セキュリティインシデントの再発防止策とは?体制強化と継続的改善のポイント

Share

Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

セキュリティインシデントの再発防止と体制強化_アイキャッチ画像

セキュリティインシデントへの対応は、システムや業務を復旧して終わりではありません。同じ問題を繰り返さないためには、原因を分析し、対策を講じ、組織全体の対応力を高めることが重要です。

実際のインシデントでは、技術的な脆弱性だけでなく、運用ルールの不備や情報共有不足、訓練不足などが原因となっているケースも少なくありません。そのため、再発防止には技術対策だけでなく、体制や運用の見直しも欠かせません。

本記事では、セキュリティインシデント発生後に取り組むべき再発防止策や、継続的な改善のポイントについて解説します。

インシデント管理や対応フローの全体像については、関連記事もあわせてご覧ください。
セキュリティインシデント管理とは?企業が押さえるべき対応フローと体制の全体像

インシデントは「発生して終わり」ではない

セキュリティインシデントは発生して終わりではなく、組織にとって重要な学習の機会でもあります。再発防止策の基本は、まず原因を正確に特定し、その根本的な要因を排除することです。技術的な脆弱性の修正だけでなく、運用ルールや業務プロセス、アクセス管理、ログ監視体制の見直しなど、組織全体の改善が求められます。特に、多くのインシデントは単一の要因ではなく、複数の小さな問題が重なって発生するため、広い視野での分析と対応が不可欠です。また、再発防止策は一度実施して終わりではなく、定期的な評価と改善サイクルを回すことで、組織のセキュリティ体制を継続的に強化できます。これにより、同じ種類の被害が繰り返されるリスクを大幅に低減できるのです。

再発防止こそが最重要課題

再発防止を確実にするためには、組織全体のセキュリティ体制を明確に整備することが不可欠です。具体的には、インシデント対応チーム(CSIRT)を設置し、平常時から役割分担を明文化しておくことで、発生時の混乱を最小限に抑えられます。例えば、技術担当者は原因調査や封じ込めを、法務担当者は法的リスクの確認や外部報告を、広報担当者は顧客や取引先への情報発信を、それぞれ責任範囲を明確にして迅速に対応します。また、経営層も意思決定や資源配分の役割を担い、全社的な支援体制を構築することが重要です。このような体制を事前に整えておくことで、インシデント発生後の対応スピードが向上し、被害の拡大や二次的な損失を防ぐことができます。

再発防止のためのアプローチ

従業員教育と意識向上

セキュリティインシデントの再発防止には、従業員一人ひとりの意識向上が欠かせません。技術的対策や体制整備だけでは、人的ミスや不注意による情報漏洩、誤操作を完全に防ぐことはできません。そのため、定期的なセキュリティ教育や訓練を通じて、最新の脅威や攻撃手法、社内ルールの理解を深めることが重要です。例えば、フィッシングメールの疑似演習やパスワード管理の強化、情報取り扱いに関するケーススタディを行うことで、従業員の行動が組織全体のセキュリティ強化につながります。さらに、教育や訓練の効果は一度きりではなく、継続的に評価し改善していくことが求められます。このように、人的要因への対応を組み込むことで、組織全体の防御力が大きく向上します。

セキュリティポリシーの定期的な見直し

再発防止策を有効に機能させるためには、定期的な監査と評価が不可欠です。導入したセキュリティ対策や運用ルールが実際に遵守されているか、効果があるかを定期的に確認することで、弱点や改善点を早期に発見できます。例えば、アクセス権限やログ管理の運用状況をチェックする内部監査、脆弱性診断やペネトレーションテストなどの技術的評価を組み合わせることで、組織全体の安全性を客観的に評価できます。また、監査や評価の結果をもとに改善策を実行し、PDCAサイクルを回すことで、インシデント再発のリスクを継続的に低減することが可能です。このプロセスをルーチン化することで、組織はインシデントに強い体制を築くことができるようになります。

セキュリティ対策の継続的強化

再発防止には、組織全体の運用や体制強化だけでなく、セキュリティ対策の継続的な見直しも重要です。脆弱性の発見やパッチ適用、アクセス制御の見直し、ファイアウォールやIDS/IPSなどのセキュリティ機器の設定確認は、常に最新の脅威に対応するために欠かせません。また、クラウドサービスやモバイル端末など、新たなIT資産を導入する際も、初期設定のセキュリティ強化や監視体制の整備を行う必要があります。さらに、ログ監視やアラート機能の精度向上、異常検知の自動化など、セキュリティ対策を継続的に見直すことで、インシデントの早期発見と被害拡大防止が可能となります。技術面の強化は、組織の防御力を底上げし、再発リスクを大幅に低減する基盤となります。

インシデント発生後の振り返り(ポストモーテム)

インシデント対応が一段落した後は、必ず振り返り(ポストモーテム)を行い、再発防止策の精度を高めることが重要です。具体的には、発生原因、対応のスピードや手順の適切さ、情報共有の精度、関係者間の連携状況などを詳細に分析します。この振り返りによって、改善すべき運用上の課題や技術的な弱点が明確になり、次回以降の対応力向上につながります。また、振り返りの結果は、社内マニュアルや教育資料に反映させることで、組織全体の知見として蓄積されます。さらに、経営層への報告を通じて資源や方針の見直しにも活用することで、組織全体のセキュリティ文化を強化し、インシデント再発リスクを大幅に低減できます。

まとめ

セキュリティインシデントは発生して終わりではなく、発生後の対応や改善こそが組織の安全性を左右します。本記事では、再発防止策の基本、組織体制の強化、従業員教育、定期的な監査、技術的対策の継続的強化、そしてポストモーテムによる振り返りまで、包括的な対策のポイントを解説しました。これらを継続的に実施することで、インシデントの再発リスクを大幅に低減し、企業の信頼性と業務継続性を確保できます。次回以降も、組織全体でセキュリティ力を高める取り組みが重要です。

再発防止策を継続的に実行するためには、CSIRTを含むインシデント対応体制の整備が重要です。
インシデント対応体制とは?CSIRTの役割と企業が整えるべき運用のポイント

BBSecでは

セキュリティインシデントの再発防止と体制強化は、組織の安全性を高めるために不可欠です。BBSECでは、インシデント発生時に迅速かつ効果的に対応できる体制構築を支援する「インシデント初動対応準備支援サービス」を提供しています。このサービスでは、実際のインシデント発生時に参照可能な対応フローやチェックリストの作成をサポートし、組織の対応力を強化します。さらに、インシデント対応訓練を通じて、実践的な対応力を養うことも可能です。詳細については、以下のリンクをご覧ください。

https://www.bbsec.co.jp/service/evaluation_consulting/incident_initial_response.html
※外部サイトにリンクします。

【参考情報】

公開日:2025年10月22日
更新日:2026年6月17日

編集責任:木下


サイバーインシデント緊急対応

サイバーセキュリティ緊急対応電話受付ボタン
SQAT緊急対応バナー

ウェビナー開催のお知らせ

最新情報はこちら


資料ダウンロードボタン
年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
お問い合わせボタン
サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

Security Serviceへのリンクバナー画像
BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
セキュリティ緊急対応のバナー画像

Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

セキュリティインシデント発生時の対応 ―初動から復旧まで解説―

Share
セキュリティインシデント発生時の対応アイキャッチ画像

セキュリティインシデントが発生した際は、限られた時間の中で被害拡大を防ぎ、原因を調査し、業務復旧を進める必要があります。しかし、実際の現場では「まず何をすべきか」「どこまで影響が広がっているのか」「誰に報告すべきか」と判断に迷うケースも少なくありません。

初動対応の遅れや判断ミスは、情報漏えいや業務停止などの被害拡大につながる可能性があります。本記事では、セキュリティインシデント発生時に企業が取るべき対応について、初動対応から復旧までの流れを解説します。

なお、インシデント管理の全体像については、以下の記事で詳しく解説しています。
セキュリティインシデント管理とは?企業が押さえるべき対応フローと体制の全体像

インシデント対応が遅れると被害が拡大する―「初動対応」の重要性

セキュリティインシデントが発生した際、最初に求められるのは「被害の拡大を防ぐこと」です。具体的には、該当システムのネットワーク接続を遮断する、影響範囲を限定する、ログを確保して証拠を保存するといった行動が挙げられます。ここで重要なのは、焦ってシステムを完全に停止させたり証拠を消去したりしてしまわないことです。例えば、感染が疑われるPCを慌てて初期化すると、攻撃経路やマルウェアの痕跡といった重要な調査情報を失うことになり、後続の対応が困難になります。そのため、インシデント発生時には「まず拡大防止と証拠保全を優先する」という基本原則を徹底する必要があります。初動段階での判断ミスが、被害規模や復旧にかかる時間を大きく左右するのです。

セキュリティインシデント対応の基本フロー

社内連携と報告体制

セキュリティインシデントが発生した際、技術的な対応と同じくらい重要なのが「社内連携と報告体制」です。現場担当者が異常を検知した場合、直属の上司や情報システム部門への迅速な報告はもちろん、経営層へのエスカレーションルートを明確にしておくことが不可欠です。さらに、インシデント対応を一部門だけに任せるのではなく、法務・広報・総務など関連部門との連携が欠かせません。例えば、法務部門は法的リスクの確認や外部機関への届出判断を担い、広報部門は顧客や取引先への適切な情報発信を行います。これらが連携できていないと、組織全体としての対応が後手に回り、混乱や信頼失墜を招く恐れがあります。そのため、平常時から「誰が・どのタイミングで・誰に報告するか」を明文化したインシデント対応計画を整備しておくことが重要です。

被害範囲の特定

セキュリティインシデントが発生した際に、初動対応で重要なのが「被害範囲の特定」です。単なる障害や一時的な不具合と、外部からの不正アクセスやマルウェア感染といったインシデントを明確に区別する必要があります。具体的には、ログの解析やネットワーク監視、ユーザ報告などを通じて、侵入経路や影響を受けたシステム、漏洩が疑われる情報を洗い出します。この段階で誤った判断を下すと、被害を過小評価して対応が遅れたり、逆に過大評価して不要な混乱を招いたりするリスクがあります。そのため、迅速かつ客観的に状況を評価できる仕組みを整えておくことが欠かせません。

被害の封じ込め・拡大防止

被害範囲を特定した後は、被害の「封じ込め」が必要です。これは、インシデントの拡大を防ぎ、さらなる被害を最小限に抑えるための重要なプロセスです。例えば、侵害を受けたサーバをネットワークから切り離す、攻撃者が利用したアカウントを即座に無効化する、通信を一時的に遮断するなどの対応が考えられます。ただし、封じ込めの方法を誤ると、証拠が失われたり、攻撃者に異変を察知されて活動を隠蔽されたりする恐れもあります。そのため、封じ込めの対応はセキュリティチーム内で役割を明確にし、優先順位を付けて慎重に進めることが求められます。

原因調査・ログ解析・フォレンジック調査

封じ込めが完了した後は、インシデントの原因を突き止める「原因調査」が不可欠です。攻撃者がどのように侵入したのか、どの脆弱性を悪用したのか、内部関係者の過失や不正が関与していないかなど、多角的な視点から調査を進める必要があります。ログ解析やフォレンジック調査を通じて、攻撃経路や被害状況を正確に把握することが求められます。この段階で調査が不十分だと、再発防止策が不完全となり、再び同様の被害を招く可能性が高まります。そのため、外部のセキュリティ専門家の協力を得るケースも少なくありません。

復旧対応

原因が特定された後は、システムやサービスの復旧作業に移ります。ただ単に停止したサービスを再開させるのではなく、原因を取り除き、安全性を確認したうえで再稼働することが重要です。例えば、脆弱性が悪用されていた場合はセキュリティパッチを適用し、不正アクセスで改竄されたデータがあればバックアップから復旧します。また、復旧の際には「段階的な再開」を意識することが推奨されます。いきなり全システムを戻すのではなく、優先度の高いシステムから順に稼働させ、監視を強化しながら正常性を確認することで、再度の障害発生や攻撃再開のリスクを軽減できます。

関係者への報告・情報共有

復旧作業と並行して、関係者への適切な報告や情報共有も欠かせません。セキュリティインシデントは自社だけの問題ではなく、取引先や顧客、さらには規制当局にまで影響が及ぶ可能性があります。そのため、影響範囲を正確に把握したうえで、必要な関係者に迅速かつ誠実に情報を提供することが求められます。特に個人情報漏洩が発生した場合、法令やガイドラインに従った報告が義務付けられているケースも多く、対応を怠れば法的リスクや企業の信頼失墜につながります。また、社内向けの情報共有も重要であり、従業員が不安や誤情報に惑わされないよう、明確なメッセージを発信する体制を整えることが望まれます。

再発防止策の検討

インシデント対応の最終段階は、再発を防ぐための改善策を講じることです。単に原因を修正するだけでなく、組織全体のセキュリティ体制を見直す機会として活用することが重要です。例えば、脆弱性管理の仕組みを強化する、アクセス制御のルールを見直す、ログ監視やアラートの精度を高めるなど、技術的な改善が挙げられます。また、従業員へのセキュリティ教育や定期的な訓練を実施し、人為的なミスや不注意を減らす取り組みも効果的です。さらに、インシデント対応の流れを記録し、振り返り(ポストモーテム)を行うことで、今後同様の事態が発生した際に迅速かつ適切に対処できる体制を構築できます。

BBSecでは

セキュリティインシデントの再発防止や体制強化を確実に行うには、専門家の支援を受けることも有効です。BBSecでは緊急対応支援サービスも提供しています。突然の大規模攻撃や情報漏洩の懸念等、緊急事態もしくはその可能性が発生した場合は、BBSecにご相談ください。セキュリティのスペシャリストが、御社システムの状況把握、防御、そして事後対策をトータルにサポートさせていただきます。

サイバーインシデント緊急対応

サイバーセキュリティ緊急対応電話受付ボタン
SQAT緊急対応バナー

まとめ

本記事では、セキュリティインシデントが発生した際に組織が取るべき対応を、初動から原因調査、復旧、関係者への報告、そして再発防止まで段階的に解説しました。インシデント対応は単なる技術的作業ではなく、社内連携や外部機関との調整、法令遵守、そして企業全体の信頼維持といった広範な要素が関わります。特に初動対応の速さや正確さは被害の拡大を防ぐ鍵となるため、日頃からの対応体制の整備や訓練が欠かせません。次回第3回では、インシデントの発生を未然に防ぐ取り組みや、組織全体でのセキュリティ強化策について詳しく解説し、実践的な予防策のポイントを紹介します。

インシデント発生時の対応を円滑に進めるためには、平時から対応体制を整備しておくことが重要です。
インシデント対応体制とは?CSIRTの役割と企業が整えるべき運用のポイント

【参考情報】

公開日:2025年10月8日
更新日:2026年6月17日

編集責任:木下


ウェビナー開催のお知らせ

最新情報はこちら


資料ダウンロードボタン
年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
お問い合わせボタン
サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

Security Serviceへのリンクバナー画像
BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
セキュリティ緊急対応のバナー画像

Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

セキュリティインシデントとは?基礎知識と代表的な事例を解説

Share

Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

セキュリティインシデントとは何か?基礎知識と代表的な事例アイキャッチ画像

サイバー攻撃や情報漏えい、不正アクセス、ランサムウェア感染など、企業を取り巻くセキュリティリスクは年々増加しています。こうした事象は「セキュリティインシデント」と呼ばれ、発生した場合は情報資産の損失だけでなく、事業停止や信用低下につながる可能性があります。

しかし、「どのような事象がセキュリティインシデントに該当するのか」「企業はどのようなリスクを認識すべきか」を正しく理解できていないケースも少なくありません。

本記事では、セキュリティインシデントの定義や代表的な事例、企業への影響についてわかりやすく解説します。

インシデント管理や対応フローの全体像については、関連記事もあわせてご覧ください。
セキュリティインシデント管理とは?企業が押さえるべき対応フローと体制の全体像

セキュリティインシデントの定義

セキュリティインシデントとは、情報システムやネットワークにおいて、情報のセキュリティの3要素、「機密性」「完全性」「可用性」を脅かす事象の総称です。具体的には、不正アクセスや情報漏洩、マルウェア感染、サービス運用妨害(DoS)攻撃などが含まれます。近年はクラウドやリモートワークの普及により、攻撃対象や被害の範囲が広がり、セキュリティインシデントの発生リスクは増大しています。国内外で大規模な事件が相次いで報道されるなか、インシデントの発生はもはや大企業に限られた問題ではなく、中小企業や自治体、教育機関に至るまで幅広い組織が直面しています。そのため、経営層から現場担当者に至るまで、セキュリティインシデントへの理解と備えが求められているのです。

セキュリティインシデントの種類(例)

一口にセキュリティインシデントといっても、その内容は多岐にわたります。代表的なものとしては、まず「不正アクセス」が挙げられます。攻撃者が外部からシステムに侵入し、機密情報を窃取したり改竄したりするケースです。次に「マルウェア感染」があります。ウイルスやランサムウェアなどの悪意あるソフトウェアにより、データが暗号化され業務が停止する被害が増えています。また、従業員による「内部不正」も見逃せません。権限を持つ社員が意図的に情報を持ち出すケースや、誤操作による情報流出が問題化しています。さらに「情報漏洩」や「サービス停止(DoS/DDoS攻撃など)」も、企業活動を直撃する深刻なインシデントです。このようにセキュリティインシデントは外部攻撃だけでなく、内部要因やシステム障害など多面的に発生し得るため、幅広い視点での備えが不可欠です。

実際に発生した主なセキュリティインシデント事例

セキュリティインシデントは国内外で日々多発しています。この表は2025年8月から9月にかけて発生した主要な国内インシデント事例をまとめたものです。ランサムウェア攻撃や不正アクセスによる被害が多く、特に製造業や重要インフラへの影響が深刻化している傾向が見られます。

被害報告日被害企業概要主な原因影響範囲
2025年9月国内ガス・電力会社人為的ミスLPガス検針端末の紛失顧客情報6,303件の漏洩等のおそれ*1
2025年9月国内デジタルサービス運営委託事業者個人情報漏洩受講状況管理ツールへの登録作業ミスリスキリングプログラム受講者1名の個人情報が他の受講者1名に閲覧可能に*2
2025年9月国内食料品小売業個人情報漏洩サーバへの第三者からの不正アクセス企業情報及び個人情報が流出した可能性*3
2025年9月委託事業者操作・管理ミスオペレーターの利用者情報取り違い高齢者の見守り・安否確認が行われず*4
2025年9月国内オフィス機器販売会社個人情報漏洩第三者による不正アクセスカード支払い顧客の情報漏洩の可能性*5
2025年8月ハウステンボス株式会社システム障害第三者による不正アクセス一部サービスが利用できない状況に*6
2025年8月国内電力関連会社不正ログインリスト型攻撃(複数IPアドレスから大量ログイン試行)ポイント不正利用444件*7
2025年8月国内機器メーカー企業不正アクセス海外グループ会社を経由した第三者の不正アクセス一部サービス提供停止(8月16日復旧)*8
2025年8月医療用メーカー企業マルウェア感染システムのランサムウェア感染2日間出荷停止、その後再開*9
2025年8月国内建設事業者マルウェア感染システムのランサムウェア感染海外グループ会社の一部サーバが暗号化*10
2025年8月国内外郭団体乗っ取り第三者による一部メールアドレスの乗っ取り迷惑メール送信元として悪用*11
2025年8月暗号資産交換事業者クラウド設定ミス顧客データ移転作業中のクラウド設定ミス海外メディアの報道で発覚、アクセス制限不備*12
2025年8月国内銀行元従業員による情報の不正取得出向職員による電子計算機使用詐欺アコムから出向の元行員が逮捕・懲戒解雇*13
2025年8月国内病院個人情報不正利用委託職員が診療申込書から電話番号を不正入手LINEで患者に私的メッセージを送付*14
2024年12月国内総合印刷事業者マルウェア感染VPNからの不正アクセス(パスワード漏洩または脆弱性悪用)複数のサーバが暗号化される被害*15

これらの事例は「セキュリティインシデントは特定の大企業だけの問題ではない」という現実を示しており、規模や業種にかかわらず備えが不可欠であることを強調しています。

セキュリティインシデントが企業に与える影響

セキュリティインシデントが発生すると、企業は多方面に深刻な影響を受けます。最もわかりやすいのは、システム停止や情報漏洩に伴う金銭的損失です。業務が一時的に止まることで売上が減少し、復旧作業や調査にかかる費用も膨大になります。さらに、顧客情報や取引先情報が流出すれば、企業の信頼性が大きく揺らぎ、契約解除や取引停止に直結する可能性があります。また、個人情報保護法や業界ごとのセキュリティ基準に違反すれば、法的責任や行政処分を受けるリスクも高まります。株式市場に上場している企業であれば、セキュリティインシデントの公表によって株価が急落するケースも少なくありません。このように、単なるシステム障害にとどまらず、企業経営全体に打撃を与える点がセキュリティインシデントの恐ろしさといえます。

セキュリティインシデントを理解したら、次に重要なのは実際に発生した際の対応手順です。初動対応から復旧までの流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。
インシデント対応フローとは?発生時に企業が取るべき手順と判断ポイント

まとめ

本記事では、セキュリティインシデントの定義や種類、実際に発生した事例、そして企業に及ぼす影響について解説しました。改めて強調すべきは、セキュリティインシデントは大企業だけでなく、中小企業や自治体、教育機関などあらゆる組織にとって現実的な脅威であるという点です。しかも一度発生すると、金銭的損失だけでなく、顧客や取引先からの信頼低下、法的リスク、社会的信用の失墜といった連鎖的な被害を引き起こします。こうした背景から、セキュリティインシデントを「発生してから考える」姿勢ではなく、「発生する前提で備える」姿勢が求められています。次回は、実際にインシデントが発生した際にどのような対応が必要なのか、初動から復旧までの流れを詳しく解説します。

【関連記事】

セキュリティインシデントへの理解を深めたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

【参考情報】

公開日:2025年10月1日
更新日:2026年6月17日

編集責任:木下


サイバーインシデント緊急対応

サイバーセキュリティ緊急対応電話受付ボタン
SQAT緊急対応バナー

ウェビナー開催のお知らせ

最新情報はこちら


資料ダウンロードボタン
年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
お問い合わせボタン
サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

Security Serviceへのリンクバナー画像
BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
セキュリティ緊急対応のバナー画像

Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

【企業のためのランサムウェア対策ガイド】ランサムウェアの感染経路とは ―企業が見落としがちなVPN・RDP侵入リスクを解説

Share
ランサムウェアの感染経路とは ―企業が見落としがちなVPN・RDP侵入リスクを解説アイキャッチ画像

ランサムウェア対策を考えるうえで重要なのが、「どこから侵入されるのか」を理解することです。近年の企業向けランサムウェア攻撃では、メールだけでなく、VPN機器やリモートデスクトップ(RDP)の脆弱性、認証情報の悪用、サプライチェーン経由の侵入など、多様な経路が利用されています。本記事では、企業が見落としがちな代表的な感染経路と、その対策の考え方について解説します。

ランサムウェアの基本的な仕組みや全体像については、以下の記事で整理しています。
ランサムウェアとは何か ―企業が知るべき被害・仕組み・対策の基本―

ランサムウェアは、ある日突然社内のパソコンやサーバ上で実行されるように見えます。しかし実際には、その前段階で攻撃者が企業ネットワークへ侵入しています。メール、VPN機器、リモートデスクトップ、ソフトウェアの脆弱性、外部委託先など、侵入経路はさまざまです。特に近年は、単に添付ファイルを開かせる攻撃だけでなく、インターネットに公開されたVPN機器やリモートアクセス環境の脆弱性、認証情報の悪用、委託先や外部サービスを踏み台にした侵入が問題になっています。警察庁やIPAの資料でも、国内のランサムウェア被害ではVPN機器やリモートデスクトップなど、テレワーク環境に関連する経路が多く確認されています。

ランサムウェアはどこから侵入するのか

ランサムウェアの感染経路は、ひとつに限定されません。攻撃者は、企業の外部に開いている入口、従業員が日常的に使うメール、保守やテレワークのためのリモート接続、未修正のソフトウェア、さらには取引先や委託先との接続関係まで、複数の経路を組み合わせて侵入を試みます。従来は、ランサムウェアというと「不審なメールの添付ファイルを開いて感染する」というイメージが強くありました。もちろんメールは現在でも重要な感染経路ですが、企業におけるランサムウェア被害では、VPN機器やリモートデスクトップなど、外部から社内環境へ接続するための仕組みが狙われるケースが目立ちます。

米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)が公開している「#StopRansomware Guide」でも、ランサムウェアやデータ恐喝型攻撃の初期侵入経路として、インターネットに公開された脆弱性や設定ミス、フィッシング、認証情報の悪用、リモートアクセス環境などが重視されています。つまり、ランサムウェア対策は「端末にウイルス対策ソフトを入れる」だけでは不十分であり、外部公開資産、認証、運用設定、委託先管理まで含めて考える必要があります。

代表的な感染経路

メールによる感染

メールは、現在でもランサムウェア感染の代表的な入口です。攻撃者は、請求書、見積書、配送通知、業務連絡、採用関連の連絡などを装い、添付ファイルや本文中のリンクを開かせようとします。従業員が添付ファイルを開いたり、リンク先で認証情報を入力したりすると、マルウェア感染やアカウント窃取につながる可能性があります。ただし、近年のランサムウェア攻撃では、メールから即座に暗号化が始まるとは限りません。メールをきっかけに認証情報を盗み、その後VPNやクラウドサービスへ不正ログインする場合もあります。また、メール経由で侵入したマルウェアが端末内の情報を収集し、攻撃者が次の侵入経路を探す足がかりになることもあります。そのため、メール対策は「怪しいメールを開かないように教育する」だけでは不十分です。迷惑メール対策、添付ファイルの検査、URLフィルタリング、多要素認証、端末の挙動監視を組み合わせ、万が一クリックされても被害が広がりにくい仕組みを整える必要があります。

VPN機器の脆弱性

企業のランサムウェア対策で特に注意すべき感染経路が、VPN機器の脆弱性です。VPNは、テレワークや拠点間接続、外部からの保守作業に欠かせない仕組みですが、インターネット側に公開されているため、攻撃者にとっても狙いやすい入口になります。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、ランサムウェア被害の感染経路としてVPN機器経由が大きな割合を占め、VPN機器経由とリモートデスクトップ経由を合わせると毎年高い割合を占めていることが示されています。

VPN機器に未修正の脆弱性が残っている場合、攻撃者は認証を突破したり、機器上の情報を盗んだり、社内ネットワークへ侵入したりする可能性があります。特に、サポート切れの機器、更新が滞っているファームウェア、初期設定に近いまま運用されている環境、不要なアカウントが残っている環境は危険です。VPN機器は一度導入すると、業務インフラとして長く使われがちです。そのため、導入時には問題がなかったとしても、数年後に深刻な脆弱性が公表され、攻撃対象になることがあります。ランサムウェア対策では、VPN機器のメーカー名、型番、バージョン、サポート期限、適用済みパッチを定期的に確認することが重要です。

リモートデスクトップ(RDP)の悪用

リモートデスクトップ(RDP)も、ランサムウェアの代表的な感染経路です。RDPは、離れた場所から社内のPCやサーバを操作できる便利な仕組みですが、外部から直接接続できる状態になっていると、攻撃者にとって格好の侵入口になります。CISAが公開するランサムウェア関連アドバイザリ(#StopRansomware: Akira Ransomware)でも、RDPやVPNなどのリモートアクセスサービスが初期侵入に使われる事例が継続的に示されています。

攻撃者は、単純なパスワードの総当たり攻撃、過去に漏えいした認証情報の悪用、設定不備の探索などによって、RDP接続を突破しようとします。一度RDP経由で社内端末やサーバへ入られると、攻撃者は管理者権限の取得、他端末への横展開、データの持ち出し、バックアップの削除、ランサムウェアの実行へと進む可能性があります。RDPを業務上どうしても使う場合は、インターネットへ直接公開しないことが基本です。VPNやゼロトラスト型のアクセス制御を経由させ、多要素認証を必須にし、接続元制限、ログ監視、不要アカウントの削除を徹底する必要があります。

ソフトウェアの脆弱性

ランサムウェアの感染経路として見落とされやすいのが、OS、ミドルウェア、業務システム、Webアプリケーション、ネットワーク機器などのソフトウェア脆弱性です。Verizon「2025 Data Breach Investigations Report」(DBIR)でも、脆弱性の悪用による初期アクセスが増加していることが示されており、境界デバイスや外部公開システムの管理が企業のセキュリティ課題として重要になっています。

攻撃者は、公開された脆弱性情報をもとに、未修正のシステムをインターネット上で探索します。特に危険なのは、外部からアクセスできるシステムに深刻な脆弱性が残っている場合です。VPN、ファイアウォール、メールサーバ、ファイル転送システム、Web管理画面、クラウド連携用の管理コンソールなどは、攻撃者から常に探索対象になっていると考えるべきです。脆弱性対策では、単にパッチを適用するだけではなく、自社がどのシステムを外部公開しているかを把握することが出発点になります。資産管理が不十分なままでは、どの機器に脆弱性があるのか、どのシステムを優先して更新すべきかを判断できません。

サプライチェーン経由の感染

ランサムウェアの感染経路は、自社のネットワークや端末だけに限られません。委託先、外部サービス、クラウドサービス、保守ベンダー、取引先との接続環境を通じて侵入されることもあります。こうした外部経由の侵入は、サプライチェーン攻撃としても知られています。Verizon「2025 Data Breach Investigations Report」でも、漏えい・侵害に第三者が関与する割合が増加していることが示されており、サプライチェーンリスクは企業規模を問わず無視できない課題になっています。

たとえば、業務委託先が利用しているアカウントが侵害され、そのアカウントを使って自社環境へ不正アクセスされるケースがあります。また、外部保守用に開放していたリモート接続が攻撃者に悪用される場合や、取引先とのファイル共有環境を通じてマルウェアが持ち込まれる場合もあります。サプライチェーン経由の感染が厄介なのは、自社だけで完全に制御しにくい点です。自社のセキュリティ対策が一定水準に達していても、接続先や委託先の管理が甘ければ、そこが攻撃者にとっての入口になります。

こうした外部経由の侵入は、サプライチェーン攻撃としても知られています。詳しくは以下の記事で解説しています。
サプライチェーン攻撃とは ―委託先・外注先リスクから情報漏えいを防ぐ全体像―

ランサムウェア対策としては、委託先との接続経路、付与している権限、共有している情報、外部アカウントの管理状況を定期的に見直す必要があります。外部委託先に対しても、多要素認証、アクセス権限の最小化、ログ取得、契約上のセキュリティ要件、インシデント発生時の連絡体制を確認しておくことが重要です。

なぜ気づかず侵入されるのか

ランサムウェア感染が深刻化する理由のひとつは、攻撃者が侵入してから暗号化を実行するまでに時間差があることです。企業側から見ると、ある日突然ファイルが暗号化されたように見えます。しかし実際には、その前に認証情報の窃取、社内探索、権限昇格、横展開、データ窃取といった活動が行われている場合があります。攻撃者が長く潜伏できる背景には、認証情報の管理不備があります。退職者や異動者のアカウントが残っている、管理者権限が過剰に付与されている、同じパスワードを複数システムで使い回している、多要素認証が導入されていない、といった状態では、攻撃者にとって侵入後の行動が容易になります。また、設定ミスも大きな問題です。RDPがインターネットに公開されている、VPN機器のファームウェアが古い、管理画面に外部からアクセスできる、不要なポートが開いている、ログが保存されていないといった状態は、攻撃者にとって有利に働きます。

NIST(米国立情報技術研究所)NIST IR 8374 Rev.1「Ransomware Risk Management: A Cybersecurity Framework 2.0 Community Profile」では、ランサムウェアへの備えとして、識別、防御、検知、対応、復旧を含めた包括的なリスク管理の重要性が示されています。これは、ランサムウェア対策が単なるマルウェア対策ではなく、資産管理、アクセス制御、バックアップ、ログ監視、インシデント対応を含む経営課題であることを意味します。

感染リスクを下げるための考え方

ランサムウェアの感染リスクを下げるには、すべての対策を一度に完璧に実施しようとするのではなく、侵入されやすい場所から優先順位をつけて対策することが重要です。特に企業では、VPN機器、リモートデスクトップ、外部公開サーバ、メール、認証情報、委託先接続の順に確認すると、自社の弱点を見つけやすくなります。

最初に行うべきことは、外部から見える資産の棚卸しです。どのVPN機器を使っているのか、RDPが外部公開されていないか、古いサーバや管理画面が残っていないか、クラウドサービスの管理者アカウントが適切に管理されているかを確認します。自社が把握していないシステムは、守ることも更新することもできません。次に、認証情報の保護を強化します。多要素認証の導入、不要アカウントの削除、管理者権限の最小化、パスワードの使い回し防止、ログイン試行の監視は、ランサムウェア対策の基本です。特にVPN、RDP、クラウド管理画面、メールアカウントには優先的に適用すべきです。さらに、脆弱性管理を継続的に行う必要があります。OSやソフトウェアの更新だけでなく、ネットワーク機器、VPN、ファイアウォール、NAS、ファイル転送システムなど、外部公開される可能性のある機器の脆弱性情報を確認し、リスクの高いものから修正します。バックアップも重要ですが、バックアップがあるだけでは十分ではありません。攻撃者にバックアップまで削除・暗号化されないよう、ネットワークから分離したバックアップや、復旧手順の確認が必要です。ランサムウェア対策では、感染を防ぐ対策と、感染した場合でも事業を止めない対策を組み合わせることが求められます。

まとめ

ランサムウェアの感染経路は、メールだけではありません。VPN機器の脆弱性、リモートデスクトップの悪用、ソフトウェアの未修正脆弱性、認証情報の窃取、設定ミス、委託先や外部サービスを経由したサプライチェーン攻撃など、企業のさまざまな入口が狙われています。特に近年の企業向けランサムウェア攻撃では、攻撃者が事前に社内ネットワークへ侵入し、権限を広げ、データを盗み、最後に暗号化を実行する流れが一般化しています。そのため、ランサムウェア対策は「感染後にどう復旧するか」だけでなく、「どこから入られる可能性があるか」を把握し、侵入経路を減らすことから始める必要があります。

企業がまず取り組むべきことは、自社の外部公開資産を把握し、VPNやRDPの設定を見直し、ソフトウェアの脆弱性を管理し、認証情報を守り、委託先との接続経路を確認することです。すべてを一度に完璧にする必要はありませんが、攻撃者にとって狙いやすい入口を放置し続けることは、ランサムウェア被害のリスクを高めます。ランサムウェアの感染経路を理解することは、対策の出発点です。自社のどこが侵入口になり得るのかを確認し、優先順位をつけて改善していくことが、企業のランサムウェア対策において最も現実的で効果的な第一歩になります。

万が一感染してしまった場合の具体的な対応については、以下の記事で詳しく解説しています。
セキュリティインシデントの基礎から対応・再発防止まで 第2回:セキュリティインシデント発生時の対応 ─初動から復旧まで

【参考情報】

編集責任:木下


資料ダウンロードボタン
年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。
お問い合わせボタン
サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。

Security Serviceへのリンクバナー画像
BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
セキュリティ緊急対応のバナー画像

Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

クレジットカード情報漏洩に備える ―非保持化・PCI DSS準拠でも漏洩が起きる理由とは―

Share
クレジットカード情報漏洩に備える ―非保持化・PCI DSS準拠でも漏洩が起きる理由とは―アイキャッチ画像

クレジットカード情報漏洩は、ECサイト加盟店だけの問題ではありません。非保持化やPCI DSS準拠を実施していても、Webサイトの脆弱性や設定不備を起点に漏洩が発生するケースは少なくありません。本記事では、実際の漏洩事例や発生後に直面する課題を踏まえながら、情報漏洩に備えるために押さえておきたいポイントを解説します。

なぜクレジットカード情報漏洩が起きるのか

クレジットカード情報漏洩は、ECサイト加盟店だけの問題として発生するわけではありません。ECサイトの決済は、ECサイト加盟店、決済代行事業者(PSP:Payment Service Provider)、アクワイアラ、国際ブランドなど、複数の事業者が連携して成り立っています。そのため、サイバー攻撃者に狙われる対象は、カード情報を直接保有するシステムだけに限られません。

実際には、ECサイト加盟店のECサイトや管理画面、CMS、外部委託先、決済画面へ遷移する前後の処理など、周辺のどこかにWebアプリケーションの脆弱性や設定不備が存在するだけで、カード情報の窃取につながる可能性があります。カード情報を自社で保持していない場合でも、サイト改竄や悪意あるコードの挿入によって、利用者が入力した情報が攻撃者へ送信されてしまうケースがあります。弊社のPFI調査資料でも、カード情報を自社保有していない企業からの漏洩に関する相談が多く発生していることが示されています。

ECサイトでは外部サービス連携、プラグイン更新、機能追加などが継続的に発生します。そのため、一度安全な構成を整備したとしても、それだけで安全性が維持されるわけではありません。日々の運用の中で新たに生まれた脆弱性が、攻撃の端緒となる場合があります。特に、Webアプリケーションの脆弱性や管理画面の設定不備は、PFI調査において主要な漏洩の原因として挙げられています。決済は複数の事業者が関与する仕組みであるため、そのサプライチェーンの一箇所で発生したサイバー攻撃が、ECサイト加盟店の業務停止、PSPへの問い合わせ対応、アクワイアラや国際ブランドへの報告対応へと波及する可能性があります。クレジットカードの情報漏洩は、単なる技術的な事故ではなく、決済サプライチェーン全体へ影響を及ぼすインシデントとして捉える必要があります。

実際に発生している情報漏洩事例

公表資料や業界資料を見ると、漏洩のきっかけは一様ではありません。ECサイトの改竄、不正ファイルの設置、偽の決済画面への誘導、委託先や関連システムの不備など、さまざまな経路からカード情報の窃取につながっています。経済産業省の資料でも、ECサイト加盟店、ECシステム提供事業者、PSP、消費者を狙ったフィッシング被害など、複数の漏洩事案の類型が整理されています。たとえば、ECサイト加盟店のECサイトに存在する脆弱性を突かれ、サイトが改竄されるケースがあります。この場合、カード情報を保持していなくても、不正ファイルの設置や偽の決済画面への誘導により、利用者が入力したカード番号等が攻撃者へ送信される可能性があります。また、委託先業者によるサイト更新時の設定不備を起点に、不正アクセスや情報漏洩につながるケースもあります。さらに、決済関連システム側の脆弱なアプリケーションへ不正アクセスされる事例も挙げられています。

PSPで情報漏洩が発生すると、利用者、ECサイト加盟店、クレジットカード会社など、多くの関係者を巻き込む被害につながるおそれがあります。これらの事例は、クレジットカード情報漏洩が単一のセキュリティ製品だけで防げる問題ではなく、開発、運用、委託管理、監視のすべてが関係する問題であることを示しています。また、近年は発覚経緯にも変化が見られます。2024年のカード情報流出事件では、警察の指摘により発覚した事案が35.1%を占めたとの分析もあります。また、2024年のクレジットカード不正利用被害額は555億円とされ、その9割超がECサイトでの番号盗用によるものとされています*16

これらの事例から分かるのは、クレジットカード情報漏洩が例外的な事故ではなく、現実的にはEC決済の現場で継続的に発生する身近なリスクだということです。PSPにとっても、漏洩元が自社であるか否かにかかわらず、問い合わせ、調査協力、ECサイト加盟店支援、関係者への説明といった対応が発生し得る点を踏まえる必要があります。

なぜ対策していても防げないのか

クレジットカードの情報漏洩対策として、「カード情報を保持しない非保持化」や「PCI DSS準拠」といった取り組みは非常に重要です。しかし、これらはリスクを低減するための対策であり、残念ながら漏洩を完全に防ぐことを保証してくれるものではありません。たとえば、カード情報の非保持化を行っている場合でも、ECサイトが改竄され、偽の入力フォームや悪意あるスクリプトが設置されてしまえば、利用者が入力したカード情報が攻撃者へと送信される可能性があります。つまり、カード情報を「保管していない」ことと、「情報入力時に窃取されない」ことは別の問題なのです。ECサイト全体の安全性まで担保されるわけではありません。PCI DSSについても同様です。PCI DSSに準拠していること自体が将来の侵害を否定してくれるものではありません。実際のインシデントでは、Webアプリケーションの脆弱性、管理画面の設定不備、委託管理先の不備、脆弱なパスワード設定など、複数の問題が重なって発生するケースが見られます。弊社のPFI調査資料でも、アプリケーションの脆弱性や管理画面の設定不備が主要な漏洩原因として挙げられています。

重要なのは、「非保持化しているから安全」、「PCI DSSに準拠しているから安全」と受け止めるのではなく、それぞれの対策が守れる範囲と限界を理解することです。クレジットカード情報漏洩は、技術、運用、管理といった複数の要因が重なって発生するため、防御だけではなく、継続的な監視や発生時の対応体制まで含めて備える必要があります。

インシデント発生後の現実

クレジットカード情報漏洩が疑われる事態に直面すると、現場では短時間で多くの判断が求められます。特に、次のような課題が発生する可能性があります。

  • 初動対応の遅れ
    被害拡大を防ぐため、ECサイトの停止、クレジットカード決済の一時停止、不正ファイルの確認、関係者への連絡などを並行して進める必要があります。対応が遅れた場合、新たな被害につながるおそれがあります。
  • ログ不足
    原因や影響範囲を調査しようとしても、必要なログが保存されていない、保存期間が短い、委託先から提供されないといった状況では、調査が難航します。ログの保全・管理体制が不十分であることが課題となるケースも少なくありません。
  • 調査・報告対応
    インシデント対応では、被害拡大を防ぐための封じ込めも重要です。さらに、個人情報保護委員会への報告や本人通知、公表対応など、時間的制約のある対外対応も並行して進めなければなりません。
  • 業務・信用への影響
    決済停止やECサイト停止は、売上の減少、顧客対応、問い合わせ対応の発生に直結します。実際に、クレジットカード決済の停止が長期化した事例や、決済再開までの期間、クレジットカード決済以外でECサイトを継続できるかといった相談も挙げられています。決済再開に向けた調整や関係者との連携も必要となり、事業運営や信用面にも大きな影響を及ぼす可能性があります。

PSPはどこまで責任を負うのか?

クレジットカード情報漏洩のインシデントでは、実際に情報漏洩が発生したECサイト加盟店やシステム事業者だけでなく、決済に関わる複数の事業者が対応を求められる場合があります。特にPSPはインシデント発生時に一定の関与が発生する可能性があります。たとえば、ECサイト加盟店からの問い合わせ対応、決済停止や再開に関する調整、関係各所への情報共有、調査協力などが挙げられます。また、利用者への影響範囲や決済への影響を整理する中で、PSPが保有するログや取引情報の確認が必要になるケースもあります。

もちろん、すべてのケースでPSPが法的責任を負うとは限りません。しかし実際には、「どのシステムで何が起きたのか」、「どこまで影響が及んでいるのか」を整理する過程で、決済のハブとしての対応が求められる場面があります。関係者間で認識や説明内容に差異が生じれば、公表内容や顧客説明にも影響する可能性があります。また、インシデント発生時には、技術的な問題だけでなく、ECサイト加盟店や委託先との調整、問い合わせ対応、事実確認など、実務面での負荷も大きくなります。そのためPSPにとっても、インシデント対応は「加盟店側の問題」と安易に切り離して考えられるものではありません。重要なのは、インシデント発生後に責任範囲を議論することだけではなく、平時から、どのような連携体制で対応するのか、どの情報を誰が保有しているのか、どのように調査や報告を進めるのかを十分に整理しておくことです。

インシデント対応で求められるフォレンジック調査

クレジットカード情報漏洩が疑われる場合、適切な封じ込めや再発防止につなげるためにも、何が起きたのかを客観的に把握することが重要です。そのため、フォレンジック調査では次のような対応を行います。

  • 原因の特定
    ECサイトの改竄、不正ファイルの設置、管理画面からの侵入など、どのような経路で侵害が発生したのかを調査し、事実関係を整理します。
  • 被害範囲の把握
    どの期間に、どの画面やシステムが影響を受け、どの情報が漏洩した可能性があるのかを確認します。影響範囲を把握することで、関係者への説明、外部報告、顧客対応、決済再開の判断をしやすくなります。
  • 侵入経路や影響の分析
    ログ、ファイル、通信履歴、システム構成などを調査し、侵入経路や改竄内容、攻撃の時系列、影響範囲を明らかにします。
  • 報告・説明対応の支援
    クレジットカード情報漏洩が疑われる場合には、アクワイアラや国際ブランド等への報告対応が求められることがあります。第三者による調査結果は、事実確認や説明責任を果たすうえで重要な根拠となります。
  • 再発防止にむけた基盤づくり
    フォレンジック調査は単なる原因調査ではなく、被害拡大防止、再発防止、関係者への説明を支えるための重要なプロセスです。ログ、ファイル、通信、システム構成などを確認し、侵入経路や改竄内容、攻撃の時系列、影響範囲を明らかにしていきます。何が分かり、何が分からないのかを整理することで、その後の対応につなげることができます。特にクレジットカード情報漏洩が疑われる場合には、アクワイアラや国際ブランド等への報告対応も想定されるため、第三者による調査結果が重要になる場面があります。

初動対応を左右する平時の備え

クレジットカード情報漏洩のインシデントでは、発生後の初動対応がその後の調査、報告、復旧に大きく影響します。どのシステムを確認するのか、どのログを保全するのか、誰に連絡するのかが整理されていなければ、対応開始までに時間を要してしまいます。結果として、被害範囲の特定や関係者への説明も遅れる可能性があります。そのため重要になるのが、「平時からの備え」です。具体的には、システム構成や委託先の把握、ログの保存場所や保全方針の確認、関係者の連絡先や判断権限の整理、初動対応手順の整備、外部専門家との連携体制の確保などが挙げられます。さらに、NDAや基本契約を事前に整えておけば、インシデント発生後に契約条件や情報共有範囲を調整する時間を減らし、調査や封じ込めに着手しやすくなります。これらを事前に確認しておくことで、発生時に「何から手を付けるか」と迷う時間を減らすことができます。

平時の備えは技術部門だけの課題ではありません。法務、広報、顧客対応、経営層、委託先を含めた体制整備が必要です。インシデント発生時には、技術調査と並行して、報告、通知、公表、問い合わせ対応が進むためです。クレジットカード情報漏洩対策では、防御策を強化することはもちろん重要です。しかし、それだけでは十分とはいえません。万一に発生した場合は、速やかに封じ込め、調査し、説明できる状態を作っておくことが重要です。

有事に備えた準備はできていますか?

クレジットカード情報漏えいが発生した場合、初動対応、原因調査、被害範囲の特定、関係各所への報告など、多くの対応を短期間で進める必要があります。BBSecでは、PCI SSC認定のPFIとして、クレジットカード情報漏えいフォレンジック調査を提供しています。万が一の際に迅速な対応を行うためにも、平時からの備えをご検討ください。
クレジットカード情報漏えいフォレンジック調査サービスはこちら

まとめ

クレジットカード情報漏洩は、ECサイト加盟店だけの問題ではなく、PSPを含む決済サプライチェーン全体に影響を及ぼすインシデントです。情報の非保持化やPCI DSS準拠といった対策は重要ですが、それだけでリスクを完全に防ぐことはできません。だからこそ、防御策に加え、発生時の初動対応、調査、関係者連携まで含めて、平時から備えておくことが重要です。


「非保持化しているから安心」とは言い切れない時代へ
情報漏洩インシデントは、Webアプリケーションの脆弱性や設定不備、運用上の課題など、複数の要因が重なって発生します。PCI DSS v4.0では、継続的な脆弱性管理やペネトレーションテストなど、従来以上に運用・監視を重視した対応が求められています。情報漏洩リスクに備えるために、PCI DSS v4.0で押さえておきたいポイントをウェビナーで詳しく解説しています。
【関連ウェビナー】「今さら聞けない!PCI DSS v4.0で求められる脆弱性診断
詳細・お申し込みはこちら


無料PDF|SQAT® Security Report 2026春夏号

サービスに関する疑問や質問はこちら


Security Serviceへのリンクバナー画像
BBSecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
セキュリティ緊急対応のバナー画像
BBSecホワイトペーパー「企業のセキュリティ成熟度チェックリスト」資料ダウンロードボタン

編集責任:木下

Security NEWS TOPに戻る
バックナンバー TOPに戻る

企業のセキュリティ成熟度 vol.1

Share

企業のセキュリティ成熟度チェック

このようなお悩みはありませんか?

  • 自社のセキュリティ対策レベルがわからない
  • どこに課題があるかわからない
  • セキュリティ対策の状況を客観的に確認したい

本資料では、40項目のチェックシートを通じて
セキュリティ対策状況の可視化と改善優先度の整理を支援します。

資料イメージ

BBSecセキュリティ成熟度チェック_チェックの概要イメージ
資料概要
BBSecセキュリティ成熟度チェック_チェックシートイメージ
40項目のチェックシート
BBSecセキュリティ成熟度チェック_スコア判定と改善アクション
スコア判定と改善アクション

診断結果の次の一手をお考えの方へ

vol.1「企業のセキュリティ成熟度チェック」で現状を把握した後は、結果に応じた対策の優先順位を整理することが重要です。vol.2「セキュリティ成熟度別ロードマップ」では、成熟度に応じて何から取り組むべきか、どのような順番で対策を進めるべきかを解説しています。チェック結果を具体的な改善アクションにつなげたい方は、ぜひあわせてご活用ください。

セキュリティ成熟度別ロードマップページリンクボタン

企業のセキュリティ成熟度チェックがダウンロードできるURLをお送りいたします。
ダウンロードご希望の方は下記の申し込みフォームからお申し込みください。

関連サービス


チェック結果を次のアクションにつなげませんか?

チェック結果を踏まえ、優先的に取り組むべき対策や改善の進め方について
専門家がご相談を承ります。自社に適した対策の整理にぜひご活用ください。


Security NEWS TOPに戻る

企業のセキュリティ成熟度 vol.2

Share

セキュリティ成熟度別ロードマップ

このようなお悩みはありませんか?

  • 何から対策を始めるべきかわからない
  • 対策の優先順位を整理したい
  • 限られたリソースで効率的に改善を進めたい

本資料ではセキュリティ成熟度に応じて優先的に取り組むべき対策と、
段階的な改善の進め方をわかりやすく整理しています。

資料イメージ

セキュリティ成熟度ロードマップ_全体像
成熟度別の対策ロードマップ
成熟度向上で得られる効果
改善に向けた次のアクション

まずは現状把握から始めたい方へ

セキュリティ対策の優先順位を検討する前に、まずは自社の対策状況を把握することが重要です。「企業のセキュリティ成熟度チェック」では、40項目のセルフチェックを通じて、現在の対策状況や改善が必要な領域を確認できます。

企業のセキュリティ成熟度チェックリストページリンクボタン

企業のセキュリティ成熟度チェックがダウンロードできるURLをお送りいたします。
ダウンロードご希望の方は下記の申し込みフォームからお申し込みください。

関連サービス


改善計画の策定や対策の優先順位付けでお悩みではありませんか?

セキュリティ対策は、企業の状況や成熟度によって優先すべき取り組みが異なります。
「何から着手すべきかわからない」
「自社に適した対策を整理したい」
といった場合は、お気軽にご相談ください。
BBSecが現状や課題を整理し、改善に向けた進め方をご提案します。


Security NEWS TOPに戻る

ゼロデイ脆弱性とは?最新事例と企業が取るべき対策を解説

Share
ゼロデイ脆弱性とは?最新事例と企業が取るべき対策を解説アイキャッチ画像

ゼロデイ脆弱性は、修正パッチが提供される前に悪用される極めて危険な脆弱性です。ChromeやFirefox、VPN機器など、企業で日常的に利用される製品でも継続的に確認されており、情報漏えいや業務停止につながるケースもあります。本記事では、ゼロデイ脆弱性の基本的な仕組みや実際の被害事例、従来対策が通用しにくい理由を整理しながら、企業に求められる現実的な対策について解説します。

ゼロデイ脆弱性が実際にどのように悪用されるのかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
世界で多発するゼロデイ攻撃とは?Apple・Google・Ciscoを襲った脆弱性の実態と対策

本記事は2026年5月時点の情報をもとに作成しています。記載している脆弱性情報やCVE詳細は、公開後に内容が更新される場合があります。最新情報は各ベンダーおよびNVD・CISAの公式情報をご確認ください。

はじめに

ChromeやFirefoxなど、日常業務で広く使われている主要ブラウザでも、ゼロデイ脆弱性は繰り返し確認されています。ゼロデイ脆弱性とは、製品ベンダーや利用企業が十分な修正猶予を持てないまま悪用される、極めて危険度の高い脆弱性です。企業にとってゼロデイ脆弱性が厄介なのは、単に危険な脆弱性であるという点だけではありません。多くの場合、攻撃が確認された時点では、すでに悪用が始まっているか、修正パッチの適用が間に合っていない状態です。つまり、通常のパッチ管理や既知のマルウェア検知だけでは、防御が後手に回る可能性があります。 Webブラウザ、VPN機器、セキュリティ製品、業務アプリケーション、開発支援ツールなど、企業活動を支えるソフトウェアの多くは、常に外部との接点を持っています。そのため、ゼロデイ脆弱性は情報漏えい、業務停止、信用毀損、取引先への影響といったビジネスリスクに直結します。まず押さえたいのは、ゼロデイ脆弱性を悪用した攻撃に対し、完全に避けるのではなく、発生を前提に、侵入されにくく、侵入されても早期に検知し、被害を抑え込める体制を整えることです。

ゼロデイ脆弱性とは何か

ゼロデイ脆弱性とは、製品ベンダーや利用者がまだ十分に把握していない、または修正パッチが提供されていない脆弱性を指します。「ゼロデイ」という言葉は、攻撃者に悪用される可能性があるにもかかわらず、防御側に残された対応猶予が実質的にゼロ日であることに由来します。ここで整理しておきたいのが、「脆弱性」と「攻撃」は同じものではないという点です。脆弱性は、ソフトウェアやシステムに存在するセキュリティ上の欠陥です。一方で、ゼロデイ攻撃は、その未知または未修正の欠陥を悪用して、情報の窃取、権限昇格、不正コード実行、システム侵入などを行う攻撃行為を指します。NIST(米国立標準技術研究所)では、ゼロデイ攻撃を「これまで知られていなかったハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアの脆弱性を悪用する攻撃」と定義しています。

たとえば、あるブラウザに不正なHTMLページを処理した際に任意のコード実行につながる欠陥があったとします。その欠陥自体がゼロデイ脆弱性であり、攻撃者が細工したWebページへ利用者を誘導して実際に悪用すれば、それがゼロデイ攻撃になります。CVEはこうした脆弱性を識別するための共通番号であり、NVD(米国国立脆弱性データベース)ではCVEプログラムについて、「特定のコードベースで確認された脆弱性を参照するための辞書、または用語集のような仕組みだ」と説明しています。

なぜゼロデイ脆弱性は危険なのか

ゼロデイ脆弱性が危険視される最大の理由は、修正パッチが存在しない、または広く適用される前に攻撃が始まることです。一般的な脆弱性対応では、ベンダーが脆弱性情報を公開し、修正パッチを提供し、企業が影響範囲を確認して適用するという流れになります。しかしゼロデイの場合、この順番が崩れます。攻撃者が先に脆弱性を把握し、攻撃に利用してから、ベンダーや利用者が気づくことがあるためです。もう一つの問題は、従来型のシグネチャ検知が効きにくいことです。シグネチャ型のセキュリティ対策は、既知のマルウェアや既知の攻撃パターンを検出するうえでは有効です。しかし、まだ十分に解析されていない攻撃コードや、新しい悪用手法に対しては、検知が遅れる可能性があります。NISTの関連文献でも、「ゼロデイ攻撃は未知の脆弱性を悪用するため従来のシグネチャ型検知では事前に攻撃シグネチャを用意できず有効性に限界がある*2」とされています。

ゼロデイ攻撃は、標的型攻撃にも使われやすい傾向があります。攻撃者にとって、未修正の脆弱性は価値の高い侵入口です。特に、ブラウザ、VPN、ファイアウォール、メールサーバ、リモートアクセス製品、エンドポイント管理製品などは、企業ネットワークの入口や重要な業務環境とつながっているため、攻撃が成功した場合の影響が大きくなります。 ビジネス面では、ゼロデイ脆弱性の悪用は情報漏えい、業務停止、顧客対応コストの増加、監督官庁や取引先への報告、ブランド信用の低下などに発展します。攻撃の起点が一台の端末や一つのWebアクセスであっても、その後に認証情報の窃取、横展開、機密情報の持ち出しが行われれば、被害は組織全体へ拡大します。

実際の被害事例

Google Chromeで相次いだゼロデイ脆弱性

ゼロデイ脆弱性の代表的な事例として、Google Chromeの脆弱性が挙げられます。Chromeは多くの企業で標準ブラウザとして利用されており、Webメール、SaaS、業務システム、クラウド管理画面などへのアクセスにも使われています。そのため、Chromeのゼロデイ脆弱性は、単なる個人利用者向けブラウザの問題ではなく、企業の業務端末リスクとして捉える必要があります。

2025年には、Chromeで悪用が確認されたゼロデイ脆弱性が複数回修正されました。BleepingComputerでは、2025年から2026年にかけてChromeは複数のゼロデイ脆弱性を修正したと報じています*2。2026年2月には、CVE-2026-2441が修正されました。NVDによれば、この脆弱性はChromeのCSSにおけるUse After Free(解放済メモリの再利用)の問題であり、 Google Chrome 145.0.7632.75より前のバージョンでは、細工されたHTMLページを介してリモート攻撃者がサンドボックス内で任意のコードを実行できる可能性がありました。GoogleのChrome Releasesでも、この脆弱性について「実際に悪用が確認されている」旨が記載されています。2026年3月には、CVE-2026-3909CVE-2026-3910が修正されました。CVE-2026-3909は「Skia(Chromeが使用するグラフィック処理ライブラリ)における境界外の書き込み」で、細工されたHTMLページを介して境界外メモリアクセスにつながる可能性があります。CVE-2026-3910は「V8(ChromeのJavaScript実行エンジン)における不適切な実装」で、細工されたHTMLページを介してサンドボックス内で任意のコード実行が可能となるおそれがありました。GoogleはCVE-2026-3910について、「実際に悪用が確認されている」と公表しています。また、2026年3月末にはCVE-2026-5281も修正されています。NVDによれば、これはChromeのDawnにおける解放済メモリの再利用の脆弱性で、レンダラープロセスが侵害された状態で、細工されたHTMLページを通じて任意のコード実行につながる可能性があるものです。Googleはこの脆弱性についても、「実際に悪用が確認されている」と公表しています。

これらの事例が示しているのは、Webブラウザが単なる閲覧ツールではなく、企業ネットワークへの入口になり得るということです。利用者が業務中にWebサイトを閲覧する、SaaSへアクセスする、メール内のリンクを開くといった日常的な操作が、ゼロデイ攻撃のきっかけになる可能性があります。

OpenAI Codexに関するサンドボックス迂回の事例

近年は、開発支援ツールやAI関連ツールもゼロデイリスクの対象になっています。Zero Day Initiativeは2026年4月、OpenAI Codexに関するZDI-26-305を公開しました*3。この脆弱性は、影響を受けるOpenAI Codex環境においてサンドボックスを迂回できる可能性があるものとされ、攻撃には、「標的ユーザーが悪意あるJavaScriptを含むリポジトリをCodexで処理する必要がある」と説明されています。OpenAI Codex CLIでは2025年にも、サンドボックス設定ロジックの問題により、意図したワークスペース境界を迂回し、Codexプロセスが権限を持つ範囲で任意のファイル書き込みやコマンド実行につながる可能性がある脆弱性が、GitHub Security Advisoryで公開されています*4。この問題はCodex CLI 0.39.0で修正され、利用者には更新が推奨されています。

この事例から分かるのは、ゼロデイ脆弱性がOSやブラウザだけの問題ではないということです。開発者が利用するCLIツール、AIエージェント、コード生成支援ツール、CI/CD環境も、企業の重要な攻撃面になりつつあります。特に、ソースコード、認証情報、クラウド設定、APIキーにアクセスする可能性があるツールでは、サンドボックスや権限管理を過信しない運用が必要です。

ゼロデイ攻撃の仕組み

ゼロデイ攻撃の流れ概要図

※ゼロデイ攻撃では、脆弱性公開前や修正前に攻撃が始まるため、従来型のシグネチャ検知だけでは防御が難しい場合があります。

ゼロデイ攻撃は、脆弱性の発見から攻撃実行までが非常に速い場合があります。攻撃者は、ソフトウェアの不具合を独自に発見することもあれば、脆弱性情報が闇市場や限定的なコミュニティで売買されることもあります。その後、攻撃者はその脆弱性を悪用するエクスプロイトコードを作成し、標的組織に対して攻撃を実行します。まず、未公開または未修正の脆弱性が発見されるところから始まります。次に、その脆弱性を悪用するための攻撃コードが作成されます。ブラウザの脆弱性であれば、細工されたHTMLページやJavaScriptが使われることがあります。VPNや外部公開サーバの脆弱性であれば、インターネット越しに直接攻撃が行われることもあります。攻撃が成功すると、攻撃者は端末やサーバへ侵入し、認証情報の取得、権限昇格、内部ネットワークへの横展開を試みます。その後、機密情報の収集、データの持ち出し、ランサムウェアの展開、バックドア設置などへ進む可能性があります。

ゼロデイ攻撃の基本的な仕組みについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
世界で多発するゼロデイ攻撃とは?Apple・Google・Ciscoを襲った脆弱性の実態と対策

従来対策が通用しない理由

ゼロデイ脆弱性への対応で難しいのは、従来のセキュリティ対策が必ずしも十分に機能しないことです。もちろん、ウイルス対策ソフト、ファイアウォール、パッチ管理、メールセキュリティ、URLフィルタリングといった対策は今でも重要です。しかし、ゼロデイ攻撃では、これらをすり抜ける可能性があります。シグネチャ型対策は、既知の攻撃には強い一方で、未知の攻撃には限界があります。攻撃コードが新しく、まだ検体や攻撃パターンが共有されていない場合、検知ルールが存在しないことがあります。さらに、攻撃者は正規のWeb通信、正規のプロセス、正規の認証情報を利用して侵入後の活動を行うため、外形上は通常の業務通信に見えることもあります。また、境界防御だけに依存した対策では対応が難しいケースも増えています。クラウドサービスやリモートワークの拡大により、従来の「社内は安全」という前提だけでは、ゼロデイ攻撃のような未知の脅威への対応が難しくなっています。ゼロデイ攻撃では、社内端末、クラウドアカウント、開発端末、外部公開資産のどこからでも侵入口が生まれる可能性があります。

ゼロトラストの考え方を含め、従来型セキュリティ対策の課題については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
ゼロトラストセキュリティ -今、必須のセキュリティモデルとそのポイント-

ゼロデイ脆弱性への対策

ゼロデイ脆弱性への対策では、未知の攻撃を完全に防ぐことだけでなく、侵入後の被害を最小限に抑えるアプローチが重要です。ゼロトラストに基づく権限管理や多要素認証に加え、EDRやXDRによる侵入後の検知、ASMによる攻撃面の把握、SOCによる継続監視などを組み合わせた多層的な対策が求められます。

ゼロデイ攻撃対策を支援するBBSecのアプローチ

ゼロデイ攻撃へ備えるには「脆弱性情報を知ること」だけでなく、「自社がどの製品を利用しているのか」「どこが外部公開されているのか」を知ることで自社環境への影響を迅速に把握し、継続的に監視・対応できる体制を持つことが重要になります。

ブロードバンドセキュリティ(BBSec)では、EDR-MSSによる侵入後の検知・対応、G-MDRによる高度な脅威分析、ASMによる攻撃面の可視化を通じて、企業のゼロデイ対策を支援しています。ゼロデイ脆弱性への備えを強化したい方は、以下のサービスページもあわせてご覧ください。

ASM(アタックサーフェス管理)の考え方や、攻撃面を継続的に把握する重要性については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
脆弱性管理とIT資産管理 -サイバー攻撃から組織を守る取り組み-

まとめ

ゼロデイ脆弱性は、主要ブラウザやVPN機器、業務ソフトウェアなど、企業が利用するさまざまな環境で発生する可能性があります。ゼロデイ攻撃による被害を抑えるためには、パッチ管理だけでなく、ゼロトラストに基づく権限管理、EDRやXDRによる侵入後の検知、ASMによる攻撃面の把握、SOCによる継続監視などを組み合わせた多層的な対策が求められます。

【参考情報】


ウェビナー開催のお知らせ

  • 2026年6月3日(水)14:00~15:00「金融機関の対応事例に学ぶPQC移行の進め方と実務ポイント
  • 2026年6月10日(水)14:00~14:30「Webサイトの見えない脅威を可視化する 外部タグ・サードパーティースクリプトの監視対策
  • 最新情報はこちら


    年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。

    サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。


    Security Serviceへのリンクバナー画像
    BBSecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
    セキュリティ緊急対応のバナー画像

    編集責任:木下

    Security NEWS TOPに戻る
    バックナンバー TOPに戻る

    ソーシャルエンジニアリングとは?代表的な手口・事例・対策を解説

    Share

    Security NEWS TOPに戻る
    バックナンバー TOPに戻る

    SQAT® Security Report 2020-2021年 秋冬号掲載
    「人という脆弱性~ソーシャル・エンジニアリング攻撃~」より一部抜粋

    特殊詐欺のイメージ画像(電話・お金・メモ)

    サイバー攻撃というとシステムの脆弱性を狙うイメージがありますが、実際には「人」を狙う攻撃が多く発生しています。ソーシャルエンジニアリングは、人間の心理や行動の隙を悪用して情報を窃取する攻撃手法です。標的型メール、なりすまし、SNSを利用した情報収集など、その手法は年々巧妙化しています。本記事では、ソーシャルエンジニアリングの代表的な手口や心理的脆弱性について解説します。

    ※本記事は「SQAT® Security Report 2020-2021年 秋冬号」の内容を一部再編集したものです。

    この記事でわかること

    • ソーシャルエンジニアリングとは何か
    • 人が騙される心理的要因
    • 代表的な攻撃手法
    • 企業で必要な対策
    • セキュリティ教育の重要性

    ソーシャルエンジニアリングとは

    そもそも、ソーシャル・エンジニアリングとは何なのだろうか? ソーシャル・エンジニアリングフレームワークの第一人者と知られるクリストファー・ハドナジー(Christopher Hadnagy)氏は、著作『ソーシャル・エンジニアリング』(日経BP社)の中で、ソーシャル・エンジニアリングを「人を操って行動を起こさせる行為。ただし、その行動が当人の最大の利益に適合しているか否かを問わないこともある」と定義づけている。これには警察官、弁護士、医師といった人々が、標的当人の利益となるように誘導するといったケースも含まれているが、一般的にサイバー攻撃におけるソーシャル・エンジニアリングとは、不正アクセスするのに必要なシステム情報、アカウント、パスワード、ネットワーク・アドレス等を正規のユーザあるいはその家族、友人などから人間の心理的な隙や、行動のミスにつけ込んで手に入れる手法と位置付けられることが多くなっている。ソーシャル・エンジニアリング攻撃の定義は様々なものがあるが、その共通するところは、人を介して攻撃を行うという点である。

    なぜ人は騙されるのか

    では、なぜ人が脆弱性となってしまうのか、この点について、原因の一つとなっていると考えられる、人に存在する心理的脆弱性を見ていきたい。ハドナジー氏は人には以下のような8つの心理的脆弱性が備わっていると主張している。

    返礼

    人からの親切に対し、お返しをせずにはいられない特性
    例:プレゼントのお返しに、何かしてほしいことはないかと聞く。

    義務感

    社会的、法的、道徳的に、人がなすべきだと感じている行動をとってしまう特性
    例:身体が不自由な人に、積極的に手を差し伸べなくてはならないと考えて寄付を行う。

    譲歩

    何かを譲ってもらったら、同じように譲らなくてはならないと考える特性
    例:相手の大きな要求を最初に断ったのだから、次の小さな要求には応じてあげたいと考える。

    希少性

    入手しづらいものであるほど貴重なものに思え、手に入れたくなってしまう特性
    例:同様の商品の中で手に入れるなら、期間限定で販売された商品を手に入れたいと考える。

    権威

    組織的、社会的に、強い権威者とみなされる者の命令に従ってしまう特性
    例:強い権威を持つ人間が言っているのだから、正しいと考える。

    言質と一貫性

    自分や他人の行動・言質が、過去から一貫性がとれていることを高く評価する特性
    例:一度購入すると言ったものが、予想よりも高かったとしても、前言を撤回するのは恥ずかしいと考える。

    好意

    好意を持っている人から頼まれると、承諾してしまう特性
    例:親密な人から何かを頼まれると、そうでない人から頼まれるよりも簡単に請け負ってしまう。

    コンセンサスもしくは社会的証明

    他人の考えにより、自分が正しいかどうかを判断する特性
    例:有名人が利用している商品を、自分も利用したいと考える。


    代表的なソーシャルエンジニアリング攻撃

    ここ数年、ソーシャル・エンジニアリングを用いた攻撃による大規模な事件が多数発生している。

    ・2015年に発生した日本年金機構の大規模な情報漏洩事件*5
    ・2017年の大手航空会社が3億8000万円をだましとられた事件*2
    ・2018年の暗号通貨の不正送金事件*3
    ・2020年7月に起きた大手SNSの大規模アカウントハック事件*4

    これらはすべてソーシャル・エンジニアリングを用いた攻撃に端を発しているといわれている。ソーシャル・エンジニアリングを用いた攻撃の高まりを受けて、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が「ソーシャル・エンジニアリングを巧みに利用した攻撃の分析と対策」*5 を発表したのが2009年であるが、10年以上が経過した今も、ソーシャル・エンジニアリングを用いた攻撃は、収まる気配がない。それは、ソーシャル・エンジニアリングが持つ、人間という脆弱性を狙う性質に原因がある。ここでは、今一度、ソーシャル・エンジニアリングと人間とのかかわりを考えていきたいと思う。


    公開日:2021年9月17日
    更新日:2026年5月27日

    編集責任:木下


    Security Report 2020-2021年 秋冬号表紙画像

    弊社では、ソーシャルエンジニアリング攻撃や人的脆弱性について詳しく解説した
    SQAT® Security Report 2020-2021年 秋冬号」を無料公開中です。ぜひ資料ダウンロードをしてご一読ください。

    ※参考(続き)
    contents
    4.人へのバッファオーバーフロー攻撃
    5.人間の隙をつくソーシャル・エンジニアリング攻撃
    6.テクノロジーが人間を追い詰める
    7.ソーシャル・エンジニアリングに対する防御
    8.おわりに

    人的セキュリティ対策を強化したい方は、ぜひご活用ください。

    無料PDF|SQAT® Security Report 2020-2021秋冬号

    その他のSQAT® Security Report

    無料PDF|SQAT® Security Report 2026春夏号

    Security Serviceへのリンクバナー画像
    BBsecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
    セキュリティ緊急対応のバナー画像

    Security NEWS TOPに戻る
    バックナンバー TOPに戻る

    企業の情報漏洩対策 ―すぐに実践できる防止策と運用のポイント―

    Share
    企業の情報漏洩対策 ―すぐに実践できる防止策と運用のポイント―アイキャッチ画像

    情報漏洩対策をしているつもりでも、誤送信や設定ミス、委託先での事故は起き続けています。多くの企業では、セキュリティ製品を導入していても、運用上の抜け漏れから情報漏洩が発生しています。情報漏洩対策というと、まずはセキュリティ製品の導入やシステム強化を思い浮かべるかもしれません。しかし、実際の漏えい事故は、不正アクセスだけでなく、誤送信、設定ミス、権限管理の不備、委託先での事故など、日常運用の中からも発生します。情報漏洩対策は、製品導入の話ではなく、業務として回る仕組みづくりとして捉えることが重要です。本記事では、アクセス制御、ログ管理、権限管理、委託先管理まで、企業が実践すべき対策と運用のポイントを解説します。

    情報漏洩の基本的な仕組みやリスクについては、以下の記事で整理しています。
    情報漏洩対策とは何か ―企業が知るべき原因・リスク・防止策の全体像―

    情報漏洩対策は“技術だけでは防げない”

    技術対策は重要ですが、それだけで情報漏洩を防ぎ切ることはできません。たとえば、認証機能やアクセス制御が整っていても、過剰な権限が放置されていれば内部不正やアカウント侵害の被害は拡大します。ログを取得していても、監視やレビューの運用がなければ異常を見逃します。ファイルを暗号化していても、共有ルールや持ち出しルールが曖昧であれば、漏えいリスクは残ったままです。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「情報セキュリティ10大脅威 2025」解説書」でも、情報セキュリティ対策は「基本対策」と「共通対策」を組み合わせ、組織ごとの状況に応じて優先度を決めるべきだと示されています。また、情報漏洩対策では、まず「どこに情報があり、誰がアクセスでき、どの委託先に渡っているのか」を把握する必要があります。見えていない情報資産や権限、再委託先は、そのままリスクになります。

    個人情報保護委員会の考え方でも、委託先を含めた個人データの取扱いでは、適切な委託先の選定、委託契約の締結、委託先における取扱状況の把握が必要とされています。つまり、情報漏洩対策は社内システムの防御だけでなく、運用ルール、監督体制、委託先管理まで含めて初めて成立します。

    そもそも情報漏洩がどのように発生するのかについては、原因と事例をまとめた記事をご参照ください。
    情報漏洩はなぜ起きるのか ―企業で多い原因と最新事例から見るリスクの実態―

    基本となる情報漏洩対策

    アクセス制御

    情報漏洩対策の基本は、必要な人だけが必要な情報にアクセスできる状態を維持することです。IPA「情報セキュリティ10大脅威 2025」解説書の「セキュリティ対策の基本と共通対策」では、認証を適切に運用することが共通対策として示されており、ID・パスワード管理、多要素認証、権限管理の適正化は広範な脅威への基礎になります。過剰な権限は、内部不正だけでなく、アカウント侵害時の被害拡大にも直結します。実務では、退職者や異動者の権限削除漏れ、共有フォルダの開放状態、委託先アカウントの恒久利用などが起きやすいため、定期的な権限棚卸しが必要です。情報漏洩対策を強化するなら、まず「誰がどの情報にアクセスできるか」を見える化することが出発点になります。

    ログ管理

    ログ管理は、情報漏洩そのものを直接防ぐ対策ではありませんが、不審な挙動の検知、事故発生後の原因分析、被害範囲の特定に欠かせません。個人情報保護委員会が公表した「不正アクセス発生時のフォレンジック調査の有効活用に向けた着眼点(令和8年1月16日)」でも、フォレンジック調査や記録保全の有効性が整理されており、証跡が十分に残っていなければ初動判断も再発防止も難しくなることが示唆されています。そのため、ログは「取っている」だけでは不十分です。重要データへのアクセス、管理者操作、外部共有設定の変更、異常なログイン試行など、何を記録し、誰が見て、どうエスカレーションするかまで定めておく必要があります。情報漏洩対策におけるログ管理は、監査対応のためではなく、実際に異常を捉えるための運用として設計するべきです。

    暗号化

    暗号化は、端末紛失や媒体盗難、通信経路の盗聴などによる情報漏洩の被害を抑えるための基本対策です。すべての事故を防げるわけではありませんが、保存データや送受信データが適切に暗号化されていれば、漏えい時の実害を抑えられる可能性があります。IPAも基本対策について、「技術的な保護措置を一つで考えるのではなく、複数の対策を重ねて講じる考え方が重要」と示しています*6

    ただし、暗号化も運用が伴わなければ形骸化します。暗号鍵の管理が甘い、復号可能な状態でファイル共有している、個人端末へのデータ保存を許しているといった状態では、情報漏洩対策としての効果は限定的です。技術だけに依存せず、持ち出しルールや保存先の統制と組み合わせる必要があります。

    運用面で必要な対策

    教育とルール整備

    情報漏洩対策を実効的にするうえで、運用面の整備は避けて通れません。個人情報保護委員会の研修資料では、自己点検チェックリストや個人データ取扱要領の例が公開されており*2、ルール整備だけでなく、日常的な確認や点検の必要性が前提とされています。つまり、情報漏洩対策は「規程を作った」で終わるものではなく、実際に守られているかを確認し続けることが重要です。

    教育面では、標的型メールや不審なリンクへの注意だけでなく、誤送信防止、共有設定の確認、紙書類の扱い、委託先への情報提供時の確認など、現場で起こりやすい事故に即した内容が必要です。IPAも対策例として、情報リテラシーやモラルの向上、適切な報告・連絡・相談の実施を挙げています*3。また、ルール整備では例外運用を放置しないことが大切です。忙しい時だけ私物端末を使う、やむを得ず個人メールへ送る、臨時対応のために共有範囲を広げるといった運用が常態化すると、情報漏洩対策は一気に弱くなります。ルールは厳しさよりも、現場で守れる具体性と、逸脱時に気付ける仕組みが重要です。

    権限管理の継続運用

    権限管理では、最小権限の原則に基づき、業務に必要な範囲だけアクセスを付与することが基本になります。特に、異動・退職・組織変更・委託先変更などが発生した際に、権限変更が適切に行われているかを継続的に確認する必要があります。一度設定した権限を放置すると、「誰がどこにアクセスできるのか分からない状態」が生まれます。情報漏洩対策では、権限設定そのものよりも、定期的に見直し続けられる運用体制が重要です。

    委託先・外部サービスの管理

    近年の情報漏洩対策で特に重要なのが、委託先や外部サービスの管理です。個人情報保護委員会は、委託元には委託先に対する必要かつ適切な監督義務があると示しており、その具体例として、適切な委託先の選定、契約の締結、委託先における取扱状況の把握を挙げています。自社が直接事故を起こさなくても、委託先や再委託先での問題がそのまま自社の情報漏洩になる時代です。そのため、委託先の管理は契約書の締結だけでは足りません。どの情報を渡すのか、再委託はあるのか、保存先はどこか、アクセス権限はどう管理されるのか、事故時にどのタイミングで報告されるのかまで確認しておく必要があります。国家サイバー統括室(旧NISC)「サイバーセキュリティ2025」でも、委託先やサプライチェーンを通じたインシデントの深刻さが示されており、外部依存が高い企業ほど管理の精度が問われます。

    委託先や外部サービスに関するリスクについては、サプライチェーン攻撃の観点からも整理しておく必要があります。
    委託先・外注先のセキュリティはどこまで確認すべきか ―サプライチェーン攻撃を防ぐ実務判断―

    インシデント発生時の対応

    どれだけ対策を講じても、情報漏洩を完全にゼロにすることは困難です。そのため、情報漏洩対策では事故後の初動も重要になります。インシデント発生時の報告・連絡・相談体制を平時から決めておく必要があります。初動対応で重要なのは、まず被害拡大を防ぐことです。不正アクセスが疑われる場合には、該当アカウントや端末の隔離、ログ保全、外部接続の遮断、関係部門への即時連絡が必要になります。そのうえで、何が起きたのか、どの情報が影響を受けたのか、本人通知や公表が必要かを判断していきます。

    実際に情報漏洩が発生した場合の初動対応については、以下の記事で詳しく解説しています。セキュリティインシデントの基礎から対応・再発防止まで 第2回:セキュリティインシデント発生時の対応 ─初動から復旧まで

    継続的に対策を回すためのポイント

    情報漏洩対策は、一度整備して終わりではありません。業務フロー、利用サービス、委託先、働き方が変われば、リスクも変わります。IPAも、基本的な対策の重要性は変わらない一方で各組織は自社の状況を踏まえて優先度を決め継続的に対策を進める必要がある、としています。そのためには、定期レビューと可視化が不可欠です。情報資産の棚卸し、権限の見直し、委託先の確認、ログ監査、教育内容の更新、インシデント訓練などを、年に一度の形式的な点検で終わらせず、実態に合わせて回す必要があります。情報漏洩対策の成熟度は、立派な規程の有無ではなく、変更や例外に気付ける状態を保てているかで決まります。

    まとめ

    企業の情報漏洩対策は、アクセス制御、ログ管理、暗号化といった技術対策だけで完結しません。権限管理、教育、ルール整備、委託先管理、初動対応体制までを含めて設計し、継続的に見直していく必要があります。個人情報保護委員会やIPAの資料が共通して示しているのは、情報漏洩対策を単発の施策ではなく、組織的に回し続けるべき取り組みとして位置付けるべきだという点です。事故を防ぐことと同じくらい、事故が起きたときに被害を広げず、速やかに対応できる状態をつくることが重要です。情報漏洩対策は、IT部門だけではなく、業務設計・委託管理・組織運用を含めた経営課題です。「どこから漏れるか分からない」ことを前提に、継続的な見直しを行うことが求められるでしょう。

    情報漏洩対策の全体像をあらためて整理したい場合は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
    情報漏洩対策とは何か ―企業が知るべき原因・リスク・防止策の全体像―

    【参考情報】


    ウェビナー開催のお知らせ

  • 2026年6月3日(水)14:00~15:00「金融機関の対応事例に学ぶPQC移行の進め方と実務ポイント
  • 2026年6月10日(水)14:00~14:30「Webサイトの見えない脅威を可視化する 外部タグ・サードパーティースクリプトの監視対策
  • 最新情報はこちら

    編集責任:木下

    Security NEWS TOPに戻る
    バックナンバー TOPに戻る


    年二回発行されるセキュリティトレンドの詳細レポート。BBSecで行われた診断の統計データも掲載。

    サービスに関する疑問や質問はこちらからお気軽にお問合せください。


    Security Serviceへのリンクバナー画像
    BBSecコーポレートサイトへのリンクバナー画像
    セキュリティ緊急対応のバナー画像
    ウェビナーアーカイブ動画ページバナー画像