SQLインジェクションの脆弱性、企業が問われる2つの責任とは

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この記事では、XSS(クロスサイトスクリプティング)と並ぶ、Webアプリケーションの代表的脆弱性といえる「SQLインジェクション」について解説します。

XSSとSQLインジェクションの違いや、SQLインジェクション攻撃が実際に行われるまでの手口、セキュリティ会社がどのようにSQLインジェクションの脆弱性の有無を判断しているかなどを解説します。また、SQLインジェクションを放置した責任を企業が問われた裁判の判決も紹介し、最後にSQLインジェクションの対策方法を考えます。

SQLインジェクションとは

「SQLインジェクション」とは、データベースを操作する「SQL」という言語を悪用して、Webアプリケーションの入力フィールドに悪意のあるSQL文を入力するなどして行うサイバー攻撃のことです。SQLインジェクション攻撃によって、なりすまし、Webサイトの改ざん、あるいはデータを盗んだり破壊したりといったことが可能になります。

XSSとSQLインジェクションの違い

もうひとつの代表的な脆弱性であるXSSは、Webサイトにアクセスしているユーザに対して攻撃を行います。一方、SQLインジェクションは、攻撃対象がユーザではなくデータベースです。データベースに登録されている全てのデータが攻撃対象になり得るという点で、SQLインジェクションの方が、被害が発生した場合の規模がより大きくなる傾向があります。管理者にとって見つかったらとても嫌な脆弱性のひとつです。

SQLインジェクション攻撃が行われる仕組み

SQLとはデータベースを操作するための言語です。MySQL、PostgreSQL、Oracleなど、さまざまなデータベースで広く使われており、これらのデータベースは、すべてSQLインジェクションの攻撃を受ける可能性があります。

「Shodan(ショーダン)」というちょっと変わった検索エンジンでは、Webサイトのコンテンツではなく、インターネットに存在するコンピュータやIoT機器を探せるのですが、このShodanで「sql」と検索すれば、サーバヘッダに「SQL」が入ったコンピュータやサーバの一覧が山ほどリストアップされます。

サイバー攻撃者は、しばしばこうした情報をもとに標的を探し出し、一覧の中から、SQLインジェクションの脆弱性が放置されているサーバをさまざまな方法で絞り込み、攻撃を実行します。

脆弱性診断の現場でSQLインジェクションはどのぐらい見つかるのか

弊社が実施しているWebアプリケーション脆弱性診断の2020年上半期統計(14業種延べ533企業・団体。4596システムの診断結果)では、SQLインジェクションは、検出される全脆弱性(システム全体の83.9%)のうち1%ほどとなっています。被害が発生した場合のインパクトが極めて大きな脆弱性ですので、これは決して小さい数字であるとは言えません。

SQLインジェクションを検出する方法

一般的なやり方としては、入力フィールドに本来許可してはいけない文字列を設定した場合にWebアプリケーションがどう反応するか、といったことを観察し、SQLインジェクションの脆弱性の有無を診断します。こうした文字列を「診断文字列」と呼ぶことがあります。ちなみに、SQLインジェクションの脆弱性が存在する場合に、個人情報の取得ができるかどうかまでを実際にやってみるのがペネトレーションテストです。

SQLインジェクションの脆弱性を突かれた被害事例、企業が負う2つの責任

SQLインジェクションの脆弱性への対策を怠った結果、Webサイトが攻撃を受けて被害が発生してしまった場合、企業はどのような責任を負うことになるのでしょうか。

運営責任

あるショッピングサイトの被害事例からご紹介しましょう。このサイトでは、SQLインジェクションによる攻撃を受け、クレジットカード情報を含む最大10万件の個人情報が漏えいしました。その結果、営業停止による機会損失に加え、顧客に対する賠償用買い物ポイントの付与、お詫び状送付、被害者対応、インシデントの調査などに多くの費用がかかりました。

これは、欠陥を含むシステムを運営していた代償であり、「運営責任」を問われたかたちです。

開発責任―東京地裁判決より

続いて、運営責任ではなく、システムの「開発責任」を問われた例として、2014年にあった裁判の判決(平成23年(ワ)第32060号)をご紹介します。

とある企業の依頼で開発、納品されたオンラインショッピングのシステムに、SQLインジェクションの脆弱性が存在し、その結果、不正アクセスによる情報漏えい事故が発生しました。開発を依頼した側の企業は、開発会社がセキュリティ対策を怠っていたことを債務不履行として裁判に訴えました。東京地方裁判所はそれを認め、開発会社には約2,200万円の損害賠償支払いが命じられました。

SQLインジェクションはより過失度が大きい脆弱性

情報漏えいとは? 代表的な原因や求められる対応策」で解説していますが、どんな情報が漏えいしたかによって、情報漏えいの深刻度は異なります。たとえば、メールアドレスとセットでそれに紐付くパスワードも漏えいしていたとしたら、メールアドレスのみが漏えいした場合と比べ、事態はより深刻です。

そして、データベースに保存されるのは重要な情報ですから、そこを攻撃対象とするSQLインジェクションは、対策の優先順位が非常に高い脆弱性だといえます。対策を怠り、事故を招いた場合、社会やユーザからは非常に厳しい目が向けられるでしょう。

たとえば、納品したオンラインショッピングのシステムにSQLインジェクションの脆弱性が存在していたら、上述のように債務不履行、納品物の瑕疵とみなされ、SQLインジェクションの脆弱性を放置したままWebサイトを運営していたら、管理義務を果たしていないとみなされる可能性があるのです。

さらに言えば、Webサイトの開発責任が他社にあり、他社から賠償を受けられたとしても、Webサイトの運営側ではエンドユーザに対してなんの申し開きも立ちません。たとえばこれは、食中毒を出したレストランが、顧客に対して「傷んでいた食材を納品した卸業者が悪い」と言えないのと同じことなのです。

SQLインジェクション対策

重要な情報が集まるデータベースは、守るべき優先度がきわめて高く、SQLインジェクション対策としてさまざまな取り組みが行われています。

まず、DevSecOpsの考えのもとでセキュアコーディングを行ったり、開発段階で脆弱性が作り込まれていないかソースコード診断を行ったりすることは、コストパフォーマンスの高い、きわめて有効な対策です。

さらに、近年、SQLインジェクションをはじめとするWebアプリケーション脆弱性に対処する仕組みが、アプリケーションやミドルウェア、開発環境側で整いつつあります。脆弱性のあるWebアプリケーションへの悪意ある通信をブロックするWeb Application Firewall(WAF)の普及も進んでいます。

2021年現在、最新のアプリケーションと開発環境を用いて新規にWebアプリケーションを開発するなら、たとえセキュリティを意識せずに開発に取り組んでいたとしても、SQLインジェクションの脆弱性が作り込まれることは少なくなってきているといえるでしょう。

しかしながら、すべての開発会社が最新の環境で開発を行える、ということはありません。DevSecOpsも、開発の考え方としてはまだ新しく普及はこれからという面があり、また、ソースコード診断を行うことができるような予算やスケジュールを確保できないことも多いでしょう。さらに、開発やリリース時点では脆弱性が存在しなかったとしても、Webサイトの機能追加や新しい攻撃手法の発見等によって、脆弱性は日々新たに生み出されていきます。

こうした実情に対して有効なのは、Webアプリケーションの定期的な脆弱性診断です。SQLインジェクションによるリスクを考えると、これはサイトを運営するならばぜひとも実施すべき対策、といえるでしょう。

まとめ

  • SQLインジェクションとはデータベースを操作する「SQL」という言語を悪用して行うサイバー攻撃、あるいはその脆弱性のことです。
  • Webサイトにアクセスしているユーザを狙うXSSと違って、Webサイトに登録済みのデータを狙うSQLインジェクションでは、より規模の大きい被害が発生する傾向があります。
  • 多くのデータベースではSQL言語が使われており、それらのデータベースはすべて潜在的にSQLインジェクションの攻撃を受ける可能性があります。
  • SQLインジェクション攻撃では、大規模な個人情報漏えいが起こる可能性が高く、そうなった場合、企業は運営責任を問われます。
  • SQLインジェクションの脆弱性を作り込んでしまった会社に損害賠償を命じる判決が下されたこともあります。
  • 最新の環境で開発を行えば発生しづらくなってはいるSQLインジェクションですが、リスクはゼロではありません。定期的な脆弱性診断は有効性の高い対策と考えてよいでしょう。

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