AIはSIに変わったのか ―米国の呼称変更とASIの違いから考えるAIセキュリティ

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「AIがSIに変わった」――2026年9月、そんなニュースが注目を集めました。米国では、トランプ大統領が従来のArtificial Intelligence(AI)をSuper Intelligence(SI)と呼ぶ方針を示し、9月29日には連邦行政機関でSIの呼称を使用する大統領令が発令されました。一方、中国側の公式発表では引き続き「人工知能」と表記されています。ここで注意したいのは、米国政府が使う「SI」と、AI研究で語られてきた「ASI(Artificial Superintelligence)」は同じ意味ではないことです。言葉の変化と技術の進化を切り分けたうえで、企業がいま向き合うべきAIセキュリティ上の課題を考えます。

米国はAIからSIへ 中国側は「人工知能」と表記

発端は9月22日の国連総会でのトランプ米大統領の発言です。米ホワイトハウスが公開した演説の抜粋には、従来「Artificial Intelligence」と呼んでいた技術を今後「Super Intelligence」と呼ぶ趣旨が記されています。その後、9月25日のホワイトハウスの成果文書は、米中首脳が対象となる新興技術について「artificial intelligence」ではなく「super intelligence」を用いることで合意したと発表しました。米中SI対話を設け、リスクと便益について意見を交換し、関連事案の連絡経路も設けるとしています。次回の対話は同年11月までと記されています。

一方、中国外交部が翌日に公表した「八点成果共識」では、同じ対話と事案の連絡経路について「人工智能」と記載されています。また、呼称について問われた中国外交部の報道官は、米国側の立場を重視し、その呼称を尊重するとの見解を示しました。中国側の公式発表では引き続き「人工智能」が使われており、米中間で対話の枠組みが確認された一方、両国の公式文書で使用される呼称は異なっています。

さらに9月29日、トランプ大統領は大統領令「Inaugurating the Era of Super Intelligence」に署名しました。大統領令では、連邦行政機関が公式文書やWebサイト、報告書などで「Artificial Intelligence(AI)」に代えて「Super Intelligence(SI)」を使用する方針が示されています。ただし、この大統領令におけるSIは、当面、米国法ですでに定義されているAIが包含する技術やシステムを指すとされています。つまり、米国政府がAIからSIへ呼称を変更したことと、技術的に「超知能」が実現したことは分けて考える必要があります。

SIとASIは同じ超知能を意味するのか

混乱を招くのは、Super Intelligenceという表現が、AI研究で長く論じられてきたsuperintelligence(超知能)を連想させる点です。哲学者ニック・ボストロムは、科学的創造性や社会的能力を含む、実質的にあらゆる領域で最も優れた人間の知能を大きく上回る知性として定義しました。人工的な超知能を表す際にはASI(Artificial Superintelligence)という略語も使われます。

9月29日の大統領令では、当面のSIについて、既存法で定義されているAIが包含する技術・システムを指すと明記されています。特定のモデルがASIに到達したという性能評価や技術上の達成を発表したものではありません。また、AGI(汎用人工知能)も別の概念です。例えばOpenAIは、多くの経済的価値のある仕事で人間を上回る高度に自律的なシステムと定義していますが、AGIの定義が一つに統一されているわけではありません。

表記指すもの今回のニュースとの関係
AIArtificial Intelligence(人工知能)の総称中国側の公式文書では「人工知能」と表記。既存の技術資料などでも広く使用されている
SI米政権がAIに代えて使用するSuper Intelligenceの呼称米国ではAIに代わる呼称として採用。ASIへの技術的な到達を意味するものではない
AGIArtificial General Intelligence(汎用人工知能)の概念今回のSIへの呼称変更がAGIの実現を示すわけではない
ASIArtificial Superintelligence(人工超知能)の概念人間の知能を大きく上回る知性を指す文脈で使われる。今回の米国政府によるSIの呼称とは同一視できない

名前が変わっても企業のAIセキュリティ課題は変わらない

「超知能」という言葉に目を奪われがちですが、企業がまず確認すべきなのは、現在導入している生成AIやAIエージェントが、どの情報を読み、どのシステムを操作できるかです。外部のWebページや文書を読み込むAIには、そこに紛れ込んだ不正な指示で本来の動作を変えられるプロンプトインジェクションのリスクがあります。OWASPは、外部コンテンツによる間接的な攻撃や、権限を与えすぎたエージェントによる意図しない操作を具体的なリスクとして挙げています。たとえば社内文書を検索して回答する仕組みと、メール送信や顧客データ更新まで実行できる仕組みでは、同じ不正な指示を読み込んでも影響が異なります。利用目的に合わせてアクセス権を最小限にし、重要な操作には人の承認を挟み、ツールの実行履歴を確認できるようにすることが重要です。こうした対策は、AIを何と呼ぶかによって変わりません。

米中間で設けるとされた事案の連絡経路も、企業の個別の事故対応手順を代替するものではありません。自社では、利用するAIサービス、投入するデータ、外部連携、権限、異常時の停止・連絡先を整理しておく必要があります。NISTの生成AI向けリスク管理資料も、設計から利用・評価まで組織的にリスクを扱うための枠組みを示しています。

AI利用のルールと技術面を一緒に見直す

今回の一連の発表では、米国側がSIという呼称を採用するとともに、米中間でAIのリスクと便益について協議する枠組みが示されました。一方、こうした呼称や政策上の動きとは別に、企業では現在利用しているAIの状況を把握し、入力情報の扱い、権限設定、人による確認、インシデント発生時の対応などを継続的に見直すことが求められます。

BBSecは、AIサービスの提供者・利用者を対象としたセキュリティガイドラインの整備支援など、AI利用におけるセキュリティ対策を支援しています。自社のAI利用ルールやシステム上の対策について、見直し方や進め方にお困りの場合は、お気軽にご相談ください。


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編集責任:木下

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