【企業のためのランサムウェア対策ガイド】ランサムウェアの攻撃手法とは – 侵入から暗号化までの流れを解説

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ランサムウェア攻撃は、単にファイルを暗号化するだけではありません。近年の攻撃では、侵入後に認証情報の窃取や権限昇格、社内ネットワーク内での横展開、重要データの窃取を経て、最終的に暗号化や二重恐喝へと発展するケースが一般的です。本記事では、ランサムウェア攻撃がどのような段階を経て進行するのか、その流れと企業が警戒すべきポイントを解説します。

ランサムウェアの基本的な仕組みや全体像については、以下の記事で整理しています。
ランサムウェアとは何か ―企業が知るべき被害・仕組み・対策の基本―

ランサムウェア攻撃は、単に「ウイルスに感染してファイルが暗号化される攻撃」ではありません。現在の企業向けランサムウェア攻撃では、攻撃者が社内ネットワークへ侵入し、認証情報を盗み、権限を広げ、重要データを持ち出し、最後にシステムやファイルを暗号化するという複数段階の流れをたどることが一般的です。特に近年は、暗号化だけでなく、事前に窃取したデータを公開すると脅す「二重恐喝」が多く確認されています。警察庁「サイバー空間をめぐる脅威の情勢等」の調査報告によると、近年のランサムウェア被害はデータを窃取したうえで「対価を支払わなければ公開する」と脅す二重恐喝が多くを占めるといいます。

ランサムウェア攻撃の全体像

ランサムウェア攻撃は、外部から突然暗号化プログラムが送り込まれて終わるものではありません。実際には、攻撃者が最初に侵入経路を確保し、その後に社内環境を調査し、より強い権限を持つアカウントを探し、重要なサーバやファイル共有へ移動しながら、最終的に暗号化や脅迫へ進む流れを取ります。

米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)が公開している「#StopRansomware Guide」でも、ランサムウェアやデータ恐喝型攻撃への対策が初期侵入経路ごとに整理されています。本ガイドでは、インターネットに公開されたシステム、脆弱性、認証情報、リモートアクセス、メールなどが重要な観点として扱われています。つまり、ランサムウェア対策は、暗号化プログラムそのものを止めるだけでなく、攻撃の前段階をどこで検知し、どこで遮断するかが重要になります。攻撃の流れを理解すると、ランサムウェア対策の考え方も変わります。入口対策だけではなく、侵入後の不審な認証、権限昇格、横展開、データ窃取、バックアップ破壊、暗号化準備といった兆候を監視する必要があります。特に企業では、感染を完全に防ぐことだけに注力するのではなく、侵入された場合でも早期に発見し、被害拡大を防ぐ体制が求められます。

ランサムウェアの仕組みについては、以下の記事でより詳しく解説しています。
ランサムウェアの仕組みとは ―感染から暗号化までの動きを解説―

攻撃の流れ(フェーズ別)

侵入

ランサムウェア攻撃の最初の段階は、企業ネットワークへの侵入です。侵入経路としては、フィッシングメール、VPN機器の脆弱性、リモートデスクトップ、外部公開サーバ、認証情報の悪用、委託先や外部サービス経由のアクセスなどが挙げられます。

攻撃者は、必ずしも高度な手法だけを使うわけではありません。公開済みの脆弱性が修正されていないVPN機器や、外部公開されたリモートデスクトップ接続(RDP)、使い回されたパスワード、退職者の残存アカウントなど、基本的な管理不備が入口になることもあります。この段階で重要なのは、自社の外部公開資産を把握し、侵入口になり得る箇所を減らすことです。攻撃者から見えるサーバ、VPN、リモートアクセス環境、クラウド管理画面、ファイル共有サービスを把握できていなければ、侵入の兆候を見つけることも、優先的に対策することも難しくなります。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織向け脅威として「ランサム攻撃による被害」が1位、「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が2位に挙げられており、企業にとってランサムウェアと外部経由の侵入は継続的な重要課題とされています。

権限昇格

侵入に成功した攻撃者は、次により強い権限を得ようとします。一般ユーザの端末に入っただけでは、重要サーバの停止や大規模な暗号化を実行できない場合があるためです。そのため、攻撃者は端末内に保存された認証情報、ブラウザに残ったパスワード、管理ツールの接続情報、設定ファイル、共有フォルダ内の情報などを探します。

権限昇格が成功すると、攻撃者は管理者アカウントやドメイン管理者権限を悪用し、より広範囲のシステムへアクセスできるようになります。管理者権限を持つアカウントが日常業務にも使われている場合や、複数のサーバで同じ認証情報が使い回されている場合、攻撃者の行動範囲は一気に広がります。この段階を防ぐためには、管理者権限の最小化、特権アカウントの分離、多要素認証、不要アカウントの削除、認証ログの監視が重要です。ランサムウェア攻撃では、暗号化そのものより前に、認証情報の不正利用や通常とは異なるログインが発生していることがあります。その兆候を早く見つけることが、被害拡大を防ぐ鍵になります。

横展開(ラテラルムーブメント)

権限を得た攻撃者は、社内ネットワーク内を移動しながら、重要なサーバやデータの所在を探します。この動きを横展開、またはラテラルムーブメントと呼びます。横展開では、ファイルサーバ、業務システム、Active Directory、バックアップサーバ、仮想基盤、クラウド連携システムなどが調査対象になります。攻撃者は、どのシステムを暗号化すれば業務停止の影響が大きいか、どのデータを盗めば脅迫材料になるか、どのバックアップを破壊すれば復旧を困難にできるかを確認します。この段階では、社内通信の異常、管理者ツールの不審な利用、通常とは異なる時間帯のアクセス、複数端末への連続ログイン、ファイル共有への大量アクセスなどが兆候になります。しかし、正規のアカウントや管理ツールが悪用される場合、単純なウイルス対策ソフトだけでは検知が難しいことがあります。そのため、ランサムウェア対策では、EDRやログ監視、ネットワーク監視、認証基盤の監視を組み合わせ、侵入後の不審な行動を見つける考え方が重要になります。

データ窃取

近年のランサムウェア攻撃では、暗号化の前にデータを盗む手口が一般化しています。攻撃者は、顧客情報、従業員情報、契約書、財務情報、設計情報、取引先情報、メールデータなどを持ち出し、身代金交渉の材料にします。この手法が二重恐喝です。従来のランサムウェアは、ファイルを暗号化して「復号したければ身代金を支払え」と要求するものでした。しかし現在は、暗号化に加えて「盗んだデータを公開する」「取引先や顧客へ連絡する」と脅すケースが増えています。この段階で被害が発生すると、たとえバックアップからシステムを復旧できたとしても、情報漏洩対応、顧客説明、取引先対応、法的対応、信用低下への対応が必要になります。つまり、バックアップは重要ですが、バックアップだけでランサムウェア被害を完全に抑え込めるわけではありません。データ窃取を早期に検知するには、重要データへのアクセス監視、大量ダウンロードの検知、外部送信通信の監視、クラウドストレージやファイル共有サービスの利用状況確認が必要です。特に、通常業務では発生しない大量の圧縮ファイル作成や外部アップロードは、ランサムウェア攻撃の前兆として注意すべきです。

暗号化

攻撃の最終段階で、ランサムウェアによる暗号化が実行されます。攻撃者は、業務停止の影響が大きいサーバや共有フォルダ、端末、仮想基盤を対象にし、ファイルを暗号化します。同時に、バックアップを削除したり、復旧機能を無効化したり、セキュリティ製品を停止しようとする場合もあります。暗号化が始まると、業務システムが使えない、ファイルサーバにアクセスできない、受発注や出荷が止まる、社内の連絡体制が混乱するなど、事業継続に大きな影響が出ます。NIST(米国立標準技術研究所)が公開しているNIST IR 8374でも、重要業務の復旧優先順位、バックアップの保護、復旧手順のテスト、対応計画の整備が重要であると示されています。暗号化段階まで到達してからでは、被害をゼロに抑えることは難しくなります。そのため、企業のランサムウェア対策では、暗号化を検知する仕組みに加え、暗号化前の侵入、権限昇格、横展開、データ窃取を早期に見つけることが重要です。

最近の攻撃の特徴

最近のランサムウェア攻撃の特徴は、暗号化だけに依存しない点にあります。攻撃者は、データを盗み、公開をちらつかせ、企業の信用や取引関係に圧力をかけることで、身代金の支払いを迫ります。この二重恐喝型の攻撃では、システム復旧だけでは問題が終わりません。情報漏洩の有無、漏洩した可能性のある情報の範囲、顧客や取引先への説明、監督官庁への報告など、経営判断を伴う対応が必要になります。

また、データ公開を前提にした脅迫も深刻です。攻撃者は、盗んだ情報の一部をリークサイトに掲載したり、公開期限を設けたり、顧客や取引先へ連絡すると主張したりすることがあります。これにより、企業は業務停止だけでなく、信用低下、顧客離脱、取引停止、法的責任のリスクにも直面します。

さらに、攻撃の分業化や自動化も進んでいます。ランサムウェア攻撃では、初期アクセスを売買する攻撃者、侵入後に権限を広げる攻撃者、データを窃取する攻撃者、暗号化と脅迫を行う攻撃者が分かれている場合があります。このような状況では、従来型の「入口で防ぐ」だけの対策では限界があります。攻撃者が社内に入った後の行動をどう検知するか、重要システムへの到達をどう遅らせるか、データ窃取をどう見つけるか、暗号化された場合にどう復旧するかまで含めた対策が必要です。

なぜ攻撃を止められないのか

ランサムウェア攻撃を止められない大きな理由は、侵入から暗号化までの途中段階に気づけないことです。攻撃者は、正規のアカウントや管理ツールを悪用することがあります。その場合、単純に「不審なファイルがあるか」「既知のマルウェアが検出されたか」だけを見ていても、攻撃の進行に気づけない可能性があります。

また、権限管理の不備も被害を拡大させます。管理者権限を持つアカウントが多すぎる、退職者のアカウントが残っている、共有アカウントを使っている、重要サーバへのアクセス制限が甘い、といった状態では、攻撃者が一度侵入しただけで広範囲へ移動できてしまいます。

検知遅れの背景には、ログが残っていない、ログを見ていない、異常を判断する基準がない、担当者が限られている、休日や夜間の監視ができないといった運用面の課題もあります。セキュリティ製品を導入していても、アラートを確認する体制がなければ、攻撃の兆候を見逃す可能性があります。 そのため、ランサムウェア対策では、技術対策だけでなく、運用体制の整備が欠かせません。誰がアラートを見るのか、どの条件で隔離するのか、どの段階で経営層へ報告するのか、外部専門家へいつ相談するのかを事前に決めておく必要があります。

企業が理解すべきポイント

企業がまず理解すべきなのは、ランサムウェア攻撃を完全に防ぐことは難しいという現実です。もちろん、脆弱性管理、メール対策、多要素認証、EDR、バックアップ、ネットワーク分離などの対策は重要です。しかし、攻撃手法は変化し続けており、外部委託先やクラウドサービス、認証情報の悪用など、自社だけでは完全に制御しにくい要素もあります。だからこそ、企業に求められるのは「侵入されないこと」だけを前提にした対策ではなく、「侵入される可能性を前提に、早期に検知し、被害を限定し、復旧できる体制」を整えることです。早期検知の観点では、通常とは異なるログイン、権限昇格、管理者ツールの不審な利用、複数端末への連続アクセス、大量のファイル操作、外部への大容量通信などを監視することが重要です。これらは、暗号化が始まる前に現れる可能性がある兆候です。

また、経営層はランサムウェアを単なるIT部門の問題としてではなく、事業継続、情報管理、顧客対応、法務、広報、取引先対応を含む経営リスクとして捉える必要があります。ランサムウェア攻撃は、システム停止だけでなく、情報漏洩、信用低下、売上損失、顧客離脱、サプライチェーンへの影響を引き起こす可能性があるためです。

ランサムウェアによって企業にどのような被害が発生するのかについては、次の記事で詳しく解説します。
ランサムウェア被害の実態 – 業務停止・損害・企業が直面するリスクとは

まとめ

ランサムウェア攻撃は、侵入、権限昇格、横展開、データ窃取、暗号化という複数の段階を経て進行します。暗号化は被害が目に見える最終段階であり、その前には攻撃者による認証情報の悪用、社内探索、重要データの特定、情報持ち出しが行われている可能性があります。近年は、データを暗号化するだけでなく、盗んだ情報を公開すると脅す二重恐喝が多く確認されています。そのため、バックアップを取得しているだけでは十分とはいえません。復旧できる体制に加え、データ窃取を防ぎ、早期に検知し、情報漏洩対応まで想定した準備が必要です。企業が取るべき対策は、入口対策、権限管理、ログ監視、EDR、脆弱性管理、バックアップ、インシデント対応体制を組み合わせた多層防御です。特に重要なのは、攻撃の流れを理解し、暗号化される前の段階で異常に気づくことです。ランサムウェア対策は、特定の製品を導入すれば終わるものではありません。攻撃者がどのように侵入し、どのように社内を移動し、どのようにデータを盗み、どのタイミングで暗号化するのかを理解したうえで、自社の弱点を継続的に見直すことが重要です。

【参考情報】

編集責任:木下


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【企業のためのランサムウェア対策ガイド】ランサムウェアの感染経路とは ―企業が見落としがちなVPN・RDP侵入リスクを解説

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ランサムウェア対策を考えるうえで重要なのが、「どこから侵入されるのか」を理解することです。近年の企業向けランサムウェア攻撃では、メールだけでなく、VPN機器やリモートデスクトップ(RDP)の脆弱性、認証情報の悪用、サプライチェーン経由の侵入など、多様な経路が利用されています。本記事では、企業が見落としがちな代表的な感染経路と、その対策の考え方について解説します。

ランサムウェアの基本的な仕組みや全体像については、以下の記事で整理しています。
ランサムウェアとは何か ―企業が知るべき被害・仕組み・対策の基本―

ランサムウェアは、ある日突然社内のパソコンやサーバ上で実行されるように見えます。しかし実際には、その前段階で攻撃者が企業ネットワークへ侵入しています。メール、VPN機器、リモートデスクトップ、ソフトウェアの脆弱性、外部委託先など、侵入経路はさまざまです。特に近年は、単に添付ファイルを開かせる攻撃だけでなく、インターネットに公開されたVPN機器やリモートアクセス環境の脆弱性、認証情報の悪用、委託先や外部サービスを踏み台にした侵入が問題になっています。警察庁やIPAの資料でも、国内のランサムウェア被害ではVPN機器やリモートデスクトップなど、テレワーク環境に関連する経路が多く確認されています。

ランサムウェアはどこから侵入するのか

ランサムウェアの感染経路は、ひとつに限定されません。攻撃者は、企業の外部に開いている入口、従業員が日常的に使うメール、保守やテレワークのためのリモート接続、未修正のソフトウェア、さらには取引先や委託先との接続関係まで、複数の経路を組み合わせて侵入を試みます。従来は、ランサムウェアというと「不審なメールの添付ファイルを開いて感染する」というイメージが強くありました。もちろんメールは現在でも重要な感染経路ですが、企業におけるランサムウェア被害では、VPN機器やリモートデスクトップなど、外部から社内環境へ接続するための仕組みが狙われるケースが目立ちます。

米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)が公開している「#StopRansomware Guide」でも、ランサムウェアやデータ恐喝型攻撃の初期侵入経路として、インターネットに公開された脆弱性や設定ミス、フィッシング、認証情報の悪用、リモートアクセス環境などが重視されています。つまり、ランサムウェア対策は「端末にウイルス対策ソフトを入れる」だけでは不十分であり、外部公開資産、認証、運用設定、委託先管理まで含めて考える必要があります。

代表的な感染経路

メールによる感染

メールは、現在でもランサムウェア感染の代表的な入口です。攻撃者は、請求書、見積書、配送通知、業務連絡、採用関連の連絡などを装い、添付ファイルや本文中のリンクを開かせようとします。従業員が添付ファイルを開いたり、リンク先で認証情報を入力したりすると、マルウェア感染やアカウント窃取につながる可能性があります。ただし、近年のランサムウェア攻撃では、メールから即座に暗号化が始まるとは限りません。メールをきっかけに認証情報を盗み、その後VPNやクラウドサービスへ不正ログインする場合もあります。また、メール経由で侵入したマルウェアが端末内の情報を収集し、攻撃者が次の侵入経路を探す足がかりになることもあります。そのため、メール対策は「怪しいメールを開かないように教育する」だけでは不十分です。迷惑メール対策、添付ファイルの検査、URLフィルタリング、多要素認証、端末の挙動監視を組み合わせ、万が一クリックされても被害が広がりにくい仕組みを整える必要があります。

VPN機器の脆弱性

企業のランサムウェア対策で特に注意すべき感染経路が、VPN機器の脆弱性です。VPNは、テレワークや拠点間接続、外部からの保守作業に欠かせない仕組みですが、インターネット側に公開されているため、攻撃者にとっても狙いやすい入口になります。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、ランサムウェア被害の感染経路としてVPN機器経由が大きな割合を占め、VPN機器経由とリモートデスクトップ経由を合わせると毎年高い割合を占めていることが示されています。

VPN機器に未修正の脆弱性が残っている場合、攻撃者は認証を突破したり、機器上の情報を盗んだり、社内ネットワークへ侵入したりする可能性があります。特に、サポート切れの機器、更新が滞っているファームウェア、初期設定に近いまま運用されている環境、不要なアカウントが残っている環境は危険です。VPN機器は一度導入すると、業務インフラとして長く使われがちです。そのため、導入時には問題がなかったとしても、数年後に深刻な脆弱性が公表され、攻撃対象になることがあります。ランサムウェア対策では、VPN機器のメーカー名、型番、バージョン、サポート期限、適用済みパッチを定期的に確認することが重要です。

リモートデスクトップ(RDP)の悪用

リモートデスクトップ(RDP)も、ランサムウェアの代表的な感染経路です。RDPは、離れた場所から社内のPCやサーバを操作できる便利な仕組みですが、外部から直接接続できる状態になっていると、攻撃者にとって格好の侵入口になります。CISAが公開するランサムウェア関連アドバイザリ(#StopRansomware: Akira Ransomware)でも、RDPやVPNなどのリモートアクセスサービスが初期侵入に使われる事例が継続的に示されています。

攻撃者は、単純なパスワードの総当たり攻撃、過去に漏えいした認証情報の悪用、設定不備の探索などによって、RDP接続を突破しようとします。一度RDP経由で社内端末やサーバへ入られると、攻撃者は管理者権限の取得、他端末への横展開、データの持ち出し、バックアップの削除、ランサムウェアの実行へと進む可能性があります。RDPを業務上どうしても使う場合は、インターネットへ直接公開しないことが基本です。VPNやゼロトラスト型のアクセス制御を経由させ、多要素認証を必須にし、接続元制限、ログ監視、不要アカウントの削除を徹底する必要があります。

ソフトウェアの脆弱性

ランサムウェアの感染経路として見落とされやすいのが、OS、ミドルウェア、業務システム、Webアプリケーション、ネットワーク機器などのソフトウェア脆弱性です。Verizon「2025 Data Breach Investigations Report」(DBIR)でも、脆弱性の悪用による初期アクセスが増加していることが示されており、境界デバイスや外部公開システムの管理が企業のセキュリティ課題として重要になっています。

攻撃者は、公開された脆弱性情報をもとに、未修正のシステムをインターネット上で探索します。特に危険なのは、外部からアクセスできるシステムに深刻な脆弱性が残っている場合です。VPN、ファイアウォール、メールサーバ、ファイル転送システム、Web管理画面、クラウド連携用の管理コンソールなどは、攻撃者から常に探索対象になっていると考えるべきです。脆弱性対策では、単にパッチを適用するだけではなく、自社がどのシステムを外部公開しているかを把握することが出発点になります。資産管理が不十分なままでは、どの機器に脆弱性があるのか、どのシステムを優先して更新すべきかを判断できません。

サプライチェーン経由の感染

ランサムウェアの感染経路は、自社のネットワークや端末だけに限られません。委託先、外部サービス、クラウドサービス、保守ベンダー、取引先との接続環境を通じて侵入されることもあります。こうした外部経由の侵入は、サプライチェーン攻撃としても知られています。Verizon「2025 Data Breach Investigations Report」でも、漏えい・侵害に第三者が関与する割合が増加していることが示されており、サプライチェーンリスクは企業規模を問わず無視できない課題になっています。

たとえば、業務委託先が利用しているアカウントが侵害され、そのアカウントを使って自社環境へ不正アクセスされるケースがあります。また、外部保守用に開放していたリモート接続が攻撃者に悪用される場合や、取引先とのファイル共有環境を通じてマルウェアが持ち込まれる場合もあります。サプライチェーン経由の感染が厄介なのは、自社だけで完全に制御しにくい点です。自社のセキュリティ対策が一定水準に達していても、接続先や委託先の管理が甘ければ、そこが攻撃者にとっての入口になります。

こうした外部経由の侵入は、サプライチェーン攻撃としても知られています。詳しくは以下の記事で解説しています。
サプライチェーン攻撃とは ―委託先・外注先リスクから情報漏えいを防ぐ全体像―

ランサムウェア対策としては、委託先との接続経路、付与している権限、共有している情報、外部アカウントの管理状況を定期的に見直す必要があります。外部委託先に対しても、多要素認証、アクセス権限の最小化、ログ取得、契約上のセキュリティ要件、インシデント発生時の連絡体制を確認しておくことが重要です。

なぜ気づかず侵入されるのか

ランサムウェア感染が深刻化する理由のひとつは、攻撃者が侵入してから暗号化を実行するまでに時間差があることです。企業側から見ると、ある日突然ファイルが暗号化されたように見えます。しかし実際には、その前に認証情報の窃取、社内探索、権限昇格、横展開、データ窃取といった活動が行われている場合があります。攻撃者が長く潜伏できる背景には、認証情報の管理不備があります。退職者や異動者のアカウントが残っている、管理者権限が過剰に付与されている、同じパスワードを複数システムで使い回している、多要素認証が導入されていない、といった状態では、攻撃者にとって侵入後の行動が容易になります。また、設定ミスも大きな問題です。RDPがインターネットに公開されている、VPN機器のファームウェアが古い、管理画面に外部からアクセスできる、不要なポートが開いている、ログが保存されていないといった状態は、攻撃者にとって有利に働きます。

NIST(米国立情報技術研究所)NIST IR 8374 Rev.1「Ransomware Risk Management: A Cybersecurity Framework 2.0 Community Profile」では、ランサムウェアへの備えとして、識別、防御、検知、対応、復旧を含めた包括的なリスク管理の重要性が示されています。これは、ランサムウェア対策が単なるマルウェア対策ではなく、資産管理、アクセス制御、バックアップ、ログ監視、インシデント対応を含む経営課題であることを意味します。

感染リスクを下げるための考え方

ランサムウェアの感染リスクを下げるには、すべての対策を一度に完璧に実施しようとするのではなく、侵入されやすい場所から優先順位をつけて対策することが重要です。特に企業では、VPN機器、リモートデスクトップ、外部公開サーバ、メール、認証情報、委託先接続の順に確認すると、自社の弱点を見つけやすくなります。

最初に行うべきことは、外部から見える資産の棚卸しです。どのVPN機器を使っているのか、RDPが外部公開されていないか、古いサーバや管理画面が残っていないか、クラウドサービスの管理者アカウントが適切に管理されているかを確認します。自社が把握していないシステムは、守ることも更新することもできません。次に、認証情報の保護を強化します。多要素認証の導入、不要アカウントの削除、管理者権限の最小化、パスワードの使い回し防止、ログイン試行の監視は、ランサムウェア対策の基本です。特にVPN、RDP、クラウド管理画面、メールアカウントには優先的に適用すべきです。さらに、脆弱性管理を継続的に行う必要があります。OSやソフトウェアの更新だけでなく、ネットワーク機器、VPN、ファイアウォール、NAS、ファイル転送システムなど、外部公開される可能性のある機器の脆弱性情報を確認し、リスクの高いものから修正します。バックアップも重要ですが、バックアップがあるだけでは十分ではありません。攻撃者にバックアップまで削除・暗号化されないよう、ネットワークから分離したバックアップや、復旧手順の確認が必要です。ランサムウェア対策では、感染を防ぐ対策と、感染した場合でも事業を止めない対策を組み合わせることが求められます。

まとめ

ランサムウェアの感染経路は、メールだけではありません。VPN機器の脆弱性、リモートデスクトップの悪用、ソフトウェアの未修正脆弱性、認証情報の窃取、設定ミス、委託先や外部サービスを経由したサプライチェーン攻撃など、企業のさまざまな入口が狙われています。特に近年の企業向けランサムウェア攻撃では、攻撃者が事前に社内ネットワークへ侵入し、権限を広げ、データを盗み、最後に暗号化を実行する流れが一般化しています。そのため、ランサムウェア対策は「感染後にどう復旧するか」だけでなく、「どこから入られる可能性があるか」を把握し、侵入経路を減らすことから始める必要があります。

企業がまず取り組むべきことは、自社の外部公開資産を把握し、VPNやRDPの設定を見直し、ソフトウェアの脆弱性を管理し、認証情報を守り、委託先との接続経路を確認することです。すべてを一度に完璧にする必要はありませんが、攻撃者にとって狙いやすい入口を放置し続けることは、ランサムウェア被害のリスクを高めます。ランサムウェアの感染経路を理解することは、対策の出発点です。自社のどこが侵入口になり得るのかを確認し、優先順位をつけて改善していくことが、企業のランサムウェア対策において最も現実的で効果的な第一歩になります。

万が一感染してしまった場合の具体的な対応については、以下の記事で詳しく解説しています。
セキュリティインシデントの基礎から対応・再発防止まで 第2回:セキュリティインシデント発生時の対応 ─初動から復旧まで

【参考情報】

編集責任:木下


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