2026年上半期のサイバー脅威情勢 ―ランサムウェア被害は半期最多123件に

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警察庁が2026年9月10日に公表した「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、ランサムウェアの被害報告は123件となり、2020年下半期の統計開始以降、半期として最多となりました。注目したいのは、被害件数だけでなく、侵入経路や被害後の復旧の実態です。本記事では、警察庁の公表資料をもとに、企業が押さえておきたいポイントと必要な対策を解説します。

ランサムウェア被害は半期最多123件

2026年上半期のランサムウェア被害報告件数は、前年同期の116件から7件増えました。増加率は約6.0%です。被害を受けた企業・団体等のうち、中小企業79件、大企業31件、団体等13件でした。中小企業が全体の約64%を占め、業種別では製造業が37件と最も多くなっています。*1[統計編141・142頁]

ランサムウェア被害報告件数の半期推移

※本統計データは警察庁に報告された企業・団体等の被害件数であり、国内で発生したすべての被害を示すものではありません。

また、暗号化せずに盗んだ情報の公開をほのめかして金銭を要求する「ノーウェアランサム」は、別に9件報告されています。ランサムウェア被害を考える際には、データの暗号化だけでなく、情報窃取を伴う脅威にも注意が必要です。それでも、中小企業にも被害が広く及んでいる事実は、自社の規模を理由に対策を後回しにできないことを示しています。限られた人数で対策を進める企業ほど、インターネットに公開している機器と、停止した場合に仕事が進まなくなるシステムを具体的に洗い出すところから始めるのがよいでしょう。

感染経路はVPN機器が最多

警察庁の被害組織へのアンケートでは、感染経路の有効回答36件のうち、VPN機器が18件、リモートデスクトップが9件、その他が9件でした。VPN機器とリモートデスクトップで75%を占めました。ただし、感染経路について回答が得られた36件を対象とした結果です。*2[統計編143頁]

また、同報告書では、攻撃者が未修正の脆弱性や漏えいした認証情報などを悪用してネットワークへ侵入する手口が示されています*3[本文10頁]。そのため、「VPN機器からの侵入=製品の脆弱性が原因」とは限りません。VPN機器などのソフトウェアの更新状況だけでなく、アカウントや認証の管理も併せて確認することが重要です。

こうした侵入への対策として、警察庁の「ランサムウェア被害防止対策」では、VPN機器等への更新ファイルの適用、認証情報の適切な管理、多要素認証やアクセス制限などを挙げています。これを日々の運用に落とし込むには、装置の製品名とバージョン、保守期限、更新の担当者を把握し、不要な公開設定や使われていないアカウントを見直すところから始めます。委託先が運用している場合も、更新を依頼するだけで終えず、適用結果を確認する役割を決めておきましょう。

公開機器の管理が重要となる背景には、脆弱な機器などを探す活動が継続的に観測されていることもあります。警察庁のセンサーが検知した脆弱性探索行為等の不審なアクセスは、1日・1IPアドレス当たり1万3,687件でした*4[本文5頁]。ただし、これは警察庁の観測環境における値であり、一般企業が毎日同じ件数の攻撃を受けていることを意味するものではありません。外部から接続可能な機器やサービスを継続的に把握し、不要な公開がないか定期的に確認することが重要です。

調査・復旧費用は1,000万円以上が6割

ランサムウェア被害に伴う調査・復旧費用の総額について、有効回答35件のうち21件が1,000万円以上でした。このうち4件は1億円以上です。身代金の要求額を示す統計ではなく、被害後の調査と復旧に要した費用である点を押さえておく必要があります。また、復旧等に要した期間は、有効回答48件のうち、1か月未満が23件、回答時点で復旧中が13件でした*5[統計編144・145・146頁]。

「復旧中」には終了時期が確定していない回答が含まれるため、残りを一括して「1か月以上停止した」と読むことはできません。また、システムの復旧期間と、全社の業務停止期間も同じではありません。

被害後の負担とバックアップ復元の実態

調査・復旧費用が1,000万円以上

21件 / 有効回答35件

バックアップから復元できなかった

29件 / 有効回答40件

出典:警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」をもとに弊社作成。割合は警察庁公表の件数をもとに弊社算出。
※項目ごとに有効回答数が異なるため、2つの割合を直接比較するものではありません。また、一般企業における被害率やバックアップの失敗率を示すものではありません。

被害後の調査や復旧には大きな費用が発生する場合があります。被害が発生してから対応を検討するのではなく、平時から復旧の優先順位や必要な対応を整理しておくことが重要です。


万一の費用負担に備えるサイバー保険

サイバー攻撃への備えでは、被害を防ぐための対策に加えて、万一インシデントが発生した場合の費用負担についても考えておくことが重要です。BBSecでは、SQAT® 脆弱性診断サービスにサイバー保険を付帯しています。情報漏えいやサイバー攻撃に起因する賠償損害や、事故発生時の対応にかかる費用損害などを補償し、平時のセキュリティ対策と万一への備えを支援します。

※外部サイトにリンクします。

【関連記事】


バックアップは復元できる状態まで確かめる

バックアップからの復元結果に関する有効回答40件では、復元できたのは11件、できなかったのは29件でした*6[統計編148頁]。

バックアップを取得していても、被害発生時に必ず復元できるとは限りません。重要なのは、バックアップの有無だけでなく、保存先が攻撃の影響を受けにくい状態になっているか、実際にデータを復元できるか、復元後にシステムや業務を再開できるかまで確認しておくことです。警察庁もランサムウェア被害防止策として、バックアップをネットワークから切り離して保管することなどを呼びかけています*7。日常のバックアップ結果に加えて、復元の手順と所要時間を確認し、事業継続計画に反映させることが重要です。

さらに、暗号化されたデータを復元できても、盗まれた情報への対応は残ります。報告書によると、手口が判明した66件のうち61件は二重恐喝でした*8[本文98頁・統計編140頁]。二重恐喝とは、データの暗号化に加え、窃取した情報の公開を材料に金銭等を要求する手口です。バックアップの整備と並行して、持ち出された情報の範囲を調べ、関係者への説明に必要な事実を整理できるよう備える必要があります。

フィッシング報告は約73万件

フィッシング対策協議会の集計によると、2026年上半期のフィッシング報告件数は約73万件でした*9。なお、この数字は同協議会に寄せられた報告件数であり、被害者数や不正送金の件数を示すものではありません。前年同期を下回っているものの、引き続き多くのフィッシングが報告されており、継続した対策が必要です。

警察庁の報告書では、AI技術の発達により、文章や偽装が自然で見抜きにくいフィッシングへの注意を促しています*10[本文17頁]。そのため、「日本語が不自然なら疑う」といった見分け方だけに頼るのではなく、メールやSMSで手続きを求められた場合は、本文中のリンクからアクセスせず、公式サイトや公式アプリなど、確認済みの経路からアクセスすることが重要です。

企業側でも、従業員への注意喚起だけでなく、多要素認証の導入や不審なログインの監視など、認証情報が窃取された場合も想定した対策が求められます。フィッシング対策とランサムウェア対策は別の入口を持つことがありますが、認証情報の管理と異常の早期把握は、双方に関わる備えです。

ランサムウェア対策を事業継続につなげる

警察庁の報告書では、ネットワークへの侵入後に権限奪取や内部探索、情報窃取が行われ、暗号化に至る攻撃の流れが示されています*11[本文10頁]。こうした攻撃の流れを企業の対策に置き換えると、公開機器の管理から侵入後の監視、復旧の準備までを一続きで考えることが重要です。VPN機器などの更新や認証強化を進めるだけでなく、不審なログインや権限の悪用を把握し、速やかに封じ込めへ移れる体制を整えておく必要があります。

事業継続の準備では、どの業務を優先して再開するか、誰がシステムの切り離しや再接続を判断するか、社内システムが使えないときにどう連絡するかを具体化します。調査や封じ込めと調整しながら復旧を進める必要があるため、自然災害を想定した計画だけでは対応しきれない場面があります。

侵入への備えと事業継続をつなぐ対策

出典:警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R8kami/R08_kami_cyber_jousei.pdf)および「ランサムウェア被害防止対策」をもとに弊社作成

IT-BCPで復旧の優先順位を明確にする

ランサムウェア被害からの復旧では、システムを元に戻すだけでなく、どの業務を優先して再開するか、そのためにどのシステムから復旧するかをあらかじめ整理しておくことが重要です。また、調査や封じ込めの状況を踏まえながら復旧を進める必要があるため、復旧時の判断基準や役割分担も明確にしておく必要があります。

IT-BCPは、ITシステムが利用できなくなった場合の事業継続と復旧に備える計画です。BBSecでは、「ランサムウェアに対応したIT-BCP策定支援」を提供しています。現状の対策状況を確認し、復旧優先度や目標とする対策レベルを設定したうえで、システム・ネットワークの要件、運用要件、改善計画の具体化を支援します。「バックアップはあるものの、どのシステムから復旧するか決まっていない」「インシデント発生時の復旧判断や役割分担が明確になっていない」といった課題がある場合には、業務とシステムの関係を整理し、ランサムウェア被害を想定した復旧計画を検討しておくことが重要です。

また、インシデント発生時の初動手順や体制を整備したい場合には「インシデント初動対応準備支援」、セキュリティ対策のログ監視・分析などの運用体制を強化したい場合には「G-MDR®」など、平時からの備えを組み合わせることも有効です。

【参考情報】

編集責任:木下


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APT攻撃の手口とは?侵入から情報窃取までの流れを解説

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前回記事では、APT攻撃の全体像と、標的型攻撃との違い、企業が直面するリスクについて解説しました。今回はその中でも、攻撃者が実際にどのような手順で組織へ侵入し、情報を窃取するに至るのかという「攻撃の流れ」に焦点を当てて解説します。

APT攻撃は、マルウェアを送り付けて終わる単純な攻撃ではありません。攻撃者は事前に標的組織を調査し、侵入後も長期間にわたり潜伏しながら、社内システムの構造や重要情報の保管場所を探ります。そのうえで、認証情報の窃取、権限昇格、横展開、情報収集、外部送信といった複数の段階を踏み、最終的な目的を達成しようとします。本記事では、APT攻撃の侵入経路、侵入後の流れ、そして発見が難しい理由について解説します。

APT攻撃の定義や特徴について詳しく知りたい方は、まずこちらの記事をご覧ください。「APT攻撃とは?標的型攻撃との違いと企業リスクを解説【2026年版】

APT攻撃の特徴

初期侵入

APT攻撃の最初の段階は、標的組織の内部ネットワークへ入り込むことです。攻撃者は、いきなり重要サーバーを攻撃するのではなく、従業員の端末、リモートアクセス環境、取引先、公開Webサイトなど、比較的侵入しやすい入口を探します。

初期侵入でよく使われる手口のひとつが、標的型メールです。攻撃者は、実在する取引先や社内関係者を装ったメールを送り、添付ファイルの開封や不正URLへのアクセスを誘導します。メールの文面は業務連絡に見えるよう作り込まれていることが多く、受信者が不審に感じにくい点が特徴です。また、VPN機器やリモートアクセス製品の脆弱性も、APT攻撃の侵入経路になり得ます。テレワークの普及により、外部から社内システムへ接続する仕組みは多くの企業で利用されています。しかし、脆弱性が残ったままの機器や、認証設定が不十分な環境は、攻撃者にとって格好の入口になります。

標的型メールについて詳しくは、「標的型攻撃とは?代表的な手口と企業が取るべき対策を解説」をご覧ください。

水飲み場攻撃も、APT攻撃で使われることがあります。これは、標的となる組織の従業員がよく閲覧するWebサイトを改ざんし、アクセスした利用者の端末にマルウェアを感染させる手口です。攻撃者が標的企業の業務や関係先を調査したうえで仕掛けるため、通常のWeb閲覧の中で侵入が発生する可能性があります。

このように、APT攻撃の侵入経路は一つではありません。メール、VPN、Webサイト、取引先、クラウドサービスなど、業務で日常的に使われる経路が悪用される点に注意が必要です。

権限昇格

初期侵入に成功しても、攻撃者がすぐに目的の情報へアクセスできるとは限りません。多くの場合、最初に侵入できるのは一般従業員の端末や、限定的な権限しか持たないアカウントです。そこで攻撃者は、より強い権限を得るために権限昇格を試みます。権限昇格とは、一般ユーザーの権限から管理者権限へ、あるいは一部システムの権限から社内全体に影響する権限へと、アクセス範囲を広げる行為です。攻撃者は、端末内に保存された認証情報、設定ミス、未修正の脆弱性、過剰に付与された権限などを悪用します。

特に認証情報の窃取は、APT攻撃の流れの中で重要な意味を持ちます。IDとパスワードを奪われると、攻撃者は正規ユーザーのようにシステムへアクセスできます。正規の認証情報を使った操作は、不審なマルウェア通信よりも見逃されやすく、発見を難しくする要因になります。 企業側では、管理者権限の利用状況、特権IDの管理、不要な権限の削除、多要素認証の導入などを通じて、攻撃者が権限を広げにくい環境を作ることが重要です。

横展開

権限を得た攻撃者は、次に社内ネットワーク内を移動します。この段階を横展開と呼びます。横展開の目的は、最初に侵入した端末から、ファイルサーバー、認証サーバー、業務システム、開発環境、クラウド環境などへアクセス範囲を広げることです。APT攻撃では、攻撃者が最初から機密情報の保管場所を正確に把握しているとは限りません。そのため、侵入後に社内ネットワークを調査し、どの端末やサーバーに価値のある情報があるのかを探ります。

横展開では、リモートデスクトップ、共有フォルダ、管理ツール、正規のリモートアクセス機能などが悪用されることがあります。攻撃者が正規の管理ツールや認証情報を利用すると、通常業務との見分けがつきにくくなります。 この段階で重要なのは、ネットワーク内部の通信を「信頼しすぎない」ことです。境界防御だけに頼っていると、一度侵入された後の移動を見逃しやすくなります。社内ネットワーク内であっても、不自然なログイン、通常とは異なる時間帯のアクセス、大量のファイル閲覧、普段接続しないサーバーへのアクセスなどを監視する必要があります。

情報窃取

APT攻撃の多くは、最終的に機密情報や認証情報、知的財産、顧客情報、技術情報、経営情報などを盗み出すことを目的とします。攻撃者は、横展開によって目的の情報に近づいた後、必要なデータを収集し、外部へ送信します。情報窃取は、単純にファイルをそのまま外部へ送るだけではありません。攻撃者は、複数の端末やサーバーから情報を集め、一時的な保管場所にまとめることがあります。その後、ファイルを圧縮したり、分割したり、暗号化したりして、通常の通信に紛れ込ませながら外部へ送信します。

このような手口を取る理由は、検知を避けるためです。大量のデータが一度に外部送信されると監視に引っかかる可能性があります。そのため、攻撃者は通信量や送信タイミングを調整し、業務上の通信に見えるように偽装することがあります。情報窃取を防ぐには、重要情報の保管場所を把握し、アクセス権限を最小限に抑えることが前提になります。加えて、通常とは異なるデータアクセスや外部通信を検知できる仕組みが求められます。

長期潜伏

APT攻撃の大きな特徴は、攻撃者が長期間にわたって潜伏する点です。侵入直後に情報を盗んで終わるのではなく、継続的に情報を収集したり、再侵入のための経路を確保したりすることがあります。ここまで便宜上、初期侵入から情報窃取までを順を追って説明してきましたが、バックドアの設置やアカウントの作成といった潜伏のための準備は、情報窃取の後にまとめて行われるわけではありません。攻撃者は多くの場合、初期侵入や権限昇格の段階から並行してこれらの仕込みを進めており、万が一発見されて一部のアクセス経路を塞がれても、環境内にとどまり続けられるようにしています。こうして確保された足場をもとに、攻撃者は認証情報の保持や正規ツールの悪用などにより、長期間にわたって環境内にとどまり続けようとします。また、検知された場合に備えて、複数の侵入経路やアクセス手段を用意することもあります。

なぜ発見が難しいのか

APT攻撃が発見されにくい理由は、攻撃者が目立たない行動を重ねるためです。攻撃者は、短時間で大きな被害を出すのではなく、正規ユーザーの操作や通常業務の通信に紛れるように活動します。特に、盗まれたIDとパスワードを使ったアクセス、正規の管理ツールの利用、業務時間に合わせた通信、少量ずつのデータ送信などは、従来型のセキュリティ対策だけでは見逃される可能性があります。また、APT攻撃では侵入経路が複数に分かれることもあります。標的型メール、VPN脆弱性、サプライチェーン、クラウドアカウント、公開サーバなど、複数の入口から攻撃が行われる場合、単一の対策だけでは全体像を把握しにくくなります。

発見を難しくしているもう一つの要因は、ログの不足です。攻撃の痕跡はログに残ることがありますが、必要なログを取得していなかったり、保存期間が短かったり、分析体制が整っていなかったりすると、侵入後の流れを追跡できません。 APT攻撃に備えるには、侵入を完全に防ぐという発想だけでなく、侵入された場合に早く気づく、攻撃の範囲を把握する、被害を最小限に抑えるという考え方が重要になります。

まとめ

APT攻撃は、標的組織を調査し、初期侵入、権限昇格、横展開、情報窃取、長期潜伏といった段階を踏んで進行する高度なサイバー攻撃です。APT攻撃の手口は一つではなく、標的型メール、VPN脆弱性、水飲み場攻撃、正規アカウントの悪用など、複数の侵入経路や技術が組み合わされます。 企業が注意すべき点は、侵入を防ぐ対策だけでは不十分だということです。APT攻撃では、侵入後にどれだけ早く異常を検知できるか、横展開や情報窃取をどこで止められるかが被害の大きさを左右します。

次の記事では、APT攻撃への対策として、侵入前の防御、侵入後の検知・監視、インシデント対応体制などを解説します。
APT攻撃対策とは?検知・監視・初動対応の考え方

【参考情報】

なお、本記事で解説した初期侵入・権限昇格・横展開・情報窃取・長期潜伏といった各段階は、MITRE ATT&CKが提供する脅威フレームワークにおける戦術(Tactics)分類にも対応しています。より詳細な技術的分類を確認したい方は、MITRE ATT&CK,Enterprise Tactics(https://attack.mitre.org/tactics/enterprise/)をご参照ください。

編集責任:木下


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【企業のためのランサムウェア対策ガイド】ランサムウェアの感染経路とは ―企業が見落としがちなVPN・RDP侵入リスクを解説

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ランサムウェア対策を考えるうえで重要なのが、「どこから侵入されるのか」を理解することです。近年の企業向けランサムウェア攻撃では、メールだけでなく、VPN機器やリモートデスクトップ(RDP)の脆弱性、認証情報の悪用、サプライチェーン経由の侵入など、多様な経路が利用されています。本記事では、企業が見落としがちな代表的な感染経路と、その対策の考え方について解説します。

ランサムウェアの基本的な仕組みや全体像については、以下の記事で整理しています。
ランサムウェアとは何か ―企業が知るべき被害・仕組み・対策の基本―

ランサムウェアは、ある日突然社内のパソコンやサーバ上で実行されるように見えます。しかし実際には、その前段階で攻撃者が企業ネットワークへ侵入しています。メール、VPN機器、リモートデスクトップ、ソフトウェアの脆弱性、外部委託先など、侵入経路はさまざまです。特に近年は、単に添付ファイルを開かせる攻撃だけでなく、インターネットに公開されたVPN機器やリモートアクセス環境の脆弱性、認証情報の悪用、委託先や外部サービスを踏み台にした侵入が問題になっています。警察庁やIPAの資料でも、国内のランサムウェア被害ではVPN機器やリモートデスクトップなど、テレワーク環境に関連する経路が多く確認されています。

ランサムウェアはどこから侵入するのか

ランサムウェアの感染経路は、ひとつに限定されません。攻撃者は、企業の外部に開いている入口、従業員が日常的に使うメール、保守やテレワークのためのリモート接続、未修正のソフトウェア、さらには取引先や委託先との接続関係まで、複数の経路を組み合わせて侵入を試みます。従来は、ランサムウェアというと「不審なメールの添付ファイルを開いて感染する」というイメージが強くありました。もちろんメールは現在でも重要な感染経路ですが、企業におけるランサムウェア被害では、VPN機器やリモートデスクトップなど、外部から社内環境へ接続するための仕組みが狙われるケースが目立ちます。

米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)が公開している「#StopRansomware Guide」でも、ランサムウェアやデータ恐喝型攻撃の初期侵入経路として、インターネットに公開された脆弱性や設定ミス、フィッシング、認証情報の悪用、リモートアクセス環境などが重視されています。つまり、ランサムウェア対策は「端末にウイルス対策ソフトを入れる」だけでは不十分であり、外部公開資産、認証、運用設定、委託先管理まで含めて考える必要があります。

代表的な感染経路

メールによる感染

メールは、現在でもランサムウェア感染の代表的な入口です。攻撃者は、請求書、見積書、配送通知、業務連絡、採用関連の連絡などを装い、添付ファイルや本文中のリンクを開かせようとします。従業員が添付ファイルを開いたり、リンク先で認証情報を入力したりすると、マルウェア感染やアカウント窃取につながる可能性があります。ただし、近年のランサムウェア攻撃では、メールから即座に暗号化が始まるとは限りません。メールをきっかけに認証情報を盗み、その後VPNやクラウドサービスへ不正ログインする場合もあります。また、メール経由で侵入したマルウェアが端末内の情報を収集し、攻撃者が次の侵入経路を探す足がかりになることもあります。そのため、メール対策は「怪しいメールを開かないように教育する」だけでは不十分です。迷惑メール対策、添付ファイルの検査、URLフィルタリング、多要素認証、端末の挙動監視を組み合わせ、万が一クリックされても被害が広がりにくい仕組みを整える必要があります。

VPN機器の脆弱性

企業のランサムウェア対策で特に注意すべき感染経路が、VPN機器の脆弱性です。VPNは、テレワークや拠点間接続、外部からの保守作業に欠かせない仕組みですが、インターネット側に公開されているため、攻撃者にとっても狙いやすい入口になります。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、ランサムウェア被害の感染経路としてVPN機器経由が大きな割合を占め、VPN機器経由とリモートデスクトップ経由を合わせると毎年高い割合を占めていることが示されています。

VPN機器に未修正の脆弱性が残っている場合、攻撃者は認証を突破したり、機器上の情報を盗んだり、社内ネットワークへ侵入したりする可能性があります。特に、サポート切れの機器、更新が滞っているファームウェア、初期設定に近いまま運用されている環境、不要なアカウントが残っている環境は危険です。VPN機器は一度導入すると、業務インフラとして長く使われがちです。そのため、導入時には問題がなかったとしても、数年後に深刻な脆弱性が公表され、攻撃対象になることがあります。ランサムウェア対策では、VPN機器のメーカー名、型番、バージョン、サポート期限、適用済みパッチを定期的に確認することが重要です。

リモートデスクトップ(RDP)の悪用

リモートデスクトップ(RDP)も、ランサムウェアの代表的な感染経路です。RDPは、離れた場所から社内のPCやサーバを操作できる便利な仕組みですが、外部から直接接続できる状態になっていると、攻撃者にとって格好の侵入口になります。CISAが公開するランサムウェア関連アドバイザリ(#StopRansomware: Akira Ransomware)でも、RDPやVPNなどのリモートアクセスサービスが初期侵入に使われる事例が継続的に示されています。

攻撃者は、単純なパスワードの総当たり攻撃、過去に漏えいした認証情報の悪用、設定不備の探索などによって、RDP接続を突破しようとします。一度RDP経由で社内端末やサーバへ入られると、攻撃者は管理者権限の取得、他端末への横展開、データの持ち出し、バックアップの削除、ランサムウェアの実行へと進む可能性があります。RDPを業務上どうしても使う場合は、インターネットへ直接公開しないことが基本です。VPNやゼロトラスト型のアクセス制御を経由させ、多要素認証を必須にし、接続元制限、ログ監視、不要アカウントの削除を徹底する必要があります。

ソフトウェアの脆弱性

ランサムウェアの感染経路として見落とされやすいのが、OS、ミドルウェア、業務システム、Webアプリケーション、ネットワーク機器などのソフトウェア脆弱性です。Verizon「2025 Data Breach Investigations Report」(DBIR)でも、脆弱性の悪用による初期アクセスが増加していることが示されており、境界デバイスや外部公開システムの管理が企業のセキュリティ課題として重要になっています。

攻撃者は、公開された脆弱性情報をもとに、未修正のシステムをインターネット上で探索します。特に危険なのは、外部からアクセスできるシステムに深刻な脆弱性が残っている場合です。VPN、ファイアウォール、メールサーバ、ファイル転送システム、Web管理画面、クラウド連携用の管理コンソールなどは、攻撃者から常に探索対象になっていると考えるべきです。脆弱性対策では、単にパッチを適用するだけではなく、自社がどのシステムを外部公開しているかを把握することが出発点になります。資産管理が不十分なままでは、どの機器に脆弱性があるのか、どのシステムを優先して更新すべきかを判断できません。

サプライチェーン経由の感染

ランサムウェアの感染経路は、自社のネットワークや端末だけに限られません。委託先、外部サービス、クラウドサービス、保守ベンダー、取引先との接続環境を通じて侵入されることもあります。こうした外部経由の侵入は、サプライチェーン攻撃としても知られています。Verizon「2025 Data Breach Investigations Report」でも、漏えい・侵害に第三者が関与する割合が増加していることが示されており、サプライチェーンリスクは企業規模を問わず無視できない課題になっています。

たとえば、業務委託先が利用しているアカウントが侵害され、そのアカウントを使って自社環境へ不正アクセスされるケースがあります。また、外部保守用に開放していたリモート接続が攻撃者に悪用される場合や、取引先とのファイル共有環境を通じてマルウェアが持ち込まれる場合もあります。サプライチェーン経由の感染が厄介なのは、自社だけで完全に制御しにくい点です。自社のセキュリティ対策が一定水準に達していても、接続先や委託先の管理が甘ければ、そこが攻撃者にとっての入口になります。

こうした外部経由の侵入は、サプライチェーン攻撃としても知られています。詳しくは以下の記事で解説しています。
サプライチェーン攻撃とは ―委託先・外注先リスクから情報漏えいを防ぐ全体像―

ランサムウェア対策としては、委託先との接続経路、付与している権限、共有している情報、外部アカウントの管理状況を定期的に見直す必要があります。外部委託先に対しても、多要素認証、アクセス権限の最小化、ログ取得、契約上のセキュリティ要件、インシデント発生時の連絡体制を確認しておくことが重要です。

なぜ気づかず侵入されるのか

ランサムウェア感染が深刻化する理由のひとつは、攻撃者が侵入してから暗号化を実行するまでに時間差があることです。企業側から見ると、ある日突然ファイルが暗号化されたように見えます。しかし実際には、その前に認証情報の窃取、社内探索、権限昇格、横展開、データ窃取といった活動が行われている場合があります。攻撃者が長く潜伏できる背景には、認証情報の管理不備があります。退職者や異動者のアカウントが残っている、管理者権限が過剰に付与されている、同じパスワードを複数システムで使い回している、多要素認証が導入されていない、といった状態では、攻撃者にとって侵入後の行動が容易になります。また、設定ミスも大きな問題です。RDPがインターネットに公開されている、VPN機器のファームウェアが古い、管理画面に外部からアクセスできる、不要なポートが開いている、ログが保存されていないといった状態は、攻撃者にとって有利に働きます。

NIST(米国立情報技術研究所)NIST IR 8374 Rev.1「Ransomware Risk Management: A Cybersecurity Framework 2.0 Community Profile」では、ランサムウェアへの備えとして、識別、防御、検知、対応、復旧を含めた包括的なリスク管理の重要性が示されています。これは、ランサムウェア対策が単なるマルウェア対策ではなく、資産管理、アクセス制御、バックアップ、ログ監視、インシデント対応を含む経営課題であることを意味します。

感染リスクを下げるための考え方

ランサムウェアの感染リスクを下げるには、すべての対策を一度に完璧に実施しようとするのではなく、侵入されやすい場所から優先順位をつけて対策することが重要です。特に企業では、VPN機器、リモートデスクトップ、外部公開サーバ、メール、認証情報、委託先接続の順に確認すると、自社の弱点を見つけやすくなります。

最初に行うべきことは、外部から見える資産の棚卸しです。どのVPN機器を使っているのか、RDPが外部公開されていないか、古いサーバや管理画面が残っていないか、クラウドサービスの管理者アカウントが適切に管理されているかを確認します。自社が把握していないシステムは、守ることも更新することもできません。次に、認証情報の保護を強化します。多要素認証の導入、不要アカウントの削除、管理者権限の最小化、パスワードの使い回し防止、ログイン試行の監視は、ランサムウェア対策の基本です。特にVPN、RDP、クラウド管理画面、メールアカウントには優先的に適用すべきです。さらに、脆弱性管理を継続的に行う必要があります。OSやソフトウェアの更新だけでなく、ネットワーク機器、VPN、ファイアウォール、NAS、ファイル転送システムなど、外部公開される可能性のある機器の脆弱性情報を確認し、リスクの高いものから修正します。バックアップも重要ですが、バックアップがあるだけでは十分ではありません。攻撃者にバックアップまで削除・暗号化されないよう、ネットワークから分離したバックアップや、復旧手順の確認が必要です。ランサムウェア対策では、感染を防ぐ対策と、感染した場合でも事業を止めない対策を組み合わせることが求められます。

まとめ

ランサムウェアの感染経路は、メールだけではありません。VPN機器の脆弱性、リモートデスクトップの悪用、ソフトウェアの未修正脆弱性、認証情報の窃取、設定ミス、委託先や外部サービスを経由したサプライチェーン攻撃など、企業のさまざまな入口が狙われています。特に近年の企業向けランサムウェア攻撃では、攻撃者が事前に社内ネットワークへ侵入し、権限を広げ、データを盗み、最後に暗号化を実行する流れが一般化しています。そのため、ランサムウェア対策は「感染後にどう復旧するか」だけでなく、「どこから入られる可能性があるか」を把握し、侵入経路を減らすことから始める必要があります。

企業がまず取り組むべきことは、自社の外部公開資産を把握し、VPNやRDPの設定を見直し、ソフトウェアの脆弱性を管理し、認証情報を守り、委託先との接続経路を確認することです。すべてを一度に完璧にする必要はありませんが、攻撃者にとって狙いやすい入口を放置し続けることは、ランサムウェア被害のリスクを高めます。ランサムウェアの感染経路を理解することは、対策の出発点です。自社のどこが侵入口になり得るのかを確認し、優先順位をつけて改善していくことが、企業のランサムウェア対策において最も現実的で効果的な第一歩になります。

万が一感染してしまった場合の具体的な対応については、以下の記事で詳しく解説しています。
セキュリティインシデントの基礎から対応・再発防止まで 第2回:セキュリティインシデント発生時の対応 ─初動から復旧まで

【参考情報】

編集責任:木下


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