クラウドサービスのセキュリティ対策-クラウドサービスのセキュリティ3-

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クラウドサービスの普及に伴い、セキュリティ対策の重要性が高まっています。本記事では、クラウド利用時に必要な適切なセキュリティ対策について、セキュリティポリシーの策定から、クラウドサービス特有の課題に触れながら解説します。クラウドサービスを安全に活用したい企業や組織のセキュリティ担当者は、クラウドの利点を最大限に活かすための指針としてぜひお役立てください。

クラウド利用時の適切なセキュリティ対策とは

前回記事「事例でみるクラウドサービスのセキュリティ」で述べてきたように、近年、クラウドサービスのセキュリティに関する設定が十分でなかったために、意図せず、クラウドサービスで管理している機密情報を無認証状態で外部に公開してしまい、機密情報を漏洩させてしまった事例が相次いで報告されています。クラウドサービスの設定ミスでセキュリティインシデントが多発している原因の一つとして考えられるのが、クラウドサービスを利用している企業や組織において対応すべき情報セキュリティ対策が曖昧になっていることです。クラウドサービスの利用にあたっては、アクセス制御や権限管理についてユーザ側で対応する必要があり、これらを軽視すると設定ミスが発生し、それが重大なインシデントを引き起こしかねません。設定ミスを起こさないためには、クラウドサービスにおけるセキュリティ設定を確実に確認する必要があります。

セキュリティポリシーの策定と運用

設定ミスを未然に防ぐために、セキュリティポリシーの作成が重要となります。セキュリティポリシーとは、組織が情報資産を保護するために策定するルールやガイドラインの総称です。これには、データの取り扱いやアクセス権の管理、セキュリティ対策の実施方法などが含まれます。セキュリティポリシーは、組織内のすべてのメンバーが遵守すべき基準を定めることで、情報漏洩や不正アクセスなどのリスクを低減します。内容をルール化、明文化することで、クラウドサービスを適切に使用してもらうための具体的なマニュアル、手順書などを作成することが可能となります。

組織のセキュリティ文書は、「基本⽅針」、「対策基準」、「実施⼿順」の構成をとることが多いです。このうち、「基本⽅針」、「対策基準」がポリシーにあたります。「実施手順」はポリシーから作成されるもので、ポリシー自体には含まないのが一般的です。

情報セキュリティ文書の構成

  • 基本方針 情報セキュリティに対する組織の基本方針
  • 対策基準 実施するための具体的な規則
  • 実施手順 マニュアルなど対象者や用途に合わせ必要な手続き

クラウドサービス利用に関する不安

総務省「令和5年通信利用動向調査の結果」によると、国内でクラウドサービスを利用している企業は、いまや8割近くになります。一方で、セキュリティ担当者はクラウドサービスの利用に次のような不安・課題を抱えています。

このような不安や課題を払拭するためには、「ベストプラクティスに基づく適切な設定」「定期的なセキュリティチェック」が必要になります。ベンチマークやベストプラクティスに基づく適切な設定ができていないと、攻撃者に攻撃の隙を与えてしまいます。

クラウドセキュリティの対策方法の一つに、クラウドサービスの設定に関わるベストプラクティス集を利用する方法があります。各クラウドベンダーから公開されており、日本語版も用意されています。CISベンチマークという第三者機関が開発したセキュリティに関するガイドラインもあります。ただし、網羅性が高く項目も多いため、必要な項目を探すには時間がかかる場合もあります。

クラウドサービスが持つ特性

クラウド環境のオンプレミス型とSaaS型のサービスにおけるセキュリティ上の留意点は、主にシステム特性の違いから生じます。オンプレミス型では、ユーザ側が自組織内でインフラやソフトウェアを管理するため、完全なコントロールが可能です。しかし、これは同時にセキュリティ対策の全責任をユーザ側で負うことを意味します。定期的なアップデートやパッチ適用、物理的なセキュリティ確保など、あらゆる面での対策が必要となります。一方、SaaS型では、クラウド事業者がインフラやソフトウェアの管理を行うため、ユーザ側の負担は軽減されますが、アクセス制御や暗号化など対策はユーザ側でも求められます。両者の違いを理解し、適切なセキュリティ対策を講じることが重要です。

また、クラウドサービスは仕様やメニューの更新が必要な場合があるため、定期的に設定の確認が必要になります。クラウドサービスを安心して利用し続けるためには、利用するシステムの特性(スピード感・システム更新頻度・従来のシステムから移行しているかなど)を理解しておくことも重要になります。

セキュリティ設定診断の重要性

クラウドサービスのセキュリティに関する担当者の不安を払拭するのに有効な手段の一つが第三者機関によるセキュリティ設定診断です。適切なセキュリティ設定確認を自組織内ですべて確認するためには人的リソースなどの工数がかかります。セキュリティ設定診断では、自組織が扱う設定項目の確認を自動化し、セキュリティ担当者の負担の軽減につながります。また、第三者機関による網羅的な確認により、クラウドサービス利用時のリスクを可視化することができます。

クラウドサービスに関する設定項目の確認

設定ミスを起こさないためには、クラウドサービスにおけるセキュリティ設定を確実に確認する必要があります。以下の表のような情報を参考に、自組織が扱う設定項目の洗い出しやチェックリストの作成、委託先などとの認識共有を行うことが、設定ミスの予防に役立つでしょう。

出典:総務省「クラウドサービス利用・提供における適切な設定のためのガイドライン
【図表Ⅲ.3.1-1 クラウドにおけるセキュリティ設定項目の類型と対策】より弊社作成

設定項目のうち特に重要とされるのはアカウント管理であり、管理者などの特権アカウントについては、多要素認証や複数人でのチェック体制、ログの監視など、厳格な取り組みを行うことが強く推奨されます。

セキュリティガイドラインの紹介

パブリッククラウドにおけるセキュリティ設定の基準に、「CISベンチマーク」があります。CIS(Center for Internet Security)は、米国の複数の政府機関、企業、学術組織らがインターネットセキュリティの標準化に取り組む非営利団体です。OSを含む各種コンポーネントに対するベンチマークを策定しており、有効なセキュリティ評価基準として認識されています。パブリッククラウドにおいては、AWSをはじめ、Azure、GCP対応のCISベンチマークも公表されています。

また、自組織の環境の安全性をより高めていく上で、ツールやガイドラインの活用も有効です。

■クラウドサービス提供者向け
総務省
クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン(第3版)
■クラウドサービス利用者・提供者向け
IPA
中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」付録6:中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き
総務省
クラウドサービス利用・提供における適切な設定のためのガイドライン
経済産業省
クラウドセキュリティガイドライン 活用ガイドブック

まとめ

近年、クラウドサービスの設定ミスによる機密情報漏洩事例が増加しています。この問題の主な原因は、クラウドを利用している企業のセキュリティ対策の不明確さにあります。設定ミスを未然に防ぐために、セキュリティポリシーの策定と運用が重要です。これは組織の情報資産保護のためのルールやガイドラインを定めるものです。クラウドサービスを利用している企業は増加していますが、セキュリティ担当者は様々な不安を抱えています。これらを解消するには、ベストプラクティスに基づく適切な設定と定期的なセキュリティチェックが必要です。クラウド環境には、オンプレミス型とSaaS型があり、それぞれ特性が異なるため、両者の違いを理解し、適切なセキュリティ対策を講じることが重要です。

クラウドサービスの基本的なセキュリティ対策は、従来のオンプレミス環境での対策と同様の方法です。ただし、環境によって管理する内容が異なるため、クラウド環境特有のセキュリティ対策も必要となる点に注意が必要です。クラウドセキュリティの対策のポイントとしては、ベストプラクティスにもとづいた設定の見直しと、第三者機関による定期的なセキュリティチェックを受けることです。自組織において適切な対策を実施し、セキュリティリスクを最小限に抑えましょう。

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事例でみるクラウドサービスのセキュリティ
-クラウドサービスのセキュリティ2-

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クラウドサービスの利用は利便性などのメリットがある一方で、セキュリティリスクも伴います。サイバー攻撃の被害に遭った場合、データの漏洩やサービス停止に追い込まれてしまうなどのリスクがあります。実際、国内外でもクラウドサービス(SaaS)のセキュリティ設定ミスなどを原因としたセキュリティインシデントが発生しており、その影響は深刻です。本記事では、クラウドサービスの利用時におけるセキュリティリスク、具体的なインシデント事例、サプライチェーンでのセキュリティについて解説します。

クラウドサービス利用時のセキュリティリスク

クラウドサービスの利用が拡大する一方で、組織を脅かす要因(脅威)や様々なリスクが存在します。

【要因(脅威)】

  • 不正アクセス:クラウド上のデータやシステムに対する未承認のアクセスは、企業情報の漏洩や改竄につながる可能性があります。
  • サイバー攻撃:DDoS攻撃やマルウェアの拡散は、サービスの停止やデータの破壊を引き起こすことがあります。
  • 内部不正:従業員や内部関係者が意図的に不正行為を行うケースがあり、これは情報の盗難や破壊に直結します。
  • 設定/管理の不備:アクセス権限の設定ミスやセキュリティパッチの適用漏れは、攻撃者にとって格好の侵入経路となります。

【リスク】

  • 情報漏洩:クラウド上に保存されたデータが外部に流出することです。不正アクセスやサイバー攻撃、内部不正によって機密情報が漏洩すると、企業の信用が大きく損なわれ、顧客や取引先との信頼関係が崩壊する危険性があります。
  • 情報改竄(消失・破壊):クラウド上のデータが不正に改竄されたり、消失・破壊されたりすることです。サイバー攻撃や内部不正が原因でデータの整合性が失われると、業務運営に重大な支障をきたし、最悪の場合、ビジネスの継続が困難になることもあります。
  • システム停止:クラウドサービス自体が停止するリスクです。DDoS攻撃や設定/管理の不備によってシステムがダウンすると、サービス提供が一時的に停止し、顧客対応や取引が滞ることになります。これにより、企業の収益に直接的な影響を与え、長期的なビジネス成長にも悪影響を及ぼす可能性があります。

クラウドサービスのセキュリティインシデントの例

近年、クラウドサービスのセキュリティに関する設定が十分でなかったために、意図せず、クラウドサービスで管理している機密情報を無認証状態で外部に公開してしまい、機密情報を漏洩させてしまった事例が相次いで報告されています。以下に、国内で実際に発生したインシデントを例に挙げ、その原因、被害状況などを紹介します。

日本国内のクラウドセキュリティインシデントの報告事例(2023年)

報告年月業種原因概要
2023年12月総合IT企業設定ミス利用するクラウドサービス上で93万5千人以上の個人情報を含むファイルが公開設定となっており、閲覧可能な状態だった*1
2023年6月地方公共団体設定ミス利用するクラウドによるアンケートフォームの設定ミスにより、申込者の個人情報が漏洩していた。*2
2023年5月自動車メーカー設定ミス関連会社が運用するクラウド環境に設定ミスがあり、管理委託する顧客約215万人分に係る情報が、外部より閲覧可能な状態だった。*3
2023年4月空調
設備メーカー
不正アクセス利用するクラウド型名刺管理サービスで従業員になりすました不正アクセスが確認され、約2万件の名刺情報が第三者に閲覧された可能性*4

2023年5月に公表された国内自動車メーカーの事例について判明した内容は以下のとおりです。顧客に関する情報が、長いものでは約10年もの間、外部から閲覧可能な状態となっていました。

公表日外部から閲覧された
可能性のある情報
対象閲覧可能になっていた期間
5月12日車載端末ID、車台番号、車両の位置情報、時刻2012年1月2日~2023年4月17日の間、該当サービスを契約していた約215万人2013年11月6日~2023年4月17日
5月12日法人向けサービスで収集されたドライブレコーダー映像(非公開)2016年11月14日~2023年4月4日
5月31日車載端末ID、更新用地図データ、更新用地図データ作成年月該当サービスに契約した顧客、および該当サービス契約者のうち、2015年2月9日~2022年3月31日の間に、特定の操作を行った顧客2015年2月9日~2023年5月12日
5月31日住所、氏名、電話番号、メールアドレス等日本を除くアジア・オセアニア2016年10月~2023年5月

本件に対しては個人情報保護委員会からの指導が入り、2023年7月には同社より以下に示した再発防止策が明示されています。サプライチェーンである委託先関連会社とも共有され、管理監督すると公表されました。自社のみならず、委託先についてもクラウド設定にセキュリティ上の不備がないか注意する必要があります。

  • 技術的安全管理措置の強化
  • 人的安全管理措置の徹底
  • 機動的な委託先管理のための見直し

また、2023年12月7日、スマホアプリなどを提供している国内総合IT企業が、Googleドライブで管理していた一部ファイルが外部から閲覧可能な状態だったと公表しました。ファイルへのリンクを知っていれば、誰でもインターネット上でアクセス可能な状態だったといいます。インシデントの原因は、Googleドライブの閲覧範囲の公開設定を「このリンクを知っているインターネット上の全員が閲覧できます」にしていたことで、設定がされてから6年以上もの間、閲覧可能な状態となっていました。

クラウドサービスの設定ミスでセキュリティインシデントが多発している原因の一つとして考えられるのが、クラウドサービスを利用している企業や組織が対応すべき情報セキュリティ対策が曖昧になっていることです。クラウドサービス事業者とクラウドサービスユーザはお互いにクラウドサービスに対する責任を共有する「責任共有モデル」を多くの場合採用しています。しかし、実際にはクラウドサービス利用者側でのセキュリティの当事者意識が低いというケースが散見され、そのために設定ミスによるインシデントが多発していると考えられます。

サプライチェーンにおけるクラウドサービスのセキュリティ

クラウド上でソフトウェアを提供するサービス「SaaS」の利用が拡大するにともない、セキュリティに関するインシデントが多く報告されています。IPA(情報処理推進機構)が2023年7月に公開した「クラウドサービス(SaaS)のサプライチェーンリスクマネジメント実態調査」によると、セキュリティインシデントの主な原因として、クラウドサービス事業者のセキュリティ対策の不足や、利用者側のセキュリティ意識の欠如が挙げられています。また、サプライチェーン全体のセキュリティ管理の不備も大きな課題となっています。特に、クラウドサービスの利用状況の可視性が低く、インシデント発生時の対応が遅れることが、被害を拡大させる要因となっています。

さらに、同調査では、セキュリティ対策の強化が急務であるとする回答が多く寄せられました。具体的な対策としては、クラウドサービス提供者との連携強化、セキュリティ教育の徹底、サプライチェーン全体のセキュリティ監査の実施などが求められています。特に、サプライチェーン全体でのセキュリティ基準の統一と、インシデントが発生した際、迅速に対応ができる体制の構築が重要であると強調されています。

今回のアンケート調査の結果は、サプライチェーン全体でのセキュリティ意識の向上と、具体的な対策の実行が不可欠であることを示しています。

まとめ

クラウドサービスの利用が拡大する一方で、様々なセキュリティリスクが存在します。主な脅威としては、不正アクセス、サイバー攻撃、内部不正、設定や管理の不備が挙げられます。これらの脅威により、情報漏洩、情報改竄、システム停止といったリスクが生じる可能性があります。

クラウドサービスのセキュリティインシデントの例として、日本国内での具体的な事例が報告されています。例えば、総合IT企業では設定ミスにより93万5千人以上の個人情報が閲覧可能となっていたり、地方公共団体や自動車メーカーでは設定ミスにより申込者や顧客の個人情報が漏洩したりする事態が発生しています。

クラウドサービスのセキュリティインシデントの主な原因としては、クラウドサービス事業者のセキュリティ対策の不足や、利用者側のセキュリティ意識の欠如が指摘されています。セキュリティ対策の強化が急務であり、クラウドサービス提供者との連携強化、セキュリティ教育の徹底、サプライチェーン全体のセキュリティ監査の実施などが求められています。特に、サプライチェーン全体でのセキュリティ基準の統一と、インシデントが発生した際には、迅速な対応ができる体制の構築が重要です。

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