インシデント対応体制とは?CSIRTの役割と企業が整えるべき運用のポイント

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サイバー攻撃や情報漏えいなどのセキュリティインシデントでは、迅速かつ適切な対応が被害の拡大防止につながります。そのためには、担当者任せではなく、役割分担や連絡体制をあらかじめ整備しておくことが重要です。本記事では、インシデント対応体制の基本的な考え方をはじめ、CSIRTやSOCの役割、企業が体制を構築・運用する際のポイントを解説します。

インシデント管理の全体像については、以下の記事をご覧ください。
セキュリティインシデント管理とは?企業が押さえるべき対応フローと体制の全体像

サイバー攻撃や情報漏洩、ランサムウェア感染、不正アクセスなどのセキュリティインシデントは、発生してから担当者が個別に対応するだけでは十分に対処できません。インシデント対応では、技術的な調査や復旧だけでなく、経営判断、法務確認、顧客対応、広報対応、取引先との調整など、複数の部門が関係します。

そのため、企業にはあらかじめインシデント対応体制を整備しておくことが求められます。誰が異常を受け付け、誰が初動対応を判断し、誰が調査を進め、誰が経営層や外部関係者へ報告するのかが決まっていなければ、発生直後の混乱を避けることはできません。JPCERT/CCは「CSIRTマテリアル」について、組織的なインシデント対応体制である「組織内CSIRT」の構築を支援する目的で作成したものと説明しています。また、すべての組織が同じ形のCSIRTを持つべきというものではなく、それぞれの組織の状況に応じた適切な形があるとしています。つまり、インシデント対応体制は、大企業だけが整備する特別な仕組みではなく、企業規模や事業内容に応じて現実的に設計すべきものです。

なぜ体制が必要なのか

インシデント対応体制が必要な理由は、セキュリティインシデントが一部門だけで完結する問題ではないためです。たとえば、マルウェア感染が発生した場合、情報システム部門は端末隔離やログ調査を行います。しかし、個人情報漏洩の可能性があれば法務や個人情報保護の担当部門が関与し、顧客影響があれば営業やカスタマーサポートが対応し、外部公表が必要になれば広報や経営層の判断が必要になります。

不正アクセスやランサムウェア感染では、技術的な調査と同時に、事業継続の判断も必要になります。システムを停止するのか、どの業務を優先して復旧するのか、取引先へいつ説明するのかといった判断は、現場担当者だけで決められるものではありません。事前に体制がなければ、関係者への連絡が遅れ、対応の優先順位も曖昧になります。

NIST SP 800-61 r2「Computer Security Incident Handling Guide」でも、効果的なインシデント対応は複雑な取り組みであり、成功する対応能力を確立するには、計画とリソースが必要であるとされています。また、インシデント対応では、IT部門だけでなく、法務などの内部関係者や、外部のインシデント対応チーム、法執行機関などとの連携も想定されています。

体制がない企業では、インシデントが発生したときに「誰に報告すればよいか分からない」「誰が判断責任を持つのか分からない」「外部ベンダーに何を依頼すればよいか分からない」という状態になりがちです。平時であれば多少の確認不足は補えますが、インシデント発生時には時間が限られています。対応の遅れは、被害拡大や情報漏洩、事業停止、信用低下につながる可能性があります。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開するプラクティス・ナビ「指示7 インシデント発生時の緊急対応体制の整備」の中で、CSIRT等の対応体制が整備されていないこと、証拠保全ルールや外部報告・公表ルールが定められていないこと、想定インシデントに応じた分析・対応手順がないこと、CSIRT業務が属人化していること、演習を行っていないことを課題として挙げています。

インシデント対応体制とは、単に担当者の名前を決めることではありません。発生時に必要な判断、作業、報告、連携を整理し、組織として動ける状態にすることです。対応体制が整っていれば、発生直後の混乱を抑え、被害拡大防止、原因調査、復旧、再発防止までを一貫して進めやすくなります。

インシデント対応体制の基本構成

インシデント対応体制は、企業規模や業種、システム構成によって異なります。ただし、多くの企業に共通する基本構成として、CSIRT、SOC、各部門の連携があります。これらはそれぞれ役割が異なり、単独で機能するものではありません。CSIRTは、インシデント対応を組織として進めるための中核的な役割を担います。インシデントの受付、事実確認、対応方針の調整、関係部門への連絡、外部機関や専門ベンダーとの連携、再発防止策の整理などを担うことが一般的です。企業によっては、専任組織として設置される場合もあれば、情報システム部門やセキュリティ担当者を中心に兼任体制で運用される場合もあります。SOCは、Security Operation Centerの略で、主に監視や検知、分析を担う機能です。EDR、SIEM、ファイアウォール、クラウド監査ログ、認証ログなどを監視し、不審な通信や挙動を検知します。SOCは、インシデントの兆候を早期に発見し、CSIRTや情報システム部門へエスカレーションする役割を持ちます。自社内にSOCを持つ企業もありますが、専門ベンダーのSOCやMDRサービスを活用する企業もあります。

各部門の役割も重要です。情報システム部門は、端末、サーバ、ネットワーク、クラウド環境の技術的対応を担います。法務部門は、個人情報保護法や契約上の責任、監督官庁への報告要否などを確認します。広報部門は、外部公表やメディア対応、顧客向け説明文の調整を担います。営業部門やカスタマーサポート部門は、顧客や取引先からの問い合わせ対応を担います。経営層は、事業停止や外部公表、重大なリスク判断について意思決定を行います。

これらの体制は、実際のインシデント対応フローの中で機能します。具体的な対応手順については、以下の記事で詳しく解説しています。
インシデント対応フローとは?発生時に企業が取るべき手順と判断ポイント

重要なのは、CSIRT、SOC、各部門の役割を分けるだけでなく、連携の流れを決めておくことです。SOCが検知したアラートを誰に報告するのか、CSIRTがどの基準で重大度を判断するのか、法務や広報をどのタイミングで巻き込むのか、経営層への報告基準は何かを定めておかなければ、体制図があっても実際には動きません。インシデント対応体制は、組織図上の箱を作ることではなく、実際に発生したときに機能する連絡・判断・対応の仕組みを作ることです。

CSIRTとは何か

CSIRTとは、Computer Security Incident Response Teamの略で、コンピューターセキュリティインシデントに対応するチームを意味します。JPCERT/CCによれば、CSIRTは「Computer Security Incident Response Team=コンピューターセキュリティインシデントに対応するチーム」の略であると説明されています。CSIRTの役割は、単に技術的な調査を行うことだけではありません。組織内で発生したインシデントの情報を集約し、対応方針を整理し、関係部門をつなぎ、必要に応じて外部機関や専門ベンダーと連携することが重要な役割です。企業によっては、脆弱性情報の収集、注意喚起、セキュリティ教育、訓練、再発防止策の推進など、平時の活動もCSIRTが担う場合があります。

JPCERT/CCの公開する資料「組織内 CSIRT の役割とその範囲」では、組織内CSIRTの役割には違いがあり、インシデントへの直接対応、支援的対応、調整役としての対応などが示されています。つまり、CSIRTは必ずしもすべての技術対応を自ら行う必要はありません。企業の体制に応じて、現場対応を支援する立場、部門間を調整する立場、外部専門家との窓口になる立場など、現実的な役割を設計することが重要です。

CSIRTが必要とされる理由は、インシデント発生時に情報と判断を一元化するためです。インシデント対応では、端末の隔離、ログ調査、外部連絡、顧客説明、法務判断、復旧作業など、さまざまな対応が同時に発生します。これらが各部門でばらばらに進むと、情報の食い違いや判断の遅れが起こりやすくなります。CSIRTが中心となって情報を集約すれば、経営層への報告も整理しやすくなります。経営層が必要とするのは、単なる技術情報ではなく、事業への影響、顧客への影響、復旧見通し、法的・契約上のリスク、外部公表の必要性などです。CSIRTは、技術部門と経営判断をつなぐ役割を担うことで、インシデント対応を企業全体のリスク対応として進めやすくします。ただし、CSIRTは設置するだけでは機能しません。連絡先が古い、権限が曖昧、判断基準がない、訓練をしていない、担当者が兼任で実質的に動けないといった状態では、有事に十分な役割を果たせません。CSIRTの必要性を理解したうえで、自社の規模やリソースに合った運用を設計することが大切です。

体制が機能しない原因

インシデント対応体制が機能しない原因として、最も多いのが属人化です。特定の担当者だけがシステム構成を理解している、ログの確認方法を知っている、外部ベンダーとの連絡先を把握している、過去のインシデント対応の経緯を覚えているという状態では、その担当者が不在のときに対応が止まります。属人化は、日常業務では見えにくい問題です。詳しい担当者がいれば、普段のトラブルはその人が解決できてしまいます。しかし、インシデント発生時には、短時間で多くの判断と作業が必要になります。特定の個人に情報や判断が集中すると、対応速度が落ち、確認漏れや連絡漏れが起こりやすくなります。

IPAのプラクティス・ナビ「プラクティス7-4 CSIRT業務の属人化回避も兼ねたインシデントや脅威に関する情報の共有・蓄積」では、CSIRT業務の属人化回避を目的とした情報共有・蓄積の重要性を示しています。公開されている事例でも、CSIRT設立の中核だった従業員が退職した際に対応能力が低下し、その後、業務を属人化させない仕組みの整備が必要になったことが紹介されています。

もう一つの原因は、判断基準がないことです。どのアラートをインシデントとして扱うのか、どの段階でCSIRTを招集するのか、端末隔離やシステム停止を誰が判断するのか、外部報告や公表を検討する基準は何かが決まっていなければ、現場は迷います。判断基準がないと、対応は担当者の経験や感覚に依存します。経験豊富な担当者であれば適切に判断できる場合もありますが、担当者が変われば対応品質も変わります。また、重大なインシデントほど、技術的な判断だけでなく、事業影響や法務リスク、顧客影響を含めた判断が必要になります。判断基準が曖昧なままでは、経営層への報告も遅れやすくなります。

体制が機能しない企業では、形式的な体制図だけが存在していることもあります。CSIRTという名前はあるものの、実際のメンバー、役割、権限、連絡手順、訓練計画が決まっていない状態です。このような体制では、インシデント発生時に「誰が何をするのか」を改めて確認することになり、初動対応が遅れます。 さらに、部門間の連携不足も大きな要因です。情報システム部門が技術対応を進めていても、法務や広報、営業、経営層への共有が遅れると、顧客説明や外部公表の準備が間に合いません。反対に、経営層や広報が十分な事実確認を待たずに情報発信を進めると、誤った説明につながる可能性があります。インシデント対応体制を機能させるには、体制図を作るだけでなく、情報共有の流れ、判断権限、報告基準、記録方法を具体化する必要があります。

体制構築のポイント

インシデント対応体制を構築するうえで重要なのは、まず対応フローを明確にすることです。検知、初動対応、調査、復旧、再発防止という流れの中で、誰がどの工程を担当するのかを整理します。たとえば、従業員からの不審メール報告を誰が受け付けるのか、SOCや監視サービスのアラートを誰が確認するのか、感染端末の隔離を誰が実施するのか、経営層への報告を誰が行うのかを定めます。このとき、細かすぎる手順書を作ることよりも、実際に使える判断ルールを整備することが大切です。インシデントは事案ごとに状況が異なるため、すべてを手順書通りに進められるとは限りません。だからこそ、重大度の判断基準、エスカレーション条件、外部連携の基準、証拠保全の原則、復旧判断の考え方を整理しておく必要があります。

IPA「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver3.0 実践のためのプラクティス集 第4版」では、インシデント発生時の緊急対応体制の整備として、司令塔としてのCSIRTの設置、従業員の初動対応の規定、想定されるインシデントに関するセキュリティ分析計画の事前策定、情報共有・蓄積、インシデント対応演習などが示されています。

次に重要なのが、訓練です。手順書や体制図を作っても、実際に動かしていなければ、有事に機能するとは限りません。インシデント対応訓練では、ランサムウェア感染、不正アクセス、情報漏洩、Webサイト改ざん、委託先からの侵害連絡など、想定シナリオをもとに、連絡、判断、報告、初動対応の流れを確認します。訓練では、技術対応だけでなく、経営層への報告、法務確認、広報文案の検討、顧客問い合わせへの対応、外部ベンダーへの連絡も含めて確認することが望ましいです。実際に演習してみると、連絡先が古い、判断者が不在時の代替ルートがない、ログの取得範囲が不足している、委託先との責任分界点が曖昧といった課題が見つかります。

体制構築では、外部リソースの活用も現実的な選択肢になります。すべての企業が専任CSIRTや自社SOCを持てるわけではありません。特に中堅・中小企業では、情報システム部門が日常業務とセキュリティ対応を兼任しているケースも多くあります。その場合は、外部SOC、MDR、インシデント対応支援ベンダー、フォレンジック調査会社、顧問弁護士、保険会社など、必要な支援先を平時から整理しておくことが重要です。ただし、外部委託すればすべて任せられるわけではありません。外部ベンダーが調査や監視を支援しても、最終的な事業判断、顧客対応、外部公表、再発防止策の実行は企業自身が行う必要があります。外部リソースは、自社の対応体制を補完するものとして位置づけることが大切です。

インシデント対応体制の整備は、情報漏洩対策全体の一部でもあります。あわせて以下の記事もご確認ください。
情報漏洩対策とは何か ―企業が知るべき原因・リスク・防止策の全体像―

まとめ

インシデント対応体制とは、セキュリティインシデントが発生したときに、企業が組織として対応するための仕組みです。CSIRT、SOC、情報システム部門、法務、広報、営業、経営層などが連携し、検知、初動対応、調査、復旧、再発防止を進められる状態を整えることが重要です。CSIRTは、インシデント対応の司令塔や調整役として、情報を集約し、対応方針を整理し、関係部門や外部機関との連携を担います。SOCは、監視や検知、分析を通じて、インシデントの兆候を早期に発見する役割を持ちます。各部門は、それぞれの専門性に基づいて、技術対応、法務判断、顧客説明、広報対応、経営判断を担います。

一方で、体制は作るだけでは機能しません。属人化した対応、曖昧な判断基準、古い連絡先、訓練不足、部門間連携の弱さがあると、インシデント発生時に初動が遅れます。特に、誰が判断し、誰が報告し、誰が外部と連携するのかが曖昧な状態では、対応の品質は担当者個人に依存してしまいます。 企業がまず取り組むべきことは、自社のインシデント対応フローを整理し、役割分担と連絡ルートを明確にすることです。そのうえで、重大度の判断基準、証拠保全ルール、外部報告・公表の検討基準、委託先や外部ベンダーとの連携方法を定め、定期的な訓練によって実効性を確認する必要があります。インシデント対応体制は、セキュリティ部門だけのための仕組みではありません。情報漏洩対策、事業継続、顧客信頼、経営リスク管理を支える重要な基盤です。自社の規模に合った現実的な体制から整備し、継続的に見直していくことが、インシデント発生時の被害最小化につながります。

【参考情報】

編集責任:木下


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セキュリティインシデント管理とは?企業が押さえるべき対応フローと体制の全体像

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セキュリティインシデント管理とは?企業が押さえるべき対応フローと体制の全体像アイキャッチ画像

サイバー攻撃や情報漏洩、不正アクセス、ランサムウェア感染などのセキュリティインシデントは、発生してから対応を考えていては被害を最小限に抑えることができません。重要なのは、発生時の対応だけでなく、平時から対応フローや体制を整備し、組織として継続的に管理することです。

セキュリティインシデント管理とは、インシデントの検知から初動対応、調査、復旧、再発防止までを組織的に運用するための仕組みを指します。

本記事では、インシデント管理の基本的な考え方や対応フローの全体像、企業に求められる体制について解説します。

本記事は「セキュリティインシデント管理・対応ガイド」の一部です。セキュリティ担当者だけでなく、インシデント発生時に判断・承認を求められる経営層・管理職の方にも読んでいただける内容になっています。技術的な詳細よりも「組織として何を決めておくべきか」という視点を中心に解説します。

【関連記事】

実際のインシデント対応の具体的な手順については、以下の記事で詳しく解説しています。
インシデント対応フローとは?発生時に企業が取るべき手順と判断ポイント

サイバー攻撃や情報漏洩、ランサムウェア感染、不正アクセス、Webサイト改ざんなど、企業を取り巻くセキュリティリスクは年々複雑化しています。これまでのように、インシデントが起きてから担当者が個別に対応するだけでは、被害の拡大を防ぎきれないケースも増えています。特に近年は、クラウドサービス、外部委託先、SaaS、リモートアクセス環境など、企業システムの構成が複雑になっています。そのため、自社の内部だけを見ていれば安全を確保できるという状況ではありません。セキュリティインシデント管理とは、こうしたリスクを前提に、インシデントの検知、初動対応、調査、復旧、再発防止までを組織として継続的に管理する考え方です。

NIST SP 800-61 r2「Computer Security Incident Handling Guide」でも、インシデント対応は単なる技術対応ではなく、計画、体制、分析、封じ込め、復旧、事後対応を含む組織的な取り組みとして整理されています。インシデント管理は、まさにその全体像を企業活動の中に組み込むための実務です。

インシデント管理とは何か

インシデント管理とは、セキュリティ上の問題が発生した際に、被害を最小限に抑え、事業への影響を管理し、再発を防ぐための一連の仕組みを指します。ここでいうインシデントには、マルウェア感染、不正アクセス、情報漏洩、アカウント侵害、ランサムウェア被害、Webサイト改ざん、システム停止、内部不正、委託先を経由した被害などが含まれます。重要なのは、インシデント管理が「発生後の火消し」だけを意味するものではないという点です。もちろん、発生直後の被害拡大防止や復旧作業は重要です。しかし、それだけではインシデント管理とはいえません。管理という言葉が示すように、事前準備、連絡体制、判断基準、証拠保全、外部報告、再発防止策の検討までを含めて、組織として運用できる状態にしておくことが求められます。

IPAも、インシデント発生時には影響範囲や損害の特定、被害拡大防止、再発防止策の検討を速やかに行うため、CSIRTなどの組織内対応体制を整備することが重要であると示しています。これは、インシデント対応を個人の経験や判断に依存させず、企業として再現性のある対応にするための考え方です。

「インシデント対応」と「インシデント管理」は混同されがちですが、両者には違いがあります。インシデント対応は、発生した事象に対して具体的に行う対応行動です。たとえば、感染端末の隔離、ログ調査、被害範囲の確認、復旧作業、関係者への報告などが該当します。一方、インシデント管理は、それらの対応を適切に実行するための全体設計です。誰が判断し、誰が作業し、どの基準で経営層へ報告し、いつ外部機関や顧客に連絡するのかをあらかじめ定め、実行できる状態にしておくことが中心になります。つまり、インシデント対応が「現場の行動」だとすれば、インシデント管理は「組織としての仕組み」です。対応力を高めるためには、個別の手順だけでなく、それを支える管理体制が欠かせません。

なぜインシデント管理が重要なのか

インシデント管理が重要視される理由は、サイバー攻撃の被害が技術部門だけの問題にとどまらなくなっているためです。情報漏洩が発生すれば、顧客や取引先への説明、監督官庁への報告、法務対応、広報対応、営業活動への影響、事業継続への支障など、企業全体に影響が及びます。システム停止が長期化すれば、売上機会の損失や顧客離れにもつながります。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「中小企業のためのセキュリティインシデント対応の手引き」でも、インシデントによる被害には、原因調査や復旧の外部委託費、謝罪対応、法的対応費用といった直接的な金銭被害に加え、信用低下や事業停止による機会損失といった間接的被害があると整理されています。インシデント対応の目的は、これらの被害と影響範囲を最小限に抑え、迅速に復旧し、再発を防止することにあります。

特に情報漏洩リスクは、企業にとって深刻です。個人情報、認証情報、営業秘密、技術情報、取引先情報、顧客データなどが漏洩した場合、企業の信用は大きく損なわれます。たとえ漏洩件数が限定的であっても、初動対応や公表内容に不備があれば、二次的な批判を招くことがあります。反対に、発生直後から事実確認、被害拡大防止、関係者への説明、再発防止策の提示を適切に行えれば、被害の拡大を抑え、信頼回復への道筋を作ることができます。

また、サプライチェーンの複雑化もインシデント管理の重要性を高めています。企業のシステムや業務は、クラウドサービス、業務委託先、開発会社、保守ベンダー、物流・決済・顧客管理システムなど、多くの外部組織とつながっています。そのため、自社のセキュリティ対策だけではインシデントを完全に防ぐことはできません。委託先の侵害、外部サービスの設定不備、ソフトウェア供給網への攻撃などを起点として、自社に影響が及ぶ可能性があります。

インシデント管理が機能している企業では、外部委託先やクラウドサービスを含めたリスクを前提に、連絡先、責任範囲、報告基準、ログ取得範囲、復旧手順を整理しています。反対に、インシデント発生後に「誰に確認すればよいかわからない」「契約上どこまで調査できるかわからない」「委託先から情報が上がってこない」という状態になると、初動が遅れ、被害の実態把握も難しくなります。

インシデント管理の全体フロー

インシデント管理では、発生した事象を場当たり的に処理するのではなく、一定の流れに沿って対応することが重要です。ここでは、企業実務で理解しやすいように、検知、初動対応、調査・分析、復旧、再発防止という流れで整理します。

検知(Detection)

検知は、インシデント管理の出発点です。セキュリティ製品のアラート、ログ監視、外部機関からの通報、顧客からの問い合わせ、従業員からの報告、Webサイトの異常、システム停止など、インシデントの兆候はさまざまな形で現れます。重要なのは、検知した情報を見落とさず、適切な担当者へつなげる仕組みです。アラートが大量に発生しているにもかかわらず確認されていない、従業員が異常に気づいても報告先を知らない、外部からの通報が担当部署で止まってしまうといった状態では、検知していても管理できているとはいえません。

IPAでもインシデント対応の流れにおいて、Webサイト改ざん、システム停止、標的型メール、ログ監視による不正通信の発見などが検知の例として示されています。検知は技術的な監視だけでなく、社内外からの連絡受付を含めた仕組みとして考える必要があります。

初動対応(Containment)

初動対応では、被害の拡大を防ぐことが最優先になります。たとえば、マルウェア感染が疑われる端末をネットワークから隔離する、不正アクセスが疑われるアカウントを一時停止する、攻撃に悪用された通信経路を遮断する、関係システムの利用を制限する、といった対応が考えられます。ただし、初動対応では「とにかく止める」ことだけが正解とは限りません。証拠保全をせずに端末を初期化してしまうと、原因調査に必要なログや痕跡が失われる可能性があります。システムを不用意に停止すると、業務影響が大きくなる場合もあります。そのため、初動対応では、被害拡大防止と証拠保全、事業継続のバランスを考えながら判断する必要があります。

米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)「Incident Response Plan (IRP) Basics」インシデント対応計画に関する資料でも、インシデント対応計画は、組織がインシデントの前、最中、後に取るべき行動を支援する正式な文書として位置づけられています。初動で迷わないためには、あらかじめ承認された計画と判断基準が必要です。

調査・分析(Investigation)

調査・分析では、何が起きたのか、どの範囲に影響があるのか、攻撃者が何を行ったのか、情報漏洩の可能性があるのかを確認します。調査対象には、端末、サーバ、認証ログ、通信ログ、クラウドサービスの操作履歴、メール、EDRやSIEMの検知情報などが含まれます。この段階で重要なのは、事実と推測を分けることです。インシデント発生直後は情報が錯綜しやすく、関係者の不安も高まります。そのため、確定していない情報を断定的に扱うと、誤った判断につながります。調査結果は、時系列、影響範囲、確認済み事実、未確認事項、今後の調査方針に分けて整理することが望ましいです。

また、調査・分析は技術部門だけで完結しない場合があります。個人情報や機密情報の漏洩可能性がある場合は、法務、広報、経営層、顧客対応部門との連携が必要になります。外部委託先やセキュリティ専門ベンダーに調査を依頼するケースもあります。インシデント管理では、こうした連携をあらかじめ想定しておくことが重要です。

復旧(Recovery)

復旧では、影響を受けたシステムや業務を安全な状態に戻します。バックアップからの復元、パッチ適用、設定変更、アカウントの再発行、認証情報のリセット、ネットワーク接続の再開、業務再開判断などが含まれます。復旧時に注意すべきなのは、原因が取り除かれていない状態でシステムを戻さないことです。ランサムウェア感染後にバックアップから復元しても、侵入経路となった脆弱性や認証情報の悪用が残っていれば、再侵害される可能性があります。不正アクセスを受けたシステムを復旧する場合も、攻撃者が作成したアカウント、バックドア、不審な設定変更が残っていないかを確認する必要があります。単に業務を再開するだけでなく、脅威を除去し、安全性を確認したうえで復旧することが重要です。

再発防止(Lessons Learned)

再発防止は、インシデント管理の中でも特に重要な工程です。インシデントが収束した後、原因、対応の良かった点、課題、判断が遅れた場面、連絡体制の不備、ログ不足、訓練不足などを振り返り、次に同じ問題が起きないよう改善します。再発防止策には、技術的対策だけでなく、運用改善も含まれます。たとえば、脆弱性管理の見直し、バックアップ運用の改善、EDRやログ監視の強化、アカウント権限の見直し、委託先との連絡ルール整備、初動対応手順の改定、経営層への報告基準の明確化、机上演習の実施などが考えられます。IPAも、インシデント発生に備えた演習を行っていないことや、CSIRT業務が属人化していることを課題として挙げています。再発防止は、報告書を作って終わりではありません。組織の対応力を高めるために、手順、体制、訓練へ反映することが求められます。

インシデント対応との違いと関係

インシデント対応とインシデント管理は、密接に関係しています。ただし、同じ意味ではありません。インシデント対応は、実際に起きたインシデントに対する具体的な行動です。検知したアラートを確認する、感染端末を隔離する、ログを調査する、影響範囲を特定する、復旧作業を行うといった実務が該当します。一方、インシデント管理は、それらの対応を組織として適切に動かすための仕組みです。対応手順、報告ルート、責任者、判断基準、外部連携、訓練、記録、改善活動までを含みます。つまり、対応は管理の一部です。管理がなければ、対応は担当者個人の経験や判断に依存しやすくなります。この違いは、平時と有事の関係で考えるとわかりやすくなります。有事に実際に動くのがインシデント対応です。平時から有事に備えて準備し、発生時に迷わず動けるようにし、終息後に改善するのがインシデント管理です。

たとえば、ランサムウェア感染が疑われる端末を隔離することはインシデント対応です。しかし、どの条件で隔離するのか、誰が判断するのか、隔離後に誰へ報告するのか、業務影響をどう判断するのか、顧客や委託先への連絡が必要か、証拠をどのように保全するのかを定めることはインシデント管理です。

インシデント管理が目指すのは、個別最適ではなく全体最適です。現場担当者が最善を尽くしていても、経営判断が遅れたり、法務・広報との連携が取れなかったり、委託先との情報共有が進まなかったりすれば、企業全体としての対応は不十分になります。だからこそ、インシデント管理では、技術、業務、法務、広報、経営をつなぐ視点が必要です。

管理が機能しない企業の特徴

インシデント管理が機能しない企業には、いくつか共通する特徴があります。

対応が属人化している

最も多いのは、対応が属人化している状態です。特定の担当者だけがシステム構成を理解している、ログの見方を知っている、ベンダーとの連絡先を把握している、過去のトラブル対応を覚えているという状態では、その担当者が不在のときに対応が止まります。

属人化は、平時には問題が見えにくいという特徴があります。日常業務では、詳しい担当者がその場で処理できるため、大きな問題に見えません。しかし、インシデント発生時には状況が一変します。判断すべきことが増え、関係者も増え、時間的な余裕がなくなる中で、特定の個人に情報と判断が集中すると、対応が遅れやすくなります。対策の第一歩は、対応手順・連絡先・ログの見方・ベンダー窓口を「担当者の頭の中」から文書に移すことです。

IPAも、CSIRT業務の属人化や、証拠保全ルール、外部報告・公表ルール、分析・対応手順の未整備をインシデント対応体制上の課題として挙げています。これは、実務上の弱点がインシデント発生時に表面化しやすいことを示しています。

判断基準が定められていない

もう一つの特徴は、判断基準が明確になっていないことです。たとえば、どのレベルのアラートで経営層へ報告するのか、個人情報漏えいの可能性がある場合に誰が判断するのか、システム停止を許容する条件は何か、外部公表の検討を始めるタイミングはいつか、といった基準が曖昧な企業では対応が遅れやすくなります。まず「このレベルのアラートが発生したら経営層へ報告する」という1行の基準を決めるだけでも、判断の遅れを防ぐ効果があります。

感染端末の隔離判断が遅れて被害が拡大する、不正アクセスの可能性を軽視して調査開始が遅れる、顧客への説明が後手に回るといった事態も起こり得ます。限られた情報の中で迅速に判断するためには、平時から基準を定めておくことが重要です。

部門間の連携が弱い

また、部門間連携が弱い企業も、インシデント管理が機能しにくい傾向があります。情報システム部門だけで対応しようとしても、顧客対応、法務判断、広報対応、取引先調整、経営判断が必要になる場面では限界があります。セキュリティインシデントは技術トラブルであると同時に、事業リスクでもあります。

JPCERT/CCはCSIRTについて、「組織内の情報セキュリティ問題を専門に扱うインシデント対応チーム」と説明し、組織的なインシデント対応体制の構築を支援しています。管理を機能させるためには、技術部門だけでなく、経営層、法務、広報、営業、総務、人事、委託先を含めた連携が欠かせません。

まとめ

セキュリティインシデント管理とは、インシデントが発生した後の対応だけでなく、検知、初動対応、調査・分析、復旧、再発防止までを組織として管理するための仕組みです。インシデント対応が現場の具体的な行動であるのに対し、インシデント管理は、その対応を確実に実行するための全体設計といえます。

サイバー攻撃や情報漏洩の影響は、情報システム部門だけにとどまりません。顧客、取引先、委託先、経営、法務、広報、営業活動、事業継続にまで広がります。そのため、企業には、発生後に慌てて対応するのではなく、平時から判断基準、連絡体制、対応フロー、証拠保全、外部連携、再発防止の仕組みを整えておくことが求められます。特に、属人化した対応や曖昧な判断基準は、インシデント発生時に大きな弱点になります。担当者の経験に頼るのではなく、組織として再現性のある対応を行うことが、被害の最小化と早期復旧につながります。

インシデント管理は、単なるセキュリティ部門の業務ではありません。企業の信頼、事業継続、情報漏洩対策を支える重要な経営課題です。まずは、自社でインシデントが発生した場合に、誰が検知し、誰が判断し、誰が対応し、誰が経営層や外部関係者へ報告するのかを確認することから始めることが重要です。


本記事では、セキュリティインシデント管理の全体像について解説しました。より実践的に理解したい方は、まず「セキュリティインシデントとは?」で代表的な事例やリスクを確認し、その後「インシデント対応フロー」「インシデント対応体制」を読むことで、企業に求められる対応を体系的に理解できます。

また、インシデント発生後の改善活動については、「セキュリティインシデントの再発防止策とは?」もあわせてご覧ください。


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【参考情報】

公開日:2026年6月17日

編集責任:木下


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セキュリティインシデントの再発防止策とは?体制強化と継続的改善のポイント

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セキュリティインシデントの再発防止と体制強化_アイキャッチ画像

セキュリティインシデントへの対応は、システムや業務を復旧して終わりではありません。同じ問題を繰り返さないためには、原因を分析し、対策を講じ、組織全体の対応力を高めることが重要です。

実際のインシデントでは、技術的な脆弱性だけでなく、運用ルールの不備や情報共有不足、訓練不足などが原因となっているケースも少なくありません。そのため、再発防止には技術対策だけでなく、体制や運用の見直しも欠かせません。

本記事では、セキュリティインシデント発生後に取り組むべき再発防止策や、継続的な改善のポイントについて解説します。

インシデント管理や対応フローの全体像については、関連記事もあわせてご覧ください。
セキュリティインシデント管理とは?企業が押さえるべき対応フローと体制の全体像

インシデントは「発生して終わり」ではない

セキュリティインシデントは発生して終わりではなく、組織にとって重要な学習の機会でもあります。再発防止策の基本は、まず原因を正確に特定し、その根本的な要因を排除することです。技術的な脆弱性の修正だけでなく、運用ルールや業務プロセス、アクセス管理、ログ監視体制の見直しなど、組織全体の改善が求められます。特に、多くのインシデントは単一の要因ではなく、複数の小さな問題が重なって発生するため、広い視野での分析と対応が不可欠です。また、再発防止策は一度実施して終わりではなく、定期的な評価と改善サイクルを回すことで、組織のセキュリティ体制を継続的に強化できます。これにより、同じ種類の被害が繰り返されるリスクを大幅に低減できるのです。

再発防止こそが最重要課題

再発防止を確実にするためには、組織全体のセキュリティ体制を明確に整備することが不可欠です。具体的には、インシデント対応チーム(CSIRT)を設置し、平常時から役割分担を明文化しておくことで、発生時の混乱を最小限に抑えられます。例えば、技術担当者は原因調査や封じ込めを、法務担当者は法的リスクの確認や外部報告を、広報担当者は顧客や取引先への情報発信を、それぞれ責任範囲を明確にして迅速に対応します。また、経営層も意思決定や資源配分の役割を担い、全社的な支援体制を構築することが重要です。このような体制を事前に整えておくことで、インシデント発生後の対応スピードが向上し、被害の拡大や二次的な損失を防ぐことができます。

再発防止のためのアプローチ

従業員教育と意識向上

セキュリティインシデントの再発防止には、従業員一人ひとりの意識向上が欠かせません。技術的対策や体制整備だけでは、人的ミスや不注意による情報漏洩、誤操作を完全に防ぐことはできません。そのため、定期的なセキュリティ教育や訓練を通じて、最新の脅威や攻撃手法、社内ルールの理解を深めることが重要です。例えば、フィッシングメールの疑似演習やパスワード管理の強化、情報取り扱いに関するケーススタディを行うことで、従業員の行動が組織全体のセキュリティ強化につながります。さらに、教育や訓練の効果は一度きりではなく、継続的に評価し改善していくことが求められます。このように、人的要因への対応を組み込むことで、組織全体の防御力が大きく向上します。

セキュリティポリシーの定期的な見直し

再発防止策を有効に機能させるためには、定期的な監査と評価が不可欠です。導入したセキュリティ対策や運用ルールが実際に遵守されているか、効果があるかを定期的に確認することで、弱点や改善点を早期に発見できます。例えば、アクセス権限やログ管理の運用状況をチェックする内部監査、脆弱性診断やペネトレーションテストなどの技術的評価を組み合わせることで、組織全体の安全性を客観的に評価できます。また、監査や評価の結果をもとに改善策を実行し、PDCAサイクルを回すことで、インシデント再発のリスクを継続的に低減することが可能です。このプロセスをルーチン化することで、組織はインシデントに強い体制を築くことができるようになります。

セキュリティ対策の継続的強化

再発防止には、組織全体の運用や体制強化だけでなく、セキュリティ対策の継続的な見直しも重要です。脆弱性の発見やパッチ適用、アクセス制御の見直し、ファイアウォールやIDS/IPSなどのセキュリティ機器の設定確認は、常に最新の脅威に対応するために欠かせません。また、クラウドサービスやモバイル端末など、新たなIT資産を導入する際も、初期設定のセキュリティ強化や監視体制の整備を行う必要があります。さらに、ログ監視やアラート機能の精度向上、異常検知の自動化など、セキュリティ対策を継続的に見直すことで、インシデントの早期発見と被害拡大防止が可能となります。技術面の強化は、組織の防御力を底上げし、再発リスクを大幅に低減する基盤となります。

インシデント発生後の振り返り(ポストモーテム)

インシデント対応が一段落した後は、必ず振り返り(ポストモーテム)を行い、再発防止策の精度を高めることが重要です。具体的には、発生原因、対応のスピードや手順の適切さ、情報共有の精度、関係者間の連携状況などを詳細に分析します。この振り返りによって、改善すべき運用上の課題や技術的な弱点が明確になり、次回以降の対応力向上につながります。また、振り返りの結果は、社内マニュアルや教育資料に反映させることで、組織全体の知見として蓄積されます。さらに、経営層への報告を通じて資源や方針の見直しにも活用することで、組織全体のセキュリティ文化を強化し、インシデント再発リスクを大幅に低減できます。

まとめ

セキュリティインシデントは発生して終わりではなく、発生後の対応や改善こそが組織の安全性を左右します。本記事では、再発防止策の基本、組織体制の強化、従業員教育、定期的な監査、技術的対策の継続的強化、そしてポストモーテムによる振り返りまで、包括的な対策のポイントを解説しました。これらを継続的に実施することで、インシデントの再発リスクを大幅に低減し、企業の信頼性と業務継続性を確保できます。次回以降も、組織全体でセキュリティ力を高める取り組みが重要です。

再発防止策を継続的に実行するためには、CSIRTを含むインシデント対応体制の整備が重要です。
インシデント対応体制とは?CSIRTの役割と企業が整えるべき運用のポイント

BBSecでは

セキュリティインシデントの再発防止と体制強化は、組織の安全性を高めるために不可欠です。BBSECでは、インシデント発生時に迅速かつ効果的に対応できる体制構築を支援する「インシデント初動対応準備支援サービス」を提供しています。このサービスでは、実際のインシデント発生時に参照可能な対応フローやチェックリストの作成をサポートし、組織の対応力を強化します。さらに、インシデント対応訓練を通じて、実践的な対応力を養うことも可能です。詳細については、以下のリンクをご覧ください。

https://www.bbsec.co.jp/service/evaluation_consulting/incident_initial_response.html
※外部サイトにリンクします。

【参考情報】

公開日:2025年10月22日
更新日:2026年6月17日

編集責任:木下


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特別寄稿/AI時代のセキュリティ戦略:上野宣氏が語る、攻撃と防御の最前線【前編】

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上野宣氏

生成AIの急速な進化は、私たちの業務やビジネスの在り方だけでなく、サイバーセキュリティの常識そのものを塗り替えつつあります。攻撃者によるAI活用が高度化・自動化を加速させる一方で、防御側もまたAIを駆使した新たな対策を模索する時代に突入しました。攻撃と防御の双方でAI化が進むなか、企業はこれまでの延長線上にある対策だけで十分と言えるのでしょうか。いま、セキュリティ戦略そのものの再定義が求められています。

本記事では、現ブロードバンドセキュリティ(BBSec)およびグローバルセキュリティエキスパート株式会社の社外取締役、そして長年にわたりサイバーセキュリティ分野を牽引してきた上野 宣氏に、AIとセキュリティを取り巻く最新動向、企業が直面する課題、そしてこれからの時代に求められる戦略の方向性について伺います。

後編「AI時代に増えるリスクと、経営が取るべきアクション」はこちら


AIが変える攻撃の現状と、防御側AI活用のリアル

生成AI(LLM)の普及によって、サイバー攻撃のコストが劇的に低下しています。フィッシング文面の作成、標的企業の調査、マルウェアの作成、侵入後の横展開など、これまで人手と経験を必要としていた工程が、現在では半自動化されつつあります。犯罪ビジネスとして収益最大化を狙う攻撃者にとって重要なのは「時間を掛けて大物を狙うこと」ではなく、「いかに効率的に稼げるか」です。その結果、防御側には「特定の攻撃を止める」だけではなく「被害を最小化し、迅速に復旧する」という視点がこれまで以上に求められています。一方、防御側も、EDR/XDRやログ分析の高度化、セキュリティ運用(SOC/CSIRT)の自動化など、AIを取り入れた対策が急速に進んでいます。

また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2026年1月29日に公開した「情報セキュリティ10大脅威 2026 [組織編]」では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて3位に選出されました。

攻撃と防御の双方でAI化が進む現在、企業のセキュリティ戦略はどう変わるべきなのでしょうか。本稿では、攻撃者の視点で侵入を行うペネトレーションテストの経験を踏まえ、AI時代のセキュリティ最前線を整理し、現場と経営の双方が「明日から動ける」論点を提示します。

AIが変えるサイバー攻撃の現状

攻撃者は「巧妙さ」よりも「スケール」と「成功確率」を取りに来る

AIがもたらした本質的な変化は、攻撃手法そのものの高度化ではありません。最大の変化は攻撃のスケール(量)と、標的に適した攻撃手法を選択できる確率が大きく向上した点にあります。

  • フィッシング/ビジネスメール詐欺(BEC)の高精度化
    役職や業務内容、業界用語に合わせた文面、自然な敬語表現、過去メールの文体模倣、会話の継続まで、生成AIが支援することができます。結果として「日本語が不自然」「誤字が多い」といった従来の判別ポイントが機能しなくなっています。さらに、メールに限らず、チャット(Teams/Slackなど)やSMS、SNSのDM、ビデオ会議(Zoom/Teamsなど)など複数チャネルを横断した心理的誘導も増えています。
  • ディープフェイク(音声・映像)によるなりすまし
    役員の音声を模した緊急指示など、本人になりすましたリアルタイムの会話を通じた詐欺など、人の心理を突く攻撃が進化しています。特に決裁フローが「口頭承認」「チャットでOK」で通る組織ほど影響が大きくなります。
    2024年初頭には、香港でCFOをディープフェイクで偽装し、ビデオ会議を通じて2,500万米ドル(約38億円)を詐取した事件が報じられました。従来、本人確認は「見て・聞いて・確認する」という感覚に依存していましたが、その前提自体が崩れています。

[CFO(最高財務責任者)になりすまして2500万米ドルを送金させたディープフェイク技術 |トレンドマイクロ](https://www.trendmicro.com/ja_jp/research/24/c/deepfake-video-calls.html)

  • マルウェアの派生と検知回避の高速化
    既存コードの改変、難読化、検知回避の試行錯誤を短時間で回せるため、シグネチャ依存の検知は追随が難しくなります。加えて、侵入後の活動(権限昇格、横展開、永続化)に必要なコマンドや手順を考えるコストが下がり、攻撃者の習熟速度が上がります。
  • 偵察(Recon)と脆弱性悪用の自動化
    公開情報(OSINT)の収集、サブドメイン列挙、設定不備の探索、既知脆弱性(CVE)の当たり付けなど、攻撃の前工程が加速します。攻撃者は「露出している資産」「更新されていないミドルウェア」「放置された管理画面」のような守りの穴をAIで素早く見つけ、手当たり次第に試行します。
  • 生成AIによるコード生成とその限界
    生成AIは攻撃コードのたたき台(PoC)や、攻撃後の痕跡隠し(ログ削除や設定変更)の手順を提案することができます。攻撃者が高速に試行錯誤を行うことができるようになりました。ただし、生成物は常に正しいとは限らず、環境依存のミスも多くあります。AIは攻撃を容易にしますが、万能ではありません。

2024年5月にはIT分野の専門知識を持たない人物が、生成AIを悪用してランサムウェアを作成し逮捕されたという国内事案も起きています。従来は一定の技術力が必要だった領域でしたが、AIが参入障壁を引き下げています。
[生成AI悪用しウイルス作成、有罪判決…IT知識なくとも「1か月ぐらいで簡単に作れた」 | 読売新聞](https://www.yomiuri.co.jp/national/20241025-OYT1T50209/)

AIは攻撃者にとって新しい武器というより、「既存の攻撃を、安く、速く、個別最適化して量産する装置」として機能しています。

守る側が見落としがちな本質的脅威:攻撃者の「工数」ではなく「意思決定」が変わる

AIで工数が下がると、攻撃者の意思決定が変わります。たとえば以前なら「ROI(投資利益率)が合わない」と見送られていた中堅企業や子会社、地方拠点も、数を打つ前提で標的に入りやすくなります。また、ランサムウェアのように侵入後に人が関与する攻撃でも、初期侵入の候補が増えるだけで全体の被害母数は増えます。

企業は「自社は狙われない」ではなく、狙われる前提で、侵入しにくく・侵入されても広がらない設計に投資する必要があります。

一方で、AI攻撃にも限界があります。生成物の誤り、環境依存、権限・ネットワーク制約など、現実の侵入は地味な制約だらけです。 だからこそ防御側は、AIを過度に恐れるよりも、AIによって「攻撃の頻度と質が上がる」前提で、基本対策を徹底しつつ、運用を強化することが重要になります。

防御側のAI活用と、その限界

「検知モデル」と「生成モデル」は役割が異なる

防御側のAI活用を考える際、まず押さえたいことは、AIには大きく2種類の使い方があることです。

  1. 検知(判別)に強いAI:振る舞いから異常を検知し、アラートを出す(EDR/XDR、UEBAなど)
  2. 生成(要約・支援)に強いAI:文章の要約、問い合わせ応答、手順提案、チケット起票など運用補助を担う

両者を混同すると、「AIを入れたのに検知できない」「要約は便利だが判断が危ない」といったミスマッチが起きます。導入時はAIに何を任せ、何を人が担うかを明確にすることが出発点になります。

AIはすでに防御のコアである

防御側のAI活用は、AI製品を買えば解決という単純な話ではありません。多くの企業で現実に進んでいるのは、次のような領域です。

  • EDR/XDRの検知ロジック強化
    従来のルールベースに加え、行動分析や相関分析を組み合わせ、攻撃の兆候を早期に拾う。
  • ログ分析/異常検知の高度化
    分散したログを統合し、普段と違う通信・認証・権限変更などを検知する。特にクラウドでは、設定変更(IaC、権限付与、APIキー利用)のログが要になります。
  • SOCの一次分析(トリアージ)の効率化
    アラート要約、関連ログの自動収集、影響範囲の仮説立て、過去事例の類推など、人が疲弊する作業をAIが肩代わりする。SOAR(自動対応)と組み合わせ、軽微なインシデントを自動封じ込めする例も出ています。
  • 脅威インテリジェンスの取り込み
    攻撃者のTTPやIoCを取り込み、自社ログと突合する。AIは情報の整理・関連付けに強い一方、最終的な妥当性判断は人が担う必要があります。
    AIが得意なのは「大量データの整理・優先順位付け」であり、最終判断(ビジネス影響、止める/止めない、復旧手順)は人間の責務として残ることです。

AI防御の落とし穴

AIを活用した防御には、以下のようなリスクがあることを知っておいて下さい。

  • 誤検知/見逃し(False PosITive/Negative)
    AIはもっともらしい出力を返しますが、誤りをゼロにはできません。誤検知が多いと現場はアラート疲れを起こし、逆に見逃しが増えます。
  • 説明可能性(ExplAInabilITy)の不足
    「なぜ検知したのか」が説明できないと、現場の納得も、経営への説明も難しいことがあり、監査や顧客説明に耐えない可能性もあります。
  • データの偏り/経時変化
    組織の利用状況、システム構成、攻撃トレンドは常に変わります。過去データに最適化されたAIは、時間とともに精度が落ちる可能性があります。
  • 生成AIの幻覚(ハルシネーション)
    運用支援にLLMを使う場合、誤った要約や根拠不明の推論が混ざることがあります。検証手順(根拠ログの提示、再現確認)を確立しておくことが必須となります。
  • 機密ログの扱い
    生成AIにログを投入する場合、そのログ自体が機密情報の塊です。保存、外部送信、学習利用、権限管理の設計を誤ると、防御強化のつもりが漏えいリスクになります。
    AIは防御の万能薬ではなく、運用を強くするための一要素に過ぎません。AIを導入するなら「どのKPIを改善するのか(初動時間、検知率、分析工数、MTTRなど)」を定義し、運用とセットで設計する必要があります。

―【後編】「AI時代に増えるリスクと、経営が取るべきアクション」 に続く―


執筆:上野 宣 氏
株式会社トライコーダ代表取締役
奈良先端科学技術大学院大学で山口英教授のもと情報セキュリティを専攻、2006年にサイバーセキュリティ専門会社の株式会社トライコーダを設立。2019年より株式会社Flatt Security、2022年よりグローバルセキュリティエキスパート株式会社、2025年より株式会社ブロードバンドセキュリティの社外取締役を務める。あわせて、OWASP Japan代表、一般社団法人セキュリティ・キャンプ協議会理事、NICT CYDER推進委員などを歴任し、教育・人材育成分野にも尽力。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教員。

編集責任:木下・彦坂

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企業がランサムウェアに感染したら?被害事例から学ぶ初動対応と経営者が取るべき対策

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企業がランサムウェアに感染したら?被害事例から学ぶ初動対応と経営者が取るべき対策アイキャッチ画像

近年、企業を狙ったサイバー攻撃は巧妙化・高度化し、なかでも「ランサムウェア」被害は深刻さを増しています。業務停止や顧客情報の漏えい、取引先・株主からの信頼低下など、企業経営を直撃するリスクが現実のものとなっています。もし企業がランサムウェアに感染したら、対応の遅れは損害の拡大を招きます。経営層こそ、リスクを正しく理解し、事前の備えと発生時の迅速な意思決定を行う必要があります。本記事では、企業向けにランサムウェアの最新動向と、感染した際に最優先で行うべき初動対応、そして再発防止策について解説します。

ランサムウェアとは

ランサムウェアは企業の重要データを暗号化し、復元と引き換えに身代金(Ransom)を支払うよう要求するマルウェアの一種です。

かつては個人を標的とするケースが中心でしたが、近年では高額な金銭を得られる企業が主な攻撃対象となっています。製造、医療、インフラ、小売、自治体など業界を問わず被害が発生しており、サプライチェーン全体に影響を与えるケースも増加しています。

身代金はビットコインなどの仮想通貨で要求されることがほとんどです。ただし、支払ってもデータ等が必ず元に戻るとは限りません。また、暗号化されたファイルのパスワードを解析して、自力で元に戻すことは、ほぼ不可能です。

なぜ企業が狙われるのか

企業が持つデータは攻撃者にとって高い価値を持ちます。特に以下の理由が挙げられます。

  • 業務停止を避けるため、身代金が支払われやすい
  • 顧客・取引先データなど外部へ悪用できる情報を保有している
  • セキュリティレベルのばらつきがある
  • クラウド移行、DX加速に伴い防御範囲が拡大している

攻撃者は従業員のメールや脆弱なVPNを突破口として企業ネットワークに侵入し、内部に潜伏しながらバックアップ破壊など周到な準備を行った上で暗号化を実行します。

被害を拡大させる「二重脅迫」が主流

従来はファイルを暗号化して身代金を要求するだけだったランサムウェア攻撃ですが、近年主流となっているのが「二重脅迫(二重恐喝)」型です。これは、暗号化する前にデータを盗み出し、身代金の要求に加え、企業の機密情報をインターネットに公開するぞと、二重に脅迫を行う手法です。

復旧可能なバックアップがあったとしても、情報漏えいリスクから身代金の支払いに追い込まれるケースが後を絶ちません。また、支払い後もデータ公開を止めない犯罪グループも存在します。

企業のランサムウェア被害がもたらす影響

ランサムウェア感染により、企業は多面的な損害を受けます。

影響範囲内容
業務面生産ライン停止、受注業務・物流遅延、顧客対応停止
経済面身代金、復旧費、情報漏えい対応費、機会損失
信頼面顧客・取引先・株主・社会的信用の失墜
法的責任個人情報保護法、業界規制等による報告義務

被害の総額は数千万円〜数十億円規模にのぼる例もめずらしくありません。

どこから感染するのか(ランサムウェアの主な感染経路)

多くは企業のセキュリティ対策が不十分な“穴”(=セキュリティホール)をついて侵入されます。

  • 標的型攻撃メール(添付ファイル・悪意あるリンク)
  • 脆弱性のあるVPN装置・リモート環境
  • 不正なソフトウェア・USBデバイス
  • サプライチェーンを介した侵入
  • 不正アクセスにより管理権限を奪取

「メールを開いただけ」といった小さな油断から大被害へと発展します。このように、1つのマルウェアに感染することで様々なランサムウェアに感染する可能性があり、攻撃のパターンも複数あるということを認識しておく必要があります。

企業がランサムウェアに感染したら:最初の72時間で何をすべきか

感染発覚後の初動対応が、復旧の成否と被害額を大きく左右します。以下は企業が取るべき基本手順です。

  1. 被害範囲の特定と隔離
    ネットワークから切り離し、被害が拡大しないよう封じ込めます。
  2. 外部専門機関への早期連絡
    フォレンジック調査、インシデントレスポンス(CSIRT)と連携し、被害を技術的に分析します。
  3. 重要関係者への状況共有
    経営層/法務/広報/顧客/取引先/監督官庁など、情報開示を適切に実施します。
  4. バックアップからの復旧検討
    データの安全性を確認した上で、段階的に業務を再開します。
  5. 法的観点に基づく対応
    情報漏えいが発生した場合は報告義務が生じる可能性があります。

“自社だけで判断しない”ことが極めて重要です。

サイバーインシデント緊急対応

セキュリティインシデントの再発防止や体制強化を確実に行うには、専門家の支援を受けることも有効です。BBSecでは緊急対応支援サービスをご提供しています。突然の大規模攻撃や情報漏洩の懸念等、緊急事態もしくはその可能性が発生した場合は、BBSecにご相談ください。セキュリティのスペシャリストが、御社システムの状況把握、防御、そして事後対策をトータルにサポートさせていただきます。

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身代金を支払えば解決するのか?

結論から言えば、身代金支払いは推奨されません。その主な理由は以下の通りです。

  • 復号ツールを受け取れる保証がない
  • データ公開を止める保証がない
  • 再び標的にされる可能性が高まる
  • 資金が犯罪組織の活動に利用される
  • 法令や国際規制に抵触するリスク

国際的にも支払いは原則「NG」とされており、法務と専門家の判断を必須とすべき領域です。

企業が導入すべきランサムウェア対策

感染防止と被害最小化は両輪で取り組む必要があります。

予防策(侵入させない)

  • EDR/XDRの導入
  • 脆弱性管理・パッチ適用
  • ゼロトラスト型アクセス制御
  • メール訓練と従業員教育

ランサムウェアの対策として、EDR(Endpoint Detection and Response)やSIEM(Security Information and Event Management)製品を活用して、早期検知とブロックを行う方法がよく知られていますが、最大の感染経路のひとつである「メール」を対象にした訓練を行うことも有効でしょう。

ランサムウェア対策のメール訓練としては、「定型のメールを一斉送信し、部署毎に開封率のレポートを出す」ことに加え、事前に会社の組織図や業務手順等のヒアリングを行ったうえで、よりクリックされやすいカスタマイズした攻撃メールを作成し、添付ファイルや危険なURLをクリックすることで最終的にどんな知財や資産に対してどんな被害が発生するか、具体的なリスク予測までを実施することをおすすめします。

標的型メール訓練

https://www.bbsec.co.jp/service/training_information/mail-practice.html
※外部サイトへリンクします。

被害軽減策(侵入されても止める)

  • 隔離可能なネットワーク構成
  • 攻撃検知・自動遮断システム
  • 権限最小化・多要素認証

復旧策(迅速に回復する)

  • オフライン・多重バックアップ
  • 復旧手順の事前検証
  • インシデント対応訓練

経営者が担うべき役割

ランサムウェアはIT部門だけでは対応できません。経営者視点で求められるのは以下です。

  • セキュリティ投資判断と優先順位付け
  • リスクを踏まえた継続的な管理体制の構築
  • 社内文化としてのセキュリティ意識向上
  • インシデント発生時の意思決定と情報開示方針の確立

セキュリティは経営課題であり、企業価値を守るための投資です。

まとめ:感染したら“すぐ動ける企業”へ

企業がランサムウェアに感染したら、時間との戦いが始まります。初動が遅れるほど被害は拡大し、業務停止や情報漏えい、社会的信用喪失といった影響は深刻さを増します。だからこそ、「事前の備え(体制・技術・教育)」「迅速な判断(経営レベル)」「確実な復旧(検証された手順)」が不可欠です。

攻撃はいつ起きてもおかしくありません。“感染したらどうするか”ではなく、“必ず起きる前提で備える”―それが企業のセキュリティ対策の出発点です。

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狙われる医療業界2025 医療機関を標的とするサイバー攻撃

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医療機関のサイバーセキュリティ(アイキャッチ画像)

前回の記事の公開から約5年が経ちましたが、医療機関を標的とするサイバー攻撃の脅威はむしろ増加しています。特にランサムウェアによる被害は国内外問わず深刻化し、患者の命が危険に晒されてしまう可能性も出てきています。いまやインシデントを“他人事”とせず、「命を守るもの」という認識で組織一丸となってセキュリティ対策の見直しをすることが重要です。本記事では医療機関へのサイバー攻撃の脅威とセキュリティ対策の見直しのためのポイントをご紹介します。

2020年12月公開の記事「狙われる医療業界―「医療を止めない」ために、巧妙化するランサムウェアに万全の備えを」をまだご覧になっていない方はぜひ、この機会にご一読ください。

世界的に高まる医療分野へのサイバー攻撃

ランサムウェアによる被害は世界中で後を絶たず、いまや医療分野は重要な標的の一つとされています。米国のセキュリティ監視サイトRansomware.liveの統計によれば、2025年時点でランサムウェア被害を受けた業種の中で、医療・ヘルスケア関連は第3位に位置しています。医療業界が金融や行政に並ぶほどの標的となっている現実は、決して無視できません。

Ransomware.live統計円グラフ(ランサムウェア被害を受けた業界)
出典:Ransomware.liveRansomware Statistics for 2025」(https://www.ransomware.live/stats

国内でも相次ぐ深刻な被害事例

日本国内でも、深刻な被害事例が相次いで報告されています。たとえば2024年3月、鹿児島県の国分生協病院では、ランサムウェアによるサイバー攻撃により、電子カルテをはじめとする複数のシステムが使用できなくなり、患者の診療に支障が出るという被害が発生*1しました。また、同年の5月に起きた岡山県精神科医療センターでは、外来診療の一部を中止せざるを得ない事態に追い込まれました*2。このように、サイバー攻撃は単に業務の一時停止を招くだけでなく、医療提供そのものに影響を与え、患者の命を危険に晒す恐れがあるという点で、他業種におけるサイバー被害とはその意味において一線を画します。

サイバー攻撃は“日常の医療”を止めうる

Silobreaker社がまとめた医療業界に関する分析レポートでも、ヘルスケア分野に対するサイバー脅威の増加は顕著であり、医療情報の価値の高さとシステムの脆弱性が攻撃を呼び込んでいると指摘されています。国内外でのこうした事例は、「サイバー攻撃が日常の医療を止め得る存在である」という現実を強く物語っています。特に日本では、「まさかうちが」という意識が依然として根強く残っているのが現状ですが、医療機関はすでに、攻撃者にとって“おいしいターゲット”であることを自覚すべき時期に来ています。

攻撃者はなぜ医療機関を狙うのか

攻撃側の論理①わきの甘さ=「機会要因」の存在

医療機関がサイバー攻撃の標的になる。―これはもはや偶発的なものではなく、確かな傾向として定着しつつあります。過去の記事でも言及しましたが、2025年現在ではその背景にある“攻撃側の論理”がより鮮明になってきています。

多くの人が誤解しがちなのは、「医療機関は狙われている」という表現があたかも特定の施設に対して意図的な攻撃が行われている、という印象を与えてしまう点です。確かに、一部には病院のネットワークやデータに照準を合わせた標的型攻撃も存在します。しかし実態としては、多くの場合、攻撃者は最初から「病院を狙って」いるわけではありません。攻撃者は、不特定多数の組織や端末に対して無差別にスキャンをかけ、リモートアクセスサービスやVPN機器、ファイル共有サーバといった、公開された情報から侵入経路を探しています。そしてその中で、意図せず医療機関が引っかかるのです。つまり、標的にされたのではなく、“侵入可能だったから侵入された”というのが現実なのです。

医療機関では古いシステムが更新されずに残っている、または、ネットワークの分離が不完全なまま稼働していることがあります。また、パスワードの使い回し、脆弱性が放置されたソフトウェア、機器の寿命サイクルの見落としなど、基本的なセキュリティ対策に隙があることが少なくありません。そして、攻撃者にとっては、それこそが格好の「入り口」になるのです。

攻撃側の論理②「動機」金になる標的としての医療機関

ランサムウェア攻撃を実行するサイバー攻撃者の目的は、金銭的な利益です。医療機関には、個人情報(診療記録、保険情報、連絡先など)や経営上の内部資料、研究データといった売買可能な資産が豊富にあります。また、医療機関は儲かっているように思われており、そのうえで業務の中断が患者の生命に直結するため、身代金の支払いに応じやすいに違いない、と見られているわけです。つまり、医療機関が狙われるのは、「わきが甘いから侵入しやすい」+「金銭的利益を得やすい重要なデータの宝庫である」=“コストパフォーマンスに優れた良い標的”と見なされているからと考えられます。

2020年以降医療サイバーセキュリティはどう変わったのか

制度とガイドラインの整備が進む

前回の記事からの5年間で、医療分野のサイバーセキュリティを取り巻く制度やガイドラインも着実に充実してきています。例えば2025年5月に、厚生労働省から「医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト(令和7年5月版)」が公開され、以前に比べて具体的かつ実践的な内容になっています。クラウド環境やBCP(事業継続計画)への配慮、IoT・BYODといった新たなリスクへの言及も盛り込まれています。

また、CSIRT(Computer Security Incident Response Team)を設けたり、EDR(Endpoint Detection and Response)などの対策製品を導入したりする医療機関も増えてきました。CSIRTを中心とした地域単位の訓練や、院内外のネットワーク構成の共有と点検を含む取り組みが、学術会議や業界団体の枠組みとして増加しています*3。サイバー攻撃に備える土台作りは、着実に進みつつあるといえるでしょう。

2025年いまだ残る基本的な課題

一方で、5年前と変わらぬ問題を目にする場面も少なくありません。その一つが、「パスワード管理」です。初期設定のまま放置されたアカウント、業務上の利便性から生まれる使い回し。こうしたわきの甘さが、攻撃者の入り口になることは以前から分かっていたはずですが、2024年の岡山県精神科医療センターの事例などを見ると、なおも同様の傾向が残っていることがうかがえます。また、電子カルテやシステムのクラウド化に対しても、依然として現場では極端な見方が交錯しているように思えます。「クラウドだから安全」と根拠のない安心感を持つ一方で、「クラウドだから怖い」「電子カルテという形式そのものが危ない」といった漠然とした不安も根強く見受けられます。

どちらにしても共通するのは、仕組みやリスクを正しく理解しないまま思い込んでいるケースが少なくないということです。実際には、クラウドの活用は有効な手段のひとつでありつつも、アクセス制御や端末管理、ネットワーク構成など、設定次第でその安全性は大きく変化します。こういった基本的な理解の重要性や注意点は、5年前から現在も変わらずに示され続けてきたものですが、いまだに“本質的な理解”が広がり切っていないように見受けられます。

基本的な課題の根底には、インシデントを“自分事”として捉えづらい空気があるのかもしれません。実際に深刻な被害を受けた他機関の事例を目にしても、「うちには関係ない」とどこかで思ってしまう感覚。それは、ごく自然な反応である一方で、取り返しのつかないインシデントに繋がりかねません。

自組織のセキュリティ対策の見直しを

医療機関向けチェックリストやガイドラインの活用

ここまで見てきたように、医療機関に対するサイバー攻撃は後を絶たず、その影響は診療の継続性や患者の安全、そして組織の信頼性にまで及びます。「自分たちは大丈夫だろう。」「人命最優先で、他を考えている余裕はない。」―そのように考えがちですが、日々の業務に追われている医療現場こそ、今一度立ち止まって、対策の棚卸しを行うことが求められています。対策の見直しにあたっては、厚生労働省が公開している「医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト(令和7年5月版)」の活用が効果的です。

厚生労働省「医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト(令和7年5月https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001253950.pdf

本チェックリストは、技術的な対策だけでなく、組織体制や訓練、業者選定の観点まで網羅されており、現場レベルでも活用しやすい実践的な内容となっています。また、業界全体で参照される基準として、次のようなガイドラインも押さえておくとよいでしょう。

これらの資料には、医療の特殊性を踏まえた対応策が具体的に記載されており、ベンダや関係業者との連携の際にも参考となります。

現場の声と経営的視点をつなげる「可視化」

セキュリティ対策は単なる技術的作業にとどまらず、組織全体で「守るべきもの」を共通認識することが大切です。そのためにも、経営層が積極的に関与し、現場の声を聴きながら継続的な投資と改善を進めていくことが求められます。医療機関にとって、セキュリティはコストではなく、患者の信頼と組織の生命線であることを改めて認識すべきです。その助けになるのが、リスクの「可視化」です。

仮に端末のひとつがマルウェアに感染したとき、その端末が院内のどの機器と通信しているのか、そこから電子カルテや予約システムにアクセスされたりしないか、バックアップはきちんと機能するかなどなど…。こうした攻撃時の経路や起きうる事象をあらかじめ可視化し、把握しておくことは、被害拡大の防止やインシデント対応の迅速化に大きな効果をもたらすのみならず、経営層の理解を得ることにもつながります。可視化によって得られる「想定していなかった侵入経路」「明らかになる不十分なセキュリティ対策」「攻撃発生時に起きうる具体的な被害」といった情報が、経営層や多くの医療従事者に理解してもらい、組織全体で防御力を高めるための重要な意思決定のための正しい判断材料となりえるでしょう。

BBSecでは

BBSecでは以下のようなご支援が可能です。 お客様のご状況に合わせて最適なご提案をいたします。詳細・お見積りについてのご相談は、以下のフォームよりお気軽にお問い合わせください。後ほど、担当者よりご連絡いたします。

アタックサーフェス調査サービス

インターネット上で「攻撃者にとって対象組織はどう見えているか」調査・報告するサービスです。攻撃者と同じ観点に立ち、企業ドメイン情報をはじめとする、公開情報(OSINT)を利用して攻撃可能なポイントの有無を、弊社セキュリティエンジニアが調査いたします。

また費用の問題から十分な初動対応ができないといった問題が発生しかねない状況を憂え、SQAT® 脆弱性診断サービスのすべてに、サイバー保険を付帯させていただいています。

サイバー保険付帯の脆弱性診断サービス

BBSecのSQAT® 脆弱性診断サービスすべてが対象となります。また、複数回脆弱性診断を実施した場合、最新の診断結果の報告日から1年間有効となります。詳細はこちら。
https://www.bbsec.co.jp/service/vulnerability-diagnosis/cyberinsurance.html
※外部サイトにリンクします。

エンドポイントセキュリティ

組織の端末を24時間365日体制で監視し、インシデント発生時には初動対応を実施します。
https://www.bbsec.co.jp/service/mss/edr-mss.html
※外部サイトにリンクします。

インシデント初動対応準備支援

体制整備や初動フロー策定を支援します。
https://www.bbsec.co.jp/service/evaluation_consulting/incident_initial_response.html
※外部サイトにリンクします。

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    【長期休暇前の見直しを!】ネットワーク図が消えた瞬間─ランサムウェア時代のインシデント対応を左右する“準備”の質

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    インシデントレスポンス・フォレンジック記事アイキャッチ画像(パソコンと火のイメージ)

    長期休暇は攻撃者にとっての“ゴールデンタイム”─攻撃の隙を突かれ、組織のネットワーク図や構成情報が暗号化されてしまえば、インシデント初動対応やフォレンジック調査に大きな支障が生じます。本記事ではランサムウェア攻撃の実例を交えつつ、サイバー攻撃への対策の要点を解説します。

    図面サーバが暗号化された実例が突きつけた現実

    2021年1月、プエルトリコ財務省(Hacienda)の共有サーバがランサムウェア「Ryuk」によって暗号化されました。困難を極めたのは業務システムそのものではなく、インシデント対応の羅針盤となるIDSログとネットワーク図まで人質に取られたことでした。CompSec Direct社は、外部のDFIR(Digital Forensics & Incident Response)チームが構成を把握するまでに数時間を費やし、その間オンライン納税が全面停止した結果、1日あたり2000万ドルを超える税収が失われたと報告しています。さらに同様のリスクが民間企業にも差し迫っています。Microsoft Igniteで発表されたランサムウェアバックアップ戦略ガイド「Ransomware attack recovery plan」では、「ネットワーク図やCMDBは攻撃者が真っ先に狙う復旧用ドキュメントであり、失えば復元計画そのものが成立しなくなる」と警鐘を鳴らしています。

    ネットワーク図はフォレンジック調査とCSIRTの羅針盤

    マルウェア感染が判明した直後、CSIRT(Computer Security Incident Response Team)はネットワークをどこで遮断すべきか、どのホストでメモリダンプやパケットキャプチャを始めるべきかを瞬時に決めなければなりません。その判断を支える“地図”こそ最新のネットワーク図です。AWS Incident Response「Document and centralize architecture diagrams」でも、アーキテクチャ図を一元的に保管し常に更新しておくことが「迅速かつ正確な封じ込めの前提」と明示しています。

    フォレンジック担当者にとっても図面は欠かせません。感染セグメントの境界を論理的に隔離し、ログ残存率の高い経路を優先してトラフィックを保存し、横展開を想定したホストに的を絞ってメモリを取得する—こうした分単位のオペレーションは、正確な構成情報があって初めて迷いなく実行できます。図面が欠落した状態では、調査は手探りになり、感染拡大のリスクが急激に高まります。

    攻撃者が真っ先に狙う“復旧用ドキュメント”

    近年のランサムウェアは単にシステムを暗号化するだけでなく、復旧の要となるバックアップやドキュメントを破壊・窃取する二重・三重恐喝が主流です。Microsoftは前述した「Ransomware attack recovery plan」の中で、図面を含む復旧ドキュメントを必ずイミュータブルまたはオフラインの領域へ隔離し、管理者権限を奪われても書き換えられないように設計することを強調しています。この”文書奪取型”の攻撃は、組織が身代金を支払わざるを得ない状態へ追い込む目的で計画的に行われます。したがって、図面の退避先をシステムとは別レイヤーに置く設計思想そのものが、ランサムウェア時代の事業継続計画(BCP)の根幹となります。

    三層バックアップと3-2-1 ルール—図面を守るための冗長化設計

    攻撃者がドキュメントを狙う前提を踏まえ、Microsoft Azureや多くのクラウド事業者は「三層バックアップ」を基準として推奨しています。第一層は多要素認証を必須化したオンラインバックアップで、日常的な迅速リストアを担います。第二層はクラウドのイミュータブルストレージで、週次コピーを保管し、管理者権限の奪取による改ざんを防ぎます。第三層は完全オフラインの隔離媒体で月次アーカイブを保持し、最悪のシナリオでも“最後の砦”として機能します。この三層構造の流れは下図の通りです。

    三層バックアップのイメージ図

    三層バックアップは、しばしば「三つのコピー・二種類の媒体・一つはオフサイト」という 3-2-1ルールとも呼ばれ、ログやアプリケーションデータだけでなくネットワーク図のような復旧必須ドキュメントにもそのまま適用できます。重要なのは、図面を単なるPDFとして保存するのではなく、バージョン管理システムやIaC(Infrastructure as Code)ツールで変更履歴を残し、更新が発生するたびに自動でイミュータブル層へ複製する運用プロセスを組み込む点にあります。

    長期休暇は“攻撃者のゴールデンタイム”

    大型連休や年末年始は、内部管理者の不在や監視体制の手薄さを突く格好のタイミングです。実際、米CISAと FBIは2021年のレイバー・デー (Labor Day=労働者の日)を前に、「過去の大規模ランサムウェア攻撃は、週末や祝日の直前に集中する傾向がある」と共同アドバイザリRansomware Awareness for Holidays and Weekends」を公開し、平時よりも高い警戒レベルを求めました。

    国内でも2024年4月、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が「2024年度 ゴールデンウイークにおける情報セキュリティに関する注意喚起」を発表し、「長期休暇中は管理者が長期間不在になるため、インシデント発生時の対応が遅れ、休暇明けの業務継続に影響が及ぶ恐れがある」と警告しています。連休を狙った攻撃が成功しやすい背景には、VPNリモートデスクトッププロトコル(RDP)のパッチ未適用、監視ログの見落としといった“人的スキマ”が重層的に生じる点があります。

    「連休前点検」と「連休後フォロー」を年間行事に

    休暇入りの二週間前を目安に、ネットワーク図とCMDB(構成管理データベース)の最新版をイミュータブル層へ複製し、外部ベンダーとも共有確認を行う—これだけで、もし連休中に図面サーバが暗号化されても代替コピーを即座に展開できます。さらに休暇明け初日に、ログの異常値とバックアップ整合性をチェックする“フォローアップ窓”を設ければ、潜伏期間の長いマルウェアを早期に検知できます。

    平時にベンダー契約を結び、図面を安全に共有する

    インシデント対応は社内リソースだけで完結しない局面が多くあります。経済産業省が公開した中小企業向け手引きでも、専門知識が不足する場合は外部ベンダーへ速やかに支援を依頼するよう明記されています。ところが緊急時に初めて見積もりを取得し、社内決裁を経て、機密保持契約(NDA)を交わすようでは手遅れになりかねません。またNIST SP 800-61 Rev.3でも、外部サービスプロバイダーとの契約には責任分界点・連絡フロー・緊急時の権限を事前に文書化し、図面や資産リストを暗号化して共有しておくべきだと指摘しています。

    図面を平時から共有しておけば、ベンダーは現地到着と同時に封じ込めポイントやログ取得手順を提示できる―これが、初動を数十分で完了させるか、半日を失うかの分岐点となります。

    図面更新運用「変更が起きた瞬間にバックアップを取る」

    ネットワーク構成は日々変化します。クラウドのセキュリティグループを1行書き換えるだけでも、感染経路や封じ込め手順は一変します。したがって、図面更新の責任を特定の担当者に寄せるのではなく、CI/CDのパイプラインに組み込んで自動化するアプローチが有効です。例えば、IaCテンプレートを最新版にマージすると同時に、図面を自動生成し、イミュータブル層へコミットする―こうして「変更=バックアップ」のトリガーを組織文化として定着させることで、人為的な更新漏れを防止できます。

    クラウド・オンプレミスを跨ぐハイブリッド環境への適用のポイント

    ハイブリッド環境では、クラウド側のアーキテクチャ図とオンプレの物理配線図を統合的に管理する必要があります。AWS Systems Manager Application ManagerやAzure Arcなどのサービスを活用すると、マルチクラウド/オンプレ資産を単一のリポジトリへ収集できる。こうして得られたメタデータをエクスポートし、Visioやdraw.ioで図面化して保管すれば、プラットフォームを跨いだ封じ込め手順を迅速に策定できます。

    90日で構築する“図面と契約”のロードマップ

    まず、30日以内に既存図面の所在を棚卸しし、漏れや重複を洗い出します。次の30日で三層バックアップを設計し、イミュータブル層とオフライン層へのコピーサイクルを自動化します。最後の30日でMSSPやクラウドベンダーとの契約書に図面共有条項を追加し、緊急連絡網と責任分界点を明文化します。こうした段階的な取り組みを通じて、図面が失われても数分で代替コピーを展開できる体制が完成します。

    まとめ:今日から始める“図面と契約”の棚卸し

    ネットワーク図は初動対応の生命線であり、失えば封じ込めもフォレンジックも大幅に遅れます。図面そのものが攻撃者の標的になる現実を踏まえ、イミュータブルストレージと完全オフライン媒体を組み合わせた三重の防御を施すことが不可欠です。さらに、平時からMSSPやフォレンジックベンダーと契約し、暗号化した図面を安全に共有しておけば、いざという時に“地図を持った専門家”が数分で封じ込めを開始できます。図面が手元にあるか否かで、インシデント対応は「数時間」で済むか「数日」を要するかが決まります。ランサムウェアが猛威を振るう2025年、まずはバックアップ設計とベンダー契約を棚卸しし、次の長期休暇を迎える前に備えを万全にしましょう。

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    産業制御システムセキュリティのいまとこれからを考える

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    SQAT® Security Report 2020年春夏号

    今やIoTシステムや制御系システムのセキュリティの問題は、経済的な損害だけでなく、社会的信用の失墜につながりうるものとの認識が一般的になりつつあります。特に、2020年はオリンピック・パラリンピックという国際的な大型イベントを控えており、大規模なサイバー攻撃が予想されます。こうしたイベント時に狙われる制御システムは、電気・ガス・水道や空港設備といったインフラ施設、石油化学プラントなどの制御システムなどがあげられます。

    平成三十年4月にはサイバーセキュリティ戦略本部から「重要インフラにおける情報セキュリティ確保に係る安全基準等策定指針(第5版)」が公表されたものの、「サイバーセキュリティに係る保安規程・技術基準等」については未整備の業界も多く、省令の改正や国としてのガイドライン等の策定が急ピッチで進められています。こうした中、「IoTシステムや制御システムのセキュリティ」は、事業継続計画(BCP)において想定すべき主要なリスクの一つであり、経営責任が問われる課題として捉える必要があります。

    産業制御システムのセキュリティとは? その現状

    従来、製造業の制御系システムはインターネットに接続されていない独立系システム、いわゆる閉鎖系システムであるために安全と考えられてきましたが、近年状況が変化してきています。一般的に、OT(Operational Technology)のライフサイクルは10~20年と、ITに比べ長く、さらにシステムが停止することなく稼働し続けること(可用性)が最も重視されるため、装置自体の脆弱性が発見されたとしてもすぐに交換できません。パッチを当てるにしても操業を計画的に停止する必要があることなどから、ファームウェアやエンベデッドOS(産業用機械などに内蔵されるコンピュータシステムを制御するためのOS)のアップデートにUSBを使用するケースも少なくありません。しかし検疫体制が甘く、そこから感染してしまったという事例もあります。
    さらに最近、利便性を考え制御系システムでもエンベデッドOSとしてWindowsやLinuxを採用されることが増えてきましたが、それらの端末がインターネットに接続されていることから、標的型攻撃などの脅威にさらされる機会が増えるという皮肉な結果を生んでいます(図1参照)。

    図1 制御システムの進化とセキュリティ

    出典:日経 xTECH EXPO オープンシアター講演資料
    情報システムのようにはいかない制御システムのセキュリティ ~サイバー攻撃手法から見る制御セキュリティ対策~」IPA セキュリティセンター 福原 聡

    制御システムのセキュリティと一般的な企業の情報システムとは、その対象や優先度が大きく異なり、またセキュリティの基本であるCIA(機密性・完全性・可用性)の優先度も大きく違うため、単純にWebアプリケーションやネットワークのセキュリティ対策を当てはめるわけにはいきません。特に制御システムで優先されるリスク管理項目は「人命」「環境」であり、リアルタイム性も求められるのが大きな特徴です(表1参照)。

    表 1 産業制御システムと情報システムの違い

    制御システムのインシデントでは2017年に起きたランサムウェア「WannaCry」が記憶に新しいでしょう。政府・病院・工場などのシステムに侵入し、コンピュータのストレージが暗号化されて身代金を要求された事件です。また、2019年にはランサムウェア「LockerGoga」により世界40ヶ国のコンピュータがサイバー攻撃を受け、ノルウェーのアルミ生産会社では、生産システムとオフィスITシステムが感染したため、手動生産に切り替えての操業を余儀なくされ、生産が大幅に減速されました。同じく、2019年の7月には南アフリカのヨハネスブルグで電力会社のプリペイド供給システムがサイバー攻撃により停止し、顧客が電力を購入できなくなる事態が発生しました。

    産業制御システムのセキュリティフレームワーク

    前述のように、OTはライフサイクルが長く、セキュリティよりも可用性が重視されるので、制御システムのアップデートもベンダが実施することが多いのですが、最新の脆弱性情報がOT担当者とIT担当者の間でスムーズに連携されず、結果として対策が不十分になっていることが散見されます。そもそも、IoTシステムや制御システムのセキュリティはフレームワークの違いもあり、専門家の知見によるリスクアセスメントが欠かせません。

    汎用的な標準・基準として、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)に対してCSMS(サイバーセキュリティマネジメントシステム)と呼ばれている制御システムセキュリティ基準 IEC62443-2-1がありますが、当社では、近年のサイバー攻撃の動向や脅威を踏まえた上で、独自に開発したフレームワークを使用しています。IEC62443に加え、NIST(米国標準技術研究所)のセキュリティガイドラインであるNIST SP800-82および53、IPAのガイドラインなどをベースとしています。(図2、表2参照)

    図 2 産業制御システムのセキュリティフレームワーク
    表2 BBSecの産業制御システム向けリスク評価項目例

    事業継続のためにできること

    冒頭にあげた「重要インフラにおける情報セキュリティ確保に係る安全基準等策定指針(第5版)」において、定期的な情報セキュリティリスクアセスメントの実施、サイバー攻撃の特性を踏まえた対応計画の策定などが求められています。

    これらの重要インフラのシステムには先にみたように、一般的な情報システムのセキュリティ対策では対応できない部分も多くあります。まずはセキュリティリスクを可視化し、脆弱性があることを認識することが重要です。その上で脅威を最小化する方策を検討する必要があります。

    可用性と人命・環境への配慮という2つの命題を実現するためにも、OT担当者とIT担当者が連携し、セキュリティの専門家を交えてセキュリティ体制を構築・運用していくことが欠かせません。当社では制御システムのリスクアセスメントをはじめ、CSIRT構築、セキュリティオペレーションセンターによる監視、ケースによってはセンターからのオペレーションで防御するところまでお手伝いしています。対策についても一般的なセキュリティ対策の提案だけでなく、装置の交換やエンベデッドOSのバージョンアップが難しい場合のリスク低減策もご提案いたします。

    制御システムセキュリティのリスクアセスメントは、情報セキュリティ対策の第一歩である現状把握を行い、現状を踏まえた上で、セキュリティリスクに対する今後の対策を考えるためのファーストステップです。セキュリティ専門家の知見でこそできることがあります。事業継続のためにもまずはリスクアセスメントからはじめてはいかがでしょうか。

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