APT攻撃対策とは?検知・監視・初動対応の考え方

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前回記事で解説した通り、APT攻撃は標的組織を事前に調査したうえで侵入し、権限昇格や横展開を重ねながら目的の情報に近づいていきます。一度侵入を許すと長期間にわたり情報窃取や不正活動が継続するケースも少なくありません。そのためAPT攻撃対策では「侵入させない」ことだけを目指すのではなく、侵入前対策・侵入後対策・インシデント対応体制を組み合わせ、早期発見と被害最小化を実現する仕組みが欠かせません。本記事では、その具体的な対策内容について解説します。

APT攻撃の侵入経路や攻撃の流れについて詳しく知りたい方は、「APT攻撃の手口とは?侵入から情報窃取までの流れを解説」で、初期侵入から情報窃取までのプロセスを解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

なぜAPT攻撃は防ぎにくいのか

APT攻撃が防ぎにくい理由は、攻撃者が特定の組織を狙い、時間をかけて侵入経路を探すためです。一般的なマルウェア感染やばらまき型攻撃とは異なり、APT攻撃では、攻撃者が標的組織の業務、取引先、利用システム、従業員の役割などを事前に調査します。そのうえで、標的型メールや脆弱性の悪用、正規アカウントの不正利用など、検知されにくい手口を選びます。また、APT攻撃では、最初の侵入後すぐに目立つ被害が発生するとは限りません。攻撃者は内部ネットワークに潜伏し、権限昇格や横展開を行いながら、機密情報や認証情報の所在を探ります。正規の管理ツールや盗まれたID・パスワードを使って活動する場合もあり、従来型の境界防御だけでは不審な動きを見落とす可能性があります。そのため、APT攻撃対策では、入口を守る対策に加えて、侵入後の異常を検知する仕組み、ログをもとに調査できる体制、被害を最小化する初動対応が欠かせません。さらに、入口対策だけでなく、「侵入を前提」とした検知・監視・対応体制も必要です。

侵入前対策

APT攻撃への備えとして、まず重要になるのは侵入前対策です。侵入前対策とは、攻撃者が組織内へ入り込む可能性を下げるための基本的な防御策です。完全な防御は難しいものの、攻撃者にとって侵入しにくい環境を作ることで、被害の発生確率を下げることができます。 なかでも重要なのが、多要素認証、脆弱性管理、標的型メール対策です。これらは単独ではなく、多層防御の考え方で組み合わせることが重要です。複数の対策を組み合わせ、攻撃者が一つの弱点を突破しても、次の段階へ進みにくい状態をつくることが求められます。

MFA(多要素認証)

IDとパスワードだけに頼らず、スマートフォンアプリ、セキュリティキー、生体認証など、複数の認証要素を組み合わせて本人確認を行う仕組みです。APT攻撃では、フィッシングメールやマルウェアによって認証情報が盗まれることがあります。IDとパスワードだけで社内システムやクラウドサービスへアクセスできる環境では、攻撃者が正規ユーザになりすましてログインするリスクが高まります。MFAを導入することで、パスワードが漏えいした場合でも、不正ログインを防げる可能性が高まります。ただし、MFAを導入すればすべての攻撃を防げるわけではありません。近年は、MFAを突破しようとするフィッシングや、認証疲れを狙った攻撃も確認されています。そのため、可能であればフィッシング耐性の高い認証方式(例:FIDO2、パスキーなど)を採用し、管理者アカウントやリモートアクセス、クラウド管理画面など、重要度の高い環境から優先的に適用することが重要です。

脆弱性管理

APT攻撃では、VPN機器、公開サーバ、メールサーバ、業務システム、クラウド環境などの脆弱性が侵入経路として悪用されることがあります。特に、インターネットからアクセス可能な機器やシステムに未修正の脆弱性が残っている場合、攻撃者にとって侵入の足がかりになります。脆弱性管理では、単に脆弱性情報を収集するだけでなく、自社のどのシステムに影響があるのか、外部公開されているのか、悪用事例があるのか、業務上の重要度は高いのかを踏まえて、対応の優先順位を決める必要があります。すべての脆弱性へ同時に対応することは現実的ではないため、実際に悪用されている脆弱性や、外部から攻撃可能なシステムを優先して修正する考え方が重要です。また、パッチ適用がすぐに難しい場合には、一時的な回避策、アクセス制限、監視強化、不要サービスの停止などを組み合わせる必要があります。APT攻撃では、脆弱性の放置が初期侵入や横展開につながる可能性があるため、脆弱性管理は単なる情報システム部門の運用作業ではなく、経営リスクを下げるための重要な取り組みといえます。

標的型メール対策

標的型メールは、APT攻撃の代表的な侵入経路の一つです。現在はメールだけでなく、チャットやクラウドサービスを悪用した攻撃も増えています。標的型メール対策では、メールセキュリティ製品による検査だけでなく、従業員教育、訓練、報告しやすい仕組みの整備が重要です。攻撃メールを完全に遮断することは難しいため、従業員が不審なメールに気づき、開封前または開封後すぐに報告できる体制を作る必要があります。また、メールをきっかけに認証情報が入力されるケースもあるため、MFAやアクセス制御と組み合わせて対策することが効果的です。標的型メール対策は、単独で完結するものではなく、認証管理、端末防御、ログ監視、インシデント対応と連動させることで、初めてAPT攻撃への実効性が高まります。

標的型攻撃の手口の詳細は「標的型攻撃とは?代表的な手口と企業が取るべき対策を解説」をご参照ください。

侵入後対策

APT攻撃では、侵入前対策をすり抜けられる可能性があります。そのため、侵入後に攻撃者の活動を検知し、被害拡大を防ぐ仕組みが必要です。侵入後対策の中心になるのが、EDR、SIEM、ログ監視です。従来のセキュリティ対策では、外部からの攻撃を境界で防ぐことに重点が置かれてきました。しかし、クラウド利用、テレワーク、サプライチェーン連携が広がる現在では、社内と社外の境界があいまいになっています。APT攻撃への対策では、端末、サーバー、ネットワーク、クラウド、IDの動きを継続的に監視し、通常とは異なる振る舞いを早期に見つけることが重要です。

EDR

EDRは、Endpoint Detection and Responseの略で、PCやサーバーなどのエンドポイント上の不審な挙動を検知し、調査や対応を支援する仕組みです。APT攻撃では、マルウェアの実行、認証情報の窃取、管理ツールの悪用、不審なプロセスの起動などが端末上で発生することがあります。EDRは、こうした端末上の動きを可視化し、攻撃の兆候を把握するために有効です。EDRの重要な役割は、単にマルウェアを検知することではありません。侵入後に何が起きたのか、どの端末からどの端末へ移動したのか、どのファイルが操作されたのか、どのアカウントが使われたのかを調査するための情報を提供する点にあります。APT攻撃では、発見時点で攻撃がすでに横展開している場合もあります。そのため、EDRによって端末単位の挙動を把握し、感染端末の隔離、プロセス停止、調査対象の特定などを迅速に行える状態を整えておく必要があります。最近では、EDRに加え、メールやクラウドも含めて分析するXDRを導入する企業も増えています。

SIEM

SIEMは、Security Information and Event Managementの略で、複数のシステムからログを集約し、相関分析(複数のログを組み合わせて関連性を分析すること)を行う仕組みです。APT攻撃では、個々のログだけを見ると小さな異常に見える行動が、複数のログを組み合わせることで攻撃の流れとして見えてくることがあります。たとえば、通常とは異なる国や地域からのログイン、深夜帯の管理者権限利用、短時間での大量アクセス、普段使わない端末からの認証、ファイルサーバへの大量アクセスなどは、単独では見逃されることがあります。しかし、SIEMで複数のログを関連付けることで、初期侵入、権限昇格、横展開、情報窃取の兆候を把握しやすくなります。SIEMを有効に活用するには、ログを集めるだけでなく、どのログを監視対象にするのか、どのような条件でアラートを出すのか、誰が確認するのか、アラート発生後にどのような初動を取るのかを事前に決めておく必要があります。そしてツールを導入するだけではなく、運用設計まで含めて整えることも重要です。社内で運用が難しい場合は、SOCサービスなど外部監視サービスを利用する方法もあります。

ログ監視

ログ監視は、APT攻撃対策の基盤となる取り組みです。攻撃者の行動は、認証ログ、端末ログ、プロキシログ、DNSログ、VPNログ、クラウドサービスの監査ログ、ファイルアクセスログなどに痕跡として残ることがあります。しかし、ログが取得されていなかったり、保存期間が短かったり、必要な項目が記録されていなかったりすると、インシデント発生後に攻撃の流れを追跡できません。特にAPT攻撃では、侵入から発見までに時間がかかることがあるため、一定期間のログを保管し、過去にさかのぼって調査できる状態を作る必要があります。ログ監視では、単に大量のログを保存するだけでは不十分です。重要なのは、通常時のアクセス傾向を把握し、そこから外れた動きを見つけることです。普段アクセスしないサーバーへの接続、短時間での権限変更、退職者アカウントの利用、海外からのVPN接続、大量のファイル圧縮や外部送信など、攻撃の兆候となる行動を継続的に確認する必要があります。保持期間は法令や業種要件、インシデント対応を考慮して決める必要があります。

ゼロトラストの考え方

ここまで紹介した侵入前対策・侵入後対策は、いずれもゼロトラストという一つの考え方の実装例と捉えることができます。

ゼロトラストとは、社内ネットワークにいるから安全、正規ユーザだから安全といった前提を置かず、ユーザ、端末、アプリケーション、データへのアクセスを継続的に確認する考え方です。従来の境界防御では、社内ネットワークの内側を比較的信頼する考え方が一般的でした。しかし、APT攻撃では、一度内部へ侵入した攻撃者が正規アカウントや管理ツールを悪用し、横展開する可能性があります。そのため、社内ネットワーク内の通信であっても、常に正当性を確認し、必要最小限の権限だけを付与することが前提になります。ゼロトラストの実現には、MFA、ID管理、端末管理、アクセス制御、ログ監視、ネットワーク分離、継続的なリスク評価などが関係します。単一の製品を導入すれば完成するものではなく、組織の業務やシステム構成に合わせて段階的に整備していく必要があります。

APT攻撃への対策としてゼロトラストを取り入れることで、攻撃者が一つのアカウントや端末を悪用しても、重要情報へ簡単に到達できない環境を作りやすくなります。侵入を前提に、被害範囲を限定し、異常を早期に検知するという点で、ゼロトラストはAPT対策と相性のよい考え方です。

インシデント対応体制

APT攻撃への対策では、検知した後の初動対応によって被害の大きさが大きく左右されます。初動対応では「封じ込め(Containment)」「根絶(Eradication)」「復旧(Recovery)」の順で進める考え方が一般的です。不審な挙動を発見しても、対応手順や判断基準が決まっていなければ、関係者への連絡、端末隔離、証拠保全、外部報告、復旧判断が遅れてしまいます。その間に攻撃者が横展開を進めたり、情報を外部へ持ち出したりする可能性があります。

インシデント対応体制では、まず「誰が判断するのか」を明確にする必要があります。情報システム部門、セキュリティ担当、経営層、法務、広報、事業部門、外部専門家など、関係者の役割を事前に決めておくことが重要です。特にAPT攻撃では、技術的な調査だけでなく、事業影響、顧客対応、取引先対応、法的対応、広報対応が必要になる場合があります。 また、初動対応では、証拠を消さないことも重要です。感染が疑われる端末をすぐに初期化してしまうと、侵入経路や攻撃範囲を調査するための情報が失われる可能性があります。端末の隔離、ログ保全、アカウント停止、通信遮断、影響範囲の確認などを、状況に応じて慎重に実施する必要があります。平時からインシデント対応手順を整備し、訓練を行っておくことで、実際の攻撃発生時に混乱を減らすことができます。APT攻撃対策は、技術的な防御だけではなく、組織としてどのように判断し、対応するかまで含めた取り組みです。

まとめ

APT攻撃対策では、侵入を完全に防ぐことだけを目指すのではなく、侵入前対策、侵入後対策、インシデント対応体制を組み合わせることが重要です。MFA、脆弱性管理、標的型メール対策によって侵入リスクを下げ、EDR、SIEM、ログ監視によって侵入後の不審な動きを早期に検知します。さらに、インシデント対応体制を整備し、攻撃が疑われる場合に迅速な初動対応を取れるようにしておくことで、被害の拡大を抑えることができます。APT攻撃は、攻撃者が時間をかけて目的達成を狙う攻撃であるため、企業側も継続的な監視と改善を前提に備える必要があります。

次の記事はこちら
APT攻撃事例から学ぶ ―国内外の被害事例と企業が取るべき対策―」
APT攻撃は実際にどのような企業・組織で発生しているのでしょうか。代表的な国内外の事例から、攻撃の特徴や企業が学ぶべきポイントを解説します。

【参考情報】

編集責任:木下


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IT資産管理を効率化する方法とは?担当者が押さえたい運用のポイント

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IT資産管理を継続するには、台帳を作成するだけでは十分ではありません。定期的な棚卸しや資産台帳の整備、ツールの活用、運用ルールの見直しなど、継続して管理できる仕組みづくりが重要です。本記事では、IT資産管理を効率化するための基本ステップと、実務で押さえたい運用のポイントを解説します。

IT資産管理の基本について知りたい方は、まず「IT資産管理とは」をご覧ください。
IT資産管理とは?企業のセキュリティ対策で最初に取り組むべき理由を解説

IT資産管理は重要だと分かっていても、実際の運用では「台帳が更新されない」「管理対象が多すぎる」「クラウドやSaaSまで把握しきれない」といった悩みが起こりがちです。特に、少人数の情報システム部門や兼任体制の企業では、手作業だけでIT資産を正確に管理し続けるのは現実的ではありません。

IT資産管理で押さえるべき基本ステップ

IT資産管理を効率化するには、いきなりツールを導入するのではなく、基本ステップを整理することが大切です。最初に行うべきことは、管理対象の範囲を決めることです。PC、サーバー、ネットワーク機器、スマートフォン、タブレット、ソフトウェア、クラウドサービス、SaaS、アカウント、ライセンスのうち、どこまでをIT資産管理の対象にするのかを明確にします。次に、現在のIT資産を棚卸しします。棚卸しによって、台帳に載っていない端末、使われていないSaaS、放置されたクラウド環境、サポート期限が近いソフトウェアなどを洗い出します。その後、資産台帳を整備し、資産の種類、利用者、管理責任者、重要度、バージョン、サポート期限、最終確認日などを記録します。

棚卸しを定期的に行う

IT資産棚卸しは、IT資産管理の出発点です。棚卸しでは、以下のような複数の情報源を突き合わせます。ひとつの情報源だけに頼ると、見落としが発生しやすいため、複数の情報を照合することが重要です。

  • 購買台帳・リース契約
  • MDM/EDR
  • Active DirectoryやID管理基盤
  • クラウド管理画面
  • SaaSの契約情報 – ネットワーク接続情報

たとえば、購買台帳には存在するのにEDRには表示されない端末があれば、未セットアップ、未接続、廃棄漏れの可能性があります。逆に、EDRやネットワーク上には存在するのに購買台帳や資産台帳にない端末があれば、未登録端末や持ち込み端末の可能性があります。クラウド環境では、誰が作成したか分からないインスタンス、公開設定のまま放置されたストレージ、検証後に削除されていないリソースを確認します。棚卸しの頻度は、企業規模やIT環境によって異なりますが、少なくとも年1回の一斉棚卸しだけでは変化に追いつきにくくなっています。端末の入れ替え、SaaS契約、クラウド環境の作成など、変化が多い領域については、月次や四半期単位で確認する運用が望ましいでしょう。

どのような資産が見落とされやすいかについては「見落としがちなIT資産がセキュリティ事故を招く?企業で起こりやすい5つの管理課題」もあわせてご覧ください。

資産台帳を整備する

棚卸しで見つけたIT資産は、資産台帳に整理します。台帳は、単に資産名を並べるためのものではありません。脆弱性対応、パッチ適用、ライセンス管理、費用管理、インシデント対応に使える情報でなければ、実務では役に立ちません。資産台帳には、資産ID、資産種別、製品名、メーカー、OSやソフトウェアのバージョン、利用者、所属部門、管理責任者、設置場所、IPアドレス、利用目的、業務上の重要度、保存・処理する情報の種類、サポート期限、ライセンス情報、最終確認日などを記録します。すべてを最初から完璧に埋める必要はありませんが、脆弱性対応やインシデント対応に必要な項目は優先して整備するべきです。

NIST SP 1800-5では、有効なIT資産管理は物理資産と仮想資産を結びつけ、資産が何で、どこにあり、どのように使われているかを把握できるようにするものと説明されています。 この視点を踏まえると、台帳は固定的な一覧ではなく、現場の利用実態を反映する情報基盤として設計する必要があります。

ツールで自動化する

IT資産管理を効率化するうえで、ツールによる自動化は有効です。管理対象が少ないうちは手作業でも対応できますが、端末、クラウド、SaaS、アカウント、ソフトウェアが増えると、人手だけで最新状態を維持するのは難しくなります。IT資産管理ツールを使えば、端末情報、インストール済みソフトウェア、OSバージョン、利用者情報、接続状況などを自動収集しやすくなります。MDMはモバイル端末やPCの管理に役立ち、EDRは端末の稼働状況やセキュリティ状態の把握に活用できます。クラウド環境では、クラウド管理ツールやCSPMによって、リソース、設定、公開状態、権限の可視化を進められます。SaaSについては、ID管理基盤やSaaS管理ツールと連携し、利用アカウントや不要ライセンスを確認します。

IT資産管理ツールによって可視化した資産情報は、脆弱性管理にも活用できます。資産台帳とスキャン結果を結びつけることで、どの資産にどの脆弱性が存在するのかを把握しやすくなります。

運用ルールを整備する

IT資産管理は、ツールを導入するだけでは定着しません。新しい端末を購入したとき、SaaSを契約したとき、クラウド環境を作成したとき、従業員が異動・退職したとき、機器を廃棄したときに、誰が、いつ、どの情報を更新するのかを決めておく必要があります。

ライフサイクル管理

調達から廃棄までのライフサイクルにIT資産管理を組み込むことも重要です。購入申請時に資産登録を行い、利用開始時に管理責任者を設定し、定期的に利用状況を確認し、不要になったらアカウント停止やデータ消去、契約解除、廃棄証跡の保管まで行う。この流れが決まっていないと、台帳はすぐに古くなります。

シャドーIT対策

シャドーIT対策では、禁止だけでなく申請しやすい仕組みも必要です。現場が必要なツールを安全に使える申請ルート、承認済みSaaSの一覧、例外利用時の確認項目を整備することで、非公式な利用を減らしやすくなります。英国のサイバーセキュリティ機関NCSCも、「シャドーITは従業員が業務上の課題を解決しようとして発生することが多く、責めるのではなく、報告しやすいセキュリティ文化を作ることが重要」だと説明しています*1

IT資産の可視化を脆弱性管理やパッチ管理につなげる

近年では、社内で管理しているIT資産だけでなく、インターネット上に公開されている資産を継続的に把握・管理するために、ASM(Attack Surface Management)を活用する企業も増えています。

IT資産の可視化はゴールではありません。可視化した資産情報を、脆弱性管理やパッチ管理につなげることが重要です。NIST SP 800-40 Rev.4では、パッチ管理を、パッチやアップデートを識別し、優先順位付けし、取得し、適用し、適用結果を検証するプロセスとして説明しています。 その前提として、どの資産が存在し、どのソフトウェアやバージョンを利用しているかを把握している必要があります。たとえば、重大な脆弱性が公開された場合、資産台帳が整備されていれば、対象バージョンを利用している端末やサーバーをすばやく抽出できます。重要システム、外部公開システム、個人情報を扱うシステムなどを優先して対応する判断も可能になります。逆に、資産情報がなければ、全社に一斉確認を依頼するしかなく、対応に時間がかかります。

IT資産管理、脆弱性管理、パッチ管理は別々の業務ではなく、つながった運用として設計することが重要です。IT資産を把握し、リスクを評価し、優先順位をつけ、対策し、結果を確認する。この流れができて初めて、セキュリティ対策は継続的に機能します。

まとめ:効率化の目的は、管理を楽にすることではなく対応を早くすること

IT資産管理を効率化する目的は、単に運用負荷を減らすことではありません。IT資産を継続的に把握し、脆弱性への対応やインシデント発生時の初動対応を迅速に行える状態を維持することが重要です。そのためには、定期的な棚卸しや資産台帳の整備、ツールによる自動化、運用ルールの見直しを組み合わせ、自社のIT環境に合わせた継続的な運用を構築しましょう。

【参考情報】

CIS(Center for Internet Security)「The 18 CIS Critical Security Controls」(https://www.cisecurity.org/controls/cis-controls-list

【関連記事】

編集責任:木下


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IT資産管理とは?企業のセキュリティ対策で最初に取り組むべき理由を解説

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企業のセキュリティ対策では、EDRや脆弱性診断などの対策に注目が集まりがちですが、その前提となるのが「IT資産管理」です。自社で利用している端末やサーバー、クラウドサービス、SaaSなどを正確に把握できていなければ、脆弱性への対応やインシデント対応も適切に行えません。本記事では、IT資産管理の基本から重要性、管理できていない場合のリスク、実践のポイントまで分かりやすく解説します。

企業のセキュリティ対策というと、EDR、WAF、脆弱性診断、ゼロトラスト、SOCなどの高度な対策を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、どれだけ優れたセキュリティ製品を導入しても、自社がどの端末、サーバー、クラウドサービス、ソフトウェアを利用しているのかを把握できていなければ、守るべき対象を正しく守ることはできません。 IT資産管理は、企業が利用するIT資産を継続的に把握・管理する取り組みです。単なる資産台帳の作成ではなく、脆弱性管理やパッチ管理、ライセンス管理、インシデント対応を支える重要な基盤となります。

IT資産管理とは

IT資産管理とは、企業活動で利用されるIT機器、ソフトウェア、クラウドサービス、ネットワーク機器、アカウントなどを把握し、誰が、どこで、何の目的で、どの状態で使っているのかを管理することです。従来は、PCやサーバーの購入日、設置場所、利用者、リース期限などを管理する「物品管理」に近い意味で使われることもありました。しかし現在のIT資産管理では、資産を一覧化するだけでなく、資産の追加・変更・廃止に合わせて継続的に更新し、常に最新の状態で管理することが求められています。管理対象となるIT資産には、業務用PC、サーバー、スマートフォン、タブレット、ネットワーク機器、複合機、IoT機器、仮想マシン、クラウド上のインスタンス、SaaS、業務アプリケーション、OS、ミドルウェア、ライセンス、利用アカウントなどが含まれます。

NIST(米国国立標準技術研究所)が金融サービス業界向けに公表した実装ガイドでは、物理的な資産管理だけでは「自社の端末がどのOSを使っているか」「どの端末に脆弱性があるか」までは分からないとした上で、IT資産管理はこうした情報を結びつけて管理することで、資産の可視性とセキュリティを高めるものだと説明しています*2

また、IT資産管理の重要性は、NISTだけでなくCISクリティカルセキュリティコントロール(CISコントロール)でも示されています。ベストプラクティス「Control 1」では、モバイル端末を含むエンドユーザー端末、ネットワーク機器、IoT機器、サーバーを対象資産と定め、これらを物理・仮想・リモート・クラウド環境を問わず継続的に把握・追跡することが、資産管理の第一歩として位置づけられています。あわせて、未承認・未管理の資産を洗い出し、除去または是正することも求められています。

このように、IT資産管理は単なる資産一覧の作成ではなく、継続的に資産を可視化し、セキュリティ対策へつなげるための基盤といえます。IT資産管理とは「パソコンが何台あるか」を数える作業ではなく、攻撃者から見たときに侵入口になり得るもの、業務停止につながるもの、情報漏洩につながるものを可視化する取り組みです。資産の存在を知らなければ、脆弱性があっても対応できません。利用者が分からなければ、インシデント発生時に連絡できません。重要度が分からなければ、限られた人員で何から対応すべきか判断できません。

なぜ今IT資産管理が重要なのか

IT資産管理の重要性が高まっている背景には、クラウド利用の拡大、テレワークの普及、SaaSの増加があります。総務省「通信利用動向調査」は、企業における情報通信ネットワークや情報通信サービスの利用動向を把握するための統計であり、企業編ではクラウドサービス利用やテレワーク導入状況などのデータが提供されています。こうした環境では、社内ネットワーク内にある機器だけを見ていればよい時代ではなくなりました。たとえば、開発部門が検証用にクラウド環境を作成し、営業部門が顧客管理のためにSaaSを契約し、従業員が自宅や外出先から業務システムにアクセスする。こうした働き方は業務効率を高める一方で、情報システム部門が把握していないIT資産を生みやすくします。社内の承認を経ずに導入されたSaaS、管理されていないクラウドストレージ、退職者のアカウント、放置された検証環境は、いずれもセキュリティ上のリスクになります。さらに、生成AIサービスの業務利用が広がり、情報システム部門が把握していないクラウドサービスやAIツールが利用されるケースも増えています。

経済産業省とIPAが公表する「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver.3.0」でも、経営者が確認すべきチェック項目として、「守るべきデジタル環境・サービス・情報を特定し、資産の場所やビジネス上の価値等に基づいて対策の優先順位付けを行うこと」(指示4)、さらに「重要なシステムの資産管理・構成管理・パッチ管理を行うこと」、「組織内でシャドーITを利用させない対策を行うこと」(指示5)が挙げられています。

IT資産管理は、セキュリティ対策の中でも地味に見えるかもしれません。しかし、攻撃対象となる端末やサービスが増え続ける現在では、最初に取り組むべき基盤です。

IT資産管理で起こりやすい課題について詳しく解説した記事はこちら
見落としがちなIT資産がセキュリティ事故を招く?企業で起こりやすい5つの管理課題

IT資産管理ができていない企業で起こる問題

IT資産管理ができていないと、管理漏れやシャドーITの発生、サポート終了製品の放置など、セキュリティインシデントにつながるさまざまなリスクを抱えることになります。代表的な課題は次のとおりです。

管理漏れ

新しく購入した端末が台帳に反映されない、退職者のPCやアカウントが残ったままになる、検証用サーバーが本番環境と同じネットワークに接続されたまま放置される、といった状態です。平時には問題が見えにくくても、脆弱性情報が公開されたときやインシデントが発生したときに、どの端末が対象なのか、誰が利用しているのかが分からず、対応が遅れます。

シャドーIT

英国のサイバーセキュリティ機関NCSCは、シャドーITを、業務目的で使われているにもかかわらず資産管理の対象に含まれておらず、組織のITプロセスやポリシーからも外れている「未知の資産」だと位置づけています*2。対象はデバイスに限らず、従業員が個人契約しているクラウドストレージや、部門が独自に導入した未承認のクラウドサービスも含まれるとした上で、機密データの流出やマルウェア感染の拡大につながるリスクを指摘しています。

EOL(End of Life)機器

サポートが終了した製品では、脆弱性が発見されても修正プログラムが提供されない場合があります。JPCERT/CCも、マイクロソフト製品のサポート終了に関する注意喚起の中で、サポート終了後の製品は新たに発見された脆弱性が修正プログラムの提供対象外となり、悪用されるリスクが残り続けると繰り返し呼びかけています*3

ライセンス管理

不要なSaaS契約が残り続ける、退職者分のライセンスが解放されない、利用許諾に反したソフトウェア利用が発生する、といった問題は、コスト面だけでなくコンプライアンス面のリスクにもつながります。

IT資産管理と脆弱性管理の違い

IT資産管理と脆弱性管理の違いを整理すると、下表のとおりです。

項目IT資産管理脆弱性管理
目的管理対象を把握するリスクを評価する
何を行うか台帳を整備する脆弱性を検出する
管理内容利用状況を管理する優先順位を付ける
継続的な運用継続的に更新する修正・パッチ適用する

IT資産管理と脆弱性管理は、それぞれ独立した取り組みではありません。まずIT資産管理によって「何を管理すべきか」を明確にし、その上で脆弱性管理を通じてリスクを評価・対応することが重要です。IT資産を正確に把握できていなければ、脆弱性の有無を確認したり、適切に対策を講じたりすることはできません。

NIST SP 800-40 Rev.4では、企業のパッチ管理を、パッチやアップデートを識別し、優先順位付けし、取得し、適用し、適用結果を検証するプロセスとして説明しています。同文書は、パッチ適用を技術基盤の「予防保守」として位置づけ、事業継続のために必要なコストであるとも指摘しており、経営判断としても軽視すべきでない活動だとしています。これは、資産が把握されていることを前提にした活動です。

IT資産を把握した後は、脆弱性管理によってリスクを評価・対応していく必要があります。詳しくは「脆弱性管理とは?企業が行うべき脆弱性管理の基本と実践手順【2026年版】」をご覧ください。

まず何から始めればよいのか

IT資産管理を始める際に、最初から完璧な台帳を作ろうとする必要はありません。まずは、自社が守るべき範囲を決め、主要な端末、サーバー、ネットワーク機器、クラウドサービス、SaaS、アカウントを棚卸しすることから始めます。情報システム部門が管理している台帳、購買履歴、ネットワーク接続情報、MDMやEDRの管理画面、クラウド管理画面、SaaSの契約情報を突き合わせるだけでも、見落としていた資産が見つかることがあります。次に、資産台帳を整備します。台帳には、資産名、種別、利用部門、利用者、管理責任者、設置場所、OSやソフトウェアのバージョン、IPアドレス、重要度、サポート期限、最終確認日などを記録します。重要なのは、台帳を作って終わりにしないことです。入社、異動、退職、機器購入、クラウド環境作成、SaaS契約、廃棄といった業務プロセスと台帳更新を結びつけなければ、すぐに古い情報になります。最後に、可視化を継続します。IT資産管理ツールや脆弱性スキャン、クラウド管理ツール、ID管理基盤などを組み合わせることで、手作業だけでは追いきれない変化を検知しやすくなります。実際にIT資産管理を始める際には、棚卸しや台帳整備、運用ルールの策定などのステップがあります。

IT資産管理を効率化する具体的な方法はこちら
IT資産管理を効率化する方法とは?担当者が押さえたい運用のポイント

まとめ:IT資産管理はセキュリティ対策の出発点

IT資産管理は、単にIT資産台帳を作成することではなく、企業が利用する端末やサーバー、クラウドサービス、SaaSなどを継続的に把握・管理し、セキュリティ対策の土台を築くための取り組みです。IT資産の可視化ができていなければ、脆弱性管理やパッチ管理、インシデント対応を適切に進めることはできません。またIT環境は日々変化するため、一度台帳を作れば終わりではありません。新たなクラウドサービスの利用や端末の追加・廃止、組織変更などに応じて資産情報を更新し続けることが、セキュリティリスクの低減につながります。

次回は、管理が行き届かない場合に実際どのような問題が起こりやすいのか、具体的な課題を掘り下げていきます。

IT資産管理についてさらに理解を深めたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

また、IT資産管理の次のステップとなる脆弱性管理については、こちらの記事をご覧ください。
脆弱性管理とは?企業が行うべき脆弱性管理の基本と実践手順【2026年版】

【参考情報】

編集責任:木下


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アサヒグループも被害に ―製造業を揺るがすランサムウェア攻撃

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2025年9月末、アサヒグループホールディングスがランサムウェア攻撃を受け、出荷停止により一部商品が市場から姿を消しました。本事件は、サイバー攻撃が単なる情報漏洩にとどまらず、社会生活や経済活動にまで大きく影響を及ぼす時代を象徴しています。本記事では、近年の事例をもとに、製造業が今取り組むべきセキュリティ対策を考えていきます。

国内組織を狙うサイバー攻撃の脅威

2025年9月末、アサヒグループがランサムウェア攻撃を受け、複数拠点で受注・出荷システムが停止しました。一部の工場では生産ラインの稼働停止を余儀なくされ、復旧には時間を要し、決算処理にも影響が生じています。本事件は、サイバー攻撃が組織内部にとどまらず、流通・販売・消費の現場にまで波及することを社会に強く印象づけました。

多くのサイバー攻撃は依然として情報流出や業務データの暗号化など、社内で完結する被害が中心です。ところが今回の事案では、生産と出荷が止まったことで、店頭から商品が一時的に姿を消すという形で消費者の目にも影響が見えるようになりました。 サイバー攻撃が経済活動だけでなく、日常生活の不便という形で現れることを実感させた象徴的な出来事だったといえます。

製造業が狙われる主な理由

経済的インパクトが大きい

生産ラインの停止は即座に損失を生み、納期遅延や契約不履行にも直結します。攻撃者にとっては「止めれば払う」確率が高く、身代金要求の成功率が高いと見込める業種です。

技術的な脆弱性が残りやすい

製造設備は長寿命で、古いOSやサポート終了機器が残っている場合が多く、パッチ適用や更新が困難です。攻撃者はこうした「更新できない装置」を標的にします。

サプライチェーン構造による攻撃のしやすさ

製造業は多くの委託先やサプライヤーとネットワークを共有しており、外部接続が多い構造です。攻撃者は、セキュリティが弱い取引先を突破口にして本体へ侵入します。

ITとOTの融合による弊害

近年、工場システム(OT)と情報システム(IT)の連携が進んでいます。このことにより、どの部分をどのように防御すべきかが把握しにくくなっており、セキュリティ対策の難易度は増しています。

これらの要因が重なることで、製造業は「狙いやすいターゲット」として攻撃者から認識されている可能性があります。このように、製造業を取り巻くサイバー脅威は、単なる情報漏洩リスクにとどまらず、事業停止や混乱に伴う社会的責任を負う可能性に繋がります。次項では、こうした脅威で、国内で発生したランサムウェア攻撃の事例を取り上げ、その実態を見ていきます。

ランサムウェア攻撃の事例

ここでは、国内で実際に発生したランサムウェア攻撃の事例を紹介します。いずれも公式発表に基づく事実であり、攻撃が一組織の問題にとどまらず、取引先や社会全体へ影響を及ぼしたことを示すものです。

時期被害組織概要
2025年9月アサヒグループホールディングス出荷停止が発生し流通に影響
2024年6月KADOKAWAグループ社内システム障害で業務に影響
2024年5月岡山県精神科医療センター電子カルテが暗号化され業務に影響
2022年2月小島プレス工業部品供給停止で全工場が稼働停止
相次ぐランサムウェア被害の実例

アサヒグループホールディングス(2025年9月)

2025年9月末、アサヒグループがランサムウェア攻撃を受け、グループ各社で受注・出荷システムが停止しました*4 。この攻撃により複数の国内工場が一時的に生産停止となり、復旧には時間を要することになりました。また情報漏洩も確認されており、被害の影響範囲は大きなものとなりました。さらに酒類の生産・出荷・物流にまで影響が及び、有名銘柄の商品が一時的に市場から姿を消すという形で消費者にも影響が及びました。この事件により、組織の被害が供給網を介して社会的混乱へ発展することを多くの人が強く意識することになったといえます。

KADOKAWAグループ(2024年6月)

2024年6月KADOKAWAグループがランサムウェア攻撃を受け、社内システムの一部が暗号化されました(公式発表に基づく*2 )。業務の一部が停止し、コンテンツ制作といった事業基盤への影響も懸念されました。

岡山県精神科医療センター(2024年5月)

2024年5月、岡山県精神科医療センターは、電子カルテなどを含む院内システムがランサムウェア攻撃により暗号化され、診療や検査業務に支障をきたしたことを発表しました*3 。復旧までに数週間を要し、医療分野のサイバーリスクの高さを示す事例となりました。

小島プレス工業(2022年2月)

2022年2月末、トヨタ自動車の主要部品サプライヤーである小島プレス工業がランサムウェア攻撃を受けました*4。この影響で、国内で複数の工場やラインが一時停止する事態となりました。攻撃は子会社ネットワーク経由で発生し、リモート接続機器の脆弱性が悪用された可能性が指摘されています。このケースは、1社の停止が供給網全体の生産停止に波及した典型例であり、サプライチェーンリスクの深刻さを示しています。

上記の事例から以下のような点が読み取れます。つまり、ランサムウェア攻撃は単なるITトラブルではなく、経済活動全体を揺るがすリスク要因になっているといえるでしょう。

①侵入経路の多様化

フィッシング、VPN機器の脆弱性、リモート接続など、攻撃者が複数の経路を用いている。

②被害が社会に波及する構造

生産・出版・医療・自動車といった分野で、組織活動が止まると消費・生活・流通に影響が現れる。

③サプライチェーンの連鎖性

サプライチェーンの上流や下流に、被害が波及しています。特に自動車業界の事例は、関連会社一社の停止が系列全体の操業に影響するという顕著な例だと考えられます。

製造業が抱えるセキュリティリスク

前述のとおり、ランサムウェア攻撃は一組織の被害にとどまらず、サプライチェーン全体へ連鎖的に影響を及ぼす事例が増えています。ここでは、製造業特有のリスクを整理します。

制御システム(OT)への攻撃

製造業では、生産ラインを制御するOT(Operational Technology)システムが稼働の中心を担っています。近年、業務効率化のためにITネットワークやクラウドと接続するケースが増え、外部からの侵入経路が拡大しています。IPAは、OTを含む生産システムのサイバーリスクとして、ネットワーク分離や境界対策の重要性を指摘しています。ITとOTが連携する環境では、設計段階から防御を考慮しなければ、組織全体の稼働に影響を及ぼすおそれがあります。

生産データ・設計情報の漏洩

設計図面、加工条件、検査データなどの機密性の高い情報が外部に流出した場合、模倣や不正利用といった経営上の損失につながるおそれがあります。IPAの実践プラクティスでも、製造データの漏洩が組織活動に重大な影響を及ぼす点が指摘されています。また、キーエンスの解説では、クラウド連携や外部システム活用の増加により、情報流出経路が多様化しているとしています。

サプライチェーンを介した被害拡大

製造業は、部品の調達や設計、加工、物流などを多くの委託先と連携して行う業種です。 自社が堅牢でも、取引先のセキュリティが十分でなければ、そこがリスクの入口となる可能性があります。こうした複雑で多岐にわたるサプライチェーン構造では、一つの組織の障害が全体の生産活動に波及するおそれがあります。

事業継続への影響

サイバー攻撃によるシステム停止は、生産遅延・品質問題・納期トラブルなどを引き起こし、取引先との信頼関係や市場供給に直接影響します。2025年のアサヒグループの攻撃事案では、受注・出荷システムが止まり、一時的に有名銘柄の商品が店頭から消えるという事態が発生しました。また、2022年の小島プレス工業での工場停止では、部品供給の途絶が主因となり、最終組立ラインまで稼働が止まりました。

両社に共通するのは、「一部の停止が連鎖的に拡大し、経営活動そのものを揺るがす」点です。被害が長期化すれば、納期遅延や契約不履行から損害賠償・ブランド毀損にも発展しかねません。こうした攻撃は今や、情報システムの問題ではなく、経営継続(BCP)全体を試す脅威となっています。いずれも、単一部門で解決できるものではなく、経営・現場・サプライヤーが一体で取り組むべき経営課題です。

セキュリティ対策の進め方

サイバー攻撃は生産現場の稼働や事業継続に直結する問題となっています。特に製造業では、IT/OTの境界を越えて被害が拡大する傾向があり、どこから手をつければよいのかが分かりにくいのも現実です。ここでは、経営層と現場が一体となって取り組むための基本方針を4つの段階で整理します。

情報資産の整理とリスクの可視化

まず、自社のシステム・設備・データなど、守るべき資産を明確に把握することが出発点です。特にOT環境では、稼働中の機器や通信経路が属人的に管理されているケースも多く、資産の洗い出しが不十分なことがあります。可視化によって、どこに脆弱性や依存関係があるかを明確にし、優先度を付けた対策計画を立てることが重要です。

従業員教育とセキュリティ意識の向上

システム面の強化だけではなく、人の意識と行動が対策の成否を左右します。メール添付やUSBメモリを経路とする感染事例はいまだ多く、日常的な警戒心の欠如が被害拡大につながります。定期的な研修や演習を通じて、「自分たちの作業が会社全体の防御につながる」という認識を浸透させることが求められます。

ポリシー策定と体制整備

経営層が主導し、セキュリティポリシーを策定して明文化することも不可欠です。製造業におけるセキュリティは「安全」「品質」「納期」と並ぶ重要事項です。インシデント対応手順や通報ルートを明確化し、現場が即応できる体制を整えることで、被害の長期化を防ぎます。

専門家との連携と継続的な改善

すべてを自社内で完結させるのは困難です。特に制御系ネットワークや脆弱性診断など、専門知識を要する分野はセキュリティベンダーとの連携が効果的です。また、定期的な点検・アセスメントを通じて、対策の有効性を確認し、改善のサイクルを回すことが重要です。

SQAT.jpでは関連記事を公開しています。こちらもあわせてぜひご覧ください。
産業制御システムセキュリティのいまとこれからを考えるhttps://www.sqat.jp/information/5099/

まとめ:禍を転じて福と為す

今回取り上げたような事例は、いずれも深刻な被害をもたらしましたが、その一方で、社会全体がセキュリティの重要性を再認識する契機ともなりました。サイバー攻撃の脅威は避けられない現実ですが、それをきっかけとして自社の体制を見直し、他社との連携を強化することで、より強靭なサプライチェーンを築く機会にもなります。「禍を転じて福と為す」——すなわち、被害を教訓として組織の成熟へと変えていく姿勢こそ、これからのセキュリティ経営に求められる考え方となりえるのです。

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ペネトレーションテストでは、自組織において防御や検知ができていない領域を把握するため、多様なシナリオによる疑似攻撃を実行してシステムへの不正侵入の可否を検証します。ペネトレーションテストの結果は、今後対策を打つべき領域の特定や優先順位付け、対策を実施する前の回避策などの検討に役立てることが出来ます。

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それぞれの企業文化・リソースに合ったCSIRTのプランニング / 構築 / 運用を専門家の立場から支援しています。独立系セキュリティベンダーであるBBSecの経験値を活かした適切なアドバイスやノウハウ提供は、実行力のある組織へと育成する上で大きな手助けとなります。

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    インターネットや情報システムの世界でよく耳にする「脆弱性」という言葉。普段の生活ではあまり使わないため、聞いたことはあっても正確に説明できないという方は少なくありません。特に近年はサイバー攻撃や情報漏洩のニュースが多く報じられるため、脆弱性という言葉はますます身近になってきました。しかし、「脆弱性とは一体何なのか」「個人や組織としては何をすればいいのか」と問われると、答えに詰まってしまう人も多いはずです。本記事では、初心者の方にも理解しやすいように、脆弱性の基本的な意味から具体的な事例、そして個人や組織が取るべき対策までを解説します。これからサイバーセキュリティの学びを始めたい方にとって、理解の入り口となる内容を目指しました。

    脆弱性とは何か?

    サイバーセキュリティにおける脆弱性とは、コンピュータやネットワーク、ソフトウェアなどに存在する思わぬ欠陥や弱点のことを指します。プログラムの設計ミスや設定の甘さ、想定されなかった挙動などが原因で発生し、それを悪用されると本来守られるべき情報やシステムが攻撃者に狙われてしまいます。 もっと身近な言葉に例えるなら、家のドアに鍵をかけ忘れた状態や、窓の鍵が壊れている状態が「脆弱性」です。そこに泥棒(ハッカー)がやって来れば、侵入や盗難のリスクが高まります。つまり脆弱性そのものは「危険ではあるがまだ被害が起きていない不備」であり、攻撃者に利用されて初めて実際の被害につながるのです。

    脆弱性が生まれる原因

    脆弱性は無意識のうちに生まれることが多く、その理由は多岐にわたります。代表的な要因には以下が挙げられます。

    • ソフトウェアの開発過程における設計ミスやバグ
    • サーバーやOSのセキュリティ設定の不備
    • 古いシステムやソフトウェアを更新せずに使い続けること
    • 想定していなかったユーザーからの入力や操作
    • 利用するプログラムやライブラリに潜む欠陥

    実際、ソフトウェア開発は非常に複雑で、数百万行にも及ぶプログラムコードから成る場合もあります。そのため、すべてのバグや欠陥を完全に排除することは事実上困難です。

    脆弱性の代表的な種類

    脆弱性にはいくつも種類があり、攻撃手法によって分類されます。初めて耳にする方でもわかりやすい代表例を挙げてみましょう。

    SQLインジェクション

    ウェブアプリケーションにおける入力欄に悪意のあるデータベース命令文を仕込む手法で、見せてはいけない情報が外部に漏れてしまう危険があります。

    クロスサイトスクリプティング(XSS)

    ウェブサイトに不正なスクリプトを埋め込んで、閲覧者のブラウザ上で実行させる攻撃。利用者のIDやパスワードが盗まれる危険があります。

    バッファオーバーフロー

    プログラムに想定していない長さのデータが入力されることで、メモリ領域が壊され、攻撃者に任意のコードを実行されるリスクがあります。

    セキュリティ設定不備

    セキュリティ機能が有効化されていなかったり、不要なポートが開いたままになっていたりするケースも脆弱性の一つです。

    脆弱性が悪用されるとどうなるのか

    実際に攻撃者が脆弱性を利用すると、さまざまな被害につながります。たとえば以下のようなケースです。

    • クレジットカード番号や個人情報の漏洩
    • 社内ネットワークが侵入されて業務停止
    • 顧客の信頼を失い、企業のブランドに大打撃
    • 勝手に改ざんされたWebサイトが利用者をウイルス感染させる

    こうした被害は一度起きると回復に莫大なコストがかかり、企業経営に深刻な影響を与えます。近年報じられる情報漏洩事件の多くは、既知の脆弱性を放置していたことが原因とされています。

    脆弱性対策として実施すべきこと

    脆弱性はゼロにはできないため、いかに早く気づき、適切に対応するかが重要です。個人利用者と企業の立場で考えられる基本的な対策を見てみましょう。

    個人ができること

    • OSやソフトウェアを常に最新バージョンに保つ
    • ウイルス対策ソフトを導入し、定義ファイルを更新する
    • 怪しいリンクやメールの添付を開かない
    • 強固なパスワードや多要素認証を利用する

    企業がすべきこと

    • 脆弱性診断やペネトレーションテストを定期的に実施する
    • セキュリティパッチが公開されたら速やかに適用する
    • 社内従業員へのセキュリティ教育を徹底する
    • ログ監視や侵入検知システムの導入で不審な挙動を早期発見する

    脆弱性とセキュリティ文化

    技術的な対策も重要ですが、それ以上に「セキュリティを日常的に意識する文化づくり」が欠かせません。脆弱性は人間のちょっとした油断や不注意からも生まれます。更新通知を無視したり、利便性を優先してセキュリティを後回しにしたりすると、そこに必ず隙が生まれるのです。 政府や専門機関が公表する脆弱性関連情報に目を通す習慣をつけるのも効果的です。たとえば国内では独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が脆弱性関連情報を提供しており、日々の最新情報をチェックできます。

    これからの脆弱性対策

    今後はクラウドサービスやIoT機器の普及によって、脆弱性の範囲はさらに広がります。冷蔵庫やカメラ、工場の制御システムなど、私たちの生活に直結するモノがすべてインターネットにつながる時代となりつつあります。その一つひとつが脆弱性を抱えていた場合、想像以上に深刻なリスクが広がる可能性があるのです。そこで重要になってくるのが「ゼロトラスト」の考え方です。これはすべてのアクセスを信頼しないという前提に立ち、システムを多層的に守ろうとするセキュリティモデルで、近年世界中の企業が導入を進めています。

    まとめ

    脆弱性とは「情報システムやソフトウェアに存在する欠陥や弱点」であり、その多くは放置されることでサイバー攻撃に悪用され、大規模な被害を引き起こす可能性があります。重要なのは、脆弱性をゼロにすることではなく、発見されたときに迅速に対応し、常に最新の状態を保つことです。 セキュリティ対策は専門家だけの仕事ではありません。個人ユーザも企業の一員も、日々の小さな行動が大きなリスク回避につながります。これまで「脆弱性」という言葉だけを知っていた方も、これを機に身近な問題として捉え、今日から個人や組織としてできる対策を一つずつ取り入れていきましょう。

    【脆弱性対策および脆弱性管理に関する情報収集サイト・資料】


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