ニチレイへのサイバー攻撃で何が起きた? RansomHouseの主張と情報漏えいの可能性・供給網への影響

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2026年7月13日、ニチレイは不正アクセスによるシステム障害を公表しました。影響は冷蔵倉庫の入出庫や冷凍食品の出荷に及び、7月24日に全拠点が通常稼働へ移行しました。その後、RansomHouseを名乗るグループによる犯行声明や、20万件以上のファイル公開が報じられています。本記事では、その後に明らかになった情報を踏まえ、公式発表で確認できる事実と攻撃者側の主張、第三者の観測を分けて整理し、食品・物流サプライチェーンへの影響と企業に求められる備えを解説します。

ニチレイが公式に確認したのは、サーバーへのサイバー攻撃、システム障害に伴う入出庫・出荷業務への影響、被害サーバーの一部に個人情報が保管されていたことです。一方、RansomHouseの関与、ランサムウェアによる暗号化、公開ファイルの真正性、情報漏えいの対象人数と範囲、侵入経路は、2026年8月13日時点で公式に確定していません。

※本記事は2026年8月13日時点で確認できる公表資料に基づき作成しています。RansomHouseの主張と20万件報道は、公式発表と混同しないよう補足情報として区分しています。

7月31日時点の公式発表に基づく経緯や、業務再開までの対応、BCPの観点はこちらの記事で解説しています。
前回記事(速報版) :「ニチレイへのサイバー攻撃で食品物流に影響―業務再開までの経緯と企業が見直すべきBCP

ニチレイへのサイバー攻撃で何が起きたのか

今回のニチレイへのサイバー攻撃は、情報システムだけの障害ではありませんでした。冷蔵倉庫の入出庫や冷凍食品の出荷が止まり、モノの流れそのものに影響が及んだ点が特徴です。食品物流は、保管温度や納品時間が厳しく管理される業務です。受発注や在庫、倉庫作業を支えるシステムが使えなくなれば、倉庫に商品があっても通常どおりに動かせない状況が起こり得ます。

ニチレイは障害発生当日に緊急対策本部を設置し、個人情報や顧客データの保護を優先してグループ内システムを遮断しました。遮断は被害拡大を防ぐために重要な措置ですが、その判断によって業務への影響が表面化することもあります。サイバーインシデントでは、「止めないこと」と「安全を確認できない状態で動かさないこと」の間で、経営判断が求められます。

ニチレイのサイバー攻撃を時系列で整理

7月13日~24日:サイバー攻撃の確認から通常稼働への移行

ニチレイは7月13日、不正アクセスによるシステム障害が発生したと発表しました。7月15日には自社サーバーへのサイバー攻撃を確認し、被害サーバーの一部に個人情報が保管されていたことから、個人情報保護委員会へ漏えいの可能性がある事案として速報しています。その後、7月17日から一部制限のもとで業務を順次再開し、7月24日には受発注制限を解除。影響を受けた全拠点が平常時の通常稼働へ移行しました。

※発生から業務再開までの詳しい経緯は、前回の速報版で解説しています。

8月7日:業績への影響を公表

8月7日の2026年12月期第1四半期決算説明資料(決算期変更に伴う変則決算)で、ニチレイはシステム障害による売上面のマイナス影響を最大50億円、営業利益への影響を8億円と見込み、緊急対応で発生したコストや今後見込まれる損失として特別損失10億円を織り込みました。金額の意味が異なるため、これらを単純に合算して「被害総額」とみなすことはできません。

8月10日:「20万件以上」のファイル公開が報じられる

8月10日、テレビ朝日ANNニュースはS&Jの観測として、RansomHouseを名乗るグループが少なくとも20万件以上のファイルを公開し、個人情報も含まれているとみられると報じました*1。ニチレイは追加で情報が公開されていることを把握しているものの、コメントを差し控えると回答したとされています。なお、8月13日時点で、ニチレイの公式サイトには第5報以降、漏えい範囲や対象人数を確定する追加発表は掲載されていません。

ニチレイから個人情報は漏えいしたのか

結論からいえば、ニチレイは「個人情報の漏えいの可能性」を公表していますが、実際に社外へ流出した情報の項目や対象人数、件数は明らかにしていません。公式に確認できるのは、被害サーバーの一部に個人情報が保管されていたこと、個人情報保護委員会へ報告したこと、対象者へ通知したことまでです。この対象者への通知が行われたこと自体も、個人情報の社外流出が確定したことを意味するものではありません。

個人情報保護法では、不正アクセスなどによる個人データの漏えいが発生した場合だけでなく、発生したおそれがある場合にも、一定の要件のもとで個人情報保護委員会への報告と本人通知が必要になります*2。したがって、「個人情報保護委員会へ報告した」という事実だけで、漏えいが確定したとは判断できません。調査が進むにつれて公表内容が更新されることもあるため、初報だけで結論づけず、続報を追う必要があります。

「20万件以上」は20万人分の個人情報ではない

報道で使われた「20万件以上」は、文書や画像、フォルダー内のデータなどを含むファイル数です。1人に複数のファイルがひもづく場合もあれば、個人情報を含まない業務資料が数えられている可能性もあります。反対に、1つのファイルに複数人の情報が含まれる可能性もあります。そのため、ファイル数から被害人数を換算することはできません。さらに、公開されたとされるファイルのすべてがニチレイから窃取された真正なデータなのか、S&Jがどの範囲を確認したのかについて、ニチレイによる公式な検証結果は出ていません。

RansomHouseとは?ニチレイへの犯行は確認されたのか

RansomHouseは、被害組織からデータを窃取し、公開をちらつかせて金銭を要求する恐喝活動で知られるグループです。パロアルトネットワークスのUnit 42は、RansomHouseをRansomware as a Service(RaaS)として分析し、データ窃取と暗号化を組み合わせる二重脅迫、ESXi環境を狙う管理ツール「MrAgent」と暗号化ツール「Mario」の利用を報告しています*3

ただし、これはRansomHouse一般の活動に関する技術分析です。ニチレイの環境でMrAgentやMarioが使われたこと、サーバーやファイルが暗号化されたことを示すものではありません。RansomHouseを名乗るグループは犯行を主張していますが、ニチレイは攻撃主体を公式に特定しておらず、侵入経路や攻撃手法も公表していません。

サイバー攻撃は食品・物流サプライチェーンへどう波及したか

ニチレイの事例で見落とせないのは、被害が自社のサーバー内にとどまらず、商品の保管と配送を待つ取引先や、その先の店舗運営へ波及し得ることです。食品物流は、多数の荷主、倉庫、輸配送会社、小売・外食企業をつなぐ共通基盤です。中核となる事業者の機能が止まれば、取引先自身のシステムが侵害されていなくても、商品を受け取れないという形で事業が止まります。

同時期、日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社(以降KFC)も、食材配送を委託する物流会社で発生した不正アクセス起因のシステム障害により、商品の一部品切れ、販売メニューの制限、営業時間の短縮などが生じたと公表しました*4。7月22日には全店舗への食材納品体制が整い、通常営業へ戻っています。KFCは物流委託先の社名を公表していないため、ニチレイの事案との関係を公式情報だけで断定することはできません。一方、この事例は、物流委託先のシステム障害が消費者向けサービスにまで波及し得る構造を示しています。

「サプライチェーン攻撃」と「サプライチェーンへの影響」は別物

ここで用語を分けて考える必要があります。サプライチェーン攻撃は一般に、取引先や委託先、利用するソフトウェアやサービスを足がかりとして標的へ侵入する攻撃を指します。今回、ニチレイへの侵入経路は公表されていないため、攻撃経路という意味でサプライチェーン攻撃だったとは断定できません。

一方で、サイバー攻撃による業務停止が供給網の先へ広がる「サプライチェーンリスク」は明確に表面化しました。侵入経路の問題と、事業依存関係による影響の連鎖は別の論点です。この二つを混同しないことが、ニュースを正確に読み、自社の対策へ落とし込む第一歩になります。

ニチレイが公表した業績への影響

ニチレイの2026年12月期第1四半期決算説明資料では、事業停止に伴う売上面のマイナス影響を最大50億円と見込んでいます。内訳は食品事業が20億円、低温物流事業が30億円です。営業利益への影響は8億円で、食品事業2億円、低温物流事業4億円、持株会社のシステム対応費用2億円とされています。さらに、緊急対応で発生したコストと今後発生が見込まれる損失として、10億円の特別損失を織り込みました。

※ニチレイが公表した売上への影響、営業利益への影響、特別損失は、それぞれ意味の異なる数字です。これらを単純に合算して「サイバー攻撃による被害総額」とみなすことはできません。

親会社株主に帰属する当期純利益の予想は252億円から204億円へ48億円下方修正されましたが、この48億円すべてがサイバー攻撃による損失ではありません。中東情勢によるコスト増や食品・物流事業の進捗など、複数の要因が含まれています。なお、連結売上高の通期予想自体は海外事業の伸長を反映して上方修正されています。

企業が学ぶべきサイバー攻撃対策

重要業務と外部依存を、システム単位ではなく事業単位で洗い出す

まず必要なのは、どのシステムが止まると、どの業務、取引先、商品、売上に影響するのかを平時に把握することです。自社システムの一覧だけでは足りません。物流、決済、クラウド、保守会社、受発注先など、重要業務を支える外部依存まで含め、許容停止時間と代替手段を整理します。委託先が止まった場合の連絡順序、手作業へ切り替えられる範囲、代替事業者の有無も、BCPとインシデント対応計画の両方で確認しておく必要があります。

また、インシデント対応訓練では自社がサイバー攻撃を受けるケースだけでなく、物流会社やクラウドサービス、主要な仕入先など、重要な委託先・取引先のシステムが停止するケースも想定することが重要です。自社システムが正常でも外部サービスが利用できない状況で、どこまで業務を継続できるのかを確認しておく必要があります。

「業務復旧」と「情報漏えい対応」を別の時計で管理する

ニチレイは7月24日に通常稼働へ移行しましたが、その後もダークウェブ上でのデータ公開が報じられました。ここから分かるのは、システム復旧の完了と、情報漏えい調査の完了は一致しないということです。前者は業務を安全に再開できるかという可用性の問題、後者は何が持ち出され、誰にどのような影響があるかという機密性と法令対応の問題です。復旧宣言後も、フォレンジック調査、漏えい範囲の特定、本人通知、二次被害の監視、対外説明を継続できる体制が欠かせません。

遮断・復旧・証拠保全を同時に進められる初動体制をつくる

攻撃を疑った場合は、インシデント対応責任者や専門家の判断のもと、必要に応じて感染が疑われる端末やサーバーをネットワークから隔離し、被害拡大を抑える必要があります。一方、電源断や安易な初期化によって調査に必要な証拠を失うおそれもあります。誰が遮断を判断し、どのログを保存し、外部の専門会社や警察、監督機関へいつ連絡するのかを事前に決め、机上訓練で確かめておくことが重要です。

経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver3.0 実践のためのプラクティス集 第4版」でも、インシデント発生に備えた体制構築とサプライチェーン全体での対策を経営課題として位置づけています。

バックアップは取得だけでなく、隔離と復旧テストまで行う

ランサムウェアを含む破壊的な攻撃に備えるには、バックアップを本番環境と同じ認証基盤やネットワークに置き続けないことが重要です。実際に戻せるかを定期的に試し、復旧に必要な時間が事業側の許容範囲に収まるかまで確認して、初めてBCPとして機能します。

よくある質問

▼ ニチレイへの攻撃はランサムウェアだったのですか?
▼ 20万件とは20万人分の個人情報ですか?
▼ 個人情報の漏えいは確定していますか?
▼ ニチレイのシステムと業務は復旧していますか?
▼ 今回の事案はサプライチェーン攻撃ですか?

まとめ―復旧の速さだけでは測れないサイバー攻撃の損失

ニチレイへのサイバー攻撃は、冷蔵倉庫と冷凍食品出荷の停止、取引先への影響、個人情報漏えいの可能性、財務損失という複数の問題を同時に突きつけました。全拠点が通常稼働へ戻った後にデータ公開が報じられた経緯は、事業継続と情報保護を別々に備える必要性を示しています。

企業が見るべきなのは、自社への侵入を防げるかだけではありません。重要な委託先が止まったときに業務を続けられるか、攻撃を検知した直後に安全に遮断できるか、バックアップから所定時間内に戻せるか、漏えい調査と対外説明を長期にわたって続けられるかまでが、現在のサイバー攻撃対策です。平時のうちに外部専門会社との連絡経路や調査体制を整え、実際のシナリオで検証しておくことが、被害の大きさを左右します。漏えい調査と対外説明を長期にわたって続けられるかまでを想定することが、現在のサイバーリスク対策には求められます。

参考情報

編集責任:木下


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    ニチレイへのサイバー攻撃で食品物流に影響―業務再開までの経緯と企業が見直すべきBCP

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    2026年7月、ニチレイがサイバー攻撃を受け、冷蔵倉庫の入出庫業務や冷凍食品の出荷業務に影響が生じました。同社は被害拡大を防ぐためグループのシステムを遮断し、一部制限のもとで業務を順次再開。7月24日には、影響を受けた業務が通常稼働へ移行しました。本事案は、サイバー攻撃が情報漏えいだけでなく、物流や取引先を含む事業継続にも影響を及ぼすことを示しています。本記事では、公式発表に基づいて対応の経緯を整理し、企業が見直すべきBCPについて解説します。

    ※本記事は2026年7月31日時点で確認できる公表資料に基づき作成しています。公表されていない製品名、CVE番号、攻撃者、侵入手法の詳細については推測を加えずに構成しています。

    ニチレイへのサイバー攻撃とは

    2026年7月13日、株式会社ニチレイは不正アクセスによるシステム障害が発生したと公表しました*5。影響が出たのは、ニチレイロジグループ各社の冷蔵倉庫における入出庫業務と、ニチレイフーズの冷凍食品出荷業務です。同社は発生当日に緊急対策本部を立ち上げるとともに、お客さまや取引先の個人情報・顧客データなどの保護を最優先し、グループで使用するシステムの遮断措置を講じたことを、2日後の第2報*2で明らかにしています。その後、7月17日から一部制限のもとで業務を順次再開し、7月24日には、影響を受けた入出庫業務と冷凍食品出荷業務の受発注制限を解除して、全拠点を平常時の通常稼働へ移行しています。

    この事案が示したのは、サイバー攻撃の被害が情報漏えいだけにとどまらないことです。攻撃を受けた疑いが生じれば、被害拡大を防ぐためにシステムを止める判断が必要になる場合があります。受発注、在庫管理、倉庫の入出庫、出荷といった業務がITでつながる現在、封じ込め措置そのものが事業停止リスクを伴います。本件からは、侵入を防ぐ対策だけでなく、システムを遮断した後も業務を継続し、段階的に復旧する計画が欠かせないことが分かります。サイバーセキュリティ対策とBCPは、一体で検討すべき課題です。

    7月13日から24日まで―公式発表で追う対応と復旧

    7月13日:不正アクセスによるシステム障害を公表

    ニチレイは7月13日、不正アクセスによるシステム障害が同日に発生したと発表しました。第1報の時点では、個人情報や顧客データが社外へ流出した事実は確認されていないとしていました。一方、冷蔵倉庫の入出庫業務と冷凍食品の出荷業務にはすでに影響が生じており、障害の範囲は公表時点で日本国内に限られると説明しています。

    ここで注意したいのは、7月13日が「攻撃者の侵入日」と確認されたわけではない点です。公式発表から断定できるのは、不正アクセスによるシステム障害が7月13日に発生し、同日公表されたことまでです。攻撃者が最初に侵入した日時や、不正アクセスを検知した正確な時刻・契機は明らかにされていません。

    7月15日:サイバー攻撃を確認、個人情報漏えいの可能性を報告

    7月15日の第2報で、ニチレイは調査の結果、自社サーバがサイバー攻撃を受けたことを確認したと発表しました。さらなる被害拡大を防ぐため、攻撃の詳細は非開示としています。また、被害を受けたサーバの一部に個人情報が保管されていたため、個人情報保護委員会へ「漏えいの可能性がある事案」として第一報を行いました。

    同社は発生当日の7月13日にグループで使用するシステムを遮断しており、この遮断措置に伴って冷蔵倉庫の入出庫と冷凍食品出荷に影響が生じたと説明しています。なお、7月16日付のIR情報では、連結業績への影響は精査中とされ、重要な影響が判明した場合は速やかに開示すると説明しています。

    7月17日:受発注を制限しながら部分稼働

    7月17日、ニチレイは外部のセキュリティ専門会社の支援のもと、影響を受けた業務を順次再開しました。ただし、直ちに平常運転へ戻ったわけではなく、顧客や取引先からの受発注を一部制限し、冷蔵倉庫と食品工場を部分稼働させる形での再開でした。この段階でも、原因と影響範囲は調査中とされていました。

    7月22日から24日:対象者への通知と通常稼働への移行

    7月22日の第4報*3では、外部のセキュリティ専門会社に加え、警察および関係機関と連携して対応していることが公表されました。被害サーバの一部に個人情報が保管されていたため、対象者へ別途通知を行っていることも明らかにされています。

    7月24日、ニチレイは受発注制限を解除し、影響を受けていた入出庫業務と冷凍食品出荷業務について、全拠点が平常時の通常稼働へ移行したと発表しました。ただし、これは影響業務の通常稼働への移行を示すものであり、原因調査や影響範囲の特定まで完了したことを意味するものではありません。

    なぜ食品サプライチェーンへの影響が注目されたのか

    ニチレイが2026年5月12日に公開した「事業概要説明資料」によると、同社の低温物流事業は全国75カ所に冷蔵倉庫を保有し、冷蔵倉庫の保管能力で国内1位です。さらに、ニチレイグループ外の取扱比率が90%を超えるとされています。今回、75カ所すべてに同じ程度の支障が生じたと公表されているわけではありません。ただし、この事業構造から、低温物流業務の中断がニチレイグループ以外の荷主にも波及し得ることが分かります。

    実際、ミールキット宅配サービスのヨシケイは7月27日、ニチレイグループのシステム障害により倉庫からの商品出庫に支障が生じ、一部エリアで代替品や代替食材を届ける場合があると公表しました*4。ニチレイは7月24日に影響業務の通常稼働への移行を発表していますが、自社の業務が再開しても、取引先側では在庫調整や代替品の手配などが続く場合があります。ヨシケイの発表は、障害の影響が取引先の商品供給にまで波及したことを示す事例といえます。

    なお、サイバー攻撃の影響が取引先へ波及したことと、取引先などを侵入経路とする「サプライチェーン攻撃」は区別する必要があります。ニチレイは侵入経路を公表していないため、本件をサプライチェーン攻撃と分類することはできません。一方、業務停止の影響が取引関係を通じて広がるリスクは、物流や食品製造だけでなく、決済、医療、クラウドサービスなどにも共通します。

    個人情報は漏えいしたのか

    2026年7月31日時点で、ニチレイは個人情報の漏えいを確定したとは発表していません。公表されているのは、被害サーバの一部に個人情報が保管されていたこと、漏えいの可能性がある事案として個人情報保護委員会へ第一報を行ったこと、対象者へ別途通知したことです。

    個人情報保護委員会は、不正の目的をもって行われたおそれがある個人データの漏えい等について、実際の漏えいが確定した場合だけでなく、それがある段階も報告対象になると示しています*5。このため、個人情報保護委員会への報告が行われたことだけをもって、外部流出が確定したとは判断できません。

    対象人数、顧客・従業員などの属性、情報項目、持ち出しの有無、不正利用の有無も公表されていません。したがって、現段階で「顧客情報が流出した」「大規模な個人情報漏えいが起きた」と書くのは不正確です。新たな公式発表が出た場合は、漏えいの事実、対象範囲、二次被害の有無を分けて確認する必要があります。

    ランサムウェア攻撃だったのか

    ニチレイは、攻撃手法、侵入経路、悪用された脆弱性、マルウェアの種類、データ暗号化や身代金要求の有無、攻撃者について公表していません。このため、本件をランサムウェア攻撃、ゼロデイ攻撃、あるいは特定の攻撃グループによる犯行と断定できる公式情報はありません。

    攻撃者を名乗る第三者の主張が報じられた場合でも、それだけで攻撃手法や犯行主体が確定するわけではありません。本記事では、ニチレイまたは捜査機関が確認した情報と、外部からの未検証の主張を区別して扱います。

    ニチレイの事例から企業が見直すべきサイバー攻撃対策

    重要業務とシステムの依存関係を可視化する

    対策の出発点となるのは、止まると事業や顧客に大きな影響が出る業務を特定し、それを支えるシステム、データ、拠点、委託先を対応付けることです。受発注システムだけを復旧しても、在庫情報、倉庫作業、輸配送との連携が戻らなければ商品は届きません。業務影響分析(BIA)を用いて復旧の優先順位を整理し、目標復旧時間(RTO)や目標復旧時点(RPO)に加え、システム停止中も最低限維持すべき業務とその水準を、IT部門と現場部門で共有しておくことが有効です。

    多層防御によって被害範囲を限定する

    ニチレイは侵入経路や攻撃手法を公表していないため、本件の原因に特定の対策不足を結び付けることはできません。以下は、同種の業務停止に備えるための一般的な対策です。

    サイバー攻撃への備えでは、侵入を防ぐだけでなく、侵入された場合にも被害を広げない対策が必要です。重要システムやネットワークの分離、特権アカウントの適切な管理、多要素認証、ログの保全・監視などを組み合わせ、攻撃者による内部での移動や権限拡大を抑制します。

    経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver3.0 実践のためのプラクティス集 第4版」も、侵入を防ぐ入口対策に加え、内部での活動拡大を防ぐネットワーク対策、外部への不正通信を防ぐ出口対策、重要データを守る対策を組み合わせる多層防御を示しています。

    「システムを止めた状態」で続ける手順を用意する

    不正アクセスの疑いがある状況では、ネットワークの遮断や機器の隔離、サービス停止が必要になることがあります。IPAの「中小企業のためのセキュリティインシデント対応の手引き」でも、被害拡大の可能性がある場合の初動対応として、ネットワーク遮断や対象機器の隔離、システム・サービスの停止を挙げています。

    だからこそ、BCPはバックアップからシステムを戻す手順だけでは不十分です。システムを遮断した際に利用する代替手順を、業務内容に応じて事前に設計しておく必要があります。例えば、受発注や入出庫を電話、メール、紙の帳票などへ一時的に切り替える場合も、処理可能な件数、誤処理を防ぐ照合方法、記録の保全、平常系へ戻す際のデータ反映まで検証しなければなりません。机上演習に加え、主要システムを利用できない状況を想定し、代替手順が実際に機能するか確認することが重要です。

    復旧可能なバックアップと復旧手順を検証する

    バックアップは、データを保存しているだけでは事業復旧を保証できません。本番環境と同時に暗号化・削除されないよう、ネットワークから分離した媒体や異なる環境にも保管し、バックアップデータの完全性を定期的に確認する必要があります。

    さらに、復元テストを実施し、重要なシステムやデータを想定した時間内に復旧できるかを検証します。復旧の順序、必要な担当者、利用する機器や認証情報、システム間の依存関係も事前に整理しておくことが重要です。

    サイバー攻撃を受けた環境を安全確認なしに復元すると、侵害された設定やマルウェアまで戻してしまうおそれがあります。原因調査や安全性の確認と並行して、どの時点のデータを、どの環境へ、どの順番で戻すかを判断できる復旧手順を整備しておく必要があります。

    初動対応をIT部門だけに背負わせない

    インシデント発生時には、封じ込め、証拠保全、原因調査、復旧に加え、顧客や取引先への連絡、個人情報保護委員会などへの報告、警察との連携、経営判断が並行して進みます。ニチレイも緊急対策本部を設置し、外部のセキュリティ専門会社、警察、関係機関と連携しました。

    平時から、経営、情報システム、事業部門、法務、広報、個人情報保護担当の役割と連絡順序を決め、フォレンジック調査や復旧を依頼する外部専門家の連絡先を整えておくべきです。対応手順は、社内システムが利用できない状況でも参照できる場所に保管します。また、調査に必要なログやデータを不用意に消去しないよう、対象機器の隔離方法や外部専門家へ連絡する判断基準を訓練しておくことが重要です。

    取引先を含めて復旧情報を共有する

    自社が通常稼働へ戻っても、取引先側では在庫不足、納品遅延、代替商品の手配、顧客への案内が続く可能性があります。サプライチェーン全体の復旧を早めるには、「何が止まっているか」「どの業務をいつ再開するか」「制限が残るか」を、攻撃者に利する情報を避けながら継続的に共有することが重要です。

    公表文のひな型だけでなく、重要取引先への連絡経路、問い合わせ窓口、更新頻度、技術情報と事業影響を分けて説明するルールまで準備しておくと、混乱を抑えやすくなります。セキュリティ部門が把握する復旧状況を、物流、営業、調達、顧客対応の言葉へ変換する役割も必要です。

    よくある質問

    ▼ ニチレイのシステム障害はいつ発生しましたか
    ▼ どの業務に影響が出ましたか
    ▼ 個人情報は漏えいしましたか
    ▼ ランサムウェア攻撃だったのでしょうか

    まとめ―サイバー攻撃対策は業務復旧まで設計する

    ニチレイへのサイバー攻撃では、冷蔵倉庫の入出庫と冷凍食品出荷に支障が生じ、制限付きの再開を経て通常運用へ戻りました。一方、2026年7月31日時点では、攻撃手法や侵入経路、個人情報の外部流出の有無、最終的な影響範囲は公表されていません。

    今回の事例から企業が学ぶべきなのは、侵入防止策だけではありません。被害拡大を防ぐためにシステムを遮断しても重要業務を続けられるか、安全性を確認しながらどの順番で復旧するか、取引先へ何を伝えるかまで含めて設計する必要があります。サイバー攻撃をIT障害として閉じず、経営と現場を巻き込んだサイバーBCPとして準備することが、事業とサプライチェーンの強靱性を左右します。

    【参考情報】

    編集責任:木下


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    【続報】KDDIメールシステムへの不正アクセス、約1,223万人のメールアドレス漏えい―未知の脆弱性が原因

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    KDDIメールシステムへの不正アクセス、約1,223万人のメールアドレス漏えいアイキャッチ画像

    2026年6月17日、KDDI株式会社は、ISP事業者向けに提供するメールシステムが不正アクセスを受けていたことを確認しました。この不正アクセスにより、約1,223万人分のメールアドレスと、そのうち約762万人分のパスワードが漏えいしました。原因は、ソフトウェアベンダーも把握していなかった第三者製ソフトウェアの脆弱性です。本記事では、確定した被害範囲とゼロデイ攻撃との関係、認証情報漏えいのリスク、企業が見直すべき対策を解説します。

    ※本記事は2026年7月31日時点で確認できる公表資料に基づき作成しています。公表されていない製品名、CVE番号、攻撃者、侵入手法の詳細については推測を加えずに構成しています。

    KDDIのISP向けメールシステムへの不正アクセスとは

    KDDIは2026年6月23日、同社がISP事業者向けに提供するメールシステムで不正アクセスが発生し、メール関連情報が外部に漏えいした可能性があると公表しました*6。初報で示されたのは、メールボックスにひもづくメールアドレスとパスワードの最大1,422万件です。この時点では調査中の最大値で、解約済みの利用者や一定期間利用されていない休眠アカウントも含まれていました。

    その後、KDDIは7月6日に調査結果を公表*2し、7月21日に対象人数を訂正しました。更新後の確定値は、メールアドレスが12,231,954人分、パスワードが7,616,173人分です。

    影響したISP事業者とメールサービス

    対象として公表されたのは6社です。STNetの「ピカラ光サービス」「ピカラモバイルサービス」「お仕事ピカラサービス」に係るメール、KDDIウェブコミュニケーションズのレンタルサーバー「CPI」のメール、JCOMの「J:COM NET」とケーブルテレビ事業者向けメール、中部テレコミュニケーションの「コミュファ光」「ビジネスコミュファ」のメール、ニフティの「@niftyメール」、ビッグローブの「BIGLOBEメール」です。

    一方、KDDIは、auメール、UQ mobileメール、au one netメールについて、今回のシステムとは異なる設備で構築されており、本件による影響や情報漏えいはないと説明しています。「KDDIのメールが一律に被害を受けた」と広げて表現するのは適切ではありません。

    また、KDDIが示した全体人数は、6社すべてで同じ種類の情報が漏えいしたことを意味しません。事業者別の調査結果には差があり、たとえばJ:COM NET利用者についてJCOMが確認した漏えい情報はメールアドレスのみです。CPIについても、KDDIはパスワードそのものの漏えいはないと公表しています。一方、JCOMがケーブルテレビ事業者向けに提供するメールサービスでは、一部の利用者についてパスワード漏えいが確認されています。対象者は契約先の公式案内で、自分に該当する情報と必要な対応を確認することが重要です。

    2026年5月16日の発生から2026年7月の確定公表まで

    KDDIの調査では、不正アクセスは一部のISP事業者において2026年5月16日から発生していました。KDDIが不正アクセスを確認したのは6月17日で、同日に被疑箇所を特定し、システム改修と脆弱性への対処を実施しています。発生開始から確認までには約1か月の隔たりがあり、未知の脆弱性を突いた攻撃を早期に検知する難しさが表れています。

    確認後の対応として、KDDIは6月21日に、外部通信を制御する全サーバーへのEDR導入を完了しました。さらに6月23日、第三者機関によるフォレンジック調査を通じ、本件で悪用された脆弱性以外に不審な痕跡が存在しないことを確認したとしています。6月24日には総務省から電気通信事業法に基づく報告を求められ、7月6日に報告書を提出しました。

    利用者対応では、KDDIと各ISP事業者がメールアカウントのパスワード変更を進めました。7月6日の公表時点では、日常的に利用されているアカウントを中心に多数の変更が行われ、利用頻度の低いアカウントを含めてISP事業者による強制変更を進めていると説明されています。公表資料が示すのは当時の進捗であるため、その後の完了状況は各ISP事業者の最新案内で確認する必要があります。

    なぜ「ゼロデイ攻撃」と整理できるのか

    KDDIは公式資料で「ゼロデイ」という言葉を用いていません。ただし、悪用された脆弱性は、KDDIが不正アクセスを確認した2026年6月17日時点で、当該ソフトウェアのベンダーも認識していなかったと説明されています。

    米国国立標準技術研究所(NIST)は、「従来知られていなかったハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアの脆弱性を悪用する攻撃」をゼロデイ攻撃と定義しています*3。この定義に照らせば、本件をゼロデイ脆弱性の悪用事例として整理することには根拠があります。

    ただし、KDDIの更新資料には、第三者製ソフトウェアの製品名、脆弱性の技術的詳細、CVE番号、攻撃者の属性は記載されていません。したがって、侵入手法や攻撃主体、脆弱性の深刻度を推測で補うべきではありません。現時点で確実に言えるのは、第三者製ソフトウェアの未知の脆弱性が悪用され、メールアドレスとパスワードの漏えいが確認されたことです。

    ゼロデイ攻撃では、公開済みの修正プログラムを適用するという通常の脆弱性管理だけでは初動時の防御が間に合いません。そのため、外部公開範囲の縮小、ネットワーク分離、権限の最小化、EDRやNDRによる挙動監視、外向き通信の監視、十分な期間のログ保全といった、脆弱性そのものに依存しない多層防御が重要になります。KDDIがシステム改修に加えてEDR導入とフォレンジック調査を実施した点も、検知と影響範囲確認の重要性を示しています。

    「サプライチェーン攻撃」ではなく、サプライチェーンリスクとして見る

    本件では第三者製ソフトウェアの脆弱性が悪用されましたが、これだけを根拠に、サプライチェーン攻撃と断定するのは慎重であるべきです。公表資料には、ソフトウェアベンダーの開発環境や更新配布経路が侵害され、悪意あるコードが供給されたという説明はありません。確認されているのは、KDDIのメール基盤に導入されていたソフトウェアの脆弱性が攻撃されたという事実です。

    一方で、サイバーセキュリティのサプライチェーンリスクという観点では重要な事例です。NIST SP 800-161 Rev.1は、組織が利用する製品やサービスを含むサプライチェーン全体について、リスクを特定、評価、低減することを求めています。自社システムであっても、その構成要素には商用ソフトウェア、OSS、クラウドサービス、保守事業者など多くの外部依存が含まれます。脆弱性が一つの共通基盤に存在すれば、直接の契約関係やサービス名称が異なる複数の利用者へ影響が広がり得ます。

    今回、6社のISP事業者が提供する複数ブランドのメールサービスに影響が及んだことは、共通基盤への集中が障害時や侵害時の影響範囲を大きくすることを示しました。各ISPが個別に侵入されたとする公表ではなく、共通して利用するメール基盤で発生した事案である点が重要です。サービス名や契約先だけを見てリスクを分けるのではなく、実際にどの基盤、製品、運用主体を共有しているかまで把握する必要があります。

    パスワード漏えいで警戒すべき二次被害

    確認された情報にはメールアドレスだけでなく、7,616,173人分のパスワードが含まれます。ただし、KDDIの初報は漏えいした可能性のあるパスワードについて、ハッシュ化または暗号化されたものも含むと説明しており、すべてが平文で保存されていた、あるいは直ちに不正ログインが成立したと読み替えることはできません。また、7月21日更新資料で「漏えいが確認された情報」として人数が示されたのはメールアドレスとパスワードで、メール本文や添付ファイルの漏えい確認について同資料に記載はありません。

    それでも、メールアドレスと認証情報の組み合わせは二次攻撃への備えが必要です。同じパスワードを他のサービスでも使い回していれば、漏えいした組み合わせを別サービスに試すパスワードリスト攻撃につながるおそれがあります。IPAは、パスワードを長く複雑にし、使い回さないことに加え、利用できるサービスでは多要素認証を設定するよう推奨しています。

    さらに、漏えいしたメールアドレスを宛先として、ISPやKDDIを装ったフィッシングメールが送られる可能性も考慮すべきです。ただし、これは将来のリスクに関する一般的な注意であり、本件を原因とするフィッシング被害や他サービスへの不正ログインが確認されたという意味ではありません。利用者への注意喚起では、確認済みの事実と想定されるリスクを混同しない表現が求められます。

    企業が見直すべき4つの実務ポイント

    外部依存と共通基盤の「影響半径」を把握する

    最初に必要なのは、導入している製品やサービスの一覧だけではなく、それぞれがどのデータにアクセスでき、どの顧客、事業、関連会社へ影響し得るかを結び付けて把握することです。SaaSやマネージドサービスの契約先が別々でも、背後で同じ認証基盤やメール基盤を共有している可能性があります。重要度、外部公開の有無、保存データ、依存先、代替手段、停止・侵害時の連絡先を整理し、共通基盤の事故が起きた場合の影響半径を平時から想定しておく必要があります。

    未知の脆弱性を前提に補完的統制を置く

    脆弱性管理は不可欠ですが、パッチが存在しない期間をゼロにはできません。インターネットから直接到達できる機能を最小限にし、管理系機能を分離し、サービスアカウントを含む権限を必要最小限に抑えることが基本です。加えて、EDRやNDR、WAFなどを環境に応じて組み合わせ、通常と異なるプロセス実行、大量のデータ参照、想定外の外向き通信を検知できる状態を整えます。未知の脆弱性を直接検知できなくても、悪用後の挙動を捉えられれば滞在時間と被害範囲を縮小できます。

    認証情報漏えい時の対応手順を事前に決める

    認証情報が漏えいした場合、対象者の特定、パスワードの強制変更、既存セッションやトークンの失効、不審なログインの調査、利用者への通知、問い合わせ対応を並行して進める必要があります。パスワード使い回しへの注意やフィッシング対策も同時に案内し、多要素認証を利用できる環境では導入を促すことが有効です。通知文面、意思決定者、関係部署、委託先との連絡経路をインシデント対応計画に組み込んでおけば、大規模なリセットが必要になったときの混乱を減らせます。

    休眠・解約済みアカウントをデータ管理の問題として扱う

    初報の最大件数には、解約済み利用者や一定期間使われていない休眠利用者も含まれていました。使われていないアカウントは、利用者が異常に気付きにくい一方、管理対象と漏えい時の対応負荷を増やします。法令、契約、事業上の必要性を踏まえて保存期間を定め、不要になったアカウントの無効化やデータ削除、匿名化を進めることが重要です。保持が必要な場合も、現役アカウントと同じ到達性や権限を残さず、用途に応じた分離と監視を行うべきです。

    対象サービスの利用者が確認すべきこと

    対象となるメールサービスの利用者は、まず契約中のISP事業者が公開する最新情報を確認してください。パスワード変更の案内がある場合は、メール本文のリンクからではなく、ブックマークや公式サイトから手続きページへアクセスする方が安全です。メールと同じパスワードを他のサービスで使っている場合は、そちらもサービスごとに異なるパスワードへ変更し、提供されていれば多要素認証を有効にします。不審なログイン履歴、転送設定、送信履歴がないかも確認し、身に覚えのない操作があればISPの公式窓口へ相談してください。

    よくある質問

    ▼ KDDIのauメールも今回の不正アクセスの対象ですか
    ▼ この事案はゼロデイ攻撃ですか
    ▼ サプライチェーン攻撃と呼んでよいですか

    まとめ:未知の脆弱性と共通基盤のリスクを分けて考える

    KDDIのISP事業者向けメールシステムへの不正アクセスは、12,231,954人分のメールアドレスと7,616,173人分のパスワードが漏えいした大規模インシデントです。しかし、注目すべきなのは件数だけではありません。ベンダーも把握していなかった脆弱性が悪用されたこと、一つの共通基盤を通じて複数のISPサービスへ影響が及んだこと、休眠・解約済み利用者を含む認証情報の対応が必要になったことが、企業の実務に直結する論点です。

    既知の脆弱性に迅速に対処する体制を整えたうえで、未知の脆弱性を前提とする監視と分離、外部依存関係と影響半径の把握、認証情報漏えい時の対応手順、不要データの削減を進める必要があります。サプライチェーン攻撃という言葉を安易に当てはめるのではなく、確認された事実と、そこから導ける共通基盤・外部依存のリスクを切り分けて検討することが、再発防止策を具体化する第一歩となるでしょう。

    【参考情報】

    編集責任:木下


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    Foxconnへのサイバー攻撃とは?製造委託先が狙われる理由とサプライチェーン対策

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    「Foxconnへのサイバー攻撃とは?製造委託先が狙われる理由とサプライチェーン対策」アイキャッチ画像

    2026年5月、電子機器の製造受託大手Foxconnの北米拠点がサイバー攻撃を受け、攻撃者は約8TBのデータを窃取したと主張しました。製造委託先には複数企業の設計・製造情報が集まるため、侵害の影響が取引先へ広がるおそれがあります。本記事では、製造委託先が狙われる理由と、企業が取るべきサプライチェーン対策を解説します。

    Foxconnへのサイバー攻撃で何が起きたのか

    2026年5月、電子機器の製造受託大手Foxconnは、北米の一部拠点がサイバー攻撃を受けたことを明らかにしました。Foxconnによると、影響を受けた工場では復旧対応が進められ、通常の生産体制へ段階的に戻っているとされています。

    この攻撃について、ランサムウェア攻撃グループ「Nitrogen」は、約8TB、1,100万件を超えるファイルを窃取したと主張しました。窃取した情報には、Apple、Intel、Google、Dell、Nvidia、AMDなどの顧客企業に関係する情報が含まれるとも主張しています。

    ただし、データ窃取の規模や内容、顧客企業に関する情報が実際に含まれていたかについて、Foxconnは詳細を公表していません。そのため、攻撃者側の主張とFoxconnが確認・公表している事実は分けて捉える必要があります。

    なぜ製造委託先はサイバー攻撃の標的になりやすいのか

    製造委託先が狙われやすい理由の一つは、発注元企業との間に多くの情報連携が発生するためです。製造委託企業には、設計図、部品表、製品仕様、検査手順、試作品情報、調達計画など、製品開発や量産に必要な情報が集約されることがあります。

    攻撃者から見ると、こうした企業を侵害することで、発注元企業へ直接侵入しなくても、重要情報に近づける可能性があります。特に大企業はセキュリティ対策が強化されている一方で、委託先や再委託先まで同じ水準で管理されているとは限りません。攻撃者はこの「守りの差」を狙い、比較的侵入しやすい取引先を足がかりにすることがあります。

    また、製造業では受発注システム、設計データ共有基盤、生産管理システム、保守対応の連絡経路など、複数企業をまたぐ業務連携が多く存在します。こうした接点が適切に管理されていない場合、侵害された委託先から関連企業へ芋づる式に影響が広がる可能性があります。

    つまり、製造委託先は単なる外部企業ではなく、発注元企業の事業継続や情報保護に直結するサプライチェーンの一部として考える必要があります。

    Foxconnでは過去にも被害が発生

    なお、Foxconnとその関連企業では今回が初めての被害ではなく、過去にもサイバー攻撃による被害が報じられています。

    2020年はDoppelPaymerによる攻撃、2022年には別のメキシコ拠点がLockBitの標的となりました。また2024年には子会社のFoxsemiconも攻撃を受けています。

    世界各地に拠点や子会社を持つ企業では、組織全体で統一した対策を進めていても、拠点や関連会社によってセキュリティ対策や運用の水準に差が生じることがあります。攻撃者は、こうしたサプライチェーンやグループ企業内の接点を狙う可能性があります。

    製造委託先の侵害がもたらす主なリスク

    製造委託先が侵害された場合、影響は委託先単独の問題に留まりません。まず懸念されるのは、顧客企業に関係する情報の漏洩です。実際にFoxconnの事例では、攻撃者側が顧客企業の機密情報の窃取を主張しており(Foxconn側は詳細未公表)、こうした主張の真偽が確認される前から報道が先行する点も、企業にとって風評面のリスクとなり得ます。

    設計情報や部品表、製造手順、製品仕様などが流出すれば、知的財産の漏洩、模倣品の製造、競争力の低下につながるおそれがあります。

    また、製品やシステムの構成情報が外部に出ることで、攻撃者が弱点を分析しやすくなる可能性もあります。たとえば、使用している部品、ソフトウェア、通信仕様、検査工程などの情報が悪用されれば、将来的な攻撃の足がかりになることも考えられます。

    さらに、ランサムウェア攻撃では、工場の操業停止や生産ラインの停止も大きなリスクです。製造委託先の業務が止まれば、発注元企業にとっても納期遅延、欠品、代替生産の調整、顧客説明などの対応が必要になります。

    近年のランサムウェア攻撃では、システムを暗号化するだけでなく、事前にデータを窃取したうえで公開をちらつかせる「二重恐喝」も多く確認されています。そのため、バックアップからシステムを復旧できたとしても、窃取された情報の公開リスクが残ります。

    製造委託先の侵害は、情報漏洩、知財リスク、操業停止、供給遅延、信用低下が同時に発生し得る、サプライチェーン全体のリスクとして捉えるべきです。

    企業が取るべき対策

    企業は、製造委託先を「外部の別会社」として扱うだけではなく、自社のサプライチェーンの一部として管理することが重要です。

    委託先と共有する情報を最小限にする

    まず実施すべきことは、委託先に渡す情報を必要最小限にすることです。設計データ、部品表、製造手順などの重要情報は、必要な範囲、期間、担当者に限定して共有する必要があります。

    アクセス権限を分離する

    次に、アクセス権限をプロジェクト単位で分離することが有効です。すべての担当者が広範な情報にアクセスできる状態では、侵害時の被害が拡大しやすくなります。プロジェクトごと、顧客ごと、工程ごとにアクセス範囲を分けることで、万一の侵害時にも影響範囲を抑えやすくなります。

    委託先の対策状況を定期的に確認する

    委託先のセキュリティ対策状況を定期的に確認することも重要です。ただし、すべての委託先に同じ水準の対策や監査を一律に求めるのではなく、委託する業務の重要度や、共有する情報の機密性に応じて確認内容を設定する必要があります。

    たとえば、設計情報や顧客情報を扱う委託先、業務停止時に自社の生産や供給へ大きな影響を及ぼす委託先については、ランサムウェア対策、EDRなどの端末監視、バックアップ、ログ管理、脆弱性管理、インシデント対応体制を重点的に確認します。一方で、扱う情報や事業への影響が限定的な委託先については、確認項目を絞るなど、リスクに応じた管理が現実的です。

    重要な委託先については、契約時の確認だけで終わらせず、取引期間中も定期的に対策状況を確認し、環境やリスクの変化に応じて見直すことが求められます。

    情報漏洩とランサムウェアへの技術的対策を講じる

    技術的な対策としては、DLPによるデータ持ち出し監視、アクセスログの分析、大量ダウンロードの検知、重要データの暗号化、バックアップの分離保管などが挙げられます。特にランサムウェア対策では、バックアップが攻撃者に同時に破壊・暗号化されないよう、オフライン保管や改ざん耐性のあるバックアップ設計を検討する必要があります。

    契約と事業継続計画を整備する

    契約面では、インシデント発生時の通知期限、調査協力、証拠保全、再委託先管理、損害範囲、データ削除義務を明確にしておくことが重要です。さらに、代替生産先、代替部品、重要データの社内保全を含め、サイバー攻撃を前提としたサプライチェーンBCPを整備する必要があります。

    まとめ

    製造委託先は、複数の顧客企業に関わる設計情報や製造情報を扱うため、攻撃者にとって高価値な標的になり得ます。発注元企業のセキュリティ対策が強固であっても、委託先や再委託先に弱点があれば、そこを入口として情報漏洩や業務停止が発生する可能性があります。

    製造業におけるサプライチェーンリスクは、自然災害や物流停止だけではありません。サイバー攻撃による情報漏洩、操業停止、供給遅延、二重恐喝も、事業継続に直結する重要なリスクです。 企業は、委託先への情報共有を最小限に抑え、アクセス権限を分離し、定期的なセキュリティ監査を行うことが求められます。加えて、契約面の見直しやサイバー攻撃を想定したBCPの整備を進めることで、サプライチェーン全体のレジリエンスを高めることが重要です。

    【参考情報】(2026年8月時点)

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    APT攻撃事例から学ぶ ―国内外の被害事例と企業が取るべき対策―

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    APT攻撃は、企業や政府機関、研究機関などを標的に、長期間にわたって情報窃取や諜報活動を行う高度なサイバー攻撃です。侵入経路は標的型メールや脆弱性の悪用、サプライチェーン攻撃などさまざまで、被害は組織内にとどまらないこともあります。本記事では、国内外の代表的なAPT攻撃事例を紹介し、企業が学ぶべき教訓と対策のポイントを解説します。

    APT攻撃の定義や特徴について詳しく知りたい方は、まずこちらの記事をご覧ください。APT攻撃とは?標的型攻撃との違いと企業リスクを解説【2026年版】

    APT攻撃事例が注目される理由

    APT攻撃事例が注目されるのは、被害が一企業にとどまらず、取引先や顧客、社会インフラへ広がる可能性があるためです。APT攻撃では、標的となった組織の機密情報が盗まれるだけでなく、取引先、顧客、グループ会社、委託先、政府機関などへ影響が広がることがあります。特に近年のAPT攻撃では、サプライチェーンやクラウドサービス、リモートアクセス環境が狙われるケースが目立ちます。攻撃者は、最も守りが固い本丸を正面から攻撃するのではなく、比較的侵入しやすい周辺システムや取引先、公開サーバ、保守用アカウントなどを足がかりにします。

    また、APT攻撃は発見までに時間がかかることがあります。侵入直後に大規模な障害やランサムウェア被害が起きるとは限らず、攻撃者が長期間にわたって潜伏し、情報収集や権限拡大を続ける場合があります。そのため、事例を通じて攻撃の流れを理解し、侵入前の防御だけでなく、侵入後の検知や初動対応を整えることが重要です。

    APT攻撃の具体的な手口の流れは、こちらで解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
    APT攻撃の手口とは?侵入から情報窃取までの流れを解説

    SolarWindsへのサプライチェーン攻撃(2020年12月)

    SolarWinds事件は、APT攻撃の代表的な事例として広く知られています。SolarWinds社が提供するIT管理ソフトウェア「Orion」の正規アップデートが攻撃に悪用され、利用組織に不正なコードが配布されたサプライチェーン攻撃です。この事件の特徴は、攻撃者がソフトウェアの利用企業を直接攻撃したのではなく、多くの組織が信頼して利用していた正規ソフトウェアの更新プロセスを悪用した点にあります。企業や政府機関にとって、利用中のソフトウェアベンダーから提供されるアップデートは、通常は信頼できるものとして扱われます。攻撃者はこの信頼関係を逆手に取り、正規の更新に紛れ込む形で侵入の足がかりを作りました。

    この事例から学べることは、「正規のアップデートだから安全」という前提そのものが攻撃対象になり得るということです。ベンダーのセキュリティ体制を確認するだけでは不十分で、正規プロセスを経た通信であっても、通常と異なる挙動(普段アクセスしない外部ホストへの通信など)を検知できる仕組みが必要になります。

    Microsoft Exchange Serverを狙った攻撃(2021年3月)

    Microsoft Exchange攻撃は、オンプレミス版のMicrosoft Exchange Serverに存在した複数の脆弱性が悪用された事例です。攻撃者は脆弱性を悪用してExchange Serverへアクセスし、メールアカウントへのアクセスや、長期的な侵入を可能にする追加のマルウェア設置を行っていました。これを受け、Microsoftは2021年3月、Exchange Serverを狙ったゼロデイ攻撃を公表し、セキュリティ更新プログラムの適用を強く呼びかけました*4

    この事例の重要な点は、公開サーバの脆弱性がAPT攻撃の入口になり得ることです。メールサーバは多くの組織で外部と通信するために利用され、インターネットからアクセス可能な状態で運用されることがあります。そのため、脆弱性が存在すると、攻撃者にとって非常に価値の高い侵入経路になります。

    この事例から学べることは、「パッチを当てて終わり」にしてはいけないということです。すでに攻撃者が侵入していた場合、更新プログラムを適用しても、設置済みのバックドアや不正アカウントが残る可能性があります。実際、この攻撃では公表後も被害が拡大し、パッチ適用と並行した侵害有無の確認(ログ調査、IOC確認、認証情報のリセットなど)の重要性が浮き彫りになりました。

    日本企業を狙ったAPT攻撃

    APT攻撃は海外だけの問題ではありません。日本企業や日本の組織も、APT攻撃の標的になっています。日本を標的とするAPTグループとしては、APT10、Kimsuky、Lazarusなどが広く知られており、標的型メールやVPN機器の脆弱性悪用など複数の手口が確認されています。日本には、製造業、研究機関、重要インフラ、防衛関連、先端技術、金融、通信、行政機関など、攻撃者にとって価値の高い情報を持つ組織が多く存在します。そのため、技術情報、知的財産、政策関連情報、取引情報、認証情報などを狙った攻撃が継続的に確認されています。

    たとえば、APT10に関しては、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)2018年12月に注意喚起を行っています*2。APT10は、標的型メール攻撃や知的財産の窃取などとの関連で国際的に注目された攻撃グループです。

    またJPCERT/CCは2024年3月、日本組織を標的としたKimsukyの攻撃活動を公表しました*3。外交・安全保障関連組織を装った標的型メールを送付し、PowerShellを利用した情報窃取やキーロガーの展開など、侵入後に発見されにくい手口が確認されています。

    この事例から学べることは、国内拠点だけでなく、海外拠点やグループ会社、委託先も攻撃経路になり得るという点です。海外拠点では、本社と比べてセキュリティ人材や監視体制が不足している場合があります。攻撃者はそのような弱点を利用し、グループ全体のネットワークへ侵入しようとする可能性があります。本社だけでなく、グループ会社・海外拠点・委託先との接続点を含めたリスク管理が欠かせません。

    事例から見える共通点

    SolarWinds事件、Microsoft Exchange攻撃、日本企業を狙ったAPT攻撃には、それぞれ異なる背景があります。しかし、複数の事例を比較すると、いくつかの共通点が見えてきます。

    第一に、APT攻撃では信頼された経路が悪用されやすいという点です。SolarWinds事件では正規ソフトウェアの更新経路が悪用され、Microsoft Exchange攻撃では業務に不可欠なメールサーバが狙われました。日本企業を狙った攻撃でも、取引先や関係機関を装った標的型メール、VPNなどの業務上必要な接続経路が悪用されています。

    第二に、脆弱性や設定不備が侵入の足がかりになる点です。公開サーバやVPN、メールシステムなどに未修正の脆弱性が残っていると、攻撃者はそこから内部へ侵入できます。特に、悪用が確認された脆弱性への対応が遅れると、APT攻撃だけでなく、ランサムウェア攻撃や情報窃取にもつながる可能性があります。

    第三に、侵入後の発見が難しい点です。APT攻撃者は、正規アカウント、管理ツール、暗号化通信、業務時間帯の通信などを利用し、通常業務に紛れるように活動します。そのため、入口対策だけでは不十分であり、EDR、SIEM、ログ監視、認証ログの分析などを通じて、侵入後の異常を見つける体制が必要です。

    第四に、サプライチェーン全体へ被害が波及する可能性がある点です。サプライチェーン攻撃では、自社が侵害されることで取引先に被害が広がる可能性があります。逆に、取引先や委託先が侵害され、自社が被害を受けることもあります。

    事例から企業が学ぶべきこと

    3つの事例を通じて見えてくるのは、対策を個別の製品導入で終わらせず、「侵入されることを前提とした備え」を組織全体で作ることの重要性です。

    • SolarWinds事件からは、信頼している経路ほど疑う視点を持つ必要性
    • Microsoft Exchange攻撃からは、パッチ適用後も侵害有無を確認する姿勢の必要性
    • 日本企業を狙った攻撃からは、本社以外の拠点・委託先を含めたリスク管理の必要性

    いずれの事例にも共通するのは、「侵入を完全に防ぐ」だけではなく、「侵入後を見据えた検知・監視・対応体制」が被害の最小化につながるという点です。

    まとめ

    APT攻撃事例を見ると、攻撃者は標的組織へ直接侵入するだけでなく、ソフトウェア更新、公開サーバ、VPN、標的型メール、取引先、海外拠点など、さまざまな経路を悪用していることがわかります。SolarWinds事件はサプライチェーン攻撃のリスクを示し、Microsoft Exchange攻撃は外部公開システムの脆弱性管理の重要性を示しました。日本企業を狙ったAPT攻撃からは、国内組織も継続的に標的となっている現実が見えてきます。

    過去の攻撃事例は単なるニュースではなく、自社のセキュリティ対策を改善するための実践的な教材です。事例から学び、自社の弱点を具体的に見直すことこそが、APT攻撃の被害を最小限に抑える第一歩といえます。

    APT攻撃への備えでは、侵入前の対策だけでなく、侵入後の検知・監視・初動対応まで含めた多層的な対策が重要です。具体的な対策については、「APT攻撃対策とは?検知・監視・初動対応の考え方」で詳しく解説しています。

    【参考情報】

    編集責任:木下


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    APT攻撃は、侵入を完全に防ぐことが難しい高度なサイバー攻撃です。侵入経路の把握や脆弱性管理、監視体制の強化など、継続的な対策が求められます。弊社、ブロードバンドセキュリティ(BBSec)では、脆弱性診断、アタックサーフェス管理調査、セキュリティ運用サービス、コンサルティングサービスなど、企業のセキュリティ対策を支援するサービスを提供しています。


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    APT攻撃対策とは?検知・監視・初動対応の考え方

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    前回記事で解説した通り、APT攻撃は標的組織を事前に調査したうえで侵入し、権限昇格や横展開を重ねながら目的の情報に近づいていきます。一度侵入を許すと長期間にわたり情報窃取や不正活動が継続するケースも少なくありません。そのためAPT攻撃対策では「侵入させない」ことだけを目指すのではなく、侵入前対策・侵入後対策・インシデント対応体制を組み合わせ、早期発見と被害最小化を実現する仕組みが欠かせません。本記事では、その具体的な対策内容について解説します。

    APT攻撃の侵入経路や攻撃の流れについて詳しく知りたい方は、「APT攻撃の手口とは?侵入から情報窃取までの流れを解説」で、初期侵入から情報窃取までのプロセスを解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

    なぜAPT攻撃は防ぎにくいのか

    APT攻撃が防ぎにくい理由は、攻撃者が特定の組織を狙い、時間をかけて侵入経路を探すためです。一般的なマルウェア感染やばらまき型攻撃とは異なり、APT攻撃では、攻撃者が標的組織の業務、取引先、利用システム、従業員の役割などを事前に調査します。そのうえで、標的型メールや脆弱性の悪用、正規アカウントの不正利用など、検知されにくい手口を選びます。また、APT攻撃では、最初の侵入後すぐに目立つ被害が発生するとは限りません。攻撃者は内部ネットワークに潜伏し、権限昇格や横展開を行いながら、機密情報や認証情報の所在を探ります。正規の管理ツールや盗まれたID・パスワードを使って活動する場合もあり、従来型の境界防御だけでは不審な動きを見落とす可能性があります。そのため、APT攻撃対策では、入口を守る対策に加えて、侵入後の異常を検知する仕組み、ログをもとに調査できる体制、被害を最小化する初動対応が欠かせません。さらに、入口対策だけでなく、「侵入を前提」とした検知・監視・対応体制も必要です。

    侵入前対策

    APT攻撃への備えとして、まず重要になるのは侵入前対策です。侵入前対策とは、攻撃者が組織内へ入り込む可能性を下げるための基本的な防御策です。完全な防御は難しいものの、攻撃者にとって侵入しにくい環境を作ることで、被害の発生確率を下げることができます。 なかでも重要なのが、多要素認証、脆弱性管理、標的型メール対策です。これらは単独ではなく、多層防御の考え方で組み合わせることが重要です。複数の対策を組み合わせ、攻撃者が一つの弱点を突破しても、次の段階へ進みにくい状態をつくることが求められます。

    MFA(多要素認証)

    IDとパスワードだけに頼らず、スマートフォンアプリ、セキュリティキー、生体認証など、複数の認証要素を組み合わせて本人確認を行う仕組みです。APT攻撃では、フィッシングメールやマルウェアによって認証情報が盗まれることがあります。IDとパスワードだけで社内システムやクラウドサービスへアクセスできる環境では、攻撃者が正規ユーザになりすましてログインするリスクが高まります。MFAを導入することで、パスワードが漏えいした場合でも、不正ログインを防げる可能性が高まります。ただし、MFAを導入すればすべての攻撃を防げるわけではありません。近年は、MFAを突破しようとするフィッシングや、認証疲れを狙った攻撃も確認されています。そのため、可能であればフィッシング耐性の高い認証方式(例:FIDO2、パスキーなど)を採用し、管理者アカウントやリモートアクセス、クラウド管理画面など、重要度の高い環境から優先的に適用することが重要です。

    脆弱性管理

    APT攻撃では、VPN機器、公開サーバ、メールサーバ、業務システム、クラウド環境などの脆弱性が侵入経路として悪用されることがあります。特に、インターネットからアクセス可能な機器やシステムに未修正の脆弱性が残っている場合、攻撃者にとって侵入の足がかりになります。脆弱性管理では、単に脆弱性情報を収集するだけでなく、自社のどのシステムに影響があるのか、外部公開されているのか、悪用事例があるのか、業務上の重要度は高いのかを踏まえて、対応の優先順位を決める必要があります。すべての脆弱性へ同時に対応することは現実的ではないため、実際に悪用されている脆弱性や、外部から攻撃可能なシステムを優先して修正する考え方が重要です。また、パッチ適用がすぐに難しい場合には、一時的な回避策、アクセス制限、監視強化、不要サービスの停止などを組み合わせる必要があります。APT攻撃では、脆弱性の放置が初期侵入や横展開につながる可能性があるため、脆弱性管理は単なる情報システム部門の運用作業ではなく、経営リスクを下げるための重要な取り組みといえます。

    標的型メール対策

    標的型メールは、APT攻撃の代表的な侵入経路の一つです。現在はメールだけでなく、チャットやクラウドサービスを悪用した攻撃も増えています。標的型メール対策では、メールセキュリティ製品による検査だけでなく、従業員教育、訓練、報告しやすい仕組みの整備が重要です。攻撃メールを完全に遮断することは難しいため、従業員が不審なメールに気づき、開封前または開封後すぐに報告できる体制を作る必要があります。また、メールをきっかけに認証情報が入力されるケースもあるため、MFAやアクセス制御と組み合わせて対策することが効果的です。標的型メール対策は、単独で完結するものではなく、認証管理、端末防御、ログ監視、インシデント対応と連動させることで、初めてAPT攻撃への実効性が高まります。

    標的型攻撃の手口の詳細は「標的型攻撃とは?代表的な手口と企業が取るべき対策を解説」をご参照ください。

    侵入後対策

    APT攻撃では、侵入前対策をすり抜けられる可能性があります。そのため、侵入後に攻撃者の活動を検知し、被害拡大を防ぐ仕組みが必要です。侵入後対策の中心になるのが、EDR、SIEM、ログ監視です。従来のセキュリティ対策では、外部からの攻撃を境界で防ぐことに重点が置かれてきました。しかし、クラウド利用、テレワーク、サプライチェーン連携が広がる現在では、社内と社外の境界があいまいになっています。APT攻撃への対策では、端末、サーバー、ネットワーク、クラウド、IDの動きを継続的に監視し、通常とは異なる振る舞いを早期に見つけることが重要です。

    EDR

    EDRは、Endpoint Detection and Responseの略で、PCやサーバーなどのエンドポイント上の不審な挙動を検知し、調査や対応を支援する仕組みです。APT攻撃では、マルウェアの実行、認証情報の窃取、管理ツールの悪用、不審なプロセスの起動などが端末上で発生することがあります。EDRは、こうした端末上の動きを可視化し、攻撃の兆候を把握するために有効です。EDRの重要な役割は、単にマルウェアを検知することではありません。侵入後に何が起きたのか、どの端末からどの端末へ移動したのか、どのファイルが操作されたのか、どのアカウントが使われたのかを調査するための情報を提供する点にあります。APT攻撃では、発見時点で攻撃がすでに横展開している場合もあります。そのため、EDRによって端末単位の挙動を把握し、感染端末の隔離、プロセス停止、調査対象の特定などを迅速に行える状態を整えておく必要があります。最近では、EDRに加え、メールやクラウドも含めて分析するXDRを導入する企業も増えています。

    SIEM

    SIEMは、Security Information and Event Managementの略で、複数のシステムからログを集約し、相関分析(複数のログを組み合わせて関連性を分析すること)を行う仕組みです。APT攻撃では、個々のログだけを見ると小さな異常に見える行動が、複数のログを組み合わせることで攻撃の流れとして見えてくることがあります。たとえば、通常とは異なる国や地域からのログイン、深夜帯の管理者権限利用、短時間での大量アクセス、普段使わない端末からの認証、ファイルサーバへの大量アクセスなどは、単独では見逃されることがあります。しかし、SIEMで複数のログを関連付けることで、初期侵入、権限昇格、横展開、情報窃取の兆候を把握しやすくなります。SIEMを有効に活用するには、ログを集めるだけでなく、どのログを監視対象にするのか、どのような条件でアラートを出すのか、誰が確認するのか、アラート発生後にどのような初動を取るのかを事前に決めておく必要があります。そしてツールを導入するだけではなく、運用設計まで含めて整えることも重要です。社内で運用が難しい場合は、SOCサービスなど外部監視サービスを利用する方法もあります。

    ログ監視

    ログ監視は、APT攻撃対策の基盤となる取り組みです。攻撃者の行動は、認証ログ、端末ログ、プロキシログ、DNSログ、VPNログ、クラウドサービスの監査ログ、ファイルアクセスログなどに痕跡として残ることがあります。しかし、ログが取得されていなかったり、保存期間が短かったり、必要な項目が記録されていなかったりすると、インシデント発生後に攻撃の流れを追跡できません。特にAPT攻撃では、侵入から発見までに時間がかかることがあるため、一定期間のログを保管し、過去にさかのぼって調査できる状態を作る必要があります。ログ監視では、単に大量のログを保存するだけでは不十分です。重要なのは、通常時のアクセス傾向を把握し、そこから外れた動きを見つけることです。普段アクセスしないサーバーへの接続、短時間での権限変更、退職者アカウントの利用、海外からのVPN接続、大量のファイル圧縮や外部送信など、攻撃の兆候となる行動を継続的に確認する必要があります。保持期間は法令や業種要件、インシデント対応を考慮して決める必要があります。

    ゼロトラストの考え方

    ここまで紹介した侵入前対策・侵入後対策は、いずれもゼロトラストという一つの考え方の実装例と捉えることができます。

    ゼロトラストとは、社内ネットワークにいるから安全、正規ユーザだから安全といった前提を置かず、ユーザ、端末、アプリケーション、データへのアクセスを継続的に確認する考え方です。従来の境界防御では、社内ネットワークの内側を比較的信頼する考え方が一般的でした。しかし、APT攻撃では、一度内部へ侵入した攻撃者が正規アカウントや管理ツールを悪用し、横展開する可能性があります。そのため、社内ネットワーク内の通信であっても、常に正当性を確認し、必要最小限の権限だけを付与することが前提になります。ゼロトラストの実現には、MFA、ID管理、端末管理、アクセス制御、ログ監視、ネットワーク分離、継続的なリスク評価などが関係します。単一の製品を導入すれば完成するものではなく、組織の業務やシステム構成に合わせて段階的に整備していく必要があります。

    APT攻撃への対策としてゼロトラストを取り入れることで、攻撃者が一つのアカウントや端末を悪用しても、重要情報へ簡単に到達できない環境を作りやすくなります。侵入を前提に、被害範囲を限定し、異常を早期に検知するという点で、ゼロトラストはAPT対策と相性のよい考え方です。

    インシデント対応体制

    APT攻撃への対策では、検知した後の初動対応によって被害の大きさが大きく左右されます。初動対応では「封じ込め(Containment)」「根絶(Eradication)」「復旧(Recovery)」の順で進める考え方が一般的です。不審な挙動を発見しても、対応手順や判断基準が決まっていなければ、関係者への連絡、端末隔離、証拠保全、外部報告、復旧判断が遅れてしまいます。その間に攻撃者が横展開を進めたり、情報を外部へ持ち出したりする可能性があります。

    インシデント対応体制では、まず「誰が判断するのか」を明確にする必要があります。情報システム部門、セキュリティ担当、経営層、法務、広報、事業部門、外部専門家など、関係者の役割を事前に決めておくことが重要です。特にAPT攻撃では、技術的な調査だけでなく、事業影響、顧客対応、取引先対応、法的対応、広報対応が必要になる場合があります。 また、初動対応では、証拠を消さないことも重要です。感染が疑われる端末をすぐに初期化してしまうと、侵入経路や攻撃範囲を調査するための情報が失われる可能性があります。端末の隔離、ログ保全、アカウント停止、通信遮断、影響範囲の確認などを、状況に応じて慎重に実施する必要があります。平時からインシデント対応手順を整備し、訓練を行っておくことで、実際の攻撃発生時に混乱を減らすことができます。APT攻撃対策は、技術的な防御だけではなく、組織としてどのように判断し、対応するかまで含めた取り組みです。

    まとめ

    APT攻撃対策では、侵入を完全に防ぐことだけを目指すのではなく、侵入前対策、侵入後対策、インシデント対応体制を組み合わせることが重要です。MFA、脆弱性管理、標的型メール対策によって侵入リスクを下げ、EDR、SIEM、ログ監視によって侵入後の不審な動きを早期に検知します。さらに、インシデント対応体制を整備し、攻撃が疑われる場合に迅速な初動対応を取れるようにしておくことで、被害の拡大を抑えることができます。APT攻撃は、攻撃者が時間をかけて目的達成を狙う攻撃であるため、企業側も継続的な監視と改善を前提に備える必要があります。

    次の記事はこちら
    APT攻撃事例から学ぶ ―国内外の被害事例と企業が取るべき対策―」
    APT攻撃は実際にどのような企業・組織で発生しているのでしょうか。代表的な国内外の事例から、攻撃の特徴や企業が学ぶべきポイントを解説します。

    【参考情報】

    編集責任:木下


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    APT攻撃は、侵入を完全に防ぐことが難しい高度なサイバー攻撃です。侵入経路の把握や脆弱性管理、監視体制の強化など、継続的な対策が求められます。弊社、ブロードバンドセキュリティ(BBSec)では、脆弱性診断、アタックサーフェス管理調査、セキュリティ運用サービス、コンサルティングサービスなど、企業のセキュリティ対策を支援するサービスを提供しています。


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    APT攻撃の手口とは?侵入から情報窃取までの流れを解説

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    前回記事では、APT攻撃の全体像と、標的型攻撃との違い、企業が直面するリスクについて解説しました。今回はその中でも、攻撃者が実際にどのような手順で組織へ侵入し、情報を窃取するに至るのかという「攻撃の流れ」に焦点を当てて解説します。

    APT攻撃は、マルウェアを送り付けて終わる単純な攻撃ではありません。攻撃者は事前に標的組織を調査し、侵入後も長期間にわたり潜伏しながら、社内システムの構造や重要情報の保管場所を探ります。そのうえで、認証情報の窃取、権限昇格、横展開、情報収集、外部送信といった複数の段階を踏み、最終的な目的を達成しようとします。本記事では、APT攻撃の侵入経路、侵入後の流れ、そして発見が難しい理由について解説します。

    APT攻撃の定義や特徴について詳しく知りたい方は、まずこちらの記事をご覧ください。「APT攻撃とは?標的型攻撃との違いと企業リスクを解説【2026年版】

    APT攻撃の特徴

    初期侵入

    APT攻撃の最初の段階は、標的組織の内部ネットワークへ入り込むことです。攻撃者は、いきなり重要サーバーを攻撃するのではなく、従業員の端末、リモートアクセス環境、取引先、公開Webサイトなど、比較的侵入しやすい入口を探します。

    初期侵入でよく使われる手口のひとつが、標的型メールです。攻撃者は、実在する取引先や社内関係者を装ったメールを送り、添付ファイルの開封や不正URLへのアクセスを誘導します。メールの文面は業務連絡に見えるよう作り込まれていることが多く、受信者が不審に感じにくい点が特徴です。また、VPN機器やリモートアクセス製品の脆弱性も、APT攻撃の侵入経路になり得ます。テレワークの普及により、外部から社内システムへ接続する仕組みは多くの企業で利用されています。しかし、脆弱性が残ったままの機器や、認証設定が不十分な環境は、攻撃者にとって格好の入口になります。

    標的型メールについて詳しくは、「標的型攻撃とは?代表的な手口と企業が取るべき対策を解説」をご覧ください。

    水飲み場攻撃も、APT攻撃で使われることがあります。これは、標的となる組織の従業員がよく閲覧するWebサイトを改ざんし、アクセスした利用者の端末にマルウェアを感染させる手口です。攻撃者が標的企業の業務や関係先を調査したうえで仕掛けるため、通常のWeb閲覧の中で侵入が発生する可能性があります。

    このように、APT攻撃の侵入経路は一つではありません。メール、VPN、Webサイト、取引先、クラウドサービスなど、業務で日常的に使われる経路が悪用される点に注意が必要です。

    権限昇格

    初期侵入に成功しても、攻撃者がすぐに目的の情報へアクセスできるとは限りません。多くの場合、最初に侵入できるのは一般従業員の端末や、限定的な権限しか持たないアカウントです。そこで攻撃者は、より強い権限を得るために権限昇格を試みます。権限昇格とは、一般ユーザーの権限から管理者権限へ、あるいは一部システムの権限から社内全体に影響する権限へと、アクセス範囲を広げる行為です。攻撃者は、端末内に保存された認証情報、設定ミス、未修正の脆弱性、過剰に付与された権限などを悪用します。

    特に認証情報の窃取は、APT攻撃の流れの中で重要な意味を持ちます。IDとパスワードを奪われると、攻撃者は正規ユーザーのようにシステムへアクセスできます。正規の認証情報を使った操作は、不審なマルウェア通信よりも見逃されやすく、発見を難しくする要因になります。 企業側では、管理者権限の利用状況、特権IDの管理、不要な権限の削除、多要素認証の導入などを通じて、攻撃者が権限を広げにくい環境を作ることが重要です。

    横展開

    権限を得た攻撃者は、次に社内ネットワーク内を移動します。この段階を横展開と呼びます。横展開の目的は、最初に侵入した端末から、ファイルサーバー、認証サーバー、業務システム、開発環境、クラウド環境などへアクセス範囲を広げることです。APT攻撃では、攻撃者が最初から機密情報の保管場所を正確に把握しているとは限りません。そのため、侵入後に社内ネットワークを調査し、どの端末やサーバーに価値のある情報があるのかを探ります。

    横展開では、リモートデスクトップ、共有フォルダ、管理ツール、正規のリモートアクセス機能などが悪用されることがあります。攻撃者が正規の管理ツールや認証情報を利用すると、通常業務との見分けがつきにくくなります。 この段階で重要なのは、ネットワーク内部の通信を「信頼しすぎない」ことです。境界防御だけに頼っていると、一度侵入された後の移動を見逃しやすくなります。社内ネットワーク内であっても、不自然なログイン、通常とは異なる時間帯のアクセス、大量のファイル閲覧、普段接続しないサーバーへのアクセスなどを監視する必要があります。

    情報窃取

    APT攻撃の多くは、最終的に機密情報や認証情報、知的財産、顧客情報、技術情報、経営情報などを盗み出すことを目的とします。攻撃者は、横展開によって目的の情報に近づいた後、必要なデータを収集し、外部へ送信します。情報窃取は、単純にファイルをそのまま外部へ送るだけではありません。攻撃者は、複数の端末やサーバーから情報を集め、一時的な保管場所にまとめることがあります。その後、ファイルを圧縮したり、分割したり、暗号化したりして、通常の通信に紛れ込ませながら外部へ送信します。

    このような手口を取る理由は、検知を避けるためです。大量のデータが一度に外部送信されると監視に引っかかる可能性があります。そのため、攻撃者は通信量や送信タイミングを調整し、業務上の通信に見えるように偽装することがあります。情報窃取を防ぐには、重要情報の保管場所を把握し、アクセス権限を最小限に抑えることが前提になります。加えて、通常とは異なるデータアクセスや外部通信を検知できる仕組みが求められます。

    長期潜伏

    APT攻撃の大きな特徴は、攻撃者が長期間にわたって潜伏する点です。侵入直後に情報を盗んで終わるのではなく、継続的に情報を収集したり、再侵入のための経路を確保したりすることがあります。ここまで便宜上、初期侵入から情報窃取までを順を追って説明してきましたが、バックドアの設置やアカウントの作成といった潜伏のための準備は、情報窃取の後にまとめて行われるわけではありません。攻撃者は多くの場合、初期侵入や権限昇格の段階から並行してこれらの仕込みを進めており、万が一発見されて一部のアクセス経路を塞がれても、環境内にとどまり続けられるようにしています。こうして確保された足場をもとに、攻撃者は認証情報の保持や正規ツールの悪用などにより、長期間にわたって環境内にとどまり続けようとします。また、検知された場合に備えて、複数の侵入経路やアクセス手段を用意することもあります。

    なぜ発見が難しいのか

    APT攻撃が発見されにくい理由は、攻撃者が目立たない行動を重ねるためです。攻撃者は、短時間で大きな被害を出すのではなく、正規ユーザーの操作や通常業務の通信に紛れるように活動します。特に、盗まれたIDとパスワードを使ったアクセス、正規の管理ツールの利用、業務時間に合わせた通信、少量ずつのデータ送信などは、従来型のセキュリティ対策だけでは見逃される可能性があります。また、APT攻撃では侵入経路が複数に分かれることもあります。標的型メール、VPN脆弱性、サプライチェーン、クラウドアカウント、公開サーバなど、複数の入口から攻撃が行われる場合、単一の対策だけでは全体像を把握しにくくなります。

    発見を難しくしているもう一つの要因は、ログの不足です。攻撃の痕跡はログに残ることがありますが、必要なログを取得していなかったり、保存期間が短かったり、分析体制が整っていなかったりすると、侵入後の流れを追跡できません。 APT攻撃に備えるには、侵入を完全に防ぐという発想だけでなく、侵入された場合に早く気づく、攻撃の範囲を把握する、被害を最小限に抑えるという考え方が重要になります。

    まとめ

    APT攻撃は、標的組織を調査し、初期侵入、権限昇格、横展開、情報窃取、長期潜伏といった段階を踏んで進行する高度なサイバー攻撃です。APT攻撃の手口は一つではなく、標的型メール、VPN脆弱性、水飲み場攻撃、正規アカウントの悪用など、複数の侵入経路や技術が組み合わされます。 企業が注意すべき点は、侵入を防ぐ対策だけでは不十分だということです。APT攻撃では、侵入後にどれだけ早く異常を検知できるか、横展開や情報窃取をどこで止められるかが被害の大きさを左右します。

    次の記事では、APT攻撃への対策として、侵入前の防御、侵入後の検知・監視、インシデント対応体制などを解説します。
    APT攻撃対策とは?検知・監視・初動対応の考え方

    【参考情報】

    なお、本記事で解説した初期侵入・権限昇格・横展開・情報窃取・長期潜伏といった各段階は、MITRE ATT&CKが提供する脅威フレームワークにおける戦術(Tactics)分類にも対応しています。より詳細な技術的分類を確認したい方は、MITRE ATT&CK,Enterprise Tactics(https://attack.mitre.org/tactics/enterprise/)をご参照ください。

    編集責任:木下


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    IT資産管理とは?企業のセキュリティ対策で最初に取り組むべき理由を解説

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    企業のセキュリティ対策では、EDRや脆弱性診断などの対策に注目が集まりがちですが、その前提となるのが「IT資産管理」です。自社で利用している端末やサーバー、クラウドサービス、SaaSなどを正確に把握できていなければ、脆弱性への対応やインシデント対応も適切に行えません。本記事では、IT資産管理の基本から重要性、管理できていない場合のリスク、実践のポイントまで分かりやすく解説します。

    企業のセキュリティ対策というと、EDR、WAF、脆弱性診断、ゼロトラスト、SOCなどの高度な対策を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、どれだけ優れたセキュリティ製品を導入しても、自社がどの端末、サーバー、クラウドサービス、ソフトウェアを利用しているのかを把握できていなければ、守るべき対象を正しく守ることはできません。 IT資産管理は、企業が利用するIT資産を継続的に把握・管理する取り組みです。単なる資産台帳の作成ではなく、脆弱性管理やパッチ管理、ライセンス管理、インシデント対応を支える重要な基盤となります。

    IT資産管理とは

    IT資産管理とは、企業活動で利用されるIT機器、ソフトウェア、クラウドサービス、ネットワーク機器、アカウントなどを把握し、誰が、どこで、何の目的で、どの状態で使っているのかを管理することです。従来は、PCやサーバーの購入日、設置場所、利用者、リース期限などを管理する「物品管理」に近い意味で使われることもありました。しかし現在のIT資産管理では、資産を一覧化するだけでなく、資産の追加・変更・廃止に合わせて継続的に更新し、常に最新の状態で管理することが求められています。管理対象となるIT資産には、業務用PC、サーバー、スマートフォン、タブレット、ネットワーク機器、複合機、IoT機器、仮想マシン、クラウド上のインスタンス、SaaS、業務アプリケーション、OS、ミドルウェア、ライセンス、利用アカウントなどが含まれます。

    NIST(米国国立標準技術研究所)が金融サービス業界向けに公表した実装ガイドでは、物理的な資産管理だけでは「自社の端末がどのOSを使っているか」「どの端末に脆弱性があるか」までは分からないとした上で、IT資産管理はこうした情報を結びつけて管理することで、資産の可視性とセキュリティを高めるものだと説明しています*4

    また、IT資産管理の重要性は、NISTだけでなくCISクリティカルセキュリティコントロール(CISコントロール)でも示されています。ベストプラクティス「Control 1」では、モバイル端末を含むエンドユーザー端末、ネットワーク機器、IoT機器、サーバーを対象資産と定め、これらを物理・仮想・リモート・クラウド環境を問わず継続的に把握・追跡することが、資産管理の第一歩として位置づけられています。あわせて、未承認・未管理の資産を洗い出し、除去または是正することも求められています。

    このように、IT資産管理は単なる資産一覧の作成ではなく、継続的に資産を可視化し、セキュリティ対策へつなげるための基盤といえます。IT資産管理とは「パソコンが何台あるか」を数える作業ではなく、攻撃者から見たときに侵入口になり得るもの、業務停止につながるもの、情報漏洩につながるものを可視化する取り組みです。資産の存在を知らなければ、脆弱性があっても対応できません。利用者が分からなければ、インシデント発生時に連絡できません。重要度が分からなければ、限られた人員で何から対応すべきか判断できません。

    なぜ今IT資産管理が重要なのか

    IT資産管理の重要性が高まっている背景には、クラウド利用の拡大、テレワークの普及、SaaSの増加があります。総務省「通信利用動向調査」は、企業における情報通信ネットワークや情報通信サービスの利用動向を把握するための統計であり、企業編ではクラウドサービス利用やテレワーク導入状況などのデータが提供されています。こうした環境では、社内ネットワーク内にある機器だけを見ていればよい時代ではなくなりました。たとえば、開発部門が検証用にクラウド環境を作成し、営業部門が顧客管理のためにSaaSを契約し、従業員が自宅や外出先から業務システムにアクセスする。こうした働き方は業務効率を高める一方で、情報システム部門が把握していないIT資産を生みやすくします。社内の承認を経ずに導入されたSaaS、管理されていないクラウドストレージ、退職者のアカウント、放置された検証環境は、いずれもセキュリティ上のリスクになります。さらに、生成AIサービスの業務利用が広がり、情報システム部門が把握していないクラウドサービスやAIツールが利用されるケースも増えています。

    経済産業省とIPAが公表する「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver.3.0」でも、経営者が確認すべきチェック項目として、「守るべきデジタル環境・サービス・情報を特定し、資産の場所やビジネス上の価値等に基づいて対策の優先順位付けを行うこと」(指示4)、さらに「重要なシステムの資産管理・構成管理・パッチ管理を行うこと」、「組織内でシャドーITを利用させない対策を行うこと」(指示5)が挙げられています。

    IT資産管理は、セキュリティ対策の中でも地味に見えるかもしれません。しかし、攻撃対象となる端末やサービスが増え続ける現在では、最初に取り組むべき基盤です。

    IT資産管理で起こりやすい課題について詳しく解説した記事はこちら
    見落としがちなIT資産がセキュリティ事故を招く?企業で起こりやすい5つの管理課題

    IT資産管理ができていない企業で起こる問題

    IT資産管理ができていないと、管理漏れやシャドーITの発生、サポート終了製品の放置など、セキュリティインシデントにつながるさまざまなリスクを抱えることになります。代表的な課題は次のとおりです。

    管理漏れ

    新しく購入した端末が台帳に反映されない、退職者のPCやアカウントが残ったままになる、検証用サーバーが本番環境と同じネットワークに接続されたまま放置される、といった状態です。平時には問題が見えにくくても、脆弱性情報が公開されたときやインシデントが発生したときに、どの端末が対象なのか、誰が利用しているのかが分からず、対応が遅れます。

    シャドーIT

    英国のサイバーセキュリティ機関NCSCは、シャドーITを、業務目的で使われているにもかかわらず資産管理の対象に含まれておらず、組織のITプロセスやポリシーからも外れている「未知の資産」だと位置づけています*2。対象はデバイスに限らず、従業員が個人契約しているクラウドストレージや、部門が独自に導入した未承認のクラウドサービスも含まれるとした上で、機密データの流出やマルウェア感染の拡大につながるリスクを指摘しています。

    EOL(End of Life)機器

    サポートが終了した製品では、脆弱性が発見されても修正プログラムが提供されない場合があります。JPCERT/CCも、マイクロソフト製品のサポート終了に関する注意喚起の中で、サポート終了後の製品は新たに発見された脆弱性が修正プログラムの提供対象外となり、悪用されるリスクが残り続けると繰り返し呼びかけています*3

    ライセンス管理

    不要なSaaS契約が残り続ける、退職者分のライセンスが解放されない、利用許諾に反したソフトウェア利用が発生する、といった問題は、コスト面だけでなくコンプライアンス面のリスクにもつながります。

    IT資産管理と脆弱性管理の違い

    IT資産管理と脆弱性管理の違いを整理すると、下表のとおりです。

    項目IT資産管理脆弱性管理
    目的管理対象を把握するリスクを評価する
    何を行うか台帳を整備する脆弱性を検出する
    管理内容利用状況を管理する優先順位を付ける
    継続的な運用継続的に更新する修正・パッチ適用する

    IT資産管理と脆弱性管理は、それぞれ独立した取り組みではありません。まずIT資産管理によって「何を管理すべきか」を明確にし、その上で脆弱性管理を通じてリスクを評価・対応することが重要です。IT資産を正確に把握できていなければ、脆弱性の有無を確認したり、適切に対策を講じたりすることはできません。

    NIST SP 800-40 Rev.4では、企業のパッチ管理を、パッチやアップデートを識別し、優先順位付けし、取得し、適用し、適用結果を検証するプロセスとして説明しています。同文書は、パッチ適用を技術基盤の「予防保守」として位置づけ、事業継続のために必要なコストであるとも指摘しており、経営判断としても軽視すべきでない活動だとしています。これは、資産が把握されていることを前提にした活動です。

    IT資産を把握した後は、脆弱性管理によってリスクを評価・対応していく必要があります。詳しくは「脆弱性管理とは?企業が行うべき脆弱性管理の基本と実践手順【2026年版】」をご覧ください。

    まず何から始めればよいのか

    IT資産管理を始める際に、最初から完璧な台帳を作ろうとする必要はありません。まずは、自社が守るべき範囲を決め、主要な端末、サーバー、ネットワーク機器、クラウドサービス、SaaS、アカウントを棚卸しすることから始めます。情報システム部門が管理している台帳、購買履歴、ネットワーク接続情報、MDMやEDRの管理画面、クラウド管理画面、SaaSの契約情報を突き合わせるだけでも、見落としていた資産が見つかることがあります。次に、資産台帳を整備します。台帳には、資産名、種別、利用部門、利用者、管理責任者、設置場所、OSやソフトウェアのバージョン、IPアドレス、重要度、サポート期限、最終確認日などを記録します。重要なのは、台帳を作って終わりにしないことです。入社、異動、退職、機器購入、クラウド環境作成、SaaS契約、廃棄といった業務プロセスと台帳更新を結びつけなければ、すぐに古い情報になります。最後に、可視化を継続します。IT資産管理ツールや脆弱性スキャン、クラウド管理ツール、ID管理基盤などを組み合わせることで、手作業だけでは追いきれない変化を検知しやすくなります。実際にIT資産管理を始める際には、棚卸しや台帳整備、運用ルールの策定などのステップがあります。

    IT資産管理を効率化する具体的な方法はこちら
    IT資産管理を効率化する方法とは?担当者が押さえたい運用のポイント

    まとめ:IT資産管理はセキュリティ対策の出発点

    IT資産管理は、単にIT資産台帳を作成することではなく、企業が利用する端末やサーバー、クラウドサービス、SaaSなどを継続的に把握・管理し、セキュリティ対策の土台を築くための取り組みです。IT資産の可視化ができていなければ、脆弱性管理やパッチ管理、インシデント対応を適切に進めることはできません。またIT環境は日々変化するため、一度台帳を作れば終わりではありません。新たなクラウドサービスの利用や端末の追加・廃止、組織変更などに応じて資産情報を更新し続けることが、セキュリティリスクの低減につながります。

    次回は、管理が行き届かない場合に実際どのような問題が起こりやすいのか、具体的な課題を掘り下げていきます。

    IT資産管理についてさらに理解を深めたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

    また、IT資産管理の次のステップとなる脆弱性管理については、こちらの記事をご覧ください。
    脆弱性管理とは?企業が行うべき脆弱性管理の基本と実践手順【2026年版】

    【参考情報】

    編集責任:木下


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    標的型攻撃とは?代表的な手口と企業が取るべき対策を解説【2026年版】

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    標的型攻撃とは?代表的な手口と企業が取るべき対策を解説アイキャッチ画像

    標的型攻撃は、従来は標的型メール攻撃が代表的な手法とされていましたが、近年ではVPN機器の脆弱性や認証情報の悪用、サプライチェーンを経由した侵入など、攻撃手法は多様化しています。また、APT攻撃の初期侵入手段として標的型攻撃が利用されるケースも少なくありません。本記事では、標的型攻撃の特徴や代表的な手口、企業が取るべき対策を解説します。

    標的型攻撃とは

    標的型攻撃とは、特定の企業や組織、個人を狙って計画的に実施されるサイバー攻撃の総称です。不特定多数を対象とするフィッシングメールやばらまき型マルウェアとは異なり、攻撃者は事前に標的企業の事業内容や組織体制、役職者、取引先などを調査したうえで、最も侵入しやすい方法を選択します。その目的はさまざまで、機密情報の窃取、認証情報の取得、金銭の詐取、システムへの侵入、さらにはランサムウェア攻撃の足掛かりを得ることなどが挙げられます。近年では政府機関や重要インフラだけでなく、製造業、医療機関、教育機関、中堅・中小企業まで、業種や規模を問わず標的となっています。

    従来型の攻撃標的型攻撃
    目的悪意のない趣味や愉快犯、技術的な理論検証など、趣味や知的好奇心の延長知的財産・国家機密・個人情報など、金銭目的の犯罪、諜報などの目的を持つ
    対象不特定多数のインターネットユーザー 特定の企業や組織、政府
    技術必ずしも高くない 高度な技術水準
    組織多くは個人による活動、複数であっても組織化されていない 組織化された多人数の組織
    資金個人による持ち出し 豊富、国の支援を受けている場合も
    期間短い、興味や好奇心が満たされれば終了 目的を達成するまで辞めない、数年間のプロジェクトとなることも

    標的型攻撃とAPT攻撃の違い

    標的型攻撃とAPT攻撃は混同されがちですが、意味は異なります。標的型攻撃は、特定の標的へ侵入するための攻撃手法を指します。一方、APT攻撃は、侵入後も長期間にわたり潜伏し、情報収集や権限昇格、情報窃取などを継続する一連の攻撃活動全体を指します。つまり、標的型攻撃はAPT攻撃における「初期侵入」の手段として利用されることが多いという関係です。

    APT攻撃について詳しくは、「APT攻撃とは?標的型攻撃との違いと企業リスクを解説」をご覧ください。

    標的型攻撃の代表的な手口

    標的型攻撃では、一つの方法だけで侵入することはほとんどありません。攻撃者は標的企業の環境に応じて複数の手法を使い分けます。

    標的型攻撃メール

    メールから侵入する「標的型攻撃メール」とはのサムネ

    標的型メール攻撃は代表的な手口です。取引先や公的機関などを装い、添付ファイルやURLを開かせてマルウェアへ感染させたり、認証情報を入力させたりします。

    現在は生成AIの普及により、自然な日本語のメールも増えています。不自然な文章だけで見分けることは難しく、送信元やリンク先も確認することが重要です。

    VPN機器や公開サーバの脆弱性を悪用した攻撃

    近年増加しているのが、VPN機器や公開サーバの脆弱性を悪用した侵入です。攻撃者は公開機器を調査し、修正されていない脆弱性を悪用して企業ネットワークへ侵入します。

    認証情報の悪用

    ID・パスワードの漏洩による不正ログインも代表的な侵入手法です。漏えいした認証情報はダークウェブ上で売買されることもあり、VPNやクラウドサービス、メールなどへ正規ユーザーとしてログインされるケースがあります。

    水飲み場攻撃

    水飲み場攻撃(Watering Hole Attack)は、標的企業の従業員が頻繁に利用するWebサイトを改ざんし、そのサイトへアクセスした利用者をマルウェアへ感染させる攻撃です。利用者自身に不審な操作をさせる必要がないため、標的型メールとは異なる手口として利用されます。

    サプライチェーン攻撃

    近年では、取引先や委託先、ソフトウェアベンダーを経由して標的企業へ侵入するサプライチェーン攻撃も増えています。セキュリティ対策が強固な企業へ直接侵入するのではなく、関連企業を足掛かりとすることで、攻撃成功率を高める狙いがあります。

    標的型メールはなぜ見分けにくいのか

    標的型攻撃メールの見分け方のサムネ

    標的型メールは以前のような不自然な日本語や明らかな迷惑メールだけではありません。攻撃者は企業ホームページやSNS、ニュースリリースなどから担当者名や取引先情報を収集し、実際の業務メールと区別がつかない内容を作成します。

    また、生成AIの利用により、自然な日本語や文体を用いたメールを短時間で大量に作成できるようになっています。そのため、「日本語が不自然だから怪しい」という判断だけでは十分ではありません。

    次のような点を複数確認することが重要です。

    • 差出人のメールアドレス
    • ドメイン名
    • 添付ファイルの種類
    • リンク先URL
    • 急な送金や認証を求める内容ではないか

    標的型攻撃への入口対策

    標的型攻撃は複数の侵入手法を利用しますが、その中でも標的型メールは依然として多くの攻撃で利用されています。メール対策製品の導入はもちろん重要ですが、それだけで攻撃を完全に防ぐことはできません。受信者一人ひとりが不審なメールに気付き、適切に対応できるようにすることも重要です。そのため、多くの企業では標的型メール訓練を実施しています。

    標的型攻撃メール訓練

    模擬の標的型攻撃メールを作成し、事前に知らせずに従業員にメールを送信、本文中のリンクをクリックしたり添付ファイルを開いてしまった人を調べ、部門毎の攻撃メール開封率などを管理者に報告するサービスです。

    標的型攻撃メール訓練サービスの比較のポイント

    標的型メール訓練サービスは提供業者が多く、費用やサービスクオリティはさまざまです。ここで簡単に、いい標的型攻撃メール訓練会社の比較のポイントを列挙します。


    • 実施前に社内の業務手順や、うっかり添付ファイルを開いたりリンクをクリックしてしまいそうなメールの傾向を、丁寧なヒアリングをもとに考えてくれるかどうか
    • 開封率の報告だけでなく、添付ファイルを開いた後の初動対応分析や、万一開いた場合の報告体制、エスカレーションの仕組の助言などを行ってくれるかどうか
    • 標的型攻撃メールの添付ファイルを開いたりリンクをクリックすることで具体的にどのように被害が発生するか、リスク予測をしてくれるかどうか
    • 訓練で洗い出された課題解決のために従業員向け研修を実施してくれるかどうか

    不審なメールを開いてしまった場合は

    標的型メールを開いてしまった場合でも、慌てて端末を操作するのではなく、まずは情報システム部門へ報告することが重要です。添付ファイルを実行したか、URLへアクセスしたかによって対応方法は異なるため、組織で定めたインシデント対応手順に従いましょう。

    標的型メール訓練サービスは各社それぞれ個性と品質の差があります。一見似ているように見えますが、どのように運用するかによってサービスクオリティが大きく変わってきます。組織には人事異動もあり業務内容も変わります。メール訓練をやる場合は、エビデンスのために実施する場合はともかく、本当に根付かせたいのであれば定期的な実施が必須といえるでしょう。「入口対策」を考えると、教育訓練を施す標的型メール訓練は 「ヒト」 に対する対策として有効な対策の一つです。しかし、うっかり危険なファイルを開いてしまう確率がゼロになることは残念ながらありません。

    開封率の低減を最重要視するのではなく、「開封されても仕方なし」というスタンスで取り組むことが重要です。訓練の目標を「開封された後の対応策の見直しと初動訓練」に設定し、定められた対応フロー通りに報告が行われるか、報告を受けて対策に着手するまでにどれくらいの時間を要するかを可視化して、インシデント時の対応フローおよびポリシーやガイドラインの有効性を評価することをおすすめします。また、従業員のセキュリティ意識を向上させるために、教育および訓練と演習を実施するのが望ましいでしょう。

    標的型攻撃への対策

    標的型メール訓練は、標的型攻撃への重要な対策の一つですが、それだけで十分とはいえません。近年の標的型攻撃では、メールだけでなくVPN機器の脆弱性や認証情報の悪用、サプライチェーンを経由した侵入など、複数の手法が組み合わせて利用されます。そのため企業は、侵入を防ぐ対策と、侵入後の被害を抑える対策を組み合わせることが重要です。

    システムや端末を最新の状態に保つ

    WindowsOSやMicrosoft Office、Adobeなどの主要アプリケーションを最新の状態に保つことが重要です。セキュリティ更新プログラムは速やかに適用し、不要なサービスは停止しましょう。また、自社のIT資産を把握し、脆弱性を継続的に管理することも重要です。

    多要素認証(MFA)の導入

    仮に認証情報が漏洩しても、不正ログインを防止するために多要素認証(MFA)を導入します。VPNやクラウドサービス、管理者アカウントなど、重要なシステムでは特に有効です。

    EDR・ログ監視

    侵入を完全に防ぐことは困難です。そのため、EDRやログ監視により侵入後の不審な挙動を検知し、早期対応につなげることが重要です。APT攻撃では長期間潜伏するケースもあるため、侵入後の監視体制が被害の最小化につながります。

    インシデント対応体制を整備する

    万が一侵害された場合に備え、初動対応手順や連絡体制を整備しておくことも重要です。情報システム部門だけでなく、経営層や広報、法務なども含めた対応体制を平時から準備しておくことで、被害拡大を防ぎやすくなります。

    多層防御とゼロトラスト

    標的型攻撃は、人・システム・運用の弱点を組み合わせて侵入します。そのため、一つの対策だけでは十分ではありません。近年は「侵入されること」を前提としたゼロトラストの考え方が広がっています。社内外を問わずすべてのアクセスを検証し、必要最小限の権限を付与することで、侵入後の被害拡大を防ぎやすくなります。

    被害を完全に防ぐことは難しい

    標的型攻撃の対策方法のサムネ

    「侵入されることを前提に考える」とは、もはや完全に防ぐことはできないと認めることです。標的型攻撃やAPT攻撃以降に、「この製品を買えば100%防げます」オーバーコミット気味のセキュリティ製品の営業マンが、もしこんなセリフを言ったとしたら、もはや安請け合いどころか明白な嘘です。標的型攻撃は、人の心理や業務フローを巧みに悪用するため、技術的な対策だけで完全に防ぐことは困難です。そのため、侵入を前提とした多層防御と、インシデント発生時に迅速に対応できる体制づくりが重要になります。

    また、昔から言われている基本対策も標的型攻撃に対して有効な対策の一つです。Webサイトやアプリケーションなどの公開サーバ、社内ネットワークを対象に、見過ごしているセキュリティホールがないかどうかを見つける脆弱性診断の定期的実施や、いざ侵入できたらどこまで被害が拡大しうるのかを調べるペネトレーションテストの実施も同様に有効でしょう。

    まとめ

    標的型攻撃は、特定の企業や組織を狙って実施される計画的なサイバー攻撃です。標的型メールだけでなく、VPN機器の脆弱性や認証情報の悪用、サプライチェーンを経由した侵入など、攻撃手法は年々多様化しています。また、標的型攻撃はAPT攻撃の初期侵入手段として利用されることも多く、侵入後には情報窃取や権限昇格などの活動へ発展する可能性があります。企業には、従業員教育や標的型メール訓練、多要素認証、脆弱性管理、EDRによる監視など、多層的な対策を継続的に実施することが求められます。

    標的型攻撃は「侵入されるかどうか」ではなく、「侵入されたときにどれだけ早く気付き、適切に対応できるか」が被害を左右します。平時から技術的対策と組織的な対応体制の両方を整備しておくことが重要です。

    【関連記事】

    • APT攻撃とは?標的型攻撃との違いと企業リスクを解説
    • APT攻撃の手口とは―侵入から情報窃取までの流れを解説
    • APT攻撃対策とは―検知・監視・初動対応の考え方
    • サプライチェーン攻撃とは?仕組み・事例・企業が取るべき対策
    • 脆弱性管理とは?企業が行うべき脆弱性管理の基本と実践手順

    【参考資料・関連情報】


    BBSecでは

    標的型メール訓練

    ※外部サイトへリンクします。

    標的型攻撃リスク診断

    基本対策を実践するのはまず当然として、今後は、「騙されてしまうことはあり得る」と想定し、被害前提・侵入前提での対策も考える必要があります。弊社では、この認識のもと、「もし標的型攻撃にひっかかってしまった場合、どこまで企業の資産に被害が及ぶのか、その結果、どれだけビジネスインパクトがあるのか」を検証するサービスを提供しています。

    公開日:2022年7月14日
    更新日:2026年7月8日

    編集責任:木下


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    アフラック不正アクセスで約438万人の個人情報漏洩 ―保険会社を狙うサイバー攻撃のリスクと企業が取るべき対策

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    「アフラック不正アクセスで約438万人の個人情報漏洩」アイキャッチ画像

    保険会社が保有する個人情報は、単なる氏名や住所にとどまりません。契約内容、証券番号、保障内容、口座情報など、生活や資産に深く関わる情報が含まれるため、ひとたび情報漏えいが発生すると、なりすまし連絡やフィッシング詐欺、電話詐欺などに悪用される恐れがあります。

    アフラック生命保険は2026年6月30日、「契約者専用サイト「アフラック よりそうネット」などのシステムが第三者による不正アクセスを受け、顧客の個人情報を含む一部情報が漏えいした」と公表しました。対象となる顧客数は約438万人で、このうち約23万人については保険料振替口座情報も含まれるとされています。現時点で、本件に関わる情報の不正利用は確認されていません。 本記事では、アフラックの不正アクセス事案の概要を整理しながら、保険会社や金融機関、個人情報を扱う企業が見直すべきサイバーセキュリティ対策、情報漏えい対策、インシデント対応のポイントを解説します。

    ※本記事は2026年6月30日までに公開された情報もとに作成しています。ご覧いただく時期によっては古い情報となっている場合もありますので、ご承知おきください。

    アフラックで発生した不正アクセスと個人情報漏洩の概要

    アフラック生命保険の公式発表*4によると、不正アクセスを受けたのは、契約者専用サイト「アフラック よりそうネット」などのシステムです。「アフラック よりそうネット」は、契約内容の確認や住所・電話番号の変更などを、パソコンやスマートフォンから行える契約者向けサイトと説明されています。

    漏洩した顧客関連の情報には、氏名、生年月日、性別、住所、電話番号、証券番号、保障内容、保険料振替口座情報などが含まれます。保険料振替口座情報には、金融機関名、支店名、預金種類、口座番号、口座名義などが含まれるとされています。一方で、「マイナンバーおよびクレジットカード情報は含まれていない」と公表されています。漏洩件数は、顧客数で約438万人です。そのうち、漏洩した項目に保険料振替口座情報が含まれる顧客数は約23万人とされています。また、代理店関連の個人情報として、代理店代表者氏名、代理店住所、代理店電話番号など、約4万店分の情報も漏洩したとのことです。

    不正アクセスはいつ発生し、いつ判明したのか

    公式発表によれば、情報漏洩が判明したのは2026年6月25日です。同日、アフラックは当該不正アクセスを遮断し、不正アクセスの拡大を防ぐため、関連するシステムを停止しました。その後の調査で、不正アクセスが最初に発生したのは2026年6月15日であり、6月25日までに複数回、不正にアクセスされていたことが確認されています。一方で、原因の詳細は「調査中」とされています。現時点で、脆弱性の悪用、認証情報の窃取、内部アカウントの悪用、ランサムウェア攻撃など、具体的な攻撃手口は公表されていません。

    現在停止しているサービスと顧客対応

    アフラックは、不正アクセスの拡大を防ぐため、一部システムを停止しています。公式ページでは、よりそうネット、人間ドック・健診予約サービス、妊活コンシェルジュサービス、オンライン家計簿サービス「マネーフォワード for アフラック」、アフラックAIサポートコンシェルジュなどが、現在利用できないサービスとして案内されています。ただし保険金・給付金の請求をはじめとする各種問い合わせや手続きは、「コールセンターなどで通常どおり受け付けている」と説明されています。対象となる顧客には、「順次、お詫びとお知らせの文書を送付する」としており、「金融庁・警察等の関係機関にも報告済み」とのことです。 システム停止は、利用者にとって不便を生みます。しかし、不正アクセスの範囲が判明していない段階で関連システムを止める判断は、被害拡大を抑えるうえで重要な初動対応です。

    独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開している「情報漏えい発生時の対応ポイント集」でも、不正アクセスによって個人情報や機密情報が漏えいする危険性が確認された場合、ネットワークからの切り離しやサービス停止などの処置が必要になると説明されています。

    なぜ保険会社の個人情報漏えいは深刻なのか

    今回のアフラック不正アクセス事案で注目すべき点は、漏洩した可能性のある情報の組み合わせです。氏名、住所、電話番号、生年月日だけでなく、証券番号や保障内容、保険料振替口座情報まで含まれる場合、攻撃者は「保険契約の確認」「給付金手続き」「口座情報の確認」「契約内容の更新」などを装った連絡を行いやすくなります。これは、単なるメールアドレス漏洩よりも、なりすましの説得力が高まりやすい情報漏洩といえます。

    フィッシング対策協議会はフィッシングについて、「実在する組織を騙って、ユーザネーム、パスワード、アカウントID、ATMの暗証番号、クレジットカード番号といった個人情報を詐取すること」と説明しています*2。今回の事案で実際にフィッシング被害が確認されたわけではありませんが、保険会社をかたる不審なメール、SMS、電話には十分な注意が必要です。 特に、金融機関名や口座番号が含まれる可能性がある顧客については、口座そのものから直ちに出金されるとは限らないものの、別の詐欺や本人確認の突破材料として悪用されるおそれがあります。アフラックも公式発表の中で、不審な連絡を受けた場合や、保険料振替口座における不審な取引などの懸念が生じた場合には、同社連絡先へ連絡するよう案内しています。

    企業が学ぶべきポイントは「侵入されない」だけではない

    サイバーセキュリティ対策というと、ファイアウォール、ウイルス対策ソフト、多要素認証、脆弱性診断など、「侵入を防ぐ対策」に目が向きがちです。もちろん、これらの対策は重要です。しかし、今回のように不正アクセスが複数回行われ、一定期間後に判明した事案を見ると、企業に求められるのは「侵入を完全に防ぐ」ことだけではありません。重要なのは、侵入の兆候を早期に検知し、被害範囲を特定し、必要なシステムを迅速に隔離し、顧客や関係機関へ適切に説明できる体制です。

    個人情報保護委員会では、「個人データの漏えい等が発生し、個人の権利利益を害するおそれがある場合、個人情報保護委員会への報告および本人への通知が必要」と説明しています*3。該当する事態には、「財産的被害が生じるおそれがある事態」、「不正の目的をもって行われた漏えい等が発生した事態」、「1,000人を超える漏えい等が発生した事態」が含まれます。また、本人へ通知する際には、「概要、個人データの項目、原因などを、本人にとって分かりやすい方法」で伝える必要があります。企業の情報漏洩対応では、技術的な調査だけでなく、顧客への説明、問い合わせ対応、監督官庁への報告、再発防止策の公表までを一連のインシデント対応として設計しておく必要があります。

    関連記事:情報漏洩対策の基本を詳しく知りたい方へ

    情報漏洩対策は、不正アクセスを防ぐだけでは十分ではありません。情報漏洩が発生する原因や企業への影響、技術・運用・組織の3つの観点から取り組むべき対策について、基礎から分かりやすく解説しています。あわせてご覧ください。
    情報漏洩対策とは何か ―企業が知るべき原因・リスク・防止策の全体像―

    金融・保険業界で高まるサードパーティリスク管理の重要性

    今回のアフラックの事案について、現時点の公式発表では、委託先や外部サービスが侵入経路だったとは説明されていません。そのため、本件をサードパーティ起点のインシデントと断定することはできません。一方で、金融庁は金融分野のサイバーセキュリティ対策として、サードパーティ・サイバーセキュリティリスク管理の重要性を継続的に取り上げています*4。金融庁の関連資料では、金融機関が管理すべきサードパーティや、その先に存在するNthパーティの範囲、集中リスク、契約後の継続的なモニタリングなどが課題として示されています。

    アフラックでは2023年にも、業務委託先の外部業者において同社保有の個人情報の一部が流出した事案が公表されていました*5。この2023年事案では、対象となった顧客数は132万3,468人で、流出した個人情報の項目は姓のみ、年齢、性別、証券番号、保険種類番号、保障額、保険料などでした。今回の2026年事案とは発生経路や漏洩項目が異なるため同一視はできませんが、保険会社が扱う情報の価値と、外部委託先を含めた管理体制の重要性を考えるうえで、過去事例として参照できます。

    保険会社、金融機関、医療機関、自治体、BtoBサービス事業者など、重要な個人情報を扱う組織では、自社システムだけでなく、外部委託先、クラウドサービス、SaaS、開発会社、運用保守会社まで含めたリスク管理が欠かせません。契約時のセキュリティチェックだけで終わらせず、運用中の監査、ログ確認、脆弱性対応、インシデント発生時の連絡体制まで確認しておくことが重要です。

    企業が今すぐ見直すべきセキュリティ対策

    今回の事案から企業が学ぶべき第一のポイントは、個人情報を保管するシステムのアクセス管理です。顧客情報、契約情報、口座情報などを扱う管理画面では、多要素認証、IPアドレス制限、権限の最小化、休眠アカウントの棚卸し、特権IDの監視を徹底する必要があります。IDとパスワードだけに依存した認証は、フィッシングや認証情報漏えいによって突破されるリスクがあります。

    第二のポイントは、ログ監視と異常検知です。不正アクセスが発生しても、ログが取得されていなければ、侵入経路や閲覧された情報、被害範囲を後から正確に追うことが難しくなります。個人情報保護委員会のフォレンジック調査に関する資料でも、不正アクセスの原因や被害範囲を明らかにし、効果的な再発防止策につなげるために、ログなどの証拠保全が重要であることが示されています。

    第三のポイントは、インシデント発生時の復旧体制です。経済産業省の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver 3.0」では、インシデントにより業務停止等に至った場合に備え、復旧手順書の策定、復旧対応体制の整備、サプライチェーンも含めた実践的な演習の実施が必要であるとされています。顧客向けサービスを止める判断、代替手段の案内、問い合わせ窓口の設置は、平時に準備していなければ迅速に実行できません。

    第四のポイントは、個人情報の持ち方そのものの見直しです。すべての情報を同じシステムで参照できる状態にしていないか、業務上不要な項目まで保存していないか、口座情報などの重要情報に追加の保護措置を設けているかを確認する必要があります。情報漏えい対策では、侵入を防ぐことに加え、万が一侵入された場合でも漏洩範囲を最小化する設計が求められます。

    顧客側が注意すべきこと

    今回のアフラック不正アクセス事案では、現時点で情報の不正利用は確認されていないとされています。しかし、漏洩した可能性のある情報には電話番号や住所、証券番号、保障内容、口座情報が含まれるため、顧客側でも不審な連絡に注意する必要があります。もしも、「契約内容の確認が必要です」「保険料の引き落とし口座を再登録してください」「給付金の手続きに必要です」といった連絡があった場合でも、メールやSMSに記載されたURLを安易に開かず、公式サイトや正規の問い合わせ窓口から確認することが大切です。警察庁もフィッシング対策として、迷惑メッセージブロック機能の活用や、ID・パスワードの使い回しを避けることを呼びかけています*6。特に、保険会社や金融機関を名乗る電話で、暗証番号、認証コード、インターネットバンキングのログイン情報などを求められた場合は注意が必要です。正規の企業を装った連絡であっても、その場で情報を伝えず、いったん電話を切って公式窓口に確認する対応が安全です。

    まとめ 情報漏えい対策は「防御」から「検知・対応・復旧」へ

    アフラックの不正アクセスによる個人情報漏えいは、保険会社や金融機関だけの問題ではありません。顧客情報、契約情報、決済情報、口座情報、問い合わせ履歴などを扱うすべての企業にとって、情報漏えい対策とインシデント対応の重要性を改めて示す事案です。

    今回の公式発表で確認できるのは、約438万人の顧客情報が漏えいし、そのうち約23万人については保険料振替口座情報が含まれること、代理店約4万店分の情報も漏洩したこと、そして不正アクセスが6月15日から6月25日まで複数回確認されていることです。一方で、原因や攻撃手口の詳細は調査中であり、現時点で断定できる情報は限られています。

    企業に求められるのは、侵入を防ぐための対策だけではありません。異常を早く見つける監視体制、被害範囲を確認するログ管理、顧客へ説明できる情報整理、サービス停止時の代替手段、復旧手順、再発防止策までを含めた総合的なサイバーセキュリティ体制です。 個人情報漏洩は、発生してから対応を考えるのでは遅すぎます。自社の顧客情報がどこにあり、誰がアクセスでき、どのログが残り、インシデント発生時に誰が判断するのか。今回の事案を機に、企業は不正アクセス対策、脆弱性管理、ログ監視、委託先管理、インシデント対応計画を改めて見直す必要があります。

    【参考情報】

    編集責任:木下


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    BBSec(ブロードバンドセキュリティ)では、Webアプリケーション診断、プラットフォーム診断、クラウド環境診断、脆弱性管理支援など、企業のセキュリティリスクを可視化する各種サービスを提供しています。外部サービスや委託先を含めたセキュリティ体制の見直し、情報漏えいリスクへの備え、インシデント発生前の予防対策を検討している企業は、ぜひご相談ください。


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