事例でみるクラウドサービスのセキュリティ
-クラウドサービスのセキュリティ2-

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クラウドサービスの利用は利便性などのメリットがある一方で、セキュリティリスクも伴います。サイバー攻撃の被害に遭った場合、データの漏洩やサービス停止に追い込まれてしまうなどのリスクがあります。実際、国内外でもクラウドサービス(SaaS)のセキュリティ設定ミスなどを原因としたセキュリティインシデントが発生しており、その影響は深刻です。本記事では、クラウドサービスの利用時におけるセキュリティリスク、具体的なインシデント事例、サプライチェーンでのセキュリティについて解説します。

クラウドサービス利用時のセキュリティリスク

クラウドサービスの利用が拡大する一方で、組織を脅かす要因(脅威)や様々なリスクが存在します。

【要因(脅威)】

  • 不正アクセス:クラウド上のデータやシステムに対する未承認のアクセスは、企業情報の漏洩や改竄につながる可能性があります。
  • サイバー攻撃:DDoS攻撃やマルウェアの拡散は、サービスの停止やデータの破壊を引き起こすことがあります。
  • 内部不正:従業員や内部関係者が意図的に不正行為を行うケースがあり、これは情報の盗難や破壊に直結します。
  • 設定/管理の不備:アクセス権限の設定ミスやセキュリティパッチの適用漏れは、攻撃者にとって格好の侵入経路となります。

【リスク】

  • 情報漏洩:クラウド上に保存されたデータが外部に流出することです。不正アクセスやサイバー攻撃、内部不正によって機密情報が漏洩すると、企業の信用が大きく損なわれ、顧客や取引先との信頼関係が崩壊する危険性があります。
  • 情報改竄(消失・破壊):クラウド上のデータが不正に改竄されたり、消失・破壊されたりすることです。サイバー攻撃や内部不正が原因でデータの整合性が失われると、業務運営に重大な支障をきたし、最悪の場合、ビジネスの継続が困難になることもあります。
  • システム停止:クラウドサービス自体が停止するリスクです。DDoS攻撃や設定/管理の不備によってシステムがダウンすると、サービス提供が一時的に停止し、顧客対応や取引が滞ることになります。これにより、企業の収益に直接的な影響を与え、長期的なビジネス成長にも悪影響を及ぼす可能性があります。

クラウドサービスのセキュリティインシデントの例

近年、クラウドサービスのセキュリティに関する設定が十分でなかったために、意図せず、クラウドサービスで管理している機密情報を無認証状態で外部に公開してしまい、機密情報を漏洩させてしまった事例が相次いで報告されています。以下に、国内で実際に発生したインシデントを例に挙げ、その原因、被害状況などを紹介します。

日本国内のクラウドセキュリティインシデントの報告事例(2023年)

報告年月業種原因概要
2023年12月総合IT企業設定ミス利用するクラウドサービス上で93万5千人以上の個人情報を含むファイルが公開設定となっており、閲覧可能な状態だった*1
2023年6月地方公共団体設定ミス利用するクラウドによるアンケートフォームの設定ミスにより、申込者の個人情報が漏洩していた。*2
2023年5月自動車メーカー設定ミス関連会社が運用するクラウド環境に設定ミスがあり、管理委託する顧客約215万人分に係る情報が、外部より閲覧可能な状態だった。*3
2023年4月空調
設備メーカー
不正アクセス利用するクラウド型名刺管理サービスで従業員になりすました不正アクセスが確認され、約2万件の名刺情報が第三者に閲覧された可能性*4

2023年5月に公表された国内自動車メーカーの事例について判明した内容は以下のとおりです。顧客に関する情報が、長いものでは約10年もの間、外部から閲覧可能な状態となっていました。

公表日外部から閲覧された
可能性のある情報
対象閲覧可能になっていた期間
5月12日車載端末ID、車台番号、車両の位置情報、時刻2012年1月2日~2023年4月17日の間、該当サービスを契約していた約215万人2013年11月6日~2023年4月17日
5月12日法人向けサービスで収集されたドライブレコーダー映像(非公開)2016年11月14日~2023年4月4日
5月31日車載端末ID、更新用地図データ、更新用地図データ作成年月該当サービスに契約した顧客、および該当サービス契約者のうち、2015年2月9日~2022年3月31日の間に、特定の操作を行った顧客2015年2月9日~2023年5月12日
5月31日住所、氏名、電話番号、メールアドレス等日本を除くアジア・オセアニア2016年10月~2023年5月

本件に対しては個人情報保護委員会からの指導が入り、2023年7月には同社より以下に示した再発防止策が明示されています。サプライチェーンである委託先関連会社とも共有され、管理監督すると公表されました。自社のみならず、委託先についてもクラウド設定にセキュリティ上の不備がないか注意する必要があります。

  • 技術的安全管理措置の強化
  • 人的安全管理措置の徹底
  • 機動的な委託先管理のための見直し

また、2023年12月7日、スマホアプリなどを提供している国内総合IT企業が、Googleドライブで管理していた一部ファイルが外部から閲覧可能な状態だったと公表しました。ファイルへのリンクを知っていれば、誰でもインターネット上でアクセス可能な状態だったといいます。インシデントの原因は、Googleドライブの閲覧範囲の公開設定を「このリンクを知っているインターネット上の全員が閲覧できます」にしていたことで、設定がされてから6年以上もの間、閲覧可能な状態となっていました。

クラウドサービスの設定ミスでセキュリティインシデントが多発している原因の一つとして考えられるのが、クラウドサービスを利用している企業や組織が対応すべき情報セキュリティ対策が曖昧になっていることです。クラウドサービス事業者とクラウドサービスユーザはお互いにクラウドサービスに対する責任を共有する「責任共有モデル」を多くの場合採用しています。しかし、実際にはクラウドサービス利用者側でのセキュリティの当事者意識が低いというケースが散見され、そのために設定ミスによるインシデントが多発していると考えられます。

サプライチェーンにおけるクラウドサービスのセキュリティ

クラウド上でソフトウェアを提供するサービス「SaaS」の利用が拡大するにともない、セキュリティに関するインシデントが多く報告されています。IPA(情報処理推進機構)が2023年7月に公開した「クラウドサービス(SaaS)のサプライチェーンリスクマネジメント実態調査」によると、セキュリティインシデントの主な原因として、クラウドサービス事業者のセキュリティ対策の不足や、利用者側のセキュリティ意識の欠如が挙げられています。また、サプライチェーン全体のセキュリティ管理の不備も大きな課題となっています。特に、クラウドサービスの利用状況の可視性が低く、インシデント発生時の対応が遅れることが、被害を拡大させる要因となっています。

さらに、同調査では、セキュリティ対策の強化が急務であるとする回答が多く寄せられました。具体的な対策としては、クラウドサービス提供者との連携強化、セキュリティ教育の徹底、サプライチェーン全体のセキュリティ監査の実施などが求められています。特に、サプライチェーン全体でのセキュリティ基準の統一と、インシデントが発生した際、迅速に対応ができる体制の構築が重要であると強調されています。

今回のアンケート調査の結果は、サプライチェーン全体でのセキュリティ意識の向上と、具体的な対策の実行が不可欠であることを示しています。

まとめ

クラウドサービスの利用が拡大する一方で、様々なセキュリティリスクが存在します。主な脅威としては、不正アクセス、サイバー攻撃、内部不正、設定や管理の不備が挙げられます。これらの脅威により、情報漏洩、情報改竄、システム停止といったリスクが生じる可能性があります。

クラウドサービスのセキュリティインシデントの例として、日本国内での具体的な事例が報告されています。例えば、総合IT企業では設定ミスにより93万5千人以上の個人情報が閲覧可能となっていたり、地方公共団体や自動車メーカーでは設定ミスにより申込者や顧客の個人情報が漏洩したりする事態が発生しています。

クラウドサービスのセキュリティインシデントの主な原因としては、クラウドサービス事業者のセキュリティ対策の不足や、利用者側のセキュリティ意識の欠如が指摘されています。セキュリティ対策の強化が急務であり、クラウドサービス提供者との連携強化、セキュリティ教育の徹底、サプライチェーン全体のセキュリティ監査の実施などが求められています。特に、サプライチェーン全体でのセキュリティ基準の統一と、インシデントが発生した際には、迅速な対応ができる体制の構築が重要です。

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ソーシャルエンジニアリングとは?その手法と対策

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今回は、サイバー攻撃の変わり種、システムではなく人間の弱点に付け入る攻撃、ソーシャルエンジニアリングを紹介します。

まずソーシャルエンジニアリングの具体的な手法を挙げ、どのように人間の弱点が利用されるのかを説明し、日本で起こったソーシャルエンジニアリングによる被害実例を紹介します。

途中ちょっと寄り道をして、オレオレ詐欺はソーシャルエンジニアリングなのかどうかについて考えつつ、最後に具体的かつ実践的な対策方法と、逆効果となる、とある対策・管理方針について言及します。

ソーシャルエンジニアリングとは

ソーシャルエンジニアリングは、人の心理を巧みに操り、重要な情報を引き出す手法です。この手法を使った攻撃がソーシャルエンジニアリング攻撃で、攻撃者は情報収集やシステムへの不正アクセスなどを目的に、人を心理的に操作して、攻撃者にとって都合のいい行動を起こさせます。

認知能力、心理など「人間の脆弱性」を攻撃するソーシャルエンジニアリング

アメリカの非営利のセキュリティ研究団体MITRE社の説明によると、ソーシャルエンジニアリングとは、人心を巧みに操り、その弱みにつけこんで、悪意ある相手に利するような行動や情報を引き出すというものです。具体的な例を挙げると、技術的な手段によらずに、口頭による会話といった「社会的(ソーシャル)」な手段で、ID・パスワードなどの重要情報を、巧みなやり方で関係者から直接聞き出す行為などがソーシャルエンジニアリングです。大きくは、人間の認知能力のさまざまな弱点やスキにつけ込む手法全般のことだといえるでしょう。

脆弱性診断サービスを提供するBBSecとして「脆弱性」という観点で申し上げるなら、ソーシャルエンジニアリング攻撃は「システムやソフトウェアではなく人間の脆弱性を突く攻撃」と言うことができます。

ソーシャルエンジニアリングの手法

以下に典型的なソーシャルエンジニアリングの手法を挙げます。

・ショルダーハッキング
  例)パスワード等をユーザの肩越しに覗き見る
・トラッシング(スカベンジング)
  例)清掃員などに変装して標的組織に侵入し、書類やHDDなどのゴミや廃棄物をあさる
・なりすまし電話
 例)システム担当者などになりすましてパスワードなどを聞き出す
・ベイティング
 例)マルウェアを仕込んだUSBメモリを廊下に落とす
・フィッシング(ヴィッシング、スミッシング等 含む)
  例)信頼できる存在になりすまし、ID・パスワード、クレジットカードなどの情報を入手する
・ビジネスメール詐欺
 例)取引先などになりすまし、犯人の口座へ振込を行わせる
・標的型攻撃メール
 例)ターゲットに対する入念な調査に基づいて作成した、完成度の高いなりすましメールを送る

たとえば「なりすまし電話」ですが、上記に挙げた例とは逆に、入社したばかりの何も知らない社員を装ってシステム担当者に架電し、やり方がわからないふりをするなどして徹底的にイライラさせて、思わずパスワードを口に出させるなどの方法も存在します。人間の認知能力のスキをつくソーシャルエンジニアリングには、実にさまざまな方法があるのです。

ソーシャルエンジニアリングの最大の特徴とは

人の脆弱性を突くソーシャルエンジニアリングの最大の特徴は、ターゲットを信頼させ、攻撃者に有益な情報の提供などを自発的に行わせてしまう点にあります。MITRE社の説明に「人を操る」とあった通り、権力や暴力を振りかざして重要情報を聞き出した場合、それは単なる脅迫であってソーシャルエンジニアリングではありません。

ターゲットの心を意のままに操作して、自発的に、ときに笑顔で協力させてしまう点にこそ、ソーシャルエンジニアリングを行う犯罪者の真骨頂があります。

ソーシャルエンジニアリングはどのように人間の弱点につけ込むのか

ソーシャルエンジニアリングは攻撃対象が信頼してしまう存在などになりすましてターゲットを信頼させ、心を開かせたり油断させることで行われます。

そのために攻撃者がしばしば目を付けるのが、「権威」に対する人間の弱さです。会社の取締役を装って電話をかける、得意客になりすましたビジネスメールを送る、大手金融機関や有名ブランドをかたったフィッシングメールを送る、などの手口に騙されるのが典型的なケースです。

なお、メールアカウントを乗っ取って旧知の取引先などになりすましたメールを送信することで拡散を図るEmotetは、フィッシングを行うマルウェアであり、ソーシャルエンジニアリングの一類型と言うことができます。

オレオレ詐欺はソーシャルエンジニアリングか

権威以外にも「義務感」「正義感」あるいは「好意」につけ込む方法もよく用いられます。多くの人は、困っている人に出会ったら「助けなければ」と感じます。助ける相手が親しい人物や好感を持てる人物であればなおさらです。

そこで思い浮かぶのがオレオレ詐欺ですが、ちなみに、この手の犯罪は、「ソーシャルエンジニアリング」なのでしょうか?

答えはNoです。ソーシャルエンジニアリングは、コンピュータセキュリティの文脈で使われる言葉であり、コンピュータやシステムへの不正アクセスを行うことを目的のひとつに含むという前提があります。そのため、オレオレ詐欺がソーシャルエンジニアリングと呼ばれることは一般にはほとんどありません。

ニューノーマル、テレワーク時代に気をつけたいソーシャルエンジニアリング

大きな環境変化の最中や直後などは、ソーシャルエンジニアリングの絶好の機会です。平時にはない緊張を強いられることで人々の不安やストレスが増し、感情的に動揺しやすくなるためといわれています。2020年、新型コロナウイルスの感染が一気に拡大した当初も、品薄状態だったマスクの配布をうたうメールやWebサイト、保健所からの連絡を装った攻撃などが複数確認されました。ニューノーマル時代、こうした攻撃に引き続き警戒が必要であることはいうまでもありません。

また、テレワークによって従業員どうしが切り離された就業環境においては、フィッシングメール標的型攻撃メールの感染確率が上がると言われています。これは、オフィスにいたなら同僚や情報システム部門に「変なメールが届いた」と気軽に相談できていたことが、テレワークによって難しくなるからです。

日本で起こったソーシャルエンジニアリングの実例

2015年に発生した日本年金機構の情報漏えい事件は、「【医療費通知】」という件名の標的型攻撃メールが公開メールアドレスに届き、その添付ファイルを開いたことが発端であったとされています。

また、2017年に大手航空会社がビジネスメール詐欺で数億円をだましとられた事件も、2018年に仮想通貨取引所から暗号資産が流出した事件も、いずれもソーシャルエンジニアリングが攻撃のステップのひとつとして用いられています。

ソーシャルエンジニアリング対策・防止策

では、こうしたソーシャルエンジニアリングを防止する対策方法には、どのようなものがあるのでしょうか。

ソーシャルエンジニアリングの手法」で挙げた攻撃に対しては、たとえばショルダーハッキングならプライバシーフィルターを利用する、ビジネスメール詐欺ならメールの指示をうのみにせず本人に電話をして確認するなど、さまざまな対策方法が存在します。また、近年攻撃者はSNSを活用してターゲットに関する情報を集めることが知られていますので、SNSの利用に組織としてルールを設けるなどの方法も有効です。研修や教育なども効果があります。

しかしその一方で、人間の脆弱性を突く攻撃を完全に防ぐことはできない、という観点に基づいた対策も、併せて必要になります。攻撃を防ぐ対策と同時に、攻撃が防げなかった場合(成功してしまった後)の対策も考える必要があるのです。BBSecはこの考えのもと、標的型攻撃リスク診断やペネトレーションテストなどのサービスを提供し、攻撃を受けることを前提としたセキュリティ対策に取り組む企業・組織の皆様をご支援しています。

企業が絶対にやってはいけないソーシャルエンジニアリング対策

ソーシャルエンジニアリングは人間の脆弱性を突く攻撃です。だからこそ、対策として絶対にやってはいけないことがあります。それは、騙された人を叱責する、何らかのペナルティを与える等の懲罰主義の管理です。

罰を受けるのを恐れることによって、事故が発生しても報告がなされず、それが、インシデントの発見の遅れを招き、組織にとっての致命傷を生むことがあります。あなたも私も、人間は皆、あやまちを犯す生き物なのです。あやまちを犯すことが覆い隠されてしまうような管理は、何の成果も上げられないでしょう。

まとめ

  • ソーシャルエンジニアリングとは、人の心を操って重要情報等を聞き出したりすることです。
  • ショルダーハッキング、フィッシング、ビジネスメール詐欺、標的型攻撃メールなど、さまざまな手法があります。
  • ソーシャルエンジニアリングは、「権威」「義務」「好感」などに惑わされる人間の弱さをあらゆる手口で突いてきます。
  • 環境が急激に変化する時は、ソーシャルエンジニアリングの付け入るスキが生まれます。ニューノーマルや急速なテレワーク化への対応を迫られる現在も、その例外ではありません。
  • 懲罰主義による管理は、ソーシャルエンジニアリング対策として何の効果もなく、インシデント発生の対応が遅れる要因になります。

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RaaSの台頭とダークウェブ
~IPA 10大セキュリティ脅威の警告に備える

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RaaS(Ransomware as a Service)の普及により、サイバー攻撃が容易に実行可能になり、攻撃者層が広がっています。IPAが発表した「情報セキュリティ10大脅威」でも脅威の一つに取り上げられているように、「犯罪のビジネス化」が進んでおり、脅威を一層深刻化させています。本記事では、サイバー攻撃の準備段階から、攻撃者に利用される情報、対策に焦点を当て、ダークウェブの実態と防御策について解説します。また自組織がサイバー攻撃の対象にならないための備えについて提唱します。

サイバー攻撃の準備段階

かつて、サイバー攻撃を実行するには高度なITスキルが必要だというイメージが一般的でした。しかし、近年は状況が大きく変わってきています。特に「RaaS」の登場により、サイバー攻撃の敷居は大幅に低くなりました。RaaSとは、ランサムウェアをサービスとして提供するビジネスモデルのことで、専門的な知識や技術を持たない人々でも、簡単にランサムウェア攻撃を実行できるツールやサービスをビジネスとして提供するというものです。

こうした背景から、サイバー攻撃を実行する層の間口が広がり、誰でも手軽に攻撃を行えるようになってきています。これにより、サイバーセキュリティの脅威はますます深刻化しています。IPA(情報処理推進機構)が発表した情報セキュリティ10大脅威の一つとしても、「犯罪のビジネス化(アンダーグラウンドサービス)」が取り上げられていることからも、この問題の重要性と注目度の高さがうかがえます。

SQAT.jpでは以下の記事でご紹介しています。こちらもあわせてご覧ください。
IPA 情報セキュリティ10大脅威からみる― 注目が高まる犯罪のビジネス化 ―

サイバー攻撃者は、実際に攻撃を行う前に綿密な偵察行為をします。特に、オープンソースインテリジェンス(OSINT)と呼ばれる公開情報をもとにした諜報活動が盛んに行われています。OSINTでは、インターネット上に公開されている情報を駆使してターゲットの情報を収集し、その情報をもとに攻撃の計画を立てます。

また、攻撃者が情報収集に使用するツールの一つとしてダークウェブが利用されていることも、重要な要素です。

ダークウェブとは

ダークウェブとは、通常のインターネット検索ではアクセスできない匿名性の高いサイトの集合体です。アクセスには特別なソフトウェアなどが必要であり、その匿名性ゆえに違法な活動が横行しています。ダークウェブでは、非合法な情報やマルウェア、物品などが取引されることも多いという特徴があります。

インターネットに存在するWebサイトは、アクセスする方法や環境によって「サーフェスウェブ」、「ディープウェブ」、「ダークウェブ」に分類されます。サーフェスウェブは、一般的な検索エンジンでアクセス可能な部分を指しており、私たちが日常的に利用しているWebサイトが含まれています。一方、ディープウェブは一般的な検索エンジンでは表示されない領域であり、例えば、ログインが必要な企業の内部資料や学術データベースなどといったものが該当します。そして、ダークウェブはさらにその奥深くに位置し、特殊なアクセス手段を必要とする領域となります。

この3つの関係はよく氷山に例えられます。サーフェスウェブは氷山の水面上に見える部分であり、ディープウェブとダークウェブは水面下に広がる巨大な部分を示します。そしてダークウェブは、一般のユーザにはほとんど見えない深層に存在しており、その内容は一般には公開されていない情報が多く含まれるのです。

ダークウェブで取得可能な情報

前述の通り、ダークウェブでは、違法な情報が数多く取引されています。代表的なものとして、会員制サイトのID・パスワードのリストやクレジットカード番号といった個人情報が挙げられます。これらの情報は、データ漏洩や不正アクセスの結果として流出したものが多く、攻撃者が購入することでさらなるサイバー攻撃に悪用されます。

さらに、ダークウェブ上ではランサムウェアなどのマルウェアを開発するためのツールキットの販売や、「RaaS」と呼ばれるサービスが提供されています。これらを利用することで専門知識が乏しくともランサムウェア攻撃を行うことが可能になっているのです。また、脆弱性情報やサーバへ不正アクセスするための情報なども取引されており、サイバー攻撃を計画するためのあらゆるリソースがそろっています。

具体的には以下のような情報が取引されています。

流出アカウント情報:ユーザ名やパスワードなどの認証情報を使用して不正アクセスが行われます。
機密情報:組織の重要な情報が盗まれ、悪用されることがあります。
侵入方法:特定のシステムやネットワークに侵入するための手法やツールなどといった情報が提供されます。
脅威情報:DDoS攻撃や攻撃計画などの情報が含まれます。
攻撃情報:エクスプロイトツールやゼロデイ脆弱性といった、特定のソフトウェアやシステムの脆弱性を悪用するための情報です。

ダークウェブは、サイバー犯罪者にとって非常に有益なリソースとなっており、その存在は現代のサイバーセキュリティにおいて密接に脅威と結びついています。こうした取引が行われることで、サイバー攻撃の手口が高度化し、被害が拡大しているのです。

アンダーグラウンドサービスの例

サービス内容説明
ランサムウェア攻撃(RaaS)データを暗号化し、復旧のための身代金を要求するサービス。
DDoS攻撃
(DDoS攻撃代行)
大量のトラフィックを送信して、ウェブサイトやサービスを停止または遅延させるサービス。
フィッシング攻撃(PhaaS)偽のメールやウェブサイトで個人情報を窃取するサービス。
不正アクセス(AaaS)リモートアクセス可能な権利を提供するサービス。

サイバー攻撃へ備えるために

サイバー攻撃への備えとして、最も重要なことは攻撃者に攻撃の機会(隙)を与えないことです。サイバー攻撃者にとって攻撃対象にしづらいシステムを構築することが効果的です。そのためには、まず自組織のセキュリティ状況を見直し、リスク状況を把握することが不可欠です。

自組織のセキュリティ状況を把握するためには、定期的なセキュリティ診断や脆弱性評価を行い、システムの弱点を特定することが必要です。これにより、システムのどの部分が攻撃者にとって狙いわれやすいかを明確にすることで、対策を講じることができます。例えば、不要なポートを閉じる、推測されにくい強固なパスワードポリシーを実装する、そしてシステムやソフトウェアを最新の状態に保つことなどが挙げられます。

さらに、攻撃者が事前にする偵察行為の段階でハッカーから攻撃対象にされにくいシステムにしておくことも重要です。これは、OSINTを活用して公開情報を収集する攻撃者に対抗するための施策となります。現在自組織が置かれている状況を踏まえたうえで、公開情報を最小限に抑え、内部情報が外部から容易に取得できないようにすることが求められます。また、定期的に従業員に対するセキュリティ教育を実施し、フィッシング攻撃などのソーシャル・エンジニアリングをもちいた攻撃に対する認識を高めることも効果的です。

このような対策を講じることで、攻撃者にとって魅力的な攻撃対象でなくなることが期待できます。結果として、攻撃のリスクを低減し、サイバー攻撃から自組織を守ることができるのです。セキュリティ対策は一度行えば終わりというものではなく、常に最新の脅威情報に基づいて見直し、更新していくことが必要となります。

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    事例から学ぶサプライチェーン攻撃
    -サプライチェーン攻撃の脅威と対策2-

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    サプライチェーン攻撃は、セキュリティ対策が手薄な関連企業や取引先企業を経由して、標的とする企業へ不正侵入をするサイバー攻撃です。被害に遭ってしまった場合、情報の窃盗、マルウェアの拡散、さらには全体のサプライチェーンに影響を及ぼす可能性があります。この記事では、サプライチェーン攻撃の手口とリスク、そしてサプライチェーンマネジメントの重要性ついて解説します。

    サプライチェーン攻撃とは?

    サプライチェーン攻撃とは、ターゲット企業に直接攻撃を仕掛けるのではなく、その企業のサプライチェーン(業務委託先やグループ会社・関連企業など)に含まれるセキュリティの弱点を利用して侵入を試みるサイバー攻撃のことです。攻撃者は企業間の信頼関係を利用し、よりセキュリティが手薄な一部のパートナー企業やサプライヤーを狙い、そこを踏み台にして間接的に本来のターゲット企業へ侵入を試みます。

    企業がサプライチェーン攻撃を受けた場合、その影響は様々あります。最初に侵入された企業から機密情報・顧客データなどの重要情報が漏えいする可能性があります。さらに、攻撃者によってマルウェアやランサムウェアが仕込まれた製品やソフトウェアがユーザに配布されることで、エンドユーザのシステムも危険に晒されます。これにより、企業の顧客やパートナーに対する信頼が損なわれ、ブランドの評判に深刻な影響を及ぼすことになります。

    経済的損失もまたサプライチェーン攻撃の影響の一つです。企業が被害を受けてからのシステム復旧までの対応には、莫大な費用がかかります。さらに、法的責任と法令遵守に関する問題も発生します。多くの地域で、データ保護規制が厳しくなっており、機密情報の漏えいは法的な罰則につながる可能性があります。これにより、企業は訴訟リスクに直面し、さらに罰金や制裁の対象となる可能性があります。

    サプライチェーン攻撃の手口

    サプライチェーン攻撃の手口にはいくつか種類があります。関連組織を起点として攻撃するタイプではなく、そのソフトウェアの開発元を侵害することによってユーザ全体に影響を与えるタイプの攻撃にソフトウェアサプライチェーン攻撃があります。

    ソフトウェアサプライチェーン攻撃

    ソフトウェアサプライチェーンとは、「ソフトウェア開発のライフサイクルに関与する全てのモノ(ライブラリ、各種ツール等)や人の繋がり」(独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2024」解説書より)を指します。ソフトウェアを開発・配布・アップデートする際の一連の流れをソフトウェアサプライチェーンと呼び、このソフトウェアサプライチェーンを悪用した攻撃がソフトウェアサプライチェーン攻撃です。

    攻撃者は主にソフトウェア開発元やMSP等提供事業者などを狙い、本来のターゲット企業を攻撃するための足掛かりにします。製品自体だけではなく、開発元や提供元が侵害された事例などもあります。

    サプライチェーン攻撃のなかでセキュリティが脆弱な企業が狙われるのは他のサプライチェーン攻撃のパターンと同じですが、ソフトウェアサプライチェーン攻撃により、攻撃者に踏み台にされた企業は、被害者であると同時に、ウイルスが仕込まれたソフトウェアを配布するかたちになり、気づかないうちに攻撃に加担した加害者の一部となってしまう恐れがあります。

    サプライチェーンリスクとは?企業が直面するリスク

    サプライチェーンに関わる企業は様々なリスクに直面しており、これには自然災害やパンデミック(感染流行)といった環境リスク、テロや政治的不安定といった地政学的リスク、経済危機や原材料の価格変動による経済リスク、そしてサイバー攻撃や技術的障害などの技術リスクなどが含まれます。このような予測不可能な事象が起こり、サプライチェーンの流れが中断されてしまった場合、生産の遅延、在庫不足、最終的には収益損失を引き起こす可能性があります。さらに、リスクの重要度は社会経済状況によっても左右されるため、企業は柔軟な対応が求められます。

    サプライチェーン攻撃のリスク

    サプライチェーン攻撃によるリスクは、企業や組織にとって深刻です。主なリスクには、機密情報の漏えい、データの改ざん、システム障害や業務の停止があります。さらに、ランサムウェアによる身代金要求やブランド価値の低下といった被害も考えられます。これらの影響は芋づる式に広がり、サプライチェーン全体が脅威にさらされることになります。また、サプライチェーンには委託元が委託先(もしくは再委託先)で開発状況を監視できていないという問題もあるため、脅威に晒されています。

    サプライチェーン攻撃の事例

    事例1:国内大手自動車メーカーの例

    サプライチェーン攻撃の代表的な事例としては、国内大手自動車メーカーの例が挙げられます。2022年3月、国内大手自動車メーカーが部品を仕入れている取引先で、マルウェア感染被害によるシステム障害を受けたため、国内の全14工場の稼働を停止する事態に追い込まれました。

    日本の会社の約9割は中小企業が占めており、大企業の関連会社、取引先企業の中には中小企業が多数あります。中小企業では大企業ほどセキュリティ対策にコストや人を費やすことができず、どうしてもセキュリティは手薄になりがちです。このため、サプライチェーン攻撃は大きな問題となっています。国内大手自動車メーカーの事例は、サプライチェーン攻撃の深刻な影響を示す典型的な例となり、中小企業でもサイバーセキュリティ対策の重要性が高まっています。

    事例2:国外ソフトウェア開発会社の例

    2020年12月、SolarWinds社のOrion Platformに端を発した史上最大規模のサプライチェーン攻撃*5がありました。悪意あるアップデートを介して行われ、多数の政府機関や企業を含めた組織に影響を与えました。

    事例3:大手フリマアプリ運営会社の例

    2021年4月、コードのカバレッジを測定するツール「Codecov」*2への不正アクセスにより、同ツールのサプライチェーンで多数の組織・企業に被害が出ました。その1つが国内大手フリマアプリ運営会社で、GitHub(社内のコードリポジトリ)に保存された同社のソースコードが取得され、一部の個人情報が外部流出する被害が出ました。

    事例4:国内大手保険会社の例

    2023年1月、国内大手生命保険社において、顧客情報が漏えいしました。この事件は業務委託先業者が管理するサーバが不正アクセスを受けたことが原因です。漏えいした顧客データには、姓(漢字・カナ)、年齢、性別、証券・保険番号などの情報が含まれていましたが、幸い、これらの情報だけでは個人を特定するのは困難とされ、悪用される可能性は低いと説明されています*3

    事例5:メッセージアプリ提供会社の例

    2023年11月27日、インターネット広告、イーコマースなどを展開するメッセージアプリ提供会社は、自社のサーバが不正アクセスを受け、運営するメッセージアプリに関するユーザ情報、取引先情報、従業者情報等の情報漏えいが発生したことを公表しました*4。これはメッセージアプリ提供会社と関係会社共通の委託先業者の従業員のPCがマルウェアに感染したことが発端だといいます。同社と関係会社の従業者情報を扱う共通の認証基盤で管理されているシステムへ、ネットワーク接続を許可していたことから、関係会社のシステムを経由し、同社のシステムに不正アクセスが行われたとのことです。

    事例6:国内通信会社の提供先企業に不正アクセス、顧客情報が漏えい

    2023年11月22日、国内通信会社は、米国Plume Design社とその提携先が提供するメッシュWi-Fiサービスに関連して、サプライチェーン攻撃による顧客情報の漏えいを発表しました*5。この事件は、Plume Design社のモバイルアプリのアクセスサーバが外部から不正アクセスされたことによるもので、国内通信会社の顧客データと関連事業者の保有する個人情報(氏名、メールアドレス)が漏えいしました。

    産業用制御システムのセキュリティ

    サプライチェーン攻撃の影響が経済的損失や社会的信用の失墜につながることを述べましたが、攻撃者がサプライチェーン攻撃を仕掛けるときに狙うものの一つに産業用制御システムが挙げられます。産業用制御システムは、電気・ガス・水道や空港設備といったインフラ施設、石油化学プラントなどにおいて用いられ、サプライチェーン攻撃などのサイバー攻撃を受けてしまった場合、社会的な影響や事業継続上の影響が大きいため、サプライチェーンに関わる企業全体でセキュリティ対策へ取り組むことが重要となります。

    2022年5月、ドイツ連邦政府情報セキュリティ庁(BSI)が公開した産業用制御システムにおける危険度の高い10種類の脅威とその対策を、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が日本語に翻訳し、同年12月に公開しました。

    産業用制御システムのセキュリティ 10大脅威(2022年)

    ・リムーバブルメディアやモバイルシステム経由のマルウェア感染
    ・インターネットやイントラネット経由のマルウェア感染
    ・ヒューマンエラーと妨害行為
    ・外部ネットワークやクラウドコンポーネントへの攻撃
    ・ソーシャルエンジニアリングとフィッシング
    ・DoS/DDoS 攻撃
    ・インターネットに接続された制御コンポーネント
    ・リモートメンテナンスアクセスからの侵入
    ・技術的な不具合と不可抗力
    ・サプライチェーンにおけるソフトウェアおよびハードウェアの脆弱性
    参考:https://www.ipa.go.jp/security/controlsystem/bsi2022.html

    この10大脅威は、日本国内でも共通の事項が多く、事業者にとってセキュリティ対策への取り組み方を体系的に理解することに役立つとのことです。

    まとめ

    サプライチェーン攻撃は、企業のサプライチェーンに含まれるセキュリティの弱点を狙ったサイバー攻撃です。この攻撃は、セキュリティ対策が薄い業務委託先や関連企業を通じて、間接的にターゲット企業に侵入します。被害に遭った場合、機密情報や個人情報が漏えいし、企業の信頼とブランド評判が損なわれます。特にソフトウェアサプライチェーン攻撃では、ソフトウェアの開発元が侵害されることで、利用者も危険に晒されます。また、サプライチェーンは自然災害や政治的不安定、技術的障害などにより事業中断を迫られる恐れもあります。

    サプライチェーン攻撃によるリスクは企業にとって深刻で、機密情報の漏えい、データの改ざん、システム障害が主な脅威です。そのため、サイバーセキュリティ対策の重要性が増しており、企業はサプライチェーン全体のセキュリティ強化に努める必要があります。

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    約90%に脆弱性? BBSec脆弱性診断結果からみえる脆弱性対策のポイント

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    近年、サイバー攻撃は激化し、組織や個人に甚大な被害をもたらしています。情報漏洩やシステム停止など、社会に与える影響は深刻化し、組織存続に関わるリスクにも発展しかねません。増え続ける脆弱性に対処するために、脆弱性対策を実施することが重要です。本記事では脆弱性対策の重要性と実施のためのポイントを解説します。

    脆弱性による脅威

    近年、ますますサイバー攻撃は巧妙化、高度化しており、組織や個人に甚大な被害をもたらしています。2023年の不正メール、不正サイト、マルウェアといった脅威の検知数が2021年と比較して1.7倍に増加しているとの報告もあり、情報漏洩やシステム停止など、社会全体に与える影響は深刻なものとなっています。JNSAの発表によれば、2016~2018年の個人情報漏洩一人あたりの平均損害賠償額は28,308円にのぼり、大規模な情報漏洩が発生した場合には、企業にとって致命的な損失となる可能性があります。さらに、サプライチェーンにおける取引停止、ブランドイメージ低下、風評被害など、被害は多岐にわたり、組織存続に関わるリスクにも発展しかねません。

    このような状況下で、サイバー攻撃から組織を守るために、セキュリティ対策は必要不可欠といえます。組織存続に関わるリスクにも発展するため、サイバー攻撃への対策は必要不可欠といえます。そして、サイバー攻撃への備えとして重要となるのが脆弱性への対策です。脆弱性とは、ソフトウェアやシステムに存在する欠陥であり、攻撃者にとって格好の標的となります。攻撃者は脆弱性を悪用して、システムへの不正アクセス、情報漏洩、ランサムウェア攻撃など、様々な攻撃を実行することが可能となるのです。しかし、脆弱性対策が十分であるとはいいがたい現状があります。

    下の図表は弊社のシステム脆弱性診断の結果から、脆弱性の検出率を半期ごとに集計したものとなりますが、過去から常におよそ90%のシステムに脆弱性が存在するという状況が続いています。さらに、2023年下半期ではそのうち17.0%が危険性の高い脆弱性となっています。

    弊社診断結果を掲載したレポートの詳細ついては、こちらをご確認ください。

    近年のサイバー攻撃インシデントの例

    発表時期攻撃概要原因影響
    2023年11月*6不正アクセスにより通信アプリ利用者の情報が漏洩一部のシステムを共通化している韓国の企業を通じて不正アクセスが発生通信アプリ利用者の情報およそ51万件が不正アクセスで流出
    2023年8月*2内閣サイバーセキュリティセンターが不正侵入被害メーカーにおいて確認できていなかった、電子メール関連システムによる機器の脆弱性が原因令和4年10月上旬から令和5年6月中旬までの間にインターネット経由で送受信した個人情報を含むメールデータの一部が外部に漏洩した可能性がある
    2023年7月*3名古屋港統一ターミナルシステム(NUTS)がランサムウェア攻撃により停止したリモート接続用VPN機器の脆弱性から侵入されて、ランサムウェアに感染NUTSシステム障害により、コンテナ搬出入作業停止など港湾の物流運営に支障をきたした

    近年の脆弱性情報の例

    発表時期CVE対象製品(範囲)影響
    2024年2月*4CVE-2023-46805
    CVE-2024-21887
    Ivanti Connect Secure Ivanti Policy Secure 22系、9系のバージョンが影響を受ける 脆弱性が組み合わされて悪用されると、遠隔の第三者が認証不要で任意のコマンドを実行する可能性がある
    2023年9月*5CVE-2022-42897
    CVE-2023-28461
    Array Networksが提供するVPNアプライアンス「Array AGシリーズ」 ArrayOS AG 9.4.0.466およびそれ以前の9系のバージョン ArrayOS AG 9.4.0.481およびそれ以前の9系のバージョン 2022年5月以降、少なくとも関連する6件のVPN機器におけるリモートコード実行といった攻撃活動が報告されている
    2023年7月*6CVE-2023-3519,
    CVE-2023-3466,
    CVE-2023-3467
    NetScaler ADC (旧Citrix ADC) および NetScaler Gateway (旧Citrix Gateway) NetScaler ADC および NetScaler Gateway 13.1 13.1-49.13 より前 NetScaler ADC および NetScaler Gateway 13.0 13.0-91.13 より前 NetScaler ADC 13.1-37.159 より前の NetScaler ADC 13.1-FIPS NetScaler ADC 12.1-55.297 より前の NetScaler ADC 12.1-FIPS NetScaler ADC 12.1-NDcPP 12.1-55.297 より前 クロスサイトスクリプティング、ルート権限昇格、リモートコード実行といった攻撃が発生する可能性がある

    脆弱性対策の重要性

    ここで今一度、脆弱性とは何なのかを改めて考えてみましょう。脆弱性とは、ソフトウェアやシステムに存在する欠陥のことを指します。プログラムのバグや設計上の欠陥などが原因で発生し、サイバー攻撃者にとって格好の標的となります。そして、脆弱性を悪用されると、攻撃者はマルウェアなどを使ってWebサイトへ不正アクセスし、内部データの盗取、改竄、悪用などが可能になります。その結果、情報漏洩やシステム停止、ランサムウェア感染といった、組織にとって致命的な被害につながる可能性があります。

    では、脆弱性をなくせばよいということになりますが、現実的には脆弱性を完全に「なくす」ことは困難です。しかし、「攻撃される的」を減らすことで、リスクを大幅に低減することができます。

    これらのリスクを低減するためには、ソフトウェアやシステムのアップデート、セキュリティパッチの適用、脆弱性診断の実施、セキュリティ教育の実施、セキュリティ体制の整備といった対策が重要です。特に、日々変化する脅威に対して、システムのセキュリティ状態を正しく把握するためには、脆弱性診断が効果的です。脆弱性診断を実施することで、システムの脆弱性を洗い出し、適切な対策を実施することが可能となります。システムの状態を知り、必要な対策を怠らないことが、Webサイトやシステムを守ることにつながります。

    脆弱性診断を活用した予防措置

    攻撃者はより悪用しやすく成果をあげやすい脆弱性を狙ってきます。そうしたことを踏まえ、自組織のWebアプリケーション・システムに脆弱性が存在するのか、また存在した場合どういったリスクのある脆弱性なのかを知り、脆弱性対策を行うことは組織として重要なことです。

    脆弱性を悪用したサイバー攻撃への備えとして、BBSecとしては、脆弱性診断を推奨しております。下図の攻撃方法は一例となりますが、影響範囲として機会損失から業務停止まで引き起こされる可能性がある、という実態はどの攻撃方法でも同じです。脆弱性を悪用された場合、どの攻撃方法であってもそういった被害が出る可能性があるため、悪用されやすい脆弱性は早急に対応しなければなりません。

    SQAT® Security Reportについて

    弊社では年に2回、セキュリティトレンドの詳細レポートやセキュリティ業界のトピックスをまとめて解説する独自レポート「SQAT® Security Report」を発行しています。こちらは弊社で行われたセキュリティ診断の統計データが掲載されていることが主な特徴となります。

    SQAT® Security Reportでは、半期のセキュリティ診断で得られたデータから、検出された高リスク以上の脆弱性ワースト10といった情報や、その分析を掲載しています。

    2023年下半期高リスク以上の脆弱性ワースト10

    他にも、カテゴリ別脆弱性の検出状況や、業界別のレーダーチャートも掲載しております。

    2023年下半期Webアプリケーション診断結果業界別レーダーチャート 製造業

    過去のバックナンバーもSQAT.jpにて掲載しておりますので、ぜひ、お役立てください。特集記事や専門家による解説などもございますので、併せてセキュリティ向上の一助となれば幸いです。

    半期(6か月)毎にBBSec脆弱性診断の結果を集計・分析。その傾向を探るとともに、セキュリティに関する国内外の動向を分かりやすくお伝えしています。

    最新号「2024年春夏号」のダウンロードはこちら

    SQAT脆弱性診断サービス

    Webアプリケーション脆弱性診断-SQAT® for Web-

    Webサイトを攻撃するハッカーの手法を用いて、外部から動的に脆弱性を診断することで、攻撃の入口となる可能性のある箇所を検出します。診断は最新のセキュリティ情報に基づき実施されますので、開発時やリリース前ばかりでなく、既存システムに対する定期的な実施といった、現状の脆弱性対策の有効性を確認するために活用することをおすすめしています。 以下より、サービス内容が記載されている資料のダウンロードもいただけます。

    Webアプリケーション脆弱性診断バナー

    ネットワーク脆弱性診断-SQAT® for Network

    悪意ある第三者の視点で、ネットワークをインターネット経由またはオンサイトにて診断し、攻撃の入口となる可能性のある箇所を検出します。ネットワークを標的とした攻撃のリスクを低減するため、脆弱性を徹底的に洗い出し、システムの堅牢化をご支援します。システムの導入・変更・アップグレード時のほか、運用中のシステムに対する定期チェックにご活用いただけます。 以下より、サービス内容が記載されている資料のダウンロードもいただけます。

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    侵入前提でのセキュリティ対策のポイント
    -サイバー攻撃への対策3-

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    サイバー攻撃の被害から自組織を守るためにはどのような対策をとればよいのか?まずは何から実施すればよいのか?今回の記事では、基本的なセキュリティ対策の考え方から、業界別のセキュリティ対策のポイントやガイドラインを紹介しつつ、リスクを最小化するために有効なセキュリティ対策のポイントを解説いたします。

    企業のためのセキュリティ対策

    管理・経営者に向けた基本対策

    ・標的型攻撃メール訓練の実施
    ・定期的なバックアップの実施と安全な保管(別場所での保管推奨)
    ・バックアップ等から復旧可能であることの定期的な確認
    ・OS、各種コンポーネントのバージョン管理、パッチ適用
    ・認証機構の強化
     (14文字以上といった長いパスフレーズの強制や、適切な多要素認証の導入など)
    ・適切なアクセス制御および監視、ログの取得・分析
    ・シャドーIT(管理者が許可しない端末やソフトウェア)の有無の確認
    ・攻撃を受けた場合に想定される影響範囲の把握
    ・システムのセキュリティ状態、および実装済みセキュリティ対策の有効性の確認
    ・CSIRTの整備(全社的なインシデントレスポンス体制の構築と維持)

    また、セキュリティ対策の実践にはガイドラインの活用もおすすめです。ガイドラインがまとめられた背景には業界別のセキュリティ課題があることがわかります。今回いくつかガイドラインを紹介するにあたり、業界別のセキュリティ対策のポイントに触れます。

    業界別セキュリティ対策のポイント

    「自動車」「医療」「教育」の各業界に着目してみます。各業界のガイドラインがまとめられた背景および目的から、各業界のセキュリティに係る課題がわかります。

    自動車  自動車産業全体のサイバーセキュリティ対策のレベルアップや対策レベルの効率的な点検を推進
    医  療医療情報システムの安全管理や情報通信の技術の利用に関する法律等への対策
    教  育教育情報セキュリティポリシーの考え方および内容について解説

    各ガイドラインでは、それぞれの業界における以下のような業務について、外部ネットワークとの接続に言及しています。この外部ネットワークと接続するシステムが、各業界におけるセキュリティ対策のポイントといえるでしょう。

    自動車  ITインフラ環境や工場等の制御システムをはじめとして企業が管理する多くの情報システム
    医  療外部の医療機関等や患者自身などと医療情報の共有や連携、医療情報の外部保存を行うシステム
    教  育学校ホームページや教職員によるメールの活用、学習活動に使用されるシステム

    各業界のセキュリティガイドラインの紹介

    自動車

    自動車産業サイバーセキュリティガイドライン V2.0
    工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドラインVer 1.0

    医療業界

    厚⽣労働省における医療機関のサイバーセキュリティ対策にかかる取組について
    医療情報システムの安全管理に関するガイドライン
    医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン

    教育業界

    教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン

    まずはリスクの可視化を

    サイバー攻撃への対策において、いまや完璧な防御を望むのは困難となっています。こうした脅威への対策における重要なポイントは3つあります。

    「攻撃・侵入される前提」で取り組む

    侵入への対策
    目的:システムへの侵入を防ぐ
      侵入後の対策
    目的:侵入された場合の被害を最小化する
    ・多要素認証の実装 ・不要なアカウント情報の削除(退職者のアカウント情報など)
    ・公開サーバ、公開アプリケーションの脆弱性を迅速に発見・解消する体制の構築
    ・VPNやリモートデスクトップサービスを用いる端末
    ・サーバのバージョン管理(常に最新バージョンを利用) ・ファイアウォールやWAFによる防御 など 
      ・社内環境におけるネットワークセグメンテーション
    ・ユーザ管理の厳格化、特権ユーザの限定・管理(特にWindowsの場合)
    ・侵入検知(IDS/IPSなど)、データバックアップといった対策の強化
    ・SIEMなどでのログ分析、イベント管理の実施
    ・不要なアプリケーションや機能の削除・無効化
    ・エンドポイントセキュリティ製品によるふるまい検知の導入
    対策の有効性の確認方法
    ・脆弱性診断
    ・ペネトレーションテスト
      ・ペネトレーションテスト

    侵入を前提とした多層防御が重要

    「多層防御」対策を立てる前提として、情報資産の棚卸しも重要です。

    情報資産とは
    企業や組織などで保有している情報全般のこと。顧客情報や販売情報などの情報自体に加えて、ファイルやデータベースといったデータ、CD-ROMやUSBメモリなどのメディア、そして紙の資料も情報資産に含まれます。
    (総務省「安心してインターネットを使うために 国民のためのサイバーセキュリティサイト」より引用)

    組織内に存在する情報に関し、機密とするもの、公知であってよいものを分類し、それらがどこに格納されて、どのように利用されているかを可視化した上で、防御の対応をする機器・人・組織といったリソースを適切に振り分けて防御する仕組みを構築することが求められます。

    これにより、システムへのマルウェアの侵入等の早期発見にも繋がり、事業活動の継続を左右する重要情報へのアクセスを遮断することで、万一侵入を許しても被害を最小限に抑えられます。

    信頼できる第三者機関の脆弱性診断サービスを実施

    企業として実施できるサイバー攻撃への対策として、信頼できる第三者機関による脆弱性診断が挙げられます。第三者の専門家からの診断を受けることで、現状の問題点や対応の優先順位などリスクを可視化することができるため、早急に効率よく対策を実施するのに役立ちます。

    サイバー攻撃手法は日々更新されており、さらに取引先や子会社などを含むサプライチェーンを踏み台にした攻撃など、どんなにセキュリティ対策を実施していても自組織のみではインシデント発生を防ぎきれないのが実情です。脆弱性診断の定期的な実施といった基本的なセキュリティ対策を行うとともに、万が一インシデントが発生してしまった場合の備えとして信頼できる第三者の専門企業に相談することをおすすめします。

    まとめ

    管理者や経営者へ向けた基本的なセキュリティ対策の実施項目として、標的型攻撃メールの訓練実施、定期的なバックアップ及びその保管、オペレーティングシステムやアプリケーションのバージョン管理、強固な認証メカニズムの導入、適切なアクセス制御と監視、シャドーITの監査、想定される攻撃の影響範囲の理解、システムのセキュリティ状況の定期的な確認、および全社的なインシデントレスポンス計画の策定と維持等が挙げられます。

    さらに、自動車、医療、教育各業界に特有のセキュリティ課題と、それに対応するための業界別ガイドラインを紹介しています。これらのガイドラインは、特に外部ネットワークに接続されるシステムのセキュリティ強化に注目しています。

    また、サイバー攻撃への対策として、侵入を前提とした多層防御、情報資産の可視化を推奨します。これにより、万が一侵入を許してしまった場合でも、被害を最小限に留めることが可能です。また、信頼できる第三者機関による脆弱性の定期的な診断を実施することも有効です。

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    脆弱性管理とIT資産管理
    -サイバー攻撃から組織を守る取り組み-

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    日々報告される脆弱性に対してサイバー攻撃から自組織を守るために、「脆弱性管理」と「IT資産管理」を適切に実施することが重要です。本記事では、その脆弱性管理とIT資産の目的や必要性またどのように取り組んでいくのかについて解説します。

    増え続ける脆弱性

    脆弱性は、攻撃者によって利用され、システム侵害の足掛かりとされる可能性がありますので、これに対処することは組織のセキュリティ強化に不可欠です。

    システムやソフトウェアに存在するセキュリティ上の弱点である脆弱性は、日々新しく発見・公表されており、その数は増える一方です(下グラフ参照)。脆弱性が報告される製品は、OS、ミドルウェア、アプリケーション、プログラム言語、ライブラリなど多岐にわたり、商用かオープンソースかを問いません。

    また、新たな脆弱性ばかりでなく、VPN機器のような広く利用されている製品がアップデートされないまま放置されている、という実情に目をつけられて、古い脆弱性を悪用した攻撃活動による被害が報告される、といったことも少なくありません。

    脆弱性管理とその目的

    情報資産を守るためには、サイバー攻撃からシステムやソフトウェアを保護する必要があります。そのために重要となるのが脆弱性管理です。脆弱性管理とは、システムやソフトウェアに存在する脆弱性を継続的に把握し、適切な対策を講じることで、セキュリティ上のリスクを低減するための取り組みです。

    脆弱性が放置されたままであれば、それを悪用したサイバー攻撃による情報漏洩や改竄、システム停止といった被害が発生し、企業・組織の信用失墜や業務中断による損失、取引先や顧客からの損害賠償請求、個人情報保護法等による罰則などの事態を招きかねません。脆弱性管理は、これらのリスクに適切に対処するための重要な手段となります。

    脆弱性管理の必要性

    しかしながら、脆弱性対策の予算・人員・時間などのリソースは有限であり、やみくもにすべての脆弱性に対処する、というのは現実的ではありません。無秩序に脆弱性対策をしていては、不必要なコストがかかるばかりでなく、十分な対策を講じられない恐れがあるでしょう。

    脆弱性対策は、限られたリソースで的確かつ効率的に行わなければなりません。自組織に存在する脆弱性を的確に把握し、実態に即したリスクごとに優先度をつけて対応する必要があるのです。「脆弱性管理」は、こうした適切な脆弱性対策を実現するための一連のプロセスと言えます。

    脆弱性管理のライフサイクル

    脆弱性管理の標準的な流れは以下の4つのプロセスになります。

    脆弱性管理のライフサイクル画像

    各プロセスの概要とポイント

    プロセス概要ポイント・留意点
    資産の把握・管理IPアドレス、OS/ソフトウェアとバージョン、稼働中のサービスとその状況などを漏れなく記録。・機器・ソフトウェア単体だけでなく、製品に含まれるOSS、プラグインなど、相互の依存関係にも注意。
    ・常にアップデートできていること、管理外の資産(シャドーIT)がないこと。
    脆弱性情報の収集資産管理情報をもとに、自組織に関係する脆弱性情報を収集。・必要に応じて適切なタイミングで実施。
    ・政府機関や製品ベンダといった信頼できるソースから収集。
    脆弱性のリスク評価脆弱性の危険度を確認した上で、自組織への影響を分析し、対応の難易度やコストも勘案して、対応要否・優先度を決定。・まずはCVEなどの脆弱性に関する標準的な指標で各脆弱性の危険度を確認。
    ・自組織に即した評価としては、①攻撃を受けやすい状況か、②攻撃された場合はどの程度影響があるか、③脆弱性解消に要するリソースはどれくらいか、といった要素をなるべく定量的に分析・評価。
    解消策の実行実行計画を策定し、検証環境に適用して問題がなければ、本番環境に適用。・必要な期間の確保、環境の整備、関係者との調整、事業状況の加味などにより、安全・確実に実行できるよう計画。
    ・適用にあたって発生したトラブルなども含め、作業内容は必ず記録。

    脆弱性管理におけるIT資産管理

    脆弱性管理プロセスは、資産の把握と管理から始まりますが、ここで、IT資産管理について考えてみましょう。IT資産管理の主な目的は、ライセンス管理やデータ保護によるコンプライアンスの遵守、資産を正確に把握・追跡することによるセキュリティ事故の防止、資産の効率的な使用を管理することによるコスト削減などとなります。

    IT資産管理では、組織が所有するすべてのIT資産について、以下のような項目を可視化して管理する取り組みです。

    ・ハードウェア : PC、サーバ、ネットワーク機器 等
    ・ソフトウェア : OS、ミドルウェア、アプリケーション 等
    ・ライセンス情報、購入・保守情報、廃棄情報
    ・利用者(利用部門)、利用状況

    IT資産の把握は、システム担当者より資産情報を取得するというのが一般的でしょう。また、システム構築を委託している場合は委託先に資産情報を確認する必要があります。

    方法としては、IT資産管理ツールによって自動化するのがよいでしょう。アプリケーションやクラウドサービスなど、様々なIT資産管理ツールがリリースされていますので、予算や機能に応じて自組織に合うものを選択してください。

    脆弱性管理とIT資産管理の連携

    IT資産管理を整備・強化すると、先に挙げた脆弱性管理の管理プロセスにおいて、以下のようにIT資産管理を有効に連携させることができるでしょう。

    脆弱性管理とIT資産管理の連携画像

    両者を連携することで、セキュリティの確保がより確実に行えるようになることがわかります。

    適切な脆弱性管理のためのポイント

    前段まで脆弱性管理の目的や必要性、プロセス、そしてIT資産管理との連携について確認してきましたが、ここで、適切な脆弱性管理を実現するために必要なポイントについてまとめます。

    漏れなく適時に一元管理実態に即した評価と対応プロセスの標準化と見直し
    脆弱性管理を統括する部門に情報が集約されていること
    資産管理、脆弱性情報に漏れがないこと
    資産管理、脆弱性、対応状況といった各情報が常にアップデートされていること 等
    脆弱性情報とその解消策が信頼できる内容であること
    自組織への影響評価と解消策の要否・優先度の決定が適正に行われること
    解消策の実施が安全・確実な方法で行われること 等
    脆弱性管理の各プロセスに一貫性があり、組織内で標準化されていること
    各プロセスでのトラブル発生時には適宜協議できる状態であること
    定期的、あるいは必要に応じて適宜手順の見直しを行うこと 等

    “漏れなく”管理するには

    ここからは、上記で挙げたポイントのうち、「漏れなく」に焦点を当てていきます。資産情報や脆弱性情報に漏れがあると、どんなにリスク評価や解消策の実施体制を整えていても、結局は非効率かつ不十分な対応結果になりかねません。そのため、IT資産を漏れなく管理することは、脆弱性管理のベースとなる重要なポイントと考えられます。脆弱性管理のライフサイクルでいうと、「資産の把握・管理」プロセスで漏れなく資産情報が収集できているか、「脆弱性情報の収集」プロセスでも漏れなく関連する脆弱性情報が収集できているか、といった点です。

    資産の把握・管理:ソフトウェアコンポーネントの管理

    見落としがちな資産として、様々な製品に組み込まれているコンポーネントがあります。

    ■組み込みソフトウェアに起因する脆弱性が問題となった例:

    2021年12月 Javaのログ出力ライブラリApache Log4jにおける脆弱性「Log4Shell」公開された*7
    悪用されるとリモートコード実行の恐れがあるとして、注意喚起された。
    Apache Log4jは国内でも広く利用されているが、様々な製品に組み込まれていることから、国内大手電機メーカーのOT/IoT製品でも影響があることが確認される*2など、脆弱性の影響を受けるシステムの特定が困難だった。
    2023年12月Sierra Wireless社の「AirLink」にバンドルされているALEOSや一部のオープンソースコンポーネントについて計21件の脆弱性が特定された*3
    リモートコード実行、クロスサイトスクリプティング、DoS、認証バイパスなど深刻度の高い脆弱性が含まれているとのこと。
    世界中の政府やインフラなど、ミッションクリティカルな産業で多く利用されているOT/IoTルータであるため、対応不備による影響が懸念される。

    OT/IoT機器には、ファームウェア等のソフトウェアコンポーネントが含まれます。これらの機器の脆弱性管理には「ソフトウェア部品表(SBOM)」の活用が有効です。

    SBOM (Software Bill of Materials)
    特定の製品に含まれるソフトウェアコンポーネントや相互の依存関係の情報などを機械処理できるリストとして一覧化したもの。導入することで、脆弱性対応期間の短縮、ライセンス管理にかかるコストの低減や開発生産性向上などのメリットがある。
    参考情報:https://www.meti.go.jp/press/2023/07/20230728004/20230728004.html

    SBOMの導入にあたっては、経済産業省より「ソフトウェア管理に向けたSBOM(Software Bill of Materials)の導入に関する手引 Ver. 1.0」(令和5年7月28日)が発行されていますので、参考にしていただくとよいでしょう。

    資産の把握・管理:シャドーITの撲滅

    先ほど述べた「”漏れなく”管理する」を実現するためには、管理外の資産、すなわち「シャドーIT」がないようにすることが重要です。

    組織が認識していないサーバやアプリケーションが稼働していると、その製品自体が組織のセキュリティポリシーの対象外である可能性があり、パッチ適用などのセキュリティ対応が行き届かず、サイバー攻撃の足掛かりとされる恐れが高まります。そもそもその存在を認識していないため、対策の取りようがない、というところが脅威につながります。

    ■シャドーITに起因する脆弱性が問題となった例:

    2024年 2月著名ブランドや組織のサブドメインを乗っ取る大規模な攻撃キャンペーン「SubdoMailing」が報告*4された。
    8,000以上の正規ドメインと13,000以上のサブドメインを使用して、一日あたり最大500万件のスパムメールが送信され、詐欺やマルバタイジングによる攻撃者の収益源に。
    根本的な原因は、自組織で管理すべきCNAMEレコード(ドメインの別名を定義する情報)が、放棄されたドメインを指定したまま放置されていたこと。

    シャドーITを発見するには、ASM(Attack Surface Management)が有効です(下イメージ)。インターネット上に意図せず公開されている資産がないか確認する手段として活用できます。

    一般的なASMの特徴とイメージ

    インターネットから直接アクセス可能なIT資産の調査—アタックサーフェス調査を実施するには、各種ASMツールもリリースされていますし、専門家によるサービスも提供されているので、自組織に合った方法でシャドーITの存在有無を検査できる方法を検討することをおすすめします。

    脆弱性情報の収集:脆弱性診断で補完

    資産の把握・管理が漏れなく適切に実施できたとしても、関連する脆弱性情報の収集に漏れがあっては意味がありません。シャドーITの場合と同様、そもそもそこに脆弱性が存在することを認識できていなかった、ということがないようにする必要があります。とはいえ、脆弱性診断にはそれなりのリソースがかかるため、サイバー攻撃を受けた場合の影響が特に大きいと考えられるシステム(下記例)に関しては、脆弱性管理プロセスの一環として脆弱性診断を実施することを推奨します。

    ・外部に公開されているネットワークセグメント
    ・個人情報の取り扱いや決済機能といった重要な処理に係るシステム
    ・主力業務に直結するミッションクリティカルなシステム 等

    ASMや脆弱性診断の実施頻度

    漏れのない脆弱性管理を行い、サイバー攻撃から組織を守るためには、ASMや脆弱性診断をできるだけ高頻度で実施するのが理想です。しかし、負荷やコストがかかるため、自組織のセキュリティポリシーやサイバー攻撃の流行、システムの状況などに応じて決めることがおすすめです。業務への支障とリスク低減効果を考慮した上で、自組織にとって現実的な実施頻度を検討しましょう。

    BBSecでは

    BBSecでは以下のようなご支援が可能です。 お客様のご状況に合わせて最適なご提案をいたします。

    アタックサーフェス調査サービス

    インターネット上で「攻撃者にとって対象組織はどう見えているか」調査・報告するサービスです。攻撃者と同じ観点に立ち、企業ドメイン情報をはじめとする、公開情報(OSINT)を利用して攻撃可能なポイントの有無を、弊社セキュリティエンジニアが調査いたします。

    詳細・お見積りについてのご相談は、お問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。お問い合わせはこちら。後ほど、担当者よりご連絡いたします。

    SQAT脆弱性診断サービス

    自ステムの状態を知る

    サイバー攻撃に対する備えとして、BBSecが提供する、SQAT脆弱性診断サービスでは、攻撃者の侵入を許す脆弱性の存在が見逃されていないかどうかを定期的に確認することができます。自組織の状態を知り、適切な脆弱性対策をすることが重要です。

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    ゼロトラストセキュリティ
    -今、必須のセキュリティモデルとそのポイント-

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    クラウドサービスを導入して業務に活用する企業が約7割となった現代、自組織の情報資産を守るために、これまでのセキュリティモデルとは異なる考え方として、ゼロトラストモデルが注目されています。ゼロトラストでは「すべてを疑う」とし、境界内外問わず、すべての情報資産に対してのセキュリティの確保が求められます。本記事では、ゼロトラストとは何か? どのような考え方か? なぜ必要なのか? そして、実装のためのポイントとして現状把握の重要性について解説します。

    ゼロトラストとは

    「ゼロトラスト」は、「守るべき情報資産に対するあらゆるアクセスを信頼せず、すべて検証する」という原則に基づくセキュリティモデルです。

    従来のセキュリティモデルである「境界型セキュリティ」とは異なり、ネットワーク境界(ネットワークの内側と外側)における信頼度を前提にしません。境界型セキュリティではネットワーク内部を信頼し、外部との境界を守ることが主眼としますが、ゼロトラストではすべてのアクセスに対して徹底的な検証を行います。ユーザやデバイスがネットワークに接続しようとする際に、その正当性を継続的かつ厳格に確認するのです。これにより、内部ネットワークへの侵入や権限の乱用を最小限に抑え、セキュリティを向上させることが期待できます。

    境界型セキュリティの限界

    ゼロトラストの根底にあるのは、境界の内側が必ずしも安全ではないという認識です。ゼロトラストという概念が生まれた背景として、以下のような事情による、境界型セキュリティの限界があります。

    クラウド利用/テレワークの普及

    国内企業におけるクラウド利用は7割超、テレワークの普及率は約5割とのことです(下図)。従来の境界型セキュリティの考え方では、社内ネットワークの内側は信頼できる領域であり、従業員もその領域内にいるものとされてきました。しかし、クラウドサービスは社外からアクセスでき、テレワークでは社外にいる従業員が企業・組織のシステムやデータにアクセスできるため、「ユーザは社内におり、社内の環境はセキュリティが確保されているから安全である」という前提が崩れてきています。

    企業におけるクラウドサービスの利用状況
    総務省「情報通信白書令和5年版 データ集」より
    テレワーク導入率の推移
    総務省「情報通信白書令和5年版 データ集」より

    サイバー攻撃の高度化

    攻撃者は、標的型攻撃やゼロデイ攻撃など、様々なやり方で境界防御の突破を狙ってきます。そして、その手法はどんどん高度化・巧妙化しています。これに対して、境界型セキュリティでは、侵入させないためにファイアウォールを実装して、IPS(侵入防御システム)も実装して…と境界の壁を強固にすることを考えますが、技術が進歩してくなかで壁を強固にする側とそれを破ろうとする側のいたちごっこになるばかりで、結局のところ、無敵の壁をつくることは不可能といえます。

    媒体経由感染/内部犯行等のリスク

    攻撃者はネットワークへの不正アクセスに成功した場合、社内ネットワーク内を移動してマルウェア感染を広げるなど侵害を拡大させますが、境界型セキュリティではこれを防ぐことはできません。そもそも、外部からの侵入者に限らず、USBメモリ等の物理媒体を経由したマルウェア感染や内部犯行による情報窃取のリスクに対して、従来の境界型セキュリティでは、十分な対策を講じることは困難です。

    VPN利用に係るリスク

    先に触れたテレワークの普及に伴い、そのセキュリティ対策としてVPNの利用が拡大しました。しかし、VPN機器における脆弱性の放置がIPAやJPCERT/CC等からもたびたび注意喚起されており、これらの脆弱性を悪用した攻撃は境界型セキュリティで防御することが困難です。また、VPNを介した通信量の急増により、帯域不足やパフォーマンスの低下が発生する可能性があり、セキュリティを維持しながら利便性を享受することがしづらいケースもみられます。

    進むゼロトラストの普及

    日本も含め、世界中でゼロトラストの実装が進んでいることがうかがえる調査結果があります(下図)。

    クラウド利用やテレワークの普及、DXの推進といった業務効率化・利便性を阻害せず、セキュリティを向上させる仕組みが必要とされる昨今、ゼロトラストの導入は待ったなしであり、今後もあらゆる業種において進んでいくと考えられます。

    進むゼロトラストの普及
    Okta「ゼロトラストセキュリティの現状 2023」より

    ゼロトラストの基本原則

    ゼロトラストの考え方の基本原則は、2020年にNIST(米国立標準技術研究所)より発行された「NIST SP 800-207 Zero Trust Architecture」で定義されています。以下に7つの基本原則をご紹介します。

    ゼロトラストの基本原則
    出典:「NIST SP 800-207 Zero Trust Architecture」(2020/8/11) https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/SpecialPublications/NIST.SP.800-207.pdfより当社和訳・要約

    ゼロトラストの適用方針

    ゼロトラストアーキテクチャをどのように適用していくか、という点については、デジタル庁発行の「ゼロトラストアーキテクチャ適用方針」も参考になります。同文書では、以下のような6つの適用方針が示されています。

    ゼロトラストの適用方針
    出典:デジタル庁「ゼロトラストアーキテクチャ適用方針」(2022年(令和4年)6月30日)https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e2a06143-ed29-4f1d-9c31-0f06fca67afc/5efa5c3b/20220630_resources_standard_guidelines_guidelines_04.pdfより当社要約

    ゼロトラストを実現するためのポイント

    ゼロトラストの考え方について述べてきましたが、実際にゼロトラストアーキテクチャを構築・運用するにあたってはどういった要素があるのでしょうか。ここでは実現するためのポイントとして、5つの例をご紹介します。

    ゼロトラストを実現するためのポイント
    ※表内に挙げた技術はゼロトラストの複数の要素に当てはまるものも含まれます。選別・適用にあたっては、組織の状況に応じてご検討ください。

    まずはセキュリティ状況の可視化と有効性の確認を

    境界型セキュリティは、機器やシステム、アプリケーションといった単位でセキュリティ対策を講じる発想でした。つまり、各リソースを単一点(シングルポイント)としてとらえて保護する形です。しかし、これでは様々な形態のアクセスを想定したIT環境において、十分なセキュリティ対策を講じることは困難です。もし、境界型セキュリティのみに依存している場合は、これまでの脆弱性対策やセキュリティポリシーの内容および運用の見直しが求められそうです。

    とはいえ、ゼロトラスト導入にはそれなりのコストがかかることは間違いありません。また、これまでのセキュリティ対策とは根本的に考え方が異なるセキュリティモデルを実装するため、導入するには課題もあります。そこで、まず取り組めることとして、以下のようなセキュリティ対策の基本から始めることが重要です。

    ・セキュリティ状態の可視化
    セキュリティコンサルや各種脆弱性診断などにより、自組織の状態を明確に把握する
    ・実装済みのセキュリティ対策の有効性評価
    ペネトレーションテストやログ分析などにより、実装したセキュリティ対策が有効に機能しているか確認する

    こうして自組織内の情報資産の状態を把握することで、万が一サイバー攻撃を受けてしまっても、被害を最小限に抑えることが可能になります。組織の状況に応じて、適切な対策を実施していくことが、セキュリティ向上への第一歩となるでしょう。

    BBSecでは

    SQAT脆弱性診断

    自システムの状態を知る

    サイバー攻撃に対する備えとして、BBSecが提供する、SQAT脆弱性診断サービスでは、攻撃者の侵入を許す脆弱性の存在が見逃されていないかどうかを定期的に確認することができます。自組織の状態を知り、適切な脆弱性対策をすることが重要です。

    ペネトレーションテスト

    攻撃を受けてしまった場合の対策の有効性を確認

    完全に防ぎきることは難しくても、「攻撃・侵入される前提の取り組み」を行うことで、攻撃を受けてしまった場合にも被害を最小化する対策をする、「多層防御」が重要です。SQATペネトレーションテストでは実際に攻撃者が侵入できるかどうかの確認を行うことができます。

    【コラム】
    ゼロトラストに対する疑問

    ゼロトラストについて、様々な疑問を持っておられる方もいらっしゃるでしょう。ここでは、ゼロトラストへの理解を進めるために、そういった疑問の例と、それに対する回答をピックアップしました。


    ゼロトラストとはどのようのツールや技術?
    ゼロトラストは特定の技術やツール、ソリューションを指す言葉ではありません。ゼロトラストは、セキュリティのアプローチや考え方を表す概念です。

    ゼロトラストモデルか境界型セキュリティのどちらがいい?
    ゼロトラストは境界型セキュリティを否定するものではありません。システムの特性や業務上の要件によって、両者を使い分けるとよいでしょう。境界型セキュリティが有効な場面として、ゼロトラストモデルへの移行が困難なレガシーシステムや特定の業界標準要件への対応、セキュリティ対策の構築・運用コストとの兼ね合いなどの事情が考えられます。

    何を実装すればゼロトラストを達成できたと言える?
    これを行えばゼロトラストを実現できている、という絶対的な答えがあるわけではありません。組織の実情に応じて異なるアプローチが必要です。ゼロトラストは単一の技術や手法ではなく、包括的なセキュリティモデルを指すためです。ゼロトラストモデルの具体的な適用ポイントについては先に述べた「ゼロトラストの適用方針」をご参照ください。

    ゼロトラストの導入でシステムの利便性が落ちるのでは?
    むしろ利便性を損なわずにセキュアな環境を提供することを目指すのが、ゼロトラストです。適切な設計・実装により、境界型セキュリティの制約から解放され、柔軟かつ安全なリモートアクセス環境を築くことが可能です。


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    APIのセキュリティ
    ―Webアプリでもスマホアプリでも安全なAPI活用を―

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    APIはAI、IoT、モバイル、クラウド利用において今や必要不可欠です。利便性があり、利用者も増える一方で、APIを狙ったサイバー攻撃の数も増加傾向にあります。本記事では、APIとは?API連携の仕組みやスマホアプリとの関連、活用のメリットについて触れつつ、APIのセキュリティ対策の一つとして、脆弱性対応の方法ついて解説します。

    APIとは

    APIとは「Application Programming Interface」の略です。プログラムの機能をその他のプログラムでも利用できるようにするための仕組みです。

    ソフトウェアやアプリ、プログラム同士を、APIを介して機能連携させるのが「API連携」です。あるソフトウェアに他のソフトウェアの機能を埋め込むイメージです。API連携によってソフトウェア同士が相互にデータと機能を共有できるようになります。

    APIとはの概要図

    【APIの活用例】

    社内業務システム : チャットAPIを活用してコミュニケーション
    会員サービスサイト : SNSアカウント認証APIでログイン
    ネットショップ : クレジットカード・認証APIで決済
    飲食店サイト : 地図情報APIで店舗位置情報表示 × 予約受付APIで予約対応

    API活用のメリット

    APIには、以下のようなメリットが考えられます。

    API活用のメリットの概要図

    Web API

    「Web API」は、HTTPやHTTPSといったWeb技術により実現される、インターネットを介して情報をやりとりするAPIです。連携するAPI同士が異なるプログラミング言語で構築されていても通信でき、Webブラウザ上でも稼働するWeb APIは汎用性が高く、最も多く活用されているAPIです。

    複数のWeb APIを組み合わせて新しいサービスを生み出す”マッシュアップ”が多く行われており、多くの人々が、日々その恩恵を受けていると言えるでしょう。インターネット上には膨大な数のWeb APIが公開されており、今後もマッシュアップは続くものと考えられます。

    スマホアプリとAPI

    Web APIは、Webアプリケーションばかりでなく、スマートフォンアプリ(スマホアプリ)でも多く活用されています。

    例えば、経路案内アプリでは交通機関・運賃・時刻等の情報を的確に検索してくれるAPIが、家計簿アプリでは電子マネーによる決済やクレジットカード決済などの情報を取得して計算してくれるAPIが使用されています。

    スマホアプリは、外部との通信をせずにスマホ端末単体で動作するものよりも、インターネットに接続しながら使用するものが圧倒的に多く、ユーザが利用している画面の裏でインターネットを介してサーバとのやりとりが行われており、そこでWeb APIが稼働しているのです。

    スマホアプリとAPIの概要図

    スマホアプリのセキュリティについて、SQAT.jpでは以下の記事で解説しています。こちらもあわせてご覧ください。
    SQATⓇ 情報セキュリティ瓦版「攻撃者が狙う重要情報の宝庫! ―スマホアプリのセキュリティ―

    増え続けるAPI活用

    国をあげてDXの取り組みが推進されている昨今、AI、IoT、モバイル、クラウド利用において、APIの積極的な活用は不可欠です。

    クラウド環境上で動作するアプリ、クラウドネイティブアプリケーションを例にとると、APIを使用している割合は高く、今後さらに増大することが予想されるとの調査結果があります(下図)。

    APIに対するセキュリティ脅威

    利便性が高いAPIですが、利用が増えれば、そこに存在する様々なデータを攻撃者が狙ってきます。APIに対するセキュリティ脅威の例は以下のとおりです。

    APIに対するセキュリティ脅威の概要図

    APIによって機能や取り扱う情報はそれぞれですが、金融情報のような資産に紐づくデータ、医療情報のような機微情報に関するデータなど、流出して悪用されると深刻な被害につながりかねません。APIを開発・利用する上で、セキュリティは必ず考慮する必要があるということです。

    APIのセキュリティ脅威について、SQAT.jpでは以下の記事でも解説しています。こちらもあわせてご覧ください。
    SQATⓇ 情報セキュリティ玉手箱「APIのセキュリティ脅威とは

    APIを狙ったサイバー攻撃の増加

    APIに対する攻撃は増加傾向にあるとの観測結果が報告されています(下グラフ)。

    APIを狙ったサイバー攻撃の増加の概要図

    なお、このグラフで多くの割合を占めている「ローカルファイルインクルージョン」は、攻撃者が対象システムのローカル上のファイルを読み込ませることで、領域外のファイルやディレクトリにアクセスできるようにしてしまう脆弱性です。情報漏洩、任意のコード実行、認証回避、DoS(サービス運用妨害)などの被害につながる恐れがあります。攻撃されたAPIサーバを「踏み台」とした内部/外部ネットワークへのさらなる攻撃やマルウェア感染などが想定されるため、危険度の高い脆弱性と言えます。

    また、100ヶ国を対象にしたアンケート調査では、API攻撃による情報漏洩を経験している組織が90%以上にのぼるとの結果も報告されています(下グラフ)。

    APIを狙ったサイバー攻撃の増加の概要図(アンケート調査)

    OWASP API Security Top 10

    APIセキュリティについて、Webアプリケーションセキュリティに関する国際的コミュニティであるOWASP(Open Web Application Security Project)が、2023年6月に「OWASP API Security Top 10 2023」をリリースしています。APIセキュリティにおける10大リスクをピックアップして解説したもので、今回は2019年の初版リリースから4年ぶりの第二版となります。

    OWASP API Security Top 10の概要図

    APIのセキュリティ対策

    ここまで見てきたAPIセキュリティ脅威を踏まえると、以下のようなポイントにおいて脆弱でないことが重要と考えられます。

    APIのセキュリティ対策のポイント図

    開発中、リリース後、更新時といったいかなる状況においても、適切な脆弱性管理・対応ができているかどうかが、鍵となります。

    APIのセキュリティ対策の概要図

    APIの開発にあたっては、DevSecOpsを適用して脆弱性を作り込まないようにすること、APIリリース後も、新たな脆弱性が生まれていないか、APIセキュリティ診断などを通じて確認を継続することが重要です。

    また前段の「スマホアプリとAPI」でも述べたように、APIはスマホアプリでも多く活用されています。誰もがスマートフォンを利用している今、攻撃の被害が多くの人々に影響を及ぼす可能性があるからこそ、スマホアプリにおいて次の攻撃につながる情報が漏洩したり、スマホアプリの改竄が行われたりする可能性を摘んでおくことが、スマホアプリを提供するうえで重要となります。スマホアプリのセキュリティ対策の一つとしては、信頼できる第三者機関による脆弱性診断の実施があげられます。第三者の専門家からの診断を受けることで、網羅的な確認ができるため、早急に効率よく対策を実施するのに役立つでしょう。

    BBSecでは

    スマホアプリ脆弱性診断

    悪意ある第三者の視点で、対象アプリに影響を及ぼす恐れのある脅威と関連リスクをあぶり出します。実機を使った動的解析とAPK(Android)・IPA(iOS)ファイルの静的解析を実施します。

    スマホアプリ脆弱性診断バナー

    Webアプリケーション脆弱性診断

    また、APIを含むWebアプリケーションに対する脆弱性診断サービスを利用して、第三者視点から、自組織のシステムで使用されているAPIのセキュリティを定期的に評価することもお勧めします。弊社診断エンジニアによる、より広範囲で網羅的な診断を検討している方は、手動で診断する、「Webアプリケーション脆弱性診断」がおすすめです。

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    ウェビナー開催のお知らせ