EvilTokensとは?Microsoft 365を狙うデバイスコードフィッシングとAI悪用

Share
EvilTokensとは?アイキャッチ画像

Microsoft 365の正規のサインイン画面を利用し、利用者に攻撃者側のアクセスを承認させる「デバイスコードフィッシング」が悪用されています。Microsoftが2026年9月に活動基盤を妨害した「EvilTokens」は、この手口によるアカウント侵害に加え、AIを使って侵害した受信箱を分析し、詐欺の標的やなりすまし相手を選ぶ機能も備えていました。本記事では、EvilTokensの仕組みと、Microsoft 365を利用する企業が確認しておきたい認証設定、監視、侵害後の対応について解説します。

EvilTokensとは

EvilTokensは、デバイスコードフィッシングによるアカウント侵害や、AIを使った侵害後の情報収集などを支援するPhishing-as-a-Service(PhaaS)プラットフォームです。Microsoftは2026年9月22日、同サービスの活動基盤を妨害したと発表しました。同社によると、世界の1万を超える組織で、1万2,000を超える受信箱が侵害されています。この数字はメール侵害の規模を示したものであり、金銭被害が発生した組織数を示すものではありません。

Microsoft 365を利用する企業が見直したいのは、認証画面のURLだけで安全を判断する運用です。EvilTokensは、利用者に正規のMicrosoftの画面で操作させ、攻撃者が開始した認証要求を承認させます。アカウントを守るには、MFAの導入に加え、自社で利用を認める認証方式や、侵害が疑われた場合の対応を確認する必要があります。

正規の認証画面でも侵害につながる理由

デバイスコード認証は、入力操作に制約のある機器などへサインインするための仕組みです。機器側に表示されたコードを、別の端末のブラウザーで入力して認証を完了します。デバイスコードフィッシングでは、この認証要求を攻撃者が開始し、コードを利用者に入力させます。問題は、コードにひも付く認証要求の主体です。画面自体がMicrosoftの正規サイトでも、そこで承認する要求が攻撃者によって開始されたものであれば、攻撃者側にアクセスが与えられます。偽サイトへパスワードを送信していなくても成立する手口です。利用者がMicrosoftにサインインしていない場合には、正規の画面でパスワードやMFAによる認証を求められることがあります。MFAを設定していても、利用者が攻撃者の要求を正規の認証画面で承認すると、侵害につながる場合があります。

図1:EvilTokensによるデバイスコードフィッシングと侵害後の流れ

出典:Microsoft「Disrupting EvilTokens: The AI Chatbot Built for Cybercrime」「Unmasking EvilTokens: Getting to the root of device code phishing」を基に弊社作成
※図は攻撃の概略を示したものです。AIによる分析後に、必ずなりすましや金銭被害が発生することを示すものではありません。

AIは受信箱から取引関係や送金担当者を探す

EvilTokensのAI機能は、侵害した受信箱を解析し、支払いに関する会話や組織内の役割、信頼関係などを把握するためにも使われていました。Microsoftは、詐欺の標的やなりすまし相手を選び、詐欺の進め方を提案する機能を報告しています。AIが、フィッシングメールの作成だけでなく、侵害した受信箱から詐欺に利用できる情報を探すためにも使われた事例です。このため、ビジネスメール詐欺対策では、振込先の変更や通常と異なる送金依頼について、信頼できる別の連絡経路で確認することが欠かせません。Microsoftも別経路での確認を推奨しています。実務では、受信メールに記載された連絡先をそのまま使わず、社内で管理している既知の連絡先で確認する運用が考えられます。

EvilTokensへの対策

図2:EvilTokensへの防御と対応

出典:Microsoft「Disrupting EvilTokens: The AI Chatbot Built for Cybercrime」、Microsoft Learn「Block authentication flows with Conditional Access policy」「Token theft playbook」「Respond to a compromised cloud email account」を基に弊社作成
※対策の分類は、Microsoftの公表資料を基に弊社が整理したものです。

不要なデバイスコード認証を制限する

予防策の出発点は、自社でデバイスコードフローを使っているかを把握することです。Microsoftは、利用状況を監査して必要性を判断し、可能な限り利用を遮断する方針を推奨しています。業務上必要な用途がある場合は、その理由と保護方法を明確にし、例外を限定します。Microsoft Entra IDの条件付きアクセスでは、認証フローを条件としてデバイスコードフローをブロックできます。変更時は、レポート専用モードで影響を確認してから有効化します。緊急アクセス用アカウントなど必要な除外を設計し、例外が増え続けないよう定期的に点検することも重要です。従業員向けの説明にも、この仕組みを反映することが重要です。「URLを確認する」に加え、「自分が開始していないサインインのコードは入力しない」と具体化すれば、何を判断すべきか伝わりやすくなります。これは、今回の認証手口を踏まえた教育上の対策の一例です。

認証後の不審な操作を監視する

監視では、サインインの成否だけで判断を終えないことが重要です。Microsoftのトークン窃取対応資料では、サインインログ、監査ログ、Officeの操作、関連端末の情報などを調べるよう案内しています。新しい認証方法や端末の登録、メール転送ルールの追加なども確認対象となります。これらの情報は、必要に応じてSIEMなどへ集約し、関連付けて確認できるようにします。たとえば、普段と異なるサインインと、その後の転送設定変更を、同じアカウントの時系列として調べる運用が考えられます。ただし、不審な出来事が一つあっただけでEvilTokensによる侵害と断定することはできません。利用者の操作や業務上の変更だったかを確認し、侵害の有無と範囲を絞り込む必要があります。

侵害が疑われるアカウントを封じ込める

アカウント侵害が疑われる場合、Microsoftは、侵害が疑われるアカウントを調査中は一時的に無効化することを推奨しています。あわせて、アクティブなセッションと更新トークンを失効させ、登録されたMFAの方法や端末、同意済みアプリ、管理者権限などを点検します。不正なメール転送設定や、通常の画面では見落としやすい受信箱ルールも確認対象です。パスワードを変更して利用者が再びログインできたことだけでは、攻撃者が残した設定まで除去できたとは限りません。どのアクセスを止め、どの変更を戻し、どのログで確認したかを記録し、公式手順に沿って復旧することが必要です。

送金や支払情報の変更は別経路で確認する

EvilTokensでは、侵害した受信箱から取引関係や支払いに関する情報が把握され、なりすましや送金詐欺に悪用される可能性があります。振込先の変更や送金依頼など、金銭に関わる重要な依頼については、メールだけで判断せず、既知の電話番号など信頼できる別の連絡手段で確認することが重要です。

EvilTokensへの対策は、認証管理だけでは完結しません。認証フローの制御、不審な操作を追跡できるログの整備、侵害時の対応、送金依頼の確認までを、自社の担当者と手順に落とし込むことが重要です。正規の認証画面を通った操作であっても、誰のアクセスを許可しようとしているのかを確認する視点が求められます。

【参考情報】

編集責任:木下


アカウント侵害や不正アクセスが疑われる場合は

BBSecでは、セキュリティインシデント発生時の初動対応から、原因・影響範囲の調査、フォレンジック調査、再発防止まで支援しています。

平時の対応体制を見直したい場合

ウェビナー開催のお知らせ

最新情報はこちら


Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

ClosedQuorumとは AIが次の動作を選ぶマルウェアの仕組みと対策

Share
ClosedQuorumとはアイキャッチ画像

生成AIの活用が広がる中、サイバー攻撃でもAIを組み込んだ新たな手法が確認されています。2026年9月、Cisco Talosは、複数のAIモデルに問い合わせながら次の動作を選択するWindows向けマルウェア「ClosedQuorum」の解析結果を公表しました。本記事では、ClosedQuorumの仕組みと現時点で確認されている範囲を整理し、AIを組み込んだマルウェアに対して企業がどのような監視・対策を考えるべきか解説します。

ClosedQuorumとは

ClosedQuorumは、実行中に複数のAIモデルへ問い合わせ、その回答を基に次の動作を選択する仕組みを備えたWindows向けマルウェアです。 Cisco Talosが2026年9月22日に解析結果を公表しました。AIが侵入から目的達成までの全工程を自由に考案するわけではなく、あらかじめ実装された複数の動作から、次に実行するものを選択する設計です。ただし、Talosは報告時点で、ClosedQuorumが実際の攻撃に使用されたことを確認していません。公開配布版には仮のAPIキーなどが含まれており、一連の処理が最後まで動作する様子も観測されていません。本稿では、こうした現時点で確認されている範囲を踏まえ、解析で判明した仕組みと、一般的な防御策から考えられる監視のポイントを分けて説明します。

AIが実行中の判断に加わる仕組み

ClosedQuorumは最大4系統のAIモデルへ順番に問い合わせ、最多票を得た動作を選びます。応答を集計するのはマルウェア側のプログラムです。認証情報や暗号資産ウォレット情報の収集、別プロセスへのコード注入、継続実行のための設定といった実装済みの処理を選択する設計が確認されています。C2は、マルウェアへの指示や制御を指します。今回の特徴は、この動作選択に商用AIのAPIを利用する点にあります。AIが開発時にコード作成を手伝うことと、動作中のソフトウェアがAIの応答を処理に反映することは、区別して捉える必要があります。

図1:Talosの静的解析を基にした設計の概略

出典:Cisco Talos「The Closed Quorum: Inside the first reported autonomous AI C2 implant」(https://blog.talosintelligence.com/the-closed-quorum-inside-the-first-reported-autonomous-ai-c2-implant/)を基に弊社作成
※実際の攻撃での使用と、一連の処理が最後まで動作することは確認されていません。公開配布版には仮のAPIキーなどが含まれています。

AIの痕跡と攻撃の実態を分けて評価する

Talosが同日に紹介した研究ツールCAIRNは、AI向けの指示文やAPIの接続先などの情報を手掛かりに、AIを組み込んだマルウェアを調べるものです。同社は、AI関連の文字列などの痕跡だけでは、実際にはAIを組み込んでいない検体も候補に含まれるため、最終的な判断にはリバースエンジニアリングによる検証が必要だと説明しています。企業がAIマルウェアの情報を読む際も、「AIとの接点がある」「攻撃機能が実装されている」「実際に被害が発生した」という確認の段階を混同しないことが重要です。これはCAIRNの説明を踏まえた情報評価の観点です。検体の解析結果だけで、被害規模や攻撃の成功率まで判断することはできません。

ClosedQuorumを理由に、自律型サイバー攻撃がすでに広く成功していると結論づける根拠はありません。一方で、企業が点検できる項目はあります。以下では、MITRE ATT&CKが整理する既知の攻撃手法と防御策を基に、監視体制の確認方法を考えます。これはClosedQuorum固有の検知性能を保証するものではありません。

正規サービスへの通信は利用の文脈まで確認する

正規のWebサービスを攻撃の制御に使う手口は、MITRE ATT&CKでも整理されています。通信先が著名なサービスであることだけでは、安全性を判断できません。MITREは、通常と異なるプロセスからの外向き通信や、不自然な状況で行われるWeb API呼び出しを、検知の観点として挙げています。この考え方をAIサービスの通信に当てはめると、確認したいのは、どの端末で、どのプログラムが、何の業務のために通信したかです。承認済みアプリによる通常の利用と、用途不明の実行ファイルによる通信を切り分けられるよう、通信情報と端末上の処理を関連付けて確認することが重要です。

通信制御も業務上の必要性を踏まえて設計します。MITREは、許可されていない外部サービスの利用をWebプロキシで制限する対策を挙げています。自社で認めるサービスと利用経路を整理しておけば、不明な通信を調べる際の判断材料になります。

図2:MITRE ATT&CKの一般的な検知観点を基に作成した監視の例

出典:Cisco TalosおよびMITRE ATT&CK(T1102、T1003.001、T1053.005)を基に当社作成
※一般的な検知・監視の考え方を示したものであり、個別の兆候やAIサービスへの通信だけでClosedQuorumへの感染を判断するものではありません。

認証情報へのアクセスと継続実行の設定を監視する

端末側では、認証情報を扱う処理への不審なアクセスが重要な確認対象となります。MITRE ATT&CKは、Windowsの認証処理に関わるLSASSへの異常なアクセスと、その後のメモリダンプやファイル作成を、一連の動作として捉える検知方法を示しています。EDRなどで取得した記録を調べる際も、実行ファイルの名前だけでなく、実際に何へアクセスしたかを確認することが重要です。予防策としては、認証情報の保護、特権アカウントの利用制限、LSASSを保護する設定などが挙げられます。ただし、Credential Guardなどの保護機能にも適用条件と守備範囲があります。導入済みという理由だけで、すべての認証情報窃取を防げると判断しないことが必要です。

継続実行を狙う設定変更にも目を向ける必要があります。たとえば、Windowsのスケジュールタスクは正規の管理用途にも使われますが、攻撃者に悪用されることがあります。MITREは、不審なタスクの作成や変更と、その後の実行を関連付ける検知を示しています。管理作業として説明できるかを確認し、必要以上の権限で動くタスクや不明な実行先を調査することが重要です。

AIという名称より取得できる証拠を確認する

自社の監視体制を点検するなら、通信と端末の記録を結び付けられるかを確認するところから始めることが重要です。SOCや外部の監視担当者とも、不明な外向き通信が見つかったときに、その実行元や前後の処理まで調べられるかをすり合わせておきましょう。ClosedQuorumは、AIを動作選択に使う設計を具体的に示した解析事例です。現時点で確認されている事実を踏まえながら、既存のログ、認証情報の保護、権限管理を点検することが重要です。その積み重ねが、AIを組み込んだマルウェアについても、名称や印象に左右されず調査するための土台になります。

【参考情報】

編集責任:木下


継続的な監視・検知体制の見直しを

サイバー攻撃の手法が変化する中でも、不審な通信や端末上の挙動を継続的に監視し、複数の兆候を関連付けて確認できる体制が重要です。BBSecでは、セキュリティ監視・分析を支援する「G-MDR®」を提供しています。

ウェビナー開催のお知らせ

最新情報はこちら


Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

AIエージェントを悪用したECサイト攻撃 ―カード情報窃取の報告から考える対策

Share
AIエージェントによるECサイト攻撃アイキャッチ画像

AIエージェントを悪用したECサイトへのサイバー攻撃について、Gambit Securityが2026年9月22日に調査結果を公表しました*1。同社は、2社から60万件を超えるカード記録が窃取されたと報告しています。同報告は暫定的な調査結果に基づくものですが、EC事業者が確認したいのは、自社の決済画面が不正に変更されていないか、攻撃の入口を放置していないかという具体的な問題です。

Gambit Securityが報告したAIエージェントの役割

Gambitは攻撃者のステージングサーバーを調べ、脆弱性調査を担うStrix、侵入目標に向けて動くCairn、攻撃全体を調整するHermesの利用を確認したと説明しています。人間も短い指示を出しており、完全な無人攻撃と表現するのは適切ではありません。同社によると、9月10日から15日に105件の攻撃プロジェクトが開始され、少なくとも27社で程度の異なる侵害が発生しました。これらは被害企業による一斉の公式発表ではなく、Gambitの調査結果です。報告には直接確認した証拠のほか、ログやAIの自己報告を組み合わせて評価した情報も含まれ、同社は一部に誤りや不正確さがあり得ると明記しています。

図1:報告されたAIエージェントの役割

出典:Gambit Security「Autonomous AI Agents are breaking into hundreds of Online Retailers for $25 a target in an ongoing campaign」(https://gambit.security/blog-posts/autonomous-ai-agents-online-retailers-25-a-company)をもとに弊社作成。
各ツールの主な役割を簡略化したものであり、すべての対象で同じ順序・攻撃経路が用いられたことを示すものではありません。

カードスキマーは決済画面に何を仕込むのか

今回の調査では、カード情報を盗む不正スクリプトの設置も報告されています。ただし、60万件超というカード記録のすべてが、この仕組みだけで窃取されたという意味ではありません。[1]Web上のカードスキマーとは、決済時に入力されるカード情報などを盗み取るための不正なプログラムを指します。こうしたeスキミングでは、決済ページに不正なスクリプトが組み込まれ、利用者のブラウザー上で入力されたカード情報などが窃取されることがあります。

PCI Security Standards Council(PCI SSC)も、決済ページのスクリプト管理と改ざんの監視を重要な対策として説明しています*2。サイト担当者が決済画面の見た目だけを確認しても、読み込まれるスクリプトの正当性までは判断できません。運用上は、画面の表示確認とは別に、どのスクリプトを、どの目的で、誰の承認に基づいて動かしているのかを把握する必要があります。

図2: Webスキミングの基本的な仕組みと確認箇所

出典:PCI Security Standards Council「Payment Page Security and Preventing E-Skimming」(https://blog.pcisecuritystandards.org/new-information-supplement-payment-page-security-and-preventing-e-skimming)をもとに弊社作成。
一般的なeスキミングの仕組みを簡略化した模式図であり、今回報告されたすべての被害経路を示すものではありません。

決済ページのスクリプトと変更履歴を確認する

PCI SSCの解説は、PCI DSSの要件6.4.3と11.6.1について、決済ページのスクリプトの承認、完全性の確認、改ざん監視に焦点を当てています。スクリプトだけでなく、セキュリティに影響するHTTPヘッダーの変更も確認対象となります。個別の適用範囲や検証責任は、決済構成や契約関係を踏まえてアクワイアラーなどに確認する必要があります。

実務に落とし込むなら、最初に決済ページに関係する変更を誰が把握しているかを確認したいところです。EC担当者、開発会社、決済サービスの担当者が、それぞれ自分の管理部分だけを見ていると、全体の説明ができなくなります。自社で変更できる箇所と、委託先へ確認すべき箇所を整理しておくことが出発点となります。例えば、解析タグの追加を依頼する際に、設置目的と承認者、対象ページを記録します。改ざん検知の通知を受けたら、その時間帯に予定された更新があったかを照合します。通常の変更と不審な変更を確認するための情報を、日常の更新作業から残しておくことが重要です。

侵入経路を調べる診断と改ざんを見つける監視

ECサイトの不正アクセス対策を考える際は、「攻撃が入り込む問題はないか」と「すでに不正な変更が起きていないか」を別々に確認する必要があります。脆弱性診断は主に前者、改ざん検知は主に後者を確認するための取り組みです。片方を実施したというだけで、もう片方の確認が済んだことにはなりません。

診断の対象を相談するときは、商品ページのURLだけを渡すのではなく、ログインや管理機能、APIなど、サイトの機能構成を共有することが重要です。BBSecのSQAT® for Webでは、入出力処理、認証、セッション管理などを診断対象として示し、検出した問題の深刻度と推奨対策を報告しています。監視を導入する際も、通知の受信先を設定するだけで終えず、誰が内容を確認し、誰が開発会社へ連絡するかを決めておく必要があります。営業時間外に通知された場合の連絡先や、決済機能の停止を判断する責任者を定めておけば、発見後の対応を具体化できます。これは今回の個別被害を推測したものではなく、ECサイト運営で準備しておきたい対応体制です。

BBSecの改ざん検知で日々のサイト変更を監視する

BBSecの「Webサイトコンテンツ改ざん検知」は、Webサイトの不正な変更やマルウェアの埋め込みを確認するサービスです。クローリング型のCracker Probing-Eyes® Detectが、設定したURLを起点に定期的にサイトを検査します。またWebサーバーにエージェントを導入するCracker Probing-Eyes® Detect Plusは、ファイルの改変をリアルタイムで監視する方式です。導入を検討する際は、自社の決済ページがどのサーバーから配信され、どこにスクリプトが置かれているかを共有し、監視したい範囲に合う方式を相談することが重要です。

ただし導入しただけですべてのカードスキマーを検知できる、あるいはPCI DSSの関連要件への適合が確定すると判断することはできません。対象環境と監視範囲を確認して設計する必要があります。管理画面のアクセス制御など、基本対策の実施状況から整理したい場合には、「EC加盟店様向け セキュリティ・チェックリスト対応アセスメント」も選択肢となります。対応状況の確認と報告に加え、是正支援を含むコースでは、開発ベンダーとの打ち合わせへの同席などを提供しています。

異常を見つけた後の対応まで準備しておく

不審なスクリプトや予期しないファイル変更が見つかったときは、対象ページ、発見時刻、検知内容を整理し、調査担当者に引き継ぎます。BBSecのデジタルフォレンジックを含む緊急対応支援では、状況把握や証拠保全、原因調査、今後の対応方針について相談できます。

自社サイトを守るために、まずAI攻撃かどうかを判定する必要はありません。公開中の機能に弱点を残していないか、決済ページの変更を把握できているか、異常発見時に動けるかを確かめることが重要です。今回の報告を、自社のECサイトの診断範囲と監視体制を見直す機会にしてはいかがでしょうか。

【参考情報】

編集責任:木下


サイバーインシデント緊急対応

サイバーセキュリティ緊急対応電話受付ボタン
SQAT緊急対応バナー

ウェビナー開催のお知らせ

最新情報はこちら


Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

WordPressの脆弱性CVE-2026-87902で攻撃を観測 ―更新と侵害確認のポイント

Share
WordPress CVE-2026-87902の対策アイキャッチ画像

WordPressの脆弱性「CVE-2026-87902」を狙い、PHPファイルの書き込みやコード実行につなげようとする攻撃が観測されています。WordPressは2026年9月22日に修正版7.1.2を公開し、速やかな更新を推奨しています*3。サイト運用者は修正版を適用するとともに、更新前に不正アクセスを受けていなかったか確認することが重要です。

CVE-2026-87902とは何か

CVE-2026-87902は、ページテンプレートの解決処理に存在するパストラバーサルの脆弱性です。認証されていない攻撃者が、利用中のテーマのディレクトリ外にある、読み取り可能なローカルPHPファイルを処理に取り込ませることができます。テーマとサーバー側の条件が重なると、リモートコード実行(RCE)につながる可能性があります。

影響条件には、有効な親テーマまたは子テーマの直下にpage-で始まるディレクトリがあることと、Webサーバーの実行アカウントから読み取り可能な対象PHPファイルが存在することなどが含まれます。公式情報では、PEARに含まれるpearcmd.phpと、PHP設定のregister_argc_argvがOnになっている環境を、RCEに至る経路の一つとして挙げています。[2] したがって、WordPressを使用しているという理由だけで、すべてのサイトで同じようにコード実行が成立するわけではありません。一方で、テーマやPHP環境を確認できていない段階で、自社サイトを影響対象外と判断することも避ける必要があります。

図1:CVE-2026-87902の成立条件と影響

出典:WordPress「GHSA-7hp8-65ch-5whp」(https://github.com/WordPress/wordpress-develop/security/advisories/GHSA-7hp8-65ch-5whp)をもとに作成
※ローカルPHPファイルの読み込みからRCEに至るには追加の条件があり、pearcmd.php経由の例ではregister_argc_argv = Onであることが条件となります。

7.1.1への更新だけでは今回の対策にならない

CVE-2026-87902は、WordPress 7.1系列だけの問題ではありません。公式アドバイザリでは、7.1系列の影響範囲を7.1.0~7.1.1、修正版を7.1.2としています。また、旧系列にも修正版が提供されており、例えば7.0系列は7.0.6、6.9系列は6.9.9で修正されています。利用中のWordPressの系列と、公式アドバイザリに掲載されている修正版の一覧を照合する必要があります*2。更新作業を外部の制作会社や保守会社に任せている場合は、「対応しました」という連絡だけでなく、適用後のバージョンと実施日時も共有してもらうと管理しやすくなります。自動更新を利用しているサイトでも、処理が完了しているかを実際に確認しておきましょう。WordPress公式は、管理画面の更新機能に加え、対応している環境では自動バックグラウンド更新が開始されると案内しています。

観測された攻撃と侵害成功を区別して読む

Patchstackは2026年9月23日の更新で、単なる脆弱性の探索に加えて、pearcmd.phpを介して攻撃者が用意したPHPの内容をファイルへ書き込もうとするリクエストを報告しています*3。観測されたペイロードには、動作確認用の文字列を残すもののほか、アクセス時にシェルコマンドを実行させるものも含まれていました。これは、CVE-2026-87902を狙った実際の悪用活動が行われていることを示す報告です。一方で、Patchstackが観測したリクエストが、そのまますべての対象サイトで侵害に成功したことを意味するわけではありません。自社サイトについては、攻撃リクエストが到達していたか、ファイルが作成されていないか、コードが実行されていないかをそれぞれ確認する必要があります。

調査の手掛かりとして、Patchstackはpagenameに不審なトラバーサル表現を含むリクエストや、pearcmd、config-show、config-createに関係する痕跡、/tmpや/var/tmpに作成された不審なPHPファイルなどを挙げています。これらは、担当者がログやファイルを確認する際の手掛かりです。該当する語句やファイルが存在することだけで侵害を断定することはできません。また、ログの保存期間や取得対象によっては記録そのものが残っていない場合もあるため、該当する痕跡が見つからないことだけで侵害を否定することもできません。

更新と並行して確認したいサイトの状態

サイトに不審な変化が確認された場合は、発見時刻、表示内容、直前に行った運用変更などを記録し、ホスティング事業者や保守会社に連絡します。WordPress公式の侵害対応ガイドでも、状況を記録することやホスティング事業者に確認すること、クリーンアップ前に環境のスナップショットを保存することなどが案内されています*4。原因を調べる前に不審なファイルを一括して削除すると、侵入経路や影響範囲を確認するための情報を失う可能性があります。そのため、不正アクセスが疑われる場合は、修正や削除を進めるだけでなく、必要な記録やデータを保存することも検討します。

実務では、更新を行う担当者と、侵害の有無を確認する担当者を明確にしておくことも重要です。更新によって脆弱な処理を修正できても、すでに追加された不審なファイルや不正なアカウントの有無は別途確認する必要があります。調査によって侵害が判明した場合は、影響範囲を把握したうえで封じ込めを進め、復旧後の認証情報の変更や再発防止策も含めて対応を検討します。

図2:更新と侵害確認を並行して進める対応例

出典:WordPress 7.1.2 Release(https://wordpress.org/news/2026/09/wordpress-7-1-2-release/)および「FAQ My site was hacked」(https://wordpress.org/documentation/article/faq-my-site-was-hacked/)をもとに作成。
※封じ込め・証拠保全・更新の具体的な順序は、被害状況に応じて判断します。

日常のWordPress運用に残したい対策

今回の対応を終えた後は、誰がどのサイトを管理しているか、更新情報を誰が受け取るかまで見直しておきましょう。例えば、コーポレートサイトとは別に運用している採用サイトやキャンペーンサイトについても、同じ管理台帳で確認できるようにしておくと、脆弱性が公表された際に対象サイトを探すところから始めずに済みます。WordPress公式のセキュリティ強化ガイドでは、WordPress本体やサーバ側ソフトウェアを最新の状態に保つこと、アクセスを適切に制限すること、データベースやファイルをバックアップすることなどが案内されています*5。実務では、バックアップを取得しているかだけでなく、復元に必要なデータがそろっているか、復旧を依頼する連絡先が明確になっているかまで確認しておくことが重要です。

侵害が疑われる場合はBBSecの緊急対応支援へ

不審なPHPファイルが見つかった、サイトが改ざんされた、更新前に侵害されていなかったか自社だけでは判断できない、といった場合には、BBSecのデジタルフォレンジックを含む緊急対応支援をご相談いただけます。デジタルフォレンジックは、サーバや端末などに残されたデータを調査し、何が起きたのかを明らかにするための調査です。BBSecでは、インシデント発生時の事象把握、証拠保全・データ収集、原因調査、再発防止に向けた事後対策方針の検討などを支援しています。

緊急コンタクトセンターでは、取引の有無にかかわらず24時間365日相談を受け付けています。相談時には、対象サイト、利用しているWordPressのバージョン、異常を発見した時刻、すでに実施した作業などを整理しておくと、状況を伝えやすくなります。

BBSec緊急コンタクトセンター連絡先電話番号
※外部サイトにリンクします。

平時の対策や復旧後の見直しには、Webアプリケーション・API脆弱性診断「SQAT® for Web」を活用できます。自動ツールによる診断とエンジニアによる手動診断を組み合わせ、攻撃の入口となる可能性のある問題箇所を確認するサービスです。脆弱性診断と、過去の侵害状況を調べるデジタルフォレンジックでは目的が異なります。すでに侵害が疑われている場合は、まず現在の状況や懸念点を伝えたうえで、ブロードバンドセキュリティ(BBSec)までご相談ください。

お問い合わせページリンクボタン

【参考情報】

編集責任:木下


ウェビナー開催のお知らせ

最新情報はこちら


Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

2026年の国内ランサムウェア被害をCisco Talosが調査 ―バックアップまで狙う攻撃への対策

Share
2026年の国内ランサムウェア被害アイキャッチ画像

ランサムウェア対策では、業務データだけでなく、復旧に必要なバックアップや、その管理権限を守ることも重要です。Cisco Talosは2026年9月17日、日本国内のランサムウェア被害動向と攻撃基盤に関する調査結果を公表しました*6。本記事では、この調査から分かったことを整理し、企業が見直しておきたい監視、アクセス管理、復旧への備えについて解説します。

Talosが把握した国内ランサムウェア被害は90件

図1:日本のランサムウェア被害件数の比較

出典:Cisco Talos「Ransomware incidents in Japan in the first half of 2026」(https://blog.talosintelligence.com/ransomware-incidents-in-japan-in-the-first-half-of-2026/)を基に弊社作成
※日本全体の被害総数ではありません。

Talosが調査で把握した日本のランサムウェア被害は、2026年1~7月に90件でした。前年の同じ期間の86件から4件(約4.7%)増加となります。この90件はTalosが把握した範囲の数値で、日本全体の被害総数を示すものではありません。業種別では製造業が34%を占めました。また、資本金が分かる組織のうち、10億円未満の組織は78%でした*2。

同調査は企業規模を見る参考にはなりますが、資本金だけで中小企業に該当するかを判断することはできません。被害件数の大小だけで自社の安全性を測らず、守るべき業務やデータに照らして対策を点検しましょう。

The Gentlemenの調査で見えたバックアップへの接近

今回、国内で最も多く観測されたグループはThe Gentlemenの14件で、QilinとSafePayが各7件で続きました。TalosはThe Gentlemenに関連するとみられる攻撃者の基盤を調べ、バックアップ内のWindowsファイルシステムを参照し、認証情報やパスワードハッシュを抽出したほか、バックアップデータを外部のクラウドストレージへ転送した痕跡を報告しています。攻撃の流れは操作履歴などから再構成したものであり、すべての被害組織で同じ経路の攻撃が成功したと確認されたわけではありません。

バックアップは、情報の保管先としても点検対象になります。復旧用のコピーに重要な情報が含まれているなら、そのコピーを誰が読めるのか、誰が削除できるのかまで確かめる必要があります。英国NCSCも、バックアップの管理に使うアカウントやアクセス経路の保護、多要素認証の利用を推奨しています*3。取得の成否だけでなく、保存先へのアクセスを制御できているかが確認の要点です。

QilinのAI利用はどこまで分かったのか

Talosがランサムウェア「Qilin」による攻撃を受けた環境を調査したところ、Qilinが使用していたオープンディレクトリから見つかったPythonスクリプトに、AIによる生成を示唆する特徴が確認されました。Talosは、その確度を中~高程度と評価しています。確認されたスクリプトには、Veeamバックアップを停止・無効化・破壊する機能を持つものも含まれていました。ただし、AIが攻撃全体を自律的に実行したと証明されたわけではありません。AI利用に関する評価と、スクリプトが備える機能は分けて読む必要があります。

企業の対策として点検したいのは、強い権限を持つアカウントで、どの操作まで実行できるかです。管理者権限の付与範囲を絞り、操作を記録し、不審な動きに対応する体制を整えましょう。こうした基本対策は、攻撃用コードの作成方法にかかわらず必要になります。AIという話題だけに対策を寄せず、自社で管理できる権限と監視の範囲を確認しましょう。

【関連記事】
Cisco Secure Firewall Management Center(FMC)の脆弱性を悪用し、侵入後にQilinランサムウェアが展開された事例も確認されています。実際の攻撃で確認された活動や、対象製品の確認、修正版へのアップグレードと侵害調査のポイントについて解説しています。
「Cisco FMCの脆弱性が実悪用―Qilinランサムウェアへの悪用事例と対策」

企業が見直したいランサムウェア対策

ここからは、警察庁と英国NCSCの対策情報をもとに、自社で確認する際の観点を整理します。

図2:侵入の防止から被害調査までの対策範囲

参考:警察庁「ランサムウェア被害防止対策」(https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/countermeasures/ransom.html)、National Cyber Security Centre (NCSC)「Mitigating malware and ransomware attacks」(https://www.ncsc.gov.uk/guidance/mitigating-malware-and-ransomware-attacks)を基に弊社作成
※ランサムウェア対策として、公開機器・リモート接続、端末・管理アカウント、重要サーバー・バックアップを保護し、インシデント発生時には証拠保全、影響調査、復旧判断を行う流れを示した模式図。
※一般的な対策の位置関係を示しており、今回の調査で確認された攻撃をそのまま再現した図ではありません。

公開機器とリモート接続の管理を確かめる

VPNなど外部から接続する機器は、使用製品とバージョン、更新を担当する部署を把握し、修正プログラムを適用できる状態にしておきましょう。認証には多要素認証を組み合わせ、接続元やアクセス先も必要な範囲に制限します。警察庁は、脆弱性への対応に加えて認証情報の管理と権限の最小化を案内しています。担当者が確認する際は、設定の有無とあわせて、例外として残された接続がないかも点検しましょう。

端末と認証のログをつなぎ 初動対応を決める

侵入後の横展開とは、攻撃者が侵害した端末などを足掛かりに、別のシステムへアクセスを広げることです。その調査や検知には、端末内の活動だけでなく、認証やネットワーク通信の記録も役立ちます。NCSCは、端末、サービス、ネットワーク機器など複数の情報源を組み合わせた監視を勧めています*4。

運用の点検では、不審なログインが見つかった際に、その前後の端末操作や外部通信を調べられるかを確認します。さらに、夜間に通知を受け取る担当者や、アカウント停止・端末隔離を判断する担当者を決めておきましょう。セキュリティ製品を導入するだけでなく、異常を検知した際に実際の調査や対応へ移れる体制になっているかを確認することが重要です。

バックアップを保護し復元できることを試す

バックアップは、業務環境が侵害されても一緒に失われないよう保管する必要があります。NCSCは、ネットワークから分離したバックアップ、復元手順の定期的な確認、バックアップ製品の更新に加え、インシデントを想定した対応計画の策定や訓練を推奨しています*5。クラウドに保存する場合も、過去の世代を直ちに削除されない仕組みがあるかを確認しましょう。復旧の準備では、どの業務を先に再開するかを決め、そのために必要なシステムを実際に戻せるか試します。バックアップ取得の記録が残っていても、担当者が復元手順を実行できるとは限りません。社内システムが使えない状況でも、連絡先や手順書を参照できるようにしておきましょう。

自社の課題に合わせてBBSecの支援を活用する

監視の通知を受け取った後の分析や対応を自社だけで担いきれない場合は、BBSecの「G-MDR®」が選択肢になります。各種セキュリティ対策を統合的に監視・相関分析し、脅威の検知から遮断・封じ込め、被害調査、対応支援を24時間365日体制で提供するサービスです。相談に当たっては、自社で収集できるログや管理対象を整理し、必要な対応範囲を確認するとよいでしょう。復旧計画を見直したい企業には、「ランサムウェアに対応したIT-BCP策定支援」があります。現状の対策状況を調査し、復旧の優先度や目標とする対策レベル、システム・ネットワークと運用の要件、改善計画の策定を支援します。復旧の優先順位と事業再開に向けた要件を具体化したい場合に、検討できるサービスです。

すでに不正アクセスが発生している、または侵害が疑われる場合には、まず侵入経路や影響範囲、情報漏えいの有無などを確認する必要があります。BBSecでは「緊急対応支援」を通じて、初動対応やデジタルフォレンジック、原因・影響範囲の調査、復旧に向けた対応などを支援しています。

また、情報が外部に持ち出された可能性がある場合には、「サイバー脅威情報調査」を組み合わせることで、ダークWeb上で自社に関連する情報が公開されていないかを調査できます。社内のログや端末などを対象とした調査とは目的が異なるため、必要に応じて組み合わせることで、内部の侵害状況と外部への情報流出の両面から確認できます。なお、ダークWeb上で情報が確認されなかったことだけをもって、情報漏えいがなかったと判断することはできません。情報漏えいの懸念がある場合、監視や復旧の備えについても、自社で対応に不安が残る箇所を整理したうえでBBSecへご相談ください。

【参考情報】

編集責任:木下


ランサムウェア対策やインシデント対応についてご相談ください

ランサムウェア対策は、侵入を防ぐだけでなく、監視や初動対応、バックアップからの復旧まで含めて備えることが重要です。自社の対策状況や対応体制に不安がある場合は、ブロードバンドセキュリティ(BBSec)へご相談ください。

お問い合わせページリンクボタン

ウェビナー開催のお知らせ

最新情報はこちら


Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

デジタル庁GSSに不正アクセス ―約24.6万件の情報漏洩の可能性と企業の対策

Share
デジタル庁GSSに不正アクセス ―約24.6万件の情報漏洩の可能性と企業の対策アイキャッチ画像

デジタル庁は2026年9月11日、ガバメントソリューションサービス(GSS)への不正アクセスにより、職員や業務関係者の個人情報約24.6万件が漏洩した可能性があると公表しました*6。今回の事案では、VPN機器の既知の脆弱性が悪用され、保守運用担当者のアカウントを利用した大量のファイルアクセスが検知されています。本記事では、公表情報をもとに事案の経緯と影響を整理するとともに、企業が脆弱性管理やセキュリティログ監視で見直したいポイントについて解説します。

GSS不正アクセスの検知から公表までの経緯

GSSは、デジタル庁が運用し、各府省庁などが業務に利用するサービスです。今回の調査は、6月25日に保守運用担当者のアカウントによるサーバー上の大量ファイルアクセスを検知したことから始まりました。VPN機器の脆弱性を使って第三者が侵入していたと判明したのは7月9日です。同日、当該アカウントを停止し、侵害された機器と外部との通信を遮断したと説明されています。6月25日は検知日であり、侵入開始日を示すものではありません。7月15日に個人情報保護委員会へ報告し、対象者や情報の内容の調査を進めたうえで9月11日に公表しました。

公式Q&Aによると、影響範囲や侵入経路、漏えいした可能性のある情報の特定に時間を要したとしています。公表時点では、修正プログラムの適用や関係アカウントの認証情報変更、通信遮断などの措置を実施済みで、その後、新たな不正アクセスや不審な通信は確認されておらず、政府業務への支障も生じていないと説明しています。*2。

図1:GSS不正アクセスの検知から公表まで

出典:デジタル庁「ガバメントソリューションサービスへの不正アクセスによる職員等の個人情報の漏えいの可能性について」(https://www.digital.go.jp/news/2026-0911-01)および「ガバメントソリューションサービスへの不正アクセスによる職員等の個人情報の漏えいの可能性について」に関するQ&A」(https://www.digital.go.jp/press/5fc99139-a4e2-4b7b-8b0c-d475e926143f)を基に作成

約24.6万件の個人情報が漏洩した可能性

約24.6万件の内訳は、GSS利用機関の職員や業務に携わった公務員等の情報が約18.9万件、業務に携わった事業者や個人の情報が約5.7万件です。漏洩した可能性のある個人情報には、氏名、メールアドレス、電話番号、住所などが含まれます。属性別では、氏名が約23.6万件、メールアドレスが約23.1万件、電話番号が約9.4万件、住所が約0.1万件とされています。これらの属性には重複があるため、単純に合計することはできません。

デジタル庁は、一般の国民の個人情報や、マイナンバー、金融機関口座情報、年金番号は含まれないと説明しています。ただし、公務員以外でも、関係省庁の業務に携わった企業の従業員や個人事業主などは対象に含まれます。また、約24.6万件すべてについて、外部への持ち出しが確認されたわけではありません。不正アクセスの痕跡があり、漏えいの可能性を否定できない情報も対象にした数字です。9月14日時点で確認した公表資料では、関連する二次被害は確認されていません。

深刻度「中」でも悪用

今回の脆弱性は、攻撃が確認される前に公表されていた既知の問題でした。デジタル庁は、当初の深刻度評価に応じた一般的対応より早く対処を進めたものの、修正プログラムの適用前に悪用されたと説明しています。この情報だけで、脆弱性を把握していなかった、あるいは放置していたとは判断できません。VPN製品名やCVE番号なども公表されていません。企業で見直したいのは、脆弱性の深刻度と、自社での対応優先度をつなぐ判断です。

CVSSを管理するFIRSTは、CVSSの基本評価値は脆弱性そのものの深刻度を表し、単独でリスク評価に使うべきではないと説明しています*3。利用環境や脅威の状況を加えて評価する考え方が、公式ガイドに示されています。

これを自社の運用に落とし込むなら、スコアの横に「どこから接続できる機器か」「侵害された場合に何へアクセスできるか」「業務や情報にどのような影響があるか」を記録する方法が考えられます。同じ深刻度でも、外部から接続できるVPNと、接続元を限定した機器では、確認すべき条件が異なります。これは今回のGSSの詳細構成を推定する話ではなく、自社で優先順位を判断するための実務上の整理です。パッチ適用に調整が必要な場合は、ベンダーが示す回避策や接続制限の適用可否も併せて検討します。その際、「次回メンテナンスで更新する」という予定だけで終わらせず、更新までに残るリスクと担当者、再判断の条件を記録しておくと、悪用情報が追加された際の見直しにつなげやすくなります。

図2:脆弱性対応の優先順位を考える視点

出典:FIRST「CVSS v4.0 User Guide」、デジタル庁「本事案に関するQ&A」をもとに弊社作成
※GSSの実際の運用・判断手順を示すものではありません。

保守アカウントを信頼しきらず、操作の実態を確かめる

もう一つの論点が、保守運用担当者のアカウントを通じたアクセスです。今回の公表資料では、アカウントをどのように悪用できる状態にしたのか、認証情報をどう取得したのかまでは明らかにされていません。パスワードの使い回しや多要素認証の未導入が原因だった、と断定することはできません。

企業側で検討したいのは、認証の成否に加え、アクセス後の行動を確認できる状態です。例えば、保守作業の予定と実際のアクセス時刻を照合し、対象サーバー、操作内容、ファイルへのアクセス量が作業目的と整合するかを確認する、といった運用が考えられます。大量アクセス自体には正当な作業もあるため、件数だけで不正と決めつけず、普段の利用や作業申請と照らし合わせることが大切です。その判断を支えるのが、VPNの接続記録、認証ログ、サーバーの監査ログなどです。NISTのログ管理ガイドでは、ログ管理の基盤整備や、組織全体で継続的にログを管理するプロセスの構築について示しています*4。

企業では、必要なログを取得・保存するだけでなく、複数のログを時系列で確認できる状態を整え、異常を検知した際の対応や役割分担まで含めて運用を設計することが重要です。

ゼロトラストも、日々の脆弱性管理と監視が土台になる

GSSはゼロトラストアーキテクチャを採用していたと説明されています。ただし、具体的な構成や対策は非公表です。今回の事案だけから、ゼロトラスト全体の有効性や、特定の対策が機能しなかった理由を評価することはできません。NISTはゼロトラストを、ネットワーク上の場所や資産の所有者だけで、利用者や機器を暗黙に信頼しない考え方として整理しています*5。

企業が確認すべきなのは、自社でどのアクセスを検証し、どこまでを許可し、どの記録から異常を判断できるかです。VPNの更新、アクセス権限の確認、ログ分析を、導入した製品や構成に合わせて継続する必要があります。

BBSecのログ分析・活用支援で、確認できる範囲を広げる

「ログは保存しているが、保守アカウントの不正利用をどう見つけるか決まっていない」。そうした課題には、取得対象と分析目的の整理から取り組む方法があります。BBSecの「セキュリティログ分析/活用支援」は、蓄積したログの分析から、ログ取得環境の整備に向けたコンサルティング、Splunkを用いた統合ログ管理・分析環境の構築、運用までを支援するサービスです。現状の管理ポリシー、取得状況、体制、運用プロセスを確認し、改善プランを検討しましょう。自社のVPNや認証基盤、サーバーについて、取得するログと検知したい事象を具体化すれば、追加すべき記録や運用上の課題を検討できます。既存ログの活用や分析環境の見直しを進めたい企業は、BBSecにご相談ください。

【参考情報】

編集責任:木下


セキュリティ対策についてお困りの方へ

自社のセキュリティ対策についてお悩みの場合は、ブロードバンドセキュリティ(BBSec)までお気軽にご相談ください。

ウェビナー開催のお知らせ

最新情報はこちら


Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

Cisco FMCの脆弱性が実悪用 ―Qilinランサムウェアへの悪用事例と対策

Share
Cisco FMCの脆弱性が実悪用アイキャッチ画像

Cisco Secure Firewall Management Center(FMC)の脆弱性を悪用した攻撃が確認されています。FMCはファイアウォールなどを集中管理する製品であり、侵害された場合には、管理基盤だけでなく組織内のシステムへの影響も確認する必要があります。本記事では、FMCに影響する2件の脆弱性の概要と、実際の攻撃で確認された活動を整理し、企業が進めるべき確認と対応について解説します。

※本記事は2026年9月16日時点で公開されている情報に基づき作成しています。

Cisco FMCはファイアウォールなどを集中管理する製品

2026年9月9日、Cisco Talosは、Cisco Secure Firewall Management Center(FMC)の2件の脆弱性が実際の攻撃で悪用されていると公表しました*6。確認された攻撃活動には、FMCへの侵入後に組織内の端末へQilinランサムウェアを展開した事例も含まれています。

FMCは、Ciscoのファイアウォールや侵入防御などを集中管理するための製品です。通信の許可・遮断、アプリケーション制御、脅威への対策といったポリシーを管理し、ネットワークで起きている事象を分析する役割を持ちます*2。この役割を踏まえると、管理基盤の安全性は、配下の機器を運用するうえでの前提になります。業務用サーバーの更新計画に加え、管理者が使うセキュリティ製品そのものについても、利用バージョン、アクセス経路、管理権限を把握する必要があります。

また、「Cisco製のファイアウォールを利用している」という情報だけでは影響を判断できません。今回の対象はFMCソフトウェアなど、公式アドバイザリが指定した製品です。Ciscoは両脆弱性について、Secure Firewall ASA Software、Secure Firewall Threat Defense(FTD)Software、Firewall Device Manager(FDM)は影響を受けないとしています。管理対象の機器と、その機器を管理する製品を分けて確認しましょう。

※なおCVE-2026-20079については、Cisco Security Cloud Control(SCC)Firewall Managementも対象ですが、SaaSとしてCisco側ですでに修正済みで、ユーザーによる対応は不要とされています。

CVSS 10.0と5.3 二つの脆弱性の違い

CVE-2026-20079は、FMCのWebインターフェースにおける認証回避の脆弱性です。認証されていない遠隔の攻撃者が認証を回避し、影響を受ける装置でスクリプトを実行して、OSのroot権限を取得できる可能性があります。CVSS v3.1基本値は10.0です。rootはOSにおける強い管理権限であり、管理基盤そのものを操作される問題として受け止める必要があります。

CVE-2026-20316は、低権限アカウントの静的な認証情報が存在することに起因する脆弱性です。認証されていない遠隔の攻撃者がそのアカウントでログインし、機微なデータへアクセスできる可能性があります。CVSS v3.1基本値は5.3ですが、Ciscoは他のFMCの脆弱性と組み合わせて権限昇格に利用できることから、独自の深刻度分類では「High」と評価しています。ここで判断を誤りやすいのが、5.3という数字を見て対応を後回しにすることです。今回のように実悪用が確認され、別の問題と組み合わされると影響が広がる場合は、基本値だけでは優先順位を決められません。ベンダーによる評価の理由と、実際の攻撃での利用状況まで読むことが大切です。

図1:FMCの脆弱性悪用と侵害後の活動

Qilinランサムウェアの侵入経路は静的認証情報の悪用

Talosは、FMC上で確認した侵害後の活動を3つの群に分けています。UAT-12197はCVE-2026-20079を悪用し、Webシェルなどを設置して認証情報を窃取していました。UAT-11823では2件の脆弱性の悪用が確認され、管理対象機器の設定情報収集や、Cyclops Blinkの亜種の展開などが観測されています。Qilinランサムウェアの展開が確認されたのは、これらとは別のUAT-11988です。この群はCVE-2026-20316に関係する静的認証情報でFMCに入り、正規の組み込みツールを悪用して内部環境を調査しました。認証情報の窃取や接続経路の確保を経て、端末へQilinを展開しています。

修正プログラムの適用と侵害調査を進める

今回の対応では、FMCを修正版へアップグレードすることと、すでに侵害されていないかを確認することを分けて考える必要があります。まず、実際に運用しているFMCのバージョンを把握し、Ciscoが公開しているCVE-2026-20079とCVE-2026-20316のセキュリティアドバイザリに記載された「Fixed Software(修正版)」と照合してください。Ciscoは、これらの脆弱性への修正を含むハードニングリリースを公開しており、影響を受ける環境について、該当する修正版へのアップグレードを推奨しています。利用しているバージョンによって適切な更新先が異なるため、最新の公式アドバイザリを確認したうえで対応を進めることが重要です。さらに、すでに侵害されていないかを調べます。Ciscoは、対象ログにあるpackage_info関連の実行記録に、/var/tmp/license.tmpが含まれる場合を、悪用の可能性を示す確認ポイントとして挙げています。単に同名のファイルを探すだけではなく、公式に示されたログの文脈で確認し、侵害が疑われる場合はCisco TACへ速やかに連絡するよう求めています。

修正版へのアップグレードは今後の悪用を防ぐために重要ですが、すでに侵害されていないことを証明するものではありません。Ciscoも、侵害が疑われる場合はCisco TACへ連絡し、復旧に関する案内に従うよう求めています。「更新済み」の記録を付ける担当と、侵害の可能性を判断する担当が異なる場合は、両者の確認結果を一つの対応記録で共有すると、調査の抜けを防ぎやすくなります。

図2:修正版へのアップグレードと侵害調査 それぞれの目的

管理装置の復旧だけで対応を終えないために

侵害の疑いがあるときは、FMCだけを調べて完了とする判断は慎重に行う必要があります。今回の事例を踏まえた実務上の確認事項は、FMCで何が実行されたか、そこからどのシステムに接続できたか、認証情報の悪用がほかの環境に及んでいないか、という範囲です。これはすべての利用組織に同じ被害があるという意味ではなく、自社の接続関係と調査結果に沿って影響範囲を確かめるための考え方です。復旧を急ぐ場面でも、調査に必要なデータをどう確保するか、どこまでの通信を止めるか、どの状態をもって安全に再開できると判断するかを、保守担当者や専門家と共有する必要があります。連絡先だけでなく、判断する責任者と、判断に必要な情報を平時に定めておけば、発生後の対応に取り掛かりやすくなります。

BBSecの緊急対応支援で、調査から復旧方針の整理へ

不審なログが見つかったものの影響範囲を判断できない場合や、証拠を保全しながら復旧を進める必要がある場合には、専門的な調査や対応が必要になることがあります。BBSecでは「緊急対応支援」を通じて、初動対応やデジタルフォレンジック、原因・影響範囲の調査、復旧に向けた対応などを支援しています。緊急コンタクト窓口は24時間365日受け付けています。

また、インシデント発生に備えて平時から対応体制を整えておきたい企業向けに、「インシデントレスポンス/フォレンジック」を提供しています。契約などの確認を事前に進め、有事の初動を円滑にするための仕組みです。基本契約の締結は無償ですが、フォレンジック調査費用は含まれません。必要な支援範囲を平時から相談し、自社の対応体制につなげておくことができます。

侵害が疑われる場合は、製品固有の対応についてCiscoの案内を確認するとともに、影響範囲の調査やインシデント対応にお困りの場合は、BBSecの「緊急対応支援」へご相談ください。

緊急対応支援サービスページリンクバナー

【参考情報】

編集責任:木下


セキュリティ対策についてお困りの方へ

自社のセキュリティ対策についてお悩みの場合は、ブロードバンドセキュリティ(BBSec)までお気軽にご相談ください。

ウェビナー開催のお知らせ

最新情報はこちら


Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

盗まれたトークンから約3時間でクラウド管理権限へ ―AnthropicのAI悪用報告から考える企業の対策

Share
AnthropicのAI悪用報告から考える企業の対策アイキャッチ画像

生成AIの活用が広がる一方で、サイバー攻撃にAIを悪用する動きも確認されています。Anthropicが2026年9月10日に公表したAI悪用の調査報告には、盗まれた開発者トークンを足掛かりに、攻撃者が被害組織のクラウド環境の完全な管理権限を約3時間で取得した事例が記されています。AIサイバー攻撃への備えを考えるうえで、この事例は、認証情報の保護と、検知後に動ける体制を点検する材料となります。

AnthropicのAI悪用報告で何が確認されたのか

今回の報告では、2025年12月から2026年8月にかけてAnthropicが検知・対処したAI悪用活動が取り上げられています。サイバー攻撃におけるAIの使われ方には幅があり、攻撃者の補助として利用された例に加え、偵察、侵入、認証情報の収集、情報窃取などをAIに実行させる例や、複数の標的に対してAIエージェントが並行して処理する例も確認されています。一方、標的の選定や攻撃結果の確認、収益化などの重要な判断には、人間が引き続き関与していたとされています。

報告には、認証情報の悪用に関する事例も複数示されています。被害組織の環境から盗んだAIサービスのAPIキーを別の攻撃に利用した例に加え、盗まれた開発者トークンを足掛かりに、被害組織のクラウド環境の完全な管理権限を約3時間で取得した事例も報告されています。認証情報は情報を盗む入口となるだけでなく、攻撃に用いるAIの計算資源へのアクセスにも利用されていました。*3

なお、約3時間という数値は、Anthropicが観測した個別の侵害事例に関するものです。すべてのAIを使った攻撃が同じ速さで進むことや、従来の攻撃より何倍速いかを示す統計ではありません。この事例から企業が考えるべきなのは、約3時間という時間そのものではなく、認証情報が悪用された場合に、異常を検知し、調査やアクセス制限などの対応へ移るまでにどの程度の時間を要するかという点です。

図1:AI悪用による侵入の個別事例

開発者トークンから管理権限取得までの個別事例
開発者トークンから管理権限取得までの個別事例
出典:Anthropic「Detecting and countering misuse of AI: September 2026」(https://www.anthropic.com/threat-intelligence-report-september-2026)を基に作成

認証情報漏洩への対策は、トークンの権限まで確認する

認証情報の管理を見直すときは、人がログインに使うパスワードに加え、アプリケーションや開発環境が使うアクセスキー、トークンも対象にします。ここからは、クラウド環境で取り組める対策をAWSの公式資料を例に整理します。前述の被害事例のクラウド事業者をAWSと特定するものではありません。

AWSはIAMの推奨事項として、一時的な認証情報の利用、多要素認証(MFA)、業務に必要な範囲に絞った権限付与、使われていない認証情報や権限の定期的な見直しを挙げています*2。システムが継続的に使う認証情報についても、長期のアクセスキーを配布する構成から、IAMロールによる一時的な認証情報へ移行できるかを検討します。自社で点検する際は、認証情報を誰が管理し、どのシステムが使い、どのデータにアクセスできるのかを確認し、用途が終わったテスト用の権限や、担当者の異動後も残る認証情報などを整理します。認証情報の保護とあわせて、必要以上の権限を与えないことが重要です。

クラウドのログは、データへの操作まで記録されているか

クラウド監視では、「ログを取得している」だけでなく、実際にどの操作まで記録されているかを確認する必要があります。例えばAWS CloudTrailでは、Amazon S3上のオブジェクトの読み取りなどはデータイベントに分類され、証跡やイベントデータストアでは初期設定で記録されないため、取得には設定と追加料金が必要です*3。自社の重要データについて、調査時に確認したい操作が記録に残るかを点検し、顧客データを保管する領域であれば、誰が、いつ、どのデータへアクセスしたかを追える設定になっているかを確認します。大量のログを一律に増やすのではなく、守るべきデータと必要な調査項目を先に決めると、取得範囲や費用も検討しやすくなります。

また、アクセスがあったという事実だけで、不正利用とは断定できません。AWSのGuardDutyの対応ガイドも、検知に関係するユーザーやロール、API操作を特定し、操作時刻や接続元IPアドレスを含めて正当な利用か確認するよう案内しています*4。担当者がこれらを照合できる情報と連絡先を持つことが、アラートを判断につなげる前提になります。

検知後は、どの認証情報の利用を止めるか判断する

認証情報の不正利用が疑われる場面では、影響するユーザーやロールと、その権限を特定する必要があります。API操作の内容を見れば、正常な処理との違いや調査すべき範囲を検討できます。確認の結果、正当な利用と判断できない場合は、該当するクラウドサービスの手順に沿って封じ込めを進めます。

ここで注意したいのが、すでに発行された一時的な認証情報の扱いです。AWSは、不正利用を止める手段として、一時的な認証情報に付与される権限の変更や、IAMロールの既存セッションの取り消し方法を説明しています*5。対象のロールを利用する正常なユーザーにも影響する場合があり、どの利用を止めるかを区別することが必要です。

緊急時の手順には、実行する操作だけでなく、その操作で停止する業務と、判断を行う担当者も記載しておきます。「認証情報を無効にする」とだけ書かれた手順を、自社のアカウントやサービスに当てはめて確認する作業です。担当部門が異なる場合も、現場で判断できる範囲をあらかじめ合意しておくことが、連絡待ちを減らすための実務的な準備になります。

図2:認証情報の悪用に備える監視と初動対応

出典:AWS「Remediating potentially compromised AWS credentials」(https://docs.aws.amazon.com/guardduty/latest/ug/compromised-creds.html)「Disabling permissions for temporary security credentials」(https://docs.aws.amazon.com/IAM/latest/UserGuide/id_credentials_temp_control-access_disable-perms.html)「SEC10-BP07 Run simulations」(https://docs.aws.amazon.com/wellarchitected/latest/framework/sec_incident_response_run_game_days.html)を基に弊社作成

「対応できるはず」を訓練で確かめる

検知から対応までの時間を短くしたいなら、まず自社の手順を一度動かして確かめることです。AWSのWell-Architected Frameworkでは、インシデント対応能力を評価する方法として演習を挙げ、机上演習では関係者の役割や責任、連絡手段、手順書を確認できると説明しています。*6

例えば「夜間に、通常と異なる認証情報の利用が通知された」という場面を設定し、担当者に連絡が届くか、正当な作業かを確認できるか、アクセス制限を誰が判断するかを話し合います。これは本稿で提案する訓練の例です。連絡先の更新漏れや判断権限の曖昧さが見つかれば、実際のインシデントが起こる前に修正できます。

演習では、通知を確認した時点、調査を始めた時点、対応を決めた時点を分けて記録すると、改善すべき箇所を具体化できます。約3時間という他社事例をそのまま自社の目標時間にするのではなく、自社の重要業務と運用体制に即して、対応を遅らせる要因を取り除くことが大切です。


監視からインシデント対応まで、セキュリティ体制を見直したい企業へ

こうした体制を自社だけで維持することが難しい場合は、監視や分析、対応を専門家と分担する方法があります。ブロードバンドセキュリティ(BBSec)の「G-MDR®」では、セキュリティ対策を統合的に監視・相関分析し、専門エンジニアが24時間365日体制で監視・運用を支援します。アラートの検知だけでなく、その後の調査や対応を含めたセキュリティ体制についてもご相談いただけます。

※外部サイトにリンクします。

セキュリティ対策について相談する

「アラートは検知できても、その後の調査や対応に不安がある」「24時間365日の監視体制を整えたい」といった課題がある場合は、BBSecまでお気軽にご相談ください。

導入を検討する際は、自社のクラウド環境や既存製品から連携できるログ、検知後に実行する対応、社内の承認が必要な操作を具体的に相談するとよいでしょう。すべてのクラウドサービスや復旧作業が無条件に対象になると考えず、自社に必要な監視範囲と対応範囲を確認することが大切です。


【参考情報】

編集責任:木下


ウェビナー開催のお知らせ

最新情報はこちら


Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

2026年上半期のサイバー脅威情勢 ―ランサムウェア被害は半期最多123件に

Share
2026年上半期のサイバー脅威情勢アイキャッチ画像

警察庁が2026年9月10日に公表した「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、ランサムウェアの被害報告は123件となり、2020年下半期の統計開始以降、半期として最多となりました。注目したいのは、被害件数だけでなく、侵入経路や被害後の復旧の実態です。本記事では、警察庁の公表資料をもとに、企業が押さえておきたいポイントと必要な対策を解説します。

ランサムウェア被害は半期最多123件

2026年上半期のランサムウェア被害報告件数は、前年同期の116件から7件増えました。増加率は約6.0%です。被害を受けた企業・団体等のうち、中小企業79件、大企業31件、団体等13件でした。中小企業が全体の約64%を占め、業種別では製造業が37件と最も多くなっています。*7[統計編141・142頁]

ランサムウェア被害報告件数の半期推移

※本統計データは警察庁に報告された企業・団体等の被害件数であり、国内で発生したすべての被害を示すものではありません。

また、暗号化せずに盗んだ情報の公開をほのめかして金銭を要求する「ノーウェアランサム」は、別に9件報告されています。ランサムウェア被害を考える際には、データの暗号化だけでなく、情報窃取を伴う脅威にも注意が必要です。それでも、中小企業にも被害が広く及んでいる事実は、自社の規模を理由に対策を後回しにできないことを示しています。限られた人数で対策を進める企業ほど、インターネットに公開している機器と、停止した場合に仕事が進まなくなるシステムを具体的に洗い出すところから始めるのがよいでしょう。

感染経路はVPN機器が最多

警察庁の被害組織へのアンケートでは、感染経路の有効回答36件のうち、VPN機器が18件、リモートデスクトップが9件、その他が9件でした。VPN機器とリモートデスクトップで75%を占めました。ただし、感染経路について回答が得られた36件を対象とした結果です。*2[統計編143頁]

また、同報告書では、攻撃者が未修正の脆弱性や漏えいした認証情報などを悪用してネットワークへ侵入する手口が示されています*3[本文10頁]。そのため、「VPN機器からの侵入=製品の脆弱性が原因」とは限りません。VPN機器などのソフトウェアの更新状況だけでなく、アカウントや認証の管理も併せて確認することが重要です。

こうした侵入への対策として、警察庁の「ランサムウェア被害防止対策」では、VPN機器等への更新ファイルの適用、認証情報の適切な管理、多要素認証やアクセス制限などを挙げています。これを日々の運用に落とし込むには、装置の製品名とバージョン、保守期限、更新の担当者を把握し、不要な公開設定や使われていないアカウントを見直すところから始めます。委託先が運用している場合も、更新を依頼するだけで終えず、適用結果を確認する役割を決めておきましょう。

公開機器の管理が重要となる背景には、脆弱な機器などを探す活動が継続的に観測されていることもあります。警察庁のセンサーが検知した脆弱性探索行為等の不審なアクセスは、1日・1IPアドレス当たり1万3,687件でした*4[本文5頁]。ただし、これは警察庁の観測環境における値であり、一般企業が毎日同じ件数の攻撃を受けていることを意味するものではありません。外部から接続可能な機器やサービスを継続的に把握し、不要な公開がないか定期的に確認することが重要です。

調査・復旧費用は1,000万円以上が6割

ランサムウェア被害に伴う調査・復旧費用の総額について、有効回答35件のうち21件が1,000万円以上でした。このうち4件は1億円以上です。身代金の要求額を示す統計ではなく、被害後の調査と復旧に要した費用である点を押さえておく必要があります。また、復旧等に要した期間は、有効回答48件のうち、1か月未満が23件、回答時点で復旧中が13件でした*5[統計編144・145・146頁]。

「復旧中」には終了時期が確定していない回答が含まれるため、残りを一括して「1か月以上停止した」と読むことはできません。また、システムの復旧期間と、全社の業務停止期間も同じではありません。

被害後の負担とバックアップ復元の実態

調査・復旧費用が1,000万円以上

21件 / 有効回答35件

バックアップから復元できなかった

29件 / 有効回答40件

出典:警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」をもとに弊社作成。割合は警察庁公表の件数をもとに弊社算出。
※項目ごとに有効回答数が異なるため、2つの割合を直接比較するものではありません。また、一般企業における被害率やバックアップの失敗率を示すものではありません。

被害後の調査や復旧には大きな費用が発生する場合があります。被害が発生してから対応を検討するのではなく、平時から復旧の優先順位や必要な対応を整理しておくことが重要です。


万一の費用負担に備えるサイバー保険

サイバー攻撃への備えでは、被害を防ぐための対策に加えて、万一インシデントが発生した場合の費用負担についても考えておくことが重要です。BBSecでは、SQAT® 脆弱性診断サービスにサイバー保険を付帯しています。情報漏えいやサイバー攻撃に起因する賠償損害や、事故発生時の対応にかかる費用損害などを補償し、平時のセキュリティ対策と万一への備えを支援します。

※外部サイトにリンクします。

【関連記事】


バックアップは復元できる状態まで確かめる

バックアップからの復元結果に関する有効回答40件では、復元できたのは11件、できなかったのは29件でした*6[統計編148頁]。

バックアップを取得していても、被害発生時に必ず復元できるとは限りません。重要なのは、バックアップの有無だけでなく、保存先が攻撃の影響を受けにくい状態になっているか、実際にデータを復元できるか、復元後にシステムや業務を再開できるかまで確認しておくことです。警察庁もランサムウェア被害防止策として、バックアップをネットワークから切り離して保管することなどを呼びかけています*7。日常のバックアップ結果に加えて、復元の手順と所要時間を確認し、事業継続計画に反映させることが重要です。

さらに、暗号化されたデータを復元できても、盗まれた情報への対応は残ります。報告書によると、手口が判明した66件のうち61件は二重恐喝でした*8[本文98頁・統計編140頁]。二重恐喝とは、データの暗号化に加え、窃取した情報の公開を材料に金銭等を要求する手口です。バックアップの整備と並行して、持ち出された情報の範囲を調べ、関係者への説明に必要な事実を整理できるよう備える必要があります。

フィッシング報告は約73万件

フィッシング対策協議会の集計によると、2026年上半期のフィッシング報告件数は約73万件でした*9。なお、この数字は同協議会に寄せられた報告件数であり、被害者数や不正送金の件数を示すものではありません。前年同期を下回っているものの、引き続き多くのフィッシングが報告されており、継続した対策が必要です。

警察庁の報告書では、AI技術の発達により、文章や偽装が自然で見抜きにくいフィッシングへの注意を促しています*10[本文17頁]。そのため、「日本語が不自然なら疑う」といった見分け方だけに頼るのではなく、メールやSMSで手続きを求められた場合は、本文中のリンクからアクセスせず、公式サイトや公式アプリなど、確認済みの経路からアクセスすることが重要です。

企業側でも、従業員への注意喚起だけでなく、多要素認証の導入や不審なログインの監視など、認証情報が窃取された場合も想定した対策が求められます。フィッシング対策とランサムウェア対策は別の入口を持つことがありますが、認証情報の管理と異常の早期把握は、双方に関わる備えです。

ランサムウェア対策を事業継続につなげる

警察庁の報告書では、ネットワークへの侵入後に権限奪取や内部探索、情報窃取が行われ、暗号化に至る攻撃の流れが示されています*11[本文10頁]。こうした攻撃の流れを企業の対策に置き換えると、公開機器の管理から侵入後の監視、復旧の準備までを一続きで考えることが重要です。VPN機器などの更新や認証強化を進めるだけでなく、不審なログインや権限の悪用を把握し、速やかに封じ込めへ移れる体制を整えておく必要があります。

事業継続の準備では、どの業務を優先して再開するか、誰がシステムの切り離しや再接続を判断するか、社内システムが使えないときにどう連絡するかを具体化します。調査や封じ込めと調整しながら復旧を進める必要があるため、自然災害を想定した計画だけでは対応しきれない場面があります。

侵入への備えと事業継続をつなぐ対策

出典:警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R8kami/R08_kami_cyber_jousei.pdf)および「ランサムウェア被害防止対策」をもとに弊社作成

IT-BCPで復旧の優先順位を明確にする

ランサムウェア被害からの復旧では、システムを元に戻すだけでなく、どの業務を優先して再開するか、そのためにどのシステムから復旧するかをあらかじめ整理しておくことが重要です。また、調査や封じ込めの状況を踏まえながら復旧を進める必要があるため、復旧時の判断基準や役割分担も明確にしておく必要があります。

IT-BCPは、ITシステムが利用できなくなった場合の事業継続と復旧に備える計画です。BBSecでは、「ランサムウェアに対応したIT-BCP策定支援」を提供しています。現状の対策状況を確認し、復旧優先度や目標とする対策レベルを設定したうえで、システム・ネットワークの要件、運用要件、改善計画の具体化を支援します。「バックアップはあるものの、どのシステムから復旧するか決まっていない」「インシデント発生時の復旧判断や役割分担が明確になっていない」といった課題がある場合には、業務とシステムの関係を整理し、ランサムウェア被害を想定した復旧計画を検討しておくことが重要です。

また、インシデント発生時の初動手順や体制を整備したい場合には「インシデント初動対応準備支援」、セキュリティ対策のログ監視・分析などの運用体制を強化したい場合には「G-MDR®」など、平時からの備えを組み合わせることも有効です。

【参考情報】

編集責任:木下


セキュリティ対策についてお困りの方へ

ランサムウェア対策やインシデント対応、事業継続に向けた備えなど、自社のセキュリティ対策についてお悩みの場合は、ブロードバンドセキュリティ(BBSec)までお気軽にご相談ください。

ウェビナー開催のお知らせ

最新情報はこちら


Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

AIガバナンスとは?企業に必要な体制とAI利用ガイドラインの作り方

Share
AIガバナンスとは?アイキャッチ画像

生成AIの業務利用が広がるなか、企業にはAIを使うかどうかだけでなく、どのAIを、どの業務で、どのような条件で利用するかを組織として管理することが求められています。情報漏洩や誤情報、著作権などのリスクに加え、従業員が会社の承認を得ずにAIサービスを利用する「シャドーAI」への対応も必要です。本記事では、AIガバナンスとは何か、国内外のルールやガイドラインの動向を踏まえながら、企業に必要な体制やAI利用ガイドラインの作り方について紹介します。

AIを取り巻くリスクや、企業に求められるセキュリティ対策の全体像については、「AIセキュリティとは?生成AI時代に企業が知っておくべきリスクと対策」で詳しく紹介しています。

AIガバナンスとは

AIガバナンスとは、企業や組織がAIを適切に利用するために、方針や責任体制、ルールを定め、AIに伴うリスクを継続的に管理していく仕組みです。生成AIの利用では、入力した機密情報や個人情報の取り扱い、生成された情報の正確性、著作権・知的財産権、利用するAIサービスの安全性など、さまざまな点を考慮する必要があります。そのため、生成AIに個人情報を入力しない、といった利用上の注意事項を定めるだけでは十分とはいえません。

誰がAIの利用を管理するのか、どのようなAIサービスを利用できるのか、問題が発生した場合に誰へ報告するのか、利用するAIやリスクの変化に応じてルールをどのように見直すのか、といった運用まで含めて考える必要があります。AI利用ガイドラインは、こうしたAIガバナンスを実際の業務へ落とし込むための手段の一つといえます。

なぜ企業にAIガバナンスが必要なのか

生成AIは、文章作成や要約、翻訳、情報収集、プログラミング支援など、さまざまな業務で利用できるようになりました。一方、利用が容易であるからこそ、企業が把握しないまま従業員がAIサービスを業務に利用することも考えられます。例えば、従業員が個人で登録した生成AIサービスに顧客から届いたメールを入力して返信文を作成したり、社内資料やソースコードを入力して要約や分析を行ったりするケースです。企業が利用実態を把握できていなければ、どのサービスに、どのような情報が入力されているのかを管理できません。

国内でも、個人情報保護委員会やデジタル庁などが、生成AIの業務利用における個人情報や機密情報の取り扱いについて注意を促してきました。また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2026年7月に公開した「生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書」では、全社AIガバナンスとして、AIガバナンス体制の整備、利活用ガイドラインの策定、シャドーAIへの対応方針などが整理されています。生成AIを一律に禁止するだけではなく、生成AIの利用実態を把握し、リスクに応じて適切に管理できる仕組みを整えることが重要です。

生成AIの情報漏洩や誤情報、著作権、サイバー攻撃への悪用などのリスクについては、「生成AIのリスクとは?企業が注意すべき情報漏洩・誤情報とサイバー攻撃への悪用」で詳しく紹介しています。

AIガバナンスを取り巻く国内外のルールとガイドライン

AIの急速な普及を受け、国内外ではAIを安全かつ適切に利用するためのルールやガイドラインの整備が進められています。日本では、経済産業省と総務省が2024年に「AI事業者ガイドライン」を策定しました。その後もAIを取り巻く環境の変化に応じて改定が続けられ、2026年3月には第1.2版が取りまとめられています。AI事業者ガイドラインでは、AIに関係する事業者をAI開発者、AI提供者、AI利用者に整理し、それぞれが取り組むべき事項などが示されています。

政府においてもAI利用のルール整備が進んでいます。デジタル庁は2026年6月、「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」を第2.0版へ改定しました。同ガイドラインでは、政府における生成AIのガバナンスや、各府省庁が生成AIを調達・利用する際のルールなどが示されています。

個人情報の取り扱いについても注意が必要です。個人情報保護委員会からは2023年6月に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」で一部事業者に対する要配慮個人情報の取得及び利用目的の通知などについての注意喚起が行われています。全般の注意喚起では個人情報取扱事業者、行政機関、一般利用者それぞれに向けた注意点が記載されています。

生成AIサービスを利用する場合には、利用規約やプライバシーポリシーを確認し、入力する情報がどのように取り扱われるのかを把握したうえで利用を判断することが重要です。

AIサービスの契約条件も確認する

AIサービスを導入する際には、社内ルールだけでなく、利用するサービスの契約条件やセキュリティについて確認することも重要です。経済産業省が公開している「生成AIサービスの利用・開発に関する契約チェックリスト」では、AIサービスの利用や開発にあたり、インプット・アウトプットの取り扱いや権利関係、責任分担などを確認するための観点が整理されています。

生成AIサービスの利用・開発に関する契約チェックリスト(チェッリストの対象となる条項)
チェックリストの対象となる条項
出典:経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」p.11より抜粋

セキュリティに関してはチェックリスト内に、以下の観点でのチェック項目が設けられています。

  • 対象システム(AIサービス)のセキュリティ水準
  • 監査条項等
  • ログの保存
  • 規約改定に関する留意点

AIサービスを選定する際には、機能や価格だけでなく、入力した情報がどのように扱われるのか、ログが保存されるのか、契約条件が変更された場合にどのような影響があるのか、といった点も確認する必要があります。

海外でもAIに関する制度整備が進む

海外でもAIの安全性や信頼性を確保するための制度整備が進められています。代表的なものが2024年に施行されたEUのAI全般をリスクベースで管理するためのAI法(『EU AI Act: first regulation on artificial intelligence』)です。AI法では、AIシステムをリスクに応じて分類し、許容できないリスクを持つAIを禁止するとともに、高リスクAIにはリスク管理や記録、人による監督などの要件を設けています。

また、汎用目的AI(General-purpose AI(GPAI))についても、そのリスクや役割に応じた義務が設けられています。

日本企業であっても、EU域内でAIシステムを提供したり利用したりする場合などには適用対象となる可能性があります。海外で事業を展開する企業では、自社のAI利用に関係する国や地域の制度についても確認する必要があります。

さらにEU以外でも、韓国をはじめ各国でAIの安全性や信頼性を確保するための制度・体制整備(韓国:AI基本法等)が進んでいます。

こうした動きを踏まえると、AIガバナンスは一度ルールを作れば完了するものではありません。AI技術やサービス、国内外のルールの変化に応じて、自社の管理体制も継続的に見直していく必要があります。

AIガバナンスで企業が整えるべき体制

AIガバナンスを実際に機能させるためには、AI利用に関する役割と責任を明確にする必要があります。例えば、経営層がAI活用に関する基本方針や許容するリスクを示し、情報システム・セキュリティ部門が利用するAIサービスの安全性や情報管理を確認します。法務・コンプライアンス部門は、個人情報や著作権、契約などの観点から利用条件を確認し、各事業部門は定められたルールに基づいてAIを利用します。

重要なのは、必ずしも「AIガバナンス委員会」のような新しい組織を設置することではありません。企業の規模やAIの利用状況によっては、既存の情報セキュリティ委員会やリスク管理、ITガバナンスなどの体制にAIの管理を組み込む方法も考えられます。一方で、AIに関する判断を情報システム部門だけに任せることも適切とは限りません。AIの利用にはセキュリティだけでなく、法務、知的財産、業務品質、倫理など複数の論点が関係するためです。「誰がAIを管理するのか」だけではなく、「どのような問題を、どの部門が判断するのか」まで整理しておくことが重要です。

AI利用ガイドラインには何を書くべきか

AIガバナンスの方針を従業員の具体的な行動へ落とし込むためには、AI利用ガイドラインを整備することが有効です。ガイドラインには、単に「機密情報を入力しない」と記載するだけではなく、実際の業務で従業員が判断できる内容を盛り込む必要があります。

項目定める内容の例
利用できるAI承認済みサービス、利用条件
利用目的認める業務・禁止する用途
入力情報個人情報、機密情報、顧客情報等の取り扱い
生成物ファクトチェック、著作権、外部公開時の確認
アカウント法人・個人アカウントの使い分け
外部サービスデータ保存、学習利用、ログ、契約条件
問題発生時報告先、対応フロー
見直し定期レビュー、サービス変更時の再評価

特に注意したいのが、利用禁止、とだけ定めて終わらせないことです。

例えば「機密情報を入力してはいけない」と規定していても、従業員が何を機密情報として扱うべきか判断できなければ、実際の業務では迷いが生じます。顧客から届いたメール、会議の議事録、契約書、ソースコード、未公開の製品情報など、具体的な利用場面を想定しながら、入力できる情報とできない情報を示すことが重要です。

また、生成物を業務で利用する際の確認方法も必要です。生成AIの出力には不正確な情報が含まれる可能性があるため、重要な判断や社外へ公開する情報については、人による確認や一次情報との照合を行うなどのルールを定めておくことが考えられます。

利用するAIサービス自体の確認も必要

AI利用ガイドラインを整備しても、利用するAIサービス自体の安全性やデータの取り扱いを確認していなければ、十分なリスク管理とはいえません。生成AIサービスによって、入力したデータの保存場所や保存期間、モデルの学習への利用、ログの管理、適用される法令などは異なります。そのため、AIサービスを導入する際には、少なくとも次のような点を確認することが重要です。

  • 入力したデータがどこに保存されるか
  • 入力データが学習やサービス改善に利用されるか
  • データやログの保存期間
  • 管理者が利用状況を確認できるか
  • セキュリティ対策や監査に関する条件
  • 利用規約やプライバシーポリシーの変更条件
  • どの国・地域の法令が適用されるか

AIサービスによってデータの保存場所や適用される法令などが異なるため、「有名なサービスだから」「便利だから」という理由だけで業務利用を判断するのではなく、企業としてサービスの特性を確認する必要があります。AIサービスの機能だけでなく、「企業の情報をどのように扱うサービスなのか」という観点から評価することが、AIガバナンスでは重要です。

AI利用ガイドラインを「作って終わり」にしないために

AI利用ガイドラインを策定しても、従業員に知られていなかったり、実際の業務とかけ離れたルールになっていたりすれば、十分に機能しません。会社がAI利用を全面的に禁止している一方で、現場では業務効率化のために個人アカウントの生成AIが利用されている、といった状況も考えられます。このようなシャドーAIが広がると、企業は誰がどのAIサービスを利用し、どのような情報を入力しているのか把握しにくくなります。そのため、ガイドラインの策定とあわせて、実際のAI利用状況を把握することが重要です。

また、会社が利用を認めるAIサービスを明確にし、従業員が安全に利用できる環境を提供することも有効です。ガイドライン策定後は、従業員への教育、利用状況の確認、例外的な利用が必要になった場合の申請方法、問題発生時の報告ルートなどを整備します。AIサービスは短期間で機能や利用条件が変化することがあります。また、AIエージェントのように、外部サービスやデータへアクセスし、一定の操作を実行できるAIの利用が広がれば、従来の生成AI利用とは異なるリスクも考慮する必要があります。AIガバナンスでは、ルールを作ること以上に、実際の利用状況を把握しながら継続的に見直すことが重要です。

AIやLLMを組み込んだシステムでは、プロンプトインジェクションをはじめ、生成AIの利用管理とは異なるセキュリティリスクにも注意が必要です。詳しくは、「LLMセキュリティとは?プロンプトインジェクションなどの脅威と対策」で紹介しています。

AIガバナンスはどこから始める?

AIガバナンスという言葉から、大規模な管理体制や複雑なルールを想像するかもしれません。しかし、最初からすべてを整備する必要はありません。まずは、自社でAIがどのように利用されているのかを把握することから始めます。

STEP1 自社のAI利用状況を把握する
どの部門が、どのAIサービスを、どのような業務に利用しているのか確認します。会社が正式に導入したAIだけでなく、従業員が個別に利用しているサービスについても把握することが重要です。

STEP2 利用するAIとリスクを整理する
入力する情報、生成物の用途、外部サービスへのデータ送信、AIに与える権限などを確認し、利用方法に応じたリスクを整理します。

STEP3 責任者・管理体制を決める
AI利用に関する方針を誰が決定し、セキュリティ、法務、業務上の問題をそれぞれ誰が判断するのかを明確にします。

STEP4 AI利用ガイドラインを策定する
利用できるAI、入力できる情報、生成物の確認方法、禁止する用途、問題発生時の報告方法などを具体化します。

STEP5 教育・確認・見直しを続ける
従業員へルールを周知するとともに、実際の利用状況を確認します。AIサービスや業務、脅威、法制度などの変化に応じてガイドラインを更新します。

AIガバナンスは完成させるものではなく、AIの利用とともに継続的に改善していく取り組みと考えることが重要です。

AIガバナンスに関するよくある質問

▼ AIガバナンスとAI利用ガイドラインの違いは?
▼ AI利用ガイドラインはどの部署が作るべきですか?
▼ 生成AIの利用を禁止すればAIガバナンスは不要ですか?

まとめ

生成AIをはじめとするAIの業務利用が広がるなか、企業にはAIを安全かつ適切に利用するためのガバナンスが求められています。AIガバナンスは、AI利用ガイドラインを作成することだけを意味するものではありません。AI利用に関する方針を定め、責任体制を明確にし、リスクを評価しながら、実際の利用状況に応じてルールや対策を継続的に見直していくことが重要です。

また、自社の利用ルールだけでなく、利用するAIサービスのデータの取り扱いや契約条件、セキュリティ、国内外の制度動向について確認することも必要です。まずは自社でどのようなAIが利用されているのかを把握し、利用目的や取り扱う情報、想定されるリスクを整理することが第一歩となります。そのうえで、自社の事業やAIの利用状況に合った体制とガイドラインを整備し、安全なAI活用につなげていくことが求められます。

【参考情報】

公開日:2025年4月9日
更新日:2026年9月16日

編集責任:木下


AIサービスの安全な活用に向けたセキュリティ対策を支援

ブロードバンドセキュリティ(BBSec)では、AIサービスを提供する企業・利用する企業に向けて、「AI事業者ガイドライン」に基づくサイバーセキュリティ対策支援サービスを提供しています。AIサービス提供者・利用者向けのセキュリティガイドライン整備支援や、AI利用に伴うセキュリティリスクを学ぶ情報セキュリティ教育など、お客様の立場や課題に応じた支援をご用意しています。


Security Serviceへのリンクバナー画像
BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
セキュリティ緊急対応のバナー画像

Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る