2026年2Q KEVカタログに見る攻撃トレンド ― 実際に悪用された脆弱性から読み解く攻撃者の狙い

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前回記事では、2026年第2四半期(2Q)のKEVカタログを統計データから分析しました。本記事では、同期間にKEVへ追加された脆弱性のうち、実際の攻撃事例に着目。攻撃者が狙う製品の共通点や脆弱性の悪用方法を分析し、2026年2Qに見られた攻撃トレンドを読み解きます。

実際の攻撃事例から見える2026年2Qの特徴

2026年第2QにKEVへ追加された脆弱性のうち、具体的な攻撃事例が確認されているものを見ると、VPNやRMM(Remote Monitoring and Management)、メールサーバ、業務システム、開発ツールなど、さまざまな製品が攻撃対象となっています。一見すると異なる製品ですが、事例を横断すると共通点も見えてきます。特に注目したいのが、インターネットからアクセス可能なシステムや、侵害後に組織内部へのアクセスに利用できる管理系製品が狙われていることです。

攻撃者にとっては、こうした製品を侵害できれば、その先にある社内ネットワークへ侵入する足掛かりを得られます。つまり、狙われているのは単に「脆弱な製品」ではなく、侵害後の展開に利用価値の高い製品だと考えることができます。

さらに、開発環境やソフトウェアサプライチェーンを起点として、別の製品や利用者へ被害が連鎖する事例も見られました。以下では、代表的な事例から、こうした攻撃の特徴を詳しく見ていきます。

VPNや管理システムは「入口」として狙われる

象徴的な事例の一つが、Check Point Security GatewayのCVE-2026-50751です。この脆弱性は、非推奨となっているIKEv1を利用したRemote Access VPNなどに存在する認証回避の脆弱性で、攻撃者が有効なユーザーパスワードを持たなくてもVPNセッションを確立できる可能性があります。Check Pointは実際の悪用を確認しており、事例の一つには侵害後の活動にランサムウェア「Qilin」との関連性も確認されています*1

VPNは本来、社外から安全に組織内部へ接続するための仕組みです。しかし、その認証機構自体が突破されれば、攻撃者にとっては社内ネットワークへの正規の入口に近い役割を果たしてしまいます。

同様の特徴は、Oracle PeopleSoft Enterprise PeopleToolsのCVE-2026-35273にも見られます。Google Threat Intelligence GroupとMandiantは、ShinyHuntersとして知られるUNC6240による攻撃でこの脆弱性と整合する悪用を確認しています*2。活動はOracleによるアドバイザリ公開前から観測されており、ゼロデイとして悪用されていたと分析しています。

狙われるRMM・リモート管理製品の脆弱性

同様に注意したいのがRMM製品です。2026年第2Qには、ConnectWise ScreenConnectのCVE-2024-1708や、SimpleHelpの複数の脆弱性もKEVへ追加されています。

SimpleHelpでは、CVE-2024-57726CVE-2024-57728など、複数の脆弱性が確認されています。CVE-2024-57726では低権限の技術者アカウントから過剰な権限を持つAPIキーを作成して管理者権限へ昇格でき、CVE-2024-57728では管理者権限を得た攻撃者が細工したZIPファイルを利用して任意の場所へファイルを書き込み、コード実行につなげられる可能性があります。SimpleHelp自身も、これらの脆弱性を組み合わせることで、情報取得から権限昇格、最終的なコード実行までの攻撃チェーンが成立し得ると説明しています。

RMM製品は、管理者が複数の端末へ遠隔接続し、操作やソフトウェア配布などを行うための正規ツールです。そのため、攻撃者に侵害された場合、単にRMMサーバ自体が被害を受けるだけではありません。正規の管理機能が、侵入後のアクセス維持や別端末への展開に悪用される可能性があります。

これらの事例に共通するのは、侵害後に組織内部へアクセスしやすい製品が攻撃対象になっていることです。攻撃者にとって重要なのは、脆弱性そのものの深刻度だけではありません。その製品を侵害した後に「どこまでアクセスできるか」「次の攻撃へつなげられるか」という点も、標的を選ぶうえで重要な要素になっていると考えられます。Microsoftが報告したStorm-1175の活動でも、この特徴が明確に表れています。

既知の脆弱性を使い分けるランサムウェア攻撃

Storm-1175は、ランサムウェア「Medusa」を展開する金銭目的の攻撃者です。Microsoftによると、同グループはインターネット上に公開された脆弱なシステムを探索し、主に公開済みのNデイ脆弱性を悪用して初期侵入した、といいます*3。侵入後は情報窃取などを行い、数日以内、場合によっては24時間以内にランサムウェア展開まで進むことが確認されています。Storm-1175の特徴は、特定の製品や一つの脆弱性だけを狙っているわけではない点です。

Nデイ脆弱性についてはこちらの記事でも解説しています。あわせてぜひご覧ください。
定期的な脆弱性診断でシステムを守ろう!-放置された脆弱性のリスクと対処方法-

Microsoftの調査では、PaperCut、Microsoft Exchange Server、ConnectWise ScreenConnect、JetBrains TeamCity、SimpleHelp、BeyondTrustなど、複数の製品の脆弱性が初期侵入に利用されていました。2026年第2四半期にKEVへ追加された脆弱性にも、これらの活動で利用されたものが複数含まれています。侵入後には、新しい管理者アカウントを作成してアクセスを維持し、PowerShellやPsExecなどのツールを使用してネットワーク内部へ展開します。さらに、RMMツールを永続化やペイロード配布、横展開などに利用し、認証情報の窃取やセキュリティ機能の妨害を経て、最終的にMedusaランサムウェアを展開するという攻撃の流れが確認されています。

この事例から見えてくるのは、攻撃者が特定のCVEだけに固執するのではなく、外部から侵入可能な複数の脆弱性を使い分け、その時点で利用できるものを入口としているという実態です。つまり、一つの注目度の高い脆弱性だけに対応しても、別のインターネット公開システムに悪用可能な脆弱性が残っていれば、そこが新たな侵入口になる可能性があります。

開発環境も攻撃対象に ― サプライチェーン経由の侵害

もう一つ、2026年第2Qで注目したいのが、一般的なWebサーバやVPNへの脆弱性攻撃とは異なるソフトウェアサプライチェーン経由の攻撃です。CVE-2026-45321として登録されたTanStackのサプライチェーン侵害では、正規のnpmパッケージとして悪意あるバージョンが公開されました。悪意あるコードは、AWSやGCPなどのクラウド認証情報、GitHubトークン、npmトークン、SSH秘密鍵など、開発環境に保存されているさまざまな認証情報を窃取する機能を持っていました。さらに、この侵害は別の製品にも波及しました。

Nx ConsoleのCVE-2026-48027では、悪意あるバージョンのVS Code拡張機能が公開され、ディスクやメモリ上の認証情報を収集するペイロードが実行されました。Nxの調査によると、開発者の一人がTanStackに関連するサプライチェーン攻撃の影響を受け、流出したGitHub認証情報がNx Consoleの不正公開につながったとされています*4

つまり、ある開発ツールの侵害 → 認証情報の窃取 → 別プロジェクトの侵害 → 正規ソフトウェアを通じた被害拡大、という連鎖が生じたことになります。

Nx Consoleの悪意のあるバージョンは、Visual Studio Marketplaceでは約18分間公開されていました。短時間で削除されたとしても、ソフトウェアの自動更新や正規マーケットプレイスへの信頼を利用した攻撃では、その間に利用者へ影響が及ぶ可能性があります。 これは、境界機器の脆弱性を突いて社内へ侵入する攻撃とは異なります。正規の配布経路や信頼された開発者アカウントそのものが攻撃経路になるため、「正規のアップデートだから安全」という前提だけでは防ぎにくい点が特徴です。

2026年2Qの事例から見えた3つの攻撃トレンド

今回の事例を横断すると、三つの特徴が見えてきます。

第一は、攻撃者が侵害後の展開に利用しやすいシステムを入口としていることです。VPNやRMMなどは外部からアクセス可能であるだけでなく、組織内部への接続や複数端末の管理といった機能を持っています。そのため、侵害されると、その正規機能自体が次の攻撃段階へ進むための足掛かりになり得ます。第二は、攻撃者が複数の既知脆弱性を使い分けていることです。Storm-1175の事例では、PaperCut、Microsoft Exchange Server、ConnectWise ScreenConnect、JetBrains TeamCity、SimpleHelp、BeyondTrustなど、複数製品のNデイ脆弱性が初期侵入に利用されていました。重要なのは、個々の脆弱性の新旧だけではなく、攻撃者が外部から侵入可能なシステムを探し、その時点で利用可能な脆弱性を入口としている点です。第三は、攻撃対象が組織の境界から開発環境やソフトウェアサプライチェーンへも広がっていることです。TanStackとNx Consoleの事例では、一つの認証情報の侵害が別のソフトウェアへ連鎖し、正規の配布経路を通じて被害が広がるリスクが示されました。

これらに共通するのは、攻撃者にとっての「侵害後の価値」です。外部から到達できるか、高い権限や重要な認証情報を得られるか、さらに別のシステムへアクセスできるかといった条件が、攻撃対象を考えるうえで重要になっていると考えられます。

まとめ

2026年第2四半期にKEVへ追加された脆弱性の実際の悪用事例を見ると、統計データだけでは見えにくい攻撃者の行動が浮かび上がってきます。VPNやRMMなどの管理系システムを足掛かりとした侵入、既知の脆弱性を使い分けて短期間でランサムウェア展開まで進む攻撃、そして開発環境から別のソフトウェアへ被害が連鎖するサプライチェーン攻撃など、攻撃経路は多様化しています。こうした事例を見るうえで重要なのは、「どのCVEが危険なのか」だけでなく、その製品やシステムが侵害された場合、攻撃者が次に何をできるのかという視点です。実際の悪用事例と自組織のIT資産を照らし合わせ、インターネットへの公開状況や権限、他システムとの接続関係まで含めてリスクを捉えることが、攻撃の早期発見や被害拡大の防止につながります。

【参考情報】

編集責任:木下


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