サイバー攻撃に備えるサプライチェーンBCPとは?委託先管理の見直しポイントを解説

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製造業では、委託先や部品メーカーへのサイバー攻撃が、自社の生産停止や納期遅延につながる可能性があります。本記事では、サイバー攻撃を事業継続リスクとして捉え、サプライチェーンBCPと委託先管理で確認すべきポイントを解説します。

ランサムウェアによる情報漏洩や供給への影響については、「ランサムウェアの二重恐喝とは?製造業サプライチェーンに与える影響を解説」もあわせてご覧ください。

サプライチェーンBCPにサイバー攻撃を含めるべき理由

BCPとは、災害や事故などの緊急事態が発生した際にも、重要な事業を継続・早期復旧するための計画です。従来のBCPでは、地震、台風、火災、感染症、物流停止などが主な想定リスクとされてきました。しかし、製造業においては、サイバー攻撃も同じように事業を止める要因になり得ます。

たとえば、製造委託先がランサムウェア攻撃を受けた場合、生産管理システムや受発注システムが停止し、製品の出荷や納品が遅れる可能性があります。また、部品メーカーが攻撃を受ければ、必要な部材が届かず、自社の生産計画にも影響が及びます。物流会社や保守会社が停止した場合も、製品の配送や設備対応に支障が出ることがあります。さらに、サイバー攻撃では業務停止だけでなく、情報漏洩も同時に発生する可能性があります。設計情報、部品表、製造工程、顧客情報、取引条件などが流出すれば、復旧後も知的財産の保護、契約対応、顧客説明、信用回復が必要になります。

このように、サイバー攻撃は単なるIT障害ではなく、調達、生産、物流、販売、法務、広報を巻き込む事業継続リスクです。サプライチェーンBCPでは、委託先や取引先のサイバー被害を想定するとともに、「どの委託先が停止すると、どの事業・製品・工程に影響するのか」を把握し、事業への影響が大きい委託先から優先して対策を検討することが重要です。

製造業のサプライチェーンが狙われる背景や、製造委託先への攻撃が取引先へ及ぼす影響については、「Foxconnへのサイバー攻撃とは?製造委託先が狙われる理由とサプライチェーン対策」で詳しく解説しています。

委託先管理で確認すべきポイント

サイバー攻撃に備えるためには、すべての委託先を一律に管理するのではなく、自社の事業への影響度に応じて優先順位をつけることが重要です。委託している業務の重要度、取り扱う情報、システムへのアクセス範囲、代替の可否などを確認し、停止や情報漏洩が発生した場合の影響が大きい委託先から優先して対策状況を確認します。

委託先のセキュリティ対策を確認する

重要な委託先については、契約時だけでなく、取引継続中もセキュリティ対策の状況を定期的に確認することが重要です。EDRやウイルス対策の導入状況、脆弱性管理、OSやソフトウェアの更新、多要素認証、ログ監視、バックアップなどを確認します。アンケートによる自己申告だけでなく、必要に応じて監査や証跡の確認などを行い、実際の対策状況を確認することも有効です。

共有する情報を必要最小限にする

委託先に提供している設計データ、部品表、仕様書、検査手順、顧客情報などが、本当に業務上必要な範囲に限定されているかを確認します。必要以上の情報を共有していると、委託先がサイバー攻撃を受けた際に、情報漏洩の影響範囲が広がる可能性があります。委託する業務に応じて、共有する情報や保存期間を見直すことが重要です。

アクセス権限を適切に管理する

委託先に自社のシステムやクラウドサービスへのアクセスを許可している場合は、必要最小限の権限になっているかを確認します。プロジェクト単位、顧客単位、工程単位などで権限を分けることで、アカウントが侵害された場合の影響を限定しやすくなります。また、共有フォルダやクラウドストレージに過剰な権限が付与されていないか、退職者や異動者のアカウント等が残っていないかを定期的に確認し、担当者変更の際には速やかにアクセス権限を見直すことも重要です。

再委託先まで把握する

委託先がさらに別の企業へ業務を委託している場合、自社の情報や業務がどこまで広がっているのか把握できていないことがあります。再委託の可否や条件、再委託先に求めるセキュリティ対策、情報の取り扱い範囲などをあらかじめ定め、重要な業務については再委託先を含めたサプライチェーンを把握しておくことが重要です。

インシデント発生時に備えた契約・体制の見直し

委託先がサイバー攻撃を受けた場合に備え、契約や対応体制を事前に整えておくことも重要です。インシデントが発生してから対応範囲を確認していては、初動が遅れ、被害の把握や顧客対応に支障が出る可能性があります。

まず契約面では、インシデント発生時の通知期限を明確にしておく必要があります。インシデントを認識した場合の通知時期、通知先、共有すべき情報をあらかじめ定めておくことが望まれます。また必要に応じて「認識後○時間以内」など具体的な通知期限を契約上定めることも検討します。さらに調査協力や証拠保全に関する条項も重要です。ログ、通信記録、端末情報、アクセス履歴などの証拠が適切に保全されなければ、被害範囲や原因の特定が難しくなります。外部専門家によるフォレンジック調査を行う場合の協力範囲も、事前に整理しておくべきです。

そして、情報漏洩が発生した場合の責任範囲、法令等に基づく報告、顧客・取引先への説明、損害対応についても確認が必要です。特に製造業では、設計情報や部品情報の流出が競争力や取引関係に影響するため、単なる個人情報漏洩とは異なる観点で対応を考える必要があります。

体制面では、委託先の停止を想定した代替策を準備しておくことが重要です。代替生産先、代替部品、在庫確保、出荷優先順位、顧客への連絡手順、重要データの社内保全などを事前に整理しておくことで、サイバー攻撃発生時の混乱を抑えることができます。サプライチェーンBCPは、計画を作成して終わりではありません。定期的に訓練を行い、委託先や関係部門を含めて、実際に機能するかを確認することが重要です。

まとめ

サプライチェーンのサイバーリスク対策では、委託先のセキュリティ対策を確認するだけでなく、「どの委託先が停止すると自社の事業に影響するのか」を把握することが重要です。重要度に応じて対策状況や契約、インシデント時の連携方法を確認し、代替策や復旧手順をBCPに組み込んでおく必要があります。サイバー攻撃による停止を前提として、委託先や関係部門を含めた訓練と見直しを継続することが、サプライチェーン全体のレジリエンス向上につながります。

参考情報

編集責任:木下


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ニチレイへのサイバー攻撃で食品物流に影響―業務再開までの経緯と企業が見直すべきBCP

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ニチレイへのサイバー攻撃で食品物流に影響アイキャッチ画像

2026年7月、ニチレイがサイバー攻撃を受け、冷蔵倉庫の入出庫業務や冷凍食品の出荷業務に影響が生じました。同社は被害拡大を防ぐためグループのシステムを遮断し、一部制限のもとで業務を順次再開。7月24日には、影響を受けた業務が通常稼働へ移行しました。本事案は、サイバー攻撃が情報漏えいだけでなく、物流や取引先を含む事業継続にも影響を及ぼすことを示しています。本記事では、公式発表に基づいて対応の経緯を整理し、企業が見直すべきBCPについて解説します。

※本記事は2026年7月31日時点で確認できる公表資料に基づき作成しています。公表されていない製品名、CVE番号、攻撃者、侵入手法の詳細については推測を加えずに構成しています。

ニチレイへのサイバー攻撃とは

2026年7月13日、株式会社ニチレイは不正アクセスによるシステム障害が発生したと公表しました*1。影響が出たのは、ニチレイロジグループ各社の冷蔵倉庫における入出庫業務と、ニチレイフーズの冷凍食品出荷業務です。同社は発生当日に緊急対策本部を立ち上げるとともに、お客さまや取引先の個人情報・顧客データなどの保護を最優先し、グループで使用するシステムの遮断措置を講じたことを、2日後の第2報*2で明らかにしています。その後、7月17日から一部制限のもとで業務を順次再開し、7月24日には、影響を受けた入出庫業務と冷凍食品出荷業務の受発注制限を解除して、全拠点を平常時の通常稼働へ移行しています。

この事案が示したのは、サイバー攻撃の被害が情報漏えいだけにとどまらないことです。攻撃を受けた疑いが生じれば、被害拡大を防ぐためにシステムを止める判断が必要になる場合があります。受発注、在庫管理、倉庫の入出庫、出荷といった業務がITでつながる現在、封じ込め措置そのものが事業停止リスクを伴います。本件からは、侵入を防ぐ対策だけでなく、システムを遮断した後も業務を継続し、段階的に復旧する計画が欠かせないことが分かります。サイバーセキュリティ対策とBCPは、一体で検討すべき課題です。

7月13日から24日まで―公式発表で追う対応と復旧

7月13日:不正アクセスによるシステム障害を公表

ニチレイは7月13日、不正アクセスによるシステム障害が同日に発生したと発表しました。第1報の時点では、個人情報や顧客データが社外へ流出した事実は確認されていないとしていました。一方、冷蔵倉庫の入出庫業務と冷凍食品の出荷業務にはすでに影響が生じており、障害の範囲は公表時点で日本国内に限られると説明しています。

ここで注意したいのは、7月13日が「攻撃者の侵入日」と確認されたわけではない点です。公式発表から断定できるのは、不正アクセスによるシステム障害が7月13日に発生し、同日公表されたことまでです。攻撃者が最初に侵入した日時や、不正アクセスを検知した正確な時刻・契機は明らかにされていません。

7月15日:サイバー攻撃を確認、個人情報漏えいの可能性を報告

7月15日の第2報で、ニチレイは調査の結果、自社サーバがサイバー攻撃を受けたことを確認したと発表しました。さらなる被害拡大を防ぐため、攻撃の詳細は非開示としています。また、被害を受けたサーバの一部に個人情報が保管されていたため、個人情報保護委員会へ「漏えいの可能性がある事案」として第一報を行いました。

同社は発生当日の7月13日にグループで使用するシステムを遮断しており、この遮断措置に伴って冷蔵倉庫の入出庫と冷凍食品出荷に影響が生じたと説明しています。なお、7月16日付のIR情報では、連結業績への影響は精査中とされ、重要な影響が判明した場合は速やかに開示すると説明しています。

7月17日:受発注を制限しながら部分稼働

7月17日、ニチレイは外部のセキュリティ専門会社の支援のもと、影響を受けた業務を順次再開しました。ただし、直ちに平常運転へ戻ったわけではなく、顧客や取引先からの受発注を一部制限し、冷蔵倉庫と食品工場を部分稼働させる形での再開でした。この段階でも、原因と影響範囲は調査中とされていました。

7月22日から24日:対象者への通知と通常稼働への移行

7月22日の第4報*3では、外部のセキュリティ専門会社に加え、警察および関係機関と連携して対応していることが公表されました。被害サーバの一部に個人情報が保管されていたため、対象者へ別途通知を行っていることも明らかにされています。

7月24日、ニチレイは受発注制限を解除し、影響を受けていた入出庫業務と冷凍食品出荷業務について、全拠点が平常時の通常稼働へ移行したと発表しました。ただし、これは影響業務の通常稼働への移行を示すものであり、原因調査や影響範囲の特定まで完了したことを意味するものではありません。

なぜ食品サプライチェーンへの影響が注目されたのか

ニチレイが2026年5月12日に公開した「事業概要説明資料」によると、同社の低温物流事業は全国75カ所に冷蔵倉庫を保有し、冷蔵倉庫の保管能力で国内1位です。さらに、ニチレイグループ外の取扱比率が90%を超えるとされています。今回、75カ所すべてに同じ程度の支障が生じたと公表されているわけではありません。ただし、この事業構造から、低温物流業務の中断がニチレイグループ以外の荷主にも波及し得ることが分かります。

実際、ミールキット宅配サービスのヨシケイは7月27日、ニチレイグループのシステム障害により倉庫からの商品出庫に支障が生じ、一部エリアで代替品や代替食材を届ける場合があると公表しました*4。ニチレイは7月24日に影響業務の通常稼働への移行を発表していますが、自社の業務が再開しても、取引先側では在庫調整や代替品の手配などが続く場合があります。ヨシケイの発表は、障害の影響が取引先の商品供給にまで波及したことを示す事例といえます。

なお、サイバー攻撃の影響が取引先へ波及したことと、取引先などを侵入経路とする「サプライチェーン攻撃」は区別する必要があります。ニチレイは侵入経路を公表していないため、本件をサプライチェーン攻撃と分類することはできません。一方、業務停止の影響が取引関係を通じて広がるリスクは、物流や食品製造だけでなく、決済、医療、クラウドサービスなどにも共通します。

個人情報は漏えいしたのか

2026年7月31日時点で、ニチレイは個人情報の漏えいを確定したとは発表していません。公表されているのは、被害サーバの一部に個人情報が保管されていたこと、漏えいの可能性がある事案として個人情報保護委員会へ第一報を行ったこと、対象者へ別途通知したことです。

個人情報保護委員会は、不正の目的をもって行われたおそれがある個人データの漏えい等について、実際の漏えいが確定した場合だけでなく、それがある段階も報告対象になると示しています*5。このため、個人情報保護委員会への報告が行われたことだけをもって、外部流出が確定したとは判断できません。

対象人数、顧客・従業員などの属性、情報項目、持ち出しの有無、不正利用の有無も公表されていません。したがって、現段階で「顧客情報が流出した」「大規模な個人情報漏えいが起きた」と書くのは不正確です。新たな公式発表が出た場合は、漏えいの事実、対象範囲、二次被害の有無を分けて確認する必要があります。

ランサムウェア攻撃だったのか

ニチレイは、攻撃手法、侵入経路、悪用された脆弱性、マルウェアの種類、データ暗号化や身代金要求の有無、攻撃者について公表していません。このため、本件をランサムウェア攻撃、ゼロデイ攻撃、あるいは特定の攻撃グループによる犯行と断定できる公式情報はありません。

攻撃者を名乗る第三者の主張が報じられた場合でも、それだけで攻撃手法や犯行主体が確定するわけではありません。本記事では、ニチレイまたは捜査機関が確認した情報と、外部からの未検証の主張を区別して扱います。

ニチレイの事例から企業が見直すべきサイバー攻撃対策

重要業務とシステムの依存関係を可視化する

対策の出発点となるのは、止まると事業や顧客に大きな影響が出る業務を特定し、それを支えるシステム、データ、拠点、委託先を対応付けることです。受発注システムだけを復旧しても、在庫情報、倉庫作業、輸配送との連携が戻らなければ商品は届きません。業務影響分析(BIA)を用いて復旧の優先順位を整理し、目標復旧時間(RTO)や目標復旧時点(RPO)に加え、システム停止中も最低限維持すべき業務とその水準を、IT部門と現場部門で共有しておくことが有効です。

多層防御によって被害範囲を限定する

ニチレイは侵入経路や攻撃手法を公表していないため、本件の原因に特定の対策不足を結び付けることはできません。以下は、同種の業務停止に備えるための一般的な対策です。

サイバー攻撃への備えでは、侵入を防ぐだけでなく、侵入された場合にも被害を広げない対策が必要です。重要システムやネットワークの分離、特権アカウントの適切な管理、多要素認証、ログの保全・監視などを組み合わせ、攻撃者による内部での移動や権限拡大を抑制します。

経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver3.0 実践のためのプラクティス集 第4版」も、侵入を防ぐ入口対策に加え、内部での活動拡大を防ぐネットワーク対策、外部への不正通信を防ぐ出口対策、重要データを守る対策を組み合わせる多層防御を示しています。

「システムを止めた状態」で続ける手順を用意する

不正アクセスの疑いがある状況では、ネットワークの遮断や機器の隔離、サービス停止が必要になることがあります。IPAの「中小企業のためのセキュリティインシデント対応の手引き」でも、被害拡大の可能性がある場合の初動対応として、ネットワーク遮断や対象機器の隔離、システム・サービスの停止を挙げています。

だからこそ、BCPはバックアップからシステムを戻す手順だけでは不十分です。システムを遮断した際に利用する代替手順を、業務内容に応じて事前に設計しておく必要があります。例えば、受発注や入出庫を電話、メール、紙の帳票などへ一時的に切り替える場合も、処理可能な件数、誤処理を防ぐ照合方法、記録の保全、平常系へ戻す際のデータ反映まで検証しなければなりません。机上演習に加え、主要システムを利用できない状況を想定し、代替手順が実際に機能するか確認することが重要です。

復旧可能なバックアップと復旧手順を検証する

バックアップは、データを保存しているだけでは事業復旧を保証できません。本番環境と同時に暗号化・削除されないよう、ネットワークから分離した媒体や異なる環境にも保管し、バックアップデータの完全性を定期的に確認する必要があります。

さらに、復元テストを実施し、重要なシステムやデータを想定した時間内に復旧できるかを検証します。復旧の順序、必要な担当者、利用する機器や認証情報、システム間の依存関係も事前に整理しておくことが重要です。

サイバー攻撃を受けた環境を安全確認なしに復元すると、侵害された設定やマルウェアまで戻してしまうおそれがあります。原因調査や安全性の確認と並行して、どの時点のデータを、どの環境へ、どの順番で戻すかを判断できる復旧手順を整備しておく必要があります。

初動対応をIT部門だけに背負わせない

インシデント発生時には、封じ込め、証拠保全、原因調査、復旧に加え、顧客や取引先への連絡、個人情報保護委員会などへの報告、警察との連携、経営判断が並行して進みます。ニチレイも緊急対策本部を設置し、外部のセキュリティ専門会社、警察、関係機関と連携しました。

平時から、経営、情報システム、事業部門、法務、広報、個人情報保護担当の役割と連絡順序を決め、フォレンジック調査や復旧を依頼する外部専門家の連絡先を整えておくべきです。対応手順は、社内システムが利用できない状況でも参照できる場所に保管します。また、調査に必要なログやデータを不用意に消去しないよう、対象機器の隔離方法や外部専門家へ連絡する判断基準を訓練しておくことが重要です。

取引先を含めて復旧情報を共有する

自社が通常稼働へ戻っても、取引先側では在庫不足、納品遅延、代替商品の手配、顧客への案内が続く可能性があります。サプライチェーン全体の復旧を早めるには、「何が止まっているか」「どの業務をいつ再開するか」「制限が残るか」を、攻撃者に利する情報を避けながら継続的に共有することが重要です。

公表文のひな型だけでなく、重要取引先への連絡経路、問い合わせ窓口、更新頻度、技術情報と事業影響を分けて説明するルールまで準備しておくと、混乱を抑えやすくなります。セキュリティ部門が把握する復旧状況を、物流、営業、調達、顧客対応の言葉へ変換する役割も必要です。

よくある質問

▼ ニチレイのシステム障害はいつ発生しましたか
▼ どの業務に影響が出ましたか
▼ 個人情報は漏えいしましたか
▼ ランサムウェア攻撃だったのでしょうか

まとめ―サイバー攻撃対策は業務復旧まで設計する

ニチレイへのサイバー攻撃では、冷蔵倉庫の入出庫と冷凍食品出荷に支障が生じ、制限付きの再開を経て通常運用へ戻りました。一方、2026年7月31日時点では、攻撃手法や侵入経路、個人情報の外部流出の有無、最終的な影響範囲は公表されていません。

今回の事例から企業が学ぶべきなのは、侵入防止策だけではありません。被害拡大を防ぐためにシステムを遮断しても重要業務を続けられるか、安全性を確認しながらどの順番で復旧するか、取引先へ何を伝えるかまで含めて設計する必要があります。サイバー攻撃をIT障害として閉じず、経営と現場を巻き込んだサイバーBCPとして準備することが、事業とサプライチェーンの強靱性を左右します。

【参考情報】

編集責任:木下


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    DDoS攻撃とは?仕組み・種類・被害・対策を企業向けに解説

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    DDoS攻撃とは?仕組み・種類・被害・対策を企業向けに解説アイキャッチ画像

    DDoS攻撃は、大量の通信を送り付けて、Webサイトやサーバーを利用しにくくするサイバー攻撃です。サービス停止や業務の停滞を招くおそれがあるため、企業は仕組みと対策を理解しておく必要があります。本記事では、DDoS攻撃の種類や被害、基本的な対策を解説します。

    DoS攻撃との違いを詳しく知りたい方、実際にDDoS攻撃を受けた場合の初動対応や復旧の流れについて知りたい方は以下の記事もあわせてご覧ください。
    DoS攻撃とDDoS攻撃の違いとは
    DDoS攻撃を受けたらどうする?

    DDoS攻撃とは

    DDoS攻撃(Distributed Denial of Service attack)は、Webサイトやサーバー、ネットワーク機器などに大量の通信やリクエストを送り付け、正常なサービス提供を妨害するサイバー攻撃です。攻撃を受けると、Webサイトの表示遅延やサービス停止、ネットワークの応答遅延などが発生し、正規の利用者がサービスを利用できなくなることがあります。

    DDoS攻撃の特徴は、攻撃者が多数の端末やネットワークを利用する点にあります。攻撃者は、マルウェアなどに感染した機器で構成される「ボットネット」を悪用します。

    世界中の端末から一斉に通信を送るため、単一の送信元を遮断するだけでは防ぎにくい攻撃です。近年では、ECサイトや金融機関、自治体、医療機関など、幅広い組織が標的となっています。企業規模を問わず対策が求められています。

    また、DDoS攻撃は、サービス停止だけを目的とするものではありません。攻撃による混乱に乗じて、不正アクセスや情報窃取など、別の攻撃を試みる「陽動」として利用されるケースもあります。

    DDoS攻撃を理解するためには、まずDoS攻撃との違いや、どのような目的で実行されるのかを知ることが重要です。

    DoS攻撃との違い

    DoS攻撃は、単一または少数の端末からサービスを妨害する攻撃です。DDoS攻撃は、多数の端末から分散して通信を送るため、攻撃元の特定や遮断が難しくなります。

    DoS攻撃とDDoS攻撃の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。「DoS攻撃とDDoS攻撃の違いとは

    なぜDDoS攻撃が行われるのか

    DDoS攻撃の目的は、単にWebサイトやサービスを停止させることだけではありません。企業活動を妨害したり、金銭を要求したり、別のサイバー攻撃を成功させるための陽動として利用されたりするなど、さまざまな目的で実行されます。

    例えば、ECサイトや予約システムを停止させることで売上機会の損失を狙うケースや、競合他社への業務妨害を目的とした攻撃が報告されています。

    また、サービス停止による混乱の中で、不正アクセスや情報窃取を試みることもあります。このような「陽動攻撃」として、DDoS攻撃が利用されるケースもあります。

    近年では、IoT機器の普及やボットネットの大規模化が進んでいます。その結果、専門的な知識がなくても、攻撃サービスを利用して大規模なDDoS攻撃を実行できる環境が問題視されています。

    こうしたサービスは、DDoS-for-Hire、すなわちDDoS請負サービスなどと呼ばれます。そのため、企業規模を問わず、DDoS攻撃を想定した備えが重要になっています。

    DDoS攻撃の仕組み

    DDoS攻撃は、多数の端末やサーバから、標的へ一斉に大量の通信を送る攻撃です。サーバやネットワーク機器に過剰な負荷をかけ、正常なサービス提供を妨げます。

    攻撃対象は、Webサイトだけではありません。DNSサーバやVPN、API、クラウドサービスなど、多岐にわたります。

    攻撃者は、自ら大量の通信を送るのではありません。マルウェアに感染したIoT機器やパソコン、サーバーなどを遠隔操作します。そして、ボットネットを構築して攻撃を実行するのが一般的です。

    また、DDoS攻撃は、大量の通信によって回線帯域を圧迫するものだけではありません。ネットワーク機器に負荷をかける攻撃や、Webアプリケーションへ大量のリクエストを送る攻撃など、複数の手法があります。

    そのため、自社サービスを守るためには、攻撃の仕組みを理解し、それぞれの手法に応じた対策を講じることが重要です。

    ボットネットによる分散攻撃

    DDoS攻撃では、多くの場合「ボットネット(Botnet)」と呼ばれるネットワークが悪用されます。ボットネットとは、マルウェアに感染したパソコンやサーバ、IoT機器などが攻撃者の遠隔操作下に置かれた状態のネットワークです。攻撃者はこれらの端末へ一斉に指示を送り、標的に大量の通信を発生させます。

    近年では、監視カメラやルーター、ネットワーク機器など、十分なセキュリティ対策が施されていないIoT機器がボットネットに組み込まれる事例も確認されています。機器の所有者が気付かないまま攻撃に加担しているケースも少なくありません。

    ボットネットを利用したDDoS攻撃では、世界中に分散した多数の端末から同時に通信が送られるため、単一の送信元を遮断するだけでは十分な対策が難しくなります。

    攻撃の流れ

    DDoS攻撃は、一般的に次のような流れで実行されます。

    1. ボットネットの構築
      攻撃者は、マルウェアに感染したパソコンやサーバー、IoT機器などを遠隔操作できる状態にし、ボットネットを構築します。
    2. 攻撃対象の選定
      WebサイトやECサイト、VPN、DNSサーバー、APIなど、攻撃対象となるシステムを選定します。
    3. 攻撃命令の送信
      攻撃者がボットネットへ攻撃命令を送ると、多数の端末が一斉に標的へ通信やリクエストを送信します。
    4. サービスへの影響
      大量の通信によってネットワーク回線やサーバー、ネットワーク機器、Webアプリケーションに負荷がかかり、応答遅延やサービス停止などが発生します。

    攻撃の種類によっては、ネットワーク帯域を圧迫するだけでなく、ファイアウォールやロードバランサーなどのネットワーク機器に負荷をかけるものや、Webアプリケーションへ大量のリクエストを送るものもあります。そのため、攻撃の種類に応じた対策を講じることが重要です。

    DDoS攻撃の主な種類

    DDoS攻撃にはさまざまな手法がありますが、大きく分けると「ボリューム攻撃」「プロトコル攻撃」「アプリケーション層攻撃」の3種類に分類できます。

    攻撃対象や攻撃方法が異なるため、サービスへの影響や有効な対策もそれぞれ異なります。攻撃の種類を理解することは、自社サービスがどのようなリスクにさらされているのかを把握し、適切な対策を講じるための第一歩です。

    ここでは、代表的な3つの攻撃手法について解説します。

    ボリューム攻撃

    ボリューム攻撃は、大量の通信を送り付けてネットワーク回線の帯域を圧迫し、正規の利用者がサービスへアクセスできない状態にする攻撃です。DDoS攻撃の中でも代表的な手法であり、回線容量を超える通信が発生すると、サーバーが正常に稼働していてもサービスを利用できなくなることがあります。

    代表的な手法として、UDP FloodDNS Amplification(DNSリフレクション攻撃)NTP Amplificationなどがあります。特にDNSやNTPなどの公開サーバーを悪用する反射・増幅型攻撃では、小さなリクエストを利用して何倍もの通信量を発生させるため、攻撃者は比較的少ない通信量でも大きな負荷を与えることができます。

    プロトコル攻撃

    プロトコル攻撃は、TCP/IPなどの通信プロトコルの仕組みを悪用し、サーバーやファイアウォール、ロードバランサーなどのネットワーク機器に負荷をかける攻撃です。通信回線そのものを埋め尽くすボリューム攻撃とは異なり、ネットワーク機器やサーバーの処理能力を消費させることで、正常な通信を妨害します。

    代表的な手法としては、SYN Floodがあります。TCP通信の接続要求(SYNパケット)を大量に送り付けることで、サーバは接続待ちの状態を維持し続けることになり、新たな正規ユーザからの接続を受け付けられなくなる場合があります。このほか、Ping FloodSmurf攻撃などもプロトコル攻撃の一種として知られています。

    アプリケーション層攻撃

    アプリケーション層攻撃は、WebサイトやWebアプリケーション、APIなどを標的とするDDoS攻撃です。利用者が直接アクセスするサービスが狙われます。

    通信量そのものはそれほど多くなくても、サーバーが処理に時間を要するリクエストを大量に送ることで、CPUやメモリなどのリソースを消費させ、サービスの応答遅延や停止を引き起こします。

    代表的な手法としてHTTP Floodがあります。通常のWeb閲覧と同じHTTPリクエストを大量に送信するため、正規のアクセスと見分けにくく、単純な通信量の監視だけでは検知が難しい場合があります。また、検索機能やログイン画面、APIなど、サーバー負荷の高い処理を集中的に狙う攻撃も確認されています。

    DDoS攻撃による被害

    DDoS攻撃による影響は、単にWebサイトが一時的に閲覧できなくなるだけではありません。サービス停止による売上機会の損失や業務の停滞、顧客対応の負荷増加など、企業活動全体へ影響が及ぶ可能性があります。

    また、長時間にわたってサービスが利用できない状態が続くと、企業の信頼低下やブランドイメージの毀損につながるおそれもあります。

    近年では、DDoS攻撃を単独で行うだけでなく、その混乱に乗じて不正アクセスや情報窃取など別の攻撃を試みるケースも報告されています。そのため、DDoS攻撃は単なる通信障害ではなく、企業の事業継続に関わるセキュリティリスクとして捉えることが重要です。

    ここでは、企業が受ける代表的な被害について解説します。

    サービス停止

    DDoS攻撃による代表的な被害は、Webサイトやオンラインサービスの停止です。

    大量の通信やリクエストが送られると、サーバーやネットワーク機器に過剰な負荷がかかります。その結果、Webページの表示遅延やタイムアウト、エラーが発生し、正規の利用者がサービスを利用できなくなることがあります。

    特に、ECサイトや予約システム、会員向けサービス、決済サービスなど、インターネットを通じて提供されるサービスでは、短時間の停止であっても売上機会の損失や顧客満足度の低下につながる可能性があります。

    さらに、DDoS攻撃ではサーバー自体に障害が発生していなくても、回線帯域の逼迫やネットワーク機器への負荷によってサービスが利用できなくなる場合があります。そのため、システムが正常に稼働しているように見えても、利用者からは「サービスが停止している」と認識されるケースも少なくありません。

    業務への影響

    DDoS攻撃の影響は、Webサイトの停止だけにとどまりません。公開サービスと社内システムが同じネットワークや認証基盤を利用している場合には、VPNや業務システム、クラウドサービスなどへ影響が及び、日常業務に支障をきたすことがあります。

    また、サービス停止に伴い、顧客や取引先からの問い合わせが急増し、カスタマーサポートや営業部門の対応負荷が高まることもあります。

    ECサイトでは注文処理や決済が滞り、BtoBサービスでは取引先の業務に影響を与えるなど、事業継続にも大きな影響を及ぼす可能性があります。さらに、障害対応のために情報システム部門やセキュリティ担当者が長時間の対応を余儀なくされ、本来予定していた業務が停滞するケースも少なくありません。

    企業の信頼低下

    DDoS攻撃によるサービス停止が長時間続いたり、繰り返し発生したりすると、企業に対する信頼の低下につながるおそれがあります。利用者は「サービスが安定して利用できない企業」という印象を持つ可能性があり、顧客離れや新規顧客の獲得機会の損失につながることもあります。

    さらに、DDoS攻撃をきっかけに、自社のセキュリティ対策やインシデント対応体制が十分であるかを取引先や顧客から問われることもあります。そのため、平時から適切な対策を講じるとともに、攻撃発生時には迅速かつ適切な対応を行うことが、企業の信頼維持につながります。

    企業が実施すべきDDoS攻撃対策

    DDoS攻撃は、完全に防ぐことが難しいサイバー攻撃の一つです。そのため、攻撃を受けることを前提に、被害を最小限に抑えるための対策を講じることが重要です。ここでは、企業が押さえておきたい代表的なDDoS攻撃対策を紹介します。

    通信の監視と異常検知

    DDoS攻撃による被害を最小限に抑えるためには、通信状況を継続的に監視し、通常とは異なるアクセスを早期に検知できる体制を整えることが重要です。

    アクセス数や通信量、リクエスト数などの推移を日頃から把握しておくことで、異常な増加が発生した際に迅速な対応につなげることができます。

    近年では、SIEM(Security Information and Event Management)やネットワーク監視ツールを活用し、異常な通信を自動で検知・通知する仕組みを導入する企業も増えています。

    DDoS攻撃は短時間で通信量が急増するケースが多いため、異常を検知してから対応を開始するまでの時間が重要です。

    CDN・WAF・DDoS対策サービスの活用

    DDoS攻撃は、攻撃元が世界中の多数の端末に分散しているため、自社設備だけで防ぎきることは難しく、外部サービスとの連携が対策の基本方針になります。特に、大量の通信が発生するボリューム攻撃では、自社ネットワークに到達する前に不要な通信を分散・遮断する仕組みが重要になります。

    • CDN(Content Delivery Network):コンテンツを複数のサーバーに分散して配信することで、通信負荷を分散し、サービスの継続性向上に役立ちます。
    • WAF(Web Application Firewall):Webアプリケーションへの不正なアクセスや不審なリクエストを検知・制御する機能を備えており、特にアプリケーション層を狙った攻撃への対策として有効です。
    • DDoS対策サービス:専用の設備で攻撃トラフィックを検知・吸収・フィルタリングし、正常な通信のみを自社環境へ転送する仕組みを提供しています。

    攻撃の規模やサービスの重要度に応じて、ISPやクラウド事業者が提供する対策サービスも含め、自社に適した構成を検討するとよいでしょう。

    自社の対策状況に不安がある場合

    「どのサービスを、どこまで導入すべきか」の判断が難しい場合は、専門会社によるDDoS耐性評価・セキュリティ診断を活用するのも一つの方法です。現状のリスクを可視化したうえで、優先度をつけて対策を進めることができます。

    インシデント対応体制の整備

    DDoS攻撃は、技術的な対策だけで完全に防ぐことは困難です。そのため、攻撃を受けた際に迅速かつ適切に対応できる体制をあらかじめ整備しておくことが重要です。

    具体的には、攻撃発生時の連絡体制や対応手順を文書化し、情報システム部門だけでなく、経営層や広報部門、カスタマーサポート部門など、関係者の役割を明確にしておくことが求められます。

    また、ISPやクラウド事業者、セキュリティベンダーなどの連絡先や支援体制を事前に確認しておくことで、緊急時の対応を円滑に進められます。

    まとめ

    DDoS攻撃は、大量の通信によってWebサイトやネットワークサービスを利用できない状態にするサイバー攻撃です。攻撃手法にはボリューム攻撃、プロトコル攻撃、アプリケーション層攻撃などがあり、それぞれ特徴や有効な対策が異なります。

    企業は、通信の監視や異常検知、CDN・WAF・DDoS対策サービスの活用に加え、インシデント対応体制の整備など、多層的な対策を講じることが重要です。また、攻撃を完全に防ぐことは難しいため、被害を最小限に抑えるための備えも欠かせません。

    攻撃発生時の具体的な対応手順や、復旧までの流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
    DDoS攻撃を受けたらどうする?初動対応から復旧までの流れを解説

    【関連記事】

    DDos攻撃について、SQAT.jpでは以下の記事でも解説しています。こちらもあわせてぜひご覧ください。

    【参考情報】


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    DDoS攻撃への備えには、ネットワークやWebアプリケーションのリスクを把握することが重要です。BBSecでは、脆弱性診断をはじめ、お客様の環境に応じたセキュリティ評価をご提供しています。

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    公開日:2021年6月23日
    更新日:2026年7月29日

    編集責任:木下


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    APT攻撃対策とは?検知・監視・初動対応の考え方

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    前回記事で解説した通り、APT攻撃は標的組織を事前に調査したうえで侵入し、権限昇格や横展開を重ねながら目的の情報に近づいていきます。一度侵入を許すと長期間にわたり情報窃取や不正活動が継続するケースも少なくありません。そのためAPT攻撃対策では「侵入させない」ことだけを目指すのではなく、侵入前対策・侵入後対策・インシデント対応体制を組み合わせ、早期発見と被害最小化を実現する仕組みが欠かせません。本記事では、その具体的な対策内容について解説します。

    APT攻撃の侵入経路や攻撃の流れについて詳しく知りたい方は、「APT攻撃の手口とは?侵入から情報窃取までの流れを解説」で、初期侵入から情報窃取までのプロセスを解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

    なぜAPT攻撃は防ぎにくいのか

    APT攻撃が防ぎにくい理由は、攻撃者が特定の組織を狙い、時間をかけて侵入経路を探すためです。一般的なマルウェア感染やばらまき型攻撃とは異なり、APT攻撃では、攻撃者が標的組織の業務、取引先、利用システム、従業員の役割などを事前に調査します。そのうえで、標的型メールや脆弱性の悪用、正規アカウントの不正利用など、検知されにくい手口を選びます。また、APT攻撃では、最初の侵入後すぐに目立つ被害が発生するとは限りません。攻撃者は内部ネットワークに潜伏し、権限昇格や横展開を行いながら、機密情報や認証情報の所在を探ります。正規の管理ツールや盗まれたID・パスワードを使って活動する場合もあり、従来型の境界防御だけでは不審な動きを見落とす可能性があります。そのため、APT攻撃対策では、入口を守る対策に加えて、侵入後の異常を検知する仕組み、ログをもとに調査できる体制、被害を最小化する初動対応が欠かせません。さらに、入口対策だけでなく、「侵入を前提」とした検知・監視・対応体制も必要です。

    侵入前対策

    APT攻撃への備えとして、まず重要になるのは侵入前対策です。侵入前対策とは、攻撃者が組織内へ入り込む可能性を下げるための基本的な防御策です。完全な防御は難しいものの、攻撃者にとって侵入しにくい環境を作ることで、被害の発生確率を下げることができます。 なかでも重要なのが、多要素認証、脆弱性管理、標的型メール対策です。これらは単独ではなく、多層防御の考え方で組み合わせることが重要です。複数の対策を組み合わせ、攻撃者が一つの弱点を突破しても、次の段階へ進みにくい状態をつくることが求められます。

    MFA(多要素認証)

    IDとパスワードだけに頼らず、スマートフォンアプリ、セキュリティキー、生体認証など、複数の認証要素を組み合わせて本人確認を行う仕組みです。APT攻撃では、フィッシングメールやマルウェアによって認証情報が盗まれることがあります。IDとパスワードだけで社内システムやクラウドサービスへアクセスできる環境では、攻撃者が正規ユーザになりすましてログインするリスクが高まります。MFAを導入することで、パスワードが漏えいした場合でも、不正ログインを防げる可能性が高まります。ただし、MFAを導入すればすべての攻撃を防げるわけではありません。近年は、MFAを突破しようとするフィッシングや、認証疲れを狙った攻撃も確認されています。そのため、可能であればフィッシング耐性の高い認証方式(例:FIDO2、パスキーなど)を採用し、管理者アカウントやリモートアクセス、クラウド管理画面など、重要度の高い環境から優先的に適用することが重要です。

    脆弱性管理

    APT攻撃では、VPN機器、公開サーバ、メールサーバ、業務システム、クラウド環境などの脆弱性が侵入経路として悪用されることがあります。特に、インターネットからアクセス可能な機器やシステムに未修正の脆弱性が残っている場合、攻撃者にとって侵入の足がかりになります。脆弱性管理では、単に脆弱性情報を収集するだけでなく、自社のどのシステムに影響があるのか、外部公開されているのか、悪用事例があるのか、業務上の重要度は高いのかを踏まえて、対応の優先順位を決める必要があります。すべての脆弱性へ同時に対応することは現実的ではないため、実際に悪用されている脆弱性や、外部から攻撃可能なシステムを優先して修正する考え方が重要です。また、パッチ適用がすぐに難しい場合には、一時的な回避策、アクセス制限、監視強化、不要サービスの停止などを組み合わせる必要があります。APT攻撃では、脆弱性の放置が初期侵入や横展開につながる可能性があるため、脆弱性管理は単なる情報システム部門の運用作業ではなく、経営リスクを下げるための重要な取り組みといえます。

    標的型メール対策

    標的型メールは、APT攻撃の代表的な侵入経路の一つです。現在はメールだけでなく、チャットやクラウドサービスを悪用した攻撃も増えています。標的型メール対策では、メールセキュリティ製品による検査だけでなく、従業員教育、訓練、報告しやすい仕組みの整備が重要です。攻撃メールを完全に遮断することは難しいため、従業員が不審なメールに気づき、開封前または開封後すぐに報告できる体制を作る必要があります。また、メールをきっかけに認証情報が入力されるケースもあるため、MFAやアクセス制御と組み合わせて対策することが効果的です。標的型メール対策は、単独で完結するものではなく、認証管理、端末防御、ログ監視、インシデント対応と連動させることで、初めてAPT攻撃への実効性が高まります。

    標的型攻撃の手口の詳細は「標的型攻撃とは?代表的な手口と企業が取るべき対策を解説」をご参照ください。

    侵入後対策

    APT攻撃では、侵入前対策をすり抜けられる可能性があります。そのため、侵入後に攻撃者の活動を検知し、被害拡大を防ぐ仕組みが必要です。侵入後対策の中心になるのが、EDR、SIEM、ログ監視です。従来のセキュリティ対策では、外部からの攻撃を境界で防ぐことに重点が置かれてきました。しかし、クラウド利用、テレワーク、サプライチェーン連携が広がる現在では、社内と社外の境界があいまいになっています。APT攻撃への対策では、端末、サーバー、ネットワーク、クラウド、IDの動きを継続的に監視し、通常とは異なる振る舞いを早期に見つけることが重要です。

    EDR

    EDRは、Endpoint Detection and Responseの略で、PCやサーバーなどのエンドポイント上の不審な挙動を検知し、調査や対応を支援する仕組みです。APT攻撃では、マルウェアの実行、認証情報の窃取、管理ツールの悪用、不審なプロセスの起動などが端末上で発生することがあります。EDRは、こうした端末上の動きを可視化し、攻撃の兆候を把握するために有効です。EDRの重要な役割は、単にマルウェアを検知することではありません。侵入後に何が起きたのか、どの端末からどの端末へ移動したのか、どのファイルが操作されたのか、どのアカウントが使われたのかを調査するための情報を提供する点にあります。APT攻撃では、発見時点で攻撃がすでに横展開している場合もあります。そのため、EDRによって端末単位の挙動を把握し、感染端末の隔離、プロセス停止、調査対象の特定などを迅速に行える状態を整えておく必要があります。最近では、EDRに加え、メールやクラウドも含めて分析するXDRを導入する企業も増えています。

    SIEM

    SIEMは、Security Information and Event Managementの略で、複数のシステムからログを集約し、相関分析(複数のログを組み合わせて関連性を分析すること)を行う仕組みです。APT攻撃では、個々のログだけを見ると小さな異常に見える行動が、複数のログを組み合わせることで攻撃の流れとして見えてくることがあります。たとえば、通常とは異なる国や地域からのログイン、深夜帯の管理者権限利用、短時間での大量アクセス、普段使わない端末からの認証、ファイルサーバへの大量アクセスなどは、単独では見逃されることがあります。しかし、SIEMで複数のログを関連付けることで、初期侵入、権限昇格、横展開、情報窃取の兆候を把握しやすくなります。SIEMを有効に活用するには、ログを集めるだけでなく、どのログを監視対象にするのか、どのような条件でアラートを出すのか、誰が確認するのか、アラート発生後にどのような初動を取るのかを事前に決めておく必要があります。そしてツールを導入するだけではなく、運用設計まで含めて整えることも重要です。社内で運用が難しい場合は、SOCサービスなど外部監視サービスを利用する方法もあります。

    ログ監視

    ログ監視は、APT攻撃対策の基盤となる取り組みです。攻撃者の行動は、認証ログ、端末ログ、プロキシログ、DNSログ、VPNログ、クラウドサービスの監査ログ、ファイルアクセスログなどに痕跡として残ることがあります。しかし、ログが取得されていなかったり、保存期間が短かったり、必要な項目が記録されていなかったりすると、インシデント発生後に攻撃の流れを追跡できません。特にAPT攻撃では、侵入から発見までに時間がかかることがあるため、一定期間のログを保管し、過去にさかのぼって調査できる状態を作る必要があります。ログ監視では、単に大量のログを保存するだけでは不十分です。重要なのは、通常時のアクセス傾向を把握し、そこから外れた動きを見つけることです。普段アクセスしないサーバーへの接続、短時間での権限変更、退職者アカウントの利用、海外からのVPN接続、大量のファイル圧縮や外部送信など、攻撃の兆候となる行動を継続的に確認する必要があります。保持期間は法令や業種要件、インシデント対応を考慮して決める必要があります。

    ゼロトラストの考え方

    ここまで紹介した侵入前対策・侵入後対策は、いずれもゼロトラストという一つの考え方の実装例と捉えることができます。

    ゼロトラストとは、社内ネットワークにいるから安全、正規ユーザだから安全といった前提を置かず、ユーザ、端末、アプリケーション、データへのアクセスを継続的に確認する考え方です。従来の境界防御では、社内ネットワークの内側を比較的信頼する考え方が一般的でした。しかし、APT攻撃では、一度内部へ侵入した攻撃者が正規アカウントや管理ツールを悪用し、横展開する可能性があります。そのため、社内ネットワーク内の通信であっても、常に正当性を確認し、必要最小限の権限だけを付与することが前提になります。ゼロトラストの実現には、MFA、ID管理、端末管理、アクセス制御、ログ監視、ネットワーク分離、継続的なリスク評価などが関係します。単一の製品を導入すれば完成するものではなく、組織の業務やシステム構成に合わせて段階的に整備していく必要があります。

    APT攻撃への対策としてゼロトラストを取り入れることで、攻撃者が一つのアカウントや端末を悪用しても、重要情報へ簡単に到達できない環境を作りやすくなります。侵入を前提に、被害範囲を限定し、異常を早期に検知するという点で、ゼロトラストはAPT対策と相性のよい考え方です。

    インシデント対応体制

    APT攻撃への対策では、検知した後の初動対応によって被害の大きさが大きく左右されます。初動対応では「封じ込め(Containment)」「根絶(Eradication)」「復旧(Recovery)」の順で進める考え方が一般的です。不審な挙動を発見しても、対応手順や判断基準が決まっていなければ、関係者への連絡、端末隔離、証拠保全、外部報告、復旧判断が遅れてしまいます。その間に攻撃者が横展開を進めたり、情報を外部へ持ち出したりする可能性があります。

    インシデント対応体制では、まず「誰が判断するのか」を明確にする必要があります。情報システム部門、セキュリティ担当、経営層、法務、広報、事業部門、外部専門家など、関係者の役割を事前に決めておくことが重要です。特にAPT攻撃では、技術的な調査だけでなく、事業影響、顧客対応、取引先対応、法的対応、広報対応が必要になる場合があります。 また、初動対応では、証拠を消さないことも重要です。感染が疑われる端末をすぐに初期化してしまうと、侵入経路や攻撃範囲を調査するための情報が失われる可能性があります。端末の隔離、ログ保全、アカウント停止、通信遮断、影響範囲の確認などを、状況に応じて慎重に実施する必要があります。平時からインシデント対応手順を整備し、訓練を行っておくことで、実際の攻撃発生時に混乱を減らすことができます。APT攻撃対策は、技術的な防御だけではなく、組織としてどのように判断し、対応するかまで含めた取り組みです。

    まとめ

    APT攻撃対策では、侵入を完全に防ぐことだけを目指すのではなく、侵入前対策、侵入後対策、インシデント対応体制を組み合わせることが重要です。MFA、脆弱性管理、標的型メール対策によって侵入リスクを下げ、EDR、SIEM、ログ監視によって侵入後の不審な動きを早期に検知します。さらに、インシデント対応体制を整備し、攻撃が疑われる場合に迅速な初動対応を取れるようにしておくことで、被害の拡大を抑えることができます。APT攻撃は、攻撃者が時間をかけて目的達成を狙う攻撃であるため、企業側も継続的な監視と改善を前提に備える必要があります。

    次の記事はこちら
    APT攻撃事例から学ぶ ―国内外の被害事例と企業が取るべき対策―」
    APT攻撃は実際にどのような企業・組織で発生しているのでしょうか。代表的な国内外の事例から、攻撃の特徴や企業が学ぶべきポイントを解説します。

    【参考情報】

    編集責任:木下


    APT攻撃への備えをご検討中の方へ

    APT攻撃は、侵入を完全に防ぐことが難しい高度なサイバー攻撃です。侵入経路の把握や脆弱性管理、監視体制の強化など、継続的な対策が求められます。弊社、ブロードバンドセキュリティ(BBSec)では、脆弱性診断、アタックサーフェス管理調査、セキュリティ運用サービス、コンサルティングサービスなど、企業のセキュリティ対策を支援するサービスを提供しています。


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    IT資産管理を効率化する方法とは?担当者が押さえたい運用のポイント

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    IT資産管理を継続するには、台帳を作成するだけでは十分ではありません。定期的な棚卸しや資産台帳の整備、ツールの活用、運用ルールの見直しなど、継続して管理できる仕組みづくりが重要です。本記事では、IT資産管理を効率化するための基本ステップと、実務で押さえたい運用のポイントを解説します。

    IT資産管理の基本について知りたい方は、まず「IT資産管理とは」をご覧ください。
    IT資産管理とは?企業のセキュリティ対策で最初に取り組むべき理由を解説

    IT資産管理は重要だと分かっていても、実際の運用では「台帳が更新されない」「管理対象が多すぎる」「クラウドやSaaSまで把握しきれない」といった悩みが起こりがちです。特に、少人数の情報システム部門や兼任体制の企業では、手作業だけでIT資産を正確に管理し続けるのは現実的ではありません。

    IT資産管理で押さえるべき基本ステップ

    IT資産管理を効率化するには、いきなりツールを導入するのではなく、基本ステップを整理することが大切です。最初に行うべきことは、管理対象の範囲を決めることです。PC、サーバー、ネットワーク機器、スマートフォン、タブレット、ソフトウェア、クラウドサービス、SaaS、アカウント、ライセンスのうち、どこまでをIT資産管理の対象にするのかを明確にします。次に、現在のIT資産を棚卸しします。棚卸しによって、台帳に載っていない端末、使われていないSaaS、放置されたクラウド環境、サポート期限が近いソフトウェアなどを洗い出します。その後、資産台帳を整備し、資産の種類、利用者、管理責任者、重要度、バージョン、サポート期限、最終確認日などを記録します。

    棚卸しを定期的に行う

    IT資産棚卸しは、IT資産管理の出発点です。棚卸しでは、以下のような複数の情報源を突き合わせます。ひとつの情報源だけに頼ると、見落としが発生しやすいため、複数の情報を照合することが重要です。

    • 購買台帳・リース契約
    • MDM/EDR
    • Active DirectoryやID管理基盤
    • クラウド管理画面
    • SaaSの契約情報 – ネットワーク接続情報

    たとえば、購買台帳には存在するのにEDRには表示されない端末があれば、未セットアップ、未接続、廃棄漏れの可能性があります。逆に、EDRやネットワーク上には存在するのに購買台帳や資産台帳にない端末があれば、未登録端末や持ち込み端末の可能性があります。クラウド環境では、誰が作成したか分からないインスタンス、公開設定のまま放置されたストレージ、検証後に削除されていないリソースを確認します。棚卸しの頻度は、企業規模やIT環境によって異なりますが、少なくとも年1回の一斉棚卸しだけでは変化に追いつきにくくなっています。端末の入れ替え、SaaS契約、クラウド環境の作成など、変化が多い領域については、月次や四半期単位で確認する運用が望ましいでしょう。

    どのような資産が見落とされやすいかについては「見落としがちなIT資産がセキュリティ事故を招く?企業で起こりやすい5つの管理課題」もあわせてご覧ください。

    資産台帳を整備する

    棚卸しで見つけたIT資産は、資産台帳に整理します。台帳は、単に資産名を並べるためのものではありません。脆弱性対応、パッチ適用、ライセンス管理、費用管理、インシデント対応に使える情報でなければ、実務では役に立ちません。資産台帳には、資産ID、資産種別、製品名、メーカー、OSやソフトウェアのバージョン、利用者、所属部門、管理責任者、設置場所、IPアドレス、利用目的、業務上の重要度、保存・処理する情報の種類、サポート期限、ライセンス情報、最終確認日などを記録します。すべてを最初から完璧に埋める必要はありませんが、脆弱性対応やインシデント対応に必要な項目は優先して整備するべきです。

    NIST SP 1800-5では、有効なIT資産管理は物理資産と仮想資産を結びつけ、資産が何で、どこにあり、どのように使われているかを把握できるようにするものと説明されています。 この視点を踏まえると、台帳は固定的な一覧ではなく、現場の利用実態を反映する情報基盤として設計する必要があります。

    ツールで自動化する

    IT資産管理を効率化するうえで、ツールによる自動化は有効です。管理対象が少ないうちは手作業でも対応できますが、端末、クラウド、SaaS、アカウント、ソフトウェアが増えると、人手だけで最新状態を維持するのは難しくなります。IT資産管理ツールを使えば、端末情報、インストール済みソフトウェア、OSバージョン、利用者情報、接続状況などを自動収集しやすくなります。MDMはモバイル端末やPCの管理に役立ち、EDRは端末の稼働状況やセキュリティ状態の把握に活用できます。クラウド環境では、クラウド管理ツールやCSPMによって、リソース、設定、公開状態、権限の可視化を進められます。SaaSについては、ID管理基盤やSaaS管理ツールと連携し、利用アカウントや不要ライセンスを確認します。

    IT資産管理ツールによって可視化した資産情報は、脆弱性管理にも活用できます。資産台帳とスキャン結果を結びつけることで、どの資産にどの脆弱性が存在するのかを把握しやすくなります。

    運用ルールを整備する

    IT資産管理は、ツールを導入するだけでは定着しません。新しい端末を購入したとき、SaaSを契約したとき、クラウド環境を作成したとき、従業員が異動・退職したとき、機器を廃棄したときに、誰が、いつ、どの情報を更新するのかを決めておく必要があります。

    ライフサイクル管理

    調達から廃棄までのライフサイクルにIT資産管理を組み込むことも重要です。購入申請時に資産登録を行い、利用開始時に管理責任者を設定し、定期的に利用状況を確認し、不要になったらアカウント停止やデータ消去、契約解除、廃棄証跡の保管まで行う。この流れが決まっていないと、台帳はすぐに古くなります。

    シャドーIT対策

    シャドーIT対策では、禁止だけでなく申請しやすい仕組みも必要です。現場が必要なツールを安全に使える申請ルート、承認済みSaaSの一覧、例外利用時の確認項目を整備することで、非公式な利用を減らしやすくなります。英国のサイバーセキュリティ機関NCSCも、「シャドーITは従業員が業務上の課題を解決しようとして発生することが多く、責めるのではなく、報告しやすいセキュリティ文化を作ることが重要」だと説明しています*6

    IT資産の可視化を脆弱性管理やパッチ管理につなげる

    近年では、社内で管理しているIT資産だけでなく、インターネット上に公開されている資産を継続的に把握・管理するために、ASM(Attack Surface Management)を活用する企業も増えています。

    IT資産の可視化はゴールではありません。可視化した資産情報を、脆弱性管理やパッチ管理につなげることが重要です。NIST SP 800-40 Rev.4では、パッチ管理を、パッチやアップデートを識別し、優先順位付けし、取得し、適用し、適用結果を検証するプロセスとして説明しています。 その前提として、どの資産が存在し、どのソフトウェアやバージョンを利用しているかを把握している必要があります。たとえば、重大な脆弱性が公開された場合、資産台帳が整備されていれば、対象バージョンを利用している端末やサーバーをすばやく抽出できます。重要システム、外部公開システム、個人情報を扱うシステムなどを優先して対応する判断も可能になります。逆に、資産情報がなければ、全社に一斉確認を依頼するしかなく、対応に時間がかかります。

    IT資産管理、脆弱性管理、パッチ管理は別々の業務ではなく、つながった運用として設計することが重要です。IT資産を把握し、リスクを評価し、優先順位をつけ、対策し、結果を確認する。この流れができて初めて、セキュリティ対策は継続的に機能します。

    まとめ:効率化の目的は、管理を楽にすることではなく対応を早くすること

    IT資産管理を効率化する目的は、単に運用負荷を減らすことではありません。IT資産を継続的に把握し、脆弱性への対応やインシデント発生時の初動対応を迅速に行える状態を維持することが重要です。そのためには、定期的な棚卸しや資産台帳の整備、ツールによる自動化、運用ルールの見直しを組み合わせ、自社のIT環境に合わせた継続的な運用を構築しましょう。

    【参考情報】

    CIS(Center for Internet Security)「The 18 CIS Critical Security Controls」(https://www.cisecurity.org/controls/cis-controls-list

    【関連記事】

    編集責任:木下


    公開IT資産を可視化してみませんか?

    社内で管理しているIT資産と、インターネット上から見える資産は必ずしも一致しません。攻撃者視点で公開資産を可視化する「アタックサーフェス調査サービス」をご紹介します。

    BBSecのアタックサーフェス調査サービス

    インターネット上で「攻撃者にとって対象組織はどう見えているか」調査・報告するサービスです。攻撃者と同じ観点に立ち、企業ドメイン情報をはじめとする、公開情報(OSINT)を利用して攻撃可能なポイントの有無を、弊社セキュリティエンジニアが調査いたします。


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    APT攻撃の手口とは?侵入から情報窃取までの流れを解説

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    前回記事では、APT攻撃の全体像と、標的型攻撃との違い、企業が直面するリスクについて解説しました。今回はその中でも、攻撃者が実際にどのような手順で組織へ侵入し、情報を窃取するに至るのかという「攻撃の流れ」に焦点を当てて解説します。

    APT攻撃は、マルウェアを送り付けて終わる単純な攻撃ではありません。攻撃者は事前に標的組織を調査し、侵入後も長期間にわたり潜伏しながら、社内システムの構造や重要情報の保管場所を探ります。そのうえで、認証情報の窃取、権限昇格、横展開、情報収集、外部送信といった複数の段階を踏み、最終的な目的を達成しようとします。本記事では、APT攻撃の侵入経路、侵入後の流れ、そして発見が難しい理由について解説します。

    APT攻撃の定義や特徴について詳しく知りたい方は、まずこちらの記事をご覧ください。「APT攻撃とは?標的型攻撃との違いと企業リスクを解説【2026年版】

    APT攻撃の特徴

    初期侵入

    APT攻撃の最初の段階は、標的組織の内部ネットワークへ入り込むことです。攻撃者は、いきなり重要サーバーを攻撃するのではなく、従業員の端末、リモートアクセス環境、取引先、公開Webサイトなど、比較的侵入しやすい入口を探します。

    初期侵入でよく使われる手口のひとつが、標的型メールです。攻撃者は、実在する取引先や社内関係者を装ったメールを送り、添付ファイルの開封や不正URLへのアクセスを誘導します。メールの文面は業務連絡に見えるよう作り込まれていることが多く、受信者が不審に感じにくい点が特徴です。また、VPN機器やリモートアクセス製品の脆弱性も、APT攻撃の侵入経路になり得ます。テレワークの普及により、外部から社内システムへ接続する仕組みは多くの企業で利用されています。しかし、脆弱性が残ったままの機器や、認証設定が不十分な環境は、攻撃者にとって格好の入口になります。

    標的型メールについて詳しくは、「標的型攻撃とは?代表的な手口と企業が取るべき対策を解説」をご覧ください。

    水飲み場攻撃も、APT攻撃で使われることがあります。これは、標的となる組織の従業員がよく閲覧するWebサイトを改ざんし、アクセスした利用者の端末にマルウェアを感染させる手口です。攻撃者が標的企業の業務や関係先を調査したうえで仕掛けるため、通常のWeb閲覧の中で侵入が発生する可能性があります。

    このように、APT攻撃の侵入経路は一つではありません。メール、VPN、Webサイト、取引先、クラウドサービスなど、業務で日常的に使われる経路が悪用される点に注意が必要です。

    権限昇格

    初期侵入に成功しても、攻撃者がすぐに目的の情報へアクセスできるとは限りません。多くの場合、最初に侵入できるのは一般従業員の端末や、限定的な権限しか持たないアカウントです。そこで攻撃者は、より強い権限を得るために権限昇格を試みます。権限昇格とは、一般ユーザーの権限から管理者権限へ、あるいは一部システムの権限から社内全体に影響する権限へと、アクセス範囲を広げる行為です。攻撃者は、端末内に保存された認証情報、設定ミス、未修正の脆弱性、過剰に付与された権限などを悪用します。

    特に認証情報の窃取は、APT攻撃の流れの中で重要な意味を持ちます。IDとパスワードを奪われると、攻撃者は正規ユーザーのようにシステムへアクセスできます。正規の認証情報を使った操作は、不審なマルウェア通信よりも見逃されやすく、発見を難しくする要因になります。 企業側では、管理者権限の利用状況、特権IDの管理、不要な権限の削除、多要素認証の導入などを通じて、攻撃者が権限を広げにくい環境を作ることが重要です。

    横展開

    権限を得た攻撃者は、次に社内ネットワーク内を移動します。この段階を横展開と呼びます。横展開の目的は、最初に侵入した端末から、ファイルサーバー、認証サーバー、業務システム、開発環境、クラウド環境などへアクセス範囲を広げることです。APT攻撃では、攻撃者が最初から機密情報の保管場所を正確に把握しているとは限りません。そのため、侵入後に社内ネットワークを調査し、どの端末やサーバーに価値のある情報があるのかを探ります。

    横展開では、リモートデスクトップ、共有フォルダ、管理ツール、正規のリモートアクセス機能などが悪用されることがあります。攻撃者が正規の管理ツールや認証情報を利用すると、通常業務との見分けがつきにくくなります。 この段階で重要なのは、ネットワーク内部の通信を「信頼しすぎない」ことです。境界防御だけに頼っていると、一度侵入された後の移動を見逃しやすくなります。社内ネットワーク内であっても、不自然なログイン、通常とは異なる時間帯のアクセス、大量のファイル閲覧、普段接続しないサーバーへのアクセスなどを監視する必要があります。

    情報窃取

    APT攻撃の多くは、最終的に機密情報や認証情報、知的財産、顧客情報、技術情報、経営情報などを盗み出すことを目的とします。攻撃者は、横展開によって目的の情報に近づいた後、必要なデータを収集し、外部へ送信します。情報窃取は、単純にファイルをそのまま外部へ送るだけではありません。攻撃者は、複数の端末やサーバーから情報を集め、一時的な保管場所にまとめることがあります。その後、ファイルを圧縮したり、分割したり、暗号化したりして、通常の通信に紛れ込ませながら外部へ送信します。

    このような手口を取る理由は、検知を避けるためです。大量のデータが一度に外部送信されると監視に引っかかる可能性があります。そのため、攻撃者は通信量や送信タイミングを調整し、業務上の通信に見えるように偽装することがあります。情報窃取を防ぐには、重要情報の保管場所を把握し、アクセス権限を最小限に抑えることが前提になります。加えて、通常とは異なるデータアクセスや外部通信を検知できる仕組みが求められます。

    長期潜伏

    APT攻撃の大きな特徴は、攻撃者が長期間にわたって潜伏する点です。侵入直後に情報を盗んで終わるのではなく、継続的に情報を収集したり、再侵入のための経路を確保したりすることがあります。ここまで便宜上、初期侵入から情報窃取までを順を追って説明してきましたが、バックドアの設置やアカウントの作成といった潜伏のための準備は、情報窃取の後にまとめて行われるわけではありません。攻撃者は多くの場合、初期侵入や権限昇格の段階から並行してこれらの仕込みを進めており、万が一発見されて一部のアクセス経路を塞がれても、環境内にとどまり続けられるようにしています。こうして確保された足場をもとに、攻撃者は認証情報の保持や正規ツールの悪用などにより、長期間にわたって環境内にとどまり続けようとします。また、検知された場合に備えて、複数の侵入経路やアクセス手段を用意することもあります。

    なぜ発見が難しいのか

    APT攻撃が発見されにくい理由は、攻撃者が目立たない行動を重ねるためです。攻撃者は、短時間で大きな被害を出すのではなく、正規ユーザーの操作や通常業務の通信に紛れるように活動します。特に、盗まれたIDとパスワードを使ったアクセス、正規の管理ツールの利用、業務時間に合わせた通信、少量ずつのデータ送信などは、従来型のセキュリティ対策だけでは見逃される可能性があります。また、APT攻撃では侵入経路が複数に分かれることもあります。標的型メール、VPN脆弱性、サプライチェーン、クラウドアカウント、公開サーバなど、複数の入口から攻撃が行われる場合、単一の対策だけでは全体像を把握しにくくなります。

    発見を難しくしているもう一つの要因は、ログの不足です。攻撃の痕跡はログに残ることがありますが、必要なログを取得していなかったり、保存期間が短かったり、分析体制が整っていなかったりすると、侵入後の流れを追跡できません。 APT攻撃に備えるには、侵入を完全に防ぐという発想だけでなく、侵入された場合に早く気づく、攻撃の範囲を把握する、被害を最小限に抑えるという考え方が重要になります。

    まとめ

    APT攻撃は、標的組織を調査し、初期侵入、権限昇格、横展開、情報窃取、長期潜伏といった段階を踏んで進行する高度なサイバー攻撃です。APT攻撃の手口は一つではなく、標的型メール、VPN脆弱性、水飲み場攻撃、正規アカウントの悪用など、複数の侵入経路や技術が組み合わされます。 企業が注意すべき点は、侵入を防ぐ対策だけでは不十分だということです。APT攻撃では、侵入後にどれだけ早く異常を検知できるか、横展開や情報窃取をどこで止められるかが被害の大きさを左右します。

    次の記事では、APT攻撃への対策として、侵入前の防御、侵入後の検知・監視、インシデント対応体制などを解説します。
    APT攻撃対策とは?検知・監視・初動対応の考え方

    【参考情報】

    なお、本記事で解説した初期侵入・権限昇格・横展開・情報窃取・長期潜伏といった各段階は、MITRE ATT&CKが提供する脅威フレームワークにおける戦術(Tactics)分類にも対応しています。より詳細な技術的分類を確認したい方は、MITRE ATT&CK,Enterprise Tactics(https://attack.mitre.org/tactics/enterprise/)をご参照ください。

    編集責任:木下


    APT攻撃への備えをご検討中の方へ

    APT攻撃は、侵入を完全に防ぐことが難しい高度なサイバー攻撃です。侵入経路の把握や脆弱性管理、監視体制の強化など、継続的な対策が求められます。弊社、ブロードバンドセキュリティ(BBSec)では、脆弱性診断、アタックサーフェス管理調査、セキュリティ運用サービス、コンサルティングサービスなど、企業のセキュリティ対策を支援するサービスを提供しています。


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    標的型攻撃とは?代表的な手口と企業が取るべき対策を解説【2026年版】

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    標的型攻撃とは?代表的な手口と企業が取るべき対策を解説アイキャッチ画像

    標的型攻撃は、従来は標的型メール攻撃が代表的な手法とされていましたが、近年ではVPN機器の脆弱性や認証情報の悪用、サプライチェーンを経由した侵入など、攻撃手法は多様化しています。また、APT攻撃の初期侵入手段として標的型攻撃が利用されるケースも少なくありません。本記事では、標的型攻撃の特徴や代表的な手口、企業が取るべき対策を解説します。

    標的型攻撃とは

    標的型攻撃とは、特定の企業や組織、個人を狙って計画的に実施されるサイバー攻撃の総称です。不特定多数を対象とするフィッシングメールやばらまき型マルウェアとは異なり、攻撃者は事前に標的企業の事業内容や組織体制、役職者、取引先などを調査したうえで、最も侵入しやすい方法を選択します。その目的はさまざまで、機密情報の窃取、認証情報の取得、金銭の詐取、システムへの侵入、さらにはランサムウェア攻撃の足掛かりを得ることなどが挙げられます。近年では政府機関や重要インフラだけでなく、製造業、医療機関、教育機関、中堅・中小企業まで、業種や規模を問わず標的となっています。

    従来型の攻撃標的型攻撃
    目的悪意のない趣味や愉快犯、技術的な理論検証など、趣味や知的好奇心の延長知的財産・国家機密・個人情報など、金銭目的の犯罪、諜報などの目的を持つ
    対象不特定多数のインターネットユーザー 特定の企業や組織、政府
    技術必ずしも高くない 高度な技術水準
    組織多くは個人による活動、複数であっても組織化されていない 組織化された多人数の組織
    資金個人による持ち出し 豊富、国の支援を受けている場合も
    期間短い、興味や好奇心が満たされれば終了 目的を達成するまで辞めない、数年間のプロジェクトとなることも

    標的型攻撃とAPT攻撃の違い

    標的型攻撃とAPT攻撃は混同されがちですが、意味は異なります。標的型攻撃は、特定の標的へ侵入するための攻撃手法を指します。一方、APT攻撃は、侵入後も長期間にわたり潜伏し、情報収集や権限昇格、情報窃取などを継続する一連の攻撃活動全体を指します。つまり、標的型攻撃はAPT攻撃における「初期侵入」の手段として利用されることが多いという関係です。

    APT攻撃について詳しくは、「APT攻撃とは?標的型攻撃との違いと企業リスクを解説」をご覧ください。

    標的型攻撃の代表的な手口

    標的型攻撃では、一つの方法だけで侵入することはほとんどありません。攻撃者は標的企業の環境に応じて複数の手法を使い分けます。

    標的型攻撃メール

    メールから侵入する「標的型攻撃メール」とはのサムネ

    標的型メール攻撃は代表的な手口です。取引先や公的機関などを装い、添付ファイルやURLを開かせてマルウェアへ感染させたり、認証情報を入力させたりします。

    現在は生成AIの普及により、自然な日本語のメールも増えています。不自然な文章だけで見分けることは難しく、送信元やリンク先も確認することが重要です。

    VPN機器や公開サーバの脆弱性を悪用した攻撃

    近年増加しているのが、VPN機器や公開サーバの脆弱性を悪用した侵入です。攻撃者は公開機器を調査し、修正されていない脆弱性を悪用して企業ネットワークへ侵入します。

    認証情報の悪用

    ID・パスワードの漏洩による不正ログインも代表的な侵入手法です。漏えいした認証情報はダークウェブ上で売買されることもあり、VPNやクラウドサービス、メールなどへ正規ユーザーとしてログインされるケースがあります。

    水飲み場攻撃

    水飲み場攻撃(Watering Hole Attack)は、標的企業の従業員が頻繁に利用するWebサイトを改ざんし、そのサイトへアクセスした利用者をマルウェアへ感染させる攻撃です。利用者自身に不審な操作をさせる必要がないため、標的型メールとは異なる手口として利用されます。

    サプライチェーン攻撃

    近年では、取引先や委託先、ソフトウェアベンダーを経由して標的企業へ侵入するサプライチェーン攻撃も増えています。セキュリティ対策が強固な企業へ直接侵入するのではなく、関連企業を足掛かりとすることで、攻撃成功率を高める狙いがあります。

    標的型メールはなぜ見分けにくいのか

    標的型攻撃メールの見分け方のサムネ

    標的型メールは以前のような不自然な日本語や明らかな迷惑メールだけではありません。攻撃者は企業ホームページやSNS、ニュースリリースなどから担当者名や取引先情報を収集し、実際の業務メールと区別がつかない内容を作成します。

    また、生成AIの利用により、自然な日本語や文体を用いたメールを短時間で大量に作成できるようになっています。そのため、「日本語が不自然だから怪しい」という判断だけでは十分ではありません。

    次のような点を複数確認することが重要です。

    • 差出人のメールアドレス
    • ドメイン名
    • 添付ファイルの種類
    • リンク先URL
    • 急な送金や認証を求める内容ではないか

    標的型攻撃への入口対策

    標的型攻撃は複数の侵入手法を利用しますが、その中でも標的型メールは依然として多くの攻撃で利用されています。メール対策製品の導入はもちろん重要ですが、それだけで攻撃を完全に防ぐことはできません。受信者一人ひとりが不審なメールに気付き、適切に対応できるようにすることも重要です。そのため、多くの企業では標的型メール訓練を実施しています。

    標的型攻撃メール訓練

    模擬の標的型攻撃メールを作成し、事前に知らせずに従業員にメールを送信、本文中のリンクをクリックしたり添付ファイルを開いてしまった人を調べ、部門毎の攻撃メール開封率などを管理者に報告するサービスです。

    標的型攻撃メール訓練サービスの比較のポイント

    標的型メール訓練サービスは提供業者が多く、費用やサービスクオリティはさまざまです。ここで簡単に、いい標的型攻撃メール訓練会社の比較のポイントを列挙します。


    • 実施前に社内の業務手順や、うっかり添付ファイルを開いたりリンクをクリックしてしまいそうなメールの傾向を、丁寧なヒアリングをもとに考えてくれるかどうか
    • 開封率の報告だけでなく、添付ファイルを開いた後の初動対応分析や、万一開いた場合の報告体制、エスカレーションの仕組の助言などを行ってくれるかどうか
    • 標的型攻撃メールの添付ファイルを開いたりリンクをクリックすることで具体的にどのように被害が発生するか、リスク予測をしてくれるかどうか
    • 訓練で洗い出された課題解決のために従業員向け研修を実施してくれるかどうか

    不審なメールを開いてしまった場合は

    標的型メールを開いてしまった場合でも、慌てて端末を操作するのではなく、まずは情報システム部門へ報告することが重要です。添付ファイルを実行したか、URLへアクセスしたかによって対応方法は異なるため、組織で定めたインシデント対応手順に従いましょう。

    標的型メール訓練サービスは各社それぞれ個性と品質の差があります。一見似ているように見えますが、どのように運用するかによってサービスクオリティが大きく変わってきます。組織には人事異動もあり業務内容も変わります。メール訓練をやる場合は、エビデンスのために実施する場合はともかく、本当に根付かせたいのであれば定期的な実施が必須といえるでしょう。「入口対策」を考えると、教育訓練を施す標的型メール訓練は 「ヒト」 に対する対策として有効な対策の一つです。しかし、うっかり危険なファイルを開いてしまう確率がゼロになることは残念ながらありません。

    開封率の低減を最重要視するのではなく、「開封されても仕方なし」というスタンスで取り組むことが重要です。訓練の目標を「開封された後の対応策の見直しと初動訓練」に設定し、定められた対応フロー通りに報告が行われるか、報告を受けて対策に着手するまでにどれくらいの時間を要するかを可視化して、インシデント時の対応フローおよびポリシーやガイドラインの有効性を評価することをおすすめします。また、従業員のセキュリティ意識を向上させるために、教育および訓練と演習を実施するのが望ましいでしょう。

    標的型攻撃への対策

    標的型メール訓練は、標的型攻撃への重要な対策の一つですが、それだけで十分とはいえません。近年の標的型攻撃では、メールだけでなくVPN機器の脆弱性や認証情報の悪用、サプライチェーンを経由した侵入など、複数の手法が組み合わせて利用されます。そのため企業は、侵入を防ぐ対策と、侵入後の被害を抑える対策を組み合わせることが重要です。

    システムや端末を最新の状態に保つ

    WindowsOSやMicrosoft Office、Adobeなどの主要アプリケーションを最新の状態に保つことが重要です。セキュリティ更新プログラムは速やかに適用し、不要なサービスは停止しましょう。また、自社のIT資産を把握し、脆弱性を継続的に管理することも重要です。

    多要素認証(MFA)の導入

    仮に認証情報が漏洩しても、不正ログインを防止するために多要素認証(MFA)を導入します。VPNやクラウドサービス、管理者アカウントなど、重要なシステムでは特に有効です。

    EDR・ログ監視

    侵入を完全に防ぐことは困難です。そのため、EDRやログ監視により侵入後の不審な挙動を検知し、早期対応につなげることが重要です。APT攻撃では長期間潜伏するケースもあるため、侵入後の監視体制が被害の最小化につながります。

    インシデント対応体制を整備する

    万が一侵害された場合に備え、初動対応手順や連絡体制を整備しておくことも重要です。情報システム部門だけでなく、経営層や広報、法務なども含めた対応体制を平時から準備しておくことで、被害拡大を防ぎやすくなります。

    多層防御とゼロトラスト

    標的型攻撃は、人・システム・運用の弱点を組み合わせて侵入します。そのため、一つの対策だけでは十分ではありません。近年は「侵入されること」を前提としたゼロトラストの考え方が広がっています。社内外を問わずすべてのアクセスを検証し、必要最小限の権限を付与することで、侵入後の被害拡大を防ぎやすくなります。

    被害を完全に防ぐことは難しい

    標的型攻撃の対策方法のサムネ

    「侵入されることを前提に考える」とは、もはや完全に防ぐことはできないと認めることです。標的型攻撃やAPT攻撃以降に、「この製品を買えば100%防げます」オーバーコミット気味のセキュリティ製品の営業マンが、もしこんなセリフを言ったとしたら、もはや安請け合いどころか明白な嘘です。標的型攻撃は、人の心理や業務フローを巧みに悪用するため、技術的な対策だけで完全に防ぐことは困難です。そのため、侵入を前提とした多層防御と、インシデント発生時に迅速に対応できる体制づくりが重要になります。

    また、昔から言われている基本対策も標的型攻撃に対して有効な対策の一つです。Webサイトやアプリケーションなどの公開サーバ、社内ネットワークを対象に、見過ごしているセキュリティホールがないかどうかを見つける脆弱性診断の定期的実施や、いざ侵入できたらどこまで被害が拡大しうるのかを調べるペネトレーションテストの実施も同様に有効でしょう。

    まとめ

    標的型攻撃は、特定の企業や組織を狙って実施される計画的なサイバー攻撃です。標的型メールだけでなく、VPN機器の脆弱性や認証情報の悪用、サプライチェーンを経由した侵入など、攻撃手法は年々多様化しています。また、標的型攻撃はAPT攻撃の初期侵入手段として利用されることも多く、侵入後には情報窃取や権限昇格などの活動へ発展する可能性があります。企業には、従業員教育や標的型メール訓練、多要素認証、脆弱性管理、EDRによる監視など、多層的な対策を継続的に実施することが求められます。

    標的型攻撃は「侵入されるかどうか」ではなく、「侵入されたときにどれだけ早く気付き、適切に対応できるか」が被害を左右します。平時から技術的対策と組織的な対応体制の両方を整備しておくことが重要です。

    【関連記事】

    • APT攻撃とは?標的型攻撃との違いと企業リスクを解説
    • APT攻撃の手口とは―侵入から情報窃取までの流れを解説
    • APT攻撃対策とは―検知・監視・初動対応の考え方
    • サプライチェーン攻撃とは?仕組み・事例・企業が取るべき対策
    • 脆弱性管理とは?企業が行うべき脆弱性管理の基本と実践手順

    【参考資料・関連情報】


    BBSecでは

    標的型メール訓練

    ※外部サイトへリンクします。

    標的型攻撃リスク診断

    基本対策を実践するのはまず当然として、今後は、「騙されてしまうことはあり得る」と想定し、被害前提・侵入前提での対策も考える必要があります。弊社では、この認識のもと、「もし標的型攻撃にひっかかってしまった場合、どこまで企業の資産に被害が及ぶのか、その結果、どれだけビジネスインパクトがあるのか」を検証するサービスを提供しています。

    公開日:2022年7月14日
    更新日:2026年7月8日

    編集責任:木下


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    KDDIメールシステムに不正アクセス、最大1,422万件漏えいの可能性―企業が見直すべき「共通基盤リスク」とは

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    「KDDIメールシステムに不正アクセス、最大1,422万件漏えいの可能性」アイキャッチ画像

    KDDI株式会社(以降、KDDI)がISP事業者向けに提供するメールシステムで不正アクセスが確認され、BIGLOBEメール、@niftyメール、J:COM NET、コミュファ光、ピカラ光、CPIなど複数のメールサービスにおいて、メールアドレスやパスワードが外部に漏えいした可能性があることが公表されました。漏えいした可能性のある情報は最大1,422万件にのぼり、現在利用中のユーザーだけでなく、解約済みの顧客や一定期間利用のない休眠アカウントも含まれるとされています。

    今回の事案で注目すべきなのは、単に「メールアドレスとパスワードが漏えいした可能性がある」という点だけではありません。KDDIが提供するISP向けの共通メール基盤に不正アクセスが発生したことで、複数の事業者・複数のサービスに影響が広がった点が重要です。これは、現代の企業システムにおいて避けて通れない「外部委託先リスク」「サプライチェーンリスク」「共通基盤リスク」を象徴する事案といえます。

    本記事では、KDDIの公式発表および関係各社の公表情報をもとに、今回の不正アクセスの概要、影響範囲、利用者が取るべき対応、そして企業が学ぶべきセキュリティ対策について解説します。

    KDDIのISP向けメールシステムで何が起きたのか

    KDDIは、インターネットサービスプロバイダー、いわゆるISP事業者向けに提供しているメールシステムにおいて、不正アクセスを受けていたことを2026年6月17日に確認しました。KDDIの発表によると、不正アクセスの原因は、同システムで利用していた第三者製ソフトウェアの脆弱性を悪用されたことによるものです。

    KDDIは同日、被害拡大を防ぐためにシステムを改修し、不正アクセスの被疑箇所を特定したうえで、技術的な防御措置を実施したとしています。また、個人情報保護委員会や総務省への報告・相談を含む必要な対応も進めていると説明しています。

    現時点で公表されている漏えい可能性のある情報は、対象メールサービスで作成されたメールボックスに紐づくメールアドレスとパスワードです。件数は最大1,422万件とされており、この数字には解約済みの顧客や、一定期間利用していない休眠アカウントも含まれています。なお、パスワードの中には、ハッシュ化または暗号化されたものも含まれるとされています。

    ここで注意したいのは、最大1,422万件という数字が「実際に漏えいした件数」と確定したものではないという点です。KDDIは調査継続中であるため、現時点では漏えいした可能性のある最大値として公表されています。

    影響を受けるメールサービス

    今回の不正アクセスで対象とされているのは、KDDIがISP事業者向けに提供していたメールシステムを利用する複数のメールサービスです。KDDIの発表では、STNetのピカラ光サービス、ピカラモバイルサービス、お仕事ピカラサービスに係るメールサービス、KDDIウェブコミュニケーションズのレンタルサーバー「CPI」のメールサービス、JCOMのJ:COM NETおよびケーブルテレビ事業者向けメールサービス、中部テレコミュニケーションのコミュファ光・ビジネスコミュファのメールサービス、ニフティの@niftyメール、ビッグローブのBIGLOBEメールが対象として挙げられています。

    各社の発表を見ても、KDDIが提供する基盤システムを利用していたこと、第三者製ソフトウェアの脆弱性悪用によって不正アクセスが発生したこと、メールアドレスやメールパスワードなどが漏えいした可能性があることが説明されています。BIGLOBEでは、BIGLOBEメールアドレス、BIGLOBE IDおよびパスワードが漏えいした可能性があると公表しています。@niftyでは、メールアドレスおよびメールパスワードが第三者に漏えいした可能性があるとして、利用者にメールパスワードの変更を求めています。

    このように、ひとつの基盤システムに起きた不正アクセスが、複数ブランドの利用者に影響する形になっています。これは、クラウドサービス、外部委託システム、SaaS、共通認証基盤などを活用する多くの企業にとっても、決して他人事ではありません。

    なぜメールアドレスとパスワードの漏えいは危険なのか

    メールアドレスとパスワードの漏えいは、単なる連絡先情報の流出にとどまりません。メールアカウントは、多くのWebサービスや業務システムにおいて本人確認やパスワード再設定の起点として使われています。そのため、メールアカウントに不正ログインされると、他サービスへの侵入、なりすまし、フィッシングメールの送信、業務情報の閲覧など、被害が連鎖するおそれがあります。

    特に危険なのは、同じパスワードを複数のサービスで使い回しているケースです。攻撃者は、漏えいしたメールアドレスとパスワードの組み合わせを使い、別のWebサービスやクラウドサービスへのログインを試みることがあります。これは一般にパスワードリスト攻撃、またはクレデンシャルスタッフィングと呼ばれる手口です。

    今回の件では、対象情報にメールパスワードが含まれる可能性があるため、利用者は対象メールサービスのパスワードを変更するだけでなく、同じ、または似たパスワードを使用している他サービスについても見直す必要があります。メール、ECサイト、SNS、クラウドストレージ、業務用SaaSなどでパスワードを使い回している場合は、早急な変更が望まれます。

    利用者が今すぐ取るべき対応

    対象サービスを利用している可能性がある場合、まずは各ISP事業者やサービス提供会社の公式案内を確認することが重要です。検索結果やSNS上のリンクからではなく、公式サイト、公式サポートページ、契約時に案内された会員ページなどから確認することで、フィッシングサイトに誘導されるリスクを下げられます。

    次に、対象となるメールパスワードを変更します。@niftyのように、一定期限までに変更が確認できない場合、システム側でメールパスワードを順次無効化すると案内している事業者もあります。Outlook、Macメール、スマートフォンのメールアプリなどを利用している場合は、Web上でパスワードを変更した後、メールソフト側に保存されているパスワードも更新する必要があります。

    また、メールパスワードとログインパスワードを同じ文字列にしている場合や、他のサービスでも同じパスワードを使っている場合は、それらも変更すべきです。メールアカウントは、他サービスのパスワード再設定メールを受け取る重要な入口です。メールアカウントの安全性が崩れると、他のアカウントにも被害が広がる可能性があります。 加えて、しばらくの間は不審なメールへの警戒が必要です。今回の不正アクセスに便乗し、「パスワード変更が必要です」「アカウントを確認してください」などと称する偽メールが送られる可能性もあります。本文中のURLを安易にクリックせず、ブックマークや公式アプリ、公式サイトから手続きすることが大切です。

    「委託先だから安全」ではないという現実

    今回の事案は、企業のセキュリティ対策を考えるうえで重要な教訓を含んでいます。多くの企業は、自社の業務効率化やコスト削減、専門性の確保を目的に、メール基盤、クラウドサービス、決済システム、顧客管理システム、認証基盤などを外部サービスに委託しています。これは現代の事業運営では自然な選択です。

    しかし、外部サービスを利用しているからといって、リスクが自社から消えるわけではありません。委託先や共通基盤でインシデントが発生すれば、自社の顧客情報、業務データ、ブランド信頼にも影響が及びます。特に、複数の事業者が同じ基盤を利用している場合、一箇所の脆弱性が広範囲のサービスに波及する可能性があります。 企業に求められるのは、外部委託先を「便利なサービス提供者」として見るだけでなく、自社のセキュリティ境界の一部として管理する姿勢です。契約時のセキュリティ要件、脆弱性対応の体制、インシデント発生時の報告フロー、影響範囲の確認方法、利用者への通知方針などを事前に整理しておかなければ、実際に問題が起きた際の初動対応が遅れてしまいます。

    第三者製ソフトウェアの脆弱性はなぜ狙われるのか

    KDDIは今回の不正アクセスについて、第三者製ソフトウェアの脆弱性が悪用されたと説明しています。現時点でソフトウェア名やCVE番号などの詳細は公表されていませんが、一般論として、第三者製ソフトウェアの脆弱性は攻撃者にとって非常に狙いやすいポイントです。

    企業システムは、自社開発のプログラムだけで構成されているわけではありません。OS、ミドルウェア、メールサーバー、認証機能、管理画面、ライブラリ、監視ツールなど、さまざまな外部コンポーネントに支えられています。これらのどこかに脆弱性が存在し、修正が遅れれば、攻撃者に侵入口を与えることになります。 特に、インターネットからアクセス可能なシステムや、多数の顧客情報を扱う共通基盤では、脆弱性管理の遅れが大きなインシデントにつながりかねません。脆弱性情報を収集し、影響有無を確認し、必要なパッチ適用や回避策を迅速に実施する体制が不可欠です。

    企業が見直すべきセキュリティ対策

    今回のような不正アクセスや情報漏えいリスクに備えるには、単にパスワードを強化するだけでは不十分です。まず重要なのは、自社がどの外部サービスや委託先に、どのような情報を預けているのかを把握することです。顧客情報、メールアドレス、認証情報、業務データ、ログ情報など、預託している情報の種類と影響範囲を整理しておく必要があります。

    次に、委託先や利用サービスに対するセキュリティ確認を継続的に行うことが求められます。契約時だけでなく、運用中も脆弱性対応、インシデント報告体制、アクセス制御、ログ管理、バックアップ、暗号化、権限管理などの観点で確認を続けることが重要です。

    さらに、自社側でも認証情報の管理を強化する必要があります。多要素認証の導入、パスワード使い回しの禁止、不要アカウントの棚卸し、退職者や休眠アカウントの削除、権限の最小化などは、基本的でありながら効果の高い対策です。今回の件で解約済みや休眠アカウントも最大件数に含まれていることは、使われていないアカウントや古いデータの管理がいかに重要かを示しています。 最後に、インシデント発生時の対応手順を事前に整備しておくことも欠かせません。誰が影響範囲を確認し、誰が顧客へ通知し、どのタイミングで監督官庁へ報告し、どのように再発防止策を公表するのか。こうした手順が曖昧なままでは、被害の拡大だけでなく、顧客からの信頼低下にもつながります。

    メール漏えいではなくサプライチェーンリスクの問題

    今回のKDDIメールシステム不正アクセスは、メールアドレスとパスワードの漏えい可能性が注目されています。しかし、企業のセキュリティ担当者や経営層が本当に見るべきポイントは、その背後にある構造です。

    ひとつの共通基盤に脆弱性があり、そこを攻撃されることで、複数のISP事業者やメールサービスに影響が広がりました。これは、外部委託やクラウド利用が進む現在の企業環境において、どの企業にも起こり得る問題です。自社のシステムが直接攻撃されていなくても、委託先、取引先、共通基盤、利用中のSaaSで起きたインシデントが、自社の顧客対応や事業継続に影響する可能性があります。 セキュリティ対策は、もはや自社ネットワークの内側だけを守ればよい時代ではありません。外部サービスを含めた全体像を把握し、脆弱性管理、委託先管理、認証情報管理、インシデント対応を一体として整備することが求められます。

    まとめ

    KDDIのISP事業者向けメールシステムに対する不正アクセスでは、メールアドレスやパスワードが最大1,422万件漏えいした可能性があると公表されました。対象にはBIGLOBEメール、@niftyメール、J:COM NET、コミュファ光、ピカラ光、CPIなど複数のメールサービスが含まれており、共通基盤に起きた不正アクセスが広範囲に影響する構図となっています。

    利用者は、各事業者の公式案内を確認し、対象となるメールパスワードを速やかに変更することが重要です。同じパスワードを他サービスで使い回している場合は、あわせて変更し、不審なメールや偽のパスワード変更案内にも注意が必要です。

    企業にとっては、今回の事案を「大手通信会社の情報漏えい」として見るだけでは不十分です。第三者製ソフトウェアの脆弱性、外部委託先の管理、共通基盤への依存、休眠アカウントの扱い、インシデント発生時の連絡体制など、自社のセキュリティ運用を見直すきっかけにすべきです。 サイバー攻撃は、自社の真正面から来るとは限りません。取引先、委託先、クラウドサービス、共通基盤を経由して影響が及ぶ時代だからこそ、企業にはサプライチェーン全体を見据えたセキュリティ対策が求められています。

    【参考情報】

    編集責任:木下


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    【企業のためのランサムウェア対策ガイド】ランサムウェアの攻撃手法とは – 侵入から暗号化までの流れを解説

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    ランサムウェア攻撃は、単にファイルを暗号化するだけではありません。近年の攻撃では、侵入後に認証情報の窃取や権限昇格、社内ネットワーク内での横展開、重要データの窃取を経て、最終的に暗号化や二重恐喝へと発展するケースが一般的です。本記事では、ランサムウェア攻撃がどのような段階を経て進行するのか、その流れと企業が警戒すべきポイントを解説します。

    ランサムウェアの基本的な仕組みや全体像については、以下の記事で整理しています。
    ランサムウェアとは何か ―企業が知るべき被害・仕組み・対策の基本―

    ランサムウェア攻撃は、単に「ウイルスに感染してファイルが暗号化される攻撃」ではありません。現在の企業向けランサムウェア攻撃では、攻撃者が社内ネットワークへ侵入し、認証情報を盗み、権限を広げ、重要データを持ち出し、最後にシステムやファイルを暗号化するという複数段階の流れをたどることが一般的です。特に近年は、暗号化だけでなく、事前に窃取したデータを公開すると脅す「二重恐喝」が多く確認されています。警察庁「サイバー空間をめぐる脅威の情勢等」の調査報告によると、近年のランサムウェア被害はデータを窃取したうえで「対価を支払わなければ公開する」と脅す二重恐喝が多くを占めるといいます。

    ランサムウェア攻撃の全体像

    ランサムウェア攻撃は、外部から突然暗号化プログラムが送り込まれて終わるものではありません。実際には、攻撃者が最初に侵入経路を確保し、その後に社内環境を調査し、より強い権限を持つアカウントを探し、重要なサーバやファイル共有へ移動しながら、最終的に暗号化や脅迫へ進む流れを取ります。

    米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)が公開している「#StopRansomware Guide」でも、ランサムウェアやデータ恐喝型攻撃への対策が初期侵入経路ごとに整理されています。本ガイドでは、インターネットに公開されたシステム、脆弱性、認証情報、リモートアクセス、メールなどが重要な観点として扱われています。つまり、ランサムウェア対策は、暗号化プログラムそのものを止めるだけでなく、攻撃の前段階をどこで検知し、どこで遮断するかが重要になります。攻撃の流れを理解すると、ランサムウェア対策の考え方も変わります。入口対策だけではなく、侵入後の不審な認証、権限昇格、横展開、データ窃取、バックアップ破壊、暗号化準備といった兆候を監視する必要があります。特に企業では、感染を完全に防ぐことだけに注力するのではなく、侵入された場合でも早期に発見し、被害拡大を防ぐ体制が求められます。

    ランサムウェアの仕組みについては、以下の記事でより詳しく解説しています。
    ランサムウェアの仕組みとは ―感染から暗号化までの動きを解説―

    攻撃の流れ(フェーズ別)

    侵入

    ランサムウェア攻撃の最初の段階は、企業ネットワークへの侵入です。侵入経路としては、フィッシングメール、VPN機器の脆弱性、リモートデスクトップ、外部公開サーバ、認証情報の悪用、委託先や外部サービス経由のアクセスなどが挙げられます。

    攻撃者は、必ずしも高度な手法だけを使うわけではありません。公開済みの脆弱性が修正されていないVPN機器や、外部公開されたリモートデスクトップ接続(RDP)、使い回されたパスワード、退職者の残存アカウントなど、基本的な管理不備が入口になることもあります。この段階で重要なのは、自社の外部公開資産を把握し、侵入口になり得る箇所を減らすことです。攻撃者から見えるサーバ、VPN、リモートアクセス環境、クラウド管理画面、ファイル共有サービスを把握できていなければ、侵入の兆候を見つけることも、優先的に対策することも難しくなります。

    独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織向け脅威として「ランサム攻撃による被害」が1位、「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が2位に挙げられており、企業にとってランサムウェアと外部経由の侵入は継続的な重要課題とされています。

    権限昇格

    侵入に成功した攻撃者は、次により強い権限を得ようとします。一般ユーザの端末に入っただけでは、重要サーバの停止や大規模な暗号化を実行できない場合があるためです。そのため、攻撃者は端末内に保存された認証情報、ブラウザに残ったパスワード、管理ツールの接続情報、設定ファイル、共有フォルダ内の情報などを探します。

    権限昇格が成功すると、攻撃者は管理者アカウントやドメイン管理者権限を悪用し、より広範囲のシステムへアクセスできるようになります。管理者権限を持つアカウントが日常業務にも使われている場合や、複数のサーバで同じ認証情報が使い回されている場合、攻撃者の行動範囲は一気に広がります。この段階を防ぐためには、管理者権限の最小化、特権アカウントの分離、多要素認証、不要アカウントの削除、認証ログの監視が重要です。ランサムウェア攻撃では、暗号化そのものより前に、認証情報の不正利用や通常とは異なるログインが発生していることがあります。その兆候を早く見つけることが、被害拡大を防ぐ鍵になります。

    横展開(ラテラルムーブメント)

    権限を得た攻撃者は、社内ネットワーク内を移動しながら、重要なサーバやデータの所在を探します。この動きを横展開、またはラテラルムーブメントと呼びます。横展開では、ファイルサーバ、業務システム、Active Directory、バックアップサーバ、仮想基盤、クラウド連携システムなどが調査対象になります。攻撃者は、どのシステムを暗号化すれば業務停止の影響が大きいか、どのデータを盗めば脅迫材料になるか、どのバックアップを破壊すれば復旧を困難にできるかを確認します。この段階では、社内通信の異常、管理者ツールの不審な利用、通常とは異なる時間帯のアクセス、複数端末への連続ログイン、ファイル共有への大量アクセスなどが兆候になります。しかし、正規のアカウントや管理ツールが悪用される場合、単純なウイルス対策ソフトだけでは検知が難しいことがあります。そのため、ランサムウェア対策では、EDRやログ監視、ネットワーク監視、認証基盤の監視を組み合わせ、侵入後の不審な行動を見つける考え方が重要になります。

    データ窃取

    近年のランサムウェア攻撃では、暗号化の前にデータを盗む手口が一般化しています。攻撃者は、顧客情報、従業員情報、契約書、財務情報、設計情報、取引先情報、メールデータなどを持ち出し、身代金交渉の材料にします。この手法が二重恐喝です。従来のランサムウェアは、ファイルを暗号化して「復号したければ身代金を支払え」と要求するものでした。しかし現在は、暗号化に加えて「盗んだデータを公開する」「取引先や顧客へ連絡する」と脅すケースが増えています。この段階で被害が発生すると、たとえバックアップからシステムを復旧できたとしても、情報漏洩対応、顧客説明、取引先対応、法的対応、信用低下への対応が必要になります。つまり、バックアップは重要ですが、バックアップだけでランサムウェア被害を完全に抑え込めるわけではありません。データ窃取を早期に検知するには、重要データへのアクセス監視、大量ダウンロードの検知、外部送信通信の監視、クラウドストレージやファイル共有サービスの利用状況確認が必要です。特に、通常業務では発生しない大量の圧縮ファイル作成や外部アップロードは、ランサムウェア攻撃の前兆として注意すべきです。

    暗号化

    攻撃の最終段階で、ランサムウェアによる暗号化が実行されます。攻撃者は、業務停止の影響が大きいサーバや共有フォルダ、端末、仮想基盤を対象にし、ファイルを暗号化します。同時に、バックアップを削除したり、復旧機能を無効化したり、セキュリティ製品を停止しようとする場合もあります。暗号化が始まると、業務システムが使えない、ファイルサーバにアクセスできない、受発注や出荷が止まる、社内の連絡体制が混乱するなど、事業継続に大きな影響が出ます。NIST(米国立標準技術研究所)が公開しているNIST IR 8374でも、重要業務の復旧優先順位、バックアップの保護、復旧手順のテスト、対応計画の整備が重要であると示されています。暗号化段階まで到達してからでは、被害をゼロに抑えることは難しくなります。そのため、企業のランサムウェア対策では、暗号化を検知する仕組みに加え、暗号化前の侵入、権限昇格、横展開、データ窃取を早期に見つけることが重要です。

    最近の攻撃の特徴

    最近のランサムウェア攻撃の特徴は、暗号化だけに依存しない点にあります。攻撃者は、データを盗み、公開をちらつかせ、企業の信用や取引関係に圧力をかけることで、身代金の支払いを迫ります。この二重恐喝型の攻撃では、システム復旧だけでは問題が終わりません。情報漏洩の有無、漏洩した可能性のある情報の範囲、顧客や取引先への説明、監督官庁への報告など、経営判断を伴う対応が必要になります。

    また、データ公開を前提にした脅迫も深刻です。攻撃者は、盗んだ情報の一部をリークサイトに掲載したり、公開期限を設けたり、顧客や取引先へ連絡すると主張したりすることがあります。これにより、企業は業務停止だけでなく、信用低下、顧客離脱、取引停止、法的責任のリスクにも直面します。

    さらに、攻撃の分業化や自動化も進んでいます。ランサムウェア攻撃では、初期アクセスを売買する攻撃者、侵入後に権限を広げる攻撃者、データを窃取する攻撃者、暗号化と脅迫を行う攻撃者が分かれている場合があります。このような状況では、従来型の「入口で防ぐ」だけの対策では限界があります。攻撃者が社内に入った後の行動をどう検知するか、重要システムへの到達をどう遅らせるか、データ窃取をどう見つけるか、暗号化された場合にどう復旧するかまで含めた対策が必要です。

    なぜ攻撃を止められないのか

    ランサムウェア攻撃を止められない大きな理由は、侵入から暗号化までの途中段階に気づけないことです。攻撃者は、正規のアカウントや管理ツールを悪用することがあります。その場合、単純に「不審なファイルがあるか」「既知のマルウェアが検出されたか」だけを見ていても、攻撃の進行に気づけない可能性があります。

    また、権限管理の不備も被害を拡大させます。管理者権限を持つアカウントが多すぎる、退職者のアカウントが残っている、共有アカウントを使っている、重要サーバへのアクセス制限が甘い、といった状態では、攻撃者が一度侵入しただけで広範囲へ移動できてしまいます。

    検知遅れの背景には、ログが残っていない、ログを見ていない、異常を判断する基準がない、担当者が限られている、休日や夜間の監視ができないといった運用面の課題もあります。セキュリティ製品を導入していても、アラートを確認する体制がなければ、攻撃の兆候を見逃す可能性があります。 そのため、ランサムウェア対策では、技術対策だけでなく、運用体制の整備が欠かせません。誰がアラートを見るのか、どの条件で隔離するのか、どの段階で経営層へ報告するのか、外部専門家へいつ相談するのかを事前に決めておく必要があります。

    企業が理解すべきポイント

    企業がまず理解すべきなのは、ランサムウェア攻撃を完全に防ぐことは難しいという現実です。もちろん、脆弱性管理、メール対策、多要素認証、EDR、バックアップ、ネットワーク分離などの対策は重要です。しかし、攻撃手法は変化し続けており、外部委託先やクラウドサービス、認証情報の悪用など、自社だけでは完全に制御しにくい要素もあります。だからこそ、企業に求められるのは「侵入されないこと」だけを前提にした対策ではなく、「侵入される可能性を前提に、早期に検知し、被害を限定し、復旧できる体制」を整えることです。早期検知の観点では、通常とは異なるログイン、権限昇格、管理者ツールの不審な利用、複数端末への連続アクセス、大量のファイル操作、外部への大容量通信などを監視することが重要です。これらは、暗号化が始まる前に現れる可能性がある兆候です。

    また、経営層はランサムウェアを単なるIT部門の問題としてではなく、事業継続、情報管理、顧客対応、法務、広報、取引先対応を含む経営リスクとして捉える必要があります。ランサムウェア攻撃は、システム停止だけでなく、情報漏洩、信用低下、売上損失、顧客離脱、サプライチェーンへの影響を引き起こす可能性があるためです。

    ランサムウェアによって企業にどのような被害が発生するのかについては、次の記事で詳しく解説します。
    ランサムウェア被害の実態 – 業務停止・損害・企業が直面するリスクとは

    まとめ

    ランサムウェア攻撃は、侵入、権限昇格、横展開、データ窃取、暗号化という複数の段階を経て進行します。暗号化は被害が目に見える最終段階であり、その前には攻撃者による認証情報の悪用、社内探索、重要データの特定、情報持ち出しが行われている可能性があります。近年は、データを暗号化するだけでなく、盗んだ情報を公開すると脅す二重恐喝が多く確認されています。そのため、バックアップを取得しているだけでは十分とはいえません。復旧できる体制に加え、データ窃取を防ぎ、早期に検知し、情報漏洩対応まで想定した準備が必要です。企業が取るべき対策は、入口対策、権限管理、ログ監視、EDR、脆弱性管理、バックアップ、インシデント対応体制を組み合わせた多層防御です。特に重要なのは、攻撃の流れを理解し、暗号化される前の段階で異常に気づくことです。ランサムウェア対策は、特定の製品を導入すれば終わるものではありません。攻撃者がどのように侵入し、どのように社内を移動し、どのようにデータを盗み、どのタイミングで暗号化するのかを理解したうえで、自社の弱点を継続的に見直すことが重要です。

    【参考情報】

    編集責任:木下


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    【企業のためのランサムウェア対策ガイド】ランサムウェアの感染経路とは ―企業が見落としがちなVPN・RDP侵入リスクを解説

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    ランサムウェアの感染経路とは ―企業が見落としがちなVPN・RDP侵入リスクを解説アイキャッチ画像

    ランサムウェア対策を考えるうえで重要なのが、「どこから侵入されるのか」を理解することです。近年の企業向けランサムウェア攻撃では、メールだけでなく、VPN機器やリモートデスクトップ(RDP)の脆弱性、認証情報の悪用、サプライチェーン経由の侵入など、多様な経路が利用されています。本記事では、企業が見落としがちな代表的な感染経路と、その対策の考え方について解説します。

    ランサムウェアの基本的な仕組みや全体像については、以下の記事で整理しています。
    ランサムウェアとは何か ―企業が知るべき被害・仕組み・対策の基本―

    ランサムウェアは、ある日突然社内のパソコンやサーバ上で実行されるように見えます。しかし実際には、その前段階で攻撃者が企業ネットワークへ侵入しています。メール、VPN機器、リモートデスクトップ、ソフトウェアの脆弱性、外部委託先など、侵入経路はさまざまです。特に近年は、単に添付ファイルを開かせる攻撃だけでなく、インターネットに公開されたVPN機器やリモートアクセス環境の脆弱性、認証情報の悪用、委託先や外部サービスを踏み台にした侵入が問題になっています。警察庁やIPAの資料でも、国内のランサムウェア被害ではVPN機器やリモートデスクトップなど、テレワーク環境に関連する経路が多く確認されています。

    ランサムウェアはどこから侵入するのか

    ランサムウェアの感染経路は、ひとつに限定されません。攻撃者は、企業の外部に開いている入口、従業員が日常的に使うメール、保守やテレワークのためのリモート接続、未修正のソフトウェア、さらには取引先や委託先との接続関係まで、複数の経路を組み合わせて侵入を試みます。従来は、ランサムウェアというと「不審なメールの添付ファイルを開いて感染する」というイメージが強くありました。もちろんメールは現在でも重要な感染経路ですが、企業におけるランサムウェア被害では、VPN機器やリモートデスクトップなど、外部から社内環境へ接続するための仕組みが狙われるケースが目立ちます。

    米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)が公開している「#StopRansomware Guide」でも、ランサムウェアやデータ恐喝型攻撃の初期侵入経路として、インターネットに公開された脆弱性や設定ミス、フィッシング、認証情報の悪用、リモートアクセス環境などが重視されています。つまり、ランサムウェア対策は「端末にウイルス対策ソフトを入れる」だけでは不十分であり、外部公開資産、認証、運用設定、委託先管理まで含めて考える必要があります。

    代表的な感染経路

    メールによる感染

    メールは、現在でもランサムウェア感染の代表的な入口です。攻撃者は、請求書、見積書、配送通知、業務連絡、採用関連の連絡などを装い、添付ファイルや本文中のリンクを開かせようとします。従業員が添付ファイルを開いたり、リンク先で認証情報を入力したりすると、マルウェア感染やアカウント窃取につながる可能性があります。ただし、近年のランサムウェア攻撃では、メールから即座に暗号化が始まるとは限りません。メールをきっかけに認証情報を盗み、その後VPNやクラウドサービスへ不正ログインする場合もあります。また、メール経由で侵入したマルウェアが端末内の情報を収集し、攻撃者が次の侵入経路を探す足がかりになることもあります。そのため、メール対策は「怪しいメールを開かないように教育する」だけでは不十分です。迷惑メール対策、添付ファイルの検査、URLフィルタリング、多要素認証、端末の挙動監視を組み合わせ、万が一クリックされても被害が広がりにくい仕組みを整える必要があります。

    VPN機器の脆弱性

    企業のランサムウェア対策で特に注意すべき感染経路が、VPN機器の脆弱性です。VPNは、テレワークや拠点間接続、外部からの保守作業に欠かせない仕組みですが、インターネット側に公開されているため、攻撃者にとっても狙いやすい入口になります。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、ランサムウェア被害の感染経路としてVPN機器経由が大きな割合を占め、VPN機器経由とリモートデスクトップ経由を合わせると毎年高い割合を占めていることが示されています。

    VPN機器に未修正の脆弱性が残っている場合、攻撃者は認証を突破したり、機器上の情報を盗んだり、社内ネットワークへ侵入したりする可能性があります。特に、サポート切れの機器、更新が滞っているファームウェア、初期設定に近いまま運用されている環境、不要なアカウントが残っている環境は危険です。VPN機器は一度導入すると、業務インフラとして長く使われがちです。そのため、導入時には問題がなかったとしても、数年後に深刻な脆弱性が公表され、攻撃対象になることがあります。ランサムウェア対策では、VPN機器のメーカー名、型番、バージョン、サポート期限、適用済みパッチを定期的に確認することが重要です。

    リモートデスクトップ(RDP)の悪用

    リモートデスクトップ(RDP)も、ランサムウェアの代表的な感染経路です。RDPは、離れた場所から社内のPCやサーバを操作できる便利な仕組みですが、外部から直接接続できる状態になっていると、攻撃者にとって格好の侵入口になります。CISAが公開するランサムウェア関連アドバイザリ(#StopRansomware: Akira Ransomware)でも、RDPやVPNなどのリモートアクセスサービスが初期侵入に使われる事例が継続的に示されています。

    攻撃者は、単純なパスワードの総当たり攻撃、過去に漏えいした認証情報の悪用、設定不備の探索などによって、RDP接続を突破しようとします。一度RDP経由で社内端末やサーバへ入られると、攻撃者は管理者権限の取得、他端末への横展開、データの持ち出し、バックアップの削除、ランサムウェアの実行へと進む可能性があります。RDPを業務上どうしても使う場合は、インターネットへ直接公開しないことが基本です。VPNやゼロトラスト型のアクセス制御を経由させ、多要素認証を必須にし、接続元制限、ログ監視、不要アカウントの削除を徹底する必要があります。

    ソフトウェアの脆弱性

    ランサムウェアの感染経路として見落とされやすいのが、OS、ミドルウェア、業務システム、Webアプリケーション、ネットワーク機器などのソフトウェア脆弱性です。Verizon「2025 Data Breach Investigations Report」(DBIR)でも、脆弱性の悪用による初期アクセスが増加していることが示されており、境界デバイスや外部公開システムの管理が企業のセキュリティ課題として重要になっています。

    攻撃者は、公開された脆弱性情報をもとに、未修正のシステムをインターネット上で探索します。特に危険なのは、外部からアクセスできるシステムに深刻な脆弱性が残っている場合です。VPN、ファイアウォール、メールサーバ、ファイル転送システム、Web管理画面、クラウド連携用の管理コンソールなどは、攻撃者から常に探索対象になっていると考えるべきです。脆弱性対策では、単にパッチを適用するだけではなく、自社がどのシステムを外部公開しているかを把握することが出発点になります。資産管理が不十分なままでは、どの機器に脆弱性があるのか、どのシステムを優先して更新すべきかを判断できません。

    サプライチェーン経由の感染

    ランサムウェアの感染経路は、自社のネットワークや端末だけに限られません。委託先、外部サービス、クラウドサービス、保守ベンダー、取引先との接続環境を通じて侵入されることもあります。こうした外部経由の侵入は、サプライチェーン攻撃としても知られています。Verizon「2025 Data Breach Investigations Report」でも、漏えい・侵害に第三者が関与する割合が増加していることが示されており、サプライチェーンリスクは企業規模を問わず無視できない課題になっています。

    たとえば、業務委託先が利用しているアカウントが侵害され、そのアカウントを使って自社環境へ不正アクセスされるケースがあります。また、外部保守用に開放していたリモート接続が攻撃者に悪用される場合や、取引先とのファイル共有環境を通じてマルウェアが持ち込まれる場合もあります。サプライチェーン経由の感染が厄介なのは、自社だけで完全に制御しにくい点です。自社のセキュリティ対策が一定水準に達していても、接続先や委託先の管理が甘ければ、そこが攻撃者にとっての入口になります。

    こうした外部経由の侵入は、サプライチェーン攻撃としても知られています。詳しくは以下の記事で解説しています。
    サプライチェーン攻撃とは ―委託先・外注先リスクから情報漏えいを防ぐ全体像―

    ランサムウェア対策としては、委託先との接続経路、付与している権限、共有している情報、外部アカウントの管理状況を定期的に見直す必要があります。外部委託先に対しても、多要素認証、アクセス権限の最小化、ログ取得、契約上のセキュリティ要件、インシデント発生時の連絡体制を確認しておくことが重要です。

    なぜ気づかず侵入されるのか

    ランサムウェア感染が深刻化する理由のひとつは、攻撃者が侵入してから暗号化を実行するまでに時間差があることです。企業側から見ると、ある日突然ファイルが暗号化されたように見えます。しかし実際には、その前に認証情報の窃取、社内探索、権限昇格、横展開、データ窃取といった活動が行われている場合があります。攻撃者が長く潜伏できる背景には、認証情報の管理不備があります。退職者や異動者のアカウントが残っている、管理者権限が過剰に付与されている、同じパスワードを複数システムで使い回している、多要素認証が導入されていない、といった状態では、攻撃者にとって侵入後の行動が容易になります。また、設定ミスも大きな問題です。RDPがインターネットに公開されている、VPN機器のファームウェアが古い、管理画面に外部からアクセスできる、不要なポートが開いている、ログが保存されていないといった状態は、攻撃者にとって有利に働きます。

    NIST(米国立情報技術研究所)NIST IR 8374 Rev.1「Ransomware Risk Management: A Cybersecurity Framework 2.0 Community Profile」では、ランサムウェアへの備えとして、識別、防御、検知、対応、復旧を含めた包括的なリスク管理の重要性が示されています。これは、ランサムウェア対策が単なるマルウェア対策ではなく、資産管理、アクセス制御、バックアップ、ログ監視、インシデント対応を含む経営課題であることを意味します。

    感染リスクを下げるための考え方

    ランサムウェアの感染リスクを下げるには、すべての対策を一度に完璧に実施しようとするのではなく、侵入されやすい場所から優先順位をつけて対策することが重要です。特に企業では、VPN機器、リモートデスクトップ、外部公開サーバ、メール、認証情報、委託先接続の順に確認すると、自社の弱点を見つけやすくなります。

    最初に行うべきことは、外部から見える資産の棚卸しです。どのVPN機器を使っているのか、RDPが外部公開されていないか、古いサーバや管理画面が残っていないか、クラウドサービスの管理者アカウントが適切に管理されているかを確認します。自社が把握していないシステムは、守ることも更新することもできません。次に、認証情報の保護を強化します。多要素認証の導入、不要アカウントの削除、管理者権限の最小化、パスワードの使い回し防止、ログイン試行の監視は、ランサムウェア対策の基本です。特にVPN、RDP、クラウド管理画面、メールアカウントには優先的に適用すべきです。さらに、脆弱性管理を継続的に行う必要があります。OSやソフトウェアの更新だけでなく、ネットワーク機器、VPN、ファイアウォール、NAS、ファイル転送システムなど、外部公開される可能性のある機器の脆弱性情報を確認し、リスクの高いものから修正します。バックアップも重要ですが、バックアップがあるだけでは十分ではありません。攻撃者にバックアップまで削除・暗号化されないよう、ネットワークから分離したバックアップや、復旧手順の確認が必要です。ランサムウェア対策では、感染を防ぐ対策と、感染した場合でも事業を止めない対策を組み合わせることが求められます。

    まとめ

    ランサムウェアの感染経路は、メールだけではありません。VPN機器の脆弱性、リモートデスクトップの悪用、ソフトウェアの未修正脆弱性、認証情報の窃取、設定ミス、委託先や外部サービスを経由したサプライチェーン攻撃など、企業のさまざまな入口が狙われています。特に近年の企業向けランサムウェア攻撃では、攻撃者が事前に社内ネットワークへ侵入し、権限を広げ、データを盗み、最後に暗号化を実行する流れが一般化しています。そのため、ランサムウェア対策は「感染後にどう復旧するか」だけでなく、「どこから入られる可能性があるか」を把握し、侵入経路を減らすことから始める必要があります。

    企業がまず取り組むべきことは、自社の外部公開資産を把握し、VPNやRDPの設定を見直し、ソフトウェアの脆弱性を管理し、認証情報を守り、委託先との接続経路を確認することです。すべてを一度に完璧にする必要はありませんが、攻撃者にとって狙いやすい入口を放置し続けることは、ランサムウェア被害のリスクを高めます。ランサムウェアの感染経路を理解することは、対策の出発点です。自社のどこが侵入口になり得るのかを確認し、優先順位をつけて改善していくことが、企業のランサムウェア対策において最も現実的で効果的な第一歩になります。

    万が一感染してしまった場合の具体的な対応については、以下の記事で詳しく解説しています。
    セキュリティインシデントの基礎から対応・再発防止まで 第2回:セキュリティインシデント発生時の対応 ─初動から復旧まで

    【参考情報】

    編集責任:木下


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