見落としがちなIT資産がセキュリティ事故を招く?企業で起こりやすい5つの管理課題

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前回記事では、IT資産管理の基本と重要性を解説しました。管理されていない端末やクラウド環境、シャドーIT、サポート終了製品など、見落とされたIT資産が被害につながるケースも少なくありません。今回は、管理が行き届かない場合に実際どのような問題が起こりやすいのか、企業で起こりやすい5つの管理課題を具体的に見ていきます。

IT資産管理の基本について知りたい方は、まず「IT資産管理とは」をご覧ください。
IT資産管理とは?企業のセキュリティ対策で最初に取り組むべき理由を解説

セキュリティ事故は、必ずしも高度な攻撃だけで起こるわけではありません。実際には、管理されていない端末、放置されたクラウド環境、退職者のアカウント、サポート終了ソフトウェアなど、見落としがちなIT資産がきっかけになることがあります。IT資産管理が不十分な状態では、脆弱性情報が公開されても対象資産を特定できず、インシデント発生時にも影響範囲をすばやく把握できません。

なぜ管理漏れが起こるのか

IT資産の管理漏れは、担当者の怠慢だけで起こるものではありません。むしろ、事業スピードに管理体制が追いつかないことで発生します。新しいSaaSを部門単位で契約する、検証用にクラウド環境を作成する、テレワーク用に端末を追加する、業務委託先にアカウントを付与する。こうした日常的な業務の中で、台帳更新や承認プロセスが後回しになると、実態とのズレが広がっていきます。

企業で起こりやすい5つの管理課題

台帳が更新されない

IT資産管理で最も起こりやすい課題は、資産台帳が更新されないことです。導入時には正確だった台帳も、ソフトウェア更新やクラウド環境の追加が反映されなければ、すぐに実態とずれていきます。特にExcelやGoogleスプレッドシートで管理している場合、更新担当者が限られ、現場の変更が反映されないまま時間が経過しがちです。その結果、台帳上は存在するのに実際には廃棄済みの機器、逆に台帳にはないが稼働している資産が発生します。インシデント対応時にこの状態だと、影響範囲の特定に時間がかかり、初動対応の遅れにつながります。

シャドーITが増える

シャドーITとは、情報システム部門や管理部門が把握していないIT資産やサービスが、業務目的で利用されている状態を指します。英国のサイバーセキュリティ機関NCSCでは、「シャドーITは悪意によって生まれるとは限らず、従業員が業務を進めるために、承認済みのツールやプロセスでは対応できない課題を解決しようとして発生することが多い」と説明しています。たとえば、ファイル共有が不便だから個人用クラウドストレージを使う、社内承認に時間がかかるため部門でSaaSを契約する、開発検証のために個人名義に近い形でクラウド環境を作る、といった行動です。本人に悪意がなくても、会社のセキュリティポリシー、バックアップ、アクセス制御、監査ログ、退職時のアカウント削除の対象外になるため、情報漏洩や不正アクセスのリスクが高まります。シャドーIT対策で重要なのは、単に禁止することではありません。なぜ現場が非公式な手段を使わざるを得なかったのかを把握し、業務に必要なツールを安全に使える仕組みに変えることです。

クラウド資産が把握できない

クラウド環境では、サーバやストレージ、データベース、コンテナ、API、アカウント、権限設定などが短時間で作成・変更・削除されます。オンプレミス環境のように物理的なサーバーが目に見えるわけではないため、管理対象から漏れやすいのが特徴です。検証用に作ったクラウド環境が放置され、インターネットに公開されたままになる。開発者が一時的に広い権限を付与し、その後も戻されない。ログ設定やバックアップ設定が本番環境と異なる。こうした状態は、クラウド利用が進む企業ほど起こりやすくなります。米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)の「Cybersecurity Performance Goals」でも、既知の資産だけでなく、未知の資産、シャドー資産、未管理資産を特定し、新たな脆弱性への検知・対応を速めることが目的として示されています。

EOL(End of Life)・EOS(End of Service)を見逃す

サポートが終了したOS、ネットワーク機器、VPN機器、業務アプリケーション、ミドルウェアを使い続けることも、IT資産管理上の大きな課題です。サポートが終了した製品は、脆弱性が発見されても修正プログラムが提供されない可能性があります。資産台帳にサポート期限や保守期限が記録されていなければ、更新計画を立てることもできません。

EOL・EOSについては前回記事でも触れていますので、あわせてご覧ください。

また、ソフトウェア資産の構成管理まで行いたい場合、EOL・EOS対策の延長としてSBOM(ソフトウェア部品表)も重要になります。経済産業省「ソフトウェア管理に向けたSBOMの導入に関する手引 Ver.2.0」では、資産管理台帳だけでは、下位コンポーネントとして利用されるOSSなどに脆弱性が見つかった場合に、間接的な影響を検知できない場合があると説明されています。

SBOMについては、「SBOMとは?ソフトウェア部品表の基本と企業が導入すべき理由」でも解説しています。あわせてご覧ください。

部門ごとに管理している

IT資産管理が部門ごとに分断されていることも、企業でよく見られる課題です。情報システム部門はPCとネットワーク機器を管理し、開発部門はクラウド環境を管理し、総務部門はリース契約を管理し、各事業部がSaaS契約を管理している。このような状態では、全社としてどのIT資産が存在するのかを把握できません。部門ごとの管理は、現場のスピードを保つうえでは便利です。しかし、セキュリティ事故が起きたときには、誰が責任者なのか、どの情報が保存されているのか、どの範囲に影響があるのかが分からなくなります。特に、SaaSやクラウドサービスでは、管理者権限を持つ担当者が異動・退職した後に、契約やアカウントだけが残り続けるケースもあります。

管理課題を解決するポイント

IT資産管理の課題を解決するには、台帳を作るだけでは不十分です。重要なのは、資産が増える、変わる、使われなくなるタイミングで、台帳や管理システムが自然に更新される運用を作ることです。まず、IT資産管理の対象範囲を明確にします。PCやサーバだけでなく、クラウド環境、SaaS、アカウント、ネットワーク機器、ソフトウェア、ライセンスまで含めるかを決めます。次に、資産ごとに管理責任者を定めます。所有者が曖昧な資産は、脆弱性対応や費用管理、廃棄判断が遅れやすくなります。そのうえで、購買、入社、異動、退職、クラウド作成、SaaS契約、機器廃棄といった業務フローにIT資産管理を組み込みます。ツールを導入する場合も、単体で完結させるのではなく、ID管理、EDR、MDM、脆弱性管理、クラウド管理と連携させることで、実態に近い情報を保ちやすくなります。

課題を解決する具体的な運用方法については「IT資産管理を効率化する方法とは?担当者が押さえたい運用のポイント」をご覧ください。

まとめ:見えていないIT資産は、守れない

IT資産管理の課題は、すぐに大きな障害として表面化するとは限りません。しかし、管理漏れ、シャドーIT、クラウド資産の放置、サポートが終了した製品・機器の見逃し、部門ごとの分断が積み重なると、セキュリティ事故の温床になります。

次回は、こうした課題を解決するための具体的な運用方法について解説します。

【参考情報】

編集責任:木下


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IT資産管理とは?企業のセキュリティ対策で最初に取り組むべき理由を解説

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企業のセキュリティ対策では、EDRや脆弱性診断などの対策に注目が集まりがちですが、その前提となるのが「IT資産管理」です。自社で利用している端末やサーバー、クラウドサービス、SaaSなどを正確に把握できていなければ、脆弱性への対応やインシデント対応も適切に行えません。本記事では、IT資産管理の基本から重要性、管理できていない場合のリスク、実践のポイントまで分かりやすく解説します。

企業のセキュリティ対策というと、EDR、WAF、脆弱性診断、ゼロトラスト、SOCなどの高度な対策を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、どれだけ優れたセキュリティ製品を導入しても、自社がどの端末、サーバー、クラウドサービス、ソフトウェアを利用しているのかを把握できていなければ、守るべき対象を正しく守ることはできません。 IT資産管理は、企業が利用するIT資産を継続的に把握・管理する取り組みです。単なる資産台帳の作成ではなく、脆弱性管理やパッチ管理、ライセンス管理、インシデント対応を支える重要な基盤となります。

IT資産管理とは

IT資産管理とは、企業活動で利用されるIT機器、ソフトウェア、クラウドサービス、ネットワーク機器、アカウントなどを把握し、誰が、どこで、何の目的で、どの状態で使っているのかを管理することです。従来は、PCやサーバーの購入日、設置場所、利用者、リース期限などを管理する「物品管理」に近い意味で使われることもありました。しかし現在のIT資産管理では、資産を一覧化するだけでなく、資産の追加・変更・廃止に合わせて継続的に更新し、常に最新の状態で管理することが求められています。管理対象となるIT資産には、業務用PC、サーバー、スマートフォン、タブレット、ネットワーク機器、複合機、IoT機器、仮想マシン、クラウド上のインスタンス、SaaS、業務アプリケーション、OS、ミドルウェア、ライセンス、利用アカウントなどが含まれます。

NIST(米国国立標準技術研究所)が金融サービス業界向けに公表した実装ガイドでは、物理的な資産管理だけでは「自社の端末がどのOSを使っているか」「どの端末に脆弱性があるか」までは分からないとした上で、IT資産管理はこうした情報を結びつけて管理することで、資産の可視性とセキュリティを高めるものだと説明しています*1

また、IT資産管理の重要性は、NISTだけでなくCISクリティカルセキュリティコントロール(CISコントロール)でも示されています。ベストプラクティス「Control 1」では、モバイル端末を含むエンドユーザー端末、ネットワーク機器、IoT機器、サーバーを対象資産と定め、これらを物理・仮想・リモート・クラウド環境を問わず継続的に把握・追跡することが、資産管理の第一歩として位置づけられています。あわせて、未承認・未管理の資産を洗い出し、除去または是正することも求められています。

このように、IT資産管理は単なる資産一覧の作成ではなく、継続的に資産を可視化し、セキュリティ対策へつなげるための基盤といえます。IT資産管理とは「パソコンが何台あるか」を数える作業ではなく、攻撃者から見たときに侵入口になり得るもの、業務停止につながるもの、情報漏洩につながるものを可視化する取り組みです。資産の存在を知らなければ、脆弱性があっても対応できません。利用者が分からなければ、インシデント発生時に連絡できません。重要度が分からなければ、限られた人員で何から対応すべきか判断できません。

なぜ今IT資産管理が重要なのか

IT資産管理の重要性が高まっている背景には、クラウド利用の拡大、テレワークの普及、SaaSの増加があります。総務省「通信利用動向調査」は、企業における情報通信ネットワークや情報通信サービスの利用動向を把握するための統計であり、企業編ではクラウドサービス利用やテレワーク導入状況などのデータが提供されています。こうした環境では、社内ネットワーク内にある機器だけを見ていればよい時代ではなくなりました。たとえば、開発部門が検証用にクラウド環境を作成し、営業部門が顧客管理のためにSaaSを契約し、従業員が自宅や外出先から業務システムにアクセスする。こうした働き方は業務効率を高める一方で、情報システム部門が把握していないIT資産を生みやすくします。社内の承認を経ずに導入されたSaaS、管理されていないクラウドストレージ、退職者のアカウント、放置された検証環境は、いずれもセキュリティ上のリスクになります。さらに、生成AIサービスの業務利用が広がり、情報システム部門が把握していないクラウドサービスやAIツールが利用されるケースも増えています。

経済産業省とIPAが公表する「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver.3.0」でも、経営者が確認すべきチェック項目として、「守るべきデジタル環境・サービス・情報を特定し、資産の場所やビジネス上の価値等に基づいて対策の優先順位付けを行うこと」(指示4)、さらに「重要なシステムの資産管理・構成管理・パッチ管理を行うこと」、「組織内でシャドーITを利用させない対策を行うこと」(指示5)が挙げられています。

IT資産管理は、セキュリティ対策の中でも地味に見えるかもしれません。しかし、攻撃対象となる端末やサービスが増え続ける現在では、最初に取り組むべき基盤です。

IT資産管理で起こりやすい課題について詳しく解説した記事はこちら
見落としがちなIT資産がセキュリティ事故を招く?企業で起こりやすい5つの管理課題

IT資産管理ができていない企業で起こる問題

IT資産管理ができていないと、管理漏れやシャドーITの発生、サポート終了製品の放置など、セキュリティインシデントにつながるさまざまなリスクを抱えることになります。代表的な課題は次のとおりです。

管理漏れ

新しく購入した端末が台帳に反映されない、退職者のPCやアカウントが残ったままになる、検証用サーバーが本番環境と同じネットワークに接続されたまま放置される、といった状態です。平時には問題が見えにくくても、脆弱性情報が公開されたときやインシデントが発生したときに、どの端末が対象なのか、誰が利用しているのかが分からず、対応が遅れます。

シャドーIT

英国のサイバーセキュリティ機関NCSCは、シャドーITを、業務目的で使われているにもかかわらず資産管理の対象に含まれておらず、組織のITプロセスやポリシーからも外れている「未知の資産」だと位置づけています*2。対象はデバイスに限らず、従業員が個人契約しているクラウドストレージや、部門が独自に導入した未承認のクラウドサービスも含まれるとした上で、機密データの流出やマルウェア感染の拡大につながるリスクを指摘しています。

EOL(End of Life)機器

サポートが終了した製品では、脆弱性が発見されても修正プログラムが提供されない場合があります。JPCERT/CCも、マイクロソフト製品のサポート終了に関する注意喚起の中で、サポート終了後の製品は新たに発見された脆弱性が修正プログラムの提供対象外となり、悪用されるリスクが残り続けると繰り返し呼びかけています*3

ライセンス管理

不要なSaaS契約が残り続ける、退職者分のライセンスが解放されない、利用許諾に反したソフトウェア利用が発生する、といった問題は、コスト面だけでなくコンプライアンス面のリスクにもつながります。

IT資産管理と脆弱性管理の違い

IT資産管理と脆弱性管理の違いを整理すると、下表のとおりです。

項目IT資産管理脆弱性管理
目的管理対象を把握するリスクを評価する
何を行うか台帳を整備する脆弱性を検出する
管理内容利用状況を管理する優先順位を付ける
継続的な運用継続的に更新する修正・パッチ適用する

IT資産管理と脆弱性管理は、それぞれ独立した取り組みではありません。まずIT資産管理によって「何を管理すべきか」を明確にし、その上で脆弱性管理を通じてリスクを評価・対応することが重要です。IT資産を正確に把握できていなければ、脆弱性の有無を確認したり、適切に対策を講じたりすることはできません。

NIST SP 800-40 Rev.4では、企業のパッチ管理を、パッチやアップデートを識別し、優先順位付けし、取得し、適用し、適用結果を検証するプロセスとして説明しています。同文書は、パッチ適用を技術基盤の「予防保守」として位置づけ、事業継続のために必要なコストであるとも指摘しており、経営判断としても軽視すべきでない活動だとしています。これは、資産が把握されていることを前提にした活動です。

IT資産を把握した後は、脆弱性管理によってリスクを評価・対応していく必要があります。詳しくは「脆弱性管理とは?企業が行うべき脆弱性管理の基本と実践手順【2026年版】」をご覧ください。

まず何から始めればよいのか

IT資産管理を始める際に、最初から完璧な台帳を作ろうとする必要はありません。まずは、自社が守るべき範囲を決め、主要な端末、サーバー、ネットワーク機器、クラウドサービス、SaaS、アカウントを棚卸しすることから始めます。情報システム部門が管理している台帳、購買履歴、ネットワーク接続情報、MDMやEDRの管理画面、クラウド管理画面、SaaSの契約情報を突き合わせるだけでも、見落としていた資産が見つかることがあります。次に、資産台帳を整備します。台帳には、資産名、種別、利用部門、利用者、管理責任者、設置場所、OSやソフトウェアのバージョン、IPアドレス、重要度、サポート期限、最終確認日などを記録します。重要なのは、台帳を作って終わりにしないことです。入社、異動、退職、機器購入、クラウド環境作成、SaaS契約、廃棄といった業務プロセスと台帳更新を結びつけなければ、すぐに古い情報になります。最後に、可視化を継続します。IT資産管理ツールや脆弱性スキャン、クラウド管理ツール、ID管理基盤などを組み合わせることで、手作業だけでは追いきれない変化を検知しやすくなります。実際にIT資産管理を始める際には、棚卸しや台帳整備、運用ルールの策定などのステップがあります。

IT資産管理を効率化する具体的な方法はこちら
IT資産管理を効率化する方法とは?担当者が押さえたい運用のポイント

まとめ:IT資産管理はセキュリティ対策の出発点

IT資産管理は、単にIT資産台帳を作成することではなく、企業が利用する端末やサーバー、クラウドサービス、SaaSなどを継続的に把握・管理し、セキュリティ対策の土台を築くための取り組みです。IT資産の可視化ができていなければ、脆弱性管理やパッチ管理、インシデント対応を適切に進めることはできません。またIT環境は日々変化するため、一度台帳を作れば終わりではありません。新たなクラウドサービスの利用や端末の追加・廃止、組織変更などに応じて資産情報を更新し続けることが、セキュリティリスクの低減につながります。

次回は、管理が行き届かない場合に実際どのような問題が起こりやすいのか、具体的な課題を掘り下げていきます。

IT資産管理についてさらに理解を深めたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

また、IT資産管理の次のステップとなる脆弱性管理については、こちらの記事をご覧ください。
脆弱性管理とは?企業が行うべき脆弱性管理の基本と実践手順【2026年版】

【参考情報】

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アフラック不正アクセスで約438万人の個人情報漏洩 ―保険会社を狙うサイバー攻撃のリスクと企業が取るべき対策

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保険会社が保有する個人情報は、単なる氏名や住所にとどまりません。契約内容、証券番号、保障内容、口座情報など、生活や資産に深く関わる情報が含まれるため、ひとたび情報漏えいが発生すると、なりすまし連絡やフィッシング詐欺、電話詐欺などに悪用される恐れがあります。

アフラック生命保険は2026年6月30日、「契約者専用サイト「アフラック よりそうネット」などのシステムが第三者による不正アクセスを受け、顧客の個人情報を含む一部情報が漏えいした」と公表しました。対象となる顧客数は約438万人で、このうち約23万人については保険料振替口座情報も含まれるとされています。現時点で、本件に関わる情報の不正利用は確認されていません。 本記事では、アフラックの不正アクセス事案の概要を整理しながら、保険会社や金融機関、個人情報を扱う企業が見直すべきサイバーセキュリティ対策、情報漏えい対策、インシデント対応のポイントを解説します。

※本記事は2026年6月30日までに公開された情報もとに作成しています。ご覧いただく時期によっては古い情報となっている場合もありますので、ご承知おきください。

アフラックで発生した不正アクセスと個人情報漏洩の概要

アフラック生命保険の公式発表*4によると、不正アクセスを受けたのは、契約者専用サイト「アフラック よりそうネット」などのシステムです。「アフラック よりそうネット」は、契約内容の確認や住所・電話番号の変更などを、パソコンやスマートフォンから行える契約者向けサイトと説明されています。

漏洩した顧客関連の情報には、氏名、生年月日、性別、住所、電話番号、証券番号、保障内容、保険料振替口座情報などが含まれます。保険料振替口座情報には、金融機関名、支店名、預金種類、口座番号、口座名義などが含まれるとされています。一方で、「マイナンバーおよびクレジットカード情報は含まれていない」と公表されています。漏洩件数は、顧客数で約438万人です。そのうち、漏洩した項目に保険料振替口座情報が含まれる顧客数は約23万人とされています。また、代理店関連の個人情報として、代理店代表者氏名、代理店住所、代理店電話番号など、約4万店分の情報も漏洩したとのことです。

不正アクセスはいつ発生し、いつ判明したのか

公式発表によれば、情報漏洩が判明したのは2026年6月25日です。同日、アフラックは当該不正アクセスを遮断し、不正アクセスの拡大を防ぐため、関連するシステムを停止しました。その後の調査で、不正アクセスが最初に発生したのは2026年6月15日であり、6月25日までに複数回、不正にアクセスされていたことが確認されています。一方で、原因の詳細は「調査中」とされています。現時点で、脆弱性の悪用、認証情報の窃取、内部アカウントの悪用、ランサムウェア攻撃など、具体的な攻撃手口は公表されていません。

現在停止しているサービスと顧客対応

アフラックは、不正アクセスの拡大を防ぐため、一部システムを停止しています。公式ページでは、よりそうネット、人間ドック・健診予約サービス、妊活コンシェルジュサービス、オンライン家計簿サービス「マネーフォワード for アフラック」、アフラックAIサポートコンシェルジュなどが、現在利用できないサービスとして案内されています。ただし保険金・給付金の請求をはじめとする各種問い合わせや手続きは、「コールセンターなどで通常どおり受け付けている」と説明されています。対象となる顧客には、「順次、お詫びとお知らせの文書を送付する」としており、「金融庁・警察等の関係機関にも報告済み」とのことです。 システム停止は、利用者にとって不便を生みます。しかし、不正アクセスの範囲が判明していない段階で関連システムを止める判断は、被害拡大を抑えるうえで重要な初動対応です。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開している「情報漏えい発生時の対応ポイント集」でも、不正アクセスによって個人情報や機密情報が漏えいする危険性が確認された場合、ネットワークからの切り離しやサービス停止などの処置が必要になると説明されています。

なぜ保険会社の個人情報漏えいは深刻なのか

今回のアフラック不正アクセス事案で注目すべき点は、漏洩した可能性のある情報の組み合わせです。氏名、住所、電話番号、生年月日だけでなく、証券番号や保障内容、保険料振替口座情報まで含まれる場合、攻撃者は「保険契約の確認」「給付金手続き」「口座情報の確認」「契約内容の更新」などを装った連絡を行いやすくなります。これは、単なるメールアドレス漏洩よりも、なりすましの説得力が高まりやすい情報漏洩といえます。

フィッシング対策協議会はフィッシングについて、「実在する組織を騙って、ユーザネーム、パスワード、アカウントID、ATMの暗証番号、クレジットカード番号といった個人情報を詐取すること」と説明しています*2。今回の事案で実際にフィッシング被害が確認されたわけではありませんが、保険会社をかたる不審なメール、SMS、電話には十分な注意が必要です。 特に、金融機関名や口座番号が含まれる可能性がある顧客については、口座そのものから直ちに出金されるとは限らないものの、別の詐欺や本人確認の突破材料として悪用されるおそれがあります。アフラックも公式発表の中で、不審な連絡を受けた場合や、保険料振替口座における不審な取引などの懸念が生じた場合には、同社連絡先へ連絡するよう案内しています。

企業が学ぶべきポイントは「侵入されない」だけではない

サイバーセキュリティ対策というと、ファイアウォール、ウイルス対策ソフト、多要素認証、脆弱性診断など、「侵入を防ぐ対策」に目が向きがちです。もちろん、これらの対策は重要です。しかし、今回のように不正アクセスが複数回行われ、一定期間後に判明した事案を見ると、企業に求められるのは「侵入を完全に防ぐ」ことだけではありません。重要なのは、侵入の兆候を早期に検知し、被害範囲を特定し、必要なシステムを迅速に隔離し、顧客や関係機関へ適切に説明できる体制です。

個人情報保護委員会では、「個人データの漏えい等が発生し、個人の権利利益を害するおそれがある場合、個人情報保護委員会への報告および本人への通知が必要」と説明しています*3。該当する事態には、「財産的被害が生じるおそれがある事態」、「不正の目的をもって行われた漏えい等が発生した事態」、「1,000人を超える漏えい等が発生した事態」が含まれます。また、本人へ通知する際には、「概要、個人データの項目、原因などを、本人にとって分かりやすい方法」で伝える必要があります。企業の情報漏洩対応では、技術的な調査だけでなく、顧客への説明、問い合わせ対応、監督官庁への報告、再発防止策の公表までを一連のインシデント対応として設計しておく必要があります。

関連記事:情報漏洩対策の基本を詳しく知りたい方へ

情報漏洩対策は、不正アクセスを防ぐだけでは十分ではありません。情報漏洩が発生する原因や企業への影響、技術・運用・組織の3つの観点から取り組むべき対策について、基礎から分かりやすく解説しています。あわせてご覧ください。
情報漏洩対策とは何か ―企業が知るべき原因・リスク・防止策の全体像―

金融・保険業界で高まるサードパーティリスク管理の重要性

今回のアフラックの事案について、現時点の公式発表では、委託先や外部サービスが侵入経路だったとは説明されていません。そのため、本件をサードパーティ起点のインシデントと断定することはできません。一方で、金融庁は金融分野のサイバーセキュリティ対策として、サードパーティ・サイバーセキュリティリスク管理の重要性を継続的に取り上げています*4。金融庁の関連資料では、金融機関が管理すべきサードパーティや、その先に存在するNthパーティの範囲、集中リスク、契約後の継続的なモニタリングなどが課題として示されています。

アフラックでは2023年にも、業務委託先の外部業者において同社保有の個人情報の一部が流出した事案が公表されていました*5。この2023年事案では、対象となった顧客数は132万3,468人で、流出した個人情報の項目は姓のみ、年齢、性別、証券番号、保険種類番号、保障額、保険料などでした。今回の2026年事案とは発生経路や漏洩項目が異なるため同一視はできませんが、保険会社が扱う情報の価値と、外部委託先を含めた管理体制の重要性を考えるうえで、過去事例として参照できます。

保険会社、金融機関、医療機関、自治体、BtoBサービス事業者など、重要な個人情報を扱う組織では、自社システムだけでなく、外部委託先、クラウドサービス、SaaS、開発会社、運用保守会社まで含めたリスク管理が欠かせません。契約時のセキュリティチェックだけで終わらせず、運用中の監査、ログ確認、脆弱性対応、インシデント発生時の連絡体制まで確認しておくことが重要です。

企業が今すぐ見直すべきセキュリティ対策

今回の事案から企業が学ぶべき第一のポイントは、個人情報を保管するシステムのアクセス管理です。顧客情報、契約情報、口座情報などを扱う管理画面では、多要素認証、IPアドレス制限、権限の最小化、休眠アカウントの棚卸し、特権IDの監視を徹底する必要があります。IDとパスワードだけに依存した認証は、フィッシングや認証情報漏えいによって突破されるリスクがあります。

第二のポイントは、ログ監視と異常検知です。不正アクセスが発生しても、ログが取得されていなければ、侵入経路や閲覧された情報、被害範囲を後から正確に追うことが難しくなります。個人情報保護委員会のフォレンジック調査に関する資料でも、不正アクセスの原因や被害範囲を明らかにし、効果的な再発防止策につなげるために、ログなどの証拠保全が重要であることが示されています。

第三のポイントは、インシデント発生時の復旧体制です。経済産業省の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver 3.0」では、インシデントにより業務停止等に至った場合に備え、復旧手順書の策定、復旧対応体制の整備、サプライチェーンも含めた実践的な演習の実施が必要であるとされています。顧客向けサービスを止める判断、代替手段の案内、問い合わせ窓口の設置は、平時に準備していなければ迅速に実行できません。

第四のポイントは、個人情報の持ち方そのものの見直しです。すべての情報を同じシステムで参照できる状態にしていないか、業務上不要な項目まで保存していないか、口座情報などの重要情報に追加の保護措置を設けているかを確認する必要があります。情報漏えい対策では、侵入を防ぐことに加え、万が一侵入された場合でも漏洩範囲を最小化する設計が求められます。

顧客側が注意すべきこと

今回のアフラック不正アクセス事案では、現時点で情報の不正利用は確認されていないとされています。しかし、漏洩した可能性のある情報には電話番号や住所、証券番号、保障内容、口座情報が含まれるため、顧客側でも不審な連絡に注意する必要があります。もしも、「契約内容の確認が必要です」「保険料の引き落とし口座を再登録してください」「給付金の手続きに必要です」といった連絡があった場合でも、メールやSMSに記載されたURLを安易に開かず、公式サイトや正規の問い合わせ窓口から確認することが大切です。警察庁もフィッシング対策として、迷惑メッセージブロック機能の活用や、ID・パスワードの使い回しを避けることを呼びかけています*6。特に、保険会社や金融機関を名乗る電話で、暗証番号、認証コード、インターネットバンキングのログイン情報などを求められた場合は注意が必要です。正規の企業を装った連絡であっても、その場で情報を伝えず、いったん電話を切って公式窓口に確認する対応が安全です。

まとめ 情報漏えい対策は「防御」から「検知・対応・復旧」へ

アフラックの不正アクセスによる個人情報漏えいは、保険会社や金融機関だけの問題ではありません。顧客情報、契約情報、決済情報、口座情報、問い合わせ履歴などを扱うすべての企業にとって、情報漏えい対策とインシデント対応の重要性を改めて示す事案です。

今回の公式発表で確認できるのは、約438万人の顧客情報が漏えいし、そのうち約23万人については保険料振替口座情報が含まれること、代理店約4万店分の情報も漏洩したこと、そして不正アクセスが6月15日から6月25日まで複数回確認されていることです。一方で、原因や攻撃手口の詳細は調査中であり、現時点で断定できる情報は限られています。

企業に求められるのは、侵入を防ぐための対策だけではありません。異常を早く見つける監視体制、被害範囲を確認するログ管理、顧客へ説明できる情報整理、サービス停止時の代替手段、復旧手順、再発防止策までを含めた総合的なサイバーセキュリティ体制です。 個人情報漏洩は、発生してから対応を考えるのでは遅すぎます。自社の顧客情報がどこにあり、誰がアクセスでき、どのログが残り、インシデント発生時に誰が判断するのか。今回の事案を機に、企業は不正アクセス対策、脆弱性管理、ログ監視、委託先管理、インシデント対応計画を改めて見直す必要があります。

【参考情報】

編集責任:木下


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BBSec(ブロードバンドセキュリティ)では、Webアプリケーション診断、プラットフォーム診断、クラウド環境診断、脆弱性管理支援など、企業のセキュリティリスクを可視化する各種サービスを提供しています。外部サービスや委託先を含めたセキュリティ体制の見直し、情報漏えいリスクへの備え、インシデント発生前の予防対策を検討している企業は、ぜひご相談ください。


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    サッポロHD海外2社に不正アクセス ―海外グループ会社を狙うサイバー攻撃リスクとは

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    サッポロホールディングスが公表した海外グループ会社2社への不正アクセスは、海外拠点を狙ったサイバー攻撃リスクを改めて浮き彫りにしました。現時点では情報漏洩の有無や影響範囲は調査中ですが、海外子会社や現地法人のセキュリティがグループ全体の事業継続や信頼に影響を及ぼす可能性があります。本記事では、本件の概要を整理するとともに、海外拠点が攻撃の入口になりやすい理由や、企業が見直すべき認証管理、ログ監視、脆弱性管理などの対策について解説します。

    ※本記事は2026年6月30日までに公開された情報もとに作成しています。ご覧いただく時期によっては古い情報となっている場合もありますので、ご承知おきください。


    サッポロホールディングス株式会社は2026年6月24日、同社の海外グループ会社2社のシステムに対して不正アクセスが発生したことを公表しました*7。対象となったのは、POKKA PTE. LTD.とSLEEMAN BREWERIES LTD.です。サイバー攻撃の恐れがある不正な通信ログを検知し、初動調査を行った結果、不正アクセスが判明したとされています。

    今回の事案で注目すべきなのは、国内本社ではなく海外グループ会社で不正アクセスが確認された点です。企業のグローバル展開が進むなか、海外子会社、海外拠点、現地法人、委託先、販売会社などを含めたセキュリティ対策は、もはや一部門だけの問題ではありません。サイバー攻撃は、もっとも守りが弱い場所から侵入し、グループ全体の信頼や事業継続に影響を及ぼす可能性があります。 サッポロホールディングスの公表によると、POKKA PTE. LTD.では2026年6月14日、SLEEMAN BREWERIES LTD.では同年6月17日に不正アクセスを確認しています。安全確保のため、関係するシステムや機器は遮断され、外部専門家の協力のもと原因や影響範囲の調査が進められています。公表時点では、情報漏洩の事実および影響範囲は確認中であり、国内事業への影響は確認されていません。また、2社への不正アクセスについて、現時点で因果関係は認められていないとされています。

    サッポロHDの海外グループ会社で何が起きたのか

    今回の不正アクセスは、サッポロホールディングスの海外グループ会社であるPOKKA PTE. LTD.とSLEEMAN BREWERIES LTD.において確認されました。POKKA PTE. LTD.は海外飲料事業、SLEEMAN BREWERIES LTD.は海外酒類事業に関係する企業です。サッポロホールディングスは海外酒類事業を北米中心に展開しており、海外飲料事業ではシンガポール、マレーシア、中東など約60か国でPOKKAブランドを展開していると説明しています。

    このことから、今回の事案は単なる「海外拠点のトラブル」として片付けるべきものではありません。企業が海外展開を進めるほど、システム、ネットワーク、アカウント、取引先、現地運用体制は複雑になります。国内本社のセキュリティレベルが高くても、海外子会社や現地拠点の監視体制、認証管理、端末管理、ログ管理が十分でなければ、攻撃者にとって侵入口になり得ます。ただし、現時点で公表されている情報からは、ランサムウェア攻撃であったか、特定の攻撃グループが関与したか、どのような情報が外部に流出したかは確認できません。したがって、本件を「情報漏洩事故」や「ランサムウェア被害」と断定することは避ける必要があります。一次ソースから確認できるのは、不正な通信ログの検知、不正アクセスの判明、関係システム・機器の遮断、外部専門家による調査、情報漏洩の有無は確認中という点です。

    なぜ海外グループ会社はサイバー攻撃の入口になりやすいのか

    海外グループ会社や海外子会社は、サイバー攻撃の入口になりやすい構造的なリスクを抱えています。理由の一つは、拠点ごとにIT環境やセキュリティ運用の成熟度が異なりやすいことです。本社ではEDR、ログ監視、多要素認証、脆弱性管理が整備されていても、海外拠点では現地事情や人員不足により、同じ水準の対策が実施されていないケースがあります。

    もう一つの理由は、グループ会社が業務上、本社や他拠点とつながっていることです。販売、製造、物流、会計、メール、クラウドサービスなど、業務に必要な連携がある以上、一つの拠点への不正アクセスが、別拠点への攻撃や認証情報の悪用につながる可能性は否定できません。今回のサッポロホールディングスの発表では2社間の因果関係は認められていないとされていますが、企業一般のリスクとしては、海外拠点を含めたグループ全体のセキュリティ統制が重要になります。

    独立行政法人情報処理推進機構(IPA)から公開された「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織向け脅威の上位に「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が挙げられています。これは、攻撃者が必ずしも本丸である大企業や本社を直接狙うのではなく、関係会社、委託先、取引先、外部サービスなどを経由して侵入を試みるリスクが高まっていることを示しています。

    不正通信ログの検知が示す「早期発見」の重要性

    今回の公表で見落としてはならないのが、「サイバー攻撃の恐れがある不正な通信ログを検知した」という点です。不正アクセスは、必ずしも最初から目に見える被害として現れるわけではありません。ファイルが暗号化される、Webサイトが改ざんされる、顧客情報が公開されるといった被害が起きる前に、攻撃者がネットワーク内で探索や権限拡大を行っている場合があります。

    そのため、企業にとって重要なのは、攻撃を完全に防ぐことだけではなく、異常な通信、不審なログイン、通常と異なる端末挙動を早期に見つける体制です。ログを取得していても、監視や分析ができていなければ、攻撃の兆候を見逃してしまいます。特に海外拠点では、時差、言語、現地ベンダーとの契約、運用担当者の違いにより、インシデントの発見や報告が遅れる可能性があります。 不正アクセス対策では、ファイアウォールやウイルス対策ソフトだけでは不十分です。EDRによる端末監視、SIEMによるログ分析、SOCによる常時監視、ID管理、多要素認証、脆弱性診断、ペネトレーションテストなどを組み合わせ、攻撃を受けた場合でも早期に検知し、被害を最小化する考え方が求められます。

    情報漏洩が確認されていない段階でも対応が必要な理由

    サッポロホールディングスは、公表時点で情報漏洩の事実および影響範囲は確認中としています。ここで重要なのは、「漏洩が確認されていない」ことと「リスクがない」ことは同じではないという点です。サイバー攻撃では、外部送信の痕跡、認証情報の悪用、攻撃者の侵入経路、アクセスされたファイル、影響を受けたシステムを慎重に調査する必要があります。

    調査中の段階では、企業は被害範囲を過小評価することも、過度に断定することも避けなければなりません。公表内容において「確認中」「影響が確認された場合は速やかに報告」といった表現が使われているのは、調査結果に基づいて正確に説明する姿勢の表れといえます。企業が同様の事案に備えるためには、インシデント発生後の連絡体制、初動対応手順、システム遮断の判断基準、外部専門家への相談ルート、顧客・取引先への説明方針を事前に整備しておくことが重要です。サイバー攻撃を受けてから対応を考えるのではなく、攻撃を受ける前提で準備しておくことが、事業継続と信頼維持につながります。

    海外拠点を持つ企業が見直すべきセキュリティ対策

    海外グループ会社や海外子会社を持つ企業は、まずグループ全体のIT資産を把握する必要があります。どの拠点にどのシステムがあり、誰が管理し、どのネットワークとつながっているのかが分からなければ、リスクの評価も対策の優先順位付けもできません。

    次に重要なのが、認証情報の管理です。海外拠点のVPN、メール、クラウドサービス、業務システムに対して多要素認証を導入し、不要なアカウントや退職者アカウントを放置しないことが求められます。攻撃者は、脆弱性だけでなく、漏洩したID・パスワードや使い回された認証情報を悪用することがあります。

    また、脆弱性管理も欠かせません。海外拠点では、本社の管理外にあるサーバ、ネットワーク機器、リモートアクセス環境、業務アプリケーションが残っている場合があります。定期的な脆弱性診断や外部公開資産の棚卸しを行い、攻撃者から見える入口を減らすことが重要です。

    さらに、ログ監視とインシデント対応訓練も見直すべきです。不正通信ログを検知しても、その意味を判断できる人がいなければ対応は遅れます。検知、報告、遮断、調査、復旧、再発防止までの流れを整備し、海外拠点を含めて実効性を確認しておく必要があります。

    サイバー攻撃対策は「国内本社だけ」では足りない

    今回のサッポロホールディングスの事案は、海外グループ会社への不正アクセスとして公表されました。国内事業への影響は確認されていないとされていますが、企業にとっては、海外拠点を含むグループ全体のセキュリティを見直すきっかけになります。

    サイバー攻撃は、企業規模や知名度に関係なく、システムの弱点、管理のすき間、監視の遅れを突いてきます。特に海外展開を進める企業では、本社、海外子会社、委託先、取引先、クラウドサービスを含めた全体像を把握し、どこから攻撃されても早期に検知・対応できる体制を作ることが欠かせません。 不正アクセス、情報漏洩、ランサムウェア、サプライチェーン攻撃への備えは、もはや情報システム部門だけの課題ではありません。経営リスクとしてセキュリティを捉え、グループ全体で守る仕組みを整えることが、企業の信頼と事業継続を守るための第一歩です。

    まとめ

    サッポロホールディングスの海外グループ会社2社で確認された不正アクセスは、海外拠点を持つ企業にとって重要な示唆を含んでいます。公表時点では情報漏洩の有無や影響範囲は確認中であり、国内事業への影響も確認されていません。しかし、海外子会社や現地法人を含むグループ全体のセキュリティ管理が求められる時代であることは明らかです。

    企業は、海外拠点のセキュリティ対策を現地任せにせず、IT資産の把握、認証管理、脆弱性診断、ログ監視、インシデント対応体制の整備を進める必要があります。攻撃を完全に防ぐことが難しい今、重要なのは、侵入の兆候を早く見つけ、被害を広げない仕組みを持つことです。 サイバー攻撃対策を見直す際は、国内本社だけでなく、海外グループ会社、委託先、取引先、クラウド環境まで含めた全体像を確認することが欠かせません。今回の事案は、グローバル企業だけでなく、海外取引や外部委託を行うすべての企業にとって、自社のセキュリティ体制を点検する機会といえるでしょう。

    【参考情報】

    サッポロビール株式会社「当社の海外グループ会社2社のシステムへの不正アクセス発生について」(2026年6月24日公表)(https://www.sapporobreweries.com/notice/detail/20260624000010.html

    編集責任:木下


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    脆弱性診断は受けたけれど ― SSVCで考える「脆弱性管理」と優先順位付け

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    ~とある会社Aと脆弱性診断の結果を受け取った関係者とのやり取り~

    脆弱性診断を受けたA社では入社3年目のセキュリティ担当・Bさんが結果に頭を抱えています。なぜなら、社内ネットワークに使っているスイッチにCVSSスコア9.8の脆弱性、リモートアクセスに使用しているVPNゲートウェイにCVSSスコア8.8、オンラインショップ用の受発注管理に利用しているデータベースにCVSSスコア7.5の脆弱性が見つかってしまったからです。リスクはどれも「高」レベルとして報告されたため、Bさんは上司に相談し、すべてに修正パッチを当てるようスイッチとVPNゲートウェイについてはインフラチームの担当者に、データベースについては開発部に連絡することにしました。

    インフラチームのCさんとSlackでやり取りをしていたBさんはCさんからこんなことを伝えられます。

    インフラチームCさん「修正パッチを適用するとなると、インフラチームは基本みんなリモートだから、誰かを土日のどこかで休日出勤させるか、急ぎだったら平日の夜間に勤務させて、パッチを当てることになるけど、どれぐらい急ぎなの?」

    「あと、VPNとスイッチ、どっちを先に作業したほうがいいの?パッチの情報を調べてみたら、VPNのほうは一度途中のバージョンまで上げてから最新バージョンまで上げないといけないみたいで、作業時間がすごくかかりそうだから、別日で作業しないとだめかもしれないんだよね」

    Bさんは答えに詰まってしまいました。リスクレベルは高だといわれているけれども、どれぐらい急ぐのかは誰も教えてくれないからです。

    答えに詰まって「確認してから折り返し連絡します」と返したところ、「セキュリティ担当はいいなあ。土日とか夜間に作業しなくていいし、すぐに答えなくてもいいんだから」と嫌味までいわれてしまいました。

    Bさんは脆弱性診断の結果が返ってきてから1週間後、開発部門のD部長にセキュリティ担当と開発部門の定例会議の際に報告事項としてパッチ適用の件を報告しました。するとD部長はこういいました。

    開発部D部長「この件、1週間ほど報告に時間を要したようですが、脆弱性診断の結果以外に何か追加の情報はありますか?あと、この脆弱性診断の結果によるとリスクレベル高とありますが、社内の規定としてどの程度急ぐかといった判断はされましたか?」

    開発部のほかの人にもこんなことをいわれてしまいます。

    開発部担当者「パッチを適用する場合、ステージング環境で影響を調査したうえで必要であればコードや設定の修正などを行う必要がありますが、その時間や工数は考慮されていないですよね。通常の開発業務とどちらを優先すべきかといった判断はどうなっているんですか?」

    Bさんはまたもや言葉に詰まってしまいます。セキュリティ担当は自分と上司の2人だけ、上司は別の業務との兼務でパッチの適用の優先順位付けまで考えている時間はありません。自分もEDRやファイアウォールの運用をしながら脆弱性診断の依頼や結果を受け取るだけで、とても他の部門の業務内容や環境のことまで把握しきる余裕がないのです。


    ここまで、架空の会社A社と脆弱性診断の結果を受け取った関係者の反応を物語形式でお送りいたしました。現在、弊社の脆弱性診断サービスでは脆弱性単体のリスクの度合いの結果をご提供させていただくことはあっても、その脆弱性をどういった優先度で修正しなければならないかといった情報はご提供しておりません。なぜならば、パッチを適用するにあたって優先順位をつけるためにはお客様しか知りえない、以下の要素が必要になるためです。

    パッチ適用の優先順位をつけるための3つの要素

    1. 脆弱性を持つアセットが置かれている環境
      ・インターネット上で公開された状態か、IPSやFWなどで制御されたネットワーク内か、もしくはローカル環境依存といった非常に限定的な環境かといった分類
      ・CVSSでいう環境スコア(CVSS-E)の攻撃区分(MAV)にあたる、実際の環境依存の要素
    2. アセットが攻撃を受けた場合に事業継続性に与える影響
    3. アセットが攻撃を受けた場合に社会や社内(運用保守・人材)に与える影響

    冒頭のA社のケースでは以下のように整理できるでしょう。

    アセットが置かれている環境

    • VPN:インターネット上で公開された状態
    • データベース:設定を間違っていなければIPSやFWなどで制御されたネットワーク配下だが、公開ネットワーク寄り
    • スイッチ:設置環境によって制御されたネットワーク内かローカル環境になる。

    アセットが公開されている場合、攻撃者からよりアクセスしやすいことからより緊急度が高いといえるので、VPN=データベース>スイッチの順になると考えられるでしょう。

    アセットが攻撃を受けた場合に事業継続性に与える影響

    アセットが攻撃を受けた場合に自社の事業継続にどの程度影響が出るかといった要素です。
    仮にランサムウェア攻撃によって影響を受けた場合、それぞれのアセットの停止でどの程度の影響が出るかを想定してください。A社の場合事業継続性への影響度順でいうと、データベース>VPN>スイッチの順になると考えられます。

    今回の場合はデータベースが事業に直結しており、顧客情報を含むデータを持っているため、継続性への影響度が高いという想定です。アセットの利用目的や環境によってはこの順番が入れ替わることもあります。

    アセットが攻撃を受けた場合に社会や社内に対して与える影響

    A社がランサムウェア攻撃を受けた場合はオンラインショッピングサイトのデータベース関連で以下の影響が見込まれます。

    • 顧客情報の漏洩
    • 運用およびシステムの復旧にかかる費用と工数

    このほかにVPNやスイッチもフォレンジック調査の対象となって業務が行えなくなる可能性が高いと考えられます。VPNに関しては利用できない期間、社員の出社が必須になるなどワークスタイルへの影響も出る可能性もあります。こういったことから、社会および社内に対して与える影響でA社の例を考えると影響度は、データベース>VPN=スイッチと考えられるでしょう。

    SSVCとは

    こうした情報があったうえで利用ができようになる優先順位付けの方法があります。それが「SSVC(Stakeholder-Specific Vulnerability Categorization)」です。SSVCは脆弱性管理プロセスに関与する利害関係者のニーズに基づいて脆弱性に優先順位を付けるための方法論とされており、経営・マネジメント層、システム開発者、システム運用者といったステークホルダーと一緒に脆弱性に対処していくための方法論といえます。SSVCは脆弱性そのものの技術的評価ではなく、脆弱性にどのように対処するかという観点での評価を行うフレームワークになります。

    SSVCの3つのモデル

    1. ソフトウェアやハードウェアの供給者、すなわちパッチを開発する人が用いる「Supplier Decision Model
    2. ソフトウェアやハードウェアを利用する側、つまりパッチを適用する人が用いる「Deployer Decision Model
    3. CSIRTやPSIRT、セキュリティ研究者やBug Bounty Programなど、脆弱性に対して何らかの調整やコミュニケーションのハブとなりうる人、コーディネーターが用いる「Coordinator Decision Model

    このうち、「Deployer Decision Model」と「Supplier Decision Model」ではプライオリティ(対応優先度)付けの結果を4つにわけています。

    SSVCで得られるプライオリティ付けの結果

    Deployer ModelSupplier Model
    Immediateすべてのリソースを投入し、通常業務を止めてでもパッチの適用を直ちに行うべきである全社的にすべてのリソースを投入して修正パッチを開発し、リリース
    Out-of-cycle定期的なメンテナンスウィンドウより前に、やむを得ない場合は残業を伴う形で緩和策または解消策を適用緩和策または解消策を他のプロジェクトからリソースを借りてでも開発し、完成次第セキュリティパッチとして修正パッチをリリース
    Scheduled定期的なメンテナンスウィンドウで適用通常のリソース内で定期的な修正パッチのリリースタイミングでパッチをリリース
    Defer現時点で特に行うことはない現時点で特に行うことはない

    ここではDeployer Decision ModelをもとにA社がどのようにパッチを適用すべきか検討してみましょう。

    まず、Bさんは上司に相談したうえで、前述した3つの要素、「脆弱性を持つアセットが置かれている環境」、「事業継続性への影響」、「社会や社内への影響度」を定義していく必要があります。また、この定義に当たっては実際の環境や利用用途、部門内のリソースなどをよく知っているインフラチームや開発部といった当事者、つまりステークホルダーの関与(少なくとも承認)が必要となってきます。このほかに優先順位付けの結果、”Immediate”や”Out-of-Cycle”が出た場合の対応プロセスも用意しておく必要があります。Bさん1人で何かできることはそれほど多くはなく、社内のステークホルダーへの聞き取りや経営層への説明、必要なプロセスの準備と合意形成など、上司や部門全体も含めて組織的に取り組まなければならないといえます。さらに、Bさんは脆弱性自体が持つ以下の要素を調べる必要があります。

    脆弱性が持つ要素

    自動化の可能性

    攻撃者がツール化して脆弱性を悪用するかどうかを判定するものとなります。これは攻撃者がツール化した場合、攻撃者間でツールの売買が行われるなど汎用的に悪用される可能性があるため、把握が必要な要素となります。一部の脆弱性はCISA VulnrichmentやCVSS4.0のSupplement MetricsのAutomatableの値が参照できますが、情報の参照先がないものについてはPoCの有無やPoCの内容から自動化の可否を判断する必要があります。この点はSSVC利用の難点として挙げられることもあります。

    悪用の状況

    実際に攻撃されていることを示すActive、PoCのみを示すPoC、悪用されていないことを表すNoneの3つに分類されます。この情報は時間の経過とともに変化する可能性が最も高く、逐次状況を確認する必要があります。情報の参照先は、KEVカタログ、CISA VulnrichmentのExploitationの値、CVSS4.0のThreat MetricsやNVDのReferenceのPoCの有無といったものが利用できます。唯一難点があるとすれば、日本国内でシェアの高い国内メーカー機器の情報がKEVカタログやCISA Vulnrichmentなどにあまり反映されない点にあります。

    まとめ ~CVSSとSSVCの活用~

    これまではCVSSが高い値のものだけ対処していた、という組織も多いでしょう。CVSSは脆弱性の単体評価ができ、脆弱性が広く悪用された場合の深刻度を測るための評価システムです。ただし、その脆弱性が存在するアセットがどのように利用されているか、そのアセットが業務継続性や運用保守、ひいては社会全体に対してどのような影響を与えるかといった観点が欠けていることが長らく問題視されてきたのも事実です。

    脆弱性管理は手間がかかる、登場人物が多い、意見がまとまらないといったこともあるでしょうし、「自動化の可能性とかわからないし、攻撃の状況をずっと見ているほどの時間の余裕はない!」といった様々なお声があるかと思います。しかし、今この瞬間どの企業がいつサイバー攻撃を受けるのか全く見当もつかない状況の中、少しでもリスクを回避したい、どこにリスクがあるのか手がかりをはっきりしておきたいという企業の皆さまもいらっしゃるかもしれません。本記事を通じて、こういった脆弱性管理手法があることを知っていただき、活用することでリスク回避ができるようになるための役立つ情報提供となれば幸いです。

    参考情報:


    公開日:2024年9月10日
    更新日:2026年5月13日

    編集責任:木下

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    2026年1Q KEVカタログ掲載CVEの統計と分析

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    2026年1Q KEVカタログ掲載CVEの統計と分析

    米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)から公開されている「KEVカタログ(Known Exploited Vulnerabilities)」は、実際に攻撃に悪用された脆弱性の権威あるリストとして、組織のセキュリティ対策の優先順位付けに不可欠なツールとなっています。本記事では、KEVカタログに2026年1月1日~3月31日に登録・公開された脆弱性の傾向を整理・分析します。

    本記事は2025年1Q:第1四半期~4Q:第4四半期の分析レポートに続く記事となります。過去記事もぜひあわせてご覧ください。
    2025年1Q KEVカタログ掲載CVEの統計と分析

    はじめに

    2025年4Qを対象とした前回記事
    では、KEVカタログへ追加された62件のCVEを分析し、「実際に悪用された脆弱性」をどのように運用へ落とし込むべきかを整理しました。本稿はその続編として、2026年1月〜3月にKEVへ追加された71件を主対象に分析します。さらに、4月中旬までに追加された11件については速報として別枠で扱います。

    2026年1Qの統計データ概要

    2026年1Qに新規登録された脆弱性は以下の通りです。

    件数
    1月 17
    2月 28
    3月 26

    2026年1QにKEVへ追加された件数は71件でした。前回4Qの62件から増加しています。2〜3月にかけて増加傾向がみられ、2025年4Qでみられた「10月集中型」とは異なる波形を示しています。前回のような単月集中型ではなく、継続的に悪用済み脆弱性が追加された四半期だったと言えます。

    主要ベンダー別の内訳

    ベンダー 件数
    Microsoft 12
    Apple 7
    Cisco 4
    Synacor 3
    SolarWinds 3
    Google 3
    SmarterTools 3

    ベンダー別では、Microsoftが継続して最多となった一方、Apple関連脆弱性が大きく増加した点が今期の特徴です。また、SmarterMailやSolarWinds Web Help Deskなど、管理系・運用系製品の継続的な掲載も目立ちました。これは、攻撃者が単なるユーザー端末だけでなく、「管理面」や「運用基盤」そのものを重点的に狙っていることを示しています。

    脆弱性タイプ(CWE)の分布

    CWE 件数
    CWE-94(コードインジェクション) 7
    CWE-502(不適切なデータ逆シリアル化) 5
    CWE-78(OSコマンドインジェクション) 4
    CWE-288(認証回避) 4
    CWE-918(サーバサイドリクエストフォージェリ(SSRF)) 4

    今期は特に、「認証境界を越えて管理権限を奪う」タイプの脆弱性が増加しています。特にCWE-94やCWE-502は、外部公開された管理系製品と組み合わさることで、一気に侵害の起点になり得ます。

    攻撃の自動化容易性(Automatable)

    自動化攻撃が容易である「Yes」と分類された脆弱性は30件となっていました。つまり、多くの脆弱性が「自動化された攻撃」に利用されやすい状況にあると言えます。攻撃者側のスキャン・悪用速度が上がっている現在、公開管理面を持つ資産では特に短期間で侵害へ至るリスクがあります。

    技術的影響範囲(Technical Impact)

    「Total」(=脆弱性を突かれるとシステムを完全制御されてしまう深刻な影響を持つもの) が62件、partialは9件であり、大部分が侵害後に広範な影響を与えるタイプでした。

    CVSSスコア分布

    区分 件数
    Critical 30
    High 34
    Medium 7

    CVSS帯では、9.0以上の「Critical(緊急)」帯が30件、7.0~8.9の「High(高)」帯が34件と、高危険度が大半を占めました。

    CISAはKEVカタログを、「実際に悪用された脆弱性の権威ある一覧」と位置づけています。つまり、KEVに掲載された時点で、すでに攻撃者による実利用が確認されているということです。そのため、CVSSだけではなく、インターネット露出、ランサムウェア悪用確認、対応期限(dueDate)、自動化容易性(Automatable)などを踏まえた実務的な優先度付けが求められます。

    CVSSスコアの基本的な考え方と、企業の脆弱性対応判断にどう活かすべきか、以下の記事で整理しています。ぜひこちらもあわせてご覧ください。
    CVSSスコアの正しい使い方 ―脆弱性対応の判断にどう活かすべきか―

    実際にランサムウェア攻撃に悪用された脆弱性

    実際にランサムウェアに悪用されたと判明しているのは前回3件から今回4件と増加しており、「公開後すぐに武器化される」傾向がさらに強まっています。

    前回四半期との比較

    指標 2025年4Q 2026年1Q
    KEV追加件数 62 71
    Critical 24 30
    ランサムウェア悪用確認 3 4
    2024年以前のCVE 継続多数 17

    単純な件数増だけでなく、「古い脆弱性が今も悪用され続けている」ことが重要です。2024年以前のCVEが17件含まれており、未更新資産やレガシー運用が依然として攻撃対象であり続けている現実が見えてきます。

    また、2025年4Qではメモリ破壊や権限管理不備が目立ったのに対し、2026年1Qでは境界突破型の脆弱性が増加しています。これは、攻撃者が単純な破壊活動やDoS攻撃ではなく、「運用基盤そのものを掌握する」方向へ重点を移していることを示唆しています。

    注目の個別脆弱性ケーススタディ

    Cisco ― CVE-2026-20131

    CiscoのCVE-2026-20131は、今期を象徴する脆弱性の一つです。無認証・ネットワーク経由・root権限でのリモートコード実行が可能であり、ランサムウェア悪用も確認されました。さらに、KEV追加から対応期限までが極めて短く、緊急対応が必要なケースでした。*2

    この事例が示しているのは、「インターネット公開された管理面は、最優先で閉じるべき」という点です。VPN、ファイアウォール、管理コンソールなどの境界機器は、一度侵害されると内部ネットワーク全体への踏み台になります。

    BeyondTrust ― CVE-2026-1731

    BeyondTrustのCVE-2026-1731は、特権アクセス管理やRemote Support(遠隔サポート)基盤が侵害された場合の危険性を示した事例です。セルフホストかつインターネット向けな構成では、侵害後に横展開が容易になり、被害範囲が急速に拡大します。*2

    特に、管理者権限を扱う製品は「通常業務システムより優先して守るべき対象」です。業務停止だけでなく、認証情報窃取や内部侵入の起点になる可能性が高いためです。

    SmarterMail

    SmarterMail関連では、複数のCVEが短期間で継続的に追加されました。重要なのは、「一度アップデートしたから安全」という状況ではなかった点です。複数ビルドに対して連続的にcritical fixが提供されており、更新追随そのものが運用課題になっていました。

    実際にSmarterTools自身も、未更新VMが侵害起点だったことを認めています。*3これは、「資産を把握していても、更新追随に失敗すると侵害される」という教訓を示しています。

    Trivy

    Trivyのケースは、開発者やSRE (Site Reliability Engineering)にとって重要です。この事例では、GitHub Actionsタグ改ざんやsetup-trivy置換を通じて、供給網経由の侵害が発生しました*4。つまり、防御ツールそのものが攻撃経路へ変化したということです。

    このケースは、「脆弱性管理はOSやミドルウェアだけでは終わらない」ことを示しています。GitHub ActionsのSHA pinning、SBOM管理、シークレットローテーションなど、CI/CD全体の完全性確認が重要になります。

    影響評価とリスク優先度付け

    KEV対応では、「CVSSが高いから即P1」といった単純な判断は適切ではありません。実務では、実際に自社資産が存在するか、インターネットへ公開されているか、ランサムウェア悪用が確認されているか、対応期限が短いか、といった条件を重ねて優先度を決める必要があります。今回の記事では、実務運用を想定して、以下の4段階で整理します。

    優先度 条件 対応目安
    P1(変更管理より封じ込めを優先するレベル) インターネット公開 / ランサムウェア悪用確認 / 対応期限≤3日 即日〜72時間
    P2(週内対応を前提) 自動化攻撃が容易 / 技術的影響範囲(Technical Impact)「Total」 1週間以内
    P3(計画停止枠) 露出限定・代替統制あり 対応期限まで
    P4(継続監視対象) 未利用・廃止済み 継続監視

    KEV対応では、CVSSスコアだけでなく、実際の悪用状況やインターネット露出、業務影響を踏まえた優先順位付けが重要になります。こうした「何を先に直すべきか」を判断する考え方については、SSVCを用いた脆弱性管理と優先順位付けの解説記事でも詳しく紹介しています。
    脆弱性診断は受けたけれど ― SSVCで考える「脆弱性管理」と優先順位付け

    まとめ

    2026年1QのKEV分析では、「件数増加」そのものよりも、「どの資産が継続的に狙われているか」が明確になりました。特に、境界機器、管理基盤、メール基盤、CI/CDといった“運用の中枢”が攻撃対象になっています。共通しているのは、「攻撃者は管理面を狙う」という点です。

    KEVは、もはや単なる高CVSS一覧ではありません。「実際に悪用された脆弱性を、限られた時間でどう優先対応するか」を判断するための、実務上の最重要リストになっています。

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    SBOMとは?ソフトウェア部品表の基本と企業が導入すべき理由

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    SBOM(Software Bill of Materials)は、ソフトウェアを構成するOSSやライブラリ、依存関係を可視化する「ソフトウェア部品表」です。本記事では、SBOMの基本から注目される背景、OSS脆弱性管理やソフトウェアサプライチェーン対策との関係、企業が導入すべき理由まで分かりやすく解説します。

    はじめに

    ソフトウェアの安全性を考えるうえで、近年急速に重要性が高まっているのがSBOM(Software Bill of Materials)です。日本語では「ソフトウェア部品表」とも呼ばれ、ソフトウェアを構成するライブラリ、モジュール、依存関係、供給元などを整理して把握するための考え方として広がっています。背景にあるのは、企業システムの多くが自社開発のコードだけで成り立っているわけではなく、OSS、外部コンポーネント、パッケージ、クラウドネイティブな部品を組み合わせて構築されている現実です。そのため、どのソフトウェアに何が含まれているのか分からない状態では、脆弱性対応もソフトウェアサプライチェーン対策も後手に回りやすくなります。NIST(米国立標準技術研究所)ではSBOMについて、「ソフトウェアを構築するために使われた各種コンポーネントとサプライチェーン上の関係を記録した正式な記録」と説明しています*5

    SBOMは単なる開発者向けの技術資料ではありません。新しい脆弱性が公開されたときに、自社のどのシステムが影響を受けるのかを素早く把握するための基盤であり、調達先のソフトウェアを評価するための材料でもあり、継続的な脆弱性管理を支える台帳にもなります。NTIA(米国商務省電気通信情報局:National Telecommunications and Information Administration)は、「SBOMの最低要件が脆弱性管理、ソフトウェア在庫管理、ライセンス管理といった基本的なユースケースを可能にする」と整理しています*2。つまりSBOMは、単に「何が入っているか」を眺めるための一覧ではなく、ソフトウェアの透明性を高め、セキュリティ運用を速く正確にするための実務ツールです。

    SBOMとは

    SBOMとは、ソフトウェアを構成する部品の一覧とその部品同士の関係を示す情報のことです。食品に原材料表示があるようにソフトウェアにも、何でできているかを示す考え方が必要だという発想で語られることが多く、NISTもその比喩を用いて説明しています。SBOMに含まれる情報としては、コンポーネント名、供給元、バージョン、識別子、依存関係などが代表的です。

    ここで重要なのは、SBOMがソースコード一覧そのものではない、という点です。SBOMは完成したソフトウェアや提供される製品・サービスの中に、どのような構成要素が含まれているかを把握するためのものです。特にオープンソースソフトウェア(OSSを多用する現代の開発では、直接利用しているライブラリだけでなく、その先の依存関係まで含めて把握することが欠かせません。自社が書いていないコードであっても、最終的に自社サービスの一部として動作している以上、その脆弱性やライセンス、供給元リスクに無関心ではいられません。SBOMは、その見えにくい構成を可視化する手段です。

    なぜ今SBOMが注目されているのか

    SBOMが注目されている最大の理由は、ソフトウェアサプライチェーンの複雑化です。現在の企業システムは、内製コードだけで完結することが少なく、OSSライブラリ、サードパーティ製コンポーネント、外部サービス、コンテナイメージなどの積み重ねで成り立っています。その結果、脆弱性が発見されたときに自社に関係あるのかがすぐに分からないケースが増えています。SBOMがあれば、影響を受けるコンポーネントの有無を確認しやすくなり、初動のスピードを上げやすくなります。米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)もSBOMを、「ソフトウェア透明性とサプライチェーンセキュリティを支える重要な要素」として扱っています*3

    また、脆弱性対応の現実もSBOMが注目される理由の一つです。脆弱性情報は日々公開されますが、公開情報だけを見ても、自社のどのシステムにその部品が含まれているか分からなければ、対応判断が遅れます。NTIAはSBOMのユースケースとして脆弱性管理を明示しており、CISAもSBOMの実務活用をサプライチェーン防御の一部として位置付けています*4。つまりSBOMは、脆弱性情報を受け取ったあとに本当に役立つ資産側の台帳として価値を持ちます。

    SBOMで分かること

    SBOMを整備すると、まずソフトウェアに含まれるコンポーネントの全体像が見えるようになります。どのOSSライブラリが使われているか、どのバージョンか、どの供給元に由来するか、どう依存しているかが分かれば、新しい脆弱性が公表されたときの影響調査が大幅にしやすくなります。また、ライセンス確認や調達先評価、保守対象の整理にも役立ちます。NTIAは、SBOMが脆弱性、在庫、ライセンスの管理に資することを明確に示しています。

    さらにSBOMは開発部門だけでなく、運用部門、調達部門、セキュリティ部門にとっても意味があります。開発部門にとっては依存関係の可視化、運用部門にとっては影響調査の迅速化、調達部門にとってはベンダー製品の透明性確認、セキュリティ部門にとっては脆弱性管理の効率化につながります。NISTがSBOMを「サプライチェーン上の関係を含む正式な記録」として位置付けているのは、こうした部門横断の活用が前提にあるからです。

    SBOMとOSS脆弱性管理の関係

    SBOMが特に力を発揮するのは、OSS脆弱性管理の場面です。近年のソフトウェアは、多数のOSSコンポーネントに依存していますが、問題はその依存関係が深くなりやすいことです。開発者が直接追加したライブラリだけでなく、その先にぶら下がる間接依存まで含めると、構成は想像以上に複雑になります。そのためSBOMがない状態では、ある脆弱性が自社に影響するのか、どのアプリケーションに含まれているのか、を迅速に判断しにくくなります。SBOMはその複雑さを整理し、脆弱性対応の起点を作る役割を果たします。

    この点で、SBOMはSCA(Software Composition Analysis)と相性が良い考え方です。SCAはソフトウェアの依存関係を解析し、既知脆弱性やライセンス情報を確認するための仕組みですが、その結果を継続的に管理しやすくするうえでSBOMが有効です。つまりSCAが見つけるための仕組みだとすれば、SBOMは構成を記録し、影響を追いやすくするための仕組みと捉えると分かりやすいです。SBOMそのものが脆弱性を自動で直すわけではありませんが、どこに何が入っているかを把握できるだけでも、対応の速度と精度は大きく変わります。

    SBOMの代表的な形式と標準

    SBOMを実務で扱うには、機械可読な形式が重要です。NTIAの minimum elements でも、自動化を支える仕組みが重要な要件のひとつとして示されています。手書きの一覧表では更新に追いつかず、脆弱性情報との突合も難しいためです。実務で広く知られている代表的な形式としては、OWASP CycloneDX (ECMA-424)やSPDXが挙げられます。少なくともCycloneDXは、サイバーリスク低減のためのフルスタックのBill of Materials (BOM)標準として位置付けられており、現在はECMA-424として標準化されています。

    形式選定で重要なのはどちらが絶対に優れているかではなく、自社の利用目的に合っているかです。開発パイプラインに組み込みやすいか、既存ツールと連携しやすいか、脆弱性管理やライセンス管理に使いやすいか、といった観点で選ぶのが現実的です。標準形式を使うことで、ツール間連携や取引先との情報共有もしやすくなります。

    企業がSBOMを導入すべき理由

    企業がSBOMを導入すべき理由は明快です。第一に、脆弱性対応が速くなるからです。新しいCVEが出たときに、対象部品が自社のどこに入っているかを確認しやすくなれば、影響調査の時間を短縮できます。第二に、ソフトウェアサプライチェーンの透明性が高まるからです。外部から調達したソフトウェアについても、何が含まれているかが分かれば、評価や説明責任を果たしやすくなります。第三に、継続的なソフトウェア資産管理に役立つからです。NTIAもこうしたユースケースをSBOMの基本的価値として整理しています。

    加えて、SBOMはこれからの脆弱性管理の前提になりつつあります。クラウドネイティブ化や
    DevSecOps
    が進むほど、ソフトウェア構成は動的になり、人手だけで追うのは困難になります。NISTもソフトウェアサプライチェーン対策の中でSBOMを含む各種能力の実装を推奨しており、CISAもSBOM消費の実践をサプライチェーン強化の一部として扱っています。SBOMは流行語ではなく、複雑化したソフトウェア環境を管理するための土台になりつつあると考えたほうがよいでしょう。

    SBOM導入時の課題

    もっともSBOMは作れば終わりではありません。実際の課題はどう作るかよりも、どう更新し、どう使うかにあります。ソフトウェアは日々更新されるため、一度作成したSBOMを放置するとすぐに実態とずれます。またSBOMがあっても、脆弱性情報や資産台帳、SCA、CI/CDと連携していなければ、実務で十分に生きません。CISAの近年のガイダンスもSBOMの生成だけでなく消費、つまり実際の運用への組み込みを重視しています。

    そのため導入では、まず重要システムや外部公開サービスなど、影響の大きい範囲から始めるのが現実的です。CI/CDでSBOMを自動生成する仕組みを作り、SCAや脆弱性管理フローと結び付けて、脆弱性情報公開時にすぐ影響確認できるようにする。この流れができて初めて、SBOMは単なる提出資料ではなく、日常運用で役立つ仕組みになります。

    まとめ

    SBOMとは、ソフトウェアを構成する部品とその関係を記録する「ソフトウェア部品表」です。OSS利用の拡大やソフトウェアサプライチェーンの複雑化により、どのシステムに何が含まれているのかを把握する重要性はこれまで以上に高まっています。SBOMを整備することで、脆弱性対応の初動を速め、影響調査を効率化し、ソフトウェアの透明性を高めやすくなります。NTIA、NIST、CISAがいずれもSBOMを重要視しているのは、その実務的な価値が明確だからです。特にSBOMは、SBOMとは何かを理解するだけでは不十分で、脆弱性管理、SCA、CI/CD、調達管理とどう結び付けるかが重要です。企業が導入を考える際は、形式やツール選定だけでなく、更新運用と活用場面まで見据えて設計する必要があります。これからのセキュリティ運用では、SBOMは一部の先進企業だけのものではなく、ソフトウェアを安全に使い続けるための基本装備に近づいています。

    SBOMは脆弱性対応やソフトウェアサプライチェーン対策を効率化するための重要な仕組みです。ただしSBOMを整備するだけでは十分ではなく、継続的な脆弱性管理が重要になります。企業が行うべき脆弱性管理の基本や実践フローについては、以下の記事で詳しく解説しています。
    脆弱性管理とは?企業が行うべき脆弱性管理の基本と実践手順【2026年版】


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    脆弱性スキャンとは?脆弱性診断ツールの選び方と導入ポイント

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    脆弱性スキャンは、企業のシステムやネットワーク、Webアプリケーション、クラウド環境に存在する既知の脆弱性を効率よく洗い出すための基本的な手段です。近年は、公開サーバーやVPN機器だけでなく、クラウド上のワークロード、コンテナ、OSSライブラリまで管理対象が広がっており、手作業だけで安全性を確認するのは現実的ではありません。そこで重要になるのが、脆弱性スキャナーや脆弱性診断ツールを使って、環境全体を継続的に確認する考え方です。CISAも、インターネット公開資産に対する継続的な 脆弱性スキャンを、基本的な「サイバーハイジーン(Cyber Hygiene)」の一環として位置付けています。

    ただし、脆弱性スキャンを導入すれば自動的に安全になるわけではありません。スキャンはあくまで既知の弱点を機械的に見つける仕組みであり、誤検知や過検知、設定不備の見落とし、業務影響を踏まえた優先順位判断までは自動では完結しません。そのため実務では、脆弱性スキャンの役割を正しく理解したうえで、脆弱性診断や脆弱性管理のプロセスと組み合わせて運用する必要があります。本記事では、脆弱性スキャンとは何か、脆弱性診断との違い、ツール比較のポイント、導入時の考え方までを整理します。

    脆弱性スキャンとは

    脆弱性スキャンとは、サーバー、ネットワーク機器、Webアプリケーション、クラウド環境などに対して自動的に検査を行い、既知の脆弱性や不適切な設定、不足している更新などを検出する仕組みです。企業が脆弱性スキャンを導入する目的は、攻撃者に悪用される前に自社環境の弱点を見つけ、修正につなげることにあります。米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)のCyber Hygiene Servicesでも、Vulnerability Scanning(脆弱性スキャン)はインターネットから到達可能な資産を継続的に監視し脆弱性の有無を評価するサービス、として説明されています。

    脆弱性スキャンの特徴は、自動化にあります。人手では確認しきれない大量のIPアドレス、Webアプリケーション、仮想マシン、コンテナイメージなどを機械的に点検し、既知の脆弱性情報や設定ミスと突き合わせることで、短時間に広い範囲を確認できます。NIST SP 800-115『Technical Guide to Information Security Testing』でも、自動化されたテスト手法は情報セキュリティ評価の重要な手段とされ、SCAPのような標準化された枠組みが脆弱性管理の自動化を支えるものとして紹介されています。

    一方で、脆弱性スキャンには限界もあります。自動スキャンは既知のパターンには強いものの、業務ロジックに起因する脆弱性や、文脈を踏まえた攻撃シナリオまでは把握しきれない場合があります。また、誤検知や重複検知が発生することもあるため、結果をそのまま鵜呑みにするのではなく、影響の確認と優先順位付けが必要です。つまり脆弱性スキャンは、脆弱性管理の入口として非常に有効ですが、それだけで完結するものではありません。

    脆弱性スキャンを適切に実施するためには、対象となるIT資産を正確に把握することが重要です。サーバーやネットワークだけでなく、クラウド環境やOSSコンポーネントも対象となります。IT資産管理と脆弱性管理の関係については、以下の記事も参考になります。
    脆弱性管理とIT資産管理 -サイバー攻撃から組織を守る取り組み-

    脆弱性診断との違い

    脆弱性スキャン脆弱性診断は混同されやすい言葉ですが、実務上は役割が異なります。脆弱性スキャンは、既知の脆弱性や設定不備を自動的に広く洗い出すことに向いています。これに対して脆弱性診断は、専門家が対象システムの構造や挙動を踏まえながら、ツールだけでは見つけにくい問題も含めて詳細に評価する行為です。OWASPでは、ペネトレーションテストやセキュリティテストがスキャン単独よりも実際の攻撃可能性やリスク評価をより正確に把握する助けになる、と説明しています*5

    たとえば、Webアプリケーションに対する自動スキャンでは、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングの典型的なパターンは検出しやすい一方で、権限管理の不備や業務フロー上のロジック欠陥、複数機能をまたいだ複雑な脆弱性は取り逃がす可能性があります。OWASPのOWASP Web Security Testing Guideでは、Webセキュリティ評価が単なる自動実行ではなく、アプリケーションの設計や攻撃面を踏まえた体系的なテストであることを示しています。

    そのため企業では、脆弱性スキャンと脆弱性診断を対立概念として捉えるよりも、目的に応じて使い分けることが重要です。日常的な広範囲確認には脆弱性スキャンが向いており、公開Webサービスや重要システムの深い評価には脆弱性診断が向いています。脆弱性スキャンは継続運用の基盤、脆弱性診断は重点箇所の深掘りというように整理すると理解しやすいでしょう。

    脆弱性スキャンの種類

    脆弱性スキャンにはいくつかの種類があり、どこを対象にするかで使うツールや評価軸が変わります。

    Webスキャン

    OWASPでは、Webアプリケーション脆弱性スキャンを、外部からWebアプリケーションを自動検査し、XSS、SQLインジェクション、コマンドインジェクション、パストラバーサル、不適切な設定などの脆弱性を探すツール、として説明しています*2。いわゆるDAST(Dynamic Application Security Testing)に近い領域であり、インターネット公開されるサービスでは特に重要です。企業サイト、会員サイト、管理画面、APIなど、公開面があるならWebスキャンは有力な選択肢になります。

    ネットワークスキャン

    サーバー、ルーター、ファイアウォール、VPN装置などに対して、開いているポート、稼働サービス、既知の脆弱性、更新不足の状況を確認するものです。特にインターネットに公開された機器は攻撃対象になりやすいため、CISAも継続的なスキャンの重要性を強調しています。

    クラウドスキャン

    クラウドでは、OSやミドルウェアの脆弱性だけでなく、ストレージの公開設定、IAM権限、コンテナ設定、イメージの更新状況なども安全性に大きく影響します。従来型のネットワークスキャンだけでは十分でなく、CSPMやCNAPP系の機能を持つツールでクラウド設定やワークロードを可視化する必要があります。共有責任モデルのもとでは、クラウド事業者が管理しない部分は利用企業側が継続的に見なければなりません。

    さらに、OSS脆弱性スキャン、いわゆるSCAも見逃せません。現代のソフトウェアは多くのOSSライブラリに依存しており、アプリケーション本体に問題がなくても、依存パッケージの脆弱性がリスクになります。NTIA(米国商務省電気通信情報局:National Telecommunications and Information Administration)が公開している「The Minimum Elements For a Software Bill of Materials (SBOM) 」では、SBOMをソフトウェアを構成する各種コンポーネントとサプライチェーン上の関係を記録する正式な記録、と定義しており、OSS脆弱性管理の前提として極めて重要です。SCAやSBOM対応ツールを使うことで、どのアプリケーションにどの部品が含まれているかを把握しやすくなります。

    脆弱性スキャナーの比較

    脆弱性スキャナーを比較するとき、まず見るべきなのはCVE対応の範囲です。脆弱性スキャンの基本は、既知の脆弱性データと自社環境を突き合わせることにあるため、どの程度広くCVE情報やベンダー情報に対応しているかは重要です。とはいえ、単に「CVEに対応している」と書かれているだけでは不十分で、更新頻度、対応製品の広さ、クラウドやコンテナへの追従性まで見たほうが実務では役立ちます。CISAが示す脆弱性管理の考え方*3でも、継続的に変化する資産や脅威を前提にした運用が重視されています。

    次に確認したいのがスキャン精度です。脆弱性スキャナーは便利ですが、誤検知が多すぎると運用部門が疲弊し、逆に本当に重要な項目を見逃しやすくなります。逆に、検知が甘ければ見つかるべき脆弱性を取り逃がすことになります。ツールの比較では、単なる検知件数ではなく、結果がどれだけ実務で使いやすいか、重複排除や重要度の絞り込みがしやすいかも見ておく必要があります。OWASPが指摘するようにスキャン結果だけでは実際の攻撃可能性を完全に評価できない*4ため結果の解釈しやすさも重要です。

    さらに、OSSライブラリ検出やSBOM生成の可否は、近年ますます重要になっています。SCAに対応していないツールでは、アプリケーション内部の依存関係まで把握できず、ソフトウェアサプライチェーンリスクへの対応が難しくなります。SBOMを生成・管理できるかどうかは、脆弱性スキャンの範囲をインフラからソフトウェア部品まで広げられるかどうかに直結します。NTIAはSBOMが脆弱性管理、ソフトウェア在庫管理、ライセンス管理などの基本ユースケースに役立つとしています。

    脆弱性スキャン導入のポイント

    脆弱性スキャンを導入する際に考えるべきポイントは以下のとおりです。

    導入目的の明確化

    公開Webサイトの安全性を高めたいのか、社内サーバーの更新漏れを防ぎたいのか、クラウド設定不備を見つけたいのか、OSS脆弱性を把握したいのかで、適したツールは変わります。目的が曖昧なまま「有名だから」という理由だけで導入すると、期待した検知ができなかったり、運用負荷だけが増えたりします。

    導入後の運用体制の整備

    脆弱性スキャンは、導入しただけでは意味がなく、誰が結果を確認し、どこまで精査し、どの基準で是正依頼を出し、修正後にどう再確認するかまで決めておく必要があります。NISTのパッチ・脆弱性管理ガイドでも、技術そのものより、継続運用のプロセス設計が重要であることが示されています。ツール導入はゴールではなく、脆弱性管理のサイクルを回すための手段です。

    資産管理との連携

    スキャン結果を脆弱性対応に直結させるためには、資産管理との連携も欠かせません。どのサーバーがどの業務に使われているのか、どのシステムが外部公開されているのか、どのアプリケーションがどのOSS部品を利用しているのかが分からなければ、検出された脆弱性の優先順位を決められません。特にクラウドやコンテナ環境では、資産の増減が激しいため、台帳やCMDB、クラウド資産可視化と組み合わせた運用が重要です。

    脆弱性診断・ペネトレーションテストとの併用

    脆弱性スキャンは広く速く確認するのに強い一方で、業務ロジックや複雑な攻撃経路までは十分に評価できないことがあります。公開サービスや重要システムでは、重点的な診断を組み合わせるほうが現実的です。OWASPも、ペネトレーションテストがスキャンだけでは見えない実攻撃視点の評価に役立つと説明しています。

    脆弱性スキャンで脆弱性を発見した後は、迅速に対応を行うことが重要です。適切な優先順位付けやパッチ適用を行わなければ、攻撃リスクを低減することはできません。脆弱性対応の具体的な手順については、以下の記事で詳しく解説しています。
    脆弱性対応とは?CVE対応とパッチ管理の実務フロー

    脆弱性管理との関係

    脆弱性スキャンは、脆弱性管理そのものではありませんが、脆弱性管理を支える重要な要素です。脆弱性管理は、資産把握、脆弱性情報収集、評価、是正、再確認を継続的に回す運用全体を指します。その中で脆弱性スキャンは、「発見」と「継続的な監視」を支える手段として機能します。CISAが脆弱性管理を、脆弱性や悪用可能な状態の頻度と影響を減らす取り組みとして整理している*5ことからも、スキャン単独ではなく運用全体の中で捉えるべきことが分かります。

    脆弱性スキャンは、脆弱性管理の一部として実施される重要なプロセスです。しかし、スキャンを実施するだけでは不十分であり、発見した脆弱性を評価・対応まで含めて継続的に管理する必要があります。企業の脆弱性管理全体の流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。
    脆弱性管理とは?企業が行うべき脆弱性管理の基本と実践手順【2026年版】

    実務では、脆弱性スキャンで見つけた結果をそのまま並べるだけでは意味がありません。資産の重要度、公開状態、CVSS、既知悪用の有無、業務影響などを踏まえて優先順位を決め、必要な修正や診断につなげていく必要があります。さらに、OSS脆弱性についてはSCAやSBOMを組み合わせて調査範囲を広げることが重要です。つまり脆弱性スキャンは、脆弱性管理の入口であり、全体運用へつなぐための観測手段だといえます。

    まとめ

    脆弱性スキャンとは、既知の脆弱性や設定不備を自動的に洗い出し、企業の攻撃面を継続的に可視化するための基本手段です。ネットワークスキャン、Webスキャン、クラウド環境スキャン、OSS脆弱性スキャンといった種類があり、企業のシステム構成に応じて適切に選ぶ必要があります。ただし、脆弱性スキャンは万能ではなく、脆弱性診断やペネトレーションテストのような深い評価とは役割が異なります。広く見つけるのがスキャン、深く確かめるのが診断、と整理すると理解しやすいです。

    導入時に重要なのは、ツールの知名度ではなく、自社の目的に合っているかどうかです。CVE対応の広さ、スキャン精度、クラウド対応、OSSライブラリ検出、SBOM生成の可否などを見極めたうえで、導入後に誰がどのように結果を処理するかまで設計しておく必要があります。脆弱性スキャンを単独の製品選定で終わらせず、脆弱性管理の継続運用へつなげることが、企業にとって本当の導入効果につながります。

    【参考情報】


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    脆弱性対応とは?CVE対応とパッチ管理の実務フロー

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    脆弱性対応は、企業の情報システムを守るうえで避けて通れない業務です。新しい脆弱性は日々公開されており、それらの一部は実際に攻撃へ悪用されています。問題は、脆弱性の存在そのものではなく、自社に影響する脆弱性を見極められず、対応が遅れることです。脆弱性への初動が遅れれば、情報漏洩、業務停止、ランサムウェア感染など、企業活動に直結する被害へ発展しかねません。だからこそ、脆弱性対応は単なるパッチ適用ではなく、情報収集、影響調査、優先順位付け、修正、再確認までを含めた一連の実務として捉える必要があります。

    米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)は、脆弱性対応を含むvulnerability management(脆弱性管理)の目的を、脆弱性や悪用可能な状態の発生頻度と影響を減らすことだと整理しています。

    企業の脆弱性管理については、以下の記事で詳しく解説しています。
    脆弱性管理とは?企業が行うべき脆弱性管理の基本と実践手順

    脆弱性対応とは

    脆弱性対応とは、公開された脆弱性情報や自社で発見した弱点に対して、自社システムへの影響を調査し、必要な対策を選び、修正し、修正後の状態を確認する一連の対応を指します。ここで重要なのは、脆弱性対応が「脆弱性があるからすぐパッチを当てる」という単純な作業ではないことです。実務では、対象資産の把握、公開有無、業務影響、代替策の有無、停止可能時間、クラウドやOSSへの影響などを考慮しながら判断します。NISTも、パッチ管理を「パッチ、更新、アップグレードを識別し、優先順位を付け、取得し、適用し、その適用を確認するプロセス」と定義しており、単純な更新作業ではなく管理プロセスそのものとして扱っています。

    脆弱性対応が重要視される理由のひとつは、公開された脆弱性の一部が現実に悪用されているからです。CISAは「KEVカタログ(Known Exploited Vulnerabilities)」で、実際に悪用が確認された脆弱性を定期的に公開しています。つまり企業に求められるのは、脆弱性情報を収集することだけではなく、「どれが今まさに危険なのか」「自社に関係するのか」を見極めて動くことです。脆弱性対応とは、攻撃の入口になりうる弱点を、優先順位をつけて現実的に潰していく運用だといえます。

    CVEとは

    脆弱性対応を進めるうえで、まず押さえておきたいのがCVEです。CVEはCommon Vulnerabilities and Exposuresの略で、公開された脆弱性や露出情報に対して一意の識別子を付ける仕組みです。米MITREはCVE Programの役割を、公開されたサイバーセキュリティ上の脆弱性を識別し、定義し、整理することだと説明しています。

    また、NVD(米国国立脆弱性データベース)でもCVEを特定の製品やコードベースに対して識別された脆弱性の辞書・用語集として扱っています。つまりCVEは、世界中のベンダー、研究者、利用企業が同じ脆弱性を同じ名前で参照するための共通言語です。脆弱性対応を行う際には、まず対象となる脆弱性情報を正確に把握することが重要です。多くの脆弱性は CVE識別番号で管理されています。

    CVEは世界中で共有される脆弱性情報の共通IDであり、企業のセキュリティ対策において重要な役割を果たします。CVEの仕組みや意味については、以下の記事で詳しく解説しています。
    CVEとは?共通脆弱性識別子の基本と管理方法を徹底解説

    実務では、CVE識別番号だけを見て終わりではありません。CVEは「何の脆弱性か」を特定するためのIDであり、深刻度や攻撃条件、自社への影響を判断するには、NVDやベンダーアドバイザリ、製品別のセキュリティ情報をあわせて確認する必要があります。NVDはCVEに対してCVSSなどの標準化データを付与し、脆弱性管理や自動化に使える情報を提供しています。そのため企業の脆弱性対応では、「まずCVEを把握し、次にNVDやベンダー情報で内容を確認し、自社資産と突き合わせる」という流れが基本になります。

    CVSSスコアの見方

    CVEを把握したあとに多くの担当者が見るのがCVSSスコアです。CVSSはCommon Vulnerability Scoring Systemの略で、脆弱性の深刻度を定性的・数値的に表すための標準的な指標です。NVDはCVSSについて、「脆弱性の重大度を示すための方法であり、リスクそのものを示すものではない」と明確に説明しています。つまり、CVSSが高いから必ず最優先、低いから後回しでよい、とは限りません。CVSSを確認するときは、まず「スコアの高さ」よりも「どういう条件で悪用されるか」に注目したほうが有効です。たとえば、ネットワーク経由で認証不要の攻撃が可能なのか、ローカル権限が必要なのか、ユーザ操作を伴うのかによって、現実の危険度は大きく変わります。

    また同じCVSSでも、インターネットに公開された機器にある脆弱性と、閉域環境の限定的なシステムにある脆弱性では、優先度は異なります。NVDはCVSSv4.0をサポートしており*6、従来よりもきめ細かな評価が可能になっていますが、それでも「深刻度」と「自社のリスク」は同一ではありません。 実際の脆弱性対応では、CVSSに加えて、公開状態、資産の重要度、業務影響、既存の緩和策、そして実悪用の有無まで見て判断する必要があります。特に、CISAのKEVカタログに掲載された脆弱性は、すでに悪用が確認されているという意味で、単なる理論上の脆弱性より一段重く扱うべきです。CVSSは脆弱性対応の出発点として有用ですが、最終判断は必ず自社環境に引きつけて行う必要があります。

    脆弱性対応の手順

    脆弱性対応の実務フローは、一般的に以下の流れで進みます。

    1. 脆弱性情報の収集
    2. 影響調査
    3. 優先順位決定
    4. パッチ適用
    5. 再確認

    まずに必要なのは、脆弱性情報を取りこぼさないことです。CVE、NVD、ベンダーのセキュリティアドバイザリ、クラウドベンダーの通知、CISAのKEVなどを継続的に確認し、自社に関係する情報を早めに捉える必要があります。CISAは、KEV Catalogを確認し、掲載された脆弱性の修正を優先することを強く推奨しています。

    次に行うのが影響調査です。ここで重要になるのは、自社がどの資産を保有し、どのソフトウェアやクラウドサービスを利用しているかを把握していることです。脆弱性情報が公開されても、自社に対象製品があるかどうか分からなければ、対応そのものが始まりません。特にクラウド環境では、OSやミドルウェアだけでなく、コンテナイメージ、マネージドサービスの設定、アクセス権限なども確認対象になります。クラウドでは共有責任モデルが採用されており、利用企業が管理すべき範囲は依然として広く残ります。

    三つ目は優先順位決定です。ここではCVSSだけでなく、インターネット公開の有無、認証要否、既知の悪用状況、業務停止時の影響、代替策の有無を踏まえて判断します。たとえば、CVSSが高くても外部到達性がなく緩和策が効いているものより、CVSSがそこまで高くなくても既知悪用されている公開資産の脆弱性のほうが先に対処すべき場合があります。NISTのパッチ管理ガイドでも、識別だけでなく優先順位付けと検証まで含めてプロセスとして扱うことが示されています。

    その後に実施するのが修正です。多くの場合はパッチ適用やバージョン更新になりますが、常にそれだけではありません。ベンダー修正がまだ出ていない場合や、即時適用が難しい場合には、設定変更、アクセス制限、機能停止、ネットワーク分離、WAFやEDRなどによる補完策を検討する必要があります。CISAも、回避策はあくまで暫定手段であり、公式パッチが利用可能になったら移行するのが望ましいと案内しています。

    最後に必要なのが再確認です。パッチを適用したつもりでも、適用漏れ、再起動未実施、対象誤認、別系統サーバーの取り残しなどは珍しくありません。NISTはパッチ管理の定義の中に「検証」を含めています。つまり脆弱性対応は、適用作業で終わりではなく、修正が有効に反映され、サービスへの悪影響がないことまで確かめて完了します。

    クラウド環境では、OSやミドルウェアの更新だけでなく、クラウドサービスの設定やコンテナイメージの更新なども脆弱性対応に含まれます。また、近年はOSSライブラリに含まれる脆弱性が問題となるケースも増えています。SBOMを利用することで、自社システムに影響するOSS脆弱性を迅速に特定できます。NTIA(米国商務省電気通信情報局National Telecommunications and Information Administration)はSBOMを「ソフトウェアを構成する各種コンポーネントとサプライチェーン上の関係を記録する正式な記録」と説明しています。ただし、公開されている脆弱性情報だけでは、自社のシステムにどの脆弱性が存在するのかを完全に把握することはできません。そのため多くの企業では、脆弱性スキャンツールや脆弱性診断を用いてシステムの安全性を確認します。

    脆弱性スキャンの仕組みや診断方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
    脆弱性スキャンとは?脆弱性診断ツールの選び方と導入ポイント

    パッチ管理のベストプラクティス

    パッチ管理のベストプラクティスを考えるうえで大切なのは、パッチ適用を場当たり的な更新作業にしないことです。NISTはenterprise patch management(エンタープライズ向けパッチ管理)を、識別、優先順位付け、取得、適用、検証までを含むプロセスとして定義しています。この考え方に沿うなら、ベストプラクティスとは「早く当てること」だけではなく、「誰が、何を、どの順で、どこまで確認して実施するか」を事前に決めておくことになります。

    まず重要なのは、資産台帳とパッチ対象の対応関係を明確にしておくことです。対象サーバー、業務端末、ネットワーク機器、クラウド上のワークロード、仮想マシン、コンテナイメージなどが整理されていなければ、どこにパッチを適用すべきか判断できません。NISTの実装ガイドでも、日常時と緊急時の両方に対応するには、資産把握とパッチ適用の仕組みが必要だと示されています。

    次に欠かせないのが、テストと本番適用の切り分けです。重大な脆弱性だからといって、影響の大きい基幹系に無検証で更新をかけるのは危険です。一方で、テストに時間をかけすぎて攻撃されるのも問題です。したがって実務では、対象の重要度や公開状況に応じて、緊急パッチ、通常パッチ、代替策併用のように運用レベルを分ける設計が現実的です。CISAの資料でも、パッチ管理計画、テスト、バックアップ、ロールバックを含めた準備の重要性が示されています。

    さらに、近年のパッチ管理ではOSSライブラリの更新管理が欠かせません。アプリケーション本体に問題がなくても、依存するライブラリやフレームワークに脆弱性があれば、そのままリスクになります。そこで有効なのがSCAやSBOMです。SBOMによって依存関係を把握しておけば、新たなCVEが出た際にも、どのアプリケーションに影響するかを迅速に調べやすくなります。これは、パッチ管理の対象をOSやミドルウェアだけでなく、ソフトウェア部品レベルまで広げるための実務的な方法です。

    企業の脆弱性対応の失敗例

    企業の脆弱性対応が失敗する典型例は、脆弱性情報を見ているのに、自社への影響確認ができないケースです。CVEを把握しても、対象製品のバージョンや設置場所、外部公開状況が分からなければ、優先順位も対策方針も決められません。結果として、「あとで確認しよう」と先送りされ、実際に攻撃が始まった時点で慌てて対応することになります。CISAがKEVカタログを継続公開しているのは、こうした遅れが実被害につながりやすいからです。

    もうひとつ多いのは、CVSSスコアだけで機械的に対応順を決める失敗です。CVSSは重要な指標ですが、NVDでは「CVSSはリスクではない」と説明しています*2。にもかかわらず、スコアの高さだけで判断すると、公開サーバー上で悪用が進む脆弱性より、閉域環境の理論上危険な脆弱性を優先してしまうことがあります。脆弱性対応では、深刻度、公開状態、悪用実績、業務影響を合わせて考える必要があります。

    さらに、パッチを当てて終わりにしてしまうのも典型的な失敗です。適用漏れ、再起動忘れ、周辺システムの未更新、検証不足による障害発生などは珍しくありません。NISTがパッチ管理に「検証」を含めているのは、こうした現実があるからです。脆弱性対応は、修正したことを確認し、その結果を記録し、次回に再利用できる形で残して初めて組織の知見になります。

    脆弱性管理との違い

    脆弱性対応と脆弱性管理は、似ているようで役割が異なります。脆弱性対応は、個別の脆弱性が見つかったときに、影響を調べ、優先順位を付け、修正する実務です。一方の脆弱性管理は、その対応を継続的に回すための全体運用を指します。CISAが脆弱性管理を「脆弱性や悪用可能な状態の発生頻度と影響を減らすための活動」として示しているように、脆弱性管理は発見、評価、是正、確認を繰り返す仕組み全体です。脆弱性対応は、その中の重要な一工程だと考えると整理しやすくなります。

    つまり、脆弱性対応は個別事案へのアクションであり、脆弱性管理はそれを支える土台です。資産台帳、情報収集ルール、優先順位基準、パッチ管理フロー、検証体制、記録・改善の仕組みが整っていなければ、脆弱性対応は属人的になり、毎回判断がぶれます。逆に、脆弱性管理が機能していれば、新しいCVEが出ても落ち着いて影響確認と対応判断を進めやすくなります。

    IT資産管理と脆弱性管理の関係については、以下の記事で詳しく解説しています。
    脆弱性管理とIT資産管理 -サイバー攻撃から組織を守る取り組み-

    まとめ

    脆弱性対応とは、CVE情報を確認して終わることでも、パッチを当てて終わることでもありません。脆弱性情報を収集し、自社への影響を調べ、CVSSや悪用状況、業務影響を踏まえて優先順位を決め、修正し、最後に再確認するまでが一連の流れです。特に、実悪用が確認された脆弱性を優先する視点、クラウドやOSSを含めて影響を判断する視点、SBOMやSCAを活用して依存関係を見える化する視点は、今の企業実務では欠かせません。

    脆弱性対応を強くするには、単発の対応力ではなく、継続的に判断と是正を回せる仕組みが必要です。CVEを読む力、CVSSを鵜呑みにしない判断力、資産を把握する力、そしてパッチ管理を確実にやりきる運用力がそろって初めて、企業の脆弱性対応は実効性を持ちます。検索流入で「脆弱性対応」「CVE対応」「パッチ管理」を調べている担当者にとって重要なのは、知識だけでなく、明日から自社でどう動くかが見えることです。本記事がその整理の起点になれば幸いです。

    【参考情報】


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    脆弱性管理とは?企業が行うべき脆弱性管理の基本と実践手順【2026年版】

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    企業のIT環境は、もはや社内サーバーやネットワーク機器だけで完結しません。業務システムはクラウドへ移行し、開発現場ではOSSの利用が当たり前になり、SaaSやコンテナ、API連携を含めた複雑な構成が一般化しています。こうした環境では、ひとつの脆弱性が単独の問題にとどまらず、情報漏えい、業務停止、サプライチェーン全体への影響へとつながることがあります。だからこそ今、多くの企業にとって重要になっているのが「脆弱性管理」です。

    脆弱性管理とは、脆弱性を見つけることそのものではありません。自社にどの資産があり、どこに弱点があり、それがどの程度危険で、いつまでに何を直すべきかを継続的に判断し、実際に改善し続ける運用を指します。本記事では、脆弱性管理の基本から、企業が実務で押さえるべき流れ、ツールの考え方、クラウドやOSS時代に欠かせないSBOMの活用まで、2026年時点の実務に沿って整理します。

    脆弱性管理とは

    脆弱性管理とは、システムやソフトウェア、クラウド環境、ネットワーク機器などに存在するセキュリティ上の弱点を継続的に把握し、評価し、修正し、再確認する一連の運用です。単発の診断や一度きりの点検ではなく、変化し続けるIT環境に合わせて回し続けることに意味があります。CISAも、脆弱性管理を「脆弱性や悪用可能な状態の発生頻度と影響を減らす取り組み」と位置づけています。

    脆弱性管理では、日々公開される脆弱性情報を継続的に確認することが重要です。多くの脆弱性は CVE(Common Vulnerabilities and Exposures) という識別番号で管理されています。CVEの仕組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。
    CVEとは?脆弱性情報の共通識別番号を解説

    CVEは、公開されたサイバーセキュリティ上の脆弱性を識別し、共通の参照先として扱うための仕組みです。一方、NVDはそのCVE情報に対してCVSSなどの評価情報や関連データを付与し、脆弱性管理の自動化や優先順位付けに役立つデータベースとして機能しています。つまり実務では、「CVEで対象を識別し、NVDやベンダー情報で内容と深刻度を確認する」という流れが基本になります。

    現在の企業システムは、オンプレミス環境だけでなく、AWS・Azure・Google Cloud などのクラウド環境やSaaSサービスを組み合わせて構築されるケースが増えています。そのため、脆弱性管理はサーバーやネットワークだけでなく、クラウド環境やソフトウェアコンポーネントも含めて実施する必要があります。クラウドでは、基盤の一部は事業者が管理していても、設定、アクセス権、ゲストOS、コンテナイメージ、アプリケーションなどは利用企業側の責任範囲に残るためです。AWS、Microsoft、Google Cloudはいずれも共有責任モデルを明示しており、利用者側の継続的な管理を前提にしています。

    なぜ企業に脆弱性管理が必要なのか

    企業に脆弱性管理が必要な最大の理由は、脆弱性が「見つかっただけの情報」ではなく、「実際に悪用される入口」になっているからです。公開された脆弱性のすべてが直ちに攻撃に使われるわけではありませんが、CISAは実際に悪用が確認された脆弱性を Known Exploited Vulnerabilities(KEV) Catalog として公開し、組織に優先対応を促しています。つまり現代の脆弱性管理では、公開情報を眺めるだけでなく、「いま悪用されているか」「自社に影響するか」を見極めることが重要です。

    脆弱性を放置するリスクも明確です。攻撃者は、修正が遅れたVPN機器、公開サーバー、業務アプリケーション、ミドルウェア、コンテナ環境などを足がかりに侵入し、そこから権限昇格や横展開を進めます。問題は、重大な脆弱性があっても、自社資産を把握できていなければ「影響を受けているのに気づけない」ことです。脆弱性管理は、修正作業の前段として、自社に何が存在しているかを見える化する意味でも不可欠です。

    さらに、近年はOSS利用の拡大によって、ソフトウェアサプライチェーン全体のリスク管理が重要になっています。NTIAはSBOMを、ソフトウェアを構成する各種コンポーネントとそのサプライチェーン上の関係を記録する正式な記録と説明しています。OSSライブラリや依存パッケージに脆弱性が含まれていた場合、アプリケーション本体に問題がなくても、企業システム全体に影響が及ぶ可能性があります。これが、いわゆるソフトウェアサプライチェーンリスクです。

    クラウド利用の拡大も、脆弱性管理の必要性をさらに高めています。クラウド環境では、サーバーを一度構築して終わりではなく、構成変更、イメージ更新、コンテナ再配備、アクセス制御変更などが高頻度で発生します。そのため、脆弱性管理を継続的に実施しなければ、未更新のソフトウェアや脆弱なイメージ、設定不備がそのまま攻撃対象になる可能性があります。共有責任モデルのもとでは、クラウド事業者がすべてを守ってくれるわけではありません。自社が責任を持つ範囲を理解し、そこを継続的に点検する必要があります。

    脆弱性管理の基本プロセス

    脆弱性管理の基本プロセスは、一般に以下のような流れです。

    • 脆弱性の発見
    • 脆弱性評価
    • 修正
    • 検証

    ただし実務では、前提としてソフトウェア資産の把握が欠かせません。なぜなら、何を保有しているか分からない状態では、脆弱性情報を受け取っても影響判断ができないからです。NVDのような脆弱性データベースは、脆弱性管理の自動化や評価に使える標準化データを提供していますが、それを生かすには自社資産との突合が必要です。

    脆弱性の発見は、公開情報の確認だけでなく、スキャンツール、構成管理情報、ベンダーアドバイザリ、クラウドのセキュリティ機能など、複数の情報源を組み合わせて行います。次に必要になるのが評価です。ここではCVSSのような一般的な深刻度だけでなく、インターネット公開の有無、業務影響、悪用実績、代替策の有無、修正難易度などを踏まえて、自社にとっての優先度を決める必要があります。NVDも、CVSSは深刻度の定性的な指標であり、リスクそのものではないと明示しています。

    その後、実際に修正を行います。修正方法は、パッチ適用、設定変更、バージョンアップ、アクセス制御の見直し、機能停止、ネットワーク遮断などさまざまです。最後に、修正後の検証を実施し、本当に脆弱性が解消されたか、別の不具合を生んでいないかを確認します。この「修正して終わりにしない」ことが、脆弱性管理を単なる作業ではなく運用として成立させるポイントです。脆弱性管理では、まず自社のIT資産を正確に把握することが重要です。対象にはサーバーやネットワークだけでなく、クラウド環境、利用しているOSSライブラリなども含まれます。

    IT資産管理と脆弱性管理の関係については、以下の記事で詳しく解説しています。
    脆弱性管理とIT資産管理とは?サイバー攻撃から組織を守る取り組み

    近年では SBOM(Software Bill of Materials) を利用してソフトウェア構成を可視化する企業も増えています。SBOMは、ソフトウェアに何の部品が含まれているかを一覧化する考え方で、影響範囲の特定や依存関係の把握に有効です。
    SBOMとは?ソフトウェア部品表の基本と企業が導入すべき理由

    脆弱性管理のフロー(実務)

    実務に落とし込むと、脆弱性管理の流れは以下のような順番で整理することができます。

    1. 脆弱性情報の収集
    2. クラウド・OSSへの影響確認
    3. 優先度判断
    4. 修正
    5. 再確認

    まず行うべきは、CVE、ベンダーアドバイザリ、クラウドベンダー通知、各種セキュリティ情報の収集です。ここで漏れがあると、そもそも対応のスタート地点に立てません。CISAは、実際に悪用が確認された脆弱性についてKEV Catalogの確認と優先的な是正を強く推奨しています。

    次に必要なのが、収集した情報が自社環境に関係するかどうかの確認です。オンプレミス機器だけなら比較的見通しが立ちますが、現在はクラウド上のワークロード、コンテナ、OSSライブラリ、CI/CDで取り込んだ部品まで視野に入れなければ、実態を取り逃がします。とくにOSS脆弱性は、アプリケーション本体よりも深い依存関係に潜んでいる場合があり、SBOMやSCAの仕組みがないと把握が難しくなります。

    優先度判断では、CVSSの高さだけで対応順を決めないことが重要です。CVSSは比較の基準になりますが、公開サーバーにあるのか、認証が必要なのか、すでに悪用実績があるのか、業務停止時の影響はどれほどかによって、実際の対応順は変わります。NVDもCVSSをリスクそのものではないと説明しており、KEVのような実悪用情報と組み合わせて判断するのが現実的です。

    修正段階では、パッチ適用だけに視野を限定しないことが大切です。クラウド環境では、OSやミドルウェアの更新に加え、コンテナイメージの差し替え、設定変更、公開範囲の見直し、権限調整なども重要な対策になります。修正後は再スキャンや設定確認を行い、実際に解消されたことを確認します。ここで検証が不十分だと、「対応したつもり」で終わってしまい、後になって再発見されることがあります。

    脆弱性管理では、脆弱性を発見するだけでなく、発見された脆弱性に対して迅速に対応することが重要です。適切な脆弱性対応を行わなければ、攻撃者に悪用され、情報漏えいやシステム停止などの重大なインシデントにつながる可能性があります。脆弱性対応の基本的な流れや実務での対応方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
    脆弱性対応とは?CVE対応とパッチ管理の実務フロ

    近年ではクラウド環境やOSSライブラリに含まれる脆弱性の影響調査も重要になっています。SBOMを利用すると、影響範囲を迅速に把握できます。

    脆弱性管理ツールの種類

    脆弱性管理を実務で回すには、ツールの力を借りることが現実的です。ただし、ひとつの製品で全領域を完全にカバーできるとは限りません。一般的な脆弱性スキャナーは、ネットワーク機器、サーバー、OS、ミドルウェア、Webアプリケーションの既知脆弱性を見つけるのに有効ですが、OSSライブラリの依存関係やソフトウェア部品表までは十分に扱えないことがあります。そこで、管理ツール、クラウドセキュリティツール、SBOM管理ツール、SCAツールなどを役割ごとに組み合わせる設計が必要になります。

    たとえば、CSPMやCNAPPのようなクラウド向けツールは、クラウド設定やワークロードの状態を継続的に可視化するのに向いています。一方、SCAはアプリケーションが依存しているOSSコンポーネントを洗い出し、既知脆弱性との突合を支援します。SBOM管理ツールは、その構成情報を継続管理し、影響調査を効率化する役割を持ちます。2026年の脆弱性管理では、ネットワークやサーバーだけを見ていても不十分で、クラウドとソフトウェアサプライチェーンまで含めた多層的な可視化が必要です。

    OSSの脆弱性を管理するために、SCA(Software Composition Analysis)ツールやSBOM管理ツールを導入する企業も増えています。これは、ソフトウェアの構成部品とその依存関係を可視化しなければ、OSS由来の脆弱性が自社に影響するかどうかを迅速に判断しにくいためです。NTIAも、SBOMをソフトウェア構成要素の透明性向上に役立つ仕組みとして整理しています。

    SCA(Software Composition Analysis)ツールとは
    ソフトウェアに含まれるオープンソースや外部ライブラリの構成要素を解析し、既知の脆弱性やライセンスリスクを可視化するセキュリティツールです。依存関係を自動的に検出し、CVEなどの脆弱性データベースと照合することで、潜在的なリスクを早期に特定できます。また、ライセンス違反の有無も確認でき、コンプライアンス対応にも有効です。開発プロセスに組み込むことで、セキュアで安全なソフトウェア開発を支援します。

    脆弱性スキャンについてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
    脆弱性スキャンとは?脆弱性診断ツールの選び方と導入ポイント

    企業の脆弱性管理の課題

    多くの企業が脆弱性管理に苦労する理由は、脆弱性そのものより、管理対象の広がりにあります。

    IT資産の把握

    まず大きいのが、IT資産の把握が難しいことです。クラウド移行、テレワーク、SaaS利用、部門独自導入のツール、コンテナ活用が進むと、情報システム部門が把握していない資産が生まれやすくなります。この状態では、脆弱性情報を受け取っても、自社への影響有無を正確に判断できません。

    OSS依存関係の管理

    現代のソフトウェアは、直接導入しているライブラリだけでなく、その下位の依存関係にも数多くの部品を抱えています。表面的には安全に見えても、深い階層に脆弱なコンポーネントが含まれていることは珍しくありません。

    SBOMの未整備

    SBOMが未整備だと、こうした影響範囲調査に時間がかかり、対応の遅れにつながります。

    クラウド環境の可視化不足

    クラウドでは、責任分界が従来のオンプレミスとは異なり、サービス形態によって利用者側の責任範囲が変わります。そのため、「クラウド事業者が面倒を見ているはず」と誤解してしまうと、更新漏れや設定不備を放置しやすくなります。共有責任モデルを前提に、自社の管理範囲を明確にしなければ、脆弱性管理は形骸化します。

    OSS利用時に重要な脆弱性管理(SBOMの活用)

    OSSの活用は、開発効率や品質向上の面で大きなメリットがありますが、その一方で脆弱性管理を複雑にします。理由は明快で、企業が自分で一から書いていないコードであっても、最終的に自社サービスや製品の一部として責任を負うからです。OSS由来の脆弱性は、アプリケーション本体ではなく依存パッケージに潜んでいることも多く、目視や台帳だけで追いきるのは現実的ではありません。

    ここで重要になるのがSBOMです。NTIAはSBOMを、ソフトウェアを構成する各種コンポーネントとサプライチェーン上の関係を記録する正式な記録と定義しています。これを整備しておけば、新たな脆弱性が公表された際に、「自社のどのシステムに、その部品が含まれているか」を調べやすくなります。結果として、影響調査の初動が速くなり、不要な全件調査や属人的な確認作業を減らせます。

    SBOMは、単に監査対応のために作る資料ではありません。脆弱性管理の実務で使えてこそ意味があります。たとえば、SCAツールで依存関係を検出し、その情報をSBOMとして管理し、脆弱性公表時に突合するという流れが定着すれば、OSS脆弱性への対応速度と精度を高めやすくなります。今後の企業システムでは、OSS利用時の脆弱性管理をSBOM抜きで考えることは難しくなっていくでしょう。

    脆弱性管理を効率化する方法

    脆弱性管理を効率化する方法はいくつかあります。

    資産管理の自動化

    資産台帳を手作業で維持する運用では、クラウドやコンテナ、SaaSの増減に追いつけません。CMDB、クラウド資産可視化、ID管理、EDRやMDMの情報などを組み合わせて、現時点の資産情報を継続的に更新できる状態を目指す必要があります。資産情報が整えば、脆弱性情報との突合精度も上がります。

    OSS脆弱性監視

    OSS脆弱性監視の仕組みを作ることも重要です。開発時点だけでなく、運用中のアプリケーションについても、依存ライブラリの脆弱性を継続監視しなければなりません。脆弱性管理をインフラ部門だけの仕事にせず、開発部門やDevOps運用の中に組み込むことが、今の実務では不可欠です。

    SBOMによるソフトウェア構成管理

    SBOMによるソフトウェア構成管理を取り入れることで、影響調査の速度と精度をさらに高められます。SBOMが整っていれば、新たなCVEが公表された際にも、対象ソフトウェアの所在確認を短時間で進めやすくなります。加えて、KEVのような実悪用情報を監視し、CVSSだけでなく悪用実績も含めて優先順位を決める運用にすれば、限られた人員でも効果的に対応しやすくなります。脆弱性管理を効率化するとは、単にツールを増やすことではなく、「見つける」「判断する」「直す」を早く回せる仕組みへ変えることです。

    まとめ

    脆弱性管理とは、脆弱性を発見する作業ではなく、自社のIT資産、クラウド環境、OSSコンポーネントを継続的に把握し、影響を判断し、優先順位をつけて修正し、再確認する運用そのものです。2026年の企業環境では、オンプレミスだけを見ていては不十分で、クラウド、SaaS、コンテナ、OSSまで含めた視点が欠かせません。とくに、実際に悪用される脆弱性への対応と、SBOMを活用したソフトウェア構成の可視化は、これからの脆弱性管理の重要な柱になります。

    まず取り組むべきなのは、完璧な仕組みを一気に作ることではなく、自社の資産を洗い出し、脆弱性情報を収集し、優先度を判断し、修正後に確認するという基本サイクルを止めずに回すことです。そのうえで、クラウド可視化、SCA、SBOM管理などを段階的に取り入れていけば、脆弱性管理は現場で機能する実践的な仕組みに育っていきます。


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    インターネット上で「攻撃者にとって対象組織はどう見えているか」調査・報告するサービスです。攻撃者と同じ観点に立ち、企業ドメイン情報をはじめとする、公開情報(OSINT)を利用して攻撃可能なポイントの有無を、弊社セキュリティエンジニアが調査いたします。

    編集責任:木下

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