
製造業では、委託先や部品メーカーへのサイバー攻撃が、自社の生産停止や納期遅延につながる可能性があります。本記事では、サイバー攻撃を事業継続リスクとして捉え、サプライチェーンBCPと委託先管理で確認すべきポイントを解説します。
ランサムウェアによる情報漏洩や供給への影響については、「ランサムウェアの二重恐喝とは?製造業サプライチェーンに与える影響を解説」もあわせてご覧ください。
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サプライチェーンBCPにサイバー攻撃を含めるべき理由
BCPとは、災害や事故などの緊急事態が発生した際にも、重要な事業を継続・早期復旧するための計画です。従来のBCPでは、地震、台風、火災、感染症、物流停止などが主な想定リスクとされてきました。しかし、製造業においては、サイバー攻撃も同じように事業を止める要因になり得ます。
たとえば、製造委託先がランサムウェア攻撃を受けた場合、生産管理システムや受発注システムが停止し、製品の出荷や納品が遅れる可能性があります。また、部品メーカーが攻撃を受ければ、必要な部材が届かず、自社の生産計画にも影響が及びます。物流会社や保守会社が停止した場合も、製品の配送や設備対応に支障が出ることがあります。さらに、サイバー攻撃では業務停止だけでなく、情報漏洩も同時に発生する可能性があります。設計情報、部品表、製造工程、顧客情報、取引条件などが流出すれば、復旧後も知的財産の保護、契約対応、顧客説明、信用回復が必要になります。
このように、サイバー攻撃は単なるIT障害ではなく、調達、生産、物流、販売、法務、広報を巻き込む事業継続リスクです。サプライチェーンBCPでは、委託先や取引先のサイバー被害を想定するとともに、「どの委託先が停止すると、どの事業・製品・工程に影響するのか」を把握し、事業への影響が大きい委託先から優先して対策を検討することが重要です。
製造業のサプライチェーンが狙われる背景や、製造委託先への攻撃が取引先へ及ぼす影響については、「Foxconnへのサイバー攻撃とは?製造委託先が狙われる理由とサプライチェーン対策」で詳しく解説しています。
委託先管理で確認すべきポイント
サイバー攻撃に備えるためには、すべての委託先を一律に管理するのではなく、自社の事業への影響度に応じて優先順位をつけることが重要です。委託している業務の重要度、取り扱う情報、システムへのアクセス範囲、代替の可否などを確認し、停止や情報漏洩が発生した場合の影響が大きい委託先から優先して対策状況を確認します。
委託先のセキュリティ対策を確認する
重要な委託先については、契約時だけでなく、取引継続中もセキュリティ対策の状況を定期的に確認することが重要です。EDRやウイルス対策の導入状況、脆弱性管理、OSやソフトウェアの更新、多要素認証、ログ監視、バックアップなどを確認します。アンケートによる自己申告だけでなく、必要に応じて監査や証跡の確認などを行い、実際の対策状況を確認することも有効です。
共有する情報を必要最小限にする
委託先に提供している設計データ、部品表、仕様書、検査手順、顧客情報などが、本当に業務上必要な範囲に限定されているかを確認します。必要以上の情報を共有していると、委託先がサイバー攻撃を受けた際に、情報漏洩の影響範囲が広がる可能性があります。委託する業務に応じて、共有する情報や保存期間を見直すことが重要です。
アクセス権限を適切に管理する
委託先に自社のシステムやクラウドサービスへのアクセスを許可している場合は、必要最小限の権限になっているかを確認します。プロジェクト単位、顧客単位、工程単位などで権限を分けることで、アカウントが侵害された場合の影響を限定しやすくなります。また、共有フォルダやクラウドストレージに過剰な権限が付与されていないか、退職者や異動者のアカウント等が残っていないかを定期的に確認し、担当者変更の際には速やかにアクセス権限を見直すことも重要です。
再委託先まで把握する
委託先がさらに別の企業へ業務を委託している場合、自社の情報や業務がどこまで広がっているのか把握できていないことがあります。再委託の可否や条件、再委託先に求めるセキュリティ対策、情報の取り扱い範囲などをあらかじめ定め、重要な業務については再委託先を含めたサプライチェーンを把握しておくことが重要です。
インシデント発生時に備えた契約・体制の見直し
委託先がサイバー攻撃を受けた場合に備え、契約や対応体制を事前に整えておくことも重要です。インシデントが発生してから対応範囲を確認していては、初動が遅れ、被害の把握や顧客対応に支障が出る可能性があります。
まず契約面では、インシデント発生時の通知期限を明確にしておく必要があります。インシデントを認識した場合の通知時期、通知先、共有すべき情報をあらかじめ定めておくことが望まれます。また必要に応じて「認識後○時間以内」など具体的な通知期限を契約上定めることも検討します。さらに調査協力や証拠保全に関する条項も重要です。ログ、通信記録、端末情報、アクセス履歴などの証拠が適切に保全されなければ、被害範囲や原因の特定が難しくなります。外部専門家によるフォレンジック調査を行う場合の協力範囲も、事前に整理しておくべきです。
そして、情報漏洩が発生した場合の責任範囲、法令等に基づく報告、顧客・取引先への説明、損害対応についても確認が必要です。特に製造業では、設計情報や部品情報の流出が競争力や取引関係に影響するため、単なる個人情報漏洩とは異なる観点で対応を考える必要があります。
体制面では、委託先の停止を想定した代替策を準備しておくことが重要です。代替生産先、代替部品、在庫確保、出荷優先順位、顧客への連絡手順、重要データの社内保全などを事前に整理しておくことで、サイバー攻撃発生時の混乱を抑えることができます。サプライチェーンBCPは、計画を作成して終わりではありません。定期的に訓練を行い、委託先や関係部門を含めて、実際に機能するかを確認することが重要です。
まとめ
サプライチェーンのサイバーリスク対策では、委託先のセキュリティ対策を確認するだけでなく、「どの委託先が停止すると自社の事業に影響するのか」を把握することが重要です。重要度に応じて対策状況や契約、インシデント時の連携方法を確認し、代替策や復旧手順をBCPに組み込んでおく必要があります。サイバー攻撃による停止を前提として、委託先や関係部門を含めた訓練と見直しを継続することが、サプライチェーン全体のレジリエンス向上につながります。
参考情報
- NIST SP 800-161 Rev.1, Cybersecurity Supply Chain Risk Management Practices for Systems and Organizations, https://csrc.nist.gov/pubs/sp/800/161/r1/final
- NIST SP 1305, NIST Cybersecurity Framework 2.0: Quick-Start Guide for Cybersecurity Supply Chain Risk Management (C-SCRM), https://csrc.nist.gov/pubs/sp/1305/final
- CISA,Information and Communications Technology Supply Chain Risk Management, https://www.cisa.gov/information-and-communications-technology-supply-chain-risk-management
- CISA,StopRansomware Guide,https://www.cisa.gov/stopransomware/ransomware-guide
編集責任:木下
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