
警察庁が2026年9月10日に公表した「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、ランサムウェアの被害報告は123件となり、2020年下半期の統計開始以降、半期として最多となりました。注目したいのは、被害件数だけでなく、侵入経路や被害後の復旧の実態です。本記事では、警察庁の公表資料をもとに、企業が押さえておきたいポイントと必要な対策を解説します。
ランサムウェア被害は半期最多123件
2026年上半期のランサムウェア被害報告件数は、前年同期の116件から7件増えました。増加率は約6.0%です。被害を受けた企業・団体等のうち、中小企業79件、大企業31件、団体等13件でした。中小企業が全体の約64%を占め、業種別では製造業が37件と最も多くなっています。*1[統計編141・142頁]
ランサムウェア被害報告件数の半期推移

※本統計データは警察庁に報告された企業・団体等の被害件数であり、国内で発生したすべての被害を示すものではありません。
また、暗号化せずに盗んだ情報の公開をほのめかして金銭を要求する「ノーウェアランサム」は、別に9件報告されています。ランサムウェア被害を考える際には、データの暗号化だけでなく、情報窃取を伴う脅威にも注意が必要です。それでも、中小企業にも被害が広く及んでいる事実は、自社の規模を理由に対策を後回しにできないことを示しています。限られた人数で対策を進める企業ほど、インターネットに公開している機器と、停止した場合に仕事が進まなくなるシステムを具体的に洗い出すところから始めるのがよいでしょう。
感染経路はVPN機器が最多
警察庁の被害組織へのアンケートでは、感染経路の有効回答36件のうち、VPN機器が18件、リモートデスクトップが9件、その他が9件でした。VPN機器とリモートデスクトップで75%を占めました。ただし、感染経路について回答が得られた36件を対象とした結果です。*2[統計編143頁]
また、同報告書では、攻撃者が未修正の脆弱性や漏えいした認証情報などを悪用してネットワークへ侵入する手口が示されています*3[本文10頁]。そのため、「VPN機器からの侵入=製品の脆弱性が原因」とは限りません。VPN機器などのソフトウェアの更新状況だけでなく、アカウントや認証の管理も併せて確認することが重要です。
こうした侵入への対策として、警察庁の「ランサムウェア被害防止対策」では、VPN機器等への更新ファイルの適用、認証情報の適切な管理、多要素認証やアクセス制限などを挙げています。これを日々の運用に落とし込むには、装置の製品名とバージョン、保守期限、更新の担当者を把握し、不要な公開設定や使われていないアカウントを見直すところから始めます。委託先が運用している場合も、更新を依頼するだけで終えず、適用結果を確認する役割を決めておきましょう。
公開機器の管理が重要となる背景には、脆弱な機器などを探す活動が継続的に観測されていることもあります。警察庁のセンサーが検知した脆弱性探索行為等の不審なアクセスは、1日・1IPアドレス当たり1万3,687件でした*4[本文5頁]。ただし、これは警察庁の観測環境における値であり、一般企業が毎日同じ件数の攻撃を受けていることを意味するものではありません。外部から接続可能な機器やサービスを継続的に把握し、不要な公開がないか定期的に確認することが重要です。
調査・復旧費用は1,000万円以上が6割
ランサムウェア被害に伴う調査・復旧費用の総額について、有効回答35件のうち21件が1,000万円以上でした。このうち4件は1億円以上です。身代金の要求額を示す統計ではなく、被害後の調査と復旧に要した費用である点を押さえておく必要があります。また、復旧等に要した期間は、有効回答48件のうち、1か月未満が23件、回答時点で復旧中が13件でした*5[統計編144・145・146頁]。
「復旧中」には終了時期が確定していない回答が含まれるため、残りを一括して「1か月以上停止した」と読むことはできません。また、システムの復旧期間と、全社の業務停止期間も同じではありません。
被害後の負担とバックアップ復元の実態
調査・復旧費用が1,000万円以上
60.0%
21件 / 有効回答35件
バックアップから復元できなかった
72.5%
29件 / 有効回答40件
出典:警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」をもとに弊社作成。割合は警察庁公表の件数をもとに弊社算出。
※項目ごとに有効回答数が異なるため、2つの割合を直接比較するものではありません。また、一般企業における被害率やバックアップの失敗率を示すものではありません。
被害後の調査や復旧には大きな費用が発生する場合があります。被害が発生してから対応を検討するのではなく、平時から復旧の優先順位や必要な対応を整理しておくことが重要です。
万一の費用負担に備えるサイバー保険
サイバー攻撃への備えでは、被害を防ぐための対策に加えて、万一インシデントが発生した場合の費用負担についても考えておくことが重要です。BBSecでは、SQAT® 脆弱性診断サービスにサイバー保険を付帯しています。情報漏えいやサイバー攻撃に起因する賠償損害や、事故発生時の対応にかかる費用損害などを補償し、平時のセキュリティ対策と万一への備えを支援します。
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バックアップは復元できる状態まで確かめる
バックアップからの復元結果に関する有効回答40件では、復元できたのは11件、できなかったのは29件でした*6[統計編148頁]。
バックアップを取得していても、被害発生時に必ず復元できるとは限りません。重要なのは、バックアップの有無だけでなく、保存先が攻撃の影響を受けにくい状態になっているか、実際にデータを復元できるか、復元後にシステムや業務を再開できるかまで確認しておくことです。警察庁もランサムウェア被害防止策として、バックアップをネットワークから切り離して保管することなどを呼びかけています*7。日常のバックアップ結果に加えて、復元の手順と所要時間を確認し、事業継続計画に反映させることが重要です。
さらに、暗号化されたデータを復元できても、盗まれた情報への対応は残ります。報告書によると、手口が判明した66件のうち61件は二重恐喝でした*8[本文98頁・統計編140頁]。二重恐喝とは、データの暗号化に加え、窃取した情報の公開を材料に金銭等を要求する手口です。バックアップの整備と並行して、持ち出された情報の範囲を調べ、関係者への説明に必要な事実を整理できるよう備える必要があります。
フィッシング報告は約73万件
フィッシング対策協議会の集計によると、2026年上半期のフィッシング報告件数は約73万件でした*9。なお、この数字は同協議会に寄せられた報告件数であり、被害者数や不正送金の件数を示すものではありません。前年同期を下回っているものの、引き続き多くのフィッシングが報告されており、継続した対策が必要です。
警察庁の報告書では、AI技術の発達により、文章や偽装が自然で見抜きにくいフィッシングへの注意を促しています*10[本文17頁]。そのため、「日本語が不自然なら疑う」といった見分け方だけに頼るのではなく、メールやSMSで手続きを求められた場合は、本文中のリンクからアクセスせず、公式サイトや公式アプリなど、確認済みの経路からアクセスすることが重要です。
企業側でも、従業員への注意喚起だけでなく、多要素認証の導入や不審なログインの監視など、認証情報が窃取された場合も想定した対策が求められます。フィッシング対策とランサムウェア対策は別の入口を持つことがありますが、認証情報の管理と異常の早期把握は、双方に関わる備えです。
ランサムウェア対策を事業継続につなげる
警察庁の報告書では、ネットワークへの侵入後に権限奪取や内部探索、情報窃取が行われ、暗号化に至る攻撃の流れが示されています*11[本文10頁]。こうした攻撃の流れを企業の対策に置き換えると、公開機器の管理から侵入後の監視、復旧の準備までを一続きで考えることが重要です。VPN機器などの更新や認証強化を進めるだけでなく、不審なログインや権限の悪用を把握し、速やかに封じ込めへ移れる体制を整えておく必要があります。
事業継続の準備では、どの業務を優先して再開するか、誰がシステムの切り離しや再接続を判断するか、社内システムが使えないときにどう連絡するかを具体化します。調査や封じ込めと調整しながら復旧を進める必要があるため、自然災害を想定した計画だけでは対応しきれない場面があります。
侵入への備えと事業継続をつなぐ対策

IT-BCPで復旧の優先順位を明確にする
ランサムウェア被害からの復旧では、システムを元に戻すだけでなく、どの業務を優先して再開するか、そのためにどのシステムから復旧するかをあらかじめ整理しておくことが重要です。また、調査や封じ込めの状況を踏まえながら復旧を進める必要があるため、復旧時の判断基準や役割分担も明確にしておく必要があります。
IT-BCPは、ITシステムが利用できなくなった場合の事業継続と復旧に備える計画です。BBSecでは、「ランサムウェアに対応したIT-BCP策定支援」を提供しています。現状の対策状況を確認し、復旧優先度や目標とする対策レベルを設定したうえで、システム・ネットワークの要件、運用要件、改善計画の具体化を支援します。「バックアップはあるものの、どのシステムから復旧するか決まっていない」「インシデント発生時の復旧判断や役割分担が明確になっていない」といった課題がある場合には、業務とシステムの関係を整理し、ランサムウェア被害を想定した復旧計画を検討しておくことが重要です。
[ランサムウェアに対応したIT-BCP策定支援の詳細・相談はこちら]
また、インシデント発生時の初動手順や体制を整備したい場合には「インシデント初動対応準備支援」、セキュリティ対策のログ監視・分析などの運用体制を強化したい場合には「G-MDR®」など、平時からの備えを組み合わせることも有効です。
【参考情報】
- 警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(令和8年9月)(https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R8kami/R08_kami_cyber_jousei.pdf)
- 警察庁「ランサムウェア被害防止対策」(https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/countermeasures/ransom.html)
- フィッシング対策協議会、月次報告書「2026/6 フィッシング報告状況」(https://www.antiphishing.jp/report/monthly/202606.html)
編集責任:木下
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