生成AIのリスクとは?企業利用で注意すべき情報漏洩・著作権・誤情報と対策

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生成AIは、文章作成や要約、翻訳、情報収集、プログラミング支援など、さまざまな業務で利用されるようになりました。業務を効率化できる一方で、機密情報の漏洩や誤情報、著作権など、新たなリスクへの対応も必要です。

さらに、生成AIを利用するのは企業や一般のユーザーだけではありません。攻撃者がフィッシングメールの作成や攻撃に必要な情報収集などに生成AIを悪用することも考えられます。生成AIにはどのようなリスクがあり、企業はどう向き合えばよいのでしょうか。本記事では、企業による利用とサイバー攻撃への悪用という両面から、生成AIのリスクと対策を考えます。

生成AIの利用リスクだけでなく、AI・LLMを取り巻く脅威や企業に求められる対策の全体像については、「AIセキュリティとは?生成AI時代に企業が知っておくべきリスクと対策」で詳しく紹介しています。

生成AIの普及で広がる企業のリスク

生成AIは、一部の技術者や専門家だけが利用するものではなくなりました。メールや資料の作成、文章の要約、翻訳、アイデア出し、プログラムコードの作成・確認など、日常的な業務のさまざまな場面で活用されています。利用できる場面が広がるほど、生成AIが扱う情報も重要になります。

例えば、「文章を考えてもらう」だけであれば、入力するのは簡単な指示だけかもしれません。しかし、実際の業務では、顧客から届いたメールを貼り付けて返信を作成したり、会議録や契約書をアップロードして要約したり、ソースコードを入力して問題点を確認したりすることも考えられます。こうした使い方は便利ですが、生成AIに渡す情報の中に機密情報や個人情報などが含まれていれば、新たな情報管理の問題が生じます。

また、注意が必要なのは入力する情報だけではありません。生成AIが出力した内容が正しいとは限らず、その情報をどのように利用するかについても利用者側の判断が必要です。生成AIが業務に深く入り込むほど、「何を入力するのか」「何が出力されたのか」「その結果を何に使うのか」を考える必要性も高まっているのです。

企業が生成AIを利用する際のリスクは、大きく「入力」と「出力」に分けて考えると整理しやすくなります。

場面主なリスク
AIへの入力機密情報・個人情報の漏洩、著作物・知的財産の取り扱い
AIからの出力誤情報・ハルシネーション、著作権等の問題、AIへの過度な信頼
組織での利用シャドーAI、利用状況を把握できないリスク
外部からの脅威攻撃者による生成AIの悪用

生成AIに何を入力するかだけを管理しても、出力された情報を無条件に信用してしまえば別の問題が生じます。また、社内ルールを整備していても、従業員が管理外の生成AIを利用していれば、企業としてリスクを把握できません。

さらに、自社が生成AIを利用するリスクだけでなく、攻撃者が生成AIを利用することでサイバー攻撃が効率化される可能性についても考えておく必要があります。

生成AIに機密情報を入力するとどうなる?

生成AIの企業利用で特に注意したいのが、機密情報や個人情報の取り扱いです。例えば、次のような使い方は業務効率化のために自然に行われる可能性があります。

  • 顧客から届いたメールを貼り付けて返信文を作成する
  • 会議録をアップロードして要点をまとめる
  • 契約書を読み込ませて内容を要約する
  • ソースコードを入力してエラーの原因を調べる
  • 社内資料を読み込ませて新しい資料を作成する

しかし、そこに顧客情報や個人情報、社外秘情報、未公開情報などが含まれていれば、企業が管理すべき情報を外部の生成AIサービスへ渡すことになります。

「生成AIに入力するとすべて学習される」は正しい?

生成AIへの情報入力について、「入力した情報はすべてAIの学習に使われる」と説明されることがあります。しかし、必ずしも一律にそうなるわけではありません。入力データが保存されるのか、モデルの学習やサービス改善に利用されるのかといった条件は、サービスや契約プラン、設定などによって異なります。そのため、「生成AIだから機密情報を入力してはいけない」という単純な判断だけではなく、自社が利用するサービスで入力データがどのように取り扱われるのかを確認することが重要です。

企業では、利用規約やプライバシーポリシー、データの保存・利用条件などを確認したうえで、業務利用を認めるサービスを選定する必要があります。また、入力してよい情報と禁止する情報を具体的に定め、従業員に周知することも重要です。「機密情報は禁止」とするだけでなく、顧客情報、個人情報、社外秘資料、認証情報など、自社の業務に即した例を示すと判断しやすくなります。

生成AIと著作権で注意すべきこと

生成AIと著作権の問題についても、「AIが作ったものを使ってよいか」という生成物だけに目を向けるのではなく、AIへ何を入力するかという点から考える必要があります。

他人の文章や画像を生成AIに入力してよいのか

生成AIを利用する際、Web上の文章や画像、顧客・取引先から提供された資料などを入力することがあります。しかし、こうした情報には著作権のほか、契約上の秘密保持義務や利用条件などが関係する場合があります。「インターネットで公開されている」「自社が保有している」という理由だけで、どのような使い方でも認められるとは限りません。業務で生成AIへ情報を入力する場合は、その情報をAIサービスへ提供して問題がないかという観点からも確認する必要があります。

AIが作った文章や画像なら自由に使えるのか

生成AIが作成した文章や画像、プログラムコードなどについても、無条件に自由に利用できるとは限りません。生成物が既存の著作物と類似していたり、第三者の権利に関係する内容を含んでいたりする可能性があります。また、利用する生成AIサービスによって生成物に関する利用条件が異なる場合もあります。

特に、Webサイトや広告、製品、顧客向け資料など外部に公開するコンテンツに生成AIを利用する場合には、人による確認を行い、用途に応じて権利関係についても確認することが重要です。生成AIの利便性が高まるほど、「AIが作ったから問題ない」と考えず、最終的にその生成物を利用する側が確認するという意識が必要になります。

生成AIは「もっともらしく間違える」

生成AIのもう一つの特徴が、必ずしも正しい情報を出力するとは限らないことです。生成AIは、事実とは異なる情報を、自然で説得力のある文章として生成する場合があります。このような現象は「ハルシネーション」と呼ばれます。

例えば、

  • 存在しない事例を紹介する
  • 誤った数値を示す
  • 実在しない書籍や論文、Webページを出典として挙げる
  • 古い情報を現在の情報として回答する
  • 質問の前提を誤って解釈したまま回答する

といったことが考えられます。

問題は「間違いが間違いらしく見えない」こと

生成AIの誤情報で注意したいのは、単にAIが間違えることだけではありません。回答が自然な文章で生成されるため、利用者が誤りに気づかず、「AIが回答したのだから正しいだろう」と信用してしまう可能性があります。例えば、存在しない制度や統計を社内資料に記載したり、誤った内容を顧客への回答に使用したりすれば、企業の信用にも影響しかねません。

そのため、生成AIを検索エンジンや一次情報そのもののように扱うことは避ける必要があります。重要な情報については、公的機関や企業の公式情報、原典などを確認します。また、顧客への回答や外部公開資料、法務・財務・セキュリティなど重要な判断に利用する場合には、人によるレビューを組み込むことが必要です。

生成AIは判断を代替するものではなく、情報整理や作業を支援するツールとして使うことが基本となります。

生成AIはサイバー攻撃にも使われる

ここまでは企業が生成AIを「使う側」のリスクを見てきました。しかし、生成AIを利用できるのは企業や一般ユーザーだけではありません。攻撃者にとっても、生成AIは情報収集や文章作成、プログラミングなどを支援するツールになり得ます。

フィッシングメール作成のハードルを下げる

フィッシング攻撃では、受信者をだまして偽サイトへ誘導したり、マルウェアを実行させたりするためのメールやメッセージが利用されます。

生成AIを使えば、自然な文章の作成や翻訳、文章の修正などを短時間で行うことができます。攻撃対象の業種や立場に合わせた文章を作成する作業にも利用できるため、攻撃者によるコンテンツ作成の負担を減らす可能性があります。

従来、不自然な日本語や文法上の誤りは不審なメールを見分ける手掛かりの一つでした。しかし、生成AIによって自然な文章を容易に作成できるようになれば、文章の不自然さだけでフィッシングを見抜くことはさらに難しくなります。

マルウェアや攻撃コードの作成にも悪用されるのか

主要な生成AIサービスでは、有害なコンテンツやサイバー攻撃への悪用を防ぐための安全対策が講じられています。それでも、生成AIがプログラムコードの作成や修正、技術情報の整理などに利用できる以上、攻撃者が攻撃準備や作業の一部を効率化するために利用する可能性はあります。ここで重要なのは、「生成AIが登場したことで、これまで存在しなかったサイバー攻撃が突然生まれた」と捉えることではありません。

生成AIでサイバー攻撃はどう変わるのか

生成AIがサイバー攻撃に与える大きな影響の一つは、既存の攻撃を「速く」「大量に」「巧妙に」実行するための支援に使われる可能性があることです。

例えば、攻撃対象に関する情報収集、フィッシングメールの文章作成、翻訳、プログラムコードの作成支援など、従来は攻撃者自身が時間をかけて行っていた作業の一部を効率化できます。これは防御する企業側にとっても重要な変化です。これまでと同じ種類の攻撃であっても、攻撃者が試行できる量や速度が増えれば、企業が直面する脅威も変化します。

生成AI時代のセキュリティを考える際には、「AIそのものからどう情報を守るか」だけでなく、AIを利用して効率化される既存のサイバー攻撃にどう備えるかという視点も必要です。

生成AI時代でも基本的なセキュリティ対策は重要

生成AIによってサイバー攻撃が効率化・巧妙化する可能性があるからといって、企業に求められるセキュリティ対策がすべて新しいものに変わるわけではありません。フィッシングやマルウェア、不正アクセスなど、生成AIが悪用される可能性のある攻撃の多くは、以前から存在する攻撃手法です。そのため、生成AI時代においても、基本的なセキュリティ対策を継続することが重要です。

基本的なセキュリティ対策の例

基本的な対策こそが重要の画像

特にフィッシングについては、生成AIによって自然な文章を作成しやすくなることで、「日本語が不自然だから怪しい」といった従来の見分け方だけでは判断が難しくなる可能性があります。送信元やURL、要求されている操作などを確認し、文章の自然さだけでメールの安全性を判断しないことが大切です。

生成AIによる脅威を特別なものとして切り離して考えるのではなく、従来のセキュリティ対策を着実に行ったうえで、生成AIの利用や悪用によって生じる新たなリスクへの対策を加えていくことが基本となります。

「生成AIは危険だから禁止」でよいのか

ここまで生成AIのさまざまなリスクを見てきました。それでは、企業は生成AIの利用を禁止すれば安全なのでしょうか。生成AIを利用しなければ回避できるリスクがあるのは確かです。しかし、利用禁止だけで問題が解決するとは限りません。

禁止だけでは「シャドーAI」につながる可能性も

組織が許可・把握していない生成AIサービスを従業員が業務に利用することは、「シャドーAI」と呼ばれます。例えば、会社では生成AIの利用を認めていなくても、従業員が個人アカウントで生成AIへアクセスし、業務資料を要約しているかもしれません。

この場合、企業側では、

  • 誰がどの生成AIを利用しているのか
  • どのような情報を入力したのか
  • 入力データがどのように扱われているのか
  • 生成された情報を何に利用したのか

を把握することが難しくなります。生成AIを禁止するか許可するかという二者択一ではなく、業務上の利用ニーズとリスクの両方を踏まえて管理することが重要です。

リスクを理解したうえで利用する

生成AIを安全に利用するためには、「生成AIは危険か、安全か」という単純な判断ではなく、利用方法を具体的に考える必要があります。

例えば、

  • どの生成AIサービスを利用するのか
  • どのような業務に利用するのか
  • 何を入力してよいのか
  • AIの出力を誰が確認するのか
  • 問題が起きた場合にどこへ報告するのか

といった点を明確にすることで、リスクを管理しながら生成AIを活用しやすくなります。

生成AIを安全に利用するために企業が行うべき5つの対策

生成AIのリスクは、特定のセキュリティ製品だけで解決できるものではありません。利用環境、ルール、教育などを組み合わせ、組織として取り組む必要があります。

  1. 利用する生成AIサービスを決める
    業務で利用を認める生成AIサービスを明確にします。サービスの機能だけでなく、入力データの保存・利用条件、アクセス管理、管理者向け機能なども確認して選定します。
  2. 入力してよい情報・禁止する情報を決める
    生成AIへ入力できる情報の範囲を明確にします。個人情報、顧客情報、社外秘資料、ソースコード、認証情報など、自社で実際に扱う情報を例示すると、従業員が判断しやすくなります。
  3. AIの出力を確認する
    生成AIから得た回答や生成物をそのまま利用せず、用途に応じて確認します。特に外部公開する情報、顧客への回答、重要な意思決定に利用する場合には、事実関係や権利関係などを人が確認するプロセスを設けます。
  4. AI利用ガイドラインを整備する
    利用可能なサービスや用途、入力禁止情報、生成物の確認方法、問題が発生した場合の報告先などをルールとして整理します。
  5. 利用状況を把握し、継続的に見直す
    生成AIのサービスや機能は変化し続けています。新しいサービスが利用されていないか、現在のルールが実態に合っているかを定期的に確認します。新たなリスクや利用方法が確認された場合には、ガイドラインや利用環境、従業員教育も見直していくことが重要です。

AI利用ガイドラインや組織としての管理体制については、「AIガバナンスとは?企業に必要な体制とAI利用ガイドラインの作り方」で詳しく紹介します。

生成AIのリスクに関するよくある質問

▼ ChatGPTなどに会社の情報を入力すると情報漏洩になりますか?
▼ 生成AIで作った文章や画像は自由に利用できますか?
▼ 会社で生成AIの利用を禁止すれば安全ですか?
▼ 生成AIによってサイバー攻撃は増えるのでしょうか?

まとめ

生成AIは、業務を効率化する便利なツールである一方、機密情報の漏洩、著作権・知的財産、誤情報など、利用方法に応じたリスクがあります。また、攻撃者が生成AIを利用し、フィッシングなど既存のサイバー攻撃を効率化する可能性にも注意が必要です。

重要なのは、生成AIを過度に恐れることではなく、どのような場面で、どのようなリスクが生じるのかを理解したうえで利用することです。企業では生成AIの利用を個々の従業員の判断だけに任せず、利用するサービス、入力できる情報、生成物の確認方法などを明確にする必要があります。さらに、利用状況を把握し、AIサービスや脅威の変化に応じてルールや対策を継続的に見直していくことが、安全な生成AI活用につながります。

公開日:2023年6月28日
更新日:2026年9月2日

編集責任:木下


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AIの利用拡大に伴い、企業を取り巻くIT環境やセキュリティリスクも変化しています。公開IT資産の把握、脆弱性の確認、セキュリティ対策の有効性検証など、自社の課題に応じた対策をご相談ください。


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AIセキュリティとは?生成AI時代に企業が知っておくべきリスクと対策

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AIセキュリティとは?生成AI時代に企業が知っておくべきリスクと対アイキャッチ画像策

生成AIの業務利用が広がる一方、情報漏洩や誤情報、著作権、AIシステムを狙った攻撃など、新たなリスクも生じています。本記事では、企業がAIを安全に活用するために押さえておきたい、AIセキュリティの主なリスクと対策を紹介します。

AIセキュリティについて、テーマ別に詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。

AIセキュリティとは

AIセキュリティとは、AIの利用やAIを組み込んだシステムに伴うセキュリティ上のリスクを把握し、情報やシステム、業務を守るための取り組みです。企業におけるAI活用を考える際には、大きく二つの観点があります。

一つは、AIを利用することで生じるリスクです。従業員が生成AIに機密情報や個人情報を入力することによる情報漏洩、生成された誤情報の利用、著作権や知的財産に関する問題、企業が把握していないAIサービスを業務に利用する「シャドーAI」などが挙げられます。

もう一つは、AIシステムそのものに対するセキュリティリスクです。AIやLLM(大規模言語モデル)を組み込んだシステムでは、悪意のある指示によって意図しない動作を引き起こすプロンプトインジェクションをはじめ、機密情報の漏洩や不適切な権限の利用など、AI特有のリスクを考慮する必要があります。

生成AIやAIエージェントの普及により、AIは単に質問に回答するツールから、社内データを参照したり、外部のシステムやサービスと連携して処理を行ったりする存在へと用途を広げています。そのためAIセキュリティでは、従業員の利用ルールだけでなく、AIに接続するデータやシステム、付与する権限まで含めてリスクを捉えることが重要になります。

AIセキュリティが注目される背景

生成AIは、文章作成や要約、翻訳、情報収集、プログラミングなど幅広い業務で活用されています。また、既存の業務システムやWebサービスに生成AIを組み込むケースも増え、企業とAIとの接点は広がっています。

こうした活用の拡大に伴い、セキュリティ上の課題も顕在化しています。従業員が組織の許可を得ずに生成AIを利用するシャドーAIによる情報漏洩や、不正確な出力による業務への影響などは、その代表例です。

さらに、AIシステム自体が攻撃対象になることも考慮しなければなりません。従来のWebアプリケーションやクラウドサービスへのセキュリティ対策に加えて、AI・LLMの特性を悪用した攻撃への備えも必要になっています。

AIをめぐっては、国内外で安全性や透明性、適正な利用に関するルールやガイドラインの整備も進められています。企業には、技術的なセキュリティ対策だけでなく、こうした動向を踏まえてAIの利用方針や管理体制を継続的に見直すことも求められます。

従来のセキュリティ対策との違い

AIを利用する場合でも、アクセス制御や認証、脆弱性管理、ログ監視といった従来のセキュリティ対策が不要になるわけではありません。これらは引き続き重要な基盤となります。そのうえでAIセキュリティでは、AIへの入力、AIからの出力、AIが参照するデータ、AIに与える権限といった新たな要素についても対策を考える必要があります。

例えば、システムへのアクセス権限が適切に管理されていても、従業員が外部の生成AIサービスへ機密情報を入力すれば、別の経路から情報が外部へ渡る可能性があります。また、AIを組み込んだシステムでは、通常の操作では想定していなかった指示によってAIの動作が誘導される可能性もあります。

したがって、AIセキュリティでは従来のサイバーセキュリティを土台としながら、「AIをどのように利用するか」と「AIを組み込んだシステムをどのように守るか」の両面から対策を考えることがポイントとなります。

企業が注意すべき生成AIの主なリスク

生成AIは業務効率化や情報収集などに役立つ一方、使い方によっては情報漏洩や誤った判断につながる可能性があります。企業で利用する際には、どのような情報を入力するのか、生成された内容をどのように扱うのかといった観点からリスクを把握する必要があります。

機密情報・個人情報の漏洩

生成AIに顧客情報や社内の機密情報、個人情報などを入力すると、利用するサービスの仕様や設定によっては、入力した情報がサービス提供者側で保存・利用される可能性があります。業務で生成AIを利用する場合は、入力してよい情報と禁止する情報を明確にするとともに、利用するサービスのデータ取り扱い方針や設定を確認することが必要です。

誤情報・ハルシネーション

生成AIは、事実と異なる内容や、もっともらしい誤情報を生成することがあります。こうした現象は「ハルシネーション」と呼ばれます。

生成された文章や回答を十分に確認せず、社内資料や顧客への回答、意思決定などに利用すると、誤った情報が業務に影響を及ぼすおそれがあります。重要な情報については、信頼できる情報源と照合するなど、人による確認が欠かせません。

著作権・知的財産に関するリスク

生成AIでは、入力する情報と生成されたコンテンツの双方について、著作権や知的財産への配慮が必要です。第三者が権利を持つ文章や画像などを安易に入力したり、AIが生成したコンテンツを確認せずに公開・商用利用したりすると、権利上の問題につながる可能性があります。利用する生成AIサービスの規約を確認するとともに、生成物の利用方法に応じた確認体制を整えることが求められます。

シャドーAI

シャドーAIとは、組織が把握・管理していない生成AIサービスを従業員が業務で利用している状態を指します。企業が生成AIの利用を一律に禁止していても、従業員が個人アカウントなどを使って利用すれば、機密情報が管理外のサービスへ入力される可能性があります。そのため、単に利用を禁止するだけでなく、利用可能なAIサービスや用途を明確にし、組織として利用状況を把握できる環境を整えることが重要です。

生成AIの利用に伴うリスクや企業が取るべき対策については、「生成AIのリスクとは?企業利用で注意すべき情報漏洩・著作権・誤情報と対策」で詳しく紹介します。

AIを狙ったサイバー攻撃にも注意が必要

AIセキュリティで考えるべきなのは、従業員が生成AIを安全に利用するための対策だけではありません。AIやLLM(大規模言語モデル)を組み込んだシステムが普及することで、AIの仕組みや特性を悪用した攻撃への備えも必要になっています。

プロンプトインジェクション

プロンプトインジェクションは、攻撃者が悪意のある指示をAIに与えることで、本来想定されていない動作や出力を引き起こそうとする攻撃です。ユーザーが直接入力する指示だけでなく、AIが読み込むWebページや文書などに悪意のある指示を埋め込む「間接プロンプトインジェクション」にも注意が必要です。外部の情報を参照するAIや、他のシステムと連携して処理を行うAIでは、影響範囲が広がる可能性があります。

センシティブ情報の漏洩

AIを組み込んだシステムでは、モデルが参照できる情報やユーザーの入力内容などが、意図せず出力される可能性があります。特に、社内文書や顧客情報などをAIから参照できるようにしている場合には、利用者の権限に応じて参照可能な情報を制御するなど、AIだけに依存しないアクセス制御が必要です。

データやモデルへの不正な操作

AIの動作は、学習データや外部から取得する情報などの影響を受けます。攻撃者によってデータが意図的に操作されれば、AIの判断や出力が影響を受ける可能性があります。AIが参照するデータの信頼性を確認するとともに、データへのアクセスや変更を適切に管理することが求められます。

AIに与える権限にも注意

AIエージェントなど、AIが外部サービスや社内システムと連携して処理を実行する仕組みでは、AIにどこまでの権限を与えるかが重要になります。必要以上の権限を付与すると、AIが意図しない操作を行った場合や攻撃者に悪用された場合の影響が大きくなります。人のアカウントと同様に、AIについても必要最小限の権限を設定し、重要な処理には人による確認を組み合わせることが重要です。

OWASPが示すLLMアプリケーションのリスク

LLMを利用したアプリケーションには、従来のWebアプリケーションと共通するリスクに加え、プロンプトインジェクションをはじめとしたLLM特有のリスクがあります。

OWASPでは、LLMや生成AIアプリケーションで特に注意すべきセキュリティリスクを整理しています。AIを組み込んだサービスを開発・提供する企業では、こうしたリスクを踏まえて、設計・開発・運用の各段階で対策を検討する必要があります。

具体的な脅威と対策については、「LLMセキュリティとは?プロンプトインジェクションなどの脅威と対策」で詳しく紹介します。

AIセキュリティ対策は「利用」と「システム」の両面から考える

ここまで見てきたように、AIセキュリティには、従業員による生成AIの利用に伴うリスクと、AIを組み込んだシステムそのものに対するリスクがあります。そのため企業では、利用ルールの整備だけでなく、ガバナンスや技術的なセキュリティ対策を組み合わせて取り組むことが必要です。

AI利用ルールを整備する

まず、従業員がどのような条件でAIを利用できるのかを明確にします。利用可能なAIサービスや用途、入力してはいけない情報、生成物を利用する際の確認方法などを定め、従業員が判断に迷わないルールにすることが重要です。また、AIサービスや利用方法は変化するため、一度ルールを作成して終わりにせず、利用状況に応じて見直していく必要があります。

AIガバナンスの体制を整備する

AIの利用を個々の従業員や部門だけに任せるのではなく、組織として管理する仕組みも必要です。誰がAI利用を管理するのか、どのようにリスクを評価するのか、問題が発生した場合にどの部門が対応するのかなど、役割と責任を明確にします。

AI利用ガイドラインの策定方法や組織としての管理体制については、「AIガバナンスとは?企業に必要な体制とAI利用ガイドラインの作り方」で詳しく紹介します。

シャドーAIを把握・管理する

ルールを整備しても、組織が把握していないAIサービスが利用されていれば、リスクを十分に管理できません。どの部門でどのようなAIが利用されているかを把握し、必要に応じて利用サービスを承認制にするなど、実際の利用状況とルールを一致させる取り組みが必要です。

AIを組み込んだシステムのセキュリティを確認する

AIを利用したシステムを開発・導入する場合には、通常のアプリケーションと同様のセキュリティ対策に加えて、AI・LLM固有のリスクも確認します。入力・出力の検証、アクセス制御、権限管理、APIや外部サービスとの連携、ログの記録などを確認し、プロンプトインジェクションをはじめとする攻撃への対策も検討します。

継続的なセキュリティ対策の見直し

AIを取り巻くサービスや技術、攻撃手法は変化しています。現在安全と判断した利用方法や設定であっても、将来も同じとは限りません。AIの利用状況や新たな脅威を定期的に確認し、ガイドラインやシステム設定、セキュリティ対策を継続的に見直していくことが重要です。

企業はAIセキュリティ対策をどこから始めるべきか

AIセキュリティといっても、すべての対策を一度に導入する必要はありません。まずは自社でAIがどのように使われているかを把握し、リスクの高い領域から優先して対策を進めます。

STEP1 AIの利用状況を把握する
利用しているAIサービス、利用部門、用途、取り扱う情報などを整理します。
STEP2 扱う情報とリスクを整理する
機密情報や個人情報など、AIで扱う情報と想定されるリスクを確認します。
STEP3 AI利用ガイドラインを整備する
利用可能なサービスや用途、禁止事項、生成物の確認方法などを定めます。
STEP4 技術的なセキュリティ対策を実施する
AIを組み込んだシステムについて、アクセス制御や権限管理、入出力の検証、脆弱性への対策などを行います。
STEP5 継続的に評価・改善する
利用状況や新たなリスクを確認し、ルールと技術対策を定期的に見直します。

AIの利用を一律に禁止するのではなく、どこにリスクがあるのかを把握したうえで、業務上のメリットと安全性のバランスを取りながら活用していくことが重要です。

AIセキュリティに関するよくある質問

▼ AIセキュリティとは何ですか?
▼ 生成AIを業務で利用する場合、どのようなリスクがありますか?
▼ AI利用ガイドラインには何を定めればよいですか?
▼ LLMにはどのようなセキュリティリスクがありますか?

まとめ

生成AIの普及によって、企業がAIを業務やシステムに取り入れる機会は広がっています。それに伴い、情報漏洩や誤情報、著作権などの利用上のリスクだけでなく、プロンプトインジェクションをはじめとするAI・LLMを狙った攻撃についても考える必要があります。AIセキュリティでは、AIを安全に利用することとAIを組み込んだシステムを安全にすることの両面から対策を進めることがポイントです。まずは自社でどのようにAIが利用されているかを把握し、AI利用ガイドラインや管理体制を整備するとともに、AIを組み込んだシステムについてはアクセス制御や権限管理、入出力の検証など、技術的な対策も進めていきましょう。

AIを取り巻く技術や脅威は変化しています。利用を一律に制限するのではなく、リスクを継続的に把握・評価しながら、安全なAI活用につなげていくことが重要です。


参考情報

公開日:2025年4月16日
更新日:2026年8月26日

編集責任:木下


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AIの利用拡大に伴い、企業を取り巻くIT環境やセキュリティリスクも変化しています。公開IT資産の把握、脆弱性の確認、セキュリティ対策の有効性検証など、自社の課題に応じた対策をご相談ください。


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AIを生み出した”人”はAIを使いこなす”人”になる~上野宣氏と語るAIの現在地とセキュリティの未来~

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SQATSecurityReport巻頭企画「AIを生み出した"人"はAIを使いこなす"人"になる」表紙画像

生成AI、AIエージェント、AIガバナンス。

急速に進化するAIは企業の業務やセキュリティにどのような影響を与えるのか。

本資料では、日本のセキュリティ業界を牽引してきた上野宣氏を迎え、AI活用の現状から今後の課題までを語った特別対談を収録しています。

登壇者紹介

上野 宣氏

プロフィール
株式会社トライコーダ代表取締役
奈良先端科学技術大学院大学で山口英教授のもと情報セキュリティを専攻、2006年にサイバーセキュリティ専門会社の株式会社トライコーダを設立。2019年より株式会社Flatt Security、2022年よりグローバルセキュリティエキスパート株式会社、2025年より株式会社ブロードバンドセキュリティの社外取締役を務める。あわせて、OWASP Japan代表、一般社団法人セキュリティ・キャンプ協議会理事、NICT CYDER推進委員などを歴任し、教育・人材育成分野にも尽力。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教員。

株式会社ブロードバンドセキュリティ

  • セキュリティサービス本部 神保 冬和子
  • 情報セキュリティプロフェッショナルサービス本部 コンサルティング事業戦略部 コンサルティング事業戦略課 吉原百里可
  • マネジメントサービス本部 セキュリティオペレーション2部 クラウドソリューション課 渡邊 寛昭

この資料でわかること

  • AIエージェント時代の新たなリスク
  • AI活用における権限管理
  • AIガバナンスの重要性
  • AIリテラシー教育のあり方
  • AI時代のセキュリティ人材像

AIはこれからどこへ向かうのか

以下、インタビュー記事(SQAT® Seurity Report 2026年春夏号【巻頭企画】「座談会 AIを生み出した〝人〟はAIを使いこなす〝人〟になる~上野 宣氏を迎えてAIの今とこれからを語る~)より一部抜粋

神保:最近は「Alのバブル」などといわれていますけれども、今私たちが申し上げた「Al」にはさまざまなものがあって、例えば、自動車関連の画像認識の技術もAlが絡んでいますし、身近なものだとメールのスパム判定などに使われるものも、Alの技術のひとつの応用ですよね。セキュリティ面での注意点や今後Alはどういう方向に進んでいくのかなど、上野様からお伺いしたいです。

上野:セキュリティ面での注意点については、「OWASP Top 10 for Large Language Model Applications」(以降: Large Language ModelをLLMと表記)などが参考になると思います。プロンプトインジェクションによって機密情報が漏洩する可能性がある、などが例に挙げられます。 今後のAlの動向については、最近(座談会は2026年1月下旬実施)でいうと、クロードボット(Claudebot)というエージェント型のAlの話題が気になったのですが、エージェント型のAlが普及していった時にさまざまなセキュリティの問題が出てくることが予想できます。今後もAlの発展に付随して、問題も尽きることはないのかなと思います。


AIが変える攻撃と防御の構図については、上野氏の特別寄稿でも詳しく解説されています。
AI時代のセキュリティ戦略:上野宣氏が語る、攻撃と防御の最前線

上野氏は、今後のAIの進化において「AIエージェント」が大きな転換点になると指摘します。

AIエージェントは企業に何をもたらすのか

以下、インタビュー記事(SQAT® Seurity Report 2026年春夏号【巻頭企画】「座談会 AIを生み出した〝人〟はAIを使いこなす〝人〟になる~上野 宣氏を迎えてAIの今とこれからを語る~)より一部抜粋

上野:エージェント型のAlについて少々お話しますと、端末にインストールして、自律して動くことを謳っていますけれども、権限管理が非常に難しいですよね。それが特にビジネスシーンで浸透していった場合、自分が使っているAlエージェントが持っている権限であるとか、ある会社のシステムのAlの権限であるとか、人ではないものが権限持って自律して動く、というようなことですので。そこでセキュリティの問題や事件が起きることが予想されます。プロンプトインジェクションなどのLLM特有の問題も大きな問題になるのではないかと、セキュリティエンジニアとしての危惧がありますね。とはいえ、我々はAlによる発展を受け入れるべきです。ただし問題点も認識するべきであるということです。セキュリティ専門家としては、ちゃんと警鐘を鳴らしておいたほうがいいなと思っています。


AI活用で変わらないセキュリティの原則

以下、インタビュー記事(SQAT® Seurity Report 2026年春夏号【巻頭企画】「座談会 AIを生み出した〝人〟はAIを使いこなす〝人〟になる~上野 宣氏を迎えてAIの今とこれからを語る~)より一部抜粋

上野:まだ企業や組織でAlエージェントが広く活用されているという話はそこまでは聞きませんが、今後は企業や組織のAlエージェントの導入は進んでいくのかなと思います。RPA の代わりに広まってくるのではないかなと。まあ、既に一部のRPAには、多分Alが入っていると思いますけどね。

神保:RPAの中でもAlを許容しやすいというか、制御しやすいものとしづらいものがあるのかなと思うのですよね。限定的な機能のためのAl工ージェントであれば、それに必要最小限の権限を設定するのは難しくないですけれども、汎用性が高くなると権限もいろいろなところに及ぶと思うので、判断がつかなくなって設定するのが困難になりそうかなと。

上野:おそらく、判断がつかない場合は全権限をつけてしまうのが現状でしょうね。例えばアクセスコントロールとセットになっているようなサービスを各サービス提供ベンダが提供するとわかりやすいかもしれませんね。それを逸脱する時はこういうリスクがありますよ、と提示するとかで、ガイドラインが決まってくるといいのではないかなと思います。


AI時代に求められる人材とリテラシー

以下、インタビュー記事(SQAT® Seurity Report 2026年春夏号【巻頭企画】「座談会 AIを生み出した〝人〟はAIを使いこなす〝人〟になる~上野 宣氏を迎えてAIの今とこれからを語る~)より一部抜粋

神保:最近のAlの動向で、著作権や肖像権の侵害といった課題について、吉原さんはお客様からお問い合わせをいただくことはありますか?

吉原:アドバイザリーの中には、「自社の作った著作物を、特に生成Alの学習から保護するにはどうしたらよいか?」というようなお問い合わせが出てきています。逆に、「他社の著作物を侵害しないためにはどうしたらよいか?」といったお問い合わせもあります。こういった質問はさまざまな業種のお客様からいただきます。ガイドラインの整備ができていない企業も多いようです。

神保:こういったところも、Alエージェントが普及していくとさらにややこしくなるかもしれませんね。例えば、Alエージェントが入っている環境で、Alエージェントが許諾をとっていたけれども、(利用者の)著作物を持っていって、別なところでリークしてしまうといった可能性もあるでしょうし、そもそもAlエージェントを利用してよいのか、してはいけないのかが企業や組織の中で明確にできていないことで問題が起こることもあるでしょうし。こういった統制はすごく難しいような気がします。

上野:結局のところ、その辺りの統制は人間がしないといけませんよね。生成Alにしろ、Alエージェントにしろ、社会人としてAlを使っていく部分では常に著作権侵害をしていないか、といったことに一番配慮すべきなのは、使う本人であると私は思います。私が昨年ぐらいに出した「セキュリティ1年生 図解でわかる!会話でまなべる!」という本の中で著作権のことにも触れていて、Alの生成物についても書いているのですけれども、例えばAlが持ってきた画像の出元であるとかは、特に企業や組織が使う場合、まずAlを使う本人の確認は必須です。さらに社外向けの資料にAlを使いたい社員がいるとしたら、本人の確認はもちろん、その上司も確認および承認が必要、といったフローになると思います。とは言っても、こういった概念はまだ浸透しきってはいないように思いますので、企業や組織向けのリテラシー教育は必要でしょう。将来的には例えば小中学校とかの段階で教育して、Alを使う場合に当たり前のように人がリテラシーを守る時代が来ると良いなと思います。


続きはSQAT® Seurity Reportでご覧ください

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本対談では、AIエージェントの普及による新たなリスクや権限管理の課題、AI活用におけるガバナンス、人材育成のあり方などについて議論しています。

本ページでご紹介した内容のほか、AIセキュリティに関する実践的な知見や用語解説を収録した「SQAT® Security Report 2026年春夏号」を無料公開中です。ぜひ資料をダウンロードのうえ、対談全文をご覧ください。

※主な対談内容(参考)
・AI利用におけるリテラシー教育
・AIセキュリティの課題

無料ダウンロード

用語解説

LLM (Large Language Models:大規模言語モデル)

自然言語を大量のテキストデータから学習し、ユーザからの自然言語によるリクエストを処理する仕組み。大星のテキストデータからの学習には機械学習モデルが用いられており、機械学習モデルには生物の学習メカニズムを模倣した人工ニューロンと呼ばれる計算ユニットを利用した人工ニューラルネットワークが用いられている。生成AlおよびマルチモーダルAlはユーザからの自然言語によるリクエスト処理のためにLLMを使用しているため、混同されることが多い。

OWASP Top 10 for LLM Applicationsについては、こちらの記事でも解説しています。
2025年春のAI最新動向第3回:生成AIの未来と安全な活用法 -私たちはAIをどう使うべきか?-

プロンプトインジェクション(PromptInjection)

LLMの脆弱性のひとつ。悪意のある、もしくは誤解を招くプロンプト(自然言語による指示・リクエスト)を作成してモデルの挙動を操作し、セーフティフィルタを回避して意図しない命令を実行する。これにより、情報漏洩、権限昇格、不適切な出力の発生などが起こりうる。従来のソフトウェアやWebアプリケーションにおけるコマンドインジェクションと同等の影響を、LLMで引き起こすものである。

AIを狙った攻撃手法や実際の脅威事例については、こちらの記事でも解説しています。
AIとセキュリティ最前線 -AI搭載マルウェアとは?脅威とセキュリティ対策-

AIエージェント

Alエージェントは目標に向かって自律的に行動・判断・ツール使用などができるAlの概念や役割を指す。エージェント型のAl はAl エージェントがどのようにふるまうか(自律性、複数ステップの実行、ツールの呼び出しなど)というAl の性質・特性を指す。

AIエージェントの仕組みについては、こちらの記事でも解説しています。
AIコーディング入門 第1回:Vibeコーディングとプロンプトエンジニアリングの基礎

RPA(Robotic Process Automation)

コンピュータ上で人間が行う定型作業(入カ・転記・集計・通知など)を、ソフトウェアロボットが代わりに実行する自動化手法。作業時間の削減やミスの低減が見込める。

関連記事・参考情報

編集責任:木下


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IPA情報セキュリティ10大脅威2026にみる、AI時代のサイバーリスク

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「IPA情報セキュリティ10大脅威 2026に見る、AI時代のサイバーリスク」アイキャッチ画像

近年、生成AIをはじめとするAI技術の進展により、組織におけるAIの活用は急速に広がっています。本記事では、IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」の内容をもとに、AIの利用をめぐるサイバーリスクについて整理するとともに、企業に求められる対応の方向性について解説します。

IPA「情報セキュリティ10大脅威」速報版の記事はこちら。「AIの利用をめぐるサイバーリスク」以外の脅威の項目についても知りたい方は、こちらもぜひあわせてご覧ください。
【速報版】情報セキュリティ10大脅威 2026 -脅威と対策を解説-

はじめに

業務効率の向上や新たな価値創出の手段として、多くの企業がAIの導入を進めています。一方でAI利用に伴うリスクについても、十分な注意が求められています。こうした状況を反映して、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」において、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」という脅威が初めてランクインし、3位に位置付けられました。

なぜいま「AIの利用」が脅威として注目されるのか

IPA「情報セキュリティ10大脅威」は、前年に発生した社会的影響の大きい事案等をもとに選定されたものであり、順位は単純に危険度の高さを示すものではありません。しかし、AI利用に関するリスクが新たに選出されたことは、企業や組織におけるAI活用の拡大と、それに伴う課題の顕在化を示すものといえるでしょう。

2026年3月12日に公開された、IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」解説書では、AIは有用なツールである一方で、十分な理解がないまま利用した場合、情報漏洩や権利侵害といった問題につながる可能性があると指摘されています。特に、生成AIへの入力内容が外部に取り扱われることによる機密情報の漏洩や、生成された情報の正確性を確認せずに業務に利用することによって発生するトラブルなど、従来の情報システム利用とは異なる観点でのリスクが挙げられています。 また、AIは利用者の裾野が広く、専門的な知識がなくても活用できるという特性を持っています。そのため、組織として利用状況を把握しきれないまま、個人単位で業務利用が進むケースも想定されます。このような利用形態は、管理の行き届かないリスク、いわゆるシャドーITに類似した問題を引き起こす可能性があります。

AI利用をめぐる主なリスク

IPAはAIの利用拡大に伴い、いくつかの代表的なリスクが指摘しています。これらは、AIの技術そのものというよりも、その利用方法や特性に起因するものが多い点が特徴です。

  • 情報漏洩リスク
  • 誤情報生成リスク(ハルシネーション)
  • サイバー攻撃の高度化リスク
  • 利用実態の把握困難(シャドーAI)
  • 権利侵害リスク

生成AIへの入力内容に起因する情報漏洩

クラウドサービスとして提供されるAIに対し、機密情報を入力することで、意図せず外部に情報が送信される可能性があるというリスクです。

AIの出力結果に関するリスク

対話型AIは実在しない情報を生成する(=ハルシネーション)場合があり、このことを十分に理解せずに利用すると、誤った判断や誤情報発信につながるおそれがあります。

AIの悪用によるサイバー攻撃の高度化

AIを活用することで、攻撃の効率化や手口の巧妙化が進む可能性があります。さらに、組織における利用実態の把握が難しい点も重要なリスクです。

シャドーAIのリスク

個人単位でAIサービスを利用されてしまうことで、組織の目の届かない範囲での利用が発生する可能性があります。

著作権侵害などの権利問題

AIの利用に関する理解不足により、著作権侵害などの権利問題が生じる可能性も指摘されています。

AI利用において想定される主な事例

AI利用に伴うリスクは、特別な環境でのみ発生するものではなく、日常業務の中で自然に発生し得るものです。例えば業務の効率化を目的として、従業員が個人で利用している生成AIサービスを業務に活用するケースが考えられます。メール文面の作成や資料作成の補助としてAIを利用する延長で、社内資料の内容や顧客情報をそのまま入力してしまうことがありえます。生成AIはクラウド上で動作しており、入力した内容はサービス側で処理されます。場合によっては、入力内容がサービスの改善や学習に利用されることもありえます。この点を十分に理解しないまま利用すると、機密情報を外部サービスに送信してしまうことになり、情報漏洩につながるおそれがあるのです。

また、対話型AIの回答をそのまま精査せずに業務に利用してしまうことで問題に発展する可能性もあります。調査や資料作成の過程でAIが生成した情報を十分に確認せずに利用した結果、ハルシネーションの内容を含んだまま社内外に共有してしまうといった事態が起こり得ます。このように、AI利用に伴うリスクは特定の専門領域に限らず、日常業務の延長線上で発生する点に特徴があります。

組織における課題

AIの利用が広がる一方で、組織としてこれらのリスクを適切に管理することにはいくつかの課題があります。

社内でのAI利用の促進とルールの策定のバランス

まず、AI利用に関するルールやガイドラインの整備が追いついていない点が挙げられます。現場での利用が先行する中で、組織としての利用方針が明確でない場合、統一的な管理が難しくなります。また、利用状況の把握が困難であることも大きな課題です。クラウド型のAIサービスは個人単位で容易に利用可能なため、組織として誰がどのように利用しているかを正確に把握することが難しくなります。実際には、想定以上に広範囲で利用が進んでいるケースも少なくありません。さらに、ポリシーを整備しても現場に浸透しないという課題もあります。AIは業務効率の向上に直結するため、利便性を優先してルールが守られないケースや、現場ごとに独自の運用が行われるといった状況も発生し得ます。加えて、AI利用と既存のセキュリティ対策との間にギャップが生じる点も課題です。従来のセキュリティ対策は想定していなかった利用形態が増えることで、管理や統制が追いつかない場面が生じる可能性があります。さらに、利用者への教育不足も課題の一つです。AIの特性やリスクに関する教育や周知が十分でないために、組織として意図しない利用が広がり、統制が効かなくなるおそれがあります。

このように、AIの活用においては、ルール整備や利用状況の把握といった基本的な対応に加え、実際の運用における課題も踏まえた継続的な対応が求められます。

企業が取るべきアクション

AIの利用に伴うリスクに対応するためには、個別の技術対策にとどまらず、組織としての管理と運用の整備が重要となります。AI利用に関しては、ルール整備や教育、基本的なセキュリティ対策の徹底といった観点での対応が求められています。

  1. AIの利用に関するルールやガイドラインの整備
    どのような用途でAIを利用してよいのか、入力してよい情報の範囲、利用してはならない行為などを明確に定めることで、利用に伴うリスクを一定程度抑制することが可能となります。
  2. 利用状況の把握と管理
    AIサービスは個人単位でも容易に利用できるため、組織としてどのように利用されているかを把握し、必要に応じて管理の対象とすることが重要です。これにより、管理の行き届かない利用、いわゆるシャドーAIの発生を抑制することが期待されます。
  3. AI利用者への教育
    AIの特性やリスクについて正しく理解させることで、生成結果の確認や適切な情報の取り扱いといった基本的な行動を促すことができます。技術的な制御だけでなく、利用者の理解を前提とした運用が不可欠です。
  4. 基本的なセキュリティ対策の徹底・見直し
    認証の適切な運用や情報管理の強化といった既存の対策は、AI利用においても引き続き基盤となるものです。その上で、AIの利用が業務に広く組み込まれる中では、従来の対策だけでは対応しきれない場面も想定されるため、AI利用を前提としたセキュリティの見直しや再設計が必要となる可能性もあります。

このように、AIの安全な活用には、ルール、管理、教育、AIを前提とした基本的なセキュリティ対策といった複数の観点からの継続的な取り組みが重要です。

AI時代に求められるセキュリティ支援

こうした課題に対応するためには、組織単独での取り組みだけでなく、専門的な支援の活用も有効です。以下のようなセキュリティ支援の例が挙げられます。

  • セキュリティ診断・リスクアセスメント
    AI利用に伴うリスクを把握するためのセキュリティ診断やリスクアセスメントが重要となります。現状の利用状況や潜在的なリスクを可視化することで、適切な対策の検討につなげることができます。
  • 運用監視体制の強化
    AIの利用状況を継続的に監視し、問題の早期発見や対応を行う体制を整備することで、リスクの低減が期待されます。
  • AI利用ガイドライン策定支援
    組織の実態に即したルールを整備し、現場で実際に運用可能な形に落とし込むことが求められます。

さいごに

「情報セキュリティ10大脅威 2026」において、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が新たにランクインしたことは、AI活用の拡大と、それに伴う課題の顕在化を示すものといえます。AIに関するリスクは、新たな技術そのものに起因するというよりも、その利用方法や理解不足に起因する側面が大きい点が特徴です。そのため、対策としては、ルール整備や利用状況の把握、教育といった組織的な対応に加え、基本的なセキュリティ対策を継続して実施することが重要となります。

また、IPAが示す通り、10大脅威の順位は危険度の高さを示すものではなく、自組織の状況に応じて適切にリスクを評価し、優先順位を定めて対策を講じることが求められます。 AIの活用は今後さらに進むことが想定されますが、その利便性を最大限に活かすためにも、リスクを正しく理解し、組織として適切に管理・運用していくことが重要です。


【関連ウェビナーのご案内】
本記事では、生成AIの利用に伴うサイバーリスクと、企業への影響について整理しました。AIの活用が進む一方で、情報漏えいや誤利用、統制の難しさといった課題が現実のものとなっています。では、こうしたリスクは実際にどのように悪用され、どのような攻撃として現れているのでしょうか。2026年4月15日に開催のウェビナーでは、生成AIを悪用した具体的な事例をもとに、サイバー脅威の実態と防御戦略を詳しく解説します。リスクの「背景」だけでなく、「実際に何が起きるのか」を理解したい方は、ぜひご参加ください。

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特別寄稿/AI時代のセキュリティ戦略:トライコーダ上野宣氏が語る、攻撃と防御の最前線【後編】

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上野宣氏

生成AIの進化により、サイバー攻撃と防御の双方でAI活用が加速する現代。前編では、AIがもたらす脅威の変化と、企業が直面する新たなリスク構造について、上野 宣氏に解説いただきました。

後編では、こうした環境変化を踏まえ、企業はどのようにセキュリティ戦略を再構築すべきか、その具体的な方向性と実践のポイントについて掘り下げます。

前編「AIが変える攻撃の現状と、防御側AI活用のリアル」はこちら


AI時代に増えるリスクと、経営が取るべきアクション

企業が直面するAIセキュリティリスク

AIを活用する企業は、攻撃の標的になるだけでなく、自社が導入したAIがリスクの起点になる可能性も抱えます。ここで重要なのは、「AIを守る」という視点です。 AIは、データアクセスを統合し、業務フローに深く入り込みます。言い換えると、AIは便利なツールであると同時に、新たなリスクになり得ます。

以下では、AI活用が進む現場で起きやすいリスクを、実務の観点で整理します。

生成AI利用による情報漏えい・シャドーAI

現場が便利さを優先して、個人アカウントの生成AIに機密情報を入力してしまう、いわゆるシャドーAIは、シャドーITと同じ構図で広がります。入力データの扱い(学習に使われるのか、保存されるのか)、ログに残るのか、社外に送信されるのか。利用ルールと技術的な制御がないと、情報資産の漏えいに繋がる可能性があります。

対策は利用を禁止することではありません。ほとんどの従業員は悪意を持ってシャドーAIをするわけではなく、ビジネスに活用しようとしているだけです。現場の生産性要求は止められないからこそ、次のような使えるガードレールが必要です。

  • 会社が認めるAI利用チャネル(法人契約、社内AI、承認済みツール)を用意する
  • 機密分類に応じて「入力禁止」「要マスキング」「要承認」などを定義する
  • DLP、プロキシ、CASB等で、持ち出し・入力を技術的に抑止する(可能な範囲で)
  • 利用ログを残し、例外管理を行う

プロンプトインジェクション/RAG汚染:AIアプリ特有の攻撃面

社内ナレッジ検索(RAG)やAIチャットボットを業務に組み込むと、従来のWeb脆弱性とは別の攻撃面が生まれます。

  • プロンプトインジェクション:悪意ある指示でAIの挙動を変え、機密を引き出す
  • RAG汚染:参照ドキュメントに誘導文を仕込み、誤誘導・情報漏えいを誘発
  • 権限モデルの破綻:AIが見えてはいけない情報を横断的に回答してしまう
  • ツール連携の悪用:AIに「メール送信」「DB更新」「ワークフロー実行」などを許すと、誤操作や悪用の影響範囲が一気に広がる

こうしたリスクは、アプリの仕様・権限・データ設計の問題として現れるため、情シス・開発・セキュリティが一体で設計し直す必要があります。

学習データ汚染・モデル改ざん・信頼できない出力

モデルそのもの、あるいは学習・評価・運用のパイプラインが攻撃されると、判断の信頼性が崩れます。たとえば、学習データやナレッジに悪意ある情報が混ざる、モデルの設定が変えられる、評価(テスト)が形骸化する。こうした問題は、結果として「AIが間違った結論を自信満々に出す」形で表面化します。業務に組み込むほど、誤りは事故になります。

  • 重要業務ほど根拠(参照元)を提示できる設計が必要
  • 出力の正しさを検証できない領域では人の確認を前提にする
  • 仕様変更・データ更新・モデル更新は変更管理(レビュー、承認、ロールバック)に乗せる

モデル盗難・データ推定・API悪用

外部APIや自社モデルを提供する側になると、今度は「モデルを盗まれる」「APIを乱用される」「出力から学習データが推定される」といった論点が生まれます。ここでは、認証・認可、レート制限、監査ログ、鍵管理、テナント分離など、従来のAPIセキュリティの要諦がそのまま効いてきます。

ガバナンス・法令・説明責任

AIは出力が意思決定に影響するため、誤りがビジネス事故に直結します。個人情報・機密情報・著作権・差別・説明責任など、論点は多岐にわたります。

AIの利用に関する法規制も急速に整備されつつあり、2024年8月にはEUでArtificial Intelligence Act(欧州AI規制法)が施行されました。違反時の罰則は最大で全世界年間売上高の7%または3,500ユーロと非常に厳しいものです。

海外取引がある企業であるほど、規制動向を踏まえたガバナンスが必要になります。重要なのは、法令対応を法務任せにせず、セキュリティと一体で運用設計に落とすことです。

経営層・CISOが取るべきアクション:AIセキュリティを“経営課題”にする

AI時代のセキュリティ戦略は、現場の頑張りだけでは成立しません。経営が意思決定すべきポイントは、概ね次の3つに分けられます。

方針(何を守り、どこまで許容するか)

  • AIの利用目的と禁止事項を明文化(機密分類と紐付ける)
  • 人が最終責任を持つ領域を定義(例:与信、採用、重要判断、法的判断)
  • 委託・SaaS・外部APIの利用条件(データの持ち出し、学習利用、ログ保管、保存期間)
  • 例外申請の道を用意し、現場がこっそり使う状況を減らす

体制(誰が意思決定し、運用を回すか)

  • AIガバナンス(責任者・審査プロセス・例外管理)の設置
  • CISO/CSIRT/SOCとAI開発・運用の接続(棚卸し・脅威モデリング・運用手順)
  • インシデント対応計画の更新(AI由来の誤回答、漏えい、改ざん、なりすましを含める)
  • 監査・品質・法務・広報も巻き込み、事故時の説明責任を担保する

実装(どう測り、どう改善するか)

  • AIアプリのセキュリティ評価(権限設計、ログ、監査、耐プロンプト攻撃、データ境界)
  • 継続的なテストと監視(レッドチーミング、監視指標、評価データ更新)
  • 教育の刷新(AI時代のフィッシングやディープフェイクを含む訓練)
  • サードパーティ評価(ベンダーのデータ取り扱い、透明性、監査可能性)

ここで、経営層・CISOが最初の一手として取り組みやすいのが、「AI利用の棚卸し」です。「誰が、どのAIを、何の業務で、どんなデータを扱っているか」を把握できない限り、リスク評価も投資判断もできません。

棚卸しの結果をもとに、次のような優先順位付けを行います。

  • 高優先:機密データ×外部AI×自動実行(ツール連携)
    事故時の影響が大きく、設計変更が必要になりやすい領域
  • 中優先:社内AI×業務支援(要約・検索)
    ルールと権限、ログ、監査で事故を起こしにくい設計にする
  • 低優先:公開情報×個人利用(学習目的)
    教育・ガイドライン中心でコントロールする

「AI導入=生産性向上」の議論は進みやすい一方で、「AI導入=新しいリスクの導入」という議論は後回しになりがちです。だからこそ、経営とCISOが同じテーブルで、“AIで守る”と“AIを守る”を同時に設計することが、競争力に直結します。

CISO/経営が迷わないための90日ロードマップ

AIセキュリティはやることが多く見えますが、最初から完璧を目指すと止まります。ここでは、取り掛かりやすく、成果が見えやすい90日プランを例示します。

  • 0〜30日:現状把握とルール整備(止血)
    • AI利用の棚卸し(部署・用途・データ種類・外部/社内)
    • 重要データの分類と、AI入力可否ルール(暫定版でもよい)
    • 決裁・送金・機密共有の“なりすまし耐性”点検(電話確認、二要素、手順の固定化)
  • 31〜60日:AIアプリの設計レビューと運用の接続(再発防止)
    • RAG/チャットボット等の権限設計レビュー(最小権限、データ境界、回答制御)
    • 監査ログ設計(入力・参照・出力・実行の記録)
    • SOC/CSIRTがAI起因の事故を扱えるよう、手順と訓練シナリオを更新
  • 61〜90日:継続改善の仕組み化
    • 定期評価(レッドチーミング/診断/演習)の計画化
    • KPIの設定(例:棚卸しカバー率、AI入力ルール遵守率、初動時間、復旧時間)
    • ベンダー・委託先に対する要求事項(データ取扱い、監査、透明性)のテンプレ化

AIは導入のスピードが速い分、暫定のガードレールを早く敷き、走りながら改善する発想が現実的です。

技術責任者向け AIアプリを“事故らせない”ための設計ポイント

CTO/開発責任者の立場では、「AIを入れるかどうか」より「AIをどう組み込むか」が勝負になります。特に事故を起こしやすい論点は、次の5つです。

  1. 権限とデータ境界:AIの回答が横断参照にならないよう、検索・参照段階でアクセス制御する
  2. 根拠提示:可能な限り参照元(文書ID、URL、更新日時)を出し、検証可能性を担保する
  3. 入力と出力の制御:機密らしき文字列のマスキング、出力フィルタ、禁止操作の明確化
  4. ツール連携の安全化:実行系は二重確認・最小権限・レート制限・停止スイッチを前提にする
  5. 監査ログと再現性:入力・参照・出力・実行を記録し、事故時に再現できるようにする

便利さは機能追加で得られますが、信頼性は設計でしか得られません。AIを業務に組み込むほど、セキュリティは後付けでは間に合わなくなります。

次の5年で起きること、起きないこと

今後数年で見えているのは、次の潮流です。

  • 攻撃の自動化はさらに進む:偵察から侵入、横展開まで“部分最適”が積み上がる
  • 防御は「検知」から「耐性設計」へ:侵入前提で、権限・ネットワーク・データの分離を徹底する
  • AIセキュリティが専門領域として独立:従来のAppSec/CloudSecに、AI特有の評価観点が加わる
  • 規制・顧客要求が増える:説明責任、監査、データ管理が調達条件になる
  • 人材の取り合いが起きる:AI×セキュリティ×事業の三領域を理解する人材が不足する

AI関連のセキュリティは、単一の製品カテゴリに収束しにくい領域です。LLMの挙動評価、プロンプト攻撃耐性、データ境界、監査ログ、運用プロセスなど論点が横断的だからです。そのため今後は、ツール導入に加えて、第三者による評価(診断・レビュー・レッドチーミング)と、運用を回す支援(監視・手順整備)がセットで求められる場面が増えていくでしょう。

一方で、変わらないものもあります。資産管理、脆弱性管理、特権管理、バックアップ、監視、訓練などのいわゆる基本は、AI時代でも依然として高い効果を示します。AIがさまざまな能力を拡張してくれる機能を提供するため、基本が弱い組織ほど被害も増幅されます。

まとめ:これからのセキュリティに携わる人へ

攻撃も防御もAI時代に突入し、企業は「AIで守る」だけでなく「AIを守る」視点を持つことが不可欠になりました。重要なのは、AIを恐れることでも、AIに依存することでもありません。現場の運用と、経営の意思決定をつなぎ、継続的に改善できる仕組みを作ることです。

そして、これからセキュリティ業界に携わりたい人、すでに現場で経験を積みステップアップしたい人に伝えたいのは、AIが広がるほど「基礎」が価値を増すという事実です。 攻撃者がAIで効率化するほど、守る側には、設計・運用・検証の地味な力が求められます。AIは学習すれば追いつけますが、現場の勘所である何を優先し、どこに投資し、どう回すかは、積み上げでしか身につきません。

最後に、AI時代のセキュリティを一言で表すなら、「スピードの時代」です。攻撃のスピードが上がる以上、防御も“検知してから考える”では遅れます。 平時からの設計(境界・権限・ログ)と、迷わず動ける手順(初動・連絡・隔離・復旧)が、被害の差になります。AIはそれを加速してくれる道具にも、穴を広げる要因にもなります。だからこそ、今このタイミングで戦略を更新する価値があります。

付録:企業が「今すぐ」着手できるチェックリスト

AI利用の棚卸し(ガバナンスの入口)

  • 生成AIの利用実態(シャドーAI)を把握できているか
  • どの部署が、どのAI(外部/社内)を、どの業務に使っているか一覧化できているか
  • 取り扱うデータ(機密/個人情報/顧客情報/ソースコード等)を分類できているか
  • 外部AIに投入するデータのマスキング・匿名化・要約など、代替手段を用意しているか

AIアプリ(RAG/チャットボット等)の設計・運用

  • 権限(誰が何にアクセスできるか)をAIの回答レベルまで落とし込めているか
  • 参照データの取り込み経路は管理され、改ざん検知やレビューがあるか
  • 監査ログ(誰が何を聞き、何を参照し、何を出力したか)を残せているか
  • ツール連携(実行系)を許す場合、二重確認・最小権限・停止スイッチがあるか

AI時代の“人”への対策

  • フィッシング訓練はAI時代(自然文・音声・偽装)に合わせて更新したか
  • なりすまし対策(決裁・送金・機密共有の手順)を見直したか
  • インシデント対応訓練で「深夜の役員なりすまし」「AIの誤回答による事故」などを扱っているか

ブロードバンドセキュリティからのご案内

AI活用が進むほど、攻撃面は「システム」だけでなく「データ」「運用」「人」に広がります。まずは現状の棚卸しと、優先順位付けが重要です。ブロードバンドセキュリティ(BBSec)では、脆弱性診断(Web/アプリ/クラウド)に加え、運用設計・監視・セキュリティ運用支援まで、状況に合わせてワンストップでご支援可能です。必要に応じて、AI導入・AIアプリ運用に伴うリスクの洗い出しや、運用プロセスの整備もご相談いただけます。


―END―
【前編】「AIが変える攻撃の現状と、防御側AI活用のリアル」はこちら


執筆:上野 宣 氏
株式会社トライコーダ代表取締役
奈良先端科学技術大学院大学で山口英教授のもと情報セキュリティを専攻、2006年にサイバーセキュリティ専門会社の株式会社トライコーダを設立。2019年より株式会社Flatt Security、2022年よりグローバルセキュリティエキスパート株式会社、2025年より株式会社ブロードバンドセキュリティの社外取締役を務める。あわせて、OWASP Japan代表、一般社団法人セキュリティ・キャンプ協議会理事、NICT CYDER推進委員などを歴任し、教育・人材育成分野にも尽力。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教員。

編集責任:木下・彦坂

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特別寄稿/AI時代のセキュリティ戦略:上野宣氏が語る、攻撃と防御の最前線【前編】

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上野宣氏

生成AIの急速な進化は、私たちの業務やビジネスの在り方だけでなく、サイバーセキュリティの常識そのものを塗り替えつつあります。攻撃者によるAI活用が高度化・自動化を加速させる一方で、防御側もまたAIを駆使した新たな対策を模索する時代に突入しました。攻撃と防御の双方でAI化が進むなか、企業はこれまでの延長線上にある対策だけで十分と言えるのでしょうか。いま、セキュリティ戦略そのものの再定義が求められています。

本記事では、現ブロードバンドセキュリティ(BBSec)およびグローバルセキュリティエキスパート株式会社の社外取締役、そして長年にわたりサイバーセキュリティ分野を牽引してきた上野 宣氏に、AIとセキュリティを取り巻く最新動向、企業が直面する課題、そしてこれからの時代に求められる戦略の方向性について伺います。

後編「AI時代に増えるリスクと、経営が取るべきアクション」はこちら


AIが変える攻撃の現状と、防御側AI活用のリアル

生成AI(LLM)の普及によって、サイバー攻撃のコストが劇的に低下しています。フィッシング文面の作成、標的企業の調査、マルウェアの作成、侵入後の横展開など、これまで人手と経験を必要としていた工程が、現在では半自動化されつつあります。犯罪ビジネスとして収益最大化を狙う攻撃者にとって重要なのは「時間を掛けて大物を狙うこと」ではなく、「いかに効率的に稼げるか」です。その結果、防御側には「特定の攻撃を止める」だけではなく「被害を最小化し、迅速に復旧する」という視点がこれまで以上に求められています。一方、防御側も、EDR/XDRやログ分析の高度化、セキュリティ運用(SOC/CSIRT)の自動化など、AIを取り入れた対策が急速に進んでいます。

また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2026年1月29日に公開した「情報セキュリティ10大脅威 2026 [組織編]」では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて3位に選出されました。

攻撃と防御の双方でAI化が進む現在、企業のセキュリティ戦略はどう変わるべきなのでしょうか。本稿では、攻撃者の視点で侵入を行うペネトレーションテストの経験を踏まえ、AI時代のセキュリティ最前線を整理し、現場と経営の双方が「明日から動ける」論点を提示します。

AIが変えるサイバー攻撃の現状

攻撃者は「巧妙さ」よりも「スケール」と「成功確率」を取りに来る

AIがもたらした本質的な変化は、攻撃手法そのものの高度化ではありません。最大の変化は攻撃のスケール(量)と、標的に適した攻撃手法を選択できる確率が大きく向上した点にあります。

  • フィッシング/ビジネスメール詐欺(BEC)の高精度化
    役職や業務内容、業界用語に合わせた文面、自然な敬語表現、過去メールの文体模倣、会話の継続まで、生成AIが支援することができます。結果として「日本語が不自然」「誤字が多い」といった従来の判別ポイントが機能しなくなっています。さらに、メールに限らず、チャット(Teams/Slackなど)やSMS、SNSのDM、ビデオ会議(Zoom/Teamsなど)など複数チャネルを横断した心理的誘導も増えています。
  • ディープフェイク(音声・映像)によるなりすまし
    役員の音声を模した緊急指示など、本人になりすましたリアルタイムの会話を通じた詐欺など、人の心理を突く攻撃が進化しています。特に決裁フローが「口頭承認」「チャットでOK」で通る組織ほど影響が大きくなります。
    2024年初頭には、香港でCFOをディープフェイクで偽装し、ビデオ会議を通じて2,500万米ドル(約38億円)を詐取した事件が報じられました。従来、本人確認は「見て・聞いて・確認する」という感覚に依存していましたが、その前提自体が崩れています。

[CFO(最高財務責任者)になりすまして2500万米ドルを送金させたディープフェイク技術 |トレンドマイクロ](https://www.trendmicro.com/ja_jp/research/24/c/deepfake-video-calls.html)

  • マルウェアの派生と検知回避の高速化
    既存コードの改変、難読化、検知回避の試行錯誤を短時間で回せるため、シグネチャ依存の検知は追随が難しくなります。加えて、侵入後の活動(権限昇格、横展開、永続化)に必要なコマンドや手順を考えるコストが下がり、攻撃者の習熟速度が上がります。
  • 偵察(Recon)と脆弱性悪用の自動化
    公開情報(OSINT)の収集、サブドメイン列挙、設定不備の探索、既知脆弱性(CVE)の当たり付けなど、攻撃の前工程が加速します。攻撃者は「露出している資産」「更新されていないミドルウェア」「放置された管理画面」のような守りの穴をAIで素早く見つけ、手当たり次第に試行します。
  • 生成AIによるコード生成とその限界
    生成AIは攻撃コードのたたき台(PoC)や、攻撃後の痕跡隠し(ログ削除や設定変更)の手順を提案することができます。攻撃者が高速に試行錯誤を行うことができるようになりました。ただし、生成物は常に正しいとは限らず、環境依存のミスも多くあります。AIは攻撃を容易にしますが、万能ではありません。

2024年5月にはIT分野の専門知識を持たない人物が、生成AIを悪用してランサムウェアを作成し逮捕されたという国内事案も起きています。従来は一定の技術力が必要だった領域でしたが、AIが参入障壁を引き下げています。
[生成AI悪用しウイルス作成、有罪判決…IT知識なくとも「1か月ぐらいで簡単に作れた」 | 読売新聞](https://www.yomiuri.co.jp/national/20241025-OYT1T50209/)

AIは攻撃者にとって新しい武器というより、「既存の攻撃を、安く、速く、個別最適化して量産する装置」として機能しています。

守る側が見落としがちな本質的脅威:攻撃者の「工数」ではなく「意思決定」が変わる

AIで工数が下がると、攻撃者の意思決定が変わります。たとえば以前なら「ROI(投資利益率)が合わない」と見送られていた中堅企業や子会社、地方拠点も、数を打つ前提で標的に入りやすくなります。また、ランサムウェアのように侵入後に人が関与する攻撃でも、初期侵入の候補が増えるだけで全体の被害母数は増えます。

企業は「自社は狙われない」ではなく、狙われる前提で、侵入しにくく・侵入されても広がらない設計に投資する必要があります。

一方で、AI攻撃にも限界があります。生成物の誤り、環境依存、権限・ネットワーク制約など、現実の侵入は地味な制約だらけです。 だからこそ防御側は、AIを過度に恐れるよりも、AIによって「攻撃の頻度と質が上がる」前提で、基本対策を徹底しつつ、運用を強化することが重要になります。

防御側のAI活用と、その限界

「検知モデル」と「生成モデル」は役割が異なる

防御側のAI活用を考える際、まず押さえたいことは、AIには大きく2種類の使い方があることです。

  1. 検知(判別)に強いAI:振る舞いから異常を検知し、アラートを出す(EDR/XDR、UEBAなど)
  2. 生成(要約・支援)に強いAI:文章の要約、問い合わせ応答、手順提案、チケット起票など運用補助を担う

両者を混同すると、「AIを入れたのに検知できない」「要約は便利だが判断が危ない」といったミスマッチが起きます。導入時はAIに何を任せ、何を人が担うかを明確にすることが出発点になります。

AIはすでに防御のコアである

防御側のAI活用は、AI製品を買えば解決という単純な話ではありません。多くの企業で現実に進んでいるのは、次のような領域です。

  • EDR/XDRの検知ロジック強化
    従来のルールベースに加え、行動分析や相関分析を組み合わせ、攻撃の兆候を早期に拾う。
  • ログ分析/異常検知の高度化
    分散したログを統合し、普段と違う通信・認証・権限変更などを検知する。特にクラウドでは、設定変更(IaC、権限付与、APIキー利用)のログが要になります。
  • SOCの一次分析(トリアージ)の効率化
    アラート要約、関連ログの自動収集、影響範囲の仮説立て、過去事例の類推など、人が疲弊する作業をAIが肩代わりする。SOAR(自動対応)と組み合わせ、軽微なインシデントを自動封じ込めする例も出ています。
  • 脅威インテリジェンスの取り込み
    攻撃者のTTPやIoCを取り込み、自社ログと突合する。AIは情報の整理・関連付けに強い一方、最終的な妥当性判断は人が担う必要があります。
    AIが得意なのは「大量データの整理・優先順位付け」であり、最終判断(ビジネス影響、止める/止めない、復旧手順)は人間の責務として残ることです。

AI防御の落とし穴

AIを活用した防御には、以下のようなリスクがあることを知っておいて下さい。

  • 誤検知/見逃し(False PosITive/Negative)
    AIはもっともらしい出力を返しますが、誤りをゼロにはできません。誤検知が多いと現場はアラート疲れを起こし、逆に見逃しが増えます。
  • 説明可能性(ExplAInabilITy)の不足
    「なぜ検知したのか」が説明できないと、現場の納得も、経営への説明も難しいことがあり、監査や顧客説明に耐えない可能性もあります。
  • データの偏り/経時変化
    組織の利用状況、システム構成、攻撃トレンドは常に変わります。過去データに最適化されたAIは、時間とともに精度が落ちる可能性があります。
  • 生成AIの幻覚(ハルシネーション)
    運用支援にLLMを使う場合、誤った要約や根拠不明の推論が混ざることがあります。検証手順(根拠ログの提示、再現確認)を確立しておくことが必須となります。
  • 機密ログの扱い
    生成AIにログを投入する場合、そのログ自体が機密情報の塊です。保存、外部送信、学習利用、権限管理の設計を誤ると、防御強化のつもりが漏えいリスクになります。
    AIは防御の万能薬ではなく、運用を強くするための一要素に過ぎません。AIを導入するなら「どのKPIを改善するのか(初動時間、検知率、分析工数、MTTRなど)」を定義し、運用とセットで設計する必要があります。

―【後編】「AI時代に増えるリスクと、経営が取るべきアクション」 に続く―


執筆:上野 宣 氏
株式会社トライコーダ代表取締役
奈良先端科学技術大学院大学で山口英教授のもと情報セキュリティを専攻、2006年にサイバーセキュリティ専門会社の株式会社トライコーダを設立。2019年より株式会社Flatt Security、2022年よりグローバルセキュリティエキスパート株式会社、2025年より株式会社ブロードバンドセキュリティの社外取締役を務める。あわせて、OWASP Japan代表、一般社団法人セキュリティ・キャンプ協議会理事、NICT CYDER推進委員などを歴任し、教育・人材育成分野にも尽力。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教員。

編集責任:木下・彦坂

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ビジネスメール詐欺(BEC)の脅威と企業に求められる対策 -2026年最新の脅威と対策ガイド-

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ビジネスメール詐欺(BEC)の脅威と企業に求められる対策 -2026年最新の脅威と対策ガイド-アイキャッチ画像

近年、企業を狙った巧妙な「ビジネスメール詐欺(BEC: Business Email Compromise)」が世界的に急増しています。本記事では、BECの概要や実際の被害事例、典型的な手口と最新動向について解説し、企業が取るべき対策と今後の備えとして必要な社内体制づくりについて提言します。

ビジネスメール詐欺(BEC)とは何か

ビジネスメール詐欺(BEC)」とは、巧みに偽装した電子メールを企業の従業員に送りつけ、経理送金などの不正行為を実行させる詐欺手口です。攻撃者は取引先や経営者になりすまして「請求書の振込先が変更になった」「至急資金を用意してほしい」といったメールを送り、社員を信用させて偽の口座へ送金させます。その名の通りBusiness E-mail Compromise(=”ビジネス Eメール詐欺”)の頭文字を取って「BEC(ベック)」とも呼ばれます。一般的なマルウェア添付型メールとは異なり、ビジネスメール詐欺のメールにはマルウェア添付や明らかな不審リンクがない場合も多く、一見「通常の業務メール」に見える点が非常に厄介です。

ビジネスメール詐欺(BEC)の特徴

ビジネスメール詐欺は高度なソーシャルエンジニアリング(巧妙な人為的なだまし)の一種であり、技術的手口と心理的誘導を組み合わせて実行されます。攻撃者はターゲット企業や関係者について徹底的に調査し、社員の権限や性格、役職に至るまで把握します。その上で「海外出張中の社長」を装って部下に緊急送金を命じたり、「取引先担当者」を装い請求書の振込口座変更を通知したり、あるいは「秘密裏の相談」を持ちかけて警戒心を解き、相手に疑う隙を与えないよう仕向けます。このようにBECは人間の認知・判断の隙を突いて金銭を騙し取る巧妙な詐欺であり、IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威」でも毎年TOP10入りするなど極めて深刻な脅威です。

ビジネスメール詐欺の手口と最近の傾向

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)による注意喚起などで紹介されているBECの典型的な手口は、大きく以下の5タイプに分類されます。

・取引先との請求書の偽装
・経営者等へのなりすまし
・窃取メールアカウントの悪用
・社外の権威ある第三者へのなりすまし
・詐欺の準備行為と思われる情報の詐取

なお、この分類は、米国政府系機関のIC3(Internet Crime Complaint Center:インターネット犯罪苦情センター)の定義によるものであり、IPA以外にも、多くのセキュリティ機関で使用されているものです。実際の攻撃では、これら複数の手口を組み合わせて巧妙に仕掛けられるケースもあります。例えば「詐欺の準備行為と思われる情報の詐取」で社内情報を下調べした上で「取引先との請求書の偽装」+「経営者等へのなりすまし」で請求書詐欺を行う、といった具合です。また攻撃者はメール送信元を偽装する際、本物のドメインに一文字追加するなど判別しづらい偽アドレスを使うため、受信者が違和感を持ちにくい工夫がされています。

ビジネスメール詐欺実行のプロセス

ビジネスメール詐欺の背後では、攻撃者が入念な準備を重ねています。典型的な実施プロセスは下記の通りです。

1.標的とする企業の選定
2.フィッシング、マルウェア感染などのサイバー攻撃による電子メールアカウント乗っ取り
3.乗っ取った電子メールアカウントを用いた情報の収集・分析
 例:
 ・組織図や人事情報
 ・意思決定者や経理担当者などのキーパーソンの氏名・役職・権限・業務管掌
 ・企業の業務プロトコルや各種社内規定、企業文化
 ・毎月の経理処理のスケジュール
 ・主要取引先の担当者氏名・役職・権限、取引の詳細
 ・ターゲット候補に関する情報
 (性格や気質、言葉遣いの癖、趣味やプライベート、出張・休暇情報など)
4.ターゲット、攻撃シナリオの決定
 例:経理担当者A氏をターゲットにし、大口取引先B社の経理担当者C氏になりすます
5.詐欺ドメインの取得
 例:大口取引先B社とよく似たドメインの取得、メールサーバの設定 他
6.なりすましメール送信
 例:A氏に対し、C氏を装った電子メールを送信
7.攻撃成功
(なりすましであることに気づかれることなく、メールの内容にもとづく行動を起こさせる)
 例:A氏がなりすましメールの指示通りに、攻撃者の口座へ入金処理を実施

例えば、決裁者が出張中で不在のタイミングを狙い撃ちし、その間隙に乗じて部下に大量送金を依頼するなど、周到にシナリオが練られています。ターゲットを絞り込み時間をかけて攻撃するため、1件あたりの被害額は莫大になる傾向があります。

生成AIを利用したメール文面の巧妙化

近年の大きな傾向の特徴の一つとして、生成AIの普及によるメール文面の巧妙化があります。当初BECは英文メールで海外取引のある企業が狙われるケースが目立ちました。しかし2022年以降の生成AIの普及により、日本語の文面も非常に自然で巧妙になってきています。生成AIは、単に文章を作成するだけでなく、ターゲット企業の業界用語や社内の言い回し、文化的なニュアンスまで学習し、極めて説得力のあるメールを作成します。例えば、製造業の企業に送られるメールには業界特有の専門用語が適切に使われ、金融機関に対しては金融規制に関する正確な知識を踏まえた内容が含まれます。これにより、従業員が不自然な表現という従来の判断基準で詐欺を見抜くことは極めて困難になっています。

さらに、生成AIは多言語対応も容易にしました。攻撃者は英語、日本語、中国語、韓国語など、ターゲットに応じて完璧な言語でメールを作成できるため、「海外取引がない企業は安全」という考えは完全に通用しなくなっています。

ビジネスメール詐欺の被害事例

実際にビジネスメール詐欺による被害は国内外で多発しており、日本国内でも被害が急増しています。

2017年末に大手企業で数億円規模の被害が発生し注目が集まり、その被害総額は2023年末時点で全世界累計約554億ドル(約8兆円)を超え、2024年には生成AIの普及により攻撃が前年比1,760%増加する*1 など、脅威は加速度的に拡大しています。1件あたりの平均被害額は13万7,000ドル(約2,000万円)に達し*2、高額案件では467万ドル(約6億8,000万円)の被害も報告されています*3

LINE誘導型CEO詐欺

特に2025年の年末以降に急増しているのが、経営者を装って従業員に「LINEグループを作成してほしい」とメールで依頼し、QRコードの送信を求めるというLINE誘導型CEO詐欺の手口です。この攻撃はURLリンクが含まれないため、従来のセキュリティツールでは検知が困難です。具体的な被害報告例は下表の通りです。

被害公表日概要
2025年12月27日北海道函館市の企業で約4,980万円の被害が報告*4
2026年1月7日長野県飯田市の企業で2,950万円の被害*5
2026年1月20日東京都内の組織14件で計6億7,000万円の被害*6

LINE誘導型攻撃の実態については以下の記事でも解説しています。あわせてぜひご覧ください。
【注意喚起】「業務上の理由で…」そのメール、本当に上司ですか?―年末年始を狙うLINE誘導型ソーシャルエンジニアリングの実態

ビジネスチャットツールでのなりすまし詐欺

ビジネスメールだけでなくChatworkやMicrosoft Teamsなどのビジネスチャットツールでのなりすまし詐欺も増加しており、攻撃の多様化が進んでいます。2026年1月には、Chatworkが公式に注意喚起を発表し、「経営者を装った不審なコンタクト申請」が多発していることを警告しました*7 。この攻撃では、攻撃者が社長や役員の名前とプロフィール写真を使用してアカウントを作成し、従業員にコンタクト申請を送ります。承認されると、「緊急の案件で手が離せない」「機密事項なので他言無用」といったメッセージで信頼を築き、最終的に送金指示や機密情報の提供を求めます。チャットツールが標的となる理由として、従業員の警戒心の低さやセキュリティ設定の甘さなどがあります。

2026年のBECトレンド予測:進化する脅威への備え

ビジネスメール詐欺は、技術の進歩とともに急速に進化を続けています。2026年に向けて、企業が警戒すべき最新トレンドをご紹介します。

AIによる攻撃の高度化

生成AI技術の普及により、ビジネスメール詐欺は劇的に進化しています。2024年第2四半期の調査では、フィッシングメールの約40%がAI生成コンテンツであると特定されており*8、この割合は今後さらに増加すると予測されています。従来は不自然な日本語表現で見破れた詐欺メールも、現在ではネイティブレベルの完璧な多言語メールが簡単に生成可能です。

さらに深刻なのが、AI音声合成技術による「電話確認」の突破です。ディープフェイク音声により経営者の声を高精度で模倣できるため、従来の対策である「電話での本人確認」も無力化される恐れがあります。2026年はこの攻撃がさらに洗練されることが予想されます。

攻撃対象の拡大

ビジネスメール詐欺の戦場はメールからチャットツールへ拡大しています。2026年1月にはChatworkが公式に注意喚起を発表し、Microsoft Teams、Slack、LINEなどでのなりすまし詐欺が急増しています。また、実際に取引先企業のアカウントを侵害して攻撃する「VEC(Vendor Email Compromise:ベンダーメール詐欺)」が2023年から2024年にかけて66%増加したという報告もあります*9。VECは正規のアカウントから送信されるため検知が極めて困難で、自社だけでなくサプライチェーン全体のセキュリティ対策が必要です。

日本特有の課題

日本企業の最大の課題はDMARC導入の遅れです。2026年1月の日本経済新聞の報道によれば、最も効果的な「拒否」設定を行っているのはわずか15%(米欧は約60%)にとどまっています。また、東京だけでなく長野、北海道、新潟など全国各地で被害が発生しており、地方企業におけるセキュリティ意識や専門人材の不足という地域格差も深刻な問題となっています。

攻撃者は防御の弱い企業を優先的に狙うため、日本企業は早急な対策強化が求められています。

ビジネスメール詐欺に企業が取るべき対策

ビジネスメール詐欺の被害を防ぐには、「技術」「人」「プロセス」の三位一体となった多面的な対策が求められます。

技術的対策

メール認証技術の導入が最優先です。SPF、DKIM、特にDMARC「拒否」設定を実装し、なりすましメールを受信前にブロックしましょう。また、全従業員への多要素認証(MFA)導入を推進し、アカウント乗っ取りを防止しましょう。

メール認証技術(SPF・DKIM・DMARC)の導入ポイントについては、以下の記事でも解説しています。あわせてぜひご覧ください。
「ソーシャルエンジニアリング最前線【第4回】企業が実践すべきフィッシング対策とは?」
フィッシング対策に重要なメール認証技術とは?SPF・DKIM・DMARCの導入ポイント

基本的なセキュリティ対策の強化
ウイルス対策・不正アクセス対策・OSの更新・IDやパスワードの管理・二要素認証の採用など、一般的なセキュリティ対策は、ビジネスメール詐欺実行のプロセスの「フィッシング、マルウェア感染などのサイバー攻撃による電子メールアカウント乗っ取り」にも有効です。

人的対策

定期的なセキュリティ研修で、BECの最新手口を全社員に周知します。擬似BEC攻撃メールによる訓練を実施し、不審なメールを見抜く力を養成しましょう。メールだけでなく、Chatwork、Slack、Microsoft Teamsなどチャットツールでのなりすまし対策教育も重要です。

プロセスの再構築

振込先口座の変更や高額送金の指示がメールで来た場合、必ず事前登録された電話番号に直接確認する社内ルールを徹底します(メール本文の連絡先は使用しない)。複数人承認制を義務化し、LINEやTeamsのアカウント情報を求められた場合も同様に電話確認を必須とします。

ビジネスメール詐欺の脅威は、技術の進歩とともに進化を続けています。企業は、「自社は大丈夫」という楽観的な見方を捨て、常に最新の脅威情報にアンテナを張り、継続的に対策をアップデートする姿勢が求められます。

ビジネスメール詐欺ではどこまで自社の情報を集められるのか?

ビジネスメール詐欺は「ターゲットについて調べに調べたうえで実行される」と述べました。相手を欺くために練りに練られたメールを、最も攻撃に弱いと見立てたターゲットに送る。それがターゲットの元に届いてしまったとき、その後できる対策は決して多くはありません。

そこで求められるのが、前述したビジネスメール詐欺実行のプロセスの、なるべく早期の段階にフォーカスした対策です。具体的には、2および3のフェーズ、すなわち「電子メールアカウントが乗っ取られて攻撃のための情報が収集、分析される」段階を想定してセキュリティ課題を抽出し、対策を立てることをおすすめします。「シフトレフト」に関する記事で言及しているように、対策は、プロセスの前段階であればあるほど効果的です。

株式会社ブロードバンドセキュリティ(BBSec)では、標的型攻撃への対策として開発された「SQAT® APT」というサービスを提供しています。本サービスでは、攻撃が成功した場合、「社内の情報がどこまで収集されてしまうのか」、「どこまで侵入を許してしまうのか」、「何を知られてしまうのか」、といった点を把握できるようになっており、ビジネスメール詐欺対策としても威力を発揮します。

もっともうま味のある成果を狙って、もっとも弱いところを突いてくる。それがビジネスメール詐欺です。起こりうる被害を可視化して対策を立て、早い段階で攻撃の芽を摘みましょう。

G-MDR®

サイバー攻撃への防御を強化しつつ、専門技術者の確保や最新技術への投資負担を軽減します。
https://www.bbsec.co.jp/service/mss/gmdr.html
※外部サイトにリンクします。

エンドポイントセキュリティ

組織の端末を24/365体制で監視。インシデント発生時には端末隔離等の初動対応を実施します。
https://www.bbsec.co.jp/service/mss/edr-mss.html
※外部サイトにリンクします。

インシデント初動対応準備支援

拡大するサイバーセキュリティの脅威に対応するために今すぐにでも準備すべきことを明確にします。

https://www.bbsec.co.jp/service/evaluation_consulting/incident_initial_response.html
※外部サイトにリンクします。

まとめ

  • ビジネスメール詐欺(BEC)は取引先や上司を装った偽メールで社員を欺き、不正送金等を行わせる犯罪であり、高度に人の心理の弱みを突くソーシャルエンジニアリング攻撃の一種です。
  • 攻撃者はメールアカウント乗っ取りなど技術的手段も駆使しつつ、企業や従業員に関する綿密な事前調査を行い、練り込んだシナリオで標的を信じ込ませます。
  • 発生すると被害額が極めて大きくなりやすく、企業規模・業種を問わず警戒が必要です。
  • ビジネスメール詐欺の被害を防ぐには、メール詐欺に焦点を合わせた多面的な対策(技術・プロセス・教育)を実施することが効果的です。

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【2025年版】ランサムウェアギャング大図鑑:脅威マップと攻撃の特徴 第3回:今後のトレンドと企業が取るべき対策

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ランサムウェアギャング大図鑑:第3回 今後のトレンドと企業が取るべき対策アイキャッチ画像

急速に変化を続けるランサムウェアの脅威についてシリーズ第3回では、2025年以降に予測される攻撃トレンドと、防御の要となる企業の対策ポイントを解説します。AIを活用した攻撃の自動化、地域・業種特化型の攻撃、そして“多重恐喝”の常態化など、脅威はさらに高度化しています。被害を防ぐために企業がとるべき対策や実践的な技術的対策から組織的な備えまで、最新の防御戦略をわかりやすく紹介します。

はじめに:2025年のランサムウェア攻撃と企業への脅威

これまでの2回にわたり、ランサムウェアの進化と市場の変動、そして主要なランサムウェアギャングの勢力図の変化を見てきました。第1回では、ランサムウェア攻撃がどのように進化してきたかを、技術的な進歩や新たな攻撃手法を中心に解説しました。第2回では、ランサムウェアギャングの台頭とその戦略の変化に焦点を当て、特に「RaaS(Ransomware-as-a-Service)」の普及による攻撃の多様化を説明しました。

そして「ランサムウェアギャング大図鑑」シリーズ最終回の第3回では、これらの現状を踏まえて予測される2025年以降のランサムウェア攻撃のトレンドと、企業が今後取るべき対策をご紹介します。攻撃者の進化と企業の防御策がかみ合わないと、被害は拡大する一方です。したがって、最新の脅威動向をしっかりと把握し、適切な対策を講じることが不可欠です。

今後のランサムウェア攻撃のトレンド

ランサムウェア攻撃は年々進化を続けており、攻撃者の手法はますます高度化しています。以下のトレンドが、2025年以降のランサムウェア攻撃を特徴づけると予測されます。

AIおよび機械学習を悪用した攻撃の高度化

ランサムウェア攻撃者は、攻撃をより手軽に仕掛けるため、AIや機械学習を活用し始めています。今後、生成AIの技術は、以下のような形で攻撃に悪用されると予測されています。

攻撃のターゲティング精度の向上

AIを活用することで、攻撃者はターゲットをより詳細に分析し、最も脆弱な部分を狙った攻撃が可能になります。過去の攻撃パターンやデータを学習させることで、企業にとって最も致命的な脆弱性を見つけ出すことができます。

攻撃プロセスの自動化

攻撃の自動化により、従来よりも高頻度かつ広範囲にわたる攻撃が実施される可能性が高まります。AIを利用することで、攻撃者は迅速に脆弱性を見つけ出し、効率よく攻撃を仕掛けることができるようになります。

フィッシング攻撃の進化

AIを駆使して、よりリアルで説得力のあるフィッシングメールが生成され、従業員が引っかかりやすくなります。

サプライチェーン攻撃の増加

サプライチェーン攻撃は2025年以降、さらに拡大することが予測されています。攻撃者は、特に信頼性の高い企業の取引先やパートナーを標的にし、その脆弱性を悪用して間接的に大手企業のネットワークへアクセスする手法を取ります。サプライチェーンでは多くの企業がネットワークを共有しているため、一度攻撃者の侵入を許してしまうと、その後広範囲に影響が及びます。

ランサムウェア(RaaS)モデルの深刻化

今後、RaaSのサービスプロバイダがさらに多様化し、攻撃者が手軽にランサムウェアを利用できる環境が整っていくでしょう。これにより、より多くの犯罪者がランサムウェア攻撃に参入し、その結果として攻撃が広範囲に及ぶことが予測されます。

ゼロデイ攻撃の増加

ゼロデイ攻撃は、未公開の脆弱性を突いた攻撃です。攻撃者は、パッチが公開される前に脆弱性を悪用し、感染拡大を狙います。これからのランサムウェア攻撃において引き続き重要な手段として使用されるでしょう。

ゼロデイ攻撃についてSQAT.jpでは以下の関連記事を公開中です。こちらもあわせてぜひご覧ください。
世界で多発するゼロデイ攻撃とは?Apple・Google・Ciscoを襲った脆弱性の実態と対策
https://www.sqat.jp/tamatebako/39750/

企業がとるべきセキュリティ対策

今後、ランサムウェア攻撃はさらに巧妙化し、企業に対する脅威が増大すると予測されます。企業は以下のような対策を講じることにより、リスクを最小限に抑えることができるでしょう。

多層防御策の強化

ランサムウェア攻撃を防ぐためには、単一の防御策では不十分です。多層防御を導入し、複数のセキュリティ対策を重ねることで攻撃のリスクを大幅に低減できます。具体的には以下のセキュリティ対策例が挙げられます。

エンドポイントセキュリティ(EDR)の強化

EDR(Endpoint Detection and Response)を導入し、攻撃を早期に発見できる体制を整えます。これにより、サイバー攻撃の初期兆候をいち早く検出することが重要です。

ゼロトラストモデルの導入

ゼロトラスト(Zero Trust)アーキテクチャの導入により、企業はすべてのアクセスの信頼性を常に検証し、最小限のアクセス権を付与することが求められます。

サプライチェーンリスク管理

企業は自組織のサプライチェーンの脆弱性をしっかりと把握し、取引先やパートナー企業に対するセキュリティ評価を強化する必要があります。

バックアップと復旧体制の整備

ランサムウェア攻撃を受けた場合、迅速な復旧ができる体制を整えておくことが重要です。具体的には以下のような例が挙げられます。

  • オフラインバックアップの実施
    ランサムウェアはオンラインバックアップも暗号化する可能性があるため、オフラインでバックアップを保持することが必要です
  • 復旧計画のテスト
    定期的にバックアップと復旧手順をテストし、実際の攻撃時に速やかに復旧できるよう準備します

インシデント対応計画の策定

ランサムウェア攻撃を受けた場合、迅速な対応が求められます。企業はインシデント対応計画を策定し、発生時の対応マニュアルや手順を明確にした上で、組織内での訓練を定期的に行うことが重要です。インシデント対応チームの迅速な対応が企業の存続に直結します。

まとめ:2025年のランサムウェア脅威への最適な防御策

ランサムウェア攻撃はますます巧妙化し、企業にとってその脅威は深刻化しています。しかし、適切な対策を講じることで、企業はリスクを最小化することができます。進化する攻撃トレンドに対応するために、企業は多層防御、ゼロトラスト、サプライチェーンリスク管理、バックアップ体制の強化、インシデント対応の準備を万全に整えることが求められます。今後もランサムウェア攻撃は進化し続けるため、自組織の環境に応じた適切なセキュリティ対策を実施し、組織内のセキュリティ意識を高めていくことが求められるでしょう。


―連載一覧―

第1回:ランサムウェアの進化と2025年の市場構造
第2回:2025年注目のランサムウェアギャング徹底分析

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    【2025年版】ランサムウェアギャング大図鑑:脅威マップと攻撃の特徴 第2回:2025年注目のランサムウェアギャング徹底分析

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    2025年注目のランサムウェアギャング徹底分析アイキャッチ画像

    世界では100を超えるランサムウェアギャングが活動しており、勢力図は日々変化しています。シリーズ第2回では、LockBitやQilin、Cl0p、Akiraなど、2025年現在も活発に活動している主要なランサムウェアギャングを中心に、その手口・特徴・攻撃傾向を徹底分析します。また、BlackCatやRansomHubなど衰退したグループの動向にも触れ、再編を繰り返すランサムウェア市場の「現在地」を整理し、企業が注視すべき最新の脅威を明らかにします。

    2025年の勢力図 ― ランサムウェア市場の再編

    2025年現在、ランサムウェアの勢力図は大きく塗り替えられています。かつて世界中で猛威を振るったContiやREvil、そしてRansomHubが姿を消した一方で、LockBit、BlackCat(ALPHV)、Play、Cactus、8Base、Medusa、Akiraなどが急速に台頭し、攻撃の主導権を握っています。特にLockBitは依然として最も活発なグループの一つであり、世界各国の企業・自治体・医療機関を標的に、短期間で多層的な攻撃を展開しています。

    また、2024年以降は「RaaS(Ransomware-as-a-Service)」モデルの成熟が進み、開発者と実行者(アフィリエイト)が分業化されることで、攻撃のスピードと規模がかつてないほど拡大しました。いまや、技術力の低い犯罪者でも高度なランサムウェア攻撃を実行できる環境が整いつつあります。一方で、法執行機関による摘発や暗号資産取引の監視強化により、いくつかの有力組織は活動停止になりました。代表例がRansomHubであり、2024年に急速に勢力を拡大したものの、2025年4月にはオンラインインフラがダークウェブ上で停止し、現在は「再編中」または「後継グループへ移行中」とみられています。

    現在も活発な主要なランサムウェアギャング(2025年時点)

    2025年時点で活動が顕著な代表的グループを一覧で紹介します。

    グループ名主な特徴最近の動向
    Qilin(キリン)製造業への攻撃を中心に活動、日本でも被害多数2025年700件超の攻撃を確認。被害最多
    LockBit(ロックビット)三重恐喝モデルの先駆者、RaaS最大手摘発から数か月後、再登場。その際、「LockBit 5.0」を提供
    BlackSuit(ブラックスーツ)BlackCatの後継とされる。カスタム暗号化ツール、情報漏洩の脅迫2024年に本格的な活動を開始。以前のBlackCatの戦術を引き継ぎつつ、新たな攻撃手法を採用
    Play(プレイ)シンプルな脅迫文と独自の暗号化方式を使用。正規ツール悪用が特徴教育・行政・製造業を標的に拡大。再現性の高い攻撃手法で模倣も多い
    Cactus(カクタス)VPN機器の脆弱性を悪用。暗号化前に自身をパスワードで保護欧州企業を中心に感染が拡大中。RaaS化も進行
    Medusa(メデューサ)攻撃的な恐喝と高額な身代金要求医療・教育機関を中心に攻撃継続。複数の新アフィリエイトを獲得
    Akira(アキラ)VPN経由での侵入とActive Directory攻撃に長ける北米・アジア企業への侵入増加。身代金の要求額は比較的低め*10

    LockBit・BlackSuitが象徴する「持続型」攻撃モデル

    LockBitは2021年以降、継続的なバージョンアップを重ね、現在の「LockBit 5.0」では暗号化速度の向上や複数OS対応を実現しています。また、被害者データを公開する「リークサイト」の運用を巧妙化し、支払い圧力を高める戦略を維持しています。一方で、米司法省などの国際捜査により一時的に活動が停止する局面も見られましたが、数週間で再建されるなど、組織の分散性と復元力が注目されています。同様に、BlackSuitは、2023年に登場したBlackCat(ALPHV)の後継とされ、依然としてRust言語を使用したカスタマイズ暗号化を得意とするグループです。BlackSuitの特徴的な点は、以前のBlackCatが行っていた情報漏洩の脅迫に加えて、さらに新たな攻撃手法を採用している点です。特に、金融機関や医療機関をターゲットにした攻撃が増加しており、その手法の精緻化が進んでいます。2024年には本格的に活動を開始し、これまでのBlackCatの後を継いで攻撃を継続中です。業界を超えて、感染経路や攻撃対象を広げると同時に、その特異な手法で注目を集めています

    両者に共通するのは、「迅速な再編」と「収益性の最大化」を重視する点であり、捜査・報復措置を受けても体制を再構築し、ブランドを維持する巧妙な経営的戦略をとっています。

    新興勢力:Qilin、Play、Cactus、8Base、Medusaの特徴

    Qilinは2025年に最も多くの攻撃を仕掛けたランサムウェアグループの一つで、製造業をターゲットにしたカスタマイズ攻撃が特徴です。2025年に入ってから、短期間で700件以上の攻撃を記録し、特に日本企業を多く標的にしています。特徴的なのは、被害者の業界や規模に合わせた細かな調整を行い、効率的に侵入する手法です。2025年9月には、アサヒグループホールディングスに対する攻撃が大きな注目を浴びました。Qilinは、LockBitやDragonForceと連携して攻撃を行うことがあり、今後のランサムウェア市場において、さらなる影響力を持つと予測されています。

    その他に急速に台頭した新興勢力の一つがPlayです。Playは2022年に登場した比較的新しいグループながら、独自の暗号化方式とシンプルな脅迫メッセージで知られています。標的選定の傾向は特定の業界に偏らず、政府機関・教育機関・中堅企業まで幅広い範囲に及びます。また、侵入後の横展開において、既知の脆弱性よりも「正規ツールの悪用」を多用する点が特徴的です

    さらに、Cactus8Baseも注目すべき新興勢力です。CactusはVPNやCitrixなどの正規アクセス経路を悪用して侵入し、通信を暗号化する独自の戦術を採用することで検知を困難にしています。被害は欧州を中心に広がり、暗号化ツールをRaaSとして提供する動きも見られます。8Baseは中小企業を中心に攻撃を展開し、データ窃取を重視する「二重脅迫型」戦略を強化しています。LockBit系列の派生とされ、独自の強い脅迫文や被害者情報の大量公開で知られます。2024年中頃をピークに報告数は減少していますが、依然として活動を続けています。また、Medusaは、支払い期限をカウントダウン表示する公開サイトを運用するなど、恐怖心を煽る戦略を取るグループとしても知られています。教育・医療機関を標的とする傾向が強く、倫理的・社会的インパクトの大きさからも注目されています

    勢力構造の変化が示す今後の方向性

    これらの動向から、2025年以降のランサムウェア市場には次のような変化が予測されます。

    短命化するグループと再編の加速

    RansomHubのように短期間で急成長し、消滅するケースが増えています。これは法執行機関の摘発強化や、内部リークによる情報流出が影響しているとみられます。

    RaaSの分散化と匿名化の進行

    大規模組織の崩壊後、開発者が小規模な派生RaaSを乱立させる傾向が見られます。結果として、検知・追跡がより困難になると予測されます。

    生成AIや自動化の活用

    脅迫文や交渉メッセージの自動生成、被害者選定の最適化など、AI技術の導入が進みつつあります。今後は攻撃プロセス全体の自動化が一層進む可能性があります。

    まとめ:常に変動する「勢力の地図」

    ランサムウェアの世界では、勢力の興亡が常態化しています。LockBitのような巨大グループでさえ摘発の影響を免れず、次々と新たな派生組織が生まれています。企業としては、「どのグループが脅威か」を追うだけでなく、「どのような攻撃パターンが再利用されているか」を分析することが重要です。攻撃者の名前が変わっても、手口は進化しながら再利用されるため、継続的な脅威インテリジェンスの収集と脆弱性管理が不可欠です。


    ―第3回へ続く―

    【参考情報】

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    【2025年版】ランサムウェアギャング大図鑑:脅威マップと攻撃の特徴
    第1回:ランサムウェアの進化と2025年の市場構造

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    【2025年版】ランサムウェアギャング大図鑑:脅威マップと攻撃の特徴第1回:ランサムウェアの進化と2025年の市場構造アイキャッチ画像

    2025年、ランサムウェアは依然として世界中で深刻な脅威となっています。二重恐喝型から、データ漏洩やDDoSを組み合わせた多重恐喝型へと進化し、被害は企業規模を問わず拡大中です。本シリーズでは、最新のランサムウェア勢力図を全3回で徹底分析します。第1回では、RaaS(Ransomware as a Service)の登場によって急成長したランサムウェア市場の構造と、勢力図がどのように変化してきたのかを詳しく解説します。

    ランサムウェア攻撃の現状と被害拡大

    2025年、ランサムウェアは依然として世界で最も深刻なサイバー脅威の一つとして位置づけられています。近年は暗号化による業務停止だけでなく、窃取したデータを公開・販売する「二重恐喝」や、DDoS攻撃を加えた「多重恐喝」など、攻撃の多様化が進んでいます。BlackFogの分析によると、2025年初頭のランサムウェア攻撃件数は前年同月比で20〜35%増加しており、増加傾向が続いています*2。特に製造、医療、自治体など、社会インフラに関わる業種への攻撃が目立ちます。日本国内でも被害は増加傾向にあり、企業規模を問わず中堅・中小企業への侵入事例が相次いでいます。攻撃者は直接的な金銭目的だけでなく、他国のサプライチェーンを狙った地政学的背景を持つケースもあり、もはや”無関係な企業は存在しない”状況です。

    RaaSモデルがもたらした犯罪の分業化

    ランサムウェアがここまで拡大した最大の要因が、「RaaS」と呼ばれるサービス型犯罪モデルの普及です。RaaSは、開発者が作成したランサムウェアを他の攻撃者(アフィリエイト)に貸し出し、得た身代金を分配する仕組みです。技術力を持たない犯罪者でも容易に攻撃を実行できるようになったことで、ランサムウェア攻撃の“裾野”が急拡大しました。

    「LockBit」、「Cl0p」、「BlackCat」といった代表的なランサムウェアギャングは、このRaaSモデルを最も普及させたグループです。各アフィリエイトは攻撃対象の選定や侵入手口を独自に開発し、成功報酬を得るビジネス形態を採用しています。まるで企業のような組織構造を持ち、専用のリークサイト運営、広報担当、カスタマーサポートまで存在します。攻撃が商業化・効率化されることで、ランサムウェアはもはや“闇市場の産業”といえる規模に達しています。

    勢力図の変化:旧勢力の衰退と新興ギャングの台頭

    2024年後半から2025年にかけて、ランサムウェアの勢力図は大きく変化しました。かつて世界を席巻した「Conti」や「Hive」、「Revil」、「BlackCat(ALPHV)」といった主要なランサムウェアギャングは、国際捜査機関の摘発や内部対立により次々と崩壊しました。しかし、その空白を埋めるように新たな勢力が台頭しています。特に注目されるのが、「Qilin(旧Agenda)」「Lynx」「Fog」などの新興グループです。これらは高度な暗号化技術と迅速な展開能力を持ち、企業や自治体を標的にデータ漏洩を伴う攻撃を展開しています。Qilinは日本国内の製造業や医療機関を狙う傾向が強く、すでに複数の被害が確認されています。また、LockBitも摘発を受けながらも「LockBit 5.0」として再始動するなど、ブランドの使い捨て・再構築が常態化しています。2025年のランサムウェア市場は、以前から存在するギャングの復活と新興勢力の台頭が交錯する“過渡期”にあると言えます。

    ランサムウェア市場を支える犯罪エコシステム

    現在のランサムウェア攻撃は、単独の攻撃者だけでは成り立ちません。その背景には「地下経済圏」とも呼ばれる広大な犯罪エコシステムが存在します。ここでは、侵入経路を提供するアクセスブローカー、情報窃取ツールの開発者、暗号通貨を用いたマネーロンダリング業者など、多様な役割が分業的に連携しています。たとえばアクセスブローカーは、企業ネットワークへの侵入権をオークション形式で販売し、ランサムウェアギャングがそれを購入して攻撃を開始します。また、盗み出したデータを販売する「データリークサイト」は、恐喝手段としても活用され、被害企業名を公開して支払いを促します。

    さらに近年は、SNSやダークウェブ掲示板上での広報・採用活動も活発化しており、RaaS提供者が「報酬50%保証」「高成功率ツール」といった広告を出すなど、まるでスタートアップ市場のような競争が繰り広げられています。こうした分業と再利用の仕組みにより、ランサムウェア市場は摘発を受けてもすぐに再生する自己修復的な構造を持ち、世界的な脅威として根強く残り続けています。

    まとめ:進化する脅威にどう向き合うか

    ランサムウェアはもはや“単なるマルウェア”ではなく、「経済的インセンティブを軸に発展する犯罪ビジネスモデル」へと進化しました。RaaSによる分業体制と匿名性の高い暗号資産の普及が、攻撃の拡大を後押ししています。2025年の時点で確認されている主要なランサムウェアギャングの多くは、過去に摘発・崩壊を経験しながらも、ブランドを変えて再登場しており、摘発による根絶は困難です。今後はAIを利用した自動化攻撃、ゼロデイ脆弱性の悪用、地域特化型の標的選定など、さらに巧妙な戦術が主流になると予想されます。企業に求められるのは、「攻撃を防ぐ」だけでなく、「被害を最小化し、迅速に復旧できる体制」を整えることです。第2回では、2025年時点で活動が確認されている主要なランサムウェアギャングの特徴と手口を詳しく分析し、勢力ごとの違いと警戒すべき動向を解説します。


    ―第2回へ続く―

    【参考情報】

    サイバーインシデント緊急対応

    セキュリティインシデントの再発防止や体制強化を確実に行うには、専門家の支援を受けることも有効です。BBSecでは緊急対応支援サービスをご提供しています。突然の大規模攻撃や情報漏洩の懸念等、緊急事態もしくはその可能性が発生した場合は、BBSecにご相談ください。セキュリティのスペシャリストが、御社システムの状況把握、防御、そして事後対策をトータルにサポートさせていただきます。

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