連企業をターゲットとした攻撃では、タイミングを同じくして特定の日本企業への攻撃が複数回観測されています。さらに、ターゲットとされる業種や狙われる情報の種類が多様であることも目を引きます。かつては、銀行のデータや個人情報がまず標的になりましたが、ここ数年、ターゲットの業界が航空宇宙・自動車・医療・製薬へとシフトし、ブラックマーケットでの高額取引が期待できる、各業界に固有の技術情報や特許出願前情報の奪取へと、攻撃目標が変化しています(表2参照)。

出典:『THREAT GROUP CARDS: A THREAT ACTOR ENCYCLOPEDIA』より当社作成

個人情報が流出した場合の損害賠償や事態収拾のための費用などを含めた事後対策費は平均6億3,760万円 1) と言われていますが、技術情報が流出した場合の想定被害額はその数十倍、数百倍に及ぶ可能性があります。技術情報のみならず、いわゆる「営業秘密」とされる知的財産の流出は、事業活動の根幹を揺るがす事態に発展しかねない規模の損失を招く恐れがあります。近年各社により提供されるようになっているサイバーセキュリティ保険等で損害補償対策を検討するのも一案ですが、国家の関与が疑われるAPTグループの攻撃被害については保険金が支払われない可能性もあります。より甚大な被害をもたらす攻撃を行うグループが、今、日本企業を新たな標的に定めつつあるという事実は、国内のあらゆる事業者が共有すべき攻撃の傾向となっています。

 

より強靭な「多層防御」でAPT攻撃の影響を最小限に抑える

APT攻撃への対策としては、従来、侵入を前提とした多層防御が有効とされてきましたが、足元でAPTグループによる日本への攻撃が増加傾向にある中、あらためて、多層防御の状況を点検し、攻撃耐性を高めていくことが求められています。防御策としてまず思い浮かぶのは、出入口を守るファイアウォールやUTM(統合脅威管理)、既知の脆弱性への対応などですが、それだけでは十分とは言えません。

APT攻撃での代表的な手口は、ターゲットにした組織への侵入を試みる目的で使用される標的型メールです。この入口対策を考えると、疑似的な攻撃メールを用いて開封率などを可視化して「ヒト」に対する教育訓練を施す「標的型メール訓練」は検討に値する対策の1つです。留意したいのは、開封率の低減を最重要視するのではなく、「開封されても仕方なし」というスタンスで取り組むことです。訓練の目標を「開封された後の対応策の見直しと初動訓練」に設定し、定められた対応フロー通りに報告が行われるか、報告を受けて対策に着手するまでにどれくらいの時間を要するかを可視化して、インシデント時の対応フローおよびポリシーやガイドラインの有効性を評価することをお勧めします。また、従業員のセキュリティ意識を向上させるために、教育および訓練と演習を実施するのが望ましいでしょう。

また、「多層防御」対策を立てる前提として、情報資産の棚卸しも重要です。日本企業は、他国に比較して、知的財産の重要性に対する認識が低く、情報の所在や管理が徹底されていないという指摘があります 3) 。組織内に存在する情報に関し、機密とするもの、公知であってよいものを分類し、それらがどこに格納されて、どのように利用されているかを可視化した上で、防御の対応をする機器・人・組織といったリソースを適切に振り分けて防御する仕組みを構築することが求められます。こうした仕組みは、侵入の早期発見にも繋がり、事業活動の継続を左右する重要情報へのアクセスを遮断することで、万一侵入を許しても被害を最小限に抑えられます。さらに感染経路・奪取可能な情報を洗い出し、感染範囲・重要情報へのアクセス状況・流出経路などを可視化できれば、システム内部へ拡散するリスクを把握することもできます。この「標的型攻撃のリスク可視化」により、「出口」対策へ効果的にリソースを有効活用することで、実効性をさらに効果的にリスク評価することが可能になります。

2020年、オリンピック・パラリンピックがいよいよ目前に迫り、日本への攻撃がさらに激しさを増していくと予想されます。同イベントには膨大な数の事業者が関与するため、セキュリティ的に脆弱な組織がAPT攻撃を受け、サプライチェーンやIoTを通じて被害が歯止めなく広がるリスクが大いに懸念されています。既存のセキュリティ体制をあらためて点検し、強靭化を図ることで被害を最小限に食い止めましょう。


注:
1)JNSA:2018年情報セキュリティインシデントに関する調査結果より
2) 同一のグループに対し、セキュリティ機関による命名、攻撃グループによる自称などを列挙
3) コンサルティング会社PwCが2017年に実施した調査より
(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2018/assets/pdf/economic-crime-survey.pdf)日本における「組織がサイバー攻撃の狙いとなった不正行為」の種類を問う質問で「知的財産の盗難」と回答した比率は25%で、世界平均の12%と比べて顕著に多い数字となった。

参考情報: *1 https://www.thaicert.or.th/downloads/files/A_Threat_Actor_Encyclopedia.pdf

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