APIとは何か(2)~APIの脅威とリスク~

Share

APIセキュリティは、現代のビジネスにおいて不可欠な課題です。シリーズ第2回の今回は、APIを悪用した攻撃手法や、OWASP(Open Web Application Security Project)よりリリースされている「OWASP API Security Top 10」で取り上げられるリスクの詳細を解説します。インジェクション攻撃やDDoS攻撃、APIキーの悪用、アクセス制御に関する脆弱性など、主要な脅威を紹介しながら、APIが悪用された場合の影響について解説します。

前回記事(シリーズ第1回)「APIとは何か~基本概念とセキュリティの重要性~」はこちら。

APIとは~前回からの振り返り

日頃からインターネットなどのネットワークを使用することが多い今日、現代における多くの企業はAPIに大きく依存しており、今やAPIは不可欠なものとなっています。Akamai社のレポート「The API Security Disconnect」によると、調査対象となった企業の約8割以上が2023年に行った調査において、「過去12か月以内にAPIセキュリティをより重視した」と回答しています。しかし、2022年~2024年で調査した回答者のうち、半数以上が、APIのセキュリティインシデントの影響により顧客の信頼を失い、さらにそこからほぼ半数は生産性の低下や従業員の信頼の低下にもつながったといいます。

また、SNS事業者が提供するAndroid版アプリに存在した脆弱性が悪用された結果、膨大な量のアカウント情報が漏洩した事例*1も報告されています。これは攻撃者が大量の偽アカウントを使用し、様々な場所から大量のリクエストを送信し、個人情報(ユーザ名・電話番号)を照合するというものでした。

APIが悪用されるとどうなるか

APIが悪用された場合、多岐にわたる深刻な影響が生じます。特に、認証や認可の不備は深刻なセキュリティホールとなり得ます。攻撃者はこれらの脆弱性を悪用して不正アクセスを行い、機密データや個人情報を盗み出す恐れがあります。また、認可が適切に設定されていないと、本来は外部からアクセスできないはずのデータにまで侵入され、第三者からデータの改ざんや不正操作が可能となってしまいます。さらに、APIを標的にしたDDoS攻撃によりサービスがダウンし、正規ユーザが利用できなくなることで、企業の信用失墜や業務の中断といったダメージを引き起こします。これらの影響は、経済的損失だけでなく、法的問題やブランドイメージの毀損など、長期的な悪影響をもたらすため、APIのセキュリティ強化が不可欠です。

APIを悪用した攻撃の事例はいくつか報告されていますが、いずれの攻撃も、「OWASP API Security Top 10」で挙げられている問題と関連性があります。

OWASP API Security Top 10

APIセキュリティについて、Webアプリケーションセキュリティに関する国際的コミュニティであるOWASPが、2023年6月に「OWASP API Security Top 10 2023」をリリースしています。APIセキュリティにおける10大リスクをピックアップして解説したものです。

「OWASP API Security Top 10」上位のリスク

特に上位5つの項目については、以下のような重大なリスクにつながるため、リリース前に十分な対策が施されていることを確認すべきです。

  • 不正アクセス
  • なりすまし
  • 情報漏洩
  • サービス運用妨害(DoS)

主なセキュリティ脅威

インジェクション攻撃

インジェクション攻撃は、悪意のあるコードをAPIに挿入し、不正な操作を行う攻撃です。APIの入力データを検証せずに処理している場合、攻撃者にデータベースへのアクセスを許すリスクが生じます。特にSQLインジェクションやコマンドインジェクション攻撃が多く、攻撃を受けてしまった場合、データベースの情報漏洩やシステムの制御不備などの被害があります。

認証およびセッション管理の不備の脆弱性を悪用

APIの認証とセッション管理の不備を悪用することで、攻撃者は不正アクセスやなりすましを行います。パスワード強度が不十分な場合やトークンの管理が適切に行われていない場合、セッションハイジャックや不正に重要な情報を閲覧されることによってデータの漏洩が発生するリスクがあります。適切な認証管理およびセッション管理を行うことが重要です。

DDoS攻撃

DDoS攻撃は、複数のPCからアクセスされることによる膨大な量のリクエストをAPIに一斉に送り込むことで、システムのリソースを枯渇させ、サービスの提供を妨害する攻撃です。APIの特性上、処理を高速に行うために外部からのリクエストを許容する必要がありますが、その柔軟性が悪用されます。攻撃者はボットネットを利用し、大量のトラフィックを発生させてサーバのリソースを消費させます。これにより、顧客はサービスが利用できず、自組織においても業務に多大な影響を及ぼします。APIを保護するためには、トラフィックの監視やレート制限、WAF(Webアプリケーションファイアウォール)などのセキュリティ対策が重要です。

APIキーの悪用

APIキーは、APIへのアクセスを制御するために利用されますが、攻撃者に奪われると不正利用のリスクが生じます。盗まれたAPIキーは無制限のアクセスやサービスの悪用に使われる恐れがあります。安全な管理や無制限にアクセスができないように適切なアクセス制御を実施すること等が重要です。

アクセス制御の不備による影響

APIのアクセス制御の不備の脆弱性を悪用することで、攻撃者は許可されていないデータや機能にアクセスできます。適切な権限設定がされていない場合、データの漏洩や不正な操作の実行のリスクがあります。権限の設定など適切なアクセス制御が求められます。

思わぬデータの公開や改ざん

APIの設計や実装の不備により、データが意図せず公開・改ざんされるリスクがあります。適切な認証・認可がないと、攻撃者が内部の機密情報にアクセスすることが可能になります。例えば、本来ならシステム管理者のみがアクセスできる設定画面または顧客情報やシステムに関する情報などの重要情報が格納されている場所に攻撃者がアクセスできてしまった場合、システムの設定を変更されたり重要情報が奪取されたりする恐れがあります。また、過剰に情報を提供するAPIレスポンスや暗号化されていないデータ転送も、情報漏洩や改ざんの危険性を高めます。データ保護には、適切なアクセス制御と暗号化の実装が不可欠です。

アカウント乗っ取り

不正アクセスによってユーザアカウントが乗っ取られ、APIを悪用される可能性があります。一度アカウントが乗っ取られると、攻撃者は個人情報の閲覧や不正操作、さらには他のシステムへの攻撃拡大を図る可能性があります。多要素認証(MFA)の導入やAPIキーの適切な管理、ログイン試行の監視など、セキュリティ対策の強化が必要です。

まとめ

現代の企業にとってAPIによるアプリケーション連携は不可欠ですが、その悪用によるセキュリティリスクも増加しています。APIを悪用した攻撃の事例は、「OWASP API Security Top 10」に関連しています。主なセキュリティ脅威には、インジェクション攻撃、認証やセッション管理の不備、DDoS攻撃、APIキーの悪用、アクセス制御の脆弱性、不適切なデータ公開や改ざん、アカウント乗っ取りなどがあります。これらは重大なリスクを孕んでいるため不正アクセス、なりすまし、機密データの盗難を含む情報漏洩、データ改ざん、サービスのダウンによるサービス低下や業務への影響、ひいては企業の信用失墜といった深刻な結果を招きます。こうした被害を防ぐため、APIの設計段階から適切なセキュリティ対策を行い、監視やアクセス制御の強化が不可欠です。

Security Report TOPに戻る
TOP-更新情報に戻る


資料ダウンロードボタン
年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
お問い合わせボタン
サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

Security Serviceへのリンクバナー画像
BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
セキュリティ緊急対応のバナー画像

ソーシャルエンジニアリングとは?その手法と対策

Share

今回は、サイバー攻撃の変わり種、システムではなく人間の弱点に付け入る攻撃、ソーシャルエンジニアリングを紹介します。

まずソーシャルエンジニアリングの具体的な手法を挙げ、どのように人間の弱点が利用されるのかを説明し、日本で起こったソーシャルエンジニアリングによる被害実例を紹介します。

途中ちょっと寄り道をして、オレオレ詐欺はソーシャルエンジニアリングなのかどうかについて考えつつ、最後に具体的かつ実践的な対策方法と、逆効果となる、とある対策・管理方針について言及します。

ソーシャルエンジニアリングとは

ソーシャルエンジニアリングは、人の心理を巧みに操り、重要な情報を引き出す手法です。この手法を使った攻撃がソーシャルエンジニアリング攻撃で、攻撃者は情報収集やシステムへの不正アクセスなどを目的に、人を心理的に操作して、攻撃者にとって都合のいい行動を起こさせます。

認知能力、心理など「人間の脆弱性」を攻撃するソーシャルエンジニアリング

アメリカの非営利のセキュリティ研究団体MITRE社の説明によると、ソーシャルエンジニアリングとは、人心を巧みに操り、その弱みにつけこんで、悪意ある相手に利するような行動や情報を引き出すというものです。具体的な例を挙げると、技術的な手段によらずに、口頭による会話といった「社会的(ソーシャル)」な手段で、ID・パスワードなどの重要情報を、巧みなやり方で関係者から直接聞き出す行為などがソーシャルエンジニアリングです。大きくは、人間の認知能力のさまざまな弱点やスキにつけ込む手法全般のことだといえるでしょう。

脆弱性診断サービスを提供するBBSecとして「脆弱性」という観点で申し上げるなら、ソーシャルエンジニアリング攻撃は「システムやソフトウェアではなく人間の脆弱性を突く攻撃」と言うことができます。

ソーシャルエンジニアリングの手法

以下に典型的なソーシャルエンジニアリングの手法を挙げます。

・ショルダーハッキング
  例)パスワード等をユーザの肩越しに覗き見る
・トラッシング(スカベンジング)
  例)清掃員などに変装して標的組織に侵入し、書類やHDDなどのゴミや廃棄物をあさる
・なりすまし電話
 例)システム担当者などになりすましてパスワードなどを聞き出す
・ベイティング
 例)マルウェアを仕込んだUSBメモリを廊下に落とす
・フィッシング(ヴィッシング、スミッシング等 含む)
  例)信頼できる存在になりすまし、ID・パスワード、クレジットカードなどの情報を入手する
・ビジネスメール詐欺
 例)取引先などになりすまし、犯人の口座へ振込を行わせる
・標的型攻撃メール
 例)ターゲットに対する入念な調査に基づいて作成した、完成度の高いなりすましメールを送る

たとえば「なりすまし電話」ですが、上記に挙げた例とは逆に、入社したばかりの何も知らない社員を装ってシステム担当者に架電し、やり方がわからないふりをするなどして徹底的にイライラさせて、思わずパスワードを口に出させるなどの方法も存在します。人間の認知能力のスキをつくソーシャルエンジニアリングには、実にさまざまな方法があるのです。

ソーシャルエンジニアリングの最大の特徴とは

人の脆弱性を突くソーシャルエンジニアリングの最大の特徴は、ターゲットを信頼させ、攻撃者に有益な情報の提供などを自発的に行わせてしまう点にあります。MITRE社の説明に「人を操る」とあった通り、権力や暴力を振りかざして重要情報を聞き出した場合、それは単なる脅迫であってソーシャルエンジニアリングではありません。

ターゲットの心を意のままに操作して、自発的に、ときに笑顔で協力させてしまう点にこそ、ソーシャルエンジニアリングを行う犯罪者の真骨頂があります。

ソーシャルエンジニアリングはどのように人間の弱点につけ込むのか

ソーシャルエンジニアリングは攻撃対象が信頼してしまう存在などになりすましてターゲットを信頼させ、心を開かせたり油断させることで行われます。

そのために攻撃者がしばしば目を付けるのが、「権威」に対する人間の弱さです。会社の取締役を装って電話をかける、得意客になりすましたビジネスメールを送る、大手金融機関や有名ブランドをかたったフィッシングメールを送る、などの手口に騙されるのが典型的なケースです。

なお、メールアカウントを乗っ取って旧知の取引先などになりすましたメールを送信することで拡散を図るEmotetは、フィッシングを行うマルウェアであり、ソーシャルエンジニアリングの一類型と言うことができます。

オレオレ詐欺はソーシャルエンジニアリングか

権威以外にも「義務感」「正義感」あるいは「好意」につけ込む方法もよく用いられます。多くの人は、困っている人に出会ったら「助けなければ」と感じます。助ける相手が親しい人物や好感を持てる人物であればなおさらです。

そこで思い浮かぶのがオレオレ詐欺ですが、ちなみに、この手の犯罪は、「ソーシャルエンジニアリング」なのでしょうか?

答えはNoです。ソーシャルエンジニアリングは、コンピュータセキュリティの文脈で使われる言葉であり、コンピュータやシステムへの不正アクセスを行うことを目的のひとつに含むという前提があります。そのため、オレオレ詐欺がソーシャルエンジニアリングと呼ばれることは一般にはほとんどありません。

ニューノーマル、テレワーク時代に気をつけたいソーシャルエンジニアリング

大きな環境変化の最中や直後などは、ソーシャルエンジニアリングの絶好の機会です。平時にはない緊張を強いられることで人々の不安やストレスが増し、感情的に動揺しやすくなるためといわれています。2020年、新型コロナウイルスの感染が一気に拡大した当初も、品薄状態だったマスクの配布をうたうメールやWebサイト、保健所からの連絡を装った攻撃などが複数確認されました。ニューノーマル時代、こうした攻撃に引き続き警戒が必要であることはいうまでもありません。

また、テレワークによって従業員どうしが切り離された就業環境においては、フィッシングメール標的型攻撃メールの感染確率が上がると言われています。これは、オフィスにいたなら同僚や情報システム部門に「変なメールが届いた」と気軽に相談できていたことが、テレワークによって難しくなるからです。

日本で起こったソーシャルエンジニアリングの実例

2015年に発生した日本年金機構の情報漏えい事件は、「【医療費通知】」という件名の標的型攻撃メールが公開メールアドレスに届き、その添付ファイルを開いたことが発端であったとされています。

また、2017年に大手航空会社がビジネスメール詐欺で数億円をだましとられた事件も、2018年に仮想通貨取引所から暗号資産が流出した事件も、いずれもソーシャルエンジニアリングが攻撃のステップのひとつとして用いられています。

ソーシャルエンジニアリング対策・防止策

では、こうしたソーシャルエンジニアリングを防止する対策方法には、どのようなものがあるのでしょうか。

ソーシャルエンジニアリングの手法」で挙げた攻撃に対しては、たとえばショルダーハッキングならプライバシーフィルターを利用する、ビジネスメール詐欺ならメールの指示をうのみにせず本人に電話をして確認するなど、さまざまな対策方法が存在します。また、近年攻撃者はSNSを活用してターゲットに関する情報を集めることが知られていますので、SNSの利用に組織としてルールを設けるなどの方法も有効です。研修や教育なども効果があります。

しかしその一方で、人間の脆弱性を突く攻撃を完全に防ぐことはできない、という観点に基づいた対策も、併せて必要になります。攻撃を防ぐ対策と同時に、攻撃が防げなかった場合(成功してしまった後)の対策も考える必要があるのです。BBSecはこの考えのもと、標的型攻撃リスク診断やペネトレーションテストなどのサービスを提供し、攻撃を受けることを前提としたセキュリティ対策に取り組む企業・組織の皆様をご支援しています。

企業が絶対にやってはいけないソーシャルエンジニアリング対策

ソーシャルエンジニアリングは人間の脆弱性を突く攻撃です。だからこそ、対策として絶対にやってはいけないことがあります。それは、騙された人を叱責する、何らかのペナルティを与える等の懲罰主義の管理です。

罰を受けるのを恐れることによって、事故が発生しても報告がなされず、それが、インシデントの発見の遅れを招き、組織にとっての致命傷を生むことがあります。あなたも私も、人間は皆、あやまちを犯す生き物なのです。あやまちを犯すことが覆い隠されてしまうような管理は、何の成果も上げられないでしょう。

まとめ

  • ソーシャルエンジニアリングとは、人の心を操って重要情報等を聞き出したりすることです。
  • ショルダーハッキング、フィッシング、ビジネスメール詐欺、標的型攻撃メールなど、さまざまな手法があります。
  • ソーシャルエンジニアリングは、「権威」「義務」「好感」などに惑わされる人間の弱さをあらゆる手口で突いてきます。
  • 環境が急激に変化する時は、ソーシャルエンジニアリングの付け入るスキが生まれます。ニューノーマルや急速なテレワーク化への対応を迫られる現在も、その例外ではありません。
  • 懲罰主義による管理は、ソーシャルエンジニアリング対策として何の効果もなく、インシデント発生の対応が遅れる要因になります。

Security Report TOPに戻る
TOP-更新情報に戻る


資料ダウンロードボタン
年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
お問い合わせボタン
サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

Security Serviceへのリンクバナー画像
BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
セキュリティ緊急対応のバナー画像
セキュリティトピックス動画申し込みページリンクへのバナー画像

セキュリティ診断の必要性とは?

Share

「セキュリティ診断」とは何か?セキュリティ診断には脆弱性診断、ソースコード診断、ペネトレーションテストなどの方法があります。今回は、企業にセキュリティ診断が不可欠な背景を説明します。また、診断以外のセキュリティ対策にも触れます。

セキュリティ診断の必要性とはのサムネ

サイバー攻撃や組織における管理またはシステムの設定不備・不足等が原因となり、機密情報等の漏洩事故および事件が相次いで発生しています。東京商工リサーチの調べによれば、上場企業とその子会社で起きた個人情報漏洩または紛失事故・事件件数は2021年で137件となり過去最多を更新しました。*2実際に企業がデータ侵害などの被害を受けてしまい、機密情報等の漏洩が発生してしまうと、システムの復旧作業に莫大なコストがかかるほか、データ侵害によるインシデントが信用失墜につながることで、 深刻なビジネス上の被害を引き起こします。被害を最小限に抑えるために、適切な事故予防、攻撃対策をとっていくことは、企業の重要な業務のひとつとなっています。

セキュリティ対策やセキュリティ診断は、企業にとっていまや基幹業務に不可欠であり、社会的責任でもあります。この記事ではセキュリティ診断の内容と必要性などを解説します。

セキュリティ診断とは? その必要性

セキュリティ診断とは、システムのセキュリティ上の問題点を洗い出す検査のことを指します。脆弱性診断、脆弱性検知、など呼び方もさまざまで、また対象によってソースコード診断、システム診断、Webアプリケーション診断、ペネトレーションテストなどに分類されます。

なお、複数の診断方法のうち、同様の診断をセキュリティベンダーや診断ツール提供者がそれぞれ微妙に異なる名称で呼んでいるケースもあります。

「セキュリティ診断」という用語は、単に「脆弱性診断」を指すこともあれば、セキュリティに関するさまざまな診断や評価全体を包括して「セキュリティ診断」と呼ぶ広義の使い方もあります。

「セキュリティ」には、情報セキュリティだけではなく、デジタル社会へのリスク対応全般が含まれる場合もありますが、「セキュリティ診断」という用語は、企業など組織の事業における(情報)セキュリティリスクの低減を主な目的とした検査のことをいいます。

資産である情報の「機密性」「完全性」「可用性」を守るため、セキュリティ診断を行うことで、情報セキュリティの観点からみた構造上の欠陥や、組織体制、あるいは運用上の弱点を見つけることができます。発見された問題に対し優先順位をつけて対策を実施することで、より堅牢なシステム・環境・体制を構築することができます。

企業に求められる情報セキュリティ対策の例

企業が実施するセキュリティ対策のうち、よく話題にあがるものをいくつかピックアップして説明します。

不正アクセス対策

不正アクセス対策のサムネ

不正アクセスとは、本来アクセス権限を持たない者が、何らかの手段を用いて第三者の情報にアクセスすることをいいます。なりすまし不正侵入といった形が一般的です。不正アクセスによって、個人情報や知的財産が奪われる、サーバやシステムが停止するなど、企業活動に影響するリスクが生じます。不正アクセスに対しては、「不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)」によって、アクセス管理者にも次の管理策を行う義務が課されています(ただし、罰則はありません)。
・識別符号の適切な管理
・アクセス制御の強化
・その他不正アクセス行為から防御するために必要な措置
セキュリティ診断を通じてシステムに存在する弱点を洗い出し、発生箇所を特定することで、こうした不正侵入などへの対策を立てやすくする効果があります。

脆弱性対策

脆弱性とは、一つ以上の脅威によって付け込まれる可能性のある資産または管理策の弱点をいいます。脅威とは、「システム又は組織に損害を与える可能性がある、望ましくないインシデントの潜在的な原因」で、いわばシステムにおけるバグのようなものです。それらの脆弱性は、「危険度を下げる」「蔓延を防ぐ」「影響度を下げる」ことで、悪用されにくくすることができます。

脆弱性対策とは、これらの角度からシステムの欠陥をつぶしていく行為ともいえます。利用しているソフトウェアの既知の脆弱性をアップデートやパッチの適用で常に最新版に保ったりすることや、システム開発の場面でそもそも脆弱性を作りこまないように開発することなどが、その典型例です。

標的型攻撃対策

近年、「高度標的型攻撃(APT)」と呼ばれる、新しいタイプの攻撃が警戒されるようになりました。もともと、標的型攻撃とは、特定の企業や組織に狙いを定めてウイルスメールを送るなどの攻撃を仕掛けるものでしたが、高度標的型攻撃は、特定のターゲットに対して長期間の調査と準備を行い、ときには社内のネットワーク構成図や会社組織図、キーパーソンの休暇の取得状況まで調べ上げたうえで、サイバー攻撃を仕掛けてきます。

標的型攻撃対策のサムネ

従来、標的型攻撃の対策としてはセキュリティ意識を高める訓練が主でしたが、今では「侵入されること」を前提に、セキュリティ機器を使った多層防御システムを構築することの大切さが、広く認識されるようになってきました。高度標的型攻撃に特化したセキュリティ診断を受けることで、攻撃被害スコープを可視化したり、脅威リスクのシミュレーションを行うことができます。

運用を含むリスクアセスメント

システムが技術的に強固に守られていても、アクセス用のIDとパスワードを付箋紙に書いてモニターに貼り付けていたら、安全は保たれるべくもありません。

システムなど技術的側面からだけでなく、作業手順や業務フロー、作業環境、組織のルールなどの運用面も含めてリスク評価を行うことを「リスクアセスメント」と呼びます。リスクアセスメントを通じて、リスクの棚卸による現状把握ができ、優先順位をつけて改善策を講じていくことが可能になります。

セキュリティ診断の方法と種類

セキュリティ診断の分類はいくつかあります。
<診断対象による分類>
 ・Webアプリケーション脆弱性診断
 ・ネットワーク脆弱性診断
 ・ソースコード診断
 ・スマホアプリ脆弱性診断
 ・ペネトレーションテスト
 ・クラウドセキュリティ設定診断
 ・IoT診断

<ソースコードや設計書の開示の有無による分類>
 ・ホワイトボックステスト
 ・ブラックボックステスト

<診断実施時にプログラムを動かすかどうかによる分類>
 ・動的解析
 ・静的解析

ホワイトボックステスト/ブラックボックステスト、動的解析/静的解析については、SQAT.jpの以下の記事でご紹介しています。こちらもあわせてご覧ください。
「脆弱性診断の必要性とは?ツールなど調査手法と進め方」

Webアプリケーションセキュリティ診断

Webアプリケーションに対して行う診断です。事業活動に欠かせないWebサイトはデータの宝庫です。ハッキング対象の約7割がWebサイトであるともいわれています。ひとたびデータ侵害が起こると、事業継続に影響を与えかねないインシデントを引き起こすリスクがあります。

ネットワークセキュリティ診断

サーバ、データベース、ネットワーク機器を対象として脆弱性診断やテスト、評価を行います。搭載されているOS、ファームウェア、ミドルウェアなどのソフトウェアについて、最新版か、脆弱性がないか、設定に不備がないかなどを確認します。ネットワークの脆弱性対策をすることで、サーバの堅牢化を図る、不正アクセスを防止するなどの効果を得られます。

ソースコードセキュリティ診断

WEBアプリケーションは、プログラムの集合体であり、脆弱性はプログラム処理におけるバグであるといえます。入力チェックやロジック制御に、バグ(考慮不足)があるから、想定しない不具合が発生すると考え、プログラムコード(ソースコード)を調べていくのがソースコード診断です。ソースコード診断はプログラムに対するセキュリティ観点でのチェックであるとともに、開発工程の早い段階で、脆弱性を検出することが可能になります。

セキュリティ診断で未然に事故を防ごう

セキュリティ診断で未然に事故を防ごうのサムネ

セキュリティ診断のひとつとして挙げた脆弱性診断には、さまざまな診断ツールが存在しており、無料で入手できるものもあります。しかしツールの選定や習熟には一定の経験や知見が求められ、そもそも技術面だけでは企業のセキュリティを確保することはままなりません。セキュリティの専門会社の支援を受けて、客観的な評価やアドバイスを受けるのも有効な手段です。

セキュリティ専門会社による脆弱性診断を実施することで、日々変化する脅威に対する自システムのセキュリティ状態を確認できるため、適時・適切の対策が可能です。予防的コントロールにより自組織のシステムの堅牢化を図ることが事業活動継続のためには必須です。

まとめ

  • Webアプリケーションセキュリティ診断、ネットワークセキュリティ診断、ソースコード診断、セキュリティに関するさまざまな診断やテストが存在する
  • 不正アクセスなどの攻撃を防ぐためシステムの脆弱性を見つけて対策することが必須
  • 技術的対策だけでセキュリティを担保することは難しい
  • 人間の脆弱性や業務運用までを含む包括的な視点で組織にひそむリスクを洗い出すことも重要
セキュリティ診断サービスのサムネ

Security Report TOPに戻る
TOP-更新情報に戻る


資料ダウンロードボタン
年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
お問い合わせボタン
サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

Security Serviceへのリンクバナー画像
BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
セキュリティ緊急対応のバナー画像
セキュリティトピックス動画申し込みページリンクへのバナー画像