【速報版】情報セキュリティ10大脅威 2026 -脅威と対策を解説-

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2026年1月29日、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は「情報セキュリティ10大脅威 2026」(組織編)を公表しました。各脅威が自身や自組織にどう影響するかを確認することで、様々な脅威と対策を網羅的に把握できます。多岐にわたる脅威に対しての対策については基本的なセキュリティの考え方が重要です。本記事では、脅威の項目別に攻撃手口や対策例をまとめ、最後に組織がセキュリティ対策へ取り組むための考え方について解説します。

「情報セキュリティ10大脅威 2025」の解説はこちら。ぜひあわせてご覧ください。
【速報版】情報セキュリティ10大脅威 2025 -脅威と対策を解説-

情報セキュリティ10大脅威 2026概要

出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
「情報セキュリティ10大脅威 2026」(https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2025/press20260129.html)(2026年1月29日)組織向け脅威

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は「情報セキュリティ10大脅威 2026」を発表しました。「組織」向けの脅威では、1位に「ランサム攻撃による被害」、2位「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が前年と同じ順位を維持。3位には「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初選出にして上位にランクインし、AIの利活用におけるリスクが無視できないものであることを示しています。また、6位の「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃」には「情報戦を含む」と追記され、偽情報などの影響工作も含む脅威と明示化されました。昨年では10位にランクインしていた「不注意による情報漏えい等」が圏外となりました。

2025年度版との比較

昨年との比較でまず注目したいのは、「AIの利用におけるサイバーリスク」が初選出にして3位という上位にランクインしたことです。生成AI(LLM:大規模言語モデル)の急速な普及に伴い、「AIを利用した際の情報漏えいや権利侵害」、「AIが生成した誤情報を鵜呑みにすることで生じる問題」、そして「AIの悪用におけるサイバー攻撃の容易化・高度化」と多岐にわたるリスクが現実的な脅威となっています。

新規項目のランクインに伴い、「不注意による情報漏えい等」が圏外となりましたが、不注意による情報漏えいは引き続き発生しており、対策が必要な脅威です。その他の項目については大きな変化はなく、「ランサム攻撃による被害」と「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」は、例年通り不動の1位2位となっています。

日本の大手企業も被害にあった「ランサム攻撃による被害」「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」

2025年版に続き、「ランサムウェアによる被害」と「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」が1位・2位を占めました。これは2023年以降4年連続となっており、情報処理推進機構(IPA)によると、2025年もランサムウェア被害が多発し、取引先を含むサプライチェーン全体へ深刻な影響が及んだ事実が、この順位の不動ぶりを表しているとのことです。

ランサムウェア攻撃は、データを暗号化して復旧と引き換えに身代金を要求する手口に加え、窃取情報の公開をちらつかせる「二重脅迫」が主流です。2025年の象徴的な事例として、アサヒグループホールディングスへのランサムウェア攻撃がありました。これにより、受注・出荷システムに障害が発生し、一部商品の品薄など消費者にも影響が波及しました。また国内飲料事業では、昨年10月の暫定売上が前年同月比で約6割に落ち込むなど、事業面に大きな爪痕を残しています。*1

アサヒグループホールディングスへのランサムウェア攻撃をはじめとした、国内のランサムウェア被害の事例については、以下の記事でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
【速報】アサヒグループホールディングス社長会見、犯行は「Qilin」―サイバー攻撃の全貌とセキュリティの盲点https://www.sqat.jp/kawaraban/40295/
アサヒグループを襲ったランサムウェア攻撃https://www.sqat.jp/kawaraban/39292/
・アサヒグループも被害に ―製造業を揺るがすランサムウェア攻撃https://www.sqat.jp/kawaraban/39672/
・【2025年最新】日本国内で急増するランサムウェア被害-無印良品・アスクル・アサヒグループの企業の被害事例まとめ-https://www.sqat.jp/kawaraban/39635/

ランサムウェア攻撃は有名企業に限らず、体制が手薄な中小企業も広く標的とします。ひとたびシステムが完全に暗号化されると、復旧には多大な時間とコストを要します。そのため、侵入を防ぐ観点では、外部公開されたVPN機器等の棚卸しによる不要な経路の閉鎖、必要な経路への多要素認証の徹底、そして機器の脆弱性管理を継続することが重要です。あわせて、侵入されても業務を止めないために、ネットワークから切り離したバックアップの確保や復元訓練、ログ監視、初動手順の整備を行い、平時から「短期間で業務を戻せる設計」を作っておくことが求められます。

一方、サプライチェーン攻撃は、標的企業への直接侵入が難しい場合に、セキュリティ対策が手薄な取引先や委託先を足がかりに侵入する点が特徴です。多くの企業がクラウドサービスや外部ベンダーに依存する現在、攻撃者はその隙を狙っています。2025年の事例として、アスクル株式会社のシステムへのランサムウェア攻撃がありました。例外的に多要素認証を適用していなかった業務委託先の管理者アカウントが侵入経路になったとされています。*2 その結果、出荷業務の停止に追い込まれ、約52億円を特別損失に計上する事態へと発展しました。*3

サプライチェーン攻撃は自社の努力だけでは防ぎきれず、委託先を含む全体での統制が必要です。契約時にセキュリティ要件を明確にし、例外運用を恒常化させない仕組み作りが不可欠です。加えて、ゼロトラストアーキテクチャを採用し、すべてのアクセスを検証する仕組みを構築することも有効な対策となります。

急速な普及と共に顕在化している「AIの利用をめぐるサイバーリスク」

「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、新たに「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が3位にランクインしました。ここでのリスクとは、AIへの理解不足に起因する情報漏えいや権利侵害、誤情報の鵜呑みによる判断ミス、さらにAI悪用によるサイバー攻撃の容易化・巧妙化など多岐にわたります。例えば、英国企業ArupではAI技術(ディープフェイク)で生成された偽のCFOや従業員とのビデオ会議により、2,500万ドルの詐欺被害に遭ったと発表されました。「映像や音声で会話ができるなら本人に間違いない」という心理的な隙を突いた攻撃手法です。*4また、「KawaiiGPT」のような攻撃用にカスタマイズされた悪性AIの登場により、経験の浅い攻撃者でも、従来は数時間〜数日かかっていた攻撃サイクルをわずか数分で実行できる環境が整備されつつあります。また、「KawaiiGPT」のような攻撃用にカスタマイズされた悪性AIの登場により、経験の浅い攻撃者でも、従来は数時間〜数日かかっていた攻撃サイクルをわずか数分で実行できる環境が整備されつつあります。*5

攻撃を受けるリスクだけでなく、AIの「利用者側」のリスクも無視できません。米国企業Teslaは、発表イベントで使用したAI生成画像が既存映画の場面に酷似しているとして、制作会社から提訴されました。*6自社生成した画像であっても、意図せず既存作品に似てしまい法的リスクを招く一例です。また、生成AIが捏造した判例や引用を、弁護士が検証不足のまま提出して懲戒処分などに発展した事例も複数報じられています。*7これは法務だけの問題ではなく、AIによる「もっともらしい誤情報」が人の判断ミスを誘発するという重要な示唆を含んでいます。基本的なセキュリティ対策の徹底はもちろんですが、不十分な理解のままAIを利用するリスクを認識し、教育を通じてAIリテラシーを強化することも重要となっています。

情報戦への拡大「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃(情報戦を含む)」

「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃」とは、国際情勢の緊張や対立が、直接的にサイバー空間の脅威へと波及するリスクを指します。今回、項目名に「情報戦を含む」と明示されたように、国家が支援するサイバー攻撃は、システムの破壊や金銭の窃取に留まりません。偽情報の流布や情報操作を通じて、選挙への介入や社会の混乱を狙うケースが増加しています。英国では、現職議員が「離党を宣言する」かのようなAI生成の偽動画(ディープフェイク)が拡散され、本人が警察に通報する事態が報じられました。*8これは、AIによって「本物に見える偽情報」の作成コストが劇的に低下し、政治家を標的とした情報工作が、選挙制度や民主主義にとって深刻な脅威となりつつあることを示しています。

このように、地政学的リスクに伴うサイバー攻撃において、情報戦や影響工作のリスクが今後も高まると予測されることが、今回あえて「情報戦を含む」と明記された背景にあると考えられます。

その他の脅威

ここからは、これまでに述べた4つ以外の脅威について説明します。

4位「システムの脆弱性を悪用した攻撃」

ソフトウェアやシステムの脆弱性が発見されると、攻撃者は修正プログラムが提供される前に攻撃を仕掛ける「ゼロデイ攻撃」を行うことがあります。また、修正プログラム公開後であっても、適用の遅れている企業や組織を狙い、既知の脆弱性を悪用するケースも後を絶ちません。2025年に報告されたNext.jsの脆弱性「React2Shell」の事例(※ページ下部に参考情報記載)では、公表からわずか二日後に実際の攻撃が確認され、一週間以内に観測された攻撃試行回数は約140万回にも及んだとされています。*9このように攻撃者は脆弱性公開から直ちに悪用を開始するため、最新情報を常に追跡し、迅速に対応することが求められます。

対策: 最新のセキュリティパッチを迅速に適用することが不可欠です。また、どこにどのソフトウェアが使われているかを把握するため、SBOM(ソフトウェア部品表)の導入など、脆弱性管理体制の強化が有効です。

5位「機密情報を狙った標的型攻撃」

標的型攻撃とは、明確な意思と目的を持った攻撃者が、特定の企業・組織・業界を狙い撃ちにするサイバー攻撃です。不特定多数への無差別な攻撃とは異なり、機密情報の窃取やシステムの破壊・停止といったゴールを定め、執拗に実行される点が特徴です。攻撃は長期間継続することが多く、ターゲットのネットワーク内部に数年間にわたり潜伏して活動する事例も確認されています。

対策: 従業員への標的型攻撃メール訓練、メールセキュリティの強化、多要素認証の実施などが基本的です。加えて、侵入を前提とした「ゼロトラストモデル」の導入やネットワーク監視、アプリケーション許可リストの活用により、侵入の防止だけでなく早期発見と対処を可能にする体制づくりが有効です。

7位「内部不正による情報漏えい等」

組織の従業員や元従業員など、内部関係者による機密情報の持ち出しや削除といった不正行為を指します。これには、組織への不満や金銭目的による「悪意ある犯行」だけでなく、ルールに違反して持ち出したデータの紛失・誤操作といった、第三者への漏えいにつながる「過失」も含まれます。発生すれば、社会的信用の失墜、損害賠償、顧客離れや取引停止に加え、技術情報の流出による競争力低下など、組織に甚大な損害をもたらす恐れがあります。

対策: アクセス権限の最小化、ログ監視の強化、定期的な従業員教育、退職者のアカウント管理徹底、そして機密情報の持ち出しルールの策定などが有効です。これらを組み合わせ、不正行為の「抑止」と「早期発見」を図ることが重要です。

内部不正による情報漏えいついては以下の記事でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。「内部不正による情報漏えい-組織全体で再確認を!-

8位「リモートワーク等の環境や仕組みを狙った攻撃」

新型コロナウイルス対策を契機にテレワークが急速に普及し、社外からVPN経由でシステムへアクセスしたり、オンライン会議を行ったりする機会が定着しました。その結果、セキュリティ対策が不十分な自宅ネットワークや私物PCの業務利用に加え、従来は出張時や緊急時のみの使用を想定していたVPN機器等が、恒常的に使われるようになりました。こうしたテレワーク環境に脆弱性が残っていると、社内システムへの不正アクセスやマルウェア感染、Web会議の盗聴といった深刻なリスクにつながります。トレンドマイクロによれば、過去2年間に行ったランサムウェア被害に対するインシデント対応支援の中でも、およそ7割がVPN経由の事例とのことであり、VPN機器の徹底した管理が求められます。*10

対策: ゼロトラストセキュリティの導入、VPN装置等のネットワーク機器に対するセキュリティ強化とパッチ適用、多要素認証の徹底、そして従業員へのセキュリティ教育の実施などが有効です。

9位「DDoS攻撃(分散型サービス妨害攻撃)」

攻撃者が乗っ取った複数の機器(ボットネット)から、特定のサーバやネットワークに対して大量の通信を送り付け、サービスを停止に追い込む攻撃です。近年は、セキュリティ対策が手薄なIoT機器が悪用され、攻撃規模が巨大化しています。また、単なる愉快犯的な妨害だけでなく、攻撃停止と引き換えに金銭を要求する「ランサムDDoS」が増加傾向にあります。これにより、ECサイトの長時間のダウンによる金銭や顧客の離脱などの機会損失や、クラウドサービスの従量課金制を悪用し、数千万円規模の過大請求を発生させる(EDoS攻撃)等、事業継続に直結する深刻な被害が発生しています。

対策:自社設備だけでの防御は困難なため、CDN(Contents Delivery Network)やWAF(Web Application Firewall)などの対策サービスを導入し、負荷分散と遮断を行うことが基本です。あわせて、攻撃の影響を受けない非常用回線の確保やシステムの冗長化、停止時の代替サーバや告知手段を事前に整備することが重要です。

DoS攻撃/DDoS攻撃については以下の記事でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。「DoS攻撃のリスクと対策:アクセス急増の原因と見分け方、サービス停止を防ぐ初動対応

10位「ビジネスメール詐欺」

ビジネスメール詐欺(BEC:Business Email Compromise)は、業務連絡を装った巧妙な偽メールを組織・企業に送り付け、従業員を騙して資金を詐取するサイバー攻撃です。攻撃者は準備段階として、企業内の情報を狙ったり、ウイルスを使用して業務メールを盗み見たりすることで、本物そっくりの文面やタイミングを作り上げます。

対策: 送信ドメイン認証(DMARC・SPF・DKIM)の導入やセキュリティソフトによるフィルタリング強化といった技術的対策に加え、不審な送金依頼に対する複数人確認ルールの徹底、従業員への訓練を行い、被害の防止と早期発見を図ることが有効です。

ビジネスメール詐欺については以下の記事でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。 「ビジネスメール詐欺(BEC)の脅威と企業に求められる対策

【参考情報】

BBSecでは

当社では様々なご支援が可能です。お客様のご状況に合わせて最適なご提案をいたします。当当サイトSQAT® jpのお問い合わせページよりお気軽にお問い合わせください。後日営業担当者よりご連絡させていただきます。

SQAT® 脆弱性診断

BBSecの脆弱性診断は、精度の高い手動診断と独自開発による自動診断を組み合わせ、悪意ある攻撃を受ける前にリスクを発見し、防御するための問題を特定します。Webアプリケーション、ネットワークはもちろんのこと、ソースコード診断やクラウドの設定に関する診断など、診断対象やご事情に応じて様々なメニューをご用意しております。

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SQAT® ペネトレーションテスト

「ペネトレーションテスト」では実際に攻撃者が侵入できるかどうかの確認を行うことが可能です。脆弱性診断で発見したリスクをもとに、実際に悪用可能かどうかを確認いたします。

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    編集責任:木下

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    ビジネスメール詐欺(BEC)の脅威と企業に求められる対策 -2026年最新の脅威と対策ガイド-

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    ビジネスメール詐欺(BEC)の脅威と企業に求められる対策 -2026年最新の脅威と対策ガイド-アイキャッチ画像

    近年、企業を狙った巧妙な「ビジネスメール詐欺(BEC: Business Email Compromise)」が世界的に急増しています。本記事では、BECの概要や実際の被害事例、典型的な手口と最新動向について解説し、企業が取るべき対策と今後の備えとして必要な社内体制づくりについて提言します。

    ビジネスメール詐欺(BEC)とは何か

    ビジネスメール詐欺(BEC)」とは、巧みに偽装した電子メールを企業の従業員に送りつけ、経理送金などの不正行為を実行させる詐欺手口です。攻撃者は取引先や経営者になりすまして「請求書の振込先が変更になった」「至急資金を用意してほしい」といったメールを送り、社員を信用させて偽の口座へ送金させます。その名の通りBusiness E-mail Compromise(=”ビジネス Eメール詐欺”)の頭文字を取って「BEC(ベック)」とも呼ばれます。一般的なマルウェア添付型メールとは異なり、ビジネスメール詐欺のメールにはマルウェア添付や明らかな不審リンクがない場合も多く、一見「通常の業務メール」に見える点が非常に厄介です。

    ビジネスメール詐欺(BEC)の特徴

    ビジネスメール詐欺は高度なソーシャルエンジニアリング(巧妙な人為的なだまし)の一種であり、技術的手口と心理的誘導を組み合わせて実行されます。攻撃者はターゲット企業や関係者について徹底的に調査し、社員の権限や性格、役職に至るまで把握します。その上で「海外出張中の社長」を装って部下に緊急送金を命じたり、「取引先担当者」を装い請求書の振込口座変更を通知したり、あるいは「秘密裏の相談」を持ちかけて警戒心を解き、相手に疑う隙を与えないよう仕向けます。このようにBECは人間の認知・判断の隙を突いて金銭を騙し取る巧妙な詐欺であり、IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威」でも毎年TOP10入りするなど極めて深刻な脅威です。

    ビジネスメール詐欺の手口と最近の傾向

    独立行政法人情報処理推進機構(IPA)による注意喚起などで紹介されているBECの典型的な手口は、大きく以下の5タイプに分類されます。

    ・取引先との請求書の偽装
    ・経営者等へのなりすまし
    ・窃取メールアカウントの悪用
    ・社外の権威ある第三者へのなりすまし
    ・詐欺の準備行為と思われる情報の詐取

    なお、この分類は、米国政府系機関のIC3(Internet Crime Complaint Center:インターネット犯罪苦情センター)の定義によるものであり、IPA以外にも、多くのセキュリティ機関で使用されているものです。実際の攻撃では、これら複数の手口を組み合わせて巧妙に仕掛けられるケースもあります。例えば「詐欺の準備行為と思われる情報の詐取」で社内情報を下調べした上で「取引先との請求書の偽装」+「経営者等へのなりすまし」で請求書詐欺を行う、といった具合です。また攻撃者はメール送信元を偽装する際、本物のドメインに一文字追加するなど判別しづらい偽アドレスを使うため、受信者が違和感を持ちにくい工夫がされています。

    ビジネスメール詐欺実行のプロセス

    ビジネスメール詐欺の背後では、攻撃者が入念な準備を重ねています。典型的な実施プロセスは下記の通りです。

    1.標的とする企業の選定
    2.フィッシング、マルウェア感染などのサイバー攻撃による電子メールアカウント乗っ取り
    3.乗っ取った電子メールアカウントを用いた情報の収集・分析
     例:
     ・組織図や人事情報
     ・意思決定者や経理担当者などのキーパーソンの氏名・役職・権限・業務管掌
     ・企業の業務プロトコルや各種社内規定、企業文化
     ・毎月の経理処理のスケジュール
     ・主要取引先の担当者氏名・役職・権限、取引の詳細
     ・ターゲット候補に関する情報
     (性格や気質、言葉遣いの癖、趣味やプライベート、出張・休暇情報など)
    4.ターゲット、攻撃シナリオの決定
     例:経理担当者A氏をターゲットにし、大口取引先B社の経理担当者C氏になりすます
    5.詐欺ドメインの取得
     例:大口取引先B社とよく似たドメインの取得、メールサーバの設定 他
    6.なりすましメール送信
     例:A氏に対し、C氏を装った電子メールを送信
    7.攻撃成功
    (なりすましであることに気づかれることなく、メールの内容にもとづく行動を起こさせる)
     例:A氏がなりすましメールの指示通りに、攻撃者の口座へ入金処理を実施

    例えば、決裁者が出張中で不在のタイミングを狙い撃ちし、その間隙に乗じて部下に大量送金を依頼するなど、周到にシナリオが練られています。ターゲットを絞り込み時間をかけて攻撃するため、1件あたりの被害額は莫大になる傾向があります。

    生成AIを利用したメール文面の巧妙化

    近年の大きな傾向の特徴の一つとして、生成AIの普及によるメール文面の巧妙化があります。当初BECは英文メールで海外取引のある企業が狙われるケースが目立ちました。しかし2022年以降の生成AIの普及により、日本語の文面も非常に自然で巧妙になってきています。生成AIは、単に文章を作成するだけでなく、ターゲット企業の業界用語や社内の言い回し、文化的なニュアンスまで学習し、極めて説得力のあるメールを作成します。例えば、製造業の企業に送られるメールには業界特有の専門用語が適切に使われ、金融機関に対しては金融規制に関する正確な知識を踏まえた内容が含まれます。これにより、従業員が不自然な表現という従来の判断基準で詐欺を見抜くことは極めて困難になっています。

    さらに、生成AIは多言語対応も容易にしました。攻撃者は英語、日本語、中国語、韓国語など、ターゲットに応じて完璧な言語でメールを作成できるため、「海外取引がない企業は安全」という考えは完全に通用しなくなっています。

    ビジネスメール詐欺の被害事例

    実際にビジネスメール詐欺による被害は国内外で多発しており、日本国内でも被害が急増しています。

    2017年末に大手企業で数億円規模の被害が発生し注目が集まり、その被害総額は2023年末時点で全世界累計約554億ドル(約8兆円)を超え、2024年には生成AIの普及により攻撃が前年比1,760%増加する*11 など、脅威は加速度的に拡大しています。1件あたりの平均被害額は13万7,000ドル(約2,000万円)に達し*2、高額案件では467万ドル(約6億8,000万円)の被害も報告されています*3

    LINE誘導型CEO詐欺

    特に2025年の年末以降に急増しているのが、経営者を装って従業員に「LINEグループを作成してほしい」とメールで依頼し、QRコードの送信を求めるというLINE誘導型CEO詐欺の手口です。この攻撃はURLリンクが含まれないため、従来のセキュリティツールでは検知が困難です。具体的な被害報告例は下表の通りです。

    被害公表日概要
    2025年12月27日北海道函館市の企業で約4,980万円の被害が報告*4
    2026年1月7日長野県飯田市の企業で2,950万円の被害*5
    2026年1月20日東京都内の組織14件で計6億7,000万円の被害*6

    LINE誘導型攻撃の実態については以下の記事でも解説しています。あわせてぜひご覧ください。
    【注意喚起】「業務上の理由で…」そのメール、本当に上司ですか?―年末年始を狙うLINE誘導型ソーシャルエンジニアリングの実態

    ビジネスチャットツールでのなりすまし詐欺

    ビジネスメールだけでなくChatworkやMicrosoft Teamsなどのビジネスチャットツールでのなりすまし詐欺も増加しており、攻撃の多様化が進んでいます。2026年1月には、Chatworkが公式に注意喚起を発表し、「経営者を装った不審なコンタクト申請」が多発していることを警告しました*7 。この攻撃では、攻撃者が社長や役員の名前とプロフィール写真を使用してアカウントを作成し、従業員にコンタクト申請を送ります。承認されると、「緊急の案件で手が離せない」「機密事項なので他言無用」といったメッセージで信頼を築き、最終的に送金指示や機密情報の提供を求めます。チャットツールが標的となる理由として、従業員の警戒心の低さやセキュリティ設定の甘さなどがあります。

    2026年のBECトレンド予測:進化する脅威への備え

    ビジネスメール詐欺は、技術の進歩とともに急速に進化を続けています。2026年に向けて、企業が警戒すべき最新トレンドをご紹介します。

    AIによる攻撃の高度化

    生成AI技術の普及により、ビジネスメール詐欺は劇的に進化しています。2024年第2四半期の調査では、フィッシングメールの約40%がAI生成コンテンツであると特定されており*8、この割合は今後さらに増加すると予測されています。従来は不自然な日本語表現で見破れた詐欺メールも、現在ではネイティブレベルの完璧な多言語メールが簡単に生成可能です。

    さらに深刻なのが、AI音声合成技術による「電話確認」の突破です。ディープフェイク音声により経営者の声を高精度で模倣できるため、従来の対策である「電話での本人確認」も無力化される恐れがあります。2026年はこの攻撃がさらに洗練されることが予想されます。

    攻撃対象の拡大

    ビジネスメール詐欺の戦場はメールからチャットツールへ拡大しています。2026年1月にはChatworkが公式に注意喚起を発表し、Microsoft Teams、Slack、LINEなどでのなりすまし詐欺が急増しています。また、実際に取引先企業のアカウントを侵害して攻撃する「VEC(Vendor Email Compromise:ベンダーメール詐欺)」が2023年から2024年にかけて66%増加したという報告もあります*9。VECは正規のアカウントから送信されるため検知が極めて困難で、自社だけでなくサプライチェーン全体のセキュリティ対策が必要です。

    日本特有の課題

    日本企業の最大の課題はDMARC導入の遅れです。2026年1月の日本経済新聞の報道によれば、最も効果的な「拒否」設定を行っているのはわずか15%(米欧は約60%)にとどまっています。また、東京だけでなく長野、北海道、新潟など全国各地で被害が発生しており、地方企業におけるセキュリティ意識や専門人材の不足という地域格差も深刻な問題となっています。

    攻撃者は防御の弱い企業を優先的に狙うため、日本企業は早急な対策強化が求められています。

    ビジネスメール詐欺に企業が取るべき対策

    ビジネスメール詐欺の被害を防ぐには、「技術」「人」「プロセス」の三位一体となった多面的な対策が求められます。

    技術的対策

    メール認証技術の導入が最優先です。SPF、DKIM、特にDMARC「拒否」設定を実装し、なりすましメールを受信前にブロックしましょう。また、全従業員への多要素認証(MFA)導入を推進し、アカウント乗っ取りを防止しましょう。

    メール認証技術(SPF・DKIM・DMARC)の導入ポイントについては、以下の記事でも解説しています。あわせてぜひご覧ください。
    「ソーシャルエンジニアリング最前線【第4回】企業が実践すべきフィッシング対策とは?」
    フィッシング対策に重要なメール認証技術とは?SPF・DKIM・DMARCの導入ポイント

    基本的なセキュリティ対策の強化
    ウイルス対策・不正アクセス対策・OSの更新・IDやパスワードの管理・二要素認証の採用など、一般的なセキュリティ対策は、ビジネスメール詐欺実行のプロセスの「フィッシング、マルウェア感染などのサイバー攻撃による電子メールアカウント乗っ取り」にも有効です。

    人的対策

    定期的なセキュリティ研修で、BECの最新手口を全社員に周知します。擬似BEC攻撃メールによる訓練を実施し、不審なメールを見抜く力を養成しましょう。メールだけでなく、Chatwork、Slack、Microsoft Teamsなどチャットツールでのなりすまし対策教育も重要です。

    プロセスの再構築

    振込先口座の変更や高額送金の指示がメールで来た場合、必ず事前登録された電話番号に直接確認する社内ルールを徹底します(メール本文の連絡先は使用しない)。複数人承認制を義務化し、LINEやTeamsのアカウント情報を求められた場合も同様に電話確認を必須とします。

    ビジネスメール詐欺の脅威は、技術の進歩とともに進化を続けています。企業は、「自社は大丈夫」という楽観的な見方を捨て、常に最新の脅威情報にアンテナを張り、継続的に対策をアップデートする姿勢が求められます。

    ビジネスメール詐欺ではどこまで自社の情報を集められるのか?

    ビジネスメール詐欺は「ターゲットについて調べに調べたうえで実行される」と述べました。相手を欺くために練りに練られたメールを、最も攻撃に弱いと見立てたターゲットに送る。それがターゲットの元に届いてしまったとき、その後できる対策は決して多くはありません。

    そこで求められるのが、前述したビジネスメール詐欺実行のプロセスの、なるべく早期の段階にフォーカスした対策です。具体的には、2および3のフェーズ、すなわち「電子メールアカウントが乗っ取られて攻撃のための情報が収集、分析される」段階を想定してセキュリティ課題を抽出し、対策を立てることをおすすめします。「シフトレフト」に関する記事で言及しているように、対策は、プロセスの前段階であればあるほど効果的です。

    株式会社ブロードバンドセキュリティ(BBSec)では、標的型攻撃への対策として開発された「SQAT® APT」というサービスを提供しています。本サービスでは、攻撃が成功した場合、「社内の情報がどこまで収集されてしまうのか」、「どこまで侵入を許してしまうのか」、「何を知られてしまうのか」、といった点を把握できるようになっており、ビジネスメール詐欺対策としても威力を発揮します。

    もっともうま味のある成果を狙って、もっとも弱いところを突いてくる。それがビジネスメール詐欺です。起こりうる被害を可視化して対策を立て、早い段階で攻撃の芽を摘みましょう。

    G-MDR®

    サイバー攻撃への防御を強化しつつ、専門技術者の確保や最新技術への投資負担を軽減します。
    https://www.bbsec.co.jp/service/mss/gmdr.html
    ※外部サイトにリンクします。

    エンドポイントセキュリティ

    組織の端末を24/365体制で監視。インシデント発生時には端末隔離等の初動対応を実施します。
    https://www.bbsec.co.jp/service/mss/edr-mss.html
    ※外部サイトにリンクします。

    インシデント初動対応準備支援

    拡大するサイバーセキュリティの脅威に対応するために今すぐにでも準備すべきことを明確にします。

    https://www.bbsec.co.jp/service/evaluation_consulting/incident_initial_response.html
    ※外部サイトにリンクします。

    まとめ

    • ビジネスメール詐欺(BEC)は取引先や上司を装った偽メールで社員を欺き、不正送金等を行わせる犯罪であり、高度に人の心理の弱みを突くソーシャルエンジニアリング攻撃の一種です。
    • 攻撃者はメールアカウント乗っ取りなど技術的手段も駆使しつつ、企業や従業員に関する綿密な事前調査を行い、練り込んだシナリオで標的を信じ込ませます。
    • 発生すると被害額が極めて大きくなりやすく、企業規模・業種を問わず警戒が必要です。
    • ビジネスメール詐欺の被害を防ぐには、メール詐欺に焦点を合わせた多面的な対策(技術・プロセス・教育)を実施することが効果的です。

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    高まるAPT攻撃の脅威

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    SQAT® 情報セキュリティ瓦版 2020年1月号

    あらためて、「侵入前提」の備えを

    「攻撃のターゲットに定めた組織に対し、高度かつ複雑な手法を用いて長期間にわたり執拗な攻撃を行う」―「APT」と呼ばれるタイプの攻撃の矛先が、今、日本にも向けられるようになっています。従来、APTには侵入を前提とした多層防御が有効とされてきましたが、国際的に注目度の高いイベントであるオリンピック・パラリンピックが目前に迫り、日本を対象とした攻撃がこれまでになく増えると予想される中、あらためて自組織の状況を点検し、セキュリティの強化を図る必要があります。


    APT28とは

    「APT」とは「Advanced Persistent Threat」(直訳すると「高度で持続的な脅威」)の略語で、日本では主に「高度標的型攻撃」という呼称が使われています。「標的型攻撃」は、文字どおり、特定の組織をターゲットにした攻撃を指します(図1参照)。この中でも高度な手法を用いた長期にわたるものが「APT」とみなされます。狙いを定めた相手に適合した方法・手段を用いて侵入・潜伏を図り、攻撃に必要な情報を入手するための予備調査も含め、執拗に活動を継続するのが特徴です。なお、セキュリティ機関や調査会社では、こうした攻撃が確認されると、攻撃の実行主体(APTグループ)を特定し、活動の分析に取り組みます。グループを追跡する際は、組織が自ら名乗る名称に加え、多くの場合、「APT+数字の連番」(例:「APT 1」「APT 2」)がグループ名として使用されています。

    図1:標的型攻撃の主な手口

    https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R01_kami_cyber_jousei.pdf

    広範かつ大規模な攻撃活動

    これまでに特定されたAPTグループの数は、上記連番方式により同定されているグループだけでも約40に上ります。国家レベルの組織による支持や支援を受けているとみられるものも多く存在し、その攻撃は高度であるだけでなく、広範かつ大規模です。直近では2019年10月に、ロシアの支援を受けているとみられる「APT28」(自称「Fancy Bear」)による脅迫メールが世界的な注目を集めました。

    脅迫の手口は、「攻撃対象の組織のWebサイト、外部から接続可能なサーバ・インフラに対するDDoS攻撃を予告し、それを回避するための費用として仮想通貨を期日内に支払うよう要求する」というもので、危機感を煽るため実際にDDoS攻撃を行ったケースもありました。ペイメント、エンターテインメント、小売といった業種の複数組織を対象に同グループによる脅迫メールが送付されていることを、ドイツのセキュリティベンダが特定し、その後、JPCERT/CCにより日本国内においても複数の組織が同様のメールを受け取っていることが確認され、注意喚起が出されています。なお、同グループは、2016年の米大統領選挙のほか、政治団体やスポーツ団体などをターゲットにした攻撃への関与も疑われています。

     

    地域・文化を超えるサイバー攻撃

    従来、APT攻撃は主に欧米の組織を標的にしており、日本語という言語の特殊性などがハードルとなり日本企業は狙われにくいとの認識がありました。しかし、近年は、巧みな日本語を使用した、明らかに日本企業を標的とする攻撃が増加傾向にあります。

    たとえば、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)に報告されたサイバー攻撃に関する情報(不審メール、不正通信、インシデント等)の2019年の集計結果では、9月末時点で寄せられた攻撃情報、計897件のうち235件が標的型とみなされており、直近の7月~9月でその比率が顕著に上昇しています(表1参照)。当該データ113件のほぼ9割がプラント関連事業に対する攻撃で、実在すると思われる開発プロジェクト名や事業者名を詐称し、プラントに使用する資機材の提案や見積もり等を依頼する内容の偽メールが送信されています。IPAは、「現時点では、攻撃者の目的が知財の窃取にある(産業スパイ活動)のか、あるいはビジネスメール詐欺(BEC)のような詐欺行為の準備段階のものかは不明」としつつも、特定の組織へ執拗に攻撃が繰り返されていることから、これらをAPT攻撃の可能性がある標的型メールの一種に位置づけたと説明しています。

    出典:サイバー情報共有イニシアティブ(J-CSIP)運用状況[2019年1月~3月]、[2019年4月~6月]、[2019年7月~9月]より当社作成

    同様の傾向は、他国のセキュリティ機関の分析からも伺えます。タイのCSIRT組織ThaiCERTによるレポート『THREAT GROUP CARDS: A THREAT ACTOR ENCYCLOPEDIA』(2019年6月公開)を見ると、日本をターゲットに含めた攻撃は、もはや少ないとは言えません。たとえば、「Blackgear」と呼ばれる攻撃グループは日本を明白なターゲットにしており、C&Cの拠点を日本に置き、日本語の文書を使って攻撃を仕掛けます。また、2018年に確認された東南アジアの自動車関連企業をターゲットとした攻撃では、タイミングを同じくして特定の日本企業への攻撃が複数回観測されています。さらに、ターゲットとされる業種や狙われる情報の種類が多様であることも目を引きます。かつては、銀行のデータや個人情報がまず標的になりましたが、ここ数年、ターゲットの業界が航空宇宙・自動車・医療・製薬へとシフトし、ブラックマーケットでの高額取引が期待できる、各業界に固有の技術情報や特許出願前情報の奪取へと、攻撃目標が変化しています(表2参照)。

    出典:『THREAT GROUP CARDS: A THREAT ACTOR ENCYCLOPEDIA』より当社作成

    個人情報が流出した場合の損害賠償や事態収拾のための費用などを含めた事後対策費は平均6億3,760万円 1) と言われていますが、技術情報が流出した場合の想定被害額はその数十倍、数百倍に及ぶ可能性があります。技術情報のみならず、いわゆる「営業秘密」とされる知的財産の流出は、事業活動の根幹を揺るがす事態に発展しかねない規模の損失を招く恐れがあります。近年各社により提供されるようになっているサイバーセキュリティ保険等で損害補償対策を検討するのも一案ですが、国家の関与が疑われるAPTグループの攻撃被害については保険金が支払われない可能性もあります。より甚大な被害をもたらす攻撃を行うグループが、今、日本企業を新たな標的に定めつつあるという事実は、国内のあらゆる事業者が共有すべき攻撃の傾向となっています。

     

    より強靭な「多層防御」でAPT攻撃の影響を最小限に抑える

    APT攻撃への対策としては、従来、侵入を前提とした多層防御が有効とされてきましたが、足元でAPTグループによる日本への攻撃が増加傾向にある中、あらためて、多層防御の状況を点検し、攻撃耐性を高めていくことが求められています。防御策としてまず思い浮かぶのは、出入口を守るファイアウォールやUTM(統合脅威管理)、既知の脆弱性への対応などですが、それだけでは十分とは言えません。

    APT攻撃での代表的な手口は、ターゲットにした組織への侵入を試みる目的で使用される標的型メールです。この入口対策を考えると、疑似的な攻撃メールを用いて開封率などを可視化して「ヒト」に対する教育訓練を施す「標的型メール訓練」は検討に値する対策の1つです。留意したいのは、開封率の低減を最重要視するのではなく、「開封されても仕方なし」というスタンスで取り組むことです。訓練の目標を「開封された後の対応策の見直しと初動訓練」に設定し、定められた対応フロー通りに報告が行われるか、報告を受けて対策に着手するまでにどれくらいの時間を要するかを可視化して、インシデント時の対応フローおよびポリシーやガイドラインの有効性を評価することをお勧めします。また、従業員のセキュリティ意識を向上させるために、教育および訓練と演習を実施するのが望ましいでしょう。

    また、「多層防御」対策を立てる前提として、情報資産の棚卸しも重要です。日本企業は、他国に比較して、知的財産の重要性に対する認識が低く、情報の所在や管理が徹底されていないという指摘があります 3) 。組織内に存在する情報に関し、機密とするもの、公知であってよいものを分類し、それらがどこに格納されて、どのように利用されているかを可視化した上で、防御の対応をする機器・人・組織といったリソースを適切に振り分けて防御する仕組みを構築することが求められます。こうした仕組みは、侵入の早期発見にも繋がり、事業活動の継続を左右する重要情報へのアクセスを遮断することで、万一侵入を許しても被害を最小限に抑えられます。さらに感染経路・奪取可能な情報を洗い出し、感染範囲・重要情報へのアクセス状況・流出経路などを可視化できれば、システム内部へ拡散するリスクを把握することもできます。この「標的型攻撃のリスク可視化」により、「出口」対策へ効果的にリソースを有効活用することで、実効性をさらに効果的にリスク評価することが可能になります。

    2020年、オリンピック・パラリンピックがいよいよ目前に迫り、日本への攻撃がさらに激しさを増していくと予想されます。同イベントには膨大な数の事業者が関与するため、セキュリティ的に脆弱な組織がAPT攻撃を受け、サプライチェーンやIoTを通じて被害が歯止めなく広がるリスクが大いに懸念されています。既存のセキュリティ体制をあらためて点検し、強靭化を図ることで被害を最小限に食い止めましょう。


    注:
    1)JNSA:2018年情報セキュリティインシデントに関する調査結果より
    2) 同一のグループに対し、セキュリティ機関による命名、攻撃グループによる自称などを列挙
    3) コンサルティング会社PwCが2017年に実施した調査より
    (https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2018/assets/pdf/economic-crime-survey.pdf)日本における「組織がサイバー攻撃の狙いとなった不正行為」の種類を問う質問で「知的財産の盗難」と回答した比率は25%で、世界平均の12%と比べて顕著に多い数字となった。

    参考情報: *1 https://www.thaicert.or.th/downloads/files/A_Threat_Actor_Encyclopedia.pdf

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