拡大するランサムウェア攻撃!
―ビジネスの停止を防ぐために備えを―

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瓦版アイキャッチ画像(PCを感染させる攻撃者のイメージ)

国内の医療機関をターゲットにしたランサムウェア攻撃がいま、拡大しています。最近報告された医療機関の事例では、ランサムウェアに感染させる手段としてサプライチェーン攻撃を行ったという例もありました。ますます巧妙になっていくランサムウェア攻撃を完全に防ぐということはできません。しかし、いざ被害にあってしまうとビジネスの停止など大規模な損害がもたらされる恐れもあります。本記事では、拡大するランサムウェア攻撃に対してリスクを整理したうえで、どのような対策をとればよいのか、その手段についてBBSecの視点から解説いたします。

拡大するランサムウェア、国内の医療機関がターゲットに

近年、国内の医療機関を狙ったランサムウェアによるサイバー攻撃が相次いで報告されています。令和4年上期に都道府県警察から警視庁に報告があった被害報告のうち、「医療、福祉」は全体の一割近くとなっており、今後拡大していくことが懸念されています。

【ランサムウェア被害企業・団体等の業種別報告件数】

【ランサムウェア被害企業・団体等の業種別報告件数】
注:図中の割合は小数第1位以下を四捨五入しているため、統計が必ずしも100にならない
出典:警察庁(令和4年9月15日)「令和4年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について

直近で起こった国内の医療機関を狙ったランサムウェアによる具体的な被害事例は以下の通りです。

【医療機関を狙ったランサムウェアによる被害事例】
年月地域被害概要
2021/5大阪府医療用画像参照システムがダウンし、CTやMRIなどの画像データが閲覧できない障害が発生*1
2021/10徳島県電子カルテを含む病院内のデータが使用(閲覧)不能となった*2
2022/1愛知県電子カルテが使用(閲覧)できなくなり、バックアップデータも使用不能な状態となった*3
2022/4大阪府院内の電子カルテが一時的に使用(閲覧)不能となった
2022/5岐阜県電子カルテが一時的に停止したほか、最大11万件以上の個人情報流出の可能性が確認された*4
2022/6徳島県電子カルテおよび院内LANシステムが使用不能となった*5
2022/10静岡県電子カルテシステムが使用不能となった*6
2022/10大阪府電子カルテシステムに障害が発生し、ネットワークが停止。電子カルテが使用(閲覧)不能となった*7

このように病院の電子カルテなどを扱う医療情報システムが狙われてしまった場合、業務の根幹を揺るがす大きな問題となり、最悪の場合は、長期間にわたるシステムの停止を余儀なくされてしまう可能性があります。そのため、医療機関にとって、サイバー攻撃のターゲットとなってしまうことは非常に大きなリスクと考えられます。

医療業界が狙われる理由は、医療情報はブラックマーケットにおいて高額で売買されているため、攻撃者にとって「カネになるビジネス」になるからです。「事業の停止が直接生命に関わる」という点でも、身代金要求に応じさせるうえでの強力な要因になります。

医療業界が狙われる理由について、SQAT.jpでは以下の記事でもご紹介しています。
こちらもあわせてご覧ください。
狙われる医療業界―「医療を止めない」ために、巧妙化するランサムウェアに万全の備えを

業種問わず狙われる―サプライチェーン攻撃によるランサムウェアの被害

前述した2022年10月の大阪府の病院を狙った事例では、その後、11月に同病院へ給食を提供している委託事業者のサービスを通じて、ネットワークに侵入された可能性が高いと報道がありました。これはランサムウェアを感染させるためにサプライチェーン攻撃を行ったということになります。

こうしたサプライチェーンの脆弱性を利用したランサムウェアの被害は、医療業界だけの話ではありません。特定の業種に限らず、標的となる企業を攻撃するために、国内外の関連会社や取引先などのセキュリティ上の弱点を突く攻撃は珍しくないように見受けられます。

【サプライチェーンを狙ったランサム攻撃による被害事例】
年月被害概要
2021/4光学機器・ガラスメーカーの米国子会社がランサムウェアの被害により、顧客情報など300GBのデータを窃取されたことを攻撃グループのリークサイトに掲載される*8
2022/4情報通信機器等の製造を行う企業と同社の子会社がランサムウェアの被害を受け、従業員の個人情報のデータを暗号化され、復号不可能になった*9
2022/3自動車部品メーカーの米州のグループ会社がランサムウェアによる不正アクセスを受け、北米及び南米地域の生産や販売などの事業活動に一時支障が起きた*10
2022/3国内大手自動車メーカーの部品仕入先企業が狙われ、自動車メーカーの業務停止につながった*11

業務委託元企業がしっかりとセキュリティ意識をもって対策を行っていても、関連する業務委託先のさらに再委託先などのセキュリティの対策に必要なリソースの確保が難しい企業の脆弱性が狙われるため、一か所でもほころびがあるとサプライチェーンに含まれる全企業・組織に危険が及ぶ恐れがあります。

ランサムウェア被害にあってしまった場合のリスク

ランサムウェアによる影響範囲と具体例は以下の通りです。

国内でランサムウェア被害にあった企業・団体等について、警視庁のアンケート調査によると、2割以上が復旧までに1ヶ月以上かかり、5割以上が調査・復旧費用に1000万円以上の費用を要したという調査結果を報告しました。

【復旧に要した期間と調査・復旧費用の総額】

【復旧に要した期間と調査・復旧費用の総額】
注:図中の割合は小数第1位以下を四捨五入しているため、統計が必ずしも100にならない
出典:警察庁(令和4年9月15日)「令和4年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について

米国での調査においてもランサムウェア攻撃によるデータ侵害の平均コストは454万米ドルでこれはデータ侵害全体での平均総コストを上回っていることに加えて、原因の特定に237日、封じ込めるまでに89日と合計ライフサイクルは326日となっており、全体の平均より大幅に長くかかっていると報告しました。

【ランサムウェア攻撃のデータ侵害の平均コストと特定し封じ込めるまでの平均時間】

(単位:100万米ドル)
出典:IBM「データ侵害のコストに関する調査

ランサムウェアによる感染を防ぐため対策の見直しを

企業・団体等においてランサムウェアの感染経路には様々なケースがあります。そのため、以下の対策を多重的に行い、被害を最小限に抑えていく必要があります。

1. データやファイル、システムの定期的なバックアップの実施
2. 企業・組織のネットワークへの侵入対策
  ファイアウォールやメールフィルタ設定により不審な通信をブロック
  不要なサービスの無効化、使用しているサービスのアクセス制限
3. 攻撃・侵入されることを前提とした多層防御
4. OSやアプリケーション・ソフトウエア、セキュリティソフトの定義ファイルを常に最新の状態にアップデートする
5. 強固なパスワードのみを許容するなど適切なパスワードの設定と管理を行う

3.攻撃・侵入されることを前提とした多層防御について、SQAT.jpでは以下の記事でもご紹介しています。こちらもあわせてご覧ください。
APT攻撃・ランサムウェア―2021年のサイバー脅威に備えを―

また、各業界向けに発行されているセキュリティ対策ガイドラインなどを参考にし、自組織の対策の見直しをすることも重要です。

【参考情報:各業界のセキュリティ関連ガイドライン等】


■(重要インフラ14分野向け)
NISC「重要インフラにおける情報セキュリティ確保に係る安全基準等策定指針
■(医療業界向け)
厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン
経済産業省・総務省「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン
■(金融業向け)
FISC「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準・解説書等
■(交通関連企業向け)
国土交通省「国土交通省所管重要インフラにおける情報セキュリティ確保に係るガイドライン等
■(教育業界向け)
文部科学省「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン等

他人事ではない、ランサムウェア攻撃のリスク

冒頭で述べたランサムウェア攻撃をはじめ、特に重要インフラ14分野※においては人命や財産などに深刻な被害をもたらす恐れがあります。たとえ自社が該当しない業種であっても、同じサプライチェーン上のどこかに重要インフラ事業者がいるのではないでしょうか。つまり、ランサムウェア攻撃というものは常にその被害に遭う可能性があるものと認識する必要があります。

※重要インフラ14分野…重要インフラとは、他に代替することが著しく困難なサービスのこと。その機能が停止、低下又は利用不可能な状態に陥った場合に、わが国の国民生活又は社会経済活動に多大なる影響を及ぼすおそれが生じるもののことを指す。内閣府サイバーセキュリティ戦略本部「重要インフラの情報セキュリティ対策に係る行動計画」では、「重要インフラ分野」として、「情報通信」、「金融」、「航空」、 「空港」、「鉄道」、「電力」、「ガス」、「政府・行政サービス(地方公共団体を含む)」、 「医療」、「水道」、「物流」、「化学」、「クレジット」及び「石油」の14分野を特定している。

ランサムウェア攻撃への備えとして、前述のような様々な対策を講じるにあたって、まずは現状のセキュリティ対策状況を把握するための一つの手段として、セキュリティ診断などを実施することをおすすめします。

BBSecでは

当社では以下のようなご支援が可能です。

<企業・組織のネットワークへの侵入対策>

<攻撃・侵入されることを前提とした多層防御>

※外部サイトにリンクします。

<セキュリティ教育>

標的型攻撃メール訓練

※外部サイトにリンクします。

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産業制御システムセキュリティのいまとこれからを考える

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SQAT® Security Report 2020年春夏号

今やIoTシステムや制御系システムのセキュリティの問題は、経済的な損害だけでなく、社会的信用の失墜につながりうるものとの認識が一般的になりつつあります。特に、2020年はオリンピック・パラリンピックという国際的な大型イベントを控えており、大規模なサイバー攻撃が予想されます。こうしたイベント時に狙われる制御システムは、電気・ガス・水道や空港設備といったインフラ施設、石油化学プラントなどの制御システムなどがあげられます。

平成三十年4月にはサイバーセキュリティ戦略本部から「重要インフラにおける情報セキュリティ確保に係る安全基準等策定指針(第5版)」が公表されたものの、「サイバーセキュリティに係る保安規程・技術基準等」については未整備の業界も多く、省令の改正や国としてのガイドライン等の策定が急ピッチで進められています。こうした中、「IoTシステムや制御システムのセキュリティ」は、事業継続計画(BCP)において想定すべき主要なリスクの一つであり、経営責任が問われる課題として捉える必要があります。

産業制御システムのセキュリティとは? その現状

従来、製造業の制御系システムはインターネットに接続されていない独立系システム、いわゆる閉鎖系システムであるために安全と考えられてきましたが、近年状況が変化してきています。一般的に、OT(Operational Technology)のライフサイクルは10~20年と、ITに比べ長く、さらにシステムが停止することなく稼働し続けること(可用性)が最も重視されるため、装置自体の脆弱性が発見されたとしてもすぐに交換できません。パッチを当てるにしても操業を計画的に停止する必要があることなどから、ファームウェアやエンベデッドOS(産業用機械などに内蔵されるコンピュータシステムを制御するためのOS)のアップデートにUSBを使用するケースも少なくありません。しかし検疫体制が甘く、そこから感染してしまったという事例もあります。
さらに最近、利便性を考え制御系システムでもエンベデッドOSとしてWindowsやLinuxを採用されることが増えてきましたが、それらの端末がインターネットに接続されていることから、標的型攻撃などの脅威にさらされる機会が増えるという皮肉な結果を生んでいます(図1参照)。

図1 制御システムの進化とセキュリティ

出典:日経 xTECH EXPO オープンシアター講演資料
情報システムのようにはいかない制御システムのセキュリティ ~サイバー攻撃手法から見る制御セキュリティ対策~」IPA セキュリティセンター 福原 聡

制御システムのセキュリティと一般的な企業の情報システムとは、その対象や優先度が大きく異なり、またセキュリティの基本であるCIA(機密性・完全性・可用性)の優先度も大きく違うため、単純にWebアプリケーションやネットワークのセキュリティ対策を当てはめるわけにはいきません。特に制御システムで優先されるリスク管理項目は「人命」「環境」であり、リアルタイム性も求められるのが大きな特徴です(表1参照)。

表 1 産業制御システムと情報システムの違い

制御システムのインシデントでは2017年に起きたランサムウェア「WannaCry」が記憶に新しいでしょう。政府・病院・工場などのシステムに侵入し、コンピュータのストレージが暗号化されて身代金を要求された事件です。また、2019年にはランサムウェア「LockerGoga」により世界40ヶ国のコンピュータがサイバー攻撃を受け、ノルウェーのアルミ生産会社では、生産システムとオフィスITシステムが感染したため、手動生産に切り替えての操業を余儀なくされ、生産が大幅に減速されました。同じく、2019年の7月には南アフリカのヨハネスブルグで電力会社のプリペイド供給システムがサイバー攻撃により停止し、顧客が電力を購入できなくなる事態が発生しました。

産業制御システムのセキュリティフレームワーク

前述のように、OTはライフサイクルが長く、セキュリティよりも可用性が重視されるので、制御システムのアップデートもベンダが実施することが多いのですが、最新の脆弱性情報がOT担当者とIT担当者の間でスムーズに連携されず、結果として対策が不十分になっていることが散見されます。そもそも、IoTシステムや制御システムのセキュリティはフレームワークの違いもあり、専門家の知見によるリスクアセスメントが欠かせません。

汎用的な標準・基準として、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)に対してCSMS(サイバーセキュリティマネジメントシステム)と呼ばれている制御システムセキュリティ基準 IEC62443-2-1がありますが、当社では、近年のサイバー攻撃の動向や脅威を踏まえた上で、独自に開発したフレームワークを使用しています。IEC62443に加え、NIST(米国標準技術研究所)のセキュリティガイドラインであるNIST SP800-82および53、IPAのガイドラインなどをベースとしています。(図2、表2参照)

図 2 産業制御システムのセキュリティフレームワーク
表2 BBSecの産業制御システム向けリスク評価項目例

事業継続のためにできること

冒頭にあげた「重要インフラにおける情報セキュリティ確保に係る安全基準等策定指針(第5版)」において、定期的な情報セキュリティリスクアセスメントの実施、サイバー攻撃の特性を踏まえた対応計画の策定などが求められています。

これらの重要インフラのシステムには先にみたように、一般的な情報システムのセキュリティ対策では対応できない部分も多くあります。まずはセキュリティリスクを可視化し、脆弱性があることを認識することが重要です。その上で脅威を最小化する方策を検討する必要があります。

可用性と人命・環境への配慮という2つの命題を実現するためにも、OT担当者とIT担当者が連携し、セキュリティの専門家を交えてセキュリティ体制を構築・運用していくことが欠かせません。当社では制御システムのリスクアセスメントをはじめ、CSIRT構築、セキュリティオペレーションセンターによる監視、ケースによってはセンターからのオペレーションで防御するところまでお手伝いしています。対策についても一般的なセキュリティ対策の提案だけでなく、装置の交換やエンベデッドOSのバージョンアップが難しい場合のリスク低減策もご提案いたします。

制御システムセキュリティのリスクアセスメントは、情報セキュリティ対策の第一歩である現状把握を行い、現状を踏まえた上で、セキュリティリスクに対する今後の対策を考えるためのファーストステップです。セキュリティ専門家の知見でこそできることがあります。事業継続のためにもまずはリスクアセスメントからはじめてはいかがでしょうか。

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