APT攻撃事例から学ぶ ―国内外の被害事例と企業が取るべき対策―

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APT攻撃は、企業や政府機関、研究機関などを標的に、長期間にわたって情報窃取や諜報活動を行う高度なサイバー攻撃です。侵入経路は標的型メールや脆弱性の悪用、サプライチェーン攻撃などさまざまで、被害は組織内にとどまらないこともあります。本記事では、国内外の代表的なAPT攻撃事例を紹介し、企業が学ぶべき教訓と対策のポイントを解説します。

APT攻撃の定義や特徴について詳しく知りたい方は、まずこちらの記事をご覧ください。APT攻撃とは?標的型攻撃との違いと企業リスクを解説【2026年版】

APT攻撃事例が注目される理由

APT攻撃事例が注目されるのは、被害が一企業にとどまらず、取引先や顧客、社会インフラへ広がる可能性があるためです。APT攻撃では、標的となった組織の機密情報が盗まれるだけでなく、取引先、顧客、グループ会社、委託先、政府機関などへ影響が広がることがあります。特に近年のAPT攻撃では、サプライチェーンやクラウドサービス、リモートアクセス環境が狙われるケースが目立ちます。攻撃者は、最も守りが固い本丸を正面から攻撃するのではなく、比較的侵入しやすい周辺システムや取引先、公開サーバ、保守用アカウントなどを足がかりにします。

また、APT攻撃は発見までに時間がかかることがあります。侵入直後に大規模な障害やランサムウェア被害が起きるとは限らず、攻撃者が長期間にわたって潜伏し、情報収集や権限拡大を続ける場合があります。そのため、事例を通じて攻撃の流れを理解し、侵入前の防御だけでなく、侵入後の検知や初動対応を整えることが重要です。

APT攻撃の具体的な手口の流れは、こちらで解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
APT攻撃の手口とは?侵入から情報窃取までの流れを解説

SolarWindsへのサプライチェーン攻撃(2020年12月)

SolarWinds事件は、APT攻撃の代表的な事例として広く知られています。SolarWinds社が提供するIT管理ソフトウェア「Orion」の正規アップデートが攻撃に悪用され、利用組織に不正なコードが配布されたサプライチェーン攻撃です。この事件の特徴は、攻撃者がソフトウェアの利用企業を直接攻撃したのではなく、多くの組織が信頼して利用していた正規ソフトウェアの更新プロセスを悪用した点にあります。企業や政府機関にとって、利用中のソフトウェアベンダーから提供されるアップデートは、通常は信頼できるものとして扱われます。攻撃者はこの信頼関係を逆手に取り、正規の更新に紛れ込む形で侵入の足がかりを作りました。

この事例から学べることは、「正規のアップデートだから安全」という前提そのものが攻撃対象になり得るということです。ベンダーのセキュリティ体制を確認するだけでは不十分で、正規プロセスを経た通信であっても、通常と異なる挙動(普段アクセスしない外部ホストへの通信など)を検知できる仕組みが必要になります。

Microsoft Exchange Serverを狙った攻撃(2021年3月)

Microsoft Exchange攻撃は、オンプレミス版のMicrosoft Exchange Serverに存在した複数の脆弱性が悪用された事例です。攻撃者は脆弱性を悪用してExchange Serverへアクセスし、メールアカウントへのアクセスや、長期的な侵入を可能にする追加のマルウェア設置を行っていました。これを受け、Microsoftは2021年3月、Exchange Serverを狙ったゼロデイ攻撃を公表し、セキュリティ更新プログラムの適用を強く呼びかけました*1

この事例の重要な点は、公開サーバの脆弱性がAPT攻撃の入口になり得ることです。メールサーバは多くの組織で外部と通信するために利用され、インターネットからアクセス可能な状態で運用されることがあります。そのため、脆弱性が存在すると、攻撃者にとって非常に価値の高い侵入経路になります。

この事例から学べることは、「パッチを当てて終わり」にしてはいけないということです。すでに攻撃者が侵入していた場合、更新プログラムを適用しても、設置済みのバックドアや不正アカウントが残る可能性があります。実際、この攻撃では公表後も被害が拡大し、パッチ適用と並行した侵害有無の確認(ログ調査、IOC確認、認証情報のリセットなど)の重要性が浮き彫りになりました。

日本企業を狙ったAPT攻撃

APT攻撃は海外だけの問題ではありません。日本企業や日本の組織も、APT攻撃の標的になっています。日本を標的とするAPTグループとしては、APT10、Kimsuky、Lazarusなどが広く知られており、標的型メールやVPN機器の脆弱性悪用など複数の手口が確認されています。日本には、製造業、研究機関、重要インフラ、防衛関連、先端技術、金融、通信、行政機関など、攻撃者にとって価値の高い情報を持つ組織が多く存在します。そのため、技術情報、知的財産、政策関連情報、取引情報、認証情報などを狙った攻撃が継続的に確認されています。

たとえば、APT10に関しては、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)2018年12月に注意喚起を行っています*2。APT10は、標的型メール攻撃や知的財産の窃取などとの関連で国際的に注目された攻撃グループです。

またJPCERT/CCは2024年3月、日本組織を標的としたKimsukyの攻撃活動を公表しました*3。外交・安全保障関連組織を装った標的型メールを送付し、PowerShellを利用した情報窃取やキーロガーの展開など、侵入後に発見されにくい手口が確認されています。

この事例から学べることは、国内拠点だけでなく、海外拠点やグループ会社、委託先も攻撃経路になり得るという点です。海外拠点では、本社と比べてセキュリティ人材や監視体制が不足している場合があります。攻撃者はそのような弱点を利用し、グループ全体のネットワークへ侵入しようとする可能性があります。本社だけでなく、グループ会社・海外拠点・委託先との接続点を含めたリスク管理が欠かせません。

事例から見える共通点

SolarWinds事件、Microsoft Exchange攻撃、日本企業を狙ったAPT攻撃には、それぞれ異なる背景があります。しかし、複数の事例を比較すると、いくつかの共通点が見えてきます。

第一に、APT攻撃では信頼された経路が悪用されやすいという点です。SolarWinds事件では正規ソフトウェアの更新経路が悪用され、Microsoft Exchange攻撃では業務に不可欠なメールサーバが狙われました。日本企業を狙った攻撃でも、取引先や関係機関を装った標的型メール、VPNなどの業務上必要な接続経路が悪用されています。

第二に、脆弱性や設定不備が侵入の足がかりになる点です。公開サーバやVPN、メールシステムなどに未修正の脆弱性が残っていると、攻撃者はそこから内部へ侵入できます。特に、悪用が確認された脆弱性への対応が遅れると、APT攻撃だけでなく、ランサムウェア攻撃や情報窃取にもつながる可能性があります。

第三に、侵入後の発見が難しい点です。APT攻撃者は、正規アカウント、管理ツール、暗号化通信、業務時間帯の通信などを利用し、通常業務に紛れるように活動します。そのため、入口対策だけでは不十分であり、EDR、SIEM、ログ監視、認証ログの分析などを通じて、侵入後の異常を見つける体制が必要です。

第四に、サプライチェーン全体へ被害が波及する可能性がある点です。サプライチェーン攻撃では、自社が侵害されることで取引先に被害が広がる可能性があります。逆に、取引先や委託先が侵害され、自社が被害を受けることもあります。

事例から企業が学ぶべきこと

3つの事例を通じて見えてくるのは、対策を個別の製品導入で終わらせず、「侵入されることを前提とした備え」を組織全体で作ることの重要性です。

  • SolarWinds事件からは、信頼している経路ほど疑う視点を持つ必要性
  • Microsoft Exchange攻撃からは、パッチ適用後も侵害有無を確認する姿勢の必要性
  • 日本企業を狙った攻撃からは、本社以外の拠点・委託先を含めたリスク管理の必要性

いずれの事例にも共通するのは、「侵入を完全に防ぐ」だけではなく、「侵入後を見据えた検知・監視・対応体制」が被害の最小化につながるという点です。

まとめ

APT攻撃事例を見ると、攻撃者は標的組織へ直接侵入するだけでなく、ソフトウェア更新、公開サーバ、VPN、標的型メール、取引先、海外拠点など、さまざまな経路を悪用していることがわかります。SolarWinds事件はサプライチェーン攻撃のリスクを示し、Microsoft Exchange攻撃は外部公開システムの脆弱性管理の重要性を示しました。日本企業を狙ったAPT攻撃からは、国内組織も継続的に標的となっている現実が見えてきます。

過去の攻撃事例は単なるニュースではなく、自社のセキュリティ対策を改善するための実践的な教材です。事例から学び、自社の弱点を具体的に見直すことこそが、APT攻撃の被害を最小限に抑える第一歩といえます。

APT攻撃への備えでは、侵入前の対策だけでなく、侵入後の検知・監視・初動対応まで含めた多層的な対策が重要です。具体的な対策については、「APT攻撃対策とは?検知・監視・初動対応の考え方」で詳しく解説しています。

【参考情報】

編集責任:木下


APT攻撃への備えをご検討中の方へ

APT攻撃は、侵入を完全に防ぐことが難しい高度なサイバー攻撃です。侵入経路の把握や脆弱性管理、監視体制の強化など、継続的な対策が求められます。弊社、ブロードバンドセキュリティ(BBSec)では、脆弱性診断、アタックサーフェス管理調査、セキュリティ運用サービス、コンサルティングサービスなど、企業のセキュリティ対策を支援するサービスを提供しています。


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