狙われる医療業界
―「医療を止めない」ために、巧妙化するランサムウェアに万全の備えを

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いま、医療機関を標的としたランサムウェア攻撃が増え続けています。
足元で顕著になっているのは、攻撃による被害インパクトが大きい特定のシステム・事業を狙い、「より確実に、より高額の」身代金を得ることをもくろむ、手の込んだ持続的な攻撃です。事業継続に直結するシステムや機微情報等が保存されているシステム、事業が中断・停止した場合に甚大な影響をもたらす重要インフラなどが標的にされやすく、医療機関のシステムはその最たるものといえます。本記事では、医療機関を狙うランサムウェアの現状を紹介し、取りうる対策について考えます。

勢いづく攻撃、日本も「対岸の火事」ではない

米国では、2020年秋、数週間のうちに20を超える医療機関でランサムウェア攻撃が確認されました。*1下記にその一部を紹介しますが、パンデミック下で医療現場が逼迫(ひっぱく)する中、追い打ちをかけるように攻撃の勢いが増しているのです。10月末には、米CISA、FBI、米保健福祉省が共同でセキュリティ勧告を発する事態となっています(後述)。

表1:医療機関を狙ったランサムウェア被害(一部)

2020年9月 Universal Health Services(米国の医療サービス最大手)
がシステム停止*2
ニュージャージー州の大学病院が患者データを暗号化
され、一部データを不正に公開される*3
2020年10月 オレゴン州の病院でコンピュータシステムが使用不能に*4
ニューヨーク州の複数の病院でシステムが使用不能に*5

なお、日本では2018年10月、近畿地方の公立病院がランサムウェア攻撃の被害を受け、一部の患者カルテ情報が暗号化されてしまい、診療記録等の参照ができない状況に陥りました。今後攻撃者がターゲットを広げ、米国のように日本国内でも被害が活発化するのは、もはや時間の問題かもしれません。

攻撃者はなぜ医療業界を狙うのか

もちろん、攻撃を受けた場合の被害インパクトが大きい(=高額の身代金を設定し得る)重要インフラとみなされるのは、医療のみではありません。日本では、医療のほか、情報通信、金融、航空、空港、鉄道、電力、ガス、政府・行政サービス、水道、物流、化学、クレジット、石油という、計14分野が重要インフラと位置づけられています。では、なぜ攻撃者は医療業界に目をつけるのでしょう。それは、次のような特徴があるためです。

  • 患者に関する情報はブラックマーケットで特に高額で売買される
  • 「事業の停止が直接生命に関わる」という点が、身代金要求に応じさせるうえでの強力な要因になる
  • 地域医療連携など医療機関同士のやり取りでは、インターネットVPNやインターネット(TLS 1.2)、またはIP-VPN(地域医療連携専用閉域ネットワーク)が採用されており、 連携先の端末のセキュリティ対策がされていない、情報共有が上手くされていないという課題がある
  • 診断・医療に用いられるシステムは多くの場合非常に高額で長期使用を前提として作られており、コスト・技術的理由などから、古いまま使われ続けている傾向がある
  • 情報セキュリティの三要素(C(機密性)、I(完全性)、A(可用性))のうち、医療では可用性が何よりも重視される傾向があり、相対的に他の2要素への対応がおろそかになりがち

また、昨今の医療情報は、患者のデータだけではなく、IoT等の新技術やサービス等の普及により、様々な端末とつながっている場合があり、攻撃者側からすれば、「カネになるビジネス」として狙われるターゲットとなり得ます。

なお、弊社が2020年8月、国内のIT担当者を対象に実施した「脆弱性管理に関するアンケート」の結果では、医療業界は、情報システム部門を持たず別部門の担当者が兼務している状況が他業種よりも顕著で、かつ、情報システム部門を有する場合もその規模が小さいことが明らかになっています。セキュリティへの対応に十分なリソースを避けないという構造的な問題も、攻撃者を引き付ける一因といえるでしょう。

【参考情報】
医療機関では古いシステムが使われ続けている傾向が強い

新型コロナウイルス感染症拡大に伴い利用が急増しているG SuiteやMicrosoft 365については、セキュリティのチェックリストや推奨設定例が公開されていますので、以下にご紹介します。古いシステムが使われ続けているという傾向に関し、医療システムに関する世界最大規模の業界団体HIMSS(Healthcare Information and Management Systems Society)による年次調査の結果を紹介しましょう(下図)。 組織内で何らかの旧式化したシステム(レガシーシステム)を使っている、という回答は、2020年において8割に達しています。最も多いのはWindows Server 2008で50%の組織に存在、昨年サポートが終了したWindows 7は49%、さらに前の世代のWindows XPは35%です。この業界が攻撃者に特に好まれることに納得する結果といえないでしょうか。


「2020 HIMSS Cybersecurity Survey」より
出典:https://www.himss.org/sites/hde/files/media/file/2020/11/16/2020_himss_cybersecurity_survey_final.pdf

なお、身代金目的とは異なりますが、このパンデミック下、ワクチン開発競争を背景に研究情報を狙った国家ぐるみのサイバー攻撃が活発化しているという点も、医療機関に対する攻撃増加の追い風になっているとみられます。

ランサムウェア攻撃の変貌2020

従来のランサムウェアでは、ウイルスを添付したメールのばらまき、悪意あるWebページへの誘導などにより、不特定多数を対象に広範な攻撃を行うことで身代金獲得を狙う、というやり方が主流でした。現在も依然としてそうした形の攻撃は存在しますが、前述のように、「より確実に、より高額の」身代金を獲得することを狙った変化が目につきます。最近のランサムウェアの特徴として指摘されているのは主に次の2点です。

人手による攻撃 ‐標的を定めて周到に準備‐

ランサムウェアを自動化されたやり方で幅広くばらまくのではなく、特定の組織を標的にして手動で侵入を試み、侵入成功後はネットワーク内に潜伏してさまざまな活動を行い、攻撃の成果を最大化することを狙います。こうした人手による攻撃には、APT(Advanced Persistent Threat:持続的標的型攻撃)との類似点が多く、その結果、ランサムウェア攻撃への対策にはAPTと同水準の取り組みが求められるようになっています。

二重の脅迫 ‐より悪質なやり方で被害者を追い詰める‐

「身代金を払え」という脅迫に加え、「身代金を支払わないと機密データを公開するぞ」という脅迫を重ねて行い、支払いを迫ります。実際にデータを公開されてしまったという事例が複数確認されているほか、データが破壊されてしまったケースも出ており、攻撃を受けた場合のダメージの大規模化、深刻化がみられます。 現在、こうした特徴を持つ新しいタイプのランサムウェアがいくつも生み出され、世界各地で猛威を振るっているのです。詳細については「変貌するランサムウェア、いま何が脅威か‐2020年最新動向‐」にまとめていますので、ぜひこちらもあわせてご覧ください。

ランサムウェア対策への取り組み ‐医療情報システムに関するガイドライン‐

先に触れたとおり、ランサムウェア攻撃の活発化を受け、米CISA、FBI、米保健福祉省はセキュリティ勧告「Ransomware Activity Targeting the Healthcare and Public Health Sector」を公表しました。同勧告では、各種ランサムウェアの分析結果を踏まえ、下記のようなベストプラクティスを提示しています。

図:ネットワークセキュリティ・ランサムウェア対策に関するベストプラクティス

Ransomware Activity Targeting the Healthcare and Public Health Sector」より

こうしたベストプラクティスを遂行するうえで重要なのが、ステークホルダー間の効果的な連携です。医療機関では、部門や職務によって異なる企業の製品やサービスが用いられており、システム連携はしばしば複雑です。いま、医療業界が攻撃者の明確な標的となる中、医療機関、および医療機関向けにサービスや製品を提供する事業者は、自らの責任範囲を理解したうえで、これまで以上に緊密な連携を図り、システムのセキュリティ強化に取り組んでいく必要があります。

なお、日本においては、医療情報システムの安全管理に関し、技術・制度的な動向を踏まえてガイドラインの継続的な策定・更新が行われており、現時点で医療機関、事業者のそれぞれを対象とした下記2種が提示されています。責任分界点の考え方や合意形成の考え方など、連携をより効果的にするための課題も取り上げられており、目を通しておきたい資料です。

表2:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン

1)厚生労働省
医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(第5版、2017年5月)
  • 対象読者は、医療情報システムを運用する組織の責任者
  • 医療情報の扱いを委託したり情報を第三者提供したりする場合の責任分界点の考え方を示し、医療システムを安全に管理するために求められる対応を規定
2)経産省・総務省
医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」(2020年8月)
  • 対象読者は、医療システムやサービスを提供する事業者。なお、医療機関等と直接的な契約関係のない事業者も医療システム等のサプライチェーンの一部として機能している場合、このガイドラインの適用範囲となる
  • 事業者に求められる義務と責任の考え方、医療機関等への情報提供と合意形成の考え方、リスクマネジメントの実践やリスク対応のための手順などを規定

APTと同水準の対策を立て、全方位での備えを

繰り返しになりますが、現在活発化しているランサムウェア攻撃の手口は高度かつ執拗です。守る側には、従来よりも踏み込んだ、APTと同水準の対策が求められます。そこで鍵になるのは、「侵入される」「感染する」ことを前提とした取り組みです。想定される被害範囲をあらかじめ洗い出し、優先順位をつけて対策をとりまとめていくことで、万一攻撃を受けた場合でもその被害を最小化することが可能になります。

なお、こうした対策を立てるにあたっては、セキュリティ専門企業が提供しているサービスもうまく活用しましょう。たとえば、想定される被害範囲を把握する際は、システムへの擬似攻撃等をメニューに含んだサービスを利用すると、精度もスピードも高められるでしょう。 激化するランサムウェア攻撃から医療システムを守るため、医療機関、関連事業者をはじめとするステークホルダーが連携し、全方位的なセキュリティに取り組むこと。それは、日々現場で闘う医療者を支えるための社会的ミッションともいえるでしょう。


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変貌するランサムウェア、いま何が脅威か
―2020年最新動向―

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データ等を不正に暗号化し、「身代金(Ransom)」を支払うよう個人や企業を脅迫・恐喝するランサムウェア。近年世界各地で猛威を振るい、日本国内での被害も複数報じられています。本記事では、そのランサムウェアをめぐる最新情報をご紹介します。なお、ランサムウェアに関する基本的情報については、「ランサムウェア その被害と対応策、もし感染したら企業経営者はどう向き合うべきか」をご参考ください。

ランサムウェア特集2021年版を公開しました!
2021年の最新動向については、「ランサムウェア最新動向2021
―2020年振り返りとともに―」をご覧ください。

ランサムウェアの現状

現在のランサムウェアは、「Ransomware-as-a-Service」(通称「RaaS」)と呼ばれる形態、すなわち、ランサムウェアそのものを提供するのではなく、サービスとして犯罪行為を提供する形態が主流となっています。また、従来のメールのばらまきやワームによる拡散のように機械的にランサムウェアをばらまく方式に加えて、攻撃者が手動で侵入し、ネットワーク内で慎重に被害範囲を拡大させて攻撃の影響を最大化する「人手によるランサムウェア攻撃(human operated ransomware attacks/campaigns)」が増えています。人手によるランサムウェア攻撃の手法には、APT(Advanced Persistent Threat:持続的標的型攻撃)との類似点が多く、APTへの対策がそのままランサムウェア攻撃への対策となりつつあるという現状があります。

また、単に身代金の支払いを要求するだけではなく、身代金を支払わなかったらデータの暴露を行うと脅すタイプのランサムウェア(とその犯行グループ)もあり、身代金を支払ったにもかかわらずデータが暴露されてしまったケースも出ています(なお、こうした犯行では、データを暴露するサイトがダークウェブに開設されています)。さらに、一部のランサムウェアはデータ破壊の機能も備えているため、以前にもましてオフラインバックアップの重要性が増しているともいえます。

身代金の額も年々上昇しており、ENISA(欧州ネットワーク情報セキュリティ庁)の2020年版年次レポートによると、2019年に支払われたと推計される身代金は100億ユーロ(約1.2兆円)を超えました。その他、各種調査機関の四半期レポートでも、2020年はさらに身代金の支払い額が増えていることが報告されています。

このような状況下においては、サイバー保険が一層重要性を増し、多くの企業ではランサムウェア等の被害からの復旧を前提として契約を行っていると考えられます。しかし、スイスの保険会社の米法人がランサムウェア攻撃をサイバー保険の免責事項にあたる戦争に該当するとして支払いを拒否したことから、現在係争中となっているケースがあり、「サイバー保険を掛けていれば大丈夫」と言い切れない点に注意が必要です。

各種ランサムウェアの概要

現在、活況を呈しているともいえるランサムウェア。2020年の時点でどのようなランサムウェアが確認されているのでしょう。主なものを以下に紹介していきます(類似の特徴を持つランサムウェアは、ランサムウェアファミリーとして、まとめて解説しています)。

REVil/Sodinokibi

<概要>
REVil、またの名をSodinokibi(またはSodin)。当初はアジア圏を中心に、現在は地域を問わず多くの被害が確認されているRaaSです。アフィリエイトプログラムも盛んで、支払われた身代金の30%~40%をアフィリエイトに支払っているとも言われ、組織的な犯行であることが知られています。2019年に活動停止を宣言したランサムウェアGandCrabのコードとの類似性が高いこと、身代金の支払いを行わなかった場合にデータの暴露を行う脅迫を行うことでも知られています。このランサムウェアファミリーの初期アクセス活動は、標的型フィッシングメールによるもののほか、リモートデスクトップサービス(RDP)やVPNゲートウェイなどの脆弱性を悪用したケースもあります。

<被害事例>
2020年1月に英・外貨両替商が被害を受け、230万米ドル(約2億5千万円)の身代金が支払われました。この事例では、脆弱性が修正されていないVPNサーバ「Pulse Connect Secure」が攻撃の足掛かりにされたことが知られています。

Nephilim/Nefilim

<概要>
このランサムウェアは、身代金の支払いと、身代金の支払いを行わなかった場合のデータ暴露という二重の脅迫を行うことで知られています。2020年6月にニュージーランドのCERTが公開した注意喚起によると、Cirtix ADCなどの脆弱性(CVE-2019-19781、2020年1月に修正プログラム公開済み)を悪用したり脆弱な認証機構を突破したりすることにより不正アクセスを行った後、Mimikatz、psexec、Cobalt Strikeなどのツールを利用して権限昇格や横展開を行って永続性を確保し、その後、このランサムウェアによるファイルの暗号化と身代金の要求が行われます。

<被害事例>
日本企業の豪子会社で2020年1月と5月の二度にわたってランサムウェアの被害が発生しましたが、そのうち5月に発生した被害がNefilimによるものであるとされています。なお1月のランサムウェア被害は、次に紹介するNetWalkerによるものでした。

NetWalker/Mailto

<概要>
主に欧米諸国とオーストラリアの企業をターゲットとしたランサムウェアで、他のランサムウェア同様に、身代金の支払いと、身代金の支払いを行わなかった場合のデータ暴露という二重の脅迫を行います。初期アクセスはRDP、標的型フィッシングメール、古いバージョンのApache TomcatやOracle WebLogic Serverへの攻撃により行われます。一方、侵入後の権限昇格にはSMBv3の脆弱性(CVE-2020-0796)などの脆弱性が用いられます。

<被害事例>
直近の事例では2020年10月にイタリアのエネルギー会社が被害を受け、1400万米ドル(約1億5千万円)の身代金を要求されたという報道*6があります。5TBほどのデータが暗号化されたうえ、持ち出された可能性があり、身代金を支払わない場合にはデータを暴露するという脅迫も受けています。

Ryuk/Conti

<概要>
Ryukは2019年に猛威を振るったランサムウェア、Contiは2020年に登場したランサムウェアで、類似性が指摘されています。いずれも北米での被害、それも公的機関や医療機関での被害が多い点に特徴があり、他のマルウェア(Trickbotなど)を介して侵入したのちデータの暗号化と持ち出し、身代金の要求を行います。Contiについては、身代金の支払いを拒否した組織のデータの暴露を行っており、EDRのフッキングをバイパスすることも報告されています。

<被害事例>
Contiについては2020年10月に米マサチューセッツ州とジョージア州の医療機関で被害があり、データの暴露が行われたことが確認されています。Ryukに関しては、米CISAが、医療機関での被害を受け、Trickbotおよびバックドア マルウェアであるBazarLoader/BazarBackdoorと合わせての注意喚起を行っています。

ChaCha/Maze/Sekhmet/Egregor

<概要>
ChaChaにルーツを持つランサムウェアがMazeで、SekhmetやEgregorはその亜種として位置づけられています。REVil/Sodinokibi同様にアフィリエイトモデルを採用している点に特徴があり、複数のグループが連動して動いているとされています。2020年11月、国内大手企業の被害により日本でも名を知られるようになったRagnar Lockerも、過去にアフィリエイトとして協力関係にあったといわれています。身代金の要求に加えて、支払いを拒否した場合のデータ暴露の脅迫を行う点もREVil/Sodinokibiと共通する点です。被害が発生しているのは特定の地域に限らず、世界規模と言っていいでしょう。Mazeでは、多様なエクスプロイトツールやマルウェアとの組み合わせで初期アクセスや横展開などが行われています。

<被害事例>
スイスのサイバー保険大手が2020年3月に被害を受けた事例や、2020年4月の米国の航空機メンテナンス会社の事例などが挙げられます。後者については、Mazeによるデータの窃取と公開を行ったうえで、攻撃後もターゲットのネットワーク内に潜伏し、データを摂取し続けていたことが判明しています。

その他のランサムウェア

  • Avaddon:botnetによりフィッシングメールが送信される点に特徴があるランサムウェア。RaaS。身代金要求に加えてデータ暴露の脅迫も行う。
  • CL0P:オランダの大学などが被害に遭ったランサムウェア。データ暴露のためのサイトを持っている。なおオランダの大学では身代金を支払ったことで復号鍵を入手し、データを復号化できた。
  • Dharma:侵入経路がRDPというオーソドックスなRaaS。MimikatzやLaZagneなどの追加のツールを使い、横展開する。
  • DopplePaymer:ランサムウェア「BitPaymer」をルーツに持つ。新型コロナウイルス(COVID-19)に関連したフィッシングメールを用いること、botnetやマルウェア感染させたインストーラなど多様な初期アクセスが確認されている点などが特徴。
  • Ragnar Locker:2020年11月に国内大手企業が被害を受けたランサムウェア。他のランサムウェアオペレータと協力して攻撃が行われる点に特徴がある。
  • WastedLocker:2020年7月、ウェアラブルデバイスやGPSの測位システムを提供する米企業への攻撃に用いられたランサムウェア。ロシアのサイバー犯罪組織・Evil Corpとの関連が指摘されている。

今後求められるランサムウェア対策とは

冒頭でも触れたとおり、今やランサムウェア攻撃はAPT(持続的標的型攻撃)と同様の戦術を用いるものとなっています。ランサムウェア攻撃とAPTの違いはもはや、攻撃者の最終的な目標が身代金をはじめとする金銭か、そうでないのか、という1点にしか過ぎないといえます。

「APTは国レベルのサイバー攻撃だから自分たちには関係ない」と思っていたとしたら、その認識を改める必要があります。今はランサムウェア攻撃でAPTと同じ手法が使われ、長期にわたる準備期間を経てデータを人質に取られ、身代金を要求される可能性がある―そんな時代になってしまったのです。

人手によるランサムウェア攻撃やAPTに対する対策は非常に複雑です。「今後いつ攻撃を受けることになるかわからない」という前提で、まずは自組織のシステムが攻撃者から見てどのような状態にあるか、現状を知ることが必要になります。セキュリティコンサルタントによるリスクアセスメントやペネトレーションテストによるリスクの洗い出しを行って、攻撃を受けた場合にどのような影響が起こりうるかを把握することを推奨します。

リスクアセスメントやペネトレーションテストなど今すぐには難しい、という場合は、初期アクセスに最も頻繁に用いられる標的型攻撃メールの訓練、公開Webアプリケーションの脆弱性診断、侵入された後の対策として重要なマルウェアによる横展開リスクの診断など、できることから少しずつでも手を付けていくアプローチをぜひ検討してください。

参考情報:
https://www.ipa.go.jp/archive/security/security-alert/2020/ransom.html
https://www.enisa.europa.eu/publications/ransomware
https://www.ipa.go.jp/archive/files/000084974.pdf


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「強制テレワーク化」で迫られる防御モデルの根本見直し

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現行の境界防御を点検し、「ゼロトラスト」原則の注入を

SQAT® 情報セキュリティ瓦版 2020年5月号


新型コロナウィルス(COVID-19)の世界的な感染拡大の影響により、今、かつてない勢いでテレワーク化が進んでいます。こうした業務環境の移行にあたっては数多くのセキュリティ課題が生じますが、今回の動きは、パンデミックという全世界規模の危機下で待ったなしの行動を迫るものであり、平時の計画的移行とは異なる様相もみられています。例えば、VPNの利用が急増し帯域の確保が追いつかない、急いで導入したオンライン会議ツールやチャットツールのセキュリティが不十分で再選定する羽目になる、などがそうです。さらに、直近の攻撃の傾向をみると、社会的危機に乗じた巧妙なソーシャルエンジニアリングが活発化しています。課題は山積ですが、一方で、こうした状況は、自組織の防御モデルをより堅牢なものへと組み替える契機とみることもできます。本記事では、その足掛かりとなる情報をご紹介いたします。


テレワーク普及で浮き彫りになる「境界防御モデル」の限界

従来、リモート業務でのセキュリティ確保に対しては「VPN(Virtual Private Network)」が推奨されてきました。これは、インターネット上に自組織専用の仮想プライベートネットワークを構築し、認証や暗号化等によって安全に通信できる経路を確保する仕組みです。しかし近年、VPNの不正アクセスを起因とする大規模セキュリティインシデントが立て続けに確認され、防御策としての限界が指摘されるようになっています。背景にあるのは、攻撃者側の手口の高度化、そして、「インターネットと自組織のネットワークの間に分厚い壁(境界)を築くことが防御になる」という前提で構築された「境界防御モデル」自体に内在する問題です。

VPNのほか、ファイアウォールやプロキシサーバも、この「境界防御モデル」型のソリューションになります。いずれも、インターネットとの境界に壁を築き、「壁の外側は信頼できない」「壁の内側は信頼できる」という基準を適用します。そのため、「万一境界が破られた場合」の策を講じていないと、ひとたび境界を破った攻撃者がその後「信頼された」者として容易にネットワーク内を動き回り、結果として甚大な被害につながる可能性があります。また、このモデルでは、内部犯行のリスクも想定外です。

さらに、インターネットを取り巻く環境の変化により、「境界」自体のあり方が変質している点にも注意を向ける必要があります。従来、事業で用いるシステムやそれを利用するユーザは特定の拠点に固まって存在していることが一般的で、組織の内と外に物理的・論理的な境界を設け、境界の守りを固めることで一定のセキュリティを確保できていました。しかし、近年は多くのシステムがサードパーティ製のクラウドに移行し、また、モバイルの普及でオフィス外での業務も日常化しています。今や事業が遂行される空間はかつてないほど広範に、かつ、細かく分散し、足元でのテレワークの急増がその動きをさらに加速させる中、従来の「境界」の考え方は、今日の組織を守る上で有効性を失いつつあります。

「ゼロトラスト」の視点が不可欠に

「境界防御モデル」の限界が顕在化する中、注目を集めているのが「ゼロトラスト」という考え方に基づく防御モデルです。「ゼロトラスト」のアプローチでは、境界の内外を問わず、あらゆるアクセスに対し、”Never trust, always verify(決して信頼せず、常に検証する)”という大原則に立って防御モデルを構築します。検証の機構では、アクセスの条件に基づき動的に認証・認可の判断を下し、アクセスを許可する場合は必要最小限の権限が適用されます。下に図示したのは、米国国立標準技術研究所(NIST)発行のガイドライン内『Zero Trust Architecture』(ドラフト版)に示されている概念図ですが、信頼できるかできないかは、「境界」ではなく、アクセス毎の検証によって決定されるのです。


Zero Trust Architectureの概念図

出典:NIST『Zero Trust Architecture』(日本語による補足は当社)
https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/SpecialPublications/NIST.SP.800-207-draft2.pdf


なお、「ゼロトラスト」とはあくまで防御モデルを構築する際の「考え方」である、という点に留意が必要です。具体的にどのようなアーキテクチャでゼロトラストを実現するかは、各組織を取り巻く状況に応じてさまざまなシナリオが考えられます。例えば、Googleでは、「BeyondCorp」と名付けたアーキテクチャにより、VPNを使うことなくリモートアクセスでのセキュリティを実現しています。概要は下図のとおりで、ポリシーベースで運用されるゼロトラストネットワークにおいて、あらゆるユーザトラフィックが認証・認可の対象になっています。


Google BeyondCorpのコンポーネント

出典:https://static.googleusercontent.com/media/research.google.com/ja//pubs/archive/43231.pdfより当社作成


現実解は境界防御とゼロトラストの「ハイブリッド」

上記BeyondCorpでは境界による防御モデルからゼロトラストへの「完全な移行」が成されましたが、これは現行システムの全面的な見直しを迫るもので、多くの組織にとってハードルは極めて高いです。そこで、現実解として推奨されるのは、境界型防御とゼロトラストを「ハイブリッド」的に運用しながらゼロトラストの比率を少しずつ高めていくやり方です。優先度にもとづきゼロトラストモデルへの移行を進めるシステムを選定し、綿密な要件定義のもと、アーキテクチャの具体化を進めます。相対的に優先度の低いシステムについては、従来の方式(境界防御モデル)で対策を強化(境界を破られた場合の対策を追加で組み込む等)した上で運用を継続します。なお、移行を進めるにあたっては改めてのユーザ教育も欠かせません。オフィス環境であれば企業側でリスクヘッジが行えていたところ、テレワーク環境では個人レベルで留意しなければいけない領域が増えてくるためです。

前出のNISTによるガイダンス『Zero Trust Architecture』によれば、ゼロトラストアーキテクチャへの移行は、一種の「旅(journey)」で、インフラやプロセスをまるごと入れ替えるような類の取り組みとは異なります。組織には、重要なデータ資産を保護すべく、ユースケースごとに最適解を「探し求め(seek)」ながら、ゼロトラストの原則を取り入れ、プロセスの変更やテクノロジーソリューションの導入に関する取り組みを段階的に積み上げ、前進していくことが求められます。

システムで取り扱う資産を把握し、脆弱性・リスクを評価し、業界のガイドライン/ベストプラクティスやテクノロジーの最新動向に学び、自組織の要件に応じた体制を築き上げていく―パンデミックという未曽有の状況下ではありますが、「重要なデータ資産を脅威から守る」というセキュリティの目標に変わりはありません。あるべき姿を描き、組織の現状とのギャップを知り、1つ1つのステップを着実にクリアしながら、より強いシステムを築いていくことが望まれるでしょう。

参考記事:「テレワークにおける情報セキュリティ上の考慮事項」
https://www.bbsec.co.jp/report/telework/index.html

【関連情報】パンデミック下での攻撃傾向

主に下記のような攻撃タイプが活発化しています。技術的、物理的な脆弱性よりも人の心理面での脆弱性を突いた「ソーシャルエンジニアリング」の手口が多用されているのが特徴です。これは特に危機的状況下では、高い攻撃成功率が期待できるためです。平時にはない緊張を強いられる社員は不安やストレスを抱えて感情的に動揺しやすくなり、判断ミスが起こる可能性も高まります。心理面も考慮したセキュリティ啓発活動、組織内の情報連携、注意喚起情報の迅速な収集等が平時以上に求められると言えるでしょう。

詐欺目的のフィッシング
国内外ともに急増。新型コロナウイルス関連ではフィッシングメールの観測数が前四半期比で600%という観測結果*2も報告されている。日本では、これまでに、マスクの無償/有償配布をうたうメールやWebサイト*2、保健所からの連絡を装った攻撃*3が確認されている。

ランサムウェア
攻撃の入り口としてフィッシングが多用されている。医療機関への攻撃は控えると明言した攻撃者もある*4ものの、危機対応に追われる組織の隙を狙い、金銭の強奪をはかる動きは、今後業種を問わず拡大していくものと予想される。

APT攻撃
国家的組織を後ろ盾とする大規模な標的型攻撃も活発。まず、スピアフィッシングや水飲み場攻撃を成功させ、その上でバックドアやRATを仕込む攻撃などが観測されている*5


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産業制御システムセキュリティのいまとこれからを考える

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SQAT® Security Report 2020年春夏号

今やIoTシステムや制御系システムのセキュリティの問題は、経済的な損害だけでなく、社会的信用の失墜につながりうるものとの認識が一般的になりつつあります。特に、2020年はオリンピック・パラリンピックという国際的な大型イベントを控えており、大規模なサイバー攻撃が予想されます。こうしたイベント時に狙われる制御システムは、電気・ガス・水道や空港設備といったインフラ施設、石油化学プラントなどの制御システムなどがあげられます。

平成三十年4月にはサイバーセキュリティ戦略本部から「重要インフラにおける情報セキュリティ確保に係る安全基準等策定指針(第5版)」が公表されたものの、「サイバーセキュリティに係る保安規程・技術基準等」については未整備の業界も多く、省令の改正や国としてのガイドライン等の策定が急ピッチで進められています。こうした中、「IoTシステムや制御システムのセキュリティ」は、事業継続計画(BCP)において想定すべき主要なリスクの一つであり、経営責任が問われる課題として捉える必要があります。

産業制御システムのセキュリティとは? その現状

従来、製造業の制御系システムはインターネットに接続されていない独立系システム、いわゆる閉鎖系システムであるために安全と考えられてきましたが、近年状況が変化してきています。一般的に、OT(Operational Technology)のライフサイクルは10~20年と、ITに比べ長く、さらにシステムが停止することなく稼働し続けること(可用性)が最も重視されるため、装置自体の脆弱性が発見されたとしてもすぐに交換できません。パッチを当てるにしても操業を計画的に停止する必要があることなどから、ファームウェアやエンベデッドOS(産業用機械などに内蔵されるコンピュータシステムを制御するためのOS)のアップデートにUSBを使用するケースも少なくありません。しかし検疫体制が甘く、そこから感染してしまったという事例もあります。
さらに最近、利便性を考え制御系システムでもエンベデッドOSとしてWindowsやLinuxを採用されることが増えてきましたが、それらの端末がインターネットに接続されていることから、標的型攻撃などの脅威にさらされる機会が増えるという皮肉な結果を生んでいます(図1参照)。

図1 制御システムの進化とセキュリティ

出典:日経 xTECH EXPO オープンシアター講演資料
情報システムのようにはいかない制御システムのセキュリティ ~サイバー攻撃手法から見る制御セキュリティ対策~」IPA セキュリティセンター 福原 聡

制御システムのセキュリティと一般的な企業の情報システムとは、その対象や優先度が大きく異なり、またセキュリティの基本であるCIA(機密性・完全性・可用性)の優先度も大きく違うため、単純にWebアプリケーションやネットワークのセキュリティ対策を当てはめるわけにはいきません。特に制御システムで優先されるリスク管理項目は「人命」「環境」であり、リアルタイム性も求められるのが大きな特徴です(表1参照)。

表 1 産業制御システムと情報システムの違い

制御システムのインシデントでは2017年に起きたランサムウェア「WannaCry」が記憶に新しいでしょう。政府・病院・工場などのシステムに侵入し、コンピュータのストレージが暗号化されて身代金を要求された事件です。また、2019年にはランサムウェア「LockerGoga」により世界40ヶ国のコンピュータがサイバー攻撃を受け、ノルウェーのアルミ生産会社では、生産システムとオフィスITシステムが感染したため、手動生産に切り替えての操業を余儀なくされ、生産が大幅に減速されました。同じく、2019年の7月には南アフリカのヨハネスブルグで電力会社のプリペイド供給システムがサイバー攻撃により停止し、顧客が電力を購入できなくなる事態が発生しました。

産業制御システムのセキュリティフレームワーク

前述のように、OTはライフサイクルが長く、セキュリティよりも可用性が重視されるので、制御システムのアップデートもベンダが実施することが多いのですが、最新の脆弱性情報がOT担当者とIT担当者の間でスムーズに連携されず、結果として対策が不十分になっていることが散見されます。そもそも、IoTシステムや制御システムのセキュリティはフレームワークの違いもあり、専門家の知見によるリスクアセスメントが欠かせません。

汎用的な標準・基準として、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)に対してCSMS(サイバーセキュリティマネジメントシステム)と呼ばれている制御システムセキュリティ基準 IEC62443-2-1がありますが、当社では、近年のサイバー攻撃の動向や脅威を踏まえた上で、独自に開発したフレームワークを使用しています。IEC62443に加え、NIST(米国標準技術研究所)のセキュリティガイドラインであるNIST SP800-82および53、IPAのガイドラインなどをベースとしています。(図2、表2参照)

図 2 産業制御システムのセキュリティフレームワーク
表2 BBSecの産業制御システム向けリスク評価項目例

事業継続のためにできること

冒頭にあげた「重要インフラにおける情報セキュリティ確保に係る安全基準等策定指針(第5版)」において、定期的な情報セキュリティリスクアセスメントの実施、サイバー攻撃の特性を踏まえた対応計画の策定などが求められています。

これらの重要インフラのシステムには先にみたように、一般的な情報システムのセキュリティ対策では対応できない部分も多くあります。まずはセキュリティリスクを可視化し、脆弱性があることを認識することが重要です。その上で脅威を最小化する方策を検討する必要があります。

可用性と人命・環境への配慮という2つの命題を実現するためにも、OT担当者とIT担当者が連携し、セキュリティの専門家を交えてセキュリティ体制を構築・運用していくことが欠かせません。当社では制御システムのリスクアセスメントをはじめ、CSIRT構築、セキュリティオペレーションセンターによる監視、ケースによってはセンターからのオペレーションで防御するところまでお手伝いしています。対策についても一般的なセキュリティ対策の提案だけでなく、装置の交換やエンベデッドOSのバージョンアップが難しい場合のリスク低減策もご提案いたします。

制御システムセキュリティのリスクアセスメントは、情報セキュリティ対策の第一歩である現状把握を行い、現状を踏まえた上で、セキュリティリスクに対する今後の対策を考えるためのファーストステップです。セキュリティ専門家の知見でこそできることがあります。事業継続のためにもまずはリスクアセスメントからはじめてはいかがでしょうか。

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