クレジットカード情報漏洩に備える ―非保持化・PCI DSS準拠でも漏洩が起きる理由とは―

Share
クレジットカード情報漏洩に備える ―非保持化・PCI DSS準拠でも漏洩が起きる理由とは―アイキャッチ画像

クレジットカード情報漏洩は、ECサイト加盟店だけの問題ではありません。非保持化やPCI DSS準拠を実施していても、Webサイトの脆弱性や設定不備を起点に漏洩が発生するケースは少なくありません。本記事では、実際の漏洩事例や発生後に直面する課題を踏まえながら、情報漏洩に備えるために押さえておきたいポイントを解説します。

なぜクレジットカード情報漏洩が起きるのか

クレジットカード情報漏洩は、ECサイト加盟店だけの問題として発生するわけではありません。ECサイトの決済は、ECサイト加盟店、決済代行事業者(PSP:Payment Service Provider)、アクワイアラ、国際ブランドなど、複数の事業者が連携して成り立っています。そのため、サイバー攻撃者に狙われる対象は、カード情報を直接保有するシステムだけに限られません。

実際には、ECサイト加盟店のECサイトや管理画面、CMS、外部委託先、決済画面へ遷移する前後の処理など、周辺のどこかにWebアプリケーションの脆弱性や設定不備が存在するだけで、カード情報の窃取につながる可能性があります。カード情報を自社で保持していない場合でも、サイト改竄や悪意あるコードの挿入によって、利用者が入力した情報が攻撃者へ送信されてしまうケースがあります。弊社のPFI調査資料でも、カード情報を自社保有していない企業からの漏洩に関する相談が多く発生していることが示されています。

ECサイトでは外部サービス連携、プラグイン更新、機能追加などが継続的に発生します。そのため、一度安全な構成を整備したとしても、それだけで安全性が維持されるわけではありません。日々の運用の中で新たに生まれた脆弱性が、攻撃の端緒となる場合があります。特に、Webアプリケーションの脆弱性や管理画面の設定不備は、PFI調査において主要な漏洩の原因として挙げられています。決済は複数の事業者が関与する仕組みであるため、そのサプライチェーンの一箇所で発生したサイバー攻撃が、ECサイト加盟店の業務停止、PSPへの問い合わせ対応、アクワイアラや国際ブランドへの報告対応へと波及する可能性があります。クレジットカードの情報漏洩は、単なる技術的な事故ではなく、決済サプライチェーン全体へ影響を及ぼすインシデントとして捉える必要があります。

実際に発生している情報漏洩事例

公表資料や業界資料を見ると、漏洩のきっかけは一様ではありません。ECサイトの改竄、不正ファイルの設置、偽の決済画面への誘導、委託先や関連システムの不備など、さまざまな経路からカード情報の窃取につながっています。経済産業省の資料でも、ECサイト加盟店、ECシステム提供事業者、PSP、消費者を狙ったフィッシング被害など、複数の漏洩事案の類型が整理されています。たとえば、ECサイト加盟店のECサイトに存在する脆弱性を突かれ、サイトが改竄されるケースがあります。この場合、カード情報を保持していなくても、不正ファイルの設置や偽の決済画面への誘導により、利用者が入力したカード番号等が攻撃者へ送信される可能性があります。また、委託先業者によるサイト更新時の設定不備を起点に、不正アクセスや情報漏洩につながるケースもあります。さらに、決済関連システム側の脆弱なアプリケーションへ不正アクセスされる事例も挙げられています。

PSPで情報漏洩が発生すると、利用者、ECサイト加盟店、クレジットカード会社など、多くの関係者を巻き込む被害につながるおそれがあります。これらの事例は、クレジットカード情報漏洩が単一のセキュリティ製品だけで防げる問題ではなく、開発、運用、委託管理、監視のすべてが関係する問題であることを示しています。また、近年は発覚経緯にも変化が見られます。2024年のカード情報流出事件では、警察の指摘により発覚した事案が35.1%を占めたとの分析もあります。また、2024年のクレジットカード不正利用被害額は555億円とされ、その9割超がECサイトでの番号盗用によるものとされています*1

これらの事例から分かるのは、クレジットカード情報漏洩が例外的な事故ではなく、現実的にはEC決済の現場で継続的に発生する身近なリスクだということです。PSPにとっても、漏洩元が自社であるか否かにかかわらず、問い合わせ、調査協力、ECサイト加盟店支援、関係者への説明といった対応が発生し得る点を踏まえる必要があります。

なぜ対策していても防げないのか

クレジットカードの情報漏洩対策として、「カード情報を保持しない非保持化」や「PCI DSS準拠」といった取り組みは非常に重要です。しかし、これらはリスクを低減するための対策であり、残念ながら漏洩を完全に防ぐことを保証してくれるものではありません。たとえば、カード情報の非保持化を行っている場合でも、ECサイトが改竄され、偽の入力フォームや悪意あるスクリプトが設置されてしまえば、利用者が入力したカード情報が攻撃者へと送信される可能性があります。つまり、カード情報を「保管していない」ことと、「情報入力時に窃取されない」ことは別の問題なのです。ECサイト全体の安全性まで担保されるわけではありません。PCI DSSについても同様です。PCI DSSに準拠していること自体が将来の侵害を否定してくれるものではありません。実際のインシデントでは、Webアプリケーションの脆弱性、管理画面の設定不備、委託管理先の不備、脆弱なパスワード設定など、複数の問題が重なって発生するケースが見られます。弊社のPFI調査資料でも、アプリケーションの脆弱性や管理画面の設定不備が主要な漏洩原因として挙げられています。

重要なのは、「非保持化しているから安全」、「PCI DSSに準拠しているから安全」と受け止めるのではなく、それぞれの対策が守れる範囲と限界を理解することです。クレジットカード情報漏洩は、技術、運用、管理といった複数の要因が重なって発生するため、防御だけではなく、継続的な監視や発生時の対応体制まで含めて備える必要があります。

インシデント発生後の現実

クレジットカード情報漏洩が疑われる事態に直面すると、現場では短時間で多くの判断が求められます。特に、次のような課題が発生する可能性があります。

  • 初動対応の遅れ
    被害拡大を防ぐため、ECサイトの停止、クレジットカード決済の一時停止、不正ファイルの確認、関係者への連絡などを並行して進める必要があります。対応が遅れた場合、新たな被害につながるおそれがあります。
  • ログ不足
    原因や影響範囲を調査しようとしても、必要なログが保存されていない、保存期間が短い、委託先から提供されないといった状況では、調査が難航します。ログの保全・管理体制が不十分であることが課題となるケースも少なくありません。
  • 調査・報告対応
    インシデント対応では、被害拡大を防ぐための封じ込めも重要です。さらに、個人情報保護委員会への報告や本人通知、公表対応など、時間的制約のある対外対応も並行して進めなければなりません。
  • 業務・信用への影響
    決済停止やECサイト停止は、売上の減少、顧客対応、問い合わせ対応の発生に直結します。実際に、クレジットカード決済の停止が長期化した事例や、決済再開までの期間、クレジットカード決済以外でECサイトを継続できるかといった相談も挙げられています。決済再開に向けた調整や関係者との連携も必要となり、事業運営や信用面にも大きな影響を及ぼす可能性があります。

PSPはどこまで責任を負うのか?

クレジットカード情報漏洩のインシデントでは、実際に情報漏洩が発生したECサイト加盟店やシステム事業者だけでなく、決済に関わる複数の事業者が対応を求められる場合があります。特にPSPはインシデント発生時に一定の関与が発生する可能性があります。たとえば、ECサイト加盟店からの問い合わせ対応、決済停止や再開に関する調整、関係各所への情報共有、調査協力などが挙げられます。また、利用者への影響範囲や決済への影響を整理する中で、PSPが保有するログや取引情報の確認が必要になるケースもあります。

もちろん、すべてのケースでPSPが法的責任を負うとは限りません。しかし実際には、「どのシステムで何が起きたのか」、「どこまで影響が及んでいるのか」を整理する過程で、決済のハブとしての対応が求められる場面があります。関係者間で認識や説明内容に差異が生じれば、公表内容や顧客説明にも影響する可能性があります。また、インシデント発生時には、技術的な問題だけでなく、ECサイト加盟店や委託先との調整、問い合わせ対応、事実確認など、実務面での負荷も大きくなります。そのためPSPにとっても、インシデント対応は「加盟店側の問題」と安易に切り離して考えられるものではありません。重要なのは、インシデント発生後に責任範囲を議論することだけではなく、平時から、どのような連携体制で対応するのか、どの情報を誰が保有しているのか、どのように調査や報告を進めるのかを十分に整理しておくことです。

インシデント対応で求められるフォレンジック調査

クレジットカード情報漏洩が疑われる場合、適切な封じ込めや再発防止につなげるためにも、何が起きたのかを客観的に把握することが重要です。そのため、フォレンジック調査では次のような対応を行います。

  • 原因の特定
    ECサイトの改竄、不正ファイルの設置、管理画面からの侵入など、どのような経路で侵害が発生したのかを調査し、事実関係を整理します。
  • 被害範囲の把握
    どの期間に、どの画面やシステムが影響を受け、どの情報が漏洩した可能性があるのかを確認します。影響範囲を把握することで、関係者への説明、外部報告、顧客対応、決済再開の判断をしやすくなります。
  • 侵入経路や影響の分析
    ログ、ファイル、通信履歴、システム構成などを調査し、侵入経路や改竄内容、攻撃の時系列、影響範囲を明らかにします。
  • 報告・説明対応の支援
    クレジットカード情報漏洩が疑われる場合には、アクワイアラや国際ブランド等への報告対応が求められることがあります。第三者による調査結果は、事実確認や説明責任を果たすうえで重要な根拠となります。
  • 再発防止にむけた基盤づくり
    フォレンジック調査は単なる原因調査ではなく、被害拡大防止、再発防止、関係者への説明を支えるための重要なプロセスです。ログ、ファイル、通信、システム構成などを確認し、侵入経路や改竄内容、攻撃の時系列、影響範囲を明らかにしていきます。何が分かり、何が分からないのかを整理することで、その後の対応につなげることができます。特にクレジットカード情報漏洩が疑われる場合には、アクワイアラや国際ブランド等への報告対応も想定されるため、第三者による調査結果が重要になる場面があります。

初動対応を左右する平時の備え

クレジットカード情報漏洩のインシデントでは、発生後の初動対応がその後の調査、報告、復旧に大きく影響します。どのシステムを確認するのか、どのログを保全するのか、誰に連絡するのかが整理されていなければ、対応開始までに時間を要してしまいます。結果として、被害範囲の特定や関係者への説明も遅れる可能性があります。そのため重要になるのが、「平時からの備え」です。具体的には、システム構成や委託先の把握、ログの保存場所や保全方針の確認、関係者の連絡先や判断権限の整理、初動対応手順の整備、外部専門家との連携体制の確保などが挙げられます。さらに、NDAや基本契約を事前に整えておけば、インシデント発生後に契約条件や情報共有範囲を調整する時間を減らし、調査や封じ込めに着手しやすくなります。これらを事前に確認しておくことで、発生時に「何から手を付けるか」と迷う時間を減らすことができます。

平時の備えは技術部門だけの課題ではありません。法務、広報、顧客対応、経営層、委託先を含めた体制整備が必要です。インシデント発生時には、技術調査と並行して、報告、通知、公表、問い合わせ対応が進むためです。クレジットカード情報漏洩対策では、防御策を強化することはもちろん重要です。しかし、それだけでは十分とはいえません。万一に発生した場合は、速やかに封じ込め、調査し、説明できる状態を作っておくことが重要です。

有事に備えた準備はできていますか?

クレジットカード情報漏えいが発生した場合、初動対応、原因調査、被害範囲の特定、関係各所への報告など、多くの対応を短期間で進める必要があります。BBSecでは、PCI SSC認定のPFIとして、クレジットカード情報漏えいフォレンジック調査を提供しています。万が一の際に迅速な対応を行うためにも、平時からの備えをご検討ください。
クレジットカード情報漏えいフォレンジック調査サービスはこちら

まとめ

クレジットカード情報漏洩は、ECサイト加盟店だけの問題ではなく、PSPを含む決済サプライチェーン全体に影響を及ぼすインシデントです。情報の非保持化やPCI DSS準拠といった対策は重要ですが、それだけでリスクを完全に防ぐことはできません。だからこそ、防御策に加え、発生時の初動対応、調査、関係者連携まで含めて、平時から備えておくことが重要です。


「非保持化しているから安心」とは言い切れない時代へ
情報漏洩インシデントは、Webアプリケーションの脆弱性や設定不備、運用上の課題など、複数の要因が重なって発生します。PCI DSS v4.0では、継続的な脆弱性管理やペネトレーションテストなど、従来以上に運用・監視を重視した対応が求められています。情報漏洩リスクに備えるために、PCI DSS v4.0で押さえておきたいポイントをウェビナーで詳しく解説しています。
【関連ウェビナー】「今さら聞けない!PCI DSS v4.0で求められる脆弱性診断
詳細・お申し込みはこちら


無料PDF|SQAT® Security Report 2026春夏号

サービスに関する疑問や質問はこちら


Security Serviceへのリンクバナー画像
BBSecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
セキュリティ緊急対応のバナー画像
BBSecホワイトペーパー「企業のセキュリティ成熟度チェックリスト」資料ダウンロードボタン

編集責任:木下

Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

2026年1Q KEVカタログ掲載CVEの統計と分析

Share
2026年1Q KEVカタログ掲載CVEの統計と分析

米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)から公開されている「KEVカタログ(Known Exploited Vulnerabilities)」は、実際に攻撃に悪用された脆弱性の権威あるリストとして、組織のセキュリティ対策の優先順位付けに不可欠なツールとなっています。本記事では、KEVカタログに2026年1月1日~3月31日に登録・公開された脆弱性の傾向を整理・分析します。

本記事は2025年1Q:第1四半期~4Q:第4四半期の分析レポートに続く記事となります。過去記事もぜひあわせてご覧ください。
2025年1Q KEVカタログ掲載CVEの統計と分析

はじめに

2025年4Qを対象とした前回記事 では、KEVカタログへ追加された62件のCVEを分析し、「実際に悪用された脆弱性」をどのように運用へ落とし込むべきかを整理しました。本稿はその続編として、2026年1月〜3月にKEVへ追加された71件を主対象に分析します。さらに、4月中旬までに追加された11件については速報として別枠で扱います。

2026年1Qの統計データ概要

2026年1Qに新規登録された脆弱性は以下の通りです。

件数
1月17
2月28
3月26

2026年1QにKEVへ追加された件数は71件でした。前回4Qの62件から増加しています。2〜3月にかけて増加傾向がみられ、2025年4Qでみられた「10月集中型」とは異なる波形を示しています。前回のような単月集中型ではなく、継続的に悪用済み脆弱性が追加された四半期だったと言えます。

主要ベンダー別の内訳

ベンダー件数
Microsoft12
Apple7
Cisco4
Synacor3
SolarWinds3
Google3
SmarterTools3

ベンダー別では、Microsoftが継続して最多となった一方、Apple関連脆弱性が大きく増加した点が今期の特徴です。また、SmarterMailやSolarWinds Web Help Deskなど、管理系・運用系製品の継続的な掲載も目立ちました。これは、攻撃者が単なるユーザー端末だけでなく、「管理面」や「運用基盤」そのものを重点的に狙っていることを示しています。

脆弱性タイプ(CWE)の分布

CWE件数
CWE-94(コードインジェクション)7
CWE-502(不適切なデータ逆シリアル化)5
CWE-78(OSコマンドインジェクション)4
CWE-288(認証回避)4
CWE-918(サーバサイドリクエストフォージェリ(SSRF))4

今期は特に、「認証境界を越えて管理権限を奪う」タイプの脆弱性が増加しています。特にCWE-94やCWE-502は、外部公開された管理系製品と組み合わさることで、一気に侵害の起点になり得ます。

攻撃の自動化容易性(Automatable)

自動化攻撃が容易である「Yes」と分類された脆弱性は30件となっていました。つまり、多くの脆弱性が「自動化された攻撃」に利用されやすい状況にあると言えます。攻撃者側のスキャン・悪用速度が上がっている現在、公開管理面を持つ資産では特に短期間で侵害へ至るリスクがあります。

技術的影響範囲(Technical Impact)

「Total」(=脆弱性を突かれるとシステムを完全制御されてしまう深刻な影響を持つもの) が62件、partialは9件であり、大部分が侵害後に広範な影響を与えるタイプでした。

CVSSスコア分布

区分件数
Critical30
High34
Medium7

CVSS帯では、9.0以上の「Critical(緊急)」帯が30件、7.0~8.9の「High(高)」帯が34件と、高危険度が大半を占めました。

CISAはKEVカタログを、「実際に悪用された脆弱性の権威ある一覧」と位置づけています。つまり、KEVに掲載された時点で、すでに攻撃者による実利用が確認されているということです。そのため、CVSSだけではなく、インターネット露出、ランサムウェア悪用確認、対応期限(dueDate)、自動化容易性(Automatable)などを踏まえた実務的な優先度付けが求められます。

CVSSスコアの基本的な考え方と、企業の脆弱性対応判断にどう活かすべきか、以下の記事で整理しています。ぜひこちらもあわせてご覧ください。
CVSSスコアの正しい使い方 ―脆弱性対応の判断にどう活かすべきか―

実際にランサムウェア攻撃に悪用された脆弱性

実際にランサムウェアに悪用されたと判明しているのは前回3件から今回4件と増加しており、「公開後すぐに武器化される」傾向がさらに強まっています。

前回四半期との比較

指標2025年4Q2026年1Q
KEV追加件数6271
Critical2430
ランサムウェア悪用確認34
2024年以前のCVE継続多数17

単純な件数増だけでなく、「古い脆弱性が今も悪用され続けている」ことが重要です。2024年以前のCVEが17件含まれており、未更新資産やレガシー運用が依然として攻撃対象であり続けている現実が見えてきます。

また、2025年4Qではメモリ破壊や権限管理不備が目立ったのに対し、2026年1Qでは境界突破型の脆弱性が増加しています。これは、攻撃者が単純な破壊活動やDoS攻撃ではなく、「運用基盤そのものを掌握する」方向へ重点を移していることを示唆しています。

注目の個別脆弱性ケーススタディ

Cisco ― CVE-2026-20131

CiscoのCVE-2026-20131は、今期を象徴する脆弱性の一つです。無認証・ネットワーク経由・root権限でのリモートコード実行が可能であり、ランサムウェア悪用も確認されました。さらに、KEV追加から対応期限までが極めて短く、緊急対応が必要なケースでした。*2

この事例が示しているのは、「インターネット公開された管理面は、最優先で閉じるべき」という点です。VPN、ファイアウォール、管理コンソールなどの境界機器は、一度侵害されると内部ネットワーク全体への踏み台になります。

BeyondTrust ― CVE-2026-1731

BeyondTrustのCVE-2026-1731は、特権アクセス管理やRemote Support(遠隔サポート)基盤が侵害された場合の危険性を示した事例です。セルフホストかつインターネット向けな構成では、侵害後に横展開が容易になり、被害範囲が急速に拡大します。*2

特に、管理者権限を扱う製品は「通常業務システムより優先して守るべき対象」です。業務停止だけでなく、認証情報窃取や内部侵入の起点になる可能性が高いためです。

SmarterMail

SmarterMail関連では、複数のCVEが短期間で継続的に追加されました。重要なのは、「一度アップデートしたから安全」という状況ではなかった点です。複数ビルドに対して連続的にcritical fixが提供されており、更新追随そのものが運用課題になっていました。

実際にSmarterTools自身も、未更新VMが侵害起点だったことを認めています。*3これは、「資産を把握していても、更新追随に失敗すると侵害される」という教訓を示しています。

Trivy

Trivyのケースは、開発者やSRE (Site Reliability Engineering)にとって重要です。この事例では、GitHub Actionsタグ改ざんやsetup-trivy置換を通じて、供給網経由の侵害が発生しました*4。つまり、防御ツールそのものが攻撃経路へ変化したということです。

このケースは、「脆弱性管理はOSやミドルウェアだけでは終わらない」ことを示しています。GitHub ActionsのSHA pinning、SBOM管理、シークレットローテーションなど、CI/CD全体の完全性確認が重要になります。

影響評価とリスク優先度付け

KEV対応では、「CVSSが高いから即P1」といった単純な判断は適切ではありません。実務では、実際に自社資産が存在するか、インターネットへ公開されているか、ランサムウェア悪用が確認されているか、対応期限が短いか、といった条件を重ねて優先度を決める必要があります。今回の記事では、実務運用を想定して、以下の4段階で整理します。

優先度条件対応目安
P1(変更管理より封じ込めを優先するレベル)インターネット公開 / ランサムウェア悪用確認 / 対応期限≤3日即日〜72時間
P2(週内対応を前提)自動化攻撃が容易 / 技術的影響範囲(Technical Impact)「Total」1週間以内
P3(計画停止枠)露出限定・代替統制あり対応期限まで
P4(継続監視対象)未利用・廃止済み継続監視

KEV対応では、CVSSスコアだけでなく、実際の悪用状況やインターネット露出、業務影響を踏まえた優先順位付けが重要になります。こうした「何を先に直すべきか」を判断する考え方については、SSVCを用いた脆弱性管理と優先順位付けの解説記事でも詳しく紹介しています。
脆弱性診断は受けたけれど ― SSVCで考える「脆弱性管理」と優先順位付け

まとめ

2026年1QのKEV分析では、「件数増加」そのものよりも、「どの資産が継続的に狙われているか」が明確になりました。特に、境界機器、管理基盤、メール基盤、CI/CDといった“運用の中枢”が攻撃対象になっています。共通しているのは、「攻撃者は管理面を狙う」という点です。

KEVは、もはや単なる高CVSS一覧ではありません。「実際に悪用された脆弱性を、限られた時間でどう優先対応するか」を判断するための、実務上の最重要リストになっています。

【参考情報】


BBSecでは

アタックサーフェス調査サービス

インターネット上で「攻撃者にとって対象組織はどう見えているか」調査・報告するサービスです。攻撃者と同じ観点に立ち、企業ドメイン情報をはじめとする、公開情報(OSINT)を利用して攻撃可能なポイントの有無を、弊社セキュリティエンジニアが調査いたします。


サイバーインシデント緊急対応

セキュリティインシデントの再発防止や体制強化を確実に行うには、専門家の支援を受けることも有効です。BBSecでは緊急対応支援サービスをご提供しています。突然の大規模攻撃や情報漏洩の懸念等、緊急事態もしくはその可能性が発生した場合は、BBSecにご相談ください。セキュリティのスペシャリストが、御社システムの状況把握、防御、そして事後対策をトータルにサポートさせていただきます。

サイバーセキュリティ緊急対応電話受付ボタン
SQAT緊急対応バナー

ウェビナー開催のお知らせ

  • 2026年5月20日(水)14:00~15:30【BBSec/Future/ハンモック共催】「脆弱性管理の最適解 ― ASM・IT資産管理・脆弱性管理を分けて考え、統合するという選択
  • 2026年5月27日(水)14:00~15:00「~取引先から求められる前に押さえる~ SCS評価制度への対応準備と現実的な進め方
  • 2026年6月3日(水)14:00~15:00「金融機関の対応事例に学ぶPQC移行の進め方と実務ポイント
  • 最新情報はこちら

    Security NEWS TOPに戻る
    バックナンバー TOPに戻る


    資料ダウンロードボタン
    年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
    お問い合わせボタン
    サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

    Security Serviceへのリンクバナー画像
    BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
    セキュリティ緊急対応のバナー画像

    今すぐ対応を!Citrix Bleed2(CVE-2025-5777)の脆弱性情報まとめ

    Share

    Security NEWS TOPに戻る
    バックナンバー TOPに戻る

    米サイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁(以下CISA)は2025年7月10日、Known Exploited Vulnerability(KEV)カタログ*5(悪用が確認された脆弱性のカタログ)にCitrix NetScaler ADCおよびNetScaler Gatewayの脆弱性であるCVE-2025-5777を追加、更新しました。本脆弱性は本年6月17日に公開されたメモリ境界外読み取りの脆弱性となり、Webセッションのトークンの奪取が可能となる脆弱性となります。

    2026年3月、CitrixBleed 3(CVE-2026-3055)の脆弱性が新たに公開されました。こちらの脆弱性については以下の記事でご紹介しています。
    CitrixBleed 3(CVE-2026-3055)の脆弱性:NetScaler ADC / Gatewayの影響・リスク・対策

    NetScaler ADC/NetScaler Gatewayの脆弱性

    NetScaler ADCはアプリケーションベースでの配信パフォーマンスの最適化やWAFの役割を果たすアプライアンスです。NetScaler Gatewayは社内および社内で使用しているSaaSなどへの単一のゲートウェイとして機能し、シングルサインオン(SSO)などの機能を持つものとなっています。いずれもDMZ上に存在することから外部からのアクセスが可能なアセットの代表格であり、過去にも脆弱性が悪用されてきたものとなります。このため特に悪用への対応が急がれるアセットといえます。

    CVE-2025-5777の対象バージョン

    CVE-2025-5777の対象となるバージョンは以下の通りです。いずれも更新バージョンへのアップデートが推奨されています。いずれも更新バージョンへのアップデートが推奨されています。

    製品バージョン対象のビルド
    NetScaler ADCおよびNetScaler Gateway14.114.1-43.56未満
    13.113.1.58.32未満
    NetScaler ADC13.1-FIPSおよびNDcPP13.1-37.235未満
    NetScaler ADC12.1-FIPS12.1-55.328未満

    詳細については以下をご確認ください。

    https://support.citrix.com/support-home/kbsearch/article?articleNumber=CTX693420

    CVE-2025-6543の対象バージョン

    なお、CVE-2025-5777の後に公開された、同じくKEVカタログに掲載されている脆弱性CVE-2025-6543の対象バージョンは以下の通りです。こちらも併せて対応されることをおすすめします。

    製品バージョン対象のビルド
    NetScaler ADCおよびNetScaler Gateway14.114.1-47.46未満
    13.113.1.58.32未満
    NetScaler ADC13.1-FIPSおよびNDcPP13.1-37.236未満

    詳細については以下をご確認ください。

    https://support.citrix.com/support-home/kbsearch/article?articleNumber=CTX694788
    ※CVE-2025-6543はNetScaler ADC 12.1-FIPSの対象外となっています。
    ※NetScaler ADCおよびNetScaler Gatewayの12.1と13.0はEOL(End of Life、サポート終了)となっており、アプライアンスをサポートされたバージョンにアップグレードすることが推奨されています。

    なお、NetScalerを14.1 47.46または13.1 59.19にアップグレードした際に認証関連で問題が発生する可能性があることが公開されています。以下のナレッジベースの記事を参考までに掲載します。このほかにも冗長構成でのアップデートについては注意が必要となります。詳しくはご購入された販売代理店のサポート窓口やCitrixまでご相談ください。

    https://support.citrix.com/support-home/kbsearch/article?articleNumber=CTX694826

    SQAT.jpではKEV Catalogについて以下の記事でも取り上げています。ぜひあわせてご参照ください。
    2024年のサイバーセキュリティ振り返り-KEVカタログが示す脆弱性の実態- | SQAT®.jp
    2025年Q1のKEVカタログ掲載CVEの統計と分析 | SQAT®.jp

    CVE-2025-5777(Citrix Bleed2)の脆弱性の概要とリスク

    • リモートから認証なしで悪用可能
    • 2023年に公開され、のちに悪用が確認された同様の脆弱性・Citrix Bleed(CVE-2023-4966)と同様にメモリ境界外読み取りの脆弱性であり、Citrix Bleed2と名付けられている
    • 複数のセキュリティ企業から脆弱性公開後、脆弱性の再現などを含む分析や侵害に関する情報が公開されている
      ただしCitrixは公に侵害事例や攻撃兆候について認めていない(日本時間2025年7月11日正午時点)

    脆弱性公開からKEVカタログ掲載までの時系列まとめ

    日付経緯
    2025年6月17日CitrixによるCVE-2025-5777の公開
    2025年6月20日Reliaquestによる侵害事例の公開
    2025年6月24日セキュリティ研究者によるCVE-2023-4966との類似性の指摘を含む注意喚起
    2025年6月25日CitrixによるCVE-2025-6543とCVE-2025-6543の悪用兆候の公開
    2025年6月26日CitrixによるCVE-2023-4966との類似性の指摘の否定・CVE-2025-5777の悪用の否定
    2025年7月4日Watchtowrによる再現と原因分析、注意喚起を含む情報の公開
    2025年7月7日Horizon3.aiによる、同時に修正・公開された脆弱性を含む分析、注意喚起を含む情報の公開
    2025年7月9日Health-ISACが公開PoCの存在を根拠とする脅威情報の注意喚起を公開
    2025年7月10日CISAがKEVカタログにCVE-2025-5777を追加

    【参考情報】

    Citrixからの情報

  • CVE-2025-5777関連:https://support.citrix.com/support-home/kbsearch/article?articleNumber=CTX693420
  • CVE-2025-6543関連:https://support.citrix.com/support-home/kbsearch/article?articleNumber=CTX694788
  • アップデート時の認証関連の問題:https://support.citrix.com/support-home/kbsearch/article?articleNumber=CTX694826
  • ブログ

  • https://www.netscaler.com/blog/news/critical-security-updates-for-netscaler-netscaler-gateway-and-netscaler-console/
  • https://www.netscaler.com/blog/news/critical-severity-update-announced-for-netscaler-gateway-and-netscaler/
  • https://www.netscaler.com/blog/news/netscaler-critical-security-updates-for-cve-2025-6543-and-cve-2025-5777/
  • セキュリティ各社・研究者による分析および侵害事例報告

  • https://reliaquest.com/blog/threat-spotlight-citrix-bleed-2-vulnerability-in-netscaler-adc-gateway-devices/
  • https://doublepulsar.com/citrixbleed-2-electric-boogaloo-cve-2025-5777-c7f5e349d206
  • https://labs.watchtowr.com/how-much-more-must-we-bleed-citrix-netscaler-memory-disclosure-citrixbleed-2-cve-2025-5777/
  • https://horizon3.ai/attack-research/attack-blogs/cve-2025-5777-citrixbleed-2-write-up-maybe/
  • Health-ISACの注意喚起(American Hospital Associationから配信されたもの)

  • https://www.aha.org/system/files/media/file/2025/07/h-isac-tlp-white-threat-bulletin-poc-exploits-available-for-citrix-netscaler-adc-and-netscaler-gateway-flaw-cve-2025-5777-7-9-2025.pdf
  • BBSecでは

    当社では様々なご支援が可能です。お客様のご状況に合わせて最適なご提案をいたします。

    アタックサーフェス調査バナー
    ペネトレーションテストバナー

    公開日:2025年7月14日
    更新日:2026年4月22日

    編集責任:木下

    Security NEWS TOPに戻る
    バックナンバー TOPに戻る

    ウェビナー開催のお知らせ

  • 2026年5月13日(水)13:00~14:00【好評アンコール配信】
    攻撃は本当に成立するのか?ペネトレーションテストで検証する実践的セキュリティ対策(デモ解説)
  • 2026年5月20日(水)14:00~15:30 <BBSec/Future/ハンモック共催>
    脆弱性管理の最適解 ― ASM・IT資産管理・脆弱性管理を分けて考え、統合するという選択
  • 2026年5月27日(水)14:00~15:00
    ~取引先から求められる前に押さえる~ SCS評価制度への対応準備と現実的な進め方
  • 最新情報はこちら


    資料ダウンロードボタン
    年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
    お問い合わせボタン
    サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

    Security Serviceへのリンクバナー画像
    BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
    セキュリティ緊急対応のバナー画像

    CitrixBleed 3(CVE-2026-3055)の脆弱性:NetScaler ADC / Gatewayの影響・リスク・対策

    Share
    CitrixBleed 3(CVE-2026-3055)の脆弱性:NetScaler ADC / Gatewayの影響・リスク・対策アイキャッチ画像

    CVE-2026-3055が注目される背景(CitrixBleedとの関連)

    2026年3月、Cloud Software Groupは、Citrix NetScaler ADCおよびNetScaler Gatewayに関する複数の脆弱性情報を公表しました*2。その中でも特に注意が必要なのが、CVE-2026-3055です。

    CVE-2026-3055は、NetScaler ADCおよびNetScaler GatewayがSAML IDPとして構成されている場合に影響を受ける、入力検証不備に起因するメモリオーバーリードの脆弱性です。Citrix公式アドバイザリでは、CWE-125、CVSS v4.0のベーススコア9.3Criticalとして評価されています。本脆弱性は、通称「CitrixBleed 3」と呼ばれています。JPCERT/CCは、過去に大きな問題となったCitrix Bleed系の脆弱性、CVE-2023-4966CVE-2025-5777との類似点が海外セキュリティ企業によって指摘されていると説明しています*2

    2025年7月に公表されたCitrix Bleed2(CVE-2025-5777)の脆弱性については以下の記事でご紹介しています。こちらもあわせてご覧ください。
    今すぐ対応を!Citrix Bleed2(CVE-2025-5777)の脆弱性情報まとめ

    企業にとって重要なのは、この脆弱性が単なる製品不具合ではなく、外部公開されている認証基盤やリモートアクセス基盤から情報漏洩につながる可能性がある点です。NetScaler GatewayはVPNやリモートアクセス、SSO連携の前段に置かれることが多く、侵害された場合の影響が社内ネットワーク全体に及ぶおそれがあります。

    CVE-2026-3055の概要

    CVE-2026-3055は、NetScaler ADCおよびNetScaler Gatewayにおけるメモリオーバーリードの脆弱性です。NVD(National Vulnerability Database)では、NetScaler ADCおよびNetScaler GatewayがSAML IDPとして構成されている場合、不十分な入力検証によりメモリオーバーリードが発生すると説明されています*3

    メモリオーバーリードとは、本来読み取るべきではないメモリ領域のデータが読み取られてしまう問題です。JPCERT/CCは、CVE-2026-3055について、遠隔の第三者によって意図しないメモリ領域のデータが読み取られる可能性があると注意喚起しています。この種の脆弱性で問題になるのは、攻撃者が直接ファイルを盗み出さなくても、メモリ上に一時的に残っていた情報が漏洩する可能性があることです。NetScalerのような認証や通信制御に関わる装置では、セッション情報、認証処理に関係する情報、SAML連携に関する情報などがメモリ上で扱われるため、情報漏洩の影響を慎重に評価する必要があります。

    影響を受ける製品とバージョン

    CVE-2026-3055の影響を受けるのは、NetScaler ADCおよびNetScaler Gatewayの一部バージョンです。Citrix公式アドバイザリでは、NetScaler ADCおよびNetScaler Gateway 14.1の14.1-60.58より前、13.1の13.1-62.23より前、NetScaler ADC FIPSおよびNDcPPの13.1-37.262より前が影響を受けるとされています。

    ただし、バージョンだけでなく構成条件も重要です。Citrix公式は、CVE-2026-3055について、Citrix ADCまたはCitrix GatewayがSAML IDP Profileとして構成されていることを前提条件として示しています。確認方法として、NetScalerの設定内に “add authentication samlIdPProfile .*” が存在するかを確認するよう案内しています。つまり、NetScalerを利用しているすべての環境が同じ条件で影響を受けるわけではありません。しかし、SAML IDPはSSOや認証連携に関わる重要な構成で使われるため、該当する場合は優先度を上げて確認すべきです。

    CVE-2026-3055はKEVカタログ登録済みの脆弱性

    CVE-2026-3055は、すでに米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)のKEVカタログ(Known Exploited Vulnerabilities Catalog)に追加されています。NVD上でも、CVE-2026-3055がCISA KEVに登録されていること、追加日が2026年3月30日であること、米国連邦政府機関向けの対応期限が2026年4月2日であることが確認できます。KEVカタログへの追加は、少なくともCISAが既知の悪用済脆弱性として扱っていることを意味します。そのため、CVE-2026-3055は「将来的に悪用されるかもしれない脆弱性」ではなく、実際の攻撃リスクを前提として対応すべき脆弱性です。

    JPCERT/CCも、2026年3月31日時点で海外セキュリティ企業から悪用に関する観測情報や詳細な技術情報が公表されていると説明しています。 公開インターネット上にNetScaler ADCやNetScaler Gatewayを設置している企業は、すでに攻撃対象として探索されている可能性を考慮する必要があります。

    CVE-2026-3055が「CitrixBleed 3」と呼ばれる理由

    CVE-2026-3055は、正式名称として「CitrixBleed 3」と命名されているわけではありません。しかし、セキュリティ業界では、過去に大きな影響を与えたCitrix Bleed系の脆弱性との類似性から、このように呼ばれることがあります。過去のCitrix Bleedでは、NetScaler ADCやNetScaler Gatewayにおける情報漏洩が問題となり、認証情報やセッション情報の悪用が懸念されました。今回のCVE-2026-3055も、NetScaler製品におけるメモリ読み取りの問題であり、境界装置から情報が漏えいする可能性があるという点で、過去のCitrix Bleed系の問題を想起させます。JPCERT/CCも、CVE-2023-4966およびCVE-2025-5777との類似点が指摘されているとしています。

    企業のセキュリティ担当者がこの名称に注意すべき理由は、名前そのものではなく、攻撃者が狙いやすい外部公開機器で、認証に関わる情報が漏洩する可能性があるという構図です。これは、ランサムウェア攻撃や標的型攻撃の初期侵入経路として悪用されるリスクを高めます。

    悪用された場合のリスク

    CVE-2026-3055を悪用された場合、最も懸念されるのは、NetScalerのメモリ上に存在する情報が第三者に読み取られることです。JPCERT/CCは、遠隔の第三者によって意図しないメモリ領域のデータが読み取られる可能性があると説明しています。

    NetScalerは、社外から社内システムへアクセスする際の入口として利用されることがあります。SSL VPN、リモートアクセス、SSO、認証連携の前段に配置されることも多く、ここで情報漏えいが発生すると、単一システムの問題にとどまらず、社内ネットワークへの不正アクセスやアカウント悪用につながる可能性があります。

    特に注意すべきなのは、パッチ適用だけでリスクが完全に消えるとは限らない点です。メモリ情報漏えい型の脆弱性では、修正前に何らかの情報が読み取られていた場合、その情報が後から悪用される可能性を否定できません。そのため、アップデートとあわせて、ログ調査、セッションの無効化、認証情報の見直し、関連アカウントの監視を実施することが重要です。

    企業がまず確認すべきポイント

    CVE-2026-3055への対応では、まず自社がNetScaler ADCまたはNetScaler Gatewayを利用しているかを確認する必要があります。特に、VPN、リモートアクセス、SSO、認証連携、社外公開システムの前段にNetScalerが配置されていないかを確認することが重要です。

    次に、対象バージョンに該当するかを確認します。Citrix公式アドバイザリでは、NetScaler ADCおよびNetScaler Gateway 14.1の14.1-60.58より前、13.1の13.1-62.23より前、NetScaler ADC FIPSおよびNDcPPの13.1-37.262より前がCVE-2026-3055の影響を受けるとされています。

    さらに、SAML IDPとして構成されているかを確認します。Citrix公式は、NetScaler Configuration内に”add authentication samlIdPProfile .* ”が存在するかを確認するよう案内しています。 この設定が存在する場合、CVE-2026-3055の影響を受ける条件に該当する可能性があります。

    対応方針:アップデートが最優先

    CVE-2026-3055について、JPCERT/CCは、Cloud Software Groupが本脆弱性に対する回避策を提供していないと説明しています。 そのため、アクセス制限や監視強化だけで対応を完了させるのではなく、修正済みバージョンへのアップグレードを基本方針とすべきです。Citrix公式アドバイザリでも、影響を受ける顧客に対して、関連する更新済みバージョンをできるだけ早くインストールするよう強く推奨しています。 本番環境では検証や切り戻し計画が必要になる場合がありますが、KEVカタログに登録されていることを踏まえると、通常の月次パッチ対応よりも高い優先度で扱うべき脆弱性です。

    侵害有無の確認方法

    CVE-2026-3055では、パッチ適用と同時に侵害有無の確認も重要です。JPCERT/CCは、watchTowr Labsの情報として、CVE-2026-3055を悪用する攻撃の試行は、/saml/login への細工したPOSTリクエストや、/wsfed/passive?wctx へのGETリクエストによって行われると紹介しています。通常運用で想定されない送信元IPから、これらのエンドポイントへのアクセスがログに記録されていないか確認することが推奨されています。また、JPCERT/CCは、DEBUGレベルのログを有効化している場合、/var/log/ns.log に意図しない文字列が挿入される点もwatchTowr Labsが指摘していると説明しています。 侵害が疑われる場合は、ログの保全、関係者への報告、メーカーや専門事業者への相談を検討すべきです。重要なのは、「アップデートしたから終わり」としないことです。すでに攻撃を受けていた場合、攻撃者が取得した可能性のある情報を前提に、セッションの無効化や認証情報の更新、管理者アカウントの確認、異常なログイン履歴の調査を進める必要があります。

    なぜ境界装置は狙われるのか

    近年、VPN装置、ADC、認証ゲートウェイ、ファイル転送装置など、インターネット境界に置かれる機器の脆弱性が繰り返し悪用されています。これらの機器は社内ネットワークへの入口に位置し、多くの場合、認証情報やセッション情報、社内システムへのアクセス経路を扱います。攻撃者にとっては、境界装置の侵害が効率のよい初期侵入手段となります。一般的な端末を一台ずつ狙うよりも、外部公開された認証基盤やリモートアクセス装置を突破する方が、社内環境へ到達しやすい場合があるためです。CVE-2026-3055は、まさにこの文脈で捉える必要があります。NetScaler ADCやNetScaler Gatewayを導入している企業は、単に脆弱なバージョンを更新するだけではなく、外部公開資産の棚卸し、設定確認、ログ監視、脆弱性情報の継続的な収集を組み合わせて対応する必要があります。

    脆弱性管理で求められる実務対応

    CVE-2026-3055のような重大なリスクレベルの脆弱性に対応するには、まず資産を把握していることが前提になります。どの拠点、どのクラウド環境、どのネットワーク境界にNetScalerが存在するのかを把握できていなければ、脆弱性情報が公開されても迅速に判断できません。また脆弱性の深刻度だけでなく、自社環境での露出状況を評価する必要があります。CVE-2026-3055はCVSS v4.0で9.3のCriticalと評価されていますが、実務上は、インターネットから到達可能か、SAML IDPとして構成されているか、認証基盤としてどの範囲に影響するかを確認することが重要です。さらに、KEVカタログへの登録の有無も優先順位付けの重要な判断材料になります。CVE-2026-3055はKEVカタログへ登録済みであり、NVD上でもその情報が確認できます。 既知悪用脆弱性に該当する場合、通常の脆弱性対応よりも優先度を上げ、短期間での対応計画を立てるべきでしょう。

    この脆弱性から学ぶべきポイント

    CVE-2026-3055は、個別の製品脆弱性であると同時に、企業の脆弱性管理体制を見直すきっかけにもなります。特に、VPNや認証ゲートウェイのような外部公開機器は、業務継続に不可欠である一方、攻撃者にとっても魅力的な標的です。今後も、境界装置や認証基盤に関する脆弱性は継続的に公表されると考えられます。そのたびに場当たり的に対応するのではなく、外部公開資産の一覧化、バージョン管理、設定管理、ログ監視、緊急パッチ適用の判断基準をあらかじめ整備しておくことが求められます。特に、情シス部門やセキュリティ担当者が少人数で運用している企業では、脆弱性情報の収集、影響調査、優先順位付け、パッチ適用、侵害調査をすべて自社だけで行うことが難しい場合があります。その場合は、外部診断やセキュリティ監視サービス、インシデント対応支援を組み合わせ、重要な境界装置を継続的に確認できる体制を整えることが現実的です。

    まとめ:CVE-2026-3055への対応ポイント

    CVE-2026-3055は、NetScaler ADCおよびNetScaler GatewayがSAML IDPとして構成されている場合に影響を受ける、メモリオーバーリードの重大脆弱性です。この脆弱性の本質は、NetScalerという外部公開されやすい認証・通信制御基盤から、意図しないメモリ領域のデータが読み取られる可能性がある点にあります。企業は、NetScaler ADC / Gatewayの利用有無、対象バージョン、SAML IDP構成の有無を確認し、該当する場合は修正版へのアップグレードを速やかに進める必要があります。あわせて、/saml/login/wsfed/passive?wctxへの不審なアクセスの有無を確認し、侵害が疑われる場合はログ保全と専門的な調査を行うことが重要です。

    CVE-2026-3055は、単なる一製品の脆弱性ではなく、外部公開資産と認証基盤の管理が企業のセキュリティに直結することを示す事例です。脆弱性管理は、パッチを当てる作業だけではありません。資産を把握し、影響を判断し、優先順位を付け、侵害有無まで確認する一連の運用として整備することが、今後ますます重要になるでしょう。

    【参考情報】


    サイバーインシデント緊急対応

    セキュリティインシデントの再発防止や体制強化を確実に行うには、専門家の支援を受けることも有効です。BBSecでは緊急対応支援サービスをご提供しています。突然の大規模攻撃や情報漏洩の懸念等、緊急事態もしくはその可能性が発生した場合は、BBSecにご相談ください。セキュリティのスペシャリストが、御社システムの状況把握、防御、そして事後対策をトータルにサポートさせていただきます。

    サイバーセキュリティ緊急対応電話受付ボタン
    SQAT緊急対応バナー

    ウェビナー開催のお知らせ

  • 2026年5月13日(水)13:00~14:00【好評アンコール配信】
    攻撃は本当に成立するのか?ペネトレーションテストで検証する実践的セキュリティ対策(デモ解説)
  • 2026年5月20日(水)14:00~15:30 <BBSec/Future/ハンモック共催>
    脆弱性管理の最適解 ― ASM・IT資産管理・脆弱性管理を分けて考え、統合するという選択
  • 2026年5月27日(水)14:00~15:00
    ~取引先から求められる前に押さえる~ SCS評価制度への対応準備と現実的な進め方
  • 最新情報はこちら

    編集責任:木下

    Security NEWS TOPに戻る
    バックナンバー TOPに戻る


    資料ダウンロードボタン
    年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
    お問い合わせボタン
    サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

    Security Serviceへのリンクバナー画像
    BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
    セキュリティ緊急対応のバナー画像

    IPA情報セキュリティ10大脅威2026にみる、AI時代のサイバーリスク

    Share
    「IPA情報セキュリティ10大脅威 2026に見る、AI時代のサイバーリスク」アイキャッチ画像

    近年、生成AIをはじめとするAI技術の進展により、組織におけるAIの活用は急速に広がっています。本記事では、IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」の内容をもとに、AIの利用をめぐるサイバーリスクについて整理するとともに、企業に求められる対応の方向性について解説します。

    IPA「情報セキュリティ10大脅威」速報版の記事はこちら。「AIの利用をめぐるサイバーリスク」以外の脅威の項目についても知りたい方は、こちらもぜひあわせてご覧ください。
    【速報版】情報セキュリティ10大脅威 2026 -脅威と対策を解説-

    はじめに

    業務効率の向上や新たな価値創出の手段として、多くの企業がAIの導入を進めています。一方でAI利用に伴うリスクについても、十分な注意が求められています。こうした状況を反映して、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」において、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」という脅威が初めてランクインし、3位に位置付けられました。

    なぜいま「AIの利用」が脅威として注目されるのか

    IPA「情報セキュリティ10大脅威」は、前年に発生した社会的影響の大きい事案等をもとに選定されたものであり、順位は単純に危険度の高さを示すものではありません。しかし、AI利用に関するリスクが新たに選出されたことは、企業や組織におけるAI活用の拡大と、それに伴う課題の顕在化を示すものといえるでしょう。

    2026年3月12日に公開された、IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」解説書では、AIは有用なツールである一方で、十分な理解がないまま利用した場合、情報漏洩や権利侵害といった問題につながる可能性があると指摘されています。特に、生成AIへの入力内容が外部に取り扱われることによる機密情報の漏洩や、生成された情報の正確性を確認せずに業務に利用することによって発生するトラブルなど、従来の情報システム利用とは異なる観点でのリスクが挙げられています。 また、AIは利用者の裾野が広く、専門的な知識がなくても活用できるという特性を持っています。そのため、組織として利用状況を把握しきれないまま、個人単位で業務利用が進むケースも想定されます。このような利用形態は、管理の行き届かないリスク、いわゆるシャドーITに類似した問題を引き起こす可能性があります。

    AI利用をめぐる主なリスク

    IPAはAIの利用拡大に伴い、いくつかの代表的なリスクが指摘しています。これらは、AIの技術そのものというよりも、その利用方法や特性に起因するものが多い点が特徴です。

    • 情報漏洩リスク
    • 誤情報生成リスク(ハルシネーション)
    • サイバー攻撃の高度化リスク
    • 利用実態の把握困難(シャドーAI)
    • 権利侵害リスク

    生成AIへの入力内容に起因する情報漏洩

    クラウドサービスとして提供されるAIに対し、機密情報を入力することで、意図せず外部に情報が送信される可能性があるというリスクです。

    AIの出力結果に関するリスク

    対話型AIは実在しない情報を生成する(=ハルシネーション)場合があり、このことを十分に理解せずに利用すると、誤った判断や誤情報発信につながるおそれがあります。

    AIの悪用によるサイバー攻撃の高度化

    AIを活用することで、攻撃の効率化や手口の巧妙化が進む可能性があります。さらに、組織における利用実態の把握が難しい点も重要なリスクです。

    シャドーAIのリスク

    個人単位でAIサービスを利用されてしまうことで、組織の目の届かない範囲での利用が発生する可能性があります。

    著作権侵害などの権利問題

    AIの利用に関する理解不足により、著作権侵害などの権利問題が生じる可能性も指摘されています。

    AI利用において想定される主な事例

    AI利用に伴うリスクは、特別な環境でのみ発生するものではなく、日常業務の中で自然に発生し得るものです。例えば業務の効率化を目的として、従業員が個人で利用している生成AIサービスを業務に活用するケースが考えられます。メール文面の作成や資料作成の補助としてAIを利用する延長で、社内資料の内容や顧客情報をそのまま入力してしまうことがありえます。生成AIはクラウド上で動作しており、入力した内容はサービス側で処理されます。場合によっては、入力内容がサービスの改善や学習に利用されることもありえます。この点を十分に理解しないまま利用すると、機密情報を外部サービスに送信してしまうことになり、情報漏洩につながるおそれがあるのです。

    また、対話型AIの回答をそのまま精査せずに業務に利用してしまうことで問題に発展する可能性もあります。調査や資料作成の過程でAIが生成した情報を十分に確認せずに利用した結果、ハルシネーションの内容を含んだまま社内外に共有してしまうといった事態が起こり得ます。このように、AI利用に伴うリスクは特定の専門領域に限らず、日常業務の延長線上で発生する点に特徴があります。

    組織における課題

    AIの利用が広がる一方で、組織としてこれらのリスクを適切に管理することにはいくつかの課題があります。

    社内でのAI利用の促進とルールの策定のバランス

    まず、AI利用に関するルールやガイドラインの整備が追いついていない点が挙げられます。現場での利用が先行する中で、組織としての利用方針が明確でない場合、統一的な管理が難しくなります。また、利用状況の把握が困難であることも大きな課題です。クラウド型のAIサービスは個人単位で容易に利用可能なため、組織として誰がどのように利用しているかを正確に把握することが難しくなります。実際には、想定以上に広範囲で利用が進んでいるケースも少なくありません。さらに、ポリシーを整備しても現場に浸透しないという課題もあります。AIは業務効率の向上に直結するため、利便性を優先してルールが守られないケースや、現場ごとに独自の運用が行われるといった状況も発生し得ます。加えて、AI利用と既存のセキュリティ対策との間にギャップが生じる点も課題です。従来のセキュリティ対策は想定していなかった利用形態が増えることで、管理や統制が追いつかない場面が生じる可能性があります。さらに、利用者への教育不足も課題の一つです。AIの特性やリスクに関する教育や周知が十分でないために、組織として意図しない利用が広がり、統制が効かなくなるおそれがあります。

    このように、AIの活用においては、ルール整備や利用状況の把握といった基本的な対応に加え、実際の運用における課題も踏まえた継続的な対応が求められます。

    企業が取るべきアクション

    AIの利用に伴うリスクに対応するためには、個別の技術対策にとどまらず、組織としての管理と運用の整備が重要となります。AI利用に関しては、ルール整備や教育、基本的なセキュリティ対策の徹底といった観点での対応が求められています。

    1. AIの利用に関するルールやガイドラインの整備
      どのような用途でAIを利用してよいのか、入力してよい情報の範囲、利用してはならない行為などを明確に定めることで、利用に伴うリスクを一定程度抑制することが可能となります。
    2. 利用状況の把握と管理
      AIサービスは個人単位でも容易に利用できるため、組織としてどのように利用されているかを把握し、必要に応じて管理の対象とすることが重要です。これにより、管理の行き届かない利用、いわゆるシャドーAIの発生を抑制することが期待されます。
    3. AI利用者への教育
      AIの特性やリスクについて正しく理解させることで、生成結果の確認や適切な情報の取り扱いといった基本的な行動を促すことができます。技術的な制御だけでなく、利用者の理解を前提とした運用が不可欠です。
    4. 基本的なセキュリティ対策の徹底・見直し
      認証の適切な運用や情報管理の強化といった既存の対策は、AI利用においても引き続き基盤となるものです。その上で、AIの利用が業務に広く組み込まれる中では、従来の対策だけでは対応しきれない場面も想定されるため、AI利用を前提としたセキュリティの見直しや再設計が必要となる可能性もあります。

    このように、AIの安全な活用には、ルール、管理、教育、AIを前提とした基本的なセキュリティ対策といった複数の観点からの継続的な取り組みが重要です。

    AI時代に求められるセキュリティ支援

    こうした課題に対応するためには、組織単独での取り組みだけでなく、専門的な支援の活用も有効です。以下のようなセキュリティ支援の例が挙げられます。

    • セキュリティ診断・リスクアセスメント
      AI利用に伴うリスクを把握するためのセキュリティ診断やリスクアセスメントが重要となります。現状の利用状況や潜在的なリスクを可視化することで、適切な対策の検討につなげることができます。
    • 運用監視体制の強化
      AIの利用状況を継続的に監視し、問題の早期発見や対応を行う体制を整備することで、リスクの低減が期待されます。
    • AI利用ガイドライン策定支援
      組織の実態に即したルールを整備し、現場で実際に運用可能な形に落とし込むことが求められます。

    さいごに

    「情報セキュリティ10大脅威 2026」において、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が新たにランクインしたことは、AI活用の拡大と、それに伴う課題の顕在化を示すものといえます。AIに関するリスクは、新たな技術そのものに起因するというよりも、その利用方法や理解不足に起因する側面が大きい点が特徴です。そのため、対策としては、ルール整備や利用状況の把握、教育といった組織的な対応に加え、基本的なセキュリティ対策を継続して実施することが重要となります。

    また、IPAが示す通り、10大脅威の順位は危険度の高さを示すものではなく、自組織の状況に応じて適切にリスクを評価し、優先順位を定めて対策を講じることが求められます。 AIの活用は今後さらに進むことが想定されますが、その利便性を最大限に活かすためにも、リスクを正しく理解し、組織として適切に管理・運用していくことが重要です。


    【関連ウェビナーのご案内】
    本記事では、生成AIの利用に伴うサイバーリスクと、企業への影響について整理しました。AIの活用が進む一方で、情報漏えいや誤利用、統制の難しさといった課題が現実のものとなっています。では、こうしたリスクは実際にどのように悪用され、どのような攻撃として現れているのでしょうか。2026年4月15日に開催のウェビナーでは、生成AIを悪用した具体的な事例をもとに、サイバー脅威の実態と防御戦略を詳しく解説します。リスクの「背景」だけでなく、「実際に何が起きるのか」を理解したい方は、ぜひご参加ください。

    ウェビナー最新情報はこちら


    BBSecでは

    当社では様々なご支援が可能です。お客様のご状況に合わせて最適なご提案をいたします。当当サイトSQAT® jpのお問い合わせページよりお気軽にお問い合わせください。後日営業担当者よりご連絡させていただきます。

    SQAT® 脆弱性診断

    BBSecの脆弱性診断は、精度の高い手動診断と独自開発による自動診断を組み合わせ、悪意ある攻撃を受ける前にリスクを発見し、防御するための問題を特定します。Webアプリケーション、ネットワークはもちろんのこと、ソースコード診断やクラウドの設定に関する診断など、診断対象やご事情に応じて様々なメニューをご用意しております。

    SQAT脆弱性診断サービスバナー画像

    SQAT® ペネトレーションテスト

    「ペネトレーションテスト」では実際に攻撃者が侵入できるかどうかの確認を行うことが可能です。脆弱性診断で発見したリスクをもとに、実際に悪用可能かどうかを確認いたします。

    編集責任:木下

    Security NEWS TOPに戻る
    バックナンバー TOPに戻る


    資料ダウンロードボタン
    年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
    お問い合わせボタン
    サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

    Security Serviceへのリンクバナー画像
    BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
    セキュリティ緊急対応のバナー画像
    ウェビナーアーカイブ動画ページバナー画像

    Claude Code流出問題の全体像 ―事件からわかるAI開発リスクとサプライチェーンリスク―

    Share
    「Claude Code流出問題の全体像 ―事件からわかるAI開発リスクとサプライチェーンリスク―」アイキャッチ画像

    はじめに

    「Claude Code」で起きたソースコード流出問題の経緯、なぜnpm公開物から内部ソースへ到達できたのか、何が漏れ、何が漏れていないのかを整理します。またソースコード流出によって浮き彫りになるAI開発リスクとソフトウェア供給網のリスクについても解説します。

    Claude Codeソースコード流出の概要

    「Claude Code」はAnthropic社が提供する公式のコーディング支援ツールです。Anthropicが公開している「Claude Code Doc」の中でも、Claude Codeはコードベース理解、ファイル編集、コマンド実行、各種開発ツール連携を行う製品として説明されています。

    Claude Code流出は、単なる「話題のAIニュース」では終わりません。今回、ターミナルやIDE(統合開発環境)からコード編集、コマンド実行、検索、Git操作まで担う実運用の開発基盤の中核にあたる実装の一部が、npm配布物に含まれたソースマップ(source map)を起点に外部から参照可能な状態になっていたことがわかりました。本事件はAIエージェント時代のソフトウェアサプライチェーン問題として捉える必要があります。

    流出の発端と技術的な経路(source map問題)

    本事件で最初に押さえるべきなのは、「Claude本体のモデル重みが漏れた」のではなく、「Claude Codeという周辺プロダクトのソースコードが到達可能になった」という点です。事件の発端となったのは、Chaofan Shou氏(@Fried_rice)によるXの投稿です。2026年3月31日、Chaofan Shou氏は「Claude code source code has been leaked via a map file in their npm registry」(訳:Claude Codeのソースコードが、npmレジストリ内のmapファイルを通じて流出した)と投稿しており、少なくとも現時点で公開されている初動情報の起点は、この発見報告にあると考えられます。

    その後に作成されたいくつかの公開GitHubリポジトリでは、漏洩経路について「npmパッケージに含まれたソースマップが、難読化前のTypeScriptソースを指しており、その参照先からsrc一式を取得できた」と説明しています。GitHubリポジトリ自体はAnthropicの公開情報ではないため、そこに書かれた全内容を鵜呑みにするべきではありませんが、少なくとも複数の公開Claude Artifacts(アーティファクト)が同じ経路を示していること、そして後述するAnthropic公式のGitHub上のIssueでも「流出またはデコンパイルされたClaude Codeのソースコード」を前提に議論が進んでいることから、ソースマップ起点として内部実装が可視化されたという大筋は相当に確度の高い情報だと言えます。さらに公開リポジトリのREADMEでは、「約1,900ファイル、51万行超のTypeScriptコードが露出した」と説明しています。

    流出した内容と影響範囲

    本事件が注目を集めた理由は、Claude Codeが単なるCLIラッパーではなく、幅広い機能群を内包したAI開発支援基盤であるためです。Anthropicの公開リポジトリと公式リリースノートを見るだけでも、Claude CodeにはIDE連携、MCP、プラグイン、履歴再開、権限管理、Web検索、各種設定や運用補助機能が継続的に追加されていることがわかります。また公開GitHubスナップショットREADMEでも、ツールシステム、コマンド群、IDEブリッジ、マルチエージェント協調、スキル、プラグイン、メモリやタスク管理など、多層的な構造が記述されています。

    つまり今回のClaude Code流出問題は、AIコーディング支援の表面だけでなく、その実装思想や運用機能の一端まで外から読める状態になったという意味を持ちます。

    何が漏れ、何が漏れていないのか

    Anthropic公式情報でも、Claude Codeの内部実装に関するソースコード断片や構成が公開状態になったことは裏づけられています。Anthropic公式GitHubのIssueでも、流出コードを前提とした解析が行われていました。

    Anthropicの公式GitHubリポジトリに2026年3月31日付で立てられたIssueでは、「source code isn’t publicly available, so this analysis is based on the leaked/decompiled Claude Code source」(訳:ソースコードは公開されていないため、本分析は流出またはデコンパイルされたClaude Codeのソースコードに基づく)と投稿され、Xでの発見報告とGitHub上の流出スナップショットを参照していたということがわかります。つまり、少なくともコミュニティ側では流出コードを参照した解析が現実に行われ、それがAnthropicの管理下のIssue空間にも持ち込まれていたということです。

    一方で、複数の報道機関によれば、「Anthropicが今回の件を「人為的ミス」によるものと認め、顧客データや認証情報、Claudeモデルそのものの重みは流出していない」と説明したとしていますが、この点は一次ソースではなく報道ベースの情報として慎重に扱う必要があります。

    なぜ深刻なのか:AIエージェント時代のリスク

    それでも、このClaude Codeソースコード流出が深刻なのは、顧客データ漏洩の有無だけでは影響範囲が測れないからです。AIエージェント製品では、モデル重みそのものに価値があるのはもちろんですが、実際の使い勝手や競争力は、その周囲にあるハーネス、権限管理、ツール呼び出し、コンテキスト処理、UI、IDE統合、再開機能、運用設計によって大きく左右されます。公開スナップショットにあるディレクトリ構成やコマンド一覧、サービス層の説明を見ると、Claude Codeがかなり成熟した「製品化されたAIエージェント」であることが読み取れます。競合や研究者にとって、こうした実装知見が外から見える状態になることの意味は小さくありません。

    特に重要なのは、Claude Codeが単にコードを生成するAIだけではなく、ローカル環境や周辺ツールに触れながら作業を進めるAIエージェントとして設計されている点です。漏洩したとされる公開スナップショットにも、Bash実行、ファイル読み書き、Web取得、Web検索、MCP、LSP、タスク作成、スケジュール実行などの機能が列挙されています。これは、今後のAIセキュリティを考える際に、モデル単体の安全性だけでは足りず、エージェントの実行基盤や配布パッケージの安全性まで視野に入れなければならないことを示しています。

    AIエージェント時代の新課題、Non Human Identity(NHI)のセキュリティ課題と今後のAIコーディングに求められる実践的な視点を解説した記事はこちら。ぜひあわせてご覧ください。
    AIコーディング入門 第5回:NHI(Non‑Human Identity)とAIエージェントのセキュリティ課題

    ビルド・配布プロセスにおける問題の本質

    さらに今回の一件は、ソースコード流出そのものだけでなく、公開物のビルド管理や配布管理の問題としても重要です。ソースマップ(source map)は本来、デバッグや解析のためには有用ですが、公開パッケージに不用意に含めれば、難読化やバンドルの前提を崩し、実装内部への入口になります。もしREADME記載どおり、ソースマップが外部ストレージ上の元ソース一式を指していたのであれば、問題は単なる「mapファイル混入」で終わりません。公開パッケージ、参照先URL、ストレージ公開設定、リリース工程のチェック体制まで含めた、供給網全体の設計ミスになります。ここにClaude Codeソースコード流出問題の本質があります。

    「影響は限定的」という見方の限界

    本事件をめぐる議論では、「どうせAIのコードはすぐ変わるから被害は限定的だ」という見方もあります。これは半分正しいです。たしかにプロダクトコードは日々更新されます。それでも、ある時点の設計方針、抽象化の仕方、権限制御、内部機能のつながり、未公開機能の痕跡は、競争戦略や攻撃面の理解に十分な価値を持ちます。現に公開スナップショットには、マルチエージェント協調、チーム作成、スキル実行、メモリ同期、リモートトリガーといった、単純なCLI以上の発想が読み取れる記述が含まれています。AI開発企業にとって、こうしたプロダクト実装の漏えいは、顧客情報漏えいとは別種の経営リスクです。

    企業が取るべき対応と実務上の教訓

    企業の情報セキュリティ担当者や開発責任者にとって、本事件から学ぶべき教訓は明確です。第一に、公開パッケージの中身を「本番ビルド成果物」だけでなく、「付随ファイル」まで含めて検査する必要があります。第二に、ソースマップやデバッグアーティファクトの扱いを、開発者の善意や慣習に任せてはいけません。第三に、クラウドストレージの参照先や署名URL、生成物の格納ルールを、CI/CDと一体で見直すべきです。第四に、AIエージェント製品では、モデルAPIの保護だけでなく、CLI、IDE拡張、SDK、プラグイン、MCP連携のような周辺面を含めてセキュリティレビューをかける必要があります。Claude Codeの公式リリースノートを見るだけでも、製品は短い周期で多機能化しており、変化の速さ自体がリスク管理を難しくしています。

    もう一つ重要なのは、事故後の透明性です。現時点で確認できるAnthropic公式情報は、Claude Codeの製品説明やリリースノートが中心で、今回のソースコード流出事件についての障害報告書は見当たりません。そのため、実務的には「発生原因」「影響範囲」「再発防止策」を公式にどこまで明文化するかが、今後の信頼回復を左右します。AI安全性を強く掲げる企業であればなおさら、モデル安全だけではなく、配布と運用の安全性でも説明責任が問われます。今回のClaude Codeのソースコード流出は、その現実を突きつけた出来事となります。

    まとめ

    Claude Codeソースコード流出事件はAI本体が破られた事件ではありませんが、AI製品はモデルだけ守ればよい、という幻想は崩されました。AIコーディング支援、AIエージェント、開発者向けCLI、IDE統合、MCP、プラグイン基盤といった要素が一体化した時代において、情報漏洩リスクはモデル重みだけでなく、配布物、周辺コード、実行制御、設定、公開ストレージにもまたがります。Claude Code流出事件を単なる興味本位の話題で終わらせるのではなく、現代のソフトウェアサプライチェーンの課題とAIプロダクト運用の脆さを示す事例として読むべきでしょう。

    参考文献


    サイバーインシデント緊急対応

    セキュリティインシデントの再発防止や体制強化を確実に行うには、専門家の支援を受けることも有効です。BBSecでは緊急対応支援サービスをご提供しています。突然の大規模攻撃や情報漏洩の懸念等、緊急事態もしくはその可能性が発生した場合は、BBSecにご相談ください。セキュリティのスペシャリストが、御社システムの状況把握、防御、そして事後対策をトータルにサポートさせていただきます。

    サイバーセキュリティ緊急対応電話受付ボタン
    SQAT緊急対応バナー

    ウェビナー開催のお知らせ

  • 2026年4月10日(水)14:00~15:00
    ランサムウェア時代のIT-BCP入門~サイバー攻撃によるシステム停止に備える実践的な策定ステップ~
  • 2026年4月15日(水)14:00~15:00
    AI時代のサイバー脅威最前線 ― IPA『情報セキュリティ10大脅威2026』から学ぶ防御戦略 ―
  • 2026年4月22日(水)14:00~15:00
    Swift CSCF v2026変更点解説セミナー ― Control 2.4 (Back Office Data Flow Security)の必須化とCustomer client connectorへの要件適用拡大 ―
  • 最新情報はこちら

    編集責任:木下

    Security NEWS TOPに戻る
    バックナンバー TOPに戻る


    資料ダウンロードボタン
    年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
    お問い合わせボタン
    サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

    Security Serviceへのリンクバナー画像
    BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
    セキュリティ緊急対応のバナー画像

    Axiosのサプライチェーン攻撃とは何だったのか ―npm改ざんの経緯、影響範囲、企業が今すぐ確認すべき対応を解説―

    Share
    「Axiosのサプライチェーン攻撃とは何だったのか」アイキャッチ画像

    2026年3月31日、JavaScriptの代表的なHTTPクライアントであるAxiosで、深刻なサプライチェーン攻撃が確認されました。影響を受けたのはニュースメディアのAxiosではなく、npmで広く利用されているOSSライブラリのaxiosです。今回の事案は、単なる脆弱性公表ではありません。正規のメンテナー権限が侵害され、信頼されていたパッケージ自体がマルウェア配布の経路になった点に本質があります。JavaScriptライブラリ、npm、依存関係、CI/CD、開発端末という、現代のソフトウェア開発に欠かせない基盤がまとめて狙われた事例として、今後も長く参照される可能性があります。

    何が起きたか ―Axiosのnpmパッケージに不正版が公開

    Google Cloud Blogで公開された「North Korea-Nexus Threat Actor Compromises Widely Used Axios NPM Package in Supply Chain Attack」によると、2026年3月31日00:21 世界標準時(UTC)から03:20 UTCの間に、axiosのnpm公開版のうち1.14.1と0.30.4へ悪意ある依存関係が混入しました。問題の依存関係はplain-crypto-jsで、これは通常のAxios機能に必要なものではなく、postinstallフックを通じてインストール時に自動実行されるよう細工されていました。つまり、影響を受けた環境では、アプリケーションがAxiosを使ったかどうかではなく、その版をnpm installした時点で不正コード実行の可能性が生じる構造でした。

    AxiosのGitHub Issue #10604でも、axios@1.14.1とaxios@0.30.4が侵害されていたことが公に共有されています。公式issue自体は技術詳細が少ないものの、外部研究者からの指摘が速やかに可視化されたことで、npm配布物とGitHub上の正規ソースの間に乖離が生じていたことが早期に認識されました。

    本質は「脆弱性」でなく「信頼の乗っ取り」

    本事案を理解するうえで重要なのは、Axios本体のコード品質に起因する一般的な脆弱性とは性質が違う点です。StepSecurityの公式Blog「axios Compromised on npm – Malicious Versions Drop Remote Access Trojan」によると、攻撃者はAxiosメンテナーのnpmアカウントを侵害し、通常のGitHub Actions経由のTrusted Publisherではなく、盗まれた認証情報を使って悪性版を公開したとのことです。正規リリースではGitHub Actions由来の公開痕跡が見える一方、問題の1.14.1ではそのパターンが崩れており、さらにGitHub側に対応するコミットやタグも確認できませんでした。これは、開発者が「公式パッケージだから安全」と判断しやすい場所そのものが改ざんされたことを意味します。ソフトウェアサプライチェーン攻撃が危険視される理由はここにあります。アプリケーション開発者は通常、依存パッケージを全面的に目視監査しません。しかもAxiosは週あたり1億回規模で利用される人気ライブラリであり、上流の1パッケージが汚染されるだけで、その影響は大量の開発環境、ビルドサーバー、CIランナー、社内アプリケーションへ連鎖する可能性があります。Google Cloud Blog(前段参照)では今回の事案による影響は広範にわたる、と警告しており、単発のnpm事故では済まない可能性を示しています。

    悪性版Axiosはどのように動いたのか

    Google Cloud Blogによると、混入されたplain-crypto-jsは難読化されたドロッパーであり、Windows、macOS、Linuxを対象にWaveShaper.V2のバックドアを展開したとのことです。package.jsonのpostinstallによってバックグラウンドでsetup.jsが実行されるため、開発者の体感としては、ただ依存関係を導入しただけに見えます。Socket公式ブログ「Supply Chain Attack on Axios Pulls Malicious Dependency from npm」やStepSecurityブログ(前段参照)でも、plain-crypto-jsは本来のAxios機能では参照されておらず、マルウェア配布のためだけに差し込まれた依存関係だった、と整理しています。さらにStepSecuritは、当該ドロッパーがC2へ接続し、OSごとの第2段階ペイロードを取得した後、自己削除やpackage.jsonの正常化で痕跡隠蔽を試みると説明しています。ここが企業実務では特に重要です。単に「悪い版を消して入れ直せば終わり」ではなく、インストールを実行した開発端末やCI環境そのものを侵害前提で確認すべき、という判断につながるからです。

    影響を受けるのはどんな企業か

    影響範囲は、Axiosを直接使うWebアプリ開発チームに限りません。Socketは、^1.14.0や^0.30.0のようなキャレット範囲指定をしていたプロジェクトでは、次回のnpm install時に不正版を取得し得たと指摘しています。つまり、明示的に最新版へ上げた覚えがなくても、自動解決で悪性版を拾う余地がありました。この特徴はnpm運用の現実とよく一致しており、依存関係を日常的に更新する開発現場ほど巻き込まれる可能性が高まります。

    また、企業内で見落とされやすいのがCI/CDパイプラインです。StepSecurityは、問題の版が公開されていた時間帯にnpm installやnpm ciを実行したビルド環境を重点確認対象として挙げています。開発者PCだけでなく、CIランナー、検証環境、コンテナビルド基盤、さらにはその先の秘密情報管理まで連鎖確認が必要になります。サプライチェーン攻撃は「ライブラリの問題」だけに限らず、認証情報の流出、ビルド改ざん、社内への横展開まで発展する可能性があるのです。

    北朝鮮系脅威アクターとの関連は?

    Google Cloud Blogでは今回の活動は北朝鮮のハッカー集団「UNC1069」が関与している、と指摘しています。理由として、「WaveShaper.V2」のバックドアを使用している点や攻撃インフラと過去活動の重なりが示されています。

    企業は何をもって「影響あり」と判断すべきか

    まず確認すべきなのは、2026年3月31日の短い公開ウィンドウの間に、axios@1.14.1またはaxios@0.30.4、あるいはplain-crypto-js@4.2.1を取得した痕跡があるかどうかです。

    StepSecurityは、ローカルリポジトリやpackage-lock.json、node_modules内の痕跡確認方法を示しています。Cybozuの注意喚起でも、日本時間の2026年3月31日9:21〜12:15ごろに該当処理を行った環境は、問題のあるAxiosをインストールした可能性があるとしています。日本企業にとっては、この日本標準時(JST)での切り替えが実務上わかりやすい基準となります。ただし、痕跡確認で「見つからなかった」というだけでは完全に安心できません。今回のペイロードは痕跡隠蔽も伴うため、その時間帯にビルドや依存更新を実行した環境は、ログ、ネットワーク通信、認証情報利用履歴まで含めて点検したほうがよいです。特にCI環境にクラウド資格情報や署名鍵、デプロイトークンを置いている組織は優先度が高いでしょう。サプライチェーン攻撃では、初動対応の遅れが二次被害につながります。

    今回のAxios事案で推奨される初動対応

    今回の事案で重要なのは、単なるパッケージの差し替えではなく、侵害前提のインシデントレスポンスです。StepSecurityでは、axios@1.14.1または0.30.4をインストールしていれば、システム侵害を前提として扱うべきだとしています。これはドロッパー型マルウェアと開発環境侵害の組み合わせを考えると、合理的な判断といえます。少なくとも、端末隔離、トークンや認証情報のローテーション、CIシークレットの再発行、該当ジョブやコンテナの洗い替え、関連ログの保存は必要になるでしょう。

    また、依存関係の修正では、問題のある版を避けて既知の正常版へ戻す必要があります。StepSecurityブログの比較によると、axios@1.14.0および0.30.3には問題のplain-crypto-js依存が存在しません。したがって、少なくとも悪性版から即時ロールバックする対象としてこの二つは確認済みのクリーン版といえます。将来的な正式後継版の採用は、Axios側による公式情報や検証結果を見て判断するのが安全でしょう。

    なぜAxiosのサプライチェーン攻撃はここまで注目されたのか

    理由は主に3つ挙げられます。第一に、AxiosがJavaScript開発で極めて広く使われていることです。第二に、ソースコードレベルでは目立ちにくい依存関係の一点差し替えで成立していたことです。第三に、Windows、macOS、Linuxの全方位を狙うクロスプラットフォーム型だったことです。GoogleもElasticも、この事案を単発のnpm汚染ではなく、最近続いているオープンソース供給網攻撃の流れの中で捉えています。つまり、OSSの人気パッケージを踏み台にして開発者環境を取るという攻撃モデルが、今後さらに一般化する可能性があります。

    企業の情報システム部門やセキュリティ担当者にとって重要なのは、「脆弱性管理だけではこの種の攻撃を十分に捉えきれない」という点です。今回のようなAxiosのサプライチェーン攻撃では、CVEの有無より先に、配布経路、署名・公開フロー、依存解決、CI実行タイミングがリスクの中心になります。ソフトウェア部品表、依存関係監視、公開直後版のクールダウン、Trusted Publisherの徹底、CIシークレット分離といった運用論が、一気に現実味を帯びたといえます。

    Axiosのサプライチェーン攻撃から企業が学ぶべきこと

    本事案は、「有名ライブラリだから安全」「公式アカウントから出た版だから安全」という前提が崩れたことを示しています。開発の現場では、依存ライブラリの更新を迅速化するほど生産性は上がりますが、その一方で悪性版を取り込むリスクも高まります。そのため今後は、すべての更新を遅くするのではなく、公開直後の版に対する短い待機期間、異常依存の検知、ビルド時の外部通信監視、重要トークンの短命化といった、現実的な防御策を重ねることが必要になります。特に経営層は、本事案を「OSS(オープンソースソフトウェア)利用の危険性」と短絡的に考えるべきではありません。OSSは現代開発の基盤であり、排除は現実的ではありません。問われるのは、OSSを使う前提でどう監視し、どう公開フローを信頼し、どう侵害時に被害を限定するかということです。Axiosのサプライチェーン攻撃は、その問題を開発部門だけでなく、情シス、CSIRT、監査、経営まで広げた事件として位置づけるべきでしょう。

    まとめ

    Axiosのサプライチェーン攻撃は、2026年3月31日に発生したnpm改ざん事案であり、axios@1.14.1とaxios@0.30.4に悪性依存関係plain-crypto-js@4.2.1が混入していました。インストール時のpostinstallでクロスプラットフォームのRAT(Remote Access Trojan)配布が行われる構造で、影響判定の中心は「使ったかどうか」ではなく、その時間帯にその版を取得したかどうかです。もし該当版を導入していれば、パッケージの入れ替えだけで済ませず、開発端末やCI環境を侵害前提で調査し、認証情報のローテーションまで含めて対応する必要があります。今回の事件は、npm、JavaScript、依存関係管理の問題、そしてサプライチェーン攻撃対策を考えるうえで、2026年を代表するケースの一つになるでしょう。


    サイバーインシデント緊急対応

    セキュリティインシデントの再発防止や体制強化を確実に行うには、専門家の支援を受けることも有効です。BBSecでは緊急対応支援サービスをご提供しています。突然の大規模攻撃や情報漏洩の懸念等、緊急事態もしくはその可能性が発生した場合は、BBSecにご相談ください。セキュリティのスペシャリストが、御社システムの状況把握、防御、そして事後対策をトータルにサポートさせていただきます。

    サイバーセキュリティ緊急対応電話受付ボタン
    SQAT緊急対応バナー

    ウェビナー開催のお知らせ

  • 2026年4月10日(水)14:00~15:00
    ランサムウェア時代のIT-BCP入門~サイバー攻撃によるシステム停止に備える実践的な策定ステップ~
  • 2026年4月15日(水)14:00~15:00
    AI時代のサイバー脅威最前線 ― IPA『情報セキュリティ10大脅威2026』から学ぶ防御戦略 ―
  • 2026年4月22日(水)14:00~15:00
    Swift CSCF v2026変更点解説セミナー ― Control 2.4 (Back Office Data Flow Security)の必須化とCustomer client connectorへの要件適用拡大 ―
  • 最新情報はこちら

    編集責任:木下

    Security NEWS TOPに戻る
    バックナンバー TOPに戻る


    資料ダウンロードボタン
    年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
    お問い合わせボタン
    サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

    Security Serviceへのリンクバナー画像
    BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
    セキュリティ緊急対応のバナー画像

    TLSバージョンの確認方法とは?ブラウザ・OpenSSL・ツールでのチェック手順と安全な設定ポイント

    Share
    「TLSバージョンの確認方法とは?ブラウザ・OpenSSL・ツールでのチェック手順と安全な設定ポイント」アイキャッチ画像

    サイバー攻撃の多くは、暗号化通信の不備や古いセキュリティ設定を狙って行われます。特に、TLS(Transport Layer Security)の設定が適切でない場合、通信の盗聴や改ざんといったリスクが高まります。そのため、企業のWebサイトやシステムでは、現在使用しているTLSバージョンを正しく把握し、安全な設定を維持することが重要です。本記事では、TLSバージョンの確認方法と、安全な設定・運用のポイントを実務視点で解説します。

    TLS設定の全体像やリスクについては、基礎解説の記事とあわせて確認すると理解が深まります。TLS設定の全体像やリスクを先に理解したい方は、「TLS設定の安全性と確認ポイント」 を先にお読みください。

    TLSとは?(基本の整理)

    TLSは、インターネット上の通信を暗号化するためのプロトコルです。HTTPS通信は、このTLSによって保護されており、通信内容の盗聴や改ざんを防ぐ役割を担っています。

    TLSのバージョン移行の背景

    TLSはこれまで複数のバージョンが提供されてきましたが、セキュリティ上の問題により、古いバージョンは段階的に非推奨となってきました。特にTLS1.0およびTLS1.1は、暗号技術の脆弱性や攻撃手法の進化により安全性が不十分とされ、現在では主要なブラウザやサービスにおいて無効化されています。その結果、現在のWeb環境ではTLS1.2以上の利用が標準となり、さらにセキュリティと性能を強化したTLS1.3への移行が進んでいます。

    TLSの仕組みやバージョンごとの違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。
    TLS設定の安全性と確認ポイント:古い暗号設定が引き起こすリスクと改善手順

    TLSバージョンの確認方法

    TLSバージョンは、以下の方法で確認できます。

    ブラウザで確認(例:Chrome)

    1. Webサイトにアクセス
    2. F12で開発者ツールを起動
    3. [Security]タブを選択 →「Connection is secure」の項目を確認→ “TLS 1.3” などと表示されます

    OpenSSLコマンドで確認(Linux/Mac)

    “`bash
    openssl s_client -connect example.com:443 -tls1_3

    オンラインツールで確認

    • SSL Labs: https://www.ssllabs.com/ssltest/
    • CDN77: https://tools.cdn77.com/tls-test

    最新のTLSバージョン利用状況

    2025年時点における主要WebサイトのTLS対応状況を見ると、TLS 1.2は引き続き広く利用されており、TLS 1.3の採用も大きく進んでいます。一方で、TLS 1.0およびTLS 1.1は大幅に減少し、実運用ではほぼ利用されない状況となっています。

    【各プロトコルバージョンのサポート状況】

    出典:Qualys SSL Labs SSL Pulse (https://www.ssllabs.com/ssl-pulse/

    現在もTLS 1.2が広く利用されていますが、多くの環境でTLS 1.3にも対応しており、サーバとブラウザの双方が利用可能な場合には、より新しいバージョンが優先的に使用されます。

    また、最新のブラウザ環境では、通信の多くがTLS 1.3で行われるケースが増えており、特に主要サイトではTLS 1.3の利用が標準的になりつつあります。こうした傾向から、暗号化通信はTLS 1.3を中心とした環境へ移行が進んでいます。

    さらに、主要ブラウザにおいてTLS 1.0およびTLS 1.1が無効化されたことで、これらの古いバージョンは互換性維持の目的でもほとんど利用されなくなっています。セキュリティおよび互換性の観点からも、TLS 1.2以上への対応が必須となっています。

    古いTLS(TLS1.0 / 1.1)バージョンを使い続けるリスク

    TLS1.0や1.1は既に非推奨であり、脆弱性が存在します。攻撃者は、サーバを攻撃するにあたって必ずブラウザを経由するわけではないため、TLS 1.1以下の接続を許容すること自体が危険であり、攻撃者にとって狙いやすいターゲットとなる可能性があります。脆弱性を悪用された場合、通信を盗聴し復号することで重要情報の窃取が可能になるというリスクも考えられます。

    多くのサイバー攻撃は、古いTLSバージョンなどの脆弱性を悪用して侵入されます。
    脆弱性への具体的な対応方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
    脆弱性対応の基本と実践ポイント

    古いTLSが引き起こす問題と影響

    古いTLSバージョンの危険性:BEAST/ダウングレード攻撃とは

    BEAST攻撃SSL 2.0、SSL 3.0およびTLS 1.0 プロトコルに影響を及ぼし、攻撃者はWebブラウザとWebサイトとの間のSSL暗号化、またはTLS暗号化されたセッションのコンテンツを復号することができる*4
    ダウングレード攻撃TLS 1.1以下のプロトコルでは、認証付き秘匿モード等の安全性の高いアルゴリズムがサポートされていないため、強度の低い暗号アルゴリズムを強制的に使用させることができる*2

    現在のセキュリティ対策の指標として一般的に用いられる各種国際的標準でも、TLS 1.1以下の継続使用は下記のとおり推奨されていないため、利用している場合には、早急に対策を検討することが求められます。

    NIST(National Institute of Standards and Technology、
    米国立標準技術研究所)
    2018年10月、ガイドライン案公開。2024年1月1日までにTLSを使用するすべての米国政府のサーバでTLS 1.3をサポートすることを提案
    PCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard)2018年6月30日以降、初期TLSを利用しているシステムはクレジットカード業界における監査基準に適合しない
    ※POS POI環境のように既知の脆弱性の悪用が困難であったり、SSL/TLSをセキュリティコントロールとしては使用していなかったりする等、例外的にTLS 1.1以下が許容される場合がありますが、情報セキュリティのベストプラクティスではTLS 1.1以下のプロトコルバージョンはすべて非推奨とされています。*3

    TLS1.2/1.3への移行手順と設定のポイント

    安全な通信のためには、TLS1.2以上の利用が推奨されます。具体的には、TLS 1.1以下は無効(利用不可)とし、TLS 1.3およびTLS 1.2を有効にし、バージョンが新しいものから順に接続の優先度を高く設定してください。

    2018年8月には、TLS 1.3が正式リリースされました。以降、TLS 1.3に対応するプラットフォーム等が次々に利用可能になっています。例としては、OpenSSL 1.1.1系(2018年9月)、OpenSSL 3.0系*4(2021年9月)、Java SE/JDK 11(2018年9月)、Java SE/JDK 8バージョン8u261以上*5(2020年7月)や、そのほかにもRed Hat Enterprise Linux 8(2019年5月)が挙げられます。

    TLS 1.3のサポートにより、パフォーマンスとセキュリティが向上します。 構成上または仕組み上、現時点ではTLS 1.3を実装することが困難な場合、上記よりさらに古いシステムが稼働している可能性が考えられます。それらのシステムは、経年に伴う脆弱性の蓄積による影響や、サポート終了により新たに発見された脆弱性への対応策がなくなること等も危惧されます。

    設定時のチェックポイント

    • TLS1.0 / 1.1の無効化
    • 安全な暗号スイートの使用
    • 証明書の適切な管理

    TLS設定を継続的に管理する重要性

    TLS設定は一度確認すれば終わりではありません。実際の運用環境では、サーバ構成や他システムとの兼ね合いにより、「安全そうに見えてもリスクが残っている」ケースも少なくありません。自社サイトのTLS設定について、

    • 定期的なチェック
    • 設定変更時の再確認
    • 最新のセキュリティ情報の把握

    といった継続的な運用が重要です。

    各種ガイドラインの紹介

    PCI DSSについては、 2022年3月31日、Payment Card Industry Security Standards Council(PCI SSC)により、v4.0が公開されました。

    本ガイドラインは、各種国際的標準(NIST SP800/PCI DSSv4.0/OWASP ASVS等)の準拠に向けた取り組みや、暗号設定における今後のセキュリティ対策を検討する上でも役に立ちます。ぜひ参照されることをおすすめします。

    PCI DSS v4.0で求められるセキュリティ対策のポイントについては以下の記事で詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
    PCI DSS v4.0で変わるセキュリティ対策のポイント

    TLS設定確認を効率化する方法

    TLS設定の確認・管理を効率化するには、ツールや外部サービスの活用が有効です。

    • 現在の設定が本当に適切か判断できない
    • 古い設定や見落としがないか不安がある
    • 他のセキュリティリスクとあわせて確認したい

    と感じた場合は、第三者の視点で状況を整理することも有効です。

    BBSecでは

    TLS設定の確認だけでなく、システム全体のセキュリティを強化するには、専門的な診断の実施が有効です。脆弱性診断やセキュリティ対策についてご検討の方は、お気軽にご相談ください。

    ネットワーク脆弱性診断

    悪意ある第三者の視点で、ネットワークをインターネット経由またはオンサイトにて診断し、攻撃の入口となる可能性のある箇所を検出します。システムの導入・変更・アップグレード時、運用中のシステムの定期チェックにご活用いただけます。

    ネットワーク診断バナー広告

    デイリー自動脆弱性診断

    内部ネットワークおよびWEBサイトの脆弱性を自動診断し、その結果を専用のWEBページで報告します。新規設備投資が不要で、即時に結果を確認できるので、脅威が現実となる前に対策を施すことが可能になります。

    CPEバナー広告

    TLS設定の基本的な考え方やリスクについては、
    →「TLS設定の安全性と確認ポイント」もあわせてご覧ください。


    公開日:2022年4月6日
    更新日:2026年4月1日

    編集責任:木下

    Security NEWS TOPに戻る
    バックナンバー TOPに戻る


    資料ダウンロードボタン
    年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
    お問い合わせボタン
    サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

    Security Serviceへのリンクバナー画像
    BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
    セキュリティ緊急対応のバナー画像

    武蔵小杉病院へのランサムウェア攻撃 ―第2報から読み解くランサムウェア侵入経路と影響範囲―

    Share
    「武蔵小杉病院へのランサムウェア攻撃 ―第2報から読み解くランサムウェア侵入経路と影響範囲―」アイキャッチ画像

    2026年2月、日本医科大学武蔵小杉病院は「院内の医療情報システムの一部がランサムウェア攻撃を受け、障害が発生した」こと、そしてそれに伴い患者の個人情報漏洩が確認されたことを公表しました*6。病院の発表は「第2報」という位置づけで、被害範囲、時系列、侵入経路、当面の診療体制、相談窓口までが具体的に示されています。まず強調したいのは、憶測で語られがちな“病院のサイバー攻撃”を、ここでは病院自身が明言した事実ベースで解説する点です。本記事では今回の公表内容(第2報)を中心に、医療機関サイバーセキュリティの観点で「何が起きたのか」「なぜ起きやすいのか」「利用者は何に気を付けるべきか」をわかりやすくまとめます。

    侵入経路は“医療機器保守用VPN装置”

    病院の第2報で明記された「攻撃を受けたシステム」は、ナースコールシステムのサーバー3台です。ナースコールは入院患者が看護師を呼ぶための仕組みとして広く知られていますが、その裏側では端末やサーバーが稼働し、運用上の都合から患者情報と結び付いているケースも珍しくありません。今回、病院は当該サーバーがランサムウェア攻撃を受けたことを認め、さらに調査の結果として「侵入経路は医療機器保守用VPN装置であった」ことが確認されたとしています。

    ここでいうVPN装置は、医療機器メーカーなどが遠隔で保守作業を行う目的で用いられることが多い仕組みです。便利な一方で、通常のIT統制の枠外に置かれやすいのが現実です。たとえば、病院の標準的なIT統制から外れた管理になっていたり、資産管理やパッチ適用、アクセス制御、多要素認証などの基本対策が後回しになっていたりします。厚生労働省も注意喚起の中で、VPN装置を含むゲートウェイ機器の脆弱性対策、管理インターフェースのアクセス制限、認証強化などを重要ポイントとして挙げています。今回の発表内容は、まさにその“急所”が突かれ得ることを示す事例として受け止めるべきでしょう。

    漏洩した個人情報

    病院は、漏洩が確認された個人情報の項目として、氏名、性別、住所、電話番号、生年月日、患者IDを挙げています。また、漏洩が確認された人数は「約1万人」で、これは2026年2月14日11時時点の確認値だとされています。一方で、患者が特に気にすると考えられる医療内容そのものについて、病院は「カルテ情報」の漏洩は現時点で確認されていないと明記しています。さらに、クレジットカード情報、マイナンバーカード情報についても、現時点では漏洩確認がないとしています。ここは不安を抱く利用者にとって重要なポイントです。ただし、ここでの注意点は「現時点では確認されていない」という表現が示す通り、調査が進む過程で情報が更新される可能性がゼロではないことです。病院も、仮に漏洩拡大が判明した場合はホームページで速やかに報告するとしています。

    いつ気づき、どう動いたのか

    第2報には、攻撃を認識した日時と経緯が日付単位で整理されています。最初の兆候は2026年2月9日午前1時50分頃、病棟のナースコール端末が動作不良となり障害を把握したことでした。その後、ナースコールシステムのベンダー調査により、サーバーがランサムウェア攻撃を受けたことが判明したとされています。病院は当該システムと関連ネットワークを遮断し、同日に文部科学省、厚生労働省、所轄警察へ報告したと公表しています。

    続く2月10日には、厚生労働省の初動対応チームの派遣要請を行い、外部接続ネットワークを遮断してサーバー保全を開始。2月11日には初動対応チームの調査により、当該サーバーが院外と不正通信を行い、患者の個人情報を窃取していたことを確認したとされています。さらに、電子カルテを含む他の医療情報システムへの影響調査、外部接続ネットワーク機器の脆弱性や設定の調査も開始した、と時系列で説明されています。2月12日に個人情報保護委員会へ報告し、2月13日には漏洩した患者へ郵送でのお詫び連絡を開始した、と続きます。

    この流れを見ると、ポイントは二つあります。ひとつは「障害として最初に見えた」こと、もうひとつは「通信ログ等の調査で情報窃取の事実確認に至った」ことです。ランサムウェアは“暗号化して身代金要求”のイメージが強い一方で、近年は暗号化だけでなく情報窃取を組み合わせ、二重三重の脅迫に発展するケースが問題視されてきました。今回の発表でも「不正通信」と「窃取」が明確に言及されており、病院がそこを重要事実として公表している点は見落とせません。

    病院業務は止まったのか

    医療機関へのサイバー攻撃で最も懸念されるのは、診療の停止や救急の受け入れ停止など、医療提供体制への影響です。今回、病院は2026年2月14日時点で、外来、入院、救急受け入れはいずれも通常通り実施していると説明しています。また「他の医療情報システムへの影響は現時点では確認されていない」とし、病院業務は通常通りと明記しています。

    ここで大事なのは、“通常通り”という言葉の解釈を膨らませすぎないことです。病院が示したのは、その時点で確認できている範囲の診療体制であり、現場では臨時対応や負荷増が起きている可能性はあります。ただ、少なくとも公表文の事実としては、全面停止や救急停止を示す記述はなく、「止めずに継続している」という説明が中心です。

    病院がとった封じ込めと復旧対応

    第2報の中で、病院は「当該システム及び外部との通信を一切遮断し、専門家や電子カルテベンダーと共に、他のシステムへの影響について詳細な現況調査を継続して実施しております。」とし、原因となったランサムウェアの特定を完了し、「ウイルス対策ソフト会社より提供された最新のパターンファイルを用いて、現在、院内全域でのウイルス駆除作業を実施しております。」と説明しています。

    サイバーインシデント対応として見ると、ここには典型的な優先順位が現れています。まず“広げない”ための遮断、次に“証拠を残す”ための保全、その上で“横展開の確認”として他システム影響調査、そして“回復”のための駆除作業です。特に医療機関では、電子カルテだけ守っても安全とは言い切れません。ナースコールのような周辺系、委託業者や医療機器ベンダーの保守経路、ネットワーク機器設定など、境界にある仕組みが狙われると、想定外の入口になります。私たちが特に注目すべきと考えるのは、医療機器保守用VPN装置が侵入経路として公表された点です。これは医療機関のセキュリティ対策が“例外管理”に弱いことを改めて突き付けています。

    詐欺・なりすましへの警戒

    今回漏洩が確認された情報には、氏名、住所、電話番号、生年月日が含まれます。これは、金融情報そのものではない一方で、なりすまし、勧誘、フィッシング、特殊詐欺の“材料”として悪用されやすい属性情報です。病院は、漏洩した患者に対して「直接連絡する」とし、実際に2月13日から郵送によるお詫び連絡を開始したと公表しています。したがって利用者側の現実的な対策は、まず「病院から届く郵送物や案内」を冷静に確認し、連絡先や手続きが公表内容と整合するかを見極めることです。そして電話やSMS、メールで“病院を名乗る連絡”が来た場合、いきなり個人情報を追加で伝えたり、リンクを開いて入力したりせず、病院が設置した問い合わせ窓口など、公式に案内された経路へ折り返し確認するのが安全です。病院は本件の相談・問い合わせ専用窓口(専用ダイヤルの複数回線やフリーダイヤル運用開始予定)を案内していますので、確認の際はそうした公式窓口を使うのが基本になります。

    よくある疑問:電子カルテは大丈夫なのか、身代金は払ったのか

    「電子カルテは大丈夫なのか」という疑問に対しては、病院の公表では、「他の医療情報システムへの影響は現時点では確認されていない」とされています。つまり、“影響なし”と断定しているというより、調査継続の前提で“少なくとも現時点の確認では影響が見つかっていない”という説明です。ここは言葉通りに受け止め、今後の更新を注視するのが適切です。

    「身代金を払ったのか」という点については、第2報の本文からは読み取れません。少なくとも病院は、侵入経路、漏洩項目、診療状況、当局報告、遮断・調査・駆除といった事実を中心に説明しており、金銭要求や支払いに関する記載は確認できません。ここで外部の憶測を混ぜると正確性が落ちるため、本記事では触れません。

    なぜ医療機関は狙われるのか:つながる医療機器

    医療機関のサイバー攻撃を考えるとき、電子カルテだけを守ればよいという発想は危険です。病院には、医療機器、保守用回線、委託業者のネットワーク接続、建物設備、ナースコールのような周辺システムまで、多様な“つながる仕組み”があります。しかも医療の現場は24時間止められず、更新・停止・入れ替えが難しい機器も少なくありません。結果として、VPN装置のような境界機器が古い設定のまま残りやすかったり、管理者が限定されて全体の統制が効きにくかったりします。

    厚生労働省の注意喚起でも、VPN装置を含むゲートウェイ機器の脆弱性対策を迅速に行うこと、管理インターフェースのアクセス制限を行うこと、多要素認証などで認証を強化すること、資産(IoT機器を含む)の把握を行うことが示されています。武蔵小杉病院の件で侵入経路が医療機器保守用VPN装置である、と公表されたことは、これらが“机上の理想”ではなく、現実の被害と直結する論点であることを、改めて裏付ける材料になっています。

    企業・組織側が学ぶべき教訓:VPNと保守経路の統制はセキュリティの“盲点”

    今回の公表内容から読み取れる最大の教訓は、保守のための例外的な経路を放置しないことです。医療機関に限らず、製造業、ビル管理、自治体、教育機関などでも、ベンダー保守用VPNは現場の利便性を理由に残りやすく、監査や更新の網から漏れがちです。だからこそ、ネットワーク図に載っていない接続点、ベンダーしか触れない装置、管理台帳にない機器といった“影の資産”を可視化し、アクセス制御、ログ監視、脆弱性対応、認証強化、契約と運用ルールの整備まで含めて統制する必要があります。また、今回病院が行ったように、初動で外部接続を遮断し、当局に報告し、初動対応チームや専門家と連携しながら調査と封じ込めを進めることは、医療機関のインシデントレスポンスとして重要です。平時から、遮断判断の基準、連絡系統、証拠保全の手順、ベンダー連携の契約条項、代替運用を準備しておかなければ、同じ判断を迅速に実行するのは難しくなります。

    まとめ

    日本医科大学武蔵小杉病院の公表によれば、今回のサイバー攻撃はナースコールシステムがランサムウェア攻撃を受けたことに端を発し、医療機器保守用VPN装置が侵入経路として確認され、患者の個人情報が窃取されたとされています。漏洩は約1万人、項目は氏名や住所、電話番号、生年月日、患者IDであり、カルテ情報やクレジットカード情報、マイナンバーカード情報の漏洩は現時点で確認されていない、というのが病院の説明です。

    “病院のサイバー攻撃”という言葉は刺激的ですが、重要なのは、どのシステムが攻撃され、どの経路が弱点になり、どんな情報が漏洩し、利用者と組織が何に備えるべきかを、事実に即して理解することです。今回の事例は、電子カルテ以外の周辺システムも含めた医療機関サイバーセキュリティの必要性、そしてVPN装置や保守経路を例外扱いしない統制の重要性を、強く示しています。今後も病院の続報で情報が更新される可能性があるため、一次情報の確認を前提に、過度な憶測ではなく、現実的な警戒と備えにつなげることが肝要です。

    サイバーインシデント緊急対応

    セキュリティインシデントの再発防止や体制強化を確実に行うには、専門家の支援を受けることも有効です。BBSecでは緊急対応支援サービスをご提供しています。突然の大規模攻撃や情報漏洩の懸念等、緊急事態もしくはその可能性が発生した場合は、BBSecにご相談ください。セキュリティのスペシャリストが、御社システムの状況把握、防御、そして事後対策をトータルにサポートさせていただきます。

    サイバーセキュリティ緊急対応電話受付ボタン
    SQAT緊急対応バナー

    ウェビナー開催のお知らせ

  • 2026年3月4日(水)14:00~15:00
    脱PPAP対策、添付ファイル運用、本当に最適ですか? ―添付するだけで自動分離。運用を変えない選択肢―
  • 2026年3月18日(水)14:00~15:00
    2026年、企業が直面するサイバー脅威 ― IPA 『情報セキュリティ10大脅威 2026』から考える対応戦略 ―
  • 2026年4月15日(水)14:00~15:00
    AI時代のサイバー脅威最前線 ― IPA『情報セキュリティ10大脅威2026』から学ぶ防御戦略 ―
  • 最新情報はこちら

    Security NEWS TOPに戻る
    バックナンバー TOPに戻る


    資料ダウンロードボタン
    年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
    お問い合わせボタン
    サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

    Security Serviceへのリンクバナー画像
    BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
    セキュリティ緊急対応のバナー画像

    【速報版】情報セキュリティ10大脅威 2026 -脅威と対策を解説-

    Share
    【速報版】情報セキュリティ10大脅威 2026 -脅威と対策を解説-アイキャッチ画像

    2026年1月29日、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は「情報セキュリティ10大脅威 2026」(組織編)を公表しました。各脅威が自身や自組織にどう影響するかを確認することで、様々な脅威と対策を網羅的に把握できます。多岐にわたる脅威に対しての対策については基本的なセキュリティの考え方が重要です。本記事では、脅威の項目別に攻撃手口や対策例をまとめ、最後に組織がセキュリティ対策へ取り組むための考え方について解説します。

    「情報セキュリティ10大脅威 2025」の解説はこちら。ぜひあわせてご覧ください。
    【速報版】情報セキュリティ10大脅威 2025 -脅威と対策を解説-

    情報セキュリティ10大脅威 2026概要

    出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
    「情報セキュリティ10大脅威 2026」(https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2025/press20260129.html)(2026年1月29日)組織向け脅威

    独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は「情報セキュリティ10大脅威 2026」を発表しました。「組織」向けの脅威では、1位に「ランサム攻撃による被害」、2位「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が前年と同じ順位を維持。3位には「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初選出にして上位にランクインし、AIの利活用におけるリスクが無視できないものであることを示しています。また、6位の「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃」には「情報戦を含む」と追記され、偽情報などの影響工作も含む脅威と明示化されました。昨年では10位にランクインしていた「不注意による情報漏えい等」が圏外となりました。

    2025年度版との比較

    昨年との比較でまず注目したいのは、「AIの利用におけるサイバーリスク」が初選出にして3位という上位にランクインしたことです。生成AI(LLM:大規模言語モデル)の急速な普及に伴い、「AIを利用した際の情報漏えいや権利侵害」、「AIが生成した誤情報を鵜呑みにすることで生じる問題」、そして「AIの悪用におけるサイバー攻撃の容易化・高度化」と多岐にわたるリスクが現実的な脅威となっています。

    新規項目のランクインに伴い、「不注意による情報漏えい等」が圏外となりましたが、不注意による情報漏えいは引き続き発生しており、対策が必要な脅威です。その他の項目については大きな変化はなく、「ランサム攻撃による被害」と「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」は、例年通り不動の1位2位となっています。

    日本の大手企業も被害にあった「ランサム攻撃による被害」「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」

    2025年版に続き、「ランサムウェアによる被害」と「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」が1位・2位を占めました。これは2023年以降4年連続となっており、情報処理推進機構(IPA)によると、2025年もランサムウェア被害が多発し、取引先を含むサプライチェーン全体へ深刻な影響が及んだ事実が、この順位の不動ぶりを表しているとのことです。

    ランサムウェア攻撃は、データを暗号化して復旧と引き換えに身代金を要求する手口に加え、窃取情報の公開をちらつかせる「二重脅迫」が主流です。2025年の象徴的な事例として、アサヒグループホールディングスへのランサムウェア攻撃がありました。これにより、受注・出荷システムに障害が発生し、一部商品の品薄など消費者にも影響が波及しました。また国内飲料事業では、昨年10月の暫定売上が前年同月比で約6割に落ち込むなど、事業面に大きな爪痕を残しています。*2

    アサヒグループホールディングスへのランサムウェア攻撃をはじめとした、国内のランサムウェア被害の事例については、以下の記事でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
    【速報】アサヒグループホールディングス社長会見、犯行は「Qilin」―サイバー攻撃の全貌とセキュリティの盲点https://www.sqat.jp/kawaraban/40295/
    アサヒグループを襲ったランサムウェア攻撃https://www.sqat.jp/kawaraban/39292/
    ・アサヒグループも被害に ―製造業を揺るがすランサムウェア攻撃https://www.sqat.jp/kawaraban/39672/
    ・【2025年最新】日本国内で急増するランサムウェア被害-無印良品・アスクル・アサヒグループの企業の被害事例まとめ-https://www.sqat.jp/kawaraban/39635/

    ランサムウェア攻撃は有名企業に限らず、体制が手薄な中小企業も広く標的とします。ひとたびシステムが完全に暗号化されると、復旧には多大な時間とコストを要します。そのため、侵入を防ぐ観点では、外部公開されたVPN機器等の棚卸しによる不要な経路の閉鎖、必要な経路への多要素認証の徹底、そして機器の脆弱性管理を継続することが重要です。あわせて、侵入されても業務を止めないために、ネットワークから切り離したバックアップの確保や復元訓練、ログ監視、初動手順の整備を行い、平時から「短期間で業務を戻せる設計」を作っておくことが求められます。

    一方、サプライチェーン攻撃は、標的企業への直接侵入が難しい場合に、セキュリティ対策が手薄な取引先や委託先を足がかりに侵入する点が特徴です。多くの企業がクラウドサービスや外部ベンダーに依存する現在、攻撃者はその隙を狙っています。2025年の事例として、アスクル株式会社のシステムへのランサムウェア攻撃がありました。例外的に多要素認証を適用していなかった業務委託先の管理者アカウントが侵入経路になったとされています。*2 その結果、出荷業務の停止に追い込まれ、約52億円を特別損失に計上する事態へと発展しました。*3

    サプライチェーン攻撃は自社の努力だけでは防ぎきれず、委託先を含む全体での統制が必要です。契約時にセキュリティ要件を明確にし、例外運用を恒常化させない仕組み作りが不可欠です。加えて、ゼロトラストアーキテクチャを採用し、すべてのアクセスを検証する仕組みを構築することも有効な対策となります。

    急速な普及と共に顕在化している「AIの利用をめぐるサイバーリスク」

    「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、新たに「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が3位にランクインしました。ここでのリスクとは、AIへの理解不足に起因する情報漏えいや権利侵害、誤情報の鵜呑みによる判断ミス、さらにAI悪用によるサイバー攻撃の容易化・巧妙化など多岐にわたります。例えば、英国企業ArupではAI技術(ディープフェイク)で生成された偽のCFOや従業員とのビデオ会議により、2,500万ドルの詐欺被害に遭ったと発表されました。「映像や音声で会話ができるなら本人に間違いない」という心理的な隙を突いた攻撃手法です。*4また、「KawaiiGPT」のような攻撃用にカスタマイズされた悪性AIの登場により、経験の浅い攻撃者でも、従来は数時間〜数日かかっていた攻撃サイクルをわずか数分で実行できる環境が整備されつつあります。また、「KawaiiGPT」のような攻撃用にカスタマイズされた悪性AIの登場により、経験の浅い攻撃者でも、従来は数時間〜数日かかっていた攻撃サイクルをわずか数分で実行できる環境が整備されつつあります。*5

    攻撃を受けるリスクだけでなく、AIの「利用者側」のリスクも無視できません。米国企業Teslaは、発表イベントで使用したAI生成画像が既存映画の場面に酷似しているとして、制作会社から提訴されました。*6自社生成した画像であっても、意図せず既存作品に似てしまい法的リスクを招く一例です。また、生成AIが捏造した判例や引用を、弁護士が検証不足のまま提出して懲戒処分などに発展した事例も複数報じられています。*7これは法務だけの問題ではなく、AIによる「もっともらしい誤情報」が人の判断ミスを誘発するという重要な示唆を含んでいます。基本的なセキュリティ対策の徹底はもちろんですが、不十分な理解のままAIを利用するリスクを認識し、教育を通じてAIリテラシーを強化することも重要となっています。

    情報戦への拡大「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃(情報戦を含む)」

    「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃」とは、国際情勢の緊張や対立が、直接的にサイバー空間の脅威へと波及するリスクを指します。今回、項目名に「情報戦を含む」と明示されたように、国家が支援するサイバー攻撃は、システムの破壊や金銭の窃取に留まりません。偽情報の流布や情報操作を通じて、選挙への介入や社会の混乱を狙うケースが増加しています。英国では、現職議員が「離党を宣言する」かのようなAI生成の偽動画(ディープフェイク)が拡散され、本人が警察に通報する事態が報じられました。*8これは、AIによって「本物に見える偽情報」の作成コストが劇的に低下し、政治家を標的とした情報工作が、選挙制度や民主主義にとって深刻な脅威となりつつあることを示しています。

    このように、地政学的リスクに伴うサイバー攻撃において、情報戦や影響工作のリスクが今後も高まると予測されることが、今回あえて「情報戦を含む」と明記された背景にあると考えられます。

    その他の脅威

    ここからは、これまでに述べた4つ以外の脅威について説明します。

    4位「システムの脆弱性を悪用した攻撃」

    ソフトウェアやシステムの脆弱性が発見されると、攻撃者は修正プログラムが提供される前に攻撃を仕掛ける「ゼロデイ攻撃」を行うことがあります。また、修正プログラム公開後であっても、適用の遅れている企業や組織を狙い、既知の脆弱性を悪用するケースも後を絶ちません。2025年に報告されたNext.jsの脆弱性「React2Shell」の事例(※ページ下部に参考情報記載)では、公表からわずか二日後に実際の攻撃が確認され、一週間以内に観測された攻撃試行回数は約140万回にも及んだとされています。*9このように攻撃者は脆弱性公開から直ちに悪用を開始するため、最新情報を常に追跡し、迅速に対応することが求められます。

    対策: 最新のセキュリティパッチを迅速に適用することが不可欠です。また、どこにどのソフトウェアが使われているかを把握するため、SBOM(ソフトウェア部品表)の導入など、脆弱性管理体制の強化が有効です。

    5位「機密情報を狙った標的型攻撃」

    標的型攻撃とは、明確な意思と目的を持った攻撃者が、特定の企業・組織・業界を狙い撃ちにするサイバー攻撃です。不特定多数への無差別な攻撃とは異なり、機密情報の窃取やシステムの破壊・停止といったゴールを定め、執拗に実行される点が特徴です。攻撃は長期間継続することが多く、ターゲットのネットワーク内部に数年間にわたり潜伏して活動する事例も確認されています。

    対策: 従業員への標的型攻撃メール訓練、メールセキュリティの強化、多要素認証の実施などが基本的です。加えて、侵入を前提とした「ゼロトラストモデル」の導入やネットワーク監視、アプリケーション許可リストの活用により、侵入の防止だけでなく早期発見と対処を可能にする体制づくりが有効です。

    7位「内部不正による情報漏えい等」

    組織の従業員や元従業員など、内部関係者による機密情報の持ち出しや削除といった不正行為を指します。これには、組織への不満や金銭目的による「悪意ある犯行」だけでなく、ルールに違反して持ち出したデータの紛失・誤操作といった、第三者への漏えいにつながる「過失」も含まれます。発生すれば、社会的信用の失墜、損害賠償、顧客離れや取引停止に加え、技術情報の流出による競争力低下など、組織に甚大な損害をもたらす恐れがあります。

    対策: アクセス権限の最小化、ログ監視の強化、定期的な従業員教育、退職者のアカウント管理徹底、そして機密情報の持ち出しルールの策定などが有効です。これらを組み合わせ、不正行為の「抑止」と「早期発見」を図ることが重要です。

    内部不正による情報漏えいついては以下の記事でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。「内部不正による情報漏えい-組織全体で再確認を!-

    8位「リモートワーク等の環境や仕組みを狙った攻撃」

    新型コロナウイルス対策を契機にテレワークが急速に普及し、社外からVPN経由でシステムへアクセスしたり、オンライン会議を行ったりする機会が定着しました。その結果、セキュリティ対策が不十分な自宅ネットワークや私物PCの業務利用に加え、従来は出張時や緊急時のみの使用を想定していたVPN機器等が、恒常的に使われるようになりました。こうしたテレワーク環境に脆弱性が残っていると、社内システムへの不正アクセスやマルウェア感染、Web会議の盗聴といった深刻なリスクにつながります。トレンドマイクロによれば、過去2年間に行ったランサムウェア被害に対するインシデント対応支援の中でも、およそ7割がVPN経由の事例とのことであり、VPN機器の徹底した管理が求められます。*10

    対策: ゼロトラストセキュリティの導入、VPN装置等のネットワーク機器に対するセキュリティ強化とパッチ適用、多要素認証の徹底、そして従業員へのセキュリティ教育の実施などが有効です。

    9位「DDoS攻撃(分散型サービス妨害攻撃)」

    攻撃者が乗っ取った複数の機器(ボットネット)から、特定のサーバやネットワークに対して大量の通信を送り付け、サービスを停止に追い込む攻撃です。近年は、セキュリティ対策が手薄なIoT機器が悪用され、攻撃規模が巨大化しています。また、単なる愉快犯的な妨害だけでなく、攻撃停止と引き換えに金銭を要求する「ランサムDDoS」が増加傾向にあります。これにより、ECサイトの長時間のダウンによる金銭や顧客の離脱などの機会損失や、クラウドサービスの従量課金制を悪用し、数千万円規模の過大請求を発生させる(EDoS攻撃)等、事業継続に直結する深刻な被害が発生しています。

    対策:自社設備だけでの防御は困難なため、CDN(Contents Delivery Network)やWAF(Web Application Firewall)などの対策サービスを導入し、負荷分散と遮断を行うことが基本です。あわせて、攻撃の影響を受けない非常用回線の確保やシステムの冗長化、停止時の代替サーバや告知手段を事前に整備することが重要です。

    DoS攻撃/DDoS攻撃については以下の記事でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。「DoS攻撃のリスクと対策:アクセス急増の原因と見分け方、サービス停止を防ぐ初動対応

    10位「ビジネスメール詐欺」

    ビジネスメール詐欺(BEC:Business Email Compromise)は、業務連絡を装った巧妙な偽メールを組織・企業に送り付け、従業員を騙して資金を詐取するサイバー攻撃です。攻撃者は準備段階として、企業内の情報を狙ったり、ウイルスを使用して業務メールを盗み見たりすることで、本物そっくりの文面やタイミングを作り上げます。

    対策: 送信ドメイン認証(DMARC・SPF・DKIM)の導入やセキュリティソフトによるフィルタリング強化といった技術的対策に加え、不審な送金依頼に対する複数人確認ルールの徹底、従業員への訓練を行い、被害の防止と早期発見を図ることが有効です。

    ビジネスメール詐欺については以下の記事でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。 「ビジネスメール詐欺(BEC)の脅威と企業に求められる対策

    【参考情報】

    BBSecでは

    当社では様々なご支援が可能です。お客様のご状況に合わせて最適なご提案をいたします。当当サイトSQAT® jpのお問い合わせページよりお気軽にお問い合わせください。後日営業担当者よりご連絡させていただきます。

    SQAT® 脆弱性診断

    BBSecの脆弱性診断は、精度の高い手動診断と独自開発による自動診断を組み合わせ、悪意ある攻撃を受ける前にリスクを発見し、防御するための問題を特定します。Webアプリケーション、ネットワークはもちろんのこと、ソースコード診断やクラウドの設定に関する診断など、診断対象やご事情に応じて様々なメニューをご用意しております。

    SQAT脆弱性診断サービスバナー画像

    SQAT® ペネトレーションテスト

    「ペネトレーションテスト」では実際に攻撃者が侵入できるかどうかの確認を行うことが可能です。脆弱性診断で発見したリスクをもとに、実際に悪用可能かどうかを確認いたします。

    ウェビナー開催のお知らせ

  • 2026年4月15日(水)14:00~15:00
    AI時代のサイバー脅威最前線 ― IPA『情報セキュリティ10大脅威2026』から学ぶ防御戦略 ―
  • 最新情報はこちら

    編集責任:木下

    Security NEWS TOPに戻る
    バックナンバー TOPに戻る


    資料ダウンロードボタン
    年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
    お問い合わせボタン
    サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

    Security Serviceへのリンクバナー画像
    BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
    セキュリティ緊急対応のバナー画像
    ウェビナーアーカイブ動画ページバナー画像