既知の脆弱性こそ十分なセキュリティ対策を!

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SQAT® 情報セキュリティ瓦版 2019年10月号
※外部サイトにリンクします。

サイバー攻撃が経年とともに進化を遂げていることにもはや疑う余地はありません。しかし、我々ユーザ側はどうでしょうか。「複雑さはセキュリティの敵」といわれる中、ますます複雑化するIT環境において求められている対策も多様化しています。日々様々な脆弱性が報告されていますが、三大脆弱性は「無知」「怠慢」「過信」であると考えます。「知る」「動く」そして「疑う」ことで、見えざる敵から情報資産を守りましょう。


増加するデータ漏洩事故

データ漏洩、Webサイト改竄、マルウェア感染、サービス運用妨害(DoS/DDoS)等、サイバー攻撃はとどまることを知らず、被害件数は増加する一方です。脆弱性情報やデータ漏洩事故に関する市場調査およびリスク評価などを専門とするRisk Based Security社の統計によれば、2019年1月から10月現在までに発生したデータ漏洩事故は約5,000件にも及び、漏洩したデータ件数は約75.6億件で、現在もその数は増え続けています。*1

同社より発行された最新の統計レポート『Cyber Risk Analytics 2019 MidYear QuickView Data Breach Report』*2 をみると、2019年上半期に発生したデータ漏洩事故件数は、過去8年間で最も多いことが分かります。(下記、図2参照)

最近では、NoSQLや全文検索システムにおいて立て続けにデータ漏洩事故が発生しています。2019年8月上旬に報道された、国内の企業で起きた従業員に関するデータ漏洩事故が記憶に新しいところかもしれません。2019年7月から8月の2ヵ月間において、NoSQLサーバであるMongoDB、またはNoSQL/全文検索システムであるElasticsearchを使用している環境で発生した主なデータ漏洩事故・事件の一覧をまとめました。 (表3参照)

 

 

設定不備が問題に

ここで誤解しないでいただきたいのは、これらデータ漏洩事故・事件はMongoDBやElasticsearch自体に問題があったのではないということです。問題は、NoSQLサーバや全文検索システムをデフォルト設定のまま利用していたことにあります。例えば、MongoDBやElasticSearch、またシェアの高いApache Cassandra、Apache Solrでは、いずれもデフォルトで認証設定が無効です。これはNoSQLがユーザデータベースのような構造化データを扱うものとは区別され、元来非構造化データを集積する目的で使用されてきたことが背景にあると推測されます。外部から参照される可能性が低いものとして捉えられてきた非構造化データを取り扱うため厳密な認証は不要、というのがNoSQLの開発者の認識だったのではないでしょうか。中でもElasticsearchは以前、認証機構を別モジュールとして有償販売をしていました。外部からアクセスされることは極めて稀なケースであるという認識だったからこそ、別モジュール扱いにしていたのでしょう。このような背景を考えると、ユーザが「なんとなく」「うっかり」認証設定をしていなかった可能性は十分考えられます。しかし、2019年5月からElasticsearchが認証を本体の機能として追加したことや様々なデータが格納されるようになったこと等を鑑みると、認証設定を「うっかり忘れた」や「必要だと思わなかった」では済まなくなります。

ではなぜ、最近になって頻繁にMongoDBやElasticsearchのデータ漏洩事故が取り上げられるようになったのでしょうか。一つの要因として、クラウド環境に導入しやすいという点があります。

実際、検索エンジンの「SHODAN」によると、AWS(Amazon Web Services)やDigitalOcean、Microsoft Azure、Google Cloudなどで多くのインスタンスが公開されていることを確認できます。クラウド環境に構築し、そこにオンプレミス環境からデータを移行した際、「うっかり」認証を設定し忘れたなどの理由で第三者にアクセスされる機会を増やしてしまったケースもあるでしょう。また、昨年秋ごろから多くのセキュリティ研究者が認証のないNoSQLや全文検索システムを発見する、一種の“ブーム”が到来していることも原因の一つとなっています。当社の脆弱性診断でも、認証設定のないElasticsearchやApache Solrを何度か検出しています。

 

定期的な対策と設定の見直しを

問題なのは認証設定だけではありません。出荷時/インストール時のデフォルト設定のまま確認もせずに運用することも、セキュリティのベストプラクティス(最善策)として推奨されません。利用可能なセキュリティ設定は適用する、不要なサービスポートは閉じる、悪用されうるサービスポートに対しては強固なアクセス制御を行う、といった基本のセキュリティ対策を講じるべきでしょう。ちなみに、同じ非構造化データを扱うSplunkにおいては、デフォルトでいくつかのセキュリティ設定が有効化されています。オープンソースと商用ソフトウェアで、コスト、運用保守、互換性など様々な面でメリット・デメリットがありますが、いずれにしても言えることは、自組織の資産に対して、オンプレミスかクラウド環境かに関わらず、定期的な棚卸しとアップデート、設定の確認、脆弱性診断などを通じて、不要なものや対処が必要なものがないかを常に把握しておくことが重要です。

NoSQLや全文検索システムに関するデータ漏洩事故について調査し、設定に問題のあるシステムを数多く発見、報告しているセキュリティアナリストのBob Diachenko氏は、とあるインタビューでこの問題について今後の展望を聞かれた際、利用者の意識改革が鍵であると答えています。*3

 

色々な顔を持つクリックインターセプション

サイバー攻撃は日々繰り広げられていますが、毎回脆弱性が新たに発見されているとは限りません。以前からある脆弱性を利用して、手口だけを進化させているケースも多々あります。先般、「クリックインターセプション」に関するホワイトペーパーが公開されました。これは、2019年8月中旬に米国カリフォルニア州で開催された、大学の研究者などが研究成果を発表するアカデミックカンファレンス「USENIX Security ‘19」において、香港中文大学、ソウル国立大学、Microsoft Research、ペンシルバニア州立大学の研究者らによって共同研究されたクリックインターセプションに関する研究・調査結果をまとめたものです。*4

もしかすると「クリックインターセプション」という言葉には耳慣れないかもしれません。これはサイバー攻撃の一種で、Webサイト内のリンクやボタンなどをクリックして遷移する先が第三者のページになるようURLを差し替える攻撃です。これまでユーザのクリック操作を利用した攻撃については、Webページの透過表示機能などを悪用した視覚的な騙しの技法が「クリックジャッキング」という名称で広く取り上げられてきました。しかし、ユーザのクリック操作を利用した攻撃はそれ以外にも様々なものがあり、悪質な第三者のJavaScriptによって引き起こされる、あらゆる種類のクリックインターセプションを取り上げたのが今回の研究です。この言葉自体は新しいものではなく、大きく分けて以下の3つのタイプがあります。

①ハイパーリンクを利用したクリックインターセプション
②イベントハンドラ2)を利用したクリックインターセプション
③視覚的な騙しを利用したクリックインターセプション

いずれの場合も、Webサイトの利用者が何らかのクリック操作を行うことで、第三者の用意した悪意のあるページに遷移させられ(視覚的に判断できるかできないかは別として)、機密情報を奪取されたり、マルウェアに感染させられたり、あるいはアドフラウド(広告詐欺)に加担させられたりといった様々な被害を受けます。

今回の研究で、研究者らは「Observer」と名付けたWebサイトにおけるクリックに関する挙動を確認するツールを作成し、Alexaアクセス数ランキングの上位250,000のWebサイトのTOPページを調査しました。その結果、613のWebサイトにおいてクリックインターセプションに該当する事象が確認されています。また、①を実行する新たな手口として、巨大なハイパーリンク3) を埋め込み、Webサイトを訪問した利用者がクリックを余儀なくされるように仕込んだものが発見されたとのことです。

前述のとおり、クリックインターセプションは金銭的利益を得る目的で利用されることもあります。特に最近では、クリックインターセプションがアドフラウドの新たな手口の一つになりつつあります。アドフラウドは広告業界にとって深刻な問題であり、広告主は多大な金銭的被害を受ける恐れがあります。2019年8月初旬、Facebookが、同社の広告プラットフォームを利用して不正な広告収入を得たとしてアプリの開発者を告訴した事件が報道されました。これもクリックインターセプション攻撃の一種で、Google Playストアからアプリがダウンロードされる際に端末をマルウェアに感染させ、ユーザに気づかせずにアプリ内の広告のクリックを発生させる仕組みになっていたとのことです。これにより、あたかもユーザが自身の意思で表示される広告をクリックしているように見せかけ、不正に広告収入を得ていたとFacebookは説明しています。*5

 

十分なセキュリティ対策を

本稿で取り上げた脆弱性は、どれも新しいものではありません。攻撃手法は進化していますが、その元となる問題は十数年前から存在するものです。しかし、未だ対策されていないシステムが多く存在しているのが実情です。当社の脆弱性診断では、こうした既知のセキュリティ上の問題を検出し、それに対するリスク分析と問題を解消するための対策案をご提示いたします。自組織の資産のセキュリティ状況の把握、定期保守などを目的に、各種法令や基準に則って、脆弱性診断を継続的に活用されることをおすすめいたします。


注:
1) 訳:tl;dr –マニュアルを読みなさい、そして面倒がらずに行動しなさい!(※「tl;dr」が何か分からない場合は検索してみてください。「知る」「動く」「疑う」を実践しましょう。)
2) JavaScriptで記述された、マウスの動きなどの操作に対して特定の処理を与える命令のこと
3) 例として、ページの広い範囲を埋めつくすようなバナーなど

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ランサムウェア攻撃に効果的な対策
‐セキュリティ対策の点検はできていますか?‐

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パソコンのキーボードと南京錠とチェーンロック

これまでSQAT.jpの記事においても何度か取り上げている「ランサムウェア」ですが、攻撃パターンが変化し、なお進化を続け、その被害は国内外ともに2020年よりも増加傾向にあります。いまや完全に防ぐことが難しいランサムウェア攻撃に有効な対策としておすすめしたいのが、「攻撃・侵入される前提の取り組み」です。本記事では、ランサムウェア攻撃の拡大理由を探りながら、企業・組織が行うべき「ランサムウェア対策の有効性検証」について解説します。

現在のランサムウェア事情

海外レポートにおけるランサムウェア事情

2021年10月、米財務省金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)は2021年1月~6月におけるランサムウェア攻撃についてのレポートを発行しました。サイバー犯罪は政府全体で優先的に取り組むべき課題であるとしている中で、特にランサムウェアに関しては懸念される深刻なサイバー犯罪であると強調されています。

FinCENがランサムウェアをそのように注視している背景として、各金融機関から報告された2021年上半期のランサムウェアに関する不審な取引報告数が、2020年の1年間の合計件数よりもすでに多い状態であることや、ランサムウェア攻撃関連の取引総額も2020年の合計額よりもすでに多いことをレポートに挙げています。

出典:Financial Crimes Enforcement Network
Financial Trend Analysis – Ransomware Trends in Bank Secrecy Act Data Between January 2021 and June 2021」(2021/10/15)

これまでのバックナンバーでも触れてきましたように、ランサムウェアは変遷が激しく、日々新種や亜種が生まれ、大きな勢力を持っていたものですら、すぐに入れ替わってしまいます。

2020年以降のランサムウェアの変貌について、SQAT.jpでは以下の記事でご紹介しています。
こちらもあわせてご覧ください。
変貌するランサムウェア、いま何が脅威か―2020年最新動向―
ランサムウェア最新動向2021―2020年振り返りとともに―
APT攻撃・ランサムウェア―2021年のサイバー脅威に備えを―

このようにランサムウェアがRaaSとしてビジネス化している中で、依然として攻撃件数や被害総額は増えており、ランサムウェアの種類の移り変わりの激しさを見ても、活発な市場であることがわかります。

国内レポートにおけるランサムウェア事情

次は日本国内における最近のランサムウェア攻撃事情もみていきましょう。2021年9月に警察庁が公開した 「令和3年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、ランサムウェア攻撃による被害が多発している中で、昨今のランサムウェアは下記のような特徴があるとしています。

二重恐喝
(ダブルエクストーション)
データの暗号化だけでなく、窃取したデータを使って
「対価を支払わなければデータを公開する」などと二重に金銭を要求する手口
標的型ランサムウェア攻撃特定の個人や企業・団体を狙って、事前にターゲットの情報を収集し、より確度の高い攻撃手法で実行する攻撃
暗号資産による金銭の要求身代金の支払いを暗号資産で要求する
VPN機器からの侵入従来は不特定多数を狙って電子メールを送る手口が一般的だったが、現在はVPN機器からの侵入が増えている
出典:https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R03_kami_cyber_jousei.pdfより弊社作成

同報告書によると、2021年上半期に都道府県警察から報告があった企業・団体等のランサムウェアの被害件数は61件であり、前年下半期の21件と比べると大幅に増加しました。被害を受けた企業・団体等は、大企業・中小企業といった規模や業界業種は問わずに被害が報告されている状況です。表でご紹介した昨今のランサムウェアの特徴である二重恐喝は、手口を確認できた被害企業のうち77%で実施され、また暗号資産による支払い請求は90%にもおよびました。

さらにランサムウェアの感染経路に関してもVPN機器からの侵入が55%で最も多く、次いでリモートデスクトップからの侵入が23%となっており、リモートワークが浸透してきた昨今の時勢からみると、まだセキュリティ対応の追いついていない穴をつく攻撃が多いことがわかります。

警察庁が被害を受けた企業・団体等に向けて実施したアンケートによると、被害後、復旧に要した期間は「即時~1週間」が最も多く全体の43%にあたります。次いで多いのは「1週間~1ヶ月」であることから、多くの企業は早々に復旧できているようです。

しかしながら、被害後の調査および復旧時の費用総額を見てみると、最も多いのは「1,000万円以上5,000万円未満」で全体の36%となっています。復旧の期間だけで見ればそれほど被害を大きく感じないところではありますが、調査および復旧時の費用総額を考えると、かなりのコストがかかってしまっているのが実情です。


注:図中の割合は小数点第1位以下を四捨五入しているため、総計が必ずしも100にならない

出典:https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R03_kami_cyber_jousei.pdf

またそういったコスト以外にも、ランサムウェアによる被害が業務に与えた影響について、「一部の業務に影響あり」と90%が回答しているものの、被害を受けた企業のうち2件は「すべての業務が停止」したため、もしランサムウェアの被害にあった場合はインシデント対応以外にも業務に支障が出てしまうことも忘れてはいけません。

なぜランサムウェア攻撃が増加していくの

ここまでみてきたとおり、国内外問わず依然として活発となっているランサムウェア攻撃ですが、なぜ拡大していく一方なのでしょうか。その理由として大きくは、下記のことが考えられます。

● RaaSビジネスとして儲かる市場ができている*6
● ランサムウェア攻撃をしても捕まりにくく、ローリスクハイリターンの状態である

既述の国外のランサムウェア事情でも触れましたように、ランサムウェアの市場は“稼げるビジネス”として活発であり、ビジネスとして儲けやすい状態にあります。

さらに攻撃者を捕まえるためにはこのように国際協力が必要不可欠であり、最近ようやく法整備などが整いつつある状況ではありますが、未だランサムウェア攻撃者が逮捕されにくいのが現状です。そういった状況からランサムウェア市場は今後も衰えることなく拡大していくことが想定されます。被害にあわないためにも、ランサムウェアを一時的な流行りの攻撃としてとらえるのではなく、今後も存在し続ける脅威だということを念頭において対策を行うことを推奨します。

進化し続けるランサムウェア

先に述べましたようにRaaSビジネス市場の活発さやランサムウェアの特徴の変化など、ランサムウェアは日々目まぐるしいスピードで進化し続けています。それに伴い、実際に被害件数や身代金の被害総額などが増加しているのも見てきたとおりです。また、テレワークやクラウドサービスの利用を緊急で対応した企業が多い中で、昨今のランサムウェアの特徴の一つである「VPN機器からの侵入」がメインの手法となっている今、そこが弱点となり得る企業が多く存在しています。

ランサムウェアの脅威は一時的なものではなく、来年、ないしはその先でも攻撃の手が伸びてくる可能性があることを忘れてはなりません。引き続きテレワーク・クラウド環境のセキュリティの見直しを行うことはもちろん、そういった働き方の変化に伴って増加している標的型攻撃メールやフィッシング攻撃についても警戒が必要です。

企業が行うべきランサムウェア対策の実効性評価

しかしながら、いくら警戒を強めて対策を行っていても、ランサムウェア攻撃を完全に防ぐことは難しいのが現実です。そこでBBsecが提案しているのは、完全に防ぐのではなく、攻撃への抵抗力を高めるという考え方です。そのために重要となってくるのは「攻撃・侵入される前提の取り組み」です。第一段階に侵入を防ぐ対策を行い、第二段階にもし侵入されてしまった場合に被害を最小化する対策を行うことで、多層防御を行うというものです。詳しくは「APT攻撃・ランサムウェア―2021年のサイバー脅威に備えを―」をご確認ください。

また、なかには思い浮かぶ限りの基本的な対策はすでに実施済みという方もいらっしゃるでしょう。そういった方々へ次のステップとしておすすめしているのは、「対策の有効性を検証する」という工程です。

BBsecでは多層防御実現のために「ランサムウェア対策総点検+ペネトレーションテスト」の組み合わせを推奨しています。

ランサムウェア対策総点検

「ランサムウェア対策総点検」では現状のリスクの棚卸を行うことが可能です。システム環境の確認や、環境内で検知された危険度(リスクレベル)を判定いたします。

ランサムウェア対策総点検サービス概要図
BBSecランサムウェア総点検サービスへのバナー
ランサムウェア感染リスク可視化サービス デモ動画

また弊社では、11月に「リスクを可視化するランサムウェア対策総点検」と題したウェビナーで、サービスのデモンストレーションとご紹介をしております。こちらも併せてご覧ください。

ペネトレーションテスト

「ペネトレーションテスト」では実際に攻撃者が侵入できるかどうかの確認を行うことが可能です。「ランサムウェア総点検」で発見したリスクをもとに、実際に悪用可能かどうかを確認いたします。

ペネトレーションテストサービス概要図

【例】

ペネトレーションテストシナリオ例

このように実際に対策の有効性を検証したうえで、企業・組織ごとに、環境にあった対策を行い、万が一サイバー攻撃を受けてしまった場合でも、被害を最小限にとどめられるような環境づくりを目指して、社員一人一人がセキュリティ意識を高めていくことが重要です。

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Webアプリケーション開発プロセスをセキュアに ―DevSecOps実現のポイント―

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DevSecOpsは、「DevOps」―開発(Development)チームと運用(Operations)チームが相互協力しながら品質を向上させ続けるサイクル―の一環に、セキュリティ(Security)を組み込むことで、トータルコストを低減しつつ、さらなるクオリティ向上を実現する手法です。セキュアなWebアプリケーション開発プロセスの実現のためには、この考え方が重要です。しかし、多くの企業・組織にとって、DevSecOpsの実現には様々な課題があるのが実情です。 本記事では、開発の現場担当者が感じている課題を整理したうえで、セキュアなWebアプリケーション開発にむけて、どのように取り組むべきかについてご紹介します。

OWASP Top10に新たな項目

2021年9月、「OWASP Top 10 2021」が発表されました。Webアプリケーションセキュリティに関する最も重大な10項目のリスクを取り上げたものです。前回発表された2017年版(OWASP Top 10 2017)から4年ぶりの更新となります。

※OWASP(Open Web Application Security Project)…Webアプリケーションセキュリティに関する国際的コミュニティ

2017年版Top 10の各項目は、2021年版ではそれぞれ順位を上げ下げしつつ、一部統合されて7項目となり、完全に消えたものはありませんでした。そして、新たなカテゴリが3項目追加される形で計10項目となりました。

OWASP Top 10 – 2021

A01:2021 –アクセス制御の不備
A02:2021 –暗号化の不備
A03:2021 –インジェクション
A04:2021 –NEW セキュアでない設計
A05:2021 –セキュリティ設定のミス
A06:2021 –脆弱かつ古いコンポーネントの使用
A07:2021 –識別と認証の不備
A08:2021 –NEW ソフトウェアとデータの整合性の不備
A09:2021 –セキュリティログとモニタリングの不備
A10:2021 –NEW サーバサイドリクエストフォージェリ(SSRF)

NEW」は2021年度版で追加された項目
https://owasp.org/Top10/ より弊社和訳

新設された3項目のうち2つが、システム開発のプロセスにかかわる内容に焦点を当てています。

● セキュアでない設計(Insecure Design)
  ポイント:設計における管理策の欠如、ロジックの検証が不十分である等
  推奨対策:シフトレフトによる開発ライフサイクルの実践 等
● ソフトウェアとデータの整合性の不備(Software and Data Integrity Failures)
  ポイント:安全でないデシリアライゼーション、
  信頼できないコンポーネントの利用、CI/CDパイプラインにおける検証不備 等
  推奨対策:データの整合性チェック、コンポーネントのセキュリティチェック、
  CI/CDのセキュリティ対策

※シフトレフト…開発工程のより早い段階でセキュリティに関する問題に対処する、ソフトウェアの開発や運用の考え方

ここで推奨対策例として出てきた「シフトレフト」と「CI/CDのセキュリティ対策」はアプリケーション開発プロセス手法である「DevSecOps」実現に欠かせません。

アプリケーション開発における「DevSecOps」

DevSecOpsは、「DevOps」―開発(Development)チームと運用(Operations)チームが相互協力しながら品質を向上させ続けるサイクル―の一環に、セキュリティ(Security)を組み込むことで、結果的にトータルコストも削減でき、サービスの価値をさらに向上させる手法です。

DevSecOpsとシフトレフト(Shift Left)について、詳しくは過去記事「前倒しで対処 ー セキュリティを考慮したソフトウェア開発アプローチ「シフトレフト」とはー」をご覧ください。

“セキュリティ”が組み込まれていないと…

DevSecOpsにおけるシフトレフト

DevSecOps実現のためには、「シフトレフト」の考え方が大切になります。セキュリティを開発の最終段階で対応したのではすでに遅く、開発プロセスの全フェーズにおいて常にセキュリティ上の課題を先取りして解決しながら進めることが、テストやリリースといった最終段階での手戻りを防ぎ、結果的にトータルコストの削減と品質の向上に寄与します。

DevSecOpsにおけるCI/CDのセキュリティ対策

“Sec”が入らないDevOpsにおいては、設計・実装を小さな単位で素早く繰り返し実行していく手法(アジャイル開発手法等)が一般的ですが、このスピード感をサポートするのが「CI/CD」です。

CI/CDの説明図

CI(Continuous Integration)は継続的インテグレーション、CD(Continuous Delivery)は継続的デリバリの略です。アプリケーション開発におけるコード、ビルド、テスト、デプロイといった各作業を自動化して継続的にサイクルを回せるようにする仕組みを指します。オンプレミスでもクラウド上でも展開可能で、CI/CDを提供する様々なツールやサービスが提供されています。

ただし、CI/CDはセキュリティ上のリスクにもなりえます。CI/CD環境に脆弱性が潜んでいて不正アクセスされるようなことがあれば、そこを発端に組織全体が危険にさらされる恐れもあるのです。このため、DevSecOps実現のためには、CI/CDのセキュリティ対策が不可欠です。

セキュアでない設計によるリスク

では、シフトレフトが意識されていない、セキュアでない設計にはどのようなものがあるでしょうか。ユーザの認証に用いられる情報がIDと生年月日である場合、生年月日は他者が容易に知りうる情報なので、本人確認の仕様としてはふさわしくないことがわかります。例えば、補助金の申請システムにおいて、申請者の本人確認や申請内容の検証が甘いために容易に複数の虚偽申請を許してしまうようでは、実用に耐えるとはいえないでしょう。

こうしたセキュリティについて考慮されていない設計は、弊社の脆弱性診断でも相当数検出されています。アカウントロックアウトが設定されていない、Webサーバからのレスポンスにクレジットカード番号のような重要情報が含まれている、個人情報が暗号化されないまま送信されている、といった例は多々見受けられます。放置しておくと、個人情報や機密情報の漏洩を引き起こしかねません。

プライバシーマーク推進センターによって報告された、2020年度「個人情報の取扱いにおける事故報告集計結果」によると、誤送付や紛失・盗難によらない情報漏洩のうち、プログラムやシステムにおける設計・作業ミスを原因とするものは102件あったとのことです。大した件数ではないようにも見えますが、インシデント1件あたりの漏洩件数が増加傾向にあるとの報告もあり、影響の大きさに注意が必要です。また、これらはあくまで報告があったものだけの数ですので、セキュアでない設計によるアプリケーションが人知れず稼働したままになっている危険性は大いにあるでしょう。

一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)プライバシーマーク推進センター
2020年度「個人情報の取扱いにおける事故報告集計結果」(2021年10月15日更新)より

CI/CDパイプラインにおける検証不備によるリスク

コードカバレッジツールへのサイバー攻撃の概要図

CI/CDパイプラインに起因するリスクの方はどうでしょう。2021年にあるインシデントが発生しました。ソースコードのテスト網羅率を計測するコードカバレッジツールがサイバー攻撃を受けた結果、このツールを使用していた国内企業のCI環境に不正アクセスされ、重要情報を含む1万件以上の情報漏洩につながったというものです(右図参照)。

自動化、高効率化ツールによる利便性を享受するためには、そこに係るすべてのツールや工程におけるセキュリティチェックを行う必要があるのです。

DevSecOps実現を阻む壁

さて、安全なWebアプリケーション開発の重要性は認識できているとしても、実現できなければ意味がありません。とはいえ、DevSecOps実現には、多くの企業・組織において様々な障壁があるものと思われます。今回は主な障壁を「組織」と「技術」のカテゴリに分類し、それらの問題点および解決の糸口を考えていきます(下図参照)。

DevSecOps実現のためにできること

DevSecOpsに特化したガイドラインが存在しないというのも、対応を難しくしている要因の1つかもしれません。とはいえ、Webアプリケーション開発におけるセキュリティ対策の課題を考慮すると、鍵となるのはやはりシフトレフトです。シフトレフトを意識しながら、システム開発プロセスに組み込まれたセキュリティ対策を実践する例として、以下のようなイメージが考えられます。

Webアプリケーション開発におけるセキュリティ対策実施の背景には、Webアプリケーションの規模や利用特性ばかりでなく、開発組織の業務習慣や文化等、様々な事情があることでしょう。例えば、セキュアコーディングのルール整備やスキルの平準化が不十分という課題があれば、まずは現場レベルでそこから取り組んでいくといったように、信頼されるWebアプリケーション構築のために、少しずつでもDevSecOpsの実装に近づけていくことが肝要です。

【参考】システム開発プロセスのセキュリティに関するガイドライン・資料等

●NIST
 Security Assurance Requirements for Linux Application Container Deployments
 https://csrc.nist.gov/publications/detail/nistir/8176/final

●OWASP
 OWASP Application Security Verification Standard
 https://github.com/OWASP/ASVS

●内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)
  情報システムに係る政府調達におけるセキュリティ要件策定マニュアル
  https://www.nisc.go.jp/active/general/pdf/SBD_manual.pdf

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なにはともあれリスクの可視化を!
―テレワーク運用時代に伴う課題とは―

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テレワークのイメージ(ピクトグラム)

2021年に入ってからも新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大は収まることを知らず、外出自粛などの影響により、いまや7割近くの企業・組織にテレワークが導入されています。しかしそこには、緊急事態宣言の発令後、やむを得ず急な対応を迫られた結果、セキュリティ対策が十分にされないままテレワークの導入が進み、様々なリスクにつながってしまっている、という落とし穴があります。

本記事では、テレワーク運用時代における課題を挙げ、対応すべき対策例を考えていきます。

ニューノーマルがニューでなくなった日常

東京都における企業のテレワーク実施率は、2021年8月時点で7割近くにのぼるという報告*2が出ています。

クラウド利用もさらに進み、オンラインによるコミュニケーションやデータ共有、迅速なシステム構築などに活用されています。いまや全国でクラウドサービスを利用している組織は68.7%にのぼるとの調査結果*2もあり、ITビジネス環境に欠かせない存在です。

こうした調査結果は、「ニューノーマル」がもはや私たちの日常となったことを示しているといえるでしょう。

出典:
左図(■東京都内企業のテレワーク実施率):

東京都産業労働局「8月の都内企業のテレワーク実施状況」(2021年9月3日)https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/09/03/09.html
右図(■クラウドサービスの利用状況):

総務省「通信利用動向調査」(令和3年6月18日)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html

テレワーク運用時代の新たなリスク

テレワーク導入期を過ぎ、運用期に入った組織が多数となった現在、新たなリスクが指摘されています。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2021年4月に公表した「ニューノーマルにおけるテレワークとITサプライチェーンのセキュリティ実態調査」では、次のような実態が明らかにされています。

出典:IPA「ニューノーマルにおけるテレワークとITサプライチェーンのセキュリティ実態調査」(2021年4月)より当社作成

※BYOD(Bring Your Own Device)…業務に私用の端末を利用すること

例外や特例を継続することによるリスク

多くの組織がテレワーク導入を迫られた2020年、以下のような例外や特例を認めた組織は少なくないようです。

●支給IT機器の調達が間に合わず、利用ルールが整備されないままBYODを容認
●自宅環境からの接続を早急に実現するため、管理外の自宅ルータの使用を許可
●即日使用可能なツールの必要性に迫られ、習熟しないままクラウドサービスを導入 など

テレワークやクラウド利用により機密情報を含む各種データへのアクセス環境が多様化するなか、事業継続優先を理由にやむを得ず許容されたはずの“当座の対応”が、そのままになっていることが問題視されています。置き去りにされたセキュリティ対策が十分に対応されないままだと、以下のような被害につながる危険があります。

◇業務に使用していた私用スマートフォンの紛失による情報漏洩
◇自宅から業務システムへのアクセスに使用していたルータの脆弱性を突いた不正侵入
◇業務利用のクラウドサービスに機密情報が公開状態で保存されていたことによる情報漏洩 など

ギャップが生むサプライチェーンのリスク

ITサプライチェーン※において、委託先の情報セキュリティの知識不足、という課題も指摘されています。

※サプライチェーン問題については、過去記事「テレワーク導入による開発現場での課題―セキュアプログラミングの重要性―」も参考ください。

確かに、テレワーク導入率は情報通信業が目立って高く、8割近くにのぼるとする調査結果 *3 もあります。システム構築業務が委託および再委託で成り立っている日本の産業界においては、たとえ委託元のシステム開発会社がクラウド利用やテレワーク環境におけるセキュリティポリシーを整備していたとしても、オンラインでデータのやりとりなどをする委託先のセキュリティ意識が十分でないと、ITサプライチェーン全体のリスクにつながる恐れがあるのです。

また、地域における差異も気になるところです。東京23区以外の地域のテレワーク実施率は2割程度*4とのことで、東京とそれ以外の地域では明らかに差があります。もちろん、新型コロナウイルス感染者数の差によるところも大きいでしょう。しかしながら、多くの事業活動が組織単体または地域限定で行われているわけではないため、テレワーク環境が当たり前の組織とそうでない組織の差異は、商習慣、ひいてはセキュリティ対策ギャップにつながりかねず、注意が必要です。

サイバー攻撃者は狙いやすいところを目ざとく見つけて突いてきます。サプライチェーンの中の一組織におけるセキュリティ不備が、そこに連なる様々な地域、規模、業種の関連組織に影響を及ぼしかねません。

まずはリスクの可視化を!

自組織からの情報漏洩を防ぎ、自らの被害ばかりでなくサプライチェーンリスクの起点とならずに済むようにするために、まずはリスクを可視化することを推奨します。

「リスクがどこにあるのか」「そのリスクはどの程度か」を明確にするのです。存在していることに気づいていないリスクを把握するのはもちろんのこと、存在自体は認識していても意図せず放置されたままになっているリスクを確認することも大切です。

リスクが明らかになってはじめて、なにに対してどのように対策を講じるか、すなわち優先的に取り組むべきポイントやそれぞれどの程度手厚く取り組む必要があるかを、具体的に検討することができます。

“なに”を”どう”守るか

リスクの洗い出しにおいては、保護すべき資産は“なに”か、そしてそれらを“どう”守るべきか、という視点で考えます。情報セキュリティリスクにおける保護すべき資産とは、「情報(データ)」です。例えば以下のようなステップを踏んで絞り込んでいきます。

リスクの可視化の重要性

すでにある程度セキュリティ対策は実施済み、という場合にもリスクの可視化は必要でしょうか。

国内企業のサイバーリスク意識・対策実態調査2020」 (一般社団法人 日本損害保険協会、2020年12月)によると、8割以上の組織において「ソフトウェア等の脆弱性管理・ウイルス対策ソフトの導入」が行われているとのことです。確かに、現在、最も代表的なセキュリティ被害の1つがランサムウェア※であることを鑑みると、最低限のセキュリティ対策としてやっていて当たり前という意識が感じられる結果です。

※ランサムウェアについては過去記事「ランサムウェア最新動向2021―2020年振り返りとともに―」も参考ください。

しかし、残念ながらセキュリティ対策にはこれだけやっておけば万事解決、という最適解はありません。インシデントが発生する恐れがゼロではないという現実がある以上、ランサムウェアに感染した場合や、システムに潜む脆弱性を悪用されて攻撃された場合に、どのような影響を受ける可能性があるのか、リスクを可視化しておくべきでしょう。

セキュリティ対策には専門家の力を

組織が抱えるリスクは、業種や規模のほか、サプライチェーンの特性や取り扱う情報の種類、テレワークやクラウド利用といったシステム環境の状況、セキュリティ対策の度合い……といった様々な事情に応じて異なります。まずは、自組織が抱えるリスクは何かを正確に見極め、優先度に応じた対策を検討できるようにすることが重要です。

その際、第三者視点の正確なリスクの検知と評価、そして講じるべき具体的な対策について、的確なアドバイスがほしいものです。ぜひ心強いパートナーとなり得る、リスクアセスメントに精通したセキュリティベンダを探してみてください。

【参考】テレワークに関するガイドライン・参考資料等

●総務省
 「テレワークセキュリティガイドライン 第5版」(令和3年5月)
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000752925.pdf
 「中小企業等担当者向けテレワークセキュリティの手引き
 (チェックリスト)(初版)」(令和2年9月11日)
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000706649.pdf

●経済産業省 / 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
 「テレワークを行う際のセキュリティ上の注意事項」
 (2021年7月20日更新)
 https://www.ipa.go.jp/security/anshin/measures/telework.html
 「テレワーク時における秘密情報管理のポイント(Q&A解説)」
 (令和2年5月7日)  https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/teleworkqa_20200507.pdf
 「クラウドサービス利用のための情報セキュリティマネジメントガイドライン 2013年度版」 https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/downloadfiles/cloudsec2013fy.pdf
 「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」
  https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/ug65p90000019cbk-att/000072150.pdf

●内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)
 「テレワーク実施者の方へ」(令和2年6月11日更新)
 https://www.nisc.go.jp/security-site/telework/index.html
 「インターネットの安全・安心ハンドブックVer 4.10」
 (令和2年4月20日)
 https://www.nisc.go.jp/security-site/files/handbook-all.pdf

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今、危険な脆弱性とその対策
―2021年上半期の診断データや攻撃事例より―

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キーボードと虫眼鏡

私たちの生活を支えるWebサイトは、攻撃者からみると、個人情報や機密情報などデータの宝庫であり、魅力的なターゲットになってしまっています。その理由は、Webサイトの多くに脆弱性が存在していることがあるためです。

本記事では、診断会社として多くの企業・組織への診断実績がある弊社の視点で、2021年上半期の診断結果、また攻撃事例などを振り返り、脆弱性対策に有効な手段を考えます。

Webサイトはなぜ狙われる?
―そこに脆弱性があるから

ハッカーがターゲットにしている対象のグラフデータ(The 2021 Hacker Reportより)

サイバー攻撃の対象は、Webサイトが最も高く、ハッカーのほとんどがWebサイトを攻撃しているといっても過言ではありません。

私たちの生活は公私共に、Webシステムに支えられており、Webサイトは個人情報や機密情報の宝庫です。そして、残念ながらWebサイトの多くには脆弱性が存在していることがあります。宝の山に脆弱性があるとなれば、悪意ある者に狙われてしまうのは当然といえます。

2021年上半期Webアプリケーション脆弱性診断結果

弊社では、様々な脆弱性診断メニューをご提供しております。その中で最もニーズの高いWebアプリケーション脆弱性診断について、2021年上半期(2021年1~6月)の結果をご紹介いたします。この半年間で14業種のべ610社、3,688システムに対して診断を行いました。

業種やシステムの大小にかかわらず、多くのWebアプリケーションになんらかの脆弱性が存在しています。検出された脆弱性をカテゴリ分けした内訳は円グラフのとおりです。

上半期診断結果脆弱カテゴリ別の円グラフ

このうち、例として、4割近くを占める「システム情報・ポリシーに関する問題」と、1割強程度ではあるものの、危険度の高い脆弱性が目立つ「入出力制御に関する問題」に分類される脆弱性の検出数をご覧ください(下記、棒グラフ参照)。

既知の脆弱性が検出されている、あるいはすでにベンダサポートが終了しているバージョンのOSやアプリケーションソフトの使用が数多く見られます。また、Webアプリケーションにおける脆弱性の代表格ともいえる「クロスサイトスクリプティング」や「SQLインジェクション」は、いまだ検出され続けているのが現状です。こうした脆弱性を放置しておくとどうなるか、実際に発生したインシデントの例を見てみましょう。

脆弱性を悪用した攻撃事例1:
既知の脆弱性が存在するWordPress

脆弱性のあるWordPressの悪用例

Webサイトの構築を便利にするCMS(Contents Management System)のうち、WordPressは世界でダントツのシェア40%以上を誇っています(CMS不使用は約35%、その他のCMSはすべて一桁パーセント以下のシェアです)*5。CMSの代名詞といえるWordPressですが、その分サイバー攻撃者の注目度も高く、脆弱性の発見とこれに対応したアップグレードを常に繰り返しています。

2021年に入ってからも10件以上の脆弱性が報告*2されているほか、国内でもWordPressを最新バージョンにアップデートしていなかったことで不正アクセスを受けたとの報告*3が上がっています。

脆弱性を悪用した攻撃事例2:SQLインジェクション

その対策が広く知れ渡っている今でも、「SQLインジェクション」は診断結果の中に比較的検出される項目です。

出典:IPA「安全なウェブサイトの作り方 – 1.1 SQLインジェクション
SQLインジェクション攻撃による国内情報流出事例

2021年も、実際にSQLインジェクション攻撃を受けたという報告*4が複数上がっています。

「SQLインジェクション」や「クロスサイトスクリプティング」のような、比較的知られている脆弱性に起因するインシデント事例は、企業のセキュリティ対策姿勢が疑われる結果につながり、インシデントによる直接的な被害だけでは済まない、信用の失墜やブランドイメージの低下といった大きな痛手を受ける恐れがあります。

最も危険な脆弱性ランキング

最も悪用された脆弱性ワースト30

脆弱性対策は世界的な問題です。2021年7月、アメリカ、イギリス、オーストラリア各国のセキュリティ機関が、共同で「Top Routinely Exploited Vulnerabilities(最も悪用されている脆弱性)」の30件を発表しました。

出典:https://us-cert.cisa.gov/ncas/alerts/aa21-209aより弊社作成

2021年にかけてサイバー攻撃グループが悪用していることが示唆されているものが多く含まれており、いまだ世界中の多くの企業や組織では、前述の脆弱性に対して未対応であることがうかがえます。

上記一覧からおわかりのとおり、ほとんどが、業務利用されているおなじみの製品群です。リモートワークの促進やクラウドシフトといったIT環境の変化が、既知の脆弱性に悪用する価値を与えているのです。各セキュリティ機関は、特にVPN製品に関する脆弱性に警鐘を鳴らしています。

思い当たる製品がある場合は、まずは侵害の痕跡(IoC:Indicator of Compromise)があるか確認し、必要に応じて対処する必要があります。そして可能な限り早急にパッチを適用する必要があります。いずれの製品にもセキュリティパッチがリリースされています。

最も危険なソフトウェアエラー 「CWE TOP25」2021年版

危険な脆弱性に関する情報として、米MITRE社より、「2021 CWE Top 25 Most Dangerous Software Weaknesses(最も危険なソフトウェアエラーTop25 2021年版)」も発表されています。CWE(Common Weakness Enumeration)は、ソフトウェアにおける共通脆弱性分類です。脆弱性項目ごとに一意のIDが決められ、そのタイプごとに体系化されています。

出典:https://cwe.mitre.org/top25/archive/2021/2021_cwe_top25.html より弊社翻訳

前年度と比較して順位を上げている項目については、特に脅威が高まっていると言えます。自組織のセキュリティの弱点と関係しているかといった分析や優先的に対策すべき項目の検討などに役立つ情報です。

脆弱性の対策に有効な手段とは?

多くのWebサイトに脆弱性が存在していることについて述べてまいりました。脆弱性の放置は、サイバー攻撃を誘発し、事業活動に甚大な影響を及ぼしかねません。たとえサイバー攻撃をすべて防ぎきることはできないにしても、セキュリティ対策をどのように講じてきたかという姿勢が問われる時代です。基本的なセキュリティ対策を怠っていたばかりに、大きく信頼を損ねる結果とならないようにしたいものです。

Webサイトにおける脆弱性の有無を確認するには、脆弱性診断が最も有効な手段です。自組織のセキュリティ状態を把握して、リスクを可視化することが、セキュリティ対策の第一歩となります。脆弱性診断を効果的に行うコツは、「システムライフサイクルに応じて」「定期的に」です。脆弱性の状況は、新規リリース時や改修時ばかりでなく、時宜に応じて変化することに注意が必要です。

変化という意味では、脆弱性情報のトレンドを把握するのも重要です。この点、様々なセキュリティ機関やセキュリティベンダなどが情報配信を行っていますので、最新状況のキャッチアップにご活用ください。

弊社では昨年8月に「テレワーク時代のセキュリティ情報の集め方」と題したウェビナーで、情報収集の仕方やソースリストのご紹介をしておりますので、ぜひご参考にしていただければと思います。

リスク評価、セキュリティ対策検討の初動である、脆弱性診断および脆弱性情報の収集が、健全な事業活動継続の実現に寄与します。

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中小企業がサイバー攻撃の標的に!
Webサイトのセキュリティ対策の重要性
―個人情報保護法改正のポイント―

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PCのイラストとプロテクトマーク

2022年(令和4年)4月1日に改正個人情報保護法(令和2年改正法)の全面施行が予定されています。いま、攻撃者にとって格好のターゲットとなるWebサイトを狙ったサイバー攻撃は、大企業のみならず中小企業も狙われており、サイバーセキュリティに対する意識が低いなどセキュリティ課題が明らかになっています。本記事では、個人情報保護法改正の全面施行に向け、改正点を解説し、最新のサイバー攻撃の種類と手口、セキュリティ対策を改めて整理します。

サイバー攻撃や組織における管理またはシステムの設定不備・不足等が原因となり、個人情報を含む機密情報の漏洩事故および事件が相次いで発生しています。東京商工リサーチの調べ*3によれば、2020年に上場企業とその子会社で個人情報漏洩または紛失事故・事件を公表したのは88社、漏洩した個人情報は約2,515万人分とされています。個人情報の漏洩または紛失事故・事件は年々増加の傾向にあり、同社の調査結果を見ても2020年は社数では最多、事故・事件の件数は2013年に次いで過去2番目に多い水準となっています。

出典:東京商工リサーチ「上場企業の個人情報漏えい・紛失事故」調査(2020年)

改正個人情報保護法への対応

個人情報の保護においては、2022年(令和4年)4月1日に改正個人情報保護法(令和2年改正法)の全面施行が予定されています。また海外でも法の整備が進んでおり、日本企業と関連性の深いところでは、例えば8月にブラジル個人情報保護法(LGPD)、2022年6月頃にタイ個人情報保護法(PDPA)の施行があります。多くの組織にとって、自組織やサプライチェーン内の関係組織かを問わず、国内外における個人情報保護体制の整備・見直しが必要であり、改正個人情報保護法への対応は重要課題の一つといえるでしょう。

個人情報保護法改正のポイント

個人情報保護法の主な改正点は以下のとおりです。

また、これら以外ではデータの利活用が促進されることもポイントです。この観点からは「仮名加工情報」について事業者の義務が緩和されることと、情報の提供先で個人情報となることが想定される場合の確認が義務化されることが定められました。企業のWebサイトでは利用者の閲覧履歴を記録する仕組みとしてCookieを使用し、デジタルマーケティング等に活用しているところも多いでしょう。Cookieにより取得されるデータは他の情報と照合するなどして個人の特定につながり得るため、保護を強化する声が高まっていたこともあり、改正個人情報保護法では取り扱いに慎重を期するよう求めています。

中小企業を狙ったサイバー攻撃

Cookieのみならず、Webサイトでは個人情報や決済情報など、様々な機密扱いの重要情報を取り扱っていることがあります。それらが漏洩する事故・事件が発生した場合、組織は金銭的損失や信用失墜に陥るだけでなく、個人情報の所有者(本人)から利用停止・消去請求があった場合には「情報資産」も失う可能性があります。

サイバー攻撃においてWebサイトが格好のターゲットであることはご存知のことでしょう。また、攻撃者に狙われるのは大企業ばかりではありません。経済産業省からの報告資料*4によれば、全国の中小企業もサイバー攻撃を受けていることが明らかになっています。というのも、中小企業の多くは大企業に比べてサイバーセキュリティに対する意識が低く、被害者になると考えていないことから攻撃を受けていること自体に気付いていなかったり、セキュリティに対する知識や対策に必要な資源が不十分であるために原因の特定や対策の実施が困難だったりするためです。

独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が2021年3月に公開した「小規模ウェブサイト運営者の脆弱性対策に関する調査報告書」では、小規模Webサイトの運営およびセキュリティ対策、さらには脆弱性対策の実態を調査したアンケート結果とそれに対する見解が述べられています。

IPAが調査の中で、サイバー攻撃の対象となり得る、脆弱性を作りこむ可能性があるWebサイトの機能・画面を選定し、それらが実装されているかを確認したところ、「ユーザによるフォームの入力(問合せ、掲示板等を含む)」が56.5%、「サイト内の検索と結果表示」が36.9%、「ユーザへのメール自動送信」が36.9%、「入力された情報の確認のための表示」が34.6%で上位を占めました。なお、これらはWebサイトの規模の大小にかかわらず多くのWebサイトに共通して実装されている機能・画面であり、当社の脆弱性診断でも検査の対象となっているものです。

Webサイトのセキュリティ対策において、脆弱性を可能な限り作りこまない設計となっているか、脆弱性を発見するための情報収集や検査は実施しているか、対応するための体制や仕組みはあるか、といった事柄はとても重要になります。

中小企業がより危険視されているのは、こうした事柄を実現するための「人員が足りない」「予算が確保できない」といった課題(下図参照)があり、さらにセキュリティ対策に関する知識不足や、意識の甘さがあることからサイバー攻撃のターゲットになりやすいことが理由に挙げられます。また、脆弱性に関する知識についても、情報漏洩につながる危険性のある「SQLインジェクション」や「OSコマンドインジェクション」等について具体的な内容を知らないという回答が約50%~60%に上りました。

出典:IPA「小規模ウェブサイト運営者の脆弱性対策に関する調査報告書

サイバー攻撃の種類と手口

サイバー攻撃は多種多様なものが存在しますが、最近では特に次のような攻撃が大きな問題となっています。

① 分散型サービス運用妨害(DDoS)攻撃
  攻撃対象に対して複数のシステムから大量の通信を行い、
  意図的に過剰な負荷を与える攻撃
② ランサムウェア攻撃
  データを暗号化したり機能を制限したりすることで使用不能な状態にした後、
  元に戻すことと引き換えに「身代金」を要求するマルウェアによる攻撃
③ ビジネスメール詐欺
  従業員や取引先などになりすまして業務用とみられる不正なメールを送ることで
  受信者を欺き、金銭や情報を奪取する攻撃
④ Webサービスからの個人情報窃取
  Webサービス(自社開発のアプリケーションや一般的に使用されているフレームワーク、
  ミドルウェア等)の脆弱性を突いて、個人情報を窃取する攻撃
  ※前段で触れた、情報漏洩につながる危険性がある
  「SQLインジェクション」や「OSコマンドインジェクション」もこれに分類されます。

それぞれの攻撃の目的および手口や対策の例を以下にまとめました。金銭的利益は攻撃目的の大半を占めますが、それ以外を目的とした攻撃も多数確認されています。その他代表的な攻撃や目的については、「サイバー攻撃を行う5つの主体と5つの目的」で参照いただけます。

Webサイトの脆弱性対策

改正個人情報保護法の全面施行に向けて、組織は個人情報をさらに厳格に管理する必要があります。前述のとおり、6か月以内に消去する短期保存データも「保有個人データ」に含まれるようになるため、例えば、期間限定のキャンペーン応募サイトなども今後は適用範囲内となります。公開期間は短くとも、事前にしっかりとセキュリティ対策の有効性を確認しておく必要があるでしょう。

情報の安全な管理を怠り流出させた場合、それが個人情報であれば罰則が適用される可能性があり、取引先情報なら損害賠償を要求されることが想定されます。また、ひとたびセキュリティ事故が起これば、企業の信用問題にも陥りかねません。

2021年3月にIPAが公開した「企業ウェブサイトのための脆弱性対応ガイド」では、脆弱性対策として最低限実施しておくべき項目として以下7つのポイントを挙げています。

(1) 実施しているセキュリティ対策を把握する
(2) 脆弱性への対処をより詳しく検討する
(3) Webサイトの構築時にセキュリティに配慮する
(4) セキュリティ対策を外部に任せる
(5) セキュリティの担当者と作業を決めておく
(6) 脆弱性の報告やトラブルには適切に対処する
(7) 難しければ専門家に支援を頼む

脆弱性対策を行うためには、まずWebサイトに脆弱性が存在しているかを確認することから始めましょう。脆弱性診断を行い、Webサイトのセキュリティ状態をきちんと把握することで内包するリスクが可視化され、適切な対応を講じることが可能となります。また、Webサイトの安全性を維持するには、定期的な診断の実施が推奨されます。定期的な診断は、新たな脆弱性の発見のみならず、最新の攻撃手法に対する耐性の確認やリスク管理にも有効です。

セキュリティ対策を外部の専門業者に依頼する場合に、「技術の習得や情報の入手・選別が難しい」といった課題もあります。弊社では昨年8月に「テレワーク時代のセキュリティ情報の集め方」と題したウェビナーで、情報収集の仕方やソースリストのご紹介をしておりますので、ぜひご参考にしていただければと思います。

Webサイトは、いまや企業がビジネスを行う上で不可欠なツールの一つとなっている一方で、安全に運用されていない場合、大きな弱点となり得ます。脆弱性対策を行い、セキュリティ事故を未然に防ぐ、そして万が一攻撃を受けた際にも耐え得る堅牢なWebサイトを目指しましょう。

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ランサムウェア最新動向2021
―2020年振り返りとともに―

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PCの画面と南京錠

昨年11月の記事「変貌するランサムウェア、いま何が脅威か -2020年最新動向」では、最近のランサムウェアは「Ransomware-as-a-Service」(通称「RaaS」)と呼ばれる形態が主流となっている、という現状をお伝えしました。本記事は2021年に新たに登場した様々な特徴や攻撃バリエーションを持つランサムウェアの最新情報をご紹介するとともに、2020年のニュースを振り返り、改めてランサムウェア対策に有効な対策を考えます。

ランサムウェア感染を招くマルウェア「Emotet」の猛威と終焉

ボット型マルウェアEmotetは、メール添付ファイルを主とする手法で感染させたPCのメールアカウントやアドレス帳などを窃取して感染拡大を図り、さらなるマルウェアに感染させるという多段階攻撃を行っていたことが確認されています。このため、Emotet感染をトリガーとするランサムウェア攻撃を多く生み出しました。

2019年から2020年にかけて世界的な流行を見せたEmotet*5は、2021年1月、欧州刑事警察機構(Europol)と欧州司法機構(Eurojust)を中心とした欧米各国による共同作戦「Operation LadyBird」によって制圧されました。*2

残存するEmoteの影響は?

Emotetインフラは無害化されましたが、その脅威がなくなったわけではありません。制圧前にすでに感染していた端末が多数存在する可能性があるためです。実際、各国法執行機関からの情報によると、制圧後の2021年1月27日時点で、日本のEmotet感染端末による約900IPアドレスからの通信が確認されたとのことです (下図)。

JPCERT/CCのEmotetに感染端末の数の推移を示したグラフ

すでに感染している場合、端末やブラウザに保存された認証情報、メールアカウントとパスワード、メール本文とアドレス帳データの窃取、また、ランサムウェアなど別のマルウェアへの二次感染といった被害が発生している恐れがあります。

Emote感染端末への対応

2021年2月5日以降、感染したコンピュータ名の情報も提供されるようになったため、総務省、警察庁、一般社団法人ICT-ISACは、ISP(インターネットサービスプロバイダ)各社と連携してEmotet感染端末の利用者に注意喚起する取組を実施しています。*3該当する通知を受けた場合にとるべき対応は次のとおりです。

◆ JPCERT/CC「マルウエアEmotetへの対応FAQ」を参照の上、
  EmoCheckにより感染有無を確認し、感染していた場合はEmotetを停止させる
◆ メールアカウントのパスワードを変更する
◆ ブラウザに保存されていたアカウントのパスワードを変更する
◆ 別のマルウェアに二次感染していないか確認し、感染していた場合は削除する

「情報セキュリティ10大脅威 2021」(組織編)
でランサムウェアが1位に

ランサムウェアに話を戻しますと、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)より発表された「情報セキュリティ10大脅威 2021」(組織編)で、「ランサムウェアによる被害」が1位に躍り出ました(昨年5位)。以下のような実情が脅威度アップにつながったと考えられます。

● 「二重の脅迫
  (暗号化+情報の暴露)」の台頭
● 特定の標的を狙った進化型の登場
● 新たな攻撃手法による標的対象の拡大

ランサムウェアによる二重の脅迫

身代金要求の条件として、従来の「データの暗号化」に加えて、暗号化前に窃取した「データの暴露」という2段階の脅迫を行う手法です。

米国セキュリティ企業はじめ、複数の企業を襲ったMaze、新型コロナウイルスの話題に便乗したフィッシングメールなどにより各国政府やインフラ事業、教育機関を中心に被害をもたらしたNetwalker。そして、暗号化による脅迫のみで使用されていた従来のランサムウェアの数々も二重の脅迫を行うようになり、実際にデータが暴露されるに至ったケースも見られます。*4「暴露型」は、もはやランサムウェアの常套手段となりました。

特定の標的を狙った進化型ランサムウェア

不特定多数に対するばらまき型でなく、特定の企業・組織を狙った標的型攻撃ツールとして使用する手法です。

2020年6月に国内自動車メーカーの社内システムが、EKANSの攻撃を受け、日本を含む各国拠点で一時生産停止に陥るなど大きな被害がありました。*5同インシデントの調査を行ったセキュリティ企業によると、同社の社内ネットワークで感染拡大するよう作りこまれていたことが確認されており、*6当該企業を狙った標的型攻撃だったことがわかります。

続く7月には、別の国内自動車メーカーの取引先が、Mazeに感染した*7と報じられ、同自動車メーカーを標的としたサプライチェーン攻撃であることがうかがえました。

さらに、2020年11月に公表された国内ゲームメーカーに対するRagnar Lockerによる攻撃では、二重の脅迫の結果、攻撃者により相次いで情報が公開(暴露)されました。最大約39万人分の個人情報流出の可能性があるとした報告の中で同社は、「オーダーメイド型ランサムウェアによる不正アクセス攻撃」と述べており、*8これもまた、巧妙に仕組まれた標的型攻撃といえます。

新たな攻撃手法をとるランサムウェア

様々な特徴や攻撃バリエーションを持つランサムウェアが新たに登場しています。以下に紹介するのは、そのほんの一部です。

Avaddon
2020年国内宛に
多数のスパム拡散を確認
Nefilim
主にMicrosoftのRDPの
脆弱性を突いて
重要インフラを狙う
Tycoon
VPNツールの不備を突いて
教育機関や政府機関を攻撃
Egregor
停止したMazeの後継ともいわれ
世界の大手企業が次々被害に
EKANS
制御システムを停止させる機能で
製造業など工場系に特化
DoppelPaymer
重要インフラへの被害急増にFBIも注意喚起

ランサムウェアは手を替え品を替え、次々に新種や亜種が生まれ続けています。例えば、2021年3月、Microsoft Exchange Serverについて報告された4件のゼロデイ脆弱性*9を利用したサイバー攻撃が活発化しましたが、その中の1つに、中国に関係する攻撃グループによる新種のマルウェア「DearCry」を利用したキャンペーンがあり、主に米国やカナダ、オーストラリアに存在する多くの脆弱なメールサーバが感染の被害を受けたとされています。

ランサムウェア市場の活況

2020年における世界のランサムウェアの被害額は200億米ドルに及ぶとするデータ*10があり、ここ数年、うなぎのぼりです(棒グラフ)。要求される身代金は1件平均17万米ドルにのぼるとの調査結果(2020年)*11も公表されています。

ランサムウェアを活発にしている原因の1つに、RaaS(Ransomware-as-a-Service)の存在が挙げられます。2020年のランサムウェア攻撃における攻撃元の6割以上をRaaSが占めているとするデータ*12もあります(円グラフ)。

Group-IBによるランサムウェア調査レポートの棒グラフ(ランサムウェア被害額)と円グラフ(ランサムウェア攻撃元)

専用サイトやコミュニティにより、犯罪グループなどにランサムウェアを提供して互いに利益を生み出す市場が成り立っています。金額、技術、サービスのレベルは様々で、単にランサムウェア自体をリースや売買するだけでなく、身代金ステータスを追跡できる仕組みや犯罪を実行するにあたってのサポートなども提供されている模様です。技術的なスキルがなくても容易にランサムウェアを拡散させることができるほか、カスタマイズを通じた亜種の誕生にもつながっていると思われます。

企業が行うべきランサムウェア対策とは?

2021年、ランサムウェアは実質的にサイバー攻撃手段第一の選択肢となっており、その脅威がますます高まることは間違いありません。では、組織・企業はこれにどう立ち向かえばよいのでしょうか。

ランサムウェアを含むマルウェアの感染経路は様々ありますが、総務省が中心となって運用するマルウェアの感染防止と駆除の取組を行う官民連携プロジェクト「ACTIVE(Advanced Cyber Threats response InitiatiVE)」では、以下のように分類しています。

マルウェアの感染経路の分類タイプ(Web閲覧感染型・Web誘導感染型・ネットワーク感染型・メール添付型・外部記憶媒体感染型)
出典:ACTIVEホームページ (https://www.ict-isac.jp/active/security/malware/)

こうした感染経路や本稿で紹介したような手口に対する防御、および感染した場合を想定した以下のような対策が重要です。

◆ 標的型攻撃メール訓練の実施
◆ 定期的なバックアップの実施と安全な保管(別場所での保管推奨)
◆ バックアップ等から復旧可能であることの定期的な確認
◆ OSほか、各種コンポーネントのバージョン管理、パッチ適用
◆ 認証機構の強化
  (14文字以上といった長いパスワードの強制や、多要素認証の導入など)
◆ 適切なアクセス制御および監視、ログの取得・分析
◆ シャドーIT(管理者が許可しない端末やソフトウェア)の有無の確認
◆ 標的型攻撃を受けた場合に想定される影響範囲の確認
◆ システムのセキュリティ状態、および実装済みセキュリティ対策の有効性の確認
◆ CSIRTの整備(全社的なインシデントレスポンス体制の構築と維持)

ランサムウェア特有の対策もさることながら、情報セキュリティに対する基本的な対策が欠かせません。また、セキュリティ対策は一過性のものではなく、進化し続けるサイバー攻撃に備えて、定期的に確認・対応する必要があることも忘れてはならないでしょう。

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テレワーク導入による開発現場での課題
―セキュアプログラミングの重要性―

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セキュアプログラミングは、サイバー攻撃に耐えうる、脆弱性を作りこまない開発を可能にするため、セキュリティの観点からみても重要な考え方です。特に、テレワーク環境では、エンジニアとの連携が困難になり得るため、必要以上に手戻りが発生しがちです。そこで、本記事ではセキュアプログラミング開発のための推奨対策をご紹介します。なお、より早期の段階でセキュリティに関する問題に対処する、ソフトウェアの開発や運用の考え方「シフトレフト」についてもご参考ください。

企業のソースコードが流出

2021年1月下旬から2月上旬にかけて、プログラム開発プラットフォームのGitHub上で大手金融機関を含む複数の国内企業に関するソースコードの一部が公開されるというインシデントが発生しました。各被害企業からは、セキュリティ上の問題はない旨コメントされたとの報道でしたが、中には公的機関のものと思しきコードも含まれていたと想定され、ネット上が騒然となりました。

ソースコードを公開したのは、元委託業者のエンジニアでした。転職において自身の年収を査定するWebサービスを利用するため、実績として当該ソースコード群を公開状態でGitHubにアップしてしまったとのことです。

サプライチェーン問題とリテラシー問題

このインシデントの原因は、悪意の有無に関係なく、業務でソースコードを作成した者が容易にそれを持ち出せた点にあります。そこには、大きく2つの問題があると考えられます。

・サプライチェーン問題
 委託元が委託先(もしくは再委託先)でソースコード流出が発生しないような仕組みを整備できていないこと、および開発状況を監視できていないこと
・リテラシー問題
 委託先か自組織かにかかわらず、開発従事者がソースコードを持ち出して保持したり、どこかにアップしたりしても問題ないという認識であること

※サプライチェーンとは、製品やサービスがユーザに届くまでのすべてのプロセスとそれに関わるすべての企業・組織を指します。

GitHubの利用禁止は解決にならない

事態をうけて、一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)と日本IT団体連盟はそれぞれ、GitHubの利用に関する要請*13を発表しました。主なポイントは以下の3点に集約されます。

1. GitHubの利用自体を禁止することは解決にならない
2. 委託先と委託元が協力し合い、サプライチェーンの把握が必要
3. クラウド・バイ・デフォルト原則ではクラウド利用者側の使い方、設定、
   リテラシーが重要

GitHubはソースコードのレビュー、および開発プロジェクト進行の課題解決を効率的に行えるクラウドサービスです。その利用自体はソフトウェア開発産業の促進に不可欠であるとした上で、サプライチェーンの問題(上記2)とリテラシーの問題(上記3)に触れています。

コード流出対策としては、「GitHub設定の定期的なチェック」「委託先企業の厳密な管理」「インシデント対応体制の整備」ということになるでしょう。

サプライチェーンの弱点が狙われる

サプライチェーンの把握については、近年、繰り返し警鐘が鳴らされています。2021年1月、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)より発表された「情報セキュリティ10大脅威 2021」 では、「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」は、昨年に引き続き4位にランクインしています。

大企業のセキュリティが堅牢になればなるほど、関連している中小企業のセキュリティホールが狙われる、という皮肉な構図が浮かび上がります。一カ所でも弱点があると、サプライチェーンに含まれる全企業・組織に危険が及ぶ恐れがあります。

テレワーク導入拡大における懸念

サプライチェーンにおけるリスク管理を困難にしている要因の1つが、テレワークの拡大です。「情報セキュリティ10大脅威 2021」第3位には、新たに「テレワーク等のニューノーマルな働き方を狙った攻撃」が登場しました。

IPAによる「ニューノーマルにおけるテレワークとITサプライチェーンのセキュリティ実態調査」中間報告 で、委託元企業のテレワーク導入経験が約5割であるのに対し、委託先IT企業の方は9割以上であることが明らかになりました。このギャップは、テレワーク環境により目の届かないところで作業されているという、委託元の不安を増大させています。

委託元と委託先の相互協力が必須

日本のあらゆる業種において見受けられる「多重下請け構造」は、ソフトウェア開発においても例外でなく、委託・再委託なしでは成り立たないのが現状です。

委託先を原因とするインシデントであっても、例えばソースコード流出により重要情報が漏洩する被害が発生した場合、実際に企業・組織名が報道され、社会的信用を失墜する恐れがあるのは委託元です。委託先に対する管理の甘さによりインシデントを招いた責任から免れることはできません。委託先も、インシデントを引き起こしたとなれば、取引停止等、事業の存続自体が危ぶまれる恐れもあります。委託元と委託先の両方がダメージを受けてしまうのです。

発注側である委託元の経営者が「セキュリティは投資」という認識を持ち、開発に必要な人員や期間、環境等のリソースを考慮した上で、委託先と互いに協力し合う必要があります。具体的には以下のような対策が挙げられます。

出典:「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」Ver2.0(経済産業省/IPA)
中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」(IPA)

さらに活発化するOSS

また、ソフトウェア開発の潮流の1つにオープンソースソフトウェア(OSS)の活用があることも、注意すべきポイントです。世界のソフトウェア開発組織によるオープンソースコンポーネントのダウンロード数は、一社平均で年間37万超に上る*2とのデータがあります。同時に、OSSプロジェクトに対するサイバー攻撃は前年比4.3倍に増加している *3とのことです。

ここ数年、日本においても、企業ばかりでなく、東京都が新型コロナウイルス感染症対策サイトのソースコードをGitHubで公開したり、総務省が住民情報システムのOSSによる開発を行うことを決定したり―といった具合に、政府や自治体もOSS採用を加速させています。

管理策として、ソフトウェアBOM(ソフトウェア部品表)の作成*4が推奨されます。製造業における部品明細と同様の考え方で、アプリケーションで使用されているOSS、各種コンポーネントやフレームワークについて可視化しておくのです。これらの情報を集約してアップデートを継続しておくと、OSSにおけるコンプライアンス問題の対策にもなります。

セキュアプログラミングの必要性と推奨対策

テレワーク時代のソフトウェア開発を取り巻く現状を見てきました。テレワーク環境では、エンジニアとの連携が困難になり得るため、開発チームのマネジメントに課題があります。また、担当者間や組織間での連携が薄まると、納品物に対するチェックが不十分となったり、必要以上に手戻りが発生したりすることで、完成したソフトウェアにセキュリティ上の問題が存在してしまう原因となり得ます。ソフトウェアの安全性を確保するため、改めてセキュアプログラミングの必要性を認識することが重要です。プログラムが意図しないデータを受信した場合も想定し、サイバー攻撃に耐えうる、脆弱性を作りこまない開発を可能にするため、以下のような対策を推奨します。

リテラシー教育
 ポリシーの整備やセキュリティ教育・訓練の実施は、組織全体のリテラシー向上に必要です。実施には、ノウハウがあり、信頼できるセキュリティ企業の力を借りるのが有効です。
・ツールによるソースコード診断
 開発のあらゆるタイミングで手軽にソースコードの安全性と品質の検査ができるのが、ツール診断の強みです。早期の段階からチェックし、コード単位で解消していくことで、結果的に一定のセキュリティ標準を満たすことができます。
セキュリティエンジニアによるソースコード診断
 効率的で網羅的なツール診断に加えて、より精度を上げるため、専門家による判断が必要な脆弱性の検出を行います。脆弱性を解消した状態で、安心してリリースに臨むことができます。
開発プラットフォームの設定確認・検査
 リポジトリとコードへのアクセスを許容するユーザを厳格に制限すると同時に、設定ミスがないことを継続的に確認する必要があります。開発プラットフォームとしてクラウドサービスを利用するにあたりセキュリティ設定に不安がある場合は、セキュリティ企業による検査を受けておくと安心です。
開発環境における監視
  コードリポジトリに対して監視を行い、不審なデータや挙動がないか定期的にチェックすることで、うっかりミスや悪意による改変をいち早く検知することができます。

まもなく年度末です。開発プロジェクトのラストスパートを迎えている企業・組織も多いことでしょう。テレワーク環境では、インシデントの検知・対応に混乱が生じることも予想されます。今一度、セキュアなアプリケーション開発を肝に銘じていただけましたら幸いです。

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金融機関はサイバー攻撃を前提とした備えを
―リスクを最小化するセキュリティ対策―

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2020年は世界的に急拡大した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展やテレワークの急激な普及など、企業を取り巻く環境は著しく変化しました。急激な環境の変化により、強固なセキュリティ対策が必須な金融機関においても被害報告が増加しています。そこで今回は、金融機関に焦点をあて、最新の攻撃事例に触れつつ、その対策と予防策をご紹介いたします。

テレワークの採用など急激な業務体系の変化は人々に不安を与える一因となるだけでなく、十分なセキュリティ対策が伴わない場合、攻撃者に隙を与えてしまいます。昨今のサイバー攻撃は多様化、巧妙化しており、攻撃手法も日々進化しています。それに対抗するセキュリティ対策はどうでしょうか。とりわけ機密情報を多く取り扱い、安定的なサービス提供が要求される金融機関は、サイバー攻撃のリスクを経営上のトップリスクの一つと捉え、強固なセキュリティを実現すべく取り組んでいますが、それでも被害は起こっています。

金融機関を狙うサイバー攻撃

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が世界的に急拡大した2020年2月から4月にかけて、金融機関を狙ったサイバー攻撃が238%増加したとの調査結果があります。このうちランサムウェア攻撃は、同じ期間で約9倍増加したとのことです。実際、過去12カ月の間にサイバー攻撃が増えていると回答した金融機関は8割に上っています。*9

金融機関におけるサイバー攻撃の脅威と被害例には、以下のようなものがあります。

出典:日本銀行「サイバーセキュリティの確保に向けた金融機関の取り組みと課題 -アンケート(2019年9月)調査結果-」(2020年1月)
https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsrb200131.pdf

約400の金融機関を対象に日本銀行が実施したサイバーセキュリティに関するアンケート結果によると、昨今のサイバー脅威の主な動向として、ランサムウェア攻撃の凶悪化とDoS・DDoS攻撃規模の拡大化が挙げられています。*10

ランサムウェア攻撃の凶悪化

身代金として金銭を得ることを目的としたランサムウェア攻撃について、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、従来の攻撃に「人手によるランサムウェア攻撃」と「二重の脅迫」という新たな手口が加わったと注意を呼び掛けています。*11

【従来の攻撃と新たな攻撃の比較イメージ】

出典:IPA「事業継続を脅かす 新たなランサムウェア攻撃 について ~「人手によるランサムウェア攻撃」と「二重の脅迫」~

特に、「人手によるランサムウェア攻撃」は、従来の明確な標的を定めず無作為に感染を試みる攻撃とは異なり、より大金を得られるよう、組織だけでなくシステムや情報といった明確な“獲物”に狙いを定めて実行されます。新たなランサムウェア攻撃では、標的型サイバー攻撃全般で使用される攻撃手口が用いられることが考えられると、IPAは注意を呼び掛けています。

新しいタイプのランサムウェアについては、「変貌するランサムウェア、いま何が脅威か‐2020年最新動向‐」にもまとめていますので、あわせてご覧ください。

標的型サイバー攻撃の脅威

金融機関や決済サービスを標的としたサイバー攻撃は増加の傾向にあり、国内でも2020年8月から9月にかけて大規模な銀行口座不正利用が発生しました。その被害は、11の銀行で200件以上、被害総額は2,800万円以上にのぼると報告されています。*12オンライン取引の増加、サービスの電子化や政府主導のキャッシュレス決済の推進、クラウドサービスやAIのさらなる活用といった様々な環境変化によって利用者側のユーザビリティが高まる一方で、標的型サイバー攻撃の脅威は常に組織を脅かしています。例えば、世界中の金融機関に攻撃を仕掛けることで有名な“国家支援型”攻撃グループ「APT38」(「Lazarus」や「Hidden Cobra」とも) *13が、2020年、新たなマルウェア「BLINDINGCAN」を使用していることが発見されました。*14

ニューノーマル浸透に対するセキュリティ課題

さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、金融機関でも政府の呼び掛けにより在宅勤務対応が急速に広まりました。先に紹介した日本銀行による調査*15でも、大手銀行のすべて、地方銀行の約半数が在宅勤務制度を設けていることが分かりました。在宅勤務というニューノーマルが浸透していく一方で、内部システムへの接続環境や業務に利用する端末(私用端末含む)、情報の授受方法(メール、ファイルダウンロード/アップロード、USB等の記憶媒体利用など)、Web会議サービスの利用、職員への教育……といったセキュリティ対策の様々な課題が浮き彫りになっています。

金融機関のセキュリティ対策における課題について、これまで当社が複数の地銀様・信金様よりお聞きしたところでは、共通して下記の問題点が確認されています。

1)十分に精通した専門家がいるわけではなく、対応要員の確保ができない
2)取引先・外部委託先まで含める必要があり、範囲が拡がる一方で対応が追いつかない
3)攻撃の複雑化・巧妙化に伴って対応も高度化しているため、コスト負担が非常に大きい
4)クラウド利用は増加の一途だが、そのセキュリティ対策まで十分に手が回らない

攻撃を前提としたセキュリティ対策へ

サイバー攻撃の昨今の傾向を鑑みると、完全な防御は難しいといえます。そのため、予防的対策に加えて攻撃発生を想定した対策とリスク評価が重要となります。攻撃の防御に努める一方で、万が一攻撃を受けた場合にも被害を最小限にとどめる必要があります。求められる対策には、例として以下が挙げられます。

・基本的なセキュリティ対策の実施
 (例)
 -OSやソフトウェア等のアップデートならびにセキュリティパッチの適用
  -セキュリティ診断の定期的な実施
  -適切なアクセス制御と監視、ロギング
  -定期的なバックアップと安全な保管 -推奨されるセキュリティ設定の適用 など
・攻撃回避と検知能力の向上
  (例)
  -悪用されうる機能やサービス等の無効化
  -ネットワーク分離
  -高度な機能を持つセキュリティソリューションの導入
  -監視とログ分析の強化 など
・業務継続の視点からのセキュリティ対策
  (例)
  -コンティンジェンシープランの整備
  -リスクの可視化
  -訓練・教育の強化
  -対策の実効性確認 など

標的型攻撃リスク診断 SQAT®APT デモ動画

セキュリティ対策の実効性を確認するには、訓練や演習、定期的なセキュリティ診断が効果的です。実際に攻撃を受けた場合に、どこまで被害が及ぶのか、対応のための体制や仕組みは十分か、といった点を評価できます。マルウェア対策にしても、アンチウイルスソフトをはじめとする対策ソリューションを導入しているからといって完全に安心できるわけではありません。近年ではそれらを掻い潜る攻撃が増加していることも広く知られています。そこで、例えば実際の攻撃を想定したシナリオに基づく疑似的なペネトレーションテストを実施し、より現実的なリスクを可視化するという方法があります。当社のお客様の8割はマルウェア対策ソリューションを導入していますが、その上でペネトレーションテストサービスを利用するのには、こうした背景があるからにほかなりません。

2020年12月、経済産業省より「最近のサイバー攻撃の状況を踏まえた経営者への注意喚起」*16が発行されました。サイバー攻撃によって発生した被害への対応は企業や組織の信頼に直接関わる重要な問題であることが強調されており、さらなる対策の強化と徹底が求められています。

参考情報:金融機関向けセキュリティガイドライン等の紹介


■金融分野におけるサイバーセキュリティ強化に向けた取組方針
金融庁
https://www.fsa.go.jp/news/30/20181019/cyber-policy.pdf

■金融機関等におけるセキュリティポリシー策定のための手引書(第2版)
公益財団法人金融情報システムセンター ※一般公開なし
https://www.fisc.or.jp/publication/book/000154.php

■金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準・解説書(第9版令和2年3月版)
公益財団法人金融情報システムセンター ※一般公開なし
https://www.fisc.or.jp/publication/book/004426.php

■金融機関等におけるコンティンジェンシープラン策定のための手引書
公益財団法人金融情報システムセンター ※一般公開なし
https://www.fisc.or.jp/publication/book/000120.php

■製品分野別セキュリティガイドライン 金融端末(ATM)編
一般社団法人重要生活機器連携セキュリティ協議会(CCDS)
https://www.ccds.or.jp/public/document/other/guidelines/[CCDS]ATM%E7%B7%A8%E5%88%A5%E5%86%8A_%E3%82%BB%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E5%AF%BE%E7%AD%96%E6%A4%9C%E8%A8%8E%E5%AE%9F%E8%B7%B5%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89_Ver2.0.pdf

■Financial Crime Guideline
FCA(金融行為規制機構)
https://www.handbook.fca.org.uk/handbook/FCG.pdf

■金融分野における個人情報保護に関するガイドライン
金融庁
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/kinyubunya_GL.pdf

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狙われる医療業界
―「医療を止めない」ために、巧妙化するランサムウェアに万全の備えを

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いま、医療機関を標的としたランサムウェア攻撃が増え続けています。
足元で顕著になっているのは、攻撃による被害インパクトが大きい特定のシステム・事業を狙い、「より確実に、より高額の」身代金を得ることをもくろむ、手の込んだ持続的な攻撃です。事業継続に直結するシステムや機微情報等が保存されているシステム、事業が中断・停止した場合に甚大な影響をもたらす重要インフラなどが標的にされやすく、医療機関のシステムはその最たるものといえます。本記事では、医療機関を狙うランサムウェアの現状を紹介し、取りうる対策について考えます。

勢いづく攻撃、日本も「対岸の火事」ではない

米国では、2020年秋、数週間のうちに20を超える医療機関でランサムウェア攻撃が確認されました。*17下記にその一部を紹介しますが、パンデミック下で医療現場が逼迫(ひっぱく)する中、追い打ちをかけるように攻撃の勢いが増しているのです。10月末には、米CISA、FBI、米保健福祉省が共同でセキュリティ勧告を発する事態となっています(後述)。

表1:医療機関を狙ったランサムウェア被害(一部)

2020年9月 Universal Health Services(米国の医療サービス最大手)
がシステム停止*2
ニュージャージー州の大学病院が患者データを暗号化
され、一部データを不正に公開される*3
2020年10月 オレゴン州の病院でコンピュータシステムが使用不能に*4
ニューヨーク州の複数の病院でシステムが使用不能に*5

なお、日本では2018年10月、近畿地方の公立病院がランサムウェア攻撃の被害を受け、一部の患者カルテ情報が暗号化されてしまい、診療記録等の参照ができない状況に陥りました。今後攻撃者がターゲットを広げ、米国のように日本国内でも被害が活発化するのは、もはや時間の問題かもしれません。

攻撃者はなぜ医療業界を狙うのか

もちろん、攻撃を受けた場合の被害インパクトが大きい(=高額の身代金を設定し得る)重要インフラとみなされるのは、医療のみではありません。日本では、医療のほか、情報通信、金融、航空、空港、鉄道、電力、ガス、政府・行政サービス、水道、物流、化学、クレジット、石油という、計14分野が重要インフラと位置づけられています。では、なぜ攻撃者は医療業界に目をつけるのでしょう。それは、次のような特徴があるためです。

  • 患者に関する情報はブラックマーケットで特に高額で売買される
  • 「事業の停止が直接生命に関わる」という点が、身代金要求に応じさせるうえでの強力な要因になる
  • 地域医療連携など医療機関同士のやり取りでは、インターネットVPNやインターネット(TLS 1.2)、またはIP-VPN(地域医療連携専用閉域ネットワーク)が採用されており、 連携先の端末のセキュリティ対策がされていない、情報共有が上手くされていないという課題がある
  • 診断・医療に用いられるシステムは多くの場合非常に高額で長期使用を前提として作られており、コスト・技術的理由などから、古いまま使われ続けている傾向がある
  • 情報セキュリティの三要素(C(機密性)、I(完全性)、A(可用性))のうち、医療では可用性が何よりも重視される傾向があり、相対的に他の2要素への対応がおろそかになりがち

また、昨今の医療情報は、患者のデータだけではなく、IoT等の新技術やサービス等の普及により、様々な端末とつながっている場合があり、攻撃者側からすれば、「カネになるビジネス」として狙われるターゲットとなり得ます。

なお、弊社が2020年8月、国内のIT担当者を対象に実施した「脆弱性管理に関するアンケート」の結果では、医療業界は、情報システム部門を持たず別部門の担当者が兼務している状況が他業種よりも顕著で、かつ、情報システム部門を有する場合もその規模が小さいことが明らかになっています。セキュリティへの対応に十分なリソースを避けないという構造的な問題も、攻撃者を引き付ける一因といえるでしょう。

【参考情報】
医療機関では古いシステムが使われ続けている傾向が強い

新型コロナウイルス感染症拡大に伴い利用が急増しているG SuiteやMicrosoft 365については、セキュリティのチェックリストや推奨設定例が公開されていますので、以下にご紹介します。古いシステムが使われ続けているという傾向に関し、医療システムに関する世界最大規模の業界団体HIMSS(Healthcare Information and Management Systems Society)による年次調査の結果を紹介しましょう(下図)。 組織内で何らかの旧式化したシステム(レガシーシステム)を使っている、という回答は、2020年において8割に達しています。最も多いのはWindows Server 2008で50%の組織に存在、昨年サポートが終了したWindows 7は49%、さらに前の世代のWindows XPは35%です。この業界が攻撃者に特に好まれることに納得する結果といえないでしょうか。


「2020 HIMSS Cybersecurity Survey」より
出典:https://www.himss.org/sites/hde/files/media/file/2020/11/16/2020_himss_cybersecurity_survey_final.pdf

なお、身代金目的とは異なりますが、このパンデミック下、ワクチン開発競争を背景に研究情報を狙った国家ぐるみのサイバー攻撃が活発化しているという点も、医療機関に対する攻撃増加の追い風になっているとみられます。

ランサムウェア攻撃の変貌2020

従来のランサムウェアでは、ウイルスを添付したメールのばらまき、悪意あるWebページへの誘導などにより、不特定多数を対象に広範な攻撃を行うことで身代金獲得を狙う、というやり方が主流でした。現在も依然としてそうした形の攻撃は存在しますが、前述のように、「より確実に、より高額の」身代金を獲得することを狙った変化が目につきます。最近のランサムウェアの特徴として指摘されているのは主に次の2点です。

人手による攻撃 ‐標的を定めて周到に準備‐

ランサムウェアを自動化されたやり方で幅広くばらまくのではなく、特定の組織を標的にして手動で侵入を試み、侵入成功後はネットワーク内に潜伏してさまざまな活動を行い、攻撃の成果を最大化することを狙います。こうした人手による攻撃には、APT(Advanced Persistent Threat:持続的標的型攻撃)との類似点が多く、その結果、ランサムウェア攻撃への対策にはAPTと同水準の取り組みが求められるようになっています。

二重の脅迫 ‐より悪質なやり方で被害者を追い詰める‐

「身代金を払え」という脅迫に加え、「身代金を支払わないと機密データを公開するぞ」という脅迫を重ねて行い、支払いを迫ります。実際にデータを公開されてしまったという事例が複数確認されているほか、データが破壊されてしまったケースも出ており、攻撃を受けた場合のダメージの大規模化、深刻化がみられます。 現在、こうした特徴を持つ新しいタイプのランサムウェアがいくつも生み出され、世界各地で猛威を振るっているのです。詳細については「変貌するランサムウェア、いま何が脅威か‐2020年最新動向‐」にまとめていますので、ぜひこちらもあわせてご覧ください。

ランサムウェア対策への取り組み ‐医療情報システムに関するガイドライン‐

先に触れたとおり、ランサムウェア攻撃の活発化を受け、米CISA、FBI、米保健福祉省はセキュリティ勧告「Ransomware Activity Targeting the Healthcare and Public Health Sector」を公表しました。同勧告では、各種ランサムウェアの分析結果を踏まえ、下記のようなベストプラクティスを提示しています。

図:ネットワークセキュリティ・ランサムウェア対策に関するベストプラクティス

Ransomware Activity Targeting the Healthcare and Public Health Sector」より

こうしたベストプラクティスを遂行するうえで重要なのが、ステークホルダー間の効果的な連携です。医療機関では、部門や職務によって異なる企業の製品やサービスが用いられており、システム連携はしばしば複雑です。いま、医療業界が攻撃者の明確な標的となる中、医療機関、および医療機関向けにサービスや製品を提供する事業者は、自らの責任範囲を理解したうえで、これまで以上に緊密な連携を図り、システムのセキュリティ強化に取り組んでいく必要があります。

なお、日本においては、医療情報システムの安全管理に関し、技術・制度的な動向を踏まえてガイドラインの継続的な策定・更新が行われており、現時点で医療機関、事業者のそれぞれを対象とした下記2種が提示されています。責任分界点の考え方や合意形成の考え方など、連携をより効果的にするための課題も取り上げられており、目を通しておきたい資料です。

表2:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン

1) 厚生労働省
医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(第5版、2017年5月)
  • 対象読者は、医療情報システムを運用する組織の責任者
  • 医療情報の扱いを委託したり情報を第三者提供したりする場合の責任分界点の考え方を示し、医療システムを安全に管理するために求められる対応を規定
2) 経産省・総務省
医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」(2020年8月)
  • 対象読者は、医療システムやサービスを提供する事業者。なお、医療機関等と直接的な契約関係のない事業者も医療システム等のサプライチェーンの一部として機能している場合、このガイドラインの適用範囲となる
  • 事業者に求められる義務と責任の考え方、医療機関等への情報提供と合意形成の考え方、リスクマネジメントの実践やリスク対応のための手順などを規定

APTと同水準の対策を立て、全方位での備えを

繰り返しになりますが、現在活発化しているランサムウェア攻撃の手口は高度かつ執拗です。守る側には、従来よりも踏み込んだ、APTと同水準の対策が求められます。そこで鍵になるのは、「侵入される」「感染する」ことを前提とした取り組みです。想定される被害範囲をあらかじめ洗い出し、優先順位をつけて対策をとりまとめていくことで、万一攻撃を受けた場合でもその被害を最小化することが可能になります。

なお、こうした対策を立てるにあたっては、セキュリティ専門企業が提供しているサービスもうまく活用しましょう。たとえば、想定される被害範囲を把握する際は、システムへの擬似攻撃等をメニューに含んだサービスを利用すると、精度もスピードも高められるでしょう。

激化するランサムウェア攻撃から医療システムを守るため、医療機関、関連事業者をはじめとするステークホルダーが連携し、全方位的なセキュリティに取り組むこと。それは、日々現場で闘う医療者を支えるための社会的ミッションともいえるでしょう。


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