Dos攻撃とは?DDos攻撃との違い、すぐにできる3つの基本的な対策

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DoS攻撃とは一度に膨大なアクセス要求などを行うことで、インターネットを通じて提供するサービスを不能状態に陥れるサイバー攻撃です。本稿では、DoS攻撃とDDoS攻撃の違いや、史上最大規模となった攻撃の事例、攻撃の特徴などを解説し、すぐにできるDoS攻撃/DDoS攻撃の対策方法をご紹介します。

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DDos攻撃について、SQAT.jpでは以下の記事でも解説しています。こちらもあわせてぜひご覧ください。
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Dos攻撃とは

「DoS」とは「Denial of Service」の略で「サービス拒否」を意味します。「DoS攻撃」とは、Webサービスを提供するサーバなどに向けて大量の通信等を発生させることで負荷をかけ、本来のユーザがサービス提供を求めた際に、提供を拒否されるようになることを目的に行うサイバー攻撃です。この攻撃により、対象のシステムは過剰な負荷によって正常なサービスの提供をすることができなくなります。

DDos攻撃とは・Dos攻撃との違い

複数の分散した(Distributed)拠点からDoS攻撃を行うものが、「DDoS(Distributed Denial of Service)攻撃」と呼ばれます。

DoS攻撃が単一の攻撃源によって仕掛けられるのに対し、DDoS攻撃は分散された複数の攻撃源から仕掛けられる点が主な違いです。DoS攻撃/DDoS攻撃によるサービス停止は機会損失を生み、ブランド毀損は通常のサイバー攻撃より大きい場合もあります。また、直接攻撃対象とならなくても、攻撃の踏み台にされることで間接的な加害者となる危険性もあります。

関連記事:「DoS攻撃/DDoS攻撃の脅威と対策

Dos攻撃/DDos攻撃の特徴

攻撃難易度の低さ

DoS攻撃/DDoS攻撃の特徴のひとつが攻撃の難易度の低さです。

多くの場合、コンピュータプログラムを書いてマルウェアを開発するような技術力は不要で、APTのような組織・資金・技術力もいりません。

インターネット上には、多数のDoS攻撃ツールが存在します。また、ストレステスト等の正規ツールを悪用してDoS攻撃を行う場合もあります。そればかりか、クレジットカードさえあればすぐに利用できる「DDoS攻撃を請け負う違法サービス」すら存在しています。

DoS攻撃/DDoS攻撃によるサービス停止は機会損失を生み、ブランド毀損は通常のサイバー攻撃より大きい場合もあります。また、直接攻撃対象とならなくても、攻撃の踏み台にされることで間接的な加害者となる危険性もあります。

社会・政治的動機

DoS攻撃、特にDDoS攻撃の特徴を示すキーワードが「社会・政治」です。

2010年、米大手決済サービスが、国際的な内部告発サイトが運営のために支援者から寄付を集める際に利用していた口座を、規約にしたがって凍結したことに対し、ハッカー集団がDDoS攻撃を実施、米大手決済サービスのサービスが一部停止する事態に陥りました。

このように、実施のハードルが低いDoS攻撃/DDoS攻撃は、人々が自身のさまざまな意思を表明するために、あたかもデモ行進のように実施されることがあります。かつては、DDoS攻撃をデモ活動同様の市民の権利として認めるべきであるという議論がまじめに行われていたこともありました。しかし、実際には「気に食わない」だけでもDDoS攻撃は行われ得るのです。社会課題の解決、ナショナリズム、倫理などを標榜していたとしても、端から見るとヘイトや嫌がらせと変わらないことがあります。

ブランド毀損など、DoS攻撃/DDoS攻撃を受けた場合の被害が大きい

政治的、社会的、あるいは倫理的文脈から批判が集中した企業やサービスなどに対して、一度DoS攻撃/DDoS攻撃がはじまると、その趣旨に共感した人々が次々と参加し、ときに雪だるま式に拡大することがあるのもこの攻撃の特徴です。

また、DoS攻撃/DDoS攻撃は、攻撃が起こっていることが外部からもわかるという点で、外部に公表するまでは事故の発生がわからない情報漏えいのようなタイプのサイバー攻撃とは異なります。「広く一般に知られる」ことが容易に起こりうるため、ブランドへの負のインパクトが発生する可能性も大きいといえます。

DoS攻撃/DDoS攻撃の発生に気づくのが難しい

そもそもWebサービスは、その性質上外部に公開されるものです。そのためDoS攻撃やDDoS攻撃を完全に防ぐことは容易ではありません。特に多数の機器を踏み台として巻き込むDDoS攻撃の標的となった場合には、気づく間もなくあっという間にサービス拒否状態に陥る可能性が高いでしょう。

マルウェア「Mirai」による史上最大のDDos攻撃

古くは攻撃者が大量のリクエストを送ることでサーバなどをサービス停止状態に陥らせるタイプの攻撃が主流でしたが、近年では、分散化・大規模化が進んでいます。例えば、IoTのリスクと求められるセキュリティ対策で紹介した「Mirai」は、IoT機器に感染し、それらの機器をサイバー攻撃の踏み台として悪用することによって、史上最大のDDoS攻撃を引き起こしました。

また、単純なサービス妨害からより複雑化した犯罪へという変化もみられます。例えば、JPCERTコーディネーションセンターでは、2019年、DDoS攻撃の実行を示唆して仮想通貨を要求する脅迫型メールが国内外の複数の組織で確認されていることを報告し、注意喚起を行っています。

DoS(サービス拒否)型の攻撃はサイバー攻撃の手法としては最も古いものの1つですが、その大規模化・複雑化は日々進行しているのです。

脆弱性や設定不備を狙ったDoS攻撃は防ぐことが可能

DoS攻撃/DDoS攻撃は攻撃の発生に気づくのが難しいという話を前段で述べましたが、一方で、防ぐことができるタイプの攻撃も存在します。

一部のWebサイトでは、「長大な文字列を受け入れてしまう」「ファイルの容量を制限しない」など、DoS攻撃につけ込まれてしまう問題が存在することがあります。また、ネットワーク関連の設定の不備によってDoS攻撃を受ける可能性も存在します。しかし、こうした脆弱性は、修正による回避が可能です。

また、あなたの企業が直接DoS攻撃の攻撃対象とならなくても、上述のような脆弱性を放置しておくとDDoS攻撃の踏み台にされることもあります。その対策としては、各種機器・OS・ソフトウェアの脆弱性管理を適切に行うことや、脆弱性診断等のセキュリティ診断を定期的に実施して未知のリスクを把握し、対処することが重要です。

診断会社あるある「すわ、DoS攻撃?」

ここで余談ではありますが、診断実施に伴う「あるある」エピソードを。

セキュリティ診断を行う際には、必ず、実施の年月日や時間帯を関連する部署に周知しなくてはなりません。

実は、診断実施に伴って事業部門等が「DoS攻撃が発生した!」と勘違いすることが、しばしばあるのです。もちろん、一般にインターネット上に公開しているシステムの場合には業務に差し支えるような検査の仕方をしないというのが大前提ですが、それでも、大量の問合せ等が発生すると何も知らされていない担当部署はサイバー攻撃と勘違いすることがあります。ついでにこの際に抜き打ちで社内のサイバー訓練を・・・と目論みたい気持ちが出たとしても、それを実行に移すのは大変危険です。訓練は訓練させる側にきちんとした検証シナリオがあってこそ効果を発揮します。まずは関係各所との連携を徹底するところから始めましょう。

DoS攻撃/DDoS攻撃への対策

DoS攻撃、特にDDoS攻撃の対策としては、CDN(Content Delivery Networks)の利用、DDoS攻撃対策専用アプライアンス、WAF(Webアプリケーションファイアウォール)などが威力を発揮します。

DoS攻撃/DDoS攻撃にも有効な3つの基本的対策

そして、これらの対策を適用する際には、同時に、セキュリティ対策の基本ともいえる以下の3点に対応できているかどうかも確認しましょう。

1.必要のないサービス・プロセス・ポートは停止する
2.DoS攻撃/DDoS攻撃の端緒になりうる各種の不備を見つけて直す
3.脆弱性対策が施されたパッチを適用する

Webアプリケーション脆弱性診断バナー

いずれもセキュリティ対策の「基本中の基本」といえるものばかりですが、防御可能なタイプのDoS攻撃を回避し、システムがDDoS攻撃の踏み台にされることを防ぐためにきわめて有効です。

これまで述べたように、DoS攻撃/DDoS攻撃は、機会損失やブランド毀損など事業継続性を損なうダメージをもたらし得るサイバー攻撃です。DDoS攻撃の踏み台となれば社会的責任が問われることもあるでしょう。経営課題のひとつとして認識し、対処することが大切です。

まとめ

  • DoS攻撃とはサーバなどに負荷をかけてサービスを提供できなくするサイバー攻撃です。
  • 攻撃実行の難易度が低く、人々の意思表明のために大規模に行われることもあります。
  • 脆弱性を突いて行われるDoS攻撃は、脆弱性診断などで発見し対策することができます。
  • 必要のないサービス・プロセス・ポートの停止、などの基本的対策がDoS攻撃/DDoS攻撃にも有効です。

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安全なスマホ利用を目指して
-学生必見!8つのセキュリティ対策とは-

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画面に顔が描かれたスマホが剣と盾を持っているイラスト

スマホは私たちの日常生活に欠かせない存在になっています。SNS、友達や親との連絡、勉強、エンターテインメント、ニュースのチェック、ゲーム、さらにはショッピングや支払いまで、さまざまな活動がスマホ1台でできるようになりました。その一方で、スマホの便利さは悪意ある人々にも利用されています。そこで、セキュリティ対策が重要になってきます。ここでは、スマホのセキュリティ対策について解説します。個人情報やプライバシーの保護、オンラインの脅威から身を守る方法を学びましょう。

スマホのセキュリティ対策の必要性とは

まず、なぜスマホのセキュリティ対策が必要なのでしょう?
スマホは便利なツールですが、危険も存在します。

主に以下の3つのリスクが挙げられます。

スマホの紛失または盗まれるリスク

スマホや財布などの忘れ物の入った箱のイメージ

スマホには、持ち主やその知人の名前や住所、連絡先などの個人情報が保存されています。万が一スマホが盗まれたり、紛失したりした場合、その情報が悪意のある人の手に渡る可能性があります。そのことで、身に覚えのない買い物やプライバシーの侵害といった被害につながる可能性があります。

ウイルスが仕込まれるリスク

サイバー攻撃者などによって、ウイルスやスパイウェアといった悪意あるソフトウェア(マルウェア)が、あなたのスマホに仕込まれてしまった場合、個人情報を盗み取られたり、データを破壊されたりする可能性があります。

サイバー攻撃などによる個人情報漏洩リスク

個人情報が漏洩してしまって焦る様子の男性のイメージ

スマホを使用してネット上で買い物をする場合や、オンラインバンキングを利用する場合、サイバー攻撃によって個人情報や銀行口座の情報がハッカーによって盗まれてしまう可能性があります。

スマホには個人的な情報、例えば電話番号やメールアドレス、写真、そしてアプリのログイン情報などが保存されています。こうした情報が悪意ある人々に盗まれると、あなた自身や友人や家族を巻き込んだトラブルにつながる可能性があります。そのため、スマホのセキュリティ対策は必要です。では、情報漏洩などの被害から身を守るためには、何をすれば良いのでしょうか。

スマホに必要な8つのセキュリティ対策

1.スマホのパスワードおよびロックの設定を行う

指紋認証とスマホのイメージ

スマホのセキュリティを強化する最初のステップは、パスワードを設定することです。パスワードには、他人があなたのスマホにアクセスできないようにするために、強力なパスワードを選びましょう。また、他の人に知られないようにしましょう。それぞれのアカウントごとに違うパスワードを設定し、それらを定期的に更新することが推奨されます。パスワード管理アプリというものを利用すれば、複数のパスワードを安全に管理することが可能です。また、顔認証、指紋認証、パスコードやパターンなどのロックを設定して、自分以外の人がスマホを操作できないようにしましょう。

安全なパスワードとは、他人に推測されにくく、ツールなどの機械的な処理で割り出しにくいものを言います。安全なパスワードの作成条件としては、以下のようなものがあります。

(1) 名前などの個人情報からは推測できないこと

(2) 英単語などをそのまま使用していないこと

(3) アルファベットと数字が混在していること

(4) 適切な長さの文字列であること

(5) 類推しやすい並び方やその安易な組合せにしないこと

引用元:安全なパスワード管理(総務省)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/security/business/staff/01.html

2.不審なアプリやリンクに注意する

スマホには多くのアプリがありますが、安全であると信頼できないサイトやSMSなどからのアプリをダウンロードしないようにしましょう。公式のアプリストア(Google PlayやApp Store)からのみアプリをダウンロードすることをお勧めします。また、メッセージやメールで届いたリンクを開く前に、送信元が本当に信頼できるかどうかを確認しましょう。フィッシング詐欺(※)やマルウェアから身を守るために、注意深く行動しましょう。

フィッシングサイトのイメージ(偽サイトと釣り竿)

※フィッシング詐欺とは、悪意のある攻撃者が信頼性のある組織のふりをして個人情報を盗もうとする行為です。これは普通、メールやメッセージを通じて行われます。その内容は、あなたのパスワードをリセットするためのリンクであったり、重要な通知があるので見てほしいといった内容であったりします。こうしたリンクをクリックすると、あなたの情報が盗まれる危険性があります。また、見知らぬ番号からの電話にも警戒しましょう。特に、個人情報を求めるような場合には注意が必要です。

3.OSやアプリを定期的にアップデートする

スマホのOS(オペレーティングシステム)やアプリのアップデートは重要です。これらのアップデートは新機能の追加だけではなく、セキュリティの脆弱性を修正するためのものであることも多いため、新たな脅威から守るためにも、定期的に更新を実施することを推奨します。

4.Wi-Fiの安全性を確認する

公衆wifiを見つけた笑顔の男性のイメージ

公共のWi-Fiを利用するときには注意が必要です。公共の無料Wi-Fiは便利ですが、常に安全とは限らず、利用者の個人情報が漏洩してしまうなどの危険性があります。個人情報を送信するようなアプリやウェブサイトにアクセスする際には、自分のモバイルデータ通信を使用するか、パスワードが必要なプライベートネットワークを利用しましょう。また、公共のWi-Fiを使用する場合は、より安全なVPN(仮想プライベートネットワーク)を利用することも検討してください。

5.SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)でのプライバシー設定を行う

SNSは重要なコミュニケーション手段ですが、プライバシーの保護も必要です。以下のポイントに気をつけましょう。

SNSアカウントを乗っ取りされて青ざめる男性のイメージ

a. プライバシー設定の確認: プライバシー設定を確認し、プライバシーにかかわる個人情報を一般公開にせず、友達やフォロワーとの共有範囲を制限しましょう。個人情報や位置情報など、他人に知られては困る情報を公開しないようにしましょう。

b. 友達やフォロワーの選択: 友達やフォロワーを受け入れる際には、信頼できる人々に限定しましょう。知らない人や怪しいアカウントからのリクエストには注意し、受け入れないようにしましょう。

c. 投稿文の慎重な管理: 投稿には慎重になりましょう。個人情報や個人的な写真をむやみに公開しないようにし、誹謗中傷をしたり、プライベートな写真を投稿したりするのは控えましょう。一度公開した情報や写真は、後で取り消すことが難しいため、慎重な判断を行いましょう。

6.アプリの権限設定を確認する

スマホアプリのイメージ

スマホのアプリは、個人情報やデバイスへのアクセスを要求する場合があります。アプリをインストールする前に、そのアプリが何の情報にアクセスする必要があるのかを確認しましょう。例えば、料理のレシピアプリであるのに位置情報へのアクセスを要求してくるといった、必要のない権限を要求してくるアプリには注意し、不要な権限を持つアプリを削除しましょう。

7.バックアップをとる

あなたのスマホが盗まれたり、壊れたりして情報が突然失われてしまった場合でも、重要な情報を守るために、定期的にバックアップをとっておくことを推奨します。

8.アンチウィルスソフトの利用

アンチウイルスソフトを利用することで、ウイルスやスパイウェアといったマルウェアからスマホを守れます。

まとめ

スマホは便利なツールであり、私たちの日常生活では欠かせないものとなっています。だからこそ、個人情報などを狙う悪意を持った攻撃者のターゲットになる可能性があります。そのため、自分の身を守るためにも基本的なセキュリティ対策の方法を理解することが重要です。学生の皆さんは、以下のポイントを守りながらスマホのセキュリティを強化しましょう。

1. スマホのパスワードおよびロックの設定を行う
2. 不審なアプリやリンクに注意する
3. OSやアプリを定期的にアップデートする
4. Wi-Fiの安全性を確認する
5. SNSでのプライバシー設定を行う
6. アプリの権限設定を確認する
7. バックアップをとる
8. アンチウイルスソフトを利用する

これらの対策方法はあくまで例です。普段からセキュリティに注意し、安全に利用しましょう。また不安を感じたら身近な友人や保護者に相談することも大切です。本記事が、スマホを利用するすべての人々にとって、自分と自分の大切な人々を守り、より安全なスマホライフを送るために役立つ情報提供となれば幸いです。


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<インタビュー>上野 宣 氏 / ScanNetSecurity 編集長【後編】

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脆弱性診断に携わる傍ら、セキュリティ人材の育成や情報配信、提言活動の中心的な役割を果たされてきたScanNetSecurity編集長 上野宣氏に、昨今セキュリティ事情を率直に語っていただいたインタビュー。後編をお届けする。

(聞き手:田澤 千絵/BBSec SS本部 セキュリティ情報サービス部 部長)

前編→


実はそこにあるリスク

━━ネットワーク脆弱性診断の場合は、暗号化周りの脆弱性が割と多く検出されます。攻撃で実際に狙われる可能性はどのくらいでしょうか。

上野:脆弱性の中では比較的対応に余裕が持てるタイプと言えます。しかし、長い目で見ると、暗号アルゴリズムの問題によって解読されるとか、中間者(Man-in-the-Middle)攻撃をされるといった危険は否めません。リプレイス等のタイミングで、アルゴリズムの見直しや最新プロトコルへの対応をタスクに入れた方がいいです。

━━例えば金融系の企業ですと、PCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard:クレジットカード業界のセキュリティ基準)に準拠しなければなりませんが、一般的にはコンプライアンス面で準拠必須な規定がありません。

上野:強制力があるものはないですね。OWASPもASVS(Application Security Verification Standard:アプリケーションセキュリティ検証標準)を出してはいるのですが。

━━GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)も今はあまり話題に出ませんね。

上野:結局、国内でビジネスしている企業にはあまり関係ないとか、せいぜいサードパーティCookieの扱いに注意するくらいだということで。一時期より騒がれなくなりましたね。

━━日本で強制力がある法律と言ったら個人情報保護法くらいでしょうか。

上野:攻撃されたことに対して開発会社が訴えられたことがありましたね。2014年だと思いますが、開発会社がちゃんとセキュリティを担保しなかったという理由で負けて、損害賠償金を支払うことになった。

開発会社は、きちんとした倫理観を持って自分たちが良いと認めるものを納めることが必要です。自転車だったらちゃんと規格があるのに。国際団体がWebアプリケーションの品質保証みたいなものを決めてくれたらいいのですが。

━━Webアプリケーション開発を依頼する際、開発会社にセキュリティを担保してもらうにはどうしたらいいでしょう。

上野:お勧めは、私などが作ってOWASPのセキュリティ要件定義書ワーキンググループで出している 要件定義書です。

依頼側は、内容がわからなくてもいいから、これをそのまま持って行って、「これを作れますか」「これが大事だと言われたが、説明してもらえますか」という問いに対して話ができる開発会社を選ぶ。そうでない開発会社はやめたほうがいい。依頼企業がこのドキュメントを使ってくれるようになるといいなと僕は思いますね。

「これを守ると高くなりますよ」っていいように言われるんですけどね。「高くなる」って誰が言い始めたんですかね。セキュアに作るか、作らないかであって、高い部品が要るわけでもないのに。

━━対応できる技術者が高いんですかね。

上野:高くはなるでしょうね。でも、そこぐらいでしょ。安い人にお願いした結果ハリボテが出てきたら、それはユーザが騙されていることになる。

━━実際にセキュリティ要件に即した開発になっているかの見極めはどうしたらいいでしょう。

上野:受け入れテストで脆弱性診断を実施するといいでしょう。欠陥住宅の事件があった時、住宅を鑑定する資格を持った人がクローズアップされましたよね。部材が入っているか、接着剤がどうか等を専門的に見てくれる人。受け入れテストはそういった観点で重要なんじゃないかと。普通にアプリケーションを何回も見たって、機能がちゃんと動いているくらいしか確認できないですよね。キッチンにコンロが三つあります、火がつきますくらいしか分からないのと一緒です。だから、ちゃんとプロの目で見極める必要があると思います。

━━ネットワークの場合はいかがですか。特に、オンプレミスでネットワーク環境を構築する際に社内ネットワークの診断をやる企業は……

上野:社内LANのリソースに対して実施する企業は、ほぼ皆無だと思います。で、サポートが切れたWindowsサーバがまだ動いていたりします。「イントラネットだから別にいいですよね」とよく言われます。それが脅威だと思われていないのが脅威かなと思います。

リスクの算出方法として、「脅威の大きさそのもの」ばかりでなく、「発生する確率」という要素もあるため、例えば、同じ脅威でもインターネット上より、内部ネットワークの方が発生確率は低い、ということになります。しかし、もう一つ別の要素として、機密性や可用性との兼ね合いである「資産の価値」を考えてみます。例えば、インターネットにある僕個人のブログと社内LANにある機密情報入りのサーバを比べたら、今度は当然、後者が守られるべきとなるでしょう。掛け算していくと、最終的に逆転することがあるはずです。

━━当社もよくお客様に、「うちのWebサイトは個人情報扱ってないから診断は必要ない」と言われます。

上野:重要な情報があるか否かという判断軸になりがちですが、実は攻撃者が欲しいものとして、そのサーバ自体の信頼度がある。そこを踏み台にすると便利、という観点。私も侵入するときに踏み台をよく使います。乗っ取られた結果、次に乗っ取られる先、次に攻撃される先が出てきます。自分たちのオフィスの中に攻撃者を招き入れた結果、自分たちが加害者となって攻撃が行われる。それは駄目ですよね。

━━絶対に守らなければならないものと、リスクを多少許容してもかまわないものの切り分けができていないケースが多いように思います。

上野:リスクアセスメントが必要ですね。まず、何の資産があるかを知ることじゃないでしょうか。物理的、電子的、無形物、色々あると思う。何を守らなきゃいけないかをまず洗い出す必要がある。

━━業務におけるセキュリティというのはどうでしょう。棚卸をするにしても、セキュリティを考慮しながら業務する企業は実際には少ないと思っています。重要情報をそれと認識していなかったり。

上野:そこは、教育をしなきゃいけないと思います。上場企業だと全社員が受けるインサイダー情報のトレーニングがありますね。何を言っちゃいけなくて、何を漏らしちゃいけないのか。「これ重要だよね」という感覚は人によって全然違うので、それは企業が見解として示さなくてはいけない。

━━従業員のセキュリティ教育はどれぐらいの頻度で十分だと思いますか。

上野:最初は結構頻繁にやるべきだと思います。というのは、セキュリティにいちいち気をつけていたらしんどいので、企業の文化として根付くまで浸透させなくてはいけないからです。それ以降は、年に1度とか、追加教育を思い出したようにやるとか。人はどんどん忘れていきますので。

どうなるリモートワークセキュリティ元年

━━セキュリティは自然災害によっても変わりますし、流行り廃りもあります。今後1~2年はどういったことが予想されるでしょう。

上野:やはりリモートワーク絡みのセキュリティ問題が噴出するんじゃないでしょうか。自分のPCから漏れる、会社に侵入される、リモートワークのツールがフィッシングに悪用される、とか。今年は「リモートワークセキュリティ元年」かもしれないですね。

━━リモートワークセキュリティ元年!いいですね、それ。APTはどうでしょう。これからも減ることはないのではないかと。

上野:信用しやすくなるという観点だと、個人のPCに侵入する手口として、その人と仲良くなった後、オンラインミーティング系のツールだと偽ってインストールさせるのがますます増えるでしょうね。例えば相手に、「うちの会社、このツールじゃなきゃ駄目なんだよ。今日これから会議だから、すぐ入れてくれない?」って言われたら、絶対インストールするでしょ。しかもユーザは気づいてないかもしれない。僕もペネトレーションテストで使う手です。

━━あと、今まで注目されていなかったシステムや環境が注目されるとか。例えば、Zoomは爆発的にユーザが増えましたよね。脆弱性がこれまで一切出てこなかったツールで、今後はうじゃうじゃ出てくる、というような。

上野:今まで誰も調べていなかったのに、急に流行ったツールの宿命だと思います。Zoomはニュースにも取り上げられましたが、逆にすごくセキュリティに前向きな会社という印象を抱いてます。バグバウンティのプログラムも始めた。相当自信がないとできないことです。Zoomはこの3ヶ月~半年ですごくセキュアになると思います。

━━SNSはどうですか。システム自体というより、攻撃の入り口として利用されるとか。

上野:こんな中、LinkedIn等を利用して転職を考える人もいると思います。SNS経由でどこかを装って送られてくるっていうのは、非常に多そうですね。僕にもよく「パスワード漏れましたよ」って来ています。「あなたのSNSを半年前から見ています」というようなのです(笑)。

━━従業員がバラバラな場所で仕事をしている今、企業としてどのようなサポートをするのが、セキュリティの維持につながるでしょうか。

上野:リモートワークでも何でも、必要な環境を企業が提供することが大事です。ユーザ任せではいつか破綻します。特にPCと、中に入っているソフトも管理できる状態にするのが大切。自宅のルータやネットワークの問題は、そこまで大きな脅威ではない。やはりコンピュータ自体が安全であることが一番だと思います。繰り返しになりますが、リモートワークは今後増えることはあっても絶対なくならないので、従業員分の予算をちゃんと確保していただきたいです。

ーENDー 前編はこちら


上野 宣 氏
株式会社トライコーダ代表取締役
ペネトレーションテストやサイバーセキュリティトレーニングなどを提供。OWASP Japan 代表、情報処理安全確保支援士集合講習講師、一般社団法人セキュリティ・キャンプ協議会GM、ScanNetSecurtity編集長などを務め、人材育成および啓蒙に尽力。『Webセキュリティ担当者のための脆弱性診断スタートガイド ? 上野宣が教える情報漏えいを防ぐ技術』、『HTTPの教科書』ほか著書多数。

田澤 千絵
株式会社ブロードバンドセキュリティ(BBSec)
セキュリティサービス本部 セキュリティ情報サービス部 部長
黎明期といわれる頃から20年以上にわたり情報セキュリティに従事。
大手企業向けセキュリティポリシー策定、セキュリティコンサルを経て、現在は脆弱性診断結果のレポーティングにおける品質管理を統括。
メジャーなセキュリティスキャンツールやガイドライン、スタンダード、マニュアル等のローカライズ実績も多数。


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